説明

自動溶射装置及びその方法

【課題】自動溶射装置及びその方法において、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制可能とする。
【解決手段】動翼24の表面に溶射材を溶射する溶射装置51と、動翼24の表面形状を3次元測定可能な3次元測定器52と、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状に基づいて溶射装置51を作動して動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成する制御装置53と、溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出する膜厚検出装置54と、膜厚検出装置54が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する膜厚判定装置55とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶射物に対して溶射によりコーティングを施す自動溶射装置及びその方法に関し、特に、ガスタービンの動翼や静翼を溶射コーティングするのに好適である。
【背景技術】
【0002】
一般的なガスタービンは、圧縮機と燃焼器とタービンにより構成されている。そして、空気取入口から取り込まれた空気が圧縮機によって圧縮されることで高温・高圧の圧縮空気となり、燃焼器にて、この圧縮空気に対して燃料を供給して燃焼させることで高温・高圧の燃焼ガス(作動流体)を得て、この燃焼ガスによりタービンを駆動し、このタービンに連結された発電機を駆動する。
【0003】
このようなガスタービンのタービンで使用される動翼や静翼は、高温にさらされることから、表面にセラミック遮熱コーティング(TBC)が施されている。従来は、翼の設計データに基づいた3次元形状を基準として、所定の溶射装置を用いて翼の表面に溶射を行い、セラミック遮熱コーティング層を形成している。
【0004】
なお、従来の自動溶射装置としては、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された自動溶射システムは、ガスタービン部材を示す3次元CADデータを受け、この3次元CADデータで示されるガスタービン部材の表面上に所定の間隔で溶射ポイントを設定し、溶射ガンの溶射軸と溶射ポイントとを垂直状態に位置決めする位置データを求め、溶射条件データベースから溶射条件を読み出して位置データと溶射条件とを対応づけて溶射データとし、駆動制御装置が溶射ポイントを結ぶ経路に沿って溶射データに基づいて溶射ガン及びロボットアームを駆動制御して溶射を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2004−115846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の自動溶射システムは、ガスタービン部材を示す3次元CADデータに基づいて溶射ポイントを設定している。しかし、ガスタービン部材を示す3次元CADデータは、設計データであり、所定量の公差が設定されており、ガスタービン部材の寸法にばらつきがある。また、ガスタービンは、所定期間ごとに定期検査を行い、各種の部材の検査によりセラミック遮熱コーティング層の厚さが不十分であるとされたときには、セラミック遮熱コーティング層を剥がして再溶射を行っている。この場合、ガスタービン部材の形状が公差内で変動することが多い。
【0007】
このようにガスタービン部材の寸法がばらついていることから、溶射範囲を少し広く設定して溶射作業を行っている。すると、ガスタービン部材におけるセラミック遮熱コーティング層の厚さがばらつき、無駄な溶射となって処理コストが増加するだけでなく、処理後の後加工が必要となり、この点でも処理コストが増加してしまう。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制可能とする自動溶射装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の自動溶射装置は、被溶射物の表面に遮熱コーティング材を溶射する溶射装置と、前記被溶射物の表面形状を3次元測定可能な3次元測定手段と、該3次元測定手段が測定した前記被溶射物の表面形状に基づいて前記溶射装置を作動して前記被溶射物の表面に遮熱コーティング層を形成する溶射制御装置と、溶射後に前記被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を検出する膜厚検出手段と、該膜厚検出手段が検出した遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する膜厚判定手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
従って、3次元測定手段は、被溶射物の表面形状を3次元測定し、溶射制御装置は、3次元測定手段が測定した被溶射物の表面形状に基づいて溶射装置を作動して被溶射物の表面に遮熱コーティング層を形成し、膜厚検出手段は、溶射後に被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を検出し、膜厚判定手段は、膜厚検出手段が検出した遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する。そのため、溶射装置により被溶射物の表面に高精度な遮熱コーティング層を形成することができ、その後、遮熱コーティング層の膜厚が適正な膜厚かを判定することで、製品の信頼性を向上することができる。その結果、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制することができる。
【0011】
本発明の自動溶射装置では、前記膜厚検出手段は、前記溶射装置による溶射前に前記3次元測定手段が3次元測定した前記被溶射物の表面形状と、前記溶射装置による溶射後に前記3次元測定手段が3次元測定した前記被溶射物の表面形状とに基づいて遮熱コーティング層の膜厚を算出することを特徴としている。
【0012】
従って、溶射前後における被溶射物の表面形状を比較することで、遮熱コーティング層の膜厚を算出することとなり、高精度な膜厚判定を行うことができる。
【0013】
本発明の自動溶射装置では、前記膜厚検出手段は、前記溶射装置による溶射後に前記被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を測定する膜厚測定器を有することを特徴としている。
【0014】
従って、膜厚測定器により被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を測定することで、装置の簡素化及び低コスト化を可能とすることができる。
【0015】
本発明の自動溶射装置では、前記膜厚検出手段は、遮熱コーティング層の平坦部膜厚と遮熱コーティング層の曲面部膜厚との関係をマップとして予め設定しておき、前記膜厚測定器が測定した前記被溶射物における平坦部の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚に基づいて、前記被溶射物における曲面部の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を推定することを特徴としている。
【0016】
従って、膜厚測定器が測定した被溶射物における平坦部の遮熱コーティング層の膜厚に基づいて曲面部の遮熱コーティング層の膜厚を推定することで、高精度な膜厚判定を行うことができる。
【0017】
本発明の自動溶射装置では、前記3次元測定手段が測定した前記被溶射物の表面形状と、予め設定された設計データとを比較して前記被溶射物の表面形状が設計データの許容範囲内にあるかどうかを判定する形状判定手段を設け、前記溶射制御装置は、前記被溶射物の表面形状が設計データの許容範囲内にあると判定された前記被溶射物について、前記溶射装置により遮熱コーティング層を形成することを特徴としている。
【0018】
従って、3次元測定手段が測定した被溶射物の表面形状と設計データとを比較して被溶射物の表面形状の適正を判定することで、被溶射物の製造不良や再利用品における変形を検出することができ、溶射作業の効率化を可能とすることができる。
【0019】
また、本発明の自動溶射方法は、被溶射物の表面形状を3次元測定し、3次元測定した前記被溶射物の表面形状に基づいて該被溶射物の表面に遮熱コーティング層を形成し、溶射後に前記被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を検出し、検出した遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定することを特徴とするものである。
【0020】
従って、被溶射物の表面に高精度な遮熱コーティング層を形成することができ、その後、遮熱コーティング層の膜厚が適正な膜厚かを判定することで、製品の信頼性を向上することができ、その結果、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の自動溶射装置及びその方法によれば、被溶射物の表面形状を3次元測定し、3次元測定した前記被溶射物の表面形状に基づいて該被溶射物の表面に遮熱コーティング層を形成するので、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る自動溶射装置を表す概略構成図である。
【図2】図2は、実施例1の自動溶射装置による自動溶射方法を表すフローチャートである。
【図3】図3は、ガスタービンを表す概略構成図である。
【図4】図4は、ガスタービンの動翼を表す概略図である。
【図5】図5は、本発明の実施例2に係る自動溶射装置を表す概略構成図である。
【図6】図6は、実施例2の自動溶射装置による自動溶射方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る自動溶射装置及びその方法の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の実施例1に係る自動溶射装置を表す概略構成図、図2は、実施例1の自動溶射装置による自動溶射方法を表すフローチャート、図3は、ガスタービンを表す概略構成図、図4は、ガスタービンの動翼を表す概略図である。
【0025】
ガスタービンは、図3に示すように、圧縮機11と燃焼器12とタービン13により構成されている。このガスタービンには、図示しない発電機が連結されており、発電可能となっている。
【0026】
圧縮機11は、空気を取り込む空気取入口20を有し、圧縮機車室21内に入口案内翼(IGV:Inlet Guide Vane)22が配設されると共に、複数の静翼23と動翼24が前後方向(後述するロータ32の軸方向)に交互に配設されてなり、その外側に抽気室25が設けられている。燃焼器12は、圧縮機11で圧縮された圧縮空気に対して燃料を供給し、点火することで燃焼可能となっている。タービン13は、タービン車室26内に複数の静翼27と動翼28が前後方向(後述するロータ32の軸方向)に交互に配設されている。このタービン車室26の下流側には、排気車室29を介して排気室30が配設されており、排気室30は、タービン13に連続する排気ディフューザ31を有している。
【0027】
また、圧縮機11、燃焼器12、タービン13、排気室30の中心部を貫通するようにロータ(回転軸)32が位置している。ロータ32は、圧縮機11側の端部が軸受部33により回転自在に支持される一方、排気室30側の端部が軸受部34により回転自在に支持されている。そして、このロータ32は、圧縮機11にて、各動翼24が装着されたディスクが複数重ねられて固定され、タービン13にて、各動翼28が装着されたディスクが複数重ねられて固定されており、排気室30側の端部に図示しない発電機の駆動軸が連結されている。
【0028】
そして、このガスタービンは、圧縮機11の圧縮機車室21が脚部35に支持され、タービン13のタービン車室26が脚部36により支持され、排気室30が脚部37により支持されている。
【0029】
従って、圧縮機11の空気取入口20から取り込まれた空気が、入口案内翼22、複数の静翼23と動翼24を通過して圧縮されることで高温・高圧の圧縮空気となる。燃焼器12にて、この圧縮空気に対して所定の燃料が供給され、燃焼する。そして、この燃焼器12で生成された作動流体である高温・高圧の燃焼ガス(作動流体)が、タービン13を構成する複数の静翼27と動翼28を通過することでロータ32を駆動回転し、このロータ32に連結された発電機を駆動する。一方、排気ガス(燃焼ガス)のエネルギは、排気室30の排気ディフューザ31により圧力に変換され減速されてから大気に放出される。
【0030】
このように構成されたガスタービンにて、動翼24は、図4に示すように、翼根部41と、プラットホーム42と、翼部43とから構成されている。翼根部41は、ロータ32(図3参照)と一体のロータディスクに板厚方向から嵌合して固定可能となっている。プラットホーム42は、翼根部41と一体となる湾曲したプレート形状をなしている。翼部43は、基端部がこのプラットホーム42に固定されて先端部がケーシング(図示略)の内壁面側に延出しており、所定角度(例えば、90度程度)捩じられている。
【0031】
そして、この動翼24は、図3に示すように、ロータ32の外周部に周方向に沿って一定間隔で複数並設され、基端部がロータディスク14に固定されることで、環状に組み付けられている。
【0032】
このように構成された動翼24は、ガスタービンの運転時に高温にさらされることから、表面にセラミック遮熱コーティング(TBC)を施す必要がある。本実施例では、自動溶射装置を用いて動翼24の表面に溶射を行い、セラミック遮熱コーティング層を形成している。
【0033】
実施例1の自動溶射装置は、図1に示すように、溶射装置51と、3次元測定器52と、制御装置(溶射制御装置)53とを有しており、この制御装置53は、膜厚検出装置54と、膜厚判定装置55として機能する。
【0034】
被溶射物の例としての動翼24は、支持台50上に載置され、図示しないロボットアームにより保持され、且つ、移動可能とすることで、位置制御可能となっている。溶射装置51は、支持台50上の動翼24の外周側に配置されており、動翼24の表面に対して溶射材(セラミックス)を溶射することで、セラミック遮熱コーティング層を形成することができる。3次元測定器52は、動翼24の表面形状を3次元測定可能であり、動翼24の場合、プラットホーム42と翼部43の表面形状を3次元測定する。この3次元測定器52は、非接触式の測定器であって、例えば、レーザ式、カメラ式などがある。
【0035】
制御装置53は、3次元測定器52が3次元測定した動翼24の表面形状に基づいて、溶射装置51を作動制御することで、動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成する。膜厚検出装置54は、溶射後に、動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出するものである。本実施例にて、この膜厚検出装置54は、溶射装置51による溶射前に3次元測定器52が3次元測定した動翼24の表面形状と、溶射装置51による溶射後に3次元測定器52が3次元測定した動翼24の表面形状とを比較することで、セラミック遮熱コーティング層の膜厚を算出する。
【0036】
膜厚判定装置55は、膜厚検出装置54が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が、予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定するものである。ここで、膜厚判定装置55は、セラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にあると判定されたら、この動翼24を良品であるとし、セラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にないと判定されたら、この動翼24を不良品であると判断し、再溶射の指示等を溶射装置51へ命令する。
【0037】
また、制御装置53は、形状判定装置56として機能する。この形状判定装置56は、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状と、予め設定された設計データとを比較して動翼24の表面形状が設計データの許容範囲内にあるかどうかを判定する。ここで、制御装置53は、動翼24の表面形状が設計データの許容範囲内にあると判定された動翼24について、溶射装置51によりセラミック遮熱コーティング層を形成する。
【0038】
ここで、実施例1の自動溶射装置による動翼24の自動溶射方法について説明する。
【0039】
実施例1の自動溶射装置による動翼24の自動溶射方法において、図2に示すように、ステップS11にて、制御装置53は、3次元測定器52により動翼24を3次元測定し、この動翼24における3次元表面形状のデータを得る。ステップS12にて、動翼24の設計データ(設計図面)を読み込み、3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データと設計データとを比較する。そして、ステップS13にて、制御装置53は、3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データが、設計データの許容範囲内(ここでは、公差範囲内)にあるかどうかを判定する。
【0040】
ここで、制御装置53は、動翼24の3次元表面形状データが設計データの公差範囲内にないと判定されたら、ステップS20にて、この動翼24を不良品(NG)と判定し、溶射作業を中止する。一方、動翼24の3次元表面形状データが設計データの公差範囲内にあると判定されたら、制御装置53は、ステップS14にて、3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データに基づいて溶射範囲を設定し、ステップS15にて、溶射装置51を作動制御して動翼24に対する溶射作業を開始する。この場合、動翼24の溶射範囲とは、溶射する領域と厚さである。
【0041】
ステップS16にて、溶射装置51による動翼24の溶射作業が終了したら、ステップS17にて、制御装置53は、3次元測定器52により動翼24を3次元測定し、この動翼24における3次元表面形状のデータを得る。ここで得られた3次元表面形状のデータは、動翼24に加えて溶射作業により得られたセラミック遮熱コーティング層を含むものである。従って、ステップS18にて、溶射前後に3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データを比較することで、動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の厚さを算出する。
【0042】
なお、ここでは、溶射装置51による動翼24の溶射作業が終了したら、3次元測定器52により動翼24を3次元測定し、溶射前後に3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データを比較してセラミック遮熱コーティング層の厚さを算出したが、この手順に限定されるものではない。即ち、溶射装置51により動翼24の溶射作業を実行しながら、溶射が終了した領域から3次元測定器52により動翼24を3次元測定し、溶射前後の3次元表面形状データを比較してセラミック遮熱コーティング層の厚さを算出してもよい。
【0043】
ステップS19にて、制御装置53は、算出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が、所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する。ここで、動翼24におけるセラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にないと判定されたら、ステップS14に戻り、動翼24におけるセラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内に入るように、溶射範囲(領域と厚さ)を再設定し、その後、ステップS15にて、再度、溶射装置51による溶射を行う。
【0044】
一方、ステップS19にて、動翼24におけるセラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にあると判定されたら、この動翼24を良品であるとし、自動溶射作業を完了する。
【0045】
このように実施例1の自動溶射装置にあっては、動翼24の表面に溶射材を溶射する溶射装置51と、動翼24の表面形状を3次元測定可能な3次元測定器52と、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状に基づいて溶射装置51を作動して動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成する制御装置53と、溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出する膜厚検出装置54と、膜厚検出装置54が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する膜厚判定装置55とを設けている。
【0046】
従って、3次元測定器52は、動翼24の表面形状を3次元測定し、制御装置53は、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状に基づいて溶射装置51を作動して動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成し、膜厚検出装置54は、溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出し、膜厚判定装置55は、膜厚検出装置54が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する。そのため、溶射装置51により動翼24の表面に高精度なセラミック遮熱コーティング層を形成することができ、後処理などを不要とすることができる。また、セラミック遮熱コーティング層を形成した後、セラミック遮熱コーティング層の膜厚が適正な膜厚かどうかを判定することで、製品の信頼性を向上することができる。その結果、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制することができる。
【0047】
また、実施例1の自動溶射装置では、膜厚検出装置54は、溶射装置51による溶射前に3次元測定器52が3次元測定した動翼24の表面形状と、溶射装置51による溶射後に3次元測定器52が3次元測定した動翼24の表面形状とに基づいてセラミック遮熱コーティング層の膜厚を算出している。従って、溶射前後における動翼24の表面形状を比較することで、セラミック遮熱コーティング層の膜厚を算出することとなり、高精度な膜厚判定を行うことができる。
【0048】
また、実施例1の自動溶射装置では、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状と、予め設定された設計データとを比較して動翼24の表面形状が設計データの公差範囲内にあるかどうかを判定する形状判定装置56を設け、制御装置53は、動翼24の表面形状が設計データの公差範囲内にあると判定された動翼24について、溶射装置51によりセラミック遮熱コーティング層を形成している。従って、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状と設計データとを比較して動翼24の表面形状の適正を判定することで、動翼24の製造不良を検出することができ、溶射作業の効率化を可能とすることができる。また、動翼24は、タービンの定期検査時にセラミック遮熱コーティング層の良否が判定され、不良の動翼に対してセラミック遮熱コーティング層を剥離し、再度溶射を行うが、このとき、動翼24として再利用されるものにおける変形を検出することができ、溶射作業の効率化を可能とすることができる。
【実施例2】
【0049】
図5は、本発明の実施例2に係る自動溶射装置を表す概略構成図、図6は、実施例2の自動溶射装置による自動溶射方法を表すフローチャートである。なお、上述した実施例と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0050】
実施例2の自動溶射装置は、図5に示すように、溶射装置51と、3次元測定器52と、制御装置(溶射制御装置)53とを有しており、この制御装置53は、膜厚検出装置62と、膜厚判定装置55として機能する。この場合、膜厚検出装置54は、溶射装置51による溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を測定する膜厚測定器61を有している。この膜厚測定器61は、例えば、磁気式、渦電流式、超音波式である。
【0051】
溶射装置51は、支持台50上の動翼24の外周側に配置されており、動翼24の表面に対して溶射材(セラミックス)を溶射することで、セラミック遮熱コーティング層を形成することができる。3次元測定器52は、動翼24の表面形状を3次元測定可能であり、動翼24の場合、プラットホーム42と翼部43の表面形状を3次元測定する。
【0052】
制御装置53は、3次元測定器52が3次元測定した動翼24の表面形状に基づいて、溶射装置51を作動制御することで、動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成する。膜厚検出装置54は、溶射後に、動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出するものである。本実施例にて、この膜厚検出装置62は、セラミック遮熱コーティング層の平坦部膜厚とセラミック遮熱コーティング層の曲面部膜厚との関係をマップとして予め設定しておき、膜厚測定器61が測定した動翼24における平坦部の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚に基づいて、動翼24における曲面部の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を推定する。
【0053】
即ち、動翼24は、3次元方向に湾曲した形状をなしており、溶射装置51により溶射を行うと、セラミック遮熱コーティング層が形成されやすい部分、セラミック遮熱コーティング層が形成されにくい部分が発生する。この点を考慮し、過去の溶射装置51による多数の溶射結果に基づいて、動翼24における全ての溶射範囲における溶射厚さ比率を求め、膜厚比率マップを形成しておく。膜厚検出装置62は、動翼24の平坦部に形成されたセラミック遮熱コーティング層の平坦部膜厚に基づいて、上述した膜厚比率マップを用いて、動翼24の曲面部に形成されたセラミック遮熱コーティング層の曲面部膜厚を算出する。この場合、膜厚測定器61は、動翼24における平坦部の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を複数の位置で測定し、膜厚比率マップを参考にして動翼24における曲面部の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を推定する。
【0054】
膜厚判定装置55は、膜厚検出装置62が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が、予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定するものである。ここで、膜厚判定装置55は、セラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にあると判定されたら、この動翼24を良品であるとし、セラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にないと判定されたら、この動翼24を不良品であるとする。
【0055】
ここで、実施例2の自動溶射装置による動翼24の自動溶射方法について説明する。
【0056】
実施例2の自動溶射装置による動翼24の自動溶射方法において、図6に示すように、ステップS31にて、制御装置53は、3次元測定器52により動翼24を3次元測定し、この動翼24における3次元表面形状のデータを得る。ステップS32にて、動翼24の設計データ(設計図面)を読み込み、3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データと設計データとを比較する。そして、ステップS33にて、制御装置53は、3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データが、設計データの許容範囲内(ここでは、公差範囲内)にあるかどうかを判定する。
【0057】
ここで、制御装置53は、動翼24の3次元表面形状データが設計データの公差範囲内にないと判定されたら、ステップS40にて、この動翼24を不良品(NG)と判定し、溶射作業を中止する。一方、動翼24の3次元表面形状データが設計データの公差範囲内にあると判定されたら、制御装置53は、ステップS34にて、3次元測定器52が測定した動翼24の3次元表面形状データに基づいて溶射範囲を設定し、ステップS35にて、溶射装置51を作動制御して動翼24に対する溶射作業を開始する。この場合、動翼24の溶射範囲とは、溶射する領域と厚さである。
【0058】
ステップS36にて、溶射装置51による動翼24の溶射作業が終了したら、ステップS37にて、制御装置53は、膜厚測定器61により動翼24の平坦部に形成されたセラミック遮熱コーティング層の厚さを測定する。ステップS38では、ここで得られた動翼24の平坦部に形成されたセラミック遮熱コーティング層の平坦部膜厚に基づいて、膜厚比率マップを用いて、動翼24の曲面部に形成されたセラミック遮熱コーティング層の曲面部膜厚を算出する。このようにして動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の厚さを算出する。
【0059】
ステップS39にて、制御装置53は、算出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が、所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する。ここで、動翼24におけるセラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にないと判定されたら、ステップS34に戻り、動翼24におけるセラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内に入るように、溶射範囲(領域と厚さ)を再設定し、その後、ステップS35にて、再度、溶射装置51による溶射を行う。
【0060】
一方、ステップS39にて、動翼24におけるセラミック遮熱コーティング層の膜厚が所定膜厚範囲内にあると判定されたら、この動翼24を良品であるとし、自動溶射作業を完了する。
【0061】
このように実施例2の自動溶射装置にあっては、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状に基づいて溶射装置51を作動して動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成する制御装置53と、溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出する膜厚検出装置62と、膜厚検出装置62が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する膜厚判定装置55とを設けている。
【0062】
従って、3次元測定器52は、動翼24の表面形状を3次元測定し、制御装置53は、3次元測定器52が測定した動翼24の表面形状に基づいて溶射装置51を作動して動翼24の表面にセラミック遮熱コーティング層を形成し、膜厚検出装置62は、溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を検出し、膜厚判定装置55は、膜厚検出装置54が検出したセラミック遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する。そのため、溶射装置51により動翼24の表面に高精度なセラミック遮熱コーティング層を形成することができ、後処理などを不要とすることができる。また、セラミック遮熱コーティング層を形成した後、セラミック遮熱コーティング層の膜厚が適正な膜厚かどうかを判定することで、製品の信頼性を向上することができる。その結果、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制することができる。
【0063】
また、実施例2の自動溶射装置では、膜厚検出装置62として、溶射装置51による溶射後に動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を測定する膜厚測定器61を設けている。従って、膜厚測定器61により動翼24の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を測定することで、装置の簡素化及び低コスト化を可能とすることができる。
【0064】
また、実施例2の自動溶射装置では、膜厚検出装置62は、セラミック遮熱コーティング層の平坦部膜厚とセラミック遮熱コーティング層の曲面部膜厚との関係をマップとして予め設定しておき、膜厚測定器61が測定した動翼24における平坦部の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚に基づいて、動翼24における曲面部の表面に形成されたセラミック遮熱コーティング層の膜厚を推定する。従って、膜厚測定器61が測定した動翼24における平坦部のセラミック遮熱コーティング層の膜厚に基づいて曲面部のセラミック遮熱コーティング層の膜厚を推定することで、高精度な膜厚判定を行うことができる。
【0065】
なお、上述した各実施例にて、被溶射物として、動翼24を適用したが、静翼23やコーティングを施すような構造部品でもよい。また、本発明の自動溶射装置をガスタービンの構成部品に適用したが、蒸気タービンや圧縮機などのいずれの回転機械にも適用することができる。更に、動翼や静翼以外に、セラミック遮熱コーティングが施工される高温部品全般についても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る自動溶射装置及びその方法は、被溶射物の表面形状を3次元測定してから遮熱コーティング層を形成することで、高精度な溶射作業を可能として処理コストの増加を抑制可能とするものであり、いずれの種類の溶射作業にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
24 動翼(被溶射物)
51 溶射装置
52 3次元測定器
53 制御装置(溶射制御装置)
54,62 膜厚検出装置
55 膜厚判定装置
61 膜厚測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶射物の表面に遮熱コーティング材を溶射する溶射装置と、
前記被溶射物の表面形状を3次元測定可能な3次元測定手段と、
該3次元測定手段が測定した前記被溶射物の表面形状に基づいて前記溶射装置を作動して前記被溶射物の表面に遮熱コーティング層を形成する溶射制御装置と、
溶射後に前記被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を検出する膜厚検出手段と、
該膜厚検出手段が検出した遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定する膜厚判定手段と、
を備えることを特徴とする自動溶射装置。
【請求項2】
前記膜厚検出手段は、前記溶射装置による溶射前に前記3次元測定手段が3次元測定した前記被溶射物の表面形状と、前記溶射装置による溶射後に前記3次元測定手段が3次元測定した前記被溶射物の表面形状とに基づいて遮熱コーティング層の膜厚を算出することを特徴とする請求項1に記載の自動溶射装置。
【請求項3】
前記膜厚検出手段は、前記溶射装置による溶射後に前記被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を測定する膜厚測定器を有することを特徴とする請求項1に記載の自動溶射装置。
【請求項4】
前記膜厚検出手段は、遮熱コーティング層の平坦部膜厚と遮熱コーティング層の曲面部膜厚との関係をマップとして予め設定しておき、前記膜厚測定器が測定した前記被溶射物における平坦部の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚に基づいて、前記被溶射物における曲面部の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を推定することを特徴とする請求項3に記載の自動溶射装置。
【請求項5】
前記3次元測定手段が測定した前記被溶射物の表面形状と、予め設定された設計データとを比較して前記被溶射物の表面形状が設計データの許容範囲内にあるかどうかを判定する形状判定手段を設け、前記溶射制御装置は、前記被溶射物の表面形状が設計データの許容範囲内にあると判定された前記被溶射物について、前記溶射装置により遮熱コーティング層を形成することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の自動溶射装置。
【請求項6】
被溶射物の表面形状を3次元測定し、3次元測定した前記被溶射物の表面形状に基づいて該被溶射物の表面に遮熱コーティング層を形成し、溶射後に前記被溶射物の表面に形成された遮熱コーティング層の膜厚を検出し、検出した遮熱コーティング層の膜厚が予め設定された所定膜厚範囲内にあるかどうかを判定することを特徴とする自動溶射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82455(P2012−82455A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227860(P2010−227860)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】