説明

自動車の前部車体構造

【課題】ラジエータ支持部材の柱部材自体を補強することなく、また大型のブラケットを要することなく、EA部材への入力を柱部材全体に効率的に分散でき、EA部材の後退量を抑制してエネルギ吸収効果を高めることができる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】柱部材5をサイドメンバ2に固定支持状態に取り付けると共に、該柱部材5に上下方向に延びる補強部材8を配設し、該補強部材8の下部8c,上下方向中途部8b及び上部8aを前記柱部材5に回動可能に連結し、残りの部分を前記柱部材5に固定した

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前部に配置されたラジエータ支持部材の下端部に車幅方向に延びるエネルギ吸収部材(以下、EA部材と記す)を配設した自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体前部の下端部にEA部材を配設し、車両前方衝突時に、被衝突物に作用する衝撃力を前記EA部材で吸収しつつ、該被衝突物が車両下方に巻き込まれるのを防止するようにした前部車体構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、下肢EA部材を、大型ブラケットを介してサイドメンバ,バンパリインホースに強固に固定している。また、特許文献2では、下肢EA部材をラジエータ支持部材の下枠に配設するとともに、該EA部材を回動リンクを介してバンパリインホースに結合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−145113号公報
【特許文献2】特開2010−89736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の従来構造では、大型のブラケットを要するので、それだけ車体重量及びコストが増加するという問題がある。
【0006】
また前記特許文献2に記載の従来構造では、入力の一部を回動リンクの引っ張り力によりバンパリインホースに負担させる効果はあるものの、ラジエータ支持部材の特に縦柱部材の剛性が不足している場合には、結局EA部材が後退してしまう問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、ラジエータ支持部材の柱部材自体を補強することなく、また大型のブラケットを要することなく、EA部材への入力を柱部材全体に効率的に分散でき、EA部材の後退量を抑制してエネルギ吸収効果を高めることができる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上下方向に延びる左,右の柱部材の上端部同士を上枠部材で、下端部同士を下枠部材で接続してなる矩形枠状のラジエータ支持部材の、前記左,右の柱部材の上下方向中途部を左,右のサイドメンバに固定支持状態に取り付け、該柱部材の下端部の前側にエネルギ吸収部材を掛け渡して取り付けた自動車の前部車体構造において、前記柱部材に、上下方向に延びる補強部材を配設し、該補強部材の下部,上下方向中途部及び上部の少なくとも上下方向中途部を前記柱部材に回動可能に連結し、残りの部分を前記柱部材に固定したことを特徴としている。
【0009】
ここで、本発明において、固定支持状態に取り付けるとは、柱部材に荷重が作用したとき、該柱部材がサイドメンバに対して、該柱部材の軸方向及びサイドメンバの軸方向の何れにも変位せず、また回転もしないとみなすことのできる取付け状態を意味している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柱部材に補強部材を配設し、該補強部材の下部,上下方向中途部及び上部の少なくとも上下方向中途部を前記柱部材に回動可能に連結し、残りの部分を前記柱部材に固定したので、EA部材への荷重の一部を補強部材の下部から上部に伝達して柱部材の上部に作用させることができ、従来柱部材の下側部分のみで負担していた荷重を柱部材の上側部分にも分散できる。これにより柱部材のサイドメンバより上側部分の剛性も利用でき、その結果、ラジエータ支持部材自体の剛性を増加することなくEA部材の後退量を軽減でき、エネルギ吸収効果を向上できる。
【0011】
また、大型のブラケットを必要としないので、車体重量及びコストが増加するという問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体構造が採用された車体前部の模式正面斜視図である。
【図2】前記車体前部の模式正面拡大斜視図である。
【図3】前記前部車体構造における作用効果を説明するための模式図である。
【図4】前記実施例1における補強部材の配置構造の変形例を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図3は本発明の実施例1を説明するための図である。本実施例において、前後,左右とは、自動車の進行方向に見た状態での前後,左右を意味する。
【0015】
図において、符号1は、本実施例構造が適用された自動車の車体前部であり、該車体前部1は模式的に示されている。前記車体前部1は、車体の左,右側部に配置された左,右のサイドメンバ2,2と、該サイドメンバ2,2の前端部2a,2aに架け渡して配置されたラジエータ支持部材3と、該ラジエータ支持部材3の下端部前面に配置されたEA部材4とを備えている。
【0016】
前記EA部材4は、車両前方衝突時に歩行者の下肢への衝撃を軽減するとともに、歩行者が車体下方に巻き込まれるのを防止するためのものである。このEA部材4は、例えば比較的薄い板金を用いて、横断面矩形状又はコ字形状で車幅方向に延びるように形成されており、歩行者の膝より低い高さに位置するように前記ラジエータ支持部材3に固定されている。
【0017】
前記左右のサイドメンバ2,2は、横断面矩形状をなし、車両前後方向に延びる筒状に形成されている。該サイドメンバ2,2の前端面には支持プレート2b,2bが固定されている。
【0018】
前記ラジエータ支持部材3は、左,右の柱部材5,5の上端部5a,5a同士を上枠部材6で、下端部5b,5b同士を下枠部材7で接続してなる正面視矩形枠状をなしている。
【0019】
前記左,右の柱部材5,5は、例えば、横断面コ字形状をなし、上下方向に延びる棒状に形成されている。この左,右の柱部材5,5の上下方向中途部、望ましくは略中央部a,aが、前記左,右のサイドメンバ2,2の前端の支持プレート2b,2bに2本のボルト9,9で締め付け固定されている。ここで、前記ボルト9,9は上下方向hだけに離すとともに車幅方向にdだけ偏位するように配置されている。
【0020】
ここで前記柱部材5は、前記サイドメンバ2に対して、上下方向に離して、かつ車幅方向に偏位させて配置された2本のボルト9,9で固定されているので、いわゆる固定支持状態に取り付けられているとみなすことができる。詳細には、柱部材5に荷重が入力されても、該柱部材5がサイドメンバ2に対して、該柱部材5,及びサイドメンバ2の軸方向に変位することがなく、また回転もしない、つまり両者の相対角度が変化しないとみなすことができる。
【0021】
前記左,右の柱部材5の車幅方向外側に位置する外側壁5cに、本実施例の特徴をなす補強部材8が配設されている。この補強部材8は、例えば前記柱部材5より板厚が厚い帯板により形成されている。この補強部材8は、厚さ方向を車幅方向に向けて前記外側壁5cに配置されており、幅方向に曲げるように作用する荷重(図3の荷重F)に対する高い剛性を有する。
【0022】
前記補強部材8は、その上端部8a,長手方向中央部8b,下端部8cが、それぞれ上端ボルト10a,中央ボルト10b,下端ボルト10cにより前記外側壁5cに回動可能に取り付けられている。
【0023】
ここで前記中央ボルト10bは、前記柱部材5をサイドメンバ2に固定するための上下のボルト9,9の高さ方向中央に配置されている。
【0024】
本実施例1において、前記EA部材4に荷重Fが入力された場合の作用効果を説明する。
【0025】
まず、前記補強部材8を備えていない場合(図3(a)参照)は、前記荷重Fは、前記柱部材5のボルト9,9による固定支持部より下側部分のみで負担され、上側部分の剛性は前記荷重Fの負担に寄与しない。その結果、前記柱部材5の下端部の撓みはδとなり、また前記サイドメンバ2への固定支持部の曲げモーメントはMとなる。
【0026】
一方、本実施例における補強部材8は、上述のように、その長手方向中央部8bが回動可能に支持されているので、その一端に加えられた荷重は、そのまま他端に伝達されることとなる。従って、前記補強部材8を備えている本実施例の場合(図3(b)参照)は、前記荷重Fの一部F′は、補強部材8の下端部から上端部に伝達され、前記柱部材5の上端部に作用する。そのため前記荷重Fの一部F′は柱部材5の前記固定支持部より上側部分によって負担される。その結果、前記柱部材5の下端部の撓みは、前記δより小さいδ′となり、曲げモーメントも、前記Mより小さいM′となる。
【0027】
このように本実施例では、ラジエータ支持部材3の左,右の柱部材5,5の外側壁5c,5cに、高剛性の補強部材8,8を配設し、該各補強部材8の下端部8c,上下方向中央部8b及び上端部8aのそれぞれを前記柱部材5の外側壁5cに回動可能に連結した。そのため、前記EA部材4に入力された荷重Fの一部F′を補強部材8の下端部8cから上端部8aに伝達して柱部材5の上端部に作用させることができる。これにより、従来は、柱部材5の下部のみの剛性で負担していた荷重を上部にも分散させ、柱部材5の撓みや曲げモーメントを低減でき、その結果、柱部材5自体の剛性を増大させることなくEA部材4の後退量を軽減できるとともに、エネルギ吸収性能を向上できる。
【0028】
また、本実施例の補強部材8は、柱部材5の外側壁5cに一体化されているので、ラジエータ支持部材3の柱部材としての機能をも有することとなり、重量増加を抑制できる。
【0029】
さらにまた本実施例では、補強部材8の上下方向中央部8bの連結ボルト10bを、柱部材5のサイドメンバ2への固定ボルト9,9の中間に位置させたので、荷重Fの一部F′を下端部から上端部により効率良く伝達でき、荷重Fを柱部材5の下側部分のみでなく上側部分でも負担することができる。
【0030】
なお、前記実施例では、補強部材8の上下方向中央部8bだけでなく上端部8a及び下端部8cをも柱部材5に回動可能に連結したが、本発明の補強部材は、少なくとも上下方向中央部を回動可能に連結すれば良く、上端部及び下端部は柱部材に固定しても良い。
【0031】
また前記実施例では、補強部材が帯板状のものである場合を説明したが、本発明の補強部材は、剛性のある部材であれは何でも良く、例えば中実の丸棒からなる簡単な軽量部材であれば良い。
【0032】
また本発明の補強部材は、必ずしも柱部材の外側壁に配設する必要はなく、要は下端部への荷重の一部を上端部に伝達できる構造であれば、何処に配置しても良く、例えば図4に示すように、柱部材50から後方に離れた位置に配置しても良い。この場合は、例えば柱部材50に上端,中央,下端支持片50a,50b,50cを形成し、該支持片により補強部材80を支持すれば良い。
【0033】
さらにまた、前記実施例では、柱部材5をサイドメンバ2に、上下に離れたボルト9,9で固定することにより柱部材5をサイドメンバ2に固定支持状態で取り付けたが、本発明では柱部材をサイドメンバに溶接することにより固定支持状態としても良い。
【符号の説明】
【0034】
1 前部車体
2 サイドメンバ
3 ラジエータ支持部材
4 EA部材
5,5 左,右の柱部材
5a 上端部
5b 下端部
6 上枠部材
7 下枠部材
8,80 補強部材
8a,80a 上部
8b,80b 上下方向中途部
8c,80c 下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる左,右の柱部材の上端部同士を上枠部材で、下端部同士を下枠部材で接続してなる矩形枠状のラジエータ支持部材の、前記左,右の柱部材の上下方向中途部を左,右のサイドメンバに固定支持状態に取り付け、該柱部材の下端部の前側にエネルギ吸収部材を掛け渡して取り付けた自動車の前部車体構造において、
前記柱部材に、上下方向に延びる補強部材を配設し、該補強部材の下部,上下方向中途部及び上部の少なくとも上下方向中途部を前記柱部材に回動可能に連結し、残りの部分を前記柱部材に固定した
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−192837(P2012−192837A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58257(P2011−58257)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】