説明

自動車の可動フロア装置

【課題】乗員用シートに着座した乗員の足元部に車体フロアの上面を覆うフロアボードを、簡単な構成で適正に昇降駆動できるようにする。
【解決手段】乗員用シート4に着座した乗員の足元部に車体フロア3の上面を覆うフロアボード5が上下動可能に設置された自動車の可動フロア装置であって、上記フロアボード5に、前端部が車体フロア3に支持された前側ボード15と、この前側ボード15の後端部に後端部に連結部材(ヒンジ部材16)を介して折曲可能に連結された後側ボード17と、前後両ボード15,17の連結部を上昇させてフロアボード5を側面視で山側に折曲した状態とするようにフロアボードを昇降駆動する昇降駆動機構6を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員用シートに着座した乗員の足元部に車体フロアの上面を覆うフロアボードが上下動可能に設置された自動車の可動フロア装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1および特許文献2に示されるように、車体前後方向に延びる固定フロア部と、上記固定フロア部上であってブレーキペダル等の足踏みペダルの下方に位置する領域に配設された可動フロア部と、この可動フロア部を上記固定フロア部に対して昇降駆動する昇降駆動機構とを備えた可動フロア装置が提案されている。
【特許文献1】実開昭63−69655号公報
【特許文献2】特開2005−178581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1,2に開示されているように、乗員の体格等に応じて可動フロア部を昇降変位させることにより足踏みペダルの操作性を向上させることができる。しかし、上記可動フロア部上に載置される乗員の足位置は広範囲に変化するため、これに対応させて可動フロア部の設置面積を充分に広くする必要があり、このように可動フロア部の設置面積を広くすると、この可動フロア部の重量が増大するため、これを昇降駆動するために大きな駆動力が必要になるという問題があった。
【0004】
また、上記のように広い設置面積を有する可動フロア部を昇降駆動するように構成すると、この可動フロア部の上昇時に、その前端部または後端部と車体フロアとの間に大きな隙間が形成されることにより、乗員が違和感を受けるとともに、上記間隙から可動フロア部の下方に異物等が進入し易いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑み、乗員用シートに着座した乗員の足元部に車体フロアの上面を覆うフロアボードを、簡単な構成で適正に昇降駆動することができる自動車の可動フロア装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、乗員用シートに着座した乗員の足元部に車体フロアの上面を覆うフロアボードが上下動可能に設置された自動車の可動フロア装置であって、上記フロアボードに、前端部が車体フロアに支持された前側ボードと、この前側ボードの後端部に後端部に連結部材を介して折曲可能に連結された後側ボードと、前後両ボードの連結部を上昇させてフロアボードを側面視で山側に折曲した状態とするようにフロアボードを昇降駆動する昇降駆動機構とを備えたものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車の可動フロア装置において、上記車体フロアは、後下がりに傾斜したトーボード部と、その後端部に連続して車体の後方側に延びるフロア底部とを有し、上記フロアボードは、その前側ボードの前端部が車体フロアのトーボード部に枢着されるとともに、後側ボードの後部が車体フロアのフロア底部に沿って車体の前後方向にスライド可能に支持されたものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の自動車の可動フロア装置において、上記フロアボードの前側ボードは、車体フロアのトーボード部に対応したトーボード対応部と、上記フロア底部に対応したフロア底対応部とより側面視で逆への字形に形成されたものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、上記請求項2または請求項3に記載の自動車の可動フロア装置において、車幅方向に延びるクロスメンバが乗員用シートの前部下方に設置されるとともに、上記後側ボードの後端部を、上記クロスメンバに近接した位置まで延在させたものである。
【0010】
請求項5に係る発明は、上記請求項4に記載の自動車の可動フロア装置において、車体の幅方向中央部に設置されたフロアトンネルと、車体の左右両側辺部に設置されたサイドシルとの間の略全域が上記フロアボードの後側ボードにより覆われるように、上記後側ボードの幅寸法を設定したものである。
【0011】
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5の何れか1項に記載の自動車の可動フロア装置において、運転者により操作される少なくともアクセルペダルおよびブレーキペダルからなる操作ペダルと、この操作ペダルに併設されたフットレストとを備え、上記前側ボードの前方部を操作ペダルの下方に延出させるとともに、上記前側ボードの側方部にフットレストとの干渉を回避する回避部を設けたものである。
【0012】
請求項7に係る発明は、上記請求項1〜6の何れか1項に記載の自動車の可動フロア装置において、上記車体フロアには、フロアトンネルの側辺部からフロアボードの下方を通って車体の後方側に延びるリヤヒートダクトが設置されるとともに、上記フロアボードの側辺部には、リヤヒートダクトとの干渉を回避するための切欠きが形成されたものである。
【発明の効果】
【0013】
上記請求項1に係る発明によれば、前端部が車体フロアに支持された前側ボードと、この前側ボードの後端部に後端部に連結部材を介して折曲可能に連結された後側ボードとに分割し、両ボードの連結部を昇降変位させることにより、上記フロアボードの設置高さを調節するように構成したため、フロアボードの前端部または後端部が大きく揺動変位して車体フロアとの間隔が大きく変化するという事態を生じることなく、上記フロアボードの設置高さを容易かつ適正に調節できるという利点がある。
【0014】
上記請求項2に係る発明によれば、上記前側ボードと後側ボードとの連結部を昇降させる際に生じるフロアボードの前後寸法の変化を、乗員用シートの前部下方部に導入される上記後側ボードの後方部において吸収できるため、フロアボードの前後寸法が変化することに起因して乗員の足元部に違和感が与えられるのを防止できるという利点がある。
【0015】
上記請求項3に係る発明によれば、フロアボードの下降時に、トーボード対応部およびフロア底対応部を、車体フロアのトーボード部およびフロア底部に沿わせることにより、上記フロアボードと車体フロアとの間に大きな隙間が形成されることに起因してフロアボードの下降位置が制限されるのを防止することができる。
【0016】
上記請求項4に係る発明によれば、前側ボードと後側ボードとの連結部を昇降させるのに応じて前後移動する上記後側ボードの後部を、シートクッションの前方部下面とクロスメンバの前壁面との間に位置させることにより隠蔽することができるため、上記後側ボードの後部が目立つ位置で前後移動して乗員に違和感が与えられるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0017】
上記請求項5に係る発明によれば、フロアトンネルとサイドシルとの間の略全域が覆われるように、上記後側ボードの幅寸法を設定したため、乗員の足が載置される載置面を充分に確保できるという利点がある。
【0018】
上記請求項6に係る発明によれば、フロアボードの前方部がフットレストに干渉するのを防止しつつ、フロアボードの設置領域を充分に確保できるという利点がある。
【0019】
上記請求項7に係る発明によれば、フロアボードの側辺部がリヤヒートダクトに干渉するのを防止するとともに、上記フロアボードの幅寸法を充分に確保しつつ、リヤヒートダクトを適正値に設置できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜図3は、本発明に係る自動車の可動フロア装置の実施形態を示している。この可動フロア装置は、車体の左右両側辺部において前後方向に延びるように設置されたサイドシル1と、車体の幅方向中央部おいて前後方向に延びるように設置されたフロアトンネル2と、このフロアトンネル2と上記サイドシル1との間に設置された車体フロア3と、運転席等からなる乗員用シート4に着座した乗員の足元部に位置する車体フロア3の上面を覆うフロアボード5とを有し、このフロアボード5の下方には、フロアボード5を車体フロア3に対して昇降駆動する昇降駆動機構6が配設されている。
【0021】
上記車体フロア3は、ダッシュパネル7の下端部から後下がりの傾斜状態で車体の後方側に延びるトーボード部8と、その後端部に連続して車体の後方側に延びる略平坦なフロア底部9とを有している。上記車体フロア3の上面には、遮音および断熱機能等を有するフェルト材またはグラスウール等のインシュレータと、その上面を被覆するカーペット材等の表層材とを備えた従来周知のフロアトリム材(図示せず)が設置されている。また、上記トーボード部8の上方には、運転者により操作されるアクセルペダル11およびブレーキペダル12等からなる足踏みペダルが設置されるとともに、その側方部にはフットレスト13が設置されている。
【0022】
上記フロアボード5は、図4および図5に示すように、ヒンジ部材14により車体フロア3のトーボード部8に前端部が枢支された前側ボード15と、その後端部にヒンジ部材16を介して折曲可能に連結された後側ボード17を有している。上記前側ボード15は、車体フロア3のトーボード部8と同様に前上がりに傾斜したトーボード対応部18と、その後端部に連続して車体の後方側に延びるフロア底対応部19とを有し、これらにより側面から見て逆への字状に形成されている。上記前側ボード15の前方部、つまりトーボード対応部18は、上記アクセルペダル11およびブレーキペダル12等からなる足踏みペダルの下方に延出するように設置されるとともに、その側方部には上記フットレスト13との干渉を回避するように切り欠かれた回避部20が設けられている。
【0023】
また、上記前側ボード15には、その後辺部を除いて下方に凹入する凹入部21が形成され、この凹入部21内に、発泡ウレタン材または合成ゴム材等の弾性体からなる衝撃吸収部材22が配設されて接着されることにより、前側ボード15の上記トーボード対応部18とフロア底対応部19とに亘ってフロアボード5の上面を覆うように衝撃吸収部材22が配置されている。この衝撃吸収部材22は、その幅寸法がフロアボード5と略同一の値に設定されることにより、このフロアボード5の車幅方向略全域に配設されるとともに、上記衝撃吸収部材22の厚みが上記凹入部21の凹入量と略同一に設定されることにより、上記衝撃吸収部材22の上面部と、凹入部21に連続したフロアボード5の上面部、具体的には上記前側ボード15の後辺部とが略同一高さに設定されている。
【0024】
そして、上記フロアボード5の上面には、パイル材および裏打ち材等からなる一枚の表層マット材23が設置されている。この表層マット材23は、上記凹入部21内に配設された衝撃吸収部材22の上面部と、これに連続したフロアボード5の上面部、つまり上記トーボード対応部18の後辺部および上記後側ボード17とを連続して被覆し得る大きさに形成されている。上記フロアボード5および表層マット材23の側辺部には、後述するリヤヒートダクト29との干渉を回避するための切欠き5aが形成されている。
【0025】
上記フロアボード5の後側ボード17は、車体フロア3のフロア底部9に対応した位置に配設された上記サイドシル1とフロアトンネル2との間の略全域を覆うように、その幅寸法が設定されている。また、上記フロアボード5の設置部後方には、運転座席等からなる上記乗員用シート4が設置されるとともに、その前端部下方にフロアトンネル2と上記サイドシル1とを連結するクロスメンバ24が配設されている。そして、このクロスメンバ24の前方側には、上記後側ボード17の後端部をスライド自在に支持する左右一対のガイドレール25が設置されている。
【0026】
上記ガイドレール25は、図5および図6に示すように、ブラケット26を介して車体フロア3上に取り付けられた断面コ字状体からなり、上記後側ボード17の後端部下面に突設されたグロメット27が係脱可能に係止されるスライダー28を保持するように構成されている。そして、後述するフロアボード5の昇降変位に応じ、上記スライダー28がガイドレール25に沿ってスライド変位することにより、後側ボード17の後端部がガイドレール25によって支持された状態で前後移動するようになっている。
【0027】
また、図1および図7に示すように、上記車体フロア3には、フロアトンネル2の側辺部から上記後側ボード17の下方を通って車体の後方側に延びるリヤヒートダクト29が配設されている。このリヤヒートダクト29は、インストルメントパネルの内部に配設されたヒータユニット(図示せず)から導出された暖房用エアを、フロアトンネル2の上面部から側面部に沿って上記後側ボード17の下方側に案内した後、車体の後方側に案内するように設置されている。さらに、上記車体フロア3には、クロスメンバ24の下方を通って車体の後方側に延びる凹溝部30が形成され、この凹溝部30と上記リヤヒートダクト29とにより暖房用エアの導通路が形成されている。
【0028】
上記フロアボード5の昇降駆動機構6は、図5および図7に示すように、先端部が前側ボード15の後端部下面に枢支された左右一対の駆動リンク31と、前後両端部が車体フロア3の上面に軸受部材を介して回転自在に支持された左右一対のねじ軸32と、このねじ軸32を回転駆動する駆動ケーブル33と、上記ねじ軸32に螺着されるとともに車体フロア3の上面に沿ってスライド自在に支持されたスライドブロック34とを有し、このスライドブロック34の側面に上記駆動リンク31の基端部が枢支されている。
【0029】
上記駆動ケーブル33は、可撓性を有する筒状体内に回転力を伝達可能なケーブル材が回転可能に保持されたものであり、後述するようにシート位置調節機構38から入力された回転力をねじ軸32に伝達するように構成されている。そして、この回転力に応じてねじ軸32が正転駆動されると、上記スライドブロック34がねじ軸32に沿って車体の前方側にねじ送りされることにより、駆動リンク31の後端部が前方に押動されるとともに、これに対応して駆動リンク31の前端部が押し上げられる。この結果、上記駆動リンク31が倒伏状態から起立状態に移行し、この駆動リンク31を介して前側ボード15の後辺部が上方に押動されることにより、上記ヒンジ部材14を支点として前側ボード15が図1に示す下降位置から図5に示す上昇位置に揺動変位することになる。
【0030】
一方、上記フロアボード5の後側ボード17は、その前辺部がヒンジ部材16により前側ボード15の後端部に連結されているため、この前側ボード15の上昇動作に対応して後側ボード17の前辺部が上方に押動されるとともに、その後端部が上記ガイドレール25によって車体フロア3に支持されつつ、車体の前方側に移動するように構成されている。これにより上記前側ボード15と後側ボード17との連結部が上昇してフロアボード5が側面視で山側に折曲した状態に移行することになる。
【0031】
また、上記駆動ケーブル33によってねじ軸32が逆転駆動されることにより、スライドブロック34がねじ軸32に沿って車体の後方側に移動すると、上記駆動リンク31が起立状態から倒伏状態に移行して、前側ボード15の後辺部が図5に示す上昇位置から図1に示す下降位置するとともに、後側ボード17が車体フロア3に沿った下降位置に移行するようになっている。
【0032】
上記乗員用シート4は、車室前部の運転席側および助手席側にそれぞれ個別に設置されたセパレートタイプのシートであり、乗員の着座面を構成するシートクッション35と、このシートクッション35の後端部から上方に立ち上がるシートバック36と、このシートバック36の上端部に取り付けられたヘッドレスト37とを備え、車体フロア3に設けられたシート位置調節機構38により、シートクッション35の前後位置および上下位置と、車体フロア3に対する設置角度とが調節可能に支持されている。
【0033】
上記シート位置調節機構38は、図8および図9に示すように、前上がりの傾斜状態で車体フロア3上に設置された左右一対のガイドレール39と、このガイドレール39に沿ってシートクッション35を車体の前後方向にスライド変位させるスライド駆動手段40と、シートクッション35の前後移動に連動してシートクッション35の後端部を昇降変位させるチルト手段41とを有している。
【0034】
上記シートクッション35は、その本体部(クッション材)を下方から覆うように配設されたクッションフレーム42を有し、このクッションフレーム42の下方には、上面が開口した断面コ字状部材からなる上記ガイドレール39が設けられている。このガイドレール39内には上面に突片45が突設されたスライダー44がスライド自在に配設されるとともに、この突片45の上端部がクッションフレーム42の下方部に連結ピン46を介して枢支されている。また、上記スライダー44には、スライド駆動手段40のねじ軸47が螺合されるねじ孔が形成されている。
【0035】
上記スライド駆動手段40のねじ軸47は、ガイドレール39内に配設されて前後両端部が軸受部材により回転自在に支持されるとともに、その後端部が図示を省略した動力伝達ケーブルを介して駆動モータに連結されている。そして、上記駆動モータから動力伝達ケーブルを介してねじ軸47に駆動力が伝達され、このねじ軸47が回転駆動されることにより、上記スライダー44がガイドレール39に沿ってねじ送りされるように構成されている。上記ねじ軸47の前端部には、フロアボード5の昇降駆動機構6に駆動力を伝達する駆動ケーブル48がカップリング49を介して接続されている。
【0036】
上記シート位置調節機構38のチルト手段41は、クッションフレーム42の後部下方に突設された支持プレート50と、ガイドレール25の側面に固定されて鉛直方向に立設されたガイド板51と、上記支持プレート50に突設されたガイドピン52とを有し、上記ガイド板51には、前上がりの傾斜部を有するガイド溝53が形成され、このガイド溝53に沿って上記ガイドピン52が摺動自在に支持されている。そして、上記スライド駆動手段40のねじ軸47により上記スライダー44がねじ送りされて、シートクッション35の前方部がガイドレール25に沿って前後移動するのに応じ、上記ガイド板51のガイド溝53に沿って上記ガイドピン52が摺動することにより、シートクッション35の後方部が昇降駆動されるようになっている。
【0037】
上記スライド駆動手段40によりシートクッション35を、例えば図1および図8に示す後方位置から図10に示す前方位置にスライド変位させた場合には、シートクッション35の前方部がガイドレール39に沿ってスライド変位して徐々に上昇するとともに、上記ガイドピン52がガイド板51のガイド溝53に沿って車体の前方側に摺動することにより、シートクッション35の後端部が押し上げられてシートクッション35が揺動変位する。この結果、シートクッション35の前方移動に応じ、水平面に対するその傾斜角度が次第に小さくなってシートクッション35が水平に近い設置状態となるとともに、これに対応してシートバック36が後傾状態から直立に近い状態に変位することになる。
【0038】
上記乗員用シート4に背の低い乗員Aが着座する際に、図外の操作スイッチを操作して上記スライド駆動手段40の駆動モータを作動させることにより、乗員用シート4を車体の前方側にスライド変位させると、図10に示すようにシートクッション35の前方部がガイドレール25に沿って上昇するとともに、シートクッション35の後方部が押し上げられることになるため、シートクッション35に対する乗員の着座中心を表すヒップポイントが、上記乗員Aの身長に対応して前部上方に移動することにより、この乗員Aの視線が適正ラインLに一致することになる。また、上記乗員用シート4の前方移動に応じてシートクッション35の後端部が押し上げられて、その設置角度が水平に近い状態となることにより、身長に応じて足の長さが短くなる低身長者Aが膝を大きく折り曲げてその膝下部を所定角度で垂下させた状態で着座するため、床面から足先が離間した状態となることが防止される。
【0039】
一方、上記乗員用シート4に背の高い乗員Bが着座する際に、上記スライド駆動手段40により乗員用シート4を車体の後方側にスライド変位させると、図1に示すように、シートクッション35の前方部がガイドレール25に沿って下降するとともに、シートクッション35の後方部が押し下げられることになるため、シートクッション35に対する乗員Bの着座中心を表すヒップポイントが、乗員Bの身長に対応して後部下方に移動することにより、この乗員Bの視線が適正ラインLに一致することになる。また、上記乗員用シート4の後方移動に応じてシートクッション35が前上がりの傾斜状態となることにより、身長に応じて足の長さが長くなる高身長者Bが膝の折曲げ角度を小さくしてその膝下部を前方に延ばした状態となるため、安定した着座姿勢が得られることになる。
【0040】
上記スライド駆動手段40の駆動力を上記フロアボード5の昇降駆動機構6に伝達する上記駆動ケーブル48は、可撓性を有する外筒体により回転自在に支持されたケーブル材からなり、その先端部は、図11に示すように、第1伝達ボックス61内に導入されている。この第1伝達ボックス61内には、図12に示すように、駆動ケーブル48の先端部が連結されてこれと一体に回転するウォームギア62と、このウォームギア62により回転駆動されるウォームホイール63とが配設され、このウォームホイール63には、下方の第2伝達ボックス64に突設されたスプライン軸65が挿入されて係合される係合孔が形成されている。そして、上記駆動ケーブル48の回転力がウォームギア62を介してウォームホイール63に伝達されることにより、このウォームホイール63が回転駆動されるとともに、その回転力が上記スプライン軸65を介して第2伝達ボックス64に伝達されるようになっている。
【0041】
上記第2伝達ボックス64内には、スプライン軸65と一体に回転する第1ベベルギア66と、この第1ベベルギア66により回転駆動される第2ベベルギア67とが配設されている。この第2ベベルギア67には、上記昇降駆動機構6の駆動ケーブル33が一体に回転するように止着されることにより、この第2ベベルギア67の回転力が上記昇降駆動機構6の駆動ケーブル33に伝達されるように構成されている。なお、上記スライド駆動手段40の駆動ケーブル48と、昇降駆動機構6の駆動ケーブル33との間には、上記ウォームギア62およびウォームホイール63からなる減速機構が配設されることにより、上記スライド駆動手段40の駆動ケーブル48から昇降駆動機構6の駆動ケーブル33に回転駆動力を伝達する際に、その回転速度が約10分の1に減速されるようになっている。
【0042】
また、上記第2伝達ボックス64は、乗員用シート4の前方側に配設された上記クロスメンバ24の前方側に配設されて取付ボルトにより車体フロア3に固定されるとともに、その上方に第1伝達ボックス61が重ね合わされた状態で、これらが連結ボルトにより一体に連結されるように構成されている。上記第2伝達ボックス64の上方に第1伝達ボックス61を重ね合わせる際に、第1伝達ボックス61内に配設されたウォームホイール63の係合孔に上記スプライン軸65が挿入されることにより、これらが一体に連結されるようになっている。
【0043】
そして、上記スライド駆動手段40によりスライダー44をねじ送りしてシートクッション35をガイドレール25に沿って前後移動させる際に、その駆動力が上記駆動ケーブル48および第1,第2伝達ボックス61,64を介して上記昇降駆動機構6の駆動ケーブル33に伝達されることにより、この駆動ケーブル33および上記ねじ軸32が回転駆動されて上記スライドブロック34が車体の前後方向にねじ送りされ、上記駆動リンク31が倒伏状態から起立状態に移行し、あるいは起立状態から倒伏状態に移行して上記前側ボード15の後辺部が昇降駆動されるように構成されている。
【0044】
例えば、低身長者Aが乗員用シート4に着座する際に、乗員用シート4を車体の前方側に移動させると、これに連動して上記駆動リンク31が倒伏状態から起立状態に移行し、フロアボード5の前側ボード15の後辺部が図5および図10に示す上昇位置に変位する。一方、高身長者Bが乗員用シート4に着座する際に、乗員用シート4を車体の後方側に移動させると、これに連動して上記駆動リンク31が起立状態から倒伏状態に移行し、フロアボード5の前側ボード15の後辺部が図1に示す下降位置に変位する。このようにして乗員の踵部が載置される上記フロアボード5の設置高さが、乗員A,Bの足の長さに適した位置に調節されるようになっている。
【0045】
上記のように乗員用シート4に着座した乗員の足元部に車体フロア3の上面を覆うフロアボード5が上下動可能に設置された自動車の可動フロア装置において、上記フロアボード5に、前端部が車体フロアに支持された前側ボード15と、この前側ボード15の後端部に後端部にヒンジ部材16からなる連結部材を介して折曲可能に連結された後側ボード17とを設けるとともに、上記フロアボード5を昇降駆動する昇降駆動機構6により、前側ボード15と後側ボード17との連結部を上昇させてフロアボード5を側面視で山側に折曲した状態とするように構成したため、このフロアボード5の設置高さ等を乗員の体格に応じて容易かつ適正に変位させることができる。
【0046】
すなわち、上記フロアボード5を、前端部が車体フロアに支持された前側ボード15と、この前側ボード15の後端部にヒンジ部材16からなる連結部材を介して折曲可能に連結された後側ボード17とに分割し、両ボード15,17の連結部を昇降変位させることにより、上記フロアボード5の設置高さを調節するように構成したため、大面積を有する一枚板のフロアボードを、その一端部を支点にして他端部を昇降駆動することにより、フロアボードを一体に変位させてその設置高さを調節するように構成した場合のように、フロアボードの前端部または後端部が大きく揺動変位して車体フロア3との間隔が大きく変化するという事態を生じることなく、上記フロアボード5の設置高さを適正に調節することができる。しかも、一枚板のフロアボードを一体に昇降駆動してその設置高さを調節する場合に比べ、小さい駆動力で上記フロアボード5を容易に昇降駆動できるという利点がある。
【0047】
また、上記実施形態では、車体フロア3に、後下がりに傾斜したトーボード部8と、その後端部に連続して車体の後方側に延びるフロア底部9が設けられた車両において、上記フロアボード5の前側ボード15の前端部を車体フロア3のトーボード部8に枢着するとともに、後側ボード17の後部を車体フロア3のフロア底部9に沿って車体の前後方向にスライド可能に支持させたため、上記前側ボード15と後側ボード17との連結部を昇降させる際に生じるフロアボード5の前後寸法の変化を、乗員用シート4の前部下方部、つまり乗員の膝下部に導入される上記後側ボード17の後方部において吸収できるため、フロアボード5の前後寸法が変化することに起因して乗員の足元部に違和感が与えられるのを防止できるという利点がある。
【0048】
さらに、上記実施形態に示すように、フロアボード5の前側ボード15を、車体フロア3のトーボード部8に対応したトーボード対応部18と、上記フロア底部9に対応したフロア底対応部19とより側面視で逆への字形に形成した場合には、上記フロアボード5の下降時に、トーボード対応部18およびフロア底対応部19を、車体フロア3のトーボード部8およびフロア底部9に沿わせることにより、上記フロアボード5と車体フロア3との間に大きな隙間が形成されることに起因してフロアボード5の下降位置が制限されるのを防止することができる。
【0049】
しかも、図10に示すように、前側ボード15と後側ボード17との連結部を上昇させてフロアボード5を側面視で山側に折曲した状態とする際に、前側ボード15のフロア底対応部19を前下がり状態とすることにより、ブレーキペダル12等の足踏みペダルに対する操作性を向上させることができるという利点がある。すなわち、上記実施形態では、低身長者Aが膝を大きく折り曲げてその膝下部を所定角度で垂下させた状態で乗員用シート4に着座する際に、上記フロアボード5の前側ボード15の後辺部が図5および図10に示す上昇位置に変位させることにより、前側ボード15のフロア底対応部19を前下がり状態とするように構成したため、上記ブレーキペダル12等を低身長者Aが前方に押動して操作する際に、その踵部を上記フロア底対応部19に沿って車体の前方側にスムーズに移動させることができる。
【0050】
また、上記実施形態に示すように、車幅方向に延びるクロスメンバ24が乗員用シート4の前部下方に設置された車両において、上記後側ボード17の後端部を、上記クロスメンバ24に近接した位置まで延在させた場合には、上記前側ボード15と後側ボード17との連結部を昇降させるのに応じて前後移動する上記後側ボード17の後部を、シートクッション35の前方部下面と上記クロスメンバ24の前壁面との間に位置させて隠蔽することができる。したがって、上記後側ボード17の後部が目立つ位置で前後移動して乗員に違和感が与えられるのを効果的に防止できるという利点がある。
【0051】
さらに、上記実施形態では、フロアボード5を前側ボード15と後側ボード17とを分割し、かつ前側ボード15の前端部を車体フロア3のトーボード部8に枢着するとともに、後側ボード17の後部を車体フロア3のフロア底部9に沿って車体の前後方向にスライド可能に支持させるように構成した車両において、上記フロアボード5の後側ボード17により車体の幅方向中央部に設置されたフロアトンネル2と、車体の左右両側辺部に設置されたサイドシル1との間の略全域が覆われるように、上記後側ボード17の幅寸法を設定したため、上記フロアボード5を昇降駆動する際の駆動力が大きくなるのを防止しつつ、乗員の足が載置される載置面を充分に確保できるという利点がある。
【0052】
また、上記実施形態に示すように、運転者により操作される少なくともアクセルペダル11およびブレーキペダル12からなる操作ペダルと、この操作ペダルに併設されたフットレスト13とを備えた車両において、上記前側ボード15の前方部(トーボード対応部18)を操作ペダルの下方に延出させるとともに、この前側ボード15の前方部に上記フットレスト13を回避する回避部20を設けた場合には、フロアボード5の前方部がフットレスト13に干渉するのを防止しつつ、フロアボード5の設置領域を充分に確保することができる。
【0053】
上記実施形態では、車体フロア3に、フロアトンネル2の側辺部からフロアボード5の下方を通って車体の後方側に延びるリヤヒートダクト29を設置するとともに、上記フロアボード5の側辺部に、リヤヒートダクト29との干渉を回避するための切欠きを形成したため、フロアボード5の側辺部がリヤヒートダクト29に干渉するのを防止するとともに、上記フロアボード5の幅寸法を充分に確保しつつ、リヤヒートダクト29を適正値に設置できるという利点がある。
【0054】
また、上記実施形態では、乗員の体格等に応じて設置高さが調節される上記フロアボード5の上面に、発泡ウレタン材または合成ゴム材等の弾性体からなる衝撃吸収部材22を配設したため、乗員用シート4に着座した乗員が上記フロアボード5上に踵部等を上記衝撃吸収部材22の上に載置した状態で、車両の衝突事故が発生し場合に、上記フロアボード5から乗員の踵部等に作用する衝撃荷重を上記衝撃吸収部材22により吸収することができ、これによって乗員の下肢部を効果的に保護できるという利点がある。特に、上記実施形態に示すように、フロアボード5の車幅方向略全域に衝撃吸収部材22を配設した構造とした場合には、上記衝撃荷重の吸収機能を有する衝撃吸収部材22の設置幅を充分に確保して乗員の下肢部を効果的に保護することができる。
【0055】
さらに、上記実施形態では、下方に凹入した凹入部21を上記フロアボード5の前方部、具体的には前側ボード15に形成し、この凹入部21内に上記衝撃吸収部材22を配設したため、所定の厚みを有する衝撃吸収部材22をフロアボード5の前方部のみに設けた場合においても、フロアボード5の上端面に大きな段差が形成されるのを防止し、この上端面をフラットに形成できるという利点がある。しかも、車両の衝突時に衝撃吸収部材22を後方に押動する荷重が入力された場合には、上記凹入部21の後端部に形成された段部に衝撃吸収部材22の後端を当接させることにより、この衝撃吸収部材22の後方移動を阻止してその取付状態を安定させることができる。
【0056】
上記実施形態に示すように、凹入部21内に配設された衝撃吸収部材22の上面部と、凹入部21に連続したフロアボード5の上面部、具体的には上記前側ボード15の後辺部および後側ボード17とを略同一高さに設定した場合には、衝撃吸収部材22の厚みを充分に確保しつつ、フロアボード5上に載置された足を移動させる際に違和感が生じるのを抑制することができるとともに、アクセルペダル11等を操作する際における操作性を効果的に向上させることができる。
【0057】
また、上記実施形態では、凹入部21内に配設された衝撃吸収部材22の上面部と、凹入部21に連続したフロアボード5の上面部(前側ボード15の後辺部および後側ボード17)とを連続して被覆する表層マット材23を設けたため、フロアボード5の上端面を効果的にフラット化することにより、その上に載置された足を移動させる際に違和感が生じること等を、さらに抑制できるという利点がある。
【0058】
なお、上記スライド駆動手段40の駆動ケーブル48から昇降駆動機構6の駆動ケーブル33に回転駆動力を伝達することにより、上記フロアボード5を昇降駆動するように構成した実施形態に代え、フロアボード5を昇降駆動するための専用の駆動源を設けた構造としてもよい。しかし、上記実施形態に示すように、単一の駆動源(駆動モータ)によりシートクッション35の前後位置および上下位置を調節するとともに、フロアボード5を昇降駆動するように構成した場合には、簡単な構成で乗員用シート4の位置と、フロアボード5の設置高さとを同時に調節できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る自動車の可動フロア装置の実施形態を示す説明図である。
【図2】可動フロア装置の要部の構成を示す平面図である。
【図3】可動フロア装置の要部の構成を示す斜視図である。
【図4】フロアボードの具体的構成を示す分解斜視図である。
【図5】可動フロア装置の要部の構成を示す説明図である。
【図6】フロアボードの後辺部の支持構造を示す正面断面図である。
【図7】リヤヒートダクトの設置部の構造を示す正面断面図である。
【図8】シート位置調節機構の構造を示す側面断面図である。
【図9】シート位置調節機構の構造を示す正面断面図である。
【図10】乗員用シートを前方移動させた状態を示す側面図である。
【図11】動力伝達機構の具体的構成を示す斜視図である。
【図12】動力伝達機構の具体的構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 サイドシル
2 フロアトンネル
3 車体フロア
4 乗員用シート
5 フロアボード
5a 切欠き
6 昇降駆動機構
8 トーボード部
9 フロア底部
11 アクセルペダル
12 ブレーキペダル
13 フットレスト
18 トーボード対応部
19 フロア底対応部
20 回避部
24 クロスメンバ
29 リヤヒートダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員用シートに着座した乗員の足元部に車体フロアの上面を覆うフロアボードが上下動可能に設置された自動車の可動フロア装置であって、上記フロアボードに、前端部が車体フロアに支持された前側ボードと、この前側ボードの後端部に連結部材を介して折曲可能に連結された後側ボードと、前後両ボードの連結部を上昇させてフロアボードを側面視で山側に折曲した状態とするようにフロアボードを昇降駆動する昇降駆動機構とを備えたことを特徴とする自動車の可動フロア装置。
【請求項2】
上記車体フロアは、後下がりに傾斜したトーボード部と、その後端部に連続して車体の後方側に延びるフロア底部とを有し、上記フロアボードは、その前側ボードの前端部が車体フロアのトーボード部に枢着されるとともに、後側ボードの後部が車体フロアのフロア底部に沿って車体の前後方向にスライド可能に支持されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車の可動フロア装置。
【請求項3】
上記フロアボードの前側ボードは、車体フロアのトーボード部に対応したトーボード対応部と、上記フロア底部に対応したフロア底対応部とより側面視で逆への字形に形成されたことを特徴とする請求項2に記載の自動車の可動フロア装置。
【請求項4】
車幅方向に延びるクロスメンバが乗員用シートの前部下方に設置されるとともに、上記後側ボードの後端部を、上記クロスメンバに近接した位置まで延在させたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の自動車の可動フロア装置。
【請求項5】
車体の幅方向中央部に設置されたフロアトンネルと、車体の左右両側辺部に設置されたサイドシルとの間の略全域が上記フロアボードの後側ボードにより覆われるように、上記後側ボードの幅寸法を設定したことを特徴とする請求項4に記載の自動車の可動フロア装置。
【請求項6】
運転者により操作される少なくともアクセルペダルおよびブレーキペダルからなる操作ペダルと、この操作ペダルに併設されたフットレストとを備え、上記前側ボードの前方部を操作ペダルの下方に延出させるとともに、上記前側ボードの側方部にフットレストとの干渉を回避する回避部を設けたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の自動車の可動フロア装置。
【請求項7】
上記車体フロアには、フロアトンネルの側辺部からフロアボードの下方を通って車体の後方側に延びるリヤヒートダクトが設置されるとともに、上記フロアボードの側辺部には、リヤヒートダクトとの干渉を回避するための切欠きが形成されたことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の自動車の可動フロア装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−203968(P2007−203968A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27517(P2006−27517)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】