説明

自動車外板用冷延鋼板および自動車外板パネル部品

【課題】板厚差や板厚傾斜部を有するテーラードブランク材であっても、外部から直接見ることができる自動車外板にも適用可能な自動車外板用冷延鋼板を提供する。
【解決手段】板厚が一定な板厚等厚部と、少なくとも片面側に板厚が変化する板厚傾斜部とを有し、上記板厚等厚部と板厚傾斜部との境界部における板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが、鋼板を自動車外板パネル部品として想定される曲率に湾曲させた時に、前記境界部が視認できなくなる臨界傾斜角θc以下の角度に設定されてなることを特徴とする自動車外板用冷延鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体の部材に要求される各種特性に応じて用いる鋼板素材を適材適所化することで、自動車車体の軽量化を可能とした自動車外板用冷延鋼板に関するものであり、具体的には、自動車のドアやフード、ルーフなどの自動車外板パネル(アウタパネル)に用いられる冷延鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に対する配慮から、自動車車体の軽量化が積極的に進められている。さらに、昨今では、世界的なCOの排出規制や、燃費改善規約の制定により、さらなる車体重量の軽量化が要請されている。
【0003】
斯かる社会的な要請の高まりに伴い、自動車車体に用いられる鋼板素材を、適材適所に配置する技術が提案されている。例えば、強度や剛性等が要求される部位に、素材の材質や板厚が異なる金属板を局所的に接合した、いわゆる「テーラードブランク材」が知られている(例えば、特許文献1)。また、アルミニウム合金と鋼のように異種金属同士を組み合わせて突合せ溶接したブランク材やその成形部品も提案されている(特許文献2)。
【0004】
テーラードブランク材を適用するメリットは、例えば、フードやルーフなどのように比較的大きな部材においては、現状では、全ての部位の特性を満たす1枚板で成形しているところを、部材の部位ごとに要求される強度や剛性等の特性に応じてそれぞれを別素材とすることで、素材重量を軽減したり高強度化したりすることができ、また、サイドパネルのような部材では、1枚板を用いる場合と比較して、窓やドア部分の切り落とし量を削減することで、素材歩留りを向上できるところにある。
【0005】
しかし、従来のテーラードブランク材は、その多くが溶接により一体化したもの(Tailored Welded Blank、以降「TWB材」とも称する)であるため、溶接部分の材質劣化などによる成形不良が問題となっている。そこで、この問題を解決するため、強度が650MPa以上の高強度鋼板と、変態誘起塑性型鋼板とを溶接接合し、材料全体の延性または成形性が、変態誘起塑性型鋼板同士を接合した材料全体の延性または成形性よりも良好なものとした高強度TWB材(特許文献3)や、引張強さが異なる2種類以上の素板が連続溶接された材料において、素板の加工硬化特性を最適に組み合わせ、破断に至るまでに高強度素板側に加わるひずみ量を増大させてプレス成形性を向上させたTWB材(特許文献4)が提案されている。
【0006】
しかし、現状では、上記TWB材の自動車部品への適用は、内板パネルや骨格部材に限定されており、外板パネルへの適用は少ない。また、外板パネルに適用されたとしても、直接、目に触れない箇所、例えば、ドアを開けないと見えないような箇所やカバーで覆われているような箇所への適用に留まっている。その理由は、プレス成形時にTWB材の接合線とその近傍の面品質(面精度)が低下するためであり、これがTWB材の外板パネルへの適用に対する最大の障害となっている。
【0007】
この面品質低下の問題を解決するため、例えば、特許文献5には、板厚あるいは材質の少なくともいずれかが異なる金属板を接合したTWB材をプレス成形するに際して、溶接線近傍を成形するポンチ表面に硬質ゴムをライニングしてプレス成形することで面品質低下を抑制する成形方法が提案されている。しかし、この方法では、接合線やその近傍の面品質の低下を完全に解消するまでには至っていない。
【0008】
また、TWB材には、その他の問題として、接合線がそのままでは塗装処理後にも見えてしまうということがある。この接合線を見えなくするには、例えば、接合線に沿って蝋などで肉盛りし、その後、研削する方法もあるが、製造コストの面から、現実的な方法ではない。また、特許文献6のように、溶接接合ではなく、かしめ継やプレス嵌め等のように機械的に接合する方法もあるが、当然、接合部に段差が発生したり、接合部痕が残ったりするため、外板には適用できない。
【0009】
また、その他の技術として、圧延などで板厚に違いを持たせたブランク材やその製造方法が幾つか開示されている。例えば、特許文献7には、連続熱延の仕上圧延において、差厚および/またはテーパーを有した圧延ワークロールを用いて、鋼帯を圧延し、鋼帯の幅方向に二種以上の板厚の異なった形状を有する鋼帯とする技術が、特許文献8には、3種類の異なる板厚を有する平板を圧延装置で形成し、プレス機で所定の形状に成形する車体パネルの成形方法が、特許文献9には、圧延または切削によって製造する厚肉部と薄肉部とからなり、厚肉部から薄肉部にかけて段階的に若しくは連続的に厚さが変化する中肉部を備える車体パネル用ブランク材が、また、特許文献10には、特許文献8と同様、板材を長手方向に沿って圧延し、板材の板厚を部分的に変化させた差厚板を製造する差厚板の圧延装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−095596号公報
【特許文献2】特開平08−309445号公報
【特許文献3】特許第4044434号公報
【特許文献4】特開2000−309843号公報
【特許文献5】特開2010−036222号公報
【特許文献6】特開2004−130344号公報
【特許文献7】特開平11−192502号公報
【特許文献8】特開2002−326589号公報
【特許文献9】特開2002−331317号公報
【特許文献10】特開2008−264850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献7の技術は、製品が熱延鋼板であること、また、圧延ロールに凹凸をつけて形状を付与しているため、板厚傾斜部が存在せず、明瞭な板厚段差が存在するため、自動車外板パネル用途には不向きである。また、特許文献8の技術は、板厚段差部の寸法精度の向上を主眼としたもので、板厚段差があるため、やはり外板パネルには適さない。また、特許文献9の技術は、段階的に板厚が変化する際の段差部断面は円弧状で、急激な板厚変化となっている。また、連続的に厚さを変化させるという記載もあるが、その変化のさせ方についての具体的な記載は一切なく、外板パネルを得るための工夫は見られない。また、研削により板厚変化を付与することも可能としているが、研削ままでは、外板パネルとしての品質要求を満たせない。また、特許文献10の技術は、板厚寸法精度を重視する圧延装置に関するもので、しかも、板厚段差部の断面形状は円弧状であるため、やはり外板パネルには適さない。上記のように、特許文献7〜10の技術は、いずれも外板パネルを想定したものではなく、面品質への配慮がなされていない。
【0012】
本発明は、従来技術が抱える上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、板厚差や板厚傾斜部を有するテーラードブランク材であっても、外部から直接見ることができる自動車外板にも適用可能な自動車外板用冷延鋼板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一般に、自動車外板の面品質は、目で見た感じで判断する目視判定や、手で触ったときの感触で判断する触感判定等の官能検査で評価され、特に、いわゆる「見た目」が重視される場合が多い。そこで、発明者らは、上述した課題を解決するべく、溶接部がなくかつ板厚傾斜部を有するテーラードブランク材を前提とし、目視検査で自動車外板としての面品質を満たす冷延鋼板について鋭意検討を重ねた。その結果、人が主に認識するのは板厚差よりもむしろ角度変化の度合いであり、板厚差や板厚傾斜部があっても、その変化を目視では認識できない、自動車外板としての面品質を満たす範囲があることを見出し、本発明を開発した。
【0014】
上記知見に基づく本発明は、板厚が一定な板厚等厚部と、少なくとも片面側に板厚が変化する板厚傾斜部とを有し、上記板厚等厚部と板厚傾斜部との境界部における板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが、鋼板を自動車外板パネル部品として想定される曲率に湾曲させた時に、前記境界部が視認できなくなる臨界傾斜角θc以下の角度に設定されてなることを特徴とする自動車外板用冷延鋼板である。
【0015】
本発明の上記自動車外板用冷延鋼板は、前記臨界傾斜角θcが、下記(1)式;
θc(°)=0.589×(1/R)0.187(R<8000の場合)
=1.175×(1/R)0.274(8000≦R<20000の場合)
=0.342×(1/R)0.151(R≧20000の場合)
・・・(1)
但し、式中、R(mm)は曲率半径、(1/R)は曲率を示し、Rが∞の場合(平坦とみなせる場合)にはθcは0.06°とする。
を満たすことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の自動車外板用冷延鋼板は、板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが0.20°以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の自動車外板用冷延鋼板は、板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが0.10°以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の自動車外板用冷延鋼板は、板厚傾斜部両端の板厚差が0.2mm以上あることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の自動車外板用冷延鋼板は、鋼板表面に表面処理が施されてなることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記のいずれかに記載の冷延鋼板を用いて成形されてなることを特徴とする自動車外板パネル部品である。
【0021】
本発明の上記自動車外板パネル部品は、板厚傾斜部を曲率半径が8000mm以下の部分に適用したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、素材鋼板内に板厚差や板厚傾斜部があっても、その角度変化によってはその変化を目視による官能検査では認識できないので、自動車外板としての面品質を満たすテーラードブランク材を提供することができる。したがって、本発明の条件を満たす鋼板は、自動車外板用冷延鋼板として好適に用いることができるので、従来、人目に触れない自動車内板や強度部材にしか適用できなかったテーラードブランク材の適用範囲を大幅に拡充することが可能となる。さらに、本発明の鋼板を、自動車外板パネル部品に適用することで、自動車車体の軽量化や高強度化を図ることができるだけでなく、自動車部材の一体成形を可能とし、あるいは、素材歩留りの向上を図ることもできるので、産業上奏する効果は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の自動車外板用冷延鋼板を説明する模式図であり、(a)は鋼板の片面側にのみ板厚が変化するタイプ(タイプA)を、(b)は鋼板の両面側に板厚が変化するタイプ(タイプB)を示す。
【図2】鋼板を湾曲させて目視検査する治具を説明する模式図である。
【図3】鋼板を湾曲させたときの曲率1/Rと、境界部が視認できなくなる臨界傾斜角θcとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の自動車外板用冷延鋼板を説明する模式図であり、図1(a)は、鋼板の長さ方向(または幅方向)の両端側に板厚等厚部を、その中間に、鋼板表面のうちの片面側のみに板厚を変化させた板厚傾斜部を有し、板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角がθ(以降、この角θを「傾斜角」または「板厚傾斜角」ともいう)である鋼板例(タイプA)であり、また、図1(b)は、鋼板の長さ方向(または幅方向)の両端側に、板厚等厚部を、その中間に、両面側に板厚を変化させた板厚傾斜部を有し、それぞれの面の板厚傾斜角がθである本発明の他の鋼板例(タイプB)を示したものである。したがって、図1(b)のタイプBの鋼板は、板厚傾斜角θが同じであっても、単位長さ当たりの板厚変化率(板厚差/板厚傾斜部長さ)は、図1(a)のタイプAの鋼板の2倍となる。なお、本発明の鋼板は、板厚傾斜部の板厚が直線的に変化し、したがって板厚傾斜部の鋼板表面は平面であり、板厚等厚部の鋼板表面と境界部において、共通接線を有することなく不連続的に接続しているものとする。なお、図1(b)では、板厚傾斜角θが表裏面で同じ形態であるが、板厚傾斜角θは表裏面で異なる形態のものであってもよい。
【0025】
発明者らは、まず、上記板厚傾斜角θが何度以下であれば、人間による視覚検査で板厚等厚部と板厚傾斜部との境界部を認識できなくなるかを確認するため、図1(a)に示したタイプAで、板厚傾斜角θが異なる試験片を作製し、平板の状態で目視検査し、人間の視覚検査では板厚傾斜部の存在を視認できなくなる臨界傾斜角θcを調査した。その結果、平板の状態における臨界傾斜角θcは0.06°であることがわかった。
【0026】
続いて、図2に示したような治具を用いて、上記試験片(タイプA)を板厚傾斜がある側を表面にして(つまり、板厚傾斜がない側の面を治具と接触させて)、種々の曲率半径Rで湾曲させてボルトで治具に固定し、上記と同様にして目視検査し、人間の視覚検査では板厚傾斜部の存在を確認できなくなる臨界傾斜角θcを確認した。その結果、臨界傾斜角θcは、表1や図3に示したように、湾曲させる曲率半径Rが小さくなる(曲率1/Rが大きくなる)のに伴って大きくなることがわかった。
【0027】
【表1】

【0028】
自動車車体の外板は、剛性を確保する観点から、平坦な状態で使用されることはなく、幾らかの曲率を付与されているのが普通であり、そのときの曲率半径Rは、8000mm以下であることが多い。したがって、図3から、板厚傾斜部を有する場合でも、板厚傾斜角θが0.10°以下であれば、人間の視覚検査では板厚等厚部と板厚傾斜部の境界部をほとんど認識することができないため、曲率半径Rが8000mm以下の部位であれば、自動車外板用冷延鋼板として十分に使用可能であることがわかる。また、図3から、曲率半径Rが320mmの部位には、板厚傾斜角θが0.20°以下の鋼板であれば、自動車外板用として十分に使用可能であることもわかる。すなわち、板厚傾斜角θは、自動車外板として使用される部位の曲率半径(曲率)によって適宜設定される。なお、自動車外板パネル部品の形状は、デザイン如何で局所的に種々の曲率に変化するが、想定される曲率半径を考慮すると、曲率半径Rは凡そ300〜8000mmの範囲とするのが好ましい。
【0029】
なお、発明者らのさらなる調査の結果、上記表1や図3に示した曲率と臨界傾斜角θcとの関係は、板厚が片面側にのみ変化するタイプAと、両面側に変化するタイプBとでは、ほぼ同じであることもわかった。
【0030】
また、本テーラードブランク材を自動車外板に用いる目的は、用いる素材の板厚を適材適所化することにより、自動車車体の重量を軽減することにある。斯かる効果を享受するためには、本発明の自動車外板用冷延鋼板における板厚傾斜角θは、0.02°以上とするのが好ましく、0.03°以上とするのがより好ましい。
【0031】
同様の趣旨から、本発明の自動車外板用冷延鋼板における板厚傾斜部両端の板厚差は0.2mm以上であるのが好ましい。0.2mm未満では、重量低減効果が小さく、テーラードブランク材を使用するメリットが小さいからである。なお、本発明の鋼板における板厚差の上限には、特に制限はないが、片側のみに板厚が変化しているタイプAの場合で最大1mm程度、両側に板厚が変化しているタイプBの場合で最大2mm程度(両側の板厚差を合わせた合計の板厚差)とするのが好ましい。その理由は、前述した板厚傾斜角θで、タイプAの場合、1mmを超える板厚差(タイプBの場合は2mmを超える板厚差)を得るには、板厚傾斜部の長さが大きくなり過ぎて鋼板寸法が巨大化し、実用範囲を超えてしまうからである。
【0032】
また、本発明の自動車外板用冷延鋼板は、冷延鋼板のままでもよいが、鋼板表面にZnやZn−Al,Zn−Sn等のZn系およびAl系の溶融めっきや電気めっきを施した鋼板や、さらに合金化処理した鋼板、あるいは、化成処理を施した鋼板や、固形潤滑剤等を表面に塗布した鋼板など、各種表面処理を施した鋼板であってもよく、特に制限はない。
【0033】
また、本発明の自動車外板用冷延鋼板に板厚傾斜部を形成する方法についても、特に制限はなく、例えば、圧延法により圧延長さ方向や幅方向に板厚を変化させる方法、プレス加工あるいは鍛造により板厚を変化させる方法、あるいは、研磨や研削、エッチング等により板厚を変化させる方法等があり、いずれの方法を用いてもよい。ただし、研磨や研削等で板厚差を付与したものでは、加工部分と非加工部分とで表面状態が大きく異なり、塗装後でも違いが認められることがあるので、加工面は、さらに研磨したり、軽度のショットブラスト加工を施したりして、表面性状を均一化しておくのが好ましい。特に、鋼板表面を研削加工したものについては、自動車外板としての表面品質を確保する観点から、前記研削加工後、研削痕(研削疵)が消失するよう研磨を施すのが好ましい。
【実施例】
【0034】
板厚が1.0〜1.6mmのSPCDクラスの絞り用冷延鋼板(JIS G3141(2009))から、幅120〜500mm×長さ800〜900mmの鋼板を採取し、その鋼板に研削加工を施して、表2に示した板厚等厚部(厚肉部、薄肉部)と、板厚傾斜部を有する試験片を作製した。なお、表2に示す差厚タイプの「片面」とは、図1(a)のように鋼板表裏面のいずれか片側のみに板厚を変化させた板厚傾斜部を有するタイプAのものをいい、また、「両面」とは図1(b)のように鋼板表裏面の両方の側に板厚を変化させた板厚傾斜部を有するタイプBのものをいう。また、研削加工した鋼板表面には、研削疵を除去し、非研削面と同等の表面状態とするため、先ず、アルミナの布ペーパー#80で研削疵(機械目)を落とし、最終的に、#200の布ペーパーで上記研削疵が消えるまで全面を研磨した。なお、研磨に当っては、まず、傾斜部を覆った状態で平坦部のみ研磨し、その後、境界部が不明瞭にならないよう平坦部を覆って、傾斜部を研磨した。
【0035】
次いで、上記試験片の表面に自動車車体と同等のベース塗装、カラー塗装およびクリア塗装の3層からなる焼付塗装を施した後(カラー塗装は、日本塗料工業の品番:NTK2009−023、および、NTK2009-1190の塗料を使用し、全膜厚は100〜120μmとした)、板厚が変化している側の面を上面として、平坦(曲率半径∞)な状態のまま、または、自動車車体の外板パネル部品を想定し、図2に示した治具を用いて曲率を種々に変化させて湾曲させた(パネルには端部に穴を開けておき、治具にボルトで固定した)ときに、目視によって板厚傾斜部の存在が確認できるか否かを評価し、視認できる場合は×、視認できない場合を○と評価した。
【0036】
【表2】

【0037】
上記評価試験の結果を表2に併記した。これから、本発明の条件に適合する条件で板厚傾斜部を形成した発明例の鋼板は、板厚傾斜角θが0.06°以上であっても、適正な曲率半径で湾曲させて用いることにより、自動車車体の外板材として十分な面品質を有していることがわかる。また、表2には、試験片全てが厚肉部の板厚である場合に対する、板厚傾斜部を設けたときの軽量化率を記載したが、本発明の鋼板を自動車外板パネル部品等に用いることにより、軽量化への寄与が期待できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の技術は、自動車外板パネル部品に限定されるものではなく、例えば、家電機器等の分野にも利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1:湾曲用治具
2:評価試験片
3:固定用ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が一定な板厚等厚部と、少なくとも片面側に板厚が変化する板厚傾斜部とを有し、上記板厚等厚部と板厚傾斜部との境界部における板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが、鋼板を自動車外板パネル部品として想定される曲率に湾曲させた時に、前記境界部が視認できなくなる臨界傾斜角θc以下の角度に設定されてなることを特徴とする自動車外板用冷延鋼板。
【請求項2】
前記臨界傾斜角θcが、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の自動車外板用冷延鋼板。
θc(°)=0.589×(1/R)0.187(R<8000の場合)
=1.175×(1/R)0.274(8000≦R<20000の場合)
=0.342×(1/R)0.151(R≧20000の場合)
・・・(1)
但し、式中、R(mm)は曲率半径、(1/R)は曲率を示し、Rが∞の場合(平坦とみなせる場合)にはθcは0.06°とする。
【請求項3】
板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが0.20°以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車外板用冷延鋼板。
【請求項4】
板厚等厚部の表面と板厚傾斜部の表面とがなす角θが0.10°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車外板用冷延鋼板。
【請求項5】
板厚傾斜部両端の板厚差が0.2mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車外板用冷延鋼板。
【請求項6】
鋼板表面に表面処理が施されてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車外板用冷延鋼板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の冷延鋼板を用いて成形されてなることを特徴とする自動車外板パネル部品。
【請求項8】
板厚傾斜部を曲率半径が8000mm以下の部分に適用したことを特徴とする請求項7に記載の自動車外板パネル部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−176712(P2012−176712A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41531(P2011−41531)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】