説明

自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーの製造法

【課題】安価で取扱いの容易なジイソシアネート化合物を原料としながらも、高い耐久性、特に高荷重時の高い耐久性を達成せしめる自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーの製造法を提供する。
【解決手段】平均官能基数2〜3のポリオールおよび3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有プレポリマーに、水およびグリコールの混合物よりなる発泡剤を撹拌混合し、発泡反応を行うことにより自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーの製造法に関する。さらに詳しくは、自動車サスペンション部の補助スプリングなどとして有効に用いられる自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーを与え得るそれの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なセル構造を有する発泡ポリウレタンエラストマーは制震性、衝撃吸収性にすぐれており、高荷重時の動的特性、耐久性、耐ヘタリ性の観点から自動車サスペンション部の補助スプリングなどとして多く使用されている。特に、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)をベースとした発泡ポリウレタンエラストマーは、屈曲疲労特性にすぐれており、高耐久性が要求される補助スプリング部位に多く使用されている。しかるに、NDIは他のジイソシアネート化合物と比べて原料単価が高く、かつ反応性に富んでいることから取扱いが難しいといった問題があった。
【0003】
自動車用補助スプリングの破損メカニズムは、まず繰り返し屈曲変形により材料自体が発熱し、その際の温度によって材料の物理的特性が低下し、局所的な亀裂が発生することによるものと考えられる。従って、耐久性にすぐれた補助スプリング用材料は、高温環境下においても物理的特性が低下しないという性質が必要不可欠であり、これには強固な架橋構造を有するポリウレタン分子鎖の高次元構造が必要となる。しかるに、従来提案されている発泡ポリウレタンエラストマーは、かかる要求を十分に満足させるものではなかった。
【特許文献1】特許第3,729,505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、安価で取扱いの容易なジイソシアネート化合物を原料としながらも、高い耐久性、特に高荷重時の高い耐久性を達成せしめる自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる本発明の目的は、平均官能基数2〜3のポリオールおよび3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有プレポリマーに、水およびグリコールの混合物よりなる発泡剤を撹拌混合し、発泡反応を行うことにより自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーを製造する方法によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーの製造法によれば、3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート(トリジンジイソシアネート:TODI)といった安価で取扱いが容易なジイソシアネート化合物をベースとした発泡ウレタンエラストマーにおいても、TODIをプレポリマー成分として用いることにより、原料単価の高いNDIをベースとしたものと同等の物性特性を有する自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーを得ることができるといったすぐれた効果を奏する。
【0007】
具体的には、本発明方法で製造された自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーは、一般的なゴム材料の引張試験方法において、100℃の雰囲気下に1時間保管し、同温度雰囲気下で破断時伸び試験を行った破断時伸び率は、常温雰囲気下での破断時伸び率の70%以上を維持しており、高温雰囲気下における物理的特性の低下が小さいといった特性を有する。
【0008】
従って、本発明方法で得られた発泡ポリウレタンエラストマーは、NDI以外の安価なジイソシアネート化合物をポリオールに反応させて得られた発泡ポリウレタンエラストマーであっても、枝分かれ構造を有するポリオールをソフトセグメントとして使用することで従来は適用が困難であるとされていた高耐久性が要求される自動車サスペンション部の補助スプリングなどの自動車用弾性体部品として有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ポリオールとしては、平均官能基数2〜3、数平均分子量Mnが500〜4000、好ましくは1000〜3000の末端活性水素を有する分岐した長鎖グリコールであれば特に限定されず、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、シリコーン系、1,4-ポリブタジエン系、1,2-ポリブタジエン系、ひまし油系等の各種ポリオールおよびこれらの混合物が用いられる。平均官能基数を2〜3に限定したのは、ウレタン化反応では、ポリオールの官能基(OH基)とジイソシアネート化合物の官能基(NCO基)が結合するため、重合反応には平均官能基数が2以上であることが前提であり、平均官能基数が3を超えてしまうと、ウレタンプレポリマーの高粘度化あるいは成形物の柔軟性が失なわれるなどの問題が生ずるためである。ここで、平均官能基数は、水酸基価×ポリオールの数平均分子量Mn/56.11×1000により求められる。また、ポリオールのMnが1000〜3000と規定されるのは、これ以下のMnでは、発泡ポリウレタンエラストマーの柔軟性が損なわれて脆くなり、一方これ以上のMnでは、発泡ポリウレタンエラストマーが低硬度となってしまい、十分な材料強度を得ることができないことによる。さらに、分岐したポリオールを用いることにより架橋点を増加させ、ひいてはソフトセグメントの化学架橋を増加させることで、熱時伸び特性の改良を図ることができる。
【0010】
ポリオールと反応させるジイソシアネートとしては、3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネート(TODI)が、ポリオールのOH当量当りイソシアネート基が1〜5当量、好ましくは1〜4当量となるような割合で用いられる。ジイソシアネート成分が、これよりも少なく用いられると末端イソシアネート基含有プレポリマーが形成されず、一方これより多い割合で用いられると発泡ポリウレタンエラストマーの硬度があがり、緩衝部品としての使用に不向きとなる。
【0011】
ポリオールおよびジイソシアネートは、約90〜130℃で約15分間乃至約1時間程度反応させてプレポリマーを生成させる。
【0012】
発泡剤としては、末端イソシアネート基含有プレポリマー100重量部当り、水0.1〜5.0重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部およびグリコール0.1〜70重量部、好ましくは0.2〜50重量部が用いられる。グリコールとしては、分子量48〜200、好ましくは62〜160の低分子量グリコール0.1〜5.0重量部、好ましくは0.2〜3.0重量部またはこの低分子量グリコールおよび分子量1000〜3000、好ましくは1000〜2000の高分子量グリコール0.5〜70重量部、好ましくは1〜50重量部が用いられる。低分子量グリコールおよび高分子量グリコールを併用した場合には、ハードセグメントの凝集性が高くなり、さらに強固な架橋構造を有する発泡ポリウレタンエラストマーが得られる。
【0013】
低分子量グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが、高分子量グリコールとしては、好ましくはプレポリマー形成に用いられた範疇のもの、さらに好ましくは同種のポリオールが用いられ、具体的にはエチレンアジペートポリエステルポリオール、エチレンブチレンアジペートポリエステルポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが用いられる。高分子量グリコールのMnが1000〜3000と規定されるのは、これ以下のMnでは、柔軟性を必要とするソフトセグメントを形成することができず、一方これ以上のMnでは、発泡剤が高粘度となり、取扱いが難しくなるため好ましくないことによる。
【0014】
また発泡剤とともに、セル構造を決定させる成分としてシリコーン整泡剤などの整泡剤が、一般にプレポリマー100重量部当り、0.1〜3.0重量部、好ましくは0.2〜2.0重量部の割合で用いられることが好ましい。また、ポリウレタン化反応に際しては、アミン化合物等を触媒として反応に関与させることができる。上記各成分以外にも、さらに充填剤、2価金属の酸化物または水酸化物、滑剤等を必要に応じて適宜配合して用いることができる。
【0015】
これらの発泡剤、整泡剤および触媒は、生成プレポリマーに混合され、所定容積の金型を用いて注型成形することによってポリウレタン化反応が進行する。離型後、好ましくは約80〜150℃で約5〜24時間程度二次架橋(アニール)することにより、発泡ポリウレタンエラストマー成形品が得られる。
【実施例】
【0016】
次に、実施例について本発明を説明する。ここに記載された各実施例、比較例、参考例では、発泡ポリウレタンエラストマーが次のような条件下で使用され、成形された。
プレポリマー温度:約70〜80℃
発泡剤温度:約50〜60℃
金型温度:約50〜60℃
離型時間:約15〜20分間
二次架橋:120℃、24時間
成形は、成形密度0.5g/cm3のシート形状および自動車サスペンション用補助スプリング形状の評価用サンプルとして成形され、シート形状への成形は、30×60×150mmに成形されたブロックを二次加硫後に30×60×2mmスライスすることにより行われた。
【0017】
実施例1
数平均分子量Mn 2,000、水酸基価67のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール100重量部を120℃で溶融させた後、予め120℃に熱した反応器に仕込み、撹拌しながらTODI 30重量部を加えて30分間反応させ、ウレタンプレポリマーを得た。また、水150重量部、1,4-ブタンジオール150重量部、整泡剤100重量部、アミン系触媒10重量部を加え、これらを2時間撹拌混合して発泡剤を得た。
【0018】
上記温度条件下で、ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:1.7の重量比率で混合し、撹拌して発泡反応を行い、成形した後、二次加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0019】
実施例2
実施例1において、TODI量を40重量部に変更し、また発泡剤として60℃で溶融させた数平均分子量Mn 2,000、水酸基価56のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール4436重量部をさらに添加して調製されたものが用いられた。
【0020】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:26.0の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0021】
比較例1
実施例1において、エチレンアジペート系ポリエステルポリオールとして、数平均分子量Mn 2,000、水酸基価が56のものが同量用いられた。
【0022】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:2.0の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0023】
比較例2
実施例1において、エチレンアジペート系ポリエステルポリオールとして、数平均分子量Mn 2,000、水酸基価が87のものが同量部用いられた。
【0024】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:1.1の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0025】
比較例3
実施例1において、TODIの代わりにMDI 35重量部が、またアミン系触媒8重量部が用いられた。
【0026】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:2.4の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0027】
参考例
数平均分子量Mn 2,000、水酸基価56のエチレンアジペート系ポリエステルポリオール100重量部を120℃で溶融させた後、予め120℃に熱した反応器に仕込み、撹拌しながらNDI 20重量部を加えて30分間反応させてウレタンプレポリマーを得た。また、水150重量部、1,4-ブタンジオール150重量部、整泡剤100重量部、アミン系触媒2重量部を2時間撹拌混合し、発泡剤を得た。
【0028】
ウレタンプレポリマー:発泡剤を100:1.5の重量比率で混合し、発泡反応および加硫を行い、評価用サンプルを得た。
【0029】
以上の各実施例、比較例および参考例で得られたシート形状の評価用サンプルを用いて、ガラス転移点、硬さ、引張強さ、破断時伸びおよび圧縮永久歪が、また自動車サスペンション用補助スプリング形状の評価用サンプルを用いて、補助スプリング耐久性についての測定が行われた。
硬さ:スプリング式アスカーC型
引張強さ、破断時伸び:JIS K6261準拠(サンプル形状:ダンベル状3号形)
圧縮永久歪:JIS K6262準拠(13mm径、2mm厚シート3枚重ね、25%圧縮、80℃×70時間)
補助スプリング耐久性:10kN×1Hz×10万回圧縮後の亀裂有無で評価(亀裂なしは○)
亀裂が発生したものについては亀裂発生時の圧縮回数で評価
【0030】
得られた結果は、配合比とともに次の表に示される。

実施例 比較例
1 2 1 2 3 参考例
〔組成〕
(ウレタンポリマー)
ポリエステルポリオール
(OH価67、平均官能基数2.388) 100 100 100
〃 (OH価56、平均官能基数1.996) 100 100
〃 (OH価87、平均官能基数3.101) 100
TODI 30 40 30 30
MDI 35
NDI 20
(発泡剤)
ポリエステルポリオール(OH価56) 33.34
H2O 0.81 1.13 0.95 0.54 1.21 0.68
1,4-ブタンジオール 0.81 1.13 0.95 0.54 1.21 0.68
シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコー 0.54 0.75 0.64 0.36 0.80 0.45
ニングシリコーン製品SH193 OIL)
アミン系触媒 0.05 0.08 0.06 0.04 0.06 0.01
(エアープロダクツジャパン製品DABCO)
〔測定項目〕
ガラス転移点(℃) -39 -39 -36 -35 -37 -34
硬さ 75 74 75 76 76 73
引張強さ
常温(MPa) 〔A〕 5.8 5.7 5.4 5.5 5.9 6.2
100℃(MPa) 〔B〕 1.7 1.5 1.2 1.1 1.4 1.7
維持率(〔B〕/〔A〕) 29 26 22 20 24 27
破断時伸び率
常温(%) 〔C〕 480 490 480 320 460 420
100℃(%) 〔D〕 400 400 270 170 380 350
維持率(〔D〕/〔C〕) 83 82 56 53 83 83
圧縮永久歪(%) 21 21 28 18 27 22
補助スプリング耐久性(10万回圧縮) ○ ○ 7000 4000 ○ ○
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明方法により得られた発泡ポリウレタンエラストマー成形物は、物理的架橋性に富んだ高次元構造を有しているため、繰返し圧縮により材料が発熱した環境に対しても強固なゴム弾性を維持しており、したがって高耐久機能が要求される自動車弾性体部品、特に自動車サスペンション部の補助スプリング材料などとして有効に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均官能基数2〜3のポリオールおよび3,3′-ジメチルビフェニル-4,4′-ジイソシアネートを反応させて得られる末端イソシアネート基含有プレポリマーに、水およびグリコールの混合物よりなる発泡剤を撹拌混合し、発泡反応を行うことを特徴とする自動車弾性体部品用発泡ポリウレタンエラストマーの製造法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により製造された発泡ポリウレタンエラストマー製自動車弾性体部品。
【請求項3】
自動車サスペンション部の補助スプリングである請求項2記載の自動車用弾性体部品。

【公開番号】特開2008−56731(P2008−56731A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231974(P2006−231974)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【Fターム(参考)】