説明

自動車用アクティブフードラッチシステム

【課題】歩行者との衝突時に、歩行者を保護する性能を向上させることができ、しかも自動車のデザイン上に制約を与えない自動車用アクティブフードラッチシステムを提供する。
【解決手段】フードラッチアセンブリーのケーブルに連結されたロッキング解除バーと、歩行者衝突感知センサーの信号によりロッキング解除バーのロックを解除するロック解除装置と、ロッキング解除バーの一端部を引っ張って回転させるためのプリング(pulling)手段と、を含んで構成され、フードラッチアセンブリーには、メインラッチに連結された伸縮部材を有し、ロック解除装置が歩行者衝突感知センサーの信号により作動されてケーブルが引っ張られると、フードがポップアップし、伸縮部材が伸縮して衝突エネルギーを吸収することで歩行者の傷害を低減するようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用アクティブフードラッチシステムに関し、更に詳しくは、歩行者保護性能を高めて歩行者に与える障害を低減できるようにした自動車用アクティブフードラッチシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車にはエンジンルームの上端部にエンジンフードを装着して、エンジンルーム内に装着されている各種部品を整備、点検するために随時に開けられるようになっている。そこで、エンジンフードの一側はヒンジ結合により車体に連結され、他側はエンジンフードのロッキング装置であるフードラッチアセンブリーが装着されて使用者の必要に応じて開けることができるようになっている。
【0003】
通常、フードラッチアセンブリーは、平常時や走行中のようにフードが閉じていることが要求される時にはエンジンフードが開くことを防止し、閉まった状態を安全に維持しなければならず、フードの開閉作動のためのロック及びロック解除手段として2次ロッキング構造のあるシステムを有して、フードのインナーパネルに装着されているフードシャフトを把んでロック解除して開けられるようになっている。
【0004】
例えば、フードのロック状態では、フードラッチアセンブリーのメインラッチがフードシャフトをつかんでおり、運転者の操作によりメインラッチが解除されてフードシャフトを放してやると解除状態となるが、それ以外はオープンレバーのセイフティフックによりフードシャフトがロックされてフードを開けることができない。従って、運転者がオープンレバーを定められた方向に作動させてようやくフードを完全に開くことができる。
【0005】
一方、歩行者が車両にぶつかった時には、歩行者の下半身がエンジンフードのアッパーレッグフォーム領域にぶつかり、打撃を受けることが時折発生する。最近、ユーロNCAP(European New Car Assesment Programme)の安全性能総合評価が施行されることになって、車両の歩行者保護性能が区分されて、2012年以降では歩行者保護の等級別点数が大きくなると予想されている。
【0006】
このような歩行者保護性能が強化される基調にあって、アッパーレッグフォーム領域に対して法規制される可能性が高く、歩行者保護性能を高めて歩行者の傷害を少なくする技術が益々必要となってきた。
【0007】
しかし、歩行者保護性能を向上させるためには、ぶつかったときの歩行者への打撃エネルギーを減らすために、エンジンフードの先端部を低くし、初期打撃時にプラスチック部との打撃のためにバンパー及びフードのパーティングを上向きに調整しなければならない、などデザインとの兼ね合いが問題となってくる。そこで、デザイン上の制約なくアッパーレッグフォーム領域に対する歩行者の傷害を少くする設計的対応が望まれている。
【0008】
歩行者の保護を目的にしたエンジンフードでは、例えば、衝撃力作用時においてエンジンフードを通常の閉止位置よりも更にオーバストロークさせてラッチが復帰する反力を小さくし、衝突エネルギを緩和すると共にエンジンフードを低剛性にして衝撃力を緩和するで、衝突時における安全性が向上でき、簡便に実施できるエンジンフードロック廻りの構造〔特許文献1〕があり、その他、ヒンジ構造〔特許文献2〕、エンジンフードを支持する支持体〔特許文献3〕からの改善などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−037129号公報
【特許文献2】特開2008−1154号公報
【特許文献3】特開2009−202871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の問題点を解決するためになされた本発明の目的は、歩行者との衝突時に、歩行者を保護する性能を向上させることができ、しかも自動車のデザイン上に制約を与えない自動車用アクティブフードラッチシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記問題点を解決すべく本発明は自動車用アクティブフードラッチシステムであり、フードラッチアセンブリーのケーブルに連結されたロッキング解除バーと、歩行者衝突感知センサーの信号によりロッキング解除バーのロックを解除するロック解除装置と、ロッキング解除バーの一端部を引っ張って回転させるためのプリング(pulling)手段と、を含んで構成され、フードラッチアセンブリーには、メインラッチに連結された伸縮部材を有し、ロック解除装置が歩行者衝突感知センサーの信号により作動されてケーブルが引っ張られると、フードがポップアップし、伸縮部材が伸縮して衝突エネルギーを吸収することで歩行者の傷害を低減するようにしている。
【0012】
以下、好ましい実施形態では、ロック解除装置は、ロッキング解除バーの回転動作を抑える遮断バーと、ロッキング解除バーの回転動作が可能となるように遮断バーを移動させるための駆動モータとからなっている。
【0013】
そして、プリング手段は、伸張した状態でロッキング解除バーの一端部に結合されるスプリングであることができる。
【0014】
ケーブルには、ロッキング解除バーの回転により押されてケーブルを引っ張るエンド部が設置されている。
【0015】
伸縮部材は、伸張された状態でメインラッチに連結され、ケーブルが引っ張られると、弾性復元力によりメインラッチを回転させてフードシャフトのロックを解除させるようにしている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の自動車用アクティブフードラッチシステムによると、歩行者との衝突時、フードラッチアセンブリーのスプリング引張力によるクッション効果が寄与して歩行者の傷害を少くすることができ、デザイン上にも制約が生じないのでレイアウト上有利である。
【0017】
更に、本発明によると、歩行者保護性能を高めることが可能であるため、今後予想される歩行者保護法規にも充分対応できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態による自動車用アクティブフードラッチシステムを図示した概略的な構成図である。
【図2】本発明による自動車用アクティブフードラッチシステムの作動過程を図示した図面である。
【図3】本発明による自動車用アクティブフードラッチシステムの作動過程を図示した図面である。
【図4】本発明によるフードラッチアセンブリーのダンピング作用を表した概略的な図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を特定の実施形態を挙げて説明するが、この実施形態は、あくまで本発明の説明のためのものであって、本発明を限定するものではない。説明において公知の技術と同一な部分については重複する説明を省略することもある。
【0020】
本発明による自動車用アクティブフードラッチシステムは、歩行者との衝突時にフードラッチアセンブリーのケーブル55が引っ張られると同時に、フードシャフト51の1次ロックが解除(フードポップアップ)され、フードラッチアセンブリーのメインラッチ52に連結された伸縮部材54が歩行者との衝突エネルギーを吸収して歩行者の傷害を低減できるように構成されている。
【0021】
このために、本発明による一実施形態には、図1に示すように、フードラッチアセンブリーのケーブル55に連結したロッキング解除バー10と、このロッキング解除バー10の一端部を引っ張り回転させるためのプリング手段20と、ロッキング解除バー10のロック及びロック解除のためのロック解除装置が構成されている。
【0022】
ロッキング解除バー10は、プリング手段20により引っ張られると、回転動作が可能な構造であり、車体若しくは車体内部に設置される。
【0023】
ロック解除装置は、ロッキング解除バー10の回転動作を遮断する遮断バー30、及びロッキング解除バー10の回転動作が可能となるように遮断バー30を後進移動させるための駆動モータ40と、からなっている。
【0024】
フードラッチアセンブリーには、ケーブル55に連結されたサブラッチ53と、このサブラッチ53に引っかけ固定されたメインラッチ52、及びこのメインラッチ52の片側に伸張した状態で連結結合され、かつメインラッチ52の回転時に連動して伸縮作動する伸縮部材54を有して構成されている。
【0025】
すなわち、伸縮部材54は、サブラッチ53によるメインラッチ52のロックが解除されたとき、メインラッチ52を一方向に回転させる役割をし、例えば、弾性復元力のあるスプリングである。
【0026】
このようなフードラッチアセンブリーは、ケーブル55が引っ張られるとサブラッチ53が回転してメインラッチ52のロックを解除し、メインラッチ52は伸縮部材54の弾性復元力により回転してフードシャフト51(フードパネルの背面に設置されたストライカーのシャフト)の1次ロックを解除し、フードをポップアップさせる。
【0027】
フードラッチアセンブリーには、フードシャフト51をつかみ1次ロックするメインラッチ52と、このメインラッチ52により1次ロックが解除された場合にフードシャフト51を引っかけ状態でつかみ1次ロックするセーフティフック57とを有して構成されている。
【0028】
ケーブル55には、ロッキング解除バー10の他端部(遮断バー30とは反対の側)に接してエンド部56が連結設置される。エンド部56は、ロッキング解除バー10の回転により押されながら移動してケーブル55を一方向に引っ張る役割をする。
【0029】
さらに、プリング手段20は、スプリングで形成されて、伸張した状態でロッキング解除バー10の一端部に連結設置する。そして、ロック解除装置のロック解除と同時に、ロッキング解除バー10の一端部を引っ張ってロッキング解除バー10を回転させる。
【0030】
例えば、プリング手段20は、一定に伸張した状態で一端部がロッキング解除バー10の一端に結合され、他端部は車体若しくはマウンティングブラケット(図示してない)に固定された部分に結合して装備される。一方、ロッキング解除バー10でみると、一端部はプリング手段20が結合され、他端部はケーブル55のエンド部56が連動可能なように連結される。
【0031】
図1のように、ロッキング解除バー10が遮断バー30によりケーブル55に対して直角に位置しているときに、プリング手段20は伸張した状態にあって弾性復元力を有しており、図3の下図面のように遮断バー30による抑えがなくなると、プリング手段20の弾性復元力でロッキングバー10の一端部を引っ張り、ロッキング解除バー10は一地点(ヒンジ点)を中心に回転する。
【0032】
ロック解除装置の駆動モータ40は、車両全般を制御する電子制御ユニット(ECU)1により作動信号が伝達されると遮断バー30を移動させるように作動する。
【0033】
遮断バー30は、ロッキング解除バー10の回転動作を抑える機能を有しており、そのため駆動モータ40の回転軸に連結された状態でロッキング解除バー10の一端部まで延長するように設置され、駆動モータ40の作動によりロッキング解除バー10の下に来るようにする。
【0034】
例えば、歩行者と衝突した時、車両に設置された歩行者衝突感知センサー2が衝突を感知し、電子制御ユニット1に歩行者衝突信号を送ると、この信号を受信した電子制御ユニット1は駆動モータ40を駆動させる。そうすると、遮断バー30は、駆動モータ40の作動により下がり、ロッキング解除バー10の回転動作を抑えなくなる。
【0035】
駆動モータ40により遮断バー30を上下移動させるには、駆動モータ40の回転軸と遮断バー30の外周面それぞれを螺旋形に形成して、互いに外周面が接して噛み合う形態で達せられる。これによって駆動モータ40の作動により回転軸が回転すると、この回転軸に噛み合った遮断バー30が回転して移動する。遮断バー30が下がれば、ロッキング解除バー10から離れて、ロッキング解除バー10は、遮断バー30の抑えがなくなり回転可能となる。
【0036】
以下、本発明の一実施形態による自動車用アクティブフードラッチシステムの作動状態を説明する。
図2に示すように、自動車が歩行者と衝突すると、歩行者衝突感知センサー2がこれを感知し、電子制御ユニット1に歩行者衝突信号を送る。
【0037】
歩行者衝突信号を受信した電子制御ユニット1は、駆動モータ40に作動命令信号を送り、これにより作動した駆動モータ40は、遮断バー30を移動させてロッキング解除バー10のロックを解除する。
【0038】
遮断バー30による抑えが解除されたロッキング解除バー10は、プリング手段20の弾性復元力により一端部が引っ張られ、中央部にある一地点を中心に回転動作をして、ロッキング解除バー10の他端部が接するエンド部56を押している。
【0039】
すると、ケーブル55が引っ張られてサブラッチ53を一方向、例えば図面の時計方向に回転させてメインラッチ52の引っかけを解除すると同時に、メインラッチ52は伸縮部材54の弾性復元力により図面の時計方向に回転してフードシャフト51の1次ロックを解除する。
【0040】
これによってエンジンフードは、ポップアップ状態となり、衝突の衝撃力によって揺れを生じ、フードシャフト51がセーフティフック57とメインラッチ52との間を図4のように往復する。
同時に、メインラッチ52の回転動作によって伸縮部材54の伸縮が可能となってダンピング効果を得て、歩行者に伝達される衝撃を少くする。すなわち、エンジンフードの揺れによってフードシャフト51が下がるとメインラッチ52を押さえつけて伸縮部材54を伸ばし、フードシャフト51が上がるとメインラッチ52の押さえつけが除去されて伸縮部材54が圧縮される、というようにクッションの効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明による自動車用アクティブフードラッチシステムによると、歩行者保護性能(例えば、アッパーレッグフォーム領域とチャイルドヘッドフォーム領域での性能)が向上し、従って歩行者の傷害が減少する効果を得ることができる。
【0042】
更に、本発明によると、歩行者保護性能を向上させることが可能であるため、今後施行される歩行者保護法規にも対応が可能となる。
【0043】
また、本発明によると、フード前面部を低くすること、及びバンパー/フードのパーティングの上向きが不必要となり、デザイン上にも自由度が増してレイアウト上も有利になる。
【0044】
更に、本発明による自動車用アクティブフードラッチシステムは、車両に基本的に設置されるフードラッチアセンブリーを使用するため別途のアクチュエータが不必要であり、ロック解除装置以外のメカニズムが同一であるため安定性が向上し、作動信頼度が上昇する効果を得ることができる。
【0045】
以上、本発明を、好ましい一実施形態で説明したが、本発明はこのような実施形態に限定されず、当該発明が属する技術分野で通常の知識を有する者が特許請求範囲内で実施することができる多様な実施形態の全てを包含するものである。
【符号の説明】
【0046】
1;電子制御ユニット
2;歩行者衝突感知センサー
10;ロッキング解除バー
20;プリング手段
30;遮断バー
40;駆動モータ
51;フードシャフト
52;メインラッチ
53;サブラッチ
54;伸縮部材
55;ケーブル
56;エンド部
57;セーフティフック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードラッチアセンブリーのケーブルに連結されたロッキング解除バーと、
歩行者衝突感知センサーの信号により前記ロッキング解除バーのロックを解除するロック解除装置と、
前記ロッキング解除バーの一端部を引っ張って回転させるためのプリング(pulling)手段と、を含んで構成され、
前記フードラッチアセンブリーには、メインラッチに連結された伸縮部材を有し、
前記ロック解除装置が歩行者衝突感知センサーの信号により作動されて前記ケーブルが引っ張られると、フードがポップアップし、前記伸縮部材が伸縮して衝突エネルギーを吸収することで歩行者の傷害を低減するようにしたことを特徴とする自動車用アクティブフードラッチシステム。
【請求項2】
前記ロック解除装置は、前記ロッキング解除バーの回転動作を抑える遮断バーと、前記ロッキング解除バーの回転動作が可能となるように遮断バーを移動させるための駆動モータと、からなることを特徴とする請求項1記載の自動車用アクティブフードラッチシステム。
【請求項3】
前記プリング手段は、伸張した状態でロッキング解除バーの一端部に結合されるスプリングであることを特徴とする請求項1記載の自動車用アクティブフードラッチシステム。
【請求項4】
前記ケーブルには、前記ロッキング解除バーの回転により押されてケーブルを引っ張るエンド部が設置されていることを特徴とする請求項1記載の自動車用アクティブフードラッチシステム。
【請求項5】
前記伸縮部材は、伸張された状態でメインラッチに連結され、前記ケーブルが引っ張られると、弾性復元力により前記メインラッチを回転させてフードシャフトのロックを解除させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の自動車用アクティブフードラッチシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−71813(P2012−71813A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259964(P2010−259964)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【Fターム(参考)】