説明

自動車用ガラスラン

【課題】ドアガラスの変位や振動を防止して、ドアガラスを確実に保持することができるとともに、剥離音の発生を防止することができる自動車用ガラスランを提供する。
【解決手段】ガラスラン10の車外側側壁20と車内側側壁30には、それぞれガラスラン本体11の断面略U字状の内側に向かって延出する車外側シール部50と車内側シール部60を設け、少なくとも車内側シール部は、一端が車内側側壁30の先端から延出される車内側摺動リップ61と、車内側摺動リップの他端から屈曲して車内側側壁の側面まで延設される車内側延設リップ63とから形成される。車内側摺動リップ61、車内側延設リップ63と車内側側壁とにより中空状の車内側中空部67を形成し、車内側摺動リップ61又は車内側延設リップ63が当接する車内側側壁30の内面に凹凸面34を形成した自動車用ガラスランである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車ドアのドアフレームの内周に取付けられ、ドアガラスの昇降を案内するとともに、ドアフレームとドアガラスの間をシールする自動車用ガラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5に示すように、ドア1のドアフレーム2の内周には、ドアガラス5の昇降を案内するガラスラン110が取付けられている。その従来の断面構造を図6に示す。図6は、図5のA−A線に沿った断面図である。
なお、図5は、フロントドアを示しているが、リヤドアも同様の構成である。
【0003】
従来、ガラスラン110は、図5に示すようにドアフレーム2のチャンネル3内に取付けられて、ドアガラス5の昇降を案内するとともにドアガラス5とドアフレーム2との間をシールしている。ガラスラン110は、押出成形により成形された直線状の押出成形部分をドアフレーム2のコーナー部の形状に合わせて形成する型成形部分で接続している。なお、ドア1と車体との間のシールは、ドアパネルとドアフレーム2の外周に取付けられたドアウエザストリップ(図示せず)および/または車体の開口部のフランジに取付けられたオープニングトリムウエザストリップ(図示せず)によりなされている。
【0004】
ガラスラン110は、図6に示すように、車外側側壁120と、車内側側壁130と、底壁140からなる断面略U字状のガラスラン本体を備えている。車外側側壁120の先端付近から車外側シールリップ150が上記断面略U字状のガラスラン本体の内側に向けて延出するように設けられている。また、車内側側壁130にも、その先端付近から車内側シールリップ160が断面略U字状のガラスラン本体の内側に向けて延出するように設けられている。車外側側壁120、車内側側壁130と底壁140は、ドアフレーム2のチャンネル3内に挿入され、それぞれの外面がチャンネル3の内面に当接され、ガラスラン110がドアフレーム2の内周に保持、装着されている。
なお、車外側シールリップ150、車内側シールリップ160の表面及び底壁140の内面にはウレタン塗料等の低摺動部材が施されている。
【0005】
ドアガラス5は、その端部がこのガラスラン110の断面略U字状のガラスラン本体の内側を摺動するとともに、車外側シールリップ150と車内側シールリップ160によってその端部の両側面がシールされて保持されている(例えば、特許文献1参照。)。また、走行中にドアガラス5が振動しても、車外側シールリップ150と車内側シールリップ160がドアガラス5から離隔しないように、両方の車外側シールリップ150、車内側シールリップ160の長さを設定したものもある(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
しかしながら、換気等のため、ドアガラス5の昇降をドアフレーム2の途中で止める場合がある。このとき、ドアガラス5は、ドアフレーム2の上辺で保持されておらず、ドアガラス5が、両側端のガラスラン110のみで保持されているため、横方向(車両の幅方向)に振動することがある。また、ドアガラス5全閉時においても、ドアガラス5は自動車が高速走行する場合には車外側に吸い出されて車外方向に変位したり、悪路走行時等の車体の振動によりドアガラス5が振動する場合がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
このとき、ドアガラス5の振動により押されて、車内側シールリップ160と車外側シールリップ150が、それぞれ車外側側壁120と車内側側壁130に当接したり、離れたりして異音が発生する。また、車内側シールリップ160と車外側シールリップ150は、リップ形状であるためドアガラス5の振動に対してその振動を吸収する力が弱く、断面略U字形のガラスラン本体の内部でドアガラス5を充分強く保持することができなかった。
【0008】
このため、車内側シールリップ160と車外側シールリップ150を車内側側壁130と車外側側壁120に対してそれぞれ中空状に形成して、中空状のシールリップでドアガラス5を保持することも考えられている(例えば、特許文献3、4参照。)。
しかしながら、中空状のシール部でシールする場合は、リップ状のシールリップと比べて、ドアガラス5に対する摺動抵抗が大きく、ドアガラス5の昇降力が大きくなるとともに、昇降時に異音が生じる場合があった。
そこで、中空状のシール部の一部を屈曲しやすく形成することも試みられているが、ドアガラスがガラスラン本体に挿入されたときに、屈曲したシール部がガラスラン本体の側壁に密着して、ドアガラスが外れるときに、密着したシール部が側壁から離れるときに剥離音が生じる場合があった。
【特許文献1】特開2000−25462号公報
【特許文献2】特開2002−19473号公報
【特許文献3】実開昭54−81522号公報
【特許文献4】実開昭51−5123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、ドアガラスの変位や振動を防止して、ドアガラスを確実に保持することができるとともに、剥離音の発生を防止することができる自動車用ガラスランを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1の本発明は、自動車ドアのドアフレームの内周に取付けられ、ドアガラスの昇降を案内し、車外側側壁と、車内側側壁と、底壁とからなる断面略U字状のガラスラン本体を備えた自動車用ガラスランにおいて、
車外側側壁と車内側側壁には、それぞれガラスラン本体の断面略U字状の内側に向かって延出する車外側シール部と車内側シール部を設け、車外側シール部と車内側シール部によりガラスラン本体の内側に挿入されているドアガラスの両側端部の車外側面および車内側面をシールし、
少なくとも車内側シール部は、一端が車内側側壁の先端から延出される車内側摺動リップと、車内側摺動リップの他端から屈曲して車内側側壁の側面まで延設される車内側延設リップとから形成され、車内側摺動リップ、車内側延設リップと車内側側壁とにより中空状の車内側中空部を形成し、車内側摺動リップ又は車内側延設リップが当接する車内側側壁の内面に凹凸面を形成した自動車用ガラスランである。
【0011】
請求項1の本発明では、少なくとも車内側シール部は、一端が車内側側壁の先端から延出される車内側摺動リップと、車内側摺動リップの他端から屈曲して車内側側壁の側面まで延設される車内側延設リップから形成されている。
このため、ドアガラスが車内側シール部に当接したときに、車内側摺動リップの先端がドアガラスに当接して、その車内側摺動リップの先端を車内側延設リップが支えることができ、車内側摺動リップの先端でドアガラスを確実に保持することができる。したがって、自動車の振動等で、ドアガラスが振動しても確実にシールすることができる。また、車内側摺動リップは、車内側延設リップが支えるため、車内側摺動リップが経年変化により変形することを防止できる。
【0012】
車内側摺動リップ、車内側延設リップと車内側側壁とにより中空状の車内側中空部を形成した。このため、中空状に形成された車内側シール部により、ドアガラスを車外方向に押すことができ、ドアガラスとドアフレームとの段差を小さくすることができる。また、車外側からの美観を向上させることができる。
【0013】
車内側摺動リップ又は車内側延設リップが当接する車内側側壁の内面に凹凸面を形成したため、車内側摺動リップ又は車内側延設リップが車内側側壁の内面に圧着されても、その接触面積が小さく、密着することがない。そのため、ドアガラスが所定位置に戻り、上記リップが凹凸面から離れても、剥離音(異音)が発生することがない。
【0014】
請求項2の本発明は、車内側延設リップは、車内側摺動リップの肉厚よりも薄く形成し、車内側中空部の内部に向けて凸に湾曲又は屈曲した形状の自動車用ガラスランである。
【0015】
請求項2の本発明では、車内側延設リップは、車内側摺動リップの肉厚よりも薄く形成し、車内側延設リップを車内側中空部の内部に向けて凸に湾曲又は屈曲させたため、ドアガラスが車内側シール部を押したときに、凸に湾曲又は屈曲した部分で車内側延設リップが容易に屈折して、車内側シール部が変形しやすく、車内側に車内側摺動リップが撓みやすくなり、ドアガラスの摺動抵抗を減らすことができる。
【0016】
請求項3の本発明は、車内側側壁の内面に凹凸面は、断面が略三角形の凸条を有する自動車用ガラスランである。
【0017】
請求項3の本発明では、車内側側壁の内面に凹凸面は、断面が略三角形の凸条であるため、車内側摺動リップ又は車内側延設リップが車内側側壁の内面に圧着されても、断面が略三角形の凸条の頂点に車内側摺動リップ又は車内側延設リップが接触するので、線接触的に当接することができ、その接触面積をきわめて小さくすることができる。このため、上記のリップが車内側側壁の内面に貼り付くことがなく、また、リップが貼り付かないので、リップが内面から離れるときに、剥離音が発生することがない。
【0018】
請求項4の本発明は、車内側摺動リップ及び車外側摺動リップの表面並びに底壁の内面に低摺動部材が設けられている自動車用ガラスランである。
【0019】
請求項4の本発明では、車内側摺動リップ及び車外側摺動リップの表面並びに底壁の内面に低摺動部材が設けられているため、車内側摺動リップ及び車外側摺動リップの表面は、ドアガラスと当接する部分の摺動抵抗を減少させることができ、ドアガラスの昇降をスムースにすることができ、昇降時にドアガラスと擦れて異音や振動が発生することはない。また、底壁の内面も同様にドアガラスの側端との摺動抵抗を減少させることができる。
【0020】
請求項5の本発明は、ガラスラン本体、車内側シール部及び車外側シール部は、熱可塑性エラストマーで形成され、車内側摺動リップ及び車外側摺動リップの表面並びに底壁の内面の低摺動部材は、ガラスラン本体の熱可塑性エラストマーの硬度よりも硬度が高い熱可塑性エラストマーで形成された自動車用ガラスランである。
【0021】
請求項5の本発明では、ガラスラン本体、車内側シール部及び車外側シール部は、熱可塑性エラストマーで形成されているため、加硫成形する必要がなく、安価に製造することができ、リサイクルも容易である。また、合成ゴムと比べて軽く形成することができるため、車両の軽量化に貢献することができる。
車内側シール部及び車外側シール部の表面並びに底壁の内面の低摺動部材は、ともに熱可塑性エラストマーで形成されているため、ガラスラン本体と低摺動部材は、同種類の材料を使用することができ、押出成形により、ガラスラン本体と低摺動部材を同時に成形することができ、生産の効率がよい。また、同時押出成形によりガラスラン本体と低摺動部材を強固に接着することができる。
【0022】
ガラスラン本体の熱可塑性エラストマーの硬度よりも車内側シール部、車外側シール部の表面及び底壁の内面の低摺動部材の熱可塑性エラストマーの硬度が高いため、低摺動部材の熱可塑性エラストマーはドアガラスと摺動しやすく、ドアガラスの昇降が容易である。また、同種類の熱可塑性エラストマーの硬度を異ならせることのみで、成形することができるため、成形が容易である。
【0023】
請求項6の本発明は、ガラスラン本体、車内側シール部及び車外側シール部は、合成ゴムで形成され、車内側摺動リップ及び車外側摺動リップの表面及び底壁の内面の低摺動部材は、低摺動性の塗膜あるいは、植毛された短繊維で形成された自動車用ガラスランである。
【0024】
請求項6の本発明では、ガラスラン本体、車内側シール部及び車外側シール部は、合成ゴムで形成されているため、弾力性に富み、ドアガラスの振動を容易に吸収することができる。また、長時間使用しても変形することが少なく、長時間ドアガラスを確実にシールすることができる。
車内側シール部、車外側シール部の表面及び底壁の内面の低摺動部材は、低摺動塗膜あるいは、植毛された短繊維で形成されたため、ウレタン塗料等の低摺動塗膜の場合は、塗布が容易であり、ガラスラン本体の合成ゴムとの密着性もよい。低摺動部材が植毛された短繊維で形成された場合は、表面の触感もよく、また、ドアガラス表面に付着した埃や砂粒を植毛された短繊維が乗り越えるため、スムースな昇降をすることができる。
【0025】
請求項7の本発明は、車外側シール部は、シールリップ又は中空シール部で形成された自動車用ガラスランである。
【0026】
請求項7の本発明では、車外側シール部は、シールリップ又は中空シール部で形成されたため、シールリップで形成された場合は、柔軟にドアガラスに当接してシールし、ドアガラスの昇降をスムースにすることができ、中空シール部で形成された場合は、ドアガラスを確実に保持して、シールすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、車内側摺動リップ、車内側延設リップと車内側側壁とにより中空状の車内側中空部を形成したため、中空状に形成された車内側シール部により、ドアガラスを車外方向に押すことができ、ドアガラスとドアフレームとの段差を小さくすることができるため、車外側からの美観を向上させることができる。
車内側摺動リップ又は車内側延設リップが当接する車内側側壁の内面に凹凸面を形成したため、車内側摺動リップ又は車内側延設リップが車内側側壁の内面に圧着されても、内側側壁の内面に凹凸面と車内側摺動リップ又は車内側延設リップとの接触面積が小さく、密着することがなく、また、剥離音が発生することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の実施の形態を図1〜図5に基づき説明する。図1〜図4は、それぞれ第1〜第4の実施の形態の形態であるガラスラン10の断面図である。図5は自動車のフロントドアの側面図である。
図5に示すように自動車のドア1の上部にはドアフレーム2が設けられ、ドアガラス5が昇降自在に取付けられる。すなわち、ドアフレーム2の内周には、チャンネル3が設けられ、チャンネル3にはガラスラン10が取付けられ、ドアガラス5の昇降を案内するとともに、ドアガラス5とドアフレーム2との間をシールしている。
【0029】
まず、図1に基づき、第1の実施の形態について説明する。
第1の実施の形態のガラスラン10は、プレスタイプのドア1に装着されるものである。ガラスラン10は、全体として押出成形で形成された略直線状の押出成形部分と、型成形で形成されて押出成形部分を接続する型成形部分からなる。押出成形部分は、ドアフレーム2の上辺に取付けられる部分と、ドアフレーム2のリヤ側縦辺に取付けられる部分と、ドアフレーム2のフロント側縦辺に取付けられる部分とからなる。型成形部分はこれらの押出成形部分をドアフレーム2に対応した形状となるように接続しており、ドアフレーム2のコーナー部に装着される部分となる。
【0030】
ドアフレーム2の縦辺に取付けられる押出成形部の断面形状を図1に示す。図1は、図5のA−A線に沿った断面図である。図1は、ドアガラス5がガラスラン本体11の内部中央付近に位置した状態を示す。
車外側側壁20と、車内側側壁30と、底壁40とからなるガラスラン本体11は、断面略U字状に形成されている。車外側側壁20の先端から車外側シール部50がガラスラン本体11の断面略U字状の内側に向けて延設されており、また、車外側カバーリップ21が車外側側壁20の先端で車外方向に延設されている。
【0031】
ガラスラン10をドアフレーム2のチャンネル3に取付けると、車外側側壁20の外面にチャンネル3の車外側側壁が当接する。車外側カバーリップ21と車外側側壁20により、チャンネル3の車外側側壁を保持して、チャンネル3の折り返し部分に車外側保持リップ22が当接して、車外側側壁20の抜け防止を図り、チャンネル3の内面に当接することと合わせてガラスラン10とチャンネル3の間をシールする。
【0032】
車内側側壁30の外面は、車内側カバーリップ31と車内側保持リップ32が設けられている。車内側カバーリップ31と車内側保持リップ32により、チャンネル3の車内側側壁30を保持して、車内側側壁30を取付けるとともに、ガラスラン10とチャンネル3の間をシールする。
そして、ガラスラン10は、チャンネル3に取付けられると車外側側壁20、車内側側壁30、底壁40が断面略U字形となり、その外面がチャンネル3の内面に接して、安定的に保持される。
【0033】
車内側シール部60は、車内側摺動リップ61と車内側延設リップ63から構成され、車内側摺動リップ61は、車内側側壁30の先端からガラスラン本体11の断面略U字状の内部方向に延設されている。なお、車内側摺動リップ61の車内側側壁30との内面付け根部分に、薄肉部を設けてもよい。薄肉部を設けると車内側摺動リップ61が撓みやすくなる。車内側摺動リップ61の表面には、連続して後述する低摺動部材が設けられ、車内側摺動リップ61の低摺動面65が形成されている。この低摺動部材が設けられているので、ドアガラス5の昇降はよりスムースになる。
図1の実施の形態では、後述するように、車内側シール部60の低摺動面65は、ガラスラン本体11を構成する材料よりも硬質の材料が使用される。
【0034】
車内側摺動リップ61の先端から、車内側延設リップ63が車内側側壁30方向に屈曲して形成され、その屈曲部分は、車内側シール先端部62となる。車内側シール先端部62は、内側が凹み、薄肉となっており、ドアガラス5の摺動と振動につれて屈曲しやすくなっている。さらに、車内側シール先端部62の屈曲により、車内側シール部60の車内側摺動リップ61の車内側シール先端部62が、ドアガラス5に線接触的に当接することができ、ドアガラス5の昇降をスムースに行うことができる。
【0035】
ガラスラン本体11の内部にドアガラス5の端部が存在しているときに、ドアガラス5の車内側の側面に車内側シール部60の車内側シール先端部62が当接することができる。また、車外側シール部50を過度に押すことがない長さに設定されている。これによって、ドアガラス5とガラスラン本体11とを確実にシールすることができ、ドアガラス5が存在していない状態では車外側シール部50と密着することを防止できる。
【0036】
車内側延設リップ63は、全体として弓形に湾曲又は中央で屈曲して形成され、車内側中空部67に向かって凸となるように形成される。車内側延設リップ63は、第1の実施の形態では、底壁40に近接した車内側側壁30の下部付近に、車内側側壁30と一体に連続している。これにより、車内側シール部60の車内側摺動リップ61と車内側延設リップ63及び車内側側壁30とで中空状の車内側中空部67を形成する。この車内側中空部67が弾力的に変形して、ドアガラス5をシールすることができるとともに、所定の保持力を確保することができる。ドアガラス5が車内側に寄った場合は、車内側延設リップ63の部分が撓んだり、圧縮されたりしてドアガラス5の変位や振動を吸収する。
【0037】
上記のように車内側延設リップ63は屈曲して、ガラスラン10が更に車内側に変位すると、屈曲した車内側延設リップ63は車内側側壁30の内面に当接する。
このとき、車内側側壁30の内面には、凹凸面が形成されている。この凹凸面は、例えば長手方向に連続する断面が三角形の細かい凸条である車内側側壁内面条溝34を形成することができる。車内側側壁30の内面に車内側側壁内面条溝34を形成すると、車内側延設リップ63との接触面積が小さく、密着することがなく、ドアガラス5がガラスラン本体11から離れても、剥離音が発生することがない。この車内側側壁内面条溝34の溝の深さは0.3mm程度であり、溝の間隔は0.6mm程度とすることが好ましい。
【0038】
また、車内側側壁30の内面の車内側側壁内面条溝34の断面が略三角形の凸条にした場合は、ドアガラス5がガラスラン本体11内に挿入されて、車内側延設リップ63が車内側側壁30の内面に圧着されても、断面が略三角形の凸条の頂点に車内側延設リップ63が接触するので、線接触的に当接することができ、その接触面積をきわめて小さくすることができ、また、剥離音が発生することもない。
なお車内側延設リップ63の肉厚が薄く、車内側摺動リップ61が強く車内側側壁30に圧接されると、車内側摺動リップ61も車内側側壁30の内面に圧接する場合もあり、このため車内側側壁30の車内側側壁内面条溝34を車内側延設リップ63が当接する部分と、更に車内側摺動リップ61が当接する部分にも設けることができる。
【0039】
車内側摺動リップ61の肉厚は、車内側側壁30との付け根付近から先端にかけて徐々に減少して、ドアガラス5に対して撓みやすくなっている。車内側延設リップ63は、車内側摺動リップ61の先端部分より薄肉に形成する。このため、ドアガラス5が車内側シール部60を押したときに、車内側延設リップ63が車内側中空部67の内側方向に撓んで、屈曲して、車内側摺動リップ61が車内側側壁30方向に撓みやすくなり、ドアガラス5の摺動抵抗を減らすことができる。車内側延設リップ63の肉厚は、ドアガラス5が挿入されたときに撓みやすくできる厚さで形成されるが、例えば、0.8mm以下とすると充分な撓み性を有することができる。ちなみに、車内側摺動リップ61の肉厚は、厚い部分で約1.3mmである。
【0040】
車内側摺動リップ61は、後述する車外側摺動リップ51よりも、断面形状が幅方向に長く、厚肉に形成されているため、車内側シール部60がドアガラス5をガラスラン本体11内で車外方向に押すことができる。このため、ドアガラス5とドアフレーム2との車外側面の段差を小さくすることができ、空気抵抗を減少させ異音の防止ができるとともに、ドア外面の美観を向上させることができる。
【0041】
車外側シール部50は、車外側摺動リップ51から構成され、車外側摺動リップ51は、車外側側壁20の先端からガラスラン本体11の断面略U字状の内部方向に延設されている。車外側摺動リップ51の表面には、凹凸状の車外側摺動リップ突条53が形成されている。この車外側摺動リップ突条53は、ガラスラン本体11を構成する材料よりも硬質の材料を使用する。
なお、本実施の形態では、車外側シール部50をリップ状に形成したが、第2の実施の形態で説明するように、中空状に形成することもできる。
【0042】
底壁40の内面は、低摺動部材から構成される底壁低摺動面42が形成されている。ドアガラス5が昇降するときにその先端が底壁低摺動面42と接触してスムースに昇降することができ、異音が発生することがない。この底壁低摺動面42には長手方向に複数の底壁低摺動面条溝43が設けられている。底壁低摺動面条溝43により、底壁低摺動面42に埃や塵が付着しても、排出することができる。
車外側側壁20及び車内側側壁30と底壁40との連結部分には、それぞれ底壁側端溝部41,41が設けられている。この底壁側端溝部41、41により、車外側側壁20と車内側側壁30が底壁40に対して柔軟に折れ曲がることができ、ドアフレーム2のチャンネル3にガラスラン10を容易に嵌め込むことができる。
【0043】
上述のように、車内側摺動リップ61の表面、車外側摺動リップ51の表面及び底壁低摺動面42は、低摺動部材で構成されている。
図1に示す実施の形態では、この低摺動部材は、ガラスラン本体11を形成する熱可塑性エラストマーよりも硬質の動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)で形成される。ガラスラン本体11は、低摺動部材よりも軟質の動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)で形成される。この熱可塑性エラストマーが、オレフィン系熱可塑性エラストマーの場合は、例えば、より硬質の熱可塑性エラストマーは、ゴム分であるEPDMが40%、樹脂分であるポリプロピレンが60%のものを使用し、より軟質の熱可塑性エラストマーの場合は、例えば、ゴム分であるEPDMが70%、樹脂分であるポリプロピレンが30%のものを使用することができる。
なお、ガラスラン本体11等を熱可塑性エラストマーで形成した場合には、上記したように、生産性や軽量化の点で優れている。
【0044】
次に、図2に基づき、第2の実施の形態について説明する。
第2の実施の形態のガラスラン10は、第1の実施の形態と同様に、プレスタイプのドア1に装着されるものであり、第1の実施の形態とは、ガラスラン10が合成ゴムであるEPDMで形成されている点と、車外側シール部50の形状が異なる。したがって、第1の実施の形態と異なる部分について説明し、同様の部分は説明を省略する。
【0045】
車外側シール部50の形状は、第1の実施の形態がリップ状であるのに対して、第2の実施の形態は、車内側シール部60と同様に中空状である。車内側シール部60は、車外側摺動リップ51と車外側延設リップ54から形成され、車外側摺動リップ51と車外側延設リップ54の一方の先端が連結されて、他方の先端はそれぞれ車外側側壁20の内面24に接続している。車外側延設リップ54の中央部付近は中空状の内部方向に屈曲した車外側延設リップ屈曲部55が形成されている。
車外側シール部50が中空状に形成されたため、車外側シール部50と車内側シール部60でガラスラン10を確実に保持することができ、シール性がよい。
【0046】
車外側延設リップ54は、車外側摺動リップ51よりも薄肉に形成する。このため、ドアガラス5が車外側シール部50を押したときに、車外側延設リップ54が車外側中空部内側方向に撓んで、屈曲して、車外側摺動リップ51が車外側側壁20方向に撓みやすくなる。
この第2の実施の形態では、ガラスラン本体11と車内側シール部60及び車外側シール部50は、EPDMで形成されている。このEPDMの硬度はIRHDが60°〜90°で形成されている。また、低摺動部材としてウレタン塗料が塗布されている。
【0047】
ウレタン塗料の替わりにナイロン短繊維を植毛することもできる。このため、第1の実施の形態と同様に摺動抵抗を減少させることができる。
また、低摺動部材は、ウレタン塗料以外でも、ドアガラス5との摩擦抵抗の低いものであれば使用することができるが、例えば、TPVシート、フッ素樹脂の不職布、ポリエチレンシート、シリコンコート等を使用することができる。
【0048】
次に、図3に基づき、第3の実施の形態について説明する。
第3の実施の形態のガラスラン10は、サッシュタイプのドア1に装着されるものであり、第1の実施の形態とは、車内側側壁30、車内側シール部60、車外側側壁20及び車外側シール部50の形状が異なる。したがって、第1の実施の形態と異なる部分について説明し、同様の部分は説明を省略する。
【0049】
第3の実施の形態のガラスラン10においては、車内側シール部60は、第1の実施の形態と同様に、車内側摺動リップ61と車内側延設リップ63から構成され、車内側摺動リップ61は、車内側側壁30の先端からガラスラン本体11の断面略U字状の内部方向に延設されている。第一に実施の形態と同様に、ガラスラン本体11と車内側シール部60及び車外側シール部50は、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)で形成されている。
【0050】
車内側摺動リップ61の先端から、車内側延設リップ63が車内側側壁30方向に屈曲して形成され、その屈曲部分は、車内側シール先端部62となる。車内側シール先端部62の屈曲により、車内側シール部60の車内側摺動リップ61の先端近傍が、ドアガラス5に線接触的に当接することができ、シール性が向上し、ドアガラス5の昇降をスムースに行うことができる。車内側延設リップ63は、第3の実施の形態では、第1の実施の形態と比べて若干薄肉に形成されている。
【0051】
車内側延設リップ63は、車内側側壁30の下部付近に、車内側側壁30と一体に連続している。車内側延設リップ63の中央より若干、車内側摺動リップ61側寄りの位置の車内側中空部67の側に面に車内側延設リップ屈曲部64が設けられている。この車内側延設リップ屈曲部64において車内側延設リップ63は屈曲している。
【0052】
このため、車内側延設リップ屈曲部64を中心にして、車内側延設リップ63が車内側中空部67の内部方向に折れ曲がりやすく、ドアガラス5が車内側シール部60を押したときに、車内側延設リップ63は、車内側中空部67の内部に向けて折れ曲がり、車内側摺動リップ61は車内側側壁30方向に容易に撓みやすくなる。このため、ドアガラス5の摺動抵抗を減少させることができる。また、車内側延設リップ63が屈曲しやすいため、その屈曲と車内側摺動リップ61の弾性によってドアガラス5の振動を吸収する。
このとき、車内側側壁30の内面には、第1の実施の形態と同様に車内側側壁内面条溝34が形成されている。このため、車内側延設リップ63や車内側摺動リップ61が車内側側壁30の内面に密着することがなく、異音の発生を防止できる。
【0053】
なお、車内側側壁30の車内側カバーリップ31は、ドアフレーム2の形状に合わせてドアフレーム2の先端をカバーして、車内側側壁30を保持、シールするようにドアフレーム2の先端まで延設されている。車内側側壁30の外面には、チャンネル3の凹部にそれぞれ係止されるように、第1車内側保持リップ32と第2車内側保持リップ33が設けられている。
【0054】
車外側側壁20には、車外側シール部50が形成されているが、第3の実施の形態では、2枚のシールリップである車外側摺動リップ51と車外側シールリップ52が形成されている。車外側摺動リップ51は、車外側シールリップ52よりも下部に形成され、車外側シール部50の表面には、第一の実施の形態の車外側摺動リップ51と同様に、長手方向に車外側摺動リップ突条53が形成されている。このため、ドアガラス5がガラスラン本体11内に挿入されたときに、ドアガラス5の先端が摺動しやすくなる。
【0055】
車外側シール部50は、車外側側壁20の先端から斜め上方にドアガラス5方向に延設されている。ドアガラス5がガラスラン本体11の内部に挿入されたときに、ドアガラス5の表面にその先端が当接してシールすることができる。
車外側側壁20の車外側カバーリップ21も同様に、ドアフレーム2の形状に合わせてドアフレーム2の先端をカバーして、車外側側壁20を保持、シールするように小さく形成されている。
底壁40の内面にも底壁低摺動面42と底壁低摺動面条溝43が形成されている。
第1の実施の形態と同様に、車内側摺動リップ61と車外側摺動リップ51の表面及び底壁40の内面に形成される低摺動部材は、硬質のTPVである。
【0056】
次に、図4に基づき、第4の実施の形態について説明する。
第4の実施の形態のガラスラン10は、第3の実施の形態と同様に、サッシュタイプのドア1に装着されるものであり、第2の実施の形態と同様にEPDMで形成され、第3の実施の形態とは、車外側摺動リップ51と底壁40の表面状態が異なる。したがって、第3の実施の形態と異なる部分について説明し、同様の部分は説明を省略する。
【0057】
第4の実施の形態では、第2の実施の形態と同様に、ガラスラン本体11、車外側シール部50および車内側シール部60はEPDMで形成され、車内側摺動リップ61、車外側摺動リップ51と底壁40の表面には、硬質の低摺動材の替わりに、ウレタン塗料が塗布されている。このため、表面の摺動抵抗が低くドアガラス5が昇降するときにスムースに昇降することができる。
また、車外側側壁20の内面にもウレタン塗料が塗布されている。このため、ドアガラス5により車外側摺動リップ51が圧着されても、車外側摺動リップ51が車外側側壁20の内面に密着することがなく、また、剥離音が発生することもない。
【0058】
次に本発明のガラスラン10の製造方法について説明する。ガラスラン10は、まず直線部の押出成形部分を成形する。押出成形は熱可塑性エラストマー又は合成ゴムを使用して成形する。押出成形時のガラスラン10の断面形状は、略U字状の開口部分である先端部が少し開いた形状で押出成形される。これによって、車内側シール部60と車外側シール部50の先端が離れて、中空形状が相互に接することなく押出成形することができる。これによって、中空状の車内側シール部60と車外側シール部50を所定の形状に押出成形することができる。
中空状の車内側シール部60と車外側シール部50を押出成形で形成するときは、押出成形時にその中空部が負圧になりつぶれることを防止するために、中空部に対して押出ダイスから所定の圧力の空気を制御して供給する。
【0059】
合成ゴムの場合は、押出成形後に加硫槽に搬送されて、熱風や高周波等により加熱されて加硫が行われる。熱可塑性エラストマー、軟質合成樹脂の場合は、冷却され固化される。その後所定の長さに切断されて、押出成形部分の製造は、完成する。
次に、ドアフレーム2のコーナー部に装着される型成形部分の成形は、金型で形成され、押出成形部分と型成形部分は同じ材料あるいは同種類の材料を使用して加硫接着をすることができるため、一体的に固着する。熱可塑性エラストマー、軟質合成樹脂の場合は、金型に注入されたときに注入材料は溶融されているため、その熱で押出成形部分と型成形部分は一体的に融着される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態であるガラスランの断面図であり、図5のA−A線に沿った断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態であるガラスランの断面図であり、図5のA−A線に沿った断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態であるガラスランの断面図であり、図5のA−A線に沿った断面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態であるガラスランの断面図であり、図5のA−A線に沿った断面図である。
【図5】自動車ドアの側面図である。
【図6】従来のガラスランの断面形状である。
【図7】従来の他のガラスランの断面形状である。
【符号の説明】
【0061】
2 ドアフレーム
5 ドアガラス
10 ガラスラン
11 ガラスラン本体
20 車外側側壁
30 車内側側壁
34 車内側側壁内面条溝
40 底壁
50 車外側シール部
51 車外側摺動リップ
55 車外側延設リップ
60 車内側シール部
61 車内側摺動リップ
62 車内側シール部屈曲部
65 車内側延設リップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ドアのドアフレームの内周に取付けられ、ドアガラスの昇降を案内し、車外側側壁と、車内側側壁と、底壁とからなる断面略U字状のガラスラン本体を備えた自動車用ガラスランにおいて、
上記車外側側壁と車内側側壁には、それぞれ上記ガラスラン本体の断面略U字状の内側に向かって延出する車外側シール部と車内側シール部を設け、該車外側シール部と車内側シール部により上記ガラスラン本体の内側に挿入されているドアガラスの両側端部の車外側面および車内側面をシールし、
少なくとも上記車内側シール部は、一端が上記車内側側壁の先端から延出される車内側摺動リップと、該車内側摺動リップの他端から屈曲して上記車内側側壁の側面まで延設される車内側延設リップとから形成され、上記車内側摺動リップ、車内側延設リップと車内側側壁とにより中空状の車内側中空部を形成し、上記車内側摺動リップ又は車内側延設リップが当接する上記車内側側壁の内面に凹凸面を形成したことを特徴とする自動車用ガラスラン。
【請求項2】
上記車内側延設リップは、上記車内側摺動リップの肉厚よりも薄く形成し、上記車内側中空部の内部に向けて凸に湾曲又は屈曲した形状である請求項1に記載の自動車用ガラスラン。
【請求項3】
上記車内側側壁の内面の凹凸面は、断面が略三角形の凸条である請求項1又は請求項2に記載の自動車用ガラスラン。
【請求項4】
上記車内側摺動リップ及び上記車外側摺動リップの表面並びに上記底壁の内面に低摺動部材が設けられている請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の自動車用ガラスラン。
【請求項5】
上記ガラスラン本体、上記車内側シール部及び上記車外側シール部は、熱可塑性エラストマーで形成され、上記車内側摺動リップ及び上記車外側摺動リップの表面並びに上記底壁の内面の低摺動部材は、上記ガラスラン本体の熱可塑性エラストマーの硬度よりも硬度が高い熱可塑性エラストマーで形成された請求項4に記載の自動車用ガラスラン。
【請求項6】
上記ガラスラン本体、上記車内側シール部及び上記車外側シール部は、合成ゴムで形成され、上記車内側摺動リップ及び上記車外側摺動リップの表面及び上記底壁の内面の低摺動部材は、低摺動性の塗膜あるいは、植毛された短繊維で形成された請求項4に記載の自動車用ガラスラン。
【請求項7】
上記車外側シール部は、シールリップ又は中空シール部で形成された請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の自動車用ガラスラン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−161200(P2007−161200A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363572(P2005−363572)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】