説明

自動車用制動液圧制御装置のシールプレート

【課題】 シールプレートが積み重ねられているとき、隣り合うシールプレートの一方に設けた弾性シール部材が他方に設けた弾性シール部材に強く接合しないようにして、各弾性シール部材間に大きな粘着力が発生しないようにすること。
【解決手段】 自動車用制動液圧制御装置では、第1の液圧回路を有するシリンダボデー11と、第2の液圧回路を有するバルブボデー12が、前記両液圧回路を連通させる連通路P1〜P10を有するシールプレート20を介して接合固定されている。シールプレート20は、所定板厚の板材で形成されて連通路P1〜P10となる開口を有するプレート本体21と、このプレート本体21における前記開口の周縁に装着されてプレート本体21の板厚より大きい厚みを有する弾性シール部材22a〜22jを備えていて、プレート本体21には板厚方向に突出する所定高さの突起21c1〜21c4が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用制動液圧制御装置において、第1の液圧回路を有する第1のボデー(例えば、シリンダボデー)と、第2の液圧回路を有する第2のボデー(例えば、バルブボデー)を接合固定するために用いられるシールプレート、および同シールプレートを含む自動車用制動液圧制御装置の組付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用制動液圧制御装置の一つとして、第1の液圧回路を有する第1のボデー(例えば、シリンダボデー)と、第2の液圧回路を有する第2のボデー(例えば、バルブボデー)が、前記両液圧回路を連通させる連通路を有するシールプレートを介して接合固定されているものがあり、例えば、下記特許文献1に示されている。
【特許文献1】特開平8−11697公報
【0003】
上記した公報に示されている自動車用制動液圧制御装置のシールプレートは、前記連通路となる開口を有して前記両ボデー間に組付けられるプレート本体と、このプレート本体における前記開口の周縁に装着されて前記連通路を形成するゴムシール(弾性シール部材)によって構成されていて、両ボデーがシールプレートを介して接合固定された状態では、シールプレートのゴムシールが各ボデーの接合面に密着してシール機能を発揮する。
【0004】
上記したゴムシールが上述したシール機能を発揮するためには、ゴムシールの厚みをプレート本体の板厚より大きくする必要がある。かかる構成では、多数のシールプレートが積み重ねられて搬送・保管されているとき、隣り合うシールプレートの一方に設けたゴムシールが隣り合うシールプレートの他方に設けたゴムシールに強く接合して、各ゴムシール間に大きな粘着力が発生するおそれがある。
【0005】
各ゴムシール間に発生する大きな粘着力は、例えば、積み重ねられて搬送・保管されている多数のシールプレートから最上にある一枚のシールプレートを持ち上げて外す作業時(すなわち、強く接合しているゴムシールを剥がす作業時)に、その下のシールプレートを共に持ち上げるおそれがあって、その作業を阻害するおそれがあるとともに、その作業に伴って、強く接合しているゴムシールの接合面(シール部)に傷付きが生じるおそれがある。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、第1の液圧回路を有する第1のボデーと、第2の液圧回路を有する第2のボデーが、前記両液圧回路を連通させる連通路を有するシールプレートを介して接合固定されている自動車用制動液圧制御装置において、前記シールプレートは、所定板厚の板材で形成されて前記連通路となる開口を有するプレート本体と、このプレート本体における前記開口の周縁に装着されて前記プレート本体の板厚より大きい厚みを有する弾性シール部材を備えていて、前記プレート本体には板厚方向に突出する所定高さの突起が形成されていることに特徴がある。
【0007】
この場合において、前記突起の先端は平坦に形成されていて平面で当接可能であること、または、前記突起は前記第1または第2のボデーとの接合面外に配置されていること、或いは、前記突起は前記第1または第2のボデーとの接合面内に配置されていて、同突起を収容可能な凹部が前記第1または第2のボデーに設けられていることも可能である。
【0008】
本発明によるシールプレートにおいては、多数のシールプレートが積み重ねられて搬送・保管されているとき、隣り合うシールプレートの一方に設けた突起の先端が隣り合うシールプレートの他方に当接して、各シールプレートの弾性シール部材どうしが強く接合することを防ぐ、または各シールプレートの弾性シール部材どうしが接合しないように離間・保持することが可能であり、各弾性シール部材間に発生する粘着力を小さくする、または各弾性シール部材間に粘着力が発生しないようにすることが可能である。
【0009】
したがって、本発明によるシールプレートにおいては、例えば、積み重ねられて搬送・保管されている多数のシールプレートの上方から一枚ずつシールプレートを持ち上げて搬送する作業時に、その下のシールプレートを持ち上げることがなくて、該当するシールプレートをその下方のシールプレートから的確に離して搬送することが可能である。また、上記した作業時に、各シールプレートにおける弾性シール部材の接合面(シール部)に傷付きを生じさせることがなくて、各シールプレートの品質を良好に維持することが可能である。
【0010】
また、本発明によるシールプレートを採用すれば、第1の液圧回路を有する第1のボデーに本発明によるシールプレートを重ねる第1工程と、この第1工程後に前記シールプレートに第2の液圧回路を有する第2のボデーを重ねる第2工程と、この第2工程後に前記両ボデーと前記シールプレートを接合固定して前記シールプレートの連通路を介して前記両液圧回路を連通させる第3工程を経て、当該自動車用制動液圧制御装置を組み付けることが可能である。
【0011】
この組付方法の実施に際しては、上記した第1工程の実施において、積み重ねられた多数のシールプレートの上方から一枚ずつシールプレートを負圧式の吸着装置またはチャック装置を用いて持ち上げて,同シールプレートを第1ボデーと重なる位置にまで搬送することが可能である。
【0012】
このため、上記した組付方法を実施すれば、当該自動車用制動液圧制御装置の自動組立ラインの設備において、積み重ねられた多数のシールプレートの上方から一枚ずつシールプレートを持ち上げて搬送する際に、最上のシールプレート以外を保管位置に保持して、最上のシールプレートのみを持ち上げ可能とする保持装置を装備する必要がなくて、設備費の低減を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を図面に基づいて説明する。図1は本発明による自動車用制動液圧制御装置のシールプレートの一実施形態を示していて、この実施形態においては、第1の液圧回路(図示省略)を有する第1のボデーとしてのシリンダボデー11(図1の二点鎖線参照)と、第2の液圧回路(図示省略)を有する第2のボデーとしてのバルブボデー12(図1の一点鎖線参照)間にシールプレート20が介装されている。
【0014】
シールプレート20は、両ボデー11,12を液密的に接合するものであり、シリンダボデー11に設けた第1の液圧回路(図示省略)とバルブボデー12に設けた第2の液圧回路(図示省略)を連通させる10個の連通路P1〜P10を有していて、プレート本体21と弾性シール部材22a〜22jによって構成されている。
【0015】
プレート本体21は、図1および図2にて示したように、所定板厚T1のアルミニウム板材で形成されていて、各連通路P1〜P10となる10個の開口(連通孔)21a1〜21a10(図2参照)を有するとともに、シールプレート20を介して両ボデー11,12を接合固定するためのボルト(図示省略)が挿通される6個のボルト挿通孔21b1〜21b6(図1参照)を有している。
【0016】
各弾性シール部材22a〜22jは、その素材が耐液性のシールゴムであって、図1および図2にて示したように、プレート本体21における各開口21a1〜21a10の周縁に加硫接着により一体的に成形装着されていて、プレート本体21の板厚T1より所定量大きい厚みT2(図2参照)を有している。
【0017】
ところで、この実施形態においては、シールプレート20のプレート本体21に4個の突起21c1〜21c4が形成されている。各突起21c1〜21c4は、図1および図2にて示したように、シリンダボデー11との接合面側にて板厚方向に所定の高さHで突出していて、シリンダボデー11との接合面外(シリンダボデー11の接合面と当接しない部位)に配置されている。
【0018】
また、各突起21c1〜21c4は、図2にて示したように、先端が平坦に形成されていて、図3に示したように、多数のシールプレート20が同一方向にて積み重ねられるときには、先端が平面で当接可能であり、上下のシールプレート20における各弾性シール部材22a〜22j間に僅かな隙間Sを形成する。なお、各突起21c1〜21c4は、プレート本体21の該当部位をプレス成形にて部分的に押し出すことにより形成されている。
【0019】
上記のように構成したこの実施形態のシールプレート20においては、図3に示したように、多数のシールプレート20が積み重ねられて搬送・保管されているとき、隣り合うシールプレート20の一方に設けた突起21c1〜21c4の先端が隣り合うシールプレート20の他方に当接して、各シールプレート20の弾性シール部材22a〜22jどうしが接合しないように離間・保持する。
【0020】
このため、各弾性シール部材22a〜22j間に粘着力が発生しないようにすることが可能である。したがって、例えば、積み重ねられて搬送・保管されている多数のシールプレート20の上方から一枚ずつシールプレート20を持ち上げて搬送する作業時に、その下のシールプレート20を持ち上げることがなくて、該当するシールプレート20をその下方のシールプレート20から的確に離して搬送することが可能である。また、上記した作業時に、各シールプレート20における弾性シール部材22a〜22jの接合面(シール部)に傷付きを生じさせることがなくて、各シールプレート20の品質を良好に維持することが可能である。
【0021】
また、この実施形態のシールプレート20を採用すれば、シリンダボデー11にシールプレート20を重ねる第1工程(図4の(a)に示したシールプレート組付工程)と、この第1工程後にシールプレート20にバルブボデー12を重ねる第2工程(図4の(b)に示したバルブボデー組付工程)と、この第2工程後に両ボデー11,12とシールプレート20とをボルト30を用いて接合固定してシールプレート20の各連通路P1〜P10を介して各ボデー11,12の液圧回路を連通させる第3工程(図4の(c)に示した連結工程)を経て、当該自動車用制動液圧制御装置を組み付けることが可能である。
【0022】
この組付方法の実施に際しては、上記した第1工程の実施において、積み重ねられた多数のシールプレート20の上方から一枚ずつシールプレート20を負圧式の吸着装置またはチャック装置(図示省略)を用いて持ち上げて、同シールプレート20をシリンダボデー11と重なる位置にまで搬送することが可能である。
【0023】
このため、上記した組付方法を実施すれば、当該自動車用制動液圧制御装置の自動組立ラインの設備において、積み重ねられた多数のシールプレート20の上方から一枚ずつシールプレート20を持ち上げて搬送する際に、最上のシールプレート20以外を保管位置に保持して、最上のシールプレート20のみを持ち上げ可能とする保持装置を装備する必要がなくて、設備費の低減を図ることが可能である。
【0024】
上記した実施形態においては、各突起21c1〜21c4の突出高さをHとして、積み重ねられた上下のシールプレート20における各弾性シール部材22a〜22j間に僅かな隙間Sが形成されるようにして実施したが、各突起の突出高さを上記実施形態に比して低くして、積み重ねられた上下のシールプレートにおける各弾性シール部材が僅かに弱く接合するようにして実施することも可能である。
【0025】
この場合には、多数のシールプレートが積み重ねられて搬送・保管されているとき、隣り合うシールプレートの一方に設けた突起の先端が隣り合うシールプレートの他方に当接して、各シールプレートの弾性シール部材どうしが強く接合することを防ぐことが可能であり、各弾性シール部材間に発生する粘着力を小さくすることが可能であるため、上記実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0026】
また、上記した実施形態においては、プレート本体21の該当部位をプレス成形にて部分的に押し出すことにより、各突起21c1〜21c4を形成して実施したが、図5に示したように、プレート本体21の該当部位を部分的に切り起こしてプレート本体21の板厚方向に折り曲げることにより、各突起21c1〜21c4を形成して実施することも可能である。
【0027】
また、上記した実施形態においては、シールプレート20とシリンダボデー11との接合面外に各突起21c1〜21c4を配置して、各突起21c1〜21c4がシールプレート20とシリンダボデー11との接合部において邪魔にならないように実施したが、図6に示したように、シールプレート20とバルブボデー12との接合面内に一つの大きな突起21cを配置し、同突起21cを収容可能な凹部をバルブボデー12に設けて実施することも可能である。
【0028】
なお、シールプレート20とバルブボデー12との接合面がシールプレート20とシリンダボデー11との接合面と同様の形状である場合には、シールプレート20とバルブボデー12との接合面外に各突起21c1〜21c4を配置して実施することも可能である。また、図6に示した一つの大きな突起21cは、シリンダボデー11との接合面内に配置することも可能であり、この場合には同突起21cを収容可能な凹部をシリンダボデー11に設ける必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明によるシールプレートの一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の部分拡大断面図である。
【図3】図1および図2に示したシールプレートが積み重ねられたときの部分断面図である。
【図4】図1に示したシールプレートを含む自動車用制動液圧制御装置の組付方法における主要な工程を概略的に示す工程説明図である。
【図5】本発明によるシールプレートの他の実施形態を示す正面図である。
【図6】本発明によるシールプレートのその他の実施形態を示す正面図である。
【符号の説明】
【0030】
11…シリンダボデー、12…バルブボデー、20…シールプレート、21…プレート本体、21a1〜21a10…開口、21b1〜21b6…ボルト挿通孔、21c1〜21c4…突起、22a〜22j…弾性シール部材、P1〜P10…連通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液圧回路を有する第1のボデーと、第2の液圧回路を有する第2のボデーが、前記両液圧回路を連通させる連通路を有するシールプレートを介して接合固定されている自動車用制動液圧制御装置において、前記シールプレートは、所定板厚の板材で形成されて前記連通路となる開口を有するプレート本体と、このプレート本体における前記開口の周縁に装着されて前記プレート本体の板厚より大きい厚みを有する弾性シール部材を備えていて、前記プレート本体には板厚方向に突出する所定高さの突起が形成されていることを特徴とする自動車用制動液圧制御装置のシールプレート。
【請求項2】
請求項1に記載した自動車用制動液圧制御装置のシールプレートにおいて、前記突起の先端は平坦に形成されていて平面で当接可能であることを特徴とする自動車用制動液圧制御装置のシールプレート。
【請求項3】
請求項1に記載した自動車用制動液圧制御装置のシールプレートにおいて、前記突起は前記第1または第2のボデーとの接合面外に配置されていることを特徴とする自動車用制動液圧制御装置のシールプレート。
【請求項4】
請求項1に記載した自動車用制動液圧制御装置のシールプレートにおいて、前記突起は前記第1または第2のボデーとの接合面内に配置されていて、同突起を収容可能な凹部が前記第1または第2のボデーに設けられていることを特徴とする自動車用制動液圧制御装置のシールプレート。
【請求項5】
第1の液圧回路を有する第1のボデーに請求項1に記載したシールプレートを重ねる第1工程と、この第1工程後に前記シールプレートに第2の液圧回路を有する第2のボデーを重ねる第2工程と、この第2工程後に前記両ボデーと前記シールプレートを接合固定して前記シールプレートの連通路を介して前記両液圧回路を連通させる第3工程を経て、自動車用制動液圧制御装置を組み付ける自動車用制動液圧制御装置の組付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−21630(P2006−21630A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−201073(P2004−201073)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】