説明

自動車車体における異材パネル構造部材の接合方法

【課題】アルミニウム合金パネルを鋼製パネルと接合した異材パネル構造部材とするに際して、組み合わされるアルミニウム合金パネルと鋼製パネルとの異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない、アルミニウム合金パネルおよび異材パネル構造部材を提供することを目的とする。
【解決手段】鋼製パネル1、5と接合されて異材パネル構造部材を構成するアルミニウム合金パネル10であって、必要形状に成形されたアルミニウム合金パネル10の外縁部に、鋼板製のカラー14が予め接合されており、この鋼板製のカラー14を介して、鋼製パネル1、5と接合されることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材パネル構造部材用のアルミニウム合金パネルおよび異材パネル構造部材に関するものである。本発明で言うアルミニウム合金パネルや鋼製パネルとは、単板のパネルだけではなく、アウタパネルやインナパネルからなるパネル構造部材(パネル構造体)をも含む。したがって、本発明で言う異材パネル構造部材とは、アルミニウム合金パネルと鋼製パネルとの、単板のパネル同士の組み合わせ、パネル構造部材同士の組み合わせ、単板のパネルとパネル構造部材同士との組み合わせを各々含む。
【0002】
本発明の異材パネル構造部材用のアルミニウム合金パネルおよび異材パネル構造部材は、組み合わされるアルミニウム合金材と鋼材との異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない。このため、自動車、鉄道車両などの輸送分野、機械部品、建築構造物等の、アルミニウム合金材と鋼材とが組み合わせられる可能性が高い構造部材に好適である。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム合金材を自動車などの鋼材を用いた構造部材(鋼製構造部材)に組み合わせて適用することができれば、構造部材を軽量化でき、車体全体の軽量化に著しく寄与することができる。ここでアルミニウム合金材とは、純アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称し、圧延板、押出形材、鍛造材、鋳造材などを含む。また、鋼材とは、鋼板、鋼型材、条鋼などの総称である。
【0004】
アルミニウム合金材(純アルミニウムおよびアルミニウム合金を総称:板、形材、鍛造材、鋳造材などを含む)を、鋼材(鋼板、鋼型材、条鋼、などを含む)との、異種金属部材同士の接合体(異材接合体)に適用することができれば、自動車などの構造材として、車体の軽量化等に著しく寄与することができる。
【0005】
このため、自動車車体における鋼材とアルミニウム材とを溶接接合した異材接合体として、例えば、以下の例が知られ、また採用されている。
(1)ドアビーム(アルミニウム合金中空形材製補強材)と鋼製ドアパネル。
(2)鋼製センターピラーやサイドシルなどの鋼製パネル構造部材内へのアルミニウム合金中空形材補強。
(3)鋼製バンパやサイドメンバとアルミニウム合金中空形材製バンパステイやクラッシャブルボックス。
(4)フードやドアなどの大型パネルにおける鋼製パネル構造部材のインナパネルかアウタパネルのアルミニウム合金板化。
(5)アルミニウム合金板製のルーフパネルと鋼製のサイドメンバアウタや鋼製のルーフサイドレール。
【0006】
アルミニウム合金材を用いる場合に、アルミニウム合金材と鋼材とを互いにスポット溶接できれば、自動車用車体などの組立の際に、鋼材のみを使用する場合のスポット溶接工程がそのまま使用できる。特に、前記用途の内、ルーフ、フード、ドアなどの大型パネルであって、大きな異材接合面積(異材接合長さ)を有する、アルミニウム合金板を成形したパネル(以下、アルミニウム合金パネルあるいはアルミニウム合金製パネルと言う)と、鋼板を成形したパネル(以下、鋼パネルあるいは鋼製パネルと言う)との異材接合体(異材接合パネル)をスポット溶接できれば、この利点が大きい。
【0007】
しかし、鋼材とアルミニウム材とを溶接接合する場合、接合部に脆い金属間化合物が生成しやすいために、信頼性のある高強度を有する接合部(接合強度)を得ることは非常に困難であった。したがって、従来では、これら異材接合体の接合には、ボルトやリベット等、あるいは接着剤を併用した接合がなされている。このため、前記した自動車用車体構造物などの組立工程の効率が低下し、また、接合継手の信頼性、コスト等の問題もある。
【0008】
そこで、従来より、これら異材接合体のスポット溶接法について多くの検討がなされてきている。例えば、高価なクラッド材またはインサート材を用いることなく、異種材料を確実にかつ高強度に接合できるスポット溶接方法として、鋼板同士の間にアルミニウム板を挟み込んで、三層あるいは四層、六層など多層に重ねることが開示されている(特許文献1、2、3参照)。
【0009】
この技術では、これら多層の重ね部を一対の電極で挟持し、電極間に大電流を短時間流して、スポット溶接域からアルミニウム板の溶融部を排除してしまう。この結果、溶接部としては、アルミニウム板を介さずに、鋼板同士を直接的に接合させ、接合界面に金属間化合物が生成するのを抑えるものである。そして、この実施の形態として、鋼板の端縁部をヘミング加工により曲げ返すと同時に、この曲げ返し片と鋼板との間にアルミ板を挟み込み、この三層の重ね部をスポット溶接する例などが開示されている。
【特許文献1】特開平7−328774号公報
【特許文献2】特開平9−155561号公報
【特許文献3】特開2003−236673号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
確かに、これら従来技術でも、スポット溶接による継手の接合強度の向上効果は認められる。しかし、これら鋼材とアルミニウム材とを溶接接合した異材接合体(あるいは異材溶接継手)を自動車などの構造部材に適用することを考えると、自動車の衝突時などに負荷される大荷重(応力)に対する継手強度が必要である。これに対する十分な継手強度あるいは接合強度を、これら従来技術では、未だ得られていない。この結果、鋼材とアルミニウム材とのスポット溶接は、自動車などの構造部材に、未だ実用化されていない。
【0011】
この十分な継手強度あるいは接合強度が得られない傾向は、鋼板表面に電気亜鉛めっきや溶融亜鉛合金化めっきが施されている、亜鉛めっき鋼板(亜鉛めっき鋼材)の場合に著しい。そして、自動車車体用には、この種亜鉛めっき鋼板が周知の通り汎用されている。したがって、この点も、前記した、鋼材とアルミニウム材とのスポット溶接が、自動車などの構造部材で未だ実用化されていない大きな要因となっていた。
【0012】
このため、本発明は、アルミニウム合金パネルを鋼製パネルと接合した異材パネル構造部材とするに際して、組み合わされるアルミニウム合金パネルと鋼製パネルとが、異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない、異材パネル構造部材用のアルミニウム合金パネルおよび異材パネル構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための、本発明アルミニウム合金パネルの要旨は、鋼製パネルと接合されて異材パネル構造部材を構成するアルミニウム合金パネルであって、必要形状に成形されたアルミニウム合金パネルの外縁部に、鋼板製のカラーが予め接合されており、この鋼板製のカラーを介して、前記鋼製パネルと接合されることである。
【0014】
ここで、これらの要旨の具体的な態様としては、アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが各々別の構造部材を形成しているような、例えば、アルミニウム合金ルーフパネルと鋼製ルーフサイドレールとの接合関係であることが好ましい。また、前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとで、アウタパネルとインナパネルとからなる異材パネル構造部材を構成するような、例えば、フード、ドアなどの大型パネルであることが好ましい。これらの態様において、更に、前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが、互いに前記鋼板製のカラーの部分のみで接合された態様であれば、互いの構造部材におけるアルミニウム合金と鋼との異材接合部分を有さずに、好ましい。
【0015】
また、上記目的を達成するための、本発明異材パネル構造部材の要旨は、鋼製パネルとアルミニウム合金パネルとが接合された異材パネル構造部材であって、必要形状に成形されたアルミニウム合金パネルの外縁部に、鋼板製のカラーが予め接合されており、この鋼板製のカラーを介して、前記鋼製パネルとアルミニウム合金パネルとが互いに接合されていることである。
【0016】
ここで、これらの要旨の具体的な態様としては、アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが各々別の構造部材を形成しているような、例えば、アルミニウム合金ルーフパネルと鋼製ルーフサイドレールとの接合関係であることが好ましい。また、前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとで、アウタパネルとインナパネルとからなる異材パネル構造部材を構成するような、例えば、フード、ドアなどの大型パネルであることが好ましい。これらの態様において、更に、前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが、互いに前記鋼板製のカラーの部分のみで接合された態様であれば、前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが直接接合されたアルミニウム合金と鋼との異材接合部分を有さずに、好ましい。
【0017】
更に、前記アルミニウム合金パネルが自動車車体組み立て工程とは別の工程で予め製造され、このアルミニウム合金パネルが、自動車車体組み立て工程の中で、前記鋼板製のカラーを介して、鋼製パネルと互いに接合されることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、アルミニウム合金パネルの外縁部に、鋼板製のカラー(襟、張出片の意味)を予め一体に接合しておく。そして、このアルミニウム合金パネルと鋼製パネルとを前記鋼板製のカラーを介して組み付けた上で、この鋼板製のカラーにおいて鋼製パネルと接合し、アルミニウム合金パネルと鋼製パネルとを異材パネル構造部材として一体化する。
【0019】
これによって、自動車車体組み立て工程などの接合手段や接合条件、工程条件などの様々の制約を受けずに、先ず、前記鋼板製のカラーとアルミニウム合金パネルとの異材接合の接合手段の自由度が保証される。このため、異材接合部分を接合するための、後述する様々な接合手段の選択と組み合わせが可能であり、これによって、異材接合であっても、接合強度を保証することが可能となる。また、予め一体とされた鋼板製のカラーとアルミニウム合金パネルとは一個のユニット乃至モジュールとして、通常の自動車車体組み立て工程において、鋼製パネル(パネル構造部材)に組み付けることができる。
【0020】
そして、この組み付けの上で、前記鋼板製のカラー14、14を介して、鋼製パネル(パネル構造部材)と接合できる。この鋼板製のカラーによって、異材パネル構造部材の、アルミニウム合金製パネルと鋼製パネルとが直接接合されたアルミニウム合金と鋼との異材接合部分を有さないか、あるいは、この異材接合部分を少なくできる。そして、異材構造部材の接合部を、鋼材同士の接合部のみか、実質的に鋼材同士の接合部を主体とできる。
【0021】
したがって、通常の鋼材同士に用いられるスポット溶接などの接合手段と接合条件とを用いることができ、通常の鋼材同士と同様な接合方法と装置とを用いることが可能であり、アルミニウム合金製パネルを使用する際にも、自動車車体の生産工程(ライン)を効率的にできる。通常、アルミニウム合金製パネルを使用する際には、互いの接合性などの問題から、鋼製自動車車体の生産工程の大がかりな工程変更が必要となりやすいが、本発明アルミニウム合金製パネルには、このような必要が無い。言い換えると、アルミニウム合金製パネルとの異材パネル構造部材としても、工程変更や生産効率を落とさずに、通常の鋼材同士のパネル構造部材と同程度の効率が確保できる。
【0022】
また、本発明アルミニウム合金製パネルは、通常の自動車車体組み立て工程とは別の(外の)専用工程で製造できるために、生産効率を問題にせずとも、逆に、異材パネル構造部材の接合強度の調整や、管理あるいは工程変更が行いやすい。これによって、鋼材同士の構造部材の接合強度や強度並に近づけるための、特別な接合方法、接合条件、あるいは熱処理を行うことも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施態様を具体的に説明する。図1、2に、自動車の車体上側に設置されるルーフなどを意図した本発明アルミニウム合金パネルを、斜視図と縦断面図とで各々示す。また、図3に、このアルミニウム合金パネルを、ルーフサイドレールなどの鋼パネル(鋼パネル構造部材)に接合した、異材パネル構造部材の一態様を縦方向の断面図で示す。
【0024】
(アルミニウム合金パネル)
図1、2において、アルミニウム合金パネル10は、アルミニウム合金板(圧延板)をルーフなどの構造部材を意図してプレス成形されたものである。このプレス成形によって、アルミニウム合金パネル10は、ルーフなどの設計構造、形状に対応した、構造部材としての必要形状である断面が略HAT(帽子)型をしている。なお、図1、2において、図の左右方向が車体の幅方向である。
【0025】
アルミニウム合金ルーフパネル10の略HAT型断面は、略平坦な頂部11と、この頂部11の四周囲の側縁から各々縦方向(図の下方向)に各々張り出す、各4つの縦壁12と、縦壁12から横方向(図の左右方向など)に各々張り出す各4つのフランジ13とによって形成されている。
【0026】
(鋼板製のカラー)
このようなアルミニウム合金パネル10の外縁部を形成する、前記4枚のフランジ13に対して、図1、2では、鋼板製のカラー14(襟、張出片)が、各フランジ13の側方(図の左右方向など)に各々張り出す形で、フランジ13の下側に各々一体に取り付けられている。
【0027】
この合計4枚の鋼板製のカラー14は、アルミニウム合金パネル10に取り付けやすいように、その一端は、前記パネル10の縦壁12やフランジ13に対応した、平板状の断面乃至平面形状を有している。
【0028】
また、その他端は、各々ルーフパネルを支持する鋼製構造部材と接合しやすいような形状とされている。即ち、フランジ13よりも側方(図の左右方向)に張り出すとともに、ルーフパネルを車体幅方向の両側から支持するルーフサイドレールなどの鋼パネルのアウタパネル1やインナパネル5に対応した断面乃至平面形状を有している。また、ルーフパネルを車体長手方向の両側から支持するルーフリインフォースメント(車体幅方向両側のルーフサイドレールを繋いで、車体幅方向に延在しルーフパネルを下側から支持する補強部材)と接合しやすいように、フランジ13よりも前後方向(図の前後方向など)に張り出すとともに、ルーフリインフォースメントに対応した断面乃至平面形状を有している。
【0029】
図1、2の態様では、鋼板製のカラー14、14は、アルミニウム合金ルーフパネル10側の外縁部を形成するフランジ13が形成する外縁形状に対応して、全体が平板状を有している。また、ルーフサイドレールなどの鋼パネル構造部材やルーフリインフォースメントに対して張り出し、これらパネルやルーフリインフォースメントと接合される、側方側も同じく平板状のフランジ形状をしている。
【0030】
なお、鋼板製のカラー14は、以上の形状とともに、アルミニウム合金ルーフパネル10への設け方も、ルーフサイドレールなどの鋼パネル構造部材やルーフリインフォースメントと接合しやすいように設けられる。即ち、図1の態様では、鋼板製のカラー14は、アルミニウム合金パネル10の各辺の長さに略等しく、アルミニウム合金パネル10の各辺の長さに亙って設けられている。これに対して、鋼板製のカラーを、アルミニウム合金パネル10の各辺の長さに亙って、部分的、断片的に、間隔を開けて、各辺毎に複数枚設けても良い。
【0031】
(鋼板製カラーの異材接合)
これら鋼板製のカラー14は、アルミニウム合金パネル10の鋼製構造部材への組み付け前に、予めアルミニウム合金パネル10に、一体に接合しておく。鋼板製のカラー14とアルミニウム合金パネル10との接合は異材接合であり、これを鋼製構造部材への組み付け前に予め完了しておくことが、本発明の要点である。
【0032】
これによって、自動車車体組み立て工程などの接合手段や接合条件、工程条件などの様々の制約を受けずに、鋼板製のカラー14とアルミニウム合金製構造部材10との異材接合を別途に、あるいは独自に行なうことができる。言い換えると、鋼板製のカラー14とアルミニウム合金パネル10との異材接合の接合手段の自由度が保証される。
【0033】
このため、図1、2において、×印15で例示する異材接合部分を、スポット溶接、FSWなどの溶接接合や、接着剤による接着、セルフピアシングリベットや通常のボルト、ナットなどの様々な接合手段の選択と組み合わせとが可能となる。この点、補強対象となる鋼製構造部材の耐衝突性(耐変形性や耐座屈性)などの要求補強特性に応じた、補強材としての必要接合強度に応じて、接合手段の選択と組み合わせを行う。これによって、異材接合であっても、接合強度を保証することが可能となる。なお、図1、2の態様では、異材接合部分を×印15で例示している。この異材接合部分15は、必要接合強度と選択された接合手段に応じて、接合位置や接合個数を選択する。
【0034】
これによって、予め一体とされた鋼板製のカラー14とアルミニウム合金パネル10とは、一個のユニット乃至モジュールとして、通常の自動車車体組み立て工程において、センタ−ピラーなどの鋼製構造部材に組み付けることができる。この組み付けによって、前記鋼板製のカラー14を介して、前記鋼製構造部材のアウタパネルとインナパネルのいずれか、あるいは両方と接合できる。
【0035】
このため、異材構造部材の異材接合部分を有さないか、あるいは、この異材接合部分を少なくでき、異材構造部材の接合部を、鋼材同士の接合部のみか、実質的に鋼材同士の接合部を主体とできる。したがって、通常の鋼材同士に用いられるスポット溶接などの接合手段と接合条件とを用いることができ、通常の鋼材同士と同様に、自動車車体の生産工程が効率的となる。また、異材構造部材の接合強度も、鋼材同士の構造部材の接合強度並に近づけることができる。
【0036】
ここで、鋼板製のカラー14とアルミニウム合金パネル10との異材接合に際しては、溶接による接合に支障が無い厚みで、両者の間に樹脂(層)を介在させて絶縁することが好ましい。これにより、電食と称せられる、異種金属同士の界面に生じやすい腐食を確実に防止できる。この樹脂層の介在がないと、自動車車体としての塗装が施されるものの、アルミニウム合金と鋼との異種金属同士の接触による電食が生じる可能性がある。この種の樹脂としては、金属の絶縁用あるいは防食用に、汎用乃至市販されている種々の樹脂が使用できる。また、樹脂層の必要な厚みも、これら汎用乃至市販されている樹脂の使用マニアルに従うが、1μm〜500μmのごく薄い厚みで良い。
【0037】
(アルミニウム合金パネル)
アルミニウム合金パネル10は、前記ルーフやフード、ドアなどのパネル構造部材としての必要形状に成形されたアルミニウム合金板からなる。図1〜4までのアルミニウム合金パネル10は、前記した通り、アルミニウム合金圧延板を、張出、絞りなどのプレス成形したものである。
【0038】
(アルミニウム合金)
本発明でパネルに使用するアルミニウム合金は、自動車車体などとして、軽量化と高強度化、あるいは高成形性、溶接性などの要求特性が特に求められる場合には、このような特性に優れたアルミニウム合金を選択する。例えば、強度の優れたAl−Zn−Mg−Cu系やAl−Zn−Mg系(7000系)合金、成形性や溶接性の良いAl−Mg系(5000系)合金、合金元素が少なくリサイクル性に優れ、時効硬化性を有するAl−Mg−Si系(6000系)合金などが例示される。
【0039】
(鋼材)
本発明で鋼板製のカラーに使用する鋼材は、組み付け乃至接合される、鋼製構造部材と、必ずしも同一とする必要は無いが、同じ種類であるなど、これに対応した鋼材が選択される。補強材として接合される相手の鋼製構造部材への組み付けや接合のしやすさを考慮して、鋼板を成形したパネル形状が最も汎用的であるが、その他、型鋼や鋼管などであっても良い。また、熱間圧延鋼板、冷間圧延鋼板(SPCC鋼板)などの軟鋼あるいは高張力鋼の板や条鋼(条、線、棒、管など)、これに亜鉛メッキなどの表面処理を施した鋼板、またはステンレス鋼板などが適宜使用できる。要は、抵抗スポット溶接などの汎用される溶接接合が可能な鋼材であるならばいずれでもよい。ただ、軽量化と高強度化の両方が求められる場合には、高張力鋼を用いることが好ましい。
【0040】
(異材パネル構造部材)
図3に、上記図1、2の、本発明アルミニウム合金ルーフパネル10を、ルーフサイドレールなどの鋼パネル構造部材と接合した態様を、これら異材構造部材同士の横断面(車体幅方向の断面)として示す。図2において、1はルーフサイドレールなどの鋼製アウタパネル、5は鋼製インナパネルである。
【0041】
ここで、ルーフサイドレールに限らず、鋼パネル構造部材(アウタパネル1とインナパネル5)側の構造や形状は、自動車車体製作側の設計によって定まるものであり、本発明では何ら制約は無い。ただ、ルーフサイドレールなどのパネル構造材に共通する構造として、アウタパネル1は、構造部材としての必要形状である断面がHAT(帽子)型をし、車体側面側(図の右上方側)に張り出す平坦な頂部2と、この頂部2の側縁から縦方向(図の左下方側)に各々張り出す両側の縦壁3、3と、縦壁3、3から横方向(図の斜め左右方向)に各々張り出す両側のフランジ4、4とによって形成されている。
【0042】
また、インナパネル5も、構造部材としての必要形状として、アウタパネル1と同様、断面がHAT(帽子)型をしている。そして、車体内部側(図の左下方側)に張り出す平坦な頂部6と、この頂部6の側縁から縦方向(図の上下方向)に各々張り出す両側の縦壁7、7と、縦壁7、7から横方向(図の斜め左右方向)に各々張り出す両側のフランジ8、8によって形成されている態様を示している。
【0043】
図3において、○印16で示す接合部分が、アルミニウム合金パネル10における鋼板製のカラー14bとアウタパネル鋼板1のフランジ4との、および鋼板製のカラー14bとインナパネル鋼板5のフランジ8との、各々の鋼材同士の同種の接合部分である。また、×印15で示す接合部分が図1で説明した鋼板製のカラー14bとアルミニウム合金パネル10のフランジ13との異材接合部分である。
【0044】
この○印16で示す同種接合部分は、スポット溶接などの、通常の鋼材同士の汎用接合手段が使用でき、アルミニウム合金パネル10を使用するにもかかわらず、接合効率と接合強度が確保できることが大きな利点である。この同種接合部分は、上記した補強材としての必要接合強度や互いの設計形状に応じて、インナパネル鋼板5との接合箇所、位置、接合個数は適宜選択される。また、場合によっては、鋼板製のカラー14を、インナパネル鋼板5のみ、アウタパネル鋼板1のみ、などの態様で接合しても良い。
【0045】
なお、本態様では、鋼板製のカラー14を介して、○印16で示す同種接合部分のみで、アルミニウム合金パネル10と、ルーフサイドレールなどの鋼製アウタパネル1、鋼製インナパネル5とを接合する態様を示している。この態様以外に、場合によっては、鋼板製のカラー14を介さずに、アルミニウム合金パネル10と、ルーフサイドレールなどの鋼製アウタパネル1や鋼製インナパネル5などとを、直接異材接合しても良いが、その必要性自体は薄い。
【0046】
図3では、本発明アルミニウム合金ルーフパネル10をルーフサイドレールなどの鋼パネル構造部材と接合した態様を、ルーフパネル10の車体の片側(右側か左側のいずれか)半分のみで示しているが、もう一方のルーフパネル10の半分側(図1で説明した鋼板製のカラー14a側)も、その態様は左右対称に同じである。また、図示はしないが、アルミニウム合金ルーフパネル10における、車体前後側の鋼板製のカラー14c、14dも、鋼製のルーフリインフォースメントと、ルーフサイドレールなどの鋼パネル構造部材の場合と同様に接合される。
【0047】
(この他の態様)
以下に、本発明異材パネル構造部材として、フード、ドア、ピラー、サイドシル、ルーフサイドレールから選択されるパネル構造部材の、アウタパネルとインナパネルとを組み合わせる態様を示す。
【0048】
図4、5は、特にフードの異材パネル構造部材の態様を示している。この内、図4は、フードのアウタパネルとして、アルミニウム合金ルーフパネル10を用い、鋼製インナパネル5とともに、フードの異材パネル構造部材を形成する。
【0049】
一方、図5は、フードのインナパネルとして、アルミニウム合金ルーフパネル10を用い、鋼製アウタパネル1とともに、フードの異材パネル構造部材を形成するものである。
【0050】
図4、5とも、アウタパネルの外縁部のヘム部(曲げ部:フラットヘム部あるいはロ−プドヘム部)を、鋼板製のカラー17で形成している。即ち、図4では、予めヘム部を構成すべく成形した鋼板製のカラー17を、フードのアウタパネルとしてのアルミニウム合金パネル10の外縁部10aに、×印15部分で異材接合したものである。なお、図5でも同様であるが、鋼板製のカラー17は、異材接合後にヘム部を構成すべく成形しても良い。
【0051】
図5では、予めヘム部を構成すべく成形した鋼板製のカラー17を、フードのインナパネルとしてのアルミニウム合金パネル10の外縁部10aに、×印15部分で異材接合したものである。
【0052】
そして、図4、5とも、フードのインナパネル5あるいはアウタパネル1である鋼製パネルと、○印16で示す同種接合部分で、スポット溶接などの、通常の鋼材同士の汎用接合手段を使用して接合する。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、アルミニウム合金パネルを鋼製パネルと接合した異材パネル構造部材とするに際して、組み合わされるアルミニウム合金パネルと鋼製パネルとの異材接合部分を有さないか、あるいは異材接合部分が少ない、アルミニウム合金パネルおよび異材パネル構造部材を提供できる。したがって、鋼材とアルミニウム材との複合材化を簡便に可能にし、自動車車体などでの異材パネル構造部材化を拡大できる。この異材パネル構造部材とは、ルーフとルーフサイドレールとの組み合わせか、フード、ドア、ピラー、サイドシル、ルーフサイドレールから選択されるパネル構造部材のアウタパネルとインナパネルとの組み合わせである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明アルミニウム合金ルーフパネルの態様を例示する斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】本発明アルミニウム合金ルーフパネルを接合した、本発明異材パネル構造部材の態様を例示する断面図である。
【図4】本発明アルミニウム合金パネルを接合した、本発明異材フードパネル構造部材の態様を例示する斜視図である。
【図5】本発明アルミニウム合金パネルを接合した、本発明異材フードパネル構造部材の他の態様を例示する斜視図である。
【符号の説明】
【0055】
1:アウタパネル、2:頂部、3:縦壁、4:フランジ、5:インナパネル、
6:頂部、7:縦壁、8:フランジ、10:アルミニウム合金パネル、
11:頂部、12:縦壁、13:フランジ、14、17:鋼板製のカラー、
15:異材接合部、16:同種接合部、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製パネルと接合されて異材パネル構造部材を構成するアルミニウム合金パネルであって、必要形状に成形されたアルミニウム合金パネルの外縁部に、鋼板製のカラーが予め接合されており、この鋼板製のカラーを介して、前記鋼製パネルと接合されることを特徴とするアルミニウム合金パネル。
【請求項2】
前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが各々別の構造部材を形成している請求項1に記載のアルミニウム合金パネル。
【請求項3】
前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとで、アウタパネルとインナパネルとからなる異材パネル構造部材を構成する請求項1または2に記載のアルミニウム合金パネル。
【請求項4】
前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが、互いに前記鋼板製のカラーの部分のみで接合されており、前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが直接接合されたアルミニウム合金と鋼との異材接合部分を有さない、請求項1乃至3のいずれかに記載のアルミニウム合金パネル。
【請求項5】
鋼製パネルとアルミニウム合金パネルとが接合された異材パネル構造部材であって、必要形状に成形されたアルミニウム合金パネルの外縁部に、鋼板製のカラーが予め接合されており、この鋼板製のカラーを介して、前記鋼製パネルとアルミニウム合金パネルとが互いに接合されていることを特徴とする異材パネル構造部材。
【請求項6】
前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが各々別の構造部材を形成している請求項5に記載の異材パネル構造部材。
【請求項7】
前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとで、アウタパネルとインナパネルとからなる異材パネル構造部材を構成する請求項5または6に記載の異材パネル構造部材。
【請求項8】
前記アルミニウム合金パネルと前記鋼製パネルとが、互いに前記鋼板製のカラーの部分のみで接合されており、異材接合部分を有さない、請求項5乃至7のいずれかに記載の異材パネル構造部材。
【請求項9】
前記異材パネル構造部材が、ルーフとルーフサイドレールとの組み合わせか、フード、ドア、ピラー、サイドシル、ルーフサイドレールから選択されるパネル構造部材のアウタパネルとインナパネルとの組み合わせである請求項5乃至8のいずれかに記載の異材パネル構造部材。
【請求項10】
前記アルミニウム合金パネルが自動車車体組み立て工程とは別の工程で予め製造され、このアルミニウム合金パネルが、自動車車体組み立て工程の中で、前記鋼板製のカラーを介して、鋼製パネルと互いに接合される請求項5乃至9のいずれかに記載の異材パネル構造部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−239076(P2008−239076A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85310(P2007−85310)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願〔平成18年度 経済産業省 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの〕
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】