説明

自動車車体の前部構造

【課題】フック係止部に加わる下向きの引っ張り力に対する反力をフロントサイドメンバに伝達させてフック係止部が設けられる部位に集中荷重が掛からないようにできる自動車車体の前部構造を提供する。
【解決手段】タイダウンフック4が掛けられるフック係止部5が設けられた部位のバンパーレインフォース下端部3aと、フック係止部5が設けられる側のフロントサイドメンバ1の前端から車両下方へ垂下する部位であるレインフォースラジエータコアサイド7との間を車両前後方向に連結させる荷重伝達手段6を設けた。荷重伝達手段6は、フック係止部5に車両を床面に固縛るための牽引力F1が作用したときの反力F2を、フロントサイドメンバ1に伝達させる機能をする。また、この荷重伝達手段6は、3つの部品から構成し、そのうちの一つに入力荷重で潰れる脆弱部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばタイダウンフックが係止されるフック係止部を車体前部に有した自動車車体の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、船舶や車両積載車等に自動車を積載する場合、積載床面に設けたロープ先端に設けられたタイダウンフックを係止させるためのフック係止部を自動車車体の前部に設けた、自動車車体の前部構造が開示されている。
【0003】
この特許文献1に記載の技術では、車両前後方向に延在して配置される左右一対のフロントサイドメンバの前部に、ラジエータパネルアッパとラジエータパネルロアをアッパパネルサイドで連結させた枠体形状をなすラジエータコアサポートを取り付け、そのアッパパネルサイドの一部にタイダウンフックを係止させる係止孔をフック係止部として設けている。
【0004】
前記係止孔にタイダウンフックを係止させ、このタイダウンフックを先端に取り付けたロープを引っ張ると、タイダウンフックを介して前記フック係止部に牽引力が作用することで、自動車を積載床面に固縛することができる。
【特許文献1】特開2004−216975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の構造では、フック係止部に加わる下向きの引っ張り力に対する反力をフロントサイドメンバに伝達することができない構造になっているため、フック係止部が設けられる部位の剛性を高める必要がある。
【0006】
そこで本発明は、フック係止部に加わる下向きの引っ張り力に対する反力をフロントサイドメンバに伝達させてフック係止部が設けられる部位に集中荷重が掛からないようにできる自動車車体の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自動車車体の前部構造では、車両前後方向に延在して配置される左右一対のフロントサイドメンバの前端にバンパーステイを介して車幅方向にバンパーレインフォースを配置固定し、少なくとも一方のフロントサイドメンバと対応するバンパーレインフォースにタイダウンフックを係止させるフック係止部を設ける。
【0008】
そして、このフック係止部が設けられた部位のバンパーレインフォース下端部と、フロントサイドメンバの前端から車両下方へ垂下する部位との間を車両前後方向に連結させる荷重伝達手段を設け、その荷重伝達手段を、フック係止部に牽引力が作用したときの反力を前記フロントサイドメンバに伝達させる役目をさせる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の自動車車体の前部構造によれば、タイダウンフックが係止されるフック係止部に車両下方の床面方向へ作用する牽引力が作用したときに、このフック係止部が設けられる部位のバンパーレインフォース下端部とフロントサイドメンバの前端から車両下方へ垂下する部位との間に車両前後方向に連結させた荷重伝達手段に、前記牽引力による反力が伝達され、最終的にその反力がフロントサイドメンバへと伝えられる。したがって、本発明によれば、フック係止部に作用する牽引力に対する反力を、フロントサイドメンバで受け止めることができ、それによりフック係止部が設けられる部位に集中荷重が作用するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
「自動車車体の前部構造の構造説明」
図1は本実施形態の自動車車体の前部構造を車体下方から上方へ見たときの斜視図、図2は本実施形態の自動車車体の前部構造を車両側面から見たときの側面図、図3は図1の荷重伝達手段部位の要部拡大斜視図、図4は図1の荷重伝達手段の分解斜視図である。
【0012】
本実施形態の自動車車体の前部構造は、左右一対のフロントサイドメンバ1と、各フロントサイドメンバ1の前端に取り付けられるバンパーステイ2と、バンパーステイ2を介して一対のフロントサイドメンバ1の前端に車幅方向に配置固定されるバンパーレインフォース3と、一方のフロントサイドメンバ1と対向するバンパーレインフォース3の部位にタイダウンフック4が係止されるフック係止部5と、フック係止部5に牽引力が作用したときの反力をフロントサイドメンバ1に伝達する荷重伝達手段6と、を備えている。
【0013】
図1の矢印Aで示す方向は車幅方向、図2の矢印Bで示す方向は車両前後方向、図2の矢印Cで示す方向は車両前方、図2の矢印Dで示す方向は車両下方を表している。
【0014】
一対のフロントサイドメンバ1は、車両前後方向に延在して配置されると共に、車幅方向である左右に所定間隔を置いて平行に設けられている。各フロントサイドメンバ1の車両前方端部には、車両下方へ垂下する部位となるレインフォースラジエータコアサイド7が設けられている。左右のレインフォースラジエータコアサイド7の下端には、ラジエータを取り付けるためのラジエータコアサポートロアフレーム8が車幅方向に取り付けられている。
【0015】
また、各フロントサイドメンバ1の車両前方端部には、車両前方衝突時の入力荷重により潰れてその衝突荷重を吸収するバンパーステイ2が取り付けられている。そして、バンパーレインフォース3は、前記バンパーステイ2を介して一対のフロントサイドメンバ1の前端に車幅方向に配置固定されている。
【0016】
フック係止部5は、一方のフロントサイドメンバ1と対向するバンパーレインフォース3に設けられている。かかるフック係止部5は、例えば船舶や車載積載車などの床面に固定されたロープ9の先端に固定されたタイダウンフック4が係止される被係止部となるフックとされる。
【0017】
荷重伝達手段6は、フック係止部5が設けられた部位のバンパーレインフォース下端部3aと、フック係止部5が設けられる側のフロントサイドメンバ1の前端から車両下方へ垂下するレインフォースラジエータコアサイド7との間を車両前後方向に連結している。別の見方をすると、荷重伝達手段6は、レインフォースラジエータコアサイド7からその前方に配置されるバンパーレインフォース3のフック係止部5が設けられた部位へと斜め上方前方に設けられて該バンパーレインフォース3を下から支持するような支持梁構造として設けられている。
【0018】
かかる荷重伝達手段6は、バンパーレインフォース下端部3aに固定される第1部材10と、レインフォースラジエータコアサイド7に固定される第2部材11と、これら第1部材10と第2部材11に対してそれぞれ着脱自在に取り付けられる脆弱部となる第3部材12と、からなる。
【0019】
第1部材10は、例えばT字形状をなすステーとされ、ボルトとナット等の締結手段で前記バンパーレインフォース下端部3aに固定される。第2部材11は、例えば逆L字形状をなすステーとされ、同じくボルトとナット等の締結手段で前記レインフォースラジエータコアサイド7に固定される。第3部材12は、例えば長手方向のビード形状を有するプレートとして形成され、第1部材10と第2部材11に対してボルト13とナット14にて着脱自在に取り付けられている。なお、第1部材10には、前記ボルト13と結合する雌ねじ部15が形成されている。
【0020】
第3部材12は、バンパーレインフォース3に衝突荷重が入力したときに変形して衝撃を吸収する脆弱部として機能する。この第3部材12は、第1部材10及び第2部材11よりも板厚を薄くして強度を低下させることにより脆弱部とされている。
【0021】
なお、第1部材10、第2部材11及び第3部材12の形状は、何れも一実施形態であり、この形状に限定されるものではない。
【0022】
以上のように構成された自動車車体の前部構造では、例えば、船舶に車両が積載されて床面に固定されたロープ9の先端に取り付けられたタイダウンフック4が前記フック係止部5に係止された後、前記ロープ9が引っ張られることで、前記車両が積載床面に固縛される。このとき、フック係止部5には、図2の矢印F1で示すロープ長手方向の床面に向かう引っ張り荷重が作用する。
【0023】
また、前記荷重伝達手段6には、フック係止部5に掛かる引っ張り力F1に対する反力F2が作用する。前記反力F2は、この荷重伝達手段6の長手方向に伝達される。その結果、レインフォースラジエータコアサイド7には荷重伝達手段6から前記反力F2が伝達されることになり、最終的にレインフォースラジエータコアサイド7から前記反力F2がフロントサイドメンバ1に伝わる。荷重伝達手段6がない場合は、フック係止部5に掛かる引っ張り力F1がそのままフック係止部5に作用し、前記引っ張り力F1に対する反力F2がフロントサイドメンバ1に伝達されない。
【0024】
そのため、フック係止部5を取り付ける部位の剛性を高める必要が生じ、特に北米や欧州向けの場合等は、船舶に車両を長期間積載することになるためタイダウン耐久性能を満足させるには充分な補強が必要なる。しかし、本実施形態では、フック係止部5が引っ張られる引っ張り力F1に対する反力F2を荷重伝達手段6を介してフロントサイドメンバ1で受け止めることができるため、フック係止部5の取り付け部位の剛性を必要以上に高める必要がない。
【0025】
また、本実施形態の自動車車体の前部構造では、前方衝突した場合、衝突荷重がバンパーレインフォース3よりバンパーステイ2を介してフロントサイドメンバ1へと伝達されると共に荷重伝達手段6にも伝達される。このとき、バンパーステイ2の潰れに加えて、荷重伝達手段6の脆弱部とされた第3部材12も潰れることから衝突エネルギーを効率良く吸収することが可能となる。
【0026】
「作用・効果説明」
本実施形態によれば、タイダウンフック4が係止されるフック係止部5が設けられる部位のバンパーレインフォース下端部3aとフロントサイドメンバ1の前端から車両下方へ垂下する部位であるレインフォースラジエータコアサイド7との間に車両前後方向に連結させた荷重伝達手段6を設けたので、牽引によって引っ張られるフック係止部5に作用する牽引力に対する反力F2が、この荷重伝達手段6を介してレインフォースラジエータコアサイド7からフロントサイドメンバ1へと伝達される。これにより、フック係止部5に作用する引っ張り力F1に対する反力F2をフロントサイドメンバ1で受け止めることができ、当該フック係止部5の取り付け部位の剛性を必要以上に高めるための補強が不要となる。その結果、本実施形態の自動車車体の前部構造によれば、北米や欧州向けのタイダウン耐久性能も満足させることが可能となる。
【0027】
また、本実施形態によれば、荷重伝達手段6を設けたことにより、車体前部の剛性が向上し、操縦安定性能が高まると共に、音振性能も高まる。
【0028】
また、本実施形態によれば、荷重伝達手段6に、バンパーレインフォース3に衝突荷重が入力したときに変形して衝撃を吸収する脆弱部をその一部に設けているので、バンパーステイ2の潰れによる衝突エネルギー吸収に加えて、この脆弱部の潰れによる衝突エネルギー吸収により、より一層衝突時の衝撃を和らげることができる。
【0029】
また、本実施形態によれば、荷重伝達手段6を、第1部材10と第2部材11と第3部材12の3つの部材で構成し、第3部材12を第1部材10と第2部材11に対してそれぞれ着脱自在に取り付けたので、車両衝突時に変形した部材のみを交換することで足りる。
【0030】
また、本実施形態によれば、第1部材10と第2部材11の間に連結される第3部材12を脆弱部とし、その脆弱部を第1部材10及び第2部材11よりも板厚を薄くして強度を低下させたので、第3部材12がこれら第1部材10及び第2部材11に比べて衝突荷重を受けて変形し易くなる。
【0031】
また、本実施形態によれば、車両が軽度な衝突をした場合には、バンパーレインフォース3、バンパーステイ2、荷重伝達手段6の脆弱部である第3部材12のみが衝突荷重で変形するため、フロントサイドメンバ1の変形を抑制することができる。この場合、変形したエネルギー吸収部材を交換することで、車両の修理を簡単に行うことができる。
【0032】
以上、本発明を適用した具体的な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明の一例であり、この実施形態に制限されることはない。
【0033】
例えば、上述の実施形態では、第3部材12の脆弱部を第1部材10及び第2部材11よりも板厚を薄くして強度を低下させる構造としたが、板厚は全ての部材で同じとし、第3部材12の一部にスリットを入れるなどして他の部位よりも変形し易い変形容易部を脆弱部とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本実施形態の自動車車体の前部構造を車体下方から上方へ見たときの斜視図である。
【図2】図2は本実施形態の自動車車体の前部構造を車両側面から見たときの側面図である。
【図3】図3は図1の荷重伝達手段部位の要部拡大斜視図である。
【図4】図4は図1の荷重伝達手段の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1…フロントサイドメンバ
2…バンパーステイ
3…バンパーレインフォース
4…タイダウンフック
5…フック係止部
6…荷重伝達手段
7…レインフォースラジエータコアサイド(フロントサイドメンバの車両下方へ垂下する部位)
9…ロープ
10…第1部材(荷重伝達手段)
11…第2部材(荷重伝達手段)
12…第3部材(荷重伝達手段の脆弱部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延在して配置される左右一対のフロントサイドメンバと、
前記各フロントサイドメンバの前端に取り付けられるバンパーステイと、
前記左右一対のフロントサイドメンバの前端に前記バンパーステイを介して車幅方向に配置固定されるバンパーレインフォースと、
前記バンパーレインフォースの少なくとも一方のフロントサイドメンバと対向する部位にタイダウンフックが係止されるフック係止部と、
前記フック係止部が設けられた部位の前記バンパーレインフォース下端部と、該フック係止部が設けられる側の前記フロントサイドメンバの前端から車両下方へ垂下する部位との間を車両前後方向に連結させ、前記フック係止部に牽引力が作用したときの反力を該フロントサイドメンバに伝達する荷重伝達手段と、を備えた
ことを特徴とする自動車車体の前部構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車車体の前部構造であって、
前記荷重伝達手段には、前記バンパーレインフォースに衝突荷重が入力したときに変形して衝撃を吸収する脆弱部が設けられている
ことを特徴とする自動車車体の前部構造。
【請求項3】
請求項2に記載の自動車車体の前部構造であって、
前記荷重伝達手段は、前記バンパーレインフォース下端部に固定される第1部材と、前記フロントサイドメンバの前端から車両下方へ垂下する部位に固定される第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材に対してそれぞれ着脱自在に取り付けられる前記脆弱部となる第3部材と、からなる
ことを特徴とする自動車車体の前部構造。
【請求項4】
請求項3に記載の自動車車体の前部構造であって、
前記脆弱部は、前記第1部材及び第2部材よりも板厚を薄くして強度を低下させた
ことを特徴とする自動車車体の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−248895(P2009−248895A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102321(P2008−102321)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】