説明

自己始動型永久磁石同期電動機及びこれを用いた圧縮機

【課題】
電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機及び、あるいはこれを用いた圧縮機,空気調和機を提供すること。
【解決手段】
かご型巻線を構成するバーの、磁極ピッチで対角をなす少なくとも一対以上を、非導電性とする。
【効果】
投入位相,回転子位置によって生じる始動トルクの差異を低減・調整ができ、モータ効率を向上できる回転子構造を備えた自己始動型永久磁石同期電動機を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己始動型永久磁石同期電動機及びそれを用いた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機の長所は、堅牢な構造である上、商用電源による直入れ始動が可能なため、速度制御を必要としない一定速駆動の機械の駆動源として低コストに構成できる点にある。
【0003】
また、自己始動型永久磁石同期電動機は、誘導電動機と同様に商用電源での直入れ始動が可能であり、インバータを付加することなく駆動部を構成できる上、定常運転時の二次銅損が僅少となるため、誘導電動機に対し駆動システムの高効率化に大きく貢献できるメリットがある。
【0004】
一方、自己始動型永久磁石同期電動機の短所として、かご型巻線の内周側に永久磁石が配置されているため、回転子の磁束軸がすでに固定されていることが挙げられる。すなわち、始動時に回転子に生じる始動トルクは、かご型巻線に生じる誘導トルク,永久磁石磁束と電源印加によって生じる固定子磁束との吸引力,両者の合成となる。商用電源による直入れ始動では、インバータ駆動時のように回転子位置を特定できない(電圧位相を制御できない)ことから、始動時に印加される電圧の位相によっては、磁石磁束と固定子磁束とが反発する場合や、正規の回転方向と逆方向に吸引され、負のトルクを生じる場合がある。このことから、投入される電圧の位相、すなわち固定子磁束が発生する位置によって、始動時のトルクに大きな差異が生じる問題がある。
【0005】
従来、このような始動時のトルクの差異に対する具体的な解決策は提案されていなかったが、特許文献1に記載のように固定子から生じる偶数次、特に低次の高調波成分を抑制し、トルク変動を抑える手段が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−298578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自己始動型永久磁石同期電動機の始動時において、投入される電圧の位相により、始動トルクに差異が生じることは上述した。この理由と問題点について、下記に述べる。
【0008】
電源電圧の印加によって生じる固定子磁束が、永久磁石磁束に対し、正規の回転方向に対し遅れ側に発生した場合、回転子には正規の回転方向と逆方向に吸引される磁石トルクが生じる。回転子は軸受けにより回転自在に支持されていることから、負の回転方向へと移動する。この場合、固定子回転磁界は正転方向に回転をしているため、誘導電動機のすべり−トルク特性としてみると、すべりが1以上の領域から始動を開始するため、誘導トルクとしては所望の値に対し過大に発生する。
【0009】
この場合、電動機の軸受けに過大な応力がかかり、軸受け寿命が短くなってしまう問題や、出力軸端に取り付けられた機器に対し、大きなねじり応力が加えられ破壊に至るなど多大な悪影響を及ぼす恐れがある。
【0010】
一方、電源電圧の印加によって生じる固定子磁束が、永久磁石磁束に対し、正規の回転方向に対し進み側に発生した場合については、回転子には正転方向の磁石トルクが生じることから、かご型巻線に生ずる誘導トルクへの影響は比較的小さく、始動に対する大きな問題は発生しない。このような原理由により、電源の投入位相によって、発生し得る始動トルクに大きな差異が生じる。
【0011】
本発明の目的は、電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機及び、あるいはこれを用いた圧縮機,空気調和機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はその一面において、自己始動型永久磁石同期電動機において、起動時に前記かご型巻線によって生ずる磁束量が、磁極中心軸をd軸、磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸あるいはq軸いずれか一方の軸上近傍で最大となるように構成する。
【0013】
本発明は他の一面において、自己始動型永久磁石同期電動機において、かご型巻線を構成するバーの、磁極ピッチで対角をなす少なくとも一対以上を、非導電性とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の目的は、電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機及び、あるいはこれを用いた圧縮機,空気調和機を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、回転子鉄心の外周部に設けた複数のスロットと、スロット内に埋設した導電性のバーと、バーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとを具備するかご型巻線と、を有する回転子において、回転子鉄心は、スロットより内周側に配置した少なくとも1つの磁石挿入孔と、磁石挿入孔に埋設した少なくとも1つの永久磁石とを有し、起動時に前記かご型巻線によって生ずる磁束量が、磁極中心軸をd軸とし前記磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で最大となることを特徴とする。なお、ここで軸上近傍とは、各々の軸に対し電気角で0°〜±30°の範囲が好ましい。
【0016】
回転子の磁極中心軸をd軸とし磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で、かつ回転方向に対し遅れ側にある前記バーの少なくとも一本を非導電性とすることにより、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で磁束量が最大となる。また、スロットを、d軸上近傍で密になるように、回転方向に不等ピッチで配置させることにより、上記構成をとることもできる。さらに、スロットの配置ピッチを、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で、かつ回転方向に対し遅れ側で粗となり、他方の軸上近傍で密となるように構成することも有効である。
【0017】
また、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍の前記スロット断面積より、他方の軸上近傍の前記スロット断面積が大きくすることにより同様な構成をとることが可能である。
【0018】
非導電性とする観点から考察すると、回転子のd軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍に配置されるバーの少なくとも一本を非導電性とすることも好ましい。この場合、前記バーを空孔とするのが好ましい。また、回転子の回転軸方向における端部に、非導電性とする部位のみスロットを設けないように端版を配置し、かご型巻線をアルミダイカストまたは銅ダイカストで形成することも好ましい。
【0019】
また、かご型巻線のバーとエンドリングとが部分的に絶縁されており、絶縁箇所は、磁極中心軸をd軸、磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸,q軸いずれか一方の軸上近傍であり、磁極ピッチで対角をなす少なくとも一対であることによっても、本発明の構成をとることができる。絶縁箇所は、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍でかつ回転方向に対し遅れ側にあることも有用である。なお、絶縁箇所は、かご型巻線をアルミダイカストで形成した後に、バーとエンドリングとの接合部分を切削加工して形成することもできる。また、絶縁箇所は、バーと物理的に接触しない部位を有するエンドリングとを摩擦攪拌接合することが好ましい。
【0020】
また、スロットをd軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍であり、磁極ピッチで対角をなす部位に少なくとも一対以上配置しないことによっても本発明の効果が得られる。
【0021】
回転子,軸方向に対し複数のセグメントに分割され、各々のセグメントの回転方向位置は前記バーの配置ピッチと等しい角度にずらして配置されることを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【0022】
また、出力側の前記エンドリングの軸方向長さが、他方の前記エンドリングの軸方向長さより、長いことが好ましい。
【0023】
さらに、かご型巻線において前記バーと前記エンドリングとを摩擦攪拌接合で接合して形成することが好ましい。
【0024】
また、固定子鉄心に設けられた多数の固定子スロットと、固定子スロット内に設けられた、U相,V相,W相からなる電機子巻線を有し、毎極毎相を構成する固定子スロットのうち、少なくとも一対の固定子スロットに納められる電機子巻線の巻数が、他の対と異なる固定子を具備する構成が良く、これらの構成をとる電動機と、冷媒を吸い込んで圧縮し吐出する圧縮機構とを具備するエネルギー変換装置又は冷凍空調装置が好ましい。
【0025】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、本発明の第1の実施例による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の径方向断面図である。また、図2には本発明の第1の実施例による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子軸方向構成図を示し、図3に本発明の第1の実施例による回転子端版形状を、図4には本実施例による電源投入位相に対する始動トルク測定結果を示す。
【0027】
図1において、回転子1は、シャフト6上に設けられた回転子鉄心2の内部に、多数の回転子スロット8とその内部に設けられた始動用導体バー3と、磁石挿入孔7に埋設した永久磁石4を、磁極数が2極となるように配置して構成している。
【0028】
ここで、永久磁石4は、希土類を主成分とする焼結磁石であり、厚み方向の断面形状が略台形状をなしており、複数のセグメント(図では4枚:4A,4B,4C,4D)に分けて磁石挿入孔7に各々埋設している。
【0029】
なお、永久磁石4のセグメント数は少なくとも1つ以上であれば構成可能であるので、4枚以下あるいは4枚以上でもよく、断面形状が略方形となるものでも構成可能である。あるいは略円弧状の断面形状を有していても良い。また、磁石の主成分としてフェライト系でも構成できるが、希土類が好ましく、焼結磁石の他にボンド磁石で形成することも可能である。
【0030】
また、磁極間には空孔5(5A,5Bからなる)を施し、磁極間に生ずる漏洩磁束の防止に配慮している。
【0031】
同図において、永久磁石4によって構成された磁極中心軸をd軸、d軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とした場合、d軸最寄でかつ回転方向に対し遅れ側に位置し、かつ磁極ピッチで対角するスロット8′を空孔としている。ここで、本実施例では3対を空孔としたが、少なくとも一対以上を設ければ良いため、3対よりも多く、または少なく構成させても良い。また、スロット8′は空孔としているが、非導電性部位として構成させれば良いので、樹脂等の非導電性材料を埋設して形成しても良い。
【0032】
図2において、回転子鉄心2の両端面には、回転子端版9(9A,9B)を配置している。この端版9を介して、アルミダイカスト、または銅ダイカストによりエンドリング10(10A,10B)を形成し、このエンドリング10が始動用導体バー3を周方向に短絡させることで、かご型巻線が形成される。
【0033】
同図において、エンドリング10は、出力軸側のエンドリング10A、反出力軸側のエンドリング10Bとで異なる形状としており、具体的には反出力軸側のエンドリング10Bの軸方向長L2に対し、出力軸側のエンドリング10Aの軸方向長L1を短くすると共に、エンドリング断面積が出力軸側で小、反出力軸側で大となるように構成している。これにより、反出力軸側のエンドリングに冷却用のフィンやバランスウェイト(いずれも図示せず)を取り付ける寸法を確保できる。
【0034】
また、端版9は、出力軸側には端版9Aを、反出力軸側には端版9Bを配置している。
【0035】
図3において、端版9は回転子鉄心2と略同一の断面形状を有しているが、異なる点は、d軸最寄でかつ回転方向遅れ側に位置し磁極ピッチで対角をなすスロット8′の位置に該当する部分のみスロット8を設けていない点である。このように構成した端版をd軸,q軸各々の位置関係を整合させて回転子鉄心2の両端面へ配置し、これを介してダイカストすることで、スロット8への導電性材料の流入を防ぐことができ、空孔とすべきスロット8′を形成できる。
【0036】
ここで、同図(1)に示す出力軸側に配置される端版9Aと、同図(2)に示す反出力軸側に配置する端版9Bとの構造上の違いであるが、出力軸側に配置する端版9Aにのみ磁石挿入孔7を設けている点にある。このように構成することで、出力軸側からの磁石挿入が可能となり、かつダイカスト時の導電性材料の反出力軸側から磁石挿入孔7への流入を防止できる。また、端版9の材質は、金属材料で、かつ非磁性材料で構成することが望ましい。
【0037】
このように自己始動型永久磁石同期電動機の回転子を構成した場合、次のような効果がある。
【0038】
図4において、電源の投入位相による始動トルクの関係を測定したところ、図中点線で示すように、従来構造では、発生する始動トルクは、投入位相によって大きな差異が生じるこが分かった。すなわち、投入位相0°近傍が顕著であり、必要始動トルクの約2倍以上のトルクが発生するのである。
【0039】
この理由は、電源電圧の印加によって生じる固定子磁束が、永久磁石磁束に対し、正規の回転方向に対し遅れ側に発生し、回転子には正転方向と逆方向に吸引される磁石トルクが生じていることが挙げられる。つまり、回転子は軸受けにより回転自在に支持されていることから、負の回転方向へと移動を始めるため、誘導電動機のすべり−トルク特性としてみると、すべりが1以上の領域から始動を開始することとなり、誘導トルクとして過大に発生するためである。この場合、電動機の軸受けに過大な応力がかかり、軸受け破損や寿命の短縮等の問題がある。
【0040】
そこで、図1〜図3にて述べた構成の回転子を適用した電動機に対し、同様の試験を実施したところ、図4中の実線で示す特性となり、投入位相に対する始動トルクの差異を大幅に低減することができた。この現象は、図1で述べたようにd軸最寄に位置するスロットを非導電性とすることで生じる事が分かった。
【0041】
この理由は、この非導電性としたスロットについては始動時に誘導される電流は発生しないため、始動時にかご型巻線に発生する誘導磁界を一時的に低減でき、投入位相0°近傍における始動トルクを低減できることにある。
【0042】
また、非導電性とするスロットの配置や本数について、始動トルクが増大する傾向にある電源投入位相の条件下で、種々実験によるパラメータサーベイを実施したところ、次のことが確認された。
【0043】
(1)非導電性部位とする回転子スロットは、d軸最寄に位置し、かつ回転方向に対し遅れ側に配置した場合に始動トルクは最も手減され、q軸に近付けるに従って増加傾向を示し、q軸最寄に位置させ、かつ回転方向に対し遅れ側に配置した場合に最も大きくなる。
【0044】
(2)d軸最寄に位置し、かつ回転方向に対し遅れ側に配置した非導電性スロットは、その本数を増やすにつれ、始動トルクが低減する。
【0045】
この結果を鑑み、図1に示す回転子構造とすることで、電源投入位相に対する始動トルクの差異を低減でき、安定した始動トルクを発生させることができる。また、非導電性部位の配置や本数を変更することで、機器に応じた始動トルクを調整できる自己始動型永久磁石同期電動機を提供できる。
【実施例2】
【0046】
図5は、本発明の第2の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図を示し、図6に本実施例による電源投入位相に対する始動トルク測定結果を示す。図5において、図1と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0047】
本構成が図1と異なる点は、非導電性とするスロット8′をq軸最寄でかつ回転方向に対し遅れ側に配置していることである。
【0048】
このように構成すれば、図6中の実線で示すように、投入位相が0°近傍において、図1とは逆に始動トルクを大きくすることができる。つまり、外部回路(図示せず)等を用いて投入位相を制御することで、始動時のみ大トルクを有する負荷に対応できる効果がある。
【実施例3】
【0049】
図7は、本発明の第3の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図を示し、図8には本発明の第3の実施例に係る同期電動機の回転子の軸方向構成図を、図9に本発明の第3の実施例による回転子端版形状を示す。
【0050】
図7〜図9において、図1〜図3と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0051】
本構成が図1〜図3と異なる点は、端版9に設けたスロット8が周方向全周に配置されており、この端版を回転子鉄心2の両端面(出力軸側に9A、反出力軸側に9B)に配した後に、アルミダイカストや銅ダイカストにてかご型巻線を構成、その後に図7に示すA−A′の部分(d軸最寄でありかつ回転方向に対し遅れ側に位置する部位)の始動用導体バー3およびエンドリング10との接合部を電気的に切り離す絶縁部17を設けた点にある。
【0052】
この絶縁部17は機械加工(例えば放電加工,ワイヤカット)等で切削する構成が望ましいが、耐熱性の高い絶縁材料(例えばセラミックス等)を設けても構成できる。
【0053】
このように構成すれば、図1と同様の効果が得られるとともに、端版形状に依存することなく、非導電性としたいバー本数、および配置などが任意に調整できる。
【0054】
また、本構造について、d軸とq軸との関係を反転させることで、図6と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0055】
図10は、本発明の第4の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図を示す。
【0056】
図10において、図1と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0057】
本構成が図1と異なる点は、d軸最寄でありかつ回転方向に対し遅れ側に位置する部位にスロット8を配置しない点にある。
【0058】
このように構成しても、図1と同様の効果が得られるとともに、d軸方向の磁路が拡大されるため、誘導起電力の向上による特性向上、および機械強度の確保に寄与できる。
【0059】
また、本構造について、d軸とq軸との関係を反転させることで、図6と同様の効果を得ることができる。
【実施例5】
【0060】
図11は、本発明の第5の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図を示し、図12には、本発明の第5の実施例に係る同期電動機の回転子の軸方向構成図を示す。ここで図11(1)は、図12におけるA−A′断面の矢視図、図11(2)は、図12におけるB−B′断面の矢視図を各々示している。
【0061】
図において、図1,図2と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0062】
本構成が図1,図2と異なる点は、回転子鉄心2を2A,2Bからなる2つのセグメントを軸方向に分けて構成している点にある。また、回転子鉄心2Bのd軸を回転子鉄心2Aに対し、始動用導体バー3の1ピッチ分ずらして構成している点にある。ここで、非導電性とするスロット8′は、回転子鉄心2Aと2Bとで周方向で一致させている。
【0063】
このように構成すれば、図1と同様の効果が得られるとともに、スキューの効果が得られるため、振動・騒音の低減効果に寄与できる。
【0064】
また、本構造について、d軸とq軸との関係を反転させることで、図6と同様の効果を得ることができる。
【実施例6】
【0065】
図13は、本発明の第6の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図を示す。
【0066】
図において、図1と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0067】
本構成が図1と異なる点は、回転子スロット8の配置ピッチを、d軸最寄でありかつ回転方向に対し遅れ側に位置する部位を密、この密とした位置から電気角で90°ずれた位置に向かうに従い粗、すなわち回転子スロット3のピッチ角τを、τAからτGに向かうに従い大きくなるように配置した点にある。
【0068】
このように構成すれば、d軸近傍に位置する導体バー3はピッチ角τが小さいため、バー3間に有する回転子鉄心2の磁気飽和により、始動時の固定子磁束と鎖交し難くなることにより導体バー3に誘導される電流が制限される。一方、q軸近傍に位置する導体バー3はピッチ角τが大きいため、始動時の固定子磁束と鎖交し易い。よってq軸近傍の導体バー3に誘導される電流が大きく発生する。
【0069】
この結果、図1と同様の効果が得られる。
【0070】
また、本構造について、d軸とq軸との関係を反転させることで、図6と同様の効果を得ることができる。
【実施例7】
【0071】
図14は、本発明の第7の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図を示す。
【0072】
図において、図1と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0073】
本構成が図1と異なる点は、回転子スロット8の断面積を、d軸最寄でありかつ回転方向に対し遅れ側に位置する部位を小、この小とした位置から電気角で90°ずれた位置に向かうに従い大となるように、すなわち回転子スロット3Fが最小断面積、3Aに向かうに従い大きく配置した点にある。
【0074】
このように構成すれば、始動時に始動用導体バー3に誘導される電流が制限され、d軸で小、q軸で大とすることができるため、結果的に図1と同様の効果が得られる。
【0075】
また、本構造について、d軸とq軸との関係を反転させることで、図6と同様の効果を得ることができる。
【実施例8】
【0076】
図15は、本発明の第8の実施例に係る同期電動機の回転子の軸方向構成図を示す。
【0077】
図において、図2と同一構成要素には同一符号を付け、重複説明は避ける。
【0078】
本構成が図2と異なる点は、かご型巻線の形成方法として、導電性の塊状金属で形成された始動用導体バー(図示せず)と導電性の塊状金属で形成されたエンドリング10とを、摩擦攪拌接合にて接合し、かご型巻線を構成し、ダイカストを用いていない点にある。
【0079】
上述した全ての回転子をこのように構成すれば、端版を排除でき、かつダイカスト時に生ずる巣が生じないため、かご型巻線の電気的な機能を安定化できる。
【実施例9】
【0080】
図16には本発明の第9の実施例による固定子径方向断面形状を示す。
【0081】
図16において、固定子11は、固定子鉄心12に設けられた多数の固定子スロット(本実施例では30個)に、U相コイル14(14A〜14E),V相コイル16(16A〜16E),W相コイル15(15A〜15E)を埋設して形成している。また、各々の相において、巻装されるコイルの巻数の関係は、A,B,D,Eは等しく、Cのみ他の巻数より少なくなるように巻装している。あるいは、A=E>B=D=Cのように構成することも可能である。
【0082】
このように構成した固定子は、巻線の配置によって生ずる起磁力高調波を低減でき、かつ一相あたりの巻線数を厳密に調整できることから、上述した全ての回転子と組合せることで、始動時に生ずる高調波非同期トルクを低減できると同時に、回転子導体本数と固定子巻数との比を厳密に調整できることから、始動トルクの調整範囲をさらに広げることができる。
【実施例10】
【0083】
図17は、本発明の第10の実施例による圧縮機の断面構造図である。
【0084】
図17において、圧縮機82の構造について以下説明する。圧縮機構部83は、固定スクロール部材60の端板61に直立する渦巻状ラップ62と、旋回スクロール部材63の端板64に直立する渦巻状ラップ65とを噛み合わせて形成されている。
【0085】
そして、旋回スクロール部材63をクランクシャフト6によって旋回運動させることで圧縮動作を行う。
【0086】
固定スクロール部材60及び旋回スクロール部材63によって形成される圧縮室66(66a,66b,……)のうち、最も外径側に位置している圧縮室66は、旋回運動に伴って両スクロール部材60,63の中心に向かって移動し、容積が次第に縮小する。
【0087】
両圧縮室66a,66bが両スクロール部材60,63の中心近傍に達すると、両圧縮室66内の圧縮ガスは圧縮室66と連通した吐出口67から吐出される。
【0088】
吐出された圧縮ガスは、固定スクロール部材60及びフレーム68に設けられたガス通路(図示せず)を通ってフレーム68下部の圧力容器69内に至り、圧力容器69の側壁に設けられた吐出パイプ70から圧縮機外に排出される。
【0089】
圧力容器69内に、図1〜図16にて説明したように、固定子11と回転子1とで構成される自己始動型永久磁石同期電動機18が内封されており、一定速度で回転し、圧縮動作を行う。
【0090】
電動機18の下部には、油溜部71が設けられている。油溜部71内の油は回転運動により生ずる圧力差によって、クランクシャフト6内に設けられた油孔72を通って、旋回スクロール部材63とクランクシャフト6との摺動部、滑り軸受け73等の潤滑に供される。
【0091】
このように、圧縮機駆動用電動機として、図1〜図4,図7〜図16で述べた自己始動型永久磁石同期電動機を適用すれば、一定速圧縮機の高効率化を実現できるとともに、電源投入位相によって過大に生じる始動トルクが軽減できるため、軸受け73や旋回スクロール部材63の応力破壊を防止できるなど、信頼性の向上に寄与することができる。
【0092】
また、図5,図6の電動機を用いれば、瞬時的にトルクが必要な場合に対応できる。
【実施例11】
【0093】
図18は、本発明の第11の実施例による空気調和機の冷凍サイクルを示す図である。
【0094】
図において、80は室外機、81は室内機、82は圧縮機であり、圧縮機82内には自己始動型永久磁石同期電動機18と圧縮機構部83が封入されている。84は凝縮器、85は膨張弁、86は蒸発器である。
【0095】
冷凍サイクルは冷媒を矢印の方向に循環させ、圧縮機82は冷媒を圧縮して凝縮器84、膨張弁85からなる室外機80と、蒸発器86からなる室内機81間で熱交換を行って冷房機能を発揮する。
【0096】
本発明で示した自己始動型永久磁石同期電動機18を空気調和機,冷蔵および冷凍装置などの圧縮機に使用すると、自己始動型永久磁石同期電動機18の効率向上により入力を低減できることから、地球温暖化につながるCO2の排出を削減できる効果がある。また、信頼性の向上にも寄与できる。
【0097】
以上、本発明によれば、電源の投入タイミングや電圧の位相によって変化する固定子磁束の発生位置に関わらず、安定した始動トルクを発生でき、かつ始動トルクを任意に調整できる自己始動型永久磁石同期電動機及び、あるいはこれを用いた圧縮機,空気調和機,冷蔵,冷凍装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第1の実施例による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図2】本発明の第1の実施例による自己始動型永久磁石同期電動機の回転子軸方向構成図。
【図3】本発明の第1の実施例による回転子端版形状。
【図4】本実施例による電源投入位相に対する始動トルク測定結果。
【図5】本発明の第2の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図6】本実施例による電源投入位相に対する始動トルク測定結果。
【図7】本発明の第3の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図8】本発明の第3の実施例に係る同期電動機の回転子の軸方向構成図。
【図9】第3の実施例による回転子端版形状。
【図10】本発明の第4の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図11】本発明の第5の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図12】本発明の第5の実施例に係る同期電動機の回転子の軸方向構成図。
【図13】本発明の第6の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図14】本発明の第7の実施例に係る同期電動機の回転子の径方向断面図。
【図15】本発明の第8の実施例に係る同期電動機の回転子の軸方向構成図。
【図16】本発明の第9の実施例による固定子径方向断面形状。
【図17】本発明の第10の実施例による圧縮機の断面構造図。
【図18】本発明の第11の実施例による空気調和機の冷凍サイクル。
【符号の説明】
【0099】
1 回転子
2 回転子鉄心
3 始動用導体バー
4 永久磁石
5 空孔
6 シャフト又はクランクシャフト
7 磁石挿入孔
8 回転子スロット
9 回転子端版
10 エンドリング
11 固定子
12 固定子鉄心
13 固定子スロット
14 U相コイル
15 W相コイル
16 V相コイル
17 絶縁部
18 自己始動型永久磁石同期電動機
60 固定スクロール部材
61,64 端板
62,65 渦巻状ラップ
63 旋回スクロール部材
66 圧縮室
67 吐出口
68 フレーム
69 圧力容器
70 吐出パイプ
71 油溜部
72 油孔
73 滑り軸受け
80 室外機
81 室内機
82 圧縮機
83 圧縮機構部
84 凝縮機
85 膨張弁
86 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心の外周部に設けた複数のスロットと、
前記スロット内に埋設した導電性のバーと、前記バーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとを具備するかご型巻線と、を有する回転子において、
前記回転子鉄心は、前記スロットより内周側に配置した少なくとも1つの磁石挿入孔と、前記磁石挿入孔に埋設した少なくとも1つの永久磁石とを有し、
起動時に前記かご型巻線によって生ずる磁束量が、磁極中心軸をd軸とし前記磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で最大となることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項2】
前記回転子の磁極中心軸をd軸とし磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で、かつ回転方向に対し遅れ側にある前記バーの少なくとも一本を非導電性とすることを特徴とする請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項3】
前記スロットを、d軸上近傍で密になるように、回転方向に不等ピッチで配置させたことを特徴とする請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項4】
前記スロットの配置ピッチを、磁極中心軸をd軸とし、磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍で、かつ回転方向に対し遅れ側で粗となり、他方の軸上近傍で密となるように構成することを特徴とする請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項5】
前記スロットの配置ピッチを、磁極中心軸をd軸、磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸,q軸いずれか一方の軸上近傍で、かつ回転方向に対し遅れ側で粗、他方の軸上近傍で密となるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項6】
前記スロットの断面積を、磁極中心軸をd軸とし磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍の前記スロット断面積より、他方の軸上近傍の前記スロット断面積が大きいことを特徴とする請求項1に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項7】
回転子鉄心の外周部に設けた複数のスロットと、
前記スロット内に埋設した導電性のバーと、前記バーを回転軸方向の両端面で短絡させる導電性のエンドリングとを具備するかご型巻線と、を有する回転子において、
前記回転子鉄心は、前記スロットより内周側に配置した少なくとも1つの磁石挿入孔と、前記磁石挿入孔に埋設した少なくとも1つの永久磁石とを有し、
前記回転子の、磁極中心軸をd軸とし磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍に配置される前記バーの少なくとも一本を非導電性とすることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項8】
非導電性とする前記バーを空孔とすることを特徴とする請求項7に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項9】
前記回転子の回転軸方向における端部に、非導電性とする部位のみ前記スロットを設けないように端版を配置し、前記かご型巻線をアルミダイカストまたは銅ダイカストで形成することを特徴とする請求項7に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項10】
回転子鉄心の外周部に設けた複数のスロットと、
前記スロット内に埋設した導電性のバーと、前記バーを軸方向両端面で短絡する導電性のエンドリングとを具備するかご型巻線と、を有する回転子において、
前記回転子鉄心は、前記スロットより内周側に配置した少なくとも1つの磁石挿入孔と、前記磁石挿入孔に埋設した少なくとも1つの永久磁石とを有し、
前記かご型巻線の前記バーと前記エンドリングとが部分的に絶縁されており、
該絶縁箇所は、磁極中心軸をd軸、磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍であり、磁極ピッチで対角をなす少なくとも一対であることを特徴とする自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項11】
前記絶縁箇所は、磁極中心軸をd軸、磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍でかつ回転方向に対し遅れ側にあることを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項12】
前記絶縁箇所は、前記かご型巻線をアルミダイカストで形成した後に、前記バーと前記エンドリングとの接合部分を切削加工して形成することを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項13】
前記絶縁箇所は、前記バーと物理的に接触しない部位を有する前記エンドリングとを摩擦攪拌接合することで形成することを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項14】
前記スロットを、磁極中心軸をd軸とし磁極中心軸から電気角で90°ずれた軸をq軸とすると、d軸或いはq軸いずれか一方の軸上近傍であり、磁極ピッチで対角をなす部位に少なくとも一対以上配置しないことを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項15】
前記回転子,軸方向に対し複数のセグメントに分割され、
各々のセグメントの回転方向位置は前記バーの配置ピッチと等しい角度にずらして配置されることを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項16】
前記回転子の軸方向の両端にエンドリングを有し、
出力側の前記エンドリングの軸方向長さが、他方の前記エンドリングの軸方向長さより、長いことを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項17】
前記かご型巻線において前記バーと前記エンドリングとを摩擦攪拌接合で接合して形成することを特徴とする請求項10に記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項18】
固定子鉄心に設けられた多数の固定子スロットと、該固定子スロット内に設けられた、U相,V相,W相からなる電機子巻線を有し、毎極毎相を構成する前記固定子スロットのうち、少なくとも一対の固定子スロットに納められる前記電機子巻線の巻数が、他の対と異なる固定子を具備する請求項10記載の自己始動型永久磁石同期電動機。
【請求項19】
前記電動機が一定速で駆動し、駆動エネルギーを他のエネルギーに変換するエネルギー変換装置において、
前記エネルギー変換装置は、冷媒を吸い込んで圧縮し吐出する圧縮機構と、
請求項18に記載の自己始動型永久磁石同期電動機とを有することを特徴とするエネルギー変換装置。
【請求項20】
請求項19に記載の圧縮機を具備する冷凍空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−153307(P2009−153307A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329483(P2007−329483)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】