説明

色変換テーブルの作成方法

【課題】印刷材を用いる印刷装置において、印刷材の総量を基準以内に収めつつ、色の再現性の低下を抑制する。
【解決手段】RGB色データを印刷材色データに変換するための色変換テーブルの作成方法は、(a)色域表面の特定色点を通る色相ライン上のRGB色データに、印刷材色データを対応付けた色相ラインデータを準備する工程と、(b)色相ラインデータにおいて、特定色点に対応付けられた印刷材色データに基づく印刷材の総量が、総量基準を超えているか否かを判断する工程と、(c)印刷材の総量が総量基準を超えている場合に、印刷材色データに基づく印刷材の総量が総量基準を超えず、かつ、白色点から特定色点までの色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて印刷材色データが変化するように、色相ラインデータを補正する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置のための色変換テーブルを作成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
用紙上にインクを吐出することによってインクドットを形成して画像を印刷するインクジェット式の印刷装置が広く使用されている。このような印刷装置において、印刷の品質を保つために、用紙上に吐出するインク量を制限する技術が知られている(例えば、特許文献1)。この技術は、印刷に用いるインクに対応する表色系(具体的には、CMYK表色系)の色データに対して階調補正を行った後に、補正後の色データに基づくインクの総量が、規制値以内であるか否かの判断(インク総量判断)を行っている。そして、この技術は、補正後の色データに基づくインクの総量が規制値を超えている場合には、補正前の色データを調整した後に、再び階調補正、および、インク総量判断を行い、最終的に、補正後の色データに基づくインクの総量が、規制値以内に収まるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−125225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、インクの総量を規制値以内に収めるために、印刷装置による色の再現性が損なわれる可能性があった。例えば、インク総量判断に基づく調整の結果、異なる2つの色データが同じ値になり、異なる2つの色データの階調差が失われる場合があった。このような課題は、インクジェット式の印刷装置に限らず、印刷材を用いる印刷装置に共通する課題であった。
【0005】
本発明の主な利点は、印刷材を用いる印刷装置において、印刷材の総量を基準以内に収めつつ、色の再現性の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]RGB色空間におけるRGB色データを、印刷装置の印刷材に対応する色データであって、少なくとも3種類の印刷材の各階調値を含む印刷材色データに変換するための色変換テーブルの作成方法であって、
(a)前記RGB色空間の色域表面の色相ライン上のRGB色データに、前記印刷材色データを対応付けた色相ラインデータを準備する工程であって、前記色相ラインは、前記RGB色空間における白色点と特定色点を結ぶとともに前記特定色点と黒色点とを結ぶラインであって、前記特定色点は、RGB色成分のうちの1つの色成分が最大値であるとともに、他の1つの色成分が最小値である色を表す点である、工程と、
(b)前記色相ラインデータにおいて、前記特定色点に対応付けられた前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が、総量基準を超えているか否かを判断する工程と、
(c)前記(b)工程において前記印刷材の総量が前記総量基準を超えている場合に、前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が前記総量基準を超えず、かつ、前記白色点から前記特定色点までの前記色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて前記印刷材色データが変化するように、前記色相ラインデータの前記印刷材色データを補正する工程と、
(d)前記(c)工程において補正された前記色相ラインデータを用いて、前記RGB色空間におけるRGB色データと前記印刷材色データとの対応関係を決定する工程と、
を備える、色変換テーブルの作成方法。
【0008】
上記構成によれば、RGB色成分のうちの1つの色成分が最大値であるとともに、他の1つの色成分が最小値である色を表す特定色点において、対応する印刷材色データに基づく印刷材の総量が、総量基準を超えている場合に、印刷材の総量規制が行われると、一般的に、特定色点より白色点側の色相ライン上において、印刷材色データの階調が損なわれやすい。上記構成によれば、特定色点に対応付けられた印刷材色データに基づく印刷材の総量が、総量基準を超えている場合に、色相ラインデータを補正する。この補正は、印刷材色データに基づく印刷材の総量が総量基準を超えず、かつ、白色点から特定色点までの色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて前記印刷材色データが変化するように、行われる。この結果、印刷材の総量を基準以内に収めつつ、階調が損なわれる可能性を低減して色の再現性の低下を抑制することができる色変換テーブルを作成することができる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の色変換テーブルの作成方法であって、さらに、
(e)前記(b)工程の前に、前記色相ラインデータに対して、前記印刷装置のための印刷データを生成する際に実行される特定補正を実行する工程と、
(f)前記(d)工程の前に、前記(c)工程において補正された前記色相ラインデータに対して、逆特定補正を実行する工程であって、前記逆特定補正は、前記特定補正が実行された前記印刷材色データを、前記特定補正が実行される前の前記印刷材色データに戻す補正である、工程と、
を備える、色変換テーブルの作成方法。
【0010】
上記構成によれば、印刷データを生成する際に印刷材色データに対して特定補正が行われる場合に、階調が損なわれる可能性を適切に低減することができる色変換テーブルを作成することができる。
【0011】
[適用例3]適用例2に記載の色変換テーブルの作成方法であって、さらに、
(g)前記RGB色空間の無彩色軸上のRGB色データに、前記印刷材色データを対応付けた無彩色データを準備する工程と、
(h)前記無彩色データに対して、前記特定補正を実行する工程と、
(i)前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が前記総量基準を超えないように、前記特定補正が実行された無彩色データを補正する工程と、
(j)前記(i)工程において補正された前記無彩色データに対して、前記逆特定補正を実行する工程と、
を備え、
前記(d)工程は、さらに、前記(j)工程において前記逆特定補正が実行された前記無彩色データを用いて、前記対応関係を決定する工程である、色変換テーブルの作成方法。
【0012】
上記構成によれば、無彩色データを用いて、さらに、適切な色変換テーブルを作成することができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載の色変換テーブルの作成方法であって、
前記(c)工程における補正は、前記白色点から前記特定色点までの前記色相ライン上の前記RGB色データに対応付けられた各印刷材色データの各成分値に同じ係数を乗じる補正である、色変換テーブルの作成方法。
【0014】
上記構成によれば、補正前の各印刷材色データの階調変化の傾向を維持するように、色相ラインデータを補正できる。この結果、印刷装置において、適切に階調変化を維持することができる色変換テーブルを作成することができる。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、色変換テーブルの作成装置、この装置の機能または上記方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施例における色変換テーブル作成装置100の構成を示すブロック図である。
【図2】色変換テーブルPFDの一例を説明する図である。
【図3】色変換テーブルPFDを作成する処理のステップを示すフローチャートである。
【図4】色相ラインについて説明する図である。
【図5】印刷材色データがCMY色データである場合の色相ラインデータについて説明する図である。
【図6】印刷材色データがCMYK色データである場合のラインデータについて説明する図である。
【図7】印刷材色データがCMYK色データである場合のラインデータについて説明する図である。
【図8】印刷データ生成処理のステップを示すフローチャートである。
【図9】キャリブレーション処理および逆キャリブレーション処理について説明する図である。
【図10】本変形例における色相ラインデータの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施例:
A−1.色変換テーブル作成装置の構成:
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、第1実施例における色変換テーブルの作成方法を実現する色変換テーブル作成装置100の構成を示すブロック図である。
【0018】
色変換テーブル作成装置100は、周知の計算機(例えば、パーソナルコンピュータ)である。色変換テーブル作成装置100は、CPU110と、ROM、RAM、あるいは、ハードディスクなどの記憶装置130と、外部機器と接続するためのインタフェースを含む通信部140と、マウスやキーボードなどの操作部150と、ディスプレイなどの表示部160とを備えている。通信部140は、外部機器との間でデータ通信を行う。例えば、通信部140は、作成された色変換テーブルのデータを、外部機器(例えば、複合機、プリンタ、他の計算機、外部の記憶装置)に出力する。
【0019】
記憶装置130には、色変換テーブル作成プログラム131が格納されている。色変換テーブル作成プログラム131は、例えば、半導体メモリ(例えば、ROM、RAM、フラッシュメモリ)、磁気記憶媒体(例えば、CD−ROM、ハードディスク)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された形態で提供される得る。
【0020】
CPU110は、色変換テーブル作成プログラム131を実行することにより、色変換テーブル作成部M20の機能を実現する。色変換テーブル作成部M20は、入力色データを、プリンタの出力色空間で表される出力色データに変換する色変換テーブルPFDを作成する。入力色データは、RGB色空間で表されるRGB色データであり、RGBの各色成分の階調値(本実施例では、256階調)を含んでいる。採用されるRGB色空間は、例えば、パーソナルコンピュータのモニタ用などに用いられる一般的なRGB色空間であるsRGB(standard RGB)色空間が用いられる。出力色データは、色変換テーブルPFDが用いられるプリンタの印刷材に対応する印刷材色データであり、少なくとも3種類の印刷材の各階調値(本実施例では、256階調)を含んでいる。
【0021】
本実施例の色変換テーブルPFDが用いられるプリンタは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色のインクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタ(プリンタ機能を有する複合機を含む)である。この場合、印刷材色データ(出力色データ)は、CMYKの4つの色成分の階調値で色を表現したCMYK色データである。色変換テーブルPFDが用いられるプリンタが、CMYの3色のインクを吐出して印刷を行うインクジェットプリンタ場合、印刷材色データは、CMYの3つの色成分の階調値で色を表現したCMY色データである。
【0022】
説明の便宜のため、色変換テーブルPFDの作成方法の説明の前に、色変換テーブルPFDの概要を簡単に述べる。図2は、色変換テーブルPFDの一例を説明する図である。図2(a)は、色変換テーブルPFDを概念的に示している。この色変換テーブルPFDは、図2(a)に示すように、番号1〜NまでのN個のRGB色データのそれぞれに、そのRGB色データが表す色を、CMYK色データを対応付けたテーブルである。なお、番号1〜NまでのN個のRGB色データを、RGB色データの代表色データREV、あるいは、単に、代表色データREVとも呼ぶ。
【0023】
色変換テーブルPFDにおけるN個の代表色データREVは、R、G、Bの各値を、0〜255の間にほぼ均等の間隔で設定された所定数n個の特定値として値である。本実施例では、所定数nは17である。この場合、代表色データREVの数Nは、4913個(17×17×17)である。図7(b)には、これらの代表色データREVのRGB色空間SCP上における位置を概念的に示している。図7(b)において、K点(黒色点)、R点(レッド点)、G点(グリーン点)、B点(ブルー点)は、それぞれ、RGB色データが(0、0、0)、(255、0、0)、(0、255、0)、(0、0、255)である点を示している。同様に、C点(シアン点)、M点(マゼンタ点)、Y点(イエロー点)、W点(白色点)は、それぞれ、RGB色データが(0、255、255)、(255、0、255)、(255、255、0)、(255、255、255)である点を示している。また、図7(b)において、W点とK点とを結ぶ一点破線GLは、RGB色空間SCPにおける無彩色軸を表す。
【0024】
図1の色変換テーブル作成部M20は、色相ラインデータ作成部M21と、無彩色ラインデータ作成部M22と、インク総量判断部M23と、キャリブレーション部M24と、逆キャリブレーション部M25と、ラインデータ補正部M26と、対応関係規定部M27とを備えている。
【0025】
A−2: 色変換テーブルPFDを作成する処理:
図3は、色変換テーブル作成装置100の色変換テーブル作成部M20(図1)が実行する処理(色変換テーブルPFDを作成する処理)のステップを示すフローチャートである。
【0026】
図3(a)のステップS100では、色相ラインデータが作成される。図3(b)には、色相ラインデータの作成のステップが示されている。ステップS110では、先ず、色相ラインデータ作成部M21は、基準となる色相ラインデータを準備する。色相ラインデータは、色相ライン上のRGB色データに印刷材色データを対応付けたデータである。
【0027】
図4は、色相ラインについて説明する図である。本実施例の色相ラインは、3つの1次色相ラインと、3つの2次色相ラインと、6つの中間色相ラインと、を含む。本実施例では、これらの12の色相ラインについての色相ラインデータがそれぞれ準備される。
【0028】
1次色相ラインは、RGB色空間SCPにおけるW点と1次色点とを結ぶとともに、1次色点と黒色点とを結ぶラインである。1次色点は、プリンタで用いられる3つの有彩色インク(C、M、Y)に対応する上述した3つの点、C点、M点、Y点である。1次色点は、言い換えれば、RGB色成分のうちの2つが最大値(本実施例では255)であり、残りの1つが最小値(本実施例では0)であるRGB色空間SCP上の点である。図4(b)には、3つの1次色相ライン、すなわち、C点を通るC色相ラインCLCと、M点を通るM色相ラインCLMと、Y点を通るY色相ラインCLYとがそれぞれ図示されている。
【0029】
2次色相ラインは、RGB色空間SCPにおけるW点と2次色点とを結ぶとともに、2次色点と黒色点とを結ぶラインである。2次色点は、プリンタで用いられる3つの有彩色インク(C、M、Y)とそれぞれ補色の関係にあるR、G、Bに対応する3つの点、R点、G点、B点である。2次色点は、言い換えれば、RGB色成分のうちの1つが最大値であり、残りの2つが最小値とであるRGB色空間SCP上の点である。図4(b)には、3つの2次色相ライン、すなわち、R点を通るR色相ラインCLRと、G点を通るG色相ラインCLGと、B点を通るB色相ラインCLBとがそれぞれ図示されている。
【0030】
中間色相ラインは、RGB色空間SCPにおけるW点と中間色点とを結ぶとともに、中間色点と黒色点とを結ぶラインである。中間色点は、RGB色空間SCPの色域である直方体の12の辺のうち、1次色点と2次色点とを結ぶ6つの辺の中点である。すなわち、中間色点は、R−Y辺の中点であるRY点と、Y−G辺の中点であるYG点と、G−C辺の中点であるGC点と、B−C辺の中点であるBC点と、M−B辺の中点であるMB点と、M−R辺の中点であるMR点と、の6点である(図4(b))。中間色点は、言い換えれば、RGB色成分のうちの1つが最大値であり、1つが最小値であり、残りの1つが中間値(本実施例では128)であるRGB色空間SCP上の点である。図4(b)には、6つの中間色相ラインのうち、MB点を通るMB色相ラインCLMBと、BC点を通るBC色相ラインCLBDとがそれぞれ図示されている。他の4つの中間色相ライン、すなわち、RY点を通るRY色相ラインと、YG点を通るYG色相ラインと、GC点を通るGC色相ラインと、MR点を通るMR色相ラインは、図の煩雑を避けるために図示を省略されている。
【0031】
ここで、特定色点を「RGB色成分のうちの1つの色成分が最大値であるとともに、他の1つの色成分が最小値である色を表す点」と定義する。特定色点は、1次色点、2次色点、中間色点を含む概念であり、上述した6つの辺(R−Y辺、Y−G辺、G−C辺、B−C辺、M−B辺、M−R辺)上の全ての点が含まれる。
【0032】
図5は、印刷材色データがCMY色データである場合の色相ラインデータについて説明する図である。後述するインク総量規制後の色相ラインデータと、階調補正後の色相ラインデータと区別するために、色相ラインデータ作成部M21が作成する色相ラインデータを、基準色相ラインデータとも呼ぶ。色相ラインデータ作成部M21は、色相ライン上に位置するRGB色データを、周知の以下の補色計算の式(1)を用いて、CMY色データに変換する。
C=255−R、Y=255−B、M=255−G ... (1)
色相ラインデータ作成部M21は、変換されたCMY色データを変換前のRGB色データに対応付けて、基準色相ラインデータを作成する。図5(a)には、印刷材色データがCMY色データである場合の基準B色相ラインデータが示されている。この例では、B色相ラインのW点からB点までの区間では、Y成分の階調値(Y値)は0であり、C成分の階調値(C値)およびM成分の階調値(M値)は、B色相ライン上においてRGB色データがB点に近づく方向に変化するに連れて単調に増加する。具体的には、B色相ライン上の位置を横軸とし、C値およびY値を縦軸を縦軸とすると、C値およびY値を表す線は直線になる。
【0033】
図6および図7は、印刷材色データがCMYK色データである場合のラインデータについて説明する図である。この場合には、上述したCMY色データの基準色相ラインデータに対して、周知のUCR(Under Color Removal)処理やGCR(Gray-Component Replacement)処理を行って、CMYK色データの基準色相ラインデータを作成する。図6(a)の左側には、2次色相ラインデータの例として、印刷材色データがCMYK色データである場合の基準B色相ラインデータが示され、図6(a)の右側には、中間色相ラインデータの例として、印刷材色データがCMYK色データである場合の基準BC色相ラインデータが示されている。また、図7(a)の左側には、1次色相ラインデータの例として、印刷材色データがCMYK色データである場合の基準C色相ラインデータが示されている。本実施例では、いずれの色相ラインデータにおいても、W点から特定色点までの間においてはK成分の階調値(K値)は0であり、特定色点からK点までの間において、K点に近いほどK値が大きくなっていることが解る。
【0034】
ステップS120およびステップS220では、キャリブレーション処理が行われ、ステップS160およびステップS23では、逆キャリブレーション処理が行われる(図3の破線)ことが好ましいが、説明の便宜上、これらの処理が行われる場合については後述することとし、これらの処理が行われない場合について説明する。
【0035】
ステップS130では、色相ラインデータ作成部M21は、インク総量規制処理を実行する。インク総量規制処理は、準備された基準色相ラインデータにそれぞれ含まれる印刷材色データ(CMY色データまたはCMYK色データ)の各成分値の合計(インク総量MTとも呼ぶ。)が、基準値(インク許容総量LTとも呼ぶ。)を超えないように修正する処理である。インク総量規制処理は、印刷時のインク量が多すぎることに起因する不具合を抑制するために行われる。具体的な不具合には、にじみ、モトル(印刷媒体に吸収されずに溢れたインクが集まってできる色ムラ)、裏抜け(印刷媒体の裏面に表側に吐出されたインクが裏側に浸出すること)、印刷媒体の変形などがある。
【0036】
印刷材色データがCMY色データである場合におけるインク総量規制処理を説明する。色相ラインデータ作成部M21は、基準色相ラインデータに含まれるCMY色データのインク総量MTがインク許容総量LMを超える場合には、処理対象のCMY画素データのC値、M値、Y値をそれぞれ減じることによって、C値、M値、Y値の合計が、インク許容総量LM以下になるように補正する。このとき、色相ラインデータ作成部M21は、C値、M値、Y値の比率を保持するように、C値、M値、Y値をそれぞれ減じる。
【0037】
図5(b)には、印刷材色データがCMY色データである場合の、インク総量規制後の色相ラインデータ(規制後色相ラインデータ)の例が示されている。この例は、インク許容総量LMが255である場合であり、インク制限規制がなされたCMY色データのインク総量MTが255になるようにインク制限規制がされている。この例では、特定色点(この例ではB点)に対応するCMY色データもインク制限規制の対象とされている。この結果、特定色点から黒色点までの間においては、RGB色データの変化に対してCMY色データも変化するが、白色点から特定色点までの間における特定色に近い一部の区間DSでは、RGB色データの変化に対してCMY色データが変化しない(同じである)。すなわち、区間DSにおいて、CMY色データの階調性が失われている。
【0038】
印刷材色データがCMYK色データである場合におけるインク総量規制処理を説明する。色相ラインデータ作成部M21は、基準色相ラインデータに含まれる印刷材色データのインク総量MTがインク許容総量LMを超える場合には、処理対象のCMYK画素データのK値を変更することなく、C値、M値、Y値を減じることによって、K値、C値、M値、Y値の合計が、インク許容総量LM以下になるように補正する。このとき、色相ラインデータ作成部M21は、C値、M値、Y値の比率を保持するように、C値、M値、Y値をそれぞれ減じる。
【0039】
図6(b)および図7(b)の左側には、印刷材色データがCMYK色データである場合の、規制後色相ラインデータの例が示されている。これらの例は、インク許容総量LMが332である場合であり、インク制限規制がなされたCMYK色データのインク総量MTが332になるようにインク制限規制がされている。
【0040】
B色相ラインデータの例(図6(b)左側)およびBC色相ラインデータの例(図6(b)右側)では、特定色点(これらの例ではB点およびBC点)に対応するCMYK色データもインク制限規制の対象とされている。この結果、特定色点から黒色点までの間においては、RGB色データの変化に対してCMYK色データも変化するが、白色点から特定色点までの間における特定色に近い一部の区間では、CMYK色データの階調性が失われている。
【0041】
一方、C色相ラインデータの例(図7(b)左側)では、特定色点(この例ではC点)に対応するCMYK色データはインク制限規制の対象とされていない。この結果、白色点から黒色点までの全区間においては、RGB色データの変化に対してCMYK色データも変化している(CMYK色データの階調性は失われていない)。
【0042】
ステップS140では、インク総量判断部M23は、基準色相ラインデータ(規制後色相ラインデータではない)において、特定色点に対応する印刷材色データのインク総量MTが、インク許容総量LM(総量基準)を超えているか否かを判断する。インク総量MTがインク許容総量LM(総量基準)を超えている場合には(ステップS140:YES)、ラインデータ補正部M26は、白色点から特定色点までの印刷材色データに対して階調補正を実行する(ステップS150)。この階調補正後の色相ラインデータを、補正後色相ラインデータとも呼ぶ。この階調補正は、白色点から特定色点までの色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて印刷材色データが変化するように、行われる。また、階調補正は、総量規制前の基準色相ラインデータにおける印刷材色データの変化の傾向を維持するように行われる。変化の傾向を維持するとは、色相ライン上の位置を横軸とし、各成分値を縦軸としてプロットした場合に、各成分値を表す線の形状が、基準色相ラインデータと補正後色相ラインデータとの間で維持されることを言う。例えば、当該線の形状が、基準色相ラインデータにおいて直線である場合には、補正後色相ラインデータにおいても直線にされる。また、当該線の形状が、基準色相ラインデータにおいて下に凸の曲線である場合には、補正後色相ラインデータにおいても下に凸の曲線にされる。
【0043】
具体的には、ラインデータ補正部M26は、先ず、補正係数PR=(インク総量規制後の特定成分値/インク総量規制前の特定成分値)を算出する。特定成分値は、特定色点に対応する印刷材色データのC値、M値、Y値のうちの0でない値である。例えば、B色相ラインデータの例(図6(b)左側)の特定成分値はC値またはM値であり、BC色相ラインデータの例(図6(b)右側)の特性成分値は同じくC値またはM値である。ラインデータ補正部M26は、基準色相ラインデータにおいて、白色点から特定色点までのRGB色データに対応する印刷材色データの各成分値に、補正係数PRを乗じる補正を実行する。
【0044】
印刷材色データがCMY色データである場合における、B色相ラインデータの例(図5)は、図5(a)に示す基準色相ラインデータ(規制後色相ラインデータではない)において、特定色点に対応するCMY色データのインク総量MTが、インク許容総量LM(総量基準)を超えている。従って、この色相ラインデータは、ラインデータ補正部M26による補正の対象となる。この例の補正後色相ラインデータが図5(c)に図示されている。規制後色相ラインデータ(図5(b))では、階調が損なわれているが、補正後色相ラインデータでは、階調が損なわれていないことが解る。
【0045】
刷材色データがCMYK色データである場合における、B色相ラインデータの例(図6左側)およびBC色相ラインデータの例(図6右側)は、図6(a)に示す基準色相ラインデータにおいて、特定色点に対応するCMYK色データのインク総量MTが、インク許容総量LMを超えている。従って、これらの色相ラインデータは、ラインデータ補正部M26による補正の対象となる。これらの例の補正後色相ラインデータが図6(c)に図示されている。規制後色相ラインデータ(図6(b))では、階調が損なわれているが、補正後色相ラインデータでは、階調が損なわれていないことが解る。
【0046】
インク総量MTがインク許容総量LM(総量基準)を超えていない場合には(ステップS140:NO)、ラインデータ補正部M26は、その色相ラインデータに対して上述した階調補正を行わない。C色相ラインデータの例(図7(b)左側)では、特定色点(この例ではC点)に対応するCMYK色データのインク総量MTが、インク許容総量LMを超えていない。従って、この色相ラインデータは、ラインデータ補正部M26による補正の対象とならない。
【0047】
以上説明した処理によって、各色相ラインの色相ラインデータが作成されると、図3(a)のステップS200では、無彩色ラインデータが作成される。図3(C)には、無彩色ラインデータの作成のステップが示されている。ステップS210では、先ず、無彩色ラインデータ作成部M22は、基準となる無彩色ラインデータを準備する。無彩色ラインデータは、RGB色空間SCPの白色点と黒色点とを結ぶ無彩色ラインGL(図2(b))上のRGB色データに印刷材色データを対応付けたデータである。
【0048】
図7(a)右側には、印刷材色データがCMYK色データである場合の、基準無彩色ラインデータの例が示されている。この無彩色ラインデータの作成方法は、周知であるので詳細は説明する。例えば、白色点の近傍の明るい無彩色は、粒状性を向上するために、Kインクではなく、主として、それぞれ略同量のC、M、Yインクを用いて表現され、黒色点の近傍の暗い無彩色は、比較的少ないインク量で濃い色を表現するために、主としてKインクを用いて表現されるように、無彩色ラインデータが準備される。
【0049】
ステップS230では、無彩色ラインデータ作成部M22は、インク総量規制処理を実行する。無彩色ラインデータ作成部M22は、ステップS130のインク総量規制処理と同じ計算方法を用いて、準備された基準無彩色ラインデータにそれぞれ含まれる印刷材色データのインク総量MTが、インク許容総量LTを超えないように修正する。
【0050】
色相ラインデータと無彩色ラインデータが作成されると、図3(a)のステップS300では、対応関係規定部M27は、作成されたこれらのラインデータを用いて、上述した色変換テーブルPFD(図2)を作成する。対応関係規定部M27は、これらのラインデータを用いた補間によって、色変換テーブルPFDに記述すべき、RGB色データの各代表色データREVに対応する印刷材色データをそれぞれ算出する。この補間は、様々な周知の方法(例えば、特開2002−33930を参照)を用いて行われる。具体的には、対応関係規定部M27は、RGB色空間SCPの直方体の色域を、色相ラインと、無彩色ラインと、で定義される複数の四面体(例えば、四面体B−K−BC−W)に分割して、各四面体ごとに補間処理を行う。対応関係規定部M27は、四面体の各三角形表面、および、1つの三角形表面の平行な面で四面体を所定間隔で切断した三角形断面上における印刷色データを算出する。そして、これらの位置の印刷色データを用いて、最終的に色変換テーブルPFDが作成される。
【0051】
準備された基準色相ラインデータの特定色点において、対応する印刷材色データのインク総量MTが、インク許容総量LMを超えている場合に、印刷材の総量規制が行われると、上述したように、特定色点より白色点側の色相ライン上において、印刷材色データの階調が損なわれやすい。特に、本発明のように、基準色相ラインデータが補色の式を用いて算出されている場合には、特定色点より白色点側において、各成分値がリニアに変化するために、階調が完全に失われる区間が生じる。上記第1実施例によれば、特定色点に対応する印刷材色データの印刷材色データのインク総量MTが、インク許容総量LMを超えている場合に、色相ラインデータを補正する。この補正は、印刷材色データに基づく印刷材の総量が総量基準を超えず、かつ、白色点から特定色点までの色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて前記印刷材色データが変化するように、行われる。この結果、色変換テーブルPFDにおいて階調が損なわれる可能性を低減することができる。この結果、色変換テーブルPFDを用いるプリンタにおいて、階調の制限性を向上することができる。すなわち、異なる入力RGB色データに対して、同一の色が印刷される可能性を低減でき、表現できる色数を増やすことができる。
【0052】
また、階調補正は、基準色相ラインデータにおいて、RGB色データに対応する各印刷材色データの各成分値に同じ係数PRを乗じる補正である。この結果、基準色相ラインデータにおける各印刷材色データの階調変化の傾向を維持するように、色相ラインデータを補正できる。この結果、印刷装置において、適切に階調変化を維持することができる色変換テーブルを作成することができる。
【0053】
B.第2実施例:
次に、上述したキャリブレーション処理(S120、S220)、および、逆キャリブレーション処理(S160、S240)を実行する場合について、第2実施例として説明する。
【0054】
最初にキャリブレーション処理について説明するために、プリンタにおける印刷のための印刷データを作成する印刷データ生成処理について説明する。図8は、印刷データ生成処理のステップを示すフローチャートである。この印刷データ生成処理は、一般的に、パーソナルコンピュータにインストールされたプリンタドライバ、または、印刷装置の制御回路(CPU)によって実行される。以下では、プリンタドライバが印刷データ生成処理を実行するものとして説明する。
【0055】
ステップS410では、プリンタドライバは、アプリケーションプログラム等から印刷対象画像を表す画像データを取得する。この画像データは、例えば、ビットマップデータ、平面座標系にて図形等を表現したベクトルデータ、文字情報と文字の配置位置を規定したデータ等を含み得る。ここでは、プリンタドライバは、ビットマップデータ以外の形式の画像データを取得した場合には、取得された画像データを、ビットマップデータに変換する。
【0056】
ステップS420では、プリンタドライバは、画像データ(ビットマップデータ)を構成する画素データを、機器独立表色系の色データ、例えば、CIELAB表色系、CIEXYZ表色系、CIELUV表色系の色データに変換する(入力プロファイル変換処理)。この変換は、画像データを構成する画素データの表色系の色データと、機器独立表色系の色データとの対応関係を規定したICCプロファイルを用いて実行される。
【0057】
ステップS430では、プリンタドライバは、画像データを構成する機器独立表色系で表された画素データを、色変換テーブルPFDの入力RGB色データ(例えば、sRGB色データ)に変換する(出力プロファイル変換処理)。この変換は、入力RGB色データと、機器独立表色系の色データとの対応関係を規定したICCプロファイルを用いて実行される。ステップS420およびステップS430の処理は、いわゆるカラーマッチング処理であり、これらの処理を行うことで、様々な表色系(例えば、コンピュータのモニタや、スキャナなどのデバイスに依存する機器依存表色系)で表された画像データを、プリンタにおいて適切な色で再現できる印刷データを生成することができる。これらの処理は、印刷対象画像を表す画像データが、色変換テーブルPFDの入力RGB色データ(例えば、sRGB色データ)で表されている場合には、省略することができる。
【0058】
ステップS440では、プリンタドライバは、色変換テーブルPFDを用いて、画像データを構成する画素データ(入力RGB色データ)を、印刷材色データに変換する(RGB−CMY(K)変換処理)。
【0059】
ステップS450では、プリンタドライバは、キャリブレーション処理を実行する。キャリブレーション処理は、処理前の印刷色データの成分値の変化に対して、実際に用紙に印刷される色の濃度がリニアに変化するように、印刷色データの各成分値を補正する処理である(ガンマ補正とも呼ばれる)。
【0060】
図9は、キャリブレーション処理および逆キャリブレーション処理について説明する図である。キャリブレーション処理は、例えば、図9の実線で示すトーンカーブTC1を用いて実行される。トーンカーブTC1は、入力階調値と出力階調値との対応関係を規定している。
【0061】
ステップS460では、プリンタドライバは、画像データを構成する各印刷材色データに対してインク総量規制処理を実行する。このインク総量制限処理は、第1実施例の色変換テーブルの作成において説明したインク総量制限処理と同様に、印刷に要するインク量が基準量以下になるように、各印刷材色データを補正する処理である。特に、第1実施例の色変換テーブルPFDとは異なり、インク総量制限について考慮されていない色変換テーブルを用いる場合には、プリンタドライバにおいてインク総量制限処理を実行する必要性が高い。
【0062】
ステップS470では、プリンタドライバは、ビットマップデータを構成する印刷材色データを、画素ごとにインクのドットの形成状態を表すドットデータに変換するハーフトーン処理を実行する。ステップS480では、プリンタドライバは、ドットデータを印刷にて用いられる順番に並べ代えるとともに、各種のプリンタ制御コードや、データ識別コードを付加して、プリンタが解釈可能な印刷データを生成する。
【0063】
以上説明したように、プリンタドライバ(または、印刷装置の制御回路)は、印刷データ生成処理において、キャリブレーション処理と、インク総量規制処理を実行する。このために、色変換テーブルPFDを作成する際に、キャリブレーション処理を考慮していないと、色変換テーブルPFDを作成する際に、インク総量規制を行っても、印刷データ生成処理におけるキャリブレーション処理によって印刷材色データの各成分値が変わってしまう。この結果、最終的な印刷材色データが、適切なインク総量規制が行われたデータではなくなるおそれがある。
【0064】
図3に戻って、第2実施例について説明する。第2実施例では、第1実施例と異なり、色相ラインデータの作成(図3(b))において、キャリブレーション部M24が、インク総量規制処理(S130)の前に、基準色相ラインデータに対して、印刷データ生成処理において実行されるキャリブレーション処理を実行する(ステップS120)。そして、キャリブレーション処理後の色相ラインデータに対して、上述したステップS130〜S150までの処理が実行される。そして、ステップS130〜S150までの処理が実行された後に、逆キャリブレーション部M25は、補正後色相ラインデータに対して、逆キャリブレーション処理を実行する(ステップS160)。
【0065】
逆キャリブレーション処理は、キャリブレーション処理が実行された印刷材色データを、キャリブレーション補正が実行される前の印刷材色データに戻す補正である。具体的には、例えば、あるCMYK色データ(Cin、Min、Yin、Kin)に対して、キャリブレーション処理を実行したCMYK色データを(Cout、Mout、Yout、Kout)とする。この場合、CMYK色データ(Cout、Mout、Yout、Kout)に対して、逆キャリブレーション処理を実行したCMYK色データは、(Cin、Min、Yin、Kin)となる。図9に破線で示すトーンカーブTC2は、トーンカーブTC1を用いてキャリブレーション処理を行う場合に、逆キャリブレーション処理で用いられるトーンカーブを示している。トーンカーブTC2とトーンカーブTC1は、無変換線(図9における入出力値=0の点と、入出力値=255の点とを結ぶ直線LN)を対象軸とした線対称の関係にある。
【0066】
同様にして、第2実施例では、第1実施例と異なり、無彩色ラインデータの作成(図3(c))において、キャリブレーション部M24が、インク総量規制処理(S230)の前に、基準無彩色ラインデータに対して、印刷データ生成処理において実行されるキャリブレーション処理を実行する(ステップS220)。そして、キャリブレーション処理後の色相ラインデータに対して、インク総量規制処理(ステップS230)が実行される。そして、ステップS230の後に、逆キャリブレーション部M25は、無彩色ラインデータに対して、逆キャリブレーション処理を実行する(ステップS240)。
【0067】
上記構成によれば、印刷データ生成処理において、印刷材色データに対してキャリブレーション補正が行われる場合に、階調が損なわれる可能性を低減することができる色変換テーブルを作成することができる。すなわち、色相ラインデータに対して、予めキャリブレーションを実行してからインク総量規制処理を行っている。この結果、印刷データ生成処理において行われるキャリブレーション処理を考慮して、インク総量規制処理を行うことができる。そして、インク総量規制処理後の色相ラインデータに対して、逆キャリブレーション処理を実行している。この結果、印刷データ生成処理においてキャリブレーション処理が行われた後の印刷材色データが、適切にインク総量規制が行われた印刷材色データになるように、色変換テーブルPFDを作成することができる。
【0068】
第2実施例における色変換テーブルPFDが採用される場合には、印刷データ生成処理におけるインク総量規制処理(図8:S460)の前の段階で、既にインク許容総量LMを超えないような印刷材色データとなっている可能性が高いので、印刷データ生成処理におけるインク総量規制処理は省略することができる。
【0069】
また、第2実施例における色変換テーブルの作成方法では、無彩色ラインデータに対しても、キャリブレーション処理および逆キャリブレーション処理が実行される。この結果、印刷データ生成処理において実行されるキャリブレーション処理を考慮した、適切な色変換テーブルを作成することができる。
【0070】
C.変形例:
(1)上記各実施例における基準色相ラインデータは、上述した補色計算の式(1)を用いて作成されているが、これに限られない。例えば、鮮やかさを強調する、明るめの色にする、などの色の傾向を持たせるいわゆる色づくりが行われた基準色相ラインデータを準備しても良い。図10は、本変形例における色相ラインデータの例を示す図である。図10(a)には、CMY色データについての基準色相ラインデータが示されている。この例では、白色点から特定色点(B点)までの区間におけるC値とM値を表す線が、直線ではなく、下側に凸である曲線となっている。上述したように、ラインデータ補正部M26は、白色点から特定色点(B点)までの区間における全ての印刷材色データの各成分値に同じ係数PRを乗じる補正を採用している。この結果、図10(a)に示すような色づくりがなされている場合であっても、基準色相ラインデータにおける色づくりの傾向を維持するように、色相ラインデータを補正できる。したがって、基準色相ラインデータにおける階調変化を適切に維持して、意図する色づくりを再現することができる色変換テーブルを作成することができる。
【0071】
(2)上記各実施例では、インクジェット式の印刷装置において用いられる色変換テーブルPFDの作成について説明したが、レーザー式の印刷装置において用いられる色変換テーブルの作成にも同様の手法を採用することができる。この場合には、例えば、RGB色データを、用いられるトナーに対応する色成分を含む印刷材色データに変換するための色変換テーブルを作成することができる。この結果、レーザー式の印刷装置において、トナーが多すぎることに起因する不具合(例えば、トナーの剥離による画質劣化)を低減しつつ、階調の再現性が損なわれる可能性を低減した色表現可能な色の範囲を損なわない色変換テーブルを作成することができる。
【0072】
(3)上記各実施例では、複数種類のインクとして、CMYの3色のインク、または、CMYKの4色のインクを用いるプリンタのための色変換テーブルを作成しているが、例えば、この4色に、薄いシアン(LC)、薄いマゼンタ(LM)を加えた6色のインクを用いるプリンタのための色変換テーブルを作成しても良い。
【0073】
(4)上記第2実施例では、印刷データ生成処理において実行されるキャリブレーション処理を考慮した色変換テーブルPFDを作成しているが、キャリブレーション処理に限らず、印刷データを生成する際に実行される様々な特定の補正を考慮しても良い。この場合には、上述した色相ラインデータの作成(図3(b))のステップS120おいて、プリンタドライバは、基準色相ラインデータに対して、考慮すべき特定補正を実行すれば良い。また、ステップS160おいて、プリンタドライバは、特定補正が実行された印刷材色データを特定補正が実行される前の印刷材色データに戻す逆特定補正を、補正後色相ラインデータに対して実行すれば良い。併せて、無彩色ラインデータの作成(図3(c))において、プリンタドライバは、ステップS220において基準無彩色ラインデータに対して特定補正を実行し、ステップS240において無彩色ラインデータに対して、逆特定補正を実行することが好ましい。
【0074】
(5)上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0075】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0076】
100...色変換テーブル作成装置、131...色変換テーブル作成プログラム、M20...色変換テーブル作成部、M21...色相ラインデータ作成部、M22...無彩色ラインデータ作成部、M24...キャリブレーション部、M25...逆キャリブレーション部、M26...ラインデータ補正部、M27...対応関係規定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RGB色空間におけるRGB色データを、印刷装置の印刷材に対応する色データであって、少なくとも3種類の印刷材の各階調値を含む印刷材色データに変換するための色変換テーブルの作成方法であって、
(a)前記RGB色空間の色域表面の色相ライン上のRGB色データに、前記印刷材色データを対応付けた色相ラインデータを準備する工程であって、前記色相ラインは、前記RGB色空間における白色点と特定色点を結ぶとともに前記特定色点と黒色点とを結ぶラインであって、前記特定色点は、RGB色成分のうちの1つの色成分が最大値であるとともに、他の1つの色成分が最小値である色を表す点である、工程と、
(b)前記色相ラインデータにおいて、前記特定色点に対応付けられた前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が、総量基準を超えているか否かを判断する工程と、
(c)前記(b)工程において前記印刷材の総量が前記総量基準を超えている場合に、前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が前記総量基準を超えず、かつ、前記白色点から前記特定色点までの前記色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて前記印刷材色データが変化するように、前記色相ラインデータの前記印刷材色データを補正する工程と、
(d)前記(c)工程において補正された前記色相ラインデータを用いて、前記RGB色空間におけるRGB色データと前記印刷材色データとの対応関係を決定する工程と、
を備える、色変換テーブルの作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の色変換テーブルの作成方法であって、さらに、
(e)前記(b)工程の前に、前記色相ラインデータに対して、前記印刷装置のための印刷データを生成する際に実行される特定補正を実行する工程と、
(f)前記(d)工程の前に、前記(c)工程において補正された前記色相ラインデータに対して、逆特定補正を実行する工程であって、前記逆特定補正は、前記特定補正が実行された前記印刷材色データを、前記特定補正が実行される前の前記印刷材色データに戻す補正である、工程と、
を備える、色変換テーブルの作成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の色変換テーブルの作成方法であって、さらに、
(g)前記RGB色空間の無彩色軸上のRGB色データに、前記印刷材色データを対応付けた無彩色データを準備する工程と、
(h)前記無彩色データに対して、前記特定補正を実行する工程と、
(i)前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が前記総量基準を超えないように、前記特定補正が実行された無彩色データを補正する工程と、
(j)前記(i)工程において補正された前記無彩色データに対して、前記逆特定補正を実行する工程と、
を備え、
前記(d)工程は、さらに、前記(j)工程において前記逆特定補正が実行された前記無彩色データを用いて、前記対応関係を決定する工程である、色変換テーブルの作成方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の色変換テーブルの作成方法であって、
前記(c)工程における補正は、前記白色点から前記特定色点までの前記色相ライン上の前記RGB色データに対応付けられた各印刷材色データの各成分値に同じ係数を乗じる補正である、色変換テーブルの作成方法。
【請求項5】
RGB色空間におけるRGB色データを、印刷装置の印刷材に対応する色データであって、少なくとも3種類の印刷材の各階調値を含む印刷材色データに変換するための色変換テーブルを作成するコンピュータプログラムであって、
前記RGB色空間の色域表面の色相ライン上のRGB色データに、前記印刷材色データを対応付けた色相ラインデータを準備する機能であって、前記色相ラインは、前記RGB色空間における白色点と特定色点を結ぶとともに前記特定色点と黒色点とを結ぶラインであって、前記特定色点は、RGB色成分のうちの1つの色成分が最大値であるとともに、他の1つの色成分が最小値である色を表す点である、第1の機能と、
前記色相ラインデータにおいて、前記特定色点に対応付けられた前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が、総量基準を超えているか否かを判断する第2の機能と、
前記第2の機能が前記印刷材の総量が基準を超えていると判断した場合に、前記印刷材色データに基づく印刷材の総量が前記総量基準を超えず、かつ、前記白色点から前記特定色点までの前記色相ライン上においてRGB色データが変化するに連れて前記印刷材色データが変化するように、前記色相ラインデータの前記印刷材色データを補正する第3の機能と、
補正された前記色相ラインデータを用いて、前記RGB色空間におけるRGB色データと前記印刷材色データとの対応関係を決定する第4の機能と、
をコンピュータに実現させるコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−115713(P2013−115713A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261938(P2011−261938)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】