説明

芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法

【課題】使用済みの廃芳香族ポリカーボネート樹脂から効率的に高品質の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法を提供する。
【解決手段】廃芳香族ポリカーボネート樹脂から、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収するに当たり、(a)廃芳香族ポリカーボネート樹脂を水洗する工程、(b)廃芳香族ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶解する工程、(c)水を分離する工程、(d)水を分離した後の有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する工程、(e)分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させ、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩の水溶液を得る工程、(f)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を含む反応混合物から有機溶媒相を分離し、水相を回収する工程、および(g)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を有機溶媒で洗浄する工程、を含むことを特徴とする芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃芳香族ポリカーボネート樹脂を解重合し、芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として回収するに当たり、効率よく高品質の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、PCと略すことがある)は、優れた機械的性質、電気的性質、耐熱性、耐寒性、透明性等を有しており、レンズ、コンパクトディスク等の光ディスク、建築材料、自動車部品、OA機器のシャーシー、カメラボディー等様々な用途に利用されている材料であり、その需要は年々増加している。
このPCの需要の増加に伴い、PCの生産量も年々増加しており、製造に伴って発生する品質規格外品や、回収される廃PCの量も増える傾向にある。
【0003】
これら樹脂の廃棄物は、処理方法の一つとして廃棄物として埋め立て処理されることがある。しかし、この方法では埋蔵量が有限である石油資源の浪費につながり、資源の有効活用の観点からは好ましい方法とはいえない。また、近年、埋め立て処理場はゴミの発生量の増加に伴い処分場所の寿命が短縮されてきており、埋め立て処分量の低減は喫緊の課題である。
【0004】
この問題を解決するために、これら樹脂の廃棄物をリサイクルする方法が種々提案されているが、材料としてリサイクルされる割合は少なく、大半が燃料や高炉還元剤として使用されているため、結果として石油資源が消費されていることに変わりはない。
これらの問題を解決するため、使用済みの樹脂を再度、材料としてリサイクルする方法が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、一度使用した樹脂は、成形加工時に熱履歴を受けているため、使用時に物性低下や色相悪化を引き起こすことがあり、回収した樹脂の添加割合はおのずと制限されてしまうため、再利用できる量も限られてしまう。
【0005】
これらの問題を解決するため、使用済みの樹脂を一度解重合して樹脂の原料に戻し、樹脂を製造する際の原料として回収、使用を行うケミカルリサイクルの方法が提案されている(特許文献2)。この方法では、回収した樹脂からその樹脂の原料を回収し、再度重合して製品を得るため、得られた樹脂の物性低下や色相の悪化を防止することが出来るため、将来有望な技術である。しかしながら、特許文献2において開示される、解重合して得られる原料を洗浄する方法のみでは、高品質の原料を得るにはいまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−319500号公報
【特許文献2】特開2006−131790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、使用済みの廃芳香族ポリカーボネート樹脂から効率的に高品質の芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
通常、使用済みの廃芳香族ポリカーボネート樹脂には、ゴミや異物が付着しており、かかる樹脂に付着しているゴミや異物、特に表面に付着しているゴミや異物を除去する必要があり、その有効な方法として水洗を行っている。
【0009】
本発明者は、水洗した樹脂は表面や粒子間などに水分が存在しているため、解重合を行うために有機溶媒に溶解した際に、溶解槽の中に水が入り込んでくること、この水を除去せずに薬液を加えて解重合反応を行った場合、反応槽内に存在する水によって薬液が薄められて反応時間の延長が起こったり、薬液の濃度低下のため反応が完結しなくなったりして芳香族ジヒドロキシ化合物の回収率が低下すること、そして、廃芳香族ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶かした後、系内に存在する水分を分離して、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いて解重合を行うことにより、高品質の樹脂原料が高い回収率で回収できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、
1.廃芳香族ポリカーボネート樹脂から、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収するに当たり、(a)廃芳香族ポリカーボネート樹脂を水洗する工程、(b)廃芳香族ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶解する工程、(c)水を分離する工程、(d)水を分離した後の有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する工程、(e)分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させ、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩の水溶液を得る工程、(f)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を含む反応混合物から有機溶媒相を分離し、水相を回収する工程、および(g)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を有機溶媒で洗浄する工程、を含むことを特徴とする芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法、
2.(b)工程および(g)工程において使用する有機溶媒が、ハロゲン化炭化水素化合物である前項1記載の回収方法、
3.(c)工程で分離後の有機溶媒中の水分含有率は、3.0重量%以下である前項1記載の回収方法、
4.(d)工程において、使用するアルカリ金属水酸化物と芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合とのモル比が4.1:1〜8:1の範囲である前項1記載の回収方法、
5.(d)工程において、分解の際の反応温度が30℃〜120℃である前項1記載の回収方法、
6.(d)工程において、分解の際に芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、酸化防止剤を0.05〜4.0重量部使用する前項1記載の回収方法、
7.前項1記載の回収方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液に酸を加え、芳香族ジヒドロキシ化合物を固体として単離する芳香族ジヒドロキシ化合物の回収方法、および
8.芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を前項1記載の回収方法で回収し、回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程に導入して再利用し、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、廃芳香族ポリカーボネート樹脂から効率的に原料である芳香族ヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を回収し、再度原料として使用することができることから、本発明の奏する工業的効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、使用される廃芳香族ポリカーボネート樹脂は、界面重合法や溶融重合法等公知の方法で製造されたものでよく、分子量は粘度平均分子量で1×10〜1×10のものが好ましい。廃芳香族ポリカーボネート樹脂の形状はパウダー、ペレット、シート、フィルム、成形品等特に限定されない。例えば、CD、CD−R、DVD等の光ディスクにおいて、廃棄されたものや成形不良のものなど不要になった廃光ディスクをそのままあるいは印刷膜や金属膜を剥離し除去したものを分解に使用することができる。また、分解に用いられる廃芳香族ポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート樹脂製造途中に目標とする分子量に到達せず、パウダーあるいはペレット化されなかったポリカーボネート樹脂の溶液から溶媒を除去し、乾燥した固形物でもよい。ここで、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7
【0013】
該芳香族ポリカーボネート樹脂は、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、1,4−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α′−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4′−ジヒドロキシジフェニルエステル等のジヒドロキシ化合物の単独または2種以上の混合物から製造されたものである。
【0014】
また、末端停止剤(分子量調節剤)としては、1価のフェノール化合物が好ましく用いられ、フェノール、p−クレゾール、p−エチルフェノール、p−イソプロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、2,4−キシレノール、p−メトキシフェノール、p−ヘキシルオキシフェノール、p−デシルオキシフェノール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ペンタクロロフェノール、p−フェニルフェノール、p−イソプロペニルフェノール、2,4−ジ(1’−メチル−1’−フェニルエチル)フェノール、β−ナフトール、α−ナフトール、p−(2’,4’,4’−トリメチルクロマニル)フェノール、2−(4’−メトキシフェニル)−2−(4’’−ヒドロキシフェニル)プロパン等のフェノール類等の単独または2種以上の混合物が用いられる。
【0015】
本発明の(a)工程において、まず、廃芳香族ポリカーボネート樹脂を水洗する。
廃芳香族ポリカーボネート樹脂は、シートや成形品の場合、水洗し易いように、粉砕機で粉砕したものを使用することが好ましい。
廃芳香族ポリカーボネート樹脂は、あらかじめ樹脂の表面に付着した異物や、混入しているゴミなどを分離するために、水と攪拌混合して異物やゴミと共に水を分離する方法や、水を使用した浮力差により異物を分離する方法等の水洗処理が行われる。
【0016】
本発明の(b)工程において、水洗された廃芳香族ポリカーボネート樹脂は、有機溶媒によって溶解する工程に投入される。
この工程で廃芳香族ポリカーボネート樹脂は、有機溶媒に溶解され、同時に含有していた水分は有機溶媒と分離して溶解槽の中で2層に分かれてくる。
【0017】
廃芳香族ポリカーボネート樹脂の溶解に使用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素化合物溶媒が好ましく、具体的にはジクロロメタン(塩化メチレン)、ジクロロエタンおよびクロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒が好適であり、特にジクロロメタン(塩化メチレン)が好適である。これらの溶媒は、芳香族ポリカーボネート樹脂の良溶媒で、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程において反応溶媒として用いられており、分解、回収した芳香族ジヒドロキシ化合物に溶媒が残留していても、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に悪影響を及ぼさない利点がある。
【0018】
また、廃芳香族ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液の濃度は5〜30重量%の範囲が好ましく、8〜15重量%の範囲がより好ましい。有機溶媒溶液の濃度が5重量%より少ない場合、(d)工程の分解反応に必要な樹脂の濃度が低いため、分解反応終了までの時間が長くなったり、反応が完結しなくなったりすることがある。また30重量%より高い場合、反応によって析出する樹脂原料の量が多くなり、混合が不十分になりやすいため、反応率が低下する傾向にある。
【0019】
廃芳香族ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶解した際の不溶物は、溶解後にろ過して除去することが可能である。除去しないで分解反応を行った場合、これらの不純物も分解され、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液に混入する恐れがある。不純物の分解物が混ざったままポリカーボネート樹脂製造工程に該水溶液を使用すると、製品のポリカーボネート樹脂の品質に悪影響を及ぼす可能性があるので、あらかじめ有機溶媒不溶物を除去することが好ましい。
【0020】
次に、(c)工程として、廃芳香族ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液と水分との分離が行われる。
分離の方法としては、有機溶媒相と水相をデカンター等の液液分離器で分離して有機溶媒相を回収する方法が好ましく採用される。液液分離器において分離が不十分であると、有機溶媒相に混入した水分が次の工程で分解反応(解重合反応)に悪影響を及ぼすので、水分を可能な限り除去することが好ましい。この方法には、デカンターの他に遠心分離機など、公知の方法が使用できる。
【0021】
この(c)工程で分離後の有機溶媒中の水分含有率は、3.0重量%以下とすることが好ましく、2.0重量%以下とすることがより好ましく、1.5重量%以下とすることがさらに好ましく、1.0重量%以下とすることが特に好ましい。水分の含有量が3重量%より大きくなると、解重合反応の反応率低下や反応時間の遅延を引き起こすことがある
次に、(d)工程として、有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する。
【0022】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分解剤として使用されるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが好ましく使用され、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
アルカリ金属水酸化物の使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合1モルに対し4.1〜8.0モルが好ましい。使用量が4.1モルより少ないと分解反応が非常に遅く、8.0モルより多いとコストが高くなり、かつ、芳香族ジヒドロキシ化合物を単離、回収する際に使用する酸水溶液の量が多くなったり、回収した原料水溶液を反応工程に直接、導入して使用する際に過剰分のアルカリに応じた余分の薬剤を使用することとなる場合があり、経済的に好ましくない。
【0024】
分解反応に使用するアルカリ金属水酸化物は水溶液の状態で使用する。アルカリ金属水酸化物の濃度は、35〜55重量%が好ましい。35重量%より低いと分解速度が遅くなり、55重量%を超えるとアルカリ金属水酸化物が析出しスラリーになりやすく、スラリーになった場合かえって反応が遅くなる。
【0025】
本発明において、分解反応を行う温度は30℃〜120℃が好ましく、30℃〜50℃がより好ましい。30℃未満の場合は分解反応時間が長くなり、処理効率が著しく劣ることがある。また、120℃を越えると、加熱のエネルギーが多く必要となり、さらに分解処理中に溶液の色が褐色に着色し易くなり、品質の良い芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水溶液が得られなくなることがある。また、沸点以上においての反応は圧力容器が必要となり、設備費がかかり経済的に不利となる。
【0026】
分解反応中に生成した芳香族ジヒドロキシ化合物は、塩基性条件下では酸化されやすいので、反応溶液中に酸化防止剤を添加することが好ましい。また、工程内の酸素濃度を不活性ガスにより、低減しておくことも有効である。
【0027】
酸化防止剤として、重亜硫酸ナトリウム(Na)、亜硫酸ナトリウム(NaSO)、ハイドロサルファイトナトリウム(Na)等が挙げられる。これらを1種または2種以上混合して用いても差し支えない。酸化防止剤の使用量は芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、0.05〜4.0重量部が好ましい。0.05〜4.0重量部の範囲であると酸化防止効果があり、また、コスト的に有利で、分解反応速度が低下せず好ましい。酸化防止剤は、解重合反応を行う前に予め添加しても、解重合反応が完了した後で添加してもどちらでも良い。
不活性ガスの種類として、窒素、アルゴン等が挙げられる。窒素がコスト的に有利であり好ましい。
【0028】
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂の分解反応は、界面反応であり、有機溶媒に溶解している芳香族ポリカーボネート樹脂がアルカリ金属水酸化物水溶液と攪拌され、界面で接触して分解される。この反応は不可逆であり、芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合が切れ、芳香族ジヒドロキシ化合物アルカリ金属塩と炭酸塩に分解される。
【0029】
次に、(e)工程として、分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させ、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩の水溶液を得る。
【0030】
解重合反応後、生成する芳香族ジヒドロキシ化合物アルカリ金属塩と炭酸塩がアルカリ金属水酸化物水溶液に溶解せず、固形分として析出しており、解重合反応後の反応液に水を加えて析出した固形分の溶解を行う。かかる方法としては、解重合反応後の反応液に水を加えて攪拌し、析出した芳香族ジヒドロキシ化合物アルカリ金属塩と炭酸塩を溶解させる方法が好ましく採用される。加える水の量は、完全に固形分が溶解する量以上を投入するが、多く投入しすぎると水溶液中の芳香族ジヒドロキシ化合物アルカリ金属塩濃度が低下し、芳香族ポリカーボネート樹脂製造工程において反応速度の低下、廃液処理コスト増となるので、完全に固体が溶解する量の最小量が好ましい。分解液に水を加え固形分を溶解させると、有機溶媒相と芳香族ジヒドロキシ化合物アルカリ金属塩の水溶液相との2つの相に分離する。
【0031】
次に、(f)工程として、得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を含む反応混合物から有機溶媒相を分離し、水相を回収する。
この有機溶媒相と芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液相とを分液し、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液相を回収する方法としては、有機溶媒相と芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液相をデカンター等の液液分離器で分離して水相を回収する方法が好ましく採用される。液液分離器において分離が不十分であると、水相に粒状に浮遊している有機溶媒相が次の工程に混入し、製品に悪影響を及ぼすので、可能な限り除去することが好ましい。
【0032】
次に、(g)工程として、得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を有機溶媒で洗浄する。
この方法は、洗浄塔による接触、撹拌機、液液分離器による分離、遠心分離機など、公知の方法が使用できる。
また、有機溶媒としては、上述したハロゲン化炭化水素化合物溶媒が好ましく、特にジクロロメタン(塩化メチレン)が好適である。
【0033】
本発明の方法で得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液は、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程に再使用することができる。再使用する方法としては、界面重合法ではそのまま、あるいは所望の濃度に調整して、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造に使用することが可能である。また、酸を加えて芳香族ジヒドロキシ化合物を単離し、溶融重合法で使用することができる。
【0034】
また、本発明の方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物と市販の芳香族ジヒドロキシ化合物とを一緒に芳香族ポリカーボネートの製造に使用しても構わない。回収した芳香族ジヒドロキシ化合物と市販の芳香族ジヒドロキシ化合物を混合する方法は、固体同士、固体と液体、液体同士を混合する方法のどの方法であってもよい。
【0035】
本発明の方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として用いて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、色相および熱安定性に優れることから、例えば光磁気ディスク、各種追記型ディスク、デジタルオーディオディスク(いわゆるコンパクトディスク)、光学式ビデオディスク(いわゆるレーザディスク)、デジタル・バーサイル・ディスク(DVD)等の光学ディスク基板用の材料として、あるいはシリコンウエハー等の精密機材収納容器の材料として好適に使用でき、殊に光学ディスク基板用の材料として好適に採用される。また、一般的なOA機器用途、自動車部品用途などについても問題なく使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。特に断り書きのない場合、部は重量部を表す。なお、評価は次に示す方法で行った。
【0037】
(1)反応率
実施例で得られた、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を0.1〜0.5重量%になるように水酸化ナトリウム水溶液で薄め、UV計で波長294nmで吸光度を測定し、あらかじめ作成した検量線により水溶液中のビスフェノールAナトリウム塩濃度を求め、これと水溶液の量とから回収できたビスフェノールAの量を求め、反応率を算出した。
【0038】
(2)ビスフェノールAのアルカリ水溶液の色相
実施例で得られたビスフェノールAナトリウム塩水溶液(ビスフェノールAナトリウム塩の濃度7重量%)をJIS K 0071に準拠してAPHAを求めた。
【0039】
(3)水分含有率
芳香族ポリカーボネート樹脂の有機溶媒溶液中の水分含有率は、カールフィッシャー水分測定装置を用いて測定した。
【0040】
[実施例1]
廃芳香族ポリカーボネート樹脂の粉砕物を水と混合攪拌して洗浄した。水洗後の廃芳香族ポリカーボネート樹脂の粉砕物は水を切った後塩化メチレンに溶解した。溶解後2時間静置して、有機溶媒相の上部に浮いている水相を分液処理で取り除き、廃芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部を得た。この溶液を分析したところ、芳香族ポリカーボネート樹脂濃度14.4重量%、水分含有率0.6重量%であった。
【0041】
この溶液を、温度計、撹拌機及び還流冷却器、水浴付き反応槽に入れ、そこにハイドロサルファイトナトリウム0.6部を投入し攪拌した。水浴は40℃に調整した。そこへ、50%水酸化ナトリウム水溶液71部を添加した。添加開始後、反応槽の内温は徐々に上昇し還流が始まった。内温は最終的に43℃まで上昇した。12時間反応後、内部は固体が析出しており、固体を一部取り分析したところ、ビスフェノールAナトリウム塩と炭酸ナトリウムであった。反応槽の温度調節を止めて、504部の純水を投入し、1時間攪拌を継続して固体を溶解し、分液ロートで有機溶媒相と水溶液相とを分離して、ビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。回収した水相100部に対して、塩化メチレン10部を加え1時間激しく攪拌混合した後、静置し、水相と塩化メチレン相とを分離して、洗浄されたビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。反応率とビスフェノールAのアルカリ水溶液の色相を求め、その結果を表1に示した。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、水洗後、水を切った廃芳香族ポリカーボネート樹脂の粉砕物を塩化メチレンに溶解し、溶解後1時間静置して、有機溶媒相の上部に浮いている水相を分液処理で取り除き、芳香族ポリカーボネート樹脂濃度14.4重量%、水分含有率1.5重量%の廃芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部を得て、この溶液を使用したこと以外は実施例1と同様の方法で、洗浄されたビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。反応率とビスフェノールAのアルカリ水溶液の色相を求め、その結果を表1に示した。
【0043】
[比較例1]
実施例1において、水洗後、水を切った廃芳香族ポリカーボネート樹脂の粉砕物を塩化メチレンに溶解し、水相を分液処理せずに芳香族ポリカーボネート樹脂濃度14.4重量%、水分含有率3.3重量%の廃芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部を得て、この溶液を使用したこと以外は実施例1と同様の方法で、洗浄されたビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。反応率とビスフェノールAのアルカリ水溶液の色相を求め、その結果を表1に示した。
【0044】
[比較例2]
実施例1において、廃芳香族ポリカーボネート樹脂の粉砕物を水洗せずに有機溶媒に溶解し、芳香族ポリカーボネート樹脂濃度14.4重量%、水分含有率0.7重量%の廃芳香族ポリカーボネート樹脂溶液263部を得て、この溶液を使用したこと以外は実施例1と同様の方法で、洗浄されたビスフェノールAナトリウム塩水溶液を得た。反応率とビスフェノールAのアルカリ水溶液の色相を求め、その結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物を原料として用いて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂は、光学ディスク基板用の材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃芳香族ポリカーボネート樹脂から、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を回収するに当たり、(a)廃芳香族ポリカーボネート樹脂を水洗する工程、(b)廃芳香族ポリカーボネート樹脂を有機溶媒に溶解する工程、(c)水を分離する工程、(d)水を分離した後の有機溶媒溶液にアルカリ金属水酸化物水溶液を加え、芳香族ポリカーボネート樹脂を芳香族ジヒドロキシ化合物に分解する工程、(e)分解工程で得られた反応混合物に水を加え、固体の芳香族ジヒドロキシ化合物を溶解させ、芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩の水溶液を得る工程、(f)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を含む反応混合物から有機溶媒相を分離し、水相を回収する工程、および(g)得られた芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩水溶液を有機溶媒で洗浄する工程、を含むことを特徴とする芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液の回収方法。
【請求項2】
(b)工程および(g)工程において使用する有機溶媒が、ハロゲン化炭化水素化合物である請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
(c)工程で分離後の有機溶媒中の水分含有率は、3.0重量%以下である請求項1記載の回収方法。
【請求項4】
(d)工程において、使用するアルカリ金属水酸化物と芳香族ポリカーボネート樹脂のカーボネート結合とのモル比が4.1:1〜8:1の範囲である請求項1記載の回収方法。
【請求項5】
(d)工程において、分解の際の反応温度が30℃〜120℃である請求項1記載の回収方法。
【請求項6】
(d)工程において、分解の際に芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、酸化防止剤を0.05〜4.0重量部使用する請求項1記載の回収方法。
【請求項7】
請求項1記載の回収方法で回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液に酸を加え、芳香族ジヒドロキシ化合物を固体として単離する芳香族ジヒドロキシ化合物の回収方法。
【請求項8】
芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を請求項1記載の回収方法で回収し、回収した芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属水酸化物水溶液を芳香族ポリカーボネート樹脂の製造工程に導入して再利用し、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2011−195514(P2011−195514A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64516(P2010−64516)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】