説明

芳香族化合物を酸化するための方法及び触媒

置換芳香族供給材料を、置換芳香族供給材料の芳香族カルボン酸誘導体を含む酸化生成物に転化させるための触媒組成物は、パラジウム成分、アンチモン成分及び/又はビスマス成分、及び第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド成分の1種類以上を含む組み合わせを含む。置換芳香族供給材料を酸化する方法は、かかる触媒組成物の存在下において、供給材料を液体反応混合物中で酸素と接触させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年5月8日出願の米国仮出願60/798,781(その開示は参照として本明細書中に包含する)の利益を主張する。
本発明は、置換芳香族化合物を、芳香族カルボン酸を含む酸化生成物に転化させる方法、及びかかる方法に有用な触媒組成物に関する。より詳しくは、本発明は、易酸化性置換基を有する芳香族炭化水素を含む供給材料を、液体反応混合物中において、芳香族カルボン酸を含む酸化生成物に接触酸化する方法であって、置換芳香族化合物の芳香族カルボン酸への接触酸化を促進するために通常用いられる臭素源の不存在下でかかる酸化を行うために活性であり、パラジウム成分、アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせから選択される第15族の金属又はメタロイド成分、及び第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド成分を含む触媒を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸及び他の芳香族カルボン酸は、繊維、フィルム、容器、ビン、及び他の包装材料、並びに成形物品に加工するための、通常は、1種類以上のグリコール、特にエチレングリコール、及びこれらと1種類以上のアルキレングリコールのより高級な同族体との組み合わせとの反応によるポリエステルの製造において幅広く用いられている。
【0003】
商業的実施においては、芳香族カルボン酸は、通常、酢酸水溶液溶媒中において、メチル置換基の位置が所望の芳香族カルボン酸生成物におけるカルボキシル基の位置に対応するメチル置換ベンゼン及びナフタレン供給原料を液相酸化することによって製造される。酸化は、米国特許2,833,816に記載されているような反応性臭素源で促進されたコバルト及びマンガンを含む触媒の存在下で、供給原料を空気又は通常は気体状の他の酸素源と接触させることによって行われる。酸化は発熱性であり、これによって芳香族カルボン酸が、芳香族供給原料の部分又は中間酸化生成物、並びに、メタノール、酢酸メチル、臭化メチル、一酸化炭素、及び二酸化炭素のような酢酸溶媒の酸化及び他の反応の生成物などの副生成物と一緒に生成する。また、水も副生成物として生成する。芳香族カルボン酸酸化生成物、供給原料の副生成物及び中間酸化生成物は、通常、液相反応混合物中に溶解しているか又はその中に懸濁している固体として形成され、通常は結晶化及び固−液分離技術によって回収される。
【0004】
上記記載のもののような酸化プロセス中に芳香族供給原料から生成する副生成物、より一般的には種々のカルボニル置換芳香族種のような不純物は、カルボン酸から製造されるポリエステルにおける着色、及びその結果としてポリエステル加工製品における冴えない色を引き起こすか又はこれと関係することが知られているので、純粋な形態の芳香族カルボン酸は、しばしば、繊維、ビン、並びに他の容器及び包装材料のような重要な用途のためのポリエステルの製造に好都合である。減少した不純物レベルを有する芳香族カルボン酸は、米国特許4,877,900、4,772,748、及び4,286,101から公知のように、供給原料の部分酸化生成物を所望の酸生成物に転化させるために、上記に記載の液相酸化からの粗生成物を、例えば1以上の徐々により低く設定された温度において、及び/又は酸素レベルにおいてか、或いは酸化の生成物を回収するために通常用いられている結晶化工程中に更に酸化することによって製造することができる。精製テレフタル酸又は「PTA」のような、より低い不純物含量を有する好ましい純粋な形態のテレフタル酸及び他の芳香族カルボン酸は、芳香族供給原料、所謂中間純度生成物、又は他の不純形態の酸の液相酸化によって生成する芳香族カルボン酸及び副生成物を含む粗生成物のようなより純度の低い形態の酸を、溶液中、昇温及び昇圧下において、貴金属触媒を用いて接触水素化することによって製造される。幾つかの商業的実施においては、アルキル芳香族供給材料の粗芳香族カルボン酸への液相酸化、及び粗生成物の精製は、しばしば、精製のための出発物質として液相酸化からの粗生成物を用いる連続統合プロセスで行われる。
【0005】
かかるプロセスによって芳香族カルボン酸を製造することの困難性は、臭素促進酸化触媒を用いることに起因する。触媒と一緒に用いる臭素源、及び酸化中に形成されるその反応生成物は、腐食性である。腐食を制限するために、通常、チタン又は他の高価な耐腐食性金属若しくは合金を用いて、酸化反応器及びオフガス処理装置のような主装置設備機器をはじめとするプロセス装置を構成する。また、プロセス中に形成される揮発性臭素化合物の大気への放出を防ぐために、有機臭素化合物を炭素酸化物及び分子状臭素に酸化するための熱又は接触酸化、及びギ酸ナトリウムを用いる分子状臭素のアニオン性臭素への還元などによってプロセスオフガスを処理することも通常用いられており、これによって製造プロセスに複雑さ及びコストが加えられる。
【0006】
従来のコバルト/マンガン酸化触媒から臭素を排除することは、所望の生成物の収率が許容できないほど低くなるので、商業的なスケールの芳香族カルボン酸製造のためには実用的でない。更に、臭素を用いないコバルト/マンガン接触酸化においては、液相反応に用いる酢酸溶媒の酸化が増加する傾向がある。米国特許3,361,803から公知のように、臭素に代わるものとしてメチルエチルケトン及びアセトアルデヒドのような犠牲促進剤が提案されているが、これらは酸化において消費され、消費された促進剤を補うためのコストが加えられるだけでなく、酸素が所望の反応に用いられにくくなることがあるのでので、実際の用途においてそれらを使用することは好ましくない。これらの犠牲促進剤は、また、より高い温度での酸化においては製品品質に悪影響を与える可能性がある。Y.Ishi, J. Mol. Catal. A.: Chem, 1997, 117 (1-3, 二酸素の活性化及び均一系接触酸化に関する第6回国際シンポジウム集録, 1996), 123において、コバルト接触反応のための臭素を含まない代替促進剤としてN−ヒドロキシフタルアミドが報告されているが、芳香族カルボン酸の製造におけるその有用性は、酢酸酸化反応溶媒中におけるその低い可溶性、およびその消費、並びに複数の競合分解反応による酸化中の望ましくない副生成物への転化によって制限される。
【0007】
ドイツ特許2804158においては、所謂Witten-Herculesプロセスにしたがって、コバルト又はマンガン塩、或いはマンガンとコバルト若しくは亜鉛塩との組み合わせから構成される臭素を含まない触媒を用いて、140〜240℃の範囲の温度において、p−キシレン及び/又はp−トルアルデヒド及びp−トルイル酸メチルをジメチルテレフタレートに無溶媒で共酸化し、続いて共酸化からの全反応器流出流を、パラジウム、白金、ニッケル、又はコバルト触媒の存在下で接触水素化することによってテレフタル酸を製造する方法が記載されている。このプロセスは、また、共酸化又は水素化工程のいずれかからのテレフタレート並びにp−トルエートモノ及びジエステルをエステル交換するための熱処理工程であって、水素及び揮発成分を除去した後に180〜350℃で行う熱処理工程も含む。熱処理は、窒素雰囲気下において、好ましくは水及びメタノールを添加して、且つ処理時間を減少させるために、場合によっては触媒としてMo、W、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、Mn、Fe、Ni、Zn、Y、K、Y、La、Ce、Nd、Sm、Re、In、Sb、Bi、Se、Te、Sn、P、又はこれらの組み合わせの存在下で行う。酸化触媒から臭素を排除し、酸化においてモノカルボン酸反応溶媒が存在しないことによって、共酸化のための装置を構成するために耐腐食性がより低い金属を使用することが可能になり、溶媒燃焼が少なくなると述べられている。
【0008】
米国特許3,865,870においては、水、メチル化ベンゼン供給原料、及び酸素含有ガスの流れを、300〜1200psiに加圧し、170〜300℃の温度の反応器内の触媒金属上に同時に供給する、メチル化ベンゼンをカルボン酸に酸化する方法が記載されている。触媒金属は、銀、パラジウム、ルテニウム、白金、ロジウム、イリジウム、又はオスミウムであり、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、炭化ケイ素、又は炭素上に担持されている。この特許において好ましい金属であるルテニウム、パラジウム、又は銀を用いるパラキシレンの酸化によって、酸化パラキシレン誘導体の低い収率、低い芳香族カルボン酸選択率(例えばパラジウムを用いると3〜5%)が得られ、且つ、特許の実施例によれば、しばしばパラキシレン供給原料の燃焼によって相当量の炭素酸化物が生成する。
【0009】
Codignolaの米国特許6,160,170においては、臭素の不存在下、水性有機溶媒を含む液相反応混合物中において、一般には(A)2より大きい価数を有する少なくとも1種類の第VIIIA族金属;及び/又は少なくとも1種類の第VIIA族金属及び/又はセリウム;並びに(B)好ましくはジルコニウム又はハフニウムである少なくとも1種類の第IVA族金属(この特許において示す第VIIIA族、VIIA族、及びIVA族は、それぞれ、Codignolaらの米国特許出願2002/0188155−A1によるより最新のバージョンの周期律表の第VIII族、VIIB族、及びIVB族に対応する)から構成されることを特徴とする均一系触媒コンプレックスを用いて、芳香族供給材料を気体状酸素によって芳香族カルボン酸に酸化することが開示されている。この特許において記載されている触媒組成物は、酢酸セリウム及び酢酸ジルコニウム、並びに、酸化ルテニウム及び酢酸ジルコニウムから構成される。生成物の回収又は他のプロセス工程において通常存在する量の水によって、酢酸ジルコニウム(IV)が速やかに酸化ジルコニウム(IV)に転化する。これはその水中における不溶性のために、固体形態で回収される芳香族カルボン酸生成物から分離することが困難である可能性があり、下流の処理における装置及び触媒の閉塞を引き起こし、精製芳香族カルボン酸生成物の品質を低下させる可能性があるので、芳香族カルボン酸を製造するための触媒の実際の有効性は制限される。また、沈殿した酸化ジルコニウム(IV)によって触媒金属の損失が示される。国際出願WO−98/2938(米国特許6,160,170に対応する)に記載された触媒の不安定性及びその分解に起因する低下した活性及び選択性について言及している米国特許出願2002/0188155においては、好ましくは第VIII金属、又はセリウム及びジルコニウム若しくはハフニウム、並びに好ましくはコバルト又はセリウム及びジルコニウム塩の混合物を含み、臭素を含まない米国特許6,160,170と同様の触媒コンプレックスを用いて低温(90〜150°)酸化を行い、酸化生成物を濾過し、濾過からの母液を酸化に戻し、全てを実質的に同等の温度及び圧力条件下で行うことを提案している。プロセスの増加した複雑さに加えて、この引例による触媒は、反応温度を約120〜140°より低く保持しない限り、酢酸反応溶媒の炭素酸化物への酸化に関して強い活性を示す。
【0010】
米国特許5,877,330においては、ポリバナジン酸ゾル及び他の金属化合物から製造される気相炭化水素転化において用いるための触媒が記載されており、320℃における空気によるo−キシレンの高温気相酸化において99.5%の転化率、ポリバナジン酸ゾルと二酸化チタンのか焼配合物を用いて73.6%の無水フタル酸への選択率、並びにポリバナジン酸ゾルとベーマイトから製造された配合物を用いて16.1%のトルエンの転化率並びに22.9%のベンズアルデヒドへの選択率並びに30.1%の安息香酸への選択率が報告されている。
【0011】
臭素によって促進されていない触媒を用いる選択された芳香族基体のアルコールへの酸化及びそれらのエステル化反応は、下記の特許及び文献から公知であるが、芳香族カルボン酸への酸化は記載されていない。
【0012】
パラジウム及びアンチモンの組み合わせは、JP−10265437−A2に記載されているように酢酸との反応による酢酸溶媒中における酸素ガスを用いたトルエンのベンジルアルコールへの酸化及びそれらのエステル化によるベンジルモノ及びビスアセテートの製造、及びJP2004137234−A2に記載されているように酢酸中のパラキシレンの酸化から得られるモノ又はビスヒドロキシ生成物のエステル化によるベンジルモノ及びビスアセテートの製造のために有用であると報告されている。いずれの場合においても、酸化はベンジルアルコール以上には進行しない。米国特許5,183,931及び5,280,001においては、概して、ベンジル性水素を有するアルキル芳香族化合物を、酸素含有流体の存在下、反応媒体中において、パラジウム塩、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、又はカルシウムの過硫酸塩、アルカリ又はアルカリ土類金属塩、並びにスズ塩から構成される触媒と接触させることによって、酸、アルデヒド、アルコール、及びエステルから選択される対応する酸化生成物に酸化することができることが述べられている。これらの特許の実施例において示されているように、全ての酸化は酢酸カリウムを加えた酢酸のアルカリ性反応媒体中で行われ、例示された唯一の反応はp−t−ブチルトルエンのp−t−ブチルベンジルアセテートへの転化である。日本の公報においても、酸化はベンジルアルコールの形成以上には進行せず、これを反応媒体からの酢酸を用いてエステル化させている。
【0013】
Tanielyan, S.K.及びAugustine, R.L., 「担持Pd−Sn触媒によって触媒されたトルエンのアセトキシル化」, J. Mol. Cat. 1994, 87, 311においては、酢酸溶媒中、酢酸パラジウム(II)、酢酸スズ(II)、及び酢酸カリウムの存在下でのトルエンと酸素との反応中の色変化及び残渣形成に対応する段階的な酸素吸収が報告されており、第1段階において、均一なPd/Snコンプレックスが形成し、酸素によってSn(II)がSn(IV)に酸化され、第2段階において、Pd/Sn(II)コンプレックスが酸素を吸収してPd/Sn(III)又はPd/Sn(IV)中間体が生成し、これが酸化及び還元反応を受けてPd(0)/Sn(IV)が生成し、第3段階において、得られたPd(0)/Sn(IV)がベンジル性炭素原子のアセトキシル化を触媒するという反応メカニズムが提案されている。
【0014】
パラジウム成分及び特定の他の金属成分若しくは組み合わせを含むか又はこれらから調製される触媒を用いる置換芳香族化合物の他の接触酸化が、米国特許6,245,936、米国特許4,804,777、米国特許6,476,258、及び米国特許出願2004/0158068において報告されている。これらの特許による酸化は、アルカリ性反応媒体中において行われ、及び/又は、アリールオキシエタノール出発材料からアリールオキシ酢酸を製造するためのものである。当該アリールオキシ酢酸の製造は、環結合オキシエタノール基のアルコールの酸化によるが、出発材料中に存在する可能性がある環結合炭素含有置換基の炭素原子の酸化を伴わずに行われるものである。
【0015】
アンチモン(III)は、テレフタル酸及びグリコールからポリエチレンテレフタレートを製造するための重縮合触媒として公知である。これは、重縮合を触媒するのに十分なルイス酸性度を有し、酸化を受けないと考えられているが、Leuz, A-K.; Johnson, C.A., Geochemica et Cosmochimica Acta 2000, 69(5), 1165においては、3価アンチモンの5価アンチモンへの酸化は、酸素の存在下においては、9.8より高いpHにおいて起こり得るが、3.6〜9.8のpH範囲においては起こり得ず、或いは過酸化水素の存在下においては、8.1〜11.7のpH範囲においては起こり得るが、8.1より低いpHにおいては起こり得ないことが報告されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、易酸化性置換基を有する芳香族炭化水素を含む供給材料を、酸化芳香族生成物に、且つ芳香族カルボン酸への選択性で転化させるための方法及び触媒組成物を提供する。テレフタル酸及びイソフタル酸のような芳香族カルボン酸を製造するための従来の商業的な触媒及び方法とは異なり、本発明の方法及び触媒は、臭素源の実質的か又は完全な不存在下において有効である。本方法及び触媒は若干量の臭素を許容するものである。従来の商業的な方法において通常用いられる割合の臭素の存在は、本発明の方法及び触媒に悪影響を与え、酸化生成物への転化を減少させるか、或いは反応の選択性を芳香族カルボン酸生成物からより完全に酸化されてない置換基を有する芳香族種にシフトさせる。驚くべきことに、本発明によれば、芳香族カルボン酸の収量は公知の臭素を含まない触媒系を用いて達成されるものを超え、酸化はベンジルアルコール以上に進行するが、そのエステル化を伴うことはない。幾つかの態様においては、本発明は、また、反応のための液体媒体として水を用いる場合には、良好な収率及び選択率を与え、並びに、芳香族供給原料及び用いる場合には酢酸のようなモノカルボン酸反応溶媒の燃焼に起因する炭素酸化物副生成物を僅かにしか生成させないなどの驚くべきプロセス利益も与える。幾つかの態様においては、本発明方法において副生成物として生成する水は、プロセスのための液体反応媒体として機能させることができ、望ましい転化率及び選択率を与えることができるが、プロセスに水又は反応溶媒を加えなくても炭素酸化物副生成物の形成は僅かである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一態様においては、本発明は、易酸化性置換基で置換されている芳香族炭化水素を、反応性臭素を含まない液体反応混合物中において酸素と接触させて芳香族カルボン酸を含む酸化芳香族生成物に転化させる活性を有する触媒組成物を提供する。触媒組成物は、パラジウム;アンチモン、ビスマス、及びこれらの組み合わせから選択される元素周期表第15族の元素;及び、少なくとも1種類の元素周期表第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド;を含む。他に示す場合を除き、本明細書で示す元素周期表の族は、例えばHandbook of Chemistry and Physics, 78版, CRC Press, 1997において見られる元素周期表にしたがう「新表記法」の名称に対応する。元素、金属、及びメタロイドに関する「族」という用語は、かかる元素周期表の族を指すと理解される。
【0018】
本明細書において用いる「置換芳香族化合物の転化」は、酸化芳香族誘導体への化合物の転化を指し、したがって本発明の目的のためには、「酸化芳香族誘導体」及び「酸化芳香族生成物」のような表現は、芳香族出発物質又は酸化生成物の燃焼によって生成する一酸化炭素又は二酸化炭素を包含しない。「芳香族カルボン酸への選択率」は、酸化芳香族誘導体の全重量のパーセントとして表現される少なくとも1つのカルボン酸基で置換されている1種類又は複数の酸化芳香族誘導体の重量を指す。
【0019】
他の側面においては、本発明は、触媒組成物の製造方法を提供する。一態様においては、本発明のこの態様は、易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を、反応性臭素を含まない液体反応混合物中において酸素と接触させて芳香族カルボン酸を含む酸化芳香族生成物に転化させる活性を有する触媒組成物の製造方法を提供する。かかる触媒組成物の製造方法は、C〜Cモノカルボン酸水溶液溶媒中において、溶媒中に可溶性の反応性臭素成分の実質的な不存在下で、パラジウム塩;アンチモン、ビスマス、及びこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種類の第15族の元素;及び、少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド;を配合することを含む。上記に記載のようにして製造される触媒溶液は、本発明方法にしたがう置換芳香族炭化水素の酸化において用いるのに好適である。また、この溶液を、非担持又は担持固体触媒組成物を製造するために用いることができる。
【0020】
本発明の他の側面は、芳香族カルボン酸への選択性をもって、置換芳香族化合物を含む供給材料を酸化芳香族生成物に転化する方法である。本発明のこの側面の種々の態様によれば、1以上の易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を含む芳香族供給原料を芳香族カルボン酸を含む芳香族酸化生成物に転化する方法は、芳香族供給原料を、液体反応混合物中、パラジウム;アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせから選択される第15族の元素;及び、少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の元素;を含む触媒組成物の存在下において、酸素と接触させることを含む。好ましくは、触媒組成物は臭素を含まず、臭素の不存在下で芳香族供給原料と接触させる。
【0021】
他の態様においては、芳香族カルボン酸の製造方法は、少なくとも1種類のジアルキルアレーン、部分的に酸化されたジアルキルアレーン誘導体、又はこれらの組み合わせを含む供給材料を、水、又は水とモノカルボン酸溶媒を含む液体反応混合物中、液相反応混合物を保持するのに有効な温度及び圧力において、本発明による触媒の存在下で酸素と接触させることを含む。
【0022】
また、本発明は、本発明方法によって製造されるか又は本発明の触媒組成物を用いて製造される、芳香族カルボン酸組成物、特にテレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸組成物を提供する。本発明の好ましい態様によるテレフタル酸組成物は、テレフタル酸;及び、その重量基準で、元素として計算して約0.1〜約500ppmwのパラジウム;元素として計算して約0.1〜約500ppmwのアンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ;並びに、元素として計算して約0.1〜約500ppmwの第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド、或いはこれらの組み合わせを含む。他の態様においては、少なくとも1種類のグリコールとの反応によって繊維の製造のために好適なポリエステルに直接転化させるのに好適なテレフタル酸組成物は、テレフタル酸;及び、テレフタル酸の重量基準で、元素として計算して約0.01〜約100ppmwのパラジウム;元素として計算して約0.01〜約100ppmwのアンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ;並びに、元素として計算して約0.01〜約100ppmwの第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド、或いはこれらの組み合わせを含む。
【0023】
発明の詳細な説明:
本発明の種々の側面及び態様による触媒組成物は、パラジウム;アンチモン、ビスマス、又はアンチモンとビスマスの組み合わせから選択される第15族の元素;及び、少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド;を含む。「金属又はメタロイド」という表現は、本明細書において、金属元素、並びに半金属、及び厳密な意味では金属と考えられないが金属様の特性を有する他の元素を集合的に指すように用いる。金属及びメタロイド並びに触媒組成物の成分を指す際には、この用語は、金属及びメタロイドそれ自体、並びにそれらの化合物、コンプレックス、合金、及び他の形態の配合物を含む広範な意味で用いられることが理解されよう。本発明の種々の側面による触媒組成物中に含まれる第4、5、6、14、及び15族の元素の中で、第15族のヒ素、アンチモン、及びビスマス、並びに第16族のテルル及びポロニウムが、メタロイドであるか又はメタロイドと考えることができる。メタロイドと考えることができる他の元素としては、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、及びゲルマニウムが挙げられる。金属とメタロイドとの間の区別の重要性は、本発明の目的のためには明確ではない。
【0024】
パラジウムに加えて、本発明の触媒組成物は、アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせである第15族の元素を含む。第15族の成分がビスマスのみである組成物よりも大きなそれらの転化率及び選択率のために、アンチモンを含む触媒組成物が好ましい。
【0025】
触媒組成物は、また、少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドも含む。これらの金属及びメタロイドの特定の例としては、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムのような第4族金属;バナジウム、ニオブ、及びタンタルのような第5族金属;モリブデン、クロム、及びタングステンのような第6族金属;及びゲルマニウム、スズ、及び鉛のような第14族の金属又はメタロイド;が挙げられる。好ましい第4、5、6、及び14族の金属及びメタロイドとしては、チタン、バナジウム、クロム、ニオブ、モリブデン、スズ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい金属及びメタロイド成分及び組み合わせは、本発明の組成物の他の成分によって多少変化する。アンチモン又はビスマスと、チタン、バナジウム、モリブデン、クロム、ニオブ、及びスズの1つ以上との組み合わせによって、しばしば、本発明による酸化において望ましい結果が与えられる。本発明の種々の態様によれば、パラジウム、アンチモン、並びに、スズ、バナジウム、及びモリブデンの1つ以上を含む触媒組成物によって、置換芳香族炭化水素基体の酸化生成物への驚くべき転化率、及び芳香族カルボン酸への驚くべき選択率が与えられる。他の態様においては、ビスマスとニオブの組み合わせによって有益な結果が与えられる。
【0026】
本発明の触媒組成物の1種類又は複数の触媒活性種の特定の形態及び化学的同一性は、知られていない。したがって、その構成元素、金属、メタロイド、又は成分に関する本発明の触媒組成物のここでの記載は、別個の金属又はメタロイド或いはそれらの化合物の混合物又は配合物としてにせよ、又はコンプレックス、反応生成物、又はそれらの他の配合物としてにせよ、成分が触媒活性である1種類又は複数の形態及び1種類又は複数の組成物を包含するものと意図される。水及び有機酸に可溶性及び不溶性の形態の触媒組成物が、置換芳香族化合物の易酸化性置換基の酸化に関する活性、及び芳香族カルボン酸酸化生成物への選択性を示すことが観察された。したがって、水、モノカルボン酸水溶液反応溶媒、及び他の液体反応媒体の存在下で行う酸化プロセスにおいては、本発明は、均一及び不均一形態の触媒組成物、並びに、均一及び不均一形態の両方の成分で触媒組成物が構成される混成形態を用いることを包含する。当該混成形態は、1以上の不均一成分が、液体反応混合物中に不溶の非担持か又は担持された金属、メタロイド、又はこれらの組み合わせを含み、液体反応媒体中に可溶の1以上の成分が均一成分として存在する。
【0027】
幾つかの態様においては、一形態の本発明の触媒組成物は、水、又は有機酸、又は有機酸水溶液のような好適な溶媒中に、パラジウム;アンチモン及びビスマスの一方又は両方;及び第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド成分、或いはこれらの組み合わせを含む溶液である。かかる溶液は、好適には、可溶性の金属、又は金属及びメタロイド化合物を配合することによって製造される。好ましい有機溶媒は、C〜Cモノカルボン酸及びその水溶液、特に酢酸又は酢酸水溶液である。また、水も触媒組成物又は成分の溶液を製造するのに好ましい溶媒であり、特に、酸化反応混合物のための液体反応媒体が完全か又は大部分が水である本発明による液相酸化において用いるための溶液を製造するのに好ましい溶媒である。好適な金属又はメタロイド化合物は、水又は酸性調製溶媒中に少なくとも部分的に可溶であるか、或いは組成物の製造において用いる他の金属又はメタロイドの塩又は化合物と組み合わさって少なくとも部分的に可溶の種を形成する。金属及びメタロイドのカルボン酸塩、例えばアクリル酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ヘキサン酸塩、シクロヘキサン酸塩、シュウ酸塩、及び安息香酸塩、並びに好ましくは2〜約10個の炭素原子を有するものが、通常の有機溶媒中でのその可溶性及び入手容易性のために一般に好ましい。所与の金属又はメタロイドに関して、他の好適な化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、酸化物、アセチルアセトン酸塩、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、及び他のアルコキシド、水素化物、リン酸塩、及びこれらの組み合わせを挙げることができる。本発明の触媒組成物を用いる酸化反応混合物中で十分に高い濃度の反応性臭素が存在することは、触媒組成物の活性及び選択率の低下、並びに反応混合物からの可溶性金属又はメタロイド成分の望ましくない沈殿と関係することが分かっているので、触媒組成物を製造するために臭素を含まない金属及びメタロイドの塩及び化合物を用いることが好ましい。また、好ましい金属及びメタロイドの塩は、臭素以外のハロゲンを含まないものであるが、かかる他のハロゲンは、それらが触媒組成物の使用において望ましくない腐食を引き起こしたり、或いは組成物の活性又は選択率に悪影響を与えないならば、存在していてもよい。
【0028】
他の好ましい形態の本発明の触媒組成物は、パラジウム;アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ;及び、1種類以上の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド化合物、或いはこれらの組み合わせから形成される水及び/又はモノカルボン酸に不溶の組成物を含む。かかる不溶の組成物は、好都合には、上記の段落において記載したような個々か又は組み合わさった金属及びメタロイドの組成物の溶液を、金属、及び金属又はメタロイドの組成物と、完全か又は部分的に固体の生成物が得られるように選択した接触条件又は更なる調製工程下で接触させることによって製造される。一態様においては、固体触媒組成物は、好都合には、金属、及び金属又はメタロイド化合物の溶液を、空気又は他の酸素源と、約80℃又はそれ以上で、好ましくは約90℃〜約150℃のような雰囲気温度以上の温度で接触させることによって製造される。幾つかの態様においては、不溶の反応生成物は触媒活性の組成物であり、他の態様においては、不溶の部分が、不溶生成物を形成する反応の後に残留する可溶の部分と組み合わさって活性を示す。一例として、パラジウム(II)、アンチモン(III)、及びスズ(II)の酢酸塩の酢酸溶液を、不活性雰囲気下において、ほぼ等モル量のパラジウム、アンチモン、及びスズを与える量で配合すると、置換芳香族化合物の酸化に関して活性な固体沈殿物を生成する傾向がある。ほぼ等モル量のモリブデンを与える酢酸モリブデン(II)二量体の酢酸溶液も溶液中に含ませると、パラジウム、アンチモン、及びスズの実質的に全部を含むが、モリブデンは一部しか含まない固体沈殿物が形成され、モリブデンの他の部分は溶液中に残留し、固体部分及びそれと不溶部分との組み合わせの両方が活性を示す。溶液を酸素の存在下で接触させると、パラジウム、アンチモン、スズ、及びモリブデンの実質的に全部を含む固体が得られ、これは活性である。
【0029】
他の好適な形態の本発明の触媒組成物は、担持触媒組成物又は成分の形態で固体担体材料上に担持されており、パラジウム;アンチモン又はビスマス;及び/又は、第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド成分;の少なくとも1つを含む。好ましい担持触媒組成物は、担体材料上に担持されている、パラジウム;アンチモン;並びに、スズ、モリブデン及びバナジウムの1以上;を含む。
【0030】
触媒溶液又は不溶触媒組成物若しくは成分を製造するのに用いる金属及びメタロイド成分は、使用条件下において、置換基が易酸化性α−炭素を含む置換芳香族化合物を、置換芳香族化合物の芳香族カルボン酸誘導体を含む酸化生成物に酸化する活性及び選択性を有する組成物を与える任意の原子価状態であってよい。
【0031】
触媒組成物を製造するのに好適なパラジウム化合物の特定の例としては、酢酸Pd(II)、アセチルアセトン酸Pd(II)、プロピオン酸Pd(II)、硝酸Pd(II)、シアン化Pd(II)、水酸化Pd(II)、酸化Pd(II)、硫酸Pd(II)、及び硫化Pd(II)が挙げられる。出発塩から誘導されるハロゲンが最終担持組成物中に存在しないか又は無視しうる量しか存在しない固体又は担持触媒組成物若しくは成分の製造においては、塩化物又はヨウ化物のようなハロゲン化物塩を用いることができる。しかしながら、水又は有機酸水溶液中で溶液の形態である触媒組成物又はそのパラジウム成分を製造するためには、好ましくは、ハロゲン化物塩、特に臭化物の使用は避けられる。パラジウムが単独か又は組成物の他の金属又はメタロイドと一緒に担体上に担持されている担持触媒組成物を製造するためには、以下に記載するような好適な担体材料上に担持されているパラジウム及びパラジウム(0)合金もまた、有用である。
【0032】
有用な第15族の金属又はメタロイド化合物の例は、酢酸Sb(III)、Sb(III)ブトキシド、Sb(III)エトキシド、Sb(III)イソプロポキシド、Sb(III)メトキシド、酸化Sb(III)、酸化Sb(IV)、酸化Sb(V)、Sb(III)プロポキシド、硫化Sb(III)、硫化Sb(V)、酸化アンチモンスズのようなアンチモン又はビスマスの化合物;酢酸Bi(III)、炭酸Bi(III)、塩化Bi(III)、クエン酸Bi(III)、フッ化Bi(III)、フッ化Bi(V)、ヨウ化Bi(III)、モリブデン酸Bi(III)、ネオデカン酸Bi、硝酸Bi(III)、酸化Bi(III)、オキシ塩化Bi(III)、過塩素酸Bi(III)、リン酸Bi(III)、サリチル酸Bi(III)、硫化Bi(III)、チタン酸Bi(III)、及びBi(III)トリフラートのようなビスマス塩;である。
【0033】
触媒組成物の製造に好適な第4族金属化合物の例としては、Ti(IV)ブトキシド、炭化Ti(IV)、炭窒化Ti(IV)、Ti(IV)ジイソプロポキシドビス(アセチルアセトネート)、Ti(IV)エトキシド、水素化Ti(II)、Ti(IV)イソプロポキシド、Ti(IV)メトキシド、硝酸Ti(IV)、窒化Ti(IV)、酸化Ti(IV)、Ti(II)オキシドアセチルアセトネート、オキシ硫酸Ti(IV)、Ti(IV)プロポキシド、硫酸Ti(III)、及び硫化Ti(IV);窒化Zr、酸化Zr(IV)、硫酸Zr(IV)、硝酸Zr(IV)、Zr(IV)プロポキシド、トリフルオロアセチルアセトン酸Zr(IV)、塩化Zr(IV)、過塩素酸Zr(IV)、ヨウ化Zr(IV)、水酸化Zr(IV)、フッ化Zr(IV)、Zr(IV)エトキシド、水素化Zr(II)、リン酸水素Zr(IV)のようなジルコニウム化合物;並びに、Hf(IV)t−ブトキシド、炭化Hf(IV)、及び硫酸Hf(IV)によって例示されるハフニウム化合物;が挙げられる。
【0034】
有用な第5族金属化合物の例としては、アセチルアセトン酸V(III)、炭化V(IV)、V(IV)オキシドスルフェート、V(V)オキシトリエトキシド、V(V)オキシトリイソプロポキシド、V(V)オキシトリプロポキシド、バナジウムオキシドアセチルアセトネート、バナジウムオキシド−2,3−ナフタロシアニンのようなバナジウム化合物;並びに、炭化Nb(IV)、塩化Nb(V)、塩化Nb(IV)、塩化Nb(III)、Nb(V)エトキシド、フッ化Nb(V)、ヨウ化Nb(V)、及び窒化Nbのようなニオブ化合物;が挙げられる。
【0035】
有用な第6族化合物の例としては、酢酸Mo(II)、炭化Mo(II)、Mo(0)ヘキサカルボニル、酸化Mo(VI)、硫化Mo(IV)、モリブデン酸、及び種々のモリブデン酸塩(MoO)のようなモリブデン化合物;酢酸Cr(III)、アセチルアセトン酸Cr(III)、炭化Cr(III)、Crヘキサカルボニル、硝酸Cr(III)、窒化Cr(III)、酸化Cr(III)、酸化Cr(VI)、リン酸Cr(III)、硫酸Cr(III)、及び種々のクロム酸塩(CrO)並びにジクロム酸塩(Cr)などのクロム塩;が挙げられる。
【0036】
有用な第14族の金属又はメタロイド化合物の例としては、酢酸Ge、塩化Ge(IV)、Ge(IV)エトキシド、フッ化Ge(IV)、ヨウ化Ge(IV)、Ge(IV)イソプロポキシド、Ge(IV)メトキシド、窒化Ge(III)、酸化Ge(IV)、及び硫化Ge(II);酢酸Sb(II)、酢酸Sb(IV)、オレイン酸Sb(II)、Sb(IV)t−ブトキシド、2−エチルヘキサン酸Sb(II)、水素化Sb(II)、ヨウ化Sb(II)、メタンスルホン酸Sb(II)、Sb(II)−2,3−ナフタロシアニン、シュウ酸Sb(II)、酸化Sb(II)、Sb(II)フタロシアニン、ピロリン酸Sb(II)、硫酸Sb(II)、及び硫化Sb(II)のようなスズ化合物;並びに、酢酸Pb(II)、酢酸Pb(IV)、アセチルアセトン酸Pb(II)、炭酸Pb(II)、塩化Pb(II)、フッ化Pb(II)、ヨウ素酸Pb(II)、ヨウ化Pb(II)、メタンスルホン酸Pb(II)、モリブデン酸Pb(II)、ニオブ酸Pb(II)、硝酸Pb(II)、酸化Pb(II)、酸化Pb(IV)、過塩素酸Pb(II)、Pb(II)フタロシアニン、サリチル酸Pb(II)、硫酸Pb(II)、硫化Pb(II)、テトラフルオロホウ酸Pb(II)、チオシアン酸Pb(II)、チタン酸Pb(II)、トリフルオロ酢酸Pb(II)、タングステン酸Pb(II)、及びジルコン酸Pb(II)のような鉛化合物;が挙げられる。
【0037】
上記に挙げられる金属及びメタロイドのハロゲン化物は、出発材料に由来するハロゲンが存在しないか又は微量しか存在しない担持触媒又は他の固体触媒組成物及び成分の製造において用いるのに好適であるが、可溶形態の本発明の触媒又はそれらの成分の製造において用いるのには好適ではない。パラジウムと同様に、担持及び他の不溶形態の第4、5、6、及び14族の金属及びメタロイド並びにそれらの合金も、固体触媒及び担持の触媒及び成分の製造において有用である。
【0038】
更なる金属及びメタロイド、例えばアルミニウム、金、カルシウム、カドミウム、セリウム、銅、鉄、ガリウム、インジウム、イリジウム、カリウム、リチウム、ナトリウム、ロジウム、ルテニウム、セレン、亜鉛、及びこれらの組み合わせを組成物中に含ませることができるが、これらの効果は、組成物の他の成分及びそれらが用いられる量によって変化する可能性がある。触媒組成物を製造するために用いることのできる他の金属及びメタロイドの化合物としては、酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩及び他のカルボン酸塩、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、酸化物、水素化物、炭酸塩、リン酸塩、過塩素酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、アセチルアセトン酸塩、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド、及び他のアルコキシド、並びにこれらの固体及び担持された形態及び合金が挙げられる。かかる更なる金属又はメタロイド及び組み合わせの選択は、白金、アンチモン、又はビスマス、及び第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドの選択及び組み合わせによって変化する。本発明の特定の態様においては、パラジウム及びビスマスを含む触媒組成物は、金を含ませることによって増強することができ、これは、好都合には、硫化金(I)、シアン化金(I)、水酸化金(III)、酸化金(III)、及び硫化金(III)の形態で触媒又は成分の製造において用いることができ、塩化又はヨウ化金(I)及び塩化金(III)のような塩化物及びヨウ化物も用いることができるが、塩化物及びヨウ化物からの潜在的な腐食のために可溶組成物及び成分を製造するためにはあまり好ましくない。
【0039】
触媒組成物のパラジウム、アンチモン、ビスマス、及び第4、5、6、及び14族の金属又はメタロイドの有機酸溶液は、それらの製造のために有用な一般的な金属及びメタロイド化合物の製造の容易さ及び入手容易性のためだけでなく、これらは液相反応系中における置換芳香族供給材料の酸化における触媒組成物の使用と適合する形態であるので、本発明組成物の好ましい形態である。また、幾つかの態様においては、金属及び/又はメタロイド化合物、若しくは成分、又はそれらの組み合わせを別々か又は逐次添加することによって触媒組成物を形成して、置換芳香族供給材料の酸化のために用いる液体反応混合物に添加することによって最終的な触媒組成物を形成するようにすることが望ましい可能性がある。好ましい形態の組成物は、カルボン酸又はカルボン酸水溶液を溶媒とする金属及び/又はメタロイド成分の溶液を含むが、本発明は、他の形態の触媒組成物、或いはその構成金属、メタロイド、又はこれらの組み合わせを含むことも理解すべきである。
【0040】
本発明の他の好ましい態様においては、触媒組成物又はその成分を、担体材料と配合する。触媒組成物又は成分は、例えばペレット、顆粒、押出物、又はプロセスで使用するのに適した他の粒状若しくは固体形態の担体材料を、水又は担体に対して不活性で容易に除去される他の溶媒を用いた触媒金属化合物溶液と接触させ、その後、雰囲気温度若しくは昇温温度において乾燥させることなどによって溶媒を除去することなどによる任意の好適な技術によって、担体材料に堆積させるか又は他の形態で化合させることができる。かかる製造を行うために、全ての触媒金属又はメタロイド塩若しくは化合物の単一の溶液を用いることができ、個々の触媒金属又はメタロイド若しくは組み合わせの溶液による同時又は逐次含侵も同様に行うことができる。1種類以上の金属又はメタロイドを予め含侵した担体材料、例えば担持パラジウム成分を、他の触媒金属又はメタロイドの1種類又は複数の溶液と接触させることができる。担体を丁度湿潤させる量の触媒金属又はメタロイド化合物の溶液を担体と接触させ、次に得られた湿潤担体を乾燥する所謂「初期湿潤法」は、公知であり、触媒の製造によく適している。時には「過剰溶液法」と称される他の好適な方法においては、担体を湿潤させるのに必要な容積よりも多い容積の1種類以上の含侵溶液を担体と接触させ、その後、乾燥によって、例えば雰囲気条件下か又は適度な加熱を加えて蒸発によって溶媒を除去する。過剰溶液法は、低表面積の担体を用いる場合には、初期湿潤法よりも好ましいことがある。また、1種類又は複数の触媒金属化合物の溶液を担体材料上に噴霧するような他の方法もまた好適である。空気又は窒素の存在下での加熱及び高温か焼、並びに水素による還元のような後処理によっても、興味深い有利性又は特性を有する触媒組成物又は成分を得ることができる。
【0041】
本発明方法において用いるためには、雰囲気中及びプロセスでの使用条件下で安定な触媒組成物又はその成分のための任意の担体が好適である。好ましい担体材料は、プロセス条件及び使用条件に長時間曝露するにあたって、プロセス運転に好適な物理的特性、並びに金属又は金属及びメタロイドの装填量を保持する点で安定な固体である。少なくとも約100℃の温度において数日間のオーダー、例えば少なくとも7日間の間の、水又は酢酸水溶液中における担体の実質的な不溶性、及び触媒金属又はメタロイド装填量の大きな損失に対する抵抗性が、好適な担体材料の指標である。本発明方法において用いるのに好ましい担体としては、炭素、及び非ゼオライト金属酸化物、例えばα−アルミナ、シリカ、並びに、そのルチル及びアナターゼ形態並びにアナターゼ及びルチル相の両方が存在する混合形態を含むチタニアが挙げられる。ゼオライトは本発明方法による酸化において用いるための適度な安定性に欠ける傾向があるので、非ゼオライト担体が好ましい。好適である可能性のある他の担体としては、高強度で酸安定性の炭化ケイ素、ジルコニア、γ−アルミナ、及び酸化亜鉛が挙げられる。好適な市販の炭素担体の通常の例は、約1m/g又は更に1m/g以下乃至約1500m/g以下の範囲のBET表面積を有する傾向がある。金属酸化物の表面積は、ルチルチタニアの場合の約1m/g乃至シリカに関する約500m/g以下にわたる傾向がある。担体材料は任意の好適な形態で用いることができ、その例としては、粉末、粒状物、ペレット、押出物、錠剤、顆粒、球状体、及び微少球状体が挙げられる。担持組成物の触媒金属装填量は重要ではないが、高い触媒特性及び活性のためには、担持組成物の約0.1重量%、好ましくは0.5重量%乃至、約20重量%、好ましくは15重量%の範囲の装填量が好ましい。
【0042】
本発明の触媒組成物のパラジウム、アンチモン、ビスマス、第4、5、6、及び14族の金属又はメタロイド成分の割合は、広範囲に変化させることができる。好ましくは、パラジウムと、アンチモン及びビスマスの一方又は両方は、アンチモン、ビスマス、又はそれらの組み合わせに対するパラジウムの原子比が約1:1000〜約1000:1、より好ましくは約1:100〜約100:1となるような量で存在させる。また、パラジウムと、第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドとの割合は、好ましくは約1:1000〜約1000:1、より好ましくは約1:100〜約100:1の原子比で存在させる。種々の組み合わせにおける金属とメタロイド元素の割合は、本明細書中の記載及び実施例によって導かれれば、ベンゼン及びナフタレンジカルボン酸を製造するための接触酸化の当業者によって、決定し、且つ特定の組み合わせ及び使用に関して最適化することができる。
【0043】
本発明の種々の態様による好ましい触媒組成物は、パラジウム成分;アンチモン又はビスマス成分の少なくとも一方;及び、スズ、チタン、モリブデン、バナジウム、クロム、ニオブ、又はこれらの組み合わせ;を含む。特に好ましい組成物は、パラジウム成分;アンチモン成分;及び、スズ、チタン、バナジウム、又はモリブデンの少なくとも1つの成分;を含む。他の特に好ましい組成物は、パラジウム成分;ビスマス成分;及び、スズ、チタン、ニオブ、モリブデン、又はバナジウム成分の少なくとも1つ;を含む。また、金、ガリウム、カルシウム、及び亜鉛のような他の金属をかかる組成物に加えることも有益である可能性がある。
【0044】
かかる組成物は、本発明によって置換芳香族基体を良好な選択率で芳香族カルボン酸誘導体に酸化するための所望の活性、及び幾つかの態様においては、芳香族基体及び有機酸反応溶媒の炭素酸化物への比較的低い燃焼を示すことができる。上記に記載したように、かかる組成物におけるパラジウムと他の金属又はメタロイドとの原子比は、広範囲に変化させることができ、本明細書における開示によって導かれれば通常の実験によって用途に対して最適化又は調整することができる。パラジウムと1種類又は複数の他の金属又はメタロイド成分とは、好ましくは、それぞれの他の金属又はメタロイドに対するパラジウムの原子比が約1:100〜約100:1となるような量で存在させる。より好ましくは、パラジウム及びアンチモン又はビスマスを含む組成物においては、それぞれのかかる他の金属又はメタロイドに対するアンチモン及び/又はビスマスの原子比は約1:10〜約10:1である。好ましくは、組成物は、反応性臭素を含まないか又は少なくとも実質的に含まない。幾つかの態様においては、高い転化率及び選択率で酸化を行うためには、アンチモン又はビスマスの1以上に対するパラジウムの原子比が、約1:1、より好ましくは約1.5:1、乃至約10:1、より好ましくは約5:1である本発明による組成物、及び、モリブデン、チタン、又はバナジウム、或いはスズのような1以上の更なる金属又はメタロイドに対するパラジウムの原子比が、約0.3:1、好ましくは約1:1、乃至約5:1、より好ましくは約3:1である本発明による組成物が非常に有効である。二置換芳香族化合物を高い転化率及び選択率で対応する芳香族ジカルボン酸に酸化するために特に有効な組成物であるかかる触媒の特定の例は、パラジウム成分;アンチモン成分;及びバナジウム又はモリブデン成分、或いはこれらの組み合わせ、或いは、これらのいずれかと他の金属若しくはメタロイド成分、例えばクロム、チタン、若しくはスズとの組み合わせを含む。この組み合わせは、パラジウムと;アンチモン又はビスマス(又はこれらの組み合わせ)と;モリブデン、バナジウム、スズ、又はこれらの互いの組み合わせ若しくはかかる他の金属又はメタロイドとの組み合わせ;の原子比が約1:1:0.5となるような量である。
【0045】
本発明の組成物が易酸化性置換基含有芳香族化合物の酸素による芳香族カルボン酸への選択性での酸化生成物への反応を触媒することができる1つ又は複数のメカニズムは、理解されていない。本組成物は、アルキル置換芳香族化合物、並びにその部分酸化誘導体、例えばトルイル酸、ヒドロキシメチル安息香酸、芳香族アルデヒド、及びカルボキシベンズアルデヒドを、より完全に酸化されたカルボン酸誘導体に酸化する活性を示す。本明細書の実施例から明らかなように、本発明組成物の幾つかの個々の金属及びメタロイドは、パラキシレンをその酸化芳香族誘導体に転化する多少の活性を示す。しかしながら、転化に際して、パラキシレンの酸化誘導体への選択率の大きな変動を伴い、しばしば炭素酸化物へのパラキシレンの同程度か又は更に多い燃焼を伴う。しかしながら、パラジウム、アンチモン又はビスマス、及び第4、5、6、又は14、又は15族の金属又はメタロイドの1つ以上がその中に存在する組成物は、酸化芳香族誘導体への向上し且つしばしば予期しなかった転化率、選択率、低下した炭素酸化物生成量、或いはこれらの向上の組み合わせ、並びに幾つかの場合においては第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドの組み合わせを加えることによる更なる向上の可能性を示した。
【0046】
本発明組成物の活性及び選択性が、水のような実質的に中性の系、並びに弱酸性及び強酸性の媒体などの液体反応媒体中において示された。本発明組成物は、アルキル芳香族化合物の酸化のための公知の臭素促進触媒と比較して、水に対する感受性において驚くべき相違を示す。パラキシレンの酸化によるテレフタル酸の商業的製造又はメタキシレンの酸化によるイソフタル酸の商業的製造において用いられる公知の臭素促進触媒は、含水量が僅か1重量%増加しただけで酢酸水溶液反応媒体中における転化活性が低下する傾向を有する。これに対して、本発明の種々の態様による触媒組成物を用いると、酸化は、液体反応媒体中の水濃度がほぼ50%に増加しても、活発に進行し続けた。本発明組成物を用いるパラキシレンの酸化においては、完全に酸化されたテレフタル酸生成物への選択率は、約5〜約40重量%の範囲の水レベルにおいて殆ど変化がなく、テレフタル酸に更に酸化することができる部分酸化中間体への選択率は少量減少する傾向があり、これは増加した触媒活性を示すものである。液体反応媒体として100重量%の水を用いても、酸化は適度から活発の範囲内であり、芳香族カルボン酸への選択率は、概して50%より高く、80%以上の高さであった。
【0047】
本発明の種々の態様による組成物は、基体化合物(substrate compounds) 又は反応溶媒として用いる有機酸の燃焼を比較的低いレベルにしつつ易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を、カルボン酸誘導体に転化させる活性及び選択性を示す。炭素酸化物の生成量は、他の条件が同等であれば温度を上昇させることによって増加する傾向があり、二酸化炭素への転化は一酸化炭素よりも好ましいことは明らかである。
【0048】
本組成物は、反応性臭素の不存在下において、置換芳香族基体の酸化に関して活性であり、芳香族カルボン酸への選択性を示す。反応性臭素源として臭化水素水溶液を加えて行う酸化実験においては、酸化芳香族誘導体への転化率も、カルボン酸誘導体への選択率も向上しなかった。本発明の触媒組成物は、置換芳香族炭化水素基体の酸化において少量の反応性臭素を許容すると思われるが、全触媒金属及びメタロイドの5重量%未満の量は、カルボン酸誘導体への選択率が、アルデヒドのようなより完全に酸化されてない生成物への選択率よりも低くなり、かつ二置換芳香族化合物の転化においては、1つのカルボン酸基及び1以上の未転化基又はヒドロキシメチル若しくはアルデヒド基のような部分的にしか酸化されてない基を有する誘導体への選択率よりも低くなるという意味において、組成物を失活させることが観察された。更に多い量の臭素を用いると、本発明による組成物の少なくとも幾つかは、酸化生成物が僅かか又は全く得られないレベルまでの転化率の損失を示す。好ましくは、反応性臭素は触媒金属及びメタロイドの重量を基準として約2重量%未満のレベルで存在させる。
【0049】
また、本発明組成物は、アルキル芳香族化合物の酸化のために用いるコバルトベースの触媒のための公知の犠牲有機促進剤であるメチルエチルケトンのレベルを増加させると失活すると思われる。低いレベルにおいては活性及び選択性は比較的影響を受けないと思われるが、より高いレベルにおいては、転化率が低下し、選択性が芳香族カルボン酸からより完全に酸化されてない誘導体にシフトする。
【0050】
本発明の触媒組成物の触媒機構及び反応経路は理解されていないが、本組成物は、置換芳香族基体の酸化に有効であり、置換基を、アルデヒド基、カルボン酸基、又はこれらの組み合わせで置換されたより完全に酸化された誘導体へ、カルボン酸基への選択性をもって、且つ酸化を促進させるために臭素を用いる必要なしに、実質的に転化させるための活性を示す。反応性臭素の不存在下で組成物が活性及び選択性を有することにより、臭素促進触媒を用いて芳香族基体(aromatic substrate)を酸化するための従来の方法、並びに、低い活性及び選択性を有する触媒、アルカリ性反応媒体、或いは他のプロセス工程において閉塞を引き起こす可能性がある不溶の沈殿物へ転化する傾向がある触媒に依存する代替案を凌ぐ、有利な数多くの利益および可能性が与えられる。芳香族供給材料、特にトルエン、キシレン、及びメチルナフタレンのようなアルキル芳香族炭化水素からの芳香族カルボン酸の製造においては、本発明は、酸化プロセス及び触媒系から臭素を排除することを可能にすることによって、プロセスの単純化及びコストの削減の可能性を提供することができる。かかる機会としては、プロセスの望ましくない臭素化副生成物を排除するための熱又は接触酸化及びスクラビングなどによるプロセス流出流の処理のための必要条件を排除又は減少する可能性だけでなく、反応容器、撹拌機、及び凝縮器、蒸留カラムなどのような関連する反応オフガス処理装置の金属を、従来の臭素促進接触酸化に通常必要な高価なチタン金属及びニッケル合金鋼の固体及びクラッド構造体から、ステンレス鋼又は軟鋼のようなより耐腐食性の低い構造体へランクを落とすか、又は被覆をより少なくする可能性も挙げられる。更に、例えば約170℃以上の温度における高温酸化を、芳香族基体又はカルボン酸溶媒の炭素酸化物への実質的な燃焼を起こさずに行うことができる。また、水、又は希有機酸水溶液液体反応媒体若しくは溶媒中での酸化によって、有機溶媒の使用量を減少させる可能性、反応混合物、プロセス流、流出流、及びオフガスの腐食性を減少させる可能性、並びにプロセスを単純化し、プロセス装置のための構造体の材料のランクを更に落とす可能性も提供される。
【0051】
簡単に言うと、本発明方法は、芳香族供給原料を、本発明による触媒組成物の存在下、液体反応混合物中において酸素と接触させることによって、易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を含む芳香族供給原料を、置換芳香族化合物の少なくとも1種類の芳香族カルボン酸誘導体を含む酸化芳香族生成物に転化する方法が提供される。好ましい置換芳香族炭化水素は、少なくとも1つの置換基が易酸化性α−炭素原子を含むものである。これに関連して、「α−炭素原子」は芳香環に直接結合している炭素原子を指し、「易酸化性α−炭素原子」はそれに直接結合している少なくとも1つの水素を有するα−炭素原子である。易酸化性α−炭素原子含有置換基を有する置換芳香族供給材料の酸化は、少なくとも1つの置換基がα−炭素原子を有するカルボン酸基であるが酸化生成物がより完全に酸化されていない置換基を有する誘導体を含みうる芳香族カルボン酸誘導体、或いは出発材料の一部の置換基がカルボン酸基に酸化されるが他の基はより完全に酸化されないか又は未転化で残留する芳香族カルボン酸誘導体に対して選択性である。他の条件が同等であるならば、本発明の触媒組成物による転化率及び選択率は、組成物の個々の金属又はメタロイドを用いて得られるものを超える。芳香族出発材料の酸化芳香族誘導体への転化率は、好ましくは少なくとも約25モル%であり、本発明の幾つかの態様においては100モル%に達する。芳香族カルボン酸誘導体への選択率は、全ての芳香族供給材料のカルボン酸置換酸化生成物を考慮すると、好ましくは少なくとも約40%であり、100%に近づく可能性がある。本発明の幾つかの態様においては、少なくとも約80モル%の転化率と、少なくとも80%、より好ましくは90%以上の単一の芳香族酸誘導体への選択率が達成され、このため、本発明によって、中間酸化生成物の回収技術及び再循環を最小にするか又は簡単にすることができるかかる誘導体の製造方法が提供される。本発明方法の幾つかの態様が適している好ましい芳香族カルボン酸は、液相反応系で製造されるものであり、カルボン酸基の少なくとも1つ、好ましくは全部が、芳香環に直接結合している炭素原子、即ちα−炭素原子を含む1以上の芳香環を有するモノ及びポリカルボキシル化種が含まれる。かかる芳香族酸の例としては、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリット酸、フタル酸、イソフタル酸、安息香酸、及びナフタレンジカルボン酸が挙げられる。
【0052】
本発明方法の種々の態様による液相酸化は、昇温及び昇圧下、好ましくは液相反応混合物を保持するのに有効な圧力下において行う。液相酸化工程での芳香族供給材料の酸化によって、芳香族カルボン酸を含む酸化生成物、及び芳香族供給材料の部分又は中間酸化生成物のような反応副生成物が生成する。液相酸化、並びに生成物の回収、分離、精製、並びにオフガス及び液体流出流の処理などの関連するプロセス工程は、バッチ法、連続法、又は半連続法として行うことができる。
【0053】
酸化のために好適な芳香族供給材料は、一般に、通常は製造される芳香族カルボン酸のカルボン酸基の位置に対応する1以上の位置において、好ましくはカルボン酸基に酸化することのできるα−炭素原子を含む少なくとも1つの基によって置換されている芳香族炭化水素を含む。1つ又は複数の易酸化性置換基は、メチル、エチル、又はイソプロピル基のようなアルキル基、或いはヒドロキシアルキル、ホルミル、又はアシル基のような既に酸素を含んでいる基であってよい。置換基は同一であっても異なっていてもよい。供給原料化合物の芳香環はベンゼン核であってよく、或いはそれはナフタレン核のように二環又は多環式であってよい。供給原料化合物の芳香族部分上の易酸化性置換基の数は、芳香環上の利用できる部位の数と同じであってよいが、一般には全てのかかる部位よりも少なく、好ましくは1又は2、最も好ましくは2である。単独か又は組み合わせて用いることのできる有用な供給化合物の例としては、トルエン、エチルベンゼン、及び他のアルキル置換ベンゼン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、トルアルデヒド、トルイル酸、アルキルベンジルアルコール、1−ホルミル−4−メチルベンゼン、1−ヒドロキシメチル−4−メチルベンゼン、メチルアセトフェノン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−ホルミル−2,4−ジメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、アルキル−、ホルミル−、アシル−、及びヒドロキシルメチル−置換ナフタレン、例えば2,6−ジメチルナフタレン、2,6−ジエチルナフタレン、2,7−ジメチルナフタレン、2,7−ジエチルナフタレン、2−ホルミル−6−メチルナフタレン、2−アシル−6−メチルナフタレン、2−メチル−6−エチルナフタレン、及び上記の化合物の部分酸化誘導体が挙げられる。
【0054】
それらの置換芳香族炭化水素前駆体の酸化によって対応する芳香族カルボン酸を製造するため、例えば単置換ベンゼンから安息香酸、パラ二置換ベンゼンからテレフタル酸、オルト二置換ベンゼンからフタル酸、並びにそれぞれ2,6−及び2,7−二置換ナフタレンから2,6−又は2,7−ナフタレンジカルボン酸を製造するためには、比較的純粋な供給材料、より好ましくは所望の酸に対応する前駆体の含量が少なくとも約95重量%、より好ましくは少なくとも98重量%、又はそれよりも更に高い供給材料を用いることが好ましい。好ましい前駆体としては、アルキル芳香族化合物、及びそれらの部分酸化誘導体が挙げられる。一例として、パラキシレンの場合には、芳香族カルボン酸を含むより完全に酸化された生成物に転化させることもできる部分酸化誘導体の例としては、p−メチルアセトフェノン、p−トルイル酸、p−ヒドロキシメチル安息香酸、トルアルデヒド、及び4−カルボキシベンズアルデヒドなどの誘導体が挙げられる。テレフタル酸を製造するのに用いるために好ましい芳香族炭化水素供給材料は、パラキシレンを含む。安息香酸を製造するために好ましい供給材料は、トルエンを含む。
【0055】
本発明方法による芳香族供給材料の酸化は、液体反応混合物中で行う。酸性反応媒体が好ましい。水を反応媒体として用いて、驚くほど良好な転化率及び選択率を得ることができる。本発明による芳香族供給材料の酸化において副生成物として生成する水を反応のための液体媒体として機能させ、それによって外部源からか或いは他のプロセス工程からの水の再循環によってプロセスに水を加える必要性を排除又は減少させ、また、異なる液体を使用又は存在させること、並びにそれらの分離及び再循環若しくは再使用のために必要である可能性があるプロセス及び装置の複雑性を排除することができる。一態様においては、反応混合物のために好ましい液体媒体は、水、及び約10%以下のC〜Cモノカルボン酸を含む。液相反応において芳香族供給材料のために好ましい溶媒は、低分子量モノカルボン酸、好ましくはC〜Cモノカルボン酸、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、及び安息香酸を含む。かかるモノカルボン酸の中で酢酸が好ましい。その水溶液、例えば酸の約40〜約95重量%溶液の形態の溶媒を用いて良好な結果を得ることができる。また、液相酸化反応条件下でモノカルボン酸に酸化するエタノール及び他の共溶媒材料を、そのままか又はモノカルボン酸と組み合わせて用いることもできる。水がプロセスのために好ましい液体媒体であり、液体反応媒体のためにモノカルボン酸溶媒が好ましいが、他の好適な溶媒又は液体媒体を用いることができる。非アルカリ性反応混合物中でプロセスを行う本発明の好ましい態様によれば、水及びC〜Cモノカルボン酸と一緒か又はこれに代わるものとして用いることのできる液体媒体の例としては、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、メチルコハク酸、グルタル酸、及びシアノアルカン又はシアノアレーン、例えばそれぞれアセトニトリル又はベンゾニトリル、並びにこれらの水溶液形態が挙げられ、これらの2以上の組み合わせも好適である可能性がある。本発明による液相酸化のために用いられる触媒は、パラジウム;アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせから選択される第15族元素;及び、少なくとも1種類の上記記載の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド成分;を含む。可溶性触媒は触媒、酸素ガス、及び液体供給材料の間の接触を促進させるので、本発明の幾つかの態様において好ましい触媒は、酸化のために用いる液相反応混合物中に可溶のものである。しかしながら、他の好ましい態様においては、不均一形態か、又は1以上の不均一成分が存在する触媒組成物を用いる。不均一形態で用いる触媒組成物又はその成分は、担持させてもよく、又は非担持であってもよい。
【0056】
好ましい態様においては、本発明による液相酸化は、活性臭素の不存在下又は実質的な不存在下で行う。少量の臭素は触媒特性を妨げるとは思われないが、本発明の触媒は臭素を用いずに活性及び選択性であり、少なくとも幾つかの態様においては、臭素のレベルを増加させると、より活性が低くなるか、又は選択性が、より完全に酸化された芳香族カルボン酸誘導体からより完全に酸化されていない芳香族カルボン酸誘導体へシフトする。本発明による好ましい方法においては、液体反応混合物の反応性臭素含量は、反応媒体の約50重量ppm以下である。触媒特性に実質的な悪影響を与えない少量の反応性臭素は許容することができるが、それとその副生成物の腐食性のために、最も好ましくは反応系は反応性臭素を含まない。
【0057】
また、酸化工程の液相反応のための反応物質は、分子状酸素源も含む。気体状酸素源が好ましく、かかる源として空気が好都合に用いられる。また、酸素富化空気、純水酸素、及び分子状酸素を含む他の気体混合物も有用である。
【0058】
芳香族供給材料、触媒、酸素、及び液体反応媒体又は溶媒の割合は、重要ではなく、反応物質、液体媒体又は溶媒、及び触媒組成物の選択、ならびに所期の酸化及び芳香族カルボン酸生成物、プロセス設計及び運転ファクターの詳細などのファクターに基づいて広範囲に変化させることができる。約1:1〜約30:1の範囲の芳香族供給原料に対する溶媒又は液体反応媒体の重量比が好ましく、約2:1〜約5:1がより好ましいが、より高いかより低い比、例えば数百:1の範囲であっても用いることができる。酸素は、通常、芳香族供給材料を基準として少なくとも化学量論量で用いるが、気体状酸素の場合においては、反応物質及び溶媒組成物、反応条件及び速度を考慮して、液相酸化の結果として生成するオフガスが可燃性混合物を形成するほど多くはない量で用いる。最も通常的には空気の形態で供給される酸素は、好ましくは、芳香族炭化水素供給材料1モルあたり少なくとも約3〜約5.6モルの分子状酸素を与えるのに有効な速度で供給する。触媒は、芳香族供給材料を酸化生成物に転化させるのに有効な量で用い、広範囲に変化させることができる。他の条件が同等であるならば、本発明の触媒組成物を用いる酸化における反応速度及び酸素ガスの消費は、酸化反応混合物中の触媒組成物の濃度が増加するに従って増加する。バッチ及び連続スラリー法においては、本発明の触媒組成物は、好ましくは、全触媒金属及びメタロイドの濃度が、酸化において用いる液体媒体又は溶媒の重量を基準として、少なくとも約100ppmw、より好ましくは少なくとも約500ppmwで、約10,000ppmw以下、より好ましくは約6,000ppmw以下、更に好ましくは約3,000ppmw以下となるような量で用いる。固定床、流動床、及び沸騰床法のような連続流動法においては、触媒組成物重量に対する置換芳香族炭化水素供給流の時間あたり重量空間速度は、本明細書に示す実施例にしたがうバッチ及び半連続酸化において報告されている触媒特性に基づく通常の実験によって決定することができる。
【0059】
芳香族供給材料を、1種類以上のカルボン酸置換芳香族誘導体を含む酸化生成物に酸化するための液相反応は、通常は1以上の反応容器を含む好適な酸化反応区域において行う。好適な反応容器は、高温及び高圧の条件、及び反応区域内に存在する一般的に酸性の液相反応混合物に耐え、触媒、液体及び気体反応物質、並びに反応媒体又は溶媒の添加及び混合、並びに、酸化生成物又はかかる生成物を含む液体流出流のその回収のための取り出しができるように構成及び構築される。本発明による酸化は、その幾つかの態様においては発熱性である傾向があり、かかる場合においては、液体反応混合物からの反応オフガスを蒸発させ、反応区域からオフガスを除去することによって反応熱を好都合に制御することができる。かかる場合においては、反応容器は、また、オフガスを排気するように構成しなければならない。用いることのできる反応器のタイプとしては、スラリー、連続撹拌タンク反応器、バブルカラム反応器、管状反応器、沸騰床、固定床、又は充填床、及びトリクルベッド反応器が挙げられる。通常は容器を使用のために配置した際に垂直に伸長する中心軸を有するカラム状容器の形態の撹拌タンク反応器は、用いる場合には気体反応物質又は反応物質源を液相沸騰反応混合物内に分配しうる反応物質を混合するための1以上の混合機構を有する。通常、混合機構は、回転可能か又は他の様式で可動性のシャフト上に載置されている1以上のインペラーを含む。例えば、インペラーは回転可能な中心の垂直シャフトから伸長していてよい。反応器は、用いる特定の温度、圧力、及び反応化合物に耐えるように設計された材料で構築することができる。本発明の触媒組成物を不均一形態で用いるためには、固定床、流動床、及び沸騰床反応器、並びにスラリー反応器が有用である。ステンレス鋼又は二相鋼が、反応性臭素源なしで行う酸化のための好ましい構築材料であるが、所望の場合には、チタン又は高ニッケル鋼合金のようなより耐腐食性の高い金属又は合金を用いることができる。
【0060】
液相酸化のための反応混合物は、芳香族供給材料、液体反応媒体又は溶媒、及び本発明による触媒組成物又はその成分を含む成分を配合し、混合物に好適な酸素源を添加することによって形成する。連続又は半連続法においては、成分を、酸化区域に導入する前に1以上の混合容器内で配合することができる。しかしながら、反応混合物は、酸化区域内で形成することもできる。上記したように、反応混合物のための液体媒体として水を用いる酸化においては、酸化の副生成物として生成する水を液体媒体として機能させて、外部源からのその添加を排除又は減少させるようにすることができる。
【0061】
本発明による触媒組成物の存在下における芳香族供給材料と酸素との接触は、易酸化性置換基を有する置換芳香族化合物を、置換芳香族供給材料の芳香族カルボン酸誘導体を含む酸化生成物に転化させるのに有効な反応条件下で行う。好ましい反応条件としては、液相反応混合物を保持しながらかかる転化のために有効な温度及び圧力が挙げられる。約100〜約300℃の温度が好ましい。好ましい温度は、約140℃、より好ましくは約160℃、乃至、約230℃、より好ましくは約200℃である。液相反応混合物の圧力を用いて液相反応混合物が沸騰する温度を制御することができ、好ましくは実質的に液相の反応混合物を保持するように選択する。約5〜約40kg/cmゲージの圧力が好ましく、特定のプロセスのために好ましい圧力は、供給流及び溶媒又は液体反応媒体組成物、温度及び他のファクターによって変動し、より好ましくは約10〜約30kg/cmの範囲である。反応容器又は反応区域内での滞留時間は、与えられた生産量及び条件に対して適当なように変動させることができ、約20〜約150分が一般に一定範囲のプロセスに対して適している。芳香族カルボン酸製造の当業者に理解されるように、好ましい条件及び運転パラメーターは、異なる生成物及びプロセスによって変動し、上記に規定した範囲内、或いはこの範囲を更に超えて変化させることができる。
【0062】
本発明による芳香族供給材料の酸化によって得られる生成物は、芳香族供給材料の芳香族カルボン酸誘導体、並びにより完全に酸化されてない誘導体を含む。一例として、本発明による酢酸水溶液反応溶媒又は水中でのパラキシレンの酸化においては、酸化生成物は、通常、α−炭素原子を有する少なくとも1つのカルボン酸置換基を有する1種類以上のパラキシレン誘導体、例えばテレフタル酸、4−カルボキシベンズアルデヒド、p−トルイル酸、及びp−ヒドロキシメチル安息香酸、並びに1種類以上の他の酸化生成物、例えばp−トルアルデヒド、トリメリット酸、安息香酸、及び2,4’,5−トリカルボキシビフェニルを含む。反応温度を制御するために液体反応混合物から気相を蒸発させる本発明の幾つかの態様においては、気相の主成分は、通常、置換芳香族供給材料の酸化の副生成物として生成する水を含み、これは反応のための液体媒体又はその成分として存在させることもできる。また、気相は、プロセスにおいて有機酸溶媒を用いる場合には、有機酸反応溶媒及びその酸化副生成物も含む。また、気相は、通常、芳香族供給材料及び存在する場合には有機酸反応溶媒の燃焼から生成する可能性がある、より少量の一酸化炭素及び二酸化炭素も含む。気相の炭素酸化物(CO及びCO)の合計含量は、好ましくは、酸化において消費される酸素1モルあたり約0.1モル未満、より好ましくは約0.05モル未満の炭素酸化物である。また、気相は、少量の未反応の芳香族供給材料及びその酸化生成物、並びに気体状酸素源からの未反応の酸素を、かかる源中に含まれている可能性がある不活性気体成分と一緒に含む可能性がある。本発明の好ましい態様においては、芳香族供給材料を、実質的に炭素酸化物を生成させることなく、供給材料の1種類以上の芳香族カルボン酸誘導体を含む酸化生成物に転化させる。より好ましくは、燃焼した芳香族供給原料並びに用いる場合には燃焼した有機酸反応溶媒からの炭素酸化物を含む酸化からの排気ガス中の炭素酸化物レベルは、置換芳香族供給材料1モルあたり約0.5モル未満、さらにより好ましくは置換芳香族供給材料1モルあたり約0.25モル未満の一酸化炭素+二酸化炭素である。
【0063】
本発明方法から得られる酸化生成物は、通常、液相反応混合物中に溶解しているか又はその中に懸濁している固体として形成される。酸化生成物又はその成分の回収は、任意の好適な技術によって行うことができる。固体生成物は、濾過技術によって液体反応媒体から回収することができる。溶液及び懸濁固体としての両方の状態で反応媒体中に存在している酸化生成物は、結晶化技術によって好都合に回収することができる。供給材料の芳香族カルボン酸誘導体は、好ましくは、反応媒体からの結晶化によって固体形態で回収され、これは、反応区域中か又はこれから取り出した後の液体反応混合物を冷却しそれにかかる圧力を解放することによって好都合に行うことができる。液体中にスラリー化している固体生成物、及び/又は、反応液体又は結晶化溶媒から結晶化した固体は、好都合には、遠心分離、濾過、又はこれらの組み合わせによって液体から分離する。かかる技術によって反応液から回収される固体生成物は、芳香族供給材料の芳香族カルボン酸誘導体及び酸化生成物の他の成分を含む。必要か又は所望の場合には、好適な溶媒による抽出、蒸留、又は昇華などの任意の好適な技術によって、生成物種の更なる分離を行うことができる。
【0064】
その幾つかの態様においては、液体反応媒体として水又は比較的高い含水量を有する溶媒を用い、臭素の完全か又は実質的な不存在下においても達成される、高い転化率及びカルボン酸選択率、低い炭素酸化物生成量、及び優れた特性などの本発明の触媒組成物及び方法の特徴は、少なくとも1種類のアルキルベンゼン、その中間酸化生成物、又はこれらの組み合わせを含む芳香族供給材料を高い収率及びベンゼンジカルボン酸への高い選択率で芳香族カルボン酸に酸化するのに特に適している。本発明のかかる態様による好ましい方法は、パラキシレン、又はその1種類以上の中間酸化生成物、或いはこれらの組み合わせを含む芳香族供給材料の、テレフタル酸を含む酸化生成物への酸化、並びにメタキシレン又はその1種類以上の中間酸化生成物、或いはこれらの組み合わせの、イソフタル酸を含む酸化生成物への酸化を含む。
【0065】
かかる態様においては、酸化は、好ましくは、芳香族供給材料を、水又は水と酢酸を含み、本発明による触媒組成物がその中に溶解しているか又はスラリー化しているか、或いは担持若しくは非担持触媒若しくは触媒成分粒子の固定床におけるように他の様式で本発明による触媒組成物と接触している液相反応混合物中において、液相反応混合物を保持するのに有効な昇温及び昇圧下、好ましくは少なくとも約150〜約230℃の温度において酸素ガスと接触させることを含む。かかるプロセスに好ましい本発明による触媒組成物は、少なくとも約80モル%の酸化生成物への転化率及び少なくとも約80%の芳香族供給材料のベンゼンジカルボン酸誘導体への選択率、より好ましくは少なくとも約90%の転化率及び芳香族ジカルボン酸選択率の一方又は両方を示す。
【0066】
良好な転化率及び選択率を与えるが芳香族供給材料からの炭素酸化物の低い生成量を与えるかかるプロセスのために特に好ましい本発明による触媒組成物は、パラジウム成分、アンチモン成分、及びスズ又はモリブデン成分の少なくとも1つ、或いはこれらの組み合わせを含む。
【0067】
特に好ましい均一系触媒組成物は、水、酢酸、又は酢酸水溶液中の溶液の形態の上記記載の成分を含むものである。かかるプロセスのために特に好ましい不均一形態の触媒は、固体形態か又は担体上に堆積されている、パラジウム成分、及び好ましくはアンチモン、ビスマス、及び第4、5、6、又は14族の金属及び/又はメタロイド成分の少なくとも1つ、最も好ましくはパラジウム及び他のかかる成分を含む。
【0068】
供給材料の酸化芳香族誘導体への転化、芳香族カルボン酸誘導体への転化の選択性、並びに炭素酸化物への芳香族供給原料の最小の損失は、反応性臭素源の不存在下でかかる触媒を用いて達成され、したがって、組成物及びその成分、並びにそれらがその中で用いられる酸化反応混合物は、最も好ましくは反応性臭素を含まない。
【0069】
本発明のこの態様による方法における液相反応の酸化生成物は、良好な収量のテレフタル酸又はイソフタル酸を含み、繊維に溶融紡糸するのに好適なポリエステルに直接転化させない場合には、酸化生成物が純粋な形態のテレフタル酸又はイソフタル酸に転化させるのに有用であるのに十分に低いレベルで存在する、中間酸化生成物、及びパラジウム、アンチモン、ビスマス、及びこれらの組み合わせから選択される第15族の金属又はメタロイド、並びに少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドを共に含む。本発明による好ましいテレフタル酸組成物は、テレフタル酸、並びに、重量基準で、元素として計算して約0.1〜約500ppmwのパラジウム;及び元素として計算して約0.1〜約500ppmwのアンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ;及び元素として計算して約0.1〜約500ppmwの第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド、或いはこれらの組み合わせを含む。本発明の好ましい態様によるテレフタル酸組成物は、テレフタル酸、並びに、重量基準で、元素として計算して約0.1〜約100ppmwのパラジウム;及び元素として計算して約0.1〜約100ppmwのアンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ;及び元素として計算して約0.1〜約100ppmwの第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド、或いはこれらの組み合わせ、特にモリブデン、スズ、又はこれらの組み合わせを含む。
【0070】
本発明によって製造される純粋な形態の芳香族カルボン酸は、精製が所望の場合には、酸化生成物を、液相反応混合物から回収する前か又は後のいずれかにおいて、米国特許4,877,900、4,772,748、及び4,286,101に公知の事項として記載されているように、1以上の段階でより低温の酸化にかけることによって得ることができる。精製テレフタル酸又は「PTA」のようなより低い不純物含量を有する好ましい純粋な形態のテレフタル酸又はイソフタル酸は、米国特許3,584,039に記載されているような貴金属触媒の存在下における酸化生成物の水溶液の接触水素化によって製造することができる。少なくとも1種類のグリコールとの反応によって繊維の製造に好適なポリエステルに直接転化するのに好適な本発明による好ましいテレフタル酸組成物は、テレフタル酸、及び重量基準で、約100ppmw未満の4−カルボキシベンズアルデヒド、及び元素として計算して約0.01〜約100ppmwのパラジウム、及び約0.01〜約100ppmwのアンチモン、並びに元素として計算して約0.01〜約100ppmwのチタン、バナジウム、モリブデン、或いはこれらの組み合わせを含む。
【実施例】
【0071】
本発明を更に以下の実施例において説明するが、これらは非限定的な例示及び説明の目的で与えるものである。
実施例1〜2:
秤量量の酢酸パラジウム(II)、酢酸アンチモン(III)、及び酢酸スズ(II)の塩又は原液を、7.5mLの合計液体容積を与えるように、パラキシレン、酢酸、及び水(その組み合わせの重量を基準として95重量%の酢酸及び5重量%の水)と一緒に、10mLのテフロン製反応管中に計量投入した。テフロン製の撹拌棒を反応管中に挿入し、反応管を温度制御反応器ブロック中に配置した。反応器ブロックを閉止し、反応管を密閉した。反応管内の上部空間を、14barの圧力下で窒素によってパージした。反応器ブロックを用いて反応管を170℃に加熱し、その後1.8L/分の反応管中への空気流の流入及び1000rpmでの混合を開始した。60分後、撹拌及び空気流を停止し、反応器ブロック及び反応管を室温に冷却した。反応管の内容物を取り出し、ジメチルスルホキシド中に溶解した。試料を、高圧液クロマトグラフィー(HPLC)によって主生成物、中間体及び不純物に関して分析した。
【0072】
同じ手順にしたがって、秤量量の、比較例1においては酢酸パラジウム(II)及び酢酸アンチモン(III)、比較例2においては酢酸パラジウム(II)及び酢酸スズ(II)、及び比較例3においては酢酸アンチモン(III)及び酢酸スズ(II)を用いて、パラキシレンの酸化を行った。
【0073】
酸化の条件及び結果を表1に報告する。酸化において用いた金属及びメタロイドの量は、酸化において用いた酢酸及び水に対する重量ppmで表す。表中に報告する転化率は、通常は開始時充填量の5%以下の範囲である酸化からの凝縮塔頂蒸気のパラキシレン含量を減じたパラキシレン出発材料1モルあたりの転化パラキシレン(PX)のモル数として表す。表中に示す選択率は、転化生成物のテレフタル酸(TA)、4−カルボキシベンズアルデヒド(4CBA)、及びp−トルイル酸(PTOL)のそれぞれの重量%である。
【0074】
【表1】

【0075】
表から明らかなように、比較例1及び2における臭素を用いないパラジウムとスズ又はアンチモンとの二元配合物を用いたパラキシレンのカルボン酸誘導体への転化率は、比較例3におけるスズ及びアンチモンを用いたものよりも遙かに大きかった。また、比較例1及び2における転化率は、以下に報告する比較例11〜13においてパラジウム、アンチモン、及びスズのそれぞれを単独で用いた実験におけるものよりも非常に大きかった。驚くべきことに、パラジウム、アンチモン、及びスズを含む実施例1及び2において用いた触媒組成物は、低いレベルの炭素酸化物と組み合わせて、実施例3におけるほぼ定量的な転化率に見られるように、パラキシレン供給材料からカルボン酸誘導体への遙かに大きな転化率を示した。
【0076】
実施例3:
秤量量の酢酸パラジウム(II)、酢酸アンチモン(III)、及び酢酸スズ(II)を、95重量%の酢酸及び5重量の水から構成される溶媒に加え、得られた混合物を、撹拌した100mLチタン反応器中にバッチ装填した。反応器を密閉し、圧縮窒素によって22baraに加圧し、約190〜195℃に加熱し、これらの条件を保持しながら、8容積%の酸素と窒素との気体混合物を1.0g/分の速度で連続的に加え、99重量%超の純度のパラキシレンを0.133g/分の速度で連続的に加えた。1時間後、パラキシレン供給流の添加を停止した。気体混合物の添加を更に30分間継続した後、停止した。パラキシレン添加の30分後に開始して、周期的に反応器から取り出した排気ガスをサンプリングした。次に、反応器の内容物を冷却し、反応から得られた生成物スラリーの試料を取り出し、HPLCによって分析した。表2に、金属濃度、HPLCによって測定した生成物の収率、及び排気ガス試料から算出した炭素酸化物生成量を報告する。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例3及び表2から、実施例のパラジウム/アンチモン/スズ組成物は、臭素の不存在下において、パラキシレンを酸化された置換基を有する誘導体へ、パラキシレン供給流のモル数を基準として約70モル%の収率で転化させる活性を有していたことが明らかである。p−キシレン供給流のカルボキシル置換誘導体への選択率は、それぞれ少なくとも1つのカルボキシル置換基を有するTA、4CBA、及びPTOLの62.9%の合計収率からだけでなく、TAの50.3%の収率からも明らかなように高かった。パラキシレン供給流に基づく50.3%のTA収率は、酸化されたアルキル芳香族誘導体に転化したパラキシレン供給流のモル数を基準として約72%に相当する。実施例の反応温度における実施例3の触媒組成物のTA選択率は予期しないものであった。また、実施例及び表から明らかなように、パラジウム/アンチモン/スズ触媒を用いて、良好な酸化アルキル芳香族化合物収率及びカルボキシル選択率が、加えたp−キシレンのモル量の僅か19%に相当する量の炭素酸化物しか生成せずに達成された。
【0079】
比較例4〜12:
比較の目的で、比較例4において、パラキシレンの酸化によるテレフタル酸の商業的な製造において用いられる触媒の代表例である臭素促進コバルト/マンガン触媒を試験した。比較例5〜12においては、米国特許出願2002/0188155におけるような種々の量のコバルト及びジルコニウムを含むが、臭素を含まない触媒を用いた。
【0080】
比較例4に関しては、酢酸コバルト(II)四水和物、酢酸マンガン(II)四水和物、及び水中の48重量%臭化水素酸溶液を、615ppmwのコバルト、616ppmwのマンガン、及び1120ppmwの臭素を与える量で、95重量%の酢酸及び5重量%の水を含む溶媒に加えた。溶液を、撹拌されている100mLのチタン反応容器中に装填した。反応器を密閉し、圧縮窒素によって22baraに加圧し、加熱して190℃の一定の反応器温度を保持し、そしてこれらの条件を維持しながら、8容積%の酸素及び92容積%の窒素の気体混合物を2.0g/分の速度で連続的に加え、パラキシレン(純度99%超)を0.133g/分の速度で連続的に加えた。1時間後、パラキシレン供給流の添加を停止した。気体混合物の添加を更に30分間継続した後、停止した。次に、反応器の内容物を冷却し、全反応器生成物スラリーの試料を取り出し、HPLCによって分析した。反応中の炭素酸化物の生成量は、パラキシレン添加の最後の30分間の間に反応器から取り出した気体試料中の濃度に基づいて算出した。
【0081】
比較例5〜12に関しては、酢酸コバルト(II)四水和物、及び水中の16.2重量%酢酸ジルコニル(IV)の溶液を、コバルト及びジルコニウムの異なるレベルを与える量で、比較例4と同様の酢酸及び水の溶媒に加えた。得られた触媒を、比較例4において用いたものと同じ反応器中に装填し、そして反応器を195℃の一定の温度及び22baraの圧力に保持しながら、いずれも比較例4と同様の窒素と酸素の混合物及びパラキシレン供給流を、2.0g/分のガス混合物の速度及び0.133g/分のパラキシレンの速度で、1時間かけて連続的に加えた。1時間後、パラキシレン供給流の添加を停止し、更に0.5時間後に酸素と窒素の気体混合物の添加を停止した。次に、反応器の内容物を冷却し、全生成物を比較例4と同じように分析した。炭素酸化物生成量は、p−キシレン添加の最後の30分間の間に採取した排気ガス試料から算出した。
【0082】
比較例4〜12による酸化の結果を表3に報告する。ここで、比較例の番号は#の欄に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3から、比較例4の従来の臭素促進コバルト/マンガン触媒は、TAに対して高い選択性であり、より完全に酸化されていない中間体は少量しか生成しなかったことが分かる。パラキシレンのテレフタル酸への酸化における中間酸化生成物であるPTOLは、比較例5〜12での臭素を含まないコバルト/ジルコニウム触媒実験において生成した主酸化生成物であった。また、コバルト/ジルコニウム触媒比較実験では炭素酸化物の生成量は極めて高かったことも分かる。
【0085】
比較例13〜23:
秤量量の酢酸パラジウム(II)、酢酸アンチモン(III)及び酢酸スズ(II)、酢酸ビスマス(III)、及び酢酸モリブデン(II)二量体のそれぞれを、95重量%の酢酸及び5重量の水から構成される溶媒に加え、得られた混合物を、撹拌され排気されている300mLチタン製反応器中に個々及び種々の組み合わせでバッチ装填した。反応器を密閉し、窒素で390psigに加圧し、撹拌を開始した。反応器の内容物を182℃に加熱し、その後、窒素流を、15標準立方フィート/時(SCFH)で流れる窒素中8容積%の酸素の混合物によって置き換え、パラキシレン供給原料及び補給溶媒を加えた。供給原料及び補給溶媒は、それぞれ0.567mL/分及び0.633mL/分で60分間加えた。反応器の内容物が182℃に達した30秒後、温度の設定点を194℃に上昇させ、更に20分後、設定温度を195℃に上昇させた。60分後、供給原料及び溶媒の添加を停止した。その後30分間の間、窒素中8%酸素の気体混合物を15SCFHで加えた。30分間の終了時において、窒素中8%酸素の流れを窒素ガスのみの流れによって置き換えた。酸化反応全般にわたって、反応器からの排気ガスを、一式のオンライン分析器によって、一酸化炭素、二酸化炭素、及び酸素に関して連続的にモニターした。次に、加熱炉を取り外し、反応器を冷却し、減圧し、開放した。反応器流出流の代表的な試料を、HPLCによる分析のために取り出した。酸化の結果を表4に報告する。表中に報告する転化率は、パラキシレン出発材料1モルあたりの転化したパラキシレンのモル数として表す。表中に示す選択率は、転化した生成物の重量に対する、テレフタル酸(TA)、4−カルボキシベンズアルデヒド(4CBA)、p−トルイル酸(PTOL)、及びp−トルアルデヒド(PTOL)のそれぞれの重量%である。表中に報告する酸選択率は、TA、4CBA、及びPTOLの選択率の合計である。炭素酸化物生成量は、排気ガス試料から算出した。
【0086】
【表4】

【0087】
比較例13〜17において用いた塩溶液の組み合わせをパラキシレンの酸化において用い、反応器液体生成物及び排気ガスの試料を分析した。結果を表5に報告する。
【0088】
【表5】

【0089】
表3〜5を比較すると、比較例13〜23の金属のいずれも、比較例1の臭素促進コバルト/マンガン触媒、或いは実施例1〜3におけるパラジウム、アンチモン、及びスズの組み合わせの特性に匹敵しなかったことが明らかである。アンチモン及びスズの組み合わせを用いる比較例19における金属濃度は、同様にアンチモン及びスズを用いる比較例3におけるものの約4倍であったが、転化率は未だ低かった。
【0090】
比較例24〜26:
95重量%酢酸水溶液溶媒中の秤量量のバナジウム(III)アセチルアセトネート及びチタン(IV)オキシドアセチルアセトネートを用いて、比較例13〜23と同じようにして酸化を行った。結果を表6に報告する。
【0091】
【表6】

【0092】
表6から明らかなように、バナジウム及びチタンによる酸化は、比較例13〜23における個々の金属及びメタロイドを用いたものに匹敵するものであった。比較例26におけるチタンとバナジウムの組み合わせは、個々の金属よりも良好であったが、比較例18〜23における二元の組み合わせを用いた場合と同様に、比較例4の従来の臭素促進コバルト/マンガン触媒、又は実施例1〜3におけるパラジウム/アンチモン/スズ組成物には匹敵しなかった。
【0093】
実施例4〜11:
これらの実施例においては、本発明によるパラジウム/アンチモン/スズ組成物を、Magnadriveインペラー撹拌機、還流凝縮器、背圧調整器、質量流量制御器、オンライン排気ガス分析器(CO、O、及びCO)、液体供給原料を添加するための1つのポンプ、及び補給溶媒を添加するための他のポンプを装備した300mLのチタン製Parr反応器を用いる種々の供給材料の半連続酸化のために用いた。
【0094】
反応器の底部に、秤量量の酢酸パラジウム(II)(1.208g)、酢酸アンチモン(III)(1.407g)、及び酢酸スズ(II)(1.143g)、並びに95%酢酸水溶液(72.6g)を予め装填した。反応器を密封し、窒素で390psigに加圧し、撹拌を開始した。反応器の内容物を182℃に加熱した。開始時においては、窒素流を、15標準立方フィート/時(SCFH)で流れる窒素中8%酸素の混合物によって置き換え、供給原料及び補給溶媒を加えた。供給原料、及び補給溶媒として95重量%酢酸水溶液を、それぞれ0.567mL/分及び0.633mL/分で60分間加えた。開始の30秒後、温度の設定点を194℃に上昇させた。開始の20分後、温度設定点を再び195℃に上昇させた。60分後、供給原料及び溶媒の添加を停止し、実施例4〜6のそれぞれにおいては、30分間の仕上げ段階を開始した。この段階中に、窒素中8%酸素の気体混合物を15SCFHで加えた。仕上げ段階の終了時において、窒素中8%酸素の流れを、窒素ガスのみの流れによって置き換えた。実施例7は、仕上げ工程を省いた他は実施例4〜6と同じように行った。全ての実施例において、反応器を順次、熱源から取り出し、冷却し、減圧し、開放した。全反応器生成物スラリーの代表的な試料を採取し、HPLC及びカールフィッシャー(水)分析によって分析した。
【0095】
実施例4〜7の結果を表7に報告する。
【0096】
【表7】

【0097】
実施例4〜6における酸化は、ほぼ82%の平均選択率でTAを生成した。パラキシレン供給流を用いた酸化におけるより完全に酸化されていないカルボン酸誘導体(4CBA+PTOL)の平均合計選択率は14.05モル%であった。
【0098】
実施例8〜11における別の供給材料を用いた半連続酸化の結果を表8に報告する。
【0099】
【表8】

【0100】
表8は、液体供給原料であるp−トルアルデヒド及びp−メチルアセトフェノンを用いた酸化結果を示す。実施例8及び9における2回のp−トルアルデヒドの酸化では、極めて類似した結果が得られ、酸化の良好な再現性が示された。p−トルアルデヒド供給流はTAに転化したが、実施例4〜6におけるパラキシレン供給流と比べてより低い効率となり、かつより多くの部分カルボン酸誘導体が生成された。しかしながら、生成した全COはパラキシレン酸化におけるものよりも非常に低かった。実施例10及び11におけるp−メチルアセトフェノンの酸化は、低いTA収率をはじめとする類似した結果を有していた。これらの実施例において生成した全COは、p−トルアルデヒドの酸化において生成した量よりも高く、これはp−トルアルデヒド及びp−キシレン供給流よりも高いp−メチルアセトフェノン供給材料の炭素酸化物への酸化に関する触媒活性と合致する。
【0101】
実施例12〜15:
パラジウム及びアンチモン塩、並びにビスマス、クロム、バナジウム、モリブデン、及びカルシウムの組み合わせの酢酸水溶液から調製した触媒組成物を用いて、実質的に実施例7と同じように酸化実験を行った。触媒金属及び酸化実験結果を表9に報告する。
【0102】
【表9】

【0103】
実施例16〜19:
これらの実施例においては、本発明によるパラジウム/アンチモン/スズ組成物を、実施例4〜11において用いた300mLの反応器を用いた雰囲気温度において、固体形態の種々の供給材料をバッチ酸化するのに用いた。バッチ酸化は、酢酸パラジウム(II)(1.208g)、酢酸アンチモン(III)(1.407g)、及び酢酸スズ(II)(1.143g)、秤量量の固体の供給材料、及び95%酢酸水溶液(114.5g)を反応器に装填することによって行った。実施例16及び17においては、供給流は42.4gのp−トルイル酸であり、実施例18及び19においては、供給流は41.7gのテレフタルアルデヒドであった。反応器を密閉し、窒素ガスを加えることによって390psigに加圧し、撹拌を開始した。反応器の内容物を182℃に加熱し、窒素流を、15SCFHの8%の酸素を含む酸素及び窒素の混合物の流れによって置き換えた。開始の30秒後、温度の設定点を194℃に上昇させた。開始の20分後、温度の設定点を195℃に上昇させた。90分後、窒素中8%酸素の流れを、窒素のみの流れによって置き換えた。反応器を熱源から取り外し、冷却し、減圧し、開放した。それぞれの実験から全反応器生成物スラリーの代表的な試料を採取し、HPLC及びカールフィッシャー分析によって分析した。結果を表10に報告する。
【0104】
【表10】

【0105】
実施例16及び17の調和しない結果は、従来の酸化装置から持ち越された1種類又は複数のコンタミナントの存在に起因するものであったと思われる。実施例17におけるようにp−トルイル酸供給流を2回目に酸化すると、極めて小さい活性が測定された。したがって、実施例17はp−トルイル酸の酸化のより正確な結果を示すと考えられる。実施例18及び19では、テレフタルアルデヒド供給流の酸化において再現性のある結果が得られた。TA生成物選択率は平均で約57%であり、唯一の中間体カルボン酸誘導体としての4−CBAは約31%であった。これらの実施例において生成した全COは高かった。
【0106】
実施例20〜21:
供給材料としてメタキシレンを用いた他は、実施例4〜6の手順にしたがって、本発明によるパラジウム、アンチモン、スズの組成物を、半連続酸化のために用いた。結果を表11に報告する。メタ及びパラキシレン供給流による結果を比較するために、表7において報告した実施例4、5、及び6の結果の平均値も表11において報告する。
【0107】
【表11】

【0108】
実施例20及び21のメタキシレンの酸化は、再び良好な再現性を示した。実施例4〜6のパラキシレンの酸化におけるTAの収率よりも低いIAの収率が存在した。より低いIAの収率は、また、m−トルイル酸のようなメタキシレン酸化中間体のより低い転化率とも適合していた。全体として、実施例20及び21におけるメタキシレンの酸化においては、実施例4〜6のパラキシレンの酸化よりも僅かに多いCOが生成した。
【0109】
実施例22〜25:
バッチ開始温度を変化させた他は、実施例16〜19におけるようにしてPX供給流のバッチ酸化を行った。圧力は390psigに固定した。結果を表12に示し、参照のために実施例4〜6からの結果の平均値を表7から繰り返した。
【0110】
【表12】

【0111】
酸化活性は、実施例24において140℃の温度を用いるまでは低かった。予期しなかったことに、140℃においては、達成されたPX転化率の度合いに対して極めて僅かな溶媒の炭素酸化物への燃焼しかなかった。酸化を繰り返す(但し実施例25においては182℃の温度において)と、TAの収率はほぼ二倍になった。しかしながら、実施例25でのより高い温度においては、全炭素酸化物形成量はより高かった。
【0112】
比較例27〜28:
実施例7と同様に、しかしながらパラキシレンのコバルト/マンガン接触酸化によるテレフタル酸の商業的な製造において促進剤として用いられる通常の臭素源である48重量%の臭化水素酸水溶液を加えて、仕上げ段階を伴わない半連続酸化を行った。結果を表13に報告し、参照のために実施例7からの結果も含ませる。
【0113】
【表13】

【0114】
臭素を加えなかった実施例7と対比すると、他は同一の条件下において、比較例27及び28における酸化は臭化水素の存在によって妨げられた。比較例27においては、TA生成物選択率は大幅に低下し、主生成物はPTOLであった。比較例28においては、臭素濃度は比較例27におけるものの二倍であり、微量のTAしか製造されなかった。
【0115】
実施例26〜29:
実施例26〜28においては反応温度が193〜199℃の範囲であった他は、比較例13〜23と実質的に同様に行う一連の半連続パラキシレン酸化において、パラジウム、スズ、アンチモン、及びモリブデンの触媒組成物を用いた。触媒組成物は、秤量量の酢酸パラジウム(II)、酢酸アンチモン(III)、酢酸スズ(II)、酢酸モリブデン(II)二量体、及び95%酢酸水溶液を、金属として計算して且つ酢酸水溶液の重量を基準として、4000ppmwのパラジウム、2000ppmwのアンチモン、2000ppmwのスズ、及び5000ppmwのモリブデンを与える量で反応器に充填することによって調製した。それぞれの酸化実験の後、反応器の内容物を取り出し、比較例13〜23と同様に分析して生成物及び選択率を評価した。実施例26〜28の結果を、3つの実験の平均の選択率と一緒に表14において報告する。それぞれの実験からの反応器内容物は、また、暗色の固体粒子を含んでいた。
【0116】
【表14】

【0117】
これらの実施例及び表から明らかなように、パラジウム、スズ、アンチモン、及びモリブデンを含む触媒組成物のテレフタル酸選択率は非常に高く、3つの実験の結果は再現性が高かった。
【0118】
実施例29においては、温度を203〜209℃に上昇させた他は実施例26〜28の手順を繰り返した。酸化は活発に進行し、テレフタル酸への選択率(97%)は実施例26〜28よりも更に高く、4CBAは1.2%、PTOL及びPTALはそれぞれ0.1%であった。より高い温度における供給原料の燃焼及び炭素酸化物の生成は、実施例26〜28の平均値の約1.5〜2倍であった。
【0119】
実施例30〜33:
反応器に充填するパラジウム、アンチモン、スズ、及びモリブデンの塩の濃度を変化させ、触媒金属塩と一緒に補給溶媒として反応器に充填する95重量%酢酸水溶液を水で希釈するか又は水に置き換えた他は、実施例26〜28と実質的に同様に一連の酸化実験を行った。充填した全溶媒を基準とする含水量(重量%)、及びこれらの実験のそれぞれにおける反応器内容物の分析結果、並びに誘導結合プラズマ分析(ICP)によって測定したそれぞれの実験からの上澄み液中の金属濃度を、表15に報告する。
【0120】
【表15】

【0121】
これらの実施例及び表は、含水量を5重量%から100重量%へ増加させることによる酸化における触媒組成物の有効性を示す。もちろん、100%においては、溶媒は水のみである。テレフタル酸の商業的な製造において従来用いられている臭素促進コバルト/マンガン触媒組成物を用いる酸化、並びに米国特許出願2002/0188155におけるような臭素を含まない触媒を用いる酸化においては、液相反応混合物の含水量の僅かな増加であっても、転化率及び所望のテレフタル酸生成物への選択率の両方に悪影響を与える可能性がある。しかしながら、驚くべきことに、実施例30〜32及び表15では、40重量%という高い含水量において、酸化が活発に進行し、テレフタル酸への高い選択率が得られたことが示される。また、4CBA、PTAL、及びPTOLのような中間酸化生成物への選択率が、含水量を40重量%に上昇させると僅かに低下したことも驚くべきことである。これらの中間体に関する選択率の低下は、中間体のテレフタル酸への転化におけるより高い触媒活性を示すものである。実施例33において酸化のための液体媒体として100重量%の水においては、転化率は、用いる装置内でのパラキシレンと水の効率の悪い混合のために、期待されるものよりも低かったが、この困難性を伴っていても、パラキシレン供給流のカルボン酸誘導体への選択率は50%より高く、テレフタル酸への選択率は6%であった。有意に高い酸化パラキシレン誘導体への転化率及びテレフタル酸への選択率を与える水中での酸化を、下記の実施例34〜37において示す。
【0122】
実施例34〜37:
2つの液体供給システムに接続し、Magnadrive撹拌機、及び反応器から排気される塔頂ガスを受容するための2つの並行水冷チタン製凝集器を装備した300mLのチタン製Parr反応器内において、担持及び非担持触媒を用いて水中で半連続パラキシレン酸化を行った。反応器へのガス供給を質量流量制御器によって制御し、圧力を背圧調整器によって調整し、排ガスは、一酸化炭素、二酸化炭素、及び酸素の濃度に関して排ガスを連続的に監視するための一式の3つの分析器によって一酸化炭素、二酸化炭素、及び酸素に関して連続的に分析した。反応器は加熱炉を用いて加熱し、加熱プロファイルはParr制御器によって管理した。
【0123】
実施例36及び37において用いた触媒は、表16に報告するレベルでチタニア上に装填したパラジウム、アンチモン、及びモリブデンから構成される担持触媒組成物である。かかる担持触媒組成物は、Degussaから入手した21nmの平均一次粒子径及び50m/gのBET表面積を有するP25として同定される混合アナターゼ/ルチル相チタニア粉末を、空気中650℃においてか焼し、チタニアを冷却し、最終担持触媒組成物の装填レベルに対応する相対割合の個々の塩の原液を混合することによって調製した硝酸パラジウム、酢酸アンチモン、及びヘプタモリブデン酸アンモニウムを含む水溶液を、室温における過剰液含侵によって前記チタニアに湿潤含侵することによって調製した。硝酸パラジウム原液は、硝酸パラジウムの35重量%水溶液であった。酢酸アンチモン原液は、5gの酢酸アンチモンと10gのクエン酸一水和物及び30gの水を60℃において1時間混合し、次に室温に冷却することによって調製した。ヘプタモリブデン酸アンモニウム原液は、20gのクエン酸一水和物及び60gの水中で60℃において1時間混合し、次に室温に冷却した10gのヘプタモリブデン酸アンモニウムから構成されていた。チタニアに含侵溶液を加えた後、手短に振盪することによってスラリーを均一化した。次に、スラリーを50℃において60時間乾燥し、2℃/分の速度で120℃に加熱し、120℃において2時間保持した。次に、乾燥した固体を、流動空気(100mL/分)下において、400℃にゆっくりと(0.4℃/分)加熱し、空気流下400℃において2時間保持することによってか焼した。か焼した固体を自由流動粉末に粉砕し、るつぼに移した。次に、か焼した固体を、室温において希釈水素(窒素中7容積%のH)の流れに1時間曝露し、次にオーブン温度を0.4℃/分の速度で上昇させてオーブン中において250℃に加熱し、その後、希釈水素流下において温度を250℃において5時間保持することによって、水素によって還元した。
【0124】
実施例34及び35においてアンチモン及びモリブデンの酢酸塩の溶液と組み合わせて用いた炭素担持パラジウムは、5重量%のパラジウムを含む粉末形態の市販の炭素担持パラジウムであり、Aldrich Corporationから入手した。
【0125】
秤量量の触媒又は触媒成分、及び反応のための液体媒体として蒸留及び脱イオンした水(D&D水)を反応器の底部に充填することによって酸化実験を開始した。これらの実施例のそれぞれにおいて、2.0gのp−トルイル酸も反応混合物に加えた。反応器の底部を反応器の頂部に取り付けた後、高圧のボンベ入り窒素を用いて反応器を充填し450psigに加圧した。次に、反応器の内容物を撹拌し、下表16に報告する目標の開始温度への加熱を開始した。反応器内容物が目標の開始温度に達したら、窒素流を停止し、8容積%の酸素及び92容積%の窒素の流れを開始することによって、反応を開始させた。次に、表16に示す速度での液体パラキシレンの供給を開始した。半連続酸化を、同様に表中に報告する所定の時間の間行い、次に液体供給流の添加を停止したが、8%酸素及び92%窒素の流れ及び一定の加熱は表中に報告する更なる時間の間継続した。
【0126】
酸化時間が終了したら、8%酸素及び92%窒素の流れを停止し、窒素流を15SCFHで再開した。加熱炉を停止し、反応器及びその内容物を室温に冷却した。この時点において、反応器を減圧し、反応器底部を取り外し、HPLCによって分析するために全反応器流出流の試料を回収した。反応条件及び結果を表16に示す。表中の供給原料転化率は、反応器内の気相中に侵入し、したがって芳香族生成物への転化のためにもう利用できない未反応の供給原料を考慮していない。気相中に侵入した未反応の供給原料は、供給材料の約5重量%以下であると見積もられた。
【0127】
【表16】

【0128】
実施例38:
実施例1〜2の手順にしたがい、表17Aに示す酸化において用いる酢酸溶媒の重量部の金属又はメタロイドを与える量の、酢酸パラジウム(II)、酢酸アンチモン(III)、酢酸スズ(II)、及び1種類以上の更なる金属又はメタロイドの酢酸可溶性塩、或いは酢酸水溶液中のその標準化溶液の種々の組み合わせから調製した組成物を用いて、異なる温度での酢酸水溶液溶媒中における一連のパラキシレン酸化実験を行った。表中のC1及びC2の記載は、参照のために含ませた比較例1及び比較例2である。また、参照のために実施例1及び2も含ませる。
【0129】
【表17A】

【0130】
表10Aによる組成物を用いた酸化の結果は、表17Bに報告する。
【0131】
【表17B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パラジウム;(B)アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも1種類の第15族の金属又はメタロイド;及び(C)少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド;を含み、易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を、臭素を実質的に含まない液体反応混合物中において酸素と接触させて芳香族カルボン酸を含む酸化芳香族生成物に転化させる活性を有する触媒組成物。
【請求項2】
少なくとも1種類の第5族金属を含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
少なくとも1種類の第6族金属を含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
アンチモンを含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、及びスズの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項6】
バナジウムを含む、請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項7】
モリブデンを含む、請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項8】
第15族の金属又はメタロイドに対するパラジウムの原子比が、元素として計算して約1:1000〜約1000:1である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項9】
第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドに対するパラジウムの原子比が、元素として計算して約1:1000〜約1000:1である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項10】
金、ガリウム、又は亜鉛を更に含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項11】
その中に請求項1〜10のいずれかに記載の触媒組成物が溶解しているモノカルボン酸水溶液を含む触媒溶液。
【請求項12】
水又は有機酸水溶液に不溶の固体の形態の、請求項1〜10のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項13】
固体担体材料上に担持されている、パラジウム、第15族の金属又はメタロイド、及び第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドの少なくとも1つを含む、請求項1〜10のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項14】
パラジウム、第15族の金属又はメタロイド、及び第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドが固体担体材料上に担持されている、請求項13に記載の担持触媒組成物。
【請求項15】
少なくとも3種類の金属又はメタロイド成分を含み、易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を、臭素を実質的に含まない液体反応混合物中において酸素と接触させて少なくとも1種類の芳香族カルボン酸を含む酸化生成物に転化させる活性を有する触媒組成物であって、該成分が、(A)パラジウム;(B)アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ;及び(C)チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、又はスズの少なくとも1つ;を含む触媒組成物。
【請求項16】
アンチモンを含む、請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項17】
モリブデンを含む、請求項16に記載の触媒組成物。
【請求項18】
アンチモン及びスズを含む、請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項19】
アンチモン及びモリブデンを含む、請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項20】
アンチモン、スズ、及びモリブデンを含む、請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項21】
金、ガリウム、又は亜鉛を更に含む、請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項22】
アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせに対するパラジウムの原子比が、元素として計算して約1:1000〜約1000:1である、請求項14〜21のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項23】
チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、又はスズに対するパラジウムの原子比が、元素として計算して約1:1000〜約1000:1である、請求項14〜21のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項24】
その中に請求項14〜21のいずれかに記載の触媒組成物が溶解している酢酸水溶液を含む触媒溶液。
【請求項25】
水及び有機酸水溶液に不溶の固体の形態の、請求項14〜21のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項26】
固体担体材料上に担持された、パラジウム;アンチモン又はビスマス或いはこれらの組み合わせ;及びチタン、バナジウム、クロム、モリブデン、又はスズ;の少なくとも1つを含む、請求項14〜21のいずれかに記載の触媒組成物。
【請求項27】
パラジウム;アンチモン又はビスマス或いはこれらの組み合わせ;及びチタン、バナジウム、クロム、モリブデン、又はスズ;が固体担体材料上に担持されている、請求項26に記載の担持触媒組成物。
【請求項28】
少なくとも1つの易酸化性置換基を有する置換芳香族炭化水素を含む芳香族供給原料を、少なくとも1種類の芳香族カルボン酸を含む酸化芳香族生成物に転化させる方法であって、(A)パラジウム;(B)アンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせから選択される第15族の金属又はメタロイド;及び(C)少なくとも1種類の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド;を含み、臭素の不存在下でかかる転化を行う活性を有する触媒組成物の存在下において、芳香族供給原料を液体反応混合物中で酸素と接触させることを含む上記方法。
【請求項29】
触媒組成物が少なくとも1種類の第5族金属を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
触媒組成物が少なくとも1種類の第6族金属を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
触媒組成物がアンチモンを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
触媒組成物が、チタン、バナジウム、クロム、モリブデン、及びスズの少なくとも1つを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
触媒組成物がモリブデンを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
触媒組成物がスズを含む、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
触媒組成物の第15族の金属又はメタロイドに対するパラジウムの原子比が、元素として計算して約1:1000〜約1000:1である、請求項28に記載の方法。
【請求項36】
触媒組成物の第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイドに対するパラジウムの原子比が、元素として計算して約1:1000〜約1000:1である、請求項28に記載の方法。
【請求項37】
触媒組成物が金を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項38】
液体反応混合物が、芳香族供給原料の溶媒として少なくとも1種類のC〜Cモノカルボン酸溶媒を含む、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項39】
液体反応混合物が、水及び約10重量%以下のC〜Cモノカルボン酸を含む、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項40】
触媒組成物の少なくとも一部が液体反応混合物中に可溶である、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
触媒組成物の少なくとも一部が液体反応混合物中に不溶である、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項42】
触媒組成物の少なくとも一部が担体材料上に担持されている、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
プロセス中に、消費された酸素1モルあたり約0.1モル未満の量の一酸化炭素及び二酸化炭素が生成する、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項44】
液体反応混合物が反応性臭素を含まない、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項45】
置換芳香族化合物が、ジアルキルアレーン、又は部分的に酸化されたジアルキルアレーン誘導体、或いはこれらの組み合わせである、請求項28〜37のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
置換芳香族化合物が、パラキシレン、又は部分的に酸化されたパラキシレン、或いはこれらの組み合わせである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項46に記載の方法によって製造されるテレフタル酸。
【請求項48】
酸化芳香族生成物が、テレフタル酸、p−トルイル酸、4−カルボキシベンズアルデヒド、ヒドロキシメチル安息香酸、又はこれらの組み合わせを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
置換芳香族化合物が、メタキシレン、又は部分的に酸化されたメタキシレン誘導体、或いはこれらの組み合わせである、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
請求項49に記載の方法によって製造されるイソフタル酸。
【請求項51】
ジアルキルアレーンが、2,6−ジメチル又はジエチルナフタレン、2,7−ジメチル又はジエチルナフタレンであり、これに対応する酸化芳香族生成物が、2,6−ナフタレンジカルボン酸又は2,7−ナフタレンジカルボン酸を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項52】
請求項51に記載の方法によって製造される2,6−ナフタレンジカルボン酸又は2,7−ナフタレンジカルボン酸。
【請求項53】
テレフタル酸、並びにテレフタル酸の重量を基準として、元素として計算して約0.1〜約500ppmwのパラジウム、及び約0.1〜500ppmwのアンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ、及び元素として計算して約0.1〜約500ppmwの第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド、或いはこれらの組み合わせを含むテレフタル酸組成物。
【請求項54】
テレフタル酸、並びにテレフタル酸の重量を基準として、元素として計算して約0.01〜約100ppmwのパラジウム、及び元素として計算して約0.01〜100ppmwのアンチモン、ビスマス、又はこれらの組み合わせ、及び元素として計算して約0.01〜約100ppmwの第4、5、6、又は14族の金属又はメタロイド、或いはこれらの組み合わせを含み、少なくとも1種類のグリコールとの反応によって繊維の製造に好適なポリエステルに直接転化させるのに好適なテレフタル酸組成物。

【公表番号】特表2009−536575(P2009−536575A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510105(P2009−510105)
【出願日】平成19年5月4日(2007.5.4)
【国際出願番号】PCT/US2007/068274
【国際公開番号】WO2007/133978
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503259381)ビーピー・コーポレーション・ノース・アメリカ・インコーポレーテッド (84)
【Fターム(参考)】