説明

苗移植機

【課題】旋回後に苗の植付開始位置を適切な位置に揃えることができる苗移植機を提供すること。
【解決手段】苗移植機に、旋回時又は後進時には植付部52を自動的に上昇させ、前進時には植付部52を下降させる自動昇降機構Aと、植付部52の昇降動作及び苗植付動作の入切動作を行う植付昇降レバー33と、植付部52を上昇させた状態で後進させると後輪回転センサ182により検知される後進時の回転数が予め設定された基準回転数を上回ると自動昇降機構Aを作動させない制御構成とする制御装置200を設けたので、旋回後に植付部52を下降させて苗の植え付けを再開する際に、作業者は植付昇降レバー33を手動操作して植付部52を下降させることができるので、旋回後の苗の植付開始位置を適切な位置に揃えられ、苗の植付精度が従来より向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗移植機の旋回操作に関連して、苗植付装置が自動的に停止されて上昇し、旋回が完了すると自動的に下降して植付作業が再開できる苗植付装置の自動昇降制御装置を備えた苗移植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から苗移植機は、往復植付作業を行う作業形態において、走行車体が圃場の端に達して旋回走行に移るとき、オペレーターの操作負担を極力減らして、少しでも作業を楽に行いながら作業能率を高めるために、苗植付装置のクラッチ操作や昇降操作を自動制御による構成とし、旋回時の苗植付装置に関する操作箇所を少なくする技術が採用されている。
例えば、特開2009−201482号公報記載の苗移植機では、回転検知部材で後輪の回転数を検知し、機体が旋回を開始すると苗植付装置を自動上昇させ、旋回が終了すると植付装置を下降させると共に植付作業を開始する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−201482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、圃場の一端から他端までの長さが場所ごとに異なる変形田等では、苗移植機の旋回に連動して苗植付装置を自動昇降させると、条ごとに植付開始位置がずれるため、植付位置が不揃いになる問題がある。
植付位置を揃えるためには、植付昇降レバーを手動操作して任意の位置で苗植付装置を下降させる必要があるが、従来構成ではダイヤルやスイッチ等を操作して自動昇降機構を解除する必要があるため、操作が煩雑になる問題がある。
そこで本発明の課題は、旋回後に苗の植付開始位置を適切な位置に揃えることができる苗移植機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は次の解決手段で解決できる。
請求項1記載の発明は、前輪(10)と後輪(11)を有する走行車体(2)と、走行車体(2)の後側に圃場に苗を植え付ける植付部(52)と、走行車体(2)の旋回時又は後進時には植付部(52)を自動的に上昇させ、走行車体(2)の前進時には自動的に植付部(52)を下降させる自動昇降機構Aと、走行車体(2)を操舵する操舵部材(34)と、植付部(52)の昇降動作及び苗植付動作の入切動作を行う植付昇降レバー(33)と、後輪(11)の回転数を計測する回転検知部材(182)とを設けた苗移植機において、植付部(52)を上昇させた状態で走行車体(2)を後進させると回転検知部材(182)が作動し、該回転検知部材(182)により検知される走行車体(2)の後進時の回転数が予め設定された基準回転数を上回ると自動昇降機構Aを作動させない制御構成とする制御装置(200)を設けたことを特徴とする苗移植機である。
【0006】
請求項2記載の発明は、走行車体(2)が旋回中に植付昇降レバー(33)により植付部(52)を下降させると、制御装置(200)が自動昇降機構Aを作動させない制御構成とすることを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【0007】
請求項3記載の発明は、植付部(52)を上昇させた状態で走行車体(2)が旋回中には、植付昇降レバー(33)により植付部(52)を下降され、さらに植付部(52)が植付入り動作されると、制御装置(200)は自動昇降機構Aを作動させない制御構成とすることを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【0008】
請求項4記載の発明は、走行車体(2)の走行速度及び進行方向を切り替える変速レバー(36)と、操舵部材(34)の操作を補助する操舵補助機構(130)と、操舵補助機構の油圧負荷を調節する電磁バルブ(131)とを設け、制御装置(200)は、変速レバー(36)が中立位置に操作されると電磁バルブ(131)を操作して操舵補助機構(130)の補助力を増大させる構成としたことを特徴とする請求項1記載の苗移植機である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、制御装置200に記録した基準回転数を後進時の後輪回転数が上回ると、植付部52の自動昇降機構Aを作動させない制御構成としたことにより、走行車体2を圃場端まで移動させて苗を植え付けた後、植付部52を上昇させて旋回可能な距離まで後進した後に圃場端を旋回し、旋回後に植付部52を下降させて苗の植え付けを再開する際に、作業者は植付昇降レバー33を手動操作して植付部52を下降させることができるので、旋回後の苗の植付開始位置を適切な位置に揃えられ、苗の植付精度が従来より向上する。
また、後進時の後輪回転数が基準回転数を上回ると、自動昇降機構Aが自動的に作動しない状態となることにより、作業者は手動操作で自動操縦機構Aを解除する必要がなく、作業者の労力が軽減される。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、旋回動作時に植付昇降レバー33を操作して、植付部52を下降させると自動昇降機構Aが作動しない制御構成としたことにより、苗の植付開始位置を揃えるために植付昇降レバー33を手動操作して植付部52を下降させた際に、回転検知部材182の後輪回転数の検知により再び植付部52が上昇してしまうことを防止できるので、任意の位置で確実に植付部52を下降させられるため、苗の植付精度が向上する。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、旋回動作時に植付昇降レバー33を操作して、植付部52を下降させると共に植付部52を「入」にすると自動昇降機構Aが作動しない構成としたことにより、苗の植付開始位置を揃えるために植付昇降レバー33を手動操作して植付部52を下降させた際に、回転検知部材182の検知により再び植付部52が上昇してしまうことを防止できるので、任意の位置で確実に植付部52を下降させられるため、苗の植付精度が向上する。
また、植付部52を下降させても植付部52を植付動作「入」にするまでは自動昇降機構Aが作動することにより、植付昇降レバー33を誤操作して植付部52が下降しても、回転検知部材182が後輪11の回転数を検知していれば、所定値の後輪回転数に達するまでは植付部52を自動上昇させることができるので、植付部52が圃場面に接触して、植付部52が破損することや圃場に植え付けられた苗が植付部52に潰されることを防止できる。
【0012】
請求項4記載の発明によれば、圃場端から一旦後進し、後進後に旋回をするときに、変速レバー36が中立位置になると電磁バルブ131が操舵補助機構の補助力を増大させることにより、作業者は容易に操舵部材34を操作することができるので、圃場の土の粘度が高く操舵部材34の操作抵抗となる場合でも作業者は操舵部材34を任意の方向に容易に向けられるため、旋回動作中に進行方向が乱れることが無く、苗の植付位置を揃えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明にかかる実施の形態における苗移植機の側面図である。
【図2】同苗移植機の平面図である。
【図3】同苗移植機の前方部の拡大側面図である。
【図4】同苗移植機のピットマンアームの平面図である。
【図5】同苗移植機の拡大正面図である。
【図6】同苗移植機の切替カム付近を示す側面図である。
【図7】同切替カム付近を示す正面図である。
【図8】同切替カム付近を示す斜視図である。
【図9】同苗移植機の植付昇降レバーと切替カムとの関係を示す側面図である。
【図10】同切替カムの側面図である。
【図11】同苗移植機の制御ブロック図である。
【図12】同苗移植機の植付装置を除く側面図である。
【図13】同苗移植機の後進の際の、植付装置の固定(停止)状態を示す切替カムを中心とする側面図である。
【図14】同苗移植機の後進の際の、植付装置の下降状態を示す切替カムを中心とする側面図である。
【図15】同苗移植機の後進の際の、植付装置の植え付け入り状態を示す切替カムを中心とする側面図である。
【図16】同苗移植機の変速レバーの後進の際の動きを示すための説明図である。
【図17】同苗移植機の畦際などでの旋回動作の手順を説明する図(図17(a))とその際の植付装置の自動昇降機構Aの制御フロー図(図17(b))である。
【図18】同苗移植機の畦際などでの旋回動作後の自動植付開始位置を予め設定するモータ作動タイミングダイヤルの平面図である。
【図19】同苗移植機の圃場端での操作から、自動昇降機構Aの継続または中止の切替制御を説明するフロー図である。
【図20】同苗移植機の畦際などでの旋回動作時の植付装置の自動昇降機構Aの制御の有無を説明するフロー図である。
【図21】同苗移植機のオートアクセル機能を達成する機構図である。
【図22】同苗移植機の苗植付部に設けた照明装置を説明する図である。
【図23】同苗移植機の回転センサ取り付け部を説明する苗移植機正面図(図23(a))と苗移植機側面図(図23(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態にかかる苗移植機について説明する。
図1及び図2は本実施の形態にかかる苗移植機の側面図と平面図である。この苗移植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して植付装置52が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0015】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。
【0016】
また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、他方、そのメインフレーム15の後端左右中央部に水平に設けた後輪上下動支点軸181を支点にして左右後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その左右後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸17に後輪11,11が取り付けられている。
【0017】
尚、左右後輪ギヤケース18,18には、ミッションケース12の後壁から突出して設けた左右後輪ギヤケース18,18に連結した左右後輪伝動軸18a,18aにて動力が伝達される構成となっている。
【0018】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及びHST23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分離して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが左右後輪ギヤケース18,18に伝達されて左右後輪11,11を駆動する。
【0019】
また、ミッションケース12の右側側面より取出された外部取出動力は、植付伝動軸26によって植付装置52へ伝動される。尚、施肥装置5の肥料繰出し機構へは、右後輪ギヤケース18から動力が駆動軸にて取出されて伝動される。
【0020】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作する操舵部材34が設けられている。なおハンドシャフト35により操舵部材(ハンドル)34を支持している。このフロントカバー32内には、リザーバタンク16を設け、前記HST23とパイプ19で連結して高い位置からオイルをHST23に供給するようにしている。
【0021】
なお、操舵部材34の右側には、植付装置52の昇降を設定するための植付昇降レバー33が設けられている。また、操舵部材34の左側には、走行車体2の前進、後進、速度などを設定する変速レバー36が設けられている。なお、変速レバー36の操作位置は変速レバー位置センサ(ポテンショメータ)36a(図11)によりコントローラ200が検出できる構成になっている。
【0022】
エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ37になっている。
フロアステップ37の左右前部には複数の貫通孔が形成されており、座席31に着座して機体を操縦する操縦者が左右前輪10,10を見通すことができて操縦が容易な構成となっていると共に、該ステップ37を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。
【0023】
昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、先端側には縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に、植付装置52に回転自在に支承された連結軸が挿入連結され、連結軸を中心として植付装置52がローリング自在に連結されている。
【0024】
メインフレーム15に基部を回動自在に枢支した昇降油圧シリンダ46の先端を上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部に連結して設けており、該昇降油圧シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、植付装置52がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
なお、左右補助ステップ28,28は、作業者が機体に乗り降りする時に足を載せるために走行車両機体両側部に設けられている。
【0025】
次に、図3は、本実施の形態の苗移植機の前方部の拡大側面図であり、図5は同苗移植機の拡大正面図である。また、図4はピットマンアーム60の平面図である。ここにピットマンアーム60は本発明の操舵アームに対応する。
【0026】
操舵部材34の操舵を受けて前輪10,10を回動させるT字型のピットマンアーム60が走行車体2の前方底側に設けられている。すなわち、操舵部材34の回転に応じて、操舵部材シャフト35が回動し、ピニオン機構を介して、あるいはパワーステアリング130を介して、T字型のピットマンアーム60が、その回動軸60bを中心にして回動する。
【0027】
このピットマンアーム60のT字型の2つの先端部60a,60aには、2本のタイロッドが回動可能に取り付けられ、それぞれのタイロッドは左右の前輪ファイナルケース13,13に取り付けられているナックルアームに連結されている(図示省略)。
これによって、操舵部材34を操舵することによって、右及び左の前輪10を左右に走行操作できるようになっている。
【0028】
他方、このピットマンアーム60は上述したように左右線対称のT字型をしており、左右両先端部60a,60aの中間位置に、すなわち左右線対称の中心線上に、円柱状ピン61が立設している。その円柱状ピン61の上端には前方方向に向かって水平にロッド62が回動自在に取り付けられている。さらに、このロッド62の先端62aには、その側面に連結ピン63が固定され、さらに、その連結ピン63の端部には、アーム64(64a,64b,64c)が取り付けられている。このアーム64(64a,64b,64c)は、上方に向かう部分64aと、水平に横に伸びる部分64bと、さらにそこから上方に伸びる部分64cとで構成されている。このように、ロッド62はピットマンアーム60の中心線上に位置しているので、右旋回でも左旋回でも同量の引っ張り力が出るという効果を奏する。
【0029】
このアーム64の前側には、走行車体2のフロントフレーム70が配置されており、またそのアーム64の後側には、走行車体2のミッションケース12が配置されている。従って、アーム64は、フロントフレーム70と、ミッションケース12との間に設置されていることになる。そのため、作業中に藁屑などの夾雑物がこれらアーム64に絡むことを防止出来、アーム64が夾雑物により機能しなくなる、あるいは勝手に動いてしまうといった不都合が防止できる。また、絡みついた夾雑物を取り除く必要が無くなり、メンテナンス性が向上する。
【0030】
さらに、アーム64の上方部分64cの上端64c1には、ケーブル71が回動自在に取り付けられている。
なお、図3及び図6で示すとおり、前記ケーブル71を連結する端部72は、旋回切替操舵具73に回動可能に連結される。また、切替カム74は、軸80に機体前後方向に回動自在に設けるものであり、該切替カム74には位置決め溝75を切り欠いて形成している。図8、図9、図10に示すとおり、本実施例では4箇所の位置決め箇所が形成されている。
【0031】
そして、後進時に苗植付装置52を上昇させるかどうかを作業者が手作業で調整するバックリフトアーム76に、植付昇降レバー33の操作に対応して切替カム74の位置を決める位置決めローラ77を回転自在に設け、該位置決めローラ77を位置決め溝75の内部に当接させて配置する。前記バックリフトアーム76と前記旋回切替操作具73は、その後端部側を共通の支持軸79に装着している。
さらに、前記切替カム74を機体前側で且つ上方(図面上右方向)に付勢するスプリング78を切替カム74と、切替カム74の上側に切替カム74を避けて配置する固定ピンの間に設ける。
なお、このバックリフトアーム76は本発明の位置決めアームの一例である。次にそれらの部品の詳細を説明する。
【0032】
上述した、円柱状ピン61、ロッド62、連結ピン63、アーム64(64a,64b,64c)、ケーブル71などで、旋回時にハンドル34を所定角度以上操舵した際に、連動して動いて苗植付装置52を上昇させる連係機構が構成されている。
【0033】
図6は本実施の形態の苗移植機の切替カム付近を示す側面図、図7は同切替カム付近を示す正面図、図8は同切替カム付近を示す斜視図である。なお、図8は部材の配置関係を理解しやすくするために描かれた図であって、寸法、配置、形状など誇張して描いた模式図である。
【0034】
図9に示すように植付装置52の昇降を設定するための植付昇降レバー33の下端33aは、ブラケット81を介して、軸80に回動可能に取り付けられているとともに、このブラケット81には切替カム74の上端が固定されている。従って、植付昇降レバー33を移動させることによって、切替カム74を回動出来るようになっている。また、切替カム74は上述したように前方方向に常時スプリング78(図3参照)によって付勢されている(図8上、矢印A方向)。
【0035】
この切替カム74は中央に横長形状の溝75が穿設されている。この窓75の上側端縁には4個の溝751が並んで形成されている。この窓75には、水平方向に配置された位置決めローラ77の先端が挿入されている。
【0036】
この位置決めローラ77は常時上方方向にスプリングで付勢されており、4個の溝751のいずれかに半分程度嵌められるが、後述するような色々な力によってスプリングに対抗して下方方向へ移動しうるようになっている。この位置決めローラ77は水平方向に配置されているが、切替カム74の内側(図8上では切替カム74の向こう側)の部分には先ず、バックリフトアーム76が固定されている。さらに、その内側にはバックリフト入り切りレバー82が回動可能に取り付けられている。ここに、このバックリフト入り切りレバー82は本発明の後進時昇降入切レバーに対応する。
【0037】
さらに、切替カム74とバックリフトアーム76との間の隙間には、旋回切替操作具73が配置されている。そして、この旋回切替操作具73と、前記バックリフトアーム76は各後端部がそれぞれ共通の支持軸79に回動自在に連結されている。ここで同一の支持軸79で旋回切替操舵具73とバックリフトアーム76が回動支持されているので、構造が簡単になるという効果がある。
【0038】
この旋回切替操舵具73の前端には、ピン721を介して、上述したとおり、ケーブル71と連結したケーブル端部72が回動可能に連結されている。従って、ピットマンアーム60の動きによって旋回切替操舵部73が移動するようになっている。さらに、この旋回切替操舵部73の中央位置には孔732が開けられ、その孔にロックピン731が通常嵌め込まれている。このロックピン731はバックリフトアーム76に固定されている。従って、通常は、旋回切替操舵部73の移動に従って、バックリフトアーム76も移動するようになっている。
【0039】
そして、そのバックリフトアーム76は位置決めローラ77に固定されているので、バックリフトアーム76の移動に従って、位置決めローラ77も上下に移動することになっている。もちろん、この旋回切替操舵部73は手動によって左右方向(紙面に対して垂直方向)に移動出来、任意にロックピン731から外すことが出来るようになっている。
この位置決めローラ77が下方へ移動すると、溝751から外れるので、切替カム74は矢印A方向に回動するようになっている。
【0040】
他方、バックリフト入り切りレバー82には、逆L字状の切り欠き孔84が穿設されている。すなわち、縦長部分と横長部分とでこの切り欠き孔84は構成されている。その切り欠き孔84には水平方向に配置されたバー83の先端が挿入されている。このバー83は、変速レバー36が後進に設定されたとき、ワイヤー、ロッドなどを介して下方向に移動するようになっている。
【0041】
すなわち、後述するように(図16参照)、変速レバー36が後進に設定されると、その変速レバー36の移動に応じて回動するロッド361が引き上げられ、ケーブル362を通じて、バー83が下降する機構になっている。
【0042】
従って、このバー83がL字型切り欠き孔84の横長部分に位置している場合は、バー83が下方向に移動することによって、バックリフト入り切りレバー82は押されて下方向に移動する。上述したように、このバックリフト入り切りレバー82は位置決めローラ77に連結されているので、位置決めローラ77は下方に移動することになる。これに対して、このバー83がL字型切り欠き孔84の縦長部分に位置している場合は、バー83が下方向に移動しても、縦長部分を移動するに止まるので、バックリフト入り切りレバー82を押し下げる力は働かず、位置決めローラ77も下方へ移動することにならない。
【0043】
さらに、バックリフト入り切りレバー82は位置決めローラ77に対して回動可能に連結されているので、作業者が手で回動して適宜位置決め(前方へ引き出すか、後方へ押し込むか)することによって、上述した、後進の際、バックリフト入り切りレバー82を、そして、位置決めローラ77を自動的に下方へ押し下げるモードと、押し下げないモードを任意に選択できるようになっている。なお、このバックリフト入り切りレバー82より、上述した旋回切替操作具73の方が前方へ突出しているので、旋回切替操作具73の方が扱い易くなっている。その結果、バックリフト入り切りレバー82の入り切り頻度の方が旋回切替操作具73の切替頻度より、通常少ないので、作業者にとって都合がよい。
【0044】
次に、図9は植付昇降レバー33と切替カム74との関係を示す側面図であり、図10は切替カム74の側面図である。以下に、図9と図10を用いて、植付昇降レバー33と切替カム74との関連を説明する。
【0045】
植付昇降レバー33はその位置によって、手前から、「上昇」、「停止」、「下降」、「植え付け」の各モードを切替設定出来るようになっている。他方、切替カム74の第1〜第4溝751a,751b,751c,751dは、それぞれ「上昇」、「停止」、「下降」、「植え付け」に対応している。すなわち、「上昇」の位置に植付昇降レバー33を例えば手で設定すると、切替カム74は前方へ移動し、位置決めローラ77は相対的に後退して第1溝751aに収まる。また、「停止」の位置に植付昇降レバー33を設定すると、切替カム74は少し後に移動し、位置決めローラ77は第2溝751bに収まる。また、「下降」の位置に植付昇降レバー33を例えば手で設定すると(図9の状態)、切替カム74はさらに少し後に移動し、位置決めローラ77は第3溝751cに収まる。また、「植え付け」の位置に植付昇降レバー33を例えば手で設定すると、切替カム74はさらに少し後に移動し、位置決めローラ77は第4溝751dに収まる(図10の状態)。
このようにして、植付昇降レバー33を操作することによって、切替カム74を4種類の位置に移動させることが出来る。
【0046】
この切替カム74の移動は、円柱状ピン61、ロッド62、連結ピン63、アーム64(64a,64b,64c)、ケーブル71などを介して、植付装置52の昇降油圧シリンダ46への油路を切り換える切替バルブ461に連動している。その結果、その連動によって、切替カム74の移動によって、植付装置52の昇降、停止、下降、植え付けがそれぞれ制御されるようになっている。
なお、これら位置決めローラ77、切替カム74、切替バルブ461などで、本発明の中間機構が構成されている。
【0047】
次に、図6に示すように、走行車体2の、切替カム74の後方の付近には、本発明の移動手段の一例としての植付部モータ99などが配設されている。この植付部モータ99は、走行車体2が圃場の端に達して旋回走行に移り、その旋回に伴って後輪が回転する際、その後輪が所定数回転した時点で、植付装置52を自動的に下降させるための手段である。
【0048】
すなわち、図11に示すように、植付部モータ99は制御回路200からの指示に基づき、支持軸101を時計方向に回動させる手段である。この支持軸101にはモータアーム103が固定されている。従って、モータアーム103も時計回り方向に回動する。このモータアーム103の先端にはピン102が立設している。
【0049】
他方、切替カム74の後方より位置にはピン105が立設している。このピン105には回動可能に、植え付けアーム100が連結されている。さらに、この植え付けアーム100にはその長手方向に長孔104が開設されている。この長孔104に、上述したモータアーム103のピン102が回動可能且つ摺動可能に嵌め合わされている。
これらの、ピン102、植え付けアーム100、ピン105などで、本発明の駆動リンクが構成されている。
【0050】
さらに、切替カム74の後方下端には、カム74の位置を検出するために、三角形のプレート90が固定されている。このプレート90の頂点付近にはピン91が固定されている。他方、走行車体2の、上述した植付部モータ99などの下方には、ポテンショメータ93が設けられている。このポテンショメータ93(図6、図13〜15)は、その軸に回動可能に、長孔94が開設されたメータアーム92を有している。このメータアーム92の回動角度が検出されるようになっている。そして、長孔94に上述したプレート90のピン91が回動可能且つ摺動可能に嵌め合わされている。従って、切替カム74の位置に応じてプレート90とピン91が移動し、その結果、メータアーム92も対応して回動する。これによってポテンショメータ93が、切替カム74の位置を精密に検出することが出来るようになっている。なお、切替カム74の移動に応じて移動するピン91の可動範囲よりも長く、長孔94が開設されていることによって、誤検知を防止できる。
なお、ポテンショメータ93が検知するメータアーム92の角度から、植付部モータ99の回転位置を検知する。
【0051】
図12は、本実施の形態の苗移植機の側面図である。上述したように、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、他方、そのメインフレーム15の後端左右中央部に水平に設けた後輪上下動支点軸181を支点にして左右後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その左右後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸17に後輪11,11が取り付けられている。18aは上述した後輪伝動軸である。
ここに、後輪上下動支点軸181に隣接して後輪11の回転数を検出する回転センサ182が設けられている。このような構造によって、後輪が回動しても検出された回転数は安定する。
図11に示すように、制御回路200は、これらのポテンショメータ93と、回転センサ182からの出力信号を利用して、植付部モータ99を駆動制御するコントローラである。
【0052】
次に、本実施の形態にかかる苗移植装置の動作を説明する。
A: 旋回開始から上昇
作業者は、走行車体2を、変速レバー36を前進に入れて(図16参照)圃場を走行させつつ、植付装置52を下降させた状態で苗を圃場に植え付けていく。この作業状態では植付昇降レバー33は図9に示すように、「下降」の位置に設定されている。従って、この植付昇降レバー33に連結されている切替カム74は図9のような位置、すなわち、位置決めローラ77が溝751cに入った状態の位置になっている。
圃場の端に到達すると、操舵部材34を回動させる。その操舵部材34の回動に伴って、操舵部材シャフト35が回動し、ピニオン機構を介して、T字型のピットマンアーム60が、回動軸60bを中心に回動する。
【0053】
そのピットマンアーム60の回動によって、そのピットマンアーム60のT字型の2つの先端部60a,60aが回動する。その結果、その先端部60a,60aに回動可能に取り付けられている2本のタイロッドが移動し、それぞれのタイロッドが取り付けられている、左右の前輪ファイナルケース13,13のナックルアームが回動する。
このように、操舵部材34を操舵することによって、右及び左の前輪10を回動させ、走行車体2の旋回を開始する。
【0054】
このとき、ピットマンアーム60の回動に伴って、円柱状ピン61に回動可能に取り付けられている、水平方向のロッド62も回動し移動する(図4参照)。その結果、ロッド62の先端62aが移動するので、その側面に固定された連結ピン63も、さらに、その連結ピン63の端部に取り付けられたアーム64(64a,64b,64c)も引っ張られる方向に移動する(図13〜図15参照)。
【0055】
このアーム64(64a,64b,64c)が移動すると、アーム64の上方部分64cの上端64c1に連結されているケーブル71が引っ張られる。
その結果、ケーブル71のケーブル端部72(図6参照)が下方に引っ張られ、そのケーブル端部72が連結されている旋回切替操舵部73が下方に移動する。
【0056】
ここで、旋回切替操舵部73が自動切り替えモードに選択されていたとする。すなわち、旋回切替操舵部73の孔732に、バックリフトアーム76に固定されたロックピン731が嵌め込まれているとする(作業者が手動で、この旋回切替操舵部73を左右に動かし、孔732にロックピン731を入れたり、外したりする)。
そのような場合、旋回切替操舵部73が下方に移動すると、ロックピン731を介して、バックリフトアーム76も下方に移動する。バックリフトアーム76が下方に移動すると、バックリフトアーム76に固定されている位置決めローラ77も下方に移動する。その結果、位置決めローラ77が、それまで嵌め込まれていた切替カム74の溝751cから外れる。
【0057】
他方、切替カム74はスプリング78によって、常時前方(図8の矢印A方向)へ付勢されているので、位置決めローラ77が切替カム溝751cから外れると、自由に移動出来るようになって、切替カム74は一気に軸80を中心に反時計方向に回動する。その結果、植付昇降レバー33は「上昇」位置まで移動する(図9参照)。
【0058】
その結果、切替カム74の回動に伴い、円柱状ピン61、ロッド62、連結ピン63、アーム64(64a,64b,64c)、ケーブル71などを介して、植付装置52の昇降油圧シリンダ46への油路を切り換える切替バルブ(図示せず)が「上昇」側へ切り換わり、植付装置52が上方へ移動する。
【0059】
このようにして、作業者が圃場の端で操舵部材34を切ると、自動的に植付装置52が上昇する。このように旋回のために操舵部材34を操作してピットマンアーム61、アーム64、ケーブル71、ケーブル端部72を順次作動させて旋回切替操舵部73を下方に移動させ、この旋回切替操舵部73の下動で、バックリフトアーム76と位置決めローラ77が下働し、位置決めローラ77が切替カム74の溝751cから外れ、切替カム74がスプリングの付勢力で軸80を中心に反時計回りに回動し、その結果植付昇降レバー33が「上昇」位置に移動し、また切替カム74の回動により、ワイヤーやロッド、アームなどを介して植付装置52の昇降シリンダ46を作動させて植付装置52が上方移動する。この機構を「自動昇降機構A」という。
【0060】
従って図6、図7で示すバックリフトアーム76に形成したロックピン731を、旋回切替操舵部73に形成した孔732に差し込んでいると、ハンドル34を所定角度以上操作したときに植付昇降レバー33が自動操作されて切替バルブ461が連動して作動し、苗植付装置52が上昇される構成となる。
一方、ロックピン731を孔732から外しているときは、植付昇降レバー33を手動操作すると、切替バルブ461が作動して苗植付装置52が上昇される構成となる。
なお、上記のロックピン731を差し込む、あるいは解除する操作は、作業者が旋回切替操舵部73を手動操作して切り換える必要がある。
【0061】
なお、苗植付装置52の自動下降は、旋回内側の後輪11の回転数と外側の後輪11の回転数の差が一定未満になる、即ち旋回から直進に戻ろうとしていると判断すると、植付部モータ99が作動して植付昇降レバー33を下降位置に移動させて行う構成としている。後輪11,11の回転数は、後輪回転センサ182でそれぞれ検出する。ただし、ロックピン731を外しているときは、植付部モータ99は作動しないので、植付昇降レバー33の手動操作が必要となる。
【0062】
このように、本明細書の実施例では、自動昇降機構Aとは植付昇降レバー33の作動で移動する切替カム74と該切替カム74の移動で作動するケーブル71、ロッド62、アーム64などと、該ケーブル71、ロッド62、アーム64などと連動する昇降油圧シリンダ46への油路を切り換える切替バルブ461と昇降油圧シリンダ46と該昇降油圧シリンダ46で作動する昇降リンク装置3などからなる植付装置52を上昇させるための機械的な構成である。
【0063】
より詳細に説明すると、操舵部材34の操舵によりピットマンアーム60が回動し、同時に円柱状ピン61に回動可能に取り付けられている水平方向のロッド62も回動し、ロッド62の先端62aが移動するので、その側面に固定された連結ピン63も、さらに、その連結ピン63の端部に取り付けられたアーム64(64a,64b,64c)も引っ張られる方向に移動する)。このアーム64(64a,64b,64c)の移動で、アーム64の上方部分64cの上端64c1に連結されているケーブル71と共のケーブル端部72が下方に引っ張られ、そのケーブル端部72が連結されている旋回切替操舵部73が下方に移動する。ここで、旋回切替操舵部73が自動切り替えモードに選択されていたとする。すなわち、旋回切替操舵部73の孔732に、バックリフトアーム76に固定されたロックピン731が嵌め込まれているとする(作業者が手動で、この旋回切替操舵部73を左右に動かし、孔732にロックピン731を入れたり、外したりする)と、旋回切替操舵部73が下方に移動すると、ロックピン731を介して、バックリフトアーム76も下方に移動する。バックリフトアーム76が下方に移動すると、バックリフトアーム76に固定されている位置決めローラ77も下方に移動する。その結果、位置決めローラ77が、それまで嵌め込まれていた切替カム74の溝751cから外れる。
【0064】
他方、切替カム74はスプリング78によって、常時前方(図8の矢印A方向)へ付勢されているので、位置決めローラ77が切替カム溝751cから外れると、自由に移動出来るようになって、切替カム74は一気に軸80を中心に反時計方向に回動する。その結果、植付昇降レバー33は「上昇」位置まで移動する(図9参照)。
上記一連の機械的連動機構から自動昇降機構Aが構成されている。
この自動昇降機構Aによって、作業者が一々植付昇降レバー33を操作しなくてもよくなる。
【0065】
このように、自動昇降機構Aは機械的な動作によるケーブル71などの操作で、植付装置52の「上げ」動作を行う。
これに対してオートリフト機構とは植付部モータ99の作動で植付装置52の「下げ」、「植付」動作を行う機構をいう。
なお、作業者が旋回切替操舵部73を手動で左右に動かし、孔732からロックピン731を外していた場合は、操舵部材34を切っても、旋回切替操舵部73、バックリフトアーム76、位置決めローラ77は下方に移動することはなく、当然に切替カム74が「上昇」位置に移動することも無い。
【0066】
このように、本実施の形態の旋回切替操舵部73は、操舵部材34と植付装置52の上昇との自動的連動を任意に選択出来るようになっている。
B: 旋回しながら下降開始
次に、さらに走行車体2を旋回させていった場合、植付装置52を自動的に下降させる。すなわち、図12に示すように、センサ182は後輪11の回転数を検出しているので、その検出された回転数信号を入力した制御回路200は、予め設定されている回転数に達すると、植付部モータ99に駆動信号を出力する。
【0067】
植付部モータ99はその駆動信号を受けて、図13、図14、図15に示すように、切替カム74を移動させる。すなわち、旋回中は、植付装置52は上昇位置に存在しているので、植付昇降レバー33は「上昇」位置にあり、また、位置決めローラ77は切替カム溝751aに入った状態となっている。そこで、植付部モータ99が支持軸101を時計回り方向に回動させる。それによって、モータアーム103も時計回り方向に回動する。その結果、モータアーム103に立設しているピン102が、切替カム74に連結されている植え付けアーム100を後方(図面上左)へ引っ張るので、切替カム74は時計回り方向に回動する。なお、位置決めローラ77はバネによって上方へ付勢されているが、この植付部モータ99による回動力によって、切替カム74が強制的に回動して位置決めローラ77は切替カム溝を順次乗り越えていく。それにともない、図14のように、「下降」位置まで、切替カム74と植付昇降レバー33が回動する。
【0068】
植付部モータ99はさらに、支持軸101を回動させるので、最終的には図13の「植え付け」状態となり、植付装置52に設けられた植え付け爪521が回転し始め、苗の植え付けが始まる。
【0069】
なお、以上のように、この植付部モータ99は動作する際、切替カム74を引っ張る方向に力を発揮するので、植付部モータ99に掛かる負荷は小さくて済むというメリットがある。モータは通常押す方向に力を出す場合の方が高価なモータを使う必要があるので、本実施の形態のモータとしては安価なものを用いることが出来る。
【0070】
また、このような植付部モータ99の駆動において、切替カム74の位置を正確に測りながら制御するため、次に示すようにして、正確に切替カム74の位置を検出し制御を行っている。すなわち、ポテンショメータ93がその軸に固定されたメータアーム92の位置を測定する。このメータアーム92の回動位置は、切替カム74に固定されたプレート90の位置、つまり、プレート90の頂点に固定されたピン91の位置に対応しているので、結果的に切替カム74の位置を検出することが出来る。
【0071】
図11に示す制御回路200は、植付部位置センサ(ポテンショメータ)93からの信号も利用して、植付部モータ99をより正確に駆動制御する。
C: 後進に切り換えた場合の上昇
図16は、変速レバー36の略示平面図と、変速レバー36とバー83の関係を示す説明図である。図16に示すように、変速レバー36を後進(バック)に入れると、その変速レバー36の移動に応じてロッド361が回動して引き上げられ、ケーブル362を通じて、バー83が下降する。
【0072】
図6、図8に示すように、今、バックリフト入り切りレバー82が前方(図面上右方向)側に手動で設定されているとする。つまり、逆L字状切り欠き孔84の縦長部分の方にバー83が位置しているとする。そのような状態で、バー83が下降すると、バー83はその縦長部分の隙間を移動するに止まり、バックリフト入り切りレバー82には何の作用も及ぼさず、切替カム74もそれまでの状態を保持する。
【0073】
これに対して、今、バックリフト入り切りレバー82が後方(図面上左方向)側に手動で設定されているとする。つまり、逆L字状切り欠き孔84の横長部分の方にバー83が位置しているとする。そのような状態で、バー83が下降すると、バー83はその横長部分の下側縁に直ぐに当接し、バックリフト入り切りレバー82を下方に押し下げ始める。その結果、バックリフト入り切りレバー82は位置決めローラ77に連結されているので、位置決めローラ77が下降する。
【0074】
位置決めローラ77が下降すると、旋回切替操舵部73に関して上述したように、位置決めローラ77が、それまで嵌め込まれていた切替カム74の溝から外れる。他方、切替カム74はスプリング78(図3参照)によって、常時前方(図8の矢印A方向)へ付勢されているので、位置決めローラ77が切替カム溝から外れると、自由に移動出来るようになって、切替カム74は一気に軸80を中心に反時計方向に回動する。その結果、植付昇降レバー33は「上昇」位置まで移動する(図9参照)。その結果、切替カム74の回動に伴い、ワイヤーやロッド、アームなどを介して、植付装置52の昇降油圧シリンダ46への油路を切り換える切替バルブ461が「上昇」側へ切り換わり、植付装置52が上方へ移動する。
【0075】
このように、バックリフト入り切りレバー82が後方(図面上左方向)側に手動で設定されている場合は、作業者が後進(バック)に変速レバー36を入れると、自動的に、植付装置52は上昇位置に移動し、安全が確保される。
【0076】
また、上述したように、後進時における植付装置の自動昇降機構A(上昇連動機構)が、位置決めローラ77という、旋回時における植付装置の上昇連動機構と共通化されているので、構造が簡単になるというメリットがある。
なお、本発明の中間機構としては本実施の形態に限らず他の機構でも機械構造であればかまわない。
【0077】
矩形の圃場では、畦際付近で苗移植機により苗の植え付けを行う場合に、圃場の端部近くに苗移植機が達し、所定旋回角度以上の旋回(例えば30〜60度以上の旋回)をさせると、植付装置52の上記自動昇降機構Aが作動して植付装置52は上昇状態で旋回を行い、後輪回転センサ182の検出値が所定値になると(このとき苗移植機が反転している)、植付部モータ99を作動させて植付装置52の下降、次いで苗の植付開始を行う。
【0078】
このとき、矩形の圃場でない変形圃場のコーナ部など畦際等では、後輪回転センサ182の検出値が所定値になったときに、苗移植機が苗の植付開始位置にいるとは限らない。そこで、以下、矩形の圃場でない変形圃場での苗の植付開始位置を揃えることができるという苗植付制御を可能にする方法を以下に説明する。
【0079】
この方法は、矩形や台形の変形田だけではなく、長方形または正方形の圃場であっても、圃場端ギリギリまで苗を植える作業形態の場合にも行われる。例えば、畦際には苗を植えないか、畦際は手作業で苗を植える作業形態がある。また、圃場の外周四辺を最後に植えて回るとき、角部では圃場端ギリギリまで近づき、一度後進し、旋回可能位置まで下がるが、このときも上記圃場端ギリギリまで近づく運転を行う。
【0080】
図17(a)に示すように、矢印a方向に前進した苗移植機の先端が圃場の畦際に達すると植付装置52を上昇させた状態で苗移植機を矢印b方向にバックさせ、その後に新たに苗の植え付けを行う矢印c方向に旋回させた場合に、図17(b)のフロー図に示すように、バック時の後輪車軸17の回転数(走行距離に対応)が正常に苗の植え付けを開始出来るだけの距離に対応する設定値より小さい場合には、そのまま自動昇降機構Aを作動させながら苗移植機の後進を続ける。
しかし、後輪車軸17の回転数が前記設定値以上になると、自動昇降機構Aの作動を停止させて手動で植付昇降レバー33を作動させて苗植付装置52を下降させておき、適切な植付位置で手動により植付部モータ99を作動させて苗の植付を開始させる。
【0081】
上記構成により、自動昇降機構Aを用いるとかえって苗の植付位置を揃えることが難しい変形圃場であっても、各苗植付条で苗の開始位置を手動操作により揃えることができ、機体を圃場端まで移動させて苗を植え付けた後、植付装置52を上昇させて旋回可能な距離まで後進してから圃場端を旋回し、旋回後に植付装置52を下降させて苗の植え付けを再開する際に、作業者は植付昇降レバー33を手動操作して植付装置52を下降させることができるので、旋回後の苗の植付開始位置を適切な位置に揃えられるため、苗の植付精度が従来より向上する。
また、自動昇降機構Aが自動的に作動しない状態となることにより、作業者は別途手動操作により自動操縦機構を解除する必要がなく、作業者の労力が軽減される。
【0082】
図18に示す植付部モータ作動タイミングダイヤル190は、植付装置52を上昇させて圃場端で旋回走行した後で植付昇降レバー33を操作して植付装置52を下降させたときに、植付部モータ99が植付昇降レバー33を移動して植付装置52を作動させて苗の植付開始タイミングを調整するダイヤルである。
【0083】
図18で示すとおり、植付作業開始前、または直進走行中(圃場端での旋回前)に、該ダイヤル190を基準値か、基準値より「速め」位置か、または基準値より「遅め」に選択することにより、旋回走行終了後に苗植付装置52を下降させた後、植付部モータ99の作動による苗の植付動作の開始タイミングを調整することができるので、土質等や土地形状等の圃場条件や作業速度に合わせて、旋回終了後の任意のタイミングで苗の植え付けが開始されるため、旋回前の苗の植付終了位置と旋回後の苗の植付開始位置が揃い、苗の植付精度が大幅に向上する。
【0084】
上記の一例を説明すると、ダイヤル190を「速め」位置に操作すると、植付装置52が最下降位置まで下がる前に植付昇降レバー33が「植付入」位置に移動されて苗の植え付けが開始されるため、旋回後の苗の植え付け位置を圃場端に近づけることができる。これにより、圃場端の直近位置まで苗を植え付ける作業形態において、旋回前の苗の植付終了位置と旋回後の苗の植付開始位置が揃い易くなる。
【0085】
一方、ダイヤル190を「遅め」位置に操作すると、苗植付装置52が最下降位置まで下がり、さらに機体が前進を開始してから植付昇降レバー33が「植付入」位置に移動されて苗の植え付けが開始されるため、旋回後の苗の植え付け位置を圃場端から遠ざけることができる。これにより、畦際に苗を植え付ける際に苗を踏み潰すことを防止でき、無駄になる苗が減少する。
また、基準値に設定した場合は、苗植付装置52が最下位置まで下降するとほぼ同時に植付昇降レバー33が「植付入」位置に移動されて苗の植え付けが開始される。
【0086】
なお、上記ダイヤル190を「遅め」の限界位置まで操作すると、苗植付装置52を下降させても植付部モータ99が作動せず、作業者が植付開始操作を手動で行うマニュアル操作モードに切り替わる構成としている。圃場の形状が正方形や長方形でない、所謂変形田(台形や不等辺四角形、円弧面がある…という圃場のこと)では、自動昇降機構や自動植付機構を用いると植付位置がかえって上手く揃わない場所があり、そうした場所ではダイヤル190を「切」位置に操作することにより、作業者は手動で操作を行うことができる。
【0087】
図19に示すフローチャートは、圃場端に機体を可能な限り接近させ、苗を圃場端の近くまで植え付け、所定距離後進してから旋回操作を行う時に、自動昇降機構Aの継続または中止の切替制御を説明するフローチャートである。
【0088】
圃場端の植付可能な範囲の限界まで走行車体2を走行させた後、機体を後進させると左右の後輪回転センサ182,182が左右の後輪11,11(または後輪車軸17,17)の回転数のカウントを開始し、コントローラ200が該後輪回転センサ182,182の左右の差を算出する。このとき、左右の後輪回転センサ182,182の回転差が同一、または所定差(例:±0.1〜0.5回転程度)以内であれば、真っ直ぐに後進して旋回位置に向かっているものと判断できるため、自動昇降機構Aを作動させて苗植付装置52を上昇させる。この後で旋回操作を行うと、旋回終了時に苗植付装置52が自動的に下降し、上記のダイヤル190で設定したタイミングで苗の植え付けを開始する。
【0089】
一方、左右の後輪回転センサ182,182の回転差が所定差(例:±0.5回転以上程度)以上であれば、その場で後進旋回操作(例えば、180度ではなく90度旋回する、何度も切り返し操作して次の植付開始位置を目指す、などがある。)を開始したと判断できるため、自動昇降機構Aを解除して、作業者の操作に合わせた苗植付装置52の昇降、及び苗の植付開始位置の決定が可能となる。
【0090】
また、図20のステップA側のフロー図に示すように、植付装置52を上昇させた状態で機体を旋回させると後輪回転センサ182の検出値が作動し、機体旋回中に植付昇降レバー33を「植付装置下降」に移動させると自動昇降機構Aを作動させない構成とした。
【0091】
この構成により機体の旋回動作時に植付昇降レバー33を操作して、植付装置52を下降させると自動昇降機構Aが作動しないので、苗の植付開始位置を揃えるために植付昇降レバー33を手動操作して植付装置52を下降させた際に、後輪回転センサ182の検知により再び植付装置52が上昇してしまうことを防止できるので、任意の位置で確実に植付装置52を下降させられるため、苗の植付精度が向上する。
【0092】
さらに図20のステップB側のフロー図に示すように、植付装置52を上昇させた状態で機体を旋回させると後輪回転センサ182が作動し、機体旋回中に植付昇降レバー33を「植付装置下降」に移動させ、次いで植付昇降レバー33を「植付入」に移動させると、自動昇降機構Aを作動させない構成とした。
【0093】
この構成によれば、苗の植付開始位置を揃えるために植付昇降レバー33を手動操作して植付装置52を下降させた際に、後輪回転センサ182の検知により再び植付装置52が上昇してしまうことを防止できるので、任意の位置で確実に植付装置52を下降させられるため、苗の植付精度が従来より向上する。
【0094】
また、植付装置52を下降させても、「植付入」にするまでは自動昇降機構Aが作動することにより、植付昇降レバー33を誤操作して植付装置52が下降しても、後輪回転センサ182が、後輪の回転数が所定値に達していないことを検知すれば、植付装置52を自動上昇させることができるので、植付装置52が圃場面に接触して、植付装置52が破損することや圃場に植え付けられた苗が植付装置52に潰されることが防止される。
【0095】
また、機体の走行速度及び進行方向を切り替える変速レバー36とハンドル34の操作を補助する図11に示すパワーステアリング(操舵補助部材)130と該パワーステアリングの油圧負荷を調節する電磁バルブ131を設け、変速レバー36が中立位置(機体走行停止)に操作されると電磁バルブ131を操作してパワーステアリング130の補助力を増大させる構成とした。
【0096】
こうして、圃場端から一旦後進し、後進後に旋回をするときに、変速レバー36が中立位置になると電磁バルブ131がパワーステアリング130の補助力を増大させることにより、作業者は容易にハンドル34を操作することができるので、圃場の土の粘度が高く、ハンドル34の操作抵抗となる場合でも作業者はハンドルを任意の方向に容易に向けられるため、旋回動作中に進行方向が乱れることが無く、苗の植付位置を揃えることができる。
【0097】
図21に示すように、一本のケーブルから成るアクセルケーブル121を設け、手前にアクセルペダル122の調節部外側に主変速レバー36の矢印A方向への操作によりプレート123が回動中心123aを中心に矢印B方向に回動し、プレート123の2つのピン125,126によりアーム127も回動中心123aを中心に矢印B方向に回動してアクセルケーブル121を矢印C方向に引く構成を採用しても良い。こうしてプレート123の回動量に応じてエンジンン回転数が増加する。この機能を「オートアクセル」と呼ぶことにする。
【0098】
上記主変速レバー36の回動によるエンジン回転数の増加をアクセルペダル122操作によるエンジン回転数の増加より低くなるように設定可能とすることで低速度走行時のエンジンン出力を従来より向上させることができる。
【0099】
次の苗載台(苗タンク)153の側面の中央部にウインカー154を設けた構成を図22の苗移植機の概略側面図に示す。前記ウインカー154は上下方向に発光部154aを設け、夜間作業時に苗補給部および植付装置52の植込杆155の後方部を照らすことができる。
【0100】
後輪伝動軸回転数を計測する回転センサ182を図23(a)の苗移植機正面図と図23(b)の苗移植機側面図に示すように、独立スイングのリヤケース180の左右に設けた外側プレート183の内側に設ける。該外側プレート183の内側に回転センサ182に配置したので、該センサ182に泥がかかり難くなる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、旋回時において、植付装置を自動上昇させることが出来るとともに、それを安価に実現できる苗移植機を提供することが出来、苗移植機として有用である。
【符号の説明】
【0102】
1 苗移植機 2 走行車体
3 昇降リンク装置 5 施肥装置
10 前輪 11 後輪
12 ミッションケース 13 前輪ファイナルケース
15 メインフレーム 16 リザーバタンク
17 後輪車軸 18 後輪ギヤケース
19 パイプ 20 エンジン
21 ベルト伝動装置 23 HST
26 植付伝動軸 28 補助ステップ
30 エンジンカバー 31 座席
32 フロントカバー 33 植付昇降レバー
34 操舵部材 35 ハンドシャフト
36 変速レバー 37 フロアステップ
40 上リンク 41 下リンク
42 リンクベースフレーム 43 縦リンク
46 昇降油圧シリンダ 52 植付装置
60 ピットマンアーム 61 円柱状ピン
62 ロッド 63 連結ピン
64 アーム 70 フロントフレーム
71 ケーブル 72 端部
73 旋回切替操作具 74 切替カム
75 位置決め溝 76 バックリフトアーム
77 位置決めローラ 78 スプリング
79 支持軸 80 軸
81 ブラケット
82 バックリフト入り切りレバー
83 バー 84 切り欠き孔
90 プレート 91 ピン
92 メータアーム 93 ポテンショメータ
94 長孔
99〜105 モータなどの移動手段
121 アクセルケーブル 122 アクセルペダル
123 プレート 125,126 ピン
127 アーム
130 パワーステアリング(操舵補助部材)
131 電磁バルブ 153 苗載台(苗タンク)
154 ウインカー 155 植込杆
180 リヤケース 181 後輪上下動支点軸
182 後輪回転センサ
190 植付部モータ作動タイミングダイヤル
200 制御回路 461 切替バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪(10)と後輪(11)を有する走行車体(2)と、
走行車体(2)の後側に圃場に苗を植え付ける植付部(52)と、
走行車体(2)の旋回時又は後進時には植付部(52)を自動的に上昇させ、走行車体(2)の前進時には植付部(52)を自動的に下降させる自動昇降機構A(A)と、
走行車体(2)を操舵する操舵部材(34)と、
植付部(52)の昇降動作及び苗植付動作の入切動作を行う植付昇降レバー(33)と、
後輪(11)の回転数を計測する回転検知部材(182)と
を設けた苗移植機において、
植付部(52)を上昇させた状態で走行車体(2)を後進させると回転検知部材(182)が作動し、
該回転検知部材(182)により検知される走行車体(2)の後進時の回転数が予め設定された基準回転数を上回ると自動昇降機構Aを作動させない制御構成とする制御装置(200)を設けた
ことを特徴とする苗移植機。
【請求項2】
走行車体(2)が旋回中に植付昇降レバー(33)により植付部(52)を下降させると、制御装置(200)は自動昇降機構Aを作動させない制御構成とすることを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項3】
制御装置(200)は、植付部(52)を上昇させた状態で走行車体(2)が旋回中には、植付昇降レバー(33)により植付部(52)を下降させ、さらに植付部(52)が植付入り動作されると、自動昇降機構Aを作動させない制御構成とすることを特徴とする請求項1記載の苗移植機。
【請求項4】
制御装置(200)は、走行車体(2)の走行速度及び進行方向を切り替える変速レバー(36)と、
操舵部材(34)の操作を補助する操舵補助機構(130)と、
操舵補助機構の油圧負荷を調節する電磁バルブ(131)と
を設け、
制御装置(200)は、変速レバー(36)が中立位置に操作されると電磁バルブ(131)を操作して操舵補助機構(130)の補助力を増大させる構成とした
ことを特徴とする請求項1記載の苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−5770(P2013−5770A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141612(P2011−141612)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】