説明

荷電性粉末およびその製造方法ならびに防曇ガラス

【課題】電子写真法によってガラス基板上に導電性パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末であって、特に防曇ガラスの導電性線条部を形成するのに適したものを提供する。
【解決手段】銀粒子2と、銀粒子2を被覆する熱可塑性樹脂層3と、熱可塑性樹脂層3に分布されるガラス粉末4ならびに第1および第2の特性調整用粉末5および6とを含む。第1の特性調整用粉末5は、たとえばケイ化モリブデン等からなり、導電性パターンとガラス基板との界面での暗色性を高める特性を有し、第2の特性調整用粉末6は、たとえばニッケルからなり、導電性パターンの比抵抗を高める特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真法により導電性パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末およびその製造方法ならびに荷電性粉末を用いて構成される防曇ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この発明にとって興味あるものとして、たとえば自動車のリアウインドウを構成する防曇ガラスがある。防曇ガラスは、ガラス基板と、ガラス基板上に形成された加熱用の導電性線条部とを備えている。導電性線条部は、通常、導電性ペーストを印刷等によってガラス基板上に所定のパターンをもって付与し、焼き付けることによって形成される。
【0003】
導電性線条部は、通電することにより発熱し、この発熱によって、防曇ガラスの表面温度が上昇し、その結果、防曇効果が発揮される。
【0004】
防曇ガラスが自動車の窓に適用されるとき、車外から見たときの意匠性の観点から、導電性線条部に対しては、暗色性が高いこと、すなわち、黒に近い色であることが求められる。また、導電性線条部は、その抵抗値が高いほど、発熱効果が高くなるため、導電性線条部に対しては、高抵抗であることが求められる。
【0005】
たとえば特開2003−128433号公報(特許文献1)には、上述した暗色性を向上させるため、ケイ化モリブデンまたはホウ化モリブデンのようなモリブデン化合物を導電ペーストに添加することが記載されている。他方、たとえば特開2004−327356号公報(特許文献2)には、導電性線条部の抵抗値の調整のため、導電性ペーストにNiOを添加することが記載されている。
【0006】
一方、上述した特許文献1および2に記載されるような導電性ペーストをガラス基板上に印刷するにあたっては、主としてスクリーン印刷法が適用されている。しかしながら、スクリーン印刷法を適用する場合、自動車の種類やガラスの種類などごとに、所定のパターンをそれぞれ有するスクリーン印刷版を用意する必要があり、このことがコストの上昇や手間の煩雑化を招く原因となっている。そこで、近年、電子写真法による印刷が検討されるようになってきている。
【0007】
この発明にとって興味ある電子写真法による導電性パターンの形成に関する技術として、たとえば特開平11−265089号公報(特許文献3)に記載されたものがある。特許文献3には、防曇ガラスにおける導電性線条部の形成についての具体的な開示はないが、多層配線基板の各層への回路パターンの形成に適用される荷電性粉末が記載されている。特に、特許文献3における「第7の実施例」では、第1導電性金属粉末の粒子を芯材としながら、その周囲に熱可塑性樹脂層を形成し、この熱可塑性樹脂層中に、第2導電性金属粉末、荷電制御剤およびガラスフリットのような接着強化剤を均一に分散させたものが提案されている。
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載される荷電性粉末は、前述したように、多層配線基板における回路パターンの形成に適したものとして開発されたものであるので、防曇ガラスにおける導電性線条部の形成には必ずしも適したものではない。より具体的には、特許文献3において提案された荷電性粉末には、暗色性を高める特性を有する物質が含有されておらず、これを用いて実際の導電性パターンを形成すると、この導電性パターンが茶色となる。また、特許文献3に記載の荷電性粉末は、抵抗値を調整する物質を含んでおらず、抵抗値を向上させることができない。なお、特許文献3では、互いに異なる平均粒径を有する第1導電性金属粉末と第2導電性金属粉末とを含有させているが、これは、導電性金属粉末を密に充填することを目的としているに過ぎない。
【0009】
また、特許文献3の「第7の実施例」では、芯材としての第1導電性金属粉末に、第2導電性金属粉末、荷電制御剤、接着強化剤および熱可塑性樹脂を付与するに当たり、それぞれ粉末状態にある第2導電性金属粉末、荷電制御剤および接着強化剤を、粉末状態ではない熱可塑性樹脂と予め混合した上で粉砕して複合材料粒子を作製し、この複合材料粒子を、芯材としての第1導電性金属粉末に衝突させるようにしている。
【0010】
しかしながら、上述の方法では、芯材としての第1導電性金属粉末に複合材料粒子を衝突させた際に、複合材料粒子が破壊して、その中の第2導電性金属粉末が一部飛散したり、表面に第2導電性金属粉末が一部露出したりすることは避けられない。そのため、これらの不具合がリーク原因となって、帯電しない粒子が生じる。その結果、この荷電性粉末を用いて導電性パターンを形成しようとしたとき、当該パターンの外へ荷電性粉末が飛散したり、当該パターンのエッジが乱れるなどの問題が生じる。
【0011】
また、特許文献3に記載の方法に従って、前述した複合材料粒子を芯材としての第1導電性金属粉末に衝突させ、第1導電性金属粉末が、第2導電性金属粉末、荷電制御剤、接着強化剤および熱可塑性樹脂によって被覆された状態にある荷電性粉末を得るためには、芯材としての第1導電性金属粉末の粒径に対して、複合材料粒子の粒径が十分に小さいことが求められる。
【0012】
しかしながら、前述したように粉砕して得られる複合材料粒子の粒径を小さくするためには、大きなエネルギーをかけて粉砕することが必要であり、結果として、樹脂中に含まれていた多くの第2導電性金属粉末、荷電制御剤および/または接着強化剤が熱可塑性樹脂部分から離脱してしまうことがある。複合材料粒子は、粉砕後において分級されるが、上述のような離脱が生じると、分級後において、複合材料粒子の組成比が仕込み値からずれてしまうという問題を引き起こす。
【0013】
また、特許文献3に記載の方法では、荷電性粉末を製造するため、混合、粉砕および分級の各工程を含む、複合材料粒子の作製工程と、複合材料粒子によって芯材としての第1導電性金属粉末を被覆する工程とが必要であり、そのため、時間的およびコスト的な負担が大きい。
【特許文献1】特開2003−128433号公報
【特許文献2】特開2004−327356号公報
【特許文献3】特開平11−265089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、荷電性粉末およびその製造方法を提供しようとすることである。
【0015】
この発明の他の目的は、この発明に係る荷電性粉末を用いて構成される防曇ガラスを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この発明は、電子写真法によってガラス基板上に導電性パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、銀粒子と、銀粒子を被覆する熱可塑性樹脂層と、熱可塑性樹脂層に分散されるガラス粉末と、熱可塑性樹脂層に分散される特性調整用粉末とを含み、特性調整用粉末は、導電性パターンとガラス基板との界面での暗色性を高める特性および導電性パターンの比抵抗を高める特性の少なくとも一方の特性を有することを特徴としている。
【0017】
第1の好ましい実施態様では、特性調整用粉末は、少なくとも暗色性を高める特性を有していて、ケイ化モリブデン、ホウ化モリブデン、バナジウム、バナジウムの酸化物、マンガン、マンガンの酸化物、鉄、鉄の酸化物、コバルト、コバルトの酸化物、クロムの酸化物、およびロジウムの酸化物から選ばれる少なくとも1種から構成される。
【0018】
第2の好ましい実施態様では、特性調整用粉末は、少なくとも比抵抗を高める特性を有していて、ニッケル、アルミニウム、錫、鉛、白金、パラジウム、および酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種から構成される。
【0019】
この発明は、また、上述したような荷電性粉末を製造する方法にも向けられる。この発明に係る荷電性粉末の製造方法は、上記銀粒子と、この銀粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有しかつ上記熱可塑性樹脂層となるべき熱可塑性樹脂粉末と、銀粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有する上記ガラス粉末と、銀粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有する上記特性調整用粉末とをそれぞれ用意する工程をまず備える。
【0020】
この発明に係る荷電性粉末の製造方法は、また、混在させた金属粒子と樹脂粉末とに機械的衝撃力を与えることによって、金属粒子を樹脂粉末で被覆した状態とするための被覆装置を用意する工程を備える。
【0021】
そして、上記被覆装置を用いて、上記銀粒子、上記熱可塑性樹脂粉末、上記ガラス粉末および上記特性調整用粉末を処理することによって、銀粒子が、ガラス粉末および特性調整用粉末を包含した熱可塑性樹脂層によって被覆された状態にある、荷電性粉末が作製される。
【0022】
この発明に係る荷電性粉末の製造方法において、銀粒子は、熱可塑性樹脂粉末、ガラス粉末および特性調整用粉末のいずれの平均粒径よりも3倍以上大きい平均粒径を有することが好ましい。より好ましくは、銀粉末の平均粒径は5μm以上である。
【0023】
この発明に係る荷電性粉末の製造方法において、被覆装置を用いて処理される、銀粒子、熱可塑性樹脂粉末、ガラス粉末および特性調整用粉末の合計に対する、熱可塑性樹脂粉末の配合比は、3重量%〜30重量%であることが好ましい。
【0024】
この発明は、また、この発明に係る荷電性粉末を用いて形成された導電性線条部を備える、防曇ガラスにも向けられる。
【発明の効果】
【0025】
この発明に係る荷電性粉末によれば、芯材としての銀粒子を被覆する熱可塑性樹脂中に特性調整用粉末を含み、この特性調整用粉末が、導電性パターンとガラス基板との界面での暗色性を高める特性および導電性パターンの比抵抗を高める特性の少なくとも一方の特性を有しているので、特性調整用粉末が前者の暗色性を高める特性を有している場合には、導電性パターンとガラス基板との界面での暗色性を高めることができ、後者の比抵抗を高める特性を有している場合には、導電性パターンの比抵抗を高めることができる。後者の比抵抗を高める特性については、特性調整用粉末の含有量が多いほど、高抵抗になる。
【0026】
このようなことから、この発明に係る荷電性粉末は、防曇ガラスに備える導電性線条部を形成するため、好適に用いることができる。
【0027】
また、この発明に係る荷電性粉末によれば、特性調整用粉末が、銀粒子とは独立して存在するのではなく、銀粒子を被覆する熱可塑性樹脂中に分散された状態で一体化されているので、導電性パターンを印刷する際に組成のばらつきが生じにくく、得られた導電性パターンにおいて均一な発色および抵抗値を得ることができる。
【0028】
この発明に係る荷電性粉末の製造方法によれば、熱可塑性樹脂粉末、ガラス粉末および特性調整用粉末をそれぞれ用意する工程において、予め分級し、その後に実施される被覆装置を用いての処理にとって望ましい粒径に揃えてから、銀粒子を芯材として、熱可塑性樹脂粉末、ガラス粉末および特性調整用粉末に対して一度に被覆のための工程を実施するので、この被覆工程において、熱可塑性樹脂粉末、ガラス粉末および特性調整用粉末のすべてが均等に母粒子としての銀粒子の周りに付着し、組成比において仕込み値からのずれが実質的にない荷電性粉末を得ることができる。
【0029】
また、この発明に係る荷電性粉末の製造方法によれば、生産効率がそれほど高くないバッチプロセスを基本的に適用するものであるが、銀粒子、熱可塑性樹脂粉末、ガラス粉末および特性調整用粉末を被覆装置に同時に投入することによって、銀粒子が、ガラス粉末および特性調整用粉末を包含した熱可塑性樹脂によって被覆された状態を得るようにしている。したがって、この発明に係る荷電性粉末の製造方法によれば、基本的にバッチプロセスであるにもかかわらず、能率的に荷電性粉末を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は、この発明の一実施形態による荷電性粉末1を構成する1個の粒子を拡大して図解的に示す断面図である。
【0031】
荷電性粉末1は、粒径の比較的大きい銀粒子2を芯材としている。銀粒子2は、熱可塑性樹脂層3によって被覆される。熱可塑性樹脂層3には、接着強化剤としてのガラス粉末4ならびに第1および第2の特性調整用粉末5および6が分散されている。また、熱可塑性樹脂層3は、シリカ微粒子層7によって被覆されることが好ましい。
【0032】
荷電性粉末1は、電子写真法によってガラス基板上に導電性パターンを印刷する際に用いられるものである。
【0033】
第1の特性調整用粉末5は、上記導電性パターンとガラス基板との界面での暗色性を高める特性を有するもので、たとえば、ケイ化モリブデン、ホウ化モリブデン、バナジウム、バナジウムの酸化物、マンガン、マンガンの酸化物、鉄、鉄の酸化物、コバルト、コバルトの酸化物、クロムの酸化物、およびロジウムの酸化物から選ばれる少なくとも1種から構成されるものである。
【0034】
第2の特性調整用粉末6は、導電性パターンの比抵抗を高める特性を有していて、たとえば、ニッケル、アルミニウム、錫、鉛、白金、パラジウム、および酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種から構成されるものである。
【0035】
なお、第1および第2の特性調整用粉末5および6は、そのいずれか一方のみが用いられてもよい。
【0036】
図2および図3は、荷電性粉末1を製造する方法を説明するためのものである。
【0037】
まず、図2(a)に示すように、銀粒子2と、前述した熱可塑性樹脂層3となるべき熱可塑性樹脂粉末3aと、ガラス粉末4と、第1の特性調整用粉末5と、第2の特性調整用粉末6とがそれぞれ用意される。ここで、熱可塑性樹脂粉末3a、ガラス粉末4ならびに第1および第2の特性調整用粉末5および6は、いずれも、銀粒子2の平均粒径より小さい平均粒径を有するように、予め分級され、選別される。
【0038】
他方、図3に示すような被覆装置11が用意される。被覆装置11は、混在させた金属粒子と樹脂粉末とに機械的衝撃力を加えることによって、金属粒子を樹脂粉末で被覆した状態とするためのものである。図示した被覆装置11は、断面円筒状のチャンバ12を備え、このチャンバ12内で羽根13が矢印14で示すように回転するように構成されている。チャンバ12内に被処理物15が投入され、その状態で、羽根13がたとえば4000〜6000rpmの回転数をもって回転されることによって、被処理物15が処理される。
【0039】
このような被覆装置11に備えるチャンバ12内に、被処理物15として、前述した銀粒子2、熱可塑性樹脂粉末3a、ガラス粉末4ならびに第1および第2の特性調整用粉末5および6が投入され、その状態で、羽根13が回転される。その結果、銀粒子2と熱可塑性樹脂粉末3a等との間で機械的衝撃力が与えられ、図2(b)に示すように、銀粒子2の周りに、熱可塑性樹脂粉末3aによって与えられた熱可塑性樹脂層3が形成された状態にある、荷電性粉末1が得られる。なお、図2(b)では、熱可塑性樹脂層3に包含されるガラス粉末4ならびに第1および第2の特性調整用粉末5および6の図示が省略されている。
【0040】
上述のような方法に従って荷電性粉末1を製造しようとする場合、銀粒子2は、熱可塑性樹脂粉末3a、ガラス粉末4ならびに第1および第2の特性調整用粉末5および6のいずれの平均粒径よりも3倍以上大きい平均粒径を有することが好ましい。この平均粒径の比率は、より好ましくは5倍以上とされ、さらに好ましくは10倍以上とされる。銀粒子2の平均粒径が熱可塑性樹脂粉末3aなどに比べて大きくなればなるほど、銀粒子2が熱可塑性樹脂粉末3aなどによって被覆されやすくなる。銀粒子2の平均粒径が、熱可塑性樹脂粉末3aの平均粒径の3倍より小さくなると、銀粒子2が熱可塑性樹脂粉末3aによって被覆されにくくなる。したがって、荷電性粉末1の帯電性の面で問題が生じる可能性がある。
【0041】
上述のような粒径の比率を実現しようとする場合、銀粒子2の平均粒径が5μm以上とすると、熱可塑性樹脂粉末3a、ガラス粉末4ならびに特性調整用粉末5および6の各々について所望の粒径のものを製造しやすくなるので好ましい。
【0042】
被覆装置11を用いて処理される、銀粒子2、熱可塑性樹脂粉末3a、ガラス粉末4ならびに特性調整用粉末5および6の合計に対する、熱可塑性樹脂粉末3aの配合比は、3重量%〜30重量%とすることが好ましく、5重量%〜15重量%とすることがより好ましい。
【0043】
熱可塑性樹脂粉末3aは、その配合比を高めることにより、ケイ化モリブデン粉末のような第1の特性調整用粉末5が有する良好な暗色性を高める特性をさらに助長することができるが、他方、被覆装置11での処理に際して、熱可塑性樹脂粉末3aの配合比が30重量%より多くなると、熱可塑性樹脂粉末3a同士の衝突の確率が高くなるため、樹脂のみの粒子が多く発生し、銀粒子2が、ガラス粉末4ならびに特性調整用粉末5および6を包含した熱可塑性樹脂層3によって被覆された状態にある、荷電性粉末1の作製が困難になる。
【0044】
他方、熱可塑性樹脂粉末3aの配合比が3重量%を下回ると、銀粒子2を熱可塑性樹脂層3によって完全に被覆するのが困難になり、帯電性の面で銀粒子2の絶縁性が十分でなくなるため、荷電性粉末1において望ましい帯電特性が得られなくなる。
【0045】
また、熱可塑性樹脂粉末3aの配合比が5〜15重量%の範囲であれば、ケイ化モリブデン粉末のような第1の特性調整用粉末5が有する良好な暗色性を高める特性をより助長させる働きを十分に得ることができるとともに、荷電性粉末1中の銀成分の量が適正なものとなり、導電性パターンを形成するにあたり、必要な膜厚が得られやすくなり、特に好ましい。
【0046】
上述のように熱可塑性樹脂層3が形成された後、荷電性粉末1は、シリカ超微粒子と混合されることによって、シリカ超微粒子層7が形成されることが好ましい。
【0047】
図4は、この発明に係る荷電性粉末が有利に適用され得る自動車窓用防曇ガラス21を図解的に示す正面図である。図4に示した防曇ガラス21は、たとえば、乗用車のリアウインドウを構成するものである。
【0048】
防曇ガラス21は、ガラス基板22とガラス基板22上に形成された導電性パターンとしての導電性線条部23を備えている。導電性線条部23は、この発明に係る荷電性粉末を電子写真法によってガラス基板22上に印刷することによって形成される。
【0049】
図5は、電子写真法を実施する電子写真印刷装置31の構成を図解的に示す図である。電子写真印刷装置31を用いて、被印刷物としてのガラス基板32上に導電性パターン(図示せず。)を印刷する方法について説明する。
【0050】
まず、コロナ帯電器33によって感光体34の表面が帯電され、矢印35方向に回転する感光体34の表面にレーザ光36を照射して所望の潜像パターン(図示せず。)を形成する露光工程が実施される。
【0051】
次いで、供給器37により荷電性粉末1を感光体34の表面の潜像パターンに吸着させる現像工程が実施される。
【0052】
次いで、ガラス基板32の背面から転写器38により荷電性粉末1と逆極性の電荷を与え、潜像パターン上に現像された荷電性粉末1をガラス基板32上へ転写する転写工程が実施される。
【0053】
次に、ガラス基板32が、矢印39で示すように、フラッシュランプ40の照射位置まで移動され、ここでフラッシュランプ40の照射により、ガラス基板32上に転写された荷電性粉末1を定着させた後、焼成工程が実施され、荷電性粉末1に含まれる樹脂成分が飛ばされ、被印刷物32上に導電性パターン(図示せず。)が形成される。
【実施例】
【0054】
平均粒径5μmの銀粒子と、平均粒径がそれぞれ1μmのビスマス系ガラス粉末、第1の特性調整用粉末としてのケイ化モリブデン粉末および第2の特性調整用粉末としてのニッケル粉末と、さらに熱可塑性樹脂粉末としてのアクリル樹脂粉末とを混合した。アクリル樹脂粉末としては、1次粒子径が84nm、ガラス転移点が60℃、軟化点が140℃のものを用い、アクリル樹脂粉末と無機材料との比率が重量比で9:91となるようにした。また、無機材料の混合比率は、銀:ガラス:ニッケル:ケイ化モリブデンの重量比率で82:5:3:1とした。
【0055】
次に、上述のように秤量しかつ混合して得られた粉体を、嵩体積で300cc計量し、ホソカワミクロン社製の被覆装置「ノビルタ」に投入し、回転数5000rpmで20分間処理した。
【0056】
次に、処理後の粉体とシリカ超微粒子(1次粒子径:7nm)とを、松下電器産業社製のコーヒーミル「MK−61M−G」を用いて混合し、シリカ超微粒子層を形成した荷電性粉末を得た。
【0057】
次に、図5に示した電子写真印刷装置を用いて電子写真印刷工程を実施し、次いで焼成工程を実施して形成された、ガラス基板上の細線パターン(幅2mm×長さ60mm×厚さ10μm)の抵抗値を、4端子法を用いて測定したところ、比抵抗値が4.8μΩcmとなった。なお、この比抵抗値は、第2の特性調整用粉末であるニッケル粉末の配合比を変えることによって調整され得ることも確認された。
【0058】
また、第1の特性調整用粉末であるケイ化モリブデン粉末の配合比を変えることによって、暗色性の度合いを調整できることが確認された。このケイ化モリブデン粉末は、たとえば樹脂と無機材料との合計の0.1重量%といった、ごく少量でも効果が得られることも確認された。
【0059】
トナーに対しては、個々の粒子がマイナスに帯電しており、非帯電またはプラス帯電粒子数が少ないことが求められる。上述した実施例に従って得られた荷電性粉末について、その帯電量分布をホソカワミクロン社製「イースパートアナライザー」で測定したところ、平均帯電量が−4.7fCであり、非帯電およびプラス帯電粒子の割合が1.9%であった。他方、特許文献3に記載された混合粉砕法を用いて同じ組成比を有するトナーを作製したところ、平均帯電量が−3.5fCであり、非帯電およびプラス帯電粒子の割合が4.9%であった。
【0060】
また、この実施例に従って得られた荷電性粉末を走査型電子顕微鏡により観察したところ、銀粒子表面が樹脂でカプセル化され、銀粒子を被覆する樹脂層内にガラス粉末や特性調整用粉末が取り込まれていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の一実施形態による荷電性粉末1を構成する1個の粒子を拡大して図解的に示す断面図である。
【図2】図1に示した荷電性粉末1の製造方法を説明するためのもので、(a)は、銀粒子2、熱可塑性樹脂粉末3a、ガラス粉末4ならびに特性調整用粉末5および6が混合された状態を示し、(b)は、銀粒子2および熱可塑性樹脂粉末3a等が図3に示す被覆装置11によって処理された後の状態を示す図である。
【図3】図2に示した製造方法を実施する際に用いられる被覆装置11を図解的に示す断面図である。
【図4】この発明に係る荷電性粉末を用いて構成される防曇ガラス21を図解的に示す正面図である。
【図5】この発明に係る荷電性粉末を用いて導電性パターンを印刷する際に用いられる電子写真印刷装置31の構成を図解的に示す正面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 荷電性粉末
2 銀粒子
3 熱可塑性樹脂層
3a 熱可塑性樹脂粉末
4 ガラス粉末
5 第1の特性調整用粉末
6 第2の特性調整用粉末
11 被覆装置
12 チャンバ
13 羽根
15 被処理物
21 防曇ガラス
22,32 ガラス基板
23 導電性線条部
31 電子写真印刷装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真法によってガラス基板上に導電性パターンを印刷する際に用いられる荷電性粉末であって、
銀粒子と、前記銀粒子を被覆する熱可塑性樹脂層と、前記熱可塑性樹脂層に分散されるガラス粉末と、前記熱可塑性樹脂層に分散される特性調整用粉末とを含み、
前記特性調整用粉末は、前記導電性パターンと前記ガラス基板との界面での暗色性を高める特性および前記導電性パターンの比抵抗を高める特性の少なくとも一方の特性を有する、荷電性粉末。
【請求項2】
前記特性調整用粉末は、少なくとも前記暗色性を高める特性を有していて、ケイ化モリブデン、ホウ化モリブデン、バナジウム、バナジウムの酸化物、マンガン、マンガンの酸化物、鉄、鉄の酸化物、コバルト、コバルトの酸化物、クロムの酸化物、およびロジウムの酸化物から選ばれる少なくとも1種から構成される、請求項1に記載の荷電性粉末。
【請求項3】
前記特性調整用粉末は、少なくとも前記比抵抗を高める特性を有していて、ニッケル、アルミニウム、錫、鉛、白金、パラジウム、および酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種から構成される、請求項1に記載の荷電性粉末。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の荷電性粉末を製造する方法であって、
前記銀粒子と、前記銀粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有しかつ前記熱可塑性樹脂層となるべき熱可塑性樹脂層粉末と、前記銀粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有する前記ガラス粉末と、前記銀粒子の平均粒径より小さい平均粒径を有する前記特性調整用粉末とをそれぞれ用意する工程と、
混在させた金属粒子と樹脂粉末とに機械的衝撃力を与えることによって、金属粒子を樹脂粉末で被覆した状態とするための被覆装置を用意する工程と、
前記被覆装置を用いて、前記銀粒子、前記熱可塑性樹脂粉末、前記ガラス粉末および前記特性調整用粉末を処理することによって、前記銀粒子が、前記ガラス粉末および前記特性調整用粉末を包含した前記熱可塑性樹脂層によって被覆された状態にある、前記荷電性粉末を得る工程と
を備える、荷電性粉末の製造方法。
【請求項5】
前記銀粒子は、前記熱可塑性樹脂粉末、前記ガラス粉末および前記特性調整用粉末のいずれの平均粒径よりも3倍以上大きい平均粒径を有する、請求項4に記載の荷電性粉末の製造方法。
【請求項6】
前記銀粉末の平均粒径は5μm以上である、請求項5に記載の荷電性粉末の製造方法。
【請求項7】
前記被覆装置を用いて処理される、前記銀粒子、前記熱可塑性樹脂粉末、前記ガラス粉末および前記特性調整用粉末の合計に対する、前記熱可塑性樹脂粉末の配合比は、3重量%〜30重量%である、請求項4ないし6のいずれかに記載の荷電性粉末の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし3のいずれかに記載の荷電性粉末を用いて形成された導電性線条部を備える、防曇ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−218292(P2008−218292A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56547(P2007−56547)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】