説明

荷電粒子ビーム描画装置、偏向器間のタイミング調整方法、及び偏向アンプの故障検出方法

【目的】偏向器間のタイミング調整を短時間に行なう装置を提供する。
【構成】第n番目のビームONのタイミング信号から第1の遅延時間後に第n−1番目のビームONからOFFに切り替わるDACアンプユニット132と、DACアンプユニット132からの偏向電圧によって、ビームON/OFFを交互に生成するブランキング偏向器212と、DACアンプユニット132がタイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n番目のビームONに向けて電圧変化を開始するDACアンプユニット134と、DACアンプユニット134からの偏向電圧によって、ビームの向きを制御する偏向器205と、第1の遅延時間の代わりとなる評価用時間と評価用時間で得られるビームで電流の積分電流との相関結果から得られる、積分電流が一定の状態からの変化開始時間よりも短くなるように第1の遅延時間を設定する設定部114と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置、偏向器間のタイミング調整方法及び偏向アンプの故障判定方法に係り、例えば、可変成形された電子ビームを用いて試料にパターンを描画する電子ビーム描画装置、かかる装置に搭載される電子ビームを偏向させる複数の偏向器の偏向器間のタイミング調整方法、及びかかる複数の偏向器に偏向電圧を出力する偏向アンプの故障を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図14は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0004】
上述したように、描画装置では、電子ビーム等の荷電粒子ビームを偏向させてパターンを試料上に照射する。かかるビーム偏向には偏向アンプが用いられている。このような偏向アンプを用いたビーム偏向の役割としては、例えば、ビームON/OFFによるビームショットの生成を行なうブランキング制御、ビームショットの形状やサイズの制御、及びショット位置の制御が挙げられる。
【0005】
以上のように、異なる働きをする複数のビーム偏向制御がおこなわれる。それぞれのビーム偏向制御は偏向アンプと偏向器によって行なわれ、各ビーム偏向制御が独立した制御機能により制御されることが一般的である。そのため、所望のビームショットを所望の形状に成形して所望する位置に照射するためには、各ビーム偏向制御を行なう偏向器(偏向アンプ)間でのタイミング調整(同期)が必要となる。ここでは、VSB方式での描画装置について記載しているが、成形せずに、単にビームショットを所望する位置に照射する場合でも、ブランキング偏向とショット位置偏向の両偏向器間の同期をとることが必要となることは言うまでもない。
【0006】
かかる偏向器間の同期がとれているかどうかの評価は、実際の描画結果から確認することが最も確実であるが、1回の評価ごとに数時間から数十時間の描画時間がかかり、また、高価である評価用マスクが必要となるため高額なコストがかかることになる。そのため、従来、各偏向アンプから対応する偏向器への出力信号をオシロスコープ等の測定機器でモニタし、各偏向器間のタイミングを合わせる作業を行なっていた。しかし、ビームショットは極めて高速な動作で連続的に出力されるので、かかるビームショットを制御する各偏向器間のタイミングを合わせるためには高精度な測定機器が必要である。しかし、高精度な測定機器を取得するためにはやはり高額なコストがかかることになる。さらに、かかる一連の作業を行なうには、決して楽ではない準備と測定と復旧という作業が偏向器の数だけ必要となるため、かかる手法でも1回の評価ごとに数時間から数十時間のマシンタイムが必要となるといった問題があった。
【0007】
また、偏向アンプが故障すると調整されていた偏向器間の同期がずれてしまう。同期がとれなくなると、所望のビームショットを所望の形状に成形して所望する位置に照射することが困難になってしまう。そのため、製品となるマスク等に描画を行なう際には、より望ましくは描画前に、遅くても描画後であってパターン検査前に偏向アンプの故障が検出されることが望ましい。
【0008】
ここで、偏向器間の同期とは関係ないが、描画前後にある周期で2つの成形アンプの一方に偏向データ、他方に前者と逆方向の偏向データを、時差を設けて入力して、互いの出力同士間に結合された測定抵抗の中点の電圧変化をオシロスコープで測定して成形アンプのセトリング時間を検出するという技術が文献に開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−259812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、複数の偏向器間のタイミング調整を短時間に、さらにより望ましくは低コストに行なう手法が求められていた。また、偏向アンプが故障すると調整されていた偏向器間の同期がずれてしまうので、より短時間に、より簡易な手法によって偏向アンプの故障を検出する手法が求められていた。しかし、両者ともに十分な手法が確立されていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、複数の偏向器間のタイミング調整を短時間に行なうことが可能な装置及び方法を提供することを目的とする。また、本発明は、より短時間に、より簡易な手法によって偏向アンプの故障を検出することが可能な装置及び方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向電圧を出力し、第1の偏向電圧が第n番目のビームONの状態を生成することを示すためのタイミング信号を発した時から第1の遅延時間後に第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わる第1のアンプユニットと、
第1のアンプユニットから出力された第1の偏向電圧によって、通過する荷電粒子ビームの向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器と、
第1の偏向器を通過した荷電粒子ビームの向きを制御するための第2の偏向電圧を出力し、第1のアンプユニットがタイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧に向けて第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットと、
第2のアンプユニットから出力された第2の偏向電圧によって、第1の偏向器を通過した荷電粒子ビームの向きを制御する第2の偏向器と、
第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間を設定する設定部と、
設定部により複数の評価用時間が第1の遅延時間の代わりに設定された際、設定された評価用時間毎に、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、第2の偏向器により向きが制御された荷電粒子ビームのビーム電流を測定する測定部と、
設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する演算部と、
を備え、
設定部は、さらに、複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関結果から得られる、積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間よりも短くなるように第1の遅延時間を設定することを特徴とする。
【0013】
かかる構成により、積分電流が一定の状態となる第1の遅延時間を得ることができる。そして、かかる時間を第1の遅延時間として設定することで偏向器間のタイミングを合わせることができる。
【0014】
また、設定部は、変化開始時間により近くなるように第1の遅延時間を設定すると好適である。
【0015】
本発明の一態様の偏向器間のタイミング調整方法は、
通過する荷電粒子ビームの向きを第1の偏向電圧によってビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器に第1の偏向電圧を出力する第1のアンプユニットが第n番目のビームONの状態を生成することを示すためのタイミング信号を発した時から第1のアンプユニットから出力される第1の偏向電圧が第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わるまでの第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間を設定する工程と、
設定された評価用時間毎に、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とを所定の回数交互に繰り返す工程と、
設定された評価用時間毎に、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、第1のアンプユニットがタイミング信号を受けた時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧に向けて第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットから出力される第2の偏向電圧が印加される第2の偏向器により第1の偏向器を通過した荷電粒子ビームの向きを制御する工程と、
設定された評価用時間毎に、前記第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する工程と、
複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関結果から得られる、積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間よりも短くなるように第1の遅延時間を設定する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明の他の態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向電圧を出力し、第1の偏向電圧が第n番目のビームONの状態を生成することを示すためのタイミング信号を発した時から第1の遅延時間後に第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わる第1のアンプユニットと、
第1のアンプユニットから出力された第1の偏向電圧によって、通過する荷電粒子ビームの向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器と、
第1の偏向器を通過した荷電粒子ビームの向きを制御するための第2の偏向電圧を出力し、第1のアンプユニットがタイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧に向けて第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットと、
第2のアンプユニットから出力された第2の偏向電圧によって、第1の偏向器を通過した荷電粒子ビームの向きを制御する第2の偏向器と、
第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間を使って評価用時間毎に、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中測定された、第2の偏向器により向きが制御された荷電粒子ビームのビーム電流の積分電流と複数の評価用時間との相関関係を記憶する記憶部と、
複数の評価用時間のうち相関関係によって積分電流が一定の状態に示される範囲内の値に第1のアンプユニットの第1の遅延時間が予め設定された状態で、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、第2の偏向器により向きが制御された荷電粒子ビームのビーム電流を測定する測定部と、
測定されたビーム電流についての積分電流を演算する演算部と、
記憶部に記憶された相関関係を参照し、演算された積分電流が、相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値と比べて閾値よりずれているかどうかを判定する判定部と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
相関関係によって積分電流が一定の状態に示される範囲内の値に第1のアンプユニットの第1の遅延時間が予め設定されれば、アンプユニットが正常であれば一定の状態に示される積分電流の値と同じ或いは閾値以内に収まるはずである。よって、演算された積分電流が、相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値と比べて閾値よりずれていればアンプの故障であると判定できる。
【0018】
本発明の一態様の偏向アンプの故障検出方法は、
通過する荷電粒子ビームの向きを第1の偏向電圧によってビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器に第1の偏向電圧を出力する第1のアンプユニットが第n番目のビームONの状態を生成することを示すためのタイミング信号を発した時から第1のアンプユニットから出力される第1の偏向電圧が第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わるまでの第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間と、複数の評価用時間を使って評価用時間毎に、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中測定された、第1のアンプユニットがタイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧に向けて第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットから出力される第2の偏向電圧が印加される第2の偏向器により向きが制御された荷電粒子ビームのビーム電流の積分電流との相関関係を記憶装置に記憶する工程と、
複数の評価用時間のうち相関関係によって積分電流が一定の状態に示される範囲内の値に第1のアンプユニットの第1の遅延時間が予め設定された状態で、第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、第2の偏向器により向きが制御された荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
測定されたビーム電流についての積分電流を演算する工程と、
前記記憶装置に記憶された相関関係を参照し、演算された積分電流が、相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値と比べて閾値よりずれているかどうかを判定し、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、複数の偏向器間のタイミング調整を短時間に行なうことができる。また、本発明の他の態様によれば、より簡易な手法によって偏向アンプの故障を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における第1の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。
【図3】実施の形態1における第2の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。
【図4】実施の形態1における複数の偏向器間のタイミングが一応合っている場合の状態を説明するための図である。
【図5】実施の形態1における複数の偏向器間のタイミングが合っていない場合の状態の一例を説明するための図である。
【図6】実施の形態1における複数の偏向器間のタイミングは一応合っているが望ましくない場合の状態の一例を説明するための図である。
【図7】実施の形態1における偏向器間のタイミング調整方法の要部を示すフローチャートである。
【図8】実施の形態1におけるブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための一例を示す概念図である。
【図9】実施の形態1におけるブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための他の一例を示す概念図である。
【図10】実施の形態1における複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係の一例を示すグラフである。
【図11】実施の形態1におけるブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための一例を示す概念図である。
【図12】実施の形態1におけるブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための他の一例を示す概念図である。
【図13】実施の形態2における偏向アンプの故障検出方法の要部を示すフローチャートである。
【図14】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0022】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器(ブランカー)212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象となるマスク等の試料が配置されることになるが、ここでは図示を省略している。XYステージ105上には、試料が配置される位置とは異なる位置にファラデーカップ216が配置される。
【0023】
ブランキング偏向器212は、例えば、2極或いは4極等の複数の電極によって構成される。偏向器205、主偏向器208及び副偏向器209は、例えば、4極或いは8極等の複数の電極によって構成される。ここでは、偏向器毎に1つのDACアンプユニットしか記載していないが、各電極にそれぞれ少なくとも1つのDACアンプユニットが接続される。
【0024】
制御部160は、制御計算機110、偏向制御回路120、DAC(デジタル・アナログコンバータ)アンプユニット132,134,136(偏向アンプ)、検出器140、メモリ142、磁気ディスク装置等の記憶装置144、及び外部と接続するための外部インターフェース(I/F)回路146を有している。制御計算機110、偏向制御回路120、検出器140、メモリ142、記憶装置144、及び外部I/F回路146は、図示しないバスを介して互いに接続されている。また、偏向制御回路120、DACアンプユニット132,134,136は、図示しないバスを介して互いに接続されている。DACアンプユニット132は、ブランキング偏向器212に接続される。また、DACアンプユニット134は、偏向器205に接続される。また、DACアンプユニット136は、副偏向器209に接続される。偏向制御回路120から各DACアンプユニットに対して、それぞれ独立した制御用のデジタル信号が出力される。そして、各DACアンプユニットでは、それぞれのデジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させて偏向電圧として、接続された偏向器に出力される。このようにして、各偏向器には、接続されるDACアンプユニットから偏向電圧が印加される。かかる偏向電圧によって電子ビームが偏向させられる。そして、検出器140は、ファラデーカップ216に接続される。
【0025】
また、制御計算機110内には、データ処理部112、設定部114、演算部116、及び判定部118といった各機能が配置される。データ処理部112、設定部114、演算部116、及び判定部118といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されてもよいし、ハードウェアで構成されてもよい。或いは、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせで構成されてもよい。或いは、ファームウェアとハードウェアの組み合わせで構成されてもよい。データ処理部112、設定部114、演算部116、及び判定部118といった各機能が、ソフトウェア、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせ、或いは、ファームウェアとハードウェアの組み合わせで構成される場合、制御計算機110に入力される入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ142に記憶される。ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、主偏向器208に電圧を印加するDACアンプユニットや、各レンズを制御する制御回路等は省略されている。また、ここでは、位置偏向に、主副2段の多段偏向を用いるが、これに限るものではなく、1段の偏向器によって位置偏向を行なう場合であってもよい。
【0026】
図2は、実施の形態1における第1の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。
図3は、実施の形態1における第2の成形アパーチャの開口部の一例を示す概念図である。
図2において、第1の成形アパーチャ203には、矩形、例えば正方形或いは長方形の開口部10が形成されている。図3において、第2の成形アパーチャ206には、長方形の1辺と6角形の1辺とを無くしてつなげた成形開口20が形成されている。成形開口20は、例えば、45度の整数倍の角度を頂点とした図形に形成されている。
【0027】
そして、描画装置100は、以下のように動作して描画する。電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮へいされるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。かかるビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する偏向電圧(第1の偏向電圧)は、DACアンプユニット132(第1のアンプユニット)から出力される。そして、ブランキング偏向器212は、DACアンプユニット132から出力された偏向電圧によって、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する。例えば、ビームONの状態では電圧を印加せず、ビームOFFの際にブランキング偏向器212に電圧を印加すればよい。
【0028】
以上のようにブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。DACアンプユニット134(第2のアンプユニットの一例)から第1の成形アパーチャ203を通過した電子ビーム200の向きを制御するための偏向電圧(第2の偏向電圧の一例)が出力される。DACアンプユニット134から出力された偏向電圧が印加された偏向器205によって、かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208及び副偏向器209によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料の所望する位置に照射される。DACアンプユニット136(第2のアンプユニットの他の一例)から第2の成形アパーチャ206を通過した電子ビーム200の照射位置を制御するための偏向電圧(第2の偏向電圧の他の一例)が出力される。DACアンプユニット136から出力された偏向電圧は副偏向器209に印加され、試料の所望する位置に照射される。各ショットについて同様に制御される。
【0029】
ここで、試料を描画する際には、試料の描画領域は主偏向器208で偏向可能な幅で短冊状に仮想分割され、分割された短冊状の各領域が単位描画領域となる。しかし、各ショットのビームサイズはかかる単位描画領域に比べてはるかに小さいため、さらに、主偏向器208で偏向可能なサイズよりもはるかに小さい副偏向器209で偏向可能なサイズの複数の小領域(サブフィールド:SF)に仮想分割される。そして、SF毎に照射が行なわれる。言い換えれば、主偏向器208で1つのSFの基準位置に照射位置が合うように偏向され、副偏向器209でかかるSF内の所望する位置にビームが照射されるように偏向する。描画の際はXYステージ105が移動するため、主偏向器208はXYステージ105の移動に追従しながらSFの基準位置に偏向すればよい。
【0030】
以上のように、描画装置100は、ショットの生成のためのブランキング制御と、ビーム成形制御と、照射位置制御とを異なる偏向器が行なっているため、これら複数の偏向器間の同期をとるようにタイミング調整が必要となる。まず、以下に、複数の偏向器間のタイミングが合っている場合とずれている場合について説明する。
【0031】
図4は、実施の形態1における複数の偏向器間のタイミングが一応合っている場合の状態を説明するための図である。横軸は時間を示している。DACアンプユニット134及び136には、DACアンプユニット132から各ショットを制御するためのタイミング信号となるDACSET信号が出力される。n番目のショットのためのDACSET信号は、n−1番目のショットのビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わる前にDACアンプユニット132から発行される。そして、n−1番目のショットがビームOFFの電圧に切り替わったらn番目のショットのためのセトリングを開始し、セトリング時間Ts後にn番目のショットのためにビームOFFの電圧からビームONの電圧に切り替わる。ここで、n−1番目のショットがビームOFFの電圧に切り替わる時点Aからどれだけ前にn番目のショットのためのDACSET信号をDACアンプユニット134並びに136に出力するかは任意に設定することが可能である。言い換えれば、第n番目のビームONの状態を生成するためのブランキング用DACSET信号を受けてから第n−1番目のビームONの電圧から位置Aで示すビームOFFの電圧に切り替わるまでの遅延時間t1(第1の遅延時間)(DACディレイタイムとも言う。)は任意に設定することができる。
【0032】
また、n番目のショットのための成形用DACSET信号は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発行した時から時間t2だけ遅れてDACアンプユニット134に入力される。時間t2は、ケーブルの引き回し方や配置位置等、装置のハードウェア構成等から避けられないタイムラグとなる。そして、DACアンプユニット134は、n番目の成形用DACSET信号を受けてから所定の遅延時間後に第n−1番目のショットのビーム成形用の電圧から第n番目のショットのビーム成形用の電圧に向けて偏向電圧(第2の偏向電圧の一例)の電圧変化を開始する。言い換えれば、DACアンプユニット134は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発した時から遅延時間(t3)(第2の遅延時間の一例)後に第n−1番目のビームONの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧から第n番目のビームONの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧に向けて成形用の偏向電圧の電圧変化を開始する。そして、第n番目のショットのビーム成形用の電圧に到達した後に第n番目のショットのビームONの状態になれば所望のビーム成形を行なうことができる。
【0033】
同様に、n番目のショットのための照射位置用DACSET信号は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発行した時から時間T2だけ遅れてDACアンプユニット136に入力される。時間T2も、ケーブルの引き回し方や配置位置等、装置のハードウェア構成等から避けられないタイムラグとなる。そして、DACアンプユニット136は、n番目の照射位置用DACSET信号を受けてから所定の遅延時間後に第n−1番目のショットの照射位置用の電圧から第n番目のショットの照射位置用の電圧に向けて偏向電圧(第2の偏向電圧の他の一例)の電圧変化を開始する。言い換えれば、DACアンプユニット136は、DACアンプユニット132がDACSET信号を発した時から遅延時間(T3)(第2の遅延時間の他の一例)後に第n−1番目のビームONの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧から第n番目のビームONの状態の電子ビーム200の向きを制御する電圧に向けて照射位置用の偏向電圧の電圧変化を開始する。そして、第n番目のショットの照射位置用の電圧に到達した後に第n番目のショットのビームONの状態になれば所望の照射位置にビームを照射することができる。
【0034】
例えば、図4において、ビームOFFの状態の間にビーム成形用の電圧変化の開始点Pから到達点Qまでの電圧変化が済めば、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像30は、第2の成形アパーチャ206の成形開口20と一部が重なる所望の位置に偏向位置が制御された状態でビームONの状態を迎えることができる。その結果、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過するので試料面上で一定の照射量を得ることができる。その結果、所望の寸法のショットパターン32が描画される。図4の例では、第n−1番目のショットのビームONの状態からOFFになった後に第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するので、第n−1番目のショットのビームONの状態ではまだ第n−1番目のショットのビーム成形用に到達済みの一定電圧のままである。よって、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過でき、所望の寸法のショットパターン32が描画される。
【0035】
ここで、第n−1番目のショットと第n番目のショットの間のビームOFFの状態となるセトリング時間Tsはできるだけ短い方が複数のショットで描画する場合の描画時間を短縮できるので好適である。しかし、ビーム成形用の電圧変化の到達点Qになる前に第n番目のショットのビームONの状態になってしまうと偏向器205の電圧変化中に第1の成形アパーチャ203を電子ビーム200が通過してしまうので第n番目のショットについて安定した照射量を得ることができない。そのため、セトリング時間Tsは到達点Qになった後に第n番目のショットのビームONの状態になるように設定する必要がある。逆に、まだ第n−1番目のショットのビームONの状態の最中にビーム成形用の電圧変化の開始点Pがくるように設定してしまうと後述するようにビーム成形中に偏向器205の電圧が変化してしまうので第n−1番目のショットについて安定した照射量を得ることができない。よって、時間Tsをできるだけ短くするためには、第n−1番目のショットのビームONの状態がビームOFFになった時点A或いはその直後に第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整することがより好適となる。かかる調整は、遅延時間(t3)が固定値(一定値)なので、遅延時間t1の調整によって達成できる。
【0036】
図5は、実施の形態1における複数の偏向器間のタイミングが合っていない場合の状態の一例を説明するための図である。横軸は時間を示している。図5では、遅延時間t1を長くしすぎた場合を示している。図5の例では、遅延時間t1が長すぎたため、まだ第n−1番目のショットのビームONの状態でビーム成形用の電圧変化の開始点Pが来てしまう。その結果、第n−1番目のショットでのビーム成形中に電圧変化が生じ、第1のアパーチャ像40と成形開口20との重なり位置がずれてしまう。すなわち、例えば、偏向位置が第1のアパーチャ像40a〜40dで示すように移動してしまう。その結果、成形開口20を通過した電子ビームのショットパターンもショットパターン42a〜42dで示すように変化してしまう。そのため、所望する照射量が得られず、ショットパターンの寸法に誤差が生じてしまう。
【0037】
図6は、実施の形態1における複数の偏向器間のタイミングは一応合っているが望ましくない場合の状態の一例を説明するための図である。横軸は時間を示している。図6では、遅延時間t1を短くしすぎた場合を示している。図6の例では、遅延時間t1を短くしすぎたため、第n−1番目のショットがビームOFFになった時点Aからかなり遅れて第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置してしまう。上述したように、セトリング時間Tsは到達点Qになった後に第n番目のショットのビームONの状態になるように設定する必要があるので、これではセトリング時間Tsが必要以上に長くなってしまう。
【0038】
そこで、実施の形態1では、偏向器間のタイミングを合わせながら、さらにセトリング時間Tsができるだけ短くなるように調整する。すなわち、第n−1番目のショットのビームON状態がビームOFFになった時点A或いはその直後に第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整する。
【0039】
図7は、実施の形態1における偏向器間のタイミング調整方法の要部を示すフローチャートである。図7において、偏向器間のタイミング調整方法は、ショットデータ作成工程(S102)と、評価用時間設定工程(S104)と、動作パターン実行工程(S106)と、ビーム電流測定工程(S108)と、積分電流演算工程(S112)と、遅延時間t1判定工程(S114)と、相関関係取得工程(S116)と、遅延時間t1選択工程(S118)と、遅延時間t1設定工程(S120)という一連の工程を実施する。また、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングを合わせる場合には、動作パターン実行工程(S106)は、内部工程として、ブランキング制御工程(S10)と成形偏向工程(S20)を所定のショット回数だけ実施する。また、ブランキング偏向器212と照射位置用の副偏向器209間のタイミングを合わせる場合には、動作パターン実行工程(S106)は、内部工程として、ブランキング制御工程(S10)と照射位置偏向工程(S22)を所定のショット回数だけ実施する。
【0040】
図8は、実施の形態1におけるブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための一例を示す概念図である。図8の例では、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングが最適値ではないが一応合っている例を示している。ここでは、動作パターンとして、例えば、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向され、第2n−1番目(奇数回数番目)のショットでは、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮へいされる位置に偏向されるようにする。偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置とは逆であってもよい。ここでは、偶数回数番目のショットでは、四角形のショット形状を形成し、そして、奇数回数番目のショットでは、ビーム遮断される例を示している。ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向されるような動作パターンとする。まず、かかる動作パターンのデータを外部I/F回路146を介して記憶装置144に入力し、格納する。或いは、図示しないキーボードやマウス等の入力手段から制御計算機110に入力しても構わない。また、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置にXYステージ105を移動させておく。また、第2の成形アパーチャ206を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216に入射できるように主偏向器208及び副偏向器209の偏向量を調整しておく。
【0041】
ショットデータ作成工程(S102)として、データ処理部112は、記憶装置144から動作パターンのデータを読み出し、描画装置で使用可能なフォーマットのショットデータを生成する。
【0042】
評価用時間設定工程(S104)として、設定部114は、遅延時間t1の代わりとなる複数の評価用時間を設定する。また、所定のセトリング時間Tsも設定しておく。
【0043】
動作パターン実行工程(S106)として、電子銃201から放出された電子ビーム200に対し、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とを所定の回数交互に繰り返す(S10)。そして、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、偏向器205により第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200の向きを制御する(S20)。すなわち、第2n番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、偏向器205により四角形のショット形状を形成する位置に偏向され、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、第2の成形アパーチャ206の遮へい部でビーム遮断される。かかる動作を、設定された評価用時間毎に、ショット回数がそれぞれN回になるまで繰り返す。
【0044】
図8の例では、成形用の偏向電圧の電圧変化となる開始位置P(P’)から到達位置Q(Q’)までがビームOFFの状態中に収まっているので、第2の成形アパーチャ206の成形開口20と一部が重なる所望の位置に偏向位置が制御された状態でビームONの状態を迎えることができる。その結果、例えば、第2n番目のビームON状態で生成されたショットでは、安定した一定の電子ビーム200が成形開口20を通過するのでファラデーカップ216には一定の照射量で入射する。これは、所望の寸法のショットパターン32が描画されたことと同じ状態である。一方、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットでは、完全に電子ビーム200が遮蔽され、ファラデーカップ216にはビームが到達しないので照射量は0となる。これは、照射位置34に何もショットされないことと同じである。
【0045】
図9は、実施の形態1におけるブランキング偏向器と成形偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための他の一例を示す概念図である。図9の例では、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングが合っていない例を示している。図9の例では、成形用の偏向電圧の電圧変化の途中から到達位置Q(Q’)までがビームONの状態中に位置してしまっているので、第2の成形アパーチャ206の成形開口20と一部が重なる所望の位置へと偏向位置が移動中の状態でビームONの状態を迎えることになる。その結果、例えば、第2n番目のビームON状態で生成されたショットでは、不安定な電子ビーム200が成形開口20を通過するのでファラデーカップ216には図8の例とは異なる照射量で入射する。これは、誤差が生じた寸法のショットパターン42が描画されたことと同じ状態である。一方、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットでは、完全に電子ビーム200が遮蔽され、ファラデーカップ216にはビームが到達しないので照射量は0となる。或いは、偏向位置が移動中なので若干の漏れビームがファラデーカップ216に到達する場合もあり得る。そして、照射量が0であれば、照射位置44に何もショットされないことと同じである。
【0046】
以上のようにして、評価用時間を可変にしながら、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212(或いはDACアンプユニット132)によりビームONの状態とビームOFFの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、順に2つの偏向位置に交互に偏向されるように偏向器205(或いはDACアンプユニット134)を制御する。
【0047】
ビーム電流測定工程(S108)として、設定された評価用時間毎に、偏向器205により向きが制御された電子ビーム200のビーム電流を測定する。すなわち、ファラデーカップ216で成形開口20を通過したショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。そして、ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0048】
積分電流演算工程(S112)として、演算部116は、設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。各ショットの時間は、ナノ秒といった単位の非常に短時間であるので、1回のショットの電流値では検出が困難である。そのため、N回のショットの電流値の積分を行なうことで検出可能な電流値を得ることができる。ショット回数Nは、例えば、測定機器の検出下限以上のビーム照射が得られる回数であればよい。例えば、20ms以上であればよい。検出誤差を小さくする上で、より好ましくは数秒から十数秒であるとよい。よって、1つの評価用時間の積分電流を得るまでに数秒から十数秒で済ますことができる。よって、複数の評価用時間の数を例えば100種類としても、数100秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。
【0049】
相関関係取得工程(S116)として、積分電流演算工程(S112)の結果から得られた複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係は、記憶装置144に格納される。
【0050】
ここで、上述した例では、偏向器205で偏向される2箇所の偏向位置の一方が、完全に遮へいされる位置となっているが、これに限るものではない。例えば、他のショット図形の形状になる位置でも構わない。例えば、四角形と三角形とを交互に成形するように繰り返してもよい。すなわち、成形開口20を通過する電子ビームの照射量が異なる2つの位置間に交互に偏向されればよい。
【0051】
図10は、実施の形態1における複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係の一例を示すグラフである。横軸は遅延時間t1(評価用時間)、縦軸は積分電流値である。図10の例では、偏向器205で偏向される2箇所の偏向位置が、成形開口20を通過する電子ビームの照射量が異なる2つの位置で測定された場合の結果の一例を示している。
【0052】
図10において、ビームONの状態になった時点で既に成形用の偏向電圧が一定値に到達するような遅延時間t1(評価用時間)に設定されていれば、得られる積分電流値は同じ値になる。逆に、ビームONの状態で成形用の偏向電圧が電圧変化の途中となる遅延時間t1(評価用時間)に設定されていれば、得られる積分電流値は異なる値となる。よって、同じ値で示される一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内では、ビームONの状態になった時点で成形用の偏向電圧が一定値であることを示す。よって、設定されたセトリング時間Tsにおいて、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングが、一応、合っていることになる。すなわち、図4で示した状態となる。逆に、積分電流が一定の状態から変化を開始した後の傾きが生じている遅延時間t1(評価用時間)の範囲内では、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングが、合っていないことになる。すなわち、図5で示した状態となる。また、図10では、遅延時間t1を長くしていくと積分電流が一定の状態から変化した後また一定に戻っているが、これは、遅延時間t1を長くしすぎて、例えば、n−1番目のショット時にn番目のショット用の成形偏向電圧になっていることを示している。
【0053】
遅延時間t1選択工程(S118)として、設定部114は、記憶装置144から相関関係を読み出し、積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間Rよりも短くなるように遅延時間t1を選択する。これにより、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内で選択できる。その結果、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングを一応合わせることができる。但し、実施の形態1では、セトリング時間Tsをより短くするため、設定部114は、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内のうち、変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を選択する。図10の例では、例えば、250〜253nsecの値を選択する。変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を選択することで、図4に示した第n−1番目のショットのビームONの状態がビームOFFになった時点A或いはその直後に第n番目のショットのビーム成形用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整できる。
【0054】
遅延時間t1設定工程(S120)として、遅延時間t1選択工程(S118)で選択された時間を遅延時間t1として設定する。これにより、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミング合わせを行なうことができる。さらに、変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を設定することで、よりセトリング時間Tsを短くすることができる。その結果、描画時間を短縮することができる。セトリング時間Tsは、到達点Qになった後に第n番目のショットのビームONの状態になるできるだけ短い時間に設定する。
【0055】
図8,9では、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミング合わせを行なう場合を示したが、次に、照射位置用の偏向器、特に、副偏向器209とブランキング偏向器212間のタイミング合わせを行なう場合について説明する。副偏向器209とブランキング偏向器212間のタイミング調整方法は、動作パターン実行工程(S106)内の成形偏向工程(S20)を照射位置偏向工程(S22)に置き換える以外は図7と同様である。
【0056】
図11は、実施の形態1におけるブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための一例を示す概念図である。図11の例では、ブランキング偏向器212と副偏向器209間のタイミングが合っている例を示している。ここでは、動作パターンとして、例えば、第2n−1番目(奇数回数番目)のショットでは、第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216の中心から若干はずれた位置に照射されるように偏向位置を設定する。但し、照射された電子ビーム200の一部がファラデーカップ216で検出可能な位置とする。一方、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216の中心位置に照射されるように偏向位置を設定する。偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置とは逆であってもよい。ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向されるような動作パターンとする。まず、かかる動作パターンのデータを外部I/F回路146を介して記憶装置144に入力し、格納する。或いは、図示しないキーボードやマウス等の入力手段から制御計算機110に入力しても構わない。また、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置にXYステージ105を移動させておくことは言うまでもない。また、主偏向器208は、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置、例えば、ファラデーカップ216の中心に偏向されるように偏向量に設定しておく。また、第1のアパーチャ像が第2の成形アパーチャ206を通過できるように偏向器205の偏向量を調整しておく。より好ましくは、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像全体が第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過できるように偏向器205の偏向量を調整しておくとよい。これにより、偏向器205の偏向タイミングずれの影響を排除できる。
【0057】
ショットデータ作成工程(S102)として、データ処理部112は、記憶装置144から動作パターンのデータを読み出し、描画装置で使用可能なフォーマットのショットデータを生成する。
【0058】
評価用時間設定工程(S104)として、設定部114は、遅延時間t1の代わりとなる複数の評価用時間を設定する。また、所定のセトリング時間Tsも設定しておく。
【0059】
動作パターン実行工程(S106)として、電子銃201から放出された電子ビーム200に対し、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とを所定の回数交互に繰り返す(S10)。そして、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、副偏向器209により第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200の向きを制御する(S22)。すなわち、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、副偏向器209によりファラデーカップ216の中心から若干はずれた位置に偏向され、第2n番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、副偏向器209によりファラデーカップ216の中心位置に偏向される。かかる動作を、設定された評価用時間毎に、ショット回数がそれぞれN回になるまで繰り返す。
【0060】
図11の例では、照射位置用の偏向電圧の電圧変化となる開始位置Pから到達位置QまでがビームOFFの状態中に収まっているので、所望の位置に偏向位置が制御された状態でビームONの状態を迎えることができる。その結果、例えば、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットでは、ショットされたビームの一部の照射量が一定量入射する。一方、第2n番目のビームON状態で生成されたショットでは、ショットされたビームの全照射量が入射する。
【0061】
図12は、実施の形態1におけるブランキング偏向器と副偏向器間のタイミングを合わせる手法について説明するための他の一例を示す概念図である。図12の例では、ブランキング偏向器212と副偏向器209間のタイミングが合っていない例を示している。図12の例では、照射位置用の偏向電圧の電圧変化の開始位置PがビームONの状態中に位置してしまっているので、ファラデーカップ216の中心からはずれた所定の位置からファラデーカップ216の中心へと偏向位置が移動中の状態でビームONの状態を迎えることになる。その結果、例えば、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットでは、ファラデーカップ216に入射される照射量が図11の例とは異なる量で入射する。図12の例では、図11の場合より照射量が増えることになる。
【0062】
以上のようにして、評価用時間を可変にしながら、設定された評価用時間毎に、ブランキング偏向器212(或いはDACアンプユニット132)によりビームONの状態とビームOFFの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、順に2つの偏向位置に交互に偏向されるように副偏向器209(或いはDACアンプユニット136)を制御する。
【0063】
ビーム電流測定工程(S108)として、設定された評価用時間毎に、副偏向器209により向きが制御された電子ビーム200のビーム電流を測定する。すなわち、ファラデーカップ216で各ショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。そして、ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0064】
積分電流演算工程(S112)として、演算部116は、偏向器205のタイミング調整の場合と同様、設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。ショット回数Nは、偏向器205のタイミング調整の場合と同様でよい。よって、複数の評価用時間の数を例えば100種類としても、数100秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。
【0065】
相関関係取得工程(S116)として、積分電流演算工程(S112)の結果から得られた複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関関係は、記憶装置144に格納される。
【0066】
遅延時間t1選択工程(S118)として、設定部114は、記憶装置144から相関関係を読み出し、積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間Rよりも短くなるように遅延時間t1を選択する。これにより、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内で選択できる。その結果、ブランキング偏向器212と副偏向器209間のタイミングを一応合わせることができる。但し、実施の形態1では、セトリング時間Tsをより短くするため、設定部114は、一定の積分電流値を示す遅延時間t1(評価用時間)の範囲内のうち、変化開始時間(図10の例ではRで示す位置)により近くなるように遅延時間t1を選択する。図10の例では、例えば、250〜253nsecの値を選択する。変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を選択することで、図4に示した成形偏向の場合と同様、第n−1番目のショットのビームONの状態がビームOFFになった時点A或いはその直後に第n番目のショットの照射位置用の電圧変化の開始点Pが位置するように調整できる。
【0067】
遅延時間t1設定工程(S120)として、遅延時間t1選択工程(S118)で選択された時間を遅延時間t1として設定する。これにより、ブランキング偏向器212と照射位置用の副偏向器209間のタイミング合わせを行なうことができる。さらに、変化開始時間Rにより近くなるように遅延時間t1を設定することで、よりセトリング時間Tsを短くすることができる。その結果、描画時間を短縮することができる。
【0068】
以上のように構成することで、数分単位でタイミング調整を行なうことができ、従来の数時間以上かかっていた手法と比べて、複数の偏向器間のタイミング調整を短時間に行なうことができる。さらに、従来のような高額な測定機器や評価用のマスク基板等が不要であるため、低コストでタイミング調整を行なうことができる。また、従来のようなオシロスコープでタイミング調整を行なう場合、目視でタイミングを合わせることになるが、実施の形態1によれば、自動的に最適値に合わせることができる。
【0069】
実施の形態2.
実施の形態1では、相関関係を得ることによってその結果から複数の偏向器間のタイミング調整を行なう方法について説明したが、実施の形態2では、得られた相関関係を用いて、DACアンプユニットの故障を検出する方法について説明する。特に、実施の形態2では、実施の形態1等によって、遅延時間t1が最適に設定された描画装置について、設定後に生じたDACアンプユニットの故障を検出する。装置構成は、図1と同様である。その他、特に説明しないことは実施の形態1と同様である。また、実施の形態1で得られた相関関係は、記憶装置144に格納しておく。
【0070】
図13は、実施の形態2における偏向アンプの故障検出方法の要部を示すフローチャートである。図13において、偏向アンプの故障検出方法は、ショットデータ作成工程(S202)と、動作パターン実行工程(S204)と、ビーム電流測定工程(S206)と、積分電流演算工程(S210)と、判定工程(S212)という一連の工程を実施する。また、ブランキング偏向器212と成形偏向器205間のタイミングを合わせる場合には、動作パターン実行工程(S204)は、内部工程として、ブランキング制御工程(S11)と成形偏向工程(S21)を所定のショット回数だけ実施する。また、ブランキング偏向器212と照射位置用の副偏向器209間のタイミングを合わせる場合には、動作パターン実行工程(S204)は、内部工程として、ブランキング制御工程(S11)と照射位置偏向工程(S23)を所定のショット回数だけ実施する。
【0071】
実施の形態2では、まず、実施の形態1等によって、最適化された遅延時間t1を設定しておく。少なくとも実施の形態1で得られた相関関係によって積分電流が一定の状態に示される範囲内の値にDACアンプユニット132の遅延時間t1を予め設定しておく。また、セトリング時間Tsは、到達点Qになった後に第n番目のショットのビームONの状態になるできるだけ短い時間に設定しておく。
【0072】
そして、実施の形態2では、動作パターンとして、図8で説明した場合と同様、例えば、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、第1のアパーチャ像30の一部が第2の成形アパーチャ206の成形開口20のある位置で重なるように偏向され、第2n−1番目(奇数回数番目)のショットでは、第1のアパーチャ像30が第2の成形アパーチャ206で完全に遮へいされる位置に偏向されるようにする。偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置とは逆であってもよい。ここでは、偶数回数番目のショットでは、四角形のショット形状を形成し、そして、奇数回数番目のショットでは、ビーム遮断される例を示している。ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向されるような動作パターンとする。まず、かかる動作パターンのデータを外部I/F回路146を介して記憶装置144に入力し、格納する。或いは、図示しないキーボードやマウス等の入力手段から制御計算機110に入力しても構わない。また、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置にXYステージ105を移動させておく。また、第2の成形アパーチャ206を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216に入射できるように主偏向器208及び副偏向器209の偏向量を調整しておく。
【0073】
ショットデータ作成工程(S202)として、データ処理部112は、記憶装置144から動作パターンのデータを読み出し、描画装置で使用可能なフォーマットのショットデータを生成する。生成されたショットデータは記憶装置144に格納される。
【0074】
動作パターン実行工程(S204)として、電子銃201から放出された電子ビーム200に対し、設定された遅延時間t1で、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とを所定の回数交互に繰り返す(S11)。そして、設定された遅延時間t1で、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、偏向器205により第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200の向きを制御する(S21)。すなわち、第2n番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、偏向器205により四角形のショット形状を形成する位置に偏向され、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、第2の成形アパーチャ206の遮へい部でビーム遮断される。かかる動作を、設定された遅延時間t1で、ショット回数がそれぞれN回になるまで繰り返す。
【0075】
偏向位置は他のショット図形の形状になる位置でも構わない。例えば、四角形と三角形とを交互に成形するように繰り返してもよい。すなわち、成形開口20を通過する電子ビームの照射量が異なる2つの位置間に交互に偏向されればよい。実施の形態2では、記憶装置144に格納された相関関係を得るために用いた動作パターンと同じ動作パターンであればよい。
【0076】
以上のようにして、設定された遅延時間t1で、ブランキング偏向器212(或いはDACアンプユニット132)によりビームONの状態とビームOFFの状態とをショット回数がN回になるまで交互に繰り返す。そして、第1の成形アパーチャ203を通過したショットに対し、順に2つの偏向位置に交互に偏向されるように偏向器205(或いはDACアンプユニット134)を制御する。
【0077】
ビーム電流測定工程(S206)として、設定された遅延時間t1で、偏向器205により向きが制御された電子ビーム200のビーム電流を測定する。すなわち、ファラデーカップ216で成形開口20を通過したショットの電子ビーム200のビーム電流を測定する。そして、ファラデーカップ216の出力は、検出器140に入力し、検出された各値が制御計算機110に出力される。
【0078】
積分電流演算工程(S210)として、演算部116は、設定された遅延時間t1で測定されたビーム電流についての積分電流を演算する。各ショットの時間は、ナノ秒といった単位の非常に短時間であるので、1回のショットの電流値では検出が困難である。そのため、N回のショットの電流値の積分を行なうことで検出可能な電流値を得ることができる点は実施の形態1で説明した通りである。ショット回数Nは、実施の形態1と同様、例えば、測定機器の検出下限以上のビーム照射が得られる回数であればよい。例えば、20ms以上であればよい。検出誤差を小さくする上で、より好ましくは数秒から十数秒であるとよい。よって、1つの評価用時間の積分電流を得るまでに数秒から十数秒で済ますことができる。よって、複数の評価用時間の数を例えば100種類としても、数100秒から千数百秒、すなわち、数分単位で済ますことができる。実施の形態2では、記憶装置144に記憶された相関関係を得るために用いたショット回数Nと同じ回数とする。
【0079】
判定工程(S212)として、判定部118は、記憶装置144に記憶された相関関係を参照し、演算された積分電流が、相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値と比べて閾値よりずれているかどうかを判定し、結果を出力する。DACアンプユニット132或いはDACアンプユニット134が故障していれば、両者のタイミングがずれ、演算された積分電流が、相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値から外れた値となる。そのため、誤差分を考慮した閾値よりずれていれば、DACアンプユニット132或いはDACアンプユニット134の少なくとも一方の故障を検出することができる。判定部118の結果は、記憶装置144に記憶されると共に、外部I/F回路146を介して外部に出力される。或いは、図示しないモニタ或いはプリンタ等に出力されてもよい。
【0080】
上述した例では、ブランキング偏向器212或いは成形偏向器205の故障検出を行なう場合を示したが、次に、副偏向器209或いはブランキング偏向器212の故障検出を行なう場合について説明する。副偏向器209或いはブランキング偏向器212の故障検出方法は、動作パターン実行工程(S204)内の成形偏向工程(S21)を照射位置偏向工程(S23)に置き換える以外は図13と同様である。
【0081】
動作パターンとして、図11に示した場合と同様、例えば、第2n番目(偶数回数番目)のショットでは、第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216の中心から若干はずれた位置に照射されるように偏向位置を設定する。但し、照射された電子ビーム200の一部がファラデーカップ216で検出可能な位置とする。一方、第2n−1番目(奇数回数番目)のショットでは、第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過した電子ビーム200がファラデーカップ216の中心位置に照射されるように偏向位置を設定する。偶数回数番目の偏向位置と奇数回数番目の偏向位置とは逆であってもよい。ショット毎にかかる2つの位置に繰り返し交互に偏向されるような動作パターンとする。実施の形態2では、記憶装置144に格納された相関関係を得るために用いた動作パターンと同じ動作パターンであればよい。
【0082】
まず、かかる動作パターンのデータを外部I/F回路146を介して記憶装置144に入力し、格納する。或いは、図示しないキーボードやマウス等の入力手段から制御計算機110に入力しても構わない。また、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置にXYステージ105を移動させておくことは言うまでもない。また、主偏向器208は、第2の成形アパーチャ206を通過したショットのビームがファラデーカップ216に入射できる位置、例えば、ファラデーカップ216の中心に偏向されるように偏向量に設定しておく。また、第1のアパーチャ像が第2の成形アパーチャ206を通過できるように偏向器205の偏向量を調整しておく。より好ましくは、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像全体が第2の成形アパーチャ206の成形開口20を通過できるように偏向器205の偏向量を調整しておくとよい。これにより、偏向器205の偏向タイミングずれの影響を排除できる。
【0083】
ショットデータ作成工程(S202)として、データ処理部112は、記憶装置144から動作パターンのデータを読み出し、描画装置で使用可能なフォーマットのショットデータを生成する。
【0084】
動作パターン実行工程(S204)として、電子銃201から放出された電子ビーム200に対し、設定された遅延時間t1で、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とを所定の回数交互に繰り返す(S11)。そして、設定された遅延時間t1で、ブランキング偏向器212によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、副偏向器209により第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200の向きを制御する(S23)。すなわち、第2n番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、副偏向器209によりファラデーカップ216の中心から若干はずれた位置に偏向され、第2n−1番目のビームON状態で生成されたショットのビームは、副偏向器209によりファラデーカップ216の中心位置に偏向される。かかる動作を、設定された遅延時間t1で、ショット回数がそれぞれN回になるまで繰り返す。
【0085】
そして、上述したビーム電流測定工程(S206)と積分電流演算工程(S210)と判定工程(S212)を行なうことで、DACアンプユニット132或いはDACアンプユニット136の少なくとも一方の故障を検出することができる。DACアンプユニット132或いはDACアンプユニット136が故障していれば、両者のタイミングがずれ、演算された積分電流が、相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値から外れた値となる。そのため、誤差分を考慮した閾値よりずれていれば、DACアンプユニット132或いはDACアンプユニット136の少なくとも一方の故障を検出することができる。判定部118の結果は、記憶装置144に記憶されると共に、外部I/F回路146を介して外部に出力される。或いは、図示しないモニタ或いはプリンタ等に出力されてもよい。
【0086】
以上のように、実施の形態2によれば、複数の偏向器(DACアンプユニット)間における遅延時間t1と積分電流の相関関係を予め得ておけば、かかる複数のDACアンプユニットの故障検出を行なうことができる。このように、より簡易な手法によって偏向アンプの故障を検出することができる。
【0087】
かかる動作は、描画開始前、或いは描画後に実行するとよい。或いは、ある描画単位領域の描画と次の描画単位領域の描画の間、すなわち、描画の途中でおこなってもよい。
【0088】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0089】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0090】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置、偏向器間のタイミング調整方法、及び偏向アンプの故障検出方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0091】
10 開口部
20 成形開口
30,40 第1のアパーチャ像
32,42 ショットパターン
34 照射位置
100 描画装置
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 データ処理部
114 設定部
116 演算部
118 判定部
120 偏向制御回路
132,134,136 DACアンプユニット
140 検出器
142 メモリ
144 記憶装置
146 I/F回路
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 第1の成形アパーチャ
204 投影レンズ
205 偏向器
206 第2の成形アパーチャ
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
212 ブランキング偏向器
214 ブランキングアパーチャ
216 ファラデーカップ
330 電子線
340 試料
410 第1のアパーチャ
411 開口
420 第2のアパーチャ
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向電圧を出力し、前記第1の偏向電圧が第n番目のビームONの状態を生成することを示すためのタイミング信号を発した時から第1の遅延時間後に第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わる第1のアンプユニットと、
前記第1のアンプユニットから出力された第1の偏向電圧によって、通過する前記荷電粒子ビームの向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器と、
前記第1の偏向器を通過した前記荷電粒子ビームの向きを制御するための第2の偏向電圧を出力し、前記第1のアンプユニットが前記タイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧に向けて前記第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットと、
前記第2のアンプユニットから出力された第2の偏向電圧によって、前記第1の偏向器を通過した前記荷電粒子ビームの向きを制御する第2の偏向器と、
前記第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間を設定する設定部と、
前記設定部により複数の評価用時間が前記第1の遅延時間の代わりに設定された際、設定された評価用時間毎に、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、前記第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する測定部と、
設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する演算部と、
を備え、
前記設定部は、さらに、前記複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関結果から得られる、前記積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間よりも短くなるように前記第1の遅延時間を設定することを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記変化開始時間により近くなるように前記第1の遅延時間を設定することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
通過する荷電粒子ビームの向きを第1の偏向電圧によってビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器に前記第1の偏向電圧を出力する第1のアンプユニットが第n番目のビームONの状態を生成することを示すためのタイミング信号を発した時から前記第1のアンプユニットから出力される第1の偏向電圧が第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わるまでの第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間を設定する工程と、
設定された評価用時間毎に、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とを所定の回数交互に繰り返す工程と、
設定された評価用時間毎に、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中、前記第1のアンプユニットが前記タイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧に向けて第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットから出力される第2の偏向電圧が印加される第2の偏向器により前記第1の偏向器を通過した荷電粒子ビームの向きを制御する工程と、
設定された評価用時間毎に、前記第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
設定された評価用時間毎に、測定されたビーム電流についての積分電流を演算する工程と、
前記複数の評価用時間と各評価用時間にそれぞれ対応する積分電流との相関結果から得られる、前記積分電流が一定の状態から変化を開始した変化開始時間よりも短くなるように前記第1の遅延時間を設定する工程と、
を備えたことを特徴とする偏向器間のタイミング調整方法。
【請求項4】
荷電粒子ビームを放出する放出部と、
ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向電圧を出力し、前記第1の偏向電圧が第n番目のビームONの状態を生成するためのタイミング信号を発してから第1の遅延時間後に第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わる第1のアンプユニットと、
前記第1のアンプユニットから出力された第1の偏向電圧によって、通過する前記荷電粒子ビームの向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器と、
前記第1の偏向器を通過した前記荷電粒子ビームの向きを制御するための第2の偏向電圧を出力し、前記第1のアンプユニットが前記タイミング信号を発した時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御する電圧に向けて前記第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットと、
前記第2のアンプユニットから出力された第2の偏向電圧によって、前記第1の偏向器を通過した前記荷電粒子ビームの向きを制御する第2の偏向器と、
前記第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間を使って評価用時間毎に、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中測定された、前記第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流の積分電流と前記複数の評価用時間との相関関係を記憶する記憶部と、
前記複数の評価用時間のうち前記相関関係によって積分電流が一定の状態に示される範囲内の値に前記第1のアンプユニットの前記第1の遅延時間が予め設定された状態で、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが前記所定の回数交互に繰り返される間中、前記第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する測定部と、
測定されたビーム電流についての積分電流を演算する演算部と、
前記記憶部に記憶された相関関係を参照し、演算された積分電流が、前記相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値と比べて閾値よりずれているかどうかを判定する判定部と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
通過する荷電粒子ビームの向きを第1の偏向電圧によってビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する第1の偏向器に前記第1の偏向電圧を出力する第1のアンプユニットが第n番目のビームONの状態を生成するためのタイミング信号を発した時から前記第1のアンプユニットから出力される第1の偏向電圧が第n−1番目のビームONの電圧からビームOFFの電圧に切り替わるまでの第1の遅延時間の代わりとなる複数の評価用時間と、前記複数の評価用時間を使って評価用時間毎に、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが所定の回数交互に繰り返される間中測定された、前記第1のアンプユニットが前記タイミング信号を受けた時から第2の遅延時間後に第n−1番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧から第n番目のビームONの状態の荷電粒子ビームの向きを制御するための電圧に向けて第2の偏向電圧の電圧変化を開始する第2のアンプユニットから出力される第2の偏向電圧が印加される第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流の積分電流との相関関係を記憶装置に記憶する工程と、
前記複数の評価用時間のうち前記相関関係によって積分電流が一定の状態に示される範囲内の値に前記第1のアンプユニットの前記第1の遅延時間が予め設定された状態で、前記第1の偏向器によりビームONの状態とビームOFFの状態とが前記所定の回数交互に繰り返される間中、前記第2の偏向器により向きが制御された前記荷電粒子ビームのビーム電流を測定する工程と、
測定されたビーム電流についての積分電流を演算する工程と、
前記記憶装置に記憶された相関関係を参照し、演算された積分電流が、前記相関関係によって一定の状態に示される積分電流の値と比べて閾値よりずれているかどうかを判定し、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする偏向アンプの故障検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−40466(P2011−40466A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184473(P2009−184473)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】