説明

荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法

【目的】過剰な照射量を短縮し、描画時間を短縮して装置のスループットを向上させることが可能な装置および方法を提供することを目的とする。
【構成】描画装置100は、試料の描画領域が仮想分割されたメッシュ状の複数の小領域の小領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する選択部56と、小領域毎に、選択された照射量計算式を用いて、当該小領域内にショットする荷電粒子ビームの照射量を演算する照射量演算部70と、小領域毎に、演算された照射量で当該小領域内に所望のパターンを描画する描画部150と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に係り、例えば、電子線描画において電子ビームの照射量を求める手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図11は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式(VSB方式)という。
【0004】
上述した電子ビーム描画では、図形の端部においてビーム照射量がレジストを解像させる照射量の閾値となるように各ショットの照射量を設定している。通常、図形端でのショットの照射エネルギーの最大値の半分程度で閾値に達するように設定される。そして、照射量の計算には、照射位置によらず1つの照射量計算式が用いられる。そのため、複数のショットを繋げて構成される図形を描画する場合、各ショットでは図形の端部であるかどうかにかかわらず、照射エネルギーの最大値の半分程度で閾値に達するように照射量が設定される。
【0005】
一方、昨今のパターンの微細化に伴い、描画装置で描画される描画時間が長くなり、その短縮化が要請されている。しかしながら、パターンを寸法通りに描画するためには、計算された照射量をレジストに入射させる必要があり、従来の手法では、描画時間の短縮にも限界があった。
【0006】
ここで、電子ビーム描画の照射量計算式に関連して、近接効果と呼ばれる現象等を補正するために、照射量の演算に用いる基準照射量Dbaseと、近接効果を補正するための近接効果補正係数ηといった値を位置に依存して変更して照射量を演算するといった手法も存在する(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、かかる手法においても用いる照射量計算式自体は同じであり、式内の変数を調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−150423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来、設定される1つの照射量計算式で各ショットの照射量を計算していた。従来の照射量計算式で求めた入射照射量で照射すると、図形端と描画しない場所を除いた全ての領域で、全照射量はレジストの閾値よりも大きくなる。図形端での全照射量がレジストの閾値となるために、図形端近傍での全照射量をレジストの閾値よりも大きくすることは必要となるが、図形端から十分はなれた領域では全照射量が閾値程度でよい。しかし、従来の方法ではそのことを考慮していなかった。そのため、例えば、複数のショットを繋げて構成される図形を描画する場合等に、かかる手法で、図形端からビームの前方散乱半径よりも十分離れた図形内の領域の入射照射量を求めると、かかる領域の照射量はレジストの閾値よりも大きくなる。照射量が大きければその分照射時間も長くなる。このように、図形やその照射位置によっては過剰な照射量が存在し、その分描画時間が必要以上にかかってしまうといった問題があった。しかし、かかる問題に対して従来十分な手法が確立されていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点を克服し、過剰な照射量を短縮し、描画時間を短縮して装置のスループットを向上させることが可能な装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、
試料の描画領域が仮想分割されたメッシュ状の複数の小領域の小領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する選択部と、
小領域毎に、選択された照射量計算式を用いて、当該小領域内にショットする荷電粒子ビームの照射量を演算する照射量演算部と、
小領域毎に、演算された照射量で当該小領域内に所望のパターンを描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
かかる構成により、図形や位置に応じて照射量計算式を使い分けることができる。そのため、演算される照射量自体を制御できる。
【0012】
また、選択部は、当該小領域のパターン面積密度が100%であり、当該小領域に隣接する複数の小領域のパターン面積密度がいずれも100%である第1の条件と、第1の条件以外の第2の条件とで選択する照射量計算式を変更すると好適である。
【0013】
また、第1の条件で選択される照射量計算式を用いた場合は、第2の条件で選択される照射量計算式を用いた場合よりも演算される照射量が小さくなるように構成すると好適である。
【0014】
また、小領域のメッシュサイズは、荷電粒子ビームの前方散乱の影響半径よりも大きいように構成すると好適である。
【0015】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、
試料の描画領域が仮想分割されたメッシュ状の複数の小領域の小領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する工程と、
小領域毎に、選択された照射量計算式を用いて、当該小領域内にショットする荷電粒子ビームの照射量を演算する工程と、
小領域毎に、演算された照射量の荷電粒子ビームを用いて、当該小領域内に所望のパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、過剰な照射量を抑制し、描画時間を短縮して装置のスループットを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における照射量と従来の照射量とを比較して説明するためのビームプロファイルの一例を示す図である。
【図3】実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図4】実施の形態1におけるフレーム領域の一例を示す概念図である。
【図5】実施の形態1におけるメッシュ領域の一例を示す概念図である。
【図6】実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
【図7】実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【図8】実施の形態2における面積モーメントの算出に関わるメッシュ領域の一例を示す図である。
【図9】実施の形態2における面積モーメントの算出手法を説明するための概念図である。
【図10】実施の形態1におけるメッシュ領域の一例を示す概念図である。
【図11】従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例である。特に、可変成形型(VSB型)の描画装置の一例である。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器(ブランカー)212、ブランキングアパーチャ214、第1の成形アパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2の成形アパーチャ206、対物レンズ207、及び偏向器208が配置されている。描画室103内には、少なくともXY方向に移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象となる試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造するための露光用のマスクやシリコンウェハ等が含まれる。マスクにはマスクブランクスが含まれる。
【0020】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路120、DAC(デジタル・アナログコンバータ)アンプユニット130(偏向アンプ)、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路120、及び記憶装置140は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路120にはDACアンプユニット130が接続されている。DACアンプユニット130は、ブランキング偏向器212に接続されている。
【0021】
偏向制御回路120からDACアンプユニット130に対して、ブランキング制御用のデジタル信号が出力される。そして、DACアンプユニット130では、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、ブランキング偏向器212に印加する。かかる偏向電圧によって電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームが形成される。
【0022】
また、制御計算機110内には、面積密度算出部50、判定部52,54,60,64,66,72、選択部56、d1計算部58、dn計算部62、加算部68、照射量D計算部70、照射時間算出部74、及び描画データ処理部76が配置されている。、面積密度算出部50、判定部52,54,60,64,66,72、選択部56、d1計算部58、dn計算部62、加算部68、照射量D計算部70、照射時間算出部74、及び描画データ処理部76といった各機能は、プログラムといったソフトウェアで構成されても良い。或いは、電子回路等のハードウェアで構成されてもよい。或いは、これらの組み合わせであってもよい。制御計算機110に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ112に記憶される。同様に、偏向制御回路120は、プログラムといったソフトウェアで動作させるコンピュータで構成されても、電子回路等のハードウェアで構成されてもよい。或いは、これらの組み合わせであってもよい。ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。例えば、偏向器205や偏向器208のための各DACアンプユニットも備えていることは言うまでもない。
【0023】
図2は、実施の形態1における照射量と従来の照射量とを比較して説明するためのビームプロファイルの一例を示す図である。図2(b)に示すパターン幅Lの図形パターンを描画する際、図2(a)に示すようにレジストを解像するエネルギーの閾値Ethがパターンの端部に位置するように照射量が設定されている。例えば、照射エネルギーの最大値の50%程度に閾値Ethが設定されている。そのため、照射エネルギーは、図形の端部から内部に向かって上昇し、図形内部では最大値を維持し、反対側の端部で閾値Ethになるように下降する。このように、図形内部では最大値が維持される。そのため、図形パターンが複数のショットをつなげて構成される場合、従来、図2(c)に示すように、図形端部のショット1から反対側の図形端部のショット7まで同じ最大値の照射量Dが入射されていた。しかし、例えば、図形内部のショット3〜5のような位置では、前方散乱の影響による寸法変動が無視できる程度なので、理想的にはショットされるビームのエネルギー最大値がレジスト解像の閾値Ethまであれば十分である。そこで、実施の形態1では、図2(d)に示すように、かかる図形パターンの内部領域における照射量Dを端部側の照射量Dよりも小さくする。かかる構成により照射量が小さくなった分、かかるショットの照射時間を短縮できる。以下、具体的に処理フローを説明する。
【0024】
図3は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図3において、実施の形態1における描画方法は、面積密度算出工程(S102)、判定工程(S106)、判定工程(S110)、選択工程(S112)、d1計算工程(S116)、判定工程(S118)、dn計算工程(S120)、判定工程(S122)、判定工程(S124)、加算工程(S126)、照射量D計算工程(S128)、判定工程(S130)、照射時間計算工程(S132)、及び描画工程(S134)という一連の工程を実施する。
【0025】
まず、描画装置100外部から描画データが入力され、記憶装置140に記憶される。そして、描画装置100内では、描画データ処理部76が、外部から入力され記憶装置140に記憶された描画データを記憶装置140から読み出し、複数段のデータ変換処理を行う。そして、かかる複数段のデータ変換処理により描画装置固有のショットデータを生成する。そして、かかるショットデータに従って描画処理が行なわれることになる。
【0026】
図4は、実施の形態1におけるフレーム領域の一例を示す概念図である。図4に示すように、試料101の描画面は、計算処理単位の描画領域となる複数のフレーム領域20に仮想分割される。そして、複数のフレーム領域内のデータ処理が図示しない複数のCPU等によって並列に進められる。先に描画されるフレーム領域側から順に並列処理が行なわれる。
【0027】
また、試料101の描画面は、所定のサイズでメッシュ状のメッシュ領域(小領域の一例)に仮想分割される。メッシュサイズは、電子ビーム200の前方散乱の影響半径よりも大きいサイズとする。例えば、電子ビーム200の前方散乱分布の3σよりも大きくするとよい。また、メッシュサイズは最小ショットサイズよりも大きいサイズとするとよい。
【0028】
面積密度算出工程(S102)として、面積密度算出部50は、描画データをフレーム領域毎に記憶装置140から読み出して、各メッシュ位置におけるメッシュ領域内のパターン面積密度ρ(i,j)を算出する。ここでの座標(i,j)はフレーム領域毎に設定される。
【0029】
判定工程(S106)として、判定部52は、パターン面積密度ρ(i,j)が100%かどうかを判定する。判定の結果、パターン面積密度ρ(i,j)が100%である場合にはS110へ、パターン面積密度ρ(i,j)が100%でない場合はS112へ進む。
【0030】
判定工程(S110)として、判定部54は、座標(i,j)のメッシュ領域を取り囲む複数のメッシュ領域が共にパターン面積密度ρが100%かどうかを判定する。
【0031】
図5は、実施の形態1におけるメッシュ領域の一例を示す概念図である。図5において、あるフレーム領域20内のメッシュ領域(i,j)を想定する。図5の例では、座標(i,j)のメッシュ領域22と、座標(i,j)のメッシュ領域22に隣接して座標(i,j)のメッシュ領域22を取り囲む座標(i−1,j―1),(i,j―1),(i+1,j―1),(i−1,j),(i+1,j),(i−1,j+1),(i,j+1),(i+1,j+1)の8つのメッシュ領域22とが示されている。ここで、図5の例では、これらの9つのメッシュ領域22が図形パターン30内に位置している。かかる状態では、パターン面積密度ρ(i,j)が100%であり、座標(i,j)のメッシュ領域22を取り囲む8つのメッシュ領域22についてもすべてパターン面積密度ρが100%となる。
【0032】
選択工程(S112)として、選択部56は、メッシュ領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する。ここでは、2つの照射量計算式を用いる。一方の照射量計算式1は次の式(1)で定義される。
【0033】
【数1】

【0034】
ここでは、規格化された照射量D(x)で示している。また、式(1)では、近接効果補正係数ηと分布関数gp(x)と規格化因子βとを用いている。例えば規格化因子β=1/2+ηとなる。また、照射量D(x)は次の式(2)〜(4)によって計算される。
【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
【数4】

【0038】
また、他方の照射量計算式2は次の式(5)で定義される。
【0039】
【数5】

【0040】
例えば規格化因子β=(1/2+η)或いは(α+η)となる。また、式(5)における照射量D(x)は上述した式(2)と次の式(6)〜(7)によって計算される。
【0041】
【数6】

【0042】
【数7】

【0043】
照射量計算式2となる式群(5)〜(7)では、特に、1/2<α≦1の値で各式が定義され、照射量計算式1では1/2とされた値の代わりにかかるα値が用いられることで照射量計算式1,2が区別される。照射量計算式2のd及びd計算では、1/2ではなく、1/2<α≦1のα値が分母の項として用いられる。そのため、照射量計算式1で求められる照射量よりも照射量計算式2で求められる照射量の方が小さくできる。上述したように、前方散乱の影響を無視できる図形内部のショット位置では、理想的には、照射エネルギーの最大値がレジストの解像閾値Ethであればよく、その場合、α=1となる。しかし、最大値が一定になるとは限らないので、αは、従来の1/2より大きく1以下の値に設定すると好適である。αが大きくなればなるほど、照射エネルギーの最大値を小さくできる。よって、余分な照射量を排除できる。
【0044】
以上のように、選択部56は、当該メッシュ領域(i,j)のパターン面積密度ρ(i,j)が100%であり、当該メッシュ領域(i,j)に隣接して取り囲む8つの複数のメッシュ領域のパターン面積密度がいずれも100%である条件(第1の条件)下では、照射量計算式2を選択する。他方、かかる条件以外の条件(第2の条件)では照射量計算式1を選択する。照射量計算式2が選択されるメッシュ領域では照射量計算式1で計算される場合よりも照射量を小さくできる。以上のように、選択部56は、条件により選択する照射量計算式を変更する。以下、照射量を具体的に計算していく。
【0045】
d1計算工程(S116)として、d1計算部58は、選択された照射量計算式が照射量計算式1であれば式(3)を用いて、選択された照射量計算式が照射量計算式2であれば式(6)を用いて、照射量計算の内部計算を行ない、関数d1(i,j)を算出する。
【0046】
判定工程(S118)として、判定部60は、当該フレーム内の全てのメッシュ領域22について関数d1を計算したかどうかを判定する。そして、まだ、未計算のメッシュ領域が残っている場合に、S106に戻り、S106からS118までを繰り返す。当該フレーム内の全てのメッシュ領域22について関数d1を計算済みの場合に、S120に進む。
【0047】
dn計算工程(S120)として、dn計算部62は、選択された照射量計算式が照射量計算式1であれば式(4)を用いて、選択された照射量計算式が照射量計算式2であれば式(7)を用いて、照射量計算の内部計算を行ない、関数dn(i,j)を算出する。既にn=1は計算済みなので、まず、n=2から計算を開始する。
【0048】
判定工程(S122)として、判定部64は、当該フレーム内の全てのメッシュ領域22について関数dnを計算したかどうかを判定する。そして、まだ、未計算のメッシュ領域が残っている場合に、S120に戻り、すべてのメッシュ領域の計算が完了するまでS120を繰り返す。当該フレーム内の全てのメッシュ領域22について関数dnを計算済みの場合に、S124に進む。
【0049】
判定工程(S124)として、判定部66は、n=kであるかどうかを判定する。kは所望の繰り返し数である。kは計算精度に応じて適宜設定すればよい。もしも、k=1であれば、S120とS122と後述するS126は不要となる。もしも、k=2であれば、S126は不要となる。n=kであれば、S128に進み、n=kでなければ、S126に進む。
【0050】
加算工程(S126)として、加算部68は、nに1を加算する。そして、S120に戻る。かかるS120からS126を繰り返すことで、計算精度を向上できる。
【0051】
照射量D計算工程(S128)として、照射量D計算部70は、得られたd1、d2、・・・dkを用いて、式(2)の計算法に沿って照射量D(i,j)を求める。以上により、メッシュ領域位置に依存して照射量計算式を使い分けた照射量D(i,j)が得られる。
【0052】
判定工程(S130)として、判定部72は、当該フレーム内の全てのメッシュ領域22について照射量Dを計算したかどうかを判定する。そして、まだ、未計算のメッシュ領域が残っている場合に、S128に戻り、すべてのメッシュ領域の計算が完了するまでS128を繰り返す。当該フレーム内の全てのメッシュ領域22について照射量Dを計算済みの場合に、S132に進む。
【0053】
以上のようにして、照射量演算部は、メッシュ領域毎に、選択された照射量計算式を用いて、当該メッシュ領域内にショットする電子ビーム200の照射量Dを演算する。d1計算部58、dn計算部62、加算部68、及び照射量D計算部70は、照射量演算部を構成する一例となる。
【0054】
照射時間計算工程(S132)として、照射時間算出部74は、各ショットにおける電子ビーム200の照射時間Tを計算する。照射量Dは、照射時間Tと電流密度Jとの積で定義することができるので、照射時間Tは、照射量Dを電流密度Jで除することで求めることができる。算出された照射時間は偏向制御回路120に出力される。
【0055】
描画工程(S134)として、描画部150は、メッシュ領域22毎に、演算された照射量で当該メッシュ領域内に所望のパターンを描画する。具体的には、以下のように動作する。偏向制御回路120は、ショット毎の照射時間を制御するデジタル信号をDACアンプユニット130に出力する。そして、DACアンプユニット130は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅した上で偏向電圧としてブランキング偏向器212に印加する。
【0056】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際にブランキング偏向器212によって、ビームONの状態では、ブランキングアパーチャ214を通過するように制御され、ビームOFFの状態では、ビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮へいされるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。ブランキング偏向器212は、通過する電子ビーム200の向きを制御して、ビームONの状態とビームOFFの状態とを交互に生成する。例えば、ビームONの状態では電圧を印加せず、ビームOFFの際にブランキング偏向器212に電圧を印加すればよい。かかる各ショットの照射時間Tで試料101に照射される電子ビーム200のショットあたりの照射量が調整されることになる。
【0057】
以上のようにブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1の成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1の成形アパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2の成形アパーチャ206上に投影される。偏向器205によって、かかる第2の成形アパーチャ206上での第1のアパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形を行なう)ことができる。かかる可変成形はショット毎に行なわれ、通常ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形される。そして、第2の成形アパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、偏向器208によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料の所望する位置に照射される。以上のように、各偏向器によって、電子ビーム200の複数のショットが順に基板となる試料101上へと偏向される。
【0058】
上述した各フレーム20内の計算処理が描画処理の進行に合わせてリアルタイムで順に行われる。
【0059】
以上のように実施の形態1によれば、図形や位置に応じて照射量計算式を使い分けることができる。そのため、演算される照射量自体を制御できる。よって、図形内で周囲の面積密度がいずれも100%であり、パターン寸法が前方散乱の影響を受けないような領域において過剰な照射量を抑制できる。その結果、描画時間を短縮して装置のスループットを向上させることができる。
【0060】
実施の形態2.
実施の形態1では、照射量計算式2の選択条件として、当該メッシュ領域(i,j)のパターン面積密度ρ(i,j)が100%であり、当該メッシュ領域(i,j)に隣接して取り囲む8つの複数のメッシュ領域のパターン面積密度がいずれも100%であるという条件(第1の条件)を用いたがこれに限るものではない。実施の形態2では、他の選択条件について説明する。
【0061】
図6は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。図6において、制御計算機110内に面積モーメント算出部78を追加した点以外は図1と同様である。
【0062】
図7は、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。図7において、判定工程(S106)の代わりに判定工程(S108)を追加した点、面積密度算出工程(S102)と判定工程(S108)の間に面積モーメント算出工程(S104)を追加した点、判定工程(S110)の判定内容を変更した点、及び選択工程(S112)で選択される式の内容が変更される点以外は図3と同様である。以下、特に説明する内容以外は実施の形態1と同様である。
【0063】
面積モーメント算出工程(S104)として、面積モーメント算出部78は、各メッシュ領域22の基準位置での面積モーメントを算出する。
【0064】
図8は、実施の形態2における面積モーメントの算出に関わるメッシュ領域の一例を示す図である。図8において、フレーム領域20内の各メッシュ領域22の基準位置を左下の頂点とする。図8の例では、メッシュ領域(i,j)の基準位置となる頂点を取り囲む4つのメッシュ領域22が示されている。すなわち、メッシュ領域(i,j)、メッシュ領域(i−1,j−1)、メッシュ領域(i,j−1)、及びメッシュ領域(i−1,j)の4つのメッシュ領域22である。実施の形態2では、後述するようにメッシュ領域(i,j)の照射量計算式を選択する際に、これら4つのメッシュ領域22を用いる。
【0065】
図9は、実施の形態2における面積モーメントの算出手法を説明するための概念図である。図9において、各メッシュ領域内の図形について、各頂点に図形の面積密度を割り振る。例えば、各メッシュ領域内の図形の面積密度を各メッシュ領域内の図形の重心位置が変わらないように各メッシュ領域の4つの頂点に分配する。例えば、メッシュ領域の中心に面積密度100%の図形の重心が存在すれば、4つの頂点には0.25(25%)ずつ分配されることになる。そして、各メッシュ領域22は隣接するメッシュ領域と頂点を共有するので、各頂点には隣接するメッシュ領域でそれぞれ割り振られた面積密度が存在する。そこで、頂点毎にこれらの面積密度を加算する。メッシュ領域(i,j)の基準位置で加算された面積密度がメッシュ領域(i,j)の面積モーメントm(i,j)となる。
【0066】
判定工程(S108)として、判定部52は、判定部52は、面積モーメントm(i,j)が1かどうかを判定する。判定の結果、面積モーメントm(i,j)が1である場合にはS110へ、面積モーメントm(i,j)が1でない場合はS112へ進む。
【0067】
図10は、実施の形態1におけるメッシュ領域の一例を示す概念図である。図10において、あるフレーム領域20内のメッシュ領域(i,j)を想定する。図10の例では、座標(i,j)のメッシュ領域22と、座標(i,j)のメッシュ領域22に隣接して座標(i,j)のメッシュ領域22の基準位置の頂点を取り囲む座標(i,j),(i−1,j―1),(i,j―1),(i−1,j)の4つのメッシュ領域22とが示されている。ここで、図10の例では、これらの4つのメッシュ領域22がいずれもパターン面積密度ρが100%である場合を示している。かかる場合には、座標(i,j)のメッシュ領域の基準位置となる頂点には、取り囲む各メッシュ領域から面積密度が0.25ずつ分配されているので、面積モーメントm(i,j)=1となる。
【0068】
判定工程(S110)として、判定部54は、座標(i,j)のメッシュ領域の基準位置となる頂点を取り囲む複数のメッシュ領域が共にパターン面積密度ρが100%かどうかを判定する。
【0069】
選択工程(S112)として、選択部56は、メッシュ領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する。ここでは、2つの照射量計算式3,4を用いる。一方の照射量計算式3は上述した式(1)で定義される。但し、関数d1,dnの計算式が異なる。照射量計算式3では、照射量D(x)は、式(8)と式(9)を用いて計算される。いずれも面積密度ρ(x)の代わりに面積モーメントm(x)が用いられる。
【0070】
【数8】

【0071】
【数9】

【0072】
また、他方の照射量計算式4は、上述した式(5)で定義される。但し、ここでも関数d1,dnの計算式が異なる。照射量計算式4では、照射量D(x)は、式(10)と式(11)を用いて計算される。
【0073】
【数10】

【0074】
【数11】

【0075】
照射量計算式4となる式群(5),(10)〜(11)では、特に、1/2<α≦1の値で各式が定義され、照射量計算式3では1/2とされた値の代わりにかかるα値が用いられることで照射量計算式3,4が区別される。照射量計算式4のd及びd計算では、1/2ではなく、1/2<α≦1のα値が分母の項として用いられる。そのため、照射量計算式3で求められる照射量よりも照射量計算式4で求められる照射量の方が小さくできる。上述したように、前方散乱の影響を無視できる図形内部のショット位置では、理想的には、照射エネルギーの最大値がレジストの解像閾値Ethであればよく、その場合、α=1となる。しかし、最大値が一定になるとは限らないので、αは、従来の1/2より大きく1以下の値に設定すると好適である。αが大きくなればなるほど、照射エネルギーの最大値を小さくできる。よって、余分な照射量を排除できる。
【0076】
以上のように、選択部56は、当該メッシュ領域(i,j)の面積モーメントm(i,j)が100%であり、当該メッシュ領域(i,j)の基準位置の頂点に隣接して取り囲む4つの複数のメッシュ領域のパターン面積密度がいずれも100%である条件(第1の条件)下では、照射量計算式4を選択する。他方、かかる条件以外の条件(第2の条件)では照射量計算式3を選択する。照射量計算式4が選択されるメッシュ領域では照射量計算式3で計算される場合よりも照射量を小さくできる。以上のように、選択部56は、条件により選択する照射量計算式を変更する。d1計算工程(S116)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0077】
以上のように、面積モーメントを用いることで、判定材料となるメッシュ領域数を減らすことができる。そして、実施の形態2でも、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0078】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0079】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0080】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置及び方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0081】
50 面積密度算出部
52,54,60,64,66,72 判定部
56 選択部
58 d1計算部
62 dn計算部
68 加算部
70 照射量D計算部
74 照射時間算出部
76 描画データ処理部
78 面積モーメント算出部
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
120 偏向制御回路
130 DACアンプユニット
140 記憶装置
150 描画部
160 制御部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 第1の成形アパーチャ
204 投影レンズ
205 偏向器
206 第2の成形アパーチャ
207 対物レンズ
208 偏向器
212 ブランキング偏向器
214 ブランキングアパーチャ
330 電子線
340 試料
410 第1のアパーチャ
411 開口
420 第2のアパーチャ
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の描画領域が仮想分割されたメッシュ状の複数の小領域の小領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する選択部と、
小領域毎に、選択された照射量計算式を用いて、当該小領域内にショットする荷電粒子ビームの照射量を演算する照射量演算部と、
小領域毎に、演算された照射量で当該小領域内に所望のパターンを描画する描画部と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記選択部は、当該小領域のパターン面積密度が100%であり、当該小領域に隣接する複数の小領域のパターン面積密度がいずれも100%である第1の条件と、前記第1の条件以外の第2の条件とで選択する照射量計算式を変更することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記第1の条件で選択される照射量計算式を用いた場合は、前記第2の条件で選択される照射量計算式を用いた場合よりも演算される照射量が小さくなることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記小領域のメッシュサイズは、荷電粒子ビームの前方散乱の影響半径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
試料の描画領域が仮想分割されたメッシュ状の複数の小領域の小領域毎に、複数の照射量計算式の中から1つを選択する工程と、
小領域毎に、選択された照射量計算式を用いて、当該小領域内にショットする荷電粒子ビームの照射量を演算する工程と、
小領域毎に、演算された照射量の荷電粒子ビームを用いて、当該小領域内に所望のパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−228503(P2011−228503A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97295(P2010−97295)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】