説明

蒸気圧縮装置

【課題】圧縮機のエネルギーを無駄に廃棄することなく、蒸気温度が過度に上昇しない蒸気圧縮装置を提供する。
【解決手段】蒸気圧縮装置1は、吸込流路7から作用空間3に吸い込んだ蒸気を圧縮して吐出する容積式の圧縮機6と、圧縮機6の吐出温度Tdを検出する吐出温度検出手段13と、圧縮機6の吐出温度Tdが圧縮機6の吐出圧力における飽和蒸気温度よりも僅かに高い目標温度になるように流量調節しながら、吸込流路7または作用空間3に液を噴射する液噴射手段9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気圧縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラから蒸気が供給される蒸気プロセスでは、需要設備において低圧の蒸気が排出される。需要設備から排出される蒸気の多くは、大気圧に近く、2次利用が難しい。これらの低圧蒸気の熱をボイラの補給水に回収することが行われているが、なおも大半の蒸気が大気に放出されて、多くのエネルギーを廃棄している。
【0003】
特許文献1には、低圧の蒸気をスクリュ圧縮機で圧縮することにより、ボイラで新たに水を蒸発させるよりも少ないエネルギーで安価に、利用可能な所望の圧力の蒸気に再生する技術が記載されている。
【0004】
スクリュ圧縮機のような容積式圧縮機では、断熱圧縮により蒸気が飽和蒸気温度以上に上昇した過熱蒸気として吐出される。一般に、需要設備で必要とされるのは飽和蒸気であるため、吐出した過熱蒸気を飽和蒸気温度まで冷却する必要があり、熱エネルギーを無駄に廃棄していた。
【0005】
また、スクリュ圧縮機の耐用温度は、250℃程度、高くても300℃程度であり、蒸気の過度の温度上昇によって、ケーシングが変形してスクリュロータのかじり付きなどのトラブルを発生させる場合もあった。
【特許文献1】特公平6−70540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記問題点に鑑みて、本発明は、圧縮機のエネルギーを無駄に廃棄することなく、蒸気温度が過度に上昇しない蒸気圧縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明による蒸気圧縮装置は、吸込流路から作用空間に吸い込んだ蒸気を圧縮して吐出流路に吐出する容積式の圧縮機と、前記圧縮機の吐出温度を検出する吐出温度検出手段と、前記圧縮機の吐出温度が一定になるように流量調節しながら、前記吸込流路または前記作用空間に液を噴射する液噴射手段とを有するものとする。
【0008】
この構成によれば、圧縮機の吸込流路または作用空間に噴射した液が気化することで、蒸発潜熱を消費するので、噴射する液の量を調節して吐出温度を調節できる。また、噴射した液が蒸発することで、蒸気の吐出量を増加させることもできる。これにより、圧縮機の出力するエネルギーを有効利用可能な蒸気のエネルギーに余すことなく変換できる。
【0009】
また、本発明の蒸気圧縮装置は、前記圧縮機の吸込圧力を検出する吸込圧力検出手段と、前記圧縮機の吸込圧力が一定になるように、前記圧縮機の回転数を制御する回転数制御手段とをさらに有してもよい。
【0010】
この構成によれば、圧縮機の回転数制御によって吸込圧力の低下を防止することで、特に大気圧に近い蒸気を吸込する場合にも、圧縮機の吸込圧力が大気圧以下となり、外気を吸い込んだり、圧縮機の軸シールを損傷させることがない。
【0011】
また、本発明の蒸気圧縮装置は、前記圧縮機の吐出圧力を検出する吐出圧力検出手段と、前記圧縮機の吐出圧力が一定になるように、前記圧縮機の回転数を制御する回転数制御手段とをさらに有してもよい。
【0012】
この構成によれば、蒸気圧縮装置自身が吐出圧力を一定にする能力を有するので、圧力が制御されたヘッダ等に蒸気を合流させることなく、蒸気圧縮装置単独で需要設備に所望の圧力の蒸気を供給できる。
【0013】
また、本発明の蒸気圧縮装置において、前記圧縮機の吐出温度は、前記圧縮機の吐出圧力における飽和蒸気温度よりも僅かに高い温度であってもよい。
【0014】
吐出圧力が一定であれば、噴射する液の量を増やしても、圧縮機は吐出圧力の湿り蒸気を吐出するだけであり、吐出温度は吐出圧力における飽和蒸気温度よりも低くならない。このため、圧縮機の吐出温度を吐出圧力における飽和蒸気温度よりも僅かに高い温度にし、僅かに過熱蒸気となる領域で制御することで、制御のマージンを確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧縮機の吐出温度が一定になるように、流量調節しながら、圧縮機の吸込流路または作用空間に液を噴射するので、圧縮機の余剰出力を、噴射した液を蒸発させることに消費し、蒸気の増量によるエネルギー効率の向上と、圧縮機の過熱によるトラブルの防止とを達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態の蒸気圧縮装置1の構成を示す。
【0017】
本実施形態の蒸気圧縮装置1は、ハウジング2の作用空間3内に、モータ4によって駆動される雌雄一対のスクリュロータ5を収容するスクリュ圧縮機6を有する。スクリュ圧縮機6は、作用空間3に吸込流路(吸込配管)7から、低圧蒸気を吸い込んで、スクリュロータ5によって圧縮して昇圧し、吐出流路(吐出配管)8に高圧蒸気を吐出する容積式圧縮機である。吸込流路7には、不図示の蒸気需要設備から排出される低圧の蒸気が供給される。また吐出流路8は、不図示のボイラから需要設備に所定圧力の飽和蒸気を供給するための供給配管に接続され、これによって、内圧が一定に維持されている。
【0018】
また、蒸気圧縮装置1は、吸込流路7の内部に水を噴射する液噴射手段9を有する。液噴射手段9は、流路を制限して水量を制御するための調節弁10と、水を霧状に噴射させるためのスプレーチップ11とを備える。さらに、蒸気圧縮装置1は、吸込流路7に吸込圧力Psを検出するための吸込圧力検出器12を有し、吐出流路8に吐出温度Tdを検出するための吐出温度検出器13を有する。
【0019】
スクリュ圧縮機6は、作用空間3において、吸い込んだ低圧蒸気および液噴射手段9が噴射した水を圧縮することで、蒸気およびに水に熱エネルギーを与える。水は、与えられた熱エネルギーによって気化し、蒸気になる。これらの蒸気は、作用空間3から吐出流路8に吐出される瞬間に、その圧力が吐出流路8の圧力と等しくなる。このとき、スクリュ圧縮機6から与えられた熱エネルギーが多く、全ての水を蒸発し尽くしたならば、蒸気は、吐出圧力における飽和蒸気温度よりも高温の過熱蒸気になる。
【0020】
蒸気圧縮装置1は、吐出温度検出器13が検出したスクリュ圧縮機6の吐出温度Tdと、所定の目標温度との偏差を算出し、液噴射手段9の調節弁10の開度にフィードバックをかける。つまり、吐出温度Tdが目標温度より高ければ、調節弁10の開度を大きくし、噴射する水の量を増やすことで、スクリュ圧縮機6から与えられる熱エネルギーを蒸発潜熱としてより多く消費させる。これにより、スクリュ圧縮機6の吐出温度Tdが低下すると共に、吐出する蒸気の流量が増加する。逆に、吐出温度Tdが目標温度より低ければ、調節弁の開度を小さくし、吐出蒸気量を減じて、水が気化する際に消費する熱エネルギーを小さくすることで、吐出温度Tdを低下させる。
【0021】
このように、蒸気圧縮装置1は、スクリュ圧縮機6の出力する熱エネルギーを全て、目標温度の蒸気のエネルギーに変換して、蒸気供給量を最大化することができる。また、これによって、蒸気温度の過度の上昇によりスクリュ圧縮機6が過熱し、熱膨張によるよってハウジング2が限界を超えて変形し、スクリュロータ5の回転に支障をきたすような不具合も防止できる。
【0022】
ここで、目標温度は、吐出流路8の圧力(スクリュ圧縮機6の吐出圧力)における飽和蒸気温度(ボイラからの蒸気供給温度)よりも僅かに高い温度とする。なぜなら、蒸気は、その圧力における飽和蒸気温度以下にはならず、一部が凝縮(液化)することによって潜熱を放出し、全体を飽和蒸気温度に維持するため、スクリュ圧縮機6の出力エネルギーの不足を検出することができないからである。このため、目標温度は、調節弁10の開度調節による吐出温度の応答性を考慮して、スクリュ圧縮機6の出力エネルギーの不足を確実に検出し、適切な調節弁10の開度制御を可能にできる程度に、例えば5℃、吐出圧力における飽和蒸気温度よりも高く設定するとよい。
【0023】
蒸気圧縮装置1は僅かに高温の過熱蒸気を供給するが、その過熱度は低く、需要設備への配管の熱損失等によるドレン量を減じる程度であって、需要設備において支障をきたすものではないため、冷却装置等を設ける必要はない。
【0024】
また、本実施形態の蒸気圧縮装置1は、吸込圧力検出器12が検出したスクリュ圧縮機6の吸込圧力Psを大気圧以上の所定の目標圧力に維持するように、モータ4の駆動周波数を調節し、スクリュ圧縮機6の回転数を制御する。
【0025】
これは、吸込流路7に供給される蒸気の圧力が大気圧に近い場合、蒸気供給量に比べてスクリュ圧縮機6の吸込力が勝り、吸込流路7および作用室3の吸込側が大気圧より低くなることで、配管の接続部やスクリュロータ5の軸シールのシール性が損なわれ、周囲の空気を吸い込んで蒸気の品質を低下させたり、スクリュロータ5の軸シールの寿命を縮めたりする不具合を防止するためである。
【0026】
尚、液噴射手段9で噴射する水は、ボイラの給水と同様に、スケールの発生を防止するために、ミネラル分の少ない軟水や、蒸気の復水等を使用する必要がある。
【0027】
続いて、図2に、本発明の第2実施形態の蒸気圧縮装置1aを示す。尚、本実施形態の説明において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0028】
本実施形態の蒸気圧縮装置1aは、低圧蒸気の供給量(または供給圧力)が十分大きく、吸込圧力Psが大気圧より小さくなることはない。また、本実施形態の蒸気圧縮装置1aは、ボイラ等からの配管に蒸気を加算するのではなく、自身が単独で需要設備に蒸気を供給するようになっている。
【0029】
具体的には、蒸気圧縮装置1aは、吐出流路8にスクリュ圧縮機6の吐出圧力Pdを検出する吐出圧検出器14を有し、検出した吐出圧力Pdが一定になるように、スクリュ圧縮機6の回転数を制御することで、単独で吐出圧力を目標圧力に維持することができる。
【0030】
また、本実施形態では、液噴射手段9は、吸込流路7ではなく、スクリュ圧縮機6の作用空間3の中に水を噴射するようになっている。
【0031】
本実施形態においても、液噴射手段9から供給された水を気化させて蒸気量を増量することで、エネルギー効率を向上させると共に、過度の温度上昇に起因するトラブルを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上の実施形態では、水蒸気を増量しながら圧縮する蒸気圧縮装置1,1aについて説明したが、本発明は、水蒸気に限らず、例えば天然ガスなどの、他の流体の蒸気を圧縮する装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態の蒸気圧縮装置の構成を示す図。
【図2】本発明の第2実施形態の蒸気圧縮装置の構成を示す図。
【符号の説明】
【0034】
1,1a…蒸気圧縮装置
2…ハウジング
3…作用室
4…モータ
5…スクリュロータ
6…スクリュ圧縮機(容積式圧縮機)
7…吸込流路
8…吐出流路
9…液供給手段
10…調節弁
11…スプレーチップ
12…吸込圧力検出器
13…吐出温度検出器
14…吐出圧力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込流路から作用空間に吸い込んだ蒸気を圧縮して吐出流路に吐出する容積式の圧縮機と、
前記圧縮機の吐出温度を検出する吐出温度検出手段と、
前記圧縮機の吐出温度が一定になるように流量調節しながら、前記吸込流路または前記作用空間に液を噴射する液噴射手段とを有することを特徴とする蒸気圧縮装置。
【請求項2】
前記圧縮機の吸込圧力を検出する吸込圧力検出手段と、
前記圧縮機の吸込圧力が一定になるように、前記圧縮機の回転数を制御する回転数制御手段とをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の蒸気圧縮装置。
【請求項3】
前記圧縮機の吐出圧力を検出する吐出圧力検出手段と、
前記圧縮機の吐出圧力が一定になるように、前記圧縮機の回転数を制御する回転数制御手段とをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の蒸気圧縮装置。
【請求項4】
前記圧縮機の吐出温度は、前記圧縮機の吐出圧力における飽和蒸気温度よりも僅かに高い温度であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蒸気圧縮装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−112259(P2010−112259A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285429(P2008−285429)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】