説明

蒸着マスク、及び蒸着マスクの製造方法

【課題】低硬度の材料層に蒸着マスクを密着させると、硬度差により傷が発生し、完成後の有機EL装置の表示品質を低下させる。このような既形成層に与える損傷を低減する蒸着マスクを提供する。
【解決手段】被蒸着基板に対向する第1表面と蒸着源に対向する第2表面とを有し、被蒸着基板のパターン形成領域に対応する領域である第1の領域に形成された開口部22と、開口部22の周辺領域の第1表面側に形成されたスペーサー35と、を有する蒸着マスクとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスク、及び蒸着マスクの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大画面のFPD(フラットパネルディスプレイ)に用いる表示装置として、有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置が注目されている。有機EL装置は、一般的に陽極と少なくとも有機EL層を含む発光機能層と陰極とを積層してなる有機EL素子を、基板上に規則的に配置して形成されている。
有機EL装置をカラー化する手法としては、白色光を射出する有機EL素子とカラーフィルターとを組み合わせる手法と、赤色光を射出する有機EL素子と緑色光を射出する有機EL素子と青色光を射出する有機EL素子の3種類の有機EL素子を規則的に配置する手法がある。後者の手法では、3種類の有機EL素子毎に異なる材料を含む有機EL層を形成することが必要となる。そのため、上述の基板に、各々の有機EL素子の画素領域に対応する開口部を有するマスクを被せて、該マスク越しに有機EL材料を堆積させるマスク蒸着法(あるいはマスクスパッタ法)が研究されている。
【0003】
ここで、有機EL装置等に用いられる基板の材料はガラスが一般的である。したがって、成膜時の熱膨張によるパターン精度の低下を抑制するためには、マスク(蒸着マスク)の形成材料は熱膨張係数がガラスに近い材料であることが必要となる。そのため、かかる蒸着マスクの形成材料には、シリコン、ガラス、あるいはシリコンとガラスを組み合わせたものが一般的に用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−276480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコン、ガラス等で蒸着マスクを形成した場合問題となるのは、被蒸着基板側に発生する傷である。マスク蒸着法は、蒸着マスクの少なくとも一部を被蒸着基板に密着させる必要があり、該蒸着マスクが高硬度の材料で形成されている場合、該被蒸着基板に傷を発生させ得る。また、被蒸着基板、すなわち有機EL装置の基体となるガラス基板上には有機EL層の形成の前に既に正孔注入層等の硬度が低い有機材料層が形成されていることが一般的である。かかる低硬度の材料層に上述の蒸着マスクを密着させると、硬度差により傷が発生し、完成後の有機EL装置の表示品質を低下させ得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例にかかる蒸着マスクは被蒸着基板に対向する第1表面と蒸着源に対向する第2表面とを有し、上記被蒸着基板のパターン形成領域に対応する領域である第1の領域に形成された開口部と、該開口部の周辺領域の上記第1表面側に形成されたスペーサーと、を有することを特徴とする。
【0008】
このような構成の蒸着マスクであれば、少なくとも上述の有機EL素子が形成される領域においては、被蒸着基板及び該被蒸着基板上に形成されている有機材料層に傷を発生させることを低減できる。したがって、完成後の有機EL装置の表示品質を向上できる。
【0009】
[適用例2]上述の蒸着マスクであって、上記スペーサーは樹脂製であることを特徴とする蒸着マスク。
【0010】
樹脂製のスペーサーであれば、エッチング法を用いずに形成できる。したがって、上述の蒸着マスクを製造コストの増加を抑制しつつ得ることができる。
【0011】
[適用例3]上述の蒸着マスクであって、上記スペーサーは上記周辺領域に形成された凹部内に形成されていることを特徴とする蒸着マスク。
【0012】
このような構成であれば、滴下した樹脂を硬化させて上記スペーサーを形成する場合において、上記スペーサーの高さを自由に設定できる。
【0013】
[適用例4]上述の蒸着マスクであって、上記スペーサーは上記第1表面側に1〜10μm突出していることを特徴とする蒸着マスク。
【0014】
かかる高さのスペーサーであれば、上述の3種類の有機EL素子間の混色を抑制しつつ、被蒸着基板等に対する傷の発生を充分に抑制できる。
【0015】
[適用例5]本適用例にかかる蒸着マスクの製造方法は、基板の、少なくとも将来的に被蒸着基板に対向する第1表面に該基板の形成材料のエッチャントに耐性を有する材料からなるマスク材料層を形成する第1の工程と、上記第1表面の、上記被蒸着基板のパターン形成領域に対応する領域である第1の領域において上記マスク材料層を除去する第2の工程と、上記第1表面の、上記第1の領域以外の領域の内の一部の領域である第2の領域において上記マスク材料層の層厚を薄くする第3の工程と、上記基板をエッチングして上記第1の領域に上記第1表面から該第1表面の反対側の面である第2表面まで貫通する開口部を形成する第4の工程と、上記マスク材料層を上記基板に対して選択的にエッチングして上記第2の領域において上記マスク材料層を除去して上記基板を露出させる第5の工程と、上記第2の領域において上記基板を所定の深さまでエッチングして凹部を形成する第6の工程と、上記マスク材料層を上記基板の全面から除去する第7の工程と、上記凹部に樹脂を滴下する第8の工程と、上記樹脂を硬化させてスペーサーとする第9の工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
このような製造方法であれば、上記スペーサーの第1表面からの高さを任意に設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる蒸着マスクの対象となる有機EL装置の模式断面図。
【図2】画素領域と陰極配線の配置の態様を示す図。
【図3】第1の実施形態にかかる蒸着マスクの概要を示す模式平面図。
【図4】チップを上述の第1表面側から見た状態を示す平面図。
【図5】チップに形成されたスペーサーの断面を示す図。
【図6】第2の実施形態の蒸着マスクが備えるチップの断面を示す図。
【図7】第3の実施形態のチップの形成工程を示す工程断面図。
【図8】第3の実施形態のチップの形成工程を示す工程断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面に従って述べる。蒸着マスクについて述べる前に、該蒸着マスクの対象となるFPDとしての有機EL装置について述べる。尚、各図面における各部材は、各図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせて図示している。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明にかかる蒸着マスクを用いて製造される有機EL装置の模式断面図である。有機EL装置は被蒸着基板である素子基板42の一方の側の面に形成された赤色有機EL素子46Rと緑色有機EL素子46Gと青色有機EL素子46Bとの3種類の有機EL素子46と、該有機EL素子を駆動するTFT(薄膜トランジスター)44等からなる。かかる3原色に対応する有機EL素子46により、カラー画像の表示が可能とされている。なお、本図においては、各有機EL素子46を覆う封止層、接着層、及び対向基板等は図示を省略している。
【0020】
上述のR,G,Bは各有機EL素子46(R,G,B)が射出する光の色を示している。該アルファベットを省略して「有機EL素子46」と記載した場合は総称を意味するものとする。後述する有機EL層56についても同様である。なお、上述の有機EL素子46が形成されている側の面を、以下、「上面」と称する。有機EL素子46とTFT44、及び図示を省略した保持容量等で1つの画素が形成される。各画素が光を射出する領域が画素領域である。
【0021】
有機EL素子46は、素子基板42の上面に順に積層(形成)された画素電極(陽極)52と正孔注入輸送層54と有機EL層56(R,G,B)と電子注入輸送層58と陰極60と、からなる。画素電極52と陰極60との間の通電により、有機EL層56内で光が生じて射出される。かかる(上述の)要素のうち、有機EL層56(R,G,B)のみが3種類の有機EL素子46(R,G,B)毎に夫々異なる材料で形成されており、他の要素は同一の材料からなる。画素電極52はITO(酸化インジウム・すず合金)からなり、島状にパターニングされている。そして、ドレイン電極48を介してTFT44と導通している。隣り合う画素電極52間は隔壁64で区画されている。有機EL層56は、該隔壁で囲まれた凹部内に局所的に形成されており、異なる色に対応する有機EL層56同士が重なり合うことが抑制されている。
【0022】
上述したように、有機EL層56は、各色に対応する光を射出可能な材料により形成される。単独の材料で各色に対応する光を射出することが困難である場合は、ホスト材料に蛍光色素をドーピングして有機EL層56を形成し、蛍光色素からのルミネッセンスを発光色として取り出すこともできる。このようなホスト材料とドーパント材料の組み合わせとしては、例えば、トリス(8−キノリラート)アルミニウムとクマリン誘導体との組み合わせ、アントラセン誘導体とスチリルアミン誘導体との組み合わせ、アントラセン誘導体とナフタセン誘導体との組み合わせ、トリス(8−キノリラート)アルミニウムとジシアノピラン誘導体との組み合わせ、ナフタセン誘導体とジインデノペリレンとの組み合わせなどがある。
【0023】
図1に示す有機EL装置はトップエミッション型であり、有機EL層56内で生じた光は、直接、あるいは反射板50で反射されて、矢印の方向すなわち陰極60側に射出される。したがって、陰極60は少なくとも半透明性を有することが必要とされる。しかし、仕事関数等の観点より、陰極60を上述のITOで形成することは困難である。そのため、陰極60は層厚が数nm〜十数nmのAl(アルミニウム)あるいはMgAg(マグネシウム・銀)合金等で形成されている。かかる薄い層厚の陰極60を用いた場合、陰極60としての面抵抗が増大して表示品質を低下させ得る。そのため、隔壁64の上面には陰極配線62が形成されている。隔壁64の形成領域は光を射出する領域(すなわち画素領域)ではないため、半透明性を要しない。したがって、局所的に厚く上述のAl等を堆積させて陰極配線62を形成し、陰極60としての面抵抗を低減している。
【0024】
図2は、図1に示す有機EL装置において画像が表示される領域である表示領域の一部を拡大して示す図であり、上述の画素領域と陰極配線62の配置の態様を示す図である。図示するように、複数の陰極配線62が互いに平行にX方向に延在している。陰極配線62の間に規則的に配置された矩形の領域が画素領域であり、アルファベットは射出する光の色を示している。画素領域間には上述したように隔壁64(図1参照)が形成されている。有機EL層56は、同色の画素領域間には隔壁64を跨ぐように形成できる。したがって、3原色に対応する3種類の有機EL層56は、陰極配線62と同様にX方向に延在する帯状の領域として形成できる。本発明の蒸着マスクは、かかる帯状の有機EL層56と陰極配線62を、フォトリソグラフィー法によらずに形成するために用いられるものである。
【0025】
具体的には、隔壁64等が形成された素子基板42に、帯状の開口部を有する蒸着マスクを被せ、蒸着源、すなわち加熱源を備えたるつぼから上述の有機EL層56等の形成材料の粒子を飛翔させることにより局所的に材料層(有機EL層56)を形成する。なお、正孔注入輸送層54、及び電子注入輸送層58も該蒸着マスクを用いて形成することもできる。
【0026】
図3は、本実施形態にかかる蒸着マスク10の概要を示す模式平面図である。蒸着マスク10は、棒状の部材を窓枠状に組み合わせてなる支持基板30と、該支持基板にマトリクス状に取り付けられたチップ20とからなる。チップ20は長尺状の開口部22が規則的に形成された平面視で矩形の基板である。そして、各々のチップ20は、アライメントされて支持基板30に陽極接合や紫外線硬化型接着剤などにより接合されている。
【0027】
チップ20は、後述するように開口部22の寸法精度の観点から、単結晶シリコン基板を用いて形成されている。支持基板30は、チップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」及び「撓み」の発生を抑制するために、熱膨張係数がチップ20の構成材料(の熱膨張係数)と同一又は近い材料で形成することが好ましい。したがって、本実施形態において、支持基板30は、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、石英ガラス等で形成されている。
【0028】
チップ20の、支持基板30に対向する側の面が後述する第2表面12(図5参照)であり、該第2表面の反対側の表面が後述する第1表面11(図5参照)である。チップ20、そして蒸着マスク10は、上述の蒸着時に該第1表面が素子基板42に対向するように配置される。後述するスペーサー35(図5参照)も、該第1表面に形成されている。
【0029】
図4は、チップ20を上述の第1表面11側から見た状態を示す平面図である。図示するように、チップ20は、規則的に形成された複数の開口部22と凹部32内に形成されたスペーサー35とを有している。開口部22は平面視で長尺状すなわち短軸と長軸とを有する矩形であり、該短軸方向に所定の間隔を持って1列に形成されている。そして、凹部32は、該列の長軸方向の両側に形成されている。開口部22が形成されている領域が後述する第1の領域15(図7参照)であり、凹部32が形成されている領域が後述する第2の領域16(図8参照)である。
【0030】
各開口部22は、同一色に対応する複数個の画素領域(図2参照)を含む大きさを有している。そして、該開口部の長軸方向の寸法d2はチップ20の該方向の寸法d1の1/2であり、該開口部の短軸方向の寸法d22は上述の所定の間隔の寸法d21の1/2である。該チップを備える蒸着マスク10を、長軸方向に1回目の蒸着を終えた後、長軸方向にd2の距離を移動させて2回目の蒸着工程を実施することで、上記長軸方向の寸法が蒸着マスク10の該寸法と略等しい長尺状の有機EL層56(図1参照)を形成できる。そして、かかる2回で一組の蒸着工程を、蒸着マスク10を短軸方向にd22の距離を移動させ、かつ、該移動毎に蒸着源を変更しつつ3回実施することで、大面積の素子基板42(図1参照)の略全域に、3原色に対応する3種類の有機EL層56を形成できる。
【0031】
有機EL層56の形成にはかかる計6回の蒸着工程が必要であり、さらに陰極配線62(図1参照)の形成時等にも蒸着工程が実施される。そしてかかる蒸着工程毎に、蒸着マスク10が素子基板42の上面に密着するように重ねられる。スペーサー35は、かかる蒸着工程時において既形成層、すなわち既に形成されている正孔注入輸送層54等に対する接触ダメージを低減できる。
【0032】
図5は、図4のA−A’線における断面図であり、開口部22の短軸方向の断面とチップ20に形成されたスペーサー35の断面を示す図である。図示するように、チップ20は外縁部25と該外縁部で挟まれた基板厚が薄い領域とを有している。開口部22は該基板厚が薄い領域に形成されている。かかる領域は、開口部22の形成時に、チップ20の基となる単結晶シリコン基板7(図7参照)を第2表面12側からエッチングして形成される。
【0033】
第1表面11側には凹部32が形成され、スペーサー35は上述したように該凹部内に形成されている。凹部32は、スペーサー35の高さ、すなわち第1表面11から突出する高さを調整するために形成されている。スペーサー35は樹脂製である。後述するように、硬化前の液状の樹脂をディスペンサー33(図8参照)より滴下(吐出)した後、紫外線あるいは熱等により硬化させて形成されている。ディスペンサー33の滴下量は下限が定まっており、一定値以下の量の滴下はできない。そして滴下後の(硬化前の液状の)樹脂は表面張力により盛り上がり、その形状を保ちつつ硬化される。したがって、スペーサー35の高さは下限が存在する。
【0034】
本実施形態のスペーサー35は、滴下された面からの高さが最低で50μmであり、それ以下の高さには形成できない。一方、スペーサー35の好ましい高さは1〜10μmであり、本実施形態においては10μmである。そこで、将来的にスペーサー35が形成される領域を含む帯状の領域を略40μmの深さまでエッチングして凹部32とし、該凹部内において上述の滴下を行うことで、該凹部形成領域以外の領域の第1表面11からの高さが略10μmのスペーサー35を形成している。
【0035】
10μmよりも低いスペーサー35が必要とされる場合は、凹部32の深さをより大きくすること、つまり40μm以上の深さにすることで調整できる。また、上述の(スペーサー35の)高さの下限が50μmを超える場合も同様にして調整できる。スペーサー35の平面視での直径は略100μmであるため、凹部32の幅(開口部22の長軸方向の寸法)は200〜300μmが好ましい。
【0036】
本実施形態の蒸着マスク10は、被蒸着基板である素子基板42に対向する面にスペーサー35を備えることで、上述の既形成層に対する接触ダメージを低減して、完成後の有機EL装置の表示品質を向上させることができる。すなわち、スペーサー35により蒸着マスク10の全面が素子基板42に密着することが回避されているため、従来の蒸着マスクと同様の使用方法において上述のダメージを低減できる。また、上述したように本実施形態にかかるスペーサー35は球面形状を有しているため、被蒸着基板である素子基板42に点接触するような形となり、上述のダメージがより一層低減される。
【0037】
(第2の実施形態)
図6は、第2の実施形態の蒸着マスク10が備えるチップ20の断面を示す図であり、上述の第1の実施形態における図5に相当する図である。図示するように、本実施形態のチップ20は(第1の実施形態のチップ20と同様に)第1表面11側にスペーサー35が形成されており、第2表面12側には外縁部25が形成されている。
【0038】
第1の実施形態のチップ20と異なる点は、凹部32を有せず、スペーサー35が後述する単結晶シリコン基板7(図7参照)の基板面に直接形成されていることである。したがって、凹部32の形成工程を省略でき、チップ20及び蒸着マスク10の製造コストを低減できる。
【0039】
凹部32を有しないため、スペーサー35の高さを50μm以下にはできず、使用可能な工程には制限がある。しかし、形成する材料層のパターンが粗い場合は被蒸着基板とチップ20との間隔を50μm以上に設定できる場合もある。かかる場合においては、有効に使用でき、上述の第1の実施形態の蒸着マスク10と同様に既形成層に対するダメージを低減できる。したがって、製造コストの増加をより一層抑制しつつ、有機EL装置の表示品質の低下を抑制できる。
【0040】
(第3の実施形態)
続いて、第3の実施形態として蒸着マスク10が備えるチップ20の形成工程を示す。図7及び図8は、第3の実施形態のチップ20の形成工程を示す工程断面図である。以下、工程順に説明する。
【0041】
まず、図7(a)に示すように、第1の工程として、基板としての単結晶シリコン基板7を加熱して、該単結晶シリコン基板の表面に酸化シリコン膜6を形成する。酸化シリコンは単結晶シリコン材料のエッチャントとしての水酸化カリウム水溶液に対して耐性を有するため、開口部22の形成時にマスク材料として機能する。なお、酸化シリコン膜6の形成には、熱酸化以外にCVD法等を用いることもできる。
【0042】
次に、図7(b)に示すように、第2の工程として、酸化シリコン膜6をパターニングする。かかるパターニングは、第1表面11側において、将来的に開口部22(図5参照)が形成される領域すなわち有機EL層56(図1参照)の形成パターンに対応する領域において該酸化シリコン膜を除去するように行う。かかる領域、すなわち将来的に開口部22が形成される領域が第1の領域15である。同時に、第2表面12側においても酸化シリコン膜6をパターニングして、将来的に外縁部25(図5参照)となる領域以外の領域において単結晶シリコン基板7を露出させる。
【0043】
次に、図7(c)に示すように、単結晶シリコン基板7の全面(すなわち第1表面11側と第2表面12側の双方の面)にフォトレジスト層17を形成した後、露光現像処理を行い、第1表面11側における将来的に凹部32が形成される領域の該フォトレジスト層を除去する。なお、上述の将来的に凹部32が形成される領域が第2の領域16である。
【0044】
次に、図7(d)に示すように、第3の工程として、フォトレジスト層17で覆われていない領域、すなわち第2の領域16の酸化シリコン膜6を所定の深さまでエッチングする。そして、該エッチング後に、フォトレジスト層17を除去する。上記エッチングは、フッ酸を含むエッチング液で行う。かかるエッチング液であれば、酸化シリコン膜6を単結晶シリコン基板7に対して選択的にエッチングできる。
【0045】
ここで「所定の深さまでのエッチング」とは、酸化シリコン膜6を、元の酸化シリコン膜6の膜厚よりは充分に薄く、かつ単結晶シリコン基板7を露出させないように充分に被うような膜厚になるまでエッチングすることである。
【0046】
次に、図7(e)に示すように、第4の工程として、酸化シリコン膜6で覆われていない領域の単結晶シリコン基板7をエッチングして、開口部22と外縁部25を形成する。該エッチングは、80℃に加熱した35重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて行う。かかる液によるウェットエッチングであれば、単結晶シリコン基板7を酸化シリコン膜6に対して高い選択比でエッチングできる。
【0047】
次に、図8(a)に示すように、第5の工程として、酸化シリコン膜6をフッ酸を含むエッチング液を用いて、第2の領域16において単結晶シリコン基板7が露出するまでエッチングする。上述したように、該第2の領域の酸化シリコン膜6は、既に所定の深さまでエッチングされている。したがって、該第5の工程で、酸化シリコン膜6を全面的に、すなわちフォトレジスト等を用いずにエッチングした場合に、第2の領域16の周囲の領域には酸化シリコン膜6を残しつつ該第2の領域において単結晶シリコン基板7を露出させることができる。
【0048】
次に、図8(b)に示すように、第6の工程として、上述の水酸化カリウム水溶液を用いて単結晶シリコン基板7を略40μmの深さまでエッチングして凹部32を形成する。そして次に、第7の工程として、フッ酸を含むエッチング液を用いて酸化シリコン膜6を完全に除去する。
【0049】
凹部32の形成時に、第2表面12側の外縁部25で挟まれた領域も略40μmエッチングされるが、単結晶シリコン基板7の基板厚は400μm以上あるので特に問題は生じない。また、開口部22もエッチングされて、平面寸法が拡大する。かかる弊害については、単結晶シリコン基板7の面方位を適切に設定することで抑制できる。
【0050】
基板面の面方位が(110)面である単結晶シリコン基板を用い、結晶線の方向を開口部22の長軸方向と一致させることで、開口部22の該長軸方向の側面の面方位を(111)面にすることができる。単結晶シリコンの(111)面はエッチングレートが遅いため、かかる設定を用いることで、凹部32の形成時において開口部22の短軸方向の寸法が拡大することを抑制できる。したがって、帯状のパターンである有機EL層56あるいは陰極配線62をマスク蒸着するにあたり、幅方向の寸法精度の低下を抑制できる。
【0051】
次に、図8(c)に示すように、第8の工程として、ディスペンサー33を用いて凹部32内に、液状すなわち未硬化の樹脂34を滴下する。滴下された樹脂34は表面張力により盛り上がって球面を形成する。かかる樹脂は、熱あるいは紫外線等で硬化させることが可能な樹脂であることが好ましい。上記工程における滴下量は、形成するスペーサーの高さによって設定する。図8(c)においては複数の液滴を滴下するように示しているが、上述したようにディスペンサー33の滴下量のミニマム値は小さいので、実際の工程では1滴のみということも有り得る。
【0052】
次に、図8(d)に示すように、第9の工程として、滴下された樹脂34を上述の球面を保たせつつ紫外線等により硬化させて、スペーサー35を形成する。以上の工程により、チップ20、素子基板42に対向する側の面に、スペーサー35が形成される。
【0053】
本実施形態の蒸着マスク10の製造方法、具体的にはスペーサー35の形成方法は、将来的にスペーサーが形成される領域に予め凹部32を形成し、該凹部内にスペーサー35を形成する点に特徴がある。かかる手法によれば、スペーサー35の高さを任意に設定できる。ディスペンサー33を用いて液体材料を滴下する手法は、滴下量の変動が少ないという長所がある一方で、ミニマムの滴下量が大きいという短所がある。すなわち、スペーサー35の高さを一定値以下にすることが困難であるという短所がある。しかし、本実施形態の手法によれば、スペーサー35の高さの基準となる面を予め低くすることで、滴下量のミニマム値にかかわらず任意の高さのスペーサー35を形成できる。
【0054】
そして、滴下量の変動が少ないという長所は保たれるため、蒸着マスク10内あるいは複数の蒸着マスク10間における、スペーサー35の高さのばらつきを低減できる。そのため、蒸着マスク10と被蒸着基板である素子基板42との間隔のばらつきを低減でき、蒸着工程により形成される有機EL層56等のパターン精度等を向上できる。したがって、スペーサー35による下地となる層(正孔注入輸送層54等)へのダメージの低減効果と合せて、有機EL装置の表示品質を向上できる。
【0055】
また、凹部32の形成の際のマスクとなる酸化シリコン膜6のパターニングを、開口部22の形成前に行うことも特徴である。すなわち、フォトリソグラフィー工程(露光工程と現像工程と酸化シリコン膜6のエッチング工程の組み合わせ)を2回行なった後に、開口部22と凹部32を形成している。一般的に、基板を貫通する開口部22を形成した後にアライメントを行うことは困難であり、パターニング精度の低下の原因となり得る。
【0056】
本実施形態のスペーサー35の形成方法は、フォトリソグラフィー工程を連続して行い、第1の領域15において酸化シリコン膜6を除去すると共に第2の領域16の酸化シリコン膜6の膜厚を薄くすることで、開口部22を形成した後のアライメント工程を不要にしている。本実施形態の蒸着マスク10の製造方法は、かかる特徴により開口部22と凹部32との双方を高い精度で形成できる。その結果、蒸着工程における既形成層の損傷等の発生を低減可能な蒸着マスクを得ることができる。
【0057】
(変形例)
上述の実施形態にかかる蒸着マスク10は、チップ20と支持基板30とを組み合わせて形成されている。しかし、本発明の実施の形態は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば単結晶シリコン基板単体からなる蒸着マスクに対しても、上述の各実施形態と同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
6…酸化シリコン膜、7…基板としての単結晶シリコン基板、10…蒸着マスク、11…第1表面、12…第2表面、15…第1の領域、16…第2の領域、17…フォトレジスト層、20…チップ、22…開口部、25…外縁部、30…支持基板、32…凹部、33…ディスペンサー、34…樹脂、35…スペーサー、42…被蒸着基板としての素子基板、44…TFT、46…有機EL素子、48…ドレイン電極、50…反射板、52…画素電極、54…正孔注入輸送層、56…有機EL層、58…電子注入輸送層、60…陰極、62…陰極配線、64…隔壁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被蒸着基板に対向する第1表面と蒸着源に対向する第2表面とを有し、
前記被蒸着基板のパターン形成領域に対応する領域である第1の領域に形成された開口部と、該開口部の周辺領域の前記第1表面側に形成されたスペーサーと、を有することを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着マスクであって、前記スペーサーは樹脂製であることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸着マスクであって、前記スペーサーは前記周辺領域に形成された凹部内に形成されていることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸着マスクであって、前記スペーサーは前記第1表面側に1〜10μm突出していることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項5】
基板の、少なくとも将来的に被蒸着基板に対向する第1表面に該基板の形成材料のエッチャントに耐性を有する材料からなるマスク材料層を形成する第1の工程と、
前記第1表面の、前記被蒸着基板のパターン形成領域に対応する領域である第1の領域において前記マスク材料層を除去する第2の工程と、
前記第1表面の、前記第1の領域以外の領域の内の一部の領域である第2の領域において前記マスク材料層の層厚を薄くする第3の工程と、
前記基板をエッチングして前記第1の領域に前記第1表面から該第1表面の反対側の面である第2表面まで貫通する開口部を形成する第4の工程と、
前記マスク材料層を前記基板に対して選択的にエッチングして前記第2の領域において前記マスク材料層を除去して前記基板を露出させる第5の工程と、
前記第2の領域において前記基板を所定の深さまでエッチングして凹部を形成する第6の工程と、
前記マスク材料層を前記基板の全面から除去する第7の工程と、
前記凹部に樹脂を滴下する第8の工程と、
前記樹脂を硬化させてスペーサーとする第9の工程と、
を有することを特徴とする蒸着マスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−275598(P2010−275598A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130083(P2009−130083)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】