説明

蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、電気光学装置の製造方法および電子機器

【課題】シリコン基板を用いた蒸着マスクでは、結晶異方性エッチングを用いて所望パターンの開口部等を形成する場合が多く、その開口部におけるコーナー部(角部位)がほぼ完全な直角または鋭角に形成される。そのためコーナー部に応力が非常に集中し易く、ひとたび力がかかると簡単に割れてしまうという課題があった。
【解決手段】シリコン基板を用いた蒸着マスクであって、該シリコン基板を貫通する開口部における角部位103に、最小パターン幅の5%以上であって30%以下となる長さを切り落とした面取り形状(C面形状)を持たせた。開口部の角部位103に面取り形状(C面形状)を持たせているため、かかる角部位103(コーナー部)に応力が集中することを緩和でき、機械的強度の高い蒸着マスクを提供することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスク、蒸着マスクの製造方法、電気光学装置の製造方法および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気光学装置の一つである有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルは、薄膜を積層した構造を持つ自発光型で高速応答性の表示素子からなる。このため有機ELパネルは軽く動画対応に優れた表示装置を構成でき、近年フラットパネルディスプレイ(FPD)テレビ等の表示パネルとして非常に注目されている。有機ELパネルの代表的な製造方法としては、Appl,Phys,Lett,Vol51,No.12,P.P.913−914,(1987)に示されている。すなわち、ITO(インジウム・スズ・酸化物)等の透明陽極をフォトリソグラフィ技術を用いて所望形状にパターニングし、さらにそのパターンの上に真空蒸着装置で有機材料を成膜して積層し、その上に陰極となるMgAg等の低い仕事関数の金属陽極膜を蒸着する。最後に、このようにして出来た発光素子が湿度または酸素等に接触しないように、その発光素子を不活性ガス雰囲気中で密閉封止する。
【0003】
また、有機ELパネルは、発光材料を変えることにより、発光色を様々に変えることができる。例えば、薄く高精細なメタル蒸着マスクを用いて、画素毎に赤、緑、青の発光素子を形成する手法が提案されている。この手法は、磁石でメタル蒸着マスクとガラス基板とを密着させて、蒸着マスク越しに蒸着することにより、鮮明なフルカラー有機ELパネルを製造しようとするものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、蒸着マスクを用いた蒸着手法としては、シリコン基板を用いて蒸着マスクを製造する手法が提案されている。この手法ではフォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術等の半導体製造技術を用いて、シリコン基板自体を蒸着マスクにするというものである。シリコンは熱膨張係数がガラスとほぼ同じであるので、シリコンの蒸着マスクと被蒸着基板のガラス基板とは熱膨張によるずれが生じない。また、シリコンは加工精度を高くすることができる(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、シリコン基板を用いた蒸着マスクとして、シリコン基板を貫通する開口部における角部位に、0.5μm以上であって3μm以下となる半径を有する丸みを持たせた構造を用いたものが提案されている。この構造では、シリコンからなる蒸着マスクにおける少なくとも開口部の角部位に丸みを持たせている。したがって、角部位(コーナー部)に応力が集中することを緩和でき、機械的強度の高い蒸着マスクを提供することができる(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2001−273976号公報
【特許文献2】特開2001−185350号公報
【特許文献3】特開2005−293917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているメタル蒸着マスクでは、有機ELパネルの大画面化に対応すべくパネルサイズを大きくすると、そのパネル用のメタル蒸着マスクも大きく形成しなければならないが、大きく(大面積)且つ薄いメタル蒸着マスクを高精度に作ることは非常に難しいという問題点がある。また、メタル蒸着マスクの熱膨張係数が有機ELパネル用のガラス基板に比べて非常に大きい。したがって、蒸着時の熱輻射でメタル蒸着マスクがガラス基板に比べて大きく伸びる。これにより、メタル蒸着マスクを用いて大型の有機ELパネルを製造しようとすると、熱膨張による誤差の累積値が大きくなり、メタル蒸着マスクではせいぜい20インチの中小型パネルサイズを製造することが限界とされていた。
【0008】
また、上記特許文献2に記載されているシリコン基板を用いた蒸着マスクでは、結晶異方性エッチングを用いて所望パターンの開口部等を形成する場合が多く、その開口部におけるコーナー部(角部位)がほぼ完全な直角または鋭角に形成される。これにより、上記特許文献2に記載されている蒸着マスクでは、コーナー部に応力が非常に集中し易く、ひとたび力がかかると簡単に割れてしまうという問題点を有している。したがって上記特許文献2に記載されているシリコン基板の蒸着マスクは、実際の機器製造現場で使用することが困難である。
【0009】
また、上記特許文献3に記載されているシリコン基板を用いた蒸着マスクでは、コーナー部は丸みを持った形状を有しているため、蒸着マスクと被蒸着基板とが密接する領域に隣接するコーナー部には、蒸着マスクと被蒸着基板との間に間隔が狭い領域が形成される。この蒸着マスクを用いて蒸着工程を行うと、蒸着マスクと被蒸着基板との間にある間隔が狭い領域に蒸着物質が回りこみ、蒸着マスクと被蒸着基板とはこの蒸着物質により貼り付けられた状態となる。蒸着物質により貼り付けられた状態にある蒸着マスクを被蒸着基板から剥がすと、蒸着マスクに応力が加わる。上記したようにシリコン基板は割れやすいため、この応力により蒸着マスクが破損する場合がある。そのため、蒸着マスクの信頼性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり以下の形態または適用例として実現することが可能である。なお、ここで、「蒸着」とは広義のPVD(物理蒸着法)を指すものとし、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティング蒸着、スパッタ蒸着、イオンビーム蒸着等を含むものとして定義する。
【0011】
[適用例1]本適用例にかかる蒸着マスクは、シリコン基板を用いた蒸着マスクであって、該シリコン基板を貫通する開口部における角部位に、最小パターン幅の5%以上であって30%以下となる長さを切り落とした面取り形状(C面形状)を持たせたことを特徴とする。
【0012】
これによれば、シリコンからなる蒸着マスクにおける少なくとも開口部の角部位に面取り形状(C面形状)を持たせている。換言すれば角部位(鋭角部または直角部)を取り除く。したがって、かかる角部位(コーナー部)に応力が集中することを緩和でき、機械的強度の高い蒸着マスクを提供することができる。また、丸みを持った形状を持たせる場合と比べ、蒸着マスクと被蒸着基板とを剥がす際に加わる応力を抑えられるため、この応力による蒸着マスクの破損を防ぐことができる。
【0013】
また、角部位における面取り形状(C面形状)を、最小パターン幅の5%以上落とした面取り形状(C面形状)を用いた場合、その角部位についての応力集中を十分に低減できることを実験的に見出した。なお、蒸着マスクにかかる応力はスケーリング則にしたがって分配される場合が多いため、ここでは蒸着マスクのパターン寸法の絶対値ではなく、比率を示している。また、角部位における面取り形状(C面形状)を、最小パターン幅の30%以下の長さ分を落とした面取り形状を用いた場合、角部位における面取りによる被蒸着基板上でのパターン寸法変動を抑え、十分な寸法精度をもった薄膜パターンを形成することができる。したがって、高精度の寸法に薄膜パターンを形成でき、繰り返し使用されても容易に角部位等が破損することなく、大量生産に対して低コストで対応できる蒸着マスクを提供することができる。
【0014】
[適用例2]上記適用例にかかる蒸着マスクであって前記角部位における前記面取り形状(C面形状)として、前記角部位を鈍角のみで構成していることを特徴とする。
【0015】
上記した適用例によれば、角部位を鈍角のみで構成することで、角部位での応力集中を抑制することが可能となり、角部位からの亀裂の発生を防止することができる。
【0016】
[適用例3]上記適用例にかかる蒸着マスクであって、前記蒸着マスクは、被蒸着基板と、該被蒸着基板に薄膜をパターニングするときに物質を出射する蒸着物源との間に配置されるものであり、前記開口部は、前記パターニングするときに前記物質が前記蒸着マスクを通り抜ける貫通孔をなすものであることを特徴とする。
【0017】
上記した適用例によれば、例えば高精度の寸法に蒸着パターンを形成できるとともに機械的強度の高い蒸着マスクを提供することができる。また、スパッタ蒸着法またはイオンプレーティング蒸着法等に用いた場合に、高精度の寸法に薄膜パターンを形成できるとともに、機械的強度の高いマスクを提供することができる。
【0018】
[適用例4]上記適用例にかかる蒸着マスクであって、前記面取り形状(C面形状)は、前記開口部の断面形状および平面形状に持たせられていることを特徴とする。
【0019】
上記した適用例によれば、シリコンからなる蒸着マスクに対するあらゆる方向についての応力集中を緩和でき、蒸着マスクの機械的強度をより向上させることができる。
【0020】
[適用例5]上記適用例にかかる蒸着マスクであって、蒸着マスクを用いたパターン形状の許容誤差が大きい場所に位置する前記面取り形状(C面形状)の切り落とし長さと比べ、パターン形状の許容誤差が小さい場所に位置する前記面取り形状(C面形状)の切り落とし長さが短いことを特徴とする。
【0021】
上記した適用例によれば、角部位での面取り形状(C面形状)の切り落とし長さを短くすることでパターニング精度が高くなり、角部位での面取り形状(C面形状)の切り落とし長さを長くすることで機械的強度が大きくなる。そのため、高い精度と高い強度とを両立させた蒸着マスクを提供することが可能となる。
【0022】
[適用例6]本適用例にかかる蒸着マスクの製造方法は、蒸着マスクの構成部材とするシリコン基板に対して、該シリコン基板を貫通する開口部を形成する開口部形成工程と、前記開口部における角部位について、面取り形状(C面形状)を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0023】
これによれば、蒸着マスクをなすシリコン基板における少なくとも開口部の角部位について面取り形状(C面形状)を設けるので、その角部位に応力が集中することを緩和することができる。したがって、高精度の寸法に薄膜パターンを形成でき、繰り返し使用されても容易に角部位等が破損しないマスクを、簡便に製造することができる。
【0024】
[適用例7]上記適用例にかかる蒸着マスクの製造方法であって、前記面取り形状(C面形状)として、前記角部位を鈍角に加工する工程を含むことを特徴とする。
【0025】
上記した適用例によれば、角部位を鈍角に加工することで、角部位での応力集中を抑制しうる形状を得ることが可能となるため角部位からの亀裂の発生が抑制される。そのため、より信頼性の高い蒸着マスクの製造可能な製造方法を提供することが可能となる。
【0026】
[適用例8]上記適用例にかかる蒸着マスクの製造方法であって、前記面取り形状(C面形状)形成工程は、前記シリコン基板に対して異方性エッチングを施す処理からなることを特徴とする。
【0027】
上記した適用例によれば、開口部形成工程等でシリコン基板の開口部等に、鋭角または直角をなす角部位が生じた場合、それらの角部位について、異方性エッチングにより、簡便に且つ所望の面取り形状(C面形状)を形成することができる。そのため、機械的強度が高い蒸着マスクを簡便に製造することができる。
【0028】
[適用例9]上記適用例にかかる蒸着マスクの製造方法であって、前記異方性エッチングは、水酸化カリウムまたは、エチレンジアミン・ピロカテコール(EDP)または、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)を含むエッチング液を用いることを特徴とする。
【0029】
上記した適用例によれば、面方位依存性を持つエッチングが可能となる。面方位依存性を持つエッチング液でエッチングを行うことで、当該面方位以外の面方位を有する領域でのエッチングを抑えることができる。そのため、蒸着マスクのパターン寸法を変えずに、面取り形状(C面形状)を形成することができる。従って、被蒸着基板に膜を形成する場合に寸法精度が高く、かつ機械的強度に優れた蒸着マスクの製造方法を提供することが可能となる。
【0030】
[適用例10]上記適用例にかかる蒸着マスクの製造方法であって、前記面取り形状(C面形状)形成工程は、蒸着マスクの製造工程における最終工程として行うことを特徴とする。
【0031】
上記した適用例によれば、シリコン基板からなる蒸着マスクの製造過程において、そのシリコン基板に角部位が形成されても、蒸着マスクの製造過程における最終段階で、かかる角部位について面取り形状(C面形状)を持たせることができる。換言すれば、シリコン基板からなるマスクの角部位(鋭角部または直角部)を取り除くことができる。したがって、高精度の寸法に薄膜パターンを形成でき、かつ繰り返し使用しても容易に角部位等が破損しないマスクを、簡便に製造することができる。
【0032】
[適用例11]本適用例にかかる電気光学装置の製造方法は、上記した蒸着マスク、または、上記した蒸着マスクの製造方法で製造された蒸着マスク、を用いて電気光学装置の構成層をなす薄膜パターンを形成することを特徴とする。
【0033】
これによれば、例えば、大画面であって各画素の膜厚分布が非常に良く、ムラのない高品位な画像を表示できる電気光学装置を低コストで提供することができる。
【0034】
[適用例12]本適用例にかかる電子機器は、上記した蒸着マスク、または、上記した蒸着マスクの製造方法で製造された蒸着マスク、を備えることを特徴とする。
【0035】
これによれば、例えば、大画面で表示でき、鮮やかでムラがなく大きな画像を表示できる電子機器を低コストで提供することができる。また、本発明によれば、大面積の基板全体に高精細に精密にパターニングされた薄膜からなる電子回路等を備えた電子機器を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
(第1の実施形態:蒸着マスクの構造)
以下、本実施形態にかかる蒸着マスクの構造について説明する。図1は、本実施形態に係る蒸着マスクの一例を示す平面図である。図2は、図1の蒸着マスクにおけるA−A’線についての断面図である。蒸着マスク100は、被蒸着基板に薄膜をパターニングする場合、すなわち蒸着を行う際に、蒸着物源と被蒸着基板との間に配置される。
【0037】
蒸着マスク100は、シリコン基板101で構成されている。シリコン基板101は、例えば面方位(110)を有することとする。そして、シリコン基板101には貫通孔をなす開口部102が設けられる。開口部102は、蒸着時に、蒸着物源から出射された蒸着物質が通り抜ける貫通孔をなすものである。したがって、開口部102の開口領域は、被蒸着基板(ガラス基板等)にパターニングする薄膜の形状とほぼ同一形状となっている。なお、図1および図2に示す蒸着マスク100では、開口部102が12個であるが、この構成に限定されず、開口部102の個数、形状および配置は任意とすることができる。
【0038】
また、本実施形態の蒸着マスク100では、シリコン基板101におけるコーナー部すなわち角部位103に、面取り形状(C面形状)が形成されている。換言すれば、シリコン基板101の開口部102を含む角部位103は、直角または鋭角になっておらず、応力の集中を緩和する構造となっている。ここで、蒸着マスク100における開口部102の角部位103についてのみ、面取り形状(C面形状)を形成してもよい。また、図1および図2に示すように、面取り形状(C面形状)は、シリコン基板101の断面形状および平面形状の両方に持たせられている。シリコン基板101についてあらゆる角度から立体的に見て、直角または鋭角になっているコーナー部が存在しない構成となっている。したがって、蒸着マスク100に対して任意の方向から応力が作用しても、その応力の集中を緩和できる構造となっている。
【0039】
従来の蒸着マスクは、開口部等の角部位が略直角になっている場所があった。そのため、従来の蒸着マスクでは、角部位に応力集中が発生し易く、その応力集中が発生した部分より亀裂が伝播して割れてしまうことが多々あった。また、従来の蒸着マスクの開口部は、被蒸着基板(基板)に接する部分が略直角に尖っており、この部分が基板にキズを付けて不良品を多発させるおそれもあった。
【0040】
本実施形態の蒸着マスク100によれば、開口部102を含む角部位103について、面取り形状(C面形状)を付与しているので、開口部102を含む角部位103について、応力集中を緩和することができ、破損等の発生を大幅に低減することができる。また、本実施形態の蒸着マスク100は、開口部102にも面取り形状(C面形状)を付与しているので、被蒸着基板に接する部分であって上記鋭利な刀のように尖っている部分が存在しない。したがって、本実施形態の蒸着マスク100は、被蒸着基板にキズを付けることなく蒸着工程を行うことができるので、歩留まりを向上させることができる。
【0041】
次に、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長の比率と耐久性との関係について述べる。図3は、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長と蒸着マスク100の耐久性との関係を示す図である。図3においては、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長が0%(面取り無し)から40%まで段階的に異なる10種類の蒸着マスク100を試作して、耐久試験を行った結果を示している。すなわち、各種類の蒸着マスク100について、実際に蒸着マスク100を用いて蒸着を繰り返し行い、蒸着マスク100に破損(キズ)が生じたか等を試験したものである。ここで、蒸着マスク100のパターン幅は15μmに固定している。蒸着試験回数は、1000回を上限として行い、被蒸着物の付着については、実際の運用と同様に、蒸着マスク100の開口部102の幅が狭まった場合に洗浄を行っている。
【0042】
例えば、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長が0%(面取り無し)の蒸着マスク100の場合、1回の蒸着工程で破損している。角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長が5%の蒸着マスク100の場合、450回の蒸着工程まで破損せずに使用できている。したがって、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長が5%の蒸着マスク100は、450回の蒸着工程まで使用可能であり、実用的な蒸着マスク100として用いることができる。一方、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長が7%以上の蒸着マスク100の場合、1000回蒸着マスク100を用いて蒸着工程を行っても無傷である。したがって、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長が7%以上の蒸着マスク100は、大量生産される装置の製造に用いることができる。
【0043】
これらの耐久試験結果より、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長を大きくするほど蒸着マスク100の耐久性が向上することがわかるとともに、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長は5%以上あることが好ましいことがわかる。また、角部位に丸み形状(角R形状)を備えた別の蒸着マスクと比較したところ、丸み形状(角R形状)を備えたものでは、被蒸着物が別の蒸着マスクと被蒸着基板との間に回りこむことで、別の蒸着マスクの一部分が被蒸着基板側に貼り付いて残る不良が一部に発生していた。一方、角部位103に面取り形状(C面形状)を備えた蒸着マスク100では、このような不良は発生しておらず、蒸着物が蒸着マスク100と被蒸着基板との間に回りこみ、被蒸着物の癒着性により発生する不良は抑えられていた。
【0044】
次に、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長の上限値について考察する。角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長を大きくしていくと、十分な寸法精度をもった蒸着パターンを形成することが困難となる。これは、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長を大きくすると、開口部102の内部側面に形成されるオーバーハング(逆テーパ部)が大きくなり、蒸着物質に対して影になるときと影にならないときとが生じる部位が大きくなること等のためである。そこで、例えば、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長を30%以下とすることにより、ある程度十分な寸法精度をもった蒸着パターンを形成できる。
【0045】
これらにより、本実施形態の蒸着マスク100は、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長を5%以上、30%以下とすることで、蒸着パターンの寸法精度向上と蒸着マスクの機械的強度向上とを十分に両立させることができる。ここで、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長は角部位103の位置から異なる長さに切り落としても良い。特に、後述するウェットエッチングにより面取り形状(C面形状)を形成する場合等では、エッチングにより形成される面取り形状(C面形状)をそのまま用いることが簡便であり、かつ蒸着マスク100の不良発生を防ぐことが可能となる。
【0046】
(第1の実施形態の変形例)
以下、本変形例にかかる蒸着マスクの構造についての変形例について説明する。上記した構造では、角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長さの良品範囲について説明したが、これは、蒸着マスク100を用いて形成されるパターン形状の許容誤差が大きい場所に位置する角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長さと比べ、パターン形状の許容誤差が小さい場所に位置する角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長さを短くする等、各領域毎に切り落とし量を変えても良い。角部位103での面取り形状(C面形状)の切り落とし長さを短くすることでパターニング精度が高くなり、角部位103での面取り形状(C面形状)の切り落とし長さを長くすることで機械的強度が大きくなる。そのため、高い精度と高い強度とを両立させた蒸着マスクを提供することが可能となる。また、蒸着マスク100の外周部を中央部と比べ、後述する図4(e)と同様に厚くしても良い。この場合、さらに蒸着マスク100の機械的強度を向上させることが可能となる。
【0047】
(第2の実施形態:全てウェットプロセスによる蒸着マスクの製造方法)
以下、本実施形態にかかる蒸着マスクの製造方法について説明する。図4(a)〜(e)は、本実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す工程断面図である。本蒸着マスクの製造方法を用いることにより、図1、図2に示す蒸着マスク100を製造することができる。以下、蒸着マスク100の製造方法について具体的に説明する。
【0048】
まず、400μm程度の厚みを有し、面方位(110)を有するシリコン基板101に、1μm程度のエッチングマスク層201を形成する。ここで、便宜上、シリコン基板101が加工されて得られた蒸着マスク100が、被蒸着基板と向き合う側の面を第1面とし、反対側の面を第2面と呼称する。
【0049】
エッチングマスク層201の形成方法としては、一例として1070℃、ウェット酸化を用いた熱酸化法を用いて酸化シリコン層を形成し、この酸化シリコン層をエッチングマスク層201として用いることがシリコン基板101との密着性や、耐薬品性に優れていることから好適である。なお、別の方法としてドライ酸化法や、CVD(化学気相堆積)法等を用いて形成した酸化シリコン層をエッチングマスク層201として用いても良い。特に、CVD法等、堆積手法を用いてエッチングマスク層201を形成する場合には、エッチングマスク層201として酸化シリコン層に限定されることなく、窒化酸化シリコン層や、DLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)層等を用いても良く、後述するシリコンエッチング液に対してシリコン基板101との間で選択比が取れ、後述するパターニングが行える物質で形成された層を用いることができる。なお、エッチングマスク層201でシリコン基板101全面を覆う必要はなく、一部にエッチングマスク層201で覆われていない部分があっても良い。例えば、シリコン基板101の側面がエッチングマスク層201により覆われておらず、シリコン基板101が露出した状態となっていても差し支えない。この工程を終えた状態での断面図を図4(a)に示す。
【0050】
次に、パターニングを行い、エッチングマスク層201の第1面側と第2面側を開口する。パターニングの手法としてはフォトレジスト塗布→露光・現像→緩衝弗酸エッチング→フォトレジスト除去等、通常のパターニング工程を用いることができる。この工程を終えた状態での断面図を図4(b)に示す。
【0051】
次に、エッチングマスク層201をエッチングマスクとして、シリコン基板101のエッチングを行う。エッチングは水酸化カリウム水溶液を用いて異方性エッチングを行う。水酸化カリウム水溶液のエッチング速度の面方位依存性を用いることで、シリコン基板101にはテーパー形状と垂直形状の組み合わせ形状を備えた開口部102が形成される。この工程を終えた状態での断面図を図4(c)に示す。
【0052】
次に、エッチングマスク層201を緩衝弗酸等を用いて除去し、シリコン基板101を露出させる。この工程を終えた状態での断面図を図4(d)に示す。
【0053】
次に、80℃の水酸化カリウム水溶液(35wt%)を用いてシリコン基板101を1分程度エッチングし、角部位103における面取り形状(C面形状)を形成する。この場合、エッチング時間により面取り形状(C面形状)の切り落とし長を変えることが可能である。このエッチング条件では、角部位103における切り落とし長は約3μm程度となり、蒸着マスク100が形成される。この工程を終えた状態での断面図を図4(e)に示す。この製造方法はウェットプロセスのみで形成できることから、設備投資を抑え、かつ蒸着マスク100にドライエッチングに起因する潜在的欠陥の導入を抑制することが可能となり、より破壊強度に優れた蒸着マスク100の製造方法を提供することが可能となる。また、上記した工程で示すように、角部位103における面取り形状(C面形状)を形成する工程を最後に行うことで、全ての角部位103を面取り形状(C面形状)に加工することが可能となる。
【0054】
(第3の実施形態:ウェット+ドライプロセスによる蒸着マスクの製造方法)
以下、本実施形態にかかる蒸着マスクの製造方法について説明する。図5(a)〜(d)、図6(a)〜(c)は、本実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す工程断面図である。本蒸着マスクの製造方法を用いることにより、図1、図2に示す蒸着マスク100を製造することができる。以下、蒸着マスク100の製造方法について具体的に説明する。
【0055】
まず、400μm程度の厚みを有し、面方位(110)を有するシリコン基板101に、1μm程度のエッチングマスク層201を形成する。ここで、便宜上、シリコン基板101が加工されて得られた蒸着マスク100が、被蒸着基板と向き合う側の面を第1面とし、反対側の面を第2面と呼称する。ここで、エッチングマスク層201としては、第2の実施形態で説明した態様を適用することができる。この工程を終えた状態での断面図を図5(a)に示す。
【0056】
次に、パターニングを行う。この場合、エッチングマスク層201の第2面側を開口し、第1面側のエッチングマスク層201は半分程度の厚さを残し、開口せずに厚さを薄く残すようパターニングを行う。パターニングの手法としてはフォトレジスト塗布→露光・現像→緩衝弗酸エッチング→フォトレジスト除去等、通常のパターニング工程を用いることができる。この工程を終えた状態での断面図を図5(b)に示す。
【0057】
次に、エッチングマスク層201をエッチングマスクとして、シリコン基板101のエッチングを行う。エッチングは水酸化カリウム水溶液を用いて異方性エッチングを行う。シリコン基板101の第1面側にはエッチングマスク層201が残されているため、シリコン基板101の第1面側からのエッチングは進行せず、第2面側からのエッチングのみが進行する。このように、第2面側からのエッチングのみを進行させることで、シリコン基板101の厚みが薄い領域の残り厚をより精密に制御することが可能となる。この工程を終えた状態での断面図を図5(c)に示す。
【0058】
次に、緩衝弗酸を用いて、エッチングマスク層201の一部をエッチングし、エッチングマスク層201の半分程度の厚さを残した領域を開口させ、エッチングマスク層201の厚みを減じていない領域を残すようエッチングする。この工程を終えた状態での断面図を図5(d)に示す。
【0059】
次に、塩素系のエッチングガスを用いてシリコン基板101をエッチングし、開口部102を形成する。エッチングには、例えば誘導結合プラズマ(ICP)装置を用いることができる。この工程を終えた状態での断面図を図6(a)に示す。
【0060】
次に、エッチングマスク層201を緩衝弗酸等を用いて除去し、シリコン基板101を露出させる。この工程を終えた状態での断面図を図6(b)に示す。
【0061】
次に、80℃の水酸化カリウム水溶液(35wt%)を用いてシリコン基板101を1分程度エッチングし、角部位103における面取り形状(C面形状)を形成する。この場合、エッチング時間により角部位103における面取り形状(C面形状)の切り落とし長を変えることが可能である。このエッチング条件では、切り落とし長は約3μm程度となり、蒸着マスク100が形成される。この工程を終えた状態での断面図を図6(c)に示す。この製造方法はドライプロセスを寸法精度を要する部分に用いていることから、厚さ再現性に優れた蒸着マスク100の製造方法を提供することが可能となる。また、上記した工程で示すように、面取り形状(C面形状)を形成する工程を最後に行うことで、全ての角部位103を面取り形状(C面形状)に加工することが可能となる。
【0062】
(第2の実施形態、第3の実施形態の変形例)
以下、本変形例にかかる蒸着マスクの製造方法について説明する。上記した製造方法では、角部位103に面取り形状(C面形状)を形成する工程に水酸化カリウム水溶液を用いたが、これはエチレンジアミン・ピロカテコール(EDP)または、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)を含むエッチング液を用いても良く、水酸化カリウムと同様に異方性エッチングを行わせることで面取り形状(C面形状)を形成することが可能である。
【0063】
また、シリコン基板101として、面方位(110)を有するものを用いたが、これは面方位(100)の基板を用いても良い。この場合、より一般的な面方位を持ったシリコン基板101を用いることができるため、シリコン基板101の調達が容易となる。
【0064】
また、第1の実施形態の変形例に示されているように、角部位103での面取り形状(C面形状)の切り落とし長さに分布を与える場合には、角部位103に面取り形状(C面形状)を形成する工程の前に、フォトリソグラフ法によりレジスト層を部分的に形成し、切り落とし長さを短くする領域を覆いエッチングを行った後、レジストを除去して再度エッチングすることで角部位103における面取り形状(C面形状)を形成することで切り落とし長さに分布を与えることが可能となる。
【0065】
また、角部位103に面取り形状(C面形状)を形成する工程を最後に行うことは必須ではなく、その後に別の工程を行っても良い。この場合、面取り形状(C面形状)が一部形成されなくなる場合があるが、角部位103の一部に面取り形状(C面形状)が残っていればその部分での応力集中を避けることができ、信頼性を向上させることが可能となる。
【0066】
(第4の実施形態:応用例)
次に、本実施形態の応用例について、図7から図12を参照して説明する。
図7は、本実施形態の応用例に係る蒸着プレートを示す模式斜視図である。図8は、図7に示す蒸着プレートによって形成される画素パターンの配列例を示す図である。図9は、図7に示す蒸着プレートの要部拡大斜視図である。本実施形態の蒸着プレート1は、図1、2に示す上記実施形態の蒸着マスク100を構成要素とするものである。すなわち、チップ20として、蒸着マスク100を用いている。
【0067】
蒸着プレート1は、ベース基板をなす支持基板10に、複数のチップ20(蒸着マスク100)を取り付けた構成を有している。各チップ20は、それぞれアライメントされて支持基板10に接着されている。また、支持基板10には、蒸着プレート位置決めマーク16が形成されている。蒸着プレート位置決めマーク16は、蒸着プレート1を使用して蒸着等を行うときに、当該蒸着プレート1の位置合わせを行うためのものである。蒸着プレート位置決めマーク16は、例えば金属膜で形成することができる。なお、チップ20に蒸着プレート位置決めマーク16を形成してもよい。
【0068】
支持基板10には、開口部が長方形の貫通穴からなる開口領域12が、図7および図9に示すように、複数平行に且つ一定間隔で設けられている。チップ20には、図9に示すように、長孔形状の開口部22(開口部102に相当)が複数一定間隔で平行に設けられている。チップ20の開口部22は、図8に示す「縦ストライプ」の画素配置をなす薄膜パターンに対応する形状である。蒸着プレート1は、縦ストライプの画素を形成するために用いられる。
【0069】
そして、各チップ20は、支持基板10の開口領域12をふさぐように、且つ、開口領域12の長手方向とチップ20の開口部22の長手方向とが直交する向きで、支持基板10上に行列をなすように配置されている。
【0070】
支持基板10の構成材料は、チップ20の構成材料の熱膨張係数と同一または近い熱膨張係数を有するものが好ましい。チップ20はシリコンであるので、シリコンの熱膨張係数と同一または近い熱膨張係数をもつ材料で支持基板10を構成する。このようにすることにより、支持基板10とチップ20との熱膨張量の違いによる「歪み」または「橈み」の発生を抑えることができる。例えば、シリコンの熱膨張係数(30×10-7/℃)に対して、コーニング社製のパイレックス(登録商標)ガラスの熱膨張係数(30×10-7/℃)はほぼ同一値である。無アルカリガラスである日本電気ガラス社製のOA−10の熱膨張係数(38×10-7/℃)、金属材料では42アロイの熱膨張係数(50×10-7/℃)およびインバー材の熱膨張係数(12×10-7/℃)等もシリコンの熱膨張係数に近い。したがって、支持基板10の構成材料としては、パイレックス(登録商標)ガラス、無アルカリガラスであるOA−10および42アロイ等が適用できる。
【0071】
チップ20は、図9に示すように長方形の板に開口部22を設けた構成となっている。本実施形態の蒸着プレート1は図8に示す「縦ストライプ」の画素を形成するためのものであるので、チップ20の開口部22は例えばその画素を縦に40個ほど含む領域に相当する大きさの細長い溝形状となっている。すなわち、チップ20の開口部22は、被成膜面に形成される薄膜パターンの少なくとも一部の形状に対応した形状となっている。そして、チップ20が占有する面積は、蒸着プレート1で形成される薄膜パターン(例えば有機ELパネルを構成する薄膜パターン)の面積よりも小さい。そして、チップ20は蒸着工程に際して、蒸着物質を出射する蒸着物源と、後述する図10における被蒸着基板をなす基板54との間に配置され、開口部22を通して蒸着物質は基板54に到達する。
【0072】
また、本実施形態のチップ20をなすシリコンは、面方位(110)を有している。これは面方位(100)を有するシリコンでチップ20を構成してもよい。そして、チップ20における開口部22の長手方向の側面は、面方位(111)を有している。このように開口部22の側面の面方位を(111)とし、チップ20について異方性エッチングを施すことで、チップ20における開口部22を含む角部位103について、面取り形状(C面形状)を付与することができる。
【0073】
また、各チップ20にはアライメントマーク14が少なくとも2ヶ所形成されている。アライメントマーク14は、支持基板10にチップ20を貼り合わせる際の位置合わせに使用される。アライメントマーク14は、フォトリソグラフィ技術または結晶異方性エッチング等で形成する。
【0074】
チップ20における開口部22の長手方向と支持基板10の開口領域12の長手方向とが直交するように、各チップ20は支持基板10に貼り付けられている。開口部22の幅は、例えば画素のサブピクセルピッチd1と同一とする。そして、同一の開口領域12をふさぐチップ20であって隣り合うチップ20a,20bは、画素のサブピクセルピッチd1だけ間隔をもって配置されている。このチップ20aと20bとの隙間は、チップ20の開口部22と同様に機能し、所望形状の薄膜パターンを形成するための蒸着プレート1の開口部として機能する。また、隣り合うチップ20同士は、開口領域12の長手方向に直交する方向についても間隔をもって配置されている。そして、複数のチップ20はそれぞれ間隔をもって、支持基板10上において、図7に示すように行列に配置されている。
【0075】
これらのように、本実施形態の蒸着プレート1は、複数のチップ20を支持基板10に取り付けているので、チップ20よりも大きな薄膜パターンを形成でき、例えば大画面の表示パネルをなす縦ストライプパターンの画素を形成することができる。さらに、本実施形態の蒸着プレート1は、チップ20における開口部22を含む角部位103について面取り形状(C面形状)を付与しているので、耐久性が高く、被蒸着基板にキズを付けることを回避できる。
【0076】
図10は、図7および図9に示す蒸着プレート1を用いて形成された蒸着パターン(薄膜パターン)の一例を示す平面図である。図11は、図10に示す蒸着パターンが形成された基板について、蒸着プレート1をずらして再度蒸着処理を施した状態の一例を示す平面図である。図12は、図11に示す蒸着パターンが形成された基板について、蒸着プレート1をずらして再度蒸着処理を施した状態の一例を示す平面図である。
【0077】
この蒸着パターンが形成される被蒸着基板をなす基板54としては、例えば有機EL装置の構成要素をなすガラス基板等の透明基板を適用できる。この場合の蒸着パターンは、例えば有機EL装置における赤色の発光層60をなすストライプパターンとする。したがって、発光層60の幅は画素のサブピクセルピッチd1となっている。
【0078】
ただし、図10に示す蒸着パターンでは、有機EL装置の赤色の画素における複数行(例えば40行×5)の画素が形成されていない。そこで、基板54に対して蒸着プレート1を縦方向(Y軸方向)に例えば画素40個分だけずらして、再度蒸着処理を行い、図11に示すように赤色の発光層60’をパターニングする。このようにすることにより、大きな縦ストライプパターンを持った大画面パネルの薄膜パターンを簡便に形成することができる。
【0079】
図11に示す蒸着パターンでは、赤色の発光層60,60’のみが形成されており、緑色および青色の発光層が形成されていない。そこで、図11に示す状態の基板54に対して、蒸着プレート1を横方向(X軸方向)にサブピクセルピッチ分だけずらして緑色の発光材料をパターニングすることで、緑色の発光層62を形成する。次いで、蒸着プレート1を横方向(X軸方向)にサブピクセルピッチ分だけずらして青色の発光材料をパターニングすることで、図12に示すように、緑色の発光層62、青色の発光層64を形成する。
【0080】
これらにより、カラー表示ができて大画面パネルをなす薄膜パターンを、簡便に、高精度に、且つ低コストで形成することができる。また、上記実施形態では同一の蒸着プレート1をずらしながら複数回蒸着処理することで1つの大画面パネルをなす薄膜パターンを形成しているが、複数種類の蒸着プレート1を予め作成して、その複数種類の蒸着プレート1を交互に用いて1つの大画面パネルをなす薄膜パターンを形成してもよい。
【0081】
(第5の実施形態:電気光学装置の製造方法)
次に、本実施形態の応用例について、図13から図15を参照して説明する。
図13は、本実施形態に係る電気光学装置の製造方法を示す模式断面図である。本実施形態では、電気光学装置の一つとして有機EL装置を挙げて説明する。図13に示す蒸着プレート50(図7に示した蒸着プレート1に該当する)には、磁性体膜52が形成されている。磁性体膜52は、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性材料で形成することができる。あるいは、Ni、Co、Feや、Fe成分を含むステンレス合金等の磁性金属材料や、磁性金属材料と非磁性金属材料との結合により、磁性体膜52を形成してもよい。また、チップ20の一面は磁性体膜52より覆われている。蒸着プレート50のその他の詳細は、上記蒸着プレート1と同一である。
【0082】
本実施形態では、蒸着プレート50を使用して基板(成膜対象部材)54に発光材料を成膜する。基板54は、複数の有機EL装置を形成するためのもので、ガラス基板等の透明基板である。基板54には、後述する図14(a)に示すように、電極(例えばITO等からなる透明電極)56および正孔輸送層58が形成されている。なお、電子輸送層を形成してもよい。
【0083】
図13に示すように、基板54側にチップ20が位置するように、蒸着プレート50を配置する。基板54の背後には、磁石48が配置されており、蒸着プレート50(チップ20)に形成された磁性体膜52を引き寄せるようになっている。
【0084】
図14(a)〜図14(c)は、有機EL装置の製造に用いられる発光材料の成膜方法を説明する模式断面図である。発光材料は、例えば有機材料であり、低分子の有機材料としてアルミキノリノール錯体(Alq3)があり、高分子の有機材料としてポリパラフェニレンビニレン(PPV)がある。発光材料の成膜は、蒸着によって行うことができる。例えば、図14(a)に示すように、蒸着プレート50を介して赤色の発光材料をパターニングしながら成膜し、赤色の発光層60を形成する。そして、図14(b)に示すように、蒸着プレート50をずらして、緑色の発光材料をパターニングしながら成膜し、緑色の発光層62を形成する。そして、図14(c)に示すように、蒸着プレート50を再びずらして、青色の発光材料をパターニングしながら成膜し、青色の発光層64を形成する。
【0085】
本実施形態では、スクリーンとなるチップ20が、支持基板10に部分的に接着されている。したがって、チップ20は自由度が高く、反り、撓みが発生し難く、機械的強度が高く、選択蒸着の再現性が高く、生産性が高い。本実施形態の蒸着プレート50では、支持基板10に複数の開口領域12が形成され、それぞれの開口領域12に対応してチップ20が位置している。複数のチップ20が1つの有機EL装置に対応する。すなわち、蒸着プレート50を使用して、大画面の有機EL装置を高精度に且つ低コストで製造することができる。
【0086】
図15は、上述した発光材料の成膜方法を経て製造された有機EL装置の概略構成を示す模式断面図である。有機EL装置は、基板54、電極56、正孔輸送層58、発光層60,62,64等を有する。発光層60,62,64上には、電極66が形成されている。電極66は、例えば陰極電極である。本実施形態の有機EL装置は、表示装置(ディスプレイ)として好適であり、発光層60,62,64においてパターンずれが少なく膜厚分布が非常に均一化され、ムラの無い鮮やかな大画面の表示装置となることができ、さらに低コストで提供できる。
【0087】
(第6の実施形態:電子機器)
次に上記実施形態の蒸着マスクを用いて製造された電子機器について説明する。
図16(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図16(a)において、携帯電話本体600は、上記実施形態の蒸着マスクを用いて形成された電気光学装置からなる表示部601を備えている。図16(b)は、携帯型情報処理装置(パソコン)の一例を示した斜視図である。図16(b)において、情報処理装置700は、キーボード等の入力部701を備え、上記実施形態の蒸着マスクを用いて形成された電気光学装置からなる表示部702を備え、さらに情報処理装置本体703を備えている。図16(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図16(c)において、時計本体800は、上記実施形態の蒸着マスクを用いて形成された電気光学装置からなる表示部801を示している。図16に示す電子機器は、上記したように大画面で表示でき、鮮やかでムラがなく大きな画像を高品位に表示でき、さらに、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本実施形態に係る蒸着マスクの一例を示す平面図。
【図2】図1に示す蒸着マスクの断面図。
【図3】面取り形状(C面形状)の切り落とし長と蒸着マスクの耐久性との関係を示す図。
【図4】(a)〜(e)は、本実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す工程断面図。
【図5】(a)〜(d)は、本実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す工程断面図。
【図6】(a)〜(c)は、本実施形態に係る蒸着マスクの製造方法を示す工程断面図。
【図7】本実施形態の応用例に係る蒸着プレートを示す模式斜視図。
【図8】蒸着プレートによって形成される画素パターンの配列例を示す図。
【図9】蒸着プレートの要部拡大斜視図。
【図10】蒸着プレートを用いて形成された蒸着パターンの一例を示す平面図。
【図11】蒸着パターンが形成された基板について、蒸着プレートをずらして再度蒸着処理を施した状態の一例を示す平面図。
【図12】蒸着パターンが形成された基板について、蒸着プレートをずらして再度蒸着処理を施した状態の一例を示す平面図。
【図13】本実施形態に係る電気光学装置の製造方法を示す模式断面図。
【図14】(a)〜(c)は、有機EL装置の製造に用いられる発光材料の成膜方法を説明する模式断面図。
【図15】発光材料の成膜方法を経て製造された有機EL装置の概略構成を示す模式断面図。
【図16】(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図、(b)は、携帯型情報処理装置(パソコン)の一例を示した斜視図、(c)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図。
【符号の説明】
【0089】
1…蒸着プレート、10…支持基板、12…開口領域、14…アライメントマーク、16…蒸着プレート位置決めマーク、20…チップ、20a…チップ、20b…チップ、22…開口部、40…画素、48…磁石、50…蒸着プレート、52…磁性体膜、54…基板、56…電極、58…正孔輸送層、60…発光層、62…発光層、64…発光層、66…電極、100…蒸着マスク、101…シリコン基板、102…開口部、103…角部位、201…エッチングマスク層、600…携帯電話本体、601…表示部、700…情報処理装置、701…入力部、702…表示部、703…情報処理装置本体、800…時計本体、801…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を用いた蒸着マスクであって、該シリコン基板を貫通する開口部における角部位に、最小パターン幅の5%以上であって30%以下となる長さを切り落とした面取り形状(C面形状)を持たせたことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着マスクであって、前記角部位における前記面取り形状(C面形状)として、前記角部位を鈍角のみで構成していることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蒸着マスクであって、前記蒸着マスクは、被蒸着基板と、該被蒸着基板に薄膜をパターニングするときに物質を出射する蒸着物源との間に配置されるものであり、
前記開口部は、前記パターニングするときに前記物質が前記蒸着マスクを通り抜ける貫通孔をなすものであることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の蒸着マスクであって、前記面取り形状(C面形状)は、前記開口部の断面形状および平面形状に持たせられていることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着マスクであって、蒸着マスクを用いたパターン形状の許容誤差が大きい場所に位置する前記面取り形状(C面形状)の切り落とし長さと比べ、パターン形状の許容誤差が小さい場所に位置する前記面取り形状(C面形状)の切り落とし長さが短いことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項6】
蒸着マスクの構成部材とするシリコン基板に対して、該シリコン基板を貫通する開口部を形成する開口部形成工程と、
前記開口部における角部位について、面取り形状(C面形状)を形成する工程とを有することを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸着マスクの製造方法であって、前記面取り形状(C面形状)として、前記角部位を鈍角に加工する工程を含むことを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の蒸着マスクの製造方法であって、前記面取り形状(C面形状)の形成工程は、前記シリコン基板に対して異方性エッチングを施す処理からなることを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の蒸着マスクの製造方法であって、前記異方性エッチングは、水酸化カリウムまたは、エチレンジアミン・ピロカテコール(EDP)または、4メチル水酸化アンモニウム(TMAH)を含むエッチング液を用いることを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法であって、前記面取り形状(C面形状)形成工程は、蒸着マスクの製造工程における最終工程として行うことを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項11】
請求項1から5のいずれか一項に記載の蒸着マスク、または、請求項5から8のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法で製造された蒸着マスク、を用いて電気光学装置の構成層をなす薄膜パターンを形成することを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項12】
請求項1から5のいずれか一項に記載の蒸着マスク、または、請求項6から10のいずれか一項に記載の蒸着マスクの製造方法で製造された、蒸着マスク、を用いて製造されたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−95744(P2010−95744A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266027(P2008−266027)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】