説明

蒸着マスク及びその製造方法並びに自発光表示装置の製造方法

【課題】表示装置を高精細化することが可能な蒸着マスク及び自発光表示装置の製造方法の提供。
【解決手段】マスク薄膜MPの一面側からのエッチングで形成された第1エッチング領域と、他面側からのエッチングで形成された第2エッチング領域との形成により、当該マスク薄膜の一面側から他面側に貫通する開孔部HL1,HL2が形成され、行方向及び列方向にマトリクス状に前記開孔部が配列されるマスク薄膜を備える蒸着マスクであって、前記開孔部は前記行方向及び/又は列方向に異なる開孔幅を有する第1開孔部HL1と第2開孔部HL2とから構成された蒸着マスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着マスク及びその製造方法並びに自発光表示装置の製造方法に係わり、特に、EL(エレクトロルミネッセンス)素子や有機EL素子、及びその他の自発光タイプの表示素子である自発光素子を搭載した自発光表示装置を形成する蒸着マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
OLED(有機発光ダイオード、Organic light−emitting diode)ディスプレイは薄型、自発光をはじめとした優れた特徴を持つ他、直流低電圧駆動といったアプリケーション側から見た場合にも液晶ディスプレイには無い優れた特徴を持っている。
【0003】
OLEDディスプレイで効率よくフルカラー表示を行う方法として、3原色(R,G,B)のいずれかで発光する電気光学素子(副画素、サブピクセル)の組合せでカラー表示用の1画素(ピクセル)を形成する手法がある。
このような画素を形成する方法としては、色素(たとえばR、G、Bの3原色)を狭い範囲で塗り分けて発光層を色別に形成する方法が一般的である。この色別の塗分けでは、開孔部の設けられた薄い金属板(蒸着マスク、シャドーマスク)を基板の前に置いて、開孔部にだけ発光材料を順番に真空蒸着法により蒸着させ、色別の発光層を形成するシャドーマスク法が採用されている。
【0004】
詳細は実施形態で説明するが、シャドーマスク法において用いられるマスク薄膜としては、ある色の垂直方向の全てのサブピクセルをまとめてスリット状の開孔部を設け、その開孔部を水平方向に画素ピッチで設けたマスク薄膜や、ある色の垂直方向のサブピクセルごとに開孔部を設けて縦ストライプ状に配置し、その開孔部を水平方向に画素ピッチで設けたマスク薄膜が知られている。
このシャドーマスク法においては、蒸着マスクの精度がOLEDの蒸着歩留まりをはじめとして、その精細度を決める支配的な要素の一つなっていることから、蒸着マスクの高精度化技術がOLEDディスプレイの高精度化を進める上で重要であり、例えば特許文献1に記載の発明をはじめとして、蒸着マスクの精度を向上させるために数々の提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−68082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発光材料を蒸着するための蒸着マスク(シャドーマスク)の形成時においては、まずフォトエッチング等により、薄膜に多数の微細な開孔パターンを設けたマスク薄膜を制作する。次に、このマスク薄膜を枠状の支持フレームに固着することにより、蒸着マスクを形成する。
マスク薄膜を支持フレームに固着する際には、マスク薄膜に所定の張力を付与しつつ、支持フレームの枠状部分にマスク薄膜を固着する構成となっている。このような構成とすることにより、真空蒸着法で発光層を形成する際の熱等に伴う蒸着マスクの撓み等を防止し、OLEDディスプレイの高精細化を実現している。
【0007】
一方、マスク薄膜を支持フレームに固着する際に当該マスク薄膜に張力を付与すると、マスク薄膜が面内で不均一に伸長し、開孔部の位置および寸法がマスク面内において不均一に変化してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、自発光素子を用いた表示装置を高精細化することが可能な蒸着マスク及びその製造方法並びに自発光表示装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)前記課題を解決すべく、マスク薄膜の一面側からのエッチングで形成された第1エッチング領域と、他面側からのエッチングで形成された第2エッチング領域との形成により、当該マスク薄膜の一面側から他面側に貫通する開孔部が形成され、行方向及び列方向にマトリクス状に前記開孔部が配列されるマスク薄膜を備える蒸着マスクであって、前記開孔部は前記行方向及び/又は列方向に異なる開孔幅を有する第1開孔部と第2開孔部とから構成され、前記第1開孔部に形成される前記第1エッチング領域の深さをDa、前記第2開孔部に形成される前記1エッチング領域の深さをDb、前記第1エッチング領域の底部と前記第2エッチング領域の底部とが一致する突出部と、前記第2エッチング領域の周縁部とを結ぶ直線のテーパ角の内、第1開孔部におけるテーパ角をTa、第2開孔部におけるテーパ角をTb、前記第1開孔部と前記第2開孔部とを分離する遮蔽部の内、前記第1及び第2開孔部の短軸方向の幅をW、前記遮蔽部の中心位置から前記第1開孔部における突出部までの前記短軸方向の幅をCwとした場合、0.8≦Db/Da≦1.21、及び0.9≦(W÷2)÷Cw≦1.10、並びに0.8≦Tb÷Ta≦1.2の内の少なくとも2つを満たす蒸着マスクである。
【0010】
(2)前記課題を解決すべく、マスク薄膜の一面側からのエッチングで形成された第1エッチング領域と、他面側からのエッチングで形成された第2エッチング領域との形成により、当該マスク薄膜の一面側から他面側に貫通する開孔部を備える蒸着マスクの製造方法であって、前記マスク薄膜の一面側及び他面側にレジストを塗布し、前記一面側にのみ、異なる2つの開孔幅を有するレジストパターンを形成する工程と、該レジストパターンをエッチングマスクとして当該マスク薄膜を一面側から所定量エッチングし、前記第1エッチング領域を形成する工程と、前記一面側に形成したレジストパターンを除去した後に、当該一面側に耐エッチング性能を有する保護膜を形成する工程と、少なくとも前記他面側にレジストを塗布し、前記異なる開孔幅に対応するレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンをエッチングマスクとして当該マスク薄膜を他面側からエッチングし、前記第2エッチング領域を形成する工程と、前記レジストパターン及び前記保護膜を除去する工程とを備える蒸着マスクの製造方法である。
【0011】
(3)前記課題を解決すべく、映像信号を供給する複数本の映像信号線と、前記映像信号線と交差する複数本の走査信号線と、前記走査信号線と交差する複数本の電源供給線と、前記映像信号線と前記走査信号線との交差領域に形成され、前記電源供給線からの供給電流を制御するトランジスタ素子と、前記トランジスタ素子に接続され、前記供給電流に応じて発光する光量が変化するカラー表示用の副画素とを備え、前記副画素が前記トランジスタ素子に制御される電極層間に発光層を挟持してなる自発光表示装置の製造方法であって、前記発光層が(1)に記載の蒸着マスクを用いて形成される自発光表示装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、張力を付与されたマスク面内においても開孔部の位置や寸法、及び捩れ等を防止した蒸着マスクを形成できるので、自発光素子を用いた表示装置を高精細化することができる。
【0013】
本発明のその他の効果については、明細書全体の記載から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態1の有機EL表示装置における画素配列を説明するための図である。
【図2】本発明の実施形態1の有機EL表示装置における発光層とその形成に必要な蒸着マスクを説明するための図である。
【図3】本発明の実施形態1の蒸着マスクの詳細構成を説明するための断面図である。
【図4】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法で製造した蒸着マスクの構成を説明するための断面図である。
【図5】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図8】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図10】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図13】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図14】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図15】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図16】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図17】本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図18】従来の製造方法で形成される蒸着マスクの詳細構成を説明するための断面図である。
【図19】従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図20】従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図21】従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図22】従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図23】従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図24】従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図である。
【図25】本発明の実施形態2の有機EL表示装置の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明は省略する。
【0016】
〈実施形態1〉
(全体構成)
図1は本発明の実施形態1の自発光表示装置である有機EL表示装置における画素配列を説明するための図である。ただし、以下の説明においては、PXGは画素集合(ピクセルグループ)を示し、PXは画素(ピクセル)すなわちカラー表示用の1つの画素を示し、SPは副画素(サブピクセル)を示す。
また、以下の説明では、蒸着マスクを用いたシャドーマスク法に適した低分子有機EL表示装置の場合について説明するが、他のシャドーマスクを用いた自発光表示装置にも適用可能である。
さらには、本発明は有機EL表示装置の駆動方式に限定されることはなく、パッシブマトリクス駆動及びアクティブマトリクス駆動の何れの有機EL表示装置にも適用可能である。さらには、図中に示すx、yは、それぞれx軸、y軸を示すものである。
【0017】
図1に示すように、実施形態1の有機EL表示装置は、図中の縦方向(y軸方向)には同じ色の画素が配列され、図中の横方向(x軸方向)にはR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の何れかのサブピクセルSPが配列される構成となっている。
【0018】
このとき、実施形態1の有機EL表示装置では、図1中の最上段の画素配列から明らかなように、R−R−G−B−B−R−G−G−B−R−・・・・の配列となっており、RGBの何れかの1つ分のサブピクセルを挟んで、該1つのサブピクセルSPと異なる色であり、かつ同色の2つ分のサブピクセルSPが配列される構成となっている。
すなわち、実施形態1の表示装置では、RGBのサブピクセルSPを組み合わせる事によりピクセルPXを形成する。また、それぞれのピクセルPX内のサブピクセルSPの配列順序を入れ替えた3通りのピクセルPXを配置させることによって、ピクセルグループPXGを形成する構成となっている。以降、ピクセルグループPXGの配列秩序を保持したままで画素配列を設計して有機EL表示装置の表示領域全体を構成している。
【0019】
図1に示す実施形態1の画素配列では、図中の左側から順番に第1ピクセルPX1と、第2ピクセルPX2と、第3ピクセルPX3とが配列さるピクセルグループPXGが、x軸方向に順番に配列される構成となっている。また、第1ピクセルPX1では、図中の左側からRのサブピクセルSP1と、GのサブピクセルSP2と、BのサブピクセルSP3とが順番に形成される構成となっている。
第2ピクセルPX2では、図中の左側からBのサブピクセルSP1と、RのサブピクセルSP2と、GのサブピクセルSP3とが順番に形成される構成となっている。
第3ピクセルPX3では、図中の左側からRのサブピクセルSP1と、GのサブピクセルSP2と、BのサブピクセルSP3とが順番に形成される構成となっている。
【0020】
このように構成した第1ピクセルPX1、第2ピクセルPX2、第3ピクセルPX3を、図中左側からこの順番で配列させることにより、表示領域にはRGBそれぞれのサブピクセルSPがR−R−G−B−B−R−G−G−B−R−・・・・の順番で配列される。
なお、SP1は各ピクセルPX1〜PX3中で図中左側のサブピクセル、SP2は各ピクセル中で真ん中(中心位置)のサブピクセル、SP3は各ピクセル中で右側のサブピクセルを示す。
【0021】
このようなピクセルグループPXGの配列とすることにより、実施形態1の有機EL表示装置では、例えば、Rのサブピクセル配置に注目した場合、第3ピクセルのRのサブピクセルSP3と、該サブピクセルSP3に隣接する第1ピクセルPX1のRのサブピクセルSP1とのように、2つ分のサブピクセルが隣接して配置される。
【0022】
一方、これらのサブピクセルSP1、SP3の他方の側には、それぞれ第3ピクセルPX3のBのサブピクセルSP2、又は第1ピクセルPX1のGのサブピクセルSP2が、1つ分のサブピクセルとして配置される。このように、本発明の実施形態1では、隣接するサブピクセルSPの内で、同色の2つ分のサブピクセルSPが隣接する部分と、このサブピクセルSPに隣接する1つ分のサブピクセルSPとが交互に配置される構成となる。
ただし、前述するRGBの各サブピクセルSPには、Rに対応した発光層、Gに対応した発光層、Bに対応した発光層がそれぞれ形成されるものである。
【0023】
(蒸着マスクの概略構成)
次に、図2に本発明の実施形態1の有機EL表示装置における発光層とその形成に必要な蒸着マスクを説明するための図を示し、以下、図2に基づいて、実施形態1の有機EL表示装置の形成方法の概略を説明する。
ただし、図2において、上段に示す図は実施形態1の有機EL表示装置における画素配列を説明するための図であり、中段に示す図は上段に示すGのサブピクセルの形成に用いる蒸着マスクの開孔を説明するための上面図であり、下段に示す図は中段に示す開孔を有する蒸着マスクのA−A線での断面図である。
【0024】
図2中に示す1つのピクセルグループPXGのGのサブピクセルSPの配置から明らかなように、第1サブピクセルPX1におけるGのサブピクセルSP2はx軸方向の配列では1サブピクセル分となり、次の第2サブピクセルPX2におけるGのサブピクセルSP3と第3サブピクセルPX3におけるGのサブピクセルSP1とは隣接配置されるので、x軸方向の配列では2サブピクセル分となる。以降のGのサブピクセルSPの配置も同様となると共に、他のR、Bのサブピクセルも同様の配置となる。
【0025】
このように、実施形態1の有機EL表示装置においては、RGBの各色のサブピクセルSPは1つ分のサブピクセルSPの後に、隣接した2つ分のサブピクセルSPが配置される構成となるので、図2中の中段に示すように、蒸着マスクMPには1サブピクセル分の発光層幅(x軸方向幅)に対応した第1の開孔部HL1と、2サブピクセル分の発光層幅に対応した第2の開孔部HL2とがx軸方向に交互に配列される構成となる。
なお、前述するように、実施形態1の有機EL表示装置では、表示装置の縦方向すなわちy軸方向への画素配列は同じ色の画素配列となるので、蒸着マスクMPにおけるy軸方向の第1の開孔部HL1と第2の開孔部HL2との配置も同じ配列となる。
【0026】
このときの蒸着マスクMPにおける開孔領域の断面形状は、図2の下段に示すように、蒸着マスクMPを形成するマスク薄膜を図中の上下方向からエッチングする際に、開孔幅が異なるようにマスク薄膜のエッチング幅を異なる幅で形成することにより、第1の開孔部HL1と第2の開孔部HL2とに対応する開孔幅を有する開孔部HLとなる。
したがって、開孔部HLを形成するためのエッチングでエッチングされないマスク薄膜部分(以下、遮蔽部と記す。)MPCも等間隔ではなく、異なる2つの間隔で形成されることとなる。すなわち、遮蔽部MPCは第1の開孔部HL1の幅と第2の開孔部HL2の幅とで隣接配置されることとなる。前述する遮蔽部MPCの配列は、RGBのそれぞれの色に対応した蒸着マスクで同じ配列構成となる。
【0027】
このような蒸着マスクMPの場合、例えば、図2中の下段の図における左から1番目の蒸着マスクMP1部分(遮蔽部MPC)と、2番目の蒸着マスクMP2部分(遮蔽部MPC)との間隔に対応する第1の開孔部HL1と、2番目の蒸着マスクMP2部分(遮蔽部MPC)と3番目の蒸着マスクMP3部分(遮蔽部MPC)との間隔に対応する第2の開孔部HL2とが形成される。
この場合、開孔幅が1サブピクセル分の第1の開孔部HL1と、該第1の開孔部HL1よりも開孔幅の広い(2サブピクセル分の開孔幅を有する)第2の開孔部HL2とがx軸方向に順番に形成される構成となる。
【0028】
その結果、図2の下段の図から明らかなように、蒸着マスクの開孔部におけるx軸方向(画素の短軸方向)に対する断面形状は、第1の開孔部HL1の側と第2の開孔部HL2の側とでは、特に、開孔部HLの周縁部において異なる形状となる。
すなわち、A−A線での断面形状が、断面の延在方向であるx軸方向に対して左右非対称となる。
【0029】
このように、実施形態1の有機EL表示装置に対応した画素を形成するための蒸着マスクを、後に詳述する従来の方法で形成した場合、遮蔽部MPCのx軸方向(A−A線方向)の断面形状が左右非対称となる。このために、マスク薄膜を支持フレームに固着する際の張力付与により、開孔部HLが配列される精密パターン部に捩れ等が生じてしまう。
ここで、本願発明の実施形態1の蒸着マスクでは、後述する条件に基づいて、蒸着マスクMPを形成することにより、張力の付与に伴う開孔部の位置ずれや寸法精度の低下、及びに捩れ等によるマスク不均一を防止するものである。
【0030】
(蒸着マスクの詳細構成)
図3は本発明の実施形態1の蒸着マスクの詳細構成を説明するための断面図であり、以下、図3に基づいて実施形態1の蒸着マスクの詳細構成を説明する。ただし、図3に示す断面図は、図2中に示すA−A線での断面に対応する。
【0031】
図3において、一点鎖線はマスク断面における遮蔽部MPC及び開孔部HLのそれぞれの中心軸を示す。また、Wは遮蔽部MPCの短軸方向の幅、Cwは遮蔽部MPCの中心位置から端部までの短軸方向の長さ、Laは1画素分の開孔部の幅(X)、Lbは2画素分の開孔部の幅(2X)、Da、Dbは断面高さ、Taは開孔部HL1に対応したテーパ角、Tbは開孔部HL2に対応したテーパ角を示す。
【0032】
また、以下に示す条件は、開孔部HL1、HL2の一点鎖線で示す中心軸に対して図中の左右でほぼ同じ形状となるので、以下の説明では、開孔部HL1、HL2の図中左側に配置される遮蔽部の側壁面すなわち遮蔽部MPC1、MPC2の図中右側の側壁面を例に説明する。
【0033】
さらには、後述するように、マスク薄膜MPを一方の面である図3中の上面側(基板側)と他方の面である図3中の下面側(蒸着側)との両側からエッチングし第1及び第2の開孔部HL1、HL2を形成する場合、一方の面からのエッチングによる開孔部HLの側壁面と、他方の面からのエッチングによる開孔部HLの側壁面とが一致した領域には突出部が形成されることとなる。
したがって、本明細書中においては、開孔部HLの開孔幅は隣接する遮蔽部MPCの突出部間の距離とし、Daは一方の面における開孔部HL1の周縁部から突出部までの高さ(断面高さ)、Dbは一方の面における開孔部HL2の周縁部から突出部までの高さ(断面高さ)とする。
【0034】
一般的に、図3中の下面側である蒸着側の開孔部HL1、HL2の形状は、発光層の形成時すなわち発光層の蒸着時の蒸着条件によってその形状がほぼ規定されてしまう。したがって、本願発明の実施形態1の蒸着マスクでは、サブピクセルの蒸着時に有機EL基板の素子形成面と対向して配置される図3中の上面側である基板側の形状を、下記の条件を満たす形状とすることによって、マスク薄膜を支持フレームに固定する際の張力によるマスク薄膜自身に生じる捩れ等のマスク不均一の原因を防止する構成としている。
すなわち、本願発明では、蒸着マスクの基板側をエッチングで形成する際の形状を従来と異なる下記の条件を満たす形状とすることによって、遮蔽部MPC1、MPC2の一点鎖線で示す中心軸に対して左右対称な形状に近づけ、マスク薄膜を支持フレームに固定する際の張力の付与に伴う開孔部の位置ずれや寸法精度の低下、及びマスク薄膜自身の捩れ等を防止するものである。
【0035】
以下に、本発明の実施形態1の蒸着マスクを形成する際の条件を示す。
本願発明では、3つの条件の内の少なくとも2つの条件を満たすことにより、後述するように、精密パターンの捩れを防止できることを発見した。なお、本願発明者が実験で確認したところ、エッチング液等の条件ではなく、マスク薄膜を形成する際のフォトレジストの形成条件を適宜選択して、下記の条件を満たすマスク薄膜を形成することができる。
【0036】
条件1.
断面高さ:Db÷Da=0.8〜1.21
ただし、Da、Db≦10μmである。
【0037】
条件2.
断面の左右対称度:(W÷2)÷Cw=0.9〜1.10
【0038】
条件3.
テーパ角:Tb÷Ta=0.8〜1.2
ただし、Tb≦90°で十分で、Tb≦65°とすることが最適である。
【0039】
このように、実施形態1の蒸着マスクでは、蒸着マスクの基板側面における開孔部HLの形状すなわち遮蔽部MPCの形状を制限することにより、マスク薄膜を支持フレームに固着する際の張力付与に起因する精密パターン部の捩れを防止することが可能な蒸着マスクを形成するものである。
【0040】
(蒸着マスクの製造方法)
図5〜図17は本発明の実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明するための図であり、以下、図5〜図17に基づいて、前述する3つの条件の内の少なくとも2つの条件を満たすことが可能な実施形態1の蒸着マスクの製造方法を説明する。
ただし、図5〜図17に示すエッチング面は、図2及び図3に示すエッチング面と図中における上下が逆となっている。また、以下の説明では、周知のフォトリソグラフィ技術と周知のウェットエッチングを用いて、金属薄膜で蒸着マスク部材となるマスク薄膜を形成する方法について説明する。
【0041】
まず、ステップ1として、図5に示すように、マスク薄膜MPとなる金属薄膜である鋼材を周知の方法である焼鈍により熱処理すると共に、焼鈍に伴う薄膜表面の酸化を焼鈍前と同じ状態に戻すための周知の表面処理を行う。
【0042】
次に、ステップ2として、図6に示すように、マスク薄膜MPの表面(蒸着側面)及び裏面(基板側面)にレジスト(フォトレジスト)REGを塗布する。このステップ2では、塗布したレジストREGの固化も含む。
【0043】
ステップ3では、まず固化されたレジストREGに開孔幅が異なる開孔パターンを有するマスク薄膜を形成するためのマスクパターン(露光パターン)をレジストに露光する。ただし、前述するように、本実施形態の有機EL表示装置では、RGBの各色の発光層を順番に形成 することとなるので、マスクパターンはRGB毎の蒸着マスクに対応したマスクパターンすなわち1サブピクセル分の開孔幅を有する第1の開孔部HL1と2サブピクセル分の開孔幅を有する第2の開孔部HL2とが交互に形成される構成となる。
【0044】
マスクパターンの露光が終了した後には、該レジストREGを現像した後に、第1及び第2の開孔部HL1、HL2に対応した領域のレジストREGを除去することによって、図7に示すように、第1及び第2の開孔部HL1、HL2に対応したレジストREGの開孔領域を形成する。このとき、実施形態1の蒸着マスクの製造方法では、図中の下面側すなわち前述する断面高さDa、Dbにかかわる側にのみ、開孔を有するレジストパターンを形成することによって、まずマスク薄膜MPの一方の面のみをエッチング可能とする。
【0045】
ステップ4では、図8に示すように、ステップ3で形成したレジストパターンをエッチングマスクとしてマスク薄膜MPをエッチングする。ここで、図9に示すように、比較的少ないエッチング量で溝(第1エッチング領域)を形成し、エッチングを終了する。
【0046】
ステップ5では、図10に示すように、レジストREGを除去する。
【0047】
次に、ステップ6では、図11に示すように、ステップ4のエッチングで溝が形成された側に樹脂膜RFを形成する。この樹脂膜RFの形成により、後述するエッチング工程による基板側面からのさらなるエッチングを防止する構成とする。
【0048】
ステップ7では、図12に示すように、マスク薄膜MPの図中の上面側すなわちエッチング深さが深くなる側の面にのみ、レジスト(フォトレジスト)REGを塗布した後に、該レジストREGを固化する。
【0049】
ステップ8では、ステップ4で形成された溝位置に対向する位置に溝(第2エッチング領域)を形成するために、まずレジストに開孔幅が異なる開孔パターンを有するマスク薄膜を形成するための露光パターンをレジストREGに露光する。このときの露光パターンは、図13に示すように、ステップ4で形成された溝よりも幅の大きな溝を形成するためのパターンとする必要があるので、レジストREGのパターン間隔はステップ3で形成するパターン間隔よりも大きな間隔となる。
【0050】
ステップ9では、図14に示すように、ステップ8で形成したレジストパターンREGをエッチングマスクとしてマスク薄膜MPをエッチングする。ここで、図15に示すように、ステップ4で形成した溝に達するまでエッチングする。
【0051】
ステップ10では、図16に示すように、レジストREGを除去する。
【0052】
ステップ11では、図17に示すように、樹脂膜RFを除去することにより、所望のマスク薄膜を形成する。この後に、完成検査を行った後に、該マスク薄膜を支持フレームに固着することによって、蒸着マスクが完成となる。
【0053】
以上のマスク薄膜の製造工程に示すように、実施形態1の蒸着マスクの製造方法では、表面側と裏面側からのエッチングをそれぞれ別の工程で行う、いわゆる2−STEP−エッチングで第1及び第2の開孔部HL1、HL2を形成する。このような工程により、断面高さDa、Dbを所望の高さで形成すると共に、断面の左右対称度である(W÷2)÷Cwを0.9〜1.10の範囲に収まるよう形成可能となる。
【0054】
(効果の説明)
このように形成された蒸着マスクMPにおける開孔部HLすなわち遮蔽部の断面形状は、例えば、図4に示す形状となり、前述する条件1〜3の内で条件1、2を満たすことが可能となる。従って、マスク薄膜を支持フレームに固定するために所定の張力を印可して固定した場合であっても、捩れを防止できる。
【0055】
また、下記の表1は、本発明の実施形態1の製造方法で形成した蒸着マスクと従来の製造方法で形成した蒸着マスクの特性を示す図である。
下記の表1に示すように、蒸着マスクの開孔径を、短径=34μm,長径=68μmの値を満足させるように設計する。今回の実施例においては、フォトレジストの硬化収縮分とマスク金属のオーバエッチング量を考慮して、フォトレジストの開孔幅を短径=30μm,長径=64μmと設計した。
【0056】
表1は、このように設計した場合における実施形態1の製造方法と従来の製造方法とでそれぞれ蒸着マスクを製造した場合の結果を示している。
【0057】
【表1】

【0058】
表1から明らかなように、実施形態1の製造方法で形成した蒸着マスクでは、マスク薄膜の材料として、マスク板厚が40μmであり、マスク材質が36%のNi−Fe合金鋼(36%Ni−Fe)を用いて、第1の開孔部HL1(1画素分の開孔部)の開孔幅が34μm、第2の開孔部HL2(2画素分の開孔部)の開孔幅が68μmの開孔部を交互に形成した。
【0059】
以下、図4及び表1に基づいて、詳細に説明する。
前述するように、実施形態1の蒸着マスクMPは、マスク薄膜の厚さが40μmの金属薄膜を用い、該金属薄膜をウェットエッチングして、蒸着マスクMPを形成している。したがって、実施形態1の蒸着マスクMPの場合、マスク板厚は40μmとなる。
また、第1の開孔部HL1の開孔幅Laは34μm、第2の開孔部HL2の開孔幅Lbは68μmとなり、マスクピッチすなわち第1の開孔部HL1の中心位置と第2の開孔部HL2の中心位置との間隔は96μmである。
【0060】
さらには、第1の開孔部HL1の周縁部を形成する断面高さDaは4μm、第2の開孔部HL2の周縁部を形成する断面高さDbも4μmである。その結果、(W÷2)÷Cwで定義した左右対称度は1.05となり、第1の開孔部HL1の周縁部を形成するテーパ角Taは50°、第2の開孔部HL2の周縁部を形成するテーパ角は45°となる。
【0061】
実施形態1の製造方法で形成した蒸着マスクでは、張力の付与に伴う開孔部HLの位置及び寸法等の不均一な変化の原因である捩れ等を防止するための3つの条件の内で、2つの条件を満たすことが可能である。すなわち、前述した第1条件である第1及び第2の開孔部HL1、HL2の断面高さと、第2条件である遮蔽部MPCの左右対称度については、条件を満たすことが可能であり、第3条件であるテーパ角Ta、Tbのみが条件を満たしていない。
【0062】
ここで、このマスク薄膜に所定の引っ張り張力を与えつつ、支持フレームに固着し蒸着マスクを形成したところ、ピッチ精度を±5μmを満たすことが可能であり、遮蔽部の捩れも防止可能であった。
このように、前述した第1〜第3の条件の内で、少なくとも2つの条件を満たすことによって、開孔幅La、Lbの異なる開孔部HLを同一のマスク薄膜に形成した場合であっても、当該マスク薄膜を支持フレームに固着させる際の引っ張り張力に起因する蒸着マスクの捩れを防止することが可能となり、開孔部HLのピッチ精度の低下を防止することができる。
また、表1に示すように、後述する従来の製造方法で蒸着マスクを製造した場合は、ピッチ精度は10μmであり、マスクの捩れも見られた。
【0063】
このように、前述する条件を満たすために、図18に示す従来の蒸着マスクの製造方法すなわち蒸着面側の開孔形状が制約される蒸着マスクに対して、図4に示す実施形態1の蒸着マスクは、蒸着面側の開孔形状と共に基板側面の開孔形状を所定の形状とすることにより、当該マスク薄膜を支持フレームに固着させる際の引っ張り張力に起因する蒸着マスクの捩れ等を防止することができる。
【0064】
図19〜図24に図18に示す従来の蒸着マスクの製造方法を説明するための図を示し、異なる2つの開孔幅を有する開孔部の形成した場合における課題について説明する。ただし、図19〜図24に示す製造方法におけるエッチング面は、図18に示すエッチング面と図中における上下が逆となっている。
【0065】
従来の蒸着マスクの製造方法では、まず、図19に示すように、マスク薄膜MPとなる金属薄膜である鋼材を周知の方法である焼鈍により熱処理すると共に、焼鈍に伴う薄膜表面の酸化を焼鈍前と同じ状態に戻すための周知の表面処理を行う。
【0066】
次に、図20に示すように、マスク薄膜MPの表面及び裏面にレジスト(フォトレジスト)REGを塗布し、該レジストREGを固化させる。
次に、固化されたレジストREGに開孔幅が異なる開孔パターンを有するマスク薄膜を形成するためのマスクパターン(露光パターン)を表面及び裏面のレジストに露光する。マスクパターンの露光が終了した後には、該レジストを現像し、この後に、開孔部に対応した領域のレジストREGを除去することによって、図21に示す開孔部に対応した開孔領域を有するレジストパターンを形成する。
【0067】
次に、図22に示すように、マスク薄膜MPの表面及び裏面に形成したレジストパターンREGをエッチングマスクとしてマスク薄膜MPをエッチングする。
ここで、表面側からのエッチングで形成される溝と、裏面側からのエッチングで形成される溝とが一致し、貫通するまでエッチングを継続することにより、図23に示すように、マスク薄膜に開孔部を形成する。また、エッチングマスクの間隔が小さいので、表面張力によりエッチング液がマスク薄膜に到達しないために、エッチング工程ではエッチング液に圧力を印可して開孔部HLを形成する。
【0068】
次に、図24に示すように、レジストパターンREGを除去することによりマスク薄膜MPが形成され、完成検査を行った後に、該マスク薄膜MPを支持フレームに固着することによって、蒸着マスクMPが形成される。
このように、従来の蒸着マスクの製造では、マスク薄膜MPの一方の面(図18中の上面)と、該一方の面に対向する他方の面(図18中の下面)との両面側からエッチングを同時に行い、開孔部HLを形成するものである。このとき、一方の面と他方の面とではエッチングの際に形成するエッチングマスクのマスクにおける開孔幅を異なる開孔幅で形成する。
【0069】
前述する従来の製造方法を用いて、フォトレジストによるエッチングマスクをマスク薄膜の両面側に形成した後に、両面側からエッチングを行い、開孔部HLを形成した場合、開孔部の周縁部のマスク断面図(遮蔽部の断面図)から明らかなように、開孔部HL1の断面高さDaと開孔部HL2の断面高さDbとでは異なる高さとなる。
【0070】
図18において、第1の開孔部HL1の開孔幅LaをX、その断面高さがDa、第2の開孔部HL2の開孔幅Lbが開孔部HL1の2倍の2Xであり、その断面高さがDbの場合、下記の式(1)の関係が成り立つ。
Db=K×(2X÷X)×Da ……… (1)
ただし、式(1)において、Kは0.6〜1.0の値となり、エッチング条件によって異なる。
【0071】
このような遮蔽部MPCの非対称性については、開孔部HLの開孔幅が大きくなるほど、開孔部HLを形成するためのエッチング液が多く入るために、エッチング断面の高さ(深さ)であるマスク断面高さは開孔幅の大きい第2の開孔部HL2の方が大きくなるためである。
【0072】
以上説明したように、実施形態1の蒸着マスクの製造方法(RGBの各色ごとに対応する発光材料で有機発光層を成膜する選択成膜法の内でもシャドーマスクを用いたシャドーマスク選択成膜法)では、マスク薄膜MPの表面及び裏面にレジストを塗布し、断面高さDa、Dbにかかわる側である基板側面にのみ、異なる2つの開孔幅を有するレジストパターンを形成する工程と、該レジストパターンをエッチングマスクとしてマスク薄膜を基板側面からエッチングする工程と、基板側に形成したレジストパターンを除去する工程と、前述のエッチング工程で溝が形成された基板側面に耐エッチング性能を有する樹脂膜を形成し、該基板側面をコーティングする工程と、少なくとも蒸着面側にレジストを塗布し、当該蒸着面側に前記異なる開孔幅に対応するレジストパターンを形成する工程と、該レジストパターンをエッチングマスクとしてマスク薄膜を蒸着側面からエッチングする工程と、該レジストパターン及び前記樹脂膜を除去する工程とからなるマスク薄膜の形成工程を有し、基板側面をエッチングし、2つの異なる開孔幅の溝を形成する際に、一方の開孔幅の溝のエッチング深さをDa、前記第1の開孔幅よりも大きい他方の開孔幅の溝のエッチング深さをDbとした場合、Db/Daが0.8以上1.21以下であり、Da及びDbが10μm以下となるように蒸着マスクを形成するので、マスク薄膜を支持フレームに固定する際に張力を付与した場合であっても、蒸着マスクの開孔部位置及び開孔部寸法を所定値に保持することができる。その結果、実施形態1の蒸着マスクを用いて発光層を高精細に形成することが可能となり、有機EL表示装置を高精細化することが可能となる。
【0073】
〈実施形態2〉
本発明の実施形態2においては本発明の実施形態1の蒸着マスクを用いた有機EL表示装置の製造方法について説明する。
【0074】
図25は本発明の実施形態1の蒸着マスクを用いた有機EL表示装置の製造方法を説明するための図であり、特に、基板SUB上にRGBの各色の有機膜からなる発光層を形成する工程に適用される方法である。ただし、実施形態1の有機EL表示装置の製造方法は、実施形態1の蒸着マスクを用いるRGBの発光層の形成工程を除く他の工程は従来の製造工程と同じ工程となる。
また、シャドーマスク法を用いて形成される発光層を除く他の薄膜層は、周知のフォトリソグラフィ技術を用いて形成することが可能である。なお、以下の説明では、サブピクセル毎に発光層への電流供給を制御する薄膜トランジスタを有するアクティブマトリクス型の場合について説明するが、本願発明は各サブピクセルに直接電荷を印可するパッシブマトリクス型にも適用可能である。また、本発明はボトムエミッション型、及びトップエミッション型のいずれの有機EL表示装置にも適用可能である。
【0075】
以下、図25に基づいて実施形態1の有機EL表示装置の製造方法を説明する。
まず、透明なガラス基板等からなる基板SUBの素子形成面側には、図1中に示す各サブピクセルに映像信号を供給する図示しない映像信号線と、各サブピクセルを選択する選択信号である走査信号を供給する図示しない走査信号線が形成されている。例えば、映像信号線は図1中のy軸方向に延在しx軸方向に並設され、走査信号線は図1中のx軸方向に延在しy軸方向に並設される構成となっている。
【0076】
また、基板SUBには各サブピクセルに形成され発光輝度に対応した電荷を保持する図示しない容量素子と、該容量素子への走査信号の書き込みを制御する図示しない第1の薄膜トランジスタ(スイッチング用トランジスタ素子)と、発光素子を含む有機EL素子(OLED)と、容量素子の電荷に応じて有機EL素子に流す電流を制御する図示しない第2の薄膜トランジスタ(駆動用トランジスタ素子)と、該第2の薄膜トランジスタに有機EL素子の駆動電流を供給する図示しない電源供給線と、有機EL素子を介して第2の薄膜トランジスタのドレイン端子と対向する側に接続される図示しない共通電極(接地線)を備える構成となっている。
【0077】
このような構成の有機EL表示装置の形成では、まず、透明なガラス基板等からなる基板SUBの素子形成面側には、映像信号線を形成する工程と、走査信号線を形成する工程と、走査信号線に出力される走査信号に基づいて、映像信号線に出力される映像信号の該当する画素の容量素子への書き込みを制御する第1の薄膜トランジスタを形成する工程と、書き込まれた電荷を少なくとも1フレーム期間保持する容量素子を形成する工程と、有機EL素子に流す電流を制御する第2の薄膜トランジスタを形成する工程と、詳細を後に詳述する有機EL素子を形成する工程と、各有機EL素子に共通して接続される共通電極を形成する工程を少なくとも備えている。
【0078】
ここで、有機EL素子を形成する実施形態2における発光層の形成では、図25に示すように、周知の図示しない真空蒸着装置内に蒸着マスクMPを介して、基板SUBと蒸着源DESとが対向配置される構成となっている。すなわち、蒸着装置の上方に基板SUBの素子形成面が図中の下方に向けて配置される構成となっている。
該基板SUBの下方には、所定の距離で蒸着マスクMPが基板側面を図中の上方にして配置される構成となっている。
また、蒸着マスクMPの図中の下方には、蒸着源DESが配置される構成となっている。この蒸着源DESは、周知の加熱ホルダと該加熱ホルダに充填された蒸着材料とからなる。このような配置で基板SUB、蒸着マスクMP、及び蒸着源DESを配置することによって、基板SUB及び蒸着マスクMPに対して斜めに蒸着材料が出射された場合であっても蒸着マスクMPの開孔部HLの周縁部による影響を抑える構成としている。
【0079】
この実施形態2に示す有機EL表示装置における発光層の形成では、真空蒸着装置内を真空状態にした後に、加熱ホルダを加熱することにより蒸着材料が蒸発し、該蒸発した蒸着材料が蒸着マスクMPを介して基板SUBに到達することとなる。
このとき、実施形態1の蒸着マスクMPでは、図25に示すように、図中の横方向(左右方向)に1サブピクセル分の開孔幅を有する開孔部HL1と、2サブピクセル分の開孔幅を有する開孔部HL2とが交互に形成される構成となっている。
【0080】
したがって、基板SUB上に到達する蒸着材料も開孔部HL1と開孔部HL2の開孔幅に制限され、この結果、図25中に示すように、蒸着材料で形成される薄膜である発光層の幅も開孔部HL1に対応する幅を有する第1の発光層LUL1と、開孔部HL2に対応する幅を有する第2の発光層LUL2とが形成されることとなる。
ここで、前述するように、実施形態1の有機EL表示装置では、第1及び第2の発光層LUL1、LUL2に接続される図示しない電極幅は1サブピクセル分の幅となっているので、2サブピクセル分の発光層LUL2が形成される領域においても、発光は2つのサブピクセルの独立した発光制御が可能となる。
【0081】
以上に説明した発光層LUL1、LUL2の形成を他のRBの副画素に対しても順次行うことにより、カラー表示に必要となるRGBの各サブピクセルを形成できる。ただし、前述するように、RBの各サブピクセルを形成するための蒸着マスクMPも前述するGの蒸着マスクMPと同様の構成となるので、基板SUB上に形成される発光層LUL1、LUL2は図1に示すように、RGBの色毎に1サブピクセル分の画素幅を有する発光層LUL1と、2サブピクセル分の画素幅を有する発光層LUL2とが交互に配列される構成となる。
【0082】
このように、実施形態1に示す蒸着マスクを用いた実施形態2の有機EL表示装置の製造方法では、例えば、図25に示すように、発光層LULを形成する際に、RGBの何れかの色に対応した蒸着材料は蒸着マスクの蒸着源DESの側に配置される。
一方、発光層LULが形成される側である基板SUBの蒸着面すなわち半導体や電極等が形成される素子形成面と、蒸着マスクMPの基板側面とが対向するように配置される。このとき、実施形態1の蒸着マスクMPでは、前述する条件の内の2つ以上の条件を満たす構成となっているので、蒸着マスクMPに形成される開孔部HLの形成精度を所望の精度で形成することができるので、有機EL表示装置の基板SUBの電極上に発光層LULを形成する際にも高精度で形成することが可能となる。
【0083】
このとき、実施形態1の蒸着マスクMPでは、前述するように、RGBの各発光層LULを形成するための蒸着マスクMPの開孔部HLの形状が1つ分のサブピクセル幅の開孔部HL1と、2つ分のサブピクセル幅の開孔部HL2とが交互に配置される構成となっているので、開孔部HLの形成数を減少させ蒸着マスクMPの強度を向上させることが可能となると共に、異なる開孔幅の開孔部HLを形成することに伴う遮蔽部MPCの局部変形を防止できるからである。
【0084】
以上に説明した本願発明の蒸着マスクは、携帯電話やDSC、PDAといった情報処理端末に使用される高精細の有機EL表示装置の製造に特に有効な技術である。
【0085】
以上、本発明者によってなされた発明を、前記発明の実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記発明の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【符号の説明】
【0086】
PXG…画素集合(ピクセルグループ)、PX…画素(ピクセル)
SP…副画素(サブピクセル)、MP…蒸着マスク,マスク薄膜
HL,HL1,HL2…開孔部、MPC,MPC1,MPC2,MPC3…遮蔽部
REG…レジスト(レジストパターン)、RF…樹脂膜、LUL…発光層
DES…蒸着源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスク薄膜の一面側からのエッチングで形成された第1エッチング領域と、他面側からのエッチングで形成された第2エッチング領域との形成により、当該マスク薄膜の一面側から他面側に貫通する開孔部が形成され、行方向及び列方向にマトリクス状に前記開孔部が配列されるマスク薄膜を備える蒸着マスクであって、
前記開孔部は前記行方向及び/又は列方向に異なる開孔幅を有する第1開孔部と第2開孔部とから構成され、
前記第1開孔部に形成される前記第1エッチング領域の深さをDa、前記第2開孔部に形成される前記1エッチング領域の深さをDb、
前記第1エッチング領域の底部と前記第2エッチング領域の底部とが一致する突出部と、前記第2エッチング領域の周縁部とを結ぶ直線のテーパ角の内、第1開孔部におけるテーパ角をTa、第2開孔部におけるテーパ角をTb、
前記第1開孔部と前記第2開孔部とを分離する遮蔽部の内、前記第1及び第2開孔部の短軸方向の幅をW、前記遮蔽部の中心位置から前記第1開孔部における突出部までの前記短軸方向の幅をCwとした場合、
0.8≦Db/Da≦1.21、及び0.9≦(W÷2)÷Cw≦1.10、並びに0.8≦Tb÷Ta≦1.2
の内の少なくとも2つを満たすことを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
前記第1エッチング領域の深さDa及び前記第2エッチング領域の深さDbが10μm以下であることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蒸着マスクにおいて、
前記第2開孔部におけるテーパ角Tbが90°以下であることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の蒸着マスクにおいて、
前記第2開孔部におけるテーパ角Tbが65°以下であることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項5】
請求項1乃至4の内の何れかに記載の蒸着マスクにおいて、
前記第2開孔部の短軸方向の開孔幅が、前記第1開孔部の短軸方向の開孔幅の2倍であることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項6】
請求項1乃至5の内の何れかに記載の蒸着マスクにおいて、
前記第1開孔部と前記第2開孔部とが前記短軸方向に交互に配列されることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項7】
マスク薄膜の一面側からのエッチングで形成された第1エッチング領域と、他面側からのエッチングで形成された第2エッチング領域との形成により、当該マスク薄膜の一面側から他面側に貫通する開孔部を備える蒸着マスクの製造方法であって、
前記マスク薄膜の一面側及び他面側にレジストを塗布し、前記一面側にのみ、異なる2つの開孔幅を有するレジストパターンを形成する工程と、
該レジストパターンをエッチングマスクとして当該マスク薄膜を一面側から所定量エッチングし、前記第1エッチング領域を形成する工程と、
前記一面側に形成したレジストパターンを除去した後に、当該一面側に耐エッチング性能を有する保護膜を形成する工程と、
少なくとも前記他面側にレジストを塗布し、前記異なる開孔幅に対応するレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンをエッチングマスクとして当該マスク薄膜を他面側からエッチングし、前記第2エッチング領域を形成する工程と、
前記レジストパターン及び前記保護膜を除去する工程とを備えることを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の蒸着マスクの製造方法において、
前記開孔部は開孔の短軸方向の開孔幅が異なる第1開孔部と第2開孔部とからなり、
前記第1開孔部に形成される前記第1エッチング領域の深さをDa、前記第2開孔部に形成される前記1エッチング領域の深さをDb、
前記第1エッチング領域の底部と前記第2エッチング領域の底部とが一致する突出部と、前記第2エッチング領域の周縁部とを結ぶ直線のテーパ角の内、第1開孔部におけるテーパ角をTa、第2開孔部におけるテーパ角をTb、
前記第1開孔部と前記第2開孔部とを分離する遮蔽部の内、前記第1及び第2開孔部の短軸方向の幅をW、前記遮蔽部の中心位置から前記第1開孔部における突出部までの前記短軸方向の幅をCwとした場合、
0.8≦Db/Da≦1.21、及び0.9≦(W÷2)÷Cw≦1.10、並びに0.8≦Tb÷Ta≦1.2
の内の少なくとも2つを満たすことを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の蒸着マスクの製造方法において、
前記第1エッチング領域の深さDa及び前記第2エッチング領域の深さDbが10μm以下であることを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項10】
請求項7乃至9の内の何れかに記載の蒸着マスクの製造方法において、
前記第2開孔部におけるテーパ角Tbが90°以下であることを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項11】
請求項7乃至9の内の何れかに記載の蒸着マスクの製造方法において、
前記第2開孔部におけるテーパ角Tbが65°以下であることを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【請求項12】
映像信号を供給する複数本の映像信号線と、前記映像信号線と交差する複数本の走査信号線と、前記走査信号線と交差する複数本の電源供給線と、前記映像信号線と前記走査信号線との交差領域に形成され、前記電源供給線からの供給電流を制御するトランジスタ素子と、前記トランジスタ素子に接続され、前記供給電流に応じて発光する光量が変化するカラー表示用の副画素とを備え、
前記副画素が前記トランジスタ素子に制御される電極層間に発光層を挟持してなる自発光表示装置の製造方法であって、
前記発光層が請求項1乃至6の内の何れかに記載の蒸着マスクを用いて形成されることを特徴とする自発光表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−54290(P2011−54290A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199397(P2009−199397)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】