説明

蒸着装置、成膜方法及び有機EL装置の製造方法

【課題】有機EL装置の製造に適した真空蒸着装置であり、一台の蒸着装置で複数層の膜を成膜することが可能な蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空蒸着装置(蒸着装置)1は真空室2を有し、真空室2内に、基板保持壁3と、4台の蒸発装置5a,5b,5c,5dと蒸気チャンバー6及び4個の坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dを内蔵している。坩堝設置室12の外周面には、設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18が取り付けられている。坩堝設置室12には設置室側温度センサー28が設けられている。それぞれの坩堝設置室12a,12b,12c,12dを各層の薄膜材料に適した温度に保温する。蒸気通過部13は、発生部保温手段の目標温度の中で最も高い最高目標温度以上の温度を目標温度として保温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着装置に関するものである。本発明は、特に有機EL(Electro Luminesence)装置の製造に用いる蒸着装置として好適である。
また本発明は、成膜方法及び有機EL装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に変わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0003】
ここで有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL素子を積層したものである。
また有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL素子は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。
有機EL装置は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面状に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0004】
有機EL装置の代表的な層構成は、図19の通りである。図19に示される有機EL装置200は、ボトムエミッション型と称される構成であり、ガラス基板201に、透明電極層202と、機能層203と、裏面電極層205が積層され、これらが封止部206によって封止されたものである。
また機能層203は、複数の有機化合物の薄膜が積層されたものである。代表的な機能層203の層構成は、図20の通りであり、正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213を有している。
【0005】
有機EL装置200は、ガラス基板201上に、前記した層を順次成膜することによって製造される。
ここで上記した各層の内、透明電極層202は、酸化インジウム錫(ITO)等の透明導電膜層であり、主にスパッタ法あるいはCVD法によって成膜される。
機能層203は、前記した様に複数の有機化合物の薄膜が積層されたものであり、各薄膜はいずれも真空蒸着法によって成膜される。
裏面電極層205は、アルミニウム等の金属薄膜であり、真空蒸着法によって成膜される。
【0006】
この様に有機EL装置を製造する際には、真空蒸着法が多用される。ここで真空蒸着法は、例えば特許文献1に開示された様な真空蒸着装置を使用して成膜する技術である。
即ち真空蒸着装置は、真空室と、薄膜材料を蒸発させる蒸発装置によって構成されるものである。真空室は、ガラス基板を設置することができるものである。
蒸発装置は電気抵抗や電子ビームを利用した加熱装置と、薄膜材料を入れる坩堝とによって構成されている。
【0007】
そして多くの場合、ガラス基板は、真空室の天井側に水平姿勢に設置される。一方、蒸発装置の坩堝は、ガラス基板の下部に設置されている。
そして坩堝内の薄膜材料が、電気抵抗等によって加熱され、蒸発して上方に向かって飛散し、ガラス基板の下面に付着して成膜される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−274370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術の真空蒸着装置は、所望の品質の膜を成膜することができるものであるが、生産性が低いという不満があった。即ち従来技術の真空蒸着装置は、一種類の膜しか成膜することができないものであった。つまり従来技術の真空蒸着装置の真空室は、坩堝を一台しか持たず、一種類の膜を製造する機能しか持たず、複数の膜を一台の真空蒸着装置で製造することはできない。そのため、例えば、一室で成膜した後に、搬送室またはロードロック室などを介して基板を搬送し、次の真空蒸着装置へ移動して製造する必要があり、一枚のガラス基板に有機EL素子を積層するのに時間が掛かっていた。
【0010】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、一台の蒸着装置で複数層の膜を成膜することを可能にし、単位時間あたりに製造可能な製品数が多い蒸着装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するための方策として、複数の坩堝を真空室内に設置し、使用する坩堝を切り換えて成膜することによって一台の蒸着装置で複数層の膜を成膜する方策を検討した。
しかしこの方策は、薄膜材料の劣化や、真空室等の内壁に薄膜材料が凝縮して付着するという不具合が懸念された。
即ち一枚のガラス基板に連続的に膜を積層するためには、現在使用中の坩堝だけでなく、他の坩堝も高温状態を維持しておく必要がある。少なくとも次に成膜する薄膜材料は予熱しておく必要がある。一方、また坩堝を設置した空間の内壁に、薄膜材料が凝縮して付着することを防ぐために、坩堝を設置した空間の内壁も高温状態に保温しておく必要がある。
【0012】
しかしながら成膜すべき各層の素材は相違し、沸点が相違するために、適切な保温温度が相違する。例えば前記した機能層203を一台の真空蒸着装置で成膜する場合を想定すると、正孔注入層210用の薄膜材料を第1の坩堝に入れ、正孔輸送層211の薄膜材料を第2の坩堝に入れ、発光層212の薄膜材料を第3の坩堝に入れ、電子輸送層213用の薄膜材料を第4の坩堝に入れてそれぞれ蒸発させておく必要があるが、坩堝を設置した空間の内壁を最も沸点の高い薄膜材料に適した温度に保温すると、他の薄膜材料が熱によって変成してしまう。
逆に沸点の低い薄膜材料に適した温度に保温すると、他の薄膜材料が空間の内壁に付着してしまう。
【0013】
そこでこの問題を解決するためにさらに研究を重ね、請求項1に記載の発明を完成した。
即ち請求項1に記載の発明は、基材を設置可能な真空室を有し、当該真空室内に基材を設置し、薄膜材料を蒸散させて前記基材に所定成分の膜を蒸着する蒸着装置において、基材に対して薄膜材料を放出する薄膜材料放出部と、薄膜材料を蒸発させる複数の蒸発装置と、蒸発装置を設置する複数の蒸発装置設置部と、前記蒸発装置設置部と薄膜材料放出部とを連通して蒸発装置が発生させる薄膜材料の蒸気を薄膜材料放出部に移動させる蒸気通過部と、薄膜材料放出部に薄膜材料を供給する蒸発装置を切り換える切り換え手段と、各蒸発装置設置部を保温する発生部保温手段と、蒸気通過部を保温する通路保温手段とを有し、蒸発装置設置部と蒸気通過部を別々の温度に保温することができることを特徴とする蒸着装置である。
【0014】
本発明の蒸着装置では、蒸発装置設置部を保温する発生部保温手段と、蒸気通過部を保温する通路保温手段を有し、さらに蒸発装置設置部と蒸気通過部を別々の温度に保温することができる。そのため各蒸発装置設置部と蒸気通過部を適切な温度に保温することができる。
本発明の蒸着装置で例えば有機EL素子の機能層203(図20)を成膜する場合は、例えば4基の蒸発装置を用意し、第1の蒸発装置に正孔注入層210用の薄膜材料を入れ、第2の蒸発装置に正孔輸送層211の薄膜材料を入れ、第3の蒸発装置に発光層212の薄膜材料を入れ、第4の蒸発装置に電子輸送層213用の薄膜材料を入れる。
そしてそれぞれを蒸発させると共に、それぞれの蒸発装置設置部を各層の薄膜材料に適した温度に保温する。
一方、蒸気通過部は、発生部保温手段の目標温度の中で最も高い最高目標温度以上の温度を目標温度として保温する。
各蒸発装置は、実際に稼働している時間以外に、準備加熱の時間があるが、それぞれの蒸発装置設置部が各層の薄膜材料に適した温度に保温されているから、薄膜材料の劣化や壁に対する薄膜材料の付着は起こらない。
一方、蒸気通過部は、高い温度に保温されているから、壁に対する薄膜材料の付着は起こらない。また蒸気通過部は、高い温度に保温されているが、薄膜材料の蒸気が通過するのに要する時間は短いから、個々の薄膜材料が蒸気通過部の内壁と接触する機会は少なく、薄膜材料が劣化することはない。
【0015】
請求項2に記載の発明は、蒸発装置設置部の目標温度を設定する発生部温度設定手段と、蒸気通過部の目標温度を設定する通路温度設定手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置である。
【0016】
本発明の蒸着装置では、蒸発装置設置部を保温する発生部保温手段を有し、さらに発生部保温手段の目標温度を設定する発生部温度設定手段を備える。そのため各蒸発装置設置部をその薄膜材料に応じた温度に保温することができる。
また本発明の蒸着装置は、蒸気通過部を保温する通路保温手段を有し、さらに通路保温手段の目標温度を設定する通路温度設定手段を有する。
そのため、蒸気通過部を適切な温度に保温することができる。
【0017】
蒸気通過部は主流路部と当該主流路部に接続された複数の分岐流路部とを有し、前記主流路部が薄膜材料放出部に接続され、分岐流路部が蒸発装置設置部に接続されていることが推奨される(請求項3)。
【0018】
主流路部や分岐流路部は、配管の管路で構成されていてもよく、ダクトの様なもので構成されていてもよい。さらに装置内に仕切りを設けることによって流路が構成されたものであってもよい。
【0019】
請求項4に記載の発明は、切り換え手段は開閉弁であり、当該開閉弁は前記分岐流路部に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の蒸着装置である。
【0020】
開閉弁は、実質的に全閉止可能なものであれば足り、具体的な構造は問わない。そのため、バタフライ弁、仕切り弁、ボール弁の様なハウジングと弁体を備えたものだけでなく、スライド方向に移動するシャッターや、ウイング式の閉止扉も開閉弁に含まれる。もちろん、ニードル弁の様な構造のものも開閉弁に含まれる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、薄膜材料放出部に掃気用の気体を供給する掃気手段を備え、掃気用の気体は常温で気体であり、薄膜材料放出部に残留する薄膜材料の蒸気を掃気用の気体で置換可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蒸着装置である。
【0022】
本発明によると、掃気用の気体で、薄膜材料放出部に残留する薄膜材料の蒸気を追い出すことができるので、薄膜材料の混合が起こらない。
【0023】
蒸着装置を使用して成膜を行う発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の蒸着装置を使用し、各蒸着装置で異なる薄膜材料を蒸発させ、各蒸発装置設置部を発生部保温手段によってそれぞれの薄膜材料に応じた目標温度に保温し、通路保温手段は各発生部保温手段の目標温度の中で最も高い最高目標温度以上の温度を目標温度として保温し、切り換え手段を切り換えて薄膜材料放出部から異なる種類の薄膜材料を順次放出して基材に複数層の膜を積層することを特徴とする成膜方法である(請求項6)。
【0024】
また蒸着装置を使用して有機EL装置を製造する発明は、基材上に少なくとも第一電極層と、複数の有機化合物の薄膜からなり発光層含む機能層と、第2電極層を順次積層して有機EL装置を製造する方法において、請求項1乃至5のいずれかに記載の蒸着装置を使用し、蒸着装置で機能層を構成する複数の有機化合物をそれぞれ蒸発させることを特徴とする有機EL装置の製造方法である(請求項7)。
【発明の効果】
【0025】
本発明の蒸着装置は、一台の装置で膜の積層を行うことができるので、単位時間あたりに成膜処理可能な基材数が多く、生産性が高い。
【0026】
本発明の成膜方法についても同様であり、一台の蒸着装置で膜の積層を行うので、単位時間あたりに成膜処理可能な基材数が多く、生産性が高い。
【0027】
本発明の有機EL装置の製造方法についても同様であり、一台の蒸着装置で機能層を構成する膜の積層を行うので、単位時間あたりに成膜処理可能な基材数が多く、生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態の真空蒸着装置の概念図である。
【図2】図1の真空蒸着装置の内部の斜視図である。
【図3】図1の真空蒸着装置で採用する坩堝の斜視図である。
【図4】図1の真空蒸着装置で採用する真空チャンバーと坩堝設置室の構造を示す分解斜視図である。
【図5】図1の真空蒸着装置で採用する薄膜材料放出部の正面図である。
【図6】(a)と(b)は、図1の真空蒸着装置を使用して有機EL装置の機能層を成膜する際の工程を示す説明図である。
【図7】(c)と(d)は、図1の真空蒸着装置を使用して有機EL装置の機能層を成膜する際の工程を示す説明図であり、図6に続く工程を示す。
【図8】(e)と(f)は、図1の真空蒸着装置を使用して有機EL装置の機能層を成膜する際の工程を示す説明図であり、図7に続く工程を示す。
【図9】(g)と(h)は、図1の真空蒸着装置を使用して有機EL装置の機能層を成膜する際の工程を示す説明図であり、図8に続く工程を示す。
【図10】本発明の第2実施形態の真空蒸着装置の薄膜材料放出部とガラス基板の斜視図である。
【図11】本発明の第3実施形態の真空蒸着装置の薄膜材料放出部とガラス基板の斜視図である。
【図12】本発明の第4実施形態の真空蒸着装置の概念図である。
【図13】本発明の第5実施形態の真空蒸着装置の概念図である。
【図14】本発明の第6実施形態の真空蒸着装置の概念図である。
【図15】本発明の第7実施形態の真空蒸着装置の概念図である。
【図16】本発明の第8実施形態の真空蒸着装置の坩堝設置室の配置を示す斜視図である。
【図17】集積型の有機EL装置の層構成を簡単に説明する有機EL装置の概念図の一例である。
【図18】(a)〜(f)は、図15の有機EL装置の製造方法の各工程を示す基板の断面図である。
【図19】有機EL装置の代表的な層構成を示す断面図である。
【図20】有機EL素子の代表的な層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本発明の第1実施形態に係る真空蒸着装置1は、図1に示す様に、真空室2を有し、真空室2内に、基板保持壁3と、4台の蒸発装置5a,5b,5c,5dと蒸気チャンバー6及び4個の坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dを内蔵したものである。即ち真空蒸着装置1は、第1の蒸発装置5aと、第2の蒸発装置5bと、第3蒸発装置5cと、第4の蒸発装置5dを持つ。
また真空蒸着装置1は、第1の坩堝設置室12aと、第2の坩堝設置室12bと、第3の坩堝設置室12cと、第4の坩堝設置室12dを持つ。
さらに真空蒸着装置1は、各部の温度を調節するための制御装置62を備えている。
【0030】
真空室2は、公知のそれと同様に、ガラス基板(基材)7を設置することができる広い空間8を有する部材である。
真空室2は、気密性を有している。また真空室2には、真空ポンプ9が接続されており、内部を高真空雰囲気に保つことができる。
【0031】
基板保持壁3は、壁状の部位であり、図示しない基板保持具が設けられている。また基板保持壁3の裏面には、冷却配管33が取り付けられている。冷却配管33には冷却液が循環し基板保持壁3の温度を一定の温度に維持する。
【0032】
蒸発装置5a,5b,5c,5dは、公知の坩堝10と気化用電気ヒータ11によって構成されている。坩堝10は、図3に示すような溝型のものである。即ち坩堝10は、長細い形状をしている。蒸発装置5a,5b,5c,5dの坩堝10は、いずれも同一の構造であるが、説明上、第1の蒸発装置5aに内蔵されている坩堝を第1の坩堝10aとし、第2の蒸発装置5bに内蔵されている坩堝を第1の坩堝10bとし、以下、蒸発装置5と坩堝10の番号に付されたアルファベットを統一する。
【0033】
蒸発装置5a,5b,5c,5dの構造及び機能は、公知のそれと同一であり、坩堝10内に薄膜材料を入れ、気化用電気ヒータ11で薄膜材料を溶融し、さらに気化させることができる。
【0034】
坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dは、蒸発装置5a,5b,5c,5dを入れる小部屋であり、それぞれ独立しており、いずれも内部に空間がある。また坩堝設置室12a,12b,12c,12dの上部には、開口14a,14b,14c,14dがあり、当該開口14にそれぞれ切り換えシャッター(切り換え手段)17a,17b,17c,17dが設けられている。なお切り換えシャッター(切り換え手段)17a,17b,17c,17dは、それぞれ開口14a,14b,14c,14dを全閉止することができるものであり、開閉弁として機能している。
坩堝設置室12a,12b,12c,12dの外周面には、設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dが取り付けられている。さらに坩堝設置室12a,12b,12c,12dには設置室側温度センサー28a,28b,28c,28dが設けられている。
坩堝設置室12a,12b,12c,12dの内部には、それぞれ蒸発装置5a,5b,5c,5dが一個ずつ収納されている。
【0035】
蒸気チャンバー6は、坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dを収容する空間を形成すると共に、薄膜材料の蒸気が通過する通路として機能するものであり、坩堝設置部16と縦流路形成部26と薄膜材料放出部25とが一体化されたものである。また蒸気チャンバー6の内部は蒸気通過部13として機能する。
即ち蒸気チャンバー6の坩堝設置部16は、最も下部の位置にあって比較的広い空間を有し、その内部に前記した坩堝設置室12a,12b,12c,12dが並べて設置されている。また前記した様に坩堝設置室12a,12b,12c,12d内には、それぞれ蒸発装置5a,5b,5c,5dが一個ずつ収納されている。
【0036】
各坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dの上面65と、蒸気チャンバー6における坩堝設置部16の天井面66との間には空間があり、この空間は、横方向蒸気通過部67として機能する。なお横方向蒸気通過部67は、主流路部としての機能を兼ねている。また坩堝設置室12a,12b,12c,12dの開口14a,14b,14c,14dの部分が短い分岐流路部として機能する。
【0037】
本実施形態では、横方向蒸気通過部67と蒸気チャンバー6の外部とを接続する給気配管43が設けられている。この給気配管43は、真空室2の壁面を貫通し、外部と連通している。なお給気配管43には、開閉弁45、減圧弁46を介してアルゴンや窒素等の不活性ガスのボンベ47が接続されている。減圧弁46は、ボンベ47の圧力を大気圧よりも相当に低い圧力に減圧することができる。
【0038】
縦流路形成部26は、坩堝設置部16の上部にあり、坩堝設置部16と連通する縦方向蒸気通過部15を形成している。
【0039】
本実施形態で採用する縦流路形成部26は、図2に示す様に、外形形状が長方形の板状であり、正面側と裏面側に大面積の平面部20,21がある。平面部20,21は何れも長方形である。
平面部20,21を繋ぐ側壁部22,23及び天面壁部24は、前記した平面部20,21よりも面積が小さい。
本実施形態では、平面部20,21と側壁部22,23及び天面壁部24によって縦方向蒸気通過部15が囲まれ、この縦方向蒸気通過部15が図1の様に坩堝設置部16と連通している。
【0040】
本実施形態では、縦流路形成部26の平面部20が、薄膜材料放出部25として機能する。即ち平面部20には、図2、図5の様に多数の孔27が設けられている。孔27の大きさは、一様ではなく、上部側に配されたものが下部側に配されたものよりも大きい。
薄膜材料放出部25は、当業者の間で、エリアソースと称される原料供給方式を採用するものであり、後記する様に各孔27から気化した薄膜材料を放出する。
【0041】
また本実施形態では、蒸気チャンバー6の外周部に流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)35,36,37が取り付けられている。さらに蒸気チャンバー6には通路側温度センサー38が取り付けられている。
【0042】
本実施形態の真空蒸着装置1は、前記した様に真空室2に、基板保持壁3と、4台の蒸発装置5a,5b,5c,5dと蒸気チャンバー6及び4個の坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dを内蔵したものであり、蒸気チャンバー6は、真空室2の下部に設置されている。
即ち図1のレイアウトに示す様に、蒸気チャンバー6の坩堝設置部16は真空室2の下部にあり、蒸気チャンバー6の縦流路形成部26は真空室2の一方側に寄った位置に立設している。従って縦流路形成部26の平面部20(薄膜材料放出部25)は、真空室2の中心方向に面し、薄膜材料放出部25の孔27は、いずれも中心近傍から外側に向かって開いている。
【0043】
また蒸気チャンバー6の坩堝設置部16の上に基板保持壁3が設けられている。そのためガラス基板7が無い状態においては、基板保持壁3が蒸気チャンバー6の縦流路形成部26と対向する。
【0044】
本実施形態の真空蒸着装置1では、ガラス基板7は、基板保持壁3に載置される。即ちガラス基板7は、基板保持壁3に縦置き状に設置される。そしてガラス基板7の一方の面が、基板保持壁3と接し、ガラス基板7は図示しない基板保持具で基板保持壁3に固定されている。
なおガラス基板7の大きさは、薄膜材料放出部25と略等しい。
【0045】
前記した設置室側温度センサー28a,28b,28c,28dの信号と、通路側温度センサー38の信号が制御装置62に入力されている。また前記した設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dと、流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)35,36,37は、制御装置62から出力される信号によって制御される。
本実施形態では、4組の設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dは、それぞれ個別に制御される。そのため本実施形態では、坩堝設置室(蒸発装置設置部)12a,12b,12c,12dの温度を個別に制御することができる。即ち本実施形態では、坩堝設置室12a,12b,12c,12dの目標温度を制御装置62によって個別に制御することができる。
より具体的には、制御装置62は、第1坩堝設置室12aの目標温度を設定する第1温調節器62aと、第2坩堝設置室12bの目標温度を設定する第2温調節器62bと、第3坩堝設置室12cの目標温度を設定する第3温調節器62cと、第4坩堝設置室12dの目標温度を設定する第4温調節器62dとを備えている。
【0046】
また本実施形態では、流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)35,36,37についても制御される。そのため本実施形態では、蒸気通過部13たる縦流路形成部26と、横方向蒸気通過部67が坩堝設置室12a,12b,12c,12dとは別個独立して温度制御される。
より具体的には、制御装置62は、蒸気通過部13の目標温度を設定する第5温調節器63を備えている。
【0047】
次に本実施形態の真空蒸着装置1の作用を、有機EL装置の機能層203を成膜する工程を例に説明する。
【0048】
本実施形態の真空蒸着装置1で有機EL素子の機能層203を成膜する場合は、第1の坩堝設置室12aの坩堝10aに正孔注入層210用の薄膜材料を入れ、第2の坩堝設置室12bの坩堝10bに正孔輸送層211の薄膜材料を入れ、第3の坩堝設置室12cの坩堝10cに発光層212の薄膜材料を入れ、第4の坩堝設置室12dの坩堝10dに電子輸送層213用の薄膜材料を入れる。
そしてそれぞれの薄膜材料を蒸発させる。なお各坩堝設置室12a,12b,12c,12dの切り換えシャッター17a,17b,17c,17dは閉じておく。
【0049】
またそれぞれの坩堝設置室12a,12b,12c,12dを各層の薄膜材料に適した温度に保温する。
即ち第1温調節器62aの設定温度を正孔注入層210用の薄膜材料の蒸気を保温するのに適する温度を設定する。同様に第2温調節器62bの設定温度を正孔輸送層211用の薄膜材料の蒸気を保温するのに適する温度を設定し、第3温調節器62cの設定温度を発光層212用の薄膜材料の蒸気を保温するのに適する温度を設定し、第4温調節器62dの設定温度を電子輸送層213用の薄膜材料の蒸気を保温するのに適する温度を設定する。
なお、薄膜材料の蒸気を保温するのに適する温度は、真空下における各薄膜材料の沸点よりも、摂氏10度から摂氏30度程度高い温度である。
【0050】
各坩堝設置室12a,12b,12c,12dでは、薄膜材料が気化し、かつ各坩堝設置室12a,12b,12c,12dの切り換えシャッター17a,17b,17c,17dは閉じられているから、各坩堝設置室12a,12b,12c,12d内に薄膜材料の蒸気が充満する。しかしながら、坩堝設置室12a,12b,12c,12dは各層の薄膜材料に適した温度に保温されているから、薄膜材料の劣化や壁に対する薄膜材料の付着は起こらない。
【0051】
また蒸気通過部13を前記した坩堝設置室12a,12b,12c,12dの目標温度の中で最も高い温度(最高目標温度)に保温する。
即ち第5温調節器63の設定温度を、第1温調節器62aから第4温調節器62dの設定温度の中で、最も高い温度に一致させる。
【0052】
これと並行して真空室2内にガラス基板7を設置し、真空室2内を高真空状態に減圧する。
【0053】
そして最初に、ガラス基板7に正孔注入層210を成膜する。
即ち、図6(a)の様に、第1坩堝設置室12aに設けられた切り換えシャッター17aを開き、第1坩堝設置室12aの開口14aを開放する。その結果、第1坩堝10aで蒸発した正孔注入層210用の薄膜材料の蒸気が、切り換えシャッター17aから横方向蒸気通過部67内に入り、さらに縦方向蒸気通過部15を経て薄膜材料放出部25の孔27からガラス基板7に向かって放出される。
より具体的には、第1坩堝設置室12a内の薄膜材料の蒸気は、横方向蒸気通過部67(各坩堝設置室12a,12b,12c,12dの上面65と、蒸気チャンバー6における坩堝設置部16の天井面66との間に形成された空間)を図面横方向に流れる。そしてさらに蒸気は、横方向蒸気通過部67から縦流路形成部26内に形成された縦方向蒸気通過部15に入る。さらにその蒸気は、薄膜材料放出部25の孔27からガラス基板7に向かって放出される。
【0054】
薄膜材料放出部25に設けられた孔27は、面状の広がりをもって分布している。そして薄膜材料放出部25はガラス基板7に対向している。さらに薄膜材料放出部25の大きさは、ガラス基板7と略等しく、且つ両者は平行に向き合っている。
さらにガラス基板7の外側の面には、基板保持壁3が接しており、基板保持壁3には冷却機能があるから、ガラス基板7の温度は、低温に維持されている。
【0055】
そのため薄膜材料放出部25の孔27から放出された薄膜材料の蒸気は、ガラス基板7の全面に均等に吹きつけられ、ガラス基板7の表面で熱を奪われて固化する。その結果、ガラス基板7の表面に正孔注入層210用の薄膜材料の層が成膜される。
【0056】
また正孔注入層210用の薄膜材料の蒸気が通過する蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)は、共に坩堝設置室12a,12b,12c,12dの目標温度の中で最も高い温度に保温されており、少なくとも正孔注入層210用の薄膜材料の沸点よりも高いから、蒸気通過部13内で蒸気が凝縮することはない。
また蒸気が蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)を通過するのに要する時間は、極めて短いから、薄膜材料が変質することもない。
【0057】
正孔注入層210が成膜されている間は、その他の坩堝設置室12b,12c,12d内では、それぞれの薄膜材料の蒸気が充満しているが、各坩堝設置室12b,12c,12dは、それぞれの薄膜材料に適した温度に保温されているから、薄膜材料が変質したり、内壁に凝縮することはない。
【0058】
正孔注入層210の成膜を終えると、前記した蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)を掃気する。
即ち、図6(b)の様に、第1坩堝設置室12aに設けられた切り換えシャッター17aを閉じ、開閉弁45を短時間だけ開いて、蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)に不活性ガスを極僅かだけ導入する。
【0059】
前記した様に、横方向蒸気通過部67は給気配管43を介して真空室2の外部と連通しており、給気配管43には開閉弁45、減圧弁46を介して不活性ガスのボンベ47が接続されている。また減圧弁46は、ボンベ47の圧力を大気圧よりも相当に低い圧力に減圧するものである。そのため、開閉弁45を短時間だけ開くと、ボンベ47の不活性ガスが横方向蒸気通過部67に導入される。
即ちボンベ47から供給される不活性ガスは、大気圧以下の圧力であるが、横方向蒸気通過部67は、高真空に減圧されているから、不活性ガスが横方向蒸気通過部67に導入され、さらに縦方向蒸気通過部15を通過して薄膜材料放出部25の孔27から放出される。
その結果、蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)内に残留する薄膜材料の蒸気は、不活性ガスに押し出され、蒸気通過部13内が不活性ガスで置換される。
【0060】
ただし導入される不活性ガスは、極めて微量であるから、真空室2内の真空度を過度に低下させることはない。また真空ポンプ9は、常時運転されているので、たとえ、真空度が低下しても、すぐに元の真空度に復帰する。
【0061】
蒸気通過部13内の掃気工程が終わると、続いて正孔輸送層211を成膜する。具体的には、図7(c)の様に、第2の坩堝設置室12bに設けられた切り換えシャッター17bを開き、第2の坩堝設置室12bを開放する。その結果、第2坩堝10bから蒸発した正孔輸送層211用の薄膜材料の蒸気が、切り換えシャッター17bから横方向蒸気通過部67内に入り、さらに縦方向蒸気通過部15を経て薄膜材料放出部25の孔27から、ガラス基板7に向かって放出される。
蒸気の流れの詳細は、前記した正孔注入層210の成膜と同様であり、横方向蒸気通過部67を横切って縦流路形成部26内に形成された縦方向蒸気通過部15に入り、さらに薄膜材料放出部25の孔27からガラス基板7に向かって放出される。
【0062】
この場合も、正孔輸送層211の薄膜材料の蒸気が通過する蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)は、共に坩堝設置室12a,12b,12c,12dの目標温度の中で最も高い温度(最高目標温度)に保温されており、少なくとも正孔輸送層211の薄膜材料の沸点よりも高いから、蒸気通過部13内で蒸気が凝縮することはない。
また蒸気が蒸気通過部13を通過するのに要する時間は、極めて短いから、薄膜材料が変質することもない。
【0063】
正孔輸送層211が成膜されている間の時間は、その他の坩堝設置室12a,12c,12d内では、それぞれの薄膜材料の蒸気が充満しているが、各坩堝設置室12a,12c,12dは、それぞれの薄膜材料に適した温度に保温されているから、薄膜材料が変質したり、内壁に凝縮することはない。
【0064】
正孔輸送層211の成膜を終えると、図7(d)の様に前記した蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)を掃気する。
掃気の方法及び作用は、前記した正孔注入層210後の掃気と同一である。
【0065】
蒸気通過部13内の掃気工程が終わると、続いて発光層212を成膜する。
具体的には、図8(e)の様に、第3坩堝設置室12cに設けられた切り換えシャッター17cを開き、第3坩堝設置室12cを開放する。その結果、第3坩堝10cから蒸発した発光層212用の薄膜材料の蒸気が、切り換えシャッター17cから横方向蒸気通過部67内に入り、さらに縦方向蒸気通過部15を経て薄膜材料放出部25の孔27から、ガラス基板7に向かって放出される。
【0066】
発光層212の成膜を終えると、前記した蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)を掃気する(図8(f))。
そしてさらに続いて電子輸送層213を成膜する。
具体的には、図9(g)の様に、第4坩堝設置室12dに設けられた切り換えシャッター17dを開き、第4坩堝設置室12dを開放する。その結果、第4坩堝10dから蒸発した電子輸送層213用の薄膜材料の蒸気が、切り換えシャッター17dから横方向蒸気通過部67内に入り、さらに縦方向蒸気通過部15を経て薄膜材料放出部25の孔27から、ガラス基板7に向かって放出される。
【0067】
電子輸送層213の成膜を終えると、前記した蒸気通過部13(横方向蒸気通過部67と縦方向蒸気通過部15)を掃気し(図9(h))、一連の成膜工程を終える。
成膜されたガラス基板7は、真空室2から取り出され、所望の後加工を経て有機EL装置等となる。
【0068】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態において、先の実施形態と同一の部材には同一の番号を付し、重複した説明を省略する。
先の実施形態では、多数の孔27を有する薄膜材料放出部25を例示した。即ち先の実施形態では、いずれもエリアソースと称される原料供給方式を採用するものであり、多数の孔27が面状に分布しているが、他の方式の原料供給方式を採用してもよい。
図10(第2実施形態)は、ポイントソースと称される原料供給方式を採用するものであり、一つの開口から原料を放出するものである。
即ち図10に示す真空蒸着装置70では、坩堝設置部71から管状の蒸気通過部72が突出している。そして蒸気通過部72は先端部分が水平方向に折り曲げられ、その開口75が、ガラス基板7に対向している。
また蒸気通過部72には、流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)73が取り付けられている。
本実施形態においても、各坩堝設置室(蒸発装置設置部)の保温温度をそれぞれ個別に設定及び制御することができる。また蒸気通過部72の目標温度についても、各坩堝設置室とは独立して個別に設定及び制御することができる。
他の構成は、先の実施形態と同一である。
【0069】
また図11(第3実施形態)は、リニアソースと称される原料供給方式を採用するものであり、縦に配された開口列77から原料を放出するものである。本実施形態では、開口列77が薄膜材料放出部として機能する。
なお図11の構成を採用する場合には、ガラス基板7を開口列77に対して相対的に移動させる必要がある。
開口列77の近傍には、流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)76が取り付けられている。
本実施形態においても、各坩堝設置室(蒸発装置設置部)の保温温度をそれぞれ個別に設定及び制御することができる。また蒸気通過部の目標温度についても、各坩堝設置室とは独立して個別に設定及び制御することができる。
他の構成は、先の実施形態と同一である。
【0070】
また前記した実施形態では、坩堝10等の蒸発装置5を真空室2内に配置したが、蒸発装置5を真空室2の外に設置してもよい。
図12(第4実施形態)に示す真空蒸着装置85では、4個の坩堝設置室(蒸発装置設置部)93a,93b,93c,93dを有し、4個の坩堝設置室93a,93b,93c,93dは、いずれも真空室2の外にある。また真空室2内には、前記した蒸気チャンバー6の蒸気通過部13に相当する蒸気チャンバー86が設けられている。そして4個の坩堝設置室93a,93b,93c,93dと真空室2内の蒸気通過部13が管路88で接続されている。
管路88は主管部(主流路部)83と当該主管部83に接続された複数の分岐管部(分岐流路部)87とを有している。具体的には、管路88は、5個の導入側ポートと1個の吐出側ポートを有するマニホールド96を有し、吐出側ポートが真空室2内の蒸気通過部13に接続されている。
【0071】
一方、4個の導入側ポートは、それぞれ開閉弁97a,97b,97c,97dを介してそれぞれの坩堝設置室93a,93b,93c,93dに接続されている。
本実施形態で採用する開閉弁(切り換え手段)97a,97b,97c,97dは、全閉状態にすることが可能である。
【0072】
また、残る導入側ポート98には、開閉弁45と減圧弁46を介して不活性ガスのボンベ47が接続されている。
本実施形態の真空蒸着装置85では、各坩堝設置室93a,93b,93c,93d内の坩堝10a,10b,10c,10dに異なる種類の薄膜材料が投入される。
本実施形態の真空蒸着装置85では、開閉弁97a,97b,97c,97dを切り換えることにより、ガラス基板7に向かって放出される薄膜材料を変更することができる。
【0073】
前記した実施形態における蒸気チャンバー6と同様に、本実施形態においても、蒸気チャンバー86に流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)50が取り付けられている。またマニホールド96にも流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)51が取り付けられている。さらにマニホールド96と蒸気チャンバー86の間の配管52にも流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)53が取り付けられている。
【0074】
また坩堝設置室93a,93b,93c,93dの外周面には、設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dが取り付けられている。
第1実施形態の真空蒸着装置1(図1)と同様に、本実施形態の真空蒸着装置85においても、制御装置62によって流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)50,51,53と設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dが制御されている。そして、流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)50,51,53と、設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dとは、別個に温度設定が可能である。また設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)18a,18b,18c,18dは、それぞれ、個別に温度設定が可能である。
【0075】
第1実施形態の真空蒸着装置1(図1)と同様に、本実施形態の真空蒸着装置85においても、坩堝設置室93a,93b,93c,93d内の坩堝10a,10b,10c,10dに異なる種類の薄膜材料を投入することにより、異なる種類の薄膜を順次成膜することができる。この際の管路88及び蒸気通過部13の目標温度については、第1実施形態における蒸気通過部13と同様に設定することができる。即ち、管路88及び蒸気通過部13を、坩堝設置室93a,93b,93c,93dの目標温度の中で最も高い温度(最高目標温度)に保温する。これにより、管路88と蒸気チャンバー86の温度が各薄膜材料の沸点よりも十分に高い温度に維持されるから、いずれの薄膜材料を気化させても管路88や蒸気チャンバー86内で固化してしまうことはない。この構成によれば、蒸発装置93a,93b,93c,93dの切り換え時(薄膜材料の切り換え時)に管路88や蒸気チャンバー86の温度を変える必要がない。
【0076】
また本実施形態においても、第1実施形態(図6〜図9)と同様に、蒸発装置93a,93b,93c,93dの切り換え時には、不活性ガスを管路88と蒸気通過部13に通し、残留した薄膜材料の蒸気を押し出して取り除く(掃気工程)。
【0077】
前記した実施形態では、蒸気通過部を掃気するために、ボンベから不活性ガスを導入した。
他の掃気方法としては、例えば図13の様に、空の小チャンバー55をマニホールド96の1つの導入側ポートに開閉弁56を介して接続し、掃気に際して開閉弁66を開き、小チャンバー55内の空気を真空室2の真空で吸引させる構成を採用することもできる。また小チャンバー55内を予め低真空に減圧しておき、真空室2内に吸引させる気体の量を少量に制限することもできる。同様の理由から、小チャンバー55の容積を真空室2や管路88及び蒸気チャンバー86の容積に対して十分小さなものとすることによって、真空室2内に吸引させる気体の量を少量に制限する方策も考えられる。
【0078】
上記した実施形態では、蒸発装置及び坩堝設置室を4個有するものを例に説明したが、それ以上の数やそれ以下の数であってもよい。要するに、積層する膜の層数に応じた数の蒸発装置及び坩堝設置室を有することが望ましく、10以上の蒸発装置及び坩堝設置室を有していてもよい。
【0079】
上記した実施形態では、4個の坩堝設置室をそれぞれ個別の温度に設定できる構成を示したが、坩堝設置室を温度領域ごとに区分し、複数の坩堝設置室をまとめて温度調節する構成も可能である。
【0080】
例えば図14に示す真空蒸着装置の様に、8個の坩堝設置室93a,93b,93c,93d,93e,93f,93g,93hを有する場合、この8個の坩堝設置室93を高温保温、中温保温、低温保温という様に複数の区分に分割し、区分に含まれる坩堝設置室93を一まとめにして温度調節してもよい。
【0081】
また上述した実施形態は、いずれもガラス基板7を縦置き姿勢にして成膜を行うものであったが、水平姿勢に保持して成膜を行うものであってもよい。
図15(第7実施形態)は、ガラス基板7を水平姿勢に保持して成膜を行う真空蒸着装置の例を示すものである。
図15に示す、真空蒸着装置80は、基板保持壁81が真空室2の天面側に水平に配されている点と、薄膜材料放出部25及びこれを構成する流路形成部82が水平姿勢である点を除いて、図12に示す真空蒸着装置と同一の構造である。
そのため同一の部材に同一の番号を付し、詳細な説明を省略する。
【0082】
上述した実施形態では、複数の坩堝設置室が一列に並べて配置されていたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図16に示すように、坩堝設置室を複数列に並べて配置されたものでもよい。図16に示す例(第8実施形態)では、9個の坩堝設置室12a〜12iが、3個を1列として計3列に並べて配置されている。本実施形態においても、坩堝設置室12a〜12iは、図1の様に真空室2内に設置してもよいし、図12の様に真空室2外に設置してもよい。
【0083】
次に、上述した真空蒸着装置1等によって製造されることが望ましい有機EL装置の構造及びその製造方法について説明する。
以下に例示する有機EL装置100は、集積型の有機EL装置である。集積型の有機EL装置100は、短冊状に形成された有機EL素子(以下、「単位EL素子」と称する)を電気的に直列に接続したものである。
集積型有機EL装置100の層構成は図17の通りであり、前記した基本構成の有機EL装置200(図19)と同一であるが、複数の溝が設けられていて一つの平面状の有機EL素子が短冊状の単位EL素子に分割されている。
即ち、集積型の有機EL装置100は、ガラス基板101に透明電極層102と機能層103及び裏面電極層104が順次積層されたものであるが、各層に溝110,111,112,113が形成されている。
具体的に説明すると、透明電極層102に第一溝110が形成され、透明電極層102が複数に分割されている。また機能層103には第二溝111が形成され、機能層103が複数に分割され、さらに当該第二溝111の中に裏面電極層104の一部が進入して溝底部で透明電極層102と接している。
さらに機能層103の第三溝112と裏面電極層104に設けられた第四溝113が連通し、全体として深い共通溝115が形成されている。
【0084】
集積型有機EL装置100は、透明電極層102に設けられた第一溝110と、機能層103(具体的には正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213)及び裏面電極層104に設けられた共通溝115によって各薄層が区画され、独立した単位EL素子120a,120b・・・が形成されている。そして前記した様に、第二溝111の中に裏面電極層104の一部が進入し、裏面電極層104の一部が透明電極層102と接しており、一つの単位EL素子120aは隣接する単位EL素子120bと電気的に直列に接続されている。
即ち外部から供給される電流は、透明電極層102側から機能層103を経て裏面電極層104側に向かって流れるが、裏面電極層104の一部が第二溝111を介して透明電極層102と接しており、最初の単位EL素子120aを経て隣の単位EL素子120bの透明電極層102に流れる。この様に集積型の有機EL装置100では、各単位素子が全て直列に電気接続され、全ての単位素子が発光する。
【0085】
集積型の有機EL装置100を製造する際には、最初の工程として図18(a)の様にガラス等の透光性を有する基板(基材)101の上に、透明電極層102を成膜する。
透明電極層102には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化錫(SnO2)酸化亜鉛(ZnO)等が用いられる。透明電極層102はスパッタ法やCVD法によって基板101に形成される。
【0086】
そして続いて、第一レーザスクライブ工程を行い、図18(b)の様に、透明電極層102に対してレーザスクライブによって第一溝110を形成する。
【0087】
次に、この基板101を真空蒸着装置に入れ、正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213を順次堆積し、図18(c)に示すように、機能層103を形成する。
この機能層103を形成する際にも本実施形態の真空蒸着装置1等を使用することができる。特に本実施形態の真空蒸着装置1等を採用すれば、前記した正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213を、一つの真空蒸着装置で成膜することができるので、高い生産性をもって機能層103の成膜を行うことができる。
【0088】
そして真空蒸着装置から取り出した基板101に対して第二レーザスクライブ工程を行い、図18(d)の様に機能層103に第二溝111を形成する。
【0089】
続いて、真空蒸着装置に前記基板101を挿入し、図18(e)の様に機能層103の上に、アルミニウム(Al)や銀(Ag)などの金属材料からなる裏面電極層104を形成する。
裏面電極層104を形成する工程についても、本発明の真空蒸着装置1等を使用することができる。
【0090】
さらに続いて第三レーザスクライブ工程を行い、図18(f)の様に裏面電極層104と機能層103の双方に共通溝115を形成する。
【0091】
そしてさらに図示しない給電電極の成形や、その外側における分離溝(図示せず)の成形、分離溝の外側部分の裏面電極層104等の除去及び封止部による封止の作業が行われて有機EL装置(光電変換装置)が完成する。
【符号の説明】
【0092】
1 真空蒸着装置(蒸着装置)
2 真空室
3 基板保持板
5 蒸発装置
6 蒸気チャンバー
7 ガラス基板(基材)
9 真空ポンプ
10a,10b,10c,10d 坩堝
10e,10f,10g,10h 坩堝
11a,11b,11c,11d 気化用電気ヒータ
12a,12b,12c,12d 坩堝設置部(蒸発装置設置部)
12e,12f,12g,12h,12i 坩堝設置部(蒸発装置設置部)
13 蒸気通過部
15 縦方向蒸気通過部
16 坩堝設置部
17a,17b,17c,17d 切り換えシャッター(切り換え手段)
18 設置室側電気ヒータ(発生部保温手段)
25 薄膜材料放出部
27 孔
28a,28b,28c,28d 設置室側温度センサー
35,36,37 流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)
38 通路側温度センサー
43 給気配管
45 開閉弁
46 減圧弁
47 ボンベ
50,51,53 流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)
55 小チャンバー
56 開閉弁
62 制御装置
67 横方向蒸気通過部
70 真空蒸着装置(蒸着装置)
71 坩堝設置部(蒸発装置設置部)
72 蒸気通過部
76 流路保温用電気ヒータ(通路保温手段)
80 真空蒸着装置(蒸着装置)
81 基板保持壁
82 流路形成部
83 主管部(主流路部)
85 真空蒸着装置(蒸着装置)
86 蒸気チャンバー
87 分岐管部(分岐流路部)
88 管路
93a,93b,93c,93d 坩堝設置室(蒸発装置設置部)
93e,93f,93g,93h 坩堝設置室(蒸発装置設置部)
96 マニホールド
97a,97b,97c,97d 開閉弁(切り換え手段)
97e,97f,97g,97h 開閉弁(切り換え手段)
100 有機EL装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を設置可能な真空室を有し、当該真空室内に基材を設置し、薄膜材料を蒸散させて前記基材に所定成分の膜を蒸着する蒸着装置において、基材に対して薄膜材料を放出する薄膜材料放出部と、薄膜材料を蒸発させる複数の蒸発装置と、蒸発装置を設置する複数の蒸発装置設置部と、前記蒸発装置設置部と薄膜材料放出部とを連通して蒸発装置が発生させる薄膜材料の蒸気を薄膜材料放出部に移動させる蒸気通過部と、薄膜材料放出部に薄膜材料を供給する蒸発装置を切り換える切り換え手段と、各蒸発装置設置部を保温する発生部保温手段と、蒸気通過部を保温する通路保温手段とを有し、蒸発装置設置部と蒸気通過部を別々の温度に保温することができることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
蒸発装置設置部の目標温度を設定する発生部温度設定手段と、蒸気通過部の目標温度を設定する通路温度設定手段とを有することを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
蒸気通過部は主流路部と当該主流路部に接続された複数の分岐流路部とを有し、前記主流路部が薄膜材料放出部に接続され、分岐流路部が蒸発装置設置部に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
切り換え手段は開閉弁であり、当該開閉弁は前記分岐流路部に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の蒸着装置。
【請求項5】
薄膜材料放出部に掃気用の気体を供給する掃気手段を備え、掃気用の気体は常温で気体であり、薄膜材料放出部に残留する薄膜材料の蒸気を掃気用の気体で置換可能であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の蒸着装置を使用し、各蒸着装置で異なる薄膜材料を蒸発させ、各蒸発装置設置部を発生部保温手段によってそれぞれの薄膜材料に応じた目標温度に保温し、通路保温手段は各発生部保温手段の目標温度の中で最も高い最高目標温度以上の温度を目標温度として保温し、切り換え手段を切り換えて薄膜材料放出部から異なる種類の薄膜材料を順次放出して基材に複数層の膜を積層することを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
基材上に少なくとも第一電極層と、複数の有機化合物の薄膜からなり発光層含む機能層と、第2電極層を順次積層して有機EL装置を製造する方法において、請求項1乃至5のいずれかに記載の蒸着装置を使用し、蒸着装置で機能層を構成する複数の有機化合物をそれぞれ蒸発させることを特徴とする有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−52187(P2012−52187A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195892(P2010−195892)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】