説明

蓄熱材マイクロカプセル

【課題】蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆され、かつ高温加熱後のマイクロカプセル皮膜が十分な耐溶剤性を持つ蓄熱材マイクロカプセルを提供することを課題とする。
【解決手段】多価イソシアネート化合物とアミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物とを反応させて得られる樹脂からなる皮膜で蓄熱材が内包されてなる蓄熱材マイクロカプセルにおいて、多価イソシアネート化合物が、少なくともカルボジイミド変性体を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄熱材を内包したマイクロカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、熱エネルギーを有効に利用することにより、省エネルギー化を図ることが求められている。その有効な方法として、物質の相変化に伴う潜熱を利用して蓄熱を行う方法が考えられてきた。相変化を伴わない顕熱のみを利用する方法に比べ、潜熱を利用する方法は、融点を含む狭い温度域に大量の熱エネルギーを高密度に貯蔵できるため、蓄熱材容量の縮小化がなされるだけでなく、蓄熱量が大きい割に大きな温度差が生じないため熱損失を少量に抑えられる利点を有する。
【0003】
潜熱を利用する蓄熱材は、融解(液状)と凝固(固体状)を繰り返すため、液状の蓄熱材が外部に流出しないように、密閉容器に封入させたり、高分子系や無機系素材のマトリックス中に吸収保持させて使用する必要がある。そのため、熱交換効率が低下したり、用途が制限されたりすることが多かった。そこで、蓄熱材を広範囲な用途で効率良く利用するために、蓄熱材をマイクロカプセル化する方法が提案されている。蓄熱材をマイクロカプセル化することにより、蓄熱材の相状態に関係なく、外観状態を一定に保つことが可能となる。
【0004】
蓄熱材マイクロカプセルを媒体に分散させたマイクロカプセル分散液では、蓄熱材の相状態に依らず、液体として取り扱うことができる。マイクロカプセル分散液から媒体を除去して乾燥させたマイクロカプセル固形物では、常に固形状態として取り扱うことができる。
【0005】
蓄熱材マイクロカプセルの皮膜としては、in−situ法を用いたアミノ樹脂が用いられることが多く、その中でもメラミンとホルマリンの付加縮合法によって得られるメラミン樹脂を代表として挙げることができる。しかしながら、樹脂中に残留する未反応のホルマリンを完全に除去するのが困難であったり、処理後の物に着色や臭気が生じたりすることがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
これに対して、ホルマリンを使用しないで製造可能なポリウレアやポリウレタンウレア等のマイクロカプセル皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルが提案されている(例えば、特許文献2〜5参照)。これら特許文献では、皮膜形成時に多価イソシアネート化合物として、芳香族系イソシアネート化合物のトリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等、脂肪族系イソシアネート化合物のヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等、及びこれらのアロハネート変性体、ビュレット変性体、ウレア変性体、プレポリマー変性体、アダクト体、イソシアヌレート変性体等が使用できることが記載されている。しかしながら、これらの多価イソシアネート化合物を使用して製造した蓄熱材マイクロカプセルでは、蓄熱材との組み合わせによっては、蓄熱材を完全にはマイクロカプセル皮膜で被覆しきれなかったり、高温加熱後のマイクロカプセル皮膜の耐溶剤性が不十分になるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−38136号公報
【特許文献2】特開2003−3158号公報
【特許文献3】特開2004−189843号公報
【特許文献4】特開2004−269574号公報
【特許文献5】特開2006−233342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆されていて、かつ高温加熱後のマイクロカプセル皮膜が十分な耐溶剤性を持つ蓄熱材マイクロカプセルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、次の発明を見出した。
(1)多価イソシアネート化合物とアミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物とを反応させて得られる樹脂からなる皮膜で蓄熱材が内包されてなる蓄熱材マイクロカプセルにおいて、多価イソシアネート化合物が、少なくともカルボジイミド変性体を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセル、
(2)カルボジイミド変性体が、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体である上記(1)記載の蓄熱材マイクロカプセル。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蓄熱材マイクロカプセルは、多価イソシアネート化合物とアミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物とを反応させて得られる樹脂からなる皮膜で蓄熱材が内包されてなる蓄熱材マイクロカプセルにおいて、多価イソシアネート化合物が、少なくともカルボジイミド変性体を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセルである。カルボジイミド変性体を使用することで、蓄熱材がカプセルマイクロ皮膜で十分に被覆されていて、かつ高温加熱後のマイクロカプセル皮膜の耐溶剤性を十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられるマイクロカプセル化の手法は一般に界面重合法と称される。具体的には、芯材となる蓄熱材に可溶な油溶性の反応性化合物(化合物A)を溶解した蓄熱材を、界面活性剤と活性水素を有する化合物(化合物B)とを溶解した連続水溶液相に微小滴状に分散する。次いで、加熱および攪拌を施して、蓄熱材相と水相とにそれぞれ溶解していた化合物Aと化合物Bが、蓄熱材相と水相との界面で重合して、水および油に不溶性の樹脂皮膜を形成し、マイクロカプセルが得られる。具体的な皮膜としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリウレタン、ポリウレタンウレア皮膜のマイクロカプセルが知られているが、相変化時の蓄熱材の多数回の膨張−収縮に耐え得るだけの強度と弾力性、および塗工や含浸工程に耐え得る物理的、化学的強度を有する皮膜として、ポリウレア、ポリウレタンまたはポリウレタンウレア樹脂皮膜を有するマイクロカプセルが蓄熱材マイクロカプセルとして好ましく使われている。本発明の蓄熱材マイクロカプセルは、化合物Aとしては、多価イソシアネート化合物を用い、化合物Bとしては、アミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物を用いる。
【0011】
本発明において、多価イソシアネート化合物としては、カルボジイミド変性体を少なくとも用いる。多価イソシアネート化合物のカルボジイミド変性体は、少なくとも1個以上のカルボジイミド基またはカルボジイミド基から誘導される誘導基を有し、かつ少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。多価イソシアネート化合物のカルボジイミド変性体は、芯材となる蓄熱材に可溶または相溶するものであるのが好ましい。具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、トルエン−2,4,6−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2′−ジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4(又は2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、trans(又はcis)−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネートなどのカルボジイミド変性体が挙げられる。さらに、これらのカルボジイミド変性体から誘導されたウレトンイミン変性体、アシル尿素変性体などが挙げられる。これらは組合わせて用いることもできる。少なくともカルボジイミド変性体を含む多価イソシアネート化合物の総量は、蓄熱材に対し1〜50質量%の範囲で添加される。
【0012】
これらの多価イソシアネート化合物のカルボジイミド変性体のなかでも、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体またはその誘導体が好適に用いられる。ジフェニルメタンジイソシアネートとは、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート及びジフェニルメタン−2,2′−ジイソシアネートを含めた総称である。
【0013】
多価イソシアネート化合物のカルボジイミド変性体を用いることで、蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆され、かつ高温加熱後のマイクロカプセル皮膜の耐溶剤性が十分に確保された蓄熱材マイクロカプセルが得られる理由は、カルボジイミド変性体と蓄熱材との相溶性や溶解性、多価アミン化合物との反応性、カルボジイミド構造の脱水作用で蓄熱材油滴に混在していた水分が除去・排除されて多価イソシアネート化合物と多価アミン化合物との反応が円滑に進行したことなどが複合的に作用して、蓄熱材油滴/分散相界面でカプセル化反応が十分に進行し、得られたマイクロカプセル皮膜樹脂の高分子構造や架橋構造が高温加熱後の耐溶剤性を十分に発現する構造を取るためと推測される。
【0014】
本発明では、多価イソシアネート化合物のカルボジイミド変性体以外の多価イソシアネート化合物を共重合成分として併用することができる。併用することができる多価イソシアネート化合物は、少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、芯材となる蓄熱材に可溶または相溶するものであることが好ましい。具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、トルエン−2,4,6−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,2′−ジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4(又は2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4′−ジイソシアネート、trans(又はcis)−1,4−シクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、リジンジイソシアネートなどのイソシアネート単量体が挙げられる。また、一般的にポリメリックMDIと称されるポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネートオリゴマーまたはイソシアネートポリマーも挙げられる。さらに、これらのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレトジオン変性体、アロハネート変性体、アダクト変性体、プレポリマー変性体、ウレタン変性体、ウレア変性体及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは組合わせて用いることもできる。芳香族系イソシアネート化合物を用いた場合、熱的又は化学的に安定なマイクロカプセル皮膜を得ることができる。一方、脂肪族系イソシアネート化合物を用いると、黄変しにくい又は黄変しないマイクロカプセル皮膜を得ることができる。変色が嫌われる用途では、脂肪族系イソシアネート化合物を併用した蓄熱材マイクロカプセルを好適に用いることができるが、変色が許容できる用途では、芳香族系イソシアネート化合物を併用した蓄熱材マイクロカプセルを用いることができる。
【0015】
本発明において、多価イソシアネート化合物全量に対するカルボジイミド変性体の含有比率は、5〜100質量%であることが好ましく、10〜100質量%であることがより好ましい。カルボジイミド変性体の含有比率が5質量%未満であると、蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆されにくくなる場合があったり、高温加熱後のマイクロカプセル皮膜の耐溶剤性を十分に確保することができにくくなる場合がある。
【0016】
また、本発明において、少なくともカルボジイミド変性体を含む多価イソシアネート化合物を2種以上混合して用いると、マイクロカプセル皮膜の皮膜強度が向上するという効果も発現する。皮膜強度が向上する理由の詳細は不明であるが、カプセル皮膜を構成する樹脂成分が共重合体となったり、ブレンドポリマーとなったりすることで、内圧(蓄熱材の相変化による体積変動等)や外圧に対する抵抗力が増すためではないかと推測される。
【0017】
本発明に係わるアミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物としては、多価アミン化合物、多価アルコール化合物、多価アミノアルコール化合物などが挙げられる。
【0018】
本発明に係わる多価アミン化合物は、少なくとも2個以上の第1級アミノ基及び/または第2級アミノ基を有する化合物であり、低分子多価アミン化合物や高分子アミン化合物等が挙げられる。
【0019】
低分子多価アミン化合物としては、脂肪族ポリアミン、変性脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、変性芳香族ポリアミンなどが挙げられる。脂肪族ポリアミンの例としては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、4−アミノメチルオクタメチレンジアミン、3,3′−イミノビス(プロピルアミン)、3,3′−メチルイミノビス(プロピルアミン)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリス(2−アミノエチル)アミン、1,2−ビス(3−アミノプロピルオキシ)エタン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、3,3′−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等を挙げることができる。芳香族置換基を有する脂肪族ポリアミンの例としては、m−キシリレンジアミン、テトラクロロ−p−キシリレンジアミンなどを挙げることができる。
【0020】
変性脂肪族ポリアミンとは、前記脂肪族ポリアミンを変性したものであり、その変性方法としては、ポリアミド変性、ビスフェノールAとのアダクト変性、アルキルエポキシのアダクト変性、シアノエチル化変性、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドのアダクト変性などを挙げることができる。芳香族ポリアミンの例としては、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルエーテル、2,4−(又はm−、o−)トリレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、ベンジジン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)スルホン、ジアミノナフタレンなどを挙げることができる。変性芳香族ポリアミンとは、前記芳香族ポリアミンを変性したものであり、前記脂肪族ポリアミンと同様の変性方法を挙げることができる。
【0021】
高分子アミン化合物の具体例としては、ポリエチレンイミン及びその誘導体、ポリプロピレンアミン及びその誘導体、ポリビニルアミン及びその誘導体、ポリアリルアミン及びその誘導体、ポリエーテルアミン及びその誘導体、ポリ−L−リジン、ポリ−L−オルニチン等を挙げることができる。
【0022】
本発明に係わる多価アルコール化合物は、少なくとも2個以上のヒドロキシル基を有する化合物であり、低分子多価アルコール化合物や高分子多価アルコール化合物等が挙げられる。
【0023】
低分子多価アルコール化合物の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサントリオール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビトール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。
【0024】
高分子多価アルコール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、フェノールレジンポリオール、ポリエポキシポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリエステル−ポリエーテルポリオール、アクリル、スチレン、ビニル付加及び/または分散ポリマーポリオール、ウレア分散ポリオール、ポリカーボネートポリオールなどを挙げることができる。
【0025】
ポリエーテルポリオールの例としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリエタノールアミン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、エチレンジアミン、メチルグリコジット、ビスフェノールA、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ソルビトール、シュガーなどの少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物とプロピレンオキサイドやエチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドとの付加反応物などを挙げることができる。また、ポリマーポリオール、PHDポリエーテルポリオール、ウレタン変性ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルコポリマーポリオール及びシリコン変性ポリエーテルポリオールなどのポリエーテルポリオール変性体も挙げることができる。さらに、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、THF−アルキレンオキサイド共重合ポリオールなども挙げることができる。
【0026】
ポリエステルポリオールの例としては、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。
【0027】
本発明に係わる多価アミノアルコール化合物は、少なくとも1個以上のアミノ基と少なくとも1個以上のヒドロキシル基を有する化合物である。多価アミノアルコール化合物の例としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンなどを挙げることができる。
【0028】
多価アルコール化合物や多価アミノアルコール化合物を用いる場合は、必要に応じて反応触媒として、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン化合物やジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート等の有機金属化合物などを添加しても良い。
【0029】
多価イソシアネート化合物全量のイソシアネート基に対するアミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物全量のアミノ基(但し、第1級アミノ基と第2級アミノ基)及びヒドロキシル基の合計モル比率は、0.01〜20であることが好ましく、0.1〜10であることがより好ましい。モル比率が0.01未満であると、蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性や耐溶剤性が不十分となることがある。モル比率が20を超えると、蓄熱材マイクロカプセルの分散液の分散安定性が劣ったり、液粘度が高くなり過ぎることがある。さらに、多価アミン化合物を用いて、かつ高温や高湿度に曝される用途に用いる場合には、多価イソシアネート化合物全量のイソシアネート基に対する多価アミン化合物全量のアミノ基(但し、第1級アミノ基と第2級アミノ基)のモル比率が0.3〜2.0であることが好ましく、0.5〜1.5であることがより好ましい。モル比率が0.3未満であると、高温や高湿度に曝された後における蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性や耐溶剤性が不十分となることがあり、モル比率が2.0を超えると、高温や高湿度に曝されたときに、蓄熱材マイクロカプセルが変色(主に黄変)することがある。
【0030】
本発明の蓄熱材マイクロカプセルで内包される蓄熱材は相転移に伴う潜熱を利用して蓄熱する目的で用いられるものであり、融点あるいは凝固点を有する化合物が使用可能である。具体的な蓄熱材としては、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、エイコサン、パラフィンワックス等の脂肪族炭化水素化合物(パラフィン類化合物)、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類、ベンゼン、p−キシレン等の芳香族炭化水素化合物、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ステアリル等のエステル化合物、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等のアルコール類等の化合物が挙げられる。好ましくは融解熱量が約80kJ/kg以上の化合物で、化学的、物理的に安定なものが用いられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。必要に応じ過冷却防止剤、比重調節剤、劣化防止剤等を添加することができる。また、2種以上を混合する場合、融点の近い蓄熱材を用いても良いし、融点が大きく異なる2種以上の蓄熱材を混合して用いても良い。
【0031】
本発明の蓄熱材マイクロカプセルにおいて、マイクロカプセル皮膜/蓄熱材の配合比率(質量基準)は、2/98〜50/50、より好ましくは5/95〜30/70である。マイクロカプセル皮膜の配合比率が2質量%を下回ると、蓄熱材を完全に被覆することができずに、蓄熱材が漏れ出すことがある。マイクロカプセル皮膜の配合比率が50質量%を越えると、蓄熱材マイクロカプセルの融解熱量が小さくなるため、充分な蓄熱効果を発現できない場合がある。
【0032】
本発明の蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径は0.2〜50μmの範囲にすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜20μmの範囲にすることが好ましい。50μmより大きい粒子径では機械的剪断力に極めて弱くなることがあり、0.2μmより小さい粒子径では破壊は抑えられるものの、膜厚が薄くなり耐熱性に乏しくなることがある。本発明で述べる体積平均粒子径とはマイクロカプセル粒子の体積換算値の平均粒子径を表わすものであり、原理的には一定体積の粒子を小さいものから順に篩分けし、その50%体積に当たる粒子が分別された時点での粒子径を意味する。体積平均粒子径の測定は顕微鏡観察による実測でも算定可能であるが市販の電気的、光学的粒子径測定装置を用いることにより自動的に測定可能である。
【0033】
本発明の蓄熱材マイクロカプセルは、通常水分散液の状態で作製されるが、この分散液(スラリー)状態のまま使用することができる他、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー、フィルタープレスなどの各種乾燥装置・脱水装置を用いて、媒体の水を蒸発・脱水・乾燥させて粉体や固形体の形態にして使用することもできる。さらに、粉体や固形体に必要に応じてバインダー等を加えて、押出し造粒、転動造粒、撹拌造粒など各種造粒法を用いて造粒することで粒径を大きくし、扱いやすくした造粒体の形態にして使用することもできる。本発明ではこれら粉体や固形体および造粒体の総称として固形物と呼ぶことにする。なお、固形物の形状としては球状、楕円形、立方体、直方体、円柱状、円錐状、円盤状、俵状、桿状、正多面体、星形、筒型等如何なる形状でも良い。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明を更に詳しく説明する。実施例中の部数や百分率は特にことわりがない限り質量基準である。
【0035】
(実施例1〜16)
表1〜4に示した配合で蓄熱材マイクロカプセル分散液を製造した。蓄熱材、過冷却防止剤、多価イソシアネート化合物を均一混合したものを、乳化剤水溶液中に添加し、乳化装置を用いて、50℃にて撹拌乳化を施して、乳化液を調製した。この乳化液に、多価アミン化合物水溶液または多価アルコール化合物水溶液を添加した後、80℃にて2時間、加熱撹拌を施し、蓄熱材マイクロカプセル分散液を得た。
【0036】
なお、実施例中のジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体混合物(三井化学ポリウレタン社製、商品名:コスモネートLL)は、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4′−ジイソシアネート及びカルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネートの混合物(混合質量比は65〜79:1〜5:20〜30)である。また、ノルボルナンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン社製、商品名:コスモネートNBDI)は、2,5−ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン及び2,6−ビス(イソシアナートメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンの混合物(混合比は55〜65:35〜45)である。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
(比較例1〜4)
表5に示した配合で蓄熱材マイクロカプセル分散液を製造した。蓄熱材、過冷却防止剤、多価イソシアネート化合物を均一混合したものを、乳化剤水溶液中に添加し、乳化装置を用いて、50℃にて撹拌乳化を施して、乳化液を調製した。この乳化液に、多価アミン化合物水溶液を添加した後、80℃にて2時間、加熱撹拌を施し、蓄熱材マイクロカプセル分散液を得た。
【0042】
【表5】

【0043】
得られた蓄熱材マイクロカプセルに対して、以下の評価を行い、結果を表6に示した。
【0044】
[蓄熱材マイクロカプセルの体積平均粒子径]
米国コールター社製の粒度測定装置マルチサイザーII型を用いて、体積平均粒子径を測定した。
【0045】
[水相油分抽出率]
蓄熱材マイクロカプセル分散液10gにn−ヘキサン10mLを加え、5分間振とう抽出した後、ヘキサン相をガスクロで測定し、検出された蓄熱材成分量を蓄熱材マイクロカプセルへの仕込み蓄熱材成分量で除した値を水相油分抽出率(百万分率)とした。この水相油分抽出率の値が小さいほど蓄熱材が十分にマイクロカプセル皮膜で被覆されていることを示し、逆にこの水相油分抽出率の値が大きいほど蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で被覆されることが不十分であることを示す。水相油分抽出率の評価基準としては、以下の通りである。
◎:水相油分抽出率が10ppm未満
○:水相油分抽出率が10ppm以上20ppm未満
△:水相油分抽出率が20ppm以上50ppm未満
×:水相油分抽出率が50ppm以上
【0046】
[高温加熱後の耐溶剤性]
蓄熱材マイクロカプセル分散液10gをアルミカップに採取して、100℃で2時間加熱して媒体の水を蒸発させて乾燥物を得て、さらに130℃で2時間高温加熱処理を行った後、乾燥物を1g採取し、n−ヘキサン30mLで5分間振とう抽出した後、ヘキサン相をガスクロで測定し、検出された蓄熱材成分量を蓄熱材マイクロカプセルへの仕込み蓄熱材成分量で除した値を溶剤抽出率(百分率)とした。この溶剤抽出率の値が小さいほど蓄熱材マイクロカプセルの高温加熱後の耐溶剤性が優れていることを示し、逆にこの溶剤抽出率の値が大きいほど蓄熱材マイクロカプセルの高温加熱後の耐溶剤性が劣ることを示す。耐溶剤性の評価基準としては、以下の通りである。
◎:溶剤抽出率が15%未満
○:溶剤抽出率が15%以上30%未満
△:溶剤抽出率が30%以上60%未満
×:溶剤抽出率が60%以上
【0047】
【表6】

【0048】
実施例1〜16に示した蓄熱材マイクロカプセルは、比較例1〜4に示した蓄熱材マイクロカプセルと比較して、水相油分抽出率が大幅に向上していることが確認され、これは蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆されていることを示している。同様に、実施例1〜16に示した蓄熱材マイクロカプセルは、比較例1〜4に示した蓄熱材マイクロカプセルと比較して、高温加熱後の耐溶剤性が大幅に向上していることが確認された。
【0049】
多価イソシアネート化合物全量がカルボジイミド変性体を使用した実施例1、3、4、7、8に示した蓄熱材マイクロカプセルを比較した場合、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体を使用した実施例1、3において、水相油分抽出率がより優れていて、蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆されており、かつ高温加熱後の耐溶剤性もより優れていることが確認された。
【0050】
多価イソシアネート化合物のカルボジイミド変性体及びカルボジイミド変性体以外の多価イソシアネート化合物との混合物を使用した実施例2、5、6、9〜16に示した蓄熱材マイクロカプセルを比較した場合、多価イソシアネート化合物全量に対するカルボジイミド変性体の含有比率が10%以上である実施例2、5、6、9〜14の蓄熱材マイクロカプセルにおいて、水相油分抽出率が良好で、蓄熱材がマイクロカプセル皮膜で十分に被覆されており、かつ高温加熱後の耐溶剤性も良好であることが確認された。一方、多価イソシアネート化合物全量に対するカルボジイミド変性体の含有比率が10%未満である実施例15、16の蓄熱材マイクロカプセルでは水相油分抽出率が若干低下し、該含有比率が5%未満である実施例16の蓄熱材マイクロカプセルでは高温加熱後の耐溶剤性も若干低下することが確認された。
【0051】
実施例1〜16で得られた蓄熱材マイクロカプセルに対して、以下の評価を行い、結果を表7に示した。
【0052】
[皮膜強度]
蓄熱材マイクロカプセル分散液10gをアルミカップに採取して、100℃で2時間加熱して媒体の水を蒸発させて得られた乾燥物のうち1g採取し、n−ヘキサン30mLで5分間振とう抽出した後、ヘキサン相をガスクロで測定し、検出された蓄熱材成分量を蓄熱材マイクロカプセルへの仕込み蓄熱材成分量で除した値を溶剤抽出率Aとした。次に、前記乾燥物のうち別に採取した1gを温度制御が可能な恒温槽中に入れ、相変化温度を挟む温度域として5℃から65℃までを温度変化させ、100回繰り返した後に、同様にn−ヘキサンで溶剤抽出を行い、溶剤抽出率Bを得た。なお、1回の温度変化は、昇温に1時間、65℃で30分保持、降温に1時間、5℃で30分保持のサイクルである。ここで、溶剤抽出率Bを溶剤抽出率Aで除した値を抽出率変動比(溶剤抽出率B/溶剤抽出率A)とし、この抽出率変動比の大小により、皮膜強度の度合いを判定した。評価基準は、以下の通りである。
○ :抽出率変動比が1.5未満
○△:抽出率変動比が1.5以上2未満
△ :抽出率変動比が2以上3未満
× :抽出率変動比が3以上
【0053】
【表7】

【0054】
実施例1〜16に示した蓄熱材マイクロカプセルを比較した場合、少なくともカルボジイミド変性体を含む2種以上の多価イソシアネート化合物の混合物を使用し、かつ多価イソシアネート化合物全量に対するカルボジイミド変性体の含有比率が5%以上である実施例1、2、5、6、9〜15において、皮膜強度が向上していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明による蓄熱材マイクロカプセルは、被服材料や寝具などの繊維加工物、マイクロ波照射により加熱及び蓄熱する保温材、電子部品やガス吸着剤などの過熱抑制材及び/または過冷抑制剤に加え、燃料電池や焼却炉などの廃熱利用設備、建築材料、建築物の躯体蓄熱・空間充填式空調、床暖房用、空調用途、道路や橋梁などの土木用材料、産業用及び農業用保温材料、家庭用品、健康用品、医療用材料など様々な利用分野に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価イソシアネート化合物とアミノ基及び/またはヒドロキシル基を複数個有する化合物とを反応させて得られる樹脂からなる皮膜で蓄熱材が内包されてなる蓄熱材マイクロカプセルにおいて、多価イソシアネート化合物が、少なくともカルボジイミド変性体を含むことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセル。
【請求項2】
カルボジイミド変性体が、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体である請求項1記載の蓄熱材マイクロカプセル。

【公開番号】特開2009−91472(P2009−91472A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263906(P2007−263906)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】