説明

薄膜堆積用分子線源とその分子線量制御方法

【課題】つぼの中の薄膜素子材料の残量が減少しても、ニードルバルブにより分子線量を毎時一定に調整出来るようにする。
【解決手段】薄膜堆積用分子線源は、るつぼ31、41の中の薄膜素子材料a、bを加熱するためのヒータ32、42と、基板51の成膜面へ向けて前記るつぼ31、41で発生した薄膜素子材料a、bの分子を放出する量を調節するバルブ33、43を備える。さらに、前記成膜面に向けて放出される分子線量を検知する膜厚計16、26で検知された分子線量情報を帰還して、サーボモータ36、46によりバルブ33、43の開度を調節する制御手段と、前記ヒータ32、42の加熱のための電力を供給する加熱電源と、前記分子線量情報とバルブ開度情報とから前記加熱電源の投入電力を調整する制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板等の固体の成膜面に薄膜を形成しようとする材料を加熱することにより、その薄膜素子材料を溶融または昇華、蒸発して、固体表面に薄膜を成長させるための蒸発分子を発生する薄膜堆積用分子線源とその分子線量制御方法であって、特に有機物薄膜を基板等の固体の成膜面に堆積させる事を長時間、連続的に行うのに好適な薄膜堆積用分子線源とその分子線量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子線エピタキシ装置と呼ばれる薄膜堆積装置は、高真空に減圧可能な真空チャンバ内に半導体ウエハ等の基板を設置し、この基板を所要の温度に加熱すると共に、その成膜面に向けてクヌードセンセル等の分子線源セルを設置したものである。この分子線源セルの坩堝に収納した薄膜素子材料をヒータにより加熱し、昇華させるか或いは溶融、蒸発させ、これにより発生した分子を前記基板の成膜面に入射し、その成膜面に薄膜素子分子をエピタキシャル成長させて、薄膜素子材料の膜を形成する。
【0003】
このような薄膜堆積装置に使用される分子線源セルは、熱的、化学的に安定性の高い、例えばPBN(パイロリティック・ボロン・ナイトライド)等からなる坩堝の中に薄膜素子材料を収納し、この薄膜素子材料を坩堝の外側に設けた電気ヒータで加熱し、これにより薄膜素子材料を昇華させるか或いは溶融、蒸発させ、その分子を発生させるものである。
【0004】
近年有機エレクトロルミネセンス(EL)、有機半導体に代表される有機薄膜素子が注目されている。これらの薄膜素子は、真空中にて薄膜素子材料を加熱し、その蒸気を基板上に吹き付け、冷却することで固体化および、接着を行っている。一般的には薄膜素子材料をPBN等の無機材料やタングステン等の高融点材料にて作成されたるつぼに入れ、るつぼの周囲をヒーターで加熱することにより成膜する材料を加熱し、その蒸気を発生させてそれを基板に吹き付ける方法が用いられている。
【0005】
前述のような有機薄膜素子の代表的な例である有機EL素子は、EL発光能を有する有機低分子または有機高分子材料で発光層を形成した素子であり、自己発光型の素子としてその特性が注目されている。例えばその基本的な構造は、ホール注入電極上にトリフェニルジアミン(TPD)等のホール輸送材料の膜を形成し、この上にアルミキノリノール錯体(Alq) 等の蛍光物質を発光層として積層し、さらにMg、Li、Cs等の仕事関数の小さな金属電極を電子注入電極として形成したものである。このような薄膜素子材料は、一般に高価である。
【0006】
ところで薄膜素子の形成に当たっては、表面上に薄膜を成膜させる基板の入れ替えや、必要な部分にのみ材料を吹き付けるためのマスクの位置調整などの時間も必要である。しかしながら、前述のような有機薄膜素子材料は、比較的低温で昇華し、気化する材料が多いため、前記のような基板の交換やマスクの位置合わせ等の間も材料が気化するため、非常に高価な材料が無駄に消費されてしまう欠点があった。
【0007】
そこで、下記特許文献1に記載されたように、るつぼを密閉構造とし、これらを密閉構造の真空容器に収納し、前記るつぼで発生した薄膜素子材料の分子を成膜面へ向けて放出するための分子放出路を設け、分子放出路の途中に分子線量を調節するためのニードルバルブを備えた薄膜堆積用分子線源が提案されている。
【0008】
このバルブ機構を備えた薄膜堆積用分子線源では、バルブによりるつぼで発生した薄膜素子材料の蒸気の放出をニードルバルブで遮断出来るのに加え、分子線量をニードルバルブで調整することが出来る。一定の膜厚と品質を持った薄膜を形成するためには分子線源から放出される分子線量を毎時一定に保つことが有効である。
【0009】
前述のような有機薄膜素子材料の代表的ものとして、前述したEL薄膜素子材料があるが、このような薄膜素子材料は、粒状或いは粉状の個体のものが多く、この状態で分子線源のるつぼに収納される。このつぼに収納されたEL薄膜素子材料をるつぼの外側に設けたヒータで加熱することで、EL薄膜素子材料が加熱、昇華され、気化して基板に向けて放出され、基板の成膜面上に堆積、成膜する。
【0010】
このようなEL薄膜素子材料がるつぼの中で昇華し、気化して放出されると、つぼの中のEL薄膜素子材料の残量が次第に減少する。すると、つぼの中のEL薄膜素子材料の表面積が減少するため、るつぼ内でのEL薄膜素子材料の昇華量が次第に減少する。従って、薄膜堆積用分子線源から放出される分子線量を一定に維持するためには、ニードルバルブによる開度、すなわちバルブ全開時に対するバルブの流路断面積の比を大きくし、薄膜堆積用分子線源から放出される分子線量を確保する必要がある。
【0011】
しかし、ニードルバルブによる分子線量の調整は有限であり、ニードルバルブを全開にすると、それ以上分子線量を増加させることは出来ない。
下記の特許文献2には、分子線量の調整手段として2つの制御手段が挙げられている。一つは、前述したようなバルブによる分子線量の調整手段である。他の一つは、るつぼをヒータで加熱する温度による制御手段である。しかし、後者のるつぼをヒータで加熱する温度による制御手段は、間接的で時間遅延があるため、精密な分子線量の調整には適さない。
【特許文献1】特開2003−95787号公報
【特許文献2】特開平6−80496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記従来の薄膜堆積用分子線源とその分子線量制御方法における課題における課題に鑑み、薄膜堆積用分子線源からの分子線放出により、つぼの中の薄膜素子材料の残量が減少しても、ニードルバルブにより分子線量を毎時一定に調整出来るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、前記の目的を達成するため、精密に放出する分子線量を正確に制御出来るが、制御範囲に限界があるバルブによる分子線量制御手段と、量的、時間的に精密には放出する分子線量を制御出来ないが、るつぼ内の薄膜素子材料の残量による気化量の減少による放出する分子線量の減少を補完し、放出する分子線量をかさ上げ出来るヒータによる制御手段とを適宜に組合せたものである。これにより、るつぼ内の薄膜素子材料の減少に対応して毎時一定量の放出分子線量を維持出来るようにしたものである。
【0014】
すなわち、本発明による薄膜堆積用分子線源は、薄膜素子材料を加熱するためのるつぼと、このるつぼを加熱するためのヒータと、このるつぼで発生した薄膜素子材料の分子を成膜面へ向けて放出するための分子放出路とを備え、これらを密閉構造の真空容器に収納し、分子放出路の途中に分子線量を調節するためのバルブを備える。さらに、前記成膜面に向けて放出される分子線量を検知する検知手段と、この検知手段で検知される分子線量情報を帰還して、バルブ駆動手段によりバルブの開度を調節する制御手段と、前記ヒータの加熱のための電力を供給する加熱電源と、前記分子線量情報とバルブ開度情報とから前記加熱電源の投入電力を調整する制御手段とを備える。
【0015】
また、薄膜堆積用分子線源を使用した分子線量制御方法は、有機物を基板に連続的に蒸着するに際し、所定の分子線量を得るために必要なバルブ開度があらかじめ決められた一定の基準値以上となったときに、るつぼを加熱する電源に投入する電力を調整し、バルブ開度が一定の範囲内に納まるように制御するものである。
【0016】
前記のような本発明による薄膜堆積用分子線源とそれを使用した分子線量制御方法では、放出する分子線量を正確に制御出来るバルブによる分子線量制御手段による制御を基本としながら、るつぼ内の薄膜素子材料が消費され、その残量が減少したとき、ヒータ温度を上昇させてるつぼ内の薄膜素子材料の単位時間当たりの気化量を維持し、一定の分子線の放出量を維持出来るようにしたものである。これにより、るつぼ内の薄膜素子材料が消費され、同材料が次第に減少しても、所望の放出分子線量を、バルブによる制御範囲の中で維持出来ることになる。すなわち、るつぼ内の薄膜素子材料の残量が僅かになるまで、バルブの開度調整により、常に定量の放出分子線量を維持する制御が可能となる。また前述したように、ヒータ温度の調整による分子線量の制御は、時間遅延等により、精密な制御は不可能であるが、バルブの開度調整との併用により、精密な分子線量の制御が可能である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した通り、本発明による薄膜堆積用分子線源とそれを使用した分子線量制御方法では、るつぼ内の薄膜素子材料が消費され、同材料が次第に減少しても、最後まで定量の放出分子線量を維持する制御が可能となる。しかも、ニードルバルブとヒータ温度の調整との開度調整との併用により、精密な分子線量の制御が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、るつぼと真空槽の間にバルブを用いた分子線セルと、真空槽に設けられた放出分子線量を検知する検知器と、この検知器からの信号をもとに分子線セルのニードルバルブを制御するバルブ駆動手段と、バルブ位置信号を基にるつぼの加熱電力を制御する回路により構成される。
以下、本発明を実施するための実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
図1は、基板33に成膜する薄膜として、主成分の薄膜素子材料aを蒸発し、その分子を放出する第一の分子線源セル1とドーパント等の副成分の薄膜素子材料bを蒸発し、その分子を放出する第二の分子線源セル2とを組み合わせた複合分子線源セルの例である。
【0020】
これらの分子線セル1、2は、るつぼ31、41の中に薄膜素子材料a、bを収納し、ヒータ32、42でこの薄膜素子材料a、bを昇華または蒸発させる材料収納部3、4と、この材料収納部3、4から放出される薄膜素子材料a、bの分子をリークまたは停止するよう開閉されるバルブ33、43と、このバルブ33、43から送られてきた薄膜素子材料a、bの分子をヒータ15、24で再加熱し、基板33に向けて放出する分子放射部11、21とを有する。この分子放射部11、21は液体窒素水等で冷却されるシュラウド40で囲まれている。なお、図示はしてないが、るつぼ31、42の温度は、その底部に測温点を設けた熱電対等の測温手段で測定される。
【0021】
これら分子線セル1、2から放出される薄膜素子材料a、bの分子を受けて、その薄膜を形成する成膜面を有する基板51側には、その成膜面に向けて放出される分子線量を検知する検知手段として膜厚計16、26が設けられている。膜厚計16が分子線セル1から放出される薄膜素子材料aの分子線量を検知する検知手段であり、膜厚計26が分子線セル2から放出される薄膜素子材料bの分子線量を検知する検知手段である。
【0022】
薄膜素子材料a、bの分子は分子線セル1、2の分子放出口14、24から放出され、対向した位置にある基板51に向かい、蒸着される。この時、材料の一部は膜厚計16、26に向かい、この膜厚計16、26に補足された薄膜素子材料a、bの分子線量が検知される。この検知された分子線量と、基板に付着される材料量は一定の関係があるので、基板に付着する薄膜素子材料a、bの量が判明する。
【0023】
図2は、主成分の薄膜素子材料cを昇華または蒸発して放射する第一の分子線源セル1を示す。
この分子線源セル1の材料収納部3は、SUS等の金属の高熱伝導材料からなる円筒容器状のるつぼ31を有し、このるつぼ31の中に薄膜素子材料aが収納されている。
【0024】
るつぼ31の周囲にはヒータ32が配置され、その外側は液体窒素水等で冷却されるシュラウド39で囲まれている。るつぼ31に設けた熱電対等の温度測定手段(図示せず)により、ヒータ32の発熱量を制御し、るつぼ31の薄膜素子材料aを加熱することにより、るつぼ31内の薄膜素子材料aが昇華または蒸発し、その分子が発生する。また、ヒータ32の発熱を停止し、シュラウド39でるつぼ31の内部を冷却することにより、薄膜素子材料aが冷却され、薄膜素子材料の昇華または蒸発が停止される。
【0025】
このるつぼ31の薄膜素子材料の分子が放出される側にバルブ33が設けられている。このバルブ33は、ニードルバルブであり、先鋭なニードル34と、そのニードル34の先端が嵌まり込むことにより、流路が閉じられ或いは流路断面積が絞られる分子通過孔を有する弁座35を有している。前記のニードル34は、ベローズ37を介してアクチュエータとしてのサーボモータ36により導入されるリニア運動によりその中心軸方向に移動される。
【0026】
図4(a)は図2のA部を拡大した図であるが、前記のリニア運動により、ニードル34の先端が弁座35の分子通過孔38に嵌合され、あるいはその分子通過孔38から離れて分子通過孔38が開かれる。図4(a)は、ニードル34の先端が弁座35の分子通過孔38に嵌まり込んでその弁座通過孔38を閉塞している状態であり、バルブ33が閉じられている状態を示している。
【0027】
図2に示すように、このバルブ33により開閉される弁座35の分子通過孔の先には、分子放射部11がある。この分子放射部11は円筒形の分子加熱室12を有し、この分子加熱室12の周囲にヒータ15が設けられている。前記のバルブ33側からリークし、分子放射部11に至った薄膜素子材料の分子は、この分子加熱室12で所要の温度に再加熱され、分子放出口14から基板に向けて放射される。
【0028】
他方、図3は、副成分の薄膜素子材料bを昇華または蒸発して放射する第二の分子線源セル2を示す。この第二の分子線源セル2の構成は、基本的に前述した第一の分子線源セル1と同じである。
すなわち、この第二の分子線源セル2の材料収納部4は、SUS等の金属の高熱伝導材料からなる円筒容器状のるつぼ41を有し、このるつぼ41の中に薄膜素子材料bが収納されている。こ
【0029】
るつぼ41の周囲にはヒータ42が配置され、その外側は液体窒素水等で冷却されるシュラウド49で囲まれている。これらヒータ42とシュラウド49の構造及び機能は、図2により前述したヒータ32とシュラウド39と全く同様である。
【0030】
このるつぼ41の薄膜素子材料の分子が放出される側にバルブ43が設けられている。このバルブ43は、やはりニードルバルブであり、先鋭なニードル44と、そのニードル44の先端が嵌まり込むことにより、流路が閉じられ或いは流路断面積が絞られる分子通過孔を有する弁座45を有している。前記のニードル44は、ベローズ47を介してアクチュエータとしてのサーボモータ46により導入されるリニア運動によりその中心軸方向に移動される。
【0031】
図4(b)は図3のB部を拡大した図であるが、前記のリニア運動により、ニードル44の先端が弁座45の分子通過孔48に嵌合され、あるいはその分子通過孔48から離れて分子通過孔48が開かれる。この分子線源セル2は、ドーパント等の副材料を放出するものであるため、主材料を放出する前述の分子線源セルに比べて弁座45の開口径やニードル44の先端部テーパは小さく、バルブ43の最大開口面積が小さく設計されている。その分、分子線量の制御は精密に行える。
【0032】
図3に示すように、前記のバルブ43により開閉される弁座45の分子通過孔の先には、分子放射部21がある。この分子放射部21は円筒形の分子加熱室22を有し、この分子加熱室22の周囲にヒータ25が設けられている。前記のバルブ43側からリークし、分子放射部21に至った薄膜素子材料の分子は、この分子加熱室22で所要の温度に再加熱され、再凝固することなく分子放出口24から基板に向けて放射される。
【0033】
本発明では、前記膜圧計16、26からの信号を基に、バルブ33、43を駆動してその開度を調整するサーボモータ36、46を制御する。これと同時に、るつぼ31、41を加熱するヒータ32、42に電力を投入する電源を制御する。これらの制御は、前述した膜圧計16、26により検知される分子線源セル1、2から放出される分子線量とサーボモータ36、46によるバルブ33、43の開度情報を制御系に帰還(フィードバック)し、プログラミング制御により行われる。
【0034】
図5はこの制御系のフローシートを示す図である。双方の分子線源セル1、2において基本的に同じ制御系が用いられ、分子線源セル2の制御系については符号を括弧書きで示してある。
この図5に示すように、膜厚計16、26からは分子線源セル1、2から放出される分子線量に応じた信号が発生し、この信号は処理器17、27から分子線コントローラ18、28を経てバルブコントローラ37、47とヒータコントローラ38、48に送られる。
【0035】
分子線コントローラ18、28は運転の初期において、電源を兼ねるヒータコントローラ38、48に予め定められたるつぼ31、41の温度の指令値を送ると共に、分子線量の設定目標値と前記膜圧計16、26から処理機17、27を経て送られてくる分子線量の現在値の情報からバルブの開度指令値を算出し、これをバルブコントローラ37、47へ送る。
【0036】
バルブコントローラ37、47では、処理器17、27から送られてくる開度指令値を基に、バルブ33、43のサーボモータ36、46に駆動信号を送り、バルブ33、43の開度、すなわちバルブ33、34の全開時に対する流路断面積の比(%)を調整する。これと共に、バルブ33、34の開度の現在値を分子線コントローラ18、28へ送る。
【0037】
当然の事ながら、分子線コントローラ18、28は膜厚計16、26で検知される分子線量が目標に足りない場合にはバルブ33、43の開度を大きくする方向にバルブ開度指令値を調整し、分子線量が目標を超えている場合はバルブ33、43の開度を小さくする方向にバルブ開度指令値を調整する。
【0038】
他方、ヒータコントローラ38、48では、熱電対等で測定されるるつぼ31、41の温度が分子線コントローラ18、28から与えられた指令値の温度を維持するようにヒータ32、42への投入電力を制御している。ここで、バルブ33、43の開度の現在値が予め定められた上限値を超えたとき、分子線コントローラ18、28はヒータコントローラ38、48にるつぼ31、41の温度を上昇するように指令値信号を送る。これにより、るつぼ31、41の温度が上昇すると、るつぼ31、41の中の薄膜素子材料a、bの蒸気圧が上昇するため、同じバルブ開度でも分子線量は増大する。このため、分子線コントローラ18、28が分子線量を一定にしようとしてバルブコントローラ37、47に送るバルブ開度指令値を減少させるため、結果としてバルブ33、43の開度の現在値が上限値を下回るように制御される。このときのるつぼ31、41の温度上昇速度はあらかじめ定められた値によって行われる。また温度上昇範囲は予め定められた温度上昇値まで制御されるか、もしくは予め定められたバルブ33、43の開度を下回るよう制御される。
【0039】
逆にバルブ33、43の開度の現在値が予め定められた下限値を下回ったときは、分子線コントローラ18、28はヒータコントローラ38、48にるつぼ31、41の温度を下降するように指令値信号を送り、るつぼ31、41の温度を下げる。
サーボモータ36、46のバルブ33、43の開度の指示値が定められた上限値と下限値の間にある場合は、ヒータコントローラ38、48への指示のへの指示の変更は行われない。
【0040】
図6に前述の制御のタイムチャートを示す。るつぼ31、41の中の薄膜素子材料a、bの消費に伴い、その量が少なくなると、るつぼ31、41の中の薄膜素子材料a、bの気化量が次第に減少する。これに対応して分子線源セル1、2の分子放出口14、24から放出される分子線量は分子線コントローラ18、28によりを一定に制御されるため、バルブ33、43の開度は時間の経過と共に大きくなる。そして、そのバルブ33、43の開度が予め定められた上限値Uを越えた時に分子線コントローラ18、28からヒータコントローラ38、48にるつぼ31、41の温度を上昇させるように温度上昇指示がなされる。これに伴い、膜圧計16、26で検知される毎時の分子線量が増大傾向になる。これに対応して分子線源セル1、2の分子放出口14、24から放出される分子線量を一定にするため、バルブコントローラ37、47によりバルブ33、43のサーボモータ36、46が駆動され、バルブ33、43の開度が減少するように制御される。その後、膜圧計16、26で検知される毎時の分子線量が減少傾向に転じると、これに対応して分子線源セル1、2の分子放出口14、24から放出される分子線量を一定にするため、再びバルブコントローラ37、47によりバルブ33、43の開度が大きくなるように制御される。こうして膜圧計16、26で検知される毎時の分子線量は一定に制御され、安定した値が維持される。
【0041】
なお、るつぼ31、41の温度を予め定められた温度上昇幅で段階的に上降させる場合は、その温度上昇幅はバルブ33、43の開度が下限値Lに達しない状態で膜圧計16、26で検知される毎時の分子線量が減少傾向に転じ、それ以降バルブ開度を増加させる必要がある温度に予め実験し、計算して設定しておく必要がある。
【0042】
以上に前述した実施例は、2つの分子線源セルから基板51の分子線を放出して成膜させる例であるが、本発明は、単一の分子線源セルから基板51の分子線を放出して成膜させるものや、3つ以上の分子線源セルから基板51の分子線を放出して成膜させるもの等にも適用出来ることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態による分子線源セルを2つ同時に使用した例を示す真空チャンバの分子線源セルの装着部分の縦断側面図である。
【図2】同実施形態による一方の分子線源セルを示す縦断側面図である。
【図3】同実施形態による他方の分子線源セルを示す縦断側面図である。
【図4】図3と図4のそれぞれA部とB部を示す拡大断面図である。
【図5】前記実施形態による分子線源セルのバルブとヒータ電源との制御の例を示すブロック図である。
【図6】前記実施形態による分子線源セルのバルブとヒータ電源との制御の例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1 分子線源セル
2 分子線源セル
14 分子放出口
16 膜厚計
24 分子放出口
26 膜厚計
31 るつぼ
32 ヒータ
36 サーボモータ
41 るつぼ
42 ヒータ
46 サーボモータ
51 基板
a 薄膜素子材料
b 薄膜素子材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜素子材料を蒸着するための薄膜堆積用分子線源であって、薄膜素子材料を加熱するためのるつぼと、このるつぼを加熱するためのヒータと、このるつぼで発生した薄膜素子材料の分子を成膜面へ向けて放出するための分子放出路とを備え、これらを密閉構造の真空容器に収納し、分子放出路の途中に放出する分子線量を調節するためのバルブを備えた薄膜堆積用分子線源において、前記成膜面に向けて放出される分子線量を検知する検知手段と、この検知手段で検知される分子線量情報を帰還して、バルブ駆動手段によりバルブの開度を調節する制御手段と、前記ヒータの加熱のための電力を供給する加熱電源と、前記分子線量情報とバルブ開度情報とから前記加熱電源の投入電力を調整する制御手段とを備えることを特徴とする薄膜堆積用分子線源。
【請求項2】
薄膜素子材料を蒸着するための薄膜堆積用分子線源の分子線量制御方法であって、薄膜素子材料を加熱するためのるつぼと、このるつぼを加熱するためのヒータと、このるつぼで発生した薄膜素子材料の分子を成膜面へ向けて放出するための分子放出路とを備え、これらを密閉構造の真空容器に収納し、分子放出路の途中に放出する分子線量を調節するためのバルブを備えた薄膜堆積用分子線源を使用し、前記成膜面に向けて放出される分子線量を検知する検知手段と、この検知手段で検知される分子線量情報を帰還して、バルブ駆動手段によりバルブの開度を調節する制御手段と、前記ヒータの加熱のための電力を供給する加熱電源と、前記分子線量情報とバルブ開度情報とから前記加熱電源の投入電力を調整する制御手段とを備え、有機物を基板に連続的に蒸着するに際し、所定の分子線量を得るために必要なバルブ開度があらかじめ決められた一定の基準値以上となったときに、るつぼを加熱する電源に投入する電力を調整し、バルブ開度が一定の範囲内に納まるように制御することを特徴とする薄膜堆積用分子線源の分子線量制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−126303(P2007−126303A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318172(P2005−318172)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(397010974)株式会社日本ビーテック (8)
【Fターム(参考)】