説明

薄膜製造方法、および薄膜製造装置

【課題】カルコゲン元素を含む化合物半導体の均一な薄膜を容易に大量に生産する。
【解決手段】カルコゲン元素と化合物半導体に含まれるカルコゲン元素以外の金属元素とを含む皮膜が一主面の上にそれぞれ配されている複数の基板が準備される。次に、各皮膜について、カルコゲン元素の物質量と化合物半導体に含まれるカルコゲン元素以外の金属元素の物質量との差を示す指標が得られる。次に、各皮膜に係る指標に基づいて、一加熱炉内の基板配列領域に複数の基板が上記物質量の差の順に配列される。次に、一加熱炉内において、各皮膜に接している所定サイズの空間領域に、各指標に応じた物質量のカルコゲン元素を含む気体が単位時間毎に流されながら、複数の基板が加熱されることで、各基板の上に化合物半導体の薄膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体の薄膜を製造する製造方法ならびに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
I−III−VI族化合物半導体から成る光吸収層を具備した太陽電池パネルがある。このI−III−VI族化合物半導体としては、Cu(In,Ga)Se2(CIGSとも言う)等といったカルコパイライト系の化合物半導体が採用される。
【0003】
この太陽電池パネルでは、例えば、ガラス製の基板上に、例えば、Moから成る下部電極層が形成され、この下部電極層の上にI−III−VI族化合物半導体から成る光吸収層が形成されている。さらに、その光吸収層の上には、硫化亜鉛、硫化カドミウム等から成るバッファ層と、酸化亜鉛等から成る透明の上部電極層とがこの順に積層されている。
【0004】
ところで、I−III−VI族化合物半導体から成る光吸収層を形成する種々の方法が提案されている。
【0005】
例えば、I−B族元素単体の微粉末とVI−B族元素単体の微粉末とIII−B族元素を含む有機金属塩とが溶剤に分散した液を導電性基板上に塗布し、熱処理を行うことで、I−III−VI系の化合物半導体の薄膜を製造する方法が提案されている(特許文献1等)。この熱処理は、不活性気体中もしくは還元雰囲気で行われる。さらに、特許文献1には、熱処理が行われる雰囲気にVI−B元素もしくはVI−B族元素の化合物が存在すると、I−B族元素とIII−B族元素とによるアロイ膜と速やかに化合することが記載されている。
【0006】
また、I−B族元素の有機金属塩とIII−B族元素の有機金属塩とを含む有機金属塩溶液を導電性基板上に被着させた後に、VI−B族元素を含む非酸化性雰囲気で熱処理を行うことで、I−III−VI系のカルコパイライト構造を有する化合物半導体の薄膜を製造する方法が提案されている(特許文献2等)。
【0007】
また、薄膜気相成長装置において、同心円状に区切られた区間の何れかに供給される成膜反応ガスの流量および濃度のうちの少なくとも一方を調整することで、膜厚および電気特性が全面にわたって均一である薄膜が形成され得る方法および装置が提案されている(特許文献3等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−53314号公報
【特許文献2】特開2001−274176号公報
【特許文献3】特開2001−351864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、I−B族元素であるCu、III−B族元素であるInとGaおよびVI−B族元素であるSeの各元素に係る金属錯体を含む溶液が導電性基板上に塗布されることで皮膜が形成される場合を想定する。この場合、基板に形成された皮膜に不活性気体中もしくは還元雰囲気で熱処理が施されると、有機物が熱分解される。その後、さらに、有機物が熱分解された皮膜をそれぞれ有する複数の基板が、一つの加熱炉内に設置され、VI−B族元素であるSeの気体を含む雰囲気で皮膜に熱処理が施されることで、I−III−VI族化合物半導体であるCIGSの薄膜が形成され得る。この製造方法によれば、CIGSの薄膜が効率良く大量に生産され得る。
【0010】
しかしながら、熱処理によって皮膜中の有機物が熱分解する際に、皮膜中に含まれるSeの一部が気化し、基板間において皮膜に含有されるSeの量に差が生じ得る。この場合、例えば、図23で示されるように、Seの含有量がそれぞれ異なる皮膜が一主面上に配されている複数の基板15が、加熱炉12内においてSeの濃度が略均一な雰囲気で加熱されると、形成されるCIGSの薄膜間において組成のばらつきが生じ得る。なお、例えば、加熱炉12内で、複数の基板15がカセット14内に配列され、Seを含む気体が封じ込められており、攪拌用ファン13によってSeを含む気体が太い破線の矢印で示されるように攪拌されることで、Seの濃度が略均一な雰囲気が実現され得る。
【0011】
上述した化合物半導体の薄膜において組成のばらつきが生じ得る問題は、CIGSの薄膜を製造する技術に限られず、カルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する技術一般に共通する。
【0012】
そこで、カルコゲン元素を含む化合物半導体の均一な薄膜を容易に大量に生産することができる製造方法および製造装置が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様に係るカルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する薄膜製造方法は、(a)前記カルコゲン元素と前記化合物半導体に含まれる前記カルコゲン元素以外の金属元素とを含む皮膜が一主面の上にそれぞれ配されている複数の基板を準備する工程と、(b)各前記皮膜について、前記カルコゲン元素の物質量と前記金属元素の物質量との差を示す指標を得る工程とを備えている。さらに、該製造方法は、(c)各前記皮膜に係る前記指標に基づいて、一加熱炉内の基板配列領域に前記複数の基板を前記差の順に配列する工程と、(d)前記一加熱炉内において、各前記皮膜に接している所定サイズの空間領域に、各前記指標に応じた物質量の前記カルコゲン元素を含む気体を単位時間毎に流しながら、前記複数の基板を加熱することで、各前記基板の上に前記化合物半導体の薄膜を形成する工程とを備えている。
【0014】
他の一態様に係るカルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する薄膜製造装置は、隣り合う基板同士が対向し合うように複数の基板が一方向に配列される基板配列領域を含む内部空間を有している加熱炉と、前記基板配列領域に向けて前記カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給部と、前記複数のガス供給部に前記カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給源とを備えている。そして、該製造装置では、前記基板配列領域において、所定サイズの空間領域を単位時間に流れる気体に含まれる前記カルコゲン元素の物質量が、前記一方向に沿って高められる。
【発明の効果】
【0015】
上記一態様に係る薄膜製造方法および上記他の一態様に係る薄膜製造装置の何れによっても、カルコゲン元素を含む化合物半導体の均一な薄膜を容易に大量に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一実施形態に係る薄膜製造装置を示す概略図である。
【図2】図1にて二点鎖線II−IIで示した位置におけるXY断面を示す図である。
【図3】薄膜製造装置を用いた太陽電池パネルの製造フローを示すフローチャートである。
【図4】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図5】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図6】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図7】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図8】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図9】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図10】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図11】太陽電池パネルの製造途中の状態を模式的に示す図である。
【図12】太陽電池パネルの構成を模式的に示す平面図である。
【図13】図12にて一点鎖線XIII−XIIIで示した位置におけるXY断面を示す図である。
【図14】第1および第2変形例に係る薄膜製造装置を示す概略図である。
【図15】図14にて二点鎖線XV−XVで示した位置におけるXY断面を示す図である。
【図16】図14にて二点鎖線XV−XVで示した位置におけるXY断面を示す図である。
【図17】その他の変形例に係る薄膜製造装置を示す概略図である。
【図18】その他の変形例に係る薄膜製造装置を示す概略図である。
【図19】その他の変形例に係る薄膜製造方法を示す図である。
【図20】その他の変形例に係る薄膜製造装置を示す概略図である。
【図21】その他の変形例に係るモニタリング方法を説明するための図である。
【図22】その他の変形例に係るモニタリング方法を説明するための図である。
【図23】化合物半導体の薄膜製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図面においては同様な構成および機能を有する部分については同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。また、図面は模式的に示されたものであり、各図における各種構造のサイズおよび位置関係等は正確に図示されたものではない。
【0018】
なお、図1、図2および図4から図20には、加熱炉2,2Dおよび該加熱炉2,2Dに付属する各部の配置関係を明示するために、被加熱基板5の配列方向(図1の図面視左右方向)をX軸方向とする右手系のXYZ座標系が付されている。但し、複数のガス供給源S6、複数の希釈ガス供給源S9、コントローラーC1,C1A,C1B,C1Eおよび検出部D1Eについては、加熱炉2,2Dに対する配置関係が描かれたものではない。
【0019】
<(1)一実施形態>
<(1−1)薄膜製造装置>
薄膜製造装置1は、加熱炉2、攪拌用ファン3、複数のガス供給部6、複数のガス排出部7、ヒーター8、複数のガス供給源S6およびコントローラーC1を備えている。図1では、加熱炉2、攪拌用ファン3、複数のガス供給部6、複数のガス排出部7およびヒーター8についてのXZ断面と、複数のガス供給源S6と、コントローラーC1とが模式的に示されている。図2では、加熱炉2、複数のガス供給部6およびヒーター8についてのXY断面と、複数のガス供給源S6とが模式的に示されている。
【0020】
加熱炉2は、略直方体の箱形を有している筐体である。加熱炉2の外縁は、XY平面に略平行な2面、XZ平面に略平行な2面およびYZ平面に略平行な2面を有している。そして、加熱炉2は、内部空間2Iを有している。なお、加熱炉2は、略直方体のものに限られず、加熱対象物を配置することが可能な内部空間を有していれば良い。また、加熱炉2の材料としては、例えば、耐熱性に優れているニッケル基の超合金等が採用され得る。ニッケル基の超合金とは、ニッケルを50質量%以上含む合金である。ニッケル基の超合金としては、例えば、インコネル(登録商標)等が挙げられる。
【0021】
内部空間2Iには、カセット4が配される。カセット4には、2以上の所定数の加熱対象物である基板(被加熱基板とも言う)5が一方向に配列されている状態で装着される。ここでは、一方向が、X方向であり、2以上の所定数が、12である。さらに、カセット4では、各被加熱基板5の表裏の主面がYZ平面に略平行となる。つまり、隣り合う被加熱基板5同士が相互に対向し合っている。また、カセット4に装着されている隣り合う被加熱基板5の間隔は、例えば、略一定とされれば良い。
【0022】
なお、図1および図2では、−X側から1番目に配される被加熱基板5に符号51が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜12の整数)に配される被加熱基板5に符号5nが付されている。カセット4は、複数の被加熱基板5が配列される略直方体の空間領域(基板配列領域とも言う)4ARを囲む相互に連結された12の枠体を主に有している。図1および図2では、カセット4の外縁が一点鎖線で示されている。
【0023】
攪拌用ファン3は、内部空間2Iの最上部の略中央において加熱炉2の内壁に固定されている。攪拌用ファン3は、羽根車をモーター等で回転させることにより、内部空間2I内の気体を攪拌する。
【0024】
複数のガス供給部6は、内部空間2Iの最下部において一方向に配列されている。ここでは、一方向が、X方向である。また、隣り合うガス供給部6の間隔は、例えば、略一定とされれば良い。なお、図1および図2では、−X側から1番目に配されているガス供給部6に符号61が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜12の整数)に配されているガス供給部6に符号6nが付されている。
【0025】
そして、+Z側から見た場合、例えば、n番目のガス供給部6nが、n番目の被加熱基板5nよりも若干−X側に配される。換言すれば、+Z側から見た場合、例えば、m番目(mは1〜11の整数)の被加熱基板5mが、m番目のガス供給部6mとm+1番目のガス供給部6m+1との間に配される。
【0026】
各ガス供給部6は、内部空間2Iの底部に沿って−Y側の端部からY方向に延設されている管状の部材である。また、各ガス供給部6には、+Z側に複数の開口60が設けられている。各ガス供給部6では、複数の開口60が一方向に略直交する他方向に略一定の間隔で配列されている。ここでは、他方向が、Y方向である。
【0027】
複数のガス供給源S6は、複数のガス供給部6に所定の気体を供給する。各ガス供給源S6は、例えば、所定の気体を貯蔵しているタンク、ポンプ、配管および弁等を有している。なお、図1および図2では、−X側から1番目に配されているガス供給源S6に符号S61が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜12の整数)に配されているガス供給源S6に符号S6nが付されている。
【0028】
そして、n番目のガス供給源S6nが、n番目のガス供給部6nに接続されており、n番目のガス供給部6nに所定の気体を供給する。これにより、複数のガス供給部6が、基板配列領域4ARに向けて所定の気体を供給する。所定の気体は、カルコゲン元素を含む気体である。なお、カルコゲン元素は、Se、Te、Sのうちの少なくとも1以上の元素であれば良い。さらに、所定の気体には、カルコゲン元素の気体の他に、還元性の気体および不活性の気体のうちの少なくとも一方の気体(非酸化性気体とも言う)が含まれていれば良い。
【0029】
また、複数のガス供給部6から供給される所定の気体におけるカルコゲン元素の濃度が、X方向に高まるように、複数のガス供給源S6が、カルコゲン元素の濃度が相互に異なる気体を複数のガス供給部6に供給する。例えば、数値nの増加に従って、n番目のガス供給源S6nがn番目のガス供給部6nに供給する気体におけるカルコゲン元素の濃度が増大する。これにより、基板配列領域4ARにおいて、所定サイズの空間領域を単位時間に流れる気体に含まれているカルコゲン元素の物質量が、X方向に高められ得る。なお、この場合、例えば、各ガス供給源S6から対応するガス供給部6への気体の供給量は略一定であれば良い。
【0030】
ここで言う所定サイズの空間領域は、例えば、各被加熱基板5の一主面に接する所定サイズの空間領域であれば良い。より具体的には、所定サイズは、例えば、隣り合う被加熱基板5の間に位置する空間のサイズであれば良い。また、各被加熱基板5の一主面は、例えば、各被加熱基板5の−X側の主面であれば良い。また、単位時間としては、例えば、数秒〜数十秒の範囲の任意の時間が採用され得る。
【0031】
複数のガス排出部7は、加熱炉2の最上部の端部近傍に設けられている。複数のガス排出部7により、内部空間2Iの最上部の端部近傍から加熱炉2の外部に気体が排出され得る。各ガス排出部7には、例えば、排気用のポンプ等の各種部材が接続されれば良い。
【0032】
ヒーター8は、加熱炉2の周囲に巻かれている。ヒーター8による加熱により、加熱炉2内の基板配列領域4ARに配される複数の被加熱基板5が、例えば、400℃以上で且つ600℃以下の範囲内の所定温度まで略均一に加熱され得る。
【0033】
コントローラーC1は、例えば、プロセッサを有しており、薄膜製造装置1の全体の動作を制御する。例えば、コントローラーC1によって、攪拌用ファン3の動作、複数のガス供給源S6から複数のガス供給部6への気体の供給およびヒーター8による加熱等が制御され得る。
【0034】
<(1−2)薄膜製造装置を用いた太陽電池パネルの製造>
ここで、上記構成を有する薄膜製造装置1を用いた太陽電池パネル121の製造プロセスの一例について説明する。
【0035】
ここでは、薄膜製造装置1を用いて太陽電池パネル121の光吸収層131が形成される。光吸収層131は、第1導電型(ここではp型の導電型)を有するI−III−VI族化合物半導体の層である。I−III−VI族化合物半導体とは、I−III−VI族化合物を主に含む半導体である。なお、I−III−VI族化合物を主に含む半導体とは、I−III−VI族化合物を70mol%以上含む半導体のことを言う。以下の記載においても、「主に含む」は「70mol%以上含む」ことを意味する。I−III−VI族化合物は、I−B族元素(11族元素とも言う)とIII−B族元素(13族元素とも言う)とVI−B族元素(16族元素とも言う)とを主に含む化合物である。I−III−VI族化合物としては、例えば、CuInSe2(CISとも言う)、Cu(In,Ga)Se2(CIGSとも言う)、Cu(In,Ga)(Se,S)2(CIGSSとも言う)等が採用され得る。ここでは、光吸収層31が、CIGSを主に含む。
【0036】
図3は、薄膜製造装置1を用いた太陽電池パネル121の製造フローを例示するフローチャートである。図4から図11は、太陽電池パネル121の製造途中の様子を模式的に示すXZ断面図である。図12は、太陽電池パネル121の構成を模式的に示す平面図である。図13は、図12にて一点鎖線XIII−XIIIで示した位置におけるXZ断面を示す図である。
【0037】
まず、図3のステップST1では、基板101が準備される。図4は、基板101の一例を示す図である。基板101は、複数の光電変換セル110を支持するものである。基板101に含まれる主な材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂、および金属等が採用され得る。また、基板101の厚さは、1mm以上で且つ3mm以下程度であれば良い。
【0038】
次に、ステップST2では、洗浄された基板101の略全面に、スパッタリング法または蒸着法等が用いられて、下部電極層102が形成される。図5は、下部電極層102が形成された状態を示す図である。下部電極層102は、基板101の−X側の主面(一主面とも言う)の上に設けられた導電層である。下部電極層102に含まれる主な材料としては、例えば、Mo、Al、Ti、TaおよびAu等の導電性を有する各種金属等が採用され得る。また、下部電極層102の厚さは、例えば、0.2μm以上で且つ1μm以下程度であれば良い。
【0039】
ステップST3では、下部電極層102の上面のうちの所定の形成対象位置からその直下の基板101の上面にかけて、Y方向に直線状に延在する溝部P1が形成される。図6は、溝部P1が形成された後の状態を示す図である。溝部P1は、例えば、YAGレーザーまたはその他のレーザーの光が走査されつつ所定の形成対象位置に照射されることで形成され得る。
【0040】
ステップST4では、I−B族元素であるCu、III−B族元素であるInとGaおよびVI−B族元素であるSeの各元素に係る金属錯体を含む溶液が下部電極層2の上から塗布されて皮膜が形成される。該皮膜の厚さは、例えば、数μm以上で且つ十数μm以下程度であれば良い。
【0041】
ステップST5では、基板101の上に形成された皮膜に不活性気体中もしくは還元雰囲気で熱処理が施される。熱処理の温度は、50℃以上で且つ300℃以下であれば良い。このとき、皮膜が乾燥されるとともに皮膜中の有機物が熱分解される。その結果、下部電極層102の上および溝部P1内に有機物が熱分解された皮膜130が形成される。図7は、皮膜130が形成された状態を示す図である。
【0042】
ここでは、ステップST1〜ST5の処理が、複数の基板101に対して行われることで、基板101の一主面上に下部電極層102と皮膜130とがそれぞれ積層されている複数の被加熱基板5が準備され得る。該皮膜130には、光吸収層131に主に含まれる化合物半導体としてのCIGSに含有されるカルコゲン元素と該カルコゲン元素以外の金属元素とが含まれている。ここでは、カルコゲン元素がSeであり、カルコゲン元素以外の金属元素がCu、InおよびGaである。
【0043】
また、ステップST5では、熱処理によって皮膜中のカルコゲン元素としてのSeの一部が雰囲気中に蒸散し得る。ここで、例えば、皮膜中におけるCu、InおよびGaの略全量を含む化学量論組成のCIGSを形成するために必要であるSeの物質量を2mmolとする。この場合、熱処理の前後において、例えば、皮膜中のSeの物質量が2mmolから約1.6mmol以上で且つ約1.8mmol以下の範囲まで低下し得る。つまり、熱処理の条件により、複数の被加熱基板5における皮膜130において、例えば、Seの物質量が約1.6mmol以上で且つ約1.8mmol以下の範囲でばらつき得る。
【0044】
ステップST6では、各被加熱基板5の皮膜130について、Seの物質量とCIGSに含まれるSe以外の金属元素であるCu、InおよびGaの物質量との差(物質量差とも言う)を示す指標が測定される。
【0045】
また、上記指標としては、例えば、皮膜130におけるカルコゲン元素としてのSeの濃度、および皮膜130の厚さのうちの少なくとも一方であれば良い。なお、皮膜130におけるSeの濃度は、X線を用いた組成分析によって測定され得る。また、皮膜130の厚さは、X線を用いた膜厚測定器、膜厚計および反射干渉計等によって測定され得る。
【0046】
なお、複数の被加熱基板5における皮膜130の膜厚が略一定である場合、皮膜130におけるSeの濃度が、物質量差を間接的に精度良く示し得る。従って、複数の被加熱基板5における皮膜130の膜厚が略一定に制御される場合には、物質量差を示す指標として、皮膜130におけるSeの濃度が採用されれば良い。
【0047】
また、複数の被加熱基板5において皮膜130におけるSeの濃度が略一定である場合、皮膜130の膜厚に比例して物質量差が増える。このため、皮膜130の膜厚が、物質量差を間接的に精度良く示し得る。従って、複数の被加熱基板5において皮膜130におけるSeの濃度が略一定に制御される場合には、物質量差を示す指標として、皮膜130の厚さが採用されれば良い。
【0048】
さらに、複数の被加熱基板5において皮膜130におけるSeの濃度および該皮膜130の厚さの双方がばらつく場合には、物質量差を示す指標として、皮膜130におけるSeの濃度および該皮膜130の厚さの双方が採用されれば良い。
【0049】
ステップST7では、カセット4に複数の被加熱基板5が配列され、該カセット4が薄膜製造装置1の加熱炉2内の基板配列領域4ARに配される。このとき、ステップST6で測定された指標に基づいて、複数の被加熱基板5が物質量差の順に配列される。
【0050】
ここで、仮に、皮膜130の厚さが略一定であり、皮膜130中におけるCu、InおよびGaの略全量を含む化学量論組成のCIGSを形成するために必要である皮膜130中におけるSeの濃度が20である場合を想定する。この場合、例えば、皮膜130におけるSeの濃度を示す数値が、16,16.2,16.4,・・・,17.8,18,18.2といった具合に、0.2ずつ順に高まるように複数の被加熱基板5がカセット4においてX方向に配列される。具体的には、例えば、カセット4においてn番目に配される被加熱基板5nの皮膜130におけるSeの濃度を示す数値が、所定数としての12の段階の15.8+0.2×nとされ得る。
【0051】
また、仮に、皮膜130におけるSeの濃度が略一定であり、皮膜130の基準となる厚さが3μmである場合を想定する。この場合、例えば、皮膜130の厚さが、2.9,2.92,2.94,・・・,3.08,3.1,3.12μmといった具合に、0.02μmずつ皮膜130の厚さが増大するように複数の被加熱基板5がカセット4においてX方向に配列される。具体的には、例えば、カセット4においてn番目に配される被加熱基板5nの皮膜130の厚さが、所定数としての12の段階の2.88+0.02×nとされ得る。
【0052】
ステップST8では、薄膜製造装置1において、被加熱基板5に対する加熱処理が行われる。該加熱処理は、カルコゲン元素としてのSeの気体と非酸化性気体とを含む雰囲気中で行われれば良い。具体的には、各皮膜130に接している所定サイズの空間領域に、各指標に応じた物質量のカルコゲン元素としてのSeを含む気体が単位時間毎に流される。これにより、基板配列領域4ARにおいて、所定サイズの空間領域を単位時間に流れる気体に含まれているカルコゲン元素の物質量が、X方向に高められる。
【0053】
ここでは、例えば、複数のガス供給部6から供給される気体におけるカルコゲン元素としてのSeの濃度によって、所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量が調整され得る。気体中におけるSeの濃度は、Seの気体と非酸化性気体との混合比によって調整され得る。このような調整は、複数のガス供給源S6が、複数のガス供給部6の一方向の配列順に従ってSeの濃度が高められている気体を複数のガス供給部6に供給することで実現され得る。
【0054】
また、該加熱処理における熱処理温度は、例えば、400℃以上で且つ600℃以下であれば良い。そして、該加熱処理によって、皮膜130におけるCIGSの結晶化が進み、CIGSを主に含む光吸収層131が形成され得る。これにより、各被加熱基板5は、基板101の上に均一な光吸収層131が配されている基板(処理後基板とも言う)150となる。
【0055】
なお、複数のガス供給部6から供給される気体におけるカルコゲン元素としてのSeの濃度は、例えば、薄膜製造装置1が用いられた実験によって最適な濃度に設定され得る。この最適な濃度は、例えば、複数のガス供給部6から供給される気体におけるSeの濃度と、各被加熱基板5に係る物質量差を示す指標と、各処理後基板150におけるCIGSの物質量との関係が実験的に求められることで、決定され得る。
【0056】
ステップST9では、光吸収層131の上に、溶液成長法(CBD法)によってバッファ層132が形成される。図8は、バッファ層132が形成された状態を示す図である。例えば、酢酸カドミウムとチオ尿素とがアンモニアに溶解させられることで作製された溶液に光吸収層131の形成までが行われた処理後基板150が浸漬されることで、CdSを主に含むバッファ層132が形成される。これにより、光吸収層131とバッファ層132とが積層されている光電変換層103が形成され得る。
【0057】
なお、バッファ層132は、光吸収層131の−X側の主面(一主面とも言う)の上に設けられており、光吸収層131の第1導電型とは異なる第2導電型(ここではn型の導電型)を有する半導体を主に含む。なお、導電型が異なる半導体とは、伝導担体(キャリア)が異なる半導体である。また、光吸収層131の導電型がn型であり、バッファ層132の導電型がp型であっても良い。ここでは、バッファ層132と光吸収層131との間にヘテロ接合領域が形成される。このため、光電変換セル110では、ヘテロ接合領域を形成する光吸収層131とバッファ層132とにおいて光電変換が生じ得る。
【0058】
ステップS10では、バッファ層132の上面のうちの所定の形成対象位置から下部電極層102の上面に至る領域に、Y方向に直線状に延在する溝部P2が形成される。図9は、溝部P2が形成された後の状態を示す図である。溝部P2は、スクライブ針が用いられたメカニカルスクライビングによって形成され得る。なお、溝部P2は、溝部P1と同様に、レーザー光によって形成されても良い。
【0059】
ステップS11では、光電変換層103の上面から溝部P2の内部にかけて上部電極層104が形成される。図10は、上部電極層104が形成された後の状態を示す図である。上部電極層104は、スパッタリング法、蒸着法、または化学的気相成長(CVD)法等で形成される。例えば、バッファ層132の上に、アルミニウムが添加された酸化亜鉛を主に含む透明な上部電極層104が形成される。このとき、溝部P2内には、上部電極層104のうちの垂下する部分(垂下部とも言う)104aが形成される。
【0060】
ステップS12では、上部電極層104の上面のうちの所定の形成対象位置から溝部P2の内部にかけて集電電極105が形成される。図11は、集電電極105が形成された後の状態を示す図である。集電電極105は、例えば、銀等の金属粉が樹脂製のバインダー等に分散させられた金属ペーストが所定のパターンを有するように印刷され、印刷後の金属ペーストが乾燥によって固化されることで形成され得る。なお、集電電極105は、上部電極層104の−X側の主面(一主面とも言う)の上に設けられている線状の電極部である。集電電極105は、複数の集電部105aと連結部105bと垂下部105cとを備えている。
【0061】
ステップS13では、集電電極105が形成された後、上部電極層104の上面のうちの所定の形成対象位置から下部電極層102の上面に至る領域に、Y方向に直線状に延在する溝部P3が形成される。これにより、図12および図13で示される太陽電池パネル121が得られる。溝部P3は、溝部P2と同様に、スクライブ針が用いられたメカニカルスクライビングによって形成され得る。
【0062】
なお、図12および図13で示されるように、複数の集電部105aは、Y軸方向に離間しており、各集電部105aがZ軸方向に延在している。連結部105bは、Y軸方向に設けられており、各集電部105aが接続されている。垂下部105cは、連結部105bの下部に接続され、溝部P2内に形成されている。ここで、垂下部105cと垂下部104aとを含む接続部145が、溝部P2を通って隣の光電変換セル110から延伸されている下部電極層102に接続する。図12および図13では、2つの光電変換セル110が描かれているが、太陽電池パネル121には、3以上の所定数の光電変換セル110がZ方向に配列され得る。3以上の所定数としては、例えば、7が採用され得る。
【0063】
<(1−3)一実施形態のまとめ>
以上のように、本実施形態に係る薄膜製造装置1では、加熱炉2において、複数の被加熱基板5が物質量差の順に配列される。そして、加熱炉2において、複数の被加熱基板5が加熱される際に、各皮膜130に接している所定サイズの空間領域に、各皮膜130の物質量差に係る指標に応じた物質量のカルコゲン元素を含む気体が単位時間毎に流される。これにより、カルコゲン元素を含む化合物半導体の均一な薄膜を容易に大量に生産することができる。
【0064】
また、複数のガス供給部6から供給される気体におけるカルコゲン元素の濃度によって、所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量が調整され得る。これにより、加熱炉2内における気体の流量のバランスが維持されつつ、所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量が調整され得る。すなわち、加熱炉2内の雰囲気の制御が容易である。
【0065】
<(2)変形例>
なお、本発明は上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更、改良等が可能である。
【0066】
例えば、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1では、複数のガス供給部6から供給される気体におけるカルコゲン元素の濃度によって、所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量が調整されたが、これに限られない。所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量の調整方法としては、他の種々の方法が採用され得る。以下、具体例として、第1および第2変形例を挙げて説明する。
【0067】
<(2−1)第1変形例>
例えば、複数のガス供給部6から単位時間に供給されるカルコゲン元素を含む気体の供給量によって、所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量が調整されても良い。
【0068】
具体的には、例えば、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1において、複数のガス供給源S6から複数のガス供給部6に供給されるカルコゲン元素を含む気体の供給量を異ならせれば良い。より具体的には、例えば、数値nの増加に従って、単位時間においてn番目のガス供給源S6nがn番目のガス供給部6nに供給するカルコゲン元素を含む気体の供給量を増大させれば良い。つまり、単位時間における複数のガス供給部6へのSeを含む気体の供給量が複数のガス供給部6の一方向の配列順に応じて増加するように、複数のガス供給源S6がSeを含む気体を複数のガス供給部6に供給する。これにより、複数のガス供給部6から供給されるカルコゲン元素を含む気体の供給量が、X方向に高まり得る。
【0069】
この場合、例えば、複数のガス供給源S6から複数のガス供給部6へ供給される気体におけるカルコゲン元素の濃度は略一定であれば良い。また、例えば、複数のガス供給源S6における弁の開放度合いによって、複数のガス供給源S6から複数のガス供給部6へ供給される気体の供給量が調整されれば良い。
【0070】
また、この場合、加熱炉2内におけるガスの流れの偏りを低減するために、希釈ガスを加熱炉2内に供給する複数の希釈ガス供給部9が設けられても良い。希釈ガスは、例えば、還元性の気体および不活性の気体といった非酸化性の気体であれば良い。
【0071】
図14および図15は、本変形例に係る薄膜製造装置1Aの構成を模式的に示す図である。本変形例に係る薄膜製造装置1Aは、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1がベースとされて、複数の希釈ガス供給部9と複数の希釈ガス供給源S9とが追加され、コントローラーC1がコントローラーC1Aとされたものである。
【0072】
図14では、加熱炉2、攪拌用ファン3、複数のガス供給部6、複数のガス排出部7、ヒーター8および複数の希釈ガス供給部9についてのXZ断面と、複数のガス供給源S6および複数の希釈ガス供給源S9と、コントローラーC1Aとが模式的に示されている。図15では、加熱炉2、複数のガス供給部6、ヒーター8および複数の希釈ガス供給部9についてのXY断面と、複数のガス供給源S6および複数の希釈ガス供給源S9とが模式的に示されている。
【0073】
複数の希釈ガス供給部9は、内部空間2Iの最下部において一方向に配列されている。ここでは、一方向が、X方向である。また、隣り合う希釈ガス供給部9の間隔は、例えば、略一定とされれば良い。なお、図14および図15では、−X側から1番目に配されている希釈ガス供給部9に符号91が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜12の整数)に配されている希釈ガス供給部9に符号9nが付されている。
【0074】
そして、+Z側から見た場合、n番目の希釈ガス供給部9nが、n番目の被加熱基板5nよりも若干−X側に配され、n番目のガス供給部6nよりも若干+X側に配されている。従って、例えば、+Z側から見た場合、m番目(ここではmは1〜11の整数)の被加熱基板5mが、m番目のガス供給部6mと希釈ガス供給部9mとの組と、m+1番目のガス供給部6m+1と希釈ガス供給部9m+1との組との間に配される。なお、ガス供給部6nの配設位置と希釈ガス供給部9nの配設位置とが入れ換えられても良い。
【0075】
各希釈ガス供給部9は、内部空間2Iの底部に沿って+Y側の端部から−Y方向に延設されている管状の部材である。また、各希釈ガス供給部9には、+Z側に複数の開口90が設けられている。各希釈ガス供給部9では、複数の開口90が一方向に略直交する他方向に略一定の間隔で配列されている。ここでは、他方向が、Y方向である。
【0076】
複数の希釈ガス供給源S9は、複数の希釈ガス供給部9に希釈ガスを供給する。各希釈ガス供給源S9は、例えば、希釈ガスを貯蔵しているタンク、ポンプ、配管および弁等を有している。なお、図14および図15では、−X側から1番目に配されている希釈ガス供給源S9に符号S91が付され、−X側からn番目(ここではnは1〜12の整数)に配されている希釈ガス供給源S9に符号S9nが付されている。
【0077】
また、n番目の希釈ガス供給源S9nが、n番目の希釈ガス供給部9nに接続されており、n番目の希釈ガス供給部9nに希釈ガスを供給する。これにより、複数の希釈ガス供給部9が、基板配列領域4ARに向けて希釈ガスを供給する。
【0078】
そして、コントローラーC1Aの制御により、単位時間においてn番目のガス供給部6nから供給される所定の気体の供給量とn番目の希釈ガス供給部9nから供給される希釈ガスの供給量との合計量が、略一定とされれば良い。
【0079】
なお、複数のガス供給源S6から複数のガス供給部6へ供給される気体の供給量、および複数の希釈ガス供給源S9から複数の希釈ガス供給部9へ供給される気体の供給量は、例えば、薄膜製造装置1Aが用いられた実験によって最適な供給量に設定され得る。
【0080】
<(2−2)第2変形例>
例えば、カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給部6が配設されている密度(配設密度とも言う)によって、所定サイズの各空間領域を単位時間に流れる気体におけるカルコゲン元素の物質量が調整されても良い。
【0081】
具体的には、例えば、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1において、複数のガス供給源S6のうちの一部のガス供給源S6が、複数のガス供給部6のうちの一部のガス供給部6にカルコゲン元素を含む気体を供給すれば良い。より具体的には、カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給部6の配設密度が、一方向に沿って高められれば良い。ここでは、一方向は、X方向である。
【0082】
この場合、例えば、各ガス供給源S6から対応するガス供給部6へ供給される気体におけるカルコゲン元素の濃度は略一定であれば良い。また、各ガス供給源S6における弁の開放の有無によって、各ガス供給源S6から対応するガス供給部6へ気体が供給されるか否かが調整されれば良い。
【0083】
また、この場合、加熱炉2内におけるガスの流れの偏りを低減するために、上記第1変形例と同様に、希釈ガスを加熱炉2内に供給する複数の希釈ガス供給部9が設けられても良い。希釈ガスは、例えば、還元性の気体および不活性の気体といった非酸化性の気体であれば良い。
【0084】
図14および図16は、本変形例に係る薄膜製造装置1Bの構成を模式的に示す図である。本変形例に係る薄膜製造装置1Bは、上記第1変形例に係る薄膜製造装置1Aがベースとされて、コントローラーC1AがコントローラーC1Bとされたものである。
【0085】
本変形例に係る薄膜製造装置1Bでは、コントローラーC1Bの制御によって、各ガス供給源S6における弁の開放の有無が調整される。
【0086】
図16には、一例として、斜線のハッチングが付されているガス供給源S6が、弁の開放によって対応するガス供給部6に気体を供給している様子が示されている。具体的には、図16には、4,7,9,11,12番目のガス供給源S64,S67,S69,S611,S612から4,7,9,11,12番目のガス供給部64,67,69,611,612に気体が供給されている様子が示されている。
【0087】
そして、コントローラーC1Bの制御により、単位時間においてn番目のガス供給部6nから供給される所定の気体の供給量とn番目の希釈ガス供給部9nから供給される希釈ガスの供給量との合計量が、略一定とされれば良い。
【0088】
なお、カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給部6の配設密度は、薄膜製造装置1Bが用いられた実験によって最適な配設密度に設定され得る。
【0089】
また、複数のガス供給源S6および複数のガス供給部6のうち、内部空間2Iへの気体の供給に使用されないガス供給源S6およびガス供給部6は、省略されても良い。
【0090】
<(2−3)その他の変形例>
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bにおいて、加熱炉2内のうちの、複数のガス供給部6から基板配列領域4ARにわたる領域以外における少なくとも一部の領域に、吸収材B1が配されても良い。
【0091】
このような吸収材B1が配されていれば、基板配列領域4ARを一旦通過した気体が、内部空間2Iの上部で攪拌用ファン3によって攪拌され、内部空間2Iの下部に戻る際に、該気体中のカルコゲン元素が吸収され得る。これにより、複数のガス供給部6からの気体の供給によって基板配列領域4ARに供給されるカルコゲン元素の物質量の調整が容易となる。
【0092】
図17には、一例として、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1がベースとされて、吸収材B1が追加された薄膜製造装置1Cが示されている。
【0093】
なお、吸収材B1の材料は、カルコゲン元素の気体を吸収する材料であれば良い。該材料として、例えばCuが採用されれば、400℃以上で且つ600℃以下の温度に吸収材B1が加熱されても該吸収材B1が溶融せず、カルコゲン元素と反応して、該カルコゲン元素を吸収し得る。また、薄膜製造装置で製造される光吸収層131に主に含まれる化合物半導体がCIGS等といったCuを含む化合物半導体である場合、吸収材B1の材料としてCuが採用されれば、光吸収層131に不純物が混入し難い。
【0094】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bにおいて、複数のガス供給部6から基板配列領域4ARに一旦供給された気体が、加熱炉の外に排出されるようにしても良い。つまり、加熱炉内のうちの、複数のガス供給部6から基板配列領域4ARを経てガス排出部に至るまでの一方向の経路に沿って、カルコゲン元素を含む気体が流れるようにしても良い。これにより、複数のガス供給部6からの気体の供給によって基板配列領域4ARに供給されるカルコゲン元素の物質量の調整が容易となる。
【0095】
図18には、一例として、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1がベースとされて、攪拌用ファン3が削除され、加熱炉2が、内部空間2DIの最上部の略中央に大きなガス排出部7Dを有する加熱炉2Dに変更された薄膜製造装置1Dが示されている。
【0096】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bでは、カセット4に2以上の所定数の被加熱基板5が略一定の間隔を有して配列されたが、これに限られない。例えば、所定数のうちの1つの段階以上の物質量差に係る指標に対応する被加熱基板5が得られていない場合には、該被加熱基板5と同一サイズの他の基板(ダミー基板とも言う)が用いられても良い。つまり、所定数の被加熱基板5のうちの1以上の被加熱基板5が、ダミー基板に置換されても良い。これにより、所望の条件を満たす被加熱基板5が得られない場合であっても、カルコゲン元素を含む化合物半導体の均一な薄膜を容易に大量に生産することができる。
【0097】
図19には、一例として、3番目の被加熱基板53および10番目の被加熱基板510が、ダミー基板に置換されている様子が示されている。
【0098】
なお、ダミー基板としては、例えば、不良品となった被加熱基板5が繰り返し採用されても良い。また、ダミー基板としては、例えば、ガラス製の基板等といった被加熱基板5とは異なる基板が採用されても良い。
【0099】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bでは、事前に測定された指標に応じて、各皮膜130に接している所定サイズの空間領域に、各指標に応じた物質量のカルコゲン元素を含む気体が単位時間毎に流された。しかしながら、これに限られない。例えば、光吸収層131を形成するための加熱処理中に、各皮膜130についての物質量差に係る指標が求められ、該指標の測定結果に応じて所定サイズの各空間領域において単位時間に流れる気体に含まれるカルコゲン元素の物質量が変更されても良い。
【0100】
ここでは、皮膜130におけるカルコゲン元素の濃度および皮膜130の厚さと、皮膜130の電気抵抗との関係が実験的に求められていれば、加熱処理中に求められる指標として、例えば、皮膜130における電気抵抗が採用され得る。
【0101】
図20には、一例として、上記一実施形態に係る薄膜製造装置1がベースとされて、検出部D1Eが追加され、コントローラーC1がコントローラーC1Eに置換された薄膜製造装置1Eが示されている。
【0102】
検出部D1Eは、各被加熱基板5の皮膜130の電気抵抗を測定する部分である。例えば、図21で示されるように、各被加熱基板5において、下部電極層102が、6本の溝部P1によって、7つの下部電極層102a〜102gに分割されている場合を想定する。この場合、例えば、溝部P1を挟んで隣り合う2つの下部電極層102a,102bの間の電気抵抗は、図22で示されるように、下部電極層102aの電気抵抗R102aと下部電極層102bの電気抵抗R102bと皮膜130の電気抵抗RCIGSとの合計値となる。このため、例えば、カセット4に設けられた端子T1,T2を介して、検出部D1Eにより、溝部P1を挟んで隣り合う2つの下部電極層102a,102bの間の電気抵抗が測定されることで、皮膜130の電気抵抗が測定され得る。
【0103】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bでは、光吸収層131が、I−III−VI族化合物半導体を含んでいたが、これに限られない。例えば、光吸収層131に含まれる化合物半導体は、カルコゲン元素を含む化合物半導体であれば良い。カルコゲン元素を含む化合物半導体としては、例えば、Cu、Zn、Sn、Sの4元素を主に含むI−II−IV−VI族化合物半導体(CZTS)、およびCdとTeの2元素を主に含むII−VI族化合物半導体が採用され得る。すなわち、薄膜製造装置1,1A,1Bは、カルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する薄膜製造装置であれば良い。
【0104】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bでは、加熱炉2の底部から気体が導入されたが、これに限られない。例えば、加熱炉2内において、各被加熱基板5が水平面に沿って配置され、側方部から気体が導入されても良い。
【0105】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bでは、複数の被加熱基板5が一定の間隔で配列されたが、これに限られない。例えば、複数の被加熱基板5が配列される間隔(配列間隔とも言う)が調整されることで、加熱炉2内における気体の流れが制御されても良い。例えば、配列間隔が狭い被加熱基板5の組については、該被加熱基板5の近傍では気体が流れ難く、該被加熱基板5の近傍に供給されるカルコゲン元素を含む気体の量が少なくなり得る。
【0106】
◎また、上記一実施形態、第1および第2変形例に係る薄膜製造装置1,1A,1Bでは、基板配列領域4ARにおいて、所定サイズの空間領域を単位時間に流れる気体に含まれているカルコゲン元素の物質量が、X方向に単純に高められた。しかしながら、これに限られない。例えば、カセット4に配列される複数の被加熱基板5のうちの中央近傍に配列される被加熱基板5における物質量差が最も高く、両端側に近づけば近づくほど、被加熱基板5における物質量差が低められる場合を想定する。この場合には、所定サイズの空間領域を単位時間に流れる気体に含まれているカルコゲン元素の物質量が、基板配列領域4ARの−X側の一端部から略中央部にかけてX方向に高められ、該略中央部から+X側の他端部にかけてX方向に低められても良い。
【0107】
◎なお、上記一実施形態および各種変形例をそれぞれ構成する全部または一部を、適宜、矛盾しない範囲で組み合わせ可能であることは、言うまでもない。
【符号の説明】
【0108】
1,1A〜1E 薄膜製造装置
2,2D 加熱炉
2DI,2I 内部空間
4AR 基板配列領域
5,51〜512,5n 被加熱基板
6,61〜612,6m,6n ガス供給部
7,7D ガス排出部
9,91〜912,9m,9n 希釈ガス供給部
130 皮膜
131 光吸収層
B1 吸収材
C1,C1A,C1B,C1E コントローラー
D1E 検出部
S6,S61〜S612,S6n ガス供給源
S9,S91〜S912,S9n 希釈ガス供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する薄膜製造方法であって、
(a)前記カルコゲン元素と前記化合物半導体に含まれる前記カルコゲン元素以外の金属元素とを含む皮膜が一主面の上にそれぞれ配されている複数の基板を準備する工程と、
(b)各前記皮膜について、前記カルコゲン元素の物質量と前記金属元素の物質量との差を示す指標を得る工程と、
(c)各前記皮膜に係る前記指標に基づいて、一加熱炉内の基板配列領域に前記複数の基板を前記差の順に配列する工程と、
(d)前記一加熱炉内において、各前記皮膜に接している所定サイズの空間領域に、各前記指標に応じた物質量の前記カルコゲン元素を含む気体を単位時間毎に流しながら、前記複数の基板を加熱することで、各前記基板の上に前記化合物半導体の薄膜を形成する工程とを備える薄膜製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)において、各前記皮膜に係る前記指標として、各前記皮膜における前記カルコゲン元素の濃度を用いる請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記工程(b)において、各前記皮膜に係る前記指標として、各前記皮膜の厚さを用いる請求項1または請求項2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記工程(d)において、複数のガス供給部から供給される気体における前記カルコゲン元素の濃度によって、前記空間領域を前記単位時間に流れる気体に含まれる前記カルコゲン元素の物質量を調整する請求項1から請求項3の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記工程(d)において、複数のガス供給部から供給される前記カルコゲン元素を含む気体の供給量によって、前記空間領域を前記単位時間に流れる気体に含まれる前記カルコゲン元素の物質量を調整する請求項1から請求項3の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
前記工程(d)において、前記カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給部の配設密度によって、前記空間領域を前記単位時間に流れる気体に含まれる前記カルコゲン元素の物質量を調整する請求項1から請求項3の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
前記工程(d)において、前記一加熱炉内のうちの、前記複数のガス供給部から前記基板配列領域にわたる領域以外における少なくとも一部の領域に、前記カルコゲン元素の気体を吸収する材料が配されている請求項4から請求項6の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
前記工程(d)において、前記一加熱炉内のうちの、前記複数のガス供給部から前記基板配列領域を経てガス排出部に至るまでの一方向の経路に沿って、前記カルコゲン元素を含む気体を流す請求項4から請求項6の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項9】
前記工程(c)において、前記複数の基板のうちの隣接する1組以上の基板の間に、前記複数の基板のうちの1以上の基板と同一サイズのダミー基板を配する請求項1から請求項8の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項10】
前記工程(d)において、各前記皮膜について前記指標を求め、該指標に応じて前記空間領域を前記単位時間に流れる気体に含まれる前記カルコゲン元素の物質量を変更する請求項1から請求項9の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造方法。
【請求項11】
カルコゲン元素を含む化合物半導体の薄膜を製造する薄膜製造装置であって、
隣り合う基板同士が対向し合うように複数の基板が一方向に配列される基板配列領域を含む内部空間を有している加熱炉と、
前記基板配列領域に向けて前記カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給部と、
前記複数のガス供給部に前記カルコゲン元素を含む気体を供給する複数のガス供給源とを備え、
前記基板配列領域において、所定サイズの空間領域を単位時間に流れる気体に含まれる前記カルコゲン元素の物質量が、前記一方向に沿って高められる薄膜製造装置。
【請求項12】
前記複数のガス供給部が、前記一方向に並べられており、
前記複数のガス供給源が、前記複数のガス供給部の前記一方向の配列順に応じて前記カルコゲン元素の濃度が高められている気体を前記複数のガス供給部にそれぞれ供給する請求項11に記載の薄膜製造装置。
【請求項13】
前記複数のガス供給部が、前記一方向に並べられており、
前記複数のガス供給源が、前記カルコゲン元素を含む気体の単位時間における前記複数のガス供給部への供給量が前記複数のガス供給部の前記一方向の配列順に応じて増加するように、前記カルコゲン元素を含む気体を前記複数のガス供給部にそれぞれ供給する請求項11に記載の薄膜製造装置。
【請求項14】
前記複数のガス供給部の配設密度が、前記一方向に沿って高まっている請求項11に記載の薄膜製造装置。
【請求項15】
前記内部空間のうちの、前記カルコゲン元素を含む気体を供給する前記複数のガス供給部から前記基板配列領域にわたる領域以外における少なくとも一部の領域に、前記カルコゲン元素の気体を吸収する材料が配されている請求項11から請求項14の何れか1つの請求項に記載の薄膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−244032(P2012−244032A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114442(P2011−114442)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】