説明

薄膜製造方法、透明電磁波遮蔽フィルム、光学フィルターおよびプラズマディスプレイ

【課題】ゾル−ゲル法と紫外線照射法とを組み合わせて金属酸化物を含む薄膜を得るにあたり、紫外線照射量を増加させなくても高い屈折率を備えた金属酸化物を含む薄膜を得ることが可能な薄膜製造方法を提供すること。また、この薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を有する透明電磁波遮蔽フィルムを提供すること。
【解決手段】金属化合物を含む溶液を透明高分子フィルムの少なくとも一方面に塗工し、乾燥させて薄膜前駆体を形成し、この薄膜前駆体に紫外線を照射して金属酸化物を含む薄膜を製造するにあたり、紫外線の照射前に透明高分子フィルムを温度調整する。また、この薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を、透明高分子フィルム上に有する透明電磁波遮蔽フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜製造方法、透明電磁波遮蔽フィルム、光学フィルターおよびプラズマディスプレイに関し、さらに詳しくは、ゾル−ゲル法と紫外線照射法とを使用して金属酸化物を含む薄膜を製造する薄膜製造方法、この薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を有する透明電磁波遮蔽フィルム、この透明電磁波遮蔽フィルムを有する光学フィルター、および、この透明電磁波遮蔽フィルムまたは光学フィルターを有するプラズマディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、光学的機能、電気的機能などの高次機能を実現するため、各種の機能性薄膜が用いられている。
【0003】
例えば、プラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel、以下「PDP」という。)など、表示装置に関する分野などでは、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能などを付与する目的で、透明高分子フィルム上に、金属酸化物薄膜、金属薄膜が交互に積層された透明電磁波遮蔽フィルムが広く用いられている。
【0004】
この種の透明電磁波遮蔽フィルムにおいて、金属酸化物薄膜は、従来、真空蒸着法、スパッタリング法などの物理的気相成長法(PVD)や、熱CVD、プラズマCVDなどの化学的気相成長法(CVD)などといった気相法により製造するのが主流であった。
【0005】
ところが、これら気相法は、真空設備などの大型設備が必要であるため高コストになりやすく、生産性に劣るなどの欠点がある。そのため、最近では、大気中で成膜できる、低コストである、気相法に比較して生産性に優れるなどの利点があることから、液相法であるゾル−ゲル法を用いて金属酸化物薄膜を製造する方法が注目を浴びている。
【0006】
例えば、特許文献1には、透明高分子フィルムの表面に、チタンの有機化合物溶液を塗工し、乾燥させて薄膜前駆体を形成した後、この薄膜前駆体に紫外線を照射して酸化チタン薄膜を形成する薄膜製造方法、および、この薄膜製造方法により製造した酸化チタン薄膜を有する透明電磁波遮蔽フィルムが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−200511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されるように、ゾル−ゲル法と紫外線照射法とを組み合わせて金属酸化物を含む薄膜を製造する場合、以下の点で未だ改良の余地が残されていた。
【0009】
すなわち、ゾル−ゲル法と紫外線照射法とを組み合わせて金属酸化物を含む薄膜を製造する場合、一般に、薄膜前駆体の内部まで加水分解・縮合反応が十分に進行し難く、得られた薄膜中に、金属の有機化合物など、出発原料が残存しやすい。
【0010】
したがって、未反応成分の残存量を少なくし、できるだけ高い屈折率を備えた金属酸化物を含む薄膜を得るためには、薄膜前駆体に対して照射する紫外線の光量をできるだけ多くし、加水分解・縮合反応を促進させて未反応成分を少なくするようにすることが望ましい。
【0011】
しかしながら、このようなことを行うと、薄膜を支持している透明高分子フィルムの表面温度が紫外線照射により急上昇し、透明高分子フィルムの熱膨張などに起因して薄膜に亀裂が入りやすくなるといった問題が発生することが判明した。
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ゾル−ゲル法と紫外線照射法とを組み合わせて金属酸化物を含む薄膜を得るにあたり、紫外線照射量を増加させなくても高い屈折率を備えた金属酸化物を含む薄膜を得ることが可能な薄膜製造方法を提供することにある。
【0013】
また、他の課題は、この薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を有する透明電磁波遮蔽フィルム、この透明電磁波遮蔽フィルムを有する光学フィルター、この透明電磁波遮蔽フィルムまたは光学フィルターを有するプラズマディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る薄膜製造方法は、金属化合物を含む溶液を透明高分子フィルムの少なくとも一方面に塗工し、乾燥させて薄膜前駆体を形成し、この薄膜前駆体に紫外線を照射して金属酸化物を含む薄膜を製造するにあたり、紫外線の照射前に透明高分子フィルムを温度調整することを要旨とする。
【0015】
この際、上記温度調整は、25[℃]〜透明高分子フィルムが熱劣化する前までの温度[℃]の範囲内で行われることが好ましい。
【0016】
また、上記金属化合物はチタンの化合物であり、上記金属酸化物はチタンの酸化物であることが好ましい。
【0017】
一方、本発明に係る透明電磁波遮蔽フィルムは、透明高分子フィルムの少なくとも一方面に、上記薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を、少なくとも1層以上有することを要旨とする。
【0018】
また、本発明に係る光学フィルターは、上記透明電磁波遮蔽フィルムを有することを要旨とする。
【0019】
また、本発明に係るプラズマディスプレイは、上記透明電磁波遮蔽フィルムまたは上記光学フィルターを有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る薄膜製造方法では、薄膜前駆体に紫外線を照射する前に透明高分子フィルムを温度調整することとしている。
【0021】
そのため、その後の紫外線照射時に、従来のように紫外線照射量を増加させなくても、紫外線による金属化合物の加水分解・縮合反応(以下、「UVによる加水分解・縮合反応」ということがある。)が促進され、比較的短時間で金属酸化物が効率良く生成する。したがって、従来よりも未反応成分が少なくなり、高い屈折率を有する金属酸化物を含む薄膜が得られる。また、金属酸化物を含む薄膜製造時の生産性も向上し、エネルギー消費量も小さくできる。
【0022】
さらに、薄膜の高屈折率化を図るにあたり、従来のように紫外線照射量を増加させる必要がほとんどないことから、紫外線の照射による透明高分子フィルムの急激な温度上昇を抑制でき、透明高分子フィルムにかかる熱負荷を軽減することができる。また、透明高分子フィルムの熱膨張を抑制することができるので、透明高分子フィルムの熱膨張などに起因して薄膜に亀裂が生じるのを防止することができる。
【0023】
この際、透明高分子フィルムの温度調整が、25[℃]〜透明高分子フィルムが熱劣化する前までの温度[℃]の範囲で行われる場合には、上記作用効果に優れる。また、上記薄膜製造方法では、従来よりも紫外線照射に起因する熱を抑制することができるので、透明高分子フィルムの熱劣化を抑制しやすい。
【0024】
また、上記金属化合物がチタンの化合物であり、上記金属酸化物がチタンの酸化物であれば、とりわけ高い屈折率を有する薄膜が得られる。
【0025】
一方、本発明に係る透明電磁波遮蔽フィルムは、透明高分子フィルムの少なくとも一方面に、上記薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を、少なくとも1層以上有しているので、従来よりも高い屈折率を有する。また、屈折率の安定性にも優れる。さらに、実質的に亀裂のない薄膜を備えているので、信頼性にも優れる。
【0026】
また、本発明に係る光学フィルターは、上記透明電磁波遮蔽フィルムを有しているので、安定して高い屈折率を有し、信頼性にも優れる。
【0027】
また、本発明に係るプラズマディスプレイは、上記透明電磁波遮蔽フィルムまたは上記光学フィルターを有しているので、画質などに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本実施形態に係る薄膜製造方法、透明電磁波遮蔽フィルム、光学フィルターおよびプラズマディスプレイについて詳細に説明する(以下、本実施形態に係る薄膜製造方法を「本薄膜製造方法」と、本実施形態に係る透明電磁波遮蔽フィルムを「本フィルム」と、本実施形態に係る光学フィルターを「本フィルター」と、本実施形態に係るプラズマディスプレイを「本ディスプレイ」ということがある。)。
【0029】
1.本薄膜製造方法
本薄膜製造方法は、金属化合物を含む溶液を透明高分子フィルム上に塗工し、乾燥させて薄膜前駆体を形成し、この薄膜前駆体に紫外線を照射するにあたり、その紫外線の照射前に透明高分子フィルムを温度調整して金属酸化物を含む薄膜を製造する方法である。
【0030】
1.1 金属化合物を含む溶液
本薄膜製造方法では、金属化合物を含む溶液を出発溶液として使用する。この溶液は、薄膜中の金属酸化物を構成する金属の金属化合物を適当な溶媒に溶解して調製することができる。
【0031】
上記金属化合物としては、例えば、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、セリウム、シリコン、ハフニウム、鉛などの金属の有機化合物、無機化合物などが挙げられ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0032】
上記金属有機化合物としては、例えば、上記金属の金属アルコキシドや、金属アシレート、金属アセチルアセトネート、金属カルボキシレートなどの金属キレートなどを例示することができる。一方、上記金属無機化合物としては、例えば、上記金属の炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、塩化物などを例示することができる。
【0033】
本薄膜製造方法において、上記溶液中に含まれる金属化合物は、特に限定されるものではないが、高屈折率を有する金属酸化物になり得る金属の金属化合物を好適に用いることができる。このような金属化合物としては、例えば、チタンの化合物などを例示することができる。なお、本願において、高屈折率とは、633nmの光に対する屈折率が1.75以上ある場合をいう。
【0034】
溶液中に含まれるチタンの化合物としては、例えば、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラメトキシチタンなどのM−O−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアルコキシドや、イソプロポキシチタンステアレートなどのM−O−CO−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアシレート、ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート、ジヒドロキシビスラクタトチタン、ジイソプロポキシビストリエタノールアミナトチタン、ジイソプロポキシビスエチルアセトアセタトチタンなどのチタンのキレートなどを例示することができ、これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0035】
また、上記金属化合物を溶解させる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルなどの有機酸エステル、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのシクロエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、ヘキサンなどの炭化水素類、トルエンなどの芳香族類などを例示することができ、これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0036】
また、上記溶液には、必要に応じて、各種の添加剤が添加されていても良い。上記添加剤としては、例えば、紫外線吸収性の官能基を有するものなどを好適なものとして例示することができる。本薄膜製造方法では、紫外線を用いて加水分解・縮合反応を進行させるので、出発溶液に紫外線吸収性の官能基を導入しておけば、予め紫外線吸収性キレートが形成されたところに紫外線照射がなされるので、未反応成分がより少なくなり、高い屈折率を有し、かつ、安定性の高い金属酸化物を含む薄膜を得やすくなるからである。
【0037】
この種の添加剤としては、βジケトン類、アルコキシアルコール類、アルカノールアミン類などの添加剤を例示することができる。より具体的には、上記βジケトン類としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、マロン酸ジエチルなどを例示することができる。また、アルコキシアルコール類としては、例えば、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−メトキシ−2−プロパノールなどを例示することができる。また、アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
【0038】
また、上記添加剤の配合割合としては、上記金属化合物1モルに対して、例えば、0.1〜20倍モルの範囲などを例示することができる。
【0039】
1.2 透明高分子フィルム
本薄膜製造方法において、透明高分子フィルムは、薄膜を形成するためのベースとなるものである。透明高分子フィルムの材料としては、可視光領域において透明性を有し、その表面に薄膜を支障なく形成できるものであれば、何れのものでも用いることができる。
【0040】
透明高分子フィルム材料としては、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどの高分子材料が挙げられる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマーなどを好適に用いることができる。
【0041】
また、上記透明高分子フィルムの厚さは、用いる材料などを考慮して種々調節することが可能である。
【0042】
1.3 塗工方法
本薄膜製造方法において、上記金属化合物を含む溶液を、上記透明高分子フィルム上に膜状に塗工する方法としては、スピンコート法、グラビアコート法、ディップコート法、バーコート法、ドクターブレード法、リバースロールコート法など、各種の公知の塗工方法を例示することができ、適宜選択して用いることができる。
【0043】
なお、本薄膜製造方法では、上記金属化合物を含む溶液は、上記透明高分子フィルムの片面のみに塗工されていても良いし、あるいは、両面に塗工されていても良い。また、本薄膜製造方法において、上記金属化合物を含む溶液を透明高分子フィルムに塗工するとは、透明高分子フィルム上に直接塗工する場合以外に、透明高分子フィルム上に形成された金属薄膜などの他の薄膜上に塗工する場合も含まれる。
【0044】
1.4 乾燥方法
本薄膜製造方法では、上記透明高分子フィルム上に塗工した溶液を乾燥させて薄膜前駆体を形成する。この場合の乾燥方法としては、例えば、上記溶液を塗工した透明高分子フィルムを公知の乾燥装置に入れるなどすれば良い。この際、乾燥条件としては、40℃〜120℃の温度範囲、0.5分〜60分の乾燥時間などを例示することができる。
【0045】
1.5 透明高分子フィルムの温度調整
本薄膜製造方法では、後述する紫外線を照射する前に、透明高分子フィルムを予熱などして温度調整する。
【0046】
この場合、上記温度調整は、透明高分子フィルムの材質や、紫外線照射量などを考慮して種々の温度に調整することができる。基本的には、調整する温度の下限値は、得られる金属酸化物を含む薄膜の屈折率が、透明高分子フィルムの温度調整による効果により向上し始める温度であれば良い。
【0047】
調整する温度の下限値としては、具体的には、25[℃]、26[℃]、27[℃]、28[℃]、29[℃]、30[℃]などを例示することができる。
【0048】
一方、これら下限値と組み合わせることが可能な、調整する温度の上限値としては、透明高分子フィルムが熱劣化する前までの温度[℃]などを例示することができる。
【0049】
ここで、上記透明高分子フィルムが熱劣化する前の温度とは、加えた熱により、透明高分子フィルムが変形したり、変質したりする場合など、透明高分子フィルムがこれらに準ずる変化をきたす手前の温度を指す。なお、透明高分子フィルムが熱劣化する前の温度には、長時間透明高分子フィルムが熱劣化する温度に曝されれば、通常、透明高分子フィルムが熱により変形したり、変質したりなどするが、透明高分子フィルムに熱劣化が生じない範囲内であれば、一時的に透明高分子フィルムが熱劣化する温度以上の高いピーク温度になる場合も含まれる。
【0050】
透明高分子フィルムが熱劣化する前の温度としては、具体的には、例えば、用いる透明高分子フィルムの融点以下の温度などを例示することができる。
【0051】
また、上記透明高分子フィルムが熱劣化する前の温度は、本薄膜製造方法において、透明高分子フィルムを温度調整する最大上限値であり、これ以下の温度を好適に用いることができるのは当然である。
【0052】
例えば、透明高分子フィルムを温度調整する際に上限側の温度を決めるにあたり、得られる金属酸化物を含む薄膜の屈折率の向上が飽和して安定する範囲にある温度などを好適に選択することができる。このような温度を選択した場合には、透明高分子フィルムを過度に温度調整する必要がないことから、透明高分子フィルムを熱劣化させ難く、かつ、エネルギーの消費をより少なくできるなどの利点がある。
【0053】
また、透明高分子フィルムを温度調整するにあたっては、例えば、所定温度に加熱、温調された熱源と接触させたり、あるいは、レーザ、マイクロ波などの非接触式の加熱手段などにより温調すれば良い。より具体的には、例えば、前者の例として、ロール to ロール法などにおいて、所定温度に温調されたロールと透明高分子フィルムとを接触させる方法などを例示することができる。
【0054】
1.6 紫外線の照射
本薄膜製造方法では、上記透明高分子フィルム上に形成された薄膜前駆体に紫外線を照射する。紫外線照射機としては、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプなどを例示することができる。
【0055】
この場合、照射する紫外線の光量は、薄膜前駆体を主に形成している金属化合物の種類などを考慮して種々調節することができる。一般的に、照射する紫外線の光量が過度に小さすぎると、薄膜の高屈折率化を図り難くなる。一方、照射する紫外線の光量が過度に大きすぎると、紫外線照射の際に生じる急激な温度上昇により透明高分子フィルムが変形することがある。したがって、これらに留意すると良い。
【0056】
照射する紫外線の光量としては、例えば、その下限値として、300mJ/cm、500mJ/cmなどを例示することができ、これら下限値と組み合わせることが可能な上限値として、8000mJ/cm、5000mJ/cmなどを例示することができる。
【0057】
2.本フィルム
2.1 本フィルムの概略形態など
本フィルムは、透明高分子フィルム上に、上述した薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜と、金属薄膜とが交互に積層されている。
【0058】
本フィルムにおいて、金属酸化物を含む薄膜と金属薄膜とは、透明高分子フィルムの一方面のみに形成されていても良いし、透明高分子フィルムの両面に形成されていても良い。
【0059】
また、本フィルムが有する積層構造の基本単位としては、例えば、透明高分子フィルム側から、金属酸化物を含む薄膜│金属薄膜、金属薄膜│金属酸化物を含む薄膜などを例示することができる。これら基本単位は、単数または複数繰り返し積層されていても良い。
【0060】
なお、前者の基本単位を用いる場合には、金属薄膜の劣化防止、透明性の確保などの観点から、透明高分子フィルムから最も遠い表面に、別途、金属酸化物を含む薄膜を積層するのが好ましい。
【0061】
また、本フィルムが有する積層構造において、その積層数は、金属酸化物を含む薄膜、金属薄膜などの材料や膜厚、要求される光学特性、電磁波遮蔽機能などを考慮して異ならせることができる。その積層数としては、一般に、3〜9層などを例示することができる。
【0062】
また、上記積層構造において、金属酸化物を含む薄膜、金属薄膜の組成または材料は、それぞれ同一の組成または材料から形成されていても良いし、異なる組成または材料から形成されていても良い。
【0063】
また、上記積層構造において、金属酸化物を含む薄膜、金属薄膜の厚さは、各膜の厚さが、ほぼ同一であっても良いし、各膜ごとに異なっていても良い。
【0064】
2.2 本フィルムの各構成
以下、本フィルムの各構成について説明する。
【0065】
2.2.1 透明高分子フィルム
本フィルムにおいて、透明高分子フィルムは、薄膜を形成するためのベースとなるものである。透明高分子フィルムの材料としては、上述した高分子材料を例示することができる。
【0066】
また、上記透明高分子フィルムの厚さは、用いる材料などを考慮して種々調節することができる。一般的には、その下限値として、10μm、25μmなどを例示でき、これら下限値と組み合わせることが可能な上限値として、500μm、250μmなどを例示することができる。
【0067】
2.2.2 金属酸化物を含む薄膜
本フィルムにおいて、金属酸化物を含む薄膜は、可視光領域において透明性を有し、高屈折率層として機能するものである。
【0068】
上記金属酸化物としては、具体的には、例えば、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物およびセリウムの酸化物などが挙げられ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複酸化物であっても良い。
【0069】
上記金属酸化物としては、とりわけ、可視光に対する屈折率が比較的大きな、酸化チタン(IV)(TiO)、ITO、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)などを好適に用いることができ、これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0070】
また、金属酸化物を含む薄膜は、必要な屈折率を確保でき、かつ、光学特性などに悪影響を及ぼさない範囲内であれば、金属酸化物の合成時に使用した金属酸化物の前駆体、例えば、金属アルコキシドや、金属アシレートなどの金属キレート、金属の炭酸塩、水酸化物などの金属の有機または無機化合物や、各種の添加剤、不可避不純物など、金属酸化物以外の物質を含んでいても良い。なお、金属アルコキシドなど、金属の有機化合物が少量含まれている場合には、透明電磁波遮蔽フィルムの柔軟性に優れるなどの利点がある。
【0071】
ここで、本フィルムにおいて、上記積層構造中における金属酸化物を含む薄膜は、基本的には、上述した薄膜製造方法により形成されたものを用いると良い。
【0072】
この場合、金属酸化物を含む薄膜は、その全てが、透明高分子フィルムが温度調整されて形成されていても良いし、一部の薄膜については、透明高分子フィルムが温度調整されずに形成されたものであっても良い。
【0073】
また、上記金属酸化物を含む薄膜の厚さは、透明性や色調などを考慮して種々調節することができる。一般的には、その下限値として、10nm、20nmなどを例示でき、これら下限値と組み合わせることが可能な上限値として、150nm、100nmなどを例示することができる。
【0074】
2.2.3 金属薄膜
本フィルムにおいて、金属薄膜は、主として電磁波遮蔽層、近赤外線遮蔽層として機能するものである。
【0075】
金属薄膜を構成する金属としては、具体的には、例えば、銀、金、白金、銅、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、スズ、ニッケル、コバルト、ニオブ、タンタル、タングステン、ジルコニウム、鉛、パラジウムおよびインジウムなどの金属や、これら金属2種以上からなる合金などが挙げられる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0076】
金属薄膜を構成する金属としては、導電性、赤外線反射性、積層時の可視光透過性などに優れる観点から、銀を好適に用いることができる。また、熱、光、水蒸気などの環境に対する安定性を向上させる観点から、必要に応じて、金、白金、パラジウム、銅などの金属を1種以上銀に加えた銀合金を用いても良い。この場合、銀合金中の銀以外の金属としては、金属薄膜の耐久性などに優れることから、金、パラジウムなどを好適に用いることができる。
【0077】
また、銀合金を用いる場合、銀以外の金属の割合としては、その下限値として、0.1重量%、0.5重量%などを例示でき、これら下限値と組み合わせることが可能な上限値として、10重量%、20重量%などを例示することができる。
【0078】
また、本フィルムにおいて、金属薄膜を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD、プラズマCVDなどといった化学的気相成長法(CVD)が挙げられる。上記積層構造において、各金属薄膜は、これらのうち何れか1つの手法により形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の手法を用いて形成されていても良い。
【0079】
より具体的には、例えば、真空蒸着法を用いる場合には、蒸発源として所望の金属を用い、抵抗加熱、レーザ加熱、電子ビーム加熱などにより、金属を加熱蒸着させて金属薄膜を形成すれば良い。
【0080】
また、例えば、スパッタリング法を用いる場合には、ターゲットとして所望の金属を用いるとともに、スパッタリングガスとしてアルゴン、ネオンなどの不活性ガスを用い、ターゲットと透明高分子フィルムとの間に直流(DC)電圧(DCスパッタリング法)または高周波(RF)電圧(RFスパッタリング法)を印加し、金属薄膜を形成すれば良い。成膜速度を速くする観点から、直流マグネトロンスパッタリング法や高周波マグネトロンスパッタリング法を用いても良い。
【0081】
また、例えば、イオンプレーティング法を用いる場合には、蒸発源として所望の金属を用い、真空蒸着装置内に低圧ガスを導入し電界をかけてプラズマを発生させ、蒸発源からの蒸発粒子をイオン化しながら蒸着させ、金属薄膜を形成すれば良い。
【0082】
また、金属薄膜の厚さは、表面抵抗(電磁波遮蔽能)と可視光透過率とのバランスなどを考慮して種々調節することができる。一般に、金属薄膜の厚さが過度に厚すぎると、可視光透過率が低下する傾向が見られ、一方、その厚さが過度に薄すぎると、表面抵抗が増大する傾向が見られる。金属薄膜の厚さとしては、一般的には、その下限値として、5nm、10nmなどを例示でき、これら下限値と組み合わせることが可能な上限値として、30nmなどを例示することができる。
【0083】
以上、本フィルムの構成について説明した。本フィルムが有する積層構造において、金属酸化物を含む薄膜および金属薄膜の材料は、必要に応じて上述したものから適宜選択して用いることができる。最も好適な膜材料の組み合わせとしては、金属酸化物を含む薄膜として、チタンの酸化物、金属薄膜における金属として、銀または銀合金などを例示することができる。透明性、電磁波遮蔽機能および赤外線遮蔽機能などに特に優れるからである。
【0084】
2.3 本フィルムの製造方法
本フィルムの製造方法としては、次のような方法を例示することができる。
【0085】
すなわち、透明高分子フィルムの表面上に、上述した薄膜製造方法により金属酸化物を含む薄膜を形成し、これをロールに巻き取る。次いで、このロールを、上述した気相法による薄膜形成装置の成膜室内に装着し、ロールを繰り出しながら、金属酸化物を含む薄膜の表面上に金属薄膜を形成し、これをロールに巻き取る。このような操作を所望回数繰り返し行えば、本フィルムを製造することができる。
【0086】
3.本フィルター
本フィルターは、本フィルムを用いている。すなわち、本フィルターは、透明支持基体の少なくとも一方面に、粘着剤層を介して本フィルムを積層した構成を有している。
【0087】
ここで、透明支持基体の材料としては、透明性に優れ、十分な機械的強度を有するものであれば、特に限定されることなく使用することができる。具体的には、例えば、半強化ガラス、強化ガラスなどのガラスや、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などの高分子材料などが挙げられる。
【0088】
また、透明支持基体の厚さは、機械的強度や剛性などを考慮して、種々調節することができる。一般的には、1.0〜5.0mmの範囲などを例示できる。
【0089】
また、粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリビニルブチラール系粘着剤、エチレン−酢酸ビニル系粘着剤などを例示することができる。
【0090】
また、粘着剤の厚さは、特に限定されるものではなく、一般的には、5〜100μmの範囲などを例示できる。
【0091】
なお、本フィルターでは、光学特性を著しく損なわない限度内で、必要に応じて、反射防止機能、防眩機能、衝撃吸収機能、耐環境機能、調色機能などの各種の機能を有する機能性フィルムを、上述した粘着剤層を介して1つまたは2つ以上さらに貼り合わせても良い。
【0092】
4.本ディスプレイ
本フィルムの表面に、上記した粘着剤層を形成したり、必要に応じて、反射防止機能などを有する機能性フィルムを粘着剤層を介して貼り付けたりし、これをプラズマディスプレイの前面表示部に直接貼り付け、アースと金属薄膜とを電気的に接続するなどすれば、本フィルムを用いた本ディスプレイが得られる。
【0093】
一方、本フィルターを、空気層を介してプラズマディスプレイ本体の前面側に配設し、アースと金属薄膜とを電気的に接続するなどすれば、本フィルターを用いた本ディスプレイが得られる。
【0094】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0095】
例えば、本フィルムは、表示装置用途以外にも、例えば、融雪ガラス、車両用ガラス、冷却ショーケース用ガラス、暖房用パネルヒーター、調理用パネルヒータなどの電熱性用途や、計測機器用ガラス窓、インテリジェントビルガラス、車両用ガラスなどの電磁波遮蔽用途など、導電機能および/または近赤外線遮蔽機能、可視光透過性が要求される各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
1.本実施例に係る薄膜製造方法
(実施例1)
初めに、以下の手順により、チタンの化合物を含む溶液を調製した。すなわち、テトラ−n−ブトキシチタン4量体(日本曹達(株)製、「B4」)と、アセチルアセトンとを、n−ブタノールとイソプロピルアルコールとの混合溶媒に配合し、これを攪拌機を用いて10分間混合することにより、チタンの化合物を含む溶液を調製した。この際、テトラ−n−ブトキシチタン4量体/アセチルアセトン/n−ブタノール/イソプロピルアルコールの配合は、7.50重量%/3.75重量%/58.75重量%/30.0重量%とした。
【0097】
次いで、屈折率測定用として、φ50mm、厚み1mmの石英基板(泉陽光学(株)製)を準備し、この上面にスピンコート法により上記溶液を塗工した。同時に、亀裂観察用として、易接着層が片面に形成された厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4100」)(以下、「易接着層付きPETフィルム」という。)の易接着層面側に粘着シート(日東電工(株)製、「CS9621」)を介して石英基板を貼り付け、易接着層とは反対面上にスピンコート法により上記溶液を塗工した。なお、スピンコート条件は、溶液の滴下量0.3cc、予備回転500rpm×3秒、本回転2100rpm×30秒とした。
【0098】
次いで、乾燥装置を用いて、上記塗工溶液を100℃にて80秒間乾燥させ、石英基板および易接着層付きPETフィルム上に薄膜前駆体を形成した。
【0099】
次いで、700ml/hの加湿能力を備えた加湿器(三菱重工空調システム(株)製、「SHE706D−G」)から吹き出される加湿空気を上記薄膜前駆体に直接吹き付けた。この際、薄膜前駆体が加湿空気と接触している時間は10秒間とした。また、加湿空気の吹き出し口と薄膜前駆体との距離は20cmとした。
【0100】
次いで、この試料を、速やかに紫外線照射機(フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製)内に入れ、試料中の石英基板、易接着層付きPETフィルムを温度調整した後、UVランプにより薄膜前駆体に対して紫外線(UV)照射を行った。この際、上記温度調整は、24℃、40℃、60℃、80℃の4通り行い、UV照射量は、0.8J/cm、1.3J/cm、3.9J/cm、7.8J/cmの4通り行った。
【0101】
ここで、上記紫外線照射機は、図1に示すような構成になっている。すなわち、紫外線照射機10の内部には、スライドテーブル12が設けられ、この上部には、試料14を載置する温調台座16が設けられている。この温調台座16には、行き管18、戻り管20が接続され、冷温水を供給することにより、試料14中の石英基板、易接着層付きPETフィルムを所定温度に温度調整することができるようになっている。そして、図中矢印方向に一定線速でスライドテーブル12が移動することにより、UVランプ22による紫外線が試料14に照射されるようになっている。
【0102】
以上により、チタンの酸化物を含む薄膜(以下、「実施例1に係る薄膜」という。)を作製した。
【0103】
次に、実施例1に係る薄膜の屈折率をエリプソメータにより測定した。その結果を表1および図2に示す。なお、屈折率は、波長633nmのときの値である。また、表1におけるUV速度とは、紫外線照射中におけるスライドテーブルの移動速度である。また、UV/A(320−390nm)とは、測定波長範囲320〜390nmの紫外線を意味する。
【0104】
【表1】

【0105】
表1および図2によれば、UV照射量が何れの値の場合であっても、紫外線を照射する前に予め石英基板、易接着層付きPETフィルムを温度調整しておくことにより、得られるチタンの酸化物を含む薄膜の屈折率が向上することが分かる。
【0106】
これは、紫外線を照射する前に予め石英基板、易接着層付きPETフィルムを温度調整したために、その後の紫外線照射時に、UVによる加水分解・縮合反応が促進され、未反応成分が少なくなってチタンの酸化物が効率良く生成したためである。
【0107】
また、表1および図2によれば、紫外線を照射する前に予め石英基板、易接着層付きPETフィルムを温度調整すれば、紫外線照射量を減少させても、高い屈折率を有するチタンの酸化物を含む薄膜が得られることが分かる。また、調整する温度が比較的高くなるにつれて、より高屈折率化を図りやすくなることが分かる。
【0108】
また、ある一定の調整温度以上(この場合では、温度が約55℃以上)になると、屈折率の向上が飽和して安定する傾向が確認された。このことから、本実施例1では、調整する温度の上限値を、約55℃〜80℃の範囲内から選択すれば、石英基板、易接着層付きPETフィルムを過度に温度調整する必要がなくなることから、エネルギーの消費をより少なくできる。
【0109】
また、本実施例1では、石英基板を用いている(特に屈折率測定用試料では、易接着層付きPETフィルムはなく、石英基板のみ)にも係わらず、上記のように、高い屈折率を有し、かつ、安定性の高いチタンの酸化物を含む薄膜が得られている。
【0110】
このことから、本発明に係る薄膜製造方法では、PETフィルムなどの透明高分子フィルム内部に含まれる水分(吸湿などによる)や反応生成物などの低分子量成分を気化させることによる薄膜の高屈折率化、安定化とは異なるメカニズムにより、薄膜の高屈折率化、安定化が達成されているものと考えられる。
【0111】
なお、実施例1に係る薄膜を、マイクロスコープ(倍率×450)にて観察したところ、薄膜表面上に亀裂は全く確認されなかった。
【0112】
(実施例2)
【0113】
次に、厚み0.1mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ(株)製、「エンブレットTA100」)(以下、単に「PETフィルム」という。)の一方面に、ダイレクトグラビアコート法(溝数=200線/インチ)により、上記実施例1において調製したチタンの化合物を含む溶液を塗工した。なお、塗工時の線速は3m/minとした。また、塗工時の雰囲気は、28℃、湿度8%RHとした。
【0114】
次いで、乾燥装置を用いて、上記塗工溶液を100℃にて80秒間乾燥させ、PETフィルム上に薄膜前駆体を形成した。
【0115】
次いで、この薄膜前駆体が形成されたPETフィルムを、図3に示すように、紫外線照射機30(フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製)内にロール32a、32bを介して連続的に供給し、UVランプ34による紫外線照射前に温調ロール36を用いてPETフィルム38を温度調整した。
【0116】
次いで、PETフィルム38上の薄膜前駆体に対して紫外線(UV)を照射した後、得られた薄膜付きのPETフィルムをロール32c、32dを介して巻き取った。
【0117】
この際、上記温調ロール36の温度は、24℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃の7通りとし、紫外線照射時の線速は、1m/min、3m/minの2通りとした。この時のUV積算光量は、それぞれ3.9、1.3J/cmである。
【0118】
なお、紫外線照射機30内は、上記加湿能力を備えた加湿器40a、40bを用いて、加湿できるようになっており、温調ロール36近傍の湿度を湿度計42a、42bのセンサ44a、44bにより測定することができるようになっている。本実施例2では、紫外線照射器30内の湿度は、57%RHに調湿した。
【0119】
以上により、PETフィルムの一方面にチタンの酸化物を含む薄膜(以下、「実施例2に係る薄膜」という。)を形成した。
【0120】
次に、実施例2に係る薄膜の屈折率を、Scientific Computing International社製のFilm Tek3000により測定した。その結果を表2および図4に示す。なお、屈折率および膜厚は、波長633nmのときの値である。
【0121】
【表2】

【0122】
表2および図4によれば、実施例1と同様の効果が得られることが確認できた。
【0123】
さらに、実施例2によれば、紫外線を照射する前に予めPETフィルムを温度調整することで、紫外線照射時の線速を速くしても、すなわち、UV積算光量が1/3と少なくても、高い屈折率を有する薄膜が得られることが分かる。
【0124】
このことから、本発明によれば、比較的短時間で金属酸化物を効率良く生成することができ、また、金属酸化物を含む薄膜製造時の生産性も向上し、エネルギー消費量も小さくできることが分かる。
【0125】
また、本実施例2では、石英基板よりも熱膨張の大きいPETフィルムを用いている。しかしながら、実施例2に係る薄膜を、マイクロスコープ(倍率×450)にて観察したところ、薄膜表面上に亀裂は全く確認されなかった。
【0126】
これは、UV照射量を増加させる必要性がほとんどないことから、紫外線の照射によるPETフィルムの急激な温度上昇を抑制でき、PETフィルムにかかる熱負荷を軽減しつつ、熱膨張を抑制することができたからである。
【0127】
2.本実施例に係る透明電磁波遮蔽フィルムの製造
次に、上記本実施例に係る薄膜製造方法により製造したチタンの酸化物を含む薄膜を有する透明電磁波遮蔽フィルムを製造した。
【0128】
すなわち、上記易接着層付きPETフィルムの易接着層とは反対側の面に、コーティング機(康井精機社製、EB−700)を用いて、上記溶液をマイクログラビアコーティングした。次いで、これを100℃で2分40秒間乾燥し、薄膜前駆体を形成した。
【0129】
次いで、この薄膜前駆体に対して、上記加湿器による加湿空気を15秒間吹き付けた。次いで、薄膜前駆体を形成した易接着層付きPETフィルムを60℃に温度調整した。次いで、上記コーティング機に設けられた紫外線照射機〔高圧水銀ランプ(160W/cm)〕により、照射距離200mm(照度:400mW/cm、測定波長範囲:300〜390nm)で、コーティングの線速と同一速度(1.5m/min)にて、連続的に紫外線照射を約3秒間行い、チタンの酸化物を含む薄膜を形成した。
【0130】
次いで、このチタンの酸化物を含む薄膜の表面を酸素グロー放電により曝した後、ターゲットに純銀(純度:4N、126mm×506mmサイズ)、スパッタガスにアルゴンガスを用いて、直流マグネトロンスパッタリング法〔電力:1.1kW(1.73W/cm)、真空度:2.5Torr、成膜温度:40℃、ターゲット/薄膜間距離:6〜8cm〕により、ライン線速2m/分にてAg薄膜を形成した。
【0131】
次いで、上記と同様にして、チタンの酸化物を含む薄膜の形成を2度繰り返し行った。
【0132】
次いで、上記と同様にして、このチタンの酸化物を含む薄膜の表面にAg薄膜を形成した。但し、上記直流マグネトロンスパッタリング法における電力は、1.4kW(2.20W/cm)とした。
【0133】
次いで、上記と同様にして、チタンの酸化物を含む薄膜の形成を2度繰り返し行った。
【0134】
次いで、上記と同様にして、このチタンの酸化物を含む薄膜の表面にAg薄膜を形成した。但し、上記直流マグネトロンスパッタリング法における電力は、1.1kW(1.73W/cm)とした。
【0135】
次いで、上記と同様にして、チタンの酸化物を含む薄膜の形成を1回行った。
【0136】
これにより、易接着層付きPETフィルム(厚み100μm)の表面に、チタンの酸化物を含む薄膜(厚み30nm、屈折率1.9)│Ag薄膜(厚み9.5nm)│チタンの酸化物を含む薄膜(厚み60nm、屈折率1.9)│Ag薄膜(厚み11.5nm)│チタンの酸化物を含む薄膜(厚み60nm、屈折率1.9)│Ag薄膜(厚み9.5nm)│チタンの酸化物を含む薄膜(厚み30nm、屈折率1.9)の順で積層されてなる7層構造の透明電磁波遮蔽フィルムを得た。
【0137】
3.本実施例に係る前面フィルターおよびプラズマディスプレイ
次に、得られた上記透明電磁波遮蔽フィルムを、粘着剤層を介してガラス基板上に貼り付け、プラズマディスプレイ用の前面フィルターを作製した。また、この前面フィルターを、空気層を介してディスプレイ本体の前面に取り付け、プラズマディスプレイを作製した。このプラズマディスプレイは、従来よりも画質などに優れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本実施例1に係る薄膜製造方法にて用いた紫外線照射機の概略図である。
【図2】本実施例1における透明高分子フィルム(石英基板)の調整温度と、得られたチタンの酸化物を含む薄膜の屈折率(エリプソメーターによる測定)との関係を示した図である。
【図3】本実施例2に係る薄膜製造方法にて用いた紫外線照射機の概略図である。
【図4】本実施例2における温調ロール温度と、得られたチタンの酸化物を含む薄膜の屈折率(Film Tek3000による測定)との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0139】
10 紫外線照射機
12 スライドテーブル
14 試料
16 温調台座
18 行き管
20 戻り管
22 UVランプ
30 紫外線照射機
32a〜d ロール
34 UVランプ
36 温調ロール
38 PETフィルム
40a、b 加湿器
42a、b 湿度計
44a、b センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物を含む溶液を透明高分子フィルムの少なくとも一方面に塗工し、乾燥させて薄膜前駆体を形成し、この薄膜前駆体に紫外線を照射して金属酸化物を含む薄膜を製造する薄膜製造方法であって、
前記紫外線の照射前に透明高分子フィルムを温度調整することを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
前記温度調整は、25[℃]〜前記透明高分子フィルムが熱劣化する前までの温度[℃]の範囲内で行われることを特徴とする請求項1に記載の薄膜製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物はチタンの化合物であり、前記金属酸化物は、チタンの酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
透明高分子フィルムの少なくとも一方面に、請求項1から3の何れかに記載の薄膜製造方法により製造された金属酸化物を含む薄膜を、少なくとも1層以上有することを特徴とする透明電磁波遮蔽フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の透明電磁波遮蔽フィルムを有することを特徴とする光学フィルター。
【請求項6】
請求項4に記載の透明電磁波遮蔽フィルムまたは請求項5に記載の光学フィルターを有することを特徴とするプラズマディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−281455(P2006−281455A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100650(P2005−100650)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】