蛋白修飾物生成抑制剤
(課題)
強力かつ優れた蛋白修飾物生成抑制効果を有し、さらに血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤を提供すること。
(解決手段)
テトラゾール環にメチレンを介して各種の置換基を有する化合物、特に次の式で示される化合物(I)または(II):
[化1]
[化2]
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
を有効成分と使用することにより、上記課題を解決することが出来た。この蛋白修飾物生成抑制剤は、AGEsやALEsに関連する疾患の予防や治療に有用であって、具体的には腎組織保護剤として単独でまたは腹膜または血液透析液に配合して使用される。
強力かつ優れた蛋白修飾物生成抑制効果を有し、さらに血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤を提供すること。
(解決手段)
テトラゾール環にメチレンを介して各種の置換基を有する化合物、特に次の式で示される化合物(I)または(II):
[化1]
[化2]
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
を有効成分と使用することにより、上記課題を解決することが出来た。この蛋白修飾物生成抑制剤は、AGEsやALEsに関連する疾患の予防や治療に有用であって、具体的には腎組織保護剤として単独でまたは腹膜または血液透析液に配合して使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛋白修飾物生成抑制剤、特に非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる糖化最終産物(Advanced Glycation End Products、以下、「AGEs」と称する)、脂質過酸化最終産物(Advanced Lipoxidation End Products、以下、「ALEs」と称する)などの蛋白修飾物の生成を抑制する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化反応(グリケーション)とは、ペプチドや蛋白質などのアミノ基と還元糖などのカルボニル基との非酵素的反応から始まる一連の反応(メイラード反応(非特許文献1参照))をいい、初期段階と後期段階に大別することができる。初期段階は糖の濃度と反応時間とに依存する可逆反応であり、前記アミノ基と前記カルボニル基とが非酵素的に反応してシッフ塩基を形成し、さらにアマドリ転位によりアマドリ化合物を形成する。
【0003】
後期段階では初期段階で生成したアマドリ化合物が非可逆的に脱水、縮合、環状化、酸化、断片化、重合、転位などを受け、最終的にAGEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する。糖の自動酸化などにより、3−デオキシグルコソン(以下、「3−DG」と称する)、グリオキサール(以下、「GO」と称する)およびメチルグリオキサール(以下、「MGO」と称する)などの反応性の高いジカルボニル化合物が生成するが、これらのカルボニル化合物も蛋白と反応し、多くの場合、蛋白質のリジン残基やアルギニン残基などが修飾されたAGEsを生成する。
【0004】
また、酸化ストレス下では、生体内に豊富に存在する糖、脂質、アミノ酸などは酸化反応などにより、反応性の高いカルボニル化合物へと変化する。その結果生じる、GO、MGO、アラビノース、グリコールアルデヒドなどの化合物はAGEsの前駆物質となる。また、アスコルビン酸の酸化により生成するデヒドロアスコルビン酸もAGEsの前駆物質となる。これらの前駆物質はいずれもカルボニル基を有しており、蛋白質のアミノ基と非酵素的に反応してシッフ塩基を生成してAGEsを形成する(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、酸化ストレス下では脂質過酸化も進行し、マロンジアルデヒド、ヒドロキシノネナールおよびアクロレインのような、様々なカルボニル化合物が形成される(非特許文献3参照)。これらのカルボニル化合物も蛋白質のアミノ基などと反応し、マロンジアルデヒド修飾リジンやヒドロキシノネナール修飾物などのALEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する(非特許文献2参照)。
【0006】
更に、セリンやスレオニンなどのアミノ酸も酸化によりアクロレイン、GOなどのカルボニル化合物が生成し、蛋白修飾物を形成する(非特許文献4参照)。多くのカルボニル化合物は酸化的経路で生成されるが、3−DGのように非酸化的経路を経て生成されるカルボニル化合物も存在する。
【0007】
公知のAGEs生成経路として、(1)シッフ塩基、アマドリ化合物から3−DGを経由する経路;(2)シッフ塩基が酸化的にグリコールアルデヒド−アルキルイミンへ変化し、アルドアミンを経てAGEsに至る経路;(3)アルドアミンがグリオキサールモノアルキルイミンを経てAGEsに至る経路;(4)アマドリ化合物から2,3−エンジオールを経て生成されるMGOを中間体とする経路;(5)その他などがある。
【0008】
最近、AGEsのひとつであるカルボキシメチルリジンが不飽和脂肪酸の脂質酸化反応の結果生じるGOによっても生成することが明らかになり、糖化・酸化反応と脂質酸化反応が共通の基盤で起こっていると考えられる。
【0009】
以上のように、糖、脂質、アミノ酸およびアスコルビン酸から酸化的、非酸化的経路により生成されたカルボニル化合物は、蛋白を非酵素的に修飾して最終的にAGEsやALEsなどの蛋白修飾物を形成するに至る。特に、複数の反応経路を経て生成されたカルボニル化合物により蛋白修飾反応が亢進している状態をカルボニル過剰による蛋白修飾、すなわち、カルボニルストレスと呼んでいる。
【0010】
公知のAGEsとしては、ペントシジン(非特許文献5参照)、クロスリン(非特許文献6参照)、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン(非特許文献7参照)、ピラリン(非特許文献8参照)、カルボキシメチルリジン(非特許文献9参照)、イミダゾロン化合物(非特許文献10参照)、カルボキシエチルリジン(非特許文献11参照)、MGOダイマー(非特許文献12参照)、GOダイマー(非特許文献13参照)、イミダゾリジン(非特許文献14参照)およびアルグピリミジン(非特許文献15参照)などが知られている。
【0011】
現在クローニングされているAGEs受容体として、RAGE(非特許文献16参照)、マクロファージスカベンジャー受容体クラスA(非特許文献17参照)、ガレクチン3(非特許文献18参照)、OST−48および80K−Hなどがある(非特許文献17参照)。
【0012】
血管組織においてAGEsがRAGE(免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞膜貫通型蛋白質)に結合すると、細胞内で活性酸素が生成し、p21ras/MAPK経路が活性化され(非特許文献19参照)、これにより転写因子NF−κβ活性化が誘導され、VCAM−1などの血管障害関連因子の発現が誘導されることが報告されている(非特許文献20参照)。また、AGEsはRAGEを介して、微小血管の内皮細胞の増殖を制御し、恒常性維持に重要な役割を果たしている周皮細胞の増殖を制御するとともに、毒性効果を発揮することが報告されている(非特許文献21参照)。
【0013】
さらに、AGEsは、RAGEを介して微小血管の内皮細胞に直接的に作用し血管新生を促進することや、PGI2の産生を阻害して血栓傾向となること(非特許文献22参照)が報告されている。その他、AGEsやALEsなどの生理活性として、メサンギウム細胞の基質産生の亢進、単球遊走能の亢進、マクロファージからの炎症性サイトカインの放出、滑膜細胞のコラゲナーゼ産生促進、破骨細胞の活性化、血管平滑筋の増殖作用、血小板凝集の促進、NO活性とその平滑筋弛緩反応の抑制が報告されている(非特許文献23参照)。
【0014】
AGEsが関与する疾患として、(1)糖尿病合併症である腎症(非特許文献24参照)、神経障害(非特許文献25参照)、網膜症(非特許文献21参照)および白内障、(2)動脈硬化(非特許文献26参照)、(3)透析合併症である透析アミロイドーシス(非特許文献27参照)および腹膜透析患者における腹膜硬化症、(4)中枢神経疾患であるアルツハイマー病(非特許文献28参照)、ピック病およびパーキンソン病、(5)リウマチ性関節炎(非特許文献29参照)、(6)日光弾性線維症、(7)老化、(8)腎不全(非特許文献30参照)などが知られている。その他、糖尿病の場合、血管内皮由来の血管拡張がAGEsによって障害されること(非特許文献31参照)、AGEsが腎硬化を促進させること(非特許文献32参照)などが報告されている。
【0015】
以上のことから、AGEsを初めとする蛋白修飾物は、直接的にまたは受容体を介して生体に悪影響を与えることが明らかとなっている。
【0016】
一方、腎機能が低下するに従って、血中のAGEsの濃度が上昇することが知られている。腎機能低下により、分子量5kDa以下と考えられるカルボニル化合物は体内に蓄積する。ペントシジンやピラリンなどの場合、遊離型も存在するが、血清アルブミンなどへの蛋白結合型が大部分を占めている(非特許文献33参照)。また、血中ペントシジン濃度は糸球体濾過機能の影響を強く受けるという報告がある(非特許文献34参照)。
【0017】
この様に、AGEsはその大部分が腎において処理され、健康時には血中濃度は低く保たれているが、腎機能が低下すると、尿毒症毒素(uremic toxin)として慢性の生物活性をもたらすようになる。
【0018】
透析療法によって遊離型のものは除去されるが、蛋白結合型のものや分子内架橋を形成するものは除去することが困難である(非特許文献35参照)。従って、腎不全期間の経過と共に蛋白修飾物の生体内蓄積量は増加する。また、生体内で糖が反応する基本的な過程以外に食品中から供給される遊離型AGEsや、生体内で既に形成されたアマドリ化合物などから形成される活性の強い3−DG、GO、MGOなどの中間体が次々に蛋白と反応し、AGEsの産生を促進することが認められている。また、血液は透析膜と接触することによって、補体系や白血球の活性化などの様々な影響を受け、フリーラジカルの産生亢進へとつながるなど、透析療法そのものによる酸化の亢進も存在し、AGEs生成の一因となっている。
【0019】
ゆえに、透析療法での対策としては透析導入の初期からこれらの遊離型物質の除去を図り、結合型のAGEs形成を極力抑制することが重要であり、上記のように結合型のAGEsを透析療法によって除去することは困難であるので、透析療法では蛋白修飾物の生成を抑制する薬物の開発が希求されている。
【0020】
また、腎機能に起因するばかりではなく、腎不全に伴う抗酸化防御機構の低下も蛋白修飾物の蓄積に関与していると考えられる。腎不全患者では、血中還元型グルタチオンに対する酸化型グルタチオンの上昇(非特許文献36参照)、グルタチオン依存酵素群の活性低下、保存期腎不全血漿グルタチオンペルオキシダーゼの低下(非特許文献37参照)、全血中グルタチオンの低下(非特許文献38参照)ならびに血漿セレン濃度の低下に対する血漿スーパーオキサイドジスムターゼの活性上昇(非特許文献39参照)といった抗酸化能の不均衡が示唆されている(非特許文献40参照)。
【0021】
また、一般に慢性腎不全の患者では、高血糖の有無に関わらず血中や組織中に反応性の高いカルボニル化合物やAGEsが著しく蓄積していることが報告されている(非特許文献41参照)。腎不全においては、非酵素的化学反応によりカルボニル化合物が高負荷の状態(カルボニルストレス)となり、蛋白質修飾が亢進される病態が存在しており、糖・脂質からカルボニル化合物が生成され蛋白質を修飾するためであると考えられる(非特許文献42参照)。
【0022】
ゆえに、様々な要因によって生じる蛋白修飾物の生成を抑制することが、組織障害の軽減につながり、AGEsなどの蛋白修飾物質が関与する病態を予防および治療することができる。
【0023】
慢性腎不全患者に行われる透析には、血液透析と腹膜透析がある。腹膜透析の場合、血中の老廃物は腹膜を通して腹膜透析液中に排泄される。高浸透圧の腹膜透析液(グルコース、イコデキストリンまたはアミノ酸などを含有する)は、腎不全患者の血中に蓄積した反応性の高いカルボニル化合物(たとえば腎不全患者の血中に酸化ストレスに伴って蓄積する、炭水化物に由来するカルボニル化合物(アラビノース、GO、MGO、3−DG)、アスコルビン酸に由来するカルボニル化合物(デヒドロアスコルビン酸)、脂質に由来するカルボニル化合物(ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン))を、腹膜を介して腹腔内の腹膜透析液中に集める作用がある。
【0024】
また、腹膜透析液の滅菌や保存中に、反応性の高いカルボニル化合物(3−DG、5−ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、GO、MGO、レブリン酸、フルフラール、アラビノースなどのカルボニル化合物)が腹膜透析液中に生成することが知られている(非特許文献43参照)。
【0025】
そのため腹膜透析液中の前記カルボニル化合物濃度は上昇し、蛋白修飾物質の生成が亢進する。その結果、腹膜の機能が低下し、除水能の低下や腹膜硬化症への進展に関与すると考えられる(非特許文献44参照)。
【0026】
実際に腹膜透析患者においては、導入されたグルコースによって腹腔内がカルボニルストレス状態となっていることが、内皮および中皮の免疫組織学的検討から証明されている(非特許文献45参照)。
【0027】
この様に、透析患者においてもカルボニル化合物による蛋白修飾物の生成が腹膜の形態学的変化およびこれに伴う機能(除水能)の低下の原因となっていることが推測されており、その改善方法の提供が求められている。
【0028】
以上の事実と腎不全をはじめとする種々の病態を考え合わせると、カルボニル化合物蓄積がAGEs産生亢進の原因のひとつであると考えられ(非特許文献46参照)、AGEsの産生を抑制することが、AGEsが関連する病態に対し有効であると考えられる。
【0029】
代表的なAGEs生成阻害薬としてアミノグアニジンがある。アミノグアニジンはグルコース、シッフ塩基やアマドリ生成物から生成される3−DGなどのジカルボニル化合物と反応してチアゾリンを形成することによってAGEs生成を阻害すると考えられている。糖尿病モデル動物を用いた解析では、糖尿病性腎症(非特許文献47参照)、網膜症(非特許文献48参照)および白内障(非特許文献49参照)の進展を遅延させる効果が確認されている。
【0030】
他に、この種に属する化合物としてピリドキサミン誘導体(ピリドリン)がある。また、OPB−9195((±)2−イソプロピリデンヒドラゾノ−4−オキソ−チアゾリジン−5−イルアセトアニリド)はヒドラジンの窒素原子がカルボニル基と反応して安定な構造を形成し、遊離または蛋白に結合した反応性カルボニルを捕捉することにより(非特許文献50参照)、in vitroでAGEsのみならずALEsの生成も抑制する。メトホルミンやブホルミンなどのビグアナイド化合物もカルボニル化合物を捕捉できるため(非特許文献51参照)、AGEs生成阻害薬として利用できる可能性がある。さらに、AGEsの特徴である架橋を切断するタイプのAGEs阻害剤、アマドリ化合物を分解する酵素(amadoriase)などの提案もされている。
【0031】
一方、カルボニル化合物を消去することにより、AGEsやALEsの生成を阻害する可能性も検討されている。カルボニル化合物の消去にはいくつかの酵素や酵素的経路が存在し、たとえばアルドール還元酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼやグリオキサラーゼ経路が挙げられるが(非特許文献52参照)、還元型グルタチオン(GSH)やNAD(P)Hなどのレドックス補酵素はこれらの経路の活性に重要な要素である。
【0032】
これらの消去系の低下は同時に多数のカルボニル化合物の上昇につながる。MGO、GOなどのカルボニル化合物はGSHのチオール基と反応し、結果的に酵素グリオキサラーゼにより代謝される。NAD(P)Hはグルタチオン還元酵素を活性化し、GSHレベルを上昇させる。すなわち、細胞内レドックス機構の不均衡によるGSHおよびNAD(P)Hの低下によりカルボニル化合物の消去系が阻害され、AGEsやALEsの蓄積につながると考えられる。また、糖尿病においては、高血糖によりポリオール経路が活性化され、NAD(P)HやGSHが低下し、結果的にカルボニル化合物の消去系が低下することが示唆される。
【0033】
前述したようにGSHおよびNAD(P)Hなどのチオール濃度の低下がカルボニル化合物消去の低下につながり、結果としてAGEsやALEsを形成する原因のひとつとなっているとすれば、チオールレベルを上昇させることによりカルボニル化合物を減少できる可能性がある。これには、GSH、システイン、アセチルシステインなどによりチオール基を補充する方法、ビタミンEやユビキノールなどによりGSH需要を低下させる方法、アルドース還元酵素阻害薬などによりポリオール系を阻害する方法が提案されている。さらに、アミノグアニジン、ピリドキサミン、ヒドラジン、ビグアナイド化合物およびSH基含有化合物を用いて、カルボニル化合物をトラップさせる方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0034】
以上詳細に述べたように、AGEsおよびALEsの生成を阻害することが、これらに関連する病態を予防または治療できる方法である。
【特許文献1】国際公開第WO00/10606 号
【非特許文献1】メイラード, エル, シー(Maillard, L. C.)ら著, 「コンプテス・レンダス・ヘブドマダイレス・デス・シンシズ・デ・ラ・ソサイエテ・デ・バイオロジー(Compt. Rend. Soc. Biol.)」, (フランス), 1912年, 第72巻, p599
【非特許文献2】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p389−399
【非特許文献3】エステルバウアー, エイチ(Esterbauer, H.)ら著, 「フリーラジカル・バイオロジー・アンド・メディスン(Free Radic. Biol. Med.)」, (アメリカ), 1991年, 第11巻, p81−128
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【非特許文献11】アーメッド, エム, ユー(Ahmed, M. U.)ら著, 「バイオケミカル・ジャーナル(Biochem. J.)」,(イギリス), 1997年, 第324巻, p565−570
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【非特許文献25】スギモト, ケイ(Sugimoto, K.)ら著, 「ダイアベートロジア(Diabetologia)」, (ドイツ), 1997年, 第40巻, p1380−1387
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【非特許文献40】ヤドウル, エム(Jadoul, M.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p2487−2492
【非特許文献41】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ)1997年, 第51巻, p1170−1181
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【非特許文献43】リチャード, ジェイ, ユー(Richard, J. U.)ら著, 「ファンダメンタル・アンド・アプライド・トキシコロジー(Fund. Appl. Toxic.)」, (アメリカ), 1984年, 第4巻, p843−853
【非特許文献44】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 2000年, 第58巻, p425−435
【非特許文献45】ヤマダ, ケイ(Yamada, K.)ら著, 「クリニカル・ネフロロジー(Clin. Nephrol.)」, (ドイツ), 1994年, 第42巻, p354−361
【非特許文献46】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「ネフロロジー・ダイアリシス・トランスプランテーション(Nephrol. Dial. Transplant.)」, (イギリス), 1997年, 第12巻, p255−258
【非特許文献47】エデルステイン, ディー(Edelstein, D.)ら著, 「ダイアベートロジア(Diabetologia), (ドイツ), 1992年, 第35巻, p96−101
【非特許文献48】ハメス, エイチ, ピー(Hammes, H. P.)ら著, 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」, (アメリカ), 1991年, 第88巻, p11555−11561
【非特許文献49】マツモト, ケイ(Matsumoto, K.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」, (アメリカ), 1997年 第241巻, p352−354
【非特許文献50】ナカムラ, エス(Nakamura, S.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes)」, (アメリカ), 1997年, 第46巻, p895−899
【非特許文献51】ベイスウェンゲル, ピー, ジェイ(Beisswenger, P. J.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes), (アメリカ), 1999年, 第48巻, p198−202
【非特許文献52】ソマリー, ピー, ジェイ(Thornalley, P. J.)ら著, 「エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(Endocrinol. Metab.)」, (アメリカ), 1996年, 第3巻, p149−166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
これまで蛋白修飾抑制剤として知られているアミノグアニジンやOPB−9195などは、これらを生体内に投与した場合、重篤なビタミンB6欠乏症を起こすことが判明している。本発明者らは、この欠陥を克服すべく研究を進めたところ、そのようなビタミンB6欠乏症は、血中に存在するビタミンB6分子が当該蛋白修飾抑制剤によって捕捉されることに基因するものであることが明らかとなった。
【0036】
本発明者らは、上記従来技術に基づく知見を前提として、非酵素的条件下、カルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(AGEsおよび/またはALEs)が関与する病態を予防および/または治療し、なおかつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症を抑制し得る薬剤を開発すべく鋭意研究を行った結果、先に、テトラゾール基を有する化合物、とりわけテトラゾール基を有するアンジオテンシンII受容体ブロッカーまたは薬理学的に許容されるそれらの塩が効果的にAGEs、ALEsなどの蛋白修飾物の生成を抑制する事実を発見し、この発見に基づいて、当該物質を有効成分とする蛋白修飾物生成抑制剤の発明を完成した(特願2001−147115号明細書)。
【0037】
アンジオテンシンII受容体ブロッカーは、蛋白修飾物生成抑制剤として優れた効果を示すが、同時に血圧降下作用を有するため、血圧の変動が好ましくない病態においては使用が制限される虞がある。本発明の目的のひとつは、血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明者らは、上記成果を踏まえ、より一層優れた蛋白修飾物生成抑制剤を開発すべく鋭意研究を行った結果、テトラゾール環にメチレンを介して各種の置換基を有する化合物が強力かつ優れた蛋白修飾物生成抑制効果を有し、さらに血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤となり得ることを新たに見出した。
【0039】
すなわち、本発明は蛋白修飾物生成抑制作用を有し、かつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症が抑制される化合物を有効成分とし、さらに好ましくは血圧降下を伴うことのない化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤を提供するものであって、その技術的範囲には、具体的に、以下の技術的態様が包含される:
(1)遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環化合物であって、該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤。
(2)有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(I):
【化1】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、上記(1)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(3)有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(II):
【化2】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、上記(1)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(4)R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が置換されていることもある環構成原子の数が10個を越えない超えない異項環基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(5)R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が低級アルキル基、低級アルコキシ基またはヒドロキシ基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(6)R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がモルホリノ基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(7)R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2が5−メチル−3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(8)R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がヒドロキシメチル基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(9)蛋白修飾物が、AGEs、ALEsおよびこれらの組合せよりなる群から選択されるものである、上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(10)蛋白修飾物がAGEsである、上記(9)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(11)AGEsがペントシジンである、上記(10)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(12)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腎組織保護剤。
(13)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腹膜透析液。
(14)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、血液透析液。
(15)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を液体試料と接触させる工程を含む、液体試料のカルボニル化合物含有量を低減させる方法。
(16)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を患者の血液または腹膜透析液と接触させる工程を含む、蛋白修飾物の生成抑制方法。
(17)蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置する方法であって、かかる処置を必要とする患者に、治療上有効量の上記(1)〜(8)のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を投与することを含んでなる方法。
(18)蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置するための医薬の製造のための、上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤の使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環化合物であって該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤を提供するものであって、当該有効成分は、具体的には、遊離形または塩形の式(I):
【化3】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
および遊離形または塩形の式(II):
【化4】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される。当該有効成分は、蛋白修飾物生成抑制作用を有する一方、副作用としてのビタミンB6欠乏症を抑制されており、さらに血圧の変動が少ない化合物とすることができるので、薬剤としての使用に適している。
【0041】
ここに「蛋白修飾物」とは、非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(たとえばAGEs、ALEsなど)をいい、特記しない限りAGEsとALEsの両者を含むものとする。蛋白修飾物はAGEs、ALEsまたはこれらの組み合わせであってもよく、AGEsには、たとえばペントシジン、クロスリン、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン、ピラリン、カルボキシメチルリジン、イミダゾロン化合物、カルボキシエチルリジン、MGOダイマー、GOダイマー、イミダゾリジン、アルグピリミジンなどが含まれ、ALEsには、たとえばマロンジアルデヒドリジン、ヒドロキシノネナール修飾物などが含まれる。
【0042】
本明細書において、「カルボニル化合物」とは、生体由来または非生体由来に関係なく、蛋白修飾の原因となるカルボニル基を有する化合物であればよく、ジカルボニル化合物も含まれる。従って、カルボニル化合物の具体例としては、アラビノース、GO、MGO、3−DG、グリコールアルデヒド、デヒドロアスコルビン酸、ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン、5−ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、レプリン酸、フルフラールなどが含まれる。
【0043】
「ビタミンB6欠乏症」とは、ビタミンB6の欠乏に基因する諸疾患をいい、口角炎、口内炎、舌炎、口唇炎、急性および慢性湿疹、接触性皮膚炎、末梢神経炎、神経障害、貧血、リンパ球減少症などが例示される。
【0044】
「蛋白修飾物生成抑制剤」の有効成分である、遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環を有する化合物であって該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物は、in vivo、ex vivoおよび/またはin vitroに拘わらず、蛋白修飾物の生成を結果的に抑制することができる。「結果的に抑制する」とは、カルボニル化合物をトラップする作用を有することによるものであってもよく、蛋白修飾物を生成する反応を抑制することによるものであってもよく、最終的に蛋白修飾物の生成を抑制すればよく、その作用機序には限定されない。なお、「抑制剤」または「保護剤」の語には、予防または/および治療のために使用する薬剤が包含される。
【0045】
本発明にかかる蛋白修飾物生成抑制剤の有効成分として使用される5−置換テトラゾール環化合物は、上記式(I)または(II)で表わすことができるものである。
【0046】
式(I)および(II)において、R1は、置換または非置換の芳香環(異項環を含む)基を表わす。「芳香環基」には、20個を越えることのない環構成原子数(そのなかに酸素、硫黄、窒素などのヘテロ原子が存在してもよいが、それらの数が3個を越えることはない)を有するものが包含され、特に環構成炭素原子数6〜10個を有するアリール(たとえばフェニル、ナフチル)が好ましい。
【0047】
置換基としては、たとえば低級アルキル(たとえばメチル、エチル、プロピル)、低級アルケニル(たとえばビニル、アリル)、低級アルコキシ(たとえばメトキシ、エトキシ、プロポキシ)、低級アルケニルオキシ(たとえばビニルオキシ、アリルオキシ)、低級アルカノイル(たとえばアセチル、プロピオニル、ブチリル)、ハロ(低級)アルキル(たとえばモノクロロメチル、ジクロロメチル、トリフルオロメチル、ジクロロエチル)、カルボキシル、(低級)アルコキシカルボニル(たとえばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル)、カルボキシ(低級)アルキル(たとえばカルボキシメチル、カルボキシエチル、カルボキシプロピル)、ハロゲン(たとえば塩素、臭素、ヨウ素、フッ素)、ニトロ、アミノ、ヒドロキシ、ヒドロキシスルホニル、アミノスルホニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリルなどの中から1種またはそれ以上のものが選択されてよい。置換基の数に制限はないが、通常、3個を越えることはない。
【0048】
R2は、1価の有機基を表わす。「1価の有機基」には、置換または非置換の炭化水素基、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシアルキル基、アミノ基、低級アルカノイルアミノ基、アリールオキシアミノ基、3〜7員ヘテロ環基などが包含される。「炭化水素基」には、炭素数30個を越えない鎖状または環状の、脂肪族、脂環式または芳香族炭化水素基が包含され、具体的にはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基などが例示される。「3〜7員ヘテロ環基」は、環構成原子として3個を越えないヘテロ原子を含むものであり、たとえばピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ、チアモルホリノなどが挙げられる。置換基の種類と数は、R1について説明したのと同様である。R2として特に好ましい有機基は、ヒドロキシ、モルホリノ、ピロロトリアゾリルなどであって、これらは、さらに低級アルキル、オキソなどで置換されていてもよい。
【0049】
なお、上記において、アルキル、アルコキシ、アルカノイルなどの語に関連して使用された「低級」なる言葉は、通常、炭素数8個まで、好ましくは炭素数5個までの基を指称するものとして使用される。
【0050】
本発明の化合物(I)の具体例を挙げれば、次のとおりである:
【表1】
【0051】
上記本発明化合物(I)または(II)を製造するには、一般に、5−置換テトラゾールと1位または3位に導入すべきメチレン含有基の種類に応じて、適宜、自体公知の化学反応に付すればよい。
たとえば、5−フェニルテトラゾールとモルホリンをホルマリン存在下で反応させることによって、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリンを製造することができる。反応は、通常、両者を、有機溶媒(メタノール)中、5℃で処理することによって実施することができる。
【0052】
本発明化合物(I)または(II)は、生体内において、副作用としてのビタミンB6欠乏症を示すことなく、それ自体で蛋白修飾物生成抑制作用を示すものである。この事実は、次の試験によって確認することができる:
(A)化合物(I)または(II)がそれ自体で蛋白修飾物生成抑制作用を示す事実を証明する試験:代表的なAGEsであるペントシジンを指標として、非糖尿病の腎不全透析患者から血漿を採取し、本発明化合物を加え、一定時間後のペントシジン生成量を測定する。
(B)化合物(I)または(II)がビタミンB6欠乏症を惹起しないことを証明する試験:ビタミンB6溶液に本発明の化合物を加え、一定時間後のビタミンB6残存量を測定する。
【0053】
化合物(I)または(II)を有効成分として含有する本発明の蛋白修飾物生成抑制剤は、以下に例示する病態の予防および/または治療に有用である:腎障害、糖尿病合併症(腎症、神経障害、網膜症、白内障など)、動脈硬化、透析合併症である透析アミロイドーシス、腹膜透析患者における腹膜硬化症、中枢神経疾患であるアルツハイマー病、ピック病およびパーキンソン病、リウマチ性関節炎、日光弾性線維症、老化など。当該抑制剤は、特に腎障害を予防および/または治療するのに有用である。
【0054】
予防剤または治療剤として用いる場合、本発明化合物(I)を、そのままあるいは水に希釈するなどの処理を施して使用することができ、医薬品、医薬部外品などに配合して使用することができる。この場合の配合量は、病態や製品に応じて適宜選択されるが、通常全身投与製剤の場合には、0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができ、0.001重量%より少ないと満足する予防または治療作用が認められない可能性があり、また、5重量%を越えると製品そのものの安定性や香味などの特性が損なわれる可能性があるので好ましくない。
【0055】
本発明化合物(I)は、遊離形または塩形で製剤中に含有されてよい。塩形としては、通常、薬剤学的に許容されているもの、たとえば無機塩基や有機塩基との塩、無機酸、有機酸、塩基性または酸性アミノ酸などの酸付加塩などが挙げられる。無機塩基との塩としては、たとえばアルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩としては、たとえば第1級アミン(エタノールアミンなど)、第2級アミン(ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロへキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなど)、第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、ビリジン、ピコリン、トリエタノールアミンなど)との塩が挙げられる。
【0056】
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が例示され、有機酸との塩としては、ギ酸、酢酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が例示される。さらに、塩基性アミノ酸との塩としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が例示され、酸性アミノ酸との塩としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が例示される。
【0057】
本発明の化合物(I)または(II)は、必要に応じて、アミノグアニジン、ピリドキサミン誘導体、OPB−9195、ビグアナイド化合物、架橋形成阻害薬、アマドリ化合物を分解する酵素、GSH、システイン、アセチルシステイン、ビタミンE、ユビキノール、アルドース還元酵素阻害薬、カルボニル化合物トラップ剤など、公知の薬物と共に使用されてもよく、これにより蛋白修飾物生成抑制作用の持続性を高めることができる。また、化合物(I)または(II)を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、これを併用あるいは配合し、組成物中の有効成分の安定化を図ることができる。
【0058】
本発明の薬剤の投与方法として、経口投与や静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与などが適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
【0059】
蛋白修飾物が関与する病態に対する予防薬または治療薬として用いる場合には、化合物(I)または(II)の経口投与量は、一般に0.3mg/kg〜300mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは1mg/kg〜100mg/kgである。全身投与を行う場合、特に静脈内投与の場合には老若男女または体型などにより変動があるが、通常、有効血中濃度が2μg/mL〜200μg/mL、より好ましくは5μg/mL〜100μg/mLの範囲となるように投与する。
【0060】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などがあり、適宜選択することができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、岨囁剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤などがあり、適宜選択することができる。なお、上記製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化などの修飾を施してもよい。
【0061】
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書に言うDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠など)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤、胃溶性製剤などのような、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用などを勘案して、最適の製剤形態にした製剤をいう。
【0062】
DDSの構成要素には、基本的に薬物、薬物放出モジュール、被包体および治療プログラムが含まれ、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しない被包体が好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは、基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除などを行い、最良の形態を選択することができる。
【0063】
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチンなどがある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテートなど)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサンなど)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルなど)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマーなど)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマーなど)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィプリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβ−ヒドロキシ酢酸、ポリカブロラクトンなど)があり、剤型によって適宜選択することができる。
【0064】
特に、シリコン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびメチルセルロースは、徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
【0065】
また、製剤中には、その剤形(経口投与剤、注射剤、座剤など)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘桐剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、など張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤など適宜の添加剤を配合して製造することができる。これら各添加剤について、以下にそれぞれの具体例を挙げるが、これらに特に限定されるものではない。
【0066】
溶剤としては、精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリンなどを挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトールなどを挙げることができる。コーティング剤としては、白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子などを挙げることができる。基剤としては、ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤などを挙げることができる。
【0067】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴムなどの天然高分子化合物、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチなどを挙げることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、小麦デンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルポキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。
【0068】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。懸濁化剤としては、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤などが挙げられる。粘稠剤としては、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。乳化剤としては、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチンなどが挙げられる。
【0069】
安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質などがある。緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸などがある。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などがある。無痛化剤としては、塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコールなどがある。保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサールなどがある。矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリンなどがある。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油などがある。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素などがある。
【0070】
上記したように、医薬品を徐放化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤のようなDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上などの効果が期待できる。しかし、化合物(I)または(II)は生体内で失活化または分解され、その結果、所望の効果が低下または消失する可能性がある。従って、化合物(I)または(II)を失活化または分解する物質を阻害する物質を本発明の蛋白修飾物に関与する病態の予防または治療組成物と併用することにより、成分の効果をさらに持続化させ得る。これらは製剤中に配合してもよく、または別々に投与してもよい。当業者は適切に、化合物(I)または(II)を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、配合あるいは併用することができる。
【0071】
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0072】
本発明の化合物(I)または(II)は、また、腹膜透析や血液透析における蛋白修飾物質による障害を抑制するために使用することができる。すなわち、蛋白修飾物生成抑制剤としての化合物(I)または(II)を、常套の腹膜透析液や血液透析液中に配合すればよい。
【0073】
本発明による液体試料中のカルボニル化合物含有量を低減させる方法は、蛋白修飾物生成抑制剤としての化合物(I)または(II)と当該液体試料とを接触させる工程を含むものである。
【0074】
また、本発明の蛋白修飾物の生成抑制方法は、蛋白修飾物生成抑制剤としての化合物(I)または(II)を、患者血液または腹膜透析液と接触させる工程を含むものである。透析における蛋白修飾物としては、腹膜透析または血液透析を受ける患者に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物および腹膜透析液または血液透析液自体に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物などが含まれる。
【0075】
本発明における化合物(I)または(II)を添加する腹膜透析液または血液透析液の組成は、公知のものでよい。一般的な腹膜透析液は、浸透圧調節剤(グルコースなど)、緩衝剤(乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、炭酸水素ナトリウムなど)、無機塩類(ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなど)などで構成されている。化合物(I)または(II)を添加した腹膜透析液または血液透析液は、そのまま密封して加熱滅菌することができる。そうすることによって、加熱滅菌処理時または保存時に伴う、これら主成分からの蛋白修飾物の生成を抑制することができる。
【0076】
また、第一室および第二室からなる分画された容器に腹膜透析などの液を収容し、第一室に還元糖を収容し、第二室に化合物(I)または(II)を収容し、使用直前に混合しても良い。アミノ酸が含まれる場合には、当業者は適宜第三室を設けるなど、最良の形態をとることができる。
【0077】
腹腔内または血管内に投与された後は、化合物(I)または(II)が蛋白修飾物の生成を抑制するため、腹膜硬化のような副作用を軽減できる。さらに、その他の病態(糖尿病合併症など)の予防・治療にも効果を発挿することが期待できる。透析液には、化合物(I)または(II)の他に、公知のアミノグアニジンなどの薬物を混合して用いることができる。また、粉末型透析剤にも応用可能である。
【0078】
適当な混注用コネクターを装備した透析回路に、化合物(I)または(II)を注入することもできる。また、化合物(I)または(II)を直接腹腔内に注入して、腹腔内で腹膜透析液と混合することもできる。また、腹膜透析液を患者へ注入する前、または腹腔内貯留中に、化合物(I)または(II)を静脈内注射することにより、蛋白修飾物の生成を効果的に抑制することもできる。
【0079】
透析液などは、適当な密閉容器に充填し、滅菌処理する。滅菌処理には高圧蒸気滅菌や熱水滅菌などの加熱滅菌が有効である。この場合、高温で有害物質を溶出せず、滅菌後も輸送に耐える強度を備えた容器を用いる。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体などからなる可換性プラスチックバッグが挙げられる。また、外気の影響による液の劣化を避けるために、透析液などを充填した容器をさらにガスバリアー性の高い包装材で包装しても良い。
【0080】
高圧加熱滅菌を含む加熱滅菌により滅菌処理を行う場合、用いられる化合物(I)または(II)が加熱などの処理に対して十分安定であるならば、透析液配合時に化合物(I)または(II)を予め添加してから、加熱滅菌操作を行うこともできる。用いる化合物(I)または(II)が加熱滅菌に安定でない場合は、加熱を要しない滅菌法を用いることもできる。この様な滅菌法には、たとえば濾過滅菌などがある。
【0081】
たとえば、孔径0.2μm程度のメンブランフィルターを備えた精密濾過器を用いて濾過することにより滅菌することができる。濾過滅菌された透析液は、可撓性プラスチックバックなどの容器に充填された後、密封される。また、予め加熱滅菌した腹膜透析液などに、後で化合物(I)または(II)を添加しても良い。
【0082】
添加する時期は特に限定されない。液を滅菌後あるいは滅菌前に化合物(I)または(II)を添加しても良いし、透析直前または同時に添加しても良いし、透析液を注入した後に直接腹腔内に注入しても良い。
【0083】
本発明の腹膜透析液は、現行の腹膜透析液や血液透析液と同様の透析処理に利用される。すなわち、腹膜透析の場合にあっては、透析患者の腹腔内に本発明による腹膜透析液を適量注入し、腹膜を通過して生体内の低分子量成分を腹膜透析液内に移行させる。腹膜透析液は間欠的に循環させ、患者の症状に応じて透析を継続する。このとき、化合物(I)または(II)は透析液内または生体内での蛋白修飾物の生成を抑制する。クレアチニンや無機塩類、あるいは塩素イオンなどの透析成分とともに、カルボニル化合物も血中や腹膜内から腹膜透析液中へ移行する。ゆえに、蛋白修飾物による生体への悪影響が減少される。
【0084】
化合物(I)または(II)は透析液のみに使用できるのではなく、栄養輸液、電解質輸液、経腸・経管栄養剤など、あらゆる液剤に利用できる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0086】
[製造例1]4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)の製造
5−フェニルテトラゾール26.0g(0.18mol)のメタノール溶液270mLに5℃でモルホリン17.0g(0.2mol)および36%ホルマリン17.8gを添加した後、室温で一晩撹拌した。反応液にヘキサン200mLを添加し、析出した結晶を濾過した。真空乾燥の後、白色結晶43.6g(収率99%)の4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリンを得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)およびマススペクトル(Mass)により構造を確認した。
【0087】
NMR:主なシグナル
2.714ppm t 4H モルホリンCH2
3.709ppm t 4H モルホリンCH2
5.499ppm s 2H テトラゾールとモルホリン間のCH2
7.494ppm m 3H フェニルCH
8.171ppm m 2H フェニルCH
【0088】
Mass(EI−MS):m/z 245(分子量)
【0089】
同様にして5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)を合成した。これらの化合物はいずれも公知化合物である。
【0090】
[製造例2]1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物4)の製造方法
5−フェニルテトラゾール2.00g(13.8mmol)をメタノール20mlに加えて溶解した後に、10℃以下でピペラジン2.37g(27.6mmol)と36%ホルマリン1.342g(16.54mmol)を加えて撹拌し、室温に戻した。この混合液を一晩撹拌し、反応させた。反応の進行に伴って生成する目的化合物は非常に難溶性であるため、結晶として析出する。反応終了後、析出した結晶を濾過し、次いで、真空下、デシケーター中でよく乾燥し、1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの白色結晶0.959gを得た。
【0091】
[製造例3]1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物5)の製造方法
5−フェニルテトラゾール13.0g(89.6mmol)をメタノール113mlに加え冷却し、メチルピペラジン9.82g(98.0mmol)と36%ホルマリン9.2g(0.11mol)を加えて撹拌した。次いで、室温で一晩撹拌して反応させた後、メタノールを留去し、水を加えて懸濁させ、析出した結晶を濾別した。水洗、乾燥の後、1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの肌色結晶13.0g(収率56.2%)を得た。
1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの構造確認は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)で行い、その結果は目的化合物を支持するものであった。そのときのデータを以下に示す。
【0092】
NMR:主なシグナル
2.258ppm s 3H CH3
2.455ppm t 4H ピペラジンCH2
3.761ppm t 4H ピペラジンCH2
5.521ppm s 2H テトラゾールとピペラジンを連結したCH2
7.480ppm m 3H フェニルCH
8.125ppm m 2H フェニルCH
【0093】
[製造例4]4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリン(化合物6)の製造方法
メタノール133mlに5−フェニルテトラゾール13.0g(0.089mol)を加えて溶解した液を5℃未満に冷却し、チオモルホリン10.0g(0.10mol)と36%ホルマリン9.2gを添加した後、室温で一晩撹拌して反応させた。目的化合物は反応溶液中に結晶として析出するので反応終了後、反応液を濾過して結晶を取り、真空デシケーター中で乾燥して4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリンの白色結晶を11.5g(収率49.1%)得た。
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリンの構造確認は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)で行い、その結果は目的化合物を支持するものであった。そのときのデータを以下に示す。
【0094】
NMR:主なシグナル
2.685ppm t 4H チオモルホリンCH2
2.988ppm t 4H チオモルホリンCH2
5.480ppm s 2H テトラゾールとチオモルホリンを連結したCH2
7.494ppm m 3H フェニルCH
8.162ppm m 2H フェニルCH
【0095】
[製造例5]1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物7)の製造方法
5−フェニルテトラゾール20.0g(0.14mol)のメタノール205ml溶液に5℃未満でピペラジン5.3g(0.062mol)と36%ホルマリン14.1g添加した。その後、室温で一晩撹拌して反応させた。反応終了後、析出した結晶を濾過し、真空デシケーター中で乾燥の後、23.7g(収率95.0%)の1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの白色結晶を得た。
1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの構造確認は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)で行い、その結果は目的化合物を支持するものであった。そのときのデータを以下に示す。
【0096】
NMR:主なシグナル
2.767ppm s 8H ピペラジンCH2
5.469ppm s 4H テトラゾールとピペラジンを連結したCH2
7.496ppm m 6H フェニルCH
8.171ppm m 2H フェニルCH
【0097】
[試験例1]
AGEs生成抑制効果の検証
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、代表的なAGEsであるペントシジン生成量を指標として、AGEs生成抑制効果を以下の方法により検証した。
【0098】
非糖尿病の腎不全透析患者から同意を得て透析前に採血し、新鮮ヘパリン化血漿試料とした。数名の患者(n=3〜5)から得られたプール血漿を実験に供した。プールした血漿(900μL)に所定濃度(最終濃度8、20、および50mM)に調製した4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(100μL)を加え、37℃で7日間、空気存在下でインキュベーションした後、ペントシジン含量を測定し、タンパク質の糖化反応を抑制する強さを評価した。
【0099】
ペントシジンの測定は、以下のようにして行った。インキュベーションの後の各サンプル(50μL)に、等容積の10%トリクロロ酢酸を加えた後、5000gで5分間遠心分離した。上清を除去後、ペレットを5%トリクロロ酢酸(300μL)で洗浄した。ペレットを減圧下乾燥後、窒素雰囲気下で6N HCl溶液(100μL)中にて、110℃で16時間加水分解を行った。次いで加水分解物に5N NaOH(100μL)および0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4)(200μL)を添加した後、0.5μm孔のポアフィルタを通して濾過し、PBSで希釈した。遊離したペントシジンの濃度は、蛍光検出器(RF−10A、島津製作所)を用いた逆相HPLCを用いて測定した(Miyata, T. et al. ; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 2353−2358, 1996)。 流出液を335/385nmの励起/発光波長でモニターした。合成ペントシジンを標準物質として使用した。ペントシジンの検出限界は、0.1pmol/mgタンパク質であった。
【0100】
抑制効果は、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)と同様にして反応させた陽性対照(アミノグアニジンおよびピリドキサミン(シグマ))と比較することにより評価した。
【0101】
透析患者血漿とインキュベートしたときの4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオンおよび(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノールのペントシジン生成抑制効果(ペントシジン生成量nmol/mL)を表2に、ペントシジン生成率(%)を図1に示す。
【表2】
【0102】
表2および図1に示すごとく、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、透析患者血漿におけるペントシジンの生成を強く抑制した。
【0103】
同様にして、1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物4)、1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物5)、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリン(化合物6)および1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物7)のペントシジン生成抑制活性を測定した(表3および図6参照)。これらの化合物はペントシジンの生成を強く抑制した。
【表3】
【0104】
[試験例2]
(1)ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果を検討した。
【0105】
フェニルアラニン(最終濃度:1mM)、試験化合物(最終濃度:0.1、0.5、2.5mM)、過酸化水素(最終濃度:5mM)、硫酸銅(最終濃度:0.1mM)を200mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し(全量500μL)、37℃で4時間インキュベートした。インキュベ−ト終了後、DTPA(最終濃度:1mM)、260unitのカタラーゼを添加して反応を停止させた。o−チロシンおよびm−チロシンの生成量をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、反応液を100倍希釈し20μLをHPLCにインジュクトし、C18カラム(4.6×250mm、5μm:野村化学製)で分離後、励起波長275nm、蛍光波長305nmの条件で蛍光検出器(RF−10A:島津製作所)を用いて検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を6.5%から10%まで25分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。結果を図2に示す。
【0106】
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化を、陽性対照のピリドキサミン(シグマ)に比較して非常に強く抑制した。
【0107】
(2)パーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果
Pannala ASらの方法(Free Radic Biol Med 24:594−606, 1998)に準じて実施した。すなわち、チロシン(最終濃度:100μM)、試験化合物(最終濃度:0.1、0.5、2.5mMおよび5mM)、パーオキシナイトライト(同仁化学製)(最終濃度:500μM)を200mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し(液量500μL)、37℃で15分間インキュベートさせた。インキュベート終了後、ニトロチロシンの生成量をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、反応液(20μL)をHPLCにインジェクトし、C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、紫外検出器(RF−10A:島津製作所)を用い280nmの波長で検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を5.0%から30%まで30分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。4−ヒドロキシ−3−ニトロ安息香酸(100μM)を内部標準として使用した。結果を図3に示す。
【0108】
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、チロシンのニトロ化によるニトロチロシンの生成を、陽性対照のピリドキサミン(シグマ)に比較して非常に強く抑制した。
【0109】
[試験例3]
ビタミンB6(PLP/ピリドキサールリン酸)の捕捉試験
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)、並びに陽性対照のアミノグアニジンを所定の濃度でDMSOに溶解してサンプル溶液とした。陰性対照として薬剤無添加のDMSOを用いた。さらに、ピリドキサールリン酸(PLP)を所定の濃度で精製水に溶解した。被検化合物、陽性対照および陰性対照にPBSを添加し、それぞれを最終濃度500μMの溶液とした。この溶液に前述のPLP水溶液を最終濃度50μMになるように加えPLP反応液とした。HPLCを用いて、0時間、1時間後、10時間後のPLP量を測定し、各化合物のPLP捕捉量を判定した。
【0110】
HPLCの分析条件は、逆相系C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、蛍光検出器(RF−10A:島津製作所/励起波長300nm、蛍光波長400nm)を用いた。移動層は0.6mL/minの流速で、バッファB濃度を0%から3%まで25分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。PLP残存率を図4に示す。
【0111】
上記の結果より、陽性対照のアミノグアニジンは強いPLPの捕捉が見られたが、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、いずれもPLPの捕捉は認められなかった。
【0112】
[試験例4]
吸収性試験
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、吸収性を試験した。各化合物を所定の濃度でカルボキシメチルセルロースに懸濁させ、経口投与試料として調製した。次いでラットにゾンデを用いて、各投与試料をそれぞれ50mg/kgの割合で経口投与した。ウイスター(Wister)系のラット(雄、8週齢のクローズドコロニー)を1群につき5匹使用した。化合物投与後、1時間、2時間、6時間および24時間後に採血した。採血した検体を直ちに3000rpmで15分間遠心分離して血漿を回収し、HPLCで検体中の化合物の濃度を定量した。すなわち、回収した血漿100μLに対してアセトニトリル200μLを添加し、12000rpmで10分間遠心分離して上清を回収し、除蛋白し、HPLCに供した。HPLCの測定条件は、各化合物に適した分離、定量ができる条件を選んだ。たとえば、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)の場合、逆相系C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、紫外検出器(RF−10A:島津製作所)を用いて240nmの波長で検出して定量した。移動層は0.8mL/minの流速で、溶媒は水:アセニトリルを用いた。結果を図5に示す。いずれの化合物も良好な吸収性を示した。
【0113】
[試験例5]
急性毒性試験
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、マウスを用いて急性毒性試験を行った。各化合物を所定の濃度でカルボキシメチルセルロースに懸濁させ、経口投与試料として調製した。次いでマウスにゾンデを用いて単回経口投与した。投与量は100、250、500、1000、2000mg/kgの5点で行った。アイ・シー・アール(ICR)系のマウス(雄、8週齢のクローズドコロニー)を1群につき5匹を使用した。被検物質を投与しLD50値を求めた。結果を表4に示す。いずれの化合物も毒性は低かった。
【表4】
【0114】
[試験例6]
糸球体腎炎に対する作用
Wistarラット(雄、体重150g、6週齢)に抗Thy−1抗体であるOX−7を1.2mg/kg尾静脈投与することによって、メサンギウム増殖性腎炎を呈する代表的な糸球体腎炎モデル作製する。抗Thy−1抗体を投与した後、被検化合物(4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、1mg/kg体重、1日1回)を0.5%カルボキシメチルセルロースに懸濁させ、ゾンデにより5日間連続強制投与し、6日目に採材し、腎臓を採取、病理解析(糸球体細胞数のカウント)を行った。具体的には、常法に従いPAS染色した染色像を3CCDカメラ(オリンパス)で取り込んだ後、イメージグラヴァPCI(富士写真フィルム)とマックアスペクト(三谷株式会社)のソフトウエアを使用して解析した。また、血液・尿の生化学的解析(臨床解析受託会社:SRL)も行った。
それらの結果を図7〜図9に示す。
【0115】
[試験例7]
虚血再灌流腎不全モデルラットに対する腎保護作用
本病態モデルは、代表的な急性腎不全モデルである。作製方法として、Wistarラット(雄、体重150g、6週齢)の右腎摘出手術を行い、翌日全身麻酔下に残った左片腎の腎動脈をクリップで結紮する。クリップ後体温が下がらないように加温器の上で45分間観察(虚血)した後、クリップをはずし、再灌流を行う。虚血再還灌流モデル作製後、被検化合物(4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、1mg/kg体重、1日1回)を0.5%カルボキシメチルセルロースに懸濁させ、ゾンデにより2日間連続強制投与し、3日目に腎臓を採取し、病理解析(尿細管間質障害のスコアリング)を行った。具体的には、常法に従いPAS染色した腎染色像の尿細管間質障害は尿細管壊死、尿細管肥大、尿細管萎縮、尿細管基底膜肥厚、castの有無を評価した。併せて血液の生化学的解析(臨床解析受託会社:SRL)も行った。
それらの結果を図10および図11に示す。
【0116】
[試験例8]
中大脳動脈虚血再還流モデルにおける脳保護作用
体重270〜350gのCD(SD)IGS雄性ラット(日本チャルスリバー株式会社 日野生産場22号室特定生産)(1群8匹)を2%イソフルラン(70%N2O(笑気ガス)と30%O2の混合ガス)で麻酔して不動化した後に、ヒーティングパット上に置き、動物の直腸温と脳温を37〜38℃に保持した。次いで、実験上の安定性を観察するために、該動物の尾動脈にポリエチレン製カニューレ(PE−50、ベクトン・ディッキンソン社製)を挿入、留置し、これより採血や血圧測定を行い血糖値、ヘマトクリット、CO2濃度、酸素分圧、pH、血圧等の生化学的パラメーターをモニターした。また、皮質における脳血流量はレイザー・ドップラー・フルオメトリー(neuroscience.inc社製/製品名:OMEGA FLOW(FLO−C1))検出部位をブレグマ左4mmの位置に、直接頭蓋にあてて測定した。このように準備された動物左頚部を切開し、総頚動脈の内頚・外頚動脈分岐点から内頚動脈の上流に向け、長さ16mm、直径0.2〜0.3mmで先端3mmをシリコンコーティングしたナイロン製外科用スレッドを通したまま留置し、2時間のあいだ中大脳動脈を閉塞した。その後スレッドを抜き取り、中大脳動脈を開放し、21時間のあいだ血液を再還流した。それぞれ、対照である3.0mg/kgの3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンという)および被検薬物である4.23mg/kgの4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)(以下、TM−3001という)を、中大脳動脈を閉塞後5分後と5時間後に尾動脈に留置したカニューレより2回投与した。上記手技が終了後、動物より脳を摘出し、2mm厚で7枚の脳切片を調製後、生理食塩水40mlに2,3,5−triphenyltetrazolium chloride(シグマ社製)を0.8g溶解した液(TTC染色液)に37℃で15分間浸漬して染色処理を施した後に10%の中性ホルマリン液を用いて固定し、標本とした。これらの標本は、それぞれCCDカメラで画像化し、Swanson等の方法(J Cereb Blood Flow Metab 10:290−293; 1994)によって解析した。その結果、賦形剤単回投与群に比較し対照薬剤のエダラボンおよび被検薬剤のTM−3001は有意差をもって脳梗塞巣を縮小した。結果を図13に示す。また、神経状態の評価は施術ラットを水平な台の上におき、横から押して麻痺なく正常に歩ける状態のものをグレード0、横から押して抵抗があり、前にまっすぐ歩けるが、前肢の屈曲を呈するような状態をグレード1、横から押して抵抗がないが、前にまっすぐ歩ける状態のものをグレード2、横から押すと抵抗がなく前にまっすぐ歩けない(回転や転倒する)状態のものをグレード3に分類し、四段階の基準による、Bedersonらの方法によるグレーディングシステム(Stroke 17:472−476, 1990)で評価した。更に、機能回復の面では、回転ローター上にマウスを歩かせ、その歩行状態がどの程度可能であるかを評価する方法による、ローターロッド試験を施術前後に行い、その評価を行った。その結果、賦形剤単開投与群と比較して、エダラボン(対照薬剤)およびTM−3001(被検薬剤)は、有意差をもって神経状態の改善および機能回復を示した。その結果を表5に示す。
【0117】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明により、テトラゾール環にメチレンを介して各種の置換基を有する化合物、特に化合物(I)または(II)を有効成分とする、強力かつ優れた蛋白修飾物生成抑制効果を有し、さらに血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤が提供される。この蛋白修飾物生成抑制剤は、AGEsやALEsに関連する疾患の予防や治療に有用であって、具体的には腎組織保護剤として単独でまたは腹膜または血液透析液に配合して使用される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】図1は、本発明化合物のペントシジン抑制効果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明化合物のヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明化合物によるパーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明化合物のビタミンB6捕捉能を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明化合物の吸収性を示すグラフである。
【図6】図6は、化合物4〜7のペントシジン生成抑制効果を示すグラフである。
【図7】図7は、糸球体腎炎モデルにおける化合物1のBUN低減化効果を示すグラフである。
【図8】図8は、糸球体腎炎モデルにおける化合物1の尿蛋白減少効果を示すグラフである。
【図9】図9は、化合物1が糸球体腎炎モデルの糸球体細胞に与える影響を示すグラフである。
【図10】図10は、腎不全モデルにおける化合物1のBUN低減化効果を示すグラフである。
【図11】図11は、腎不全モデルにおける化合物1の間質障害スコアーを示すグラフである。
【図12】図12は、化合物1が脳梗塞巣を縮小することを示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛋白修飾物生成抑制剤、特に非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる糖化最終産物(Advanced Glycation End Products、以下、「AGEs」と称する)、脂質過酸化最終産物(Advanced Lipoxidation End Products、以下、「ALEs」と称する)などの蛋白修飾物の生成を抑制する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖化反応(グリケーション)とは、ペプチドや蛋白質などのアミノ基と還元糖などのカルボニル基との非酵素的反応から始まる一連の反応(メイラード反応(非特許文献1参照))をいい、初期段階と後期段階に大別することができる。初期段階は糖の濃度と反応時間とに依存する可逆反応であり、前記アミノ基と前記カルボニル基とが非酵素的に反応してシッフ塩基を形成し、さらにアマドリ転位によりアマドリ化合物を形成する。
【0003】
後期段階では初期段階で生成したアマドリ化合物が非可逆的に脱水、縮合、環状化、酸化、断片化、重合、転位などを受け、最終的にAGEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する。糖の自動酸化などにより、3−デオキシグルコソン(以下、「3−DG」と称する)、グリオキサール(以下、「GO」と称する)およびメチルグリオキサール(以下、「MGO」と称する)などの反応性の高いジカルボニル化合物が生成するが、これらのカルボニル化合物も蛋白と反応し、多くの場合、蛋白質のリジン残基やアルギニン残基などが修飾されたAGEsを生成する。
【0004】
また、酸化ストレス下では、生体内に豊富に存在する糖、脂質、アミノ酸などは酸化反応などにより、反応性の高いカルボニル化合物へと変化する。その結果生じる、GO、MGO、アラビノース、グリコールアルデヒドなどの化合物はAGEsの前駆物質となる。また、アスコルビン酸の酸化により生成するデヒドロアスコルビン酸もAGEsの前駆物質となる。これらの前駆物質はいずれもカルボニル基を有しており、蛋白質のアミノ基と非酵素的に反応してシッフ塩基を生成してAGEsを形成する(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、酸化ストレス下では脂質過酸化も進行し、マロンジアルデヒド、ヒドロキシノネナールおよびアクロレインのような、様々なカルボニル化合物が形成される(非特許文献3参照)。これらのカルボニル化合物も蛋白質のアミノ基などと反応し、マロンジアルデヒド修飾リジンやヒドロキシノネナール修飾物などのALEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する(非特許文献2参照)。
【0006】
更に、セリンやスレオニンなどのアミノ酸も酸化によりアクロレイン、GOなどのカルボニル化合物が生成し、蛋白修飾物を形成する(非特許文献4参照)。多くのカルボニル化合物は酸化的経路で生成されるが、3−DGのように非酸化的経路を経て生成されるカルボニル化合物も存在する。
【0007】
公知のAGEs生成経路として、(1)シッフ塩基、アマドリ化合物から3−DGを経由する経路;(2)シッフ塩基が酸化的にグリコールアルデヒド−アルキルイミンへ変化し、アルドアミンを経てAGEsに至る経路;(3)アルドアミンがグリオキサールモノアルキルイミンを経てAGEsに至る経路;(4)アマドリ化合物から2,3−エンジオールを経て生成されるMGOを中間体とする経路;(5)その他などがある。
【0008】
最近、AGEsのひとつであるカルボキシメチルリジンが不飽和脂肪酸の脂質酸化反応の結果生じるGOによっても生成することが明らかになり、糖化・酸化反応と脂質酸化反応が共通の基盤で起こっていると考えられる。
【0009】
以上のように、糖、脂質、アミノ酸およびアスコルビン酸から酸化的、非酸化的経路により生成されたカルボニル化合物は、蛋白を非酵素的に修飾して最終的にAGEsやALEsなどの蛋白修飾物を形成するに至る。特に、複数の反応経路を経て生成されたカルボニル化合物により蛋白修飾反応が亢進している状態をカルボニル過剰による蛋白修飾、すなわち、カルボニルストレスと呼んでいる。
【0010】
公知のAGEsとしては、ペントシジン(非特許文献5参照)、クロスリン(非特許文献6参照)、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン(非特許文献7参照)、ピラリン(非特許文献8参照)、カルボキシメチルリジン(非特許文献9参照)、イミダゾロン化合物(非特許文献10参照)、カルボキシエチルリジン(非特許文献11参照)、MGOダイマー(非特許文献12参照)、GOダイマー(非特許文献13参照)、イミダゾリジン(非特許文献14参照)およびアルグピリミジン(非特許文献15参照)などが知られている。
【0011】
現在クローニングされているAGEs受容体として、RAGE(非特許文献16参照)、マクロファージスカベンジャー受容体クラスA(非特許文献17参照)、ガレクチン3(非特許文献18参照)、OST−48および80K−Hなどがある(非特許文献17参照)。
【0012】
血管組織においてAGEsがRAGE(免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞膜貫通型蛋白質)に結合すると、細胞内で活性酸素が生成し、p21ras/MAPK経路が活性化され(非特許文献19参照)、これにより転写因子NF−κβ活性化が誘導され、VCAM−1などの血管障害関連因子の発現が誘導されることが報告されている(非特許文献20参照)。また、AGEsはRAGEを介して、微小血管の内皮細胞の増殖を制御し、恒常性維持に重要な役割を果たしている周皮細胞の増殖を制御するとともに、毒性効果を発揮することが報告されている(非特許文献21参照)。
【0013】
さらに、AGEsは、RAGEを介して微小血管の内皮細胞に直接的に作用し血管新生を促進することや、PGI2の産生を阻害して血栓傾向となること(非特許文献22参照)が報告されている。その他、AGEsやALEsなどの生理活性として、メサンギウム細胞の基質産生の亢進、単球遊走能の亢進、マクロファージからの炎症性サイトカインの放出、滑膜細胞のコラゲナーゼ産生促進、破骨細胞の活性化、血管平滑筋の増殖作用、血小板凝集の促進、NO活性とその平滑筋弛緩反応の抑制が報告されている(非特許文献23参照)。
【0014】
AGEsが関与する疾患として、(1)糖尿病合併症である腎症(非特許文献24参照)、神経障害(非特許文献25参照)、網膜症(非特許文献21参照)および白内障、(2)動脈硬化(非特許文献26参照)、(3)透析合併症である透析アミロイドーシス(非特許文献27参照)および腹膜透析患者における腹膜硬化症、(4)中枢神経疾患であるアルツハイマー病(非特許文献28参照)、ピック病およびパーキンソン病、(5)リウマチ性関節炎(非特許文献29参照)、(6)日光弾性線維症、(7)老化、(8)腎不全(非特許文献30参照)などが知られている。その他、糖尿病の場合、血管内皮由来の血管拡張がAGEsによって障害されること(非特許文献31参照)、AGEsが腎硬化を促進させること(非特許文献32参照)などが報告されている。
【0015】
以上のことから、AGEsを初めとする蛋白修飾物は、直接的にまたは受容体を介して生体に悪影響を与えることが明らかとなっている。
【0016】
一方、腎機能が低下するに従って、血中のAGEsの濃度が上昇することが知られている。腎機能低下により、分子量5kDa以下と考えられるカルボニル化合物は体内に蓄積する。ペントシジンやピラリンなどの場合、遊離型も存在するが、血清アルブミンなどへの蛋白結合型が大部分を占めている(非特許文献33参照)。また、血中ペントシジン濃度は糸球体濾過機能の影響を強く受けるという報告がある(非特許文献34参照)。
【0017】
この様に、AGEsはその大部分が腎において処理され、健康時には血中濃度は低く保たれているが、腎機能が低下すると、尿毒症毒素(uremic toxin)として慢性の生物活性をもたらすようになる。
【0018】
透析療法によって遊離型のものは除去されるが、蛋白結合型のものや分子内架橋を形成するものは除去することが困難である(非特許文献35参照)。従って、腎不全期間の経過と共に蛋白修飾物の生体内蓄積量は増加する。また、生体内で糖が反応する基本的な過程以外に食品中から供給される遊離型AGEsや、生体内で既に形成されたアマドリ化合物などから形成される活性の強い3−DG、GO、MGOなどの中間体が次々に蛋白と反応し、AGEsの産生を促進することが認められている。また、血液は透析膜と接触することによって、補体系や白血球の活性化などの様々な影響を受け、フリーラジカルの産生亢進へとつながるなど、透析療法そのものによる酸化の亢進も存在し、AGEs生成の一因となっている。
【0019】
ゆえに、透析療法での対策としては透析導入の初期からこれらの遊離型物質の除去を図り、結合型のAGEs形成を極力抑制することが重要であり、上記のように結合型のAGEsを透析療法によって除去することは困難であるので、透析療法では蛋白修飾物の生成を抑制する薬物の開発が希求されている。
【0020】
また、腎機能に起因するばかりではなく、腎不全に伴う抗酸化防御機構の低下も蛋白修飾物の蓄積に関与していると考えられる。腎不全患者では、血中還元型グルタチオンに対する酸化型グルタチオンの上昇(非特許文献36参照)、グルタチオン依存酵素群の活性低下、保存期腎不全血漿グルタチオンペルオキシダーゼの低下(非特許文献37参照)、全血中グルタチオンの低下(非特許文献38参照)ならびに血漿セレン濃度の低下に対する血漿スーパーオキサイドジスムターゼの活性上昇(非特許文献39参照)といった抗酸化能の不均衡が示唆されている(非特許文献40参照)。
【0021】
また、一般に慢性腎不全の患者では、高血糖の有無に関わらず血中や組織中に反応性の高いカルボニル化合物やAGEsが著しく蓄積していることが報告されている(非特許文献41参照)。腎不全においては、非酵素的化学反応によりカルボニル化合物が高負荷の状態(カルボニルストレス)となり、蛋白質修飾が亢進される病態が存在しており、糖・脂質からカルボニル化合物が生成され蛋白質を修飾するためであると考えられる(非特許文献42参照)。
【0022】
ゆえに、様々な要因によって生じる蛋白修飾物の生成を抑制することが、組織障害の軽減につながり、AGEsなどの蛋白修飾物質が関与する病態を予防および治療することができる。
【0023】
慢性腎不全患者に行われる透析には、血液透析と腹膜透析がある。腹膜透析の場合、血中の老廃物は腹膜を通して腹膜透析液中に排泄される。高浸透圧の腹膜透析液(グルコース、イコデキストリンまたはアミノ酸などを含有する)は、腎不全患者の血中に蓄積した反応性の高いカルボニル化合物(たとえば腎不全患者の血中に酸化ストレスに伴って蓄積する、炭水化物に由来するカルボニル化合物(アラビノース、GO、MGO、3−DG)、アスコルビン酸に由来するカルボニル化合物(デヒドロアスコルビン酸)、脂質に由来するカルボニル化合物(ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン))を、腹膜を介して腹腔内の腹膜透析液中に集める作用がある。
【0024】
また、腹膜透析液の滅菌や保存中に、反応性の高いカルボニル化合物(3−DG、5−ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、GO、MGO、レブリン酸、フルフラール、アラビノースなどのカルボニル化合物)が腹膜透析液中に生成することが知られている(非特許文献43参照)。
【0025】
そのため腹膜透析液中の前記カルボニル化合物濃度は上昇し、蛋白修飾物質の生成が亢進する。その結果、腹膜の機能が低下し、除水能の低下や腹膜硬化症への進展に関与すると考えられる(非特許文献44参照)。
【0026】
実際に腹膜透析患者においては、導入されたグルコースによって腹腔内がカルボニルストレス状態となっていることが、内皮および中皮の免疫組織学的検討から証明されている(非特許文献45参照)。
【0027】
この様に、透析患者においてもカルボニル化合物による蛋白修飾物の生成が腹膜の形態学的変化およびこれに伴う機能(除水能)の低下の原因となっていることが推測されており、その改善方法の提供が求められている。
【0028】
以上の事実と腎不全をはじめとする種々の病態を考え合わせると、カルボニル化合物蓄積がAGEs産生亢進の原因のひとつであると考えられ(非特許文献46参照)、AGEsの産生を抑制することが、AGEsが関連する病態に対し有効であると考えられる。
【0029】
代表的なAGEs生成阻害薬としてアミノグアニジンがある。アミノグアニジンはグルコース、シッフ塩基やアマドリ生成物から生成される3−DGなどのジカルボニル化合物と反応してチアゾリンを形成することによってAGEs生成を阻害すると考えられている。糖尿病モデル動物を用いた解析では、糖尿病性腎症(非特許文献47参照)、網膜症(非特許文献48参照)および白内障(非特許文献49参照)の進展を遅延させる効果が確認されている。
【0030】
他に、この種に属する化合物としてピリドキサミン誘導体(ピリドリン)がある。また、OPB−9195((±)2−イソプロピリデンヒドラゾノ−4−オキソ−チアゾリジン−5−イルアセトアニリド)はヒドラジンの窒素原子がカルボニル基と反応して安定な構造を形成し、遊離または蛋白に結合した反応性カルボニルを捕捉することにより(非特許文献50参照)、in vitroでAGEsのみならずALEsの生成も抑制する。メトホルミンやブホルミンなどのビグアナイド化合物もカルボニル化合物を捕捉できるため(非特許文献51参照)、AGEs生成阻害薬として利用できる可能性がある。さらに、AGEsの特徴である架橋を切断するタイプのAGEs阻害剤、アマドリ化合物を分解する酵素(amadoriase)などの提案もされている。
【0031】
一方、カルボニル化合物を消去することにより、AGEsやALEsの生成を阻害する可能性も検討されている。カルボニル化合物の消去にはいくつかの酵素や酵素的経路が存在し、たとえばアルドール還元酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼやグリオキサラーゼ経路が挙げられるが(非特許文献52参照)、還元型グルタチオン(GSH)やNAD(P)Hなどのレドックス補酵素はこれらの経路の活性に重要な要素である。
【0032】
これらの消去系の低下は同時に多数のカルボニル化合物の上昇につながる。MGO、GOなどのカルボニル化合物はGSHのチオール基と反応し、結果的に酵素グリオキサラーゼにより代謝される。NAD(P)Hはグルタチオン還元酵素を活性化し、GSHレベルを上昇させる。すなわち、細胞内レドックス機構の不均衡によるGSHおよびNAD(P)Hの低下によりカルボニル化合物の消去系が阻害され、AGEsやALEsの蓄積につながると考えられる。また、糖尿病においては、高血糖によりポリオール経路が活性化され、NAD(P)HやGSHが低下し、結果的にカルボニル化合物の消去系が低下することが示唆される。
【0033】
前述したようにGSHおよびNAD(P)Hなどのチオール濃度の低下がカルボニル化合物消去の低下につながり、結果としてAGEsやALEsを形成する原因のひとつとなっているとすれば、チオールレベルを上昇させることによりカルボニル化合物を減少できる可能性がある。これには、GSH、システイン、アセチルシステインなどによりチオール基を補充する方法、ビタミンEやユビキノールなどによりGSH需要を低下させる方法、アルドース還元酵素阻害薬などによりポリオール系を阻害する方法が提案されている。さらに、アミノグアニジン、ピリドキサミン、ヒドラジン、ビグアナイド化合物およびSH基含有化合物を用いて、カルボニル化合物をトラップさせる方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0034】
以上詳細に述べたように、AGEsおよびALEsの生成を阻害することが、これらに関連する病態を予防または治療できる方法である。
【特許文献1】国際公開第WO00/10606 号
【非特許文献1】メイラード, エル, シー(Maillard, L. C.)ら著, 「コンプテス・レンダス・ヘブドマダイレス・デス・シンシズ・デ・ラ・ソサイエテ・デ・バイオロジー(Compt. Rend. Soc. Biol.)」, (フランス), 1912年, 第72巻, p599
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【非特許文献17】スズキ, エイチ(Suzuki, H.)ら著,「ネイチャー(Nature)」,(イギリス)1997年, 第386巻, p292−295
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【非特許文献23】ドイ, ティー(Doi, T.)ら著, 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」, (アメリカ), 1992年, 第89巻, p2873−2877
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【非特許文献25】スギモト, ケイ(Sugimoto, K.)ら著, 「ダイアベートロジア(Diabetologia)」, (ドイツ), 1997年, 第40巻, p1380−1387
【非特許文献26】パーク, エル(Park, L.)ら著, 「ネイチャー・メディスン(Nat. Med.)」,(アメリカ), 1998年, 第4巻, p1025−1031
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【非特許文献29】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」, (アメリカ), 1999年, 第244巻, p45−49
【非特許文献30】マキタ, ゼット(Makita, Z.)ら著, 「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(N. Engl. J. Med.)」, (アメリカ), 1991年, 第325巻, p836−842
【非特許文献31】ブカラ, アール(Bucala, R.)ら著, 「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J. Clin. Invest.)」, (アメリカ), 1991年, 第87巻, p432−438
【非特許文献32】ブラッサラ, エイチ(Vlassara, H.)ら著, 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」, (アメリカ), 1994年, 第91巻, p11704−11708
【非特許文献33】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ソサエティー・オブ・ネフロロジー(J. Am. Soc. Nephrol.)」, (アメリカ), 1996年, 第7巻, p1198−1206
【非特許文献34】スギヤマ, エス(Sugiyama, S.)ら著, 「ジャーナル・オブ・ザ・アメリカン・ソサエティー・オブ・ネフロロジー(J. Am. Soc. Nephrol.)」, (アメリカ), 1998年, 第9巻, p1681−1688
【非特許文献35】ミヤタ・ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1996年, 第49巻, p1304−1313
【非特許文献36】カネストラリ, エフ(Canestrari, F.)ら著, 「アクタ・ヘマトロジカ(Acta Haematol.)」, (スイス), 1994年, 第91巻, p187−193
【非特許文献37】ウエダ, ワイ(Ueda, Y.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.), (アメリカ), 1998年, 第245巻, p785−790
【非特許文献38】カネストラリ, エフ(Canestrari, F.)ら著, 「アクタ・ヘマトロジカ(Acta Haematol.)」, (スイス), 1994年, 第91巻, p187−193
【非特許文献39】リチャード, エム, ジェイ(Richard, M. J.)ら著, 「ネフロン(Nephron)」, (スイス), 1991年, 第57巻, p10−15
【非特許文献40】ヤドウル, エム(Jadoul, M.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p2487−2492
【非特許文献41】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ)1997年, 第51巻, p1170−1181
【非特許文献42】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p389−399
【非特許文献43】リチャード, ジェイ, ユー(Richard, J. U.)ら著, 「ファンダメンタル・アンド・アプライド・トキシコロジー(Fund. Appl. Toxic.)」, (アメリカ), 1984年, 第4巻, p843−853
【非特許文献44】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 2000年, 第58巻, p425−435
【非特許文献45】ヤマダ, ケイ(Yamada, K.)ら著, 「クリニカル・ネフロロジー(Clin. Nephrol.)」, (ドイツ), 1994年, 第42巻, p354−361
【非特許文献46】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「ネフロロジー・ダイアリシス・トランスプランテーション(Nephrol. Dial. Transplant.)」, (イギリス), 1997年, 第12巻, p255−258
【非特許文献47】エデルステイン, ディー(Edelstein, D.)ら著, 「ダイアベートロジア(Diabetologia), (ドイツ), 1992年, 第35巻, p96−101
【非特許文献48】ハメス, エイチ, ピー(Hammes, H. P.)ら著, 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」, (アメリカ), 1991年, 第88巻, p11555−11561
【非特許文献49】マツモト, ケイ(Matsumoto, K.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」, (アメリカ), 1997年 第241巻, p352−354
【非特許文献50】ナカムラ, エス(Nakamura, S.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes)」, (アメリカ), 1997年, 第46巻, p895−899
【非特許文献51】ベイスウェンゲル, ピー, ジェイ(Beisswenger, P. J.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes), (アメリカ), 1999年, 第48巻, p198−202
【非特許文献52】ソマリー, ピー, ジェイ(Thornalley, P. J.)ら著, 「エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(Endocrinol. Metab.)」, (アメリカ), 1996年, 第3巻, p149−166
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
これまで蛋白修飾抑制剤として知られているアミノグアニジンやOPB−9195などは、これらを生体内に投与した場合、重篤なビタミンB6欠乏症を起こすことが判明している。本発明者らは、この欠陥を克服すべく研究を進めたところ、そのようなビタミンB6欠乏症は、血中に存在するビタミンB6分子が当該蛋白修飾抑制剤によって捕捉されることに基因するものであることが明らかとなった。
【0036】
本発明者らは、上記従来技術に基づく知見を前提として、非酵素的条件下、カルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(AGEsおよび/またはALEs)が関与する病態を予防および/または治療し、なおかつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症を抑制し得る薬剤を開発すべく鋭意研究を行った結果、先に、テトラゾール基を有する化合物、とりわけテトラゾール基を有するアンジオテンシンII受容体ブロッカーまたは薬理学的に許容されるそれらの塩が効果的にAGEs、ALEsなどの蛋白修飾物の生成を抑制する事実を発見し、この発見に基づいて、当該物質を有効成分とする蛋白修飾物生成抑制剤の発明を完成した(特願2001−147115号明細書)。
【0037】
アンジオテンシンII受容体ブロッカーは、蛋白修飾物生成抑制剤として優れた効果を示すが、同時に血圧降下作用を有するため、血圧の変動が好ましくない病態においては使用が制限される虞がある。本発明の目的のひとつは、血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明者らは、上記成果を踏まえ、より一層優れた蛋白修飾物生成抑制剤を開発すべく鋭意研究を行った結果、テトラゾール環にメチレンを介して各種の置換基を有する化合物が強力かつ優れた蛋白修飾物生成抑制効果を有し、さらに血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤となり得ることを新たに見出した。
【0039】
すなわち、本発明は蛋白修飾物生成抑制作用を有し、かつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症が抑制される化合物を有効成分とし、さらに好ましくは血圧降下を伴うことのない化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤を提供するものであって、その技術的範囲には、具体的に、以下の技術的態様が包含される:
(1)遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環化合物であって、該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤。
(2)有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(I):
【化1】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、上記(1)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(3)有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(II):
【化2】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、上記(1)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(4)R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が置換されていることもある環構成原子の数が10個を越えない超えない異項環基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(5)R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が低級アルキル基、低級アルコキシ基またはヒドロキシ基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(6)R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がモルホリノ基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(7)R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2が5−メチル−3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(8)R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がヒドロキシメチル基である、上記(2)または(3)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(9)蛋白修飾物が、AGEs、ALEsおよびこれらの組合せよりなる群から選択されるものである、上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(10)蛋白修飾物がAGEsである、上記(9)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(11)AGEsがペントシジンである、上記(10)項記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
(12)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腎組織保護剤。
(13)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腹膜透析液。
(14)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、血液透析液。
(15)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を液体試料と接触させる工程を含む、液体試料のカルボニル化合物含有量を低減させる方法。
(16)上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を患者の血液または腹膜透析液と接触させる工程を含む、蛋白修飾物の生成抑制方法。
(17)蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置する方法であって、かかる処置を必要とする患者に、治療上有効量の上記(1)〜(8)のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を投与することを含んでなる方法。
(18)蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置するための医薬の製造のための、上記(1)〜(8)項のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤の使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明は、遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環化合物であって該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤を提供するものであって、当該有効成分は、具体的には、遊離形または塩形の式(I):
【化3】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
および遊離形または塩形の式(II):
【化4】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される。当該有効成分は、蛋白修飾物生成抑制作用を有する一方、副作用としてのビタミンB6欠乏症を抑制されており、さらに血圧の変動が少ない化合物とすることができるので、薬剤としての使用に適している。
【0041】
ここに「蛋白修飾物」とは、非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(たとえばAGEs、ALEsなど)をいい、特記しない限りAGEsとALEsの両者を含むものとする。蛋白修飾物はAGEs、ALEsまたはこれらの組み合わせであってもよく、AGEsには、たとえばペントシジン、クロスリン、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン、ピラリン、カルボキシメチルリジン、イミダゾロン化合物、カルボキシエチルリジン、MGOダイマー、GOダイマー、イミダゾリジン、アルグピリミジンなどが含まれ、ALEsには、たとえばマロンジアルデヒドリジン、ヒドロキシノネナール修飾物などが含まれる。
【0042】
本明細書において、「カルボニル化合物」とは、生体由来または非生体由来に関係なく、蛋白修飾の原因となるカルボニル基を有する化合物であればよく、ジカルボニル化合物も含まれる。従って、カルボニル化合物の具体例としては、アラビノース、GO、MGO、3−DG、グリコールアルデヒド、デヒドロアスコルビン酸、ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン、5−ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、レプリン酸、フルフラールなどが含まれる。
【0043】
「ビタミンB6欠乏症」とは、ビタミンB6の欠乏に基因する諸疾患をいい、口角炎、口内炎、舌炎、口唇炎、急性および慢性湿疹、接触性皮膚炎、末梢神経炎、神経障害、貧血、リンパ球減少症などが例示される。
【0044】
「蛋白修飾物生成抑制剤」の有効成分である、遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環を有する化合物であって該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物は、in vivo、ex vivoおよび/またはin vitroに拘わらず、蛋白修飾物の生成を結果的に抑制することができる。「結果的に抑制する」とは、カルボニル化合物をトラップする作用を有することによるものであってもよく、蛋白修飾物を生成する反応を抑制することによるものであってもよく、最終的に蛋白修飾物の生成を抑制すればよく、その作用機序には限定されない。なお、「抑制剤」または「保護剤」の語には、予防または/および治療のために使用する薬剤が包含される。
【0045】
本発明にかかる蛋白修飾物生成抑制剤の有効成分として使用される5−置換テトラゾール環化合物は、上記式(I)または(II)で表わすことができるものである。
【0046】
式(I)および(II)において、R1は、置換または非置換の芳香環(異項環を含む)基を表わす。「芳香環基」には、20個を越えることのない環構成原子数(そのなかに酸素、硫黄、窒素などのヘテロ原子が存在してもよいが、それらの数が3個を越えることはない)を有するものが包含され、特に環構成炭素原子数6〜10個を有するアリール(たとえばフェニル、ナフチル)が好ましい。
【0047】
置換基としては、たとえば低級アルキル(たとえばメチル、エチル、プロピル)、低級アルケニル(たとえばビニル、アリル)、低級アルコキシ(たとえばメトキシ、エトキシ、プロポキシ)、低級アルケニルオキシ(たとえばビニルオキシ、アリルオキシ)、低級アルカノイル(たとえばアセチル、プロピオニル、ブチリル)、ハロ(低級)アルキル(たとえばモノクロロメチル、ジクロロメチル、トリフルオロメチル、ジクロロエチル)、カルボキシル、(低級)アルコキシカルボニル(たとえばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル)、カルボキシ(低級)アルキル(たとえばカルボキシメチル、カルボキシエチル、カルボキシプロピル)、ハロゲン(たとえば塩素、臭素、ヨウ素、フッ素)、ニトロ、アミノ、ヒドロキシ、ヒドロキシスルホニル、アミノスルホニル、オキサジアゾリル、チアジアゾリルなどの中から1種またはそれ以上のものが選択されてよい。置換基の数に制限はないが、通常、3個を越えることはない。
【0048】
R2は、1価の有機基を表わす。「1価の有機基」には、置換または非置換の炭化水素基、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシアルキル基、アミノ基、低級アルカノイルアミノ基、アリールオキシアミノ基、3〜7員ヘテロ環基などが包含される。「炭化水素基」には、炭素数30個を越えない鎖状または環状の、脂肪族、脂環式または芳香族炭化水素基が包含され、具体的にはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基などが例示される。「3〜7員ヘテロ環基」は、環構成原子として3個を越えないヘテロ原子を含むものであり、たとえばピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ、チアモルホリノなどが挙げられる。置換基の種類と数は、R1について説明したのと同様である。R2として特に好ましい有機基は、ヒドロキシ、モルホリノ、ピロロトリアゾリルなどであって、これらは、さらに低級アルキル、オキソなどで置換されていてもよい。
【0049】
なお、上記において、アルキル、アルコキシ、アルカノイルなどの語に関連して使用された「低級」なる言葉は、通常、炭素数8個まで、好ましくは炭素数5個までの基を指称するものとして使用される。
【0050】
本発明の化合物(I)の具体例を挙げれば、次のとおりである:
【表1】
【0051】
上記本発明化合物(I)または(II)を製造するには、一般に、5−置換テトラゾールと1位または3位に導入すべきメチレン含有基の種類に応じて、適宜、自体公知の化学反応に付すればよい。
たとえば、5−フェニルテトラゾールとモルホリンをホルマリン存在下で反応させることによって、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリンを製造することができる。反応は、通常、両者を、有機溶媒(メタノール)中、5℃で処理することによって実施することができる。
【0052】
本発明化合物(I)または(II)は、生体内において、副作用としてのビタミンB6欠乏症を示すことなく、それ自体で蛋白修飾物生成抑制作用を示すものである。この事実は、次の試験によって確認することができる:
(A)化合物(I)または(II)がそれ自体で蛋白修飾物生成抑制作用を示す事実を証明する試験:代表的なAGEsであるペントシジンを指標として、非糖尿病の腎不全透析患者から血漿を採取し、本発明化合物を加え、一定時間後のペントシジン生成量を測定する。
(B)化合物(I)または(II)がビタミンB6欠乏症を惹起しないことを証明する試験:ビタミンB6溶液に本発明の化合物を加え、一定時間後のビタミンB6残存量を測定する。
【0053】
化合物(I)または(II)を有効成分として含有する本発明の蛋白修飾物生成抑制剤は、以下に例示する病態の予防および/または治療に有用である:腎障害、糖尿病合併症(腎症、神経障害、網膜症、白内障など)、動脈硬化、透析合併症である透析アミロイドーシス、腹膜透析患者における腹膜硬化症、中枢神経疾患であるアルツハイマー病、ピック病およびパーキンソン病、リウマチ性関節炎、日光弾性線維症、老化など。当該抑制剤は、特に腎障害を予防および/または治療するのに有用である。
【0054】
予防剤または治療剤として用いる場合、本発明化合物(I)を、そのままあるいは水に希釈するなどの処理を施して使用することができ、医薬品、医薬部外品などに配合して使用することができる。この場合の配合量は、病態や製品に応じて適宜選択されるが、通常全身投与製剤の場合には、0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができ、0.001重量%より少ないと満足する予防または治療作用が認められない可能性があり、また、5重量%を越えると製品そのものの安定性や香味などの特性が損なわれる可能性があるので好ましくない。
【0055】
本発明化合物(I)は、遊離形または塩形で製剤中に含有されてよい。塩形としては、通常、薬剤学的に許容されているもの、たとえば無機塩基や有機塩基との塩、無機酸、有機酸、塩基性または酸性アミノ酸などの酸付加塩などが挙げられる。無機塩基との塩としては、たとえばアルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩としては、たとえば第1級アミン(エタノールアミンなど)、第2級アミン(ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロへキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなど)、第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、ビリジン、ピコリン、トリエタノールアミンなど)との塩が挙げられる。
【0056】
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が例示され、有機酸との塩としては、ギ酸、酢酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などとの塩が例示される。さらに、塩基性アミノ酸との塩としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が例示され、酸性アミノ酸との塩としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が例示される。
【0057】
本発明の化合物(I)または(II)は、必要に応じて、アミノグアニジン、ピリドキサミン誘導体、OPB−9195、ビグアナイド化合物、架橋形成阻害薬、アマドリ化合物を分解する酵素、GSH、システイン、アセチルシステイン、ビタミンE、ユビキノール、アルドース還元酵素阻害薬、カルボニル化合物トラップ剤など、公知の薬物と共に使用されてもよく、これにより蛋白修飾物生成抑制作用の持続性を高めることができる。また、化合物(I)または(II)を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、これを併用あるいは配合し、組成物中の有効成分の安定化を図ることができる。
【0058】
本発明の薬剤の投与方法として、経口投与や静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与などが適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
【0059】
蛋白修飾物が関与する病態に対する予防薬または治療薬として用いる場合には、化合物(I)または(II)の経口投与量は、一般に0.3mg/kg〜300mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは1mg/kg〜100mg/kgである。全身投与を行う場合、特に静脈内投与の場合には老若男女または体型などにより変動があるが、通常、有効血中濃度が2μg/mL〜200μg/mL、より好ましくは5μg/mL〜100μg/mLの範囲となるように投与する。
【0060】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などがあり、適宜選択することができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、岨囁剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤などがあり、適宜選択することができる。なお、上記製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化などの修飾を施してもよい。
【0061】
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書に言うDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠など)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤、胃溶性製剤などのような、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用などを勘案して、最適の製剤形態にした製剤をいう。
【0062】
DDSの構成要素には、基本的に薬物、薬物放出モジュール、被包体および治療プログラムが含まれ、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しない被包体が好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは、基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除などを行い、最良の形態を選択することができる。
【0063】
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチンなどがある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテートなど)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサンなど)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルなど)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマーなど)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマーなど)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィプリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβ−ヒドロキシ酢酸、ポリカブロラクトンなど)があり、剤型によって適宜選択することができる。
【0064】
特に、シリコン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびメチルセルロースは、徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
【0065】
また、製剤中には、その剤形(経口投与剤、注射剤、座剤など)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘桐剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、など張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤など適宜の添加剤を配合して製造することができる。これら各添加剤について、以下にそれぞれの具体例を挙げるが、これらに特に限定されるものではない。
【0066】
溶剤としては、精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリンなどを挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトールなどを挙げることができる。コーティング剤としては、白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子などを挙げることができる。基剤としては、ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤などを挙げることができる。
【0067】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴムなどの天然高分子化合物、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチなどを挙げることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、小麦デンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルポキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。
【0068】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。懸濁化剤としては、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤などが挙げられる。粘稠剤としては、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。乳化剤としては、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチンなどが挙げられる。
【0069】
安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質などがある。緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸などがある。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などがある。無痛化剤としては、塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコールなどがある。保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサールなどがある。矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリンなどがある。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油などがある。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素などがある。
【0070】
上記したように、医薬品を徐放化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤のようなDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上などの効果が期待できる。しかし、化合物(I)または(II)は生体内で失活化または分解され、その結果、所望の効果が低下または消失する可能性がある。従って、化合物(I)または(II)を失活化または分解する物質を阻害する物質を本発明の蛋白修飾物に関与する病態の予防または治療組成物と併用することにより、成分の効果をさらに持続化させ得る。これらは製剤中に配合してもよく、または別々に投与してもよい。当業者は適切に、化合物(I)または(II)を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、配合あるいは併用することができる。
【0071】
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0072】
本発明の化合物(I)または(II)は、また、腹膜透析や血液透析における蛋白修飾物質による障害を抑制するために使用することができる。すなわち、蛋白修飾物生成抑制剤としての化合物(I)または(II)を、常套の腹膜透析液や血液透析液中に配合すればよい。
【0073】
本発明による液体試料中のカルボニル化合物含有量を低減させる方法は、蛋白修飾物生成抑制剤としての化合物(I)または(II)と当該液体試料とを接触させる工程を含むものである。
【0074】
また、本発明の蛋白修飾物の生成抑制方法は、蛋白修飾物生成抑制剤としての化合物(I)または(II)を、患者血液または腹膜透析液と接触させる工程を含むものである。透析における蛋白修飾物としては、腹膜透析または血液透析を受ける患者に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物および腹膜透析液または血液透析液自体に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物などが含まれる。
【0075】
本発明における化合物(I)または(II)を添加する腹膜透析液または血液透析液の組成は、公知のものでよい。一般的な腹膜透析液は、浸透圧調節剤(グルコースなど)、緩衝剤(乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、炭酸水素ナトリウムなど)、無機塩類(ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなど)などで構成されている。化合物(I)または(II)を添加した腹膜透析液または血液透析液は、そのまま密封して加熱滅菌することができる。そうすることによって、加熱滅菌処理時または保存時に伴う、これら主成分からの蛋白修飾物の生成を抑制することができる。
【0076】
また、第一室および第二室からなる分画された容器に腹膜透析などの液を収容し、第一室に還元糖を収容し、第二室に化合物(I)または(II)を収容し、使用直前に混合しても良い。アミノ酸が含まれる場合には、当業者は適宜第三室を設けるなど、最良の形態をとることができる。
【0077】
腹腔内または血管内に投与された後は、化合物(I)または(II)が蛋白修飾物の生成を抑制するため、腹膜硬化のような副作用を軽減できる。さらに、その他の病態(糖尿病合併症など)の予防・治療にも効果を発挿することが期待できる。透析液には、化合物(I)または(II)の他に、公知のアミノグアニジンなどの薬物を混合して用いることができる。また、粉末型透析剤にも応用可能である。
【0078】
適当な混注用コネクターを装備した透析回路に、化合物(I)または(II)を注入することもできる。また、化合物(I)または(II)を直接腹腔内に注入して、腹腔内で腹膜透析液と混合することもできる。また、腹膜透析液を患者へ注入する前、または腹腔内貯留中に、化合物(I)または(II)を静脈内注射することにより、蛋白修飾物の生成を効果的に抑制することもできる。
【0079】
透析液などは、適当な密閉容器に充填し、滅菌処理する。滅菌処理には高圧蒸気滅菌や熱水滅菌などの加熱滅菌が有効である。この場合、高温で有害物質を溶出せず、滅菌後も輸送に耐える強度を備えた容器を用いる。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体などからなる可換性プラスチックバッグが挙げられる。また、外気の影響による液の劣化を避けるために、透析液などを充填した容器をさらにガスバリアー性の高い包装材で包装しても良い。
【0080】
高圧加熱滅菌を含む加熱滅菌により滅菌処理を行う場合、用いられる化合物(I)または(II)が加熱などの処理に対して十分安定であるならば、透析液配合時に化合物(I)または(II)を予め添加してから、加熱滅菌操作を行うこともできる。用いる化合物(I)または(II)が加熱滅菌に安定でない場合は、加熱を要しない滅菌法を用いることもできる。この様な滅菌法には、たとえば濾過滅菌などがある。
【0081】
たとえば、孔径0.2μm程度のメンブランフィルターを備えた精密濾過器を用いて濾過することにより滅菌することができる。濾過滅菌された透析液は、可撓性プラスチックバックなどの容器に充填された後、密封される。また、予め加熱滅菌した腹膜透析液などに、後で化合物(I)または(II)を添加しても良い。
【0082】
添加する時期は特に限定されない。液を滅菌後あるいは滅菌前に化合物(I)または(II)を添加しても良いし、透析直前または同時に添加しても良いし、透析液を注入した後に直接腹腔内に注入しても良い。
【0083】
本発明の腹膜透析液は、現行の腹膜透析液や血液透析液と同様の透析処理に利用される。すなわち、腹膜透析の場合にあっては、透析患者の腹腔内に本発明による腹膜透析液を適量注入し、腹膜を通過して生体内の低分子量成分を腹膜透析液内に移行させる。腹膜透析液は間欠的に循環させ、患者の症状に応じて透析を継続する。このとき、化合物(I)または(II)は透析液内または生体内での蛋白修飾物の生成を抑制する。クレアチニンや無機塩類、あるいは塩素イオンなどの透析成分とともに、カルボニル化合物も血中や腹膜内から腹膜透析液中へ移行する。ゆえに、蛋白修飾物による生体への悪影響が減少される。
【0084】
化合物(I)または(II)は透析液のみに使用できるのではなく、栄養輸液、電解質輸液、経腸・経管栄養剤など、あらゆる液剤に利用できる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0086】
[製造例1]4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)の製造
5−フェニルテトラゾール26.0g(0.18mol)のメタノール溶液270mLに5℃でモルホリン17.0g(0.2mol)および36%ホルマリン17.8gを添加した後、室温で一晩撹拌した。反応液にヘキサン200mLを添加し、析出した結晶を濾過した。真空乾燥の後、白色結晶43.6g(収率99%)の4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリンを得た。核磁気共鳴スペクトル(NMR)およびマススペクトル(Mass)により構造を確認した。
【0087】
NMR:主なシグナル
2.714ppm t 4H モルホリンCH2
3.709ppm t 4H モルホリンCH2
5.499ppm s 2H テトラゾールとモルホリン間のCH2
7.494ppm m 3H フェニルCH
8.171ppm m 2H フェニルCH
【0088】
Mass(EI−MS):m/z 245(分子量)
【0089】
同様にして5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)を合成した。これらの化合物はいずれも公知化合物である。
【0090】
[製造例2]1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物4)の製造方法
5−フェニルテトラゾール2.00g(13.8mmol)をメタノール20mlに加えて溶解した後に、10℃以下でピペラジン2.37g(27.6mmol)と36%ホルマリン1.342g(16.54mmol)を加えて撹拌し、室温に戻した。この混合液を一晩撹拌し、反応させた。反応の進行に伴って生成する目的化合物は非常に難溶性であるため、結晶として析出する。反応終了後、析出した結晶を濾過し、次いで、真空下、デシケーター中でよく乾燥し、1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの白色結晶0.959gを得た。
【0091】
[製造例3]1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物5)の製造方法
5−フェニルテトラゾール13.0g(89.6mmol)をメタノール113mlに加え冷却し、メチルピペラジン9.82g(98.0mmol)と36%ホルマリン9.2g(0.11mol)を加えて撹拌した。次いで、室温で一晩撹拌して反応させた後、メタノールを留去し、水を加えて懸濁させ、析出した結晶を濾別した。水洗、乾燥の後、1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの肌色結晶13.0g(収率56.2%)を得た。
1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの構造確認は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)で行い、その結果は目的化合物を支持するものであった。そのときのデータを以下に示す。
【0092】
NMR:主なシグナル
2.258ppm s 3H CH3
2.455ppm t 4H ピペラジンCH2
3.761ppm t 4H ピペラジンCH2
5.521ppm s 2H テトラゾールとピペラジンを連結したCH2
7.480ppm m 3H フェニルCH
8.125ppm m 2H フェニルCH
【0093】
[製造例4]4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリン(化合物6)の製造方法
メタノール133mlに5−フェニルテトラゾール13.0g(0.089mol)を加えて溶解した液を5℃未満に冷却し、チオモルホリン10.0g(0.10mol)と36%ホルマリン9.2gを添加した後、室温で一晩撹拌して反応させた。目的化合物は反応溶液中に結晶として析出するので反応終了後、反応液を濾過して結晶を取り、真空デシケーター中で乾燥して4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリンの白色結晶を11.5g(収率49.1%)得た。
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリンの構造確認は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)で行い、その結果は目的化合物を支持するものであった。そのときのデータを以下に示す。
【0094】
NMR:主なシグナル
2.685ppm t 4H チオモルホリンCH2
2.988ppm t 4H チオモルホリンCH2
5.480ppm s 2H テトラゾールとチオモルホリンを連結したCH2
7.494ppm m 3H フェニルCH
8.162ppm m 2H フェニルCH
【0095】
[製造例5]1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物7)の製造方法
5−フェニルテトラゾール20.0g(0.14mol)のメタノール205ml溶液に5℃未満でピペラジン5.3g(0.062mol)と36%ホルマリン14.1g添加した。その後、室温で一晩撹拌して反応させた。反応終了後、析出した結晶を濾過し、真空デシケーター中で乾燥の後、23.7g(収率95.0%)の1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの白色結晶を得た。
1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジンの構造確認は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)で行い、その結果は目的化合物を支持するものであった。そのときのデータを以下に示す。
【0096】
NMR:主なシグナル
2.767ppm s 8H ピペラジンCH2
5.469ppm s 4H テトラゾールとピペラジンを連結したCH2
7.496ppm m 6H フェニルCH
8.171ppm m 2H フェニルCH
【0097】
[試験例1]
AGEs生成抑制効果の検証
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、代表的なAGEsであるペントシジン生成量を指標として、AGEs生成抑制効果を以下の方法により検証した。
【0098】
非糖尿病の腎不全透析患者から同意を得て透析前に採血し、新鮮ヘパリン化血漿試料とした。数名の患者(n=3〜5)から得られたプール血漿を実験に供した。プールした血漿(900μL)に所定濃度(最終濃度8、20、および50mM)に調製した4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(100μL)を加え、37℃で7日間、空気存在下でインキュベーションした後、ペントシジン含量を測定し、タンパク質の糖化反応を抑制する強さを評価した。
【0099】
ペントシジンの測定は、以下のようにして行った。インキュベーションの後の各サンプル(50μL)に、等容積の10%トリクロロ酢酸を加えた後、5000gで5分間遠心分離した。上清を除去後、ペレットを5%トリクロロ酢酸(300μL)で洗浄した。ペレットを減圧下乾燥後、窒素雰囲気下で6N HCl溶液(100μL)中にて、110℃で16時間加水分解を行った。次いで加水分解物に5N NaOH(100μL)および0.5Mリン酸緩衝液(pH7.4)(200μL)を添加した後、0.5μm孔のポアフィルタを通して濾過し、PBSで希釈した。遊離したペントシジンの濃度は、蛍光検出器(RF−10A、島津製作所)を用いた逆相HPLCを用いて測定した(Miyata, T. et al. ; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 2353−2358, 1996)。 流出液を335/385nmの励起/発光波長でモニターした。合成ペントシジンを標準物質として使用した。ペントシジンの検出限界は、0.1pmol/mgタンパク質であった。
【0100】
抑制効果は、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)と同様にして反応させた陽性対照(アミノグアニジンおよびピリドキサミン(シグマ))と比較することにより評価した。
【0101】
透析患者血漿とインキュベートしたときの4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオンおよび(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノールのペントシジン生成抑制効果(ペントシジン生成量nmol/mL)を表2に、ペントシジン生成率(%)を図1に示す。
【表2】
【0102】
表2および図1に示すごとく、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、透析患者血漿におけるペントシジンの生成を強く抑制した。
【0103】
同様にして、1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物4)、1−メチル−4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物5)、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−チオモルホリン(化合物6)および1−4−ビス−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−ピペラジン(化合物7)のペントシジン生成抑制活性を測定した(表3および図6参照)。これらの化合物はペントシジンの生成を強く抑制した。
【表3】
【0104】
[試験例2]
(1)ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果を検討した。
【0105】
フェニルアラニン(最終濃度:1mM)、試験化合物(最終濃度:0.1、0.5、2.5mM)、過酸化水素(最終濃度:5mM)、硫酸銅(最終濃度:0.1mM)を200mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し(全量500μL)、37℃で4時間インキュベートした。インキュベ−ト終了後、DTPA(最終濃度:1mM)、260unitのカタラーゼを添加して反応を停止させた。o−チロシンおよびm−チロシンの生成量をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、反応液を100倍希釈し20μLをHPLCにインジュクトし、C18カラム(4.6×250mm、5μm:野村化学製)で分離後、励起波長275nm、蛍光波長305nmの条件で蛍光検出器(RF−10A:島津製作所)を用いて検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を6.5%から10%まで25分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。結果を図2に示す。
【0106】
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化を、陽性対照のピリドキサミン(シグマ)に比較して非常に強く抑制した。
【0107】
(2)パーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果
Pannala ASらの方法(Free Radic Biol Med 24:594−606, 1998)に準じて実施した。すなわち、チロシン(最終濃度:100μM)、試験化合物(最終濃度:0.1、0.5、2.5mMおよび5mM)、パーオキシナイトライト(同仁化学製)(最終濃度:500μM)を200mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解し(液量500μL)、37℃で15分間インキュベートさせた。インキュベート終了後、ニトロチロシンの生成量をHPLCで分析した。すなわち、一定時間後、反応液(20μL)をHPLCにインジェクトし、C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、紫外検出器(RF−10A:島津製作所)を用い280nmの波長で検出した。移動相は、0.6mL/分の流速で、バッファB濃度を5.0%から30%まで30分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。4−ヒドロキシ−3−ニトロ安息香酸(100μM)を内部標準として使用した。結果を図3に示す。
【0108】
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、チロシンのニトロ化によるニトロチロシンの生成を、陽性対照のピリドキサミン(シグマ)に比較して非常に強く抑制した。
【0109】
[試験例3]
ビタミンB6(PLP/ピリドキサールリン酸)の捕捉試験
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)、並びに陽性対照のアミノグアニジンを所定の濃度でDMSOに溶解してサンプル溶液とした。陰性対照として薬剤無添加のDMSOを用いた。さらに、ピリドキサールリン酸(PLP)を所定の濃度で精製水に溶解した。被検化合物、陽性対照および陰性対照にPBSを添加し、それぞれを最終濃度500μMの溶液とした。この溶液に前述のPLP水溶液を最終濃度50μMになるように加えPLP反応液とした。HPLCを用いて、0時間、1時間後、10時間後のPLP量を測定し、各化合物のPLP捕捉量を判定した。
【0110】
HPLCの分析条件は、逆相系C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、蛍光検出器(RF−10A:島津製作所/励起波長300nm、蛍光波長400nm)を用いた。移動層は0.6mL/minの流速で、バッファB濃度を0%から3%まで25分間で変化させた(バッファA:0.10%トリフルオロ酢酸、バッファB:0.08%トリフルオロ酢酸を含む80%アセトニトリル)。PLP残存率を図4に示す。
【0111】
上記の結果より、陽性対照のアミノグアニジンは強いPLPの捕捉が見られたが、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、5−メチル−1−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[3,4−d][1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン(化合物2)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)は、いずれもPLPの捕捉は認められなかった。
【0112】
[試験例4]
吸収性試験
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、吸収性を試験した。各化合物を所定の濃度でカルボキシメチルセルロースに懸濁させ、経口投与試料として調製した。次いでラットにゾンデを用いて、各投与試料をそれぞれ50mg/kgの割合で経口投与した。ウイスター(Wister)系のラット(雄、8週齢のクローズドコロニー)を1群につき5匹使用した。化合物投与後、1時間、2時間、6時間および24時間後に採血した。採血した検体を直ちに3000rpmで15分間遠心分離して血漿を回収し、HPLCで検体中の化合物の濃度を定量した。すなわち、回収した血漿100μLに対してアセトニトリル200μLを添加し、12000rpmで10分間遠心分離して上清を回収し、除蛋白し、HPLCに供した。HPLCの測定条件は、各化合物に適した分離、定量ができる条件を選んだ。たとえば、4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)の場合、逆相系C18カラム(4.6×250mm、5μm:ウォーターズ製)で分離後、紫外検出器(RF−10A:島津製作所)を用いて240nmの波長で検出して定量した。移動層は0.8mL/minの流速で、溶媒は水:アセニトリルを用いた。結果を図5に示す。いずれの化合物も良好な吸収性を示した。
【0113】
[試験例5]
急性毒性試験
4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)および(5−フェニル−テトラゾール−1−イル)メタノール(化合物3)について、マウスを用いて急性毒性試験を行った。各化合物を所定の濃度でカルボキシメチルセルロースに懸濁させ、経口投与試料として調製した。次いでマウスにゾンデを用いて単回経口投与した。投与量は100、250、500、1000、2000mg/kgの5点で行った。アイ・シー・アール(ICR)系のマウス(雄、8週齢のクローズドコロニー)を1群につき5匹を使用した。被検物質を投与しLD50値を求めた。結果を表4に示す。いずれの化合物も毒性は低かった。
【表4】
【0114】
[試験例6]
糸球体腎炎に対する作用
Wistarラット(雄、体重150g、6週齢)に抗Thy−1抗体であるOX−7を1.2mg/kg尾静脈投与することによって、メサンギウム増殖性腎炎を呈する代表的な糸球体腎炎モデル作製する。抗Thy−1抗体を投与した後、被検化合物(4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、1mg/kg体重、1日1回)を0.5%カルボキシメチルセルロースに懸濁させ、ゾンデにより5日間連続強制投与し、6日目に採材し、腎臓を採取、病理解析(糸球体細胞数のカウント)を行った。具体的には、常法に従いPAS染色した染色像を3CCDカメラ(オリンパス)で取り込んだ後、イメージグラヴァPCI(富士写真フィルム)とマックアスペクト(三谷株式会社)のソフトウエアを使用して解析した。また、血液・尿の生化学的解析(臨床解析受託会社:SRL)も行った。
それらの結果を図7〜図9に示す。
【0115】
[試験例7]
虚血再灌流腎不全モデルラットに対する腎保護作用
本病態モデルは、代表的な急性腎不全モデルである。作製方法として、Wistarラット(雄、体重150g、6週齢)の右腎摘出手術を行い、翌日全身麻酔下に残った左片腎の腎動脈をクリップで結紮する。クリップ後体温が下がらないように加温器の上で45分間観察(虚血)した後、クリップをはずし、再灌流を行う。虚血再還灌流モデル作製後、被検化合物(4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)、1mg/kg体重、1日1回)を0.5%カルボキシメチルセルロースに懸濁させ、ゾンデにより2日間連続強制投与し、3日目に腎臓を採取し、病理解析(尿細管間質障害のスコアリング)を行った。具体的には、常法に従いPAS染色した腎染色像の尿細管間質障害は尿細管壊死、尿細管肥大、尿細管萎縮、尿細管基底膜肥厚、castの有無を評価した。併せて血液の生化学的解析(臨床解析受託会社:SRL)も行った。
それらの結果を図10および図11に示す。
【0116】
[試験例8]
中大脳動脈虚血再還流モデルにおける脳保護作用
体重270〜350gのCD(SD)IGS雄性ラット(日本チャルスリバー株式会社 日野生産場22号室特定生産)(1群8匹)を2%イソフルラン(70%N2O(笑気ガス)と30%O2の混合ガス)で麻酔して不動化した後に、ヒーティングパット上に置き、動物の直腸温と脳温を37〜38℃に保持した。次いで、実験上の安定性を観察するために、該動物の尾動脈にポリエチレン製カニューレ(PE−50、ベクトン・ディッキンソン社製)を挿入、留置し、これより採血や血圧測定を行い血糖値、ヘマトクリット、CO2濃度、酸素分圧、pH、血圧等の生化学的パラメーターをモニターした。また、皮質における脳血流量はレイザー・ドップラー・フルオメトリー(neuroscience.inc社製/製品名:OMEGA FLOW(FLO−C1))検出部位をブレグマ左4mmの位置に、直接頭蓋にあてて測定した。このように準備された動物左頚部を切開し、総頚動脈の内頚・外頚動脈分岐点から内頚動脈の上流に向け、長さ16mm、直径0.2〜0.3mmで先端3mmをシリコンコーティングしたナイロン製外科用スレッドを通したまま留置し、2時間のあいだ中大脳動脈を閉塞した。その後スレッドを抜き取り、中大脳動脈を開放し、21時間のあいだ血液を再還流した。それぞれ、対照である3.0mg/kgの3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンという)および被検薬物である4.23mg/kgの4−(5−フェニル−テトラゾール−1−イルメチル)−モルホリン(化合物1)(以下、TM−3001という)を、中大脳動脈を閉塞後5分後と5時間後に尾動脈に留置したカニューレより2回投与した。上記手技が終了後、動物より脳を摘出し、2mm厚で7枚の脳切片を調製後、生理食塩水40mlに2,3,5−triphenyltetrazolium chloride(シグマ社製)を0.8g溶解した液(TTC染色液)に37℃で15分間浸漬して染色処理を施した後に10%の中性ホルマリン液を用いて固定し、標本とした。これらの標本は、それぞれCCDカメラで画像化し、Swanson等の方法(J Cereb Blood Flow Metab 10:290−293; 1994)によって解析した。その結果、賦形剤単回投与群に比較し対照薬剤のエダラボンおよび被検薬剤のTM−3001は有意差をもって脳梗塞巣を縮小した。結果を図13に示す。また、神経状態の評価は施術ラットを水平な台の上におき、横から押して麻痺なく正常に歩ける状態のものをグレード0、横から押して抵抗があり、前にまっすぐ歩けるが、前肢の屈曲を呈するような状態をグレード1、横から押して抵抗がないが、前にまっすぐ歩ける状態のものをグレード2、横から押すと抵抗がなく前にまっすぐ歩けない(回転や転倒する)状態のものをグレード3に分類し、四段階の基準による、Bedersonらの方法によるグレーディングシステム(Stroke 17:472−476, 1990)で評価した。更に、機能回復の面では、回転ローター上にマウスを歩かせ、その歩行状態がどの程度可能であるかを評価する方法による、ローターロッド試験を施術前後に行い、その評価を行った。その結果、賦形剤単開投与群と比較して、エダラボン(対照薬剤)およびTM−3001(被検薬剤)は、有意差をもって神経状態の改善および機能回復を示した。その結果を表5に示す。
【0117】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明により、テトラゾール環にメチレンを介して各種の置換基を有する化合物、特に化合物(I)または(II)を有効成分とする、強力かつ優れた蛋白修飾物生成抑制効果を有し、さらに血圧降下を伴わない蛋白修飾物生成抑制剤が提供される。この蛋白修飾物生成抑制剤は、AGEsやALEsに関連する疾患の予防や治療に有用であって、具体的には腎組織保護剤として単独でまたは腹膜または血液透析液に配合して使用される。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】図1は、本発明化合物のペントシジン抑制効果を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明化合物のヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明化合物によるパーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明化合物のビタミンB6捕捉能を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明化合物の吸収性を示すグラフである。
【図6】図6は、化合物4〜7のペントシジン生成抑制効果を示すグラフである。
【図7】図7は、糸球体腎炎モデルにおける化合物1のBUN低減化効果を示すグラフである。
【図8】図8は、糸球体腎炎モデルにおける化合物1の尿蛋白減少効果を示すグラフである。
【図9】図9は、化合物1が糸球体腎炎モデルの糸球体細胞に与える影響を示すグラフである。
【図10】図10は、腎不全モデルにおける化合物1のBUN低減化効果を示すグラフである。
【図11】図11は、腎不全モデルにおける化合物1の間質障害スコアーを示すグラフである。
【図12】図12は、化合物1が脳梗塞巣を縮小することを示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環化合物であって、該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項2】
有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(I):
【化1】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、請求項1記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項3】
有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(II):
【化2】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、請求項1記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項4】
R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が置換されていることもある環構成原子の数が10個を越えない超えない異項環基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項5】
R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が低級アルキル基、低級アルコキシ基またはヒドロキシ基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項6】
R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がモルホリノ基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項7】
R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2が5−メチル−3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項8】
R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がヒドロキシメチル基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項9】
蛋白修飾物が、AGEs、ALEsおよびこれらの組合せよりなる群から選択されるものである、請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項10】
蛋白修飾物がAGEsである、請求項9記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項11】
AGEsがペントシジンである、請求項10記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腎組織保護剤。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腹膜透析液。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、血液透析液。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を液体試料と接触させる工程を含む、液体試料のカルボニル化合物含有量を低減させる方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を患者の血液または腹膜透析液と接触させる工程を含む、蛋白修飾物の生成抑制方法。
【請求項17】
蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置する方法であって、かかる処置を必要とする患者に、治療上有効量の請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を投与することを含んでなる方法。
【請求項18】
蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置するための医薬の製造のための、請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤の使用。
【請求項1】
遊離形または塩形の5−置換テトラゾール環化合物であって、該テトラゾール環の1位または3位にメチレン含有基を有する化合物を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項2】
有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(I):
【化1】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、請求項1記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項3】
有効成分である化合物が、遊離形または塩形の式(II):
【化2】
[式中R1およびR2は、同一または異なった1価の有機基を表わす。]
で示される化合物から選択される、請求項1記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項4】
R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が置換されていることもある環構成原子の数が10個を越えない超えない異項環基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項5】
R1が置換されていることもあるフェニル基であり、R2が低級アルキル基、低級アルコキシ基またはヒドロキシ基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項6】
R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がモルホリノ基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項7】
R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2が5−メチル−3a,6a−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2,3]トリアゾール−4,6−ジオン基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項8】
R1が置換または非置換のフェニル基であり、R2がヒドロキシメチル基である、請求項2または3記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項9】
蛋白修飾物が、AGEs、ALEsおよびこれらの組合せよりなる群から選択されるものである、請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項10】
蛋白修飾物がAGEsである、請求項9記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項11】
AGEsがペントシジンである、請求項10記載の蛋白修飾物生成抑制剤。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腎組織保護剤。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、腹膜透析液。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を含む、血液透析液。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を液体試料と接触させる工程を含む、液体試料のカルボニル化合物含有量を低減させる方法。
【請求項16】
請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を患者の血液または腹膜透析液と接触させる工程を含む、蛋白修飾物の生成抑制方法。
【請求項17】
蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置する方法であって、かかる処置を必要とする患者に、治療上有効量の請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤を投与することを含んでなる方法。
【請求項18】
蛋白修飾物の生成により介在される疾患を処置するための医薬の製造のための、請求項1〜8のいずれか記載の蛋白修飾物生成抑制剤の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【国際公開番号】WO2005/051930
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515767(P2005−515767)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017267
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(597142376)
【出願人】(597142387)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/017267
【国際出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(597142376)
【出願人】(597142387)
【Fターム(参考)】
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