説明

蛍光体およびそれを用いた発光装置

【課題】量子効率が高く、かつ色度の良好な蛍光体、およびそれを用いた発光装置の提供。
【解決手段】SrAlSi1321結晶構造を有する緑色発光蛍光体の製造にあたり、原料として用いる金属化合物の一部に、金属ハロゲン化物を用いる、酸窒化物蛍光体の製造方法と、それにより製造される蛍光体。金属ハロゲン化物として、Sr化合物のほかにCa化合物またはNa化合物が好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に使用される蛍光体に関するものである。特に、電界放出型ディスプレイ等のディスプレイ、および青色発光ダイオードまたは紫外発光ダイオードを光源とする発光装置に使用することができる蛍光体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオードを用いたLEDランプは、携帯機器、PC周辺機器、OA機器、各種スイッチ、バックライト用光源、および表示板などの各種表示装置に用いられている。これらLEDランプは高効率化が強く望まれており、加えて一般照明用途には高演色化、バックライト用途には高色域化の要請がある。高効率化には、蛍光体の高効率化が必要であり、高演色化あるいは高色域化には青色光で励起された場合に緑色の発光を示す蛍光体が有用である。
【0003】
また、高負荷LEDは駆動により発熱し、蛍光体の温度が100〜200℃程度まで上昇することが一般的である。、このような温度上昇が起こると蛍光体の発光強度は一般に低下する。このため蛍光体は、温度が上昇した場合であっても発光強度の低下が少ないことが望まれている。
【0004】
かかるLEDランプに用いるのに適当な、青色光で励起された場合に緑色の発光を示す蛍光体の例としてEu付活βサイアロン蛍光体が挙げられる。この蛍光体は450nm励起で効率がよいとされ、450nm励起では、吸収率65%、内部量子効率53%、発光効率35%程度の性能を有するものである。
【0005】
さらに内部量子効率、発光効率が改善されたサイアロン系蛍光体が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この蛍光体においても更なる色純度の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−255895号公報
【特許文献2】国際公開第2007/105631号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような従来の問題点に鑑みて、量子効率が高く、かつ色度の良好な蛍光体、およびそれを用いた発光装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施態様にかかる酸窒化物蛍光体の製造方法は、下記一般式(1):
(M1−x3−ySi13−zAl3+z2+u21−w (1)
(式中、
Mは、IA族元素、IIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeから選ばれる元素であり、
0<x≦1、
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
で表わされる組成を有する酸窒化物蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物と、
前記元素M’のハロゲン化物と、
前記元素Rの酸化物、窒化物、または炭酸塩と、
Siの窒化物、酸化物、または炭化物と、
Alの窒化物、酸化物、または炭化物と
を混合した原料混合物を焼成し、さらに酸洗浄することを含む
ことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の別の実施態様にかかる酸窒化物蛍光体の製造方法は、下記一般式(2):
(M’1−x−x0x03−ySi13−zAl3+z2+u21−w (2)
(式中、
M’は、Naを除くIA族元素、Caを除くIIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
は、CaおよびNaからなる群から選ばれる元素であり
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeからなる群から選ばれる元素であり、
0<x≦1、
0<x0≦0.08
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
で表わされる組成を有する酸窒化物蛍光体の製造方法であって、
前記元素M’の窒化物または炭化物と、
前記元素Mのハロゲン化物と、
前記元素Rの酸化物、窒化物、または炭酸塩と、
Siの窒化物、酸化物、または炭化物と、
Alの窒化物、酸化物、または炭化物と
を混合した原料混合物を焼成し、さらに酸洗浄することを含む
ことを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明の一実施態様による酸窒化物蛍光体は、下記一般式(2):
(M1−x−x0x03−ySi13−zAl3+z2+u21−w (2)
(式中、
Mは、Naを除くIA族元素、Caを除くIIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
は、CaおよびNaからなる群から選ばれる元素であり
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeからなる群から選ばれる元素であり、
0<x≦1、
0<x0≦0.08
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
で表わされる組成を有し、波長250〜500nmの光で励起した際に波長490〜580nmの間にピークを有する発光を示す
ことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明による発光装置は、
250nm〜500nmの波長の光を発光する発光素子と、
前記発光素子上に配置された、前記の酸窒化物蛍光体を含む蛍光体層と
を具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、量子効率が高く、発光強度の高い蛍光体が提供される。加えてこの蛍光体の発光は、色度が良好であり、実用性がきわめて高いものである。特に、本発明による蛍光体の発光スペクトルは、半値幅が狭く、また色度図で表示した場合にはXY座標系における座標点がx軸のマイナス側にシフトして色度が改良され、色再現域も広がる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】SrAlSi1321結晶の第1の結晶格子の結晶構造を示す図。(a)はa軸方向への投影図、(b)はb軸方向への投影図、(c)はc軸方向への投影図をそれぞれ示す。
【図2】SrAlSi1321結晶の第2の結晶格子結晶構造を示す図。(a)はa軸方向への投影図、(b)はb軸方向への投影図、(c)はc軸方向への投影図をそれぞれ示す。
【図3】SrAlSi1321結晶の第3の結晶格子の結晶構造を示す図。(a)はa軸方向への投影図、(b)はb軸方向への投影図、(c)はc軸方向への投影図をそれぞれ示す。
【図4】SrAlSi1321結晶の第4の結晶格子の結晶構造を示す図。(a)はa軸方向への投影図、(b)はb軸方向への投影図、(c)はc軸方向への投影図をそれぞれ示す。
【図5】SrAlSi1321結晶構造を有する蛍光体のXRDプロファイル。
【図6】一実施形態にかかる蛍光体を用いた発光装置の構成を表わす概略断面図。
【図7】一実施形態にかかる蛍光体を用いた、別の発光装置の構成を表わす概略断面図。
【図8】実施例1による蛍光体のXRDプロファイル。
【図9】実施例2による蛍光体のXRDプロファイル。
【図10】実施例3による蛍光体のXRDプロファイル。
【図11】応用実施例10および応用比較例101の発光装置に用いたカラーフィルターの透過率のスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における酸窒化物蛍光体は、SrAlSi1321をベースとして、その構成元素を他の元素で置き換えたり、発光中心となる金属元素を固溶させたりしたものである。このような蛍光体は、一般的に構成元素を含む化合物の混合物を焼成することにより製造することができる。ここで、本発明における蛍光体の製造方法は、SrAlSi1321のSrに対応する元素を含む化合部の一部にハロゲン化物を用いることを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る酸窒化物蛍光体は、下記一般式(1)で表すことができる。
(M1−x3−ySi13−zAl3+z2+u21−w (1)
(式中、
Mは、IA族元素、IIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeから選ばれる元素であり、
0<x≦1、
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
【0016】
金属元素Mは、Li、Na、およびK等のIA族(アルカリ金属)元素、Mg、Ca、Sr、およびBa等のIIA族(アルカリ土類金属)元素、B、Ga、およびIn等のIIIA族元素、Y、およびSc等のIIIB族元素、Gd、La、およびLu等の希土類元素、ならびにGe等のIVA族元素から選ばれるものが好ましい。金属元素Mは、一種類の元素であっても、または2種類以上の元素が組み合わされていてもよい。
【0017】
元素Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeからなる群から選ばれる元素である。元素Rは、一種類の元素であっても、または2種類以上の元素が組み合わされていてもよい。
【0018】
本発明における蛍光体は、これらの元素M、Si、Al、ならびにO、および/またはNを基本とする結晶構造を有するが、Mの一部が発光中心元素Rに置換されていることが必要である。
【0019】
発光中心元素Rとしては、前記した元素から発光波長や発光強度などを考慮して任意のものを選択することができる。しかしながら、発光波長の可変性等が優れているため、EuおよびMnの少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0020】
発光中心元素Rは、基本となる酸窒化物であるSrAlSi1321のSrに対応する元素(元素M)の少なくとも0.1モル%を置換することが望まれる。置換量が0.1モル%未満の場合には、十分な発光効果を得ることが困難となる。発光中心元素Rは、元素Mの全量を置き換えてもよいが、置換量が50モル%未満の場合には、発光確率の低下(濃度消光)を極力抑制することができる。そして、本発明による蛍光体は、この発光中心元素の存在によって、波長250〜500nmの光で励起した際、青緑色から黄緑色にわたる領域の発光、すなわち波長490〜580nmの間にピークを有する発光を示すものである。
【0021】
なお、一般式(1)で表される酸窒化物蛍光体において、元素Mは2種類以上を組み合わせてもよい。ここで、SrAlSi1321のSrの一部の代わりに、少量のCaまたはNaを含むものは、発光の色度が改良されるので好ましいものである。このような本発明による酸窒化物蛍光体は、下記一般式(2)で表すことができる。
(M’1−x−x0x03−ySi13−zAl3+z2+u21−w (2)
(式中、
M’は、Naを除くIA族元素、Caを除くIIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
は、CaおよびNaからなる群から選ばれる元素であり
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeからなる群から選ばれる元素であり、
0<x≦1、
0<x0≦0.1
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
すなわち、一般式(2)の元素M’と元素Mとの組み合わせが、一般式(1)の元素Mに対応する。
【0022】
本発明による蛍光体は、SrAlSi1321をベースとして、その構成元素であるSr、Si、Al、O、またはNが他の元素で置き換わった酸窒化物、あるいはEuなどのほかの金属元素が酸窒化物に固溶したものであるということもできる。このような置き換え等によって、格子定数は変化し、結晶構造が若干変化することがある。しかし、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることは少ない。本発明の蛍光体は、基本的な結晶構造が変化しない範囲で本発明の効果を奏することができる。すなわち、本発明においては、X線回折や中性子線回折により求めた格子定数および原子座標から計算されたSr−NおよびSr−Oの化学結合の長さ(近接原子間距離)が、表1に示すSrSi13Al21のSr−NおよびSr−Oの化学結合の長さに比べて、それぞれ±15%以内であることが好ましい。この範囲を超えて化学結合の長さが変化すると、その化学結合が切れて別の結晶となり、本発明による効果が十分に発現しなくなる可能性がある。
【0023】
【表1】

【0024】
SrAlSi1321結晶は斜方晶系で、第1から第4の4種の骨格格子がc軸方向に無秩序に積層された結晶構造を有する。これらの4種の骨格格子の結晶構造は図1〜4にそれぞれ示す通りである。そして、結晶の平均的な格子定数は、前記骨格格子をc軸方向に4層積層したサイズに相等し、a=9.037(6)Å、b=14.734(9)Å、c=29.856(20)Åである。この結晶のXRDプロファイルは図5に示す通りである。
【0025】
本発明による蛍光体の結晶構造は、X線回折や中性子回折により同定することができる。すなわち、ここで示されるSrAlSi1321のXRDプロファイルと同一のプロファイルを示す物質の他に、構成元素が他の元素と入れ替わることにより格子定数が一定範囲で変化したものも、本発明による蛍光体に包含されるものである。ここで、構成元素が他の元素で置き換わるものとは、SrAlSi1321結晶中のSrに対応する元素が、発光中心元素Rと、必要に応じてMとで置換された結晶のことである。また、AlとSiとが互いに部分的に置き換わっていたり、OとNとが互いに部分的に置き換わっていてもよい。例えばSrAlSi14ON22、SrAlSi1523、SrAlSi1220、SrAlSi1119、SrAlSi1018等もSrAlSi1321属結晶である。
【0026】
さらに、固溶量が小さい場合には、SrAlSi1321属結晶の簡便な判定方法として次の方法がある。新たな物質について測定したXRDプロファイルの回折ピーク位置が主要ピークについて一致した時に、当該結晶構造が同じものと特定することができる。主要ピークとしては、回折強度の強い10本程度で判断すると良い。
【0027】
本発明の実施形態である酸窒化物蛍光体は、原料混合物を焼成し、さらに酸洗浄することにより製造することができる。用いられる原料の例として、元素Mの窒化物、またはその他シアナミド等の炭化物、AlやSiの、窒化物、酸化物、または炭化物、および発光中心元素Rの酸化物、窒化物、または炭酸塩を挙げることができる。そして、本発明による酸窒化物蛍光体の製造方法においては、原料として、元素MまたはMのハロゲン化物を用いることが必須である。ハロゲン化物を添加して焼成することにより、ハロゲン化物が液相化することで原料同士の固相反応を促進し、結晶化を促進しているものと考えられる。また焼成後の酸洗浄によって余分なハロゲン化物や異相が除去され、より高純度の蛍光体が得られ、蛍光体特性が向上されたものと考えられる。
ハロゲン化物の例としては、SrF、CaCl、NaFなどが挙げられる。
【0028】
具体的には、元素MとしてSrを含有し、発光中心元素RとしてEuを含有する蛍光体を目的とする場合には、SrおよびSrF、Si、AlNおよびAl、ならびにEuNを出発原料として用いることができる。Srの代わりにCa、Ba、SrNあるいはSrN等、もしくはこれらの混合物を用いてもよい。また、Srの一部をCaに置き換えた蛍光体を目的とする場合には、Sr、CaCl、Si、AlNおよびAl、ならびにEuNを出発原料として用いることができる。これらの原料の組み合わせは特に限定されず、任意のものを組み合わせて用いることができる。これらの原料は、所望の組成になるように秤量混合される。混合に当たっては、例えば、グローブボックス中で乳鉢混合するといった手法が挙げられる。
【0029】
次いで出発原料の混合物を例えばるつぼ中で所定時間焼成して、目的の組成を有する酸窒化物を得ることができる。るつぼの材質は、例えば窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボン、窒化アルミニウム、サイアロン、酸化アルミニウム、モリブデンあるいはタングステン等が一般的なものである。焼成は、大気圧以上の圧力で行なうことが望ましい。原料として用いられる窒化ケイ素の高温での分解を抑制するためには、5気圧以上がより好ましい。焼成温度は1500〜2000℃の範囲が好ましく、より好ましくは1800〜2000℃である。焼成温度が1500℃未満の場合には、目的とする酸窒化物の形成が困難となることがある。一方、2000℃を越えると、材料あるいは生成物の昇華のおそれがある。また、原料のAlNが酸化されやすいことから、N雰囲気中で焼成することが望まれるが、窒素および水素の混合雰囲気でもよい。
【0030】
焼成後の粉体に洗浄等の後処理を必要に応じて施して、実施形態にかかる蛍光体が得られる。洗浄を行う場合には、特に酸洗浄が望ましいが、他の手法、例えば純水洗浄なども用いることができる。また、必要に応じて酸洗浄後に、さらに窒素および水素の混合雰囲気下などで、ポストアニール処理に附すこともできる。
【0031】
実施形態にかかる蛍光体は、緑色の発光を示すLEDだけではなく、白色LEDにも適用することができる。具体的には、前記した蛍光体に、ほかの波長の光を発光する複数種の蛍光体を組み合わせて用いることにより、白色光を得ることができる。例えば、紫外光によりそれぞれ赤色、黄色(または緑色)、青色に発光する複数種の蛍光体を組み合わせて用いることができる。あるいは、青色光により黄色に発光する蛍光体と、必要に応じて赤色に発光する蛍光体を組み合わせ、励起光である青色光と組み合わせることで白色発光を得ることもできる。
【0032】
本発明による蛍光体は、従来知られている任意の発光装置に用いることができる。図6は、本発明の一実施形態にかかるパッケージカップ型発光装置の断面を示すものである。
【0033】
図6に示された発光装置においては、樹脂ステム600はリードフレームを成形してなるリード601およびリード602と、これに一体成形されてなる樹脂部603とを有する。樹脂部603は、上部開口部が底面部より広い凹部605を有しており、この凹部の側面には反射面604が設けられる。
【0034】
凹部605の略円形底面中央部には、波長250〜500nmの光を発光する発光チップ606がAgペースト等によりマウントされている。発光チップ606としては、例えば発光ダイオード、レーザダイオード等を用いることができる。さらには、紫外光を放射するものを用いることができ、特に限定されるものではない。紫外光以外にも、青色や青紫、近紫外光などの波長の光を発光可能なチップも使用可能である。例えば、GaN系等の半導体発光素子等を用いることができる。発光チップ606の電極(図示せず)は、Auなどからなるボンディングワイヤー607および608によって、リード601およびリード602にそれぞれ接続されている。なお、リード601および602の配置は、適宜変更することができる。
【0035】
樹脂部603の凹部605内には、蛍光層609が配置される。この蛍光層609は、本発明の実施形態にかかる蛍光体610を、例えばシリコーン樹脂からなる樹脂層611中に5重量%から50重量%の割合で分散、もしくは沈降させることによって形成することができる。実施形態にかかる蛍光体には、共有結合性の高い酸窒化物が母体として用いられている。このため、本発明による蛍光体は一般に疎水性であり、樹脂との相容性が極めて良好である。したがって、樹脂と蛍光体との界面での散乱が著しく抑制されて、光取出し効率が向上する。
【0036】
発光チップ606としては、n型電極とp型電極とを同一面上に有するフリップチップ型のものを用いることも可能である。この場合には、ワイヤーの断線や剥離、ワイヤーによる光吸収等のワイヤーに起因した問題を解消して、信頼性の高い高輝度な半導体発光装置が得られる。また、発光チップ606にn型基板を用いて、次のような構成とすることもできる。具体的には、n型基板の裏面にn型電極を形成し、基板上の半導体層上面にはp型電極を形成して、n型電極またはp型電極をリードにマウントする。p型電極またはn型電極は、ワイヤーにより他方のリードに接続することができる。発光チップ606のサイズ、凹部605の寸法および形状は、適宜変更することができる。
【0037】
図7は、本発明のほかの一実施形態にかかる砲弾型発光装置の断面を示すものである。図7(A)に示された発光装置においては、例えば発光ピーク波長445nmの発光ダイオード701を、AlNなどからなるパッケージ700上に半田を用いて接合し、導電性ワイヤー703を介して電極に接続しされている。この発光ダイオード701上には、ドーム状にシリコーン樹脂などの透明樹脂層704が塗布され、その上に赤色発光蛍光体を含む透明樹脂層705、透明樹脂層706、本発明による緑色発光蛍光体を含む透明樹脂層707が順に積層されている。図7に例示された発光装置は、発光素子と、その発光素子から放射される励起光により発光する、赤色発光蛍光体と緑色発光蛍光体とを具備するものであるが、さらに青色発光蛍光体を積層することもできる。そのような発光装置の断面は図7(B)に示すとおりである。この装置は、図7(A)に示された装置に対して、緑色蛍光体を含む層707の上に、透明樹脂層708および青色発光蛍光体を含む層709が積層されている。図7(B)の装置に用いられる発光ダイオードは、図7(A)に示された装置よりも放射される光が青色光を含まないものとされるのが一般的である。これらの励起光と各蛍光体からの発光とによって、所望の色、例えば白色光を放射する発光装置とされる。
【0038】
本発明の実施形態にかかる発光装置は、図6および7に示したような形状に限定されず、適宜変更することができる。具体的には、表面実装型発光装置も、実施形態の蛍光体を適用して同様の効果を得ることができる。
【0039】
本発明の蛍光体を用いたLEDランプは携帯機器、PC周辺機器、OA機器、各種スイッチ、バックライト用光源、および表示板などの各種表示装置に用いられる。本発明に係る蛍光体は色純度に優れているため、これを蛍光体層に用いた発光装置は色再現性に優れている。
【0040】
以下、諸例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
出発原料としてSr、EuN、Si、Al、CaClおよびAlNを用意した。これら各々2.409g、0.647g、5.987g、0.748g、0.200g、0.710gをバキュームグローブボックス中で秤量後、めのう乳鉢内で乾式混合したものを、BNるつぼに充填し、7.5気圧のN雰囲気中、1850℃で4時間焼成して、蛍光体を合成した。得られた蛍光体を分析したところ、その組成は(Sr0.829Ca0.039Eu0.1332.99Si12.7Al3.322.920.9であった。この結果は、一般式(1)において、y=0.01、z=0.32、u=0.9、w=0.08に相当する。
【0042】
焼成後の蛍光体は、体色が黄緑色の粉体であり、ブラックライトで励起した結果、緑色発光が観察された。これを王水を用いて洗浄後、純水洗浄し、150℃の乾燥器に12h入れて乾燥させた。
【0043】
実施例2
CaCl0.200gをNaF0.200gに変えた以外は実施例1と同様にして、蛍光体を得た。得られた蛍光体を分析したところ、その組成は(Sr0.860Na0.039Eu0.1402.88Si12.7Al3.322.920.8であった。この結果は、一般式(2)において、y=0.12、z=0.32、u=0.9、w=0.22に相当する。
【0044】
実施例3
CaCl0.200gをSrF0.200gに変えた以外は実施例1と同様にして、蛍光体を得た。得られた蛍光体を分析したところ、その組成は(Sr0.872Eu0.1282.94Si12.8Al3.242.721.4であった。この結果は、一般式(1)において、y=0.06、z=0.24、u=0.7、w=−0.4に相当する。
【0045】
比較例1
出発原料からCaClを除いた以外は実施例1と同様にして、蛍光体を得た。原料の配合比は、組成が(Sr0.866Eu0.1342.9Si12.8Al3.22.220.8となるようにした。
【0046】
実施例1〜3の緑色発光蛍光体のXRDプロファイルは図8〜10示す通りであった。また、比較例1のXRDプロファイルは、図5に示されたSrAlSi1321属結晶のものと有意差が無かった。これらの結果より、実施例1〜3および比較例1のXRDプロファイルにも有意差は無く、実施例1〜3の蛍光体はSrAlSi1321属結晶と同一の結晶構造を有することが判る。
【0047】
実施例1〜3および比較例1の緑色発光蛍光体に、ピーク波長365nmブラックライトを照射して2度視野における色度(Cx,Cy)を測定した結果は表2に示す通りであった。実施例1〜3のCyは0.589〜0.599と、比較例1と同程度である一方で、実施例1〜3のCxは0.246〜0.265となっており、比較例1のCx(0.276)よりも明らかに低くなり、本発明の蛍光体は色純度が向上していることが判る。
【0048】
【表2】

【0049】
応用実施例101
実施例1の蛍光体を用いて、応用実施例101の発光装置を製造した。この発光装置は図7(A)に従って製造した。具体的には、発光ピーク波長445nmの発光ダイオードを、8mm角のAlNパッケージ上に半田を用いて接合し、金ワイヤーを介して電極に接続した。この発光ダイオード上にドーム状に透明樹脂を塗布し、その上にピーク波長665nmの赤色発光蛍光体CaAlSiN:Eu2+を10重量%混入させた透明シリコーン樹脂を層状に塗布し、その上に透明シリコーン樹脂層を介して、実施例1の蛍光体を40重量%混入させた透明シリコーン樹脂を層状に塗布して、発光装置を製造した。
【0050】
応用比較例101
緑色発光蛍光体として比較例1の蛍光体を用いたほかは、応用実施例101と同様にして応用比較例1の発光装置を製造した。
【0051】
応用実施例101および応用比較例101の発光装置を、図11に示す透過率スペクトルを有するカラーフィルターを通しNTSC比を測定した結果、応用比較例101のNTSC比が100であるのに対して、応用実施例101のNTSC比は101であった。NTSCとはNational Television System Committeeの略であり、アメリカのアナログテレビジョン方式の規格である。ディスプレイにおけるNTSC比とは、CIE(国際照明委員会)が定めた1976UCS色度図により、NTSC方式で再現できる色の範囲を100%とした場合にカバーできる色再現範囲の比率のことである。NTSC比の数値が高いほど色再現性に優れている。応用比較例101よりも応用実施例101の発光装置の方がNTSC比が高く、より高い色再現性を提供できることが判った。
【符号の説明】
【0052】
600 樹脂システム
601、602 リード
603 樹脂部
604 反射面
605 凹部
606 発光チップ
607、608 ボンディングワイヤー
609 蛍光層
610 蛍光体
611 樹脂層
700 パッケージ
701 発光ダイオード
703 導電性ワイヤー
704、306、308 透明樹脂層
705 赤色発光蛍光体を含む透明樹脂層
707 緑色発光蛍光体を含む透明樹脂層
709 青色発光蛍光体を含む透明樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
(M1−x3−ySi13−zAl3+z2+u21−w (1)
(式中、
Mは、IA族元素、IIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeから選ばれる元素であり、
0<x≦1、
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
で表わされる組成を有する酸窒化物蛍光体の製造方法であって、
前記元素Mの窒化物または炭化物と、
前記元素Mのハロゲン化物と、
前記元素Rの酸化物、窒化物、または炭酸塩と、
Siの窒化物、酸化物、または炭化物と、
Alの窒化物、酸化物、または炭化物と
を混合した原料混合物を焼成し、さらに酸洗浄することを含むことを特徴とする、酸窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記前記元素Mのハロゲン化物がSrFである、請求項1に記載の酸窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項3】
下記一般式(2):
(M’1−x−x0x03−ySi13−zAl3+z2+u21−w (2)
(式中、
M’は、Naを除くIA族元素、Caを除くIIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
は、CaおよびNaからなる群から選ばれる元素であり
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeからなる群から選ばれる元素であり、
0<x≦1、
0<x0≦0.08
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
で表わされる組成を有する酸窒化物蛍光体の製造方法であって、
前記元素M’の窒化物または炭化物と、
前記元素Mのハロゲン化物と、
前記元素Rの酸化物、窒化物、または炭酸塩と、
Siの窒化物、酸化物、または炭化物と、
Alの窒化物、酸化物、または炭化物と
を混合した原料混合物を焼成し、さらに酸洗浄することを含むことを特徴とする、酸窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記元素Mのハロゲン化物が、CaCl2、またはNaFである、請求項3に記載の酸窒化物蛍光体の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(2):
(M’1−x−x0x03−ySi13−zAl3+z2+u21−w (2)
(式中、
M’は、Naを除くIA族元素、Caを除くIIA族元素、Alを除くIIIA族元素、IIIB族元素、希土類元素、およびSiを除くIVA族元素から選択される元素であり、
は、Ca、およびNaからなる群から選ばれる元素であり
Rは、Eu、Ce、Mn、Tb、Yb、Dy、Sm、Tm、Pr、Nd、Pm、Ho、Er、Cr、Sn、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Sb、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、およびFeからなる群から選ばれる元素であり、
0<x≦1、
0<x0≦0.08
−0.1≦y≦0.15、
−1≦z≦1、
−1<u−w≦1.5
である)
で表わされる組成を有し、波長250〜500nmの光で励起した際に波長490〜580nmの間にピークを有する発光を示すことを特徴とする酸窒化物蛍光体。
【請求項6】
250nm〜500nmの波長の光を発光する発光素子と、
前記発光素子上に配置された、請求項5に記載の酸窒化物蛍光体を含む蛍光体層と
を具備することを特徴とする発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−168708(P2011−168708A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−34907(P2010−34907)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】