説明

蛍光体シート製造装置

【課題】蛍光体層における柱状結晶の成長状態が均一で、画質ムラがない蛍光体シートを製造することができる蛍光体シート製造装置の提供。
【解決手段】真空チャンバ12と、真空チャンバ内を、側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、容器に収納された蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、容器の開口部から成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、抵抗加熱手段の上方において、基板を保持する基板保持手段14と、蛍光体層の成膜中に、真空チャンバ内の真空度を調整するために、少なくとも1つのガス導入口を介して真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段とを有する。ガス導入口60a,62aの縁部と排気口の縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域と、抵抗加熱手段の容器の開口部の縁部と基板Sの縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域とが交わらないようにガス導入口が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピューテッドラジオグラフィー(CR)等で放射線画像の記録(撮影)に用いられる蛍光体シートの製造工程において、基板の表面に真空蒸着によって蛍光体層を形成する蛍光体シート製造装置に関し、特に、柱状結晶からなる蛍光体層における柱状結晶の成長状態が均一で、画質ムラがない蛍光体シートを製造することができる蛍光体シート製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線、α線、β線、γ線、電子線、紫外線等)の照射を受けると、この放射線エネルギの一部を蓄積し、その後、可視光等の励起光の照射を受けると、蓄積されたエネルギに応じた輝尽発光を示す蛍光体が知られている。この蛍光体は、蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)と呼ばれ、医療用途などの各種の用途に利用されている。
【0003】
一例として、この蓄積性蛍光体からなる層(以下、蛍光体層という)を有するシート(以下、蛍光体シートとする(放射線像変換シートとも呼ばれている))を利用する、放射線画像情報記録再生システムが知られており、例えば、FCR(Fuji Computed Radiography)等として実用化されている。
このシステムでは、蛍光体シート(蛍光体層)に人体などの被写体の放射線画像情報を記録し、記録後に、蛍光体シートに励起光を照射することで輝尽発光光を生ぜしめ、この輝尽発光光を光電的に読み取って画像信号を得、この画像信号に基づいて再生した画像を、CRTなどの表示装置または写真感光材料などの記録材料等に、被写体の放射線画像として出力する。
【0004】
このような蛍光体シートは、通常、蓄積性蛍光体の粉末をバインダ等を含む溶媒に分散してなる塗料を調製して、この塗料をガラスまたは樹脂製のシート状の支持体に塗布し、乾燥することによって、作成される。
これに対し、真空蒸着等の物理蒸着法(気相成膜法)によって、支持体に蛍光体層を形成してなる蛍光体シートも知られている。蒸着によって作製される蛍光体層は、真空中で形成されるので不純物が少なく、また、バインダなどの蓄積性蛍光体以外の成分が殆ど含まれないので、性能のバラツキが少なく、しかも発光効率が非常に良好であるという、優れた特性を有している。このような物理蒸着法によって蛍光体シート(放射線像変換パネル)を作製する方法が種々提案されている(特許文献1〜特許文献3参照)。
【0005】
特許文献1には、蒸着装置内に導入する不活性ガスの流量Vnと、蒸着装置内の体積Vcとの比(Vn/Vc)を規定して、中程度の真空度(約0.05〜10Pa)で蛍光体層を形成する放射線像変換パネルの製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、排気口および装置内に所定量の不活性なガスを導入するガス導入口を備えた気相堆積装置内で、基板上に輝尽性蛍光体層を気相堆積により50μm以上の膜厚で形成する放射線画像変換パネルの製造方法が開示されている。この特許文献2の放射線画像変換パネルの製造方法においては、基板と蒸発源とが対向して配置され、排気口とガス導入口の中心を結ぶ直線が基板と蒸発源の間を通過し、且つ、その直線を基板面上に投影したとき、直線が必ず基板を通過するように排気口とガス導入口が配置され、蒸発源の加熱で発生する蒸気流がガス流と交差して輝尽性蛍光体層が形成される。
【0007】
さらに、特許文献3には、針の結晶配向を所望のレベルに調整できるのみでなく、針の顕微鏡的寸法に影響を与えることもできる真空蒸着装置が開示されている。
この特許文献3の真空蒸着装置においては、真空容器内に蒸着源が基質と向き合って配置されており、蒸着源から基質に向かって蒸気ジェットが生じる。また、基質は軸の回りで回転する。真空蒸着の間にArガスが不活性ガスとして用いられ、真空蒸着装置に流入するArガスの温度は0℃〜100℃に保たれている。このArガスは、調節バルブを介して真空容器中に導入されるものであり、最初にじゃま板に衝突し、蒸気ジェット中に直接は導入されない。このArガスにより真空蒸着装置の蒸着する前の蒸気および基質の両方が冷却される。
【0008】
【特許文献1】特開2005−37377号公報
【特許文献2】特開2004−123968号公報
【特許文献3】特開2001−249198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
中真空域(0.1〜10Pa)においては、導入ガスは、粘性流として挙動する。このため、一般的な真空蒸着による蛍光体シート製造装置において、蒸発源近くにガス導入口を設けた場合、蒸発源により生じる蒸発場にガス圧分布が生じ、蛍光体層の柱状結晶の成長にばらつきが生じてしまう。この結果、製造された蛍光体シートにおいて、画質ムラが生じてしまうという問題点がある。
このようなことから、特許文献1においては、蒸着装置内に導入する不活性ガスの流量Vnと、蒸着装置内の体積Vcとの比(Vn/Vc)を規定しているものの、不活性ガスが粘性流として挙動することを考慮するものではない。このため、必ずしも画質ムラがない蛍光体シートが得られるとは限らない。
【0010】
また、特許文献2の放射線画像変換パネルの製造方法においては、蒸発源の加熱で発生する蒸気流が不活性なガスのガス流と交差する。このため、蒸気流にガス圧分布が生じ、輝尽性蛍光体層の柱状結晶の成長にばらつきが生じてしまう。この結果、製造された蛍光体シートにおいて、画質ムラが生じてしまうという問題点がある。
【0011】
さらに、特許文献3の真空蒸着装置においても、Arガスは、蒸気ジェットおよび基質の両方を冷却するためのものであり、蒸気ジェット(蒸発場)のガス圧分布の発生を抑制するものではない。このため、必ずしも画質ムラがない蛍光体シートが得られるものではない。
【0012】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、柱状結晶からなる蛍光体層における柱状結晶の成長状態が均一で、画質ムラがない蛍光体シートを製造することができる蛍光体シート製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明の第1の態様は、シート状の基板の表面に真空蒸着によって蓄積性蛍光体層を形成する蛍光体シート製造装置であって、真空チャンバと、前記真空チャンバ内を、前記真空チャンバの側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、容器に収納された前記蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、前記容器の開口部から前記成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、前記抵抗加熱手段の上方において、前記基板を保持する基板保持手段と、前記蛍光体層の成膜中に、前記真空チャンバ内の真空度を調整するために、少なくとも1つのガス導入口を介して前記真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段とを有し、前記ガス導入口の縁部と前記排気口の縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域と、前記抵抗加熱手段の前記容器の前記開口部の縁部と前記基板の縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域とが交わらないように前記ガス導入口が設けられていることを特徴とする蛍光体シート製造装置を提供するものである。
【0014】
また、本発明の第2の態様は、シート状の基板の表面に真空蒸着によって蓄積性蛍光体層を形成する蛍光体シート製造装置であって、真空チャンバと、前記真空チャンバ内を、前記真空チャンバの側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、容器に収納された前記蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、前記容器の開口部から前記成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、前記抵抗加熱手段の上方において、前記基板を保持する基板保持手段と、前記蛍光体層の成膜中に、前記真空チャンバ内の真空度を調整するために、少なくとも1つのガス導入口を介して前記真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段と、前記ガス導入口の上方に設けられ、前記不活性ガスを拡散させる拡散板とを有することを特徴とする蛍光体シート製造装置を提供するものである。
【0015】
本発明においては、前記ガス導入口の縁部と前記排気口の縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域と、前記抵抗加熱手段の前記容器の前記開口部の縁部と前記基板の縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域とが交わらないように前記ガス導入口が設けられていることが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、前記ガス導入口が複数ある場合、前記抵抗加熱手段により得られる前記成膜材料の蒸気の圧力が一定となるように、前記ガス導入手段により、前記各ガス導入口からのガス導入量を調整して、前記蓄積性蛍光体層の成膜を行うことが好ましい。
さらに、本発明においては、前記ガス導入口が複数ある場合、前記排気口に近い方のガス導入口のガス導入量を、前記排気口に遠い方のガス導入口のガス導入量よりも多くして前記蓄積性蛍光体層の成膜を行うことが好ましい。
【0017】
さらにまた、本発明においては、さらに、前記ガス導入口の上方に設けられ、前記不活性ガスを拡散させる拡散板とを有することが好ましい。
また、本発明においては、前記拡散板は、複数の穴が形成されていることが好ましい。
さらにまた、本発明においては、前記拡散板に設けられた複数の穴は、その直径が異なるものが含まれることが好ましい。
さらにまた、本発明においては、さらに、前記真空チャンバ内の真空度を測定する測定手段を少なくとも1つ有し、前記各測定手段により測定された真空度に基づいて、前記ガス導入手段による前記各ガス導入口からのガス導入量を調整して前記蓄積性蛍光体層の成膜を行うことが好ましい。
【0018】
また、本発明においては、さらに、直線状の搬送経路で前記基板を基板保持手段とともに搬送する基板搬送手段を有することが好ましい。
なお、本発明において、基板を直線状の搬送経路で搬送する場合には、前記第2の領域における基板の縁部を、基板が直線状に搬送される全範囲における縁部とする。
さらに、本発明においては、前記抵抗加熱手段における前記容器は、前記基板搬送手段による基板搬送方向と直交する方向に複数並べて配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様の蛍光体シート製造装置によれば、真空チャンバの側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、容器に収納された蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、容器の開口部から成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、少なくとも1つのガス導入口を介して真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段を設け、ガス導入口の縁部と排気口の縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域と、抵抗加熱手段の容器の開口部の縁部と基板の縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域とが交わらない位置にガス導入口を設けることにより、ガス導入ノズルの開口部介して真空チャンバ内に導入される不活性ガスの流れが、成膜材料の蒸気を横切ることがなく、第2の領域における外乱が少なくなる。これにより、基板に、均一な成膜材料の蒸気を暴露できる。このため、基板の表面に、蛍光体層を構成する柱状結晶を均一に成長させることができ、膜厚分布均一性が高く、かつ良好な結晶性の輝尽発光特性および画像鮮鋭性が優れた蛍光体層を有する高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【0020】
また、本発明の第2の態様の蛍光体シート製造装置によれば、真空チャンバの側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、容器に収納された蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、容器の開口部から成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、少なくとも1つのガス導入口を介して真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段とを設け、ガス導入口の上方に不活性ガスを拡散させる拡散板を設けることにより、ガス導入ノズルの開口部介して真空チャンバ内に導入される不活性ガスの流れが、成膜材料の蒸気を横切ることがなく、第2の領域における外乱が少なくなる。これにより、基板に、均一な成膜材料の蒸気を暴露できる。このため、基板の表面に、蛍光体層を構成する柱状結晶を均一に成長させることができ、膜厚分布均一性が高く、かつ良好な結晶性の輝尽発光特性および画像鮮鋭性が優れた蛍光体層を有する高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の蛍光体シート製造装置について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の第1の実施例に係る蛍光体シート製造装置を示す模式的断面図であり、(b)は、図1(a)に示す蛍光体シート製造装置の模式的側断面図である。
【0022】
図1に示す蛍光体シート製造装置10(以下、製造装置10という)は、蓄積性蛍光体(母体)となる材料と、付活剤(賦活剤:activator)となる材料とを別々に蒸発する二元の真空蒸着によって、基板Sの表面に蓄積性蛍光体からなる層(以下、蛍光体層という)を形成して、(蓄積性)蛍光体シートを製造する装置である。
このような製造装置10は、基本的に、真空チャンバ12と、基板保持搬送機構14と、加熱蒸発部16と、真空ポンプ(真空排気手段)18と、RF用マッチングボックス20と、ガス導入ノズル60とを有して構成される。なお、本発明の製造装置10は、これ以外にも、公知の真空蒸着装置が有する各種の構成要素を有してもよいのは、もちろんである。例えば、真空チャンバ12内の真空度を測定する真空計(測定手段)を有する。
【0023】
なお、本発明は、図示例のような二元の真空蒸着装置に限定はされず、全ての成膜材料を混合して蒸発源に収納する一元の真空蒸着を行う装置であってもよく、あるいは、三元以上の真空蒸着を行う装置であってもよいが、好ましくは、複数の成膜材料を別々の蒸発源に収納する、二元あるいはそれ以上の多元の真空蒸着装置である。
【0024】
図示例においては、好適な一例として、蛍光体成分となる臭化セシウム(CsBr)と、付活剤成分となる臭化ユーロピウム(EuBrx(xは、通常、2〜3であり、特に2が好ましい)とを成膜材料として用い、抵抗加熱による二元の真空蒸着を行って、基板Sに蓄積性蛍光体であるCsBr:Euからなる蛍光体層を成膜して、蛍光体シートを作製する。
また、成膜中に不活性ガスの導入を行なうためのガス導入ノズル60を有する製造装置10は、好ましくは、一旦、真空チャンバ12内を高真空度まで排気した後、排気を行ないつつガス導入ノズル60によって不活性ガスを導入して真空チャンバ12内を0.1Pa〜10Pa程度の真空度(以下、中真空という)とし、この中真空下で、加熱蒸発部16において抵抗加熱によって成膜材料(臭化セシウムおよび臭化ユーロピウム)を加熱蒸発して、基板保持搬送機構14によって基板Sを直線状に搬送(以下、直線搬送という)しつつ、真空蒸着による基板Sへの蛍光体層の成膜を行なう。
【0025】
本発明において、形成する蓄積性蛍光体(輝尽性蛍光体)としては、CsBr:Eu以外にも各種のものが利用可能である。一例として、特開昭57−148285号公報に開示される、一般式「MIX・aMIIX’2・bMIIIX''3:cA」で示されるアルカリハライド系蓄積性蛍光体が好ましく例示される。
(上記式において、MI は、Li,Na,K,RbおよびCsからなる群より選択される少なくとも一種であり、MIIは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Zn,Cd,CuおよびNiからなる群より選択される少なくとも一種の二価の金属であり、MIIIは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Al,GaおよびInからなる群より選択される少なくとも一種の三価の金属であり、X、X’およびX''は、F,Cl,BrおよびIからなる群より選択される少なくとも一種であり、Aは、Eu,Tb,Ce,Tm,Dy,Pr,Ho,Nd,Yb,Er,Gd,Lu,Sm,Y,Tl,Na,Ag,Cu,BiおよびMgからなる群より選択される少なくとも一種である。また、0≦a<0.5であり、0≦b<0.5であり、0≦c<0.2である。)
【0026】
また、これ以外にも、米国特許第3,859,527号明細書、特開昭55−12142号、同55−12144号、同55−12145号、同57−148285号、同56−116777号、同58−69281号、または同59−75200号等の各公報に開示される蓄積性蛍光体も、好ましく例示される。
【0027】
特に、輝尽発光特性および再生画像の鮮鋭性、さらに、本発明の効果が好適に発現できる等の点で、前記アルカリハライド系蓄積性蛍光体は好ましく例示され、中でも特に、MIが、少なくともCsを含み、Xが、少なくともBrを含み、さらに、Aが、EuまたはBiであるアルカリハライド系蓄積性蛍光体は好ましく、その中でも特に「CsBr:Eu」が、好ましい。
【0028】
基板Sにも、特に限定はなく、ガラス、セラミックス、カーボン、アルミニウム、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド等、蛍光体シートで利用されている各種のシート状の基板が、全て利用可能である。
図示例においては、一例として、矩形の基板Sを用いる。
【0029】
真空チャンバ12は、鉄、ステンレス、アルミニウム等で形成される、真空蒸着装置で利用される公知の真空チャンバ(ベルジャー、真空槽)である。
【0030】
真空チャンバ12の側面12bには、真空ポンプ18がディフューザ18aを介して接続されている。この真空ポンプ18は、例えば、油拡散ポンプが用いられる。なお、真空ポンプ18は、特に限定されるものではなく、必要な到達真空度を達成できるものであれば、真空蒸着装置で利用されている各種のものが利用可能である。一例として、クライオポンプ、ターボモレキュラポンプ等を利用することができ、さらに補助として、クライオコイル等を併用してもよい。なお、前述の蛍光体層を成膜する製造装置10においては、真空チャンバ12内の到達真空度は、8.0×10-4Pa以下であるのが好ましい。
【0031】
さらに、RF用マッチングボックス20は、蛍光体層の成膜(真空蒸着)に先立って、基板Sの表面のプラズマ洗浄等を行うためのものである。
【0032】
ガス導入ノズル60も、ボンベとの接続手段およびガス流量の調整手段等を有する(もしくは、これらに接続される)、真空蒸着装置またはスパッタリング装置等で用いられている公知のガス導入手段であり、前記中真空での真空蒸着による蛍光体層の成膜を行うために、アルゴンガス(Arガス)、窒素ガスまたはその他希ガス等の不活性ガスを真空チャンバ12内に導入する。この不活性ガスとは、真空蒸着の際に、基板Sおよび蛍光体層と反応しないガスのことである。
このガス導入ノズル60の開口部(ガス導入口)60aを介して、不活性ガスが真空チャンバ12内に導入される。導入ガスノズル60(開口部60a)は、例えば、加熱蒸発部16の近傍、かつ真空チャンバ12の底面12aに設けられており、この導入ガスノズル60(開口部60a)の詳細な設置位置については、後に詳細に説明する。
【0033】
基板保持搬送機構14は、基板Sを保持して、直線搬送するものであり、図2に模式的に示すように、駆動手段22と、リニアモータガイド24と、基板保持手段26とから構成される。なお、図2(a)は、図1に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段を示す模式的平面図であり、(b)は、図1に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段を示す模式的正面図であり、(c)は、図1に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段を示す模式的側面図である。
【0034】
駆動手段22は、基板保持手段26を基板Sの基板搬送方向(以下、搬送方向という)Mに移動(往復動)するもので、基板Sの搬送方向Mに延在して保持部材30によって回転自在に軸支されるネジ軸32a、およびネジ軸32aに螺合するナット部32bからなるボールネジ32と、前記ネジ軸32aを回転するモータ34とからなる、ボールネジを用いる公知の直線状の移動機構である。
なお、本発明において、駆動手段はボールネジ32とモータ34とを利用するものに限定はされず、シリンダを利用する搬送手段、モータとモータによって回転されるリング状のチェーンを用いる搬送手段など、必要な耐熱性を有するものであれば、公知の直線状の移動(搬送)手段が、各種利用可能である。
【0035】
リニアモータガイド24(以下、LMガイド24という)は、駆動手段22による基板保持手段26(すなわち基板S)の直線搬送を補助するもので、ガイドレール24aと、長手方向に移動自在にガイドレール24aに係合する係合部材24bとからなる、公知のリニアモータガイドである。
ガイドレール24aは、基板Sの搬送方向Mに延在して、前記ネジ軸32aを軸とする対象位置に離間して2本が配置され、共に、真空チャンバ12の天井面に固定される。一方、係合部材24bは、各ガイドレール24aに2つずつ係合するように、合計4つが基板保持手段26(後述する基台36の上面)に固定される。
【0036】
基板保持手段26(以下、保持手段26という)は、基板Sを保持して、前記LMガイド24によって案内されつつ前記駆動手段22によって直線状で移動されるものであり、基台36と、保持機構38と、防熱部材40を有して構成される。
【0037】
基台36は、製造装置10が適正に設置された状態で水平となる長方形状の平板状部材である。
基板36の上面の中心には、前記ボールネジ32のナット部32bが固定され、また、基板36の上面の対角線上の対称位置には、2本のガイドレール24aの間隔に応じて前記LMガイド24の係合部材24bが固定される。
【0038】
保持機構38は、取付部材38aと保持部材38bとから構成され、基台36の角部に4つが配置される。
取付部材38aは、矩形の断面略C字状の形状を有するものである。この取付部材38aは、C字開放部を内側に向けて、搬送方向Mと直交方向の外方からC字天井面の一部を基台36の角部に載置して、基台36に垂下するようにして固定される。従って、保持手段26は、基台36の下部には、基台36の面積よりも広い空間を有している。
【0039】
保持部材38bは、下端に基板Sの保持手段を有するものであり、取付部材38aに垂下して固定される。すなわち、基板Sを保持する保持機構38は、基台36に角部近傍で垂下される。
【0040】
本発明において、保持部材38bによる基板Sの保持方法には特に限定はなく、治具等を用いる方法、静電気を利用する方法、吸着を利用する方法等、上面から板状物を保持する公知の方法が各種利用可能である。また、基板Sへの蛍光体層の蒸着領域等に応じて可能であれば、治具等を用いて、下方から基板Sの四隅を押さえる保持手段、下方から基板Sの四辺を押さえる保持手段等を利用してもよい。
また、取付部材38aと保持部材38bとの間にスペーサを入れる、ネジによる調整手段を設ける、シリンダによる昇降手段を設ける等の方法で、保持部材38bの下端位置すなわち基板Sを保持/搬送する高さを調整可能にしてもよい。
【0041】
前述のように、基台36は、駆動手段22によって直線搬送される。従って、基板保持搬送機構14は、保持機構38によって例えば基板Sの四隅近傍を保持し、保持手段26を駆動手段22によって搬送することにより、基板Sを直線搬送する。
本発明においては、このように基板Sを直線搬送しつつ、抵抗加熱による中真空の真空蒸着によって蛍光体層を形成することにより、結晶性が良好で、膜厚分布均一性の高い蛍光体層の形成を実現している。
【0042】
例えば、ラインセンサによる放射線画像の読み取りが想定される蛍光体シートの蛍光体層には、±3%以内、好ましくは±2%以内の高い膜厚分布均一性が要求される。
蛍光体層の形成を真空蒸着で行う場合には、全面的に膜厚が均一な蛍光体層を形成するために、通常、基板を回転して成膜を行う。ここで、基板Sを回転させると、半径方向で基板表面(成膜面)の速度(線速)が異なる。
【0043】
例えば、電子線加熱による蒸着では、高い真空度で蒸着を行うので、基板と蒸発源(成膜材料の加熱蒸発部=ルツボ)とを充分に離間して配置できる。その結果、成膜材料の蒸気を充分に拡散した状態で、基板の全面に対して蒸気を均一に暴露することができるので、この半径方向での基板表面の速度の違いは大きな問題にはならず、特に、基板の高速回転を行うことにより、高い膜厚分布均一性を確保できる。
なお、基板Sをその場で回転させて真空蒸着する場合には、加熱蒸発部16の複数のルツボ50の各チムニー50aの開口部の縁部と、回転される基板Sの縁部とを直線的に結んで形成される領域を本発明の第2の領域とする。
【0044】
ここで、本発明の製造方法で好適に形成される前記各種の蓄積性蛍光体からなる蛍光体層、特にアルカリハライド系蓄積性蛍光体からなる蛍光体層、中でも特にCsBr:Euからなる蛍光体層を、真空蒸着によって形成(成膜)する際には、一旦、系内を高い真空度に排気した後、排気を維持した状態でArガスまたは窒素ガス等の不活性ガスを系内に導入して、0.1〜10Pa、特に0.5〜3Pa程度の中真空度として蛍光体層を形成するのが好ましい。
これにより、良好な柱状の結晶構造を有する蛍光体層を形成することができ、輝尽発光特性および画像鮮鋭性が優れた蛍光体シートを製造することができる。
【0045】
本発明の製造装置10は、基本的に、このような中真空での蛍光体層の形成を行うものであり、ガス導入ノズル60(開口部60a)から真空チャンバ12内に不活性ガスを導入しつつ中真空で抵抗加熱によって真空蒸着を行う。
この程度の中真空での真空蒸着では、蒸発した成膜材料を確実に基板Sに到達させるためには、通常に比して、大幅に蒸発源と基板Sとの距離を短くする必要がある。そのため、蒸発源の蒸気が充分に拡散する前に基板Sに至ってしまう。従って、回転する基板の全面に均一に対面するように半径方向に直線状に蒸発源を配列しても、基板面の線速の違いによって、半径方向で蒸発源との対面時間に差が生じ、これにより半径方向に蒸気の暴露量に差が生じてしまい、この差が、そのまま膜厚の差となってしまう。
すなわち、基板を回転して行う中真空の真空蒸着では、基板の全面に均一に蒸気を暴露するためには、加熱蒸発部における蒸発源の配置を工夫する必要があり、例えば、±3%以内の高い膜厚分布均一性を実現するためには、蒸発源の位置設定が非常に困難である。
【0046】
これに対し、本発明の製造装置10においては、このように基板Sを直線搬送しつつ真空蒸着によって蛍光体層の形成を行うことにより、基板S表面(非成膜面)における移動速度を全面的に均一にできる。
従って、搬送方向Mと直交する方向Hにおける成膜材料の蒸発量を均一にするだけで、基板Sの全面的に均一に成膜材料の蒸気を暴露することができ、簡易な蒸発源の位置設定でも、膜厚分布均一性の高い蛍光体層を形成できる。しかも、直線搬送の往復搬送を行って成膜を行うことにより、微量成分であるユーロピウム(付活剤)の蛍光体層中における分散状態も、好適にできる。
【0047】
次に、本発明の製造装置10におけるガス導入ノズル60の配置位置について説明する。
本発明の製造装置10においては、ガス導入ノズル60の開口部60aとディフューザ18aの開口部18bとを直線的に結んで形成される第1の領域A(図1(a)参照)と、加熱蒸発部16の複数のルツボ50の各チムニー50aの開口部の縁部と基板Sが直線搬送の往復搬送される全範囲Dにおける縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域A(図1(a)および(b)参照)とが交わらないような位置にガス導入ノズル60が設けられている。このため、ガス導入ノズル60から導入されたArガスの流れが、成膜材料蒸気による蒸着場(第2の領域A)を横切ることがない。これにより、成膜材料蒸気による蒸着場に圧力分布が生じることが抑制され、搬送方向Mとこれに直交する配列方向H(図3参照)においても、基板Sに均一に成膜材料蒸気を暴露することができる。このようにして、搬送方向Mおよび配列方向Hにおいても基板Sの全面的に均一に成膜材料の蒸気を暴露することができる。
【0048】
なお、本発明において、必要な膜厚の蛍光体層を形成できれば、成膜中における基板Sの直線搬送は、1回の直線搬送でも、1回の往復動(往復搬送)でも、往復動を複数回行ってもよい。また、基板の搬送経路は、おおむね直線状であれば、多少、ジグザグ状であっても、波打つような経路であってもよい。
一般的に、同じ膜厚であれば、加熱蒸発部16の上部の通過回数が多い程、膜厚分布均一性を高くできるので、複数回の往復動を行って蛍光体層を形成するのが好ましい。また、往復動の回数は、蛍光体層の目的膜厚または目的とする膜厚分布均一性等に応じて、適宜、決定すればよく、最後の搬送は一方向でもよい。直線搬送の搬送速度にも、特に限定はなく、LMガイド24の速度限界、往復動の回数、目的とする蛍光体層の膜厚等に応じて、適宜、決定すればよい。
【0049】
基板Sを保持する保持手段26において、上面にボールネジ32のナット部32bおよびLMガイド24の係合部材24b等が固定される基台36の直下には、防熱部材40が配置される。ここで、前述のように、図示例の製造装置10においては、略C字状の取付部材38aを用いて保持部材38bを基台36から垂下した状態で固定することにより、基台36の下部に基台36よりも広い空間を有している。これを利用して、図示例においては、防熱部材40の面積を基台36の面積より大きくして、充分な余裕を持って基台36の下面全面を防熱部材40で覆っている。
防熱部材40は、後述する加熱蒸発部16(蒸発源)に対して基台36を覆うことにより、加熱蒸発部16からの輻射熱等によって、LMガイド24の係合部材24bおよびボールネジ32のナット部32bが加熱されるのを防止するものである。
【0050】
先の説明から明らかなように、高い輝尽発光特性および画像鮮鋭性を実現可能な優れた結晶構造を有し、かつラインセンサによる高精度な放射線画像の読み取りが可能な膜厚均一性に優れた蛍光体シートを製造するためには、基板Sを直線搬送しつつ、抵抗加熱による中真空での真空蒸着を行なう必要がある。
【0051】
ここで、周知のように、LMガイド24の係合部材24bおよびボールネジ32のナット部32bには、円滑な移動を可能にするためにボールが組み込まれ、また、ボールの円滑な回転を可能にするために、グリス等の潤滑剤が注入される。また、ボールを有さなくても、円滑な駆動を可能にするために、通常、駆動手段および搬送ガイド手段の摺動部にはグリス等の滑材が注入される。
【0052】
防熱部材40には、特に限定はなく、加熱蒸発部16からの輻射熱を遮蔽して、係合部材24bおよびナット部32b、またさらに基台36が加熱されることを防止できれば、各種のものが利用可能である。一例として、ステンレス板、鋼板、アルミニウム板、モリブデン板等が例示される。なお、固定方法は、防熱部材40に応じて、適宜、決定すればよい。
また、必要に応じて、防熱部材40に接触するパイプに冷水を流す、板材(防熱部材40)の内部をくり抜いて水を流す等の手段によって、防熱部材40の冷却手段を設けてもよい。
【0053】
前述のように、図示例においては、好ましい態様として、防熱部材40は基台36よりも大きな面積を有し、LMガイド24の係合部材24bおよびボールネジ32のナット部32bが固定される基台36の下面全面を覆って配置される。しかしながら、本発明は、これに限定はされず、例えば、LMガイド24の係合部材24bに対応する領域、あるいはさらにボールネジ32のナット部32bに対応する領域のみを、加熱蒸発部16に対して防熱部材で覆ってもよい。
但し、係合部材24bおよびナット部32bの加熱をより好適に防止するためには、図示例のように、これらに熱を伝達する可能性のある部材は、加熱蒸発部16に対して可能な限り防熱部材40で覆うのが好ましい。
【0054】
真空チャンバ12の下方には、加熱蒸発部16が配置される。
加熱蒸発部16は、抵抗加熱によって成膜材料である臭化セシウムおよび臭化ユーロピウムを蒸発させる部位である。この加熱蒸発部16により、臭化セシウムおよび臭化ユーロピウムの蒸気(成膜材料蒸気)からなる蒸着場が形成される。
【0055】
前述のように、製造装置10は、好ましい態様として、蛍光体成分である臭化セシウムと、付活剤成分である臭化ユーロピウムとを、独立して加熱蒸発する、二元の真空蒸着を行うものである。従って、加熱蒸発部16には、臭化セシウム用(蛍光体用)の蒸発源となるルツボ(容器)50、および、臭化ユーロピウム用(付活剤用)の蒸発源となるルツボ(容器)52が配置される。
【0056】
このようなルツボ50および52は、真空蒸着における抵抗加熱蒸発源用のルツボと同様、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの高融点金属で形成され、電極(図示省略)から通電されることにより自身が発熱し、充填された成膜材料を加熱/溶融して、蒸発させるものである。
また、本発明において、抵抗加熱用の電源(加熱制御手段)には、特に限定はなく、サイリスタ方式、DC方式、熱電対フィードバック方式等、抵抗加熱装置で用いられる各種の方式が利用可能である。また、抵抗加熱を行なう際の出力にも特に限定はなく、使用する成膜材料、ルツボの形成材料の抵抗値または発熱量等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0057】
蓄積性蛍光体において、付活剤と蛍光体とは、例えばモル濃度比で0.0005/1〜0.01/1程度と、蛍光体層の大部分が蛍光体である。
そのため、図示例においては、消費量の多い臭化セシウム(蛍光体用)のルツボ50は、円筒状(ドラム型)の大型のルツボを用いている。このルツボ50は、ドラムの側面に、ドラムの軸線方向に延在するスリット状の開口を有し、この開口に一致して、開口と同形状の上下開口面を有する四角筒状のチムニー50aを蒸気排出部として設けている。
他方、消費量の少ない臭化ユーロピウム用(付活剤用)のルツボ52は、通常のボート型のルツボの上面を、先と同様のチムニー52aを有する蓋体で閉塞してなる小型のルツボを用いている。
このようなスリット状のチムニーを有するルツボを用いることにより、ルツボ内における局所加熱または異状加熱によって突沸が生じた際に、成膜材料が不意にルツボから飛び出して周囲または基板Sに付着して、汚染することを防止できる。特に、抵抗加熱を利用する中真空の蒸着では、前述のように、基板Sと蒸着源とを近接して配置する必要があるので、その効果は大きい。
【0058】
ここで、製造装置10においては、ルツボ50および52を、基板Sの搬送方向Mと直交する方向H(以下、配列方向Hという)に複数配列することにより、配列方向Hにおける成膜材料の蒸発量を均一にして、直線搬送される基板Sの全面に均一に成膜材料蒸気を供給して、例えば、膜厚分布均一性が±3%以下の蛍光体層を形成している。なお、各ルツボは、離間させるか、または絶縁材の挿入等によって、互いに絶縁状態に有る。
【0059】
加熱蒸発部16の模式的平図である図3に示すように、図示例においては、一例として、臭化セシウム用のルツボ50は、円筒(ドラム)の軸線方向を配列方向Hに一致して、6つが配列されている。ルツボ50において、電極は円筒の端面に形成されており、個々のルツボ50で独立して電源に接続される。また、各ルツボ50に対応して、臭化セシウムの蒸発量を測定するための水晶振動子センサ54が配置され(図1(a)および(b)では、装置の全体構成を明瞭にするために省略)、この蒸発量の測定結果に応じて、ルツボ50への通電量が制御される。なお、蒸発量の制御は、温度センサによって行ってもよい。
他方、ボート型のルツボである臭化ユーロピウム用のルツボ52も、長手方向を配列方向Hに一致して、6つが配列される。ルツボ52も、配列方向Hの両端に電極が形成され、個々に独立した電源が接続される。
【0060】
ここで、本発明においては、加熱蒸発部16の複数のルツボ50の各チムニー50aの開口部の縁部と基板Sが直線搬送の往復搬送される全範囲D(図1(a)参照)における縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域Aを、加熱蒸発部16により形成される原材料蒸気(臭化セシウムおよび臭化ユーロピウムの蒸気)による蒸発場とし、この第2の領域Aにおいて、基板Sに蛍光体層が形成されるものとする。このため、蛍光体層を形成する場合、蛍光体層を構成する柱状結晶を均一に成長させるためには、第2の領域A(蒸発場)における圧力分布をなくすために、不活性ガスの流れにより生じる圧力変動などの外乱を抑制する必要がある。この外乱を少なくするために、本発明においては、ガス導入ノズル60の開口部60aの縁部とディフューザ18aの開口部18bの縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域Aと、第2の領域A(蒸発場)とが交わらない位置にガス導入ノズル60を設けている。
【0061】
図示例においては、好ましい態様として、1つのルツボ50とルツボ52とを対として、すなわち、蛍光体の成膜材料である臭化セシウムの1つの蒸発源と付活剤の成膜材料である臭化ユーロピウムの1つの蒸発源を対として、両者が基板Sの直線搬送方向Mに並ぶように配置し、さらに、より好ましい態様として、両者を装置およびルツボの構成上、可能な限り近接して配置している。
このような構成とすることにより、母体となる臭化セシウム蒸気中に、臭化ユーロピウム蒸気を充分に分散して、微量成分であるユーロピウム(付活剤)を蛍光体層中に均一に分散し、輝尽発光特性等の良好な蛍光体層を形成できる。
【0062】
また、ルツボ50の列およびルツボ52の列においては、共に、配列されるルツボは、装置およびルツボの構成上、可能な限り配列方向Hに近接して配置され、かつルツボの列は、基板Sの配列方向Hのサイズを充分に包含する長さとするのが好ましい。
このような構成とすることにより、配列方向Hにおける成膜材料の蒸発蒸気量を均一にして、より膜厚分布均一性の高い蛍光体層を形成することができる。
【0063】
このような配列方向Hへのルツボの列は、1つであってもよく、図示例のように2列であってもよく、さらに、3列以上であってもよい。
ここで、複数列のルツボの列を有する場合には、各ルツボの列は、基板Sの搬送方向Mから見た際に、他のルツボの列の成膜材料蒸気の排出口(前記スリット状のチムニー)の配列方向Hの間隙を、互いに埋めるように配置するのが好ましく、さらに、異なる列で成膜材料蒸気の排出口が搬送方向Mに重ならないように配置するのがより好ましい。言い換えれば、搬送方向Mから見た際に、各ルツボの列で、成膜材料蒸気の排出口が互い違いとなるようにするのが好ましい。図示例においては、配列方向Hへの2列のルツボの列において、搬送方向Mから見た際に、一方のルツボ列の電極位置に他方のルツボ列の蒸気排出口が位置するように、各ルツボの列を配列している。
このような構成とすることにより、配列方向Hにおける成膜材料の蒸発蒸気量を均一にして、より膜厚分布均一性の高い蛍光体層を形成することができる。
【0064】
さらに、配列方向Hへのルツボの列を複数有する場合には、搬送方向Mの外側に蒸発量の多い臭化セシウム(付活剤)用のルツボ50の列を位置するのが好ましい。
このような構成とすることにより、蒸発量の多い臭化セシウムの蒸発量センサを、搬送方向Mに対してルツボの列の外側の開いている空間に配置することができ、すなわち、蒸発量センサの選択自由度、製造装置10の設計自由度を向上することができる。
【0065】
なお、図示は省略するが、製造装置10の加熱蒸発部16は、全ルツボを水平方向の4方で囲む、ルツボの最上部よりも高い四角筒状の防熱板が配置され、かつこの防熱板の上部開放面を閉塞/開放自在に、成膜材料蒸気を遮蔽するためのシャッタが配置される。
【0066】
本実施例の製造装置10においては、ガス導入ノズル60を、第1の領域Aと、第2の領域A(蒸発場)とが交わらない位置に設けることにより、蛍光体層形成時に、ガス導入ノズル60からのArガスの流れが、成膜材料蒸気による蒸着場(第2の領域A)を横切ることがない。このため、第2の領域Aへの外乱が少なくなり、成膜材料蒸気による蒸着場のガス圧のバラツキが少なくなって、搬送方向Mおよび配列方向Hにおいても均一に成膜材料蒸気を基板Sに暴露することができる。これにより、基板Sの表面に均一な柱状結晶を成長させることができ、膜厚分布均一性が高く、かつ良好な結晶性の輝尽発光特性および画像鮮鋭性が優れた蛍光体層を有する高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【0067】
次に、製造装置10による基板Sへの蛍光体層の形成方法(蛍光体シートの製造方法)について説明する。
【0068】
まず、真空チャンバ12を開放して、保持手段26の保持部材38bに基板Sを保持し、かつ全てのルツボ50に臭化セシウムを、全てのルツボ52に臭化ユーロピウムを所定量まで充填した後、前記シャッタを閉塞し、さらに、真空チャンバ12を閉塞する。
【0069】
次いで、真空ポンプ18を駆動して真空チャンバ12内を排気し、真空チャンバ12内が、例えば、8×10-4Paとなった時点で、排気を継続しつつ、ガス導入ノズル60によって開口部60aを経て真空チャンバ12内に、例えば、Arガスを導入して、真空チャンバ12内の圧力を、例えば、1.0Paに調整し、さらに、抵抗加熱用の電源を駆動して全てのルツボ50およびルツボ52に通電して成膜材料を加熱する。
その後、予め設定した所定時間が経過したら、前記シャッタを開放し、次いで、モータ34を駆動して、所定速度での基板Sの直線搬送を開始し、基板Sの表面への蛍光体層の形成を開始する。
【0070】
形成する蛍光体層の膜厚等に応じて設定された所定回数の直線搬送の往復動が終了したら、基板Sの直線搬送を停止し、シャッタを閉塞し、抵抗加熱用の電源を切り、ガス導入ノズル60によるArガスの導入量を増加して、真空チャンバ12内を大気圧とし、次いで真空チャンバを開放して、蛍光体層を形成した基板Sすなわち作製した蛍光体シートを取り出す。
【0071】
なお、この蛍光体シートは、ルツボ50および52を搬送直交方向に配列し、かつ第1の領域Aと第2の領域Aとが交わらない位置に設けられたガス導入ノズル60からArガスを供給し、さらに、基板Sを直線搬送しつつ、抵抗加熱による中真空の真空蒸着によって蛍光体層を形成したものである。このように、本実施例においては、ガス導入ノズル60からのArガスの流れが、成膜材料蒸気による蒸着場(第2の領域A)を横切ることがない。このため、第2の領域Aへの外乱が少なくなり、成膜材料蒸気による蒸着場のガス圧のバラツキが少なくなって、搬送方向Mおよび配列方向Hにおいても均一に成膜材料蒸気を基板Sに暴露することができる。これにより、基板Sの表面に均一な柱状結晶を成長させることができ、膜厚分布均一性が高く、かつ良好な結晶性の輝尽発光特性および画像鮮鋭性が優れた蛍光体層を有する高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【0072】
次に、本発明の第2の実施例について説明する。
図4は、本発明の第2の実施例に係る蛍光体シート製造装置の要部を示す平面図である。この図4は、第1の実施例の蛍光体シート製造装置における図3に対応するものである。
本実施例においては、図1(a)および(b)〜図3に示す第1の実施例の蛍光体シート製造装置と同一構成物には、同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0073】
図4に示すように、本実施例の蛍光体シート製造装置10aは、第1の実施例の蛍光体シートの製造装置10(図3参照)に比して、ガス導入ノズル60、62が2個設けられている点が異なり、それ以外の構成は、第1実施例の蛍光体シートの製造装置10と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
本実施例においては、第1の実施例のガス導入ノズル60に加えて、さらにガス導入ノズル62が設けられている。
このガス導入ノズル62は、第1の実施例のガス導入ノズル60の配置位置の条件を満たす位置に設けられている。本実施例において、ガス導入ノズル62は、真空チャンバ12の底面12aに、ガス導入ノズル60よりも排気口18bに近い側に設けられている。
【0074】
本実施例においても、第1の実施例と同様の効果を得ることができることは言うまでもない。本実施例においては、第1の領域Aおよびガス導入ノズル62の開口部62aの縁部とディフューザ18aの開口部18bの縁部とを直線的に結んで形成される第3の領域A(図1(a)および図4参照)のいずれもが、第2の領域Aと交わらない位置に各ガス導入ノズル60、62が設けられているため、ガス導入ノズル60、62からのArガスの流れが、成膜材料蒸気による蒸着場(第2の領域A)を横切ることがない。このため、第2の領域Aへの外乱が少なくなり、成膜材料蒸気による蒸着場のガス圧のバラツキが少なくなって、搬送方向Mおよび配列方向Hにおいても均一に成膜材料蒸気を基板Sに暴露することができる。これにより、基板Sの表面に均一な柱状結晶を成長させることができ、膜厚分布均一性が高く、かつ良好な結晶性の輝尽発光特性および画像鮮鋭性が優れた蛍光体層を有する高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【0075】
また、本実施例においては、ガス導入ノズル(開口部)を複数設けた場合、各ガス導入ノズル60、62からのガス導入量を調整し、真空チャンバ12内の圧力のバラツキをなくし、成膜材料蒸気による蒸着場の圧力のバラツキをなくすことができる。
さらに、本実施例においては、ガス導入ノズル(開口部)を複数設けた場合、排気口に近い側のガス導入ノズル(開口部)からのガス導入量を、排気口から遠い方のガス導入ノズル(開口部)よりも多くすることが好ましい。例えば、ガス導入ノズル62(開口部62a)からのガス導入量を、ガス導入ノズル60(開口部60a)のガス導入量の1.5倍とする。
【0076】
また、本実施例においては、ガス導入ノズル60、62を2個設ける構成としたが、本発明は、これに限定されるものではなく、2個以上設けてもよい。この場合においても、排気口18b側のガス導入ノズルからのガス導入量が多いことが好ましい。
さらに、本実施例においては、真空チャンバ12内の真空度を測定する真空計(測定手段)を複数設け、真空チャンバ12内の圧力が設定圧力となるように、各ガス導入ノズルからのガス導入量を調整してもよい。これにより、真空チャンバ12内の圧力のばらつきを減らすことができ、更に第2の領域Aにおける外乱を少なくすることができ、更に高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【0077】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。
図5(a)は、本発明の第3の実施例に係る蛍光体シート製造装置を示す模式的平面図であり、(b)は、図5(a)の要部部分断面図である。この図5(a)は、第1の実施例の蛍光体シート製造装置における図3に対応するものである。
本実施例においては、図1(a)および(b)〜図3に示す第1の実施例の蛍光体シート製造装置と同一構成物には、同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0078】
図5に示すように、本実施例の蛍光体シート製造装置10bは、第1の実施例の蛍光体シートの製造装置10(図3参照)に比して、ガス導入ノズル60の開口部60aの上方に拡散板70が設けられている点が異なり、それ以外の構成は、第1実施例の蛍光体シートの製造装置10と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
本実施例の拡散板70は、ガス導入ノズル60から真空チャンバ12内に導入される不活性ガスを拡散させるものである。
この拡散板70により、加熱蒸発部16により得られる成膜材料蒸気による蒸着場(第2の領域A)に外乱を生じさせる流れの発生が抑制される。これにより、第1の実施例と同様の効果を得ることができる。このため、第1の実施例の如く、ガス導入ノズル60を設ける位置は、第1の領域A(図1(a)参照)と、第2の領域A(図1(a)参照)とが交わらない位置に限定されるものではない。
【0079】
しかしながら、第1の実施例と同様に第1の領域Aと、第2の領域Aとが交わらない位置にガス導入ノズル60を設けることにより、加熱蒸発部16により得られる成膜材料蒸気による蒸着場(第2の領域A)に外乱を生じさせる流れの発生をより一層抑制することができる。これにより、更に第2の領域Aにおける外乱を少なくすることができ、更に高品位で画質ムラがない蛍光体シートを得ることができる。
【0080】
また、本実施例においても、ガス導入ノズルを、第2の実施例と同様に、2個以上、複数個設けてもよい。この場合、拡散板は、全てのガス導入ノズルの開口部を覆うように設ける。なお、複数個ガス導入ノズルを設けた場合でも、必ずしも第1の領域Aと第2の領域Aとが交わらない位置にガス導入ノズルを設ける必要がないことは言うまでもない。
【0081】
さらに、本実施例においては、拡散板72として、複数の穴74が形成された板を用いてもよい。この拡散板72に形成された穴74により、不活性ガスの流れを整流させることができる。また、拡散板72の穴74の大きさ、および形成位置などを変えて、拡散板72を通って流れる不活性ガスの圧力分布を調整することもできる。このように、穴74が形成された拡散板72を用いることによっても、第3の実施例と同じく、第1の実施例と同様の効果を得ることができることは言うまでもない。
【0082】
上述のいずれの実施例においても、基板を搬送方向に直線搬送して蛍光体層を形成する蛍光体シート体製造装置について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、基板を保持したままで蛍光体層を形成するもの、または基板を回転しながら蛍光体層を形成するものなど、基板の搬送方式については、特に限定されるものではない。
【0083】
以上、本発明の蛍光体シート製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の具体的な実施例を挙げ、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されないのは言うまでもない。
本実施例においては、図7(a)〜(d)に示す実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置を用いて蛍光体シートを作製し、これらの蛍光体シートについて画像ムラを評価した。
なお、実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光体シートの構成は、基板に蛍光体層が設けられている構成とした。基板には、アルミニウム基板を用いた。このアルミニウム基板は、純度が95質量%であり、基板の大きさが200mm×200mmである。
【0085】
次に、実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置について説明する。
図7(a)〜(c)に示す実施例1〜実施例3の蛍光体シート製造装置80、82,84は、それぞれ第1の実施例〜第3の実施例の蛍光体シート製造装置10、10a,10bと同様のものを用いた。このため、第1の実施例〜第3の実施例の蛍光体シート製造装置10、10a,10bと同様の構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図7(a)に示す実施例1の蛍光体シート製造装置80は、第1の実施例の蛍光体シート製造装置10と同様の構成であり、その詳細な説明は省略する。
また、図7(b)に示す実施例2の蛍光体シート製造装置82は、第2の実施例の蛍光体シート製造装置10aと同様の構成であり、その詳細な説明は省略する。
さらに、図7(c)に示す実施例3の蛍光体シート製造装置84は、第3の実施例の蛍光体シート製造装置10bと同様の構成であり、その詳細な説明は省略する。
【0086】
また、図7(d)に示す比較例1の蛍光体シート製造装置100は、実施例1の蛍光体シート製造装置80と比して、ガス導入ノズル102を配置位置が異なるものであり、それ以外の構成は、実施例1の蛍光体シート製造装置80と同様の構成である。この比較例1の蛍光体シート製造装置100においては、ガス導入ノズル102が、真空チャンバ12の底部12aに、加熱蒸発部16を挟んで真空ポンプ18に対向する位置に設けられている。この比較例1の蛍光体シート製造装置100は、真空チャンバ12内に供給されたArガスの流れが、加熱蒸発部16により形成される蒸着場を横切るものである。
【0087】
また、図7(a)〜(d)に示す実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置80,82,84、100について、蛍光体層の形成時に、真空チャンバ12内の各測定位置P、P、Pの圧力(単位:Pa)を測定した。測定位置Pは、加熱蒸発部16を挟んで真空ポンプ18に対向する位置であり、測定位置Pは、加熱蒸発部16と真空ポンプ18との間であり、測定位置Pは、加熱蒸発部16の配列方向側における真空チャンバ12の内壁との間である。この圧力測定結果を下記表1に示す。なお、下記表1に示す各測定位置P、P、Pにおける圧力の単位はPa(パスカル)である。
なお、実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置80,82,84、100においては、基板Sと加熱蒸発部16との距離は15cmとし、基板Sを直線搬送しながら、蛍光体層を形成した。
【0088】
次に、実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光体シート製造方法について説明する。実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光体シート製造方法は、ガス導入口の数もしくは配置位置が異なる点、または拡散板が設けられている点だけが異なり、それ以外の方法は同じである。このため、以下、実施例1〜実施例3および比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光体シート製造方法をまとめて説明する。
【0089】
本実施例においては、蒸発源として、純度が4N以上の臭化セシウム(CsBr)粉末、および純度が3N以上の臭化ユーロピウム(EuBr)の溶融品を用意した。EuBr溶融品は、酸化を防ぐため十分なハロゲン雰囲気としたチューブ炉中にて、白金製ルツボに粉体を入れ、温度800℃に加熱して溶融、冷却後、炉から取り出して作製した。各原料中の微量元素をICP−MS法(誘導結合高周波プラズマ分光分析−質量分析法)により分析した結果、CsBr中のCs以外のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb)はそれぞれ10質量ppm以下であり、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Sr、Ba)などの他の元素は、2質量ppm以下であった。また、EuBr中のEu以外の希土類元素は各々20質量ppm以下であり、他の元素は10質量ppm以下であった。これらの原料は、吸湿性が高いので、露点−20℃以下の乾燥雰囲気を保ったデシケータ内で保管し、使用直前に取り出すようにした。
【0090】
蛍光体層の形成に際しては、先ず、基板を真空蒸着装置内の基板ホルダーに設置した。
CsBr蒸発源およびEuBr蒸発源を装置内の抵抗加熱用ルツボ容器に充填した後、メイン排気バルブを開いて装置内を排気して、1×10−3Paの真空度とした。
このとき、真空排気装置としては、ロータリーポンプ、メカニカルブースター、およびディヒュージョンポンプの組み合わせたものを用いた。さらに、水分除去のため、水分排気用のクライオポンプを使用した。その後、排気をメイン排気バルブからバイパスに切り換え、装置内にArガスを導入して、0.5Paの真空度とし、プラズマ発生装置(イオン銃)によりArプラズマを発生させ、酸化物層の表面の洗浄を行なった。
【0091】
その後、排気をメイン排気バルブに切り換えて1×10−3Paの真空度まで排気後、再度排気をバイパスに切り換え、Arガスを所定量導入して1.0Paの真空度とした。
なお、実施例2の蛍光体シート製造装置82においては、ガス導入ノズル62のガス導入量は、ガス導入ノズル60のガス導入量の1.5倍とした。
【0092】
基板Sと加熱蒸発部16(ルツボ50およびルツボ52)との間に設けられたシャッタを閉じた状態で、各蒸発源(CsBr)およびEuBr2)をそれぞれ抵抗加熱装置で加熱溶融した後、まず、ルツボ50側のシャッタだけを開けて、基板Sの表面にCsBr蛍光体母体を堆積させた。
次いで、シャッタを開けた3分後にルツボ52側のシャッタも開いて、CsBr蛍光体母体の上にCsBr:Eu輝尽性蛍光体を堆積させた。
このとき、形成される蛍光体層の厚さを均一にするため、基板Sを周期的に、200mm/秒の搬送速度で直線搬送した。
【0093】
なお、堆積速度は8μm/分とした。また、加熱蒸発部16の各々の抵抗加熱装置の抵抗電流を調整して、輝尽性蛍光体層におけるEu/Csのモル濃度比が、0.001/1となるように制御した。蒸着終了後、装置内を大気圧にし、装置から基板を取り出した。次に、熱処理炉に基板を入れて、熱処理炉の内部を窒素ガス雰囲気にし、温度200℃で2時間、熱処理を行なった。
【0094】
これにより、基板の表面には、蛍光体の柱状結晶が略垂直方向に延びた密に林立した構造の蛍光体層が形成された。なお、蛍光体層の厚さは、600μmであり、蛍光体層が形成されている面積は200mm×200mmであった。このようにして、共蒸着により基板と蛍光体層とからなる蛍光体シートを作製した。
【0095】
ここで、図8は、実施例1の蛍光体シート製造装置により作製された蛍光体シートの蛍光体層を示すSEM像であり、(a)は、基板の真空ポンプ側の蛍光体層を示すものであり、(b)は、基板の真空ポンプの反対側の蛍光体層を示すものである。また、図9は、比較例1の蛍光体シート製造装置により作製された蛍光体シートの蛍光体層を示すSEM像であり、(a)は、基板の真空ポンプ側の蛍光体層を示すものであり、(b)は、基板の真空ポンプの反対側の蛍光体層を示すものである。図8(a)と図9(a)とが対応し、図8(b)と図9(b)とが対応するものである。なお、図8(a)および(b)ならびに図9(a)および(b)に示す各SEM像における撮影倍率は1000倍である。
【0096】
図8(a)および(b)に示すように、実施例1の蛍光体シート製造装置による蛍光体層は、形成された柱状結晶が基板面内において、いずれも揃っており、基板面内における均一性が高いものであった。
一方、比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光層は、図9(a)に示す真空ポンプ18側の蛍光体層の柱状結晶は揃っているものの、図9(b)に示す真空ポンプ18の反対側の柱状結晶は成長が乱れていた。このように、比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光層は、基板面内における均一性が低いものであった。
【0097】
次に、本実施例においては、作製した各蛍光体シートについて、画質ムラの評価を行った。この画質ムラの評価方法について説明する。
先ず、作製した各蛍光体シートの表面に、タングステン管球を用い、管電圧が80kVpのX線を線量10mR(2.58×10−6C/kg)で照射した後、波長が660nmの半導体レーザ光を5J/mの励起エネルギで各蛍光体シートに照射し、各蛍光体シートの表面から放射された輝尽発光光を受光器(分光感度S−5の光電子倍増管)にて受光した。この受光した光を電気信号に変換し、これに基づいて、電気信号をデジタル信号にし、画像として構成する画像再生装置によってベタ画像を得、読み取った画像をレーザプリンタによりフィルム上に可視像として出力した。
【0098】
次に、各蛍光体シートについてフィルムに記録された可視像を目視して評価した。評価については、画質ムラが全く見られないものを「◎」とし、画質ムラが見られないものを「○」とし、画質ムラが若干見られたものを「△」とし、画質ムラが見られたものを「×」とした。このような基準で、各蛍光体シートを評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
上記表1に示すように、実施例1〜実施例3の蛍光体シート製造装置による蛍光層は、画質ムラが見られなかった。また、実施例1の蛍光体シート製造装置による蛍光体層は、図8(a)および(b)に示すように柱状結晶の基板面内均一性が高いものであった。画質ムラの評価結果から、実施例2および実施例3の蛍光体シート製造装置による蛍光体層も、柱状結晶の基板面内均一性が高いことは明らかである。
一方、比較例1の蛍光体シート製造装置による蛍光層は、画質ムラが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】(a)は、本発明の第1の実施例に係る蛍光体シート製造装置を示す模式的断面図であり、(b)は、図1(a)に示す蛍光体シート製造装置の模式的側断面図である。
【図2】(a)は、図1に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段を示す模式的平面図であり、(b)は、図1に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段を示す模式的正面図であり、(c)は、図1に示す蛍光体シート製造装置の基板保持搬送手段を示す模式的側面図である。
【図3】図1に示す蛍光体シート製造装置の加熱蒸発部を示す模式的平面図である。
【図4】本発明の第2の実施例に係る蛍光体シート製造装置を示す模式的平面図である。
【図5】(a)は、本発明の第3の実施例に係る蛍光体シート製造装置を示す模式的平面図であり、(b)は、図5(a)の要部部分断面図である。
【図6】(a)は、本発明の第3の実施例に係る蛍光体シート製造装置における拡散板の変形例を示す模式的平面図であり、(b)は、図6(a)の拡散板の配置を示す部分断面図である。
【図7】(a)は、実施例1の蛍光体シート製造装置を示す模式的斜視図であり、(b)は、実施例2の蛍光体シート製造装置を示す模式的斜視図であり、(c)は、実施例3の蛍光体シート製造装置を示す模式的斜視図であり、(d)は、比較例1の蛍光体シート製造装置を示す模式的斜視図である。
【図8】実施例1の蛍光体シート製造装置により作製された蛍光体シートの蛍光体層を示すSEM像であり、(a)は、基板の真空ポンプ側の蛍光体層を示すものであり、(b)は、基板の真空ポンプの反対側の蛍光体層を示すものである。
【図9】比較例1の蛍光体シート製造装置により作製された蛍光体シートの蛍光体層を示すSEM像であり、(a)は、基板の真空ポンプ側の蛍光体層を示すものであり、(b)は、基板の真空ポンプの反対側の蛍光体層を示すものである。
【符号の説明】
【0102】
10、10a、10b、100 蛍光体シート製造装置
12 真空チャンバ
12a 底面
12b 側面
14 基板保持搬送手段
16 加熱蒸発部
18 真空ポンプ
20 RF用マッチングボックス
22 駆動手段
24 LMガイド
24a ガイドレール
24b 係合部材
26 (基板)保持手段
30 保持部材
32 ボールネジ
32a ネジ軸
32b ナット部
34 モータ
36 基台
38 保持機構
38a 取付部材
38b 保持部材
40 防熱部材
50,52 ルツボ
60、62、80 ガス導入ノズル
70、72 拡散板
74 穴
S 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基板の表面に真空蒸着によって蓄積性蛍光体層を形成する蛍光体シート製造装置であって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を、前記真空チャンバの側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、
容器に収納された前記蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、前記容器の開口部から前記成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、
前記抵抗加熱手段の上方において、前記基板を保持する基板保持手段と、
前記蛍光体層の成膜中に、前記真空チャンバ内の真空度を調整するために、少なくとも1つのガス導入口を介して前記真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段とを有し、
前記ガス導入口の縁部と前記排気口の縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域と、前記抵抗加熱手段の前記容器の前記開口部の縁部と前記基板の縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域とが交わらないように前記ガス導入口が設けられていることを特徴とする蛍光体シート製造装置。
【請求項2】
シート状の基板の表面に真空蒸着によって蓄積性蛍光体層を形成する蛍光体シート製造装置であって、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を、前記真空チャンバの側面に設けられた排気口を介して排気する真空排気手段と、
容器に収納された前記蓄積性蛍光体層の成膜材料を抵抗加熱によって加熱し、前記容器の開口部から前記成膜材料の蒸気を放出させる抵抗加熱手段と、
前記抵抗加熱手段の上方において、前記基板を保持する基板保持手段と、
前記蛍光体層の成膜中に、前記真空チャンバ内の真空度を調整するために、少なくとも1つのガス導入口を介して前記真空チャンバ内に不活性ガスを導入するガス導入手段と、
前記ガス導入口の上方に設けられ、前記不活性ガスを拡散させる拡散板とを有することを特徴とする蛍光体シート製造装置。
【請求項3】
前記ガス導入口の縁部と前記排気口の縁部とを直線的に結んで形成される第1の領域と、前記抵抗加熱手段の前記容器の前記開口部の縁部と前記基板の縁部とを直線的に結んで形成される第2の領域とが交わらないように前記ガス導入口が設けられている請求項2に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項4】
前記ガス導入口が複数ある場合、前記抵抗加熱手段により得られる前記成膜材料の蒸気の圧力が一定となるように、前記ガス導入手段により、前記各ガス導入口からのガス導入量を調整して、前記蓄積性蛍光体層の成膜を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項5】
前記ガス導入口が複数ある場合、前記排気口に近い方のガス導入口のガス導入量を、前記排気口に遠い方のガス導入口のガス導入量よりも多くして前記蓄積性蛍光体層の成膜を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項6】
さらに、前記ガス導入口の上方に設けられ、前記不活性ガスを拡散させる拡散板とを有する請求項1、4または5のいずれか1項に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項7】
前記拡散板は、複数の穴が形成されている請求項2〜4のいずれか1項に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項8】
前記拡散板に設けられた複数の穴は、その直径が異なるものが含まれる請求項7に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項9】
さらに、前記真空チャンバ内の真空度を測定する測定手段を少なくとも1つ有し、前記各測定手段により測定された真空度に基づいて、前記ガス導入手段による前記各ガス導入口からのガス導入量を調整して前記蓄積性蛍光体層の成膜を行う請求4〜8のいずれか1項に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項10】
さらに、直線状の搬送経路で前記基板を基板保持手段とともに搬送する基板搬送手段を有する請求項1〜9に記載の蛍光体シート製造装置。
【請求項11】
前記抵抗加熱手段における前記容器は、前記基板搬送手段による基板搬送方向と直交する方向に複数並べて配置されている請求項1〜10に記載の蛍光体シート製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−274308(P2006−274308A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92026(P2005−92026)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】