説明

蛍光体ペースト塗布装置および蛍光体ペーストの塗布方法

【課題】
微細な放電セル構造の場合でも、蛍光体層を精度良く均一に形成することができる表示装置の製造方法と蛍光体塗布装置を提供する
【解決手段】
基板上に略ストライプ状の複数の隔壁、および該複数の隔壁と略平行かつ各隔壁間に設けられた複数のデータ電極を有するディスプレイ部材の隔壁間の凹部に蛍光体ペーストを塗布する蛍光体ペースト塗布装置であって、 該複数の隔壁間の凹部に相対する複数の吐出孔と蛍光体ペースト収容部分とを有するノズルと、該基板と略平行かつ該基板上に投影した像が該複数のデータ電極と略直交するように該複数のデータ電極と離間して配置された誘導電極と、該誘導電極に接続された高圧電源とを備えることを特徴とする蛍光体ペースト塗布装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示パネル用基板の蛍光体ペースト塗布装置および蛍光体ペーストの塗布方法に関し、さらに詳しくは、例えばマトリクス表示方式のプラズマディスプレイパネル(PDP)のような表示パネル用基板の蛍光体ペースト塗布装置および蛍光体ペーストの塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと記す)は図12の断面斜視図に示されるような構成である。すなわち、基板21は、例えばガラスのような透明且つ絶縁性の基板であり、その上には誘電体層24およびMgO蒸着膜などからなる保護膜25で覆われた複数の表示電極が付設されている。表示電極は、走査電極22と維持電極23とが対となったものである。また、基板11は、例えばガラスのような絶縁性の基板であり、その上には誘電体層14で覆われた複数のデータ電極13が付設され、誘電体層14上のデータ電極13間にはデータ電極13と平行してストライプ状の隔壁12が設けられている。また、誘電体層14の表面と隔壁12の側面にかけて蛍光体層26が設けられている。そして基板21と基板11とが、走査電極22および維持電極23とデータ電極13とが直交するように放電空間27を挟んで対向して配置されている。放電空間27には、放電ガスとして、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンの内少なくとも1種類の希ガスが封入されており、隣接する二つの隔壁12に挟まれ、データ電極13(アドレス電極と呼ぶ場合もある)、走査電極22および維持電極23との交差部の放電空間27が放電セルとなる。
【0003】
ここで、近年、ディスプレイに対しては高品位化の要求が高まっており、その実現のためには、PDPにおいては放電セルの微細化が必要である。例えば、従来のNTSCでは放電セルの数が640×480(個)程度であり、40インチクラスでは放電セル12のサイズは0.43mm×1.29mm、面積が約0.55mmであるが、フルスペックのハイビジョンテレビの場合には、画素数は1920×1125(個)となり、42インチクラスでの放電セルのサイズは0.15mm×0.48mm、面積は0.072mm となる。
【0004】
従来、蛍光体層26の形成方法としては、例えばスクリーン印刷法で蛍光体ペーストを隔壁9間に充填して焼成する方法が用いられているが、放電セルが上述のような微細な場合には、そのような形成方法の適用は難しい。すなわち、放電セルのセルサイズが微細で隔壁12の間隔が狭い場合、スクリーン印刷法で用いる蛍光体ペーストは粘度が高いため、隔壁12間に精度良く且つ高速に蛍光体ペーストを流し込むことが困難となるからである。
【0005】
また、蛍光体層26の他の形成方法としては、蛍光体粒子と有機バインダーからなる蛍光体ペーストをノズルの吐出孔から吐出させながら走査することにより隔壁12間に塗布する方法がある。この方法では、隔壁12間が狭い場合にも蛍光体ペーストを流し込むことが可能となる。
【0006】
しかし、この方法においても、吐出孔が隔壁12間の中心の位置からずれた場合、蛍光体ペーストが隔壁12頂部に乗り上げたり、隣接する隔壁12内に蛍光体ペーストが入ることにより混色したりするといった課題がある。また、ノズル先端に蛍光体粉末または、蛍光体ペーストが付着することで、ペースト吐出直進性や吐出空間の広がりにバラツキが生じ、パネルに縦筋ムラが発生したり、混色が生じたり、パネルの表示品質を著しく劣化させるといった課題がある。
【0007】
このような課題に対する対策として、蛍光体ペーストの吐出を行う際に、基板のデータ電極13と、ノズルとの間に電圧を印加する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0008】
これらの方法によれば、蛍光体ペーストの吐出を行う際に、基板のデータ電極とノズルとの間に電圧を印加することで、選択的にペーストが隔壁間に入り、精度良く蛍光体を形成できるとある。
【0009】
しかし、これらの方法では、最終製品であるプラズマディスプレイパネルの使用時に各画素に放電をおこさせるための電極であるデータ電極に、直接電線を仮接続して電圧を印加することになる。データ電極に電線を仮接続するため、以下の問題が生じる。
(1)データ電極に電線が接続され、切り離される際にデータ電極にキズが発生することがある。
(2)データ電極に電線が接続され、切り離される際に、摺動部において発塵することがある。
(3)多数のデータ電極と電源との間を狭ピッチの導電性細線で一時的に接続する必要がある。例えば、フルスペックのハイビジョンテレビにおいて、幅方向を一括して塗布するのであれば、1920本のデータ電極に一括して電圧を印加する必要がある。細線幅はPDPサイズにもよるが、百数十から数百μmで、細線のピッチは数百〜千μmである。このような多数の細線を同時に一時接続すると、全ての細線を良好に接続するのは困難である。接続状態が悪い部分が生じると、その部分では十分な静電気力が働かなくなる。そのため、部分的に蛍光体形成の精度が悪化(頂部付着や混色など)しやすい。
(4)導電性の細線で接続するため、細線の先端に電界が集中し、コロナ放電が発生しやすい。この場合、放電によって基板が帯電し、ホコリの吸着などの問題を引き起こす原因となる。
(5)蛍光体吐出開始前にデータ電極と電線を接続し、吐出終了後にデータ電極と電線とを切り離すため、蛍光体形成のための装置動作が増え、蛍光体形成に必要な時間が延びる。すなわち、PDPの生産性低下につながるおそれがある。
(6)多数のデータ電極と電源との間を狭ピッチの細線で一時的に接続するための設備が複雑であり、設備に必要な費用が高額である。
【0010】
一方、蛍光体ペーストの吐出を行う際に、静電気発生器により静電気を基板に付与した状態で、吐出を行なう方法が提案されている(例えば、特許文献4、参照。)。
【0011】
この方法によれば、静電気により蛍光体ペーストが引き寄せられ、背面基板の凹部(つまり、隔壁間のデータ電極上)にスムーズに注入できる、とある。
【0012】
しかし、この方法は、市販の除電器を静電気発生器として使用するもので、すなわちコロナ放電などにより発生したイオンを基板に吹き付けて帯電させるものである。そのため、隔壁間にだけでなく、隔壁頂部にも静電気が付与され、蛍光体ペーストを引き寄せる。そのため、頂部付着や、混色などの問題は、静電気発生器不使用の場合と同様に起こりえる。また、基板に吹き付けられたイオンによる帯電が、蛍光体ペースト塗布後の基板に残存するため、後工程におけるホコリの付着や、ハンドリング時の放電による基板ダメージ等の問題を引き起こす原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3778234号公報
【特許文献2】特開2001−314797号公報
【特許文献3】特開2003−297241号公報
【特許文献4】特開2002−42651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題に鑑み、微細な放電セル構造の場合でも、蛍光体層を精度良く均一に形成することができる表示装置の製造方法と蛍光体塗布装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために本発明の蛍光体ペースト塗布装置は、以下の構成をとる。すなわち、基板上に略ストライプ状の複数の隔壁、および該複数の隔壁と略平行かつ各隔壁間に設けられた複数のデータ電極を有するディスプレイ部材の隔壁間の凹部に蛍光体ペーストを塗布する蛍光体ペースト塗布装置であって、該複数の隔壁間の凹部に相対する複数の吐出孔と蛍光体ペースト収容部分とを有するノズルと、該基板と略平行かつ該基板上に投影した像が該複数のデータ電極と略直交するように該複数のデータ電極と離間して配置された誘導電極と、該誘導電極に接続された高圧電源とを備えることを特徴とする蛍光体ペースト塗布装置である。
【0016】
前記ノズルは接地されていることが好ましい。
【0017】
前記誘導電極の長手方向に垂直な断面における該誘導電極の外縁を形成する線の曲率半径の最小値は、5mm以上であることが好ましい。
【0018】
前記誘導電極と前記データ電極との距離は0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0019】
前記誘導電極は、導体を誘電体で被覆した電極であることが好ましい。
【0020】
前記高圧電源は交流電源であることが好ましい。
【0021】
前記基板を挟んで前記ノズルと対向する位置に、前記基板を保持するステージを備え、該ステージの対接地漏洩抵抗が1×10Ω以上、1×1012Ω以下であることが好ましい。
【0022】
前記基板を挟んで前記ノズルと対向する位置に、前記基板を保持するステージを備え、前記ステージの減衰時定数が1ms以上10s以下であることが好ましい。
【0023】
前記基板を挟んで前記ノズルと対向する位置に、前記基板を保持するステージを備え、前記誘導電極を、前記ステージ表面に設けた凹部内に配置することが好ましい。
【0024】
また、本発明の蛍光体ペーストの塗布方法は、以下の特徴を有する。すなわち、基板上に略ストライプ状の複数の隔壁、および該隔壁と略平行かつ各隔壁間に設けられた複数のデータ電極を有するディスプレイ部材の隔壁間の凹部に蛍光体ペーストを塗布する蛍光体ペーストの塗布方法であって、該複数の隔壁間の凹部に相対する複数の吐出口と蛍光体ペースト収容部分とを有するノズルの吐出孔から蛍光体ペーストを吐出しながら、該基板と略平行かつ該基板上に投影した像が該複数のデータ電極と略直交するように該複数のデータ電極と離間して配置された誘導電極に電圧を印加することにより、前記データ電極に誘導電位を付与することを特徴とする蛍光体ペーストの塗布方法である。
【0025】
前記基板の減衰時定数をτとするとき、前記印加電圧が、5/τ[Hz]以上の周波数の交流電圧であることが好ましい。
【0026】
前記誘導電位が100V以上、800V以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、以下に説明するとおり、微細な放電セル構造であっても、精度良く均一に蛍光体層が形成された表示装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る蛍光体ペーストの塗布装置の正面概略図である。
【図2】誘導電極に電圧が印加された場合の、誘導電極直下位置における基板の帯電状態を示す概略説明図である。
【図3】誘導電極に電圧が印加された場合の、ノズル直下位置における基板の帯電状態を示す概略説明図である。
【図4】誘導電極に直流ステップ電圧を印加した場合、基板が導電性のステージ上におかれた場合の基板電位波形を示す概略説明図である。
【図5】誘導電極に直流ステップ電圧を印加した場合、基板が絶縁性のステージ上におかれた場合の基板電位波形を示す概略説明図である。
【図6】誘導電極に直流ステップ電圧を印加した場合、基板が半導電性のステージ上におかれた場合の基板電位波形を示す概略説明図である。
【図7】導電性のステージ上におかれた基板の誘導による基板電位を求めるための等価回路を示す概略説明図である。
【図8】絶縁性のステージ上におかれた基板の誘導による基板電位を求めるための等価回路を示す概略説明図である。
【図9】半導電性のステージ上におかれた基板の誘導による基板電位を求めるための等価回路を示す概略説明図である。
【図10】半導電性のステージ上におかれた基板の誘導による基板電位振幅の周波数特性を示す概略説明図である。
【図11】実施例2および比較例1における基板電位振幅の周波数特性を示す説明図である。
【図12】一般的なプラズマディスプレイパネルの概略断面図である。
【図13】本発明の第2の実施形態に係る蛍光体ペーストの塗布装置の正面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の蛍光体ペーストの塗布装置の好ましい実施形態例を、図面を参照しながら説明する。蛍光体ペーストを塗布するディスプレイ部材として、ストライプ状のデータ電極と、データ電極を被覆する誘電体層と、ストライプ状の隔壁とを有する基板を用いる場合を例にとって、説明するが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、例えば、ストライプ状の複数の隔壁と、該隔壁と略直交する複数の補助隔壁からなる格子状の隔壁を有する基板を用いてもよい。また、例えば、データ電極が誘電体層によって被覆されておらず、基板表面に露出した状態となっている基板でもよい。
【0030】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る蛍光体ペーストの塗布装置の正面概略図である。図1において、隔壁(図示しない)、データ電極13、および誘電体層(図示しない)を有する基板11がステージ19上に置かれており、基板11上を、基板11から短いギャップで離間したノズル16が隔壁の長手方向に移動しながら蛍光体ペースト(図示しない)を吐出する。誘導電極17は、データ電極13の長手方向と直交する方向を長手方向として、基板11と略平行に、基板11から離間した位置に置かれており、高圧電源18に接続されている。
【0031】
ここで、誘導電極17に電圧が印加された場合の、基板11各部の帯電状態を説明する。ここでは、誘導電極17に負電圧が印加された場合を例にあげて説明する。
【0032】
図2に誘導電極直下位置における基板の帯電状態を、図3にノズル直下における帯電状態を示す。誘導電極に負電圧が印加されると、非接地の導体であるデータ電極13に誘導により負電位が生じる。データ電極13の誘導電位は、導体内部において電荷の再配分が瞬時に起こるため、その連続する範囲において、一様である。一方、絶縁体である隔壁12や、誘電体層14では、誘導電極17の直下の位置において分極が生じるが、誘導電極17から離れた位置においては、電位は生じない。従って、ノズル16の直下位置においては、データ電極13のみが誘導電位を有する状態となる。
【0033】
ノズル16から吐出された蛍光体ペースト15は、図3に示すように、データ電極13に接近した蛍光体ペースト15表面に、プラス電荷が誘導される。データ電極13のマイナス電位と、吐出部分に誘導された蛍光体ペースト15内のプラス電荷とが引き合い、蛍光体ペースト15はデータ電極13に引き寄せられる。
【0034】
一方、隔壁12の部分については、ノズル16の直下において、誘導による電位は発生しないため、ノズル16から吐出された蛍光体ペースト15が隔壁12に接近しても隔壁12には蛍光体ペースト15を積極的に引き寄せる働きはない。従って、蛍光体ペースト15は隔壁12間の凹部(データ電極13を有する部分)に効率よく進入し、隔壁12の頂部への付着や、混色が生じにくい。また、塗布された蛍光体ペースト15が凹部下面に到達しやすくなるため、塗布の抜けなどの塗布欠点が抑えられる。
【0035】
ここで、蛍光体ペースト15の内部では、誘導されたプラス電荷と等量のマイナス電荷が過剰となり、ノズル16内の蛍光体ペースト15全体に分散する。ノズル16内に収容される蛍光体ペースト15の量が吐出された蛍光体ペースト15の量に比べて十分多ければ、蛍光体ペースト15全体のマイナス電荷の偏りはわずかであり、塗布に対する影響は小さい。但し、塗布の進行により蛍光体ペースト15のマイナス電荷が蓄積する場合、ノズル16を接地しておくことが好ましい。ノズル16を接地した場合、蛍光体ペースト15内の過剰なマイナス電荷がノズル16を通じて接地に流れるため、蛍光体ペースト15にマイナス電荷が蓄積せず、塗布の初期から終端に亘って、安定な塗布を実現できる。
【0036】
誘導時にコロナ放電や火花放電が生じると、帯電の均一性が失われ、また、塗布後の基板に帯電が残留するなどの悪影響が生じやすいため、誘導電極17は長手方向に垂直な断面において、なめらかな外縁形状を持ち、曲率半径5mm以下の尖鋭部を有しないことが好ましい。このような断面形状としては、円形、長円形、楕円形、角丸長方形などがあげられる。放電を抑制しながら平行平板状の高電界を形成するための電極として知られるロゴウスキー電極や、擬似ロゴウスキー電極の対となる電極のうちの1つの電極の断面形状と同じ断面形状を有するようにしてもよい。また、誘導電極17は外縁の形状が放電の発生有無に影響するため、内部が外部と同じ材料で形成される中実電極であっても、内部に空洞を有する中空電極であっても、また、内部に外部と異なる材料が挿入された電極であってもいずれでもかまわない。
【0037】
また、同様に火花放電を抑制する目的で、誘導電極17の構造を、電圧印加部分である導体の表面に誘電体を被覆したものとすることが好ましい。これは、仮に誘導電極表面に異物等が付着して尖鋭部が形成され、電界の均一性が損なわれたとしても、誘電体層が抵抗層として働き、大電流による火花放電に至り難くすることができるからである。このような誘電体層の材料としては、ガラスや、セラミックス、ホーロー等の絶縁耐圧の高い誘電体材料があげられる。誘電体層の被覆厚さは、火花放電防止に十分な電流制限のための抵抗として働けば、任意にでき、好適な厚さとしては0.1mm〜1mm程度である。
【0038】
誘導電極に印加する電圧は、正、負いずれでもよい。これは、基板近傍に押し出されたペースト表面には、データ電極に誘導される電位と逆極性の電荷が誘導されるので、常に吸引力が得られるためである。また、印加電圧として、交流電圧を使用することも、可能であり、好ましい。これは、交流印加の際には、マイナス印加時に(データ電極がマイナス電位を持ち)、ノズルから引き出された部分のペーストにプラス電荷が誘導されてデータ電極にペーストが吸引され、プラス印加時に(データ電極がプラス電位を持ち)、ノズルから引き出された部分のペーストにマイナス電荷が誘導され、データ電極にペーストを吸引されるためである。ただし、データ電極の電位の極性が切り替わる際にはこの引き合う力が弱まるため、交流周期が長い、すなわち誘導電極に印加する電圧の周波数が低い場合には、吸引力が長い周期で変化することになる。この場合、吸引力の強弱が、塗布の状態のムラになりやすく、好ましくない。従って、塗布速度に対して、十分短い時間でプラスマイナスの極性が切り替わる電圧とすることが好ましい。例えば、プラズマディスプレイパネルにおける、1つの放電セルの、塗布方向長さがl[mm]で、塗布速度がv[mm/s]の場合、1セルの塗布にかかる時間l/v[s]より十分短い時間でプラスマイナスの極性が切り替わるようにすればよい。この条件として、たとえば、周波数f[Hz]がv/lの5倍以上とすれば、ペーストを引き合う強さが、セルによって変わることがほとんどなく、好ましい。例えば、ストライプ状の隔壁だけでなく、該隔壁と略直交しデータ電極の長手方向の画素間を区切る複数の補助隔壁からなる格子状の隔壁を有する基板の場合、この補助隔壁の間隔をlとして、f≧5×l/vとなる条件で塗布を行えばよい。
【0039】
また、交流電圧の印加は、次に述べるように、特に半導電性のステージ上で塗布を行う場合、誘導電極に印加する電圧の大きさを小さくできるため、コロナ放電抑制や、火花放電抑制、電源サイズの低減などの点からも好ましい。
【0040】
PDP基板のデータ電極に接近した誘導電極に直流ステップ電圧を印加した場合、基板がおかれたステージの材質により、データ電極に誘導される電位(誘導電位)は図3に示す形となる。
【0041】
図4はステージが導電性で対地漏洩抵抗が1×10Ω未満の場合の誘導電位波形で、誘導電位は低い値でほぼ一定である。
【0042】
図5はステージが絶縁性で対地漏洩抵抗が1×1012Ω以上の場合の誘導電位波形で、誘導電位は高い値でほぼ一定である。
【0043】
図6はステージが半導電性で対地漏洩抵抗が1×10Ω以上、1×1012Ω未満の場合の誘導電位波形で、電圧印加直後は高い誘導電位となるが、その後経時で減衰し、低い値でほぼ一定となる。
【0044】
これは、データ電極の電位を示す等価回路が図7〜図9のようになるためである。
【0045】
すなわち、ステージが導電性の場合には、そもそもデータ電極の誘導電位が大きくできない。これは、図7の等価回路が示すように、データ電極の電位Vが、基板ガラスのみの静電容量Cglassにかかる電圧として得られるためである。すなわち、誘導電極への印加電圧Eが、誘導電極−データ電極間の空気ギャップ部分の静電容量Cairと、データ電極−ステージ間のガラス部分の静電容量Cglassとの比で分圧されるためである。誘導電極の面積を大きくしたり誘導電極―データ電極間の距離を小さくしたりして、誘導電極−データ電極間の空気ギャップ部分の静電容量Cairを大きくすることや、誘導電極に印加する電圧Eを大きくすることなどにより、データ電極に分圧される電位Vをある程度大きくすることは可能であるが、設備の構成要素が大きくなる、印加電圧が大きくなって放電が起こりやすくなるなど、他に悪影響を生じやすい。
【0046】
一方、ステージが絶縁性の場合、データ電極の電位は、図8の等価回路が示すように、ガラス部分の静電容量量Cglassとステージ部分の静電容量Cstageを直列接続した静電容量にかかる電圧として得られるため大きくなる。しかし、実際にPDP基板の様に精密塗布を行うステージは、導体または半導体であることが一般的である。これは、樹脂などの絶縁性のステージが機械的強度不足となるほか、ステージ上に基板が次々に接触−剥離されることでステージ自体が帯電し、異物の付着を引き起こすなどの問題を生じさせやすいためである。また、ステージ自体に帯電があれば、データ電極の誘導電位にもこのステージの電位がオフセットとしてかかるため、制御が困難になり、この面でも好ましくない。
【0047】
これらに対し、ステージが半導電性の場合には、誘導電極への印加電圧を交流とすると、交流電圧の周波数に応じてデータ電極の誘導電位の振幅を大きくできる。これは、誘導電位Vの振幅が、
V=ωCairE/{(1/Rstage+ω(Cair+Cglass+Cstage1/2
(但し、ω=2πf)のように、周波数の関数となるためである。図4Cの等価回路では、基板電位振幅の周波数特性は図10のようになり、f>100Hzでは、CairE/(Cair+Cglass+Cstage)に漸近する。すなわち、印加電圧の周波数を高くするだけで、設備構成要素の大型化や、印加電圧の増加およびそれにともなう放電の危険増加なしに、大きな誘導電位が得られる。
【0048】
図9に示す等価回路から判るとおり、ステージの対地静電容量と、対地漏洩抵抗の積により、誘導電位を効率的に大きくできる周波数が変わってくる。ステージの対地静電容量と、対地漏洩抵抗の積は、すなわち、ステージ自身が帯電した場合の帯電の減衰時定数τに相当する。τが、1ms以上、10s以下であれば、1/τより十分大きい周波数の電圧を誘導電極に印加すればよく、好適な周波数範囲を誘導電極に印加する電圧範囲に選ぶことができ、好ましい。周波数としては、特に、1/τの5倍以上の周波数とすることが好ましい。ここで、対地漏洩抵抗の測定は、市販の表面抵抗計などの機能を用いて直接測定することができる。例えば、シムコ社製、表面抵抗計ST−3により、接地までの総電気抵抗を測定した値を用いればよい。一方、対地静電容量については、ステージ材質自体の持つ誘電率を物性表などにより求めることが可能である。また、ステージ自体を直接コロナ荷電などにより帯電させ、その帯電電位が初期値の1/eに減衰する時間を直接測定して、帯電減衰時間τとしてもよい。
【0049】
発明者らの検討によれば、蛍光体ペーストを基板の隔壁間の凹部に引き寄せるのに必要なデータ電極の電位は、ノズルと隔壁頂部と、また、ノズルと隔壁間凹部の底部との距離にも依存するが、ノズルと隔壁頂部との距離が0.1〜0.4mm、ノズルと隔壁間凹部の底部との距離が0.2〜0.5mm程度の場合、おおむね100V以上、好ましくは300V以上である。
【0050】
誘導電極に直流電圧を印加する場合、データ電極の誘導電位がこの値以上となるようにし、交流電圧を印加する場合、データ電極の誘導電位の実効値がこの値以上となるようにするとよい。
【0051】
一方、データ電極の電位が高すぎると、ノズルの接近により空気が絶縁破壊される。このため好ましい電位の上限は、1200V程度である。従って、誘導電極に直流電圧を印加する場合、データ電極の誘導電位がこの値以下となるようにし、交流電圧を印加する場合、データ電極の誘導電位の振幅がこの値以下となるようにするとよい。
【0052】
誘導電極とデータ電極との距離は、近くすれば、空気ギャップ部分の静電容量を大きくでき、誘導電位を大きくできるが、近すぎると、誘導電極の長手方向のわずかな平坦性のムラが、空気ギャップの大きさの幅方向のムラになり、局所的に静電容量を大きく変化させることになる。そのため、0.5mm以上、5mm以下とするのが好ましい。
【0053】
また、図1では基板11上部に基板11と略平行に誘導電極17を配置しているが、図13に示す本発明の第2の実施形態のようにステージ19の表面に凹部20を設け、その凹部20内に誘導電極17を配置してもよい。この場合、基板11と誘導電極17との間隔を一定にし易く、また、ノズル16と基板11との相対動作にともなう、誘導電極17と基板11のデータ電極13との間の静電容量の変化も起こりがたく好適である。
【0054】
ここで、塗布終了後に誘導電極への電圧印加を停止すれば、データ電極の誘導電位もゼロとなる。基板上に残る帯電は、ペーストに誘導された電荷分のみである。ここでも、交流電圧を使用した場合、ペーストに誘導される電荷は正負がほぼバランスされるため、基板に不要な帯電が残り難い。このため、塗布後の基板に特段の除電を行わずとも、搬送時に放電するといった問題や、帯電により異物を引き寄せるなどの問題が起こりにくくなる。
【実施例】
【0055】
実施例1
図1のように載置ステージ上に基板サイズ990×600mm、基板面には高さ100μmで頂部の幅70μmの隔壁が、ピッチ250μm(溝幅180μm)で3841本形成され、各隔壁間に幅60μmのデータ電極が形成された基板を移載機により載置し、画像処理、及び位置決め制御により代表の隔壁間溝中心位置と塗布ヘッドの代表吐出孔と一致させた後、赤色(R)の蛍光体を含む塗液(粘度約30Pa・s)を圧力約300KPa、塗布開始時の塗布速度を20mm/sec、塗布開始から30mm移動した時点で塗布速度を80mm/secに変化させて、塗布終了時点では吐出と移動をほぼ同時に停止し、塗布ヘッドの吐出孔のある面と基板の隔壁頂点との間隔を100μmにして塗布を行った。誘導電極として、直径20mmのSUS製パイプに厚さ0.3mmのホーロー被覆を行った電極を用いた。誘導電極は隔壁上部から1mm、データ電極から約1.1mm離した位置に、基板と平行に、隔壁の長手方向と直交する方向を長手方向として設置した。
【0056】
基板を置いた載置ステージは石製で、対地漏洩抵抗は1×107.9Ω、減衰時定数は0.3秒であった。
【0057】
誘導電極に、振幅2kV、周波数1kHzの高周波電圧を印加した。誘導による基板電位は、トレック社製電位計370を、基板の隔壁上部から0.5mmの位置において測定した。
【0058】
印加中の基板電位は、振幅370Vの正弦波となった。隔壁頂部付着、隔壁を超えた隣の溝への塗液のはみだしは見られなかった。
【0059】
実施例2
実施例1と同様の装置を用い、塗布を行わずに、誘導電極に印加する周波数および電圧振幅を変化させた際の基板電位を測定した。結果を図11に示す。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、導電性のデータ電極に、非接触で誘導による電位を付与することで、ペーストを引き寄せることができるため、プラズマディスプレイパネルにおける蛍光体ペーストの塗布に適する。また、同様に、連続した導体部分を有する基板であれば、非接触で誘導による電位を付与可能であることから、同様の構成を持つ基材におけるパターン状のペーストの塗布にも好適に用いられる。
【符号の説明】
【0061】
11 基板
12 隔壁
13 データ電極
14 誘電体層
15 蛍光体ペースト
16 ノズル
17 誘導電極
18 高圧電源
19 ステージ
20 凹部
21 基板
22 走査電極
23 維持電極
24 誘電体層
25 保護膜
26 蛍光体層
27 放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に略ストライプ状の複数の隔壁、および該複数の隔壁と略平行かつ各隔壁間に設けられた複数のデータ電極を有するディスプレイ部材の隔壁間の凹部に蛍光体ペーストを塗布する蛍光体ペースト塗布装置であって、
該複数の隔壁間の凹部に相対する複数の吐出孔と蛍光体ペースト収容部分とを有するノズルと、
該基板と略平行かつ該基板上に投影した像が該複数のデータ電極と略直交するように該複数のデータ電極と離間して配置された誘導電極と、
該誘導電極に接続された高圧電源とを備えることを特徴とする蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項2】
前記ノズルが接地されている請求項1記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項3】
前記誘導電極の長手方向に垂直な断面における該誘導電極の外縁を形成する線の曲率半径の最小値が5mm以上である請求項1または2に記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項4】
前記誘導電極と前記データ電極との距離が0.5mm以上5mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項5】
前記誘導電極が、導体を誘電体で被覆した電極である請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項6】
前記高圧電源が交流電源である請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項7】
前記基板を挟んで前記ノズルと対向する位置に、前記基板を保持するステージを備え、該ステージの対接地漏洩抵抗が1×10Ω以上、1×1012Ω以下であることを特徴とする請求項6に記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項8】
前記基板を挟んで前記ノズルと対向する位置に、前記基板を保持するステージを備え、前記ステージの減衰時定数が1ms以上10s以下であることを特徴とする請求項6に記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項9】
前記基板を挟んで前記ノズルと対向する位置に、前記基板を保持するステージを備え、前記誘導電極を、前記ステージ表面に設けた凹部内に配置したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の蛍光体ペースト塗布装置。
【請求項10】
基板上に略ストライプ状の複数の隔壁、および該隔壁と略平行かつ各隔壁間に設けられた複数のデータ電極を有するディスプレイ部材の隔壁間の凹部に蛍光体ペーストを塗布する蛍光体ペーストの塗布方法であって、
該複数の隔壁間の凹部に相対する複数の吐出口と蛍光体ペースト収容部分とを有するノズルの吐出孔から蛍光体ペーストを吐出しながら、該基板と略平行かつ該基板上に投影した像が該複数のデータ電極と略直交するように該複数のデータ電極と離間して配置された誘導電極に電圧を印加することにより、前記データ電極に誘導電位を付与することを特徴とする蛍光体ペーストの塗布方法。
【請求項11】
前記基板の減衰時定数をτとするとき、前記印加電圧が、5/τ[Hz]以上の周波数の交流電圧であることを特徴とする請求項10に記載の蛍光体形成方法。
【請求項12】
前記誘導電位が100V以上、800V以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の蛍光体形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−28974(P2011−28974A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172907(P2009−172907)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】