説明

蛍光体及び波長変換器ならびに発光装置

【課題】発光素子から発せられる光を蛍光体で波長変換する発光装置において、異相の発生を抑制し、赤色成分の発光効率を向上することにある。
【解決手段】Ba3-x-yEuxMnyMgSiz8(0.15<x≦0.225、0.05≦y≦0.125、1.74≦z≦2.05)結晶の格子定数aが、5.5960Å<a<5.6064Åであり、Eu、Mnを賦活剤として含有するBa3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜32°付近で検出されるピークのX線(Cu−Kα)回折強度をAとし、Ba2MgSi27結晶の2θ=27.7°〜28.2°でのピークのX線回折強度をBとし、Ba2SiO4結晶の2θ=29.2°〜29.8°でのピークのX線回折強度をCとしたとき、B/(A+B)が0.4以下であり、C/(A+C)が0.1以下の蛍光体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光又は可視光を吸収し、長波長の可視光を発する蛍光体、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)などの発光素子から発せられる光を波長変換して外部に取り出す蛍光体を含有する波長変換器、さらに波長変換器を搭載した発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料からなる発光素子(以下「LEDチップ」とも言う)は、小型で電力効率が良く鮮やかに発色する。LEDチップは、製品寿命が長い、オン・オフ点灯の繰り返しに強い、消費電力が低い、という優れた特徴を有するため、液晶等のバックライト光源や蛍光ランプ等の照明用光源への応用が期待されている。
LEDチップの発光装置への応用は、LEDチップの光の一部を蛍光体で波長変換し、当該波長変換された光と波長変換されないLEDの光とを混合して放出することにより、LEDの光とは異なる色を発光する発光装置として既に製造されている。
この発光装置は、青色LEDチップ上に(Y,Gd)3(Al,Ga)512の組成式で表されるYAG系蛍光体等の黄色成分の蛍光体を形成したものである。
【0003】
この発光装置では、発光素子から発する光が黄色成分の蛍光体に照射されると、黄色成分の蛍光体は励起されて可視光を発し、この可視光が出力として利用される。ところが、発光素子の明るさを変えると、青色と黄色との光量比が変化するため、白色の色調が変化し、演色性に劣るといった問題があった。
そこで、このような課題を解決するために、発光素子として400nm以下のピークを有する紫色LEDチップを用いるとともに、波長変換層には3種類の蛍光体を高分子樹脂中に混ぜ込んだ構造を採用し、紫色光を赤色、緑色、青色の各波長に変換して白色を発光することが提案されている(特許文献1参照)。これにより、演色性を向上することができる。
しかしながら、特許文献1に記載の発光装置では、励起光400nm付近の紫外域領域に対する赤色成分の蛍光体の発光効率が低いため、白色光の効率を向上できないという問題があった。
【0004】
このような状況を鑑み、赤色成分の蛍光体の開発が行われてきたが、高い発光効率を有する蛍光体はなかった。
例えば、非特許文献1に珪酸塩系蛍光体に関して、報告されているが、本発明らがトレース実験した結果、格段に発光効率が高いものではなかった。従来技術(非特許文献1のトレース:比較例2に相当)の格子定数は5.6064Åである。従来技術では異相の析出抑制ができず、格子定数が最適な範囲に入らないので、赤色成分の発光効率が低い。
【特許文献1】特開2002−314142号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,Vol.84,No.15,2931〜2933(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、発光素子から発せられる光を蛍光体で波長変換する発光装置において、異相の発生を抑制し、赤色成分の発光効率を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、調合組成を非化学量論組成にすることにより、赤色成分の発光効率が向上できることを見出した。
すなわち、本発明の蛍光体及び波長変換器ならびに発光装置は以下の構成を有する。
(1)化学式:Ba3-x-yEuxMnyMgSiz8(0.15<x≦0.225、0.05≦y≦0.125、1.74≦z≦2.05)で表される結晶からなり、該結晶の格子定数aが、5.5960Å<a<5.6064Åであることを特徴とする蛍光体。
(2) 主たる結晶がBa3MgSi28であり、該結晶はEu、Mnを賦活剤として含有し、前記Ba3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜32°付近で検出されるピークのX線(Cu−Kα)回折強度をAとし、Ba2MgSi27結晶の2θ=27.7°〜28.2°でのピークのX線回折強度をBとし、Ba2SiO4結晶の2θ=29.2°〜29.8°でのピークのX線回折強度をCとしたとき、B/(A+B)が0.4以下であり、C/(A+C)が0.1以下であることを特徴とする蛍光体。
(3)透明マトリクス中に蛍光体が分散しており、光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器であって、前記蛍光体のうち少なくとも一つの成分が、前記(1)または(2)に記載の蛍光体であることを特徴とする波長変換器。
(4)蛍光体のその他の成分が、(M,Mg)10(PO46Cl2:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)、またはBaMgAl1017:Eu、またはM2SiO4:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)であることを特徴とする前記(3)記載の波長変換器。
(5)励起光を発する化合物半導体からなる発光素子と、前記発光素子と電気的に接続し、かつ外部と接続させるための導体と、前記励起光の波長を変換する波長変換器とを基板上に備え、前記波長変換器が前記(3)または(4)に記載の波長変換器であることを特徴とする発光装置。
【発明の効果】
【0007】
上記(1)によれば、Ba3-x-yEuxMnyMgSiz8(0.15<x≦0.225、0.05≦y≦0.125、1.74≦z≦2.05)結晶からなり、その格子定数aが、5.5960Å<a<5.6064Åであるので、Eu,Mnドープ量が最適化され、その結果励起光の吸収が最大になり、さらに発光の自己吸収が抑制できるため、赤色成分の発光強度を向上することができる。
上記(2)によれば、Eu、Mnを賦活剤として含有するBa3MgSi28結晶の31.5〜32のX線(Cu−Kα)回折強度をAとし、Ba2MgSi27結晶の2θ=27.7°〜28.2°のX線回折強度をBとし、Ba2SiO4結晶の2θ=29.2°〜29.8°のX線回折強度をCとしたとき、B/(A+B)が0.4以下、さらにC/(A+C)が0.1以下であるので、異相の発生を抑制し、赤色成分の発光効率を向上することができる。
上記(3)によれば、透明マトリクス中に蛍光体が分散しており、光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器において、前記蛍光体のうち少なくとも一つの成分が、上記(1)または(2)に記載の蛍光体であるので、600nm以上の赤色成分の発光効率を向上することができるため、高い発光特性、演色性を実現することができる。
上記(4)によれば、前記蛍光体と、(M,Mg)10(PO46Cl2:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)、またはBaMgAl1017:Eu、またはM2SiO4:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)との混合物であるので、青色、緑色、赤色の発光効率が非常に高いため、混合物から発せられる白色光の発光効率を向上することができる。
上記(5)によれば、上記波長変換器を備えているため、安全性、演色性および発光効率に優れた発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の蛍光体は、Ba3-x-yEuxMnyMgSiz8からなり、結晶の格子定数aが、5.5960Å<a<5.6064Åである。x、y、zはそれぞれ、0.15<x≦0.225、0.05≦y≦0.125、1.74≦z≦2.05である。前記格子定数aが前記範囲内にあれば、Eu,Mnドープ量が最適化され、その結果励起光の吸収が最大になり、さらに発光の自己吸収が抑制できるため、赤色成分の発光強度を向上することができる。
なお、本発明にかかる化合物組成の元素分析は、例えば蛍光X線分析装置を用いて測定することができ、また格子定数は、例えばX線回折装置を用いて測定することができる。
本発明の蛍光体は、基本となる結晶構造はBa3MgSi28であり、赤発光はBa3MgSi28結晶にEu,Mnが共賦活されている。
しかし、母材を構成するBa,Mg,Si組成が変化すると、Ba2SiO4,Ba2MgSi27の異相が析出し、赤発光の効率が低下する。母材を構成するBa、Mg、Siの調合組成を1.32<(Ba/Si)<1.57、0.48<(Mg/Si)<0.58にすれば、異相の析出量は少なく、赤発光にさほど影響しない。より高い赤の発光強度を得るには、1.36≦(Ba/Si)≦1.54かつ0.50≦(Mg/Si)≦0.56であることが望ましい。
【0009】
Euのモル比xは、Ba3-x-yEuxMnyMgSiz8中で0<x≦1を満たせばよい。しかし、発光中心イオンEu2+のモル比xが小さすぎると、発光強度が小さくなる傾向があり、一方、多すぎても、濃度消光と呼ばれる現象によりやはり発光強度が小さくなる傾向がある。下限としては0.02≦xが好ましく、上限としてはx≦0.5が好ましい。
【0010】
Mnのモル比は0.02≦y≦0.4を満たせばよい。しかし本発明の蛍光体は励起光源の照射を受けて励起したEu2+のエネルギーがMn2+に移動し、Mn2+が赤発光しているものと考えられているため、Mnの組成によりエネルギー移動の程度が異なる。それゆえ効率よく赤色発光強度を得るには、0.075≦y≦0.15のMn組成が好ましい。
【0011】
Siのモル比は1.74≦z≦2.05を満たせばよい。しかしSiのモル比が前記下限値より小さいと、Ba2SiO4の緑発光が強くなり、上限を超えるとBa2MgSi27の緑発光が強くなる。それゆえ効率よく赤色発光強度を得るには、1.8≦z≦2.0のSi組成が好ましい。
【0012】
上記したように、1.32<(Ba/Si)<1.57、0.48<(Mg/Si)<0.58であれば、本発明のEu、Mnを賦活剤として含有するBa3MgSi28結晶の31.5〜32のX線(Cu−Kα)回折強度をAとし、Ba2MgSi27結晶の2θ=27.7°〜28.2°のX線回折強度をBとし、Ba2SiO4結晶の2θ=29.2°〜29.8°のX線回折強度をCとしたとき、B/(A+B)が 0.4 以下、さらにC/(A+C)が0.1以下とすることができる。これにより赤色成分の発光効率を向上することができる。これは、励起光を吸収するが、発光しないBa2MgSi27結晶の発生を抑制するので、発光効率を増大することができる。また、励起光を吸収し、緑色以下の短波長の発光するBa2SiO4結晶の発生を抑制するので、赤色成分を発するBa3MgSi28結晶の存在量を増大することができるため、赤色成分の発光効率を増大することができる。
【0013】
本発明の蛍光体は、Ba、Mg、Eu、Mn、Siの元素源化合物を下記の(A)又は(B)の混合法により調整した混合物を加熱処理して焼成することにより製造することができる。
(A):ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機、又は、乳鉢と乳棒を用いる粉砕とリボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機、又は、乳鉢と乳棒を用いる混合と合わせた乾式混合法。
(B):粉砕機、又は、乳鉢と乳棒等を用いて、水等を加えてスラリー状態又は溶液状態で、粉砕機、乳鉢と乳棒、又は蒸発皿と攪拌棒等により混合し、噴霧乾燥、加熱乾燥、又は自然乾燥等により乾燥させる湿式混合法。
【0014】
これらの混合法の中で、特に、賦活剤の元素化合物においては、少量の化合物を全体に均一に混合、分散させる必要があることから液体媒体を用いるのが好ましく、又、他の元素化合物において全体に均一な混合が得られる面からも、後者湿式混合法が好ましい。
【0015】
加熱処理方法としてはアルミナや石英製の坩堝やトレイ等の耐熱容器中で、1000℃〜1300℃で、酸素、窒素、水素、アルゴン、等の気体の単独或いは混合雰囲気下、1〜24時間、加熱することによりなされる。
また、加熱プロセス中の構成成分の蒸発を抑制するために、埋め焼き、マイクロ波焼成、共剤を用いて熱処理を行っても良い。
【0016】
尚、前記加熱雰囲気としては、賦活元素が発光に寄与するイオン状態(価数)を得るために必要な雰囲気が選択される。本発明における2価のEu,Mn等の場合には、一酸化炭素、窒素、水素、アルゴン等の中性もしくは還元性雰囲気下が好ましい。
【0017】
次に、本発明の波長変換器、さらに該波長変換器を搭載した照明装置を、図面を用いて説明する。図1は、本発明の発光装置の一実施形態を示す概略断面図である。図1によれば、本発明の発光装置は、電極1が形成された基板2と、基板2上に設けられている発光素子3と、基板2上に発光素子3を覆うように形成された1層の波長変換層4と、光を反射する反射部材6とを備えている。
【0018】
波長変換層4は、透明マトリクス中に、430nmから490nmの蛍光を発する青色蛍光物質5a、520nmから570nmの蛍光を発する緑色蛍光物質5b、600nmから650nmの蛍光を発する赤色蛍光体5cが含有されている。光源である発光素子3から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する。
青色蛍光体5aは、400nm前後の励起効率が高い材料からなる。一方、緑色蛍光物質5bは、400nmから460nmまでの光で励起される材料からなる。また、赤色蛍光物質5cは、400nmから460nmだけでなく、550nm付近の光でも励起される材料からなる。
【0019】
上記のような組み合わせを行うことにより、発光素子の励起光だけではなく、蛍光体から発せられる可視光でも励起されるため、外部に発せられる光子数が増大するため、高効率化できる。つまり、発光素子から発せられる400nm前後の光では、励起効率が低く、発せられる蛍光強度が低いのに対して、他の蛍光物質の蛍光も含まれる幅広い範囲の光も吸収することが出来ることから、400nm前後での励起効率が低いという従来の蛍光物質のもつ欠点を補うことが出来る。
【0020】
(蛍光体)
青色蛍光体は、400nm前後の光で励起されて、430nmから490nmの蛍光を発するものであれば、特に限定されないが、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl2:Eu、BaMgAl1017:Eu,Mn、BaMgAl1017:Eu、(Ba,Eu)MgAl1017、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO46Cl17:Eu、Sr10(PO46Cl12:Eu、(Ba,Sr,Eu)(Mg,Mn)Al1017、10(Sr,Ca,Ba,Eu)・6PO4・Cl2、BaMg2Al1625:Eu、等が用いられる。なお、青色蛍光体5aは、〔(M,Mg)10(PO46Cl2:Eu、〕(MはCa,Sr,Baの内少なくとも1種)または〔BaMgAl1017:Eu〕が好適に用いられる。
【0021】
緑色蛍光物質は、400〜460nm前後の光で励起されて、520nmから570nmの蛍光を発するものであれば、特に限定されないが、特にM2SiO4:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)が用いられる。
【0022】
蛍光物質5a、5b、5cの平均粒子径は、0.1〜50μm、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは1〜20μmである。平均粒子径が50μmより大きい場合は、波長変換層4の光透過性が著しく低下することによって、蛍光体5によって発せられた光が波長変換層4から出射せず、その結果、発光装置の発光効率が著しく低下する。
【0023】
(波長変換器)
波長変換器(波長変換層)4は、透明マトリクス中に、蛍光物質5a、5b、5cを含有している。蛍光体5は、発光素子3から発せられる光でそれぞれ直接励起され、変換光として可視光を発生する。波長変換器4内で蛍光体5により変換された変換光は、合成されて出力光として取り出される。
波長変換器4の厚みは、変換効率の観点から、0.1〜5.0mm、好ましくは0.2〜1mmとするのがよい。厚みをこの範囲内とすれば、蛍光体5による波長変換効率を向上でき、変換された光が他の蛍光体により吸収されることを抑制することができる。その結果、発光素子3から発せられる光を可視光に高効率で変換することができ、さらに変換された可視光を外部に高効率で透過させることができる。
波長変換器4内で変換された出力光のピーク波長は、400〜750nm、特に450〜650nmであることが好ましい。これにより、幅広い範囲で発光波長をカバーし、演色性を向上することができる。
【0024】
(透明マトリクス)
波長変換器4は、蛍光体5を均一に分散および担持し、かつ蛍光体5の光劣化を抑制することができるため、高分子樹脂やガラス材料などの透明マトリクス中に分散して形成することが好ましい。高分子樹脂膜、ゾルゲルガラス薄膜などのガラス材料としては、透明性が高く、かつ加熱や光によって容易に変色しない耐久性を有するものが望ましい。
高分子樹脂膜は、材料は特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ポリアリレート、さらにこれら材料の誘導体が用いられる。特に、350nm以上の波長域において優れた光透過性を有していることが好ましい。このような透明性に加え、耐熱性の観点から、シリコーン樹脂がより好適に用いられる。
ガラス材料は、シリカ、チタニア、ジルコニア、さらにそれらのコンポジット系を例示できる。ガラス材料中に蛍光体5をそれぞれ単独で分散させて形成する。高分子樹脂膜と比較して、光、特に紫外光に対する耐久性が高く、さらに熱に対する耐久性が高いことから、製品の長寿命化を実現できる。また、ガラス材料は、安定性を向上させることができることから、信頼性に優れた発光装置を実現できる。
【0025】
(波長変換器の作製)
波長変換器4は、ゾルゲルガラス膜などのガラス材料または高分子樹脂膜を用いて、塗布法により形成することができる。一般的な塗布法であれば限定されないが、ディスペンサーによる塗布が好ましい。例えば、液状で未硬化の樹脂、ガラス材料、または溶剤で可塑性を持たせた樹脂およびガラス材料に、蛍光体5を混合することにより製造することができる。未硬化の樹脂としては、例えばシリコーン樹脂が使用できる。これらの樹脂は2液を混合して硬化させるタイプのものであっても1液で硬化するタイプのものであっても良く、2液を混合して硬化させるタイプの場合、両液にそれぞれ蛍光体5を混練してもよく、あるいはどちらか一方の液に蛍光体5を混練しても構わない。また、溶剤で可塑性を持たせた樹脂としては例えばアクリル樹脂を使用することができる。
硬化した波長変換器4は、未硬化状態でディスペンサー等の塗布法を使用するなどして、フィルム状に成形したり、所定の型に流し込んで固めることで得られる。樹脂およびガラス材料を硬化させる方法としては、熱エネルギーや光エネルギーを使う方法がある他、溶剤を揮発させる方法がある。
【0026】
(発光装置)
本発明の波長変換器および発光装置について、図を用いて以下説明する。図1は、本発明の発光装置の一実施形態示す概略断面図である。本発明の発光装置は、励起光を発する化合物半導体からなる発光素子3と、前記発光素子と電気的に接続し、かつ外部と接続させるための導体(電極)1と、前記励起光の波長を変換する波長変換器4とを基板2上に備えている。波長変換器4は、透明マトリクス中に分散している蛍光体5を備え、光源である発光素子3から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する。また、図1の発光装置は反射部材6を備えている。
【0027】
(導体)
導体1は、発光素子3を電気的に接続するための導電路としての機能を有し、導電性接合材で発光素子3と接続されている。導体1としては、例えば、W,Mo,Cu,Ag等の金属粉末を含むメタライズ層を用いることができる。導体1は、基板2がセラミックスから成る場合、その上面に配線導体がタングステン(W),モリブデン(Mo)−マンガン(Mn)等から成る金属ペーストを高温で焼成して形成され、基板2が樹脂から成る場合、銅(Cu)や鉄(Fe)−ニッケル(Ni)合金等から成るリード端子がモールド成型されて基板2の内部に設置固定される。
【0028】
(基板)
基板2は、熱伝導性に優れ、かつ全反射率の大きいことが求められるため、例えばアルミナ、窒素アルミニウム等のセラミック材料の他に、金属酸化物微粒子を分散させた高分子樹脂が好適に用いられる。
【0029】
(発光素子)
発光素子3は、蛍光体の励起を効率的に行なうことができるため、中心波長が370〜420nmの光を発する半導体材料を備えた発光素子を用いている。これにより、出力光の強度を高め、より発光強度の高い照明装置を得ることが可能となる。
発光素子3は、上記中心波長を発するものが好ましいが、発光素子基板表面に、半導体材料からなる発光層を備える構造(不図示)を有していることが、高い外部量子効率を有する点で好ましい。このような半導体材料として、ZnSeや窒化物半導体(GaN等)等種々の半導体を挙げることができるが、発光波長が上記波長範囲であれば、特に半導体材料の種類は限定されない。これらの半導体材料を有機金属気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタシャル成長法等の結晶成長法により、発光素子基板上に半導体材料からなる発光層を有する積層構造を形成すれば良い。発光素子基板は、結晶性の良い窒化物半導体を量産性よく形成させるために、例えば窒化物半導体からなる発光層を表面に形成する場合、サファイア、スピネル、SiC、Si、ZnO、ZrB2、GaNおよび石英等の材料が好適に用いられる。
【0030】
(反射部材)
発光素子3と波長変換器4の側面には、必要に応じて、光を反射する反射部材6を設け、側面に逃げる光を前方に反射し、出力光の強度を高めることができる。反射部材6の材料としては、例えばアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、金(Au)、鉄(Fe)およびこれらの積層構造物や合金、さらにアルミナセラミックス等のセラミックス、またはエポキシ樹脂等の樹脂を用いることができる。
【0031】
(発光装置の作製)
本発明の発光装置は、図1に示すように、波長変換器4を発光素子3上に設置することにより得られる。波長変換器4を発光素子3上に設置する方法としては硬化したシート状の波長変換器4を発光素子3上に設置することが可能であるほか、液状の未硬化の材料を発光素子3上に設置した後、硬化させて設置することも可能である。
【0032】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の蛍光体及び波長変換器ならびに発光装置を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
炭酸バリウム、酸化マグネシウム、二酸化珪素、酸化ユウロピウム、酸化マンガンを、
モル比で、炭酸バリウム:酸化マグネシウム:酸化ユウロピウム(III):酸化マンガン(III):二酸化珪素:塩化アンモニウム=2.725:1:0.2:0.075:1.82:0.444として、ポリポット中で混合し、乾燥後、大気雰囲気下1150℃で3時間焼成した。その後、12%の水素を含む窒素ガス流下1250℃で9時間過熱することにより焼成し、蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi1.828を製造して、実施例1とした。
[実施例2]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ2.051および0.410に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi2.0518を製造した。
[実施例3]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ1.95および0.4に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi1.958を製造した。
[実施例4]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ2.0および0.4に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi2.08を製造した。
[実施例5]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をしれぞれ1.77および0.4に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi1.778を製造した。
[実施例6]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ1.739および0.347に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi1.7398を製造した。
【0034】
[比較例1]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ2.105および0.421に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi2.1058を製造した。
[比較例2]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ1.702および0.0.340に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi1.7028を製造した。
[比較例3]
二酸化珪素および塩化アンモニウムのモル比をそれぞれ1.666および0.333に代えて、実施例1と同様にして蛍光体Ba2.725Eu0.2Mn0.075MgSi1.6668を製造した。
【0035】
(評価)
上記で得られた蛍光体を用いて、上記した製造方法により図1に示す発光装置を作製し、395nmで前記蛍光体を励起したときの発光スペクトルを測定した。評価は、得られた発光スペクトルから赤成分の発光ピーク波長における発光強度の相対値により評価した。結果を表1に示した。
なお、発光スペクトルは島津製作所社製分光蛍光光度計を用いて測定し、格子定数は下記X線回折測定により求めた。
【0036】
(X線回折測定)
前記蛍光体のX線回折測定は以下の条件で行った。すなわち、走査範囲の回折角度誤差がΔ2θ=0.05°以下に光学調整されたCuKaαのX線源からなる粉末X線回折装置(マックサイエンス社製MAC M18XCE)を用い、かつ試料偏心に伴う回折角の誤差が標準シリコンの111ピークを用いて、Δ2θ=0.05°以下の角度再現性が保障される条件で粉末X線回折測定を実施した。
【表1】

【0037】
表1に示したように、X線回折におけるピーク強度が本発明の範囲内である蛍光体(実施例1〜6)は、異相であるBa2MgSi27結晶およびBa2SiO4結晶の発生を抑制するので、赤色成分の発光スペクトルの相対強度が73〜100%となり、赤色成分の発光効率が高いことを示した。
これに対して、X線回折におけるピーク強度の相対値が本発明の範囲外である蛍光体(比較例1〜3)は、前記異相の発生を抑制できないので、赤色成分の発光スペクトルの相対強度が64〜70%となり、その発光効率は低いことを示した。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の発光装置の構造を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0039】
2・・・基板
3・・・発光素子
4・・・波長変換器(波長変換層)
5・・・蛍光体
6・・・反射部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式:Ba3-x-yEuxMnyMgSiz8(0.15<x≦0.225、0.05≦y≦0.125、1.74≦z≦2.05)で表される結晶からなり、該結晶の格子定数aが、5.5960Å<a<5.6064Åであることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
主たる結晶がBa3MgSi28であり、該結晶はEu、Mnを賦活剤として含有し、前記Ba3MgSi28結晶の2θ=31.5°〜32°付近で検出されるピークのX線(Cu−Kα)回折強度をAとし、Ba2MgSi27結晶の2θ=27.7°〜28.2°でのピークのX線回折強度をBとし、Ba2SiO4結晶の2θ=29.2°〜29.8°でのピークのX線回折強度をCとしたとき、B/(A+B)が0.4以下であり、C/(A+C)が0.1以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項3】
透明マトリクス中に蛍光体が分散しており、光源から発せられる光の波長を変換して、波長が変換された光を含む出力光を出力する波長変換器であって、前記蛍光体のうち少なくとも一つの成分が、請求項1または2に記載の蛍光体であることを特徴とする波長変換器。
【請求項4】
蛍光体のその他の成分が、(M,Mg)10(PO46Cl2:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)、またはBaMgAl1017:Eu、またはM2SiO4:Eu(MはCa、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種)であることを特徴とする請求項3記載の波長変換器。
【請求項5】
励起光を発する化合物半導体からなる発光素子と、前記発光素子と電気的に接続し、かつ外部と接続させるための導体と、前記励起光の波長を変換する波長変換器とを基板上に備え、前記波長変換器が請求項3または4に記載の波長変換器であることを特徴とする発光装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−88237(P2008−88237A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268874(P2006−268874)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】