説明

蛍光X線分析装置およびその方法

【課題】ピーク測定条件で測定したネット強度とバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度との強度比を用いて、測定値の統計変動を小さくし、分析を精度よく行うことができる蛍光X線分析装置およびその方法を提供する。
【解決手段】試料Sに1次X線2を照射するX線源1と、試料Sから発生する2次X線4の強度を測定する検出器8A、8Bと、測定条件設定手段91と、ピーク測定条件で測定したネット強度Inを記憶するネット強度測定手段92と、バックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度Ibxを記憶するバックグラウンド強度測定手段93と、ネット強度Inとバックグラウンド強度Ibxとの強度比を演算する強度比演算手段94と、演算された演算値In/Ibxにより試料Sを定量分析する定量分析手段95とを有する蛍光X線分析装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料にX線源からの1次X線を照射し、試料から発生する蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度とを測定し、その強度比の演算値により試料を分析する蛍光X線分析装置およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析の微量分析では分析感度をより良くするために、より大きなPB比(分析線のピーク強度/バックグラウンド強度の強度比)で測定して、検出限界をよくする測定条件を用いることが一般的に行われている。また、従来から蛍光X線分析装置を用いて試料にX線源からの1次X線を照射させ、試料中に存在する測定元素から発生する分析線の強度と試料から発生するバックグラウンド強度を検出器で測定して、その強度比を用いて分析を行うことにより試料のマトリックスの影響や装置の変動を低減できるバックグラウンドを内部標準とする分析方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0003】
プラスチック試料などに含有されている重元素の蛍光X線分析では、測定元素の分析線のネット強度(ピーク強度よりバックグラウンド強度を差し引いた強度)とそのバックグラウンド強度との強度比で検量線を作成して、マトリックスや試料形状の補正を行う方法がとられている。このプラスチック試料などの重元素の分析方法によれば、測定元素の分析線のネット強度と測定元素の分析線と同一エネルギーのバックグラウンドとしての散乱X線強度を用いるので、分析面積や試料の形状の影響についても補正できる効果がある。
【非特許文献1】桃木弘三、内川浩、「X線工業分析法」、オーム社、昭和40年7月30日、p.151−154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック試料中では、これらの測定元素である重元素は微量濃度であるため、より大きなPB比(分析線のピーク強度/バックグラウンド強度)で測定し検出限界を改善した測定条件を用いている。しかしながら、通常PB比を改善した測定条件で測定した場合、バックグラウンド強度が小さくなるため、分析線のピーク強度とバックグラウンド強度の強度比、換言すればネット強度とバックグラウンド強度の強度比の統計変動が大きくなり、分析精度が低下するという問題がある。
【0005】
そこで本発明では、この問題を解決するため、試料中の測定元素の分析線のネット強度を測定する測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも、大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定し、その設定したバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度を用いて、ネット強度/バックグラウンド強度の強度比の統計変動を小さくし、分析を正確に精度よく行うことができる蛍光X線分析装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1の構成にかかる蛍光X線分析装置は、試料にX線を照射するX線源と、試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、試料の測定条件を設定する測定条件設定手段とを有する蛍光X線分析装置であって、前記測定条件設定手段に設定されたピーク測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶するネット強度測定手段と、前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるように、前記測定条件設定手段に設定されたバックグラウンド測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、その強度を記憶するバックグラウンド強度測定手段と、前記ネット強度測定手段に記憶されているネット強度と前記バックグラウンド強度測定手段に記憶されているバックグラウンド強度との強度比を演算する強度比演算手段と、前記強度比演算手段で演算された演算値により試料を定量分析する定量分析手段とを有する。
【0007】
本発明の第1の構成にかかる装置によれば、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きなバックグラウンド強度を測定するので、ネット強度とバックグラウンド強度の強度比の統計変動が小さくなり、蛍光X線分析の分析精度が向上する。
【0008】
本発明の第2の構成にかかる蛍光X線分析装置は、試料にX線を照射するX線源と、試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、試料の測定条件を設定する測定条件設定手段とを有する蛍光X線分析装置であって、前記測定条件設定手段に設定されたピーク測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶するネット強度測定手段とを有している。
【0009】
加えて、前記X線源から試料に照射される1次X線のX線通路に配置されている1次フィルタを切替える1次フィルタ切替手段、前記X線源と試料との間に配置されている2次ターゲットを切替える2次ターゲット切替手段、試料から発生し前記検出器で測定される2次X線のX線通路に配置されている分光素子を切替える分光素子切替手段、試料と前記分光素子との間に配置されている第1スリットを切替える第1スリット切替手段、前記分光素子と前記検出器との間の2次X線の通路に配置されている第2スリットを切替える第2スリット切替手段、試料と前記検出器との間の2次X線の通路に配置されている2次フィルタを切替える2次フィルタ切替手段および前記検出器が複数である場合に測定に使用する検出器を切替える検出器切替手段のうち少なくとも1つの切替手段とを有している。
【0010】
さらに、その有する切替手段うち少なくとも1つの切替手段を動作させ、前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるように、前記測定条件設定手段に設定されたバックグラウンド測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、その強度を記憶するバックグラウンド強度測定手段と、前記ネット強度測定手段に記憶されているネット強度と前記バックグラウンド強度測定手段に記憶されているバックグラウンド強度との強度比を演算する強度比演算手段と、前記強度比演算手段で演算された演算値により試料を定量分析する定量分析手段とを有する。
【0011】
本発明の第2の構成にかかる装置によれば、切替手段の少なくとも1つがピーク測定条件で測定するバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度が測定できる測定条件に設定され、測定されるので、第1の構成の装置と同様に分析を精度よく行うことができる。
【0012】
本発明の第3の構成にかかる蛍光X線分析方法は、分析目的に応じて試料の測定条件を設定することができる蛍光X線分析方法において、ピーク測定条件に設定して試料にX線源からの1次X線を照射し、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を検出器で測定し、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶し、前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定して、試料に前記X線源からの1次X線を照射し、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器で測定し、その強度を記憶し、前記記憶されているネット強度と前記記憶されているバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度との強度比を演算し、前記演算した演算値を用いて試料を定量分析する。
【0013】
本発明の第3の構成にかかる方法によれば、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きなバックグラウンド強度を測定するので、ネット強度とバックグラウンド強度の強度比の統計変動が小さくなり、蛍光X線分析の分析精度が向上する。
【0014】
本発明の第4の構成にかかる蛍光X線分析方法は、分析目的に応じて試料の測定条件を設定することができる蛍光X線分析方法において、ピーク測定条件に設定して試料にX線源からの1次X線を照射し、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を検出器で測定し、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶する。
【0015】
加えて、前記X線源から試料に照射される1次X線のX線通路に配置されている1次フィルタを切替える1次フィルタ切替手段、前記X線源と試料との間に配置されている2次ターゲットを切替える2次ターゲット切替手段、試料から発生し前記検出器で測定される2次X線のX線通路に配置されている分光素子を切替える分光素子切替手段、試料と前記分光素子との間に配置されている第1スリットを切替える第1スリット切替手段、前記分光素子と前記検出器との間に配置されている第2スリットを切替える第2スリット切替手段、試料と前記検出器との間の2次X線の通路に配置されている2次フィルタを切替える2次フィルタ切替手段および前記検出器が複数である場合に測定に使用する検出器を切替える検出器切替手段のうち少なくとも1つの切替手段を動作させ、前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定して、試料に前記X線源からの1次X線を照射し、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器で測定し、その強度を記憶する。
【0016】
さらに、前記記憶されているネット強度と前記記憶されているバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度との強度比を演算し、前記演算した演算値を用いて試料を定量分析する。
【0017】
本発明の第4の構成にかかる方法によれば、切替手段の少なくとも1つがピーク測定条件で、測定するバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度が測定できる測定条件に設定され測定されるので、第3の構成の蛍光X線分析方法と同様に分析を精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置について図1にしたがって説明する。
X線源であるRhX線管1と、RhX線管1と試料Sの間の1次X線2の通路に配置されている1次フィルタ3A、3B、3Cを切替える1次フィルタ切替手段3と、試料Sから発生した2次X線4の通路に配置されている分光素子6A、6B、6C・・・を切替える分光素子切替手段6と、試料Sと分光素子切替手段6で選択されて2次X線41の通路に配置された分光素子(図1では、6B)との間に配置されている第1ソーラースリット5A、5B、5Cを切替える第1スリット切替手段5と、2次X線4を検出する検出器8A、8Bを切替える検出器切替手段8と、分光素子切替手段6で選択されて2次X線41の通路に配置された分光素子(図1では、6B)と検出器8A、8Bの間に配置されている第2ソーラースリット7A、7B、7Cを切替える第2スリット切替手段7と、測定条件設定手段91、ネット強度測定手段92、バックグラウンド強度測定手段93、強度比演算手段94および定量分析手段95を有する制御手段9とを備える蛍光X線分析装置10である。
【0019】
1次フィルタ切替手段3は、例えば長方形平板の長手方向に沿って配置された、Ti箔である1次フィルタ3AおよびAl箔である1次フィルタ3Cを有するとともに、これらの金属箔を有さずRhX線管1からの1次X線2がそのまま透過する貫通孔3B(1次フィルタなし)を1箇所有し、この長方形平板を長手方向に進退自在に移動させることによって、1次フィルタ3A、3Cおよび貫通孔3Bを選択的に切替え、RhX線管1の前に配置されるように構成されている。
【0020】
第1スリット切替手段である第1ソーラースリット切替手段5は、スリット幅間隔が異なる高分解能スリット5A、中分解能スリット5Bおよび低分解能スリット5CをX線通路に対し垂直方向に沿ってスライドするスライド機構に配置し、スライド機構をスライドすることによって分解能の異なる第1ソーラースリット5A、5B、5Cに切替えることができるように構成されている。分光素子切替手段6は、例えばGe分光素子6A、LiF分光素子6B、累積多層膜分光素子6Cなどの分光素子が正8角柱状ホルダの各側面に固定され、正8角柱状ホルダの側面に平行な中心軸を中心にして回転させることによって分光素子6A、6B、6C・・・を切替えることができるように構成されている。第2スリット切替手段である第2ソーラースリット切替手段7は、スリット幅間隔が異なる高分解能スリット7A、中分解能スリット7Bおよび低分解能スリット7CをX線通路に対し垂直方向に沿ってスライドするスライド機構に配置し、スライド機構をスライドすることによって分解能の異なる第2ソーラースリット7A、7B、7Cに切替えることができるように構成されている。
【0021】
検出器であるシンチレーション・カウンタ(SC)8Aとガスフロー型比例計数管(F−PC)8Bは、SC検出器8Aを使用する際には、SC検出器8AがF−PC検出器8Bよりも前方になるようにX線通路43に直列に配置されている。検出器切替手段8は、SC検出器8AをX線通路43に対し垂直方向に沿ってスライドするスライド機構に配置し、SC検出器8AをX線通路43から退避させることによってF−PC検出器8BのみをX線通路43に配置して使用するように、つまり検出器8A、8Bを切替えることができるように構成されている。分光素子6Bと、第2ソーラースリット7Bおよび検出器8Aとは、図示しないゴニオメータにより、分光素子6Bで分光される2次X線42の波長を変えながらその2次X線42が第2ソーラースリット7Bおよび検出器8Aに入射するように、一定の角度関係を保って回動される。
【0022】
制御手段9は、測定条件設定手段91、ネット強度測定手段92、バックグラウンド強度測定手段93、強度比演算手段94および定量分析手段95を有している。ネット強度測定手段92およびバックグラウンド強度測定手段93は計数回路やコンピュータなどで構成され、測定条件設定手段91、強度比演算手段94および定量分析手段95はコンピュータで構成されている。
【0023】
測定条件設定手段91は、設定された測定元素のピーク測定条件およびバックグラウンド測定条件に基づき、RhX線管1の電圧や電流を所定の値に設定し、各切替手段に指示信号を与えて各切替手段を動作させて所定の1次フィルタ、第1および第2ソーラースリット、分光素子、検出器などに設定する。
【0024】
ここで、ピーク測定条件は、より大きなPB比(分析線のピーク強度Ip/バックグラウンド強度Ib)で測定できる条件であり、測定元素の測定波長は測定元素固有の分析線の波長であり、バックグラウンドの測定波長は測定元素固有の分析線近傍の波長であり、測定元素とバックグラウンドの測定時間はPB比を考慮して適切に選択された時間である。
【0025】
バックグラウンド測定条件は、X線源に負荷される電圧および電流、X線源から試料への照射角度、照射距離および照射面積、バックグラウンドの測定波長などの条件はピーク測定条件と同一条件であり、1次フィルタ、分光素子、第1および第2ソーラースリット、検出器などの条件はピーク測定条件で測定するバックグラウンド強度Ibよりも大きいバックグラウンド強度Ibx、例えばバックグラウンド強度Ibxはバックグラウンド強度Ibの100倍以上の強度で測定できる条件であって、測定時間はPB比を考慮して適切に選択された時間である。X線源に負荷される電圧および電流、X線源から試料への照射角度、照射距離および照射面積が同一条件であれば、測定元素から発生する分析線の強度とバックグラウンド強度への試料のマトリックスの影響度合は同一と考えられることによる。
【0026】
ネット強度測定手段92は、測定条件設定手段91によって設定されたピーク測定条件で測定元素のピーク強度Ipとバックグラウンド強度Ibを測定し、ピーク強度Ipからバックグラウンド強度Ibを差し引いたネット強度In(=Ip−Ib)を記憶する。
【0027】
バックグラウンド強度測定手段93は、測定条件設定手段91によって設定されたバックグラウンド測定条件でバックグラウンド強度Ibxを測定し、バックグラウンド強度Ibxを記憶する。ここで、ピークおよびバックグラウンド測定条件には、検出器8A、8Bで測定すべき測定元素の分析線、バックグラウンド測定波長、その分析線およびバックグラウンド測定波長の検出器8A、8Bで測定すべき時間、第1ソーラースリット5A、5B、5Cの選択,第2ソーラースリット7A、7B、7Cの選択、分光素子6A、6B、6C…の選択、検出器8A、8Bの選択、1次フィルター3A、3B、3Cの選択が含まれる。またバックグラウンド測定条件は、1次フィルタ切替手段3、分光素子切替手段6、第1ソーラースリットスリット切替手段5、検出器切替手段8、第2ソーラースリットスリット切替手段7のうち少なくとも1つの切替手段が動作され、ピーク測定条件で測定されるバックグラウンド強度よりも大きい強度で測定できる条件に設定される。バックグラウンド測定波長は測定元素の分析線の近傍波長に設定されるが、従来から行われているように第1ソーラースリットスリット切替手段や第2ソーラースリットスリット切替手段によって低分解能スリットに設定されても近接線の影響を受けない波長に設定される。
【0028】
強度比演算手段94は、ネット強度測定手段92に記憶されているネット強度Inとバックグラウンド強度測定手段93に記憶されているバックグラウンド強度Ibxとの強度比を演算し、その演算値を記憶する。定量分析手段95は、強度比演算手段94に記憶された演算値In/Ibxにより試料を定量分析する。
【0029】
次に、この装置によるポリマー中のCrを分析する場合の動作について説明する。ピーク測定条件を測定条件設定手段91で、Tiの1次フィルタ3A、高分解能の第1ソーラースリット5A、高分解能の第2ソーラースリット7A、SC検出器8A、ピーク測定時間は20秒、バックグラウンド測定時間は20秒、RhX線管に付加する所定の電圧および電流、測定元素のCrの分析線であるCr−Kα線、Cr−Kα線の近傍波長であるバックグラウンド測定波長、LiF分光素子6Bに設定後、測定を開始し、標準試料S1にRhX線管1から1次X線2を照射させる。ゴニオメータ(図示なし)により、分光素子6Bで分光される2次X線42の波長を変えながらその2次X線42が第2ソーラースリット7BおよびSC検出器8Aに入射するように、LiF分光素子6B、第2ソーラースリット7BおよびSC検出器8Aが一定の角度関係を保って回動され、標準試料S1から発生するCr−Kα線をSC検出器8Aで20秒間測定させ、そのピーク強度Ip1をネット強度測定手段92に記憶させる。
【0030】
次にCr−Kα線の近傍波長でバックグラウンドをSC検出器8Aで20秒間測定させる。測定波長および測定時間以外の測定条件はCr−Kα線を測定したときと同じである。そのバックグラウンド強度Ib1をネット強度測定手段92に記憶させる。記憶させたピーク強度Ip1よりバックグラウンド強度Ib1を差し引いたネット強度In1(=Ip1−Ib1)をネット強度測定手段92に記憶させる。標準試料S2、S3、ポリマー試料S0を標準試料S1と同様に測定させ、標準試料S2のネット強度In2(=Ip2−Ib2)、標準試料S3のネット強度In3(=Ip3−Ib3)、ポリマー試料S0のネット強度Ins(=Ips−Ibs)、をネット強度測定手段92に記憶させる。
【0031】
バックグラウンド測定条件を測定条件設定手段91で、1次フィルタの貫通孔3B、低分解能の第1ソーラースリット5C、低分解能の第2ソーラースリット7C、F−PC検出器8B、測定時間は20秒、RhX線管に付加する所定の電圧および電流、Cr−Kα線の近傍波長であるバックグラウンド測定波長、LiF分光素子6Bに設定後、測定を開始し、標準試料S1にRhX線管1から1次X線2を照射させ、標準試料S1から発生するバックグラウンドをF−PC検出器8Bで10秒間測定させ、そのバックグラウンド強度Ibx1をバックグラウンド強度測定手段93に記憶させる。標準試料S2、S3、ポリマー試料S0を標準試料S1と同様に測定させ、標準試料S2のバックグラウンド強度Ibx2、標準試料S3のバックグラウンド強度Ibx3、ポリマー試料S0のバックグラウンド強度Ibxs、をバックグラウンド強度測定手段93に記憶させる。第1および第2ソーラースリット5C、7Cのスリット間隔幅は第1および第2ソーラースリット5A、7Aの約10倍の広さである。
【0032】
ネット強度測定手段92とバックグラウンド強度測定手段93に記憶されている標準試料S1,S2,S3およびポリマー試料S0のそれぞれ対応するネット強度とバックグラウンド強度の強度比を強度比演算手段94に演算させ、演算された標準試料の演算値In1/Ibx1、In2/Ibx2およびIn3/Ibx3に基づいて、定量分析手段95に検量線を作成させ、作成した検量線で未知試料であるポリマー試料S0の演算値Ins/Ibxsを定量させ、ポリマー試料S0のCrの含有量を算出させる。
【0033】
本実施形態で測定したポリマー試料S0の測定値を用いて、従来から行われているピーク測定条件のみで測定したネット強度とバックグラウンド強度の強度比を用いる場合と、本発明のピーク測定条件で測定したネット強度とバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度の強度比を用いる場合の統計変動RSDを比較して以下に説明する。ネット強度とバックグラウンド強度の強度比の相対値の統計変動である相対精度RSDrは次式得られ、RSDnはネット強度の相対統計変動であり、RSDbはバックグラウンド強度の相対統計変動である。
【0034】
RSDr=(RSDn+RSDb1/2
【0035】
本実施形態で測定したポリマー試料S0の測定値は下記の強度であった。
【0036】
Ips:0.8186kcps、Ibs:0.0348kcps、Ibxs:19.3709kcps
【0037】
これらの強度からネット強度とバックグラウンド強度の相対精度RSDをそれぞれ計算した結果を下記する。ネット強度の相対精度RSDnsは、
【0038】
RSDns=(Ips−Ibs)−1(Ips/20+Ibs/20)1/2(1/1000)1/2=0.0083
【0039】
であり、ピーク測定条件でのバックグラウンド強度Ibsの精度RSDbsは、
【0040】
RSDbs=(Ibs)−1(Ibs/20)1/2(1/1000)1/2=0.0379
【0041】
であり、バックグラウンド測定条件でのバックグラウンド強度Ibxsの精度RSDbxsは、
【0042】
RSDbxs=(Ibxs)−1(Ibxs/10)1/2(1/1000)1/2=0.0016
【0043】
である。
【0044】
ピーク測定条件でのみ測定した場合のネット強度Insとバックグラウンド強度Ibxsとの強度比の相対精度RSDrpは、
【0045】
RSDrp=0.0388
【0046】
であり、ピーク測定条件で測定したネット強度Insとバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度Ibxsの強度比の相対精度RSDrpxは、
【0047】
RSDrpx=0.0084
【0048】
であり、相対精度RSDrpxは相対精度RSDrpの約1/5に向上している。このように、本実施形態のピーク測定条件で測定したネット強度とバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度の強度比を用いて測定すると、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定しているので、統計変動が大幅に改善され、極めて精度のよい分析を行うことができる。
【0049】
本実施形態では、1次フィルタ、第1ソーラースリット、第2ソーラースリットおよび検出器をピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定して測定したが、これらのいずれか1つまたは2つを切替えて、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定してもよい。また、分光素子を切替えて、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定して測定してもよい。また、ピーク測定条件でピークとバックグラウンドを判定したが、バックグラウンドは、2点測定してもよい。また、ピーク測定条件でピークのみ測定し、グロスピーク強度とバックグラウンド測定条件で得られたバックグラウンド強度の強度比で定量分析を行ってもよい。
【0050】
本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置について図2にしたがって説明する。X線源であるRhX線管1と、RhX線管1と試料Sの間の1次X線2の通路に配置されている1次フィルタを切替える1次フィルタ切替手段300と、2次X線4を検出する半導体検出器800と、測定条件設定手段91、ネット強度測定手段92、バックグラウンド強度測定手段93、強度比演算手段94および定量分析手段95を有する制御手段9とを備える蛍光X線分析装置100である。1次フィルタ切替手段300は、円板の円周に沿って配置されたTi板である1次フィルタ300A、Cu板である1次フィルタ300Cなどを有するとともに、これらの金属板を有さずX線管からの1次X線がそのまま透過する貫通孔300B(1次フィルタなし)を1箇所有し、この円板を円板の中心軸を中心にして回転させることによって1次フィルタ300A、300Cや貫通孔300Bを切替えることができるように構成されている。
【0051】
本実施形態の蛍光X線分析装置の動作について説明する。ピーク測定条件を測定条件設定手段91で、1次フィルタ300A、測定時間は40秒、RhX線管に付加する所定の電圧および電流、測定元素のCrの分析線であるCr−Kα線、Cr−Kα線の近傍波長であるバックグラウンド測定波長に設定後、測定を開始し、標準試料S1にRhX線管1から1次X線2を照射させ、標準試料S1から発生するCr−Kα線を半導体検出器800で40秒間測定させ、そのピーク強度Ip1およびバックグラウンド強度Ib1をネット強度測定手段92に記憶させる。記憶させたピーク強度Ip1よりバックグラウンド強度Ib1を差し引いたネット強度In1(=Ip1−Ib1)をネット強度測定手段92に記憶させる。その他の標準試料S2、S3や未知試料S0を前記と同様に測定して、それぞれのネット強度をネット強度測定手段92に記憶させる。
【0052】
バックグラウンド測定条件を測定条件設定手段91で、貫通孔300B(1次フィルタなし)、測定時間は20秒、RhX線管に付加する所定の電圧および電流、Cr−Kα線の近傍波長であるバックグラウンド測定波長に設定後、測定を開始し、標準試料S1にRhX線管1から1次X線2を照射させ、標準試料S1から発生するバックグラウンドを半導体検出器800で20秒間測定させ、バックグラウンド強度Ibx1をネット強度測定手段92に記憶させる。その他の標準試料S2、S3や未知試料S0を前記と同様に測定して、それぞれのバックグラウンド強度をバックグラウンド強度測定手段93に記憶させる。
【0053】
ネット強度測定手段92とバックグラウンド強度測定手段93に記憶されている標準試料S1、S2、S3および未知試料S0のそれぞれ対応するネット強度とバックグラウンド強度の強度比を強度比演算手段94に演算させ、第1実施形態と同様にして定量分析手段95に未知試料S0の測定元素の含有量を算出させる。
【0054】
本実施形態では、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるように、1次フィルタ切替手段で貫通孔300B(2次ターゲットなし)に切替えて測定しているので、統計変動が大幅に改善され、極めて精度のよい分析を行うことができる。
【0055】
本実施形態では、バックグラウンド測定条件を1次フィルタをピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できる貫通孔300B(1次フィルタなし)に設定して測定したが、試料と検出器との間に配置される2次フィルタを切替える2次フィルタ切替手段を備え、ピーク測定条件では、2次フィルタを設定して測定し、バックグラウンド測定条件では、2次フィルタなしに切替えて、ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定してもよい。
【0056】
本発明の第1および第2実施形態では、検量線法を用いたが、定量分析手段により算出された演算値をFP法(ファンダメンタル・パラメータ法)により、未知試料を定量してもよい。また、X線源としてRhX線管を例示したが、他のX線管や回転陽極型X線発生装置などでもよい。蛍光X線分析装置は、波長分散型でもエネルギー分散型のどちらの装置であってもよい。また、第1および第2実施形態では、1次フィルタを切替えて測定したが、X線管と試料との間に配置される2次ターゲット切替手段を用いて、2次ターゲットを切替えて測定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0058】
1 X線源 X線管
2 1次X線
3 1次フィルタ切替手段
4 2次X線
5 第1ソーラースリット切替手段
6 分光素子切替手段
7 第2ソーラースリット切替手段
8 検出器切替手段
10,100 蛍光X線分析装置
91 測定条件設定手段
92 ネット強度測定手段
93 バックグラウンド強度測定手段
94 強度比演算手段
95 定量分析手段
300 1次フィルタ切替手段
S 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にX線を照射するX線源と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、
試料の測定条件を設定する測定条件設定手段と、
を有する蛍光X線分析装置であって、
前記測定条件設定手段に設定されたピーク測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶するネット強度測定手段と、
前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるように、前記測定条件設定手段に設定されたバックグラウンド測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、その強度を記憶するバックグラウンド強度測定手段と、
前記ネット強度測定手段に記憶されているネット強度と前記バックグラウンド強度測定手段に記憶されているバックグラウンド強度との強度比を演算する強度比演算手段と、
前記強度比演算手段で演算された演算値により試料を定量分析する定量分析手段と、
を有する蛍光X線分析装置。
【請求項2】
試料にX線を照射するX線源と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出器と、
試料の測定条件を設定する測定条件設定手段と、
を有する蛍光X線分析装置であって、
前記測定条件設定手段に設定されたピーク測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶するネット強度測定手段と、
前記X線源から試料に照射される1次X線のX線通路に配置されている1次フィルタを切替える1次フィルタ切替手段、前記X線源と試料との間に配置されている2次ターゲットを切替える2次ターゲット切替手段、試料から発生し前記検出器で測定される2次X線のX線通路に配置されている分光素子を切替える分光素子切替手段、試料と前記分光素子との間に配置されている第1スリットを切替える第1スリット切替手段、前記分光素子と前記検出器との間に配置されている第2スリットを切替える第2スリット切替手段、試料と前記検出器との間の2次X線の通路に配置されている2次フィルタを切替える2次フィルタ切替手段および前記検出器が複数である場合に測定に使用する検出器を切替える検出器切替手段のうち少なくとも1つの切替手段とを有し、
その有する切替手段のうち少なくとも1つの切替手段を動作させ、前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるように、前記測定条件設定手段に設定されたバックグラウンド測定条件で試料に前記X線源からの1次X線を照射させ、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器に測定させ、その強度を記憶するバックグラウンド強度測定手段と、
前記ネット強度測定手段に記憶されているネット強度と前記バックグラウンド強度測定手段に記憶されているバックグラウンド強度との強度比を演算する強度比演算手段と、
前記強度比演算手段で演算された演算値により試料を定量分析する定量分析手段と、
を有する蛍光X線分析装置。
【請求項3】
分析目的に応じて試料の測定条件を設定することができる蛍光X線分析方法において、
ピーク測定条件に設定して試料にX線源からの1次X線を照射し、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を検出器で測定し、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶し、
前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定して、試料に前記X線源からの1次X線を照射し、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器で測定し、その強度を記憶し、
前記記憶されているネット強度と前記記憶されているバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度との強度比を演算し、
前記演算した演算値を用いて試料を定量分析する蛍光X線分析方法。
【請求項4】
分析目的に応じて試料の測定条件を設定することができる蛍光X線分析方法において、
ピーク測定条件に設定して試料にX線源からの1次X線を照射し、その試料から発生する測定元素の蛍光X線のピーク強度とバックグラウンド強度を検出器で測定し、前記ピーク強度から前記バックグラウンド強度を差し引いたネット強度を記憶し、
前記X線源から試料に照射される1次X線のX線通路に配置されている1次フィルタを切替える1次フィルタ切替手段、前記X線源と試料との間に配置されている2次ターゲットを切替える2次ターゲット切替手段、試料から発生し前記検出器で測定される2次X線のX線通路に配置されている分光素子を切替える分光素子切替手段、試料と前記分光素子との間に配置されている第1スリットを切替える第1スリット切替手段、前記分光素子と前記検出器との間に配置されている第2スリットを切替える第2スリット切替手段、試料と前記検出器との間の2次X線の通路に配置されている2次フィルタを切替える2次フィルタ切替手段および前記検出器が複数である場合に測定に使用する検出器を切替える検出器切替手段のうち少なくとも1つの切替手段を動作させ、前記ピーク測定条件で測定したバックグラウンド強度よりも大きいバックグラウンド強度で測定できるバックグラウンド測定条件に設定して、試料に前記X線源からの1次X線を照射し、その試料から発生するバックグラウンド強度を前記検出器で測定し、その強度を記憶し、
前記記憶されているネット強度と前記記憶されているバックグラウンド測定条件で測定したバックグラウンド強度との強度比を演算し、
前記演算した演算値を用いて試料を定量分析する蛍光X線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−298679(P2008−298679A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−146896(P2007−146896)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(000250351)理学電機工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】