説明

血液成分採取装置

【課題】簡便な構成での返血が可能であり、しかもドナーに対する抗凝固剤の副作用を抑制した血液成分採取装置を提供する。
【解決手段】血液成分採取装置は、採血、及び採血した血液の遠心分離を行い、得られた血漿及び血小板を血漿採取バッグ及び血小板採取バッグに蓄えた後に、血液ポンプを逆転させて、血漿採取バッグから余剰血漿を遠心ボウルを介してドナーに返還する(ステップS101)。血漿採取バッグから余剰血漿が所定量排出された後、エアーバッグからエアーを排出して遠心ボウルの出口ラインをエアーで置換する(ステップS102)。血液ポンプを停止し、遠心ボウルを回転させて余剰血漿と赤血球とを混合させる(ステップS103)。血液ポンプを再度逆転させて、遠心ボウル内で赤血球成分と混合された余剰血漿をドナーに返還する(ステップS104)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナーから採血を行い、採取された血液を血漿と、赤血球と、血小板に遠心分離させ、余剰血漿をドナーに返還する血液成分採取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
採血には、血液をそのまま採取する全血採血と、所定の成分のみを取り出す成分採血がある。成分採血では、ドナーから採取した血液を遠心分離することにより所定の成分を抽出し、他の成分についてはドナーに返還する。これにより、必要な成分(血漿や血小板)については全血採血よりも多く採取することができ、しかも他の成分については返還をすることからドナーの負担を軽減することができる。また、このような成分採血を自動的に行うための血液成分採取装置が実用化されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
血液成分採取装置では、採血をした血液が装置内で凝固することがないように、ACD−A液のような抗凝固剤を混入している。ところが、抗凝固剤の濃度が高いまま血漿をドナーに返還をすると、該ドナーにクエン酸による副作用が生じる懸念があって、抗凝固剤の濃度はできるだけ希釈して返還することが望ましい。
【0004】
このような観点から、例えば、特許文献1記載の装置では、余剰血漿を返還する経路のポンプと、赤血球を返還する経路のポンプとを設け、これらの経路を合流継手により1本にまとめることによりチューブ内で混合・希釈して返還をしている。
【0005】
【特許文献1】特許2575769号公報
【特許文献2】特開2001−9023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記の特許文献1記載の装置は、ポンプ及び返還経路が2系統必要であって複雑であり、しかも抗凝固剤の副作用については考慮されていない。また、単に管路を合流させる構成では、血漿と赤血球とが均一に混合されるとは限らず、クエン酸による副作用を確実に低減させるとは限らない。
【0007】
前記の特許文献2記載の装置は、返還する血液成分の種類や、血漿中の抗凝固剤による副作用については特に考慮されてない。
【0008】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、簡便な構成での返血が可能であって、しかもドナーに対する抗凝固剤の副作用を抑制することのできる血液成分採取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る血液成分採取装置は、内部に貯血空間を備え、採取された血液を前記貯血空間内にて遠心分離する遠心分離器と、正転して採血を行い前記遠心分離器に血液を導入し、逆転して前記遠心分離器の血液成分をドナーに返血するポンプと、前記遠心分離器内のエアーを一時的に退避させるエアー収納手段と、回路の切り替えを行うバルブと、少なくとも前記バルブ、前記遠心分離器及び前記ポンプを制御する制御部と、を有し、前記制御部は、採血、及び採血した血液の遠心分離を行い、得られた血漿及び血小板を血漿採取手段及び血小板採取手段に蓄える成分採血処理を実行した後に、前記ポンプを逆転させて、前記血漿採取手段から余剰血漿を前記遠心分離器に導入をする第1ステップと、前記血漿採取手段から前記余剰血漿が所定量排出された後、前記エアー収納手段からエアーを排出させて前記遠心分離器と前記血漿採取手段とを結ぶラインをエアーで置換する第2ステップと、前記遠心分離器を回転させて余剰血漿と赤血球とを混合させる第3ステップと、前記遠心分離器内で余剰血漿と混合された赤血球を返血する第4ステップと、を有する返血処理を実行するように制御することを特徴とする。
【0010】
このように、血漿採取手段の余剰血漿を遠心分離器に導入し、該遠心分離器を回転させることにより余剰血漿と赤血球成分とが撹拌・混合され、余剰血漿の抗凝固剤濃度が希釈され、その後ドナーに対して返還しても抗凝固剤の副作用を抑制することができる。また、余剰血漿を返還する系統と赤血球成分を返血する系統が共通となり、返血のためのポンプも1つで足り、構成が簡便である。
【0011】
前記第3ステップでは、前記ポンプを停止させると、一層確実に血漿と赤血球とを混合させることができる。
【0012】
前記第3ステップにおける前記遠心分離器の回転速度は、50〜1000rpmであるとよく、回転時間は、1〜10secであるとよい。
【0013】
前記第3ステップでは前記遠心分離器の回転方向を所定時間毎に切り替えると、一層確実に血漿と赤血球とを混合させることができる。
【0014】
前記制御部は、前記成分採血処理と、前記返血処理とから構成される血液成分採取操作を複数サイクル実行し、各サイクルにおいて、前記余剰血漿をほぼ均等量に分けて返血することにより、ドナーのクエン酸による副作用を一層低減させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る血液成分採取装置によれば、血漿採取手段の余剰血漿を遠心分離器に導入し、該遠心分離器を回転させることにより余剰血漿と赤血球成分とが撹拌・混合され、余剰血漿の抗凝固剤濃度が希釈され、その後ドナーに対して返還しても抗凝固剤の副作用を抑制することができる。また、余剰血漿を返還する系統と赤血球成分を返還する系統が共通となっており、返還のためのポンプも1つで足り、構成が簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る血液成分採取装置について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図9を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施の形態に係る血液成分採取装置10は、装置本体12と、該装置本体12に装着される採血キット14とを有する。装置本体12は、箱形の機構本体部15と、該機構本体部15の背面左右から上方に延在する第1支柱16a及び第2支柱16bと、第1支柱16aの上端左側に設けられた重量計18と、第2支柱の上端部に設けられたモニタ20と、第1支柱16aの右側に設けられた複室バッグ126の有無を検出するバッグ検出センサ21と第2支柱16bの右側に設けられた除菌フィルター114の有無を検出するセンサ23a及び気泡除去用チャンバー112の有無及び抗凝固剤の滴下を検出するセンサ23bとを有する。モニタ20は血液成分採取装置10の入出力装置であり、大型のカラータッチパネル20aと、スピーカ20bとを有し、画像及び音声を用いた簡易な操作が可能である。スピーカ20bはステレオ式である。
【0018】
機構本体部15は左側の制御機構部22と、右側の遠心分離機構部(分離手段)24とからなる。制御機構部22は、血液成分採取装置10の全体を統括的に制御する制御部26と、血液ポンプ28と、抗凝固剤ポンプ30と、濁度センサ32と、6つの気泡センサ34a、34b、34c、34d、34e、34fと、7つのクランプ36a、36b、36c、36d、36e、36f、36gと、ドナー圧力センサ38と、システム圧力センサ40とを有する。濁度センサ32及び各気泡センサ34a〜34fとしては、それぞれ、例えば、超音波センサ、光学式センサ、赤外線センサ等を用いることがきる。濁度センサ32と気泡センサ34dは一体的に構成されている。
【0019】
遠心分離機構部24は採血キット14の遠心ボウル(遠心分離器)120が装着され、該遠心ボウル120内に導入された血液を遠心分離する機構部である。
【0020】
遠心ボウル120の設定回転速度としては、例えば4200〜5800rpm程度に設定される。これにより、貯血空間内の血液は内層より血漿層(PPP層)、バフィーコート層(BC層)及び赤血球層(CRC層)に分離される。遠心ボウルの近傍には、血漿層とバフィーコート層との界面(以下、単に界面と呼ぶ。)の位置に応じて変化する透過率から該界面の位置を検出する光学式センサ62(図3参照)が設けられている。
【0021】
制御部26は、機構本体部15の内部に設けられている。制御機構部22における制御部26以外の機器は、採血キット14のチューブが装着可能なように上面、前面及び支柱に設けられている。
【0022】
血液ポンプ28及び抗凝固剤ポンプ30は、チューブ側面にローラを押圧させながら連続的に転動させることにより内部の血液を押し出すローラポンプ式であり、血液に対して非接触の状態で駆動可能である。また、血液ポンプ28及び抗凝固剤ポンプ30は、制御部26の作用下に速度及び流体吐出方向が可変である。血液ポンプ28は、採血時には所定の正方向に回転することにより血液を引き込む吸引ポンプとして作用し、返血時には逆方向に回転することにより血液成分をチューブ104に送り出す吐出ポンプとして作用する。
【0023】
濁度センサ32は、挟み込まれたチューブ内を通過する液体の濁度を検出するセンサである。気泡センサ34a〜34fは、挟み込まれたチューブ内を通過する液体の有無又は気泡を検出するセンサである。クランプ36a〜36gは、挟み込まれたチューブを両側から押圧して閉じ、又は開放して連通させ、回路の切り替えを行う開閉バルブとしての作用を奏する。これらのクランプ36a〜36gは、カセットハウジング42がはめ込み可能なように制御機構部22の上面における一区画に集中配置されている。カセットハウジング42は採血キット14のチューブの多くの部分を一体的に集約、配置するための樹脂製部材であり、該カセットハウジング42を制御機構部22の上面にはめ込むことにより所定のチューブが対応するクランプ36a〜36gによって開閉可能に配置される。
【0024】
ドナー圧力センサ38は、採血キット14における採血経路系統(採血回路)14a(図3参照)の一部が差し込まれ、採血ラインの圧力を示すドナー圧力Pdを計測するセンサであり、採血時には採血圧力センサとして作用し、返血時には返血圧力センサとして作用する。
【0025】
システム圧力センサ40は、処理経路系統14b(図3参照)の一部が差し込まれ、回路内の圧力を示すシステム圧力(回路内圧力)Psを計測するセンサである。なお、装置本体12にセットされた状態の採血キット14におけるチューブの配置は本発明の要旨ではないので、図1においてはチューブの一部を省略して図示している。
【0026】
図2に示すように、制御部26は、出力用として血液ポンプドライバ76と、抗凝固剤ポンプドライバ78と、モータドライバ80と、クランプドライバ82とを有し、血液ポンプ28、抗凝固剤ポンプ30、モータ64及びクランプ36a〜36gを制御する。血液ポンプドライバ76は、血液ポンプ28の速度及び吐出方向を制御する。抗凝固剤ポンプドライバ78は、抗凝固剤ポンプ30の速度を制御する。モータドライバ80はモータ64の回転速度を制御する。クランプドライバ82は、クランプ36a〜36gを個別に開閉制御する。
【0027】
また、制御部26は、各センサの入力制御を行う入力インターフェース84と、モニタ20の入出力を行うモニタインターフェース86とを有する。さらに、制御部26は、各機能部と協動して採血処理動作を制御するモード制御部88と、各センサの入力信号等に基づいて異常の監視を行う異常監視部90と、所定のプログラムやデータの記憶を行う記憶部92と、タイマ94と、外部機器とのデータ通信を行う通信部96とを有する。モード制御部88は採血制御部88aと、返血制御部88bとを有する。
【0028】
制御部26内の機能の一部は、記憶部92に記録されたプログラムを図示しないCPUによって読み込み実行することにより実現される。
【0029】
図3に示すように、採血キット14は、ドナーから血液を採取及び返還するための採血経路系統14aと、採取した血液を遠心分離又は循環等させる処理経路系統14bとを有する。
【0030】
採血経路系統14aは、ドナーに穿刺する中空の採血針100と、一端が採血針100に接続されて他端が分岐継手102を介して処理経路系統14bに接続されたチューブ104と、該チューブ104の途中に設けられたチャンバー106と、抗凝固剤が入った抗凝固剤容器107(図1参照)に接続される抗凝固剤容器接続用針108と、一端が該抗凝固剤容器接続用針108に接続されたチューブ110と、該チューブ110の途中に設けられた気泡除去用チャンバー112及び除菌フィルター(異物除去用フィルター)114とを有する。チューブ104とチューブ110は、採血針100の近傍に設けられた分岐継手116により接続されている。
【0031】
チューブ104(及び後述するチューブ140)は採血、返血に共用であり、採血ライン及び返血ラインとして作用する。
【0032】
チャンバー106は、チューブ104を通過する血液中の気泡及びマイクロアグリゲートを除去する。チャンバー106の一端にはチューブ104から分岐した短いチューブ118が設けられている。該チューブ118の端部は通気性かつ菌不透過性のフィルター(図示せず)に接続されるとともに、ドナー圧力センサ38に挿入されており、ドナー圧力Pdを計測可能である。
【0033】
抗凝固剤容器接続用針108に接続された抗凝固剤容器107には、ACD−A液のような抗凝固剤が蓄えられている。チューブ110の一部は抗凝固剤ポンプ30に装着されており、該抗凝固剤ポンプ30の作用下に抗凝固剤容器接続用針108から供給された抗凝固剤はチューブ110及び分岐継手116を介してチューブ104内の血液中に抗凝固剤が混入される。チューブ110の途中には気泡センサ34aが装着される。
【0034】
チャンバー106と分岐継手102との間には、気泡センサ34b及びクランプ36aが装着される。クランプ36aは分岐継手102の近傍に装着されており、クランプ36aを開くことにより採血経路系統14aと処理経路系統14bは連通する。チューブ104には直列して2つの気泡センサ34e及び34fが装着されており、気泡や空気を確実に検知することができる。
【0035】
処理経路系統14bは遠心ボウル120と、血漿採取バッグ(血漿採取手段)122と、血小板採取バッグ(血小板採取手段)124と、中間バッグ126aと、エアーバッグ(エアー収納手段)126bと、バッグ128と、白血球除去フィルター130とを有する。
【0036】
血漿採取バッグ122及び血小板採取バッグ124は、遠心分離等の処理により得られた血漿及び血小板を蓄えるバッグである。血漿採取バッグ122は重量計18(図1参照)のフック18aに懸架され、収納された血漿の重量を計測することができる。血小板採取バッグ124は、機構本体部15の前面に懸架される(図1参照)。
【0037】
中間バッグ126aは、採取した血小板(濃厚血小板)を一時的に貯留するための容器である。エアーバッグ126bは、回路内の無菌空気を一時的に収納するための容器である。エアーバッグ126bと中間バッグ126aとは、回路的には分離した独立の容器であるが、物理的には一体的であって複室バッグ126を構成している。複室バッグ126はバッグ検出センサ21(図1参照)のフック21aに懸架される。
【0038】
採血を行う際には、遠心ボウル120の貯血空間内等の空気はエアーバッグ126b内に移送され、収納される。返血工程の際には、エアーバッグ126b内に収納されている空気は、貯血空間内に戻され、所定の血液成分が、ドナーへ返還される。
【0039】
バッグ128は血小板採取バッグ124に接続されたバッグであり、成分採血の終了後、血小板採取バッグ124内の空気を排出する際に用いられる。
【0040】
血漿採取バッグ122、血小板採取バッグ124、中間バッグ126a、エアーバッグ126b及びバッグ128は、それぞれ樹脂製(例えば、軟質ポリ塩化ビニル)の可撓性を有するシート材を重ね、その周縁部を融着(熱融着、高周波融着、超音波融着等)または接着剤により接着等して袋状にしたものが使用される。
【0041】
なお、血小板採取バッグ124に使用されるシート材としては、血小板保存性を向上するためにガス透過性に優れるものを用いることがより好ましい。このようなシート材としては、例えば、ポリオレフィンやDnDP可塑化ポリ塩化ビニル等を用いることができる。
【0042】
白血球除去フィルター130は、中間バッグ126aから血小板採取バッグ124に血液成分を移送する際に、血液成分中の白血球を分離除去するフィルターである。図1から明らかなように、白血球除去フィルター130は、中間バッグ126aより低く、血小板採取バッグ124より高い位置に配置される。
【0043】
次に、処理経路系統14bの各構成機器を接続するチューブについて説明する。処理経路系統14bの端部である分岐継手102と遠心ボウル120の導入口との間はチューブ140で接続されている。該チューブ140の一部は血液ポンプ28に装着される。したがって、血液ポンプ28を正転させることにより血液を採血経路系統14aから遠心ボウル120内に導入し、又は処理経路系統14b内で所定の循環動作を行うことができる。また、血液ポンプ28を逆転させることにより、所定の血液成分を採血経路系統14aに導出し、ドナーに返還することができる。
【0044】
遠心ボウル120の排出口にはチューブ142が接続されており、該チューブ142は分岐継手144を介して三つ股に分岐してチューブ146、チューブ148及びチューブ150に接続されている。チューブ142は、濁度センサ32及び気泡センサ34dに直列的に接続されている。
【0045】
チューブ146はエアーバッグ126bに接続されており、その途中はクランプ36eに装着されている。チューブ148の端部は通気性かつ菌不透過性のフィルター(図示せず)に接続されるとともに、システム圧力センサ40に挿入されており、システム圧力Psを計測可能である。
【0046】
チューブ150の端部は血漿採取バッグ122に接続されており、その途中には分岐継手152が設けられ、チューブ154を介して中間バッグ126aに接続されている。チューブ154はクランプ36dに装着されている。分岐継手152と血漿採取バッグ122との間のチューブ150はクランプ36cに装着されている。
【0047】
中間バッグ126aと血小板採取バッグ124との間はチューブ156により接続されており、その途中には白血球除去フィルター130が設けられている。
【0048】
中間バッグ126aと血小板採取バッグ124との間のチューブ156は、気泡センサ34c及びクランプ36gに装着されている。白血球除去フィルター130の端部には、チューブ156から短く分岐したフィルター160が設けられている。フィルター160はベントフィルター及びキャップからなる。
【0049】
気泡センサ34cとクランプ36gとの間のチューブ156には分岐継手162が設けられ、チューブ164を介して、血漿採取バッグ122に接続されている。チューブ164の途中には分岐継手166が設けられている。該分岐継手166と分岐継手102との間はチューブ168により接続されている。分岐継手162と分岐継手166との間のチューブ164はクランプ36fに装着されている。チューブ168における分岐継手102の近傍部には、クランプ36bが装着されている。
【0050】
血小板採取バッグ124とバッグ128はチューブ158により接続されている。
【0051】
図3から明らかなように、遠心ボウル120から見て、中間バッグ126a、エアーバッグ126b及び血漿採取バッグ122は並列に接続されており、クランプ36d、36e及び36cにより遠心ボウル120と各バッグとの間を連通・遮断させることができる。また、遠心ボウル120から見て、血漿採取バッグ122、白血球除去フィルター130、血小板採取バッグ124及びバッグ128はこの順に直列に接続されている。
【0052】
このように構成される採血キット14は予め所定の滅菌処理がなされている。なお、採血キット14には、チューブが集中配置されたカセットハウジング42、及びチューブの一部とフィルター160とを保持するフィルターカセット170(図1参照)が設けられている。
【0053】
次に、血液成分採取装置10により成分採血を行う手順について図4〜図9を参照しながら説明する。
【0054】
血液成分採取装置10においては、図4に示す第1の血漿採取工程、定速血漿循環工程、第2の血漿採取工程、加速血漿循環工程、第3の血漿採取工程及び血小板採取工程からなる成分採血処理と、返血工程からなる返血処理とから構成される血液成分採取操作を複数サイクル実行する。
【0055】
先ず、図4のステップS1において所定の初期処理を行う。この処理処理は、複数サイクルのうち、第1のサイクルでのみ成分採血処理の前に行われる。
【0056】
初期処理としては、チューブ110とチューブ104の採血針100からチャンバー106までを、抗凝固剤でプライミングし、その後、ドナーの血管に採血針100を穿刺する。この後、モニタ20のカラータッチパネル20aを操作して成分採血処理を開始する。これ以降の手順は主に制御部26の作用下に自動的に行われる。
【0057】
ステップS2において第1の血漿採取工程を行う。この第1の血漿採取工程は、遠心ボウル120の貯血空間内に血液を導入して遠心分離することにより得られる血漿を血漿採取バッグ122内に採取する工程である。
【0058】
ここで、血液(抗凝固剤添加血液)は、チューブ104を介して移送され、遠心ボウル120の導入口よりロータの貯血空間内に導入される。このとき、遠心ボウル120内の空気は、チューブ142及びチューブ146を介してエアーバッグ126b内に送り込まれる。
【0059】
貯血空間内に所定量の血液が導入された状態で遠心ボウル120のロータの回転を開始する。ロータの回転数はステップS9まで一定に維持される。ロータの回転により、貯血空間内に導入された血液は、内側から血漿層、バフィーコート層、赤血球層の3層に遠心分離される。なお、第2サイクル以降は、血液ポンプ28と同時にモータ64を駆動する。
【0060】
ステップS3において、チューブ142に設けられた気泡センサ34dの信号を監視し、チューブ142を流れる流体が空気から血漿に変わったことを検出した後クランプ36eを閉じるとともにクランプ36cを開放する。貯血空間の容量を越える血液が貯血空間内に導入されると、遠心ボウル120の排出口から血漿が流出することから、このタイミングを気泡センサ34dにより検出してクランプ操作を行い、チューブ142及びチューブ150を介して血漿を血漿採取バッグ122内に導入、採取するように切り替える。血漿採取バッグ122に導入された血漿の重量は、重量計18により計測される。重量計18から得られる重量信号に基づき、血漿採取バッグ122内に所定量の血漿が採取されたことが確認された後ステップS4へ移る。
【0061】
ステップS4において、定速血漿循環工程を行う。定速血漿循環工程は、血漿採取バッグ122内の血漿を貯血空間を含む循環回路で定速にて循環させる工程である。つまり、クランプ36aを閉じ、クランプ36bを開放するとともに抗凝固剤ポンプ30を停止する。これにより、採血を一時中断するとともに、血漿採取バッグ122内の血漿を循環させる経路が形成される。この循環回路は、血漿採取バッグ122からチューブ164、168及び140を介して貯血空間内に至り、遠心ボウル120の排出口から流出してきた血漿をチューブ142及び150を介して血漿採取バッグ122内に回収する経路である。この定速血漿循環工程を所定時間行った後、ステップS5へ移る。
【0062】
ステップS5において、第2の血漿採取工程を行なう。第2の血漿採取工程では、第1の血漿採取工程と同様に血漿の採取及び遠心分離を行なう。これにより、貯血空間内の赤血球量が増加、すなわち、赤血球層の層厚が増大するのに伴い、界面も徐々に遠心ボウル120の回転軸に近づくので、光学式センサ62からの検出信号に基づいて界面が所定レベルに到達したことを確認した後、ステップS6へ移る。
【0063】
ステップS6において加速血漿循環工程を行なう。加速血漿循環工程は、血漿採取バッグ122内の血漿を貯血空間内に加速させながら前記循環回路内で循環させる工程である。血漿の循環速度が所定速度に到達した後、ステップS7へ移る。
【0064】
ステップS7において第3の血漿採取工程を行う。第3の血漿採取工程では、第1及び第2の血漿採取工程と同様に、血漿の採取を行なう。血漿採取バッグ122内に所定量の血漿が採取されたことが確認された後、ステップS8へ移る。
【0065】
ステップS8において血小板採取工程を行なう。血小板採取工程は血漿採取バッグ122内の血漿を、貯血空間内で第1の加速度にて加速させながら循環させ、次いで、第1の加速度より大きい第2の加速度に変更し、該第2の加速度にて加速させながら循環させて、貯血空間内より血小板を流出させ、濃厚血小板を中間バッグ126a内に採取(貯留)する工程である。血小板採取工程において所定の操作を行った後、クランプ36eを開放し、この他のクランプ36a〜36d、36f及び36gを閉じた状態とし、血液ポンプ28を停止する。
【0066】
ステップS9においてモータ64の回転数を制御してロータを減速及び停止させる。
【0067】
ステップS10において返血工程を開始する。返血工程はロータの貯血空間内に残存する血液成分(主に、赤血球、白血球)をドナーに返血する工程である。つまり、クランプ36a及びクランプ36eを開放するとともに、血液ポンプ28を逆転する。これにより、ロータの貯血空間内に残存する血液成分は遠心ボウル120の導入口から排出され、チューブ104(採血針100)を介してドナーに返血(返還)される。返血工程の詳細については後述する。
【0068】
この後、所定の終了条件に基づいて返血工程を終了する。
【0069】
ステップS11において、所定のサイクル数を終了したか否かを確認し、未終了であるときにはステップS2へ戻り採血、返血等の処理を続行する。
【0070】
なお、最終サイクル時には、ステップS5で濾過工程を開始する。濾過工程は、中間バッグ126a内に一時的に採取(貯留)した濃厚血小板を、白血球除去フィルター130に供給して、濃厚血小板の濾過、すなわち、濃厚血小板中の白血球の分離除去を行なう工程である。白血球が除去された濃厚血小板は血小板採取バッグ124に貯溜される。
【0071】
次に、ステップS10(図4参照)において行われる返血処理について図5〜図9を参照しながら説明する。
【0072】
先ず、図5のステップS101において前半の返血工程を行う。すなわち、図6に示すように、返血時には、遠心ボウル120は停止しており、内部には赤血球成分200が多く残存しており、上部及びチューブ142には血漿成分202が残存している。この状態で、クランプ36cを開いて遠心ボウル120と血漿採取バッグ122とを連通させるとともに、クランプ36eを閉じて遠心ボウル120とエアーバッグ126bとを遮断する。さらに、血液ポンプ28を逆転させることにより、血漿採取バッグ122内の余剰の血漿成分(PPP)202(片ハッチング部)は、遠心ボウル120に導入され、遠心ボウル120内の赤血球成分(CRC)200(粗のクロスハッチング部)はチューブ104に送り出され、ドナーに対して返血される。
【0073】
また、この状態の返血は重量計18により血漿採取バッグ122の重量を計測しながら行い、該重量が所定値にまで低下するまで継続される。
【0074】
なお、当該サイクルにおいて返血される血漿量、すなわち各サイクルの血漿返血の重量は次の式(1)によって決定する。また、式(1)中の余剰血漿量は式(2)によって決定する。式(2)中の予想総血漿採取量は式(3)によって決定する。
【0075】
各サイクルの血漿返血重量 = 余剰血漿量/設定サイクル数 …(1)
余剰血漿量 = 予想総血漿採取量−設定血漿採取量 …(2)
予想総血漿採取量 = (各サイクルの予測処理血液量−ボウル容量)×設定サイクル数 …(3)
ここで、各サイクルの予測処理血液量は、経験則、実験値、実験式又はシミュレーション等により決定する。
【0076】
このように、各サイクルにおいて余剰血漿をほぼ均等量に分けて返血することにより、ドナーのクエン酸による副作用を一層低減することができる。
【0077】
図6〜図10においては、回路上、赤血球成分200の存在する箇所に粗のクロスハッチングを付し、血漿成分202の存在する箇所にハッチングを付し、赤血球成分と血漿成分との混合液204の存在する箇所に密のクロスハッチングを付している。
【0078】
ステップS102においてエアー置換工程を行う。すなわち、図7に示すように、クランプ36cを閉じて遠心ボウル120と血漿採取バッグ122とを遮断させるとともに、クランプ36eを開いて遠心ボウル120とエアーバッグ126bとを連通させる。この状態で、血液ポンプ28の逆転を継続することにより、遠心ボウル120内の赤血球成分200がドナーに対して返血されるとともに、エアーバッグ126b内に一時的に退避されていたエアーが排出されてチューブ142内の血漿成分202がエアーで置換される。この工程では遠心ボウル120は停止している。
【0079】
このエアー置換工程は、気泡センサ34dによりチューブ142内の気泡の有無を検出し、該気泡センサ34dの箇所までの血漿成分202がエアーで置換されるまで継続される。
【0080】
ステップS103において撹拌工程を行う。すなわち、図8に示すように、クランプ36cを閉じ、クランプ36eを開いたままとしておき、遠心ボウル120を回転させることにより貯血空間内に導入された余剰の血漿成分202が、当初から残存している赤血球成分200と撹拌・混合させ、混合液204を得る。また、血液ポンプ28の回転を停止させて返血を一時停止させておき、撹拌・混合を一層確実に行う。
【0081】
この撹拌工程では、遠心ボウル120内で所定量の余剰の血漿成分202と赤血球成分200とを確実且つ均一に混合することができ、余剰血漿の抗凝固剤濃度が赤血球成分によって十分に希釈された混合液204が得られる。
【0082】
また、遠心ボウル120の回転は、前記のステップS2(図4参照)等とは異なり遠心分離することが目的ではないので、低速且つ短時間の回転で足り、例えば、50〜1000rpmで、1〜10sec程度回転させればよい。
【0083】
さらにまた、撹拌を促進するためには不均一な回転を与えることが望ましく、例えば、遠心ボウル120の回転方向を適当な間隔で切り替えるとよい。回転方向を切り替える場合、内部の血漿の回転速度が一定値に収束する以前に切り替えるとよい。血漿の回転速度が一定値に収束した後には撹拌作用が低下するからである。
【0084】
ステップS104において、後半の返血工程を行う。すなわち、図9に示すように、クランプ36cを閉じ、クランプ36eを開いたままとしておき、血液ポンプ28の回転を再回転させて返血を再開する。この工程では、遠心ボウル120は停止している。
【0085】
この工程により、遠心ボウル120内の混合液204がドナーに対して返血される。この混合液204は赤血球成分200によって抗凝固剤濃度が希釈されていることから、ドナーに対してクエン酸の副作用を与えることが抑制される。
【0086】
ステップS105において、返血の終了判断をする。すなわち、図10に示すように、気泡センサ34bにより空気の通過を検出した場合には血液ポンプ28をさらに所定数だけ回転させた後に停止させて返血を終了し、空気が検出されない場合には返血を継続する。
【0087】
上述したように、本実施の形態に係る血液成分採取装置10によれば、血漿採取バッグ122の余剰血漿を遠心ボウル120に導入し、該遠心ボウル120を回転させることにより余剰血漿と赤血球成分とが撹拌・混合され、余剰血漿の抗凝固剤濃度が希釈され、その後ドナーに対して返還しても抗凝固剤の副作用を抑制することができる。また、遠心ボウル120を回転させることによる撹拌では、2本のチューブを1本に合流させる形式の混合と比較して、より確実に混合させることができる。
【0088】
さらに、余剰血漿を返還する系統と赤血球成分を返還する系統が共通となっており、返還のためのポンプも血液ポンプ28の1台で足り、構成が簡便である。
【0089】
本発明に係る血液成分採取装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本実施の形態に係る血液成分採取装置を示す斜視図である。
【図2】制御部のブロック構成図である。
【図3】採血キットの回路図である。
【図4】血液成分採取装置で行われる成分採血の手順を示すフローチャートである。
【図5】返血工程のフローチャートである。
【図6】前半の返血工程における回路の模式図である。
【図7】エアー置換工程における回路の模式図である。
【図8】撹拌工程における回路の模式図である。
【図9】後半の返血工程における回路の模式図である。
【図10】返血工程の最終状態における回路の模式図である。
【符号の説明】
【0091】
10…血液成分採取装置 14…採血キット
18…重量計 20…モニタ
22…制御機構部 24…遠心分離機構部
26…制御部 28…血液ポンプ
30…抗凝固剤ポンプ 34a〜34f…気泡センサ
36a〜36g…クランプ(バルブ) 38…ドナー圧力センサ
40…システム圧力センサ 100…採血針
120…遠心ボウル
122…血漿採取バッグ(血漿採取手段)
124…血小板採取バッグ(血小板採取手段)
126a…中間バッグ
126b…エアーバッグ(エアー収納手段)
200…赤血球成分 202…血漿成分
204…赤血球成分と血漿成分との混合液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貯血空間を備え、採取された血液を前記貯血空間内にて遠心分離する遠心分離器と、
正転して採血を行い前記遠心分離器に血液を導入し、逆転して前記遠心分離器の血液成分をドナーに返血するポンプと、
前記遠心分離器内のエアーを一時的に退避させるエアー収納手段と、
回路の切り替えを行うバルブと、
少なくとも前記バルブ、前記遠心分離器及び前記ポンプを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、採血、及び採血した血液の遠心分離を行い、得られた血漿及び血小板を血漿採取手段及び血小板採取手段に蓄える成分採血処理を実行した後に、
前記ポンプを逆転させて、前記血漿採取手段から余剰血漿を前記遠心分離器に導入をする第1ステップと、
前記血漿採取手段から前記余剰血漿が所定量排出された後、前記エアー収納手段からエアーを排出させて前記遠心分離器と前記血漿採取手段とを結ぶラインをエアーで置換する第2ステップと、
前記遠心分離器を回転させて余剰血漿と赤血球とを混合させる第3ステップと、
前記遠心分離器内で余剰血漿と混合された赤血球を返血する第4ステップと、
を有する返血処理を実行するように制御することを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項2】
請求項1記載の血液成分採取装置において、
前記第3ステップでは、前記ポンプを停止させることを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の血液成分採取装置において、
前記第3ステップにおける前記遠心分離器の回転速度は、50〜1000rpmであることを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液成分採取装置において、
前記第3ステップにおける前記遠心分離器の回転時間は、1〜10secであることを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液成分採取装置において、
前記第3ステップでは前記遠心分離器の回転方向を所定時間毎に切り替えることを特徴とする血液成分採取装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液成分採取装置において、
前記制御部は、前記成分採血処理と、前記返血処理とから構成される血液成分採取操作を複数サイクル実行し、
各サイクルにおいて、前記余剰血漿をほぼ均等量に分けて返血するように制御することを特徴とする血液成分採取装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−29596(P2008−29596A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206385(P2006−206385)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】