血糖値上昇抑制用組成物およびこれを含有する飲食品
【課題】良好な血糖値上昇抑制効果が得られる組成物およびこれを含有する飲食品を提供する。
【解決手段】テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【解決手段】テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は血糖値上昇抑制用組成物およびこれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代、不規則な食生活や運動不足等が原因で発症する生活習慣病への関心は高く、中でも糖尿病は大幅な増加傾向にある。糖尿病を発症していなくても高めの血糖値は様々な生活習慣病のシグナルとされており、また肥満は生活習慣病を引き起こし易いと言われていることから、血糖値の上昇を抑える飲食品が注目されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、グアバ葉の抽出液に含まれるα−アミラーゼ阻害物質を用いたダイエット食品が提案されている。
グアバ葉抽出液のほかにも、糖の吸収をおだやかにする作用を有する特定保健用食品として、難消化性デキストリン、小麦アルブミン、L−アラビノース、豆鼓エキスを有効成分とする飲食品が知られている。
【特許文献1】特開平7−59539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、血糖値の上昇を抑える飲食品への関心は増しており、より有効な血糖値上昇抑制用組成物および飲食品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、茶の葉とビワ葉を原料として製造された混合発酵茶葉が、血糖値上昇抑制作用の指標となるAGH阻害性(マルターゼ阻害性およびスクラーゼ阻害性)が高く、かつマウスを用いた実験で優れた血糖値上昇抑制効果を奏することを知見し、かかる優れた血糖値上昇抑制効果をもたらす有効成分の特定について鋭意研究を行った結果、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPの各成分が、それぞれ高いAGH阻害性を示すことを見出して、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物を提供する。
好ましくは、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物である。
【0007】
また本発明は、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物を提供する。
好ましくは、前記発酵茶葉が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物である。
【0008】
また本発明は、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉抽出物からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物を提供する。
好ましくは、前記発酵茶葉抽出物が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物である。
また本発明は、本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な血糖値上昇抑制作用を有する組成物およびこれを含有する飲食品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物は、
(1)テアシネンシンA(以下、TS−Aと略記することもある。)、
(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、
(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、
(4)13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノール(以下、ポリフェノールPと略記することもある。)
からなる群から選ばれる1種または2種以上の成分を含有する。2種以上含有する場合の組み合わせは任意であり、4種全部を含有することがより好ましい。
これら(1)〜(4)の成分はいずれも、後述の実験例および分析試験例に示されるように、高いAGH阻害性(マルターゼ阻害性およびスクラーゼ阻害性)を示す成分である。
このような成分を含む本発明の血糖値上昇抑制用組成物は、これを経口摂取することにより血糖値上昇抑制効果が得られる。
【0011】
(1)テアシネンシンAは、図3に示される構造を有する化合物である。
(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体は、具体的には、テアフラビン−3−O−ガレート(3−TFG)、テアフラビン−3’−O−ガレート(3’−TFG)、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート(3,3’−TFGG)から選ばれる1種以上である。これらの構造は図3に示される。これらの中でも、特に、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートはAGH阻害性がより強いので、これを含むことが好ましい。
(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンは、後述の分析試験例3におけるFr.7に含まれており、メルカプトエタノールによるチオール分解により、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、およびエピカテキン−3−O−ガレート(ECg(以下、ECGと記載することもある))からなる群から選ばれる1種以上と、EGC−ME(以下、「−ME」は「4−(2’−ハイドロキシエチルチオ)エーテル」を示す。例えばEGC−MEは、EGCの4−(2’−ハイドロキシエチルチオ)エーテルであることを示す。以下同様)、EC−ME、EGCg−ME、およびECg−MEからなる群から選ばれる1種以上と、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEとを生じるものである。かかるプロアントシアニジンのチオール分解前の構造は例えば図4に示されるものと推定される。なお、(3)成分におけるエピアフゼレチンガレートは、エピアフゼレチン−3−O−ガレートを指す。
【0012】
上記(4)ポリフェノールPは、例えば後述の分析試験例5に示されるように、これを含有する発酵茶葉を、60%エタノール(濃度60体積%のエタノール水溶液、以下、同様)で室温抽出した抽出液をエチルエーテル、酢酸エチル、n−ブタノールで順次溶媒分配し、n−ブタノール可溶部を60%メタノールに溶かしたものを、Sephadex LH−20カラムにて、60%メタノール、80%メタノール、100%メタノール、次いでメタノール−水―アセトン(8:1:1)混合溶液、メタノール−水―アセトン(6:2:2)混合溶液、水―アセトン(1:1)混合溶液で順次溶出した溶出液を、薄層クロマトグラフィー(トルエン−ギ酸エチル−ギ酸、1:7:1)分析して、原点から移動しない物質を含むフラクションだけを集めて濃縮して得られるものである。
【0013】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物の好ましい実施形態は上記(1)〜(4)の成分の1種以上を含有する発酵茶葉または発酵茶葉抽出物である。
発酵茶葉とは、原料となる葉を、加熱による酸化酵素失活を行わずに揉捻する工程を経て得られるもので、製造過程で酸化酵素による成分の酸化が生じている。本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉の形態は特に限定されず、発酵が生じた茶葉を加熱して発酵を止め、乾燥したもの(いわゆる荒茶)でもよく、さらに必要に応じて仕上げ加工を施した仕上げ茶であってもよい。また荒茶または仕上げ茶を適宜の大きさの粉末状にしたものでもよい。
【0014】
発酵茶葉抽出物とは、発酵茶葉の可溶性成分を抽出溶媒で抽出して得られる抽出物である。抽出溶媒は水(温水または熱水を含む)でもよく、有機溶媒でもよい。有機溶媒の具定例としてはメタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉抽出物の形態は特に限定されず、溶液状でもよく、その濃縮物でもよく、さらに凍結乾燥等により乾燥させた固体でもよい。固体の場合は、塊状であってもよく、さらにそれを適宜の大きさに粉砕した粉末状であってもよい。発酵茶葉抽出物を有機溶媒を含む形態で飲食品に用いる場合は、有機溶媒としてエタノールが用いられる。
【0015】
抽出条件は特に制限されないが、水で抽出する場合は、温度40〜100℃の温水または熱水に発酵茶葉を3分間〜60分間程度浸して抽出することが好ましい。水と発酵茶葉との割合は、水100質量部に対して、発酵茶葉(含水率5質量%)0.5〜20質量部程度が好ましく、0.5〜5質量部程度がより好ましい。
有機溶媒で抽出する場合は、有機溶媒100質量部に対して発酵茶葉(含水率5質量%)0.1〜20質量部程度を用い、常圧または加圧下で、温度−20〜60℃、時間1〜60分の条件で行うことが好ましいが、この範囲に限定されず、適宜変更することができる。
抽出処理後、ろ過、遠心分離などで、固形分を除去して抽出液が得られる。
【0016】
本発明における発酵茶葉は、茶の葉とビワ葉が混合、揉捻され、発酵してなる混合発酵茶葉が好ましい。該混合発酵茶葉には、上記(1)テアシネンシンA、(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、および(4)上記ポリフェノールPが含まれる。
さらに、原料の茶の葉として、上記(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンを含有する茶の葉を用いて製造した混合発酵茶葉には、上記(1)〜(4)の成分が全部含まれるため、より好ましい。
【0017】
上記混合発酵茶葉には、ビワプロアントシアニジンが含まれることが特徴的である。後述の分析試験例3に示されるように、ビワプロアントシアニジンは、AGH阻害性が高い混合発酵茶葉の抽出物から得られる複数のフラクションの中で、最もAGH阻害性が高いフラクション(Fr.7)に含まれていることからAGH阻害性に寄与していると考えられる。
【0018】
また、上記混合発酵茶葉にあっては、テアフラビン類(テアフラビン(TF)、テアフラビン−3−O−ガレート(3−TFG)、テアフラビン−3’−O−ガレート(3’−TFG)、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート(3,3’−TFGG))の合計の含有量が、茶の葉とビワ葉とをそれぞれ単独で同様に揉捻し、発酵してなる単独発酵茶葉に比べて、多く含まれることも特徴的である。
さらに、上記混合発酵茶葉にあっては、(4)上記ポリフェノールPの含有量が、茶の葉とビワ葉とをそれぞれ単独で同様に揉捻し、発酵してなる発酵茶葉に比べて、多く含まれることも特徴的である。
【0019】
<香気成分>
また上記混合発酵茶葉は、1−ヘキサノール、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、およびネロリドールの香気成分を含み、固相マイクロ抽出法においてトランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、ネロリドールの香気成分の各ピーク面積が、いずれも1−ヘキサノールのピーク面積より大きいという、特徴的な香気成分組成を有する。
上記に挙げた香気成分のうち、後述の分析試験例8にも示されるように、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、およびネロリドールは、紅茶等の発酵茶にも比較的多く含まれ、緑茶等の不発酵茶および発酵したビワ葉には少ない香気成分である。また、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、および3−ヘキセン−1−オールは、発酵したビワ葉にも比較的多く含まれる香気成分である。本発明の混合発酵茶葉は、これらの香気成分を比較的多い含有量で有しており、これにより発酵茶として特有な香りを味わうことができる。
【0020】
上記混合発酵茶葉は、以下の方法で製造することができる。
原料として用いられる茶の葉は、いわゆるツバキ科の常緑低木Thea sinensis L.の葉である。この葉としては、一番茶以外に二番茶、三番茶、秋冬番茶、刈番茶なども使用でき、比較的多くのポリフェノール類を含む二番茶以降の安価な茶の葉のほうが好ましい。なお、これらの遅手の番茶は、現在価格が低迷し、かなりのものが廃棄されているが、このものを有効に利用できる。
特に、後述の実験例および分析試験例で用いた長崎東彼杵産の中国種の茶葉、好ましくはヤブキタ種の茶葉には、天然での存在が少ししか確認されていないエピアフゼレチン−3−O−ガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンが含まれるので好ましい。また該エピアフゼレチン−3−O−ガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンを含む可能性がある茶葉としては、インド産ダージリン紅茶や中国産キーモン紅茶の製造に用いられる茶葉が挙げられる。
【0021】
原料として用いられるビワ葉は、バラ科、植物名「ビワ」の葉であり、特に制限なく用いることができる。
【0022】
混合発酵茶葉を製造するには、まず、前処理として、ビワ葉および茶の葉を、必要に応じて乾燥し、含水率を50〜60質量%程度としておくことが好ましい。また適宜の寸法、例えば1〜10mm角程度の大きさに切断しておくことが好ましい。
そして、茶の葉を乾燥し、水分量を減少させ、萎凋させる。この工程では、例えば粗揉機や、直火または電気で加熱した鍋または板状の器具を用い、茶の葉を撹拌しつつ、温度40〜150℃の加熱空気を茶の葉に当てる方法、密閉撹拌容器内に茶の葉を投入し、容器内の空気を吸引して内部を減圧状態として撹拌して乾燥する方法、萎凋槽を用いてネット上に散布した茶の葉の下方から通気する方法などが用いられる。
この萎凋により原料の茶の葉の含水率を45〜65質量%、好ましくは50〜60質量%程度に減少させておくと、次の揉捻工程で茶の葉から水分が揉み出れ難くなるため、有効成分の流亡を防止できるとともに品質の低下を抑えることができる。また後の乾燥工程が短縮できる点でも好ましい。
【0023】
次いで、萎凋工程を経た原料の茶の葉を加圧しながら揉む(揉捻)とともに、この揉捻時にビワ葉を添加して、両者を一緒に揉捻する。ビワ葉は茶の葉の揉捻開始と同時に添加してもよく、あるいは一定時間茶の葉のみの揉捻を行った後、びわ葉を添加してさらに揉捻してもよい。全揉捻時間のうち、揉捻開始から0〜40%の時間が経過したのち、ビワ葉を添加することが好ましい。ビワ葉を揉捻工程の最初から添加しておくことがより好ましい。
ビワ葉の添加量は、ビワ葉/茶の葉の絶乾質量比が、5/95〜35/65の範囲が好ましく、8/92〜30/70の範囲がより好ましい。ビワ葉の添加量が上記範囲内であれば、茶の葉とビワ葉を混合したことによる血糖値上昇抑制作用の向上効果が良好に得られる。
【0024】
揉捻は、茶の葉の揉捻に用いられている通常の揉捻機を用いる方法など、公知の方法を適宜採用できる。
揉捻時間は、15〜25分とされる。この範囲とすることにより血糖値上昇抑制作用が良好となる。
また、揉捻時の原料の温度は、20〜40℃とされる。20℃未満では発酵不足となり、40℃を越えると品質低下が著しくなる。
【0025】
この揉捻により、茶の葉およびビワ葉の組織が破壊され、茶の葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が茶の葉およびビワ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物が生成する。
【0026】
次いで、この状態の混合原料を発酵工程に移す。すなわち、揉捻後の混合原料を数cmの厚さに堆積させた状態で、温度20〜27℃、湿度30〜60%RHの発酵室内などの環境下に静置する。なお、茶類の製造工程における「発酵」とは葉中の酸化酵素による酸化反応を意味する。
発酵時間は0〜4時間とされる。ここで、発酵時間が0時間と言うことは、先の揉捻工程において、揉捻の開始と同時に発酵が開始するためであり、揉捻工程の時間を発酵工程に含めない場合には、発酵時間が0時間と言うこともあり得るのであり、実体は0時間でも発酵が行われているものである。発酵時間が4時間を超えると、得られる混合発酵茶葉またはその抽出物の味、香りが低下する傾向がある。特に優れたAGH阻害性を得るには、発酵時間は1時間以下が好ましく、0時間が最も好ましい。
【0027】
次いで、所定の発酵時間が経過したならば、原料を加熱して発酵を止め、乾燥する。例えば、連続式乾燥機に原料を投入し、これに温度80〜120℃の熱風を吹き込み、排気温度が50〜60℃となるように操作する。加熱時間は10〜30分程度で十分であり、これにより原料中の含水率を5質量%程度とする。
上記製造工程において、揉捻時間、発酵時間が長くなるほどAGH阻害性が低くなる。また、抗酸化作用(1,1−ジピクリル−2−フェニルヒドラジル(DPPH)消去活性)も低くなる。機能性に注目して製造を行うなら揉捻時間を15〜25分とし、発酵時間をなるべく短くすることが理想である。
また、発酵時間が長くなるほど味に関しては苦渋みが強くなり、香りも悪くなり発酵時間が短いほど味、香りとも優れる。
【0028】
こうして混合発酵茶葉が得られる。加熱工程後のものは、いわゆる荒茶であり、これに必要に応じて仕上げ加工を施して仕上げ茶としてもよい。仕上げ加工は、再乾燥、火入れ、篩い分け、整形、選別など、従来の茶葉製造における仕上げ加工と同様の工程を適宜採用することができる。上記火入れは、再加熱して香味の発揚を図る工程である。仕上げ加工を行うことにより、貯蔵性、香りなどの品質を高めて商品性を向上させることができる。
【0029】
また上記揉捻工程は、上述したように茶の葉およびビワ葉の組織が破壊されればよく、揉捻機を用いる方法のほかに、例えば手で揉む方法、すりつぶす方法、水を加えて粉砕する方法等を用いて行うことができる。
手で揉む方法を用いる場合は、通常、茶の葉の揉み込みに用いられている手法を適宜用いることができる。例えば、「ねこぶき」と呼ばれる荒縄で編んだ凹凸のある敷物上で、手で揉み込む方法などが採用でき、これ以外の方法を用いてもよい。具体的には、萎凋工程を経た原料の茶の葉を手で揉む方法で揉捻するとともに、この揉捻時にビワ葉を添加して、両者を一緒に揉捻する。この場合の揉捻時間は20〜30分が好ましく、20分未満または30分を超えると、得られる発酵茶の血糖値上昇抑制作用が低くなる。その他の条件等は上記と同じである。発酵工程は上記と同様に行うことができる。
本方法において、揉捻時間、発酵時間が長くなるほどAGH阻害性が低くなる。また、抗酸化作用(DPPH消去活性)も低くなる。機能性に注目して製造を行うなら揉捻時間を20〜30分とし、発酵時間をなるべく短くすることが理想である。
【0030】
すりつぶす方法を用いる場合は、茶の葉のすりつぶしに用いられている通常の乳鉢を用いる方法などが採用でき、これ以外のすりつぶし方法を用いてもよい。具体的には、萎凋工程を経た原料の茶の葉をすりつぶすとともに、このすり込み時にビワ葉を添加し、両方の原料をすり込む。この場合のすりつぶし時間は、15〜25分が好ましく、15分未満または25分を超えると、得られる発酵茶の血糖値上昇抑制が低くなる。すりつぶし時間の原料の温度は、20〜40℃とされる。20℃未満では発酵不足となり、40℃を超えると品質低下となる。さらに、ビワ葉の添加のタイミングは、茶の葉のすりつぶし開始と同時に添加してもよく、あるいは一定時間茶の葉のみのすりつぶしを行った後、ビワ葉を添加してさらにすりつぶしてもよい。全すりつぶし時間のうち、すりつぶし開始から0〜40%の時間が経過したのち、ビワ葉を添加することができる。その他の条件等は上記と同じである。
こうしてすりつぶすことによって、茶の葉およびビワ葉の原料の組織が破壊され、茶の葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が茶の葉およびビワ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物が生成する。発酵工程は上記と同様に行うことができる。
本方法において、すりつぶし時間、発酵時間が長くなるほどAGH阻害性が低くなる。また、抗酸化作用(DPPH消去活性)も低くなる。機能性に注目して製造を行うならすりつぶし時間を15〜25分とし、発酵時間をなるべく短くすることが理想である。
また、発酵時間が長くなるほど味に関しては苦渋みが強くなり、香りも悪くなり発酵時間が短いほど味、香りとも優れる。
【0031】
水を加えて粉砕する方法を用いる場合は、茶の葉とビワ葉に水を加え粉砕撹拌することによって、これらを混合するとともに茶の葉およびビワ葉の原料の組織を破壊することができる。粉砕撹拌は、茶の葉の粉砕撹拌に用いられている通常のミキサー等を用いる方法などが採用でき、これ以外の粉砕撹拌方法を用いてもよい。具体的には、萎凋工程を経た原料の茶の葉およびビワ葉に水を加えて粉砕撹拌する。茶の葉とビワ葉の混合割合は上記と同様である。加える水の量は茶の葉とビワ葉の合計100質量部に対して、20〜200質量部が好ましく、50〜150質量部がより好ましい。
粉砕撹拌時間は、5〜15分とされ、5分未満または15分を超えると、得られる発酵茶の血糖値上昇抑制が低くなる。粉砕撹拌時の原料の温度は上記と同様であり、20〜40℃とされる。
ビワ葉の添加のタイミングは、粉砕撹拌開始と同時に添加してもよく、あるいは一定時間茶の葉のみの粉砕撹拌を行った後、ビワ葉を添加してさらに粉砕撹拌してもよい。全粉砕撹拌時間のうち、粉砕撹拌開始から0〜50%の時間が経過したのち、ビワ葉を添加することが好ましい。
こうして粉砕撹拌することによって、茶の葉およびビワ葉が混合されるとともに、これら原料の組織が破壊され、茶の葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が茶の葉およびビワ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物が生成する。
ついで、粉砕撹拌により得られた混合原料を発酵する工程においては、粉砕撹拌後の混合原料を数cmの厚さに堆積し、温度20〜27℃、湿度30〜60%RHの発酵室内などの環境下において静置する。発酵時間は4〜12時間が好ましい。発酵時間が4時間未満では、発酵が進んでいないので血糖値上昇抑制作用が低く、香りも青臭い。発酵時間が12時間を超えると、得られる発酵茶の味、香りが低下する傾向がある。薬効を重視した場合では、4〜12時間が好ましい。すなわち発酵時間4〜12時間が、特にAGH阻害性が高くなる。また抗酸化作用(DPPH消去活性)も高くなる。機能性に注目して製造を行うなら粉砕撹拌時間10〜15分、発酵時間を4〜12時間に保つことが理想である。また、この時間外では味に関しては苦渋みが強くなり、香りも悪くなる。
ついで、所定の発酵時間が経過したならば、原料を加熱して発酵を止め、乾燥する。例えば、容器に原料を流し込んだものを、乾燥機に入れ温度80〜120℃の熱風を吹き込み、排気温度が50〜60℃となるように操作する。加熱時間は60〜120分程度が好ましく、これにより原料中の水分量を5%程度とする。こうして、本発明の発酵茶が得られるが、加熱工程後のものは、粉状に粉砕してもよく、粉砕せずに固形物として用いることもできる。
【0032】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物における上記(1)テアシネンシンA、(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、(4)ポリフェノールPの各成分の含有量は特に限定されない。各成分が有するAGH阻害性(例えばIC50)を目安として、得ようとする血糖値上昇抑制効果、および該血糖値上昇抑制用組成物の摂取量に応じて適宜設定することができる。
【0033】
本発明の飲食品は、本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有しており、かつ経口摂取できる形態のものであれば特に限定されない。
例えば、本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉抽出物を含有する各種飲料である。また該発酵茶葉抽出物が発酵茶葉を水で抽出したものであって、そのまま飲用可能な風味を有するものであれば、該抽出物を茶飲料とすることもできる。
または、本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉または発酵茶葉抽出物を含有を種々の食品素材に添加した食品である。食品素材としては特に限定されることはなく、納豆、豆乳、味噌、醤油などの大豆食品、はんぺん、かまぼこ、ちくわなどの練り製品、ハム、ソーセージなどの食肉加工品、飴、キャラメル、最中、羊羹などの菓子類など多岐にわたる。
【0034】
本発明の飲食品における、血糖値上昇抑制用組成物の含有量は任意であり、血糖値上昇抑制用組成物自身が有するAGH阻害性(例えばIC50)を目安として、得ようとする血糖値上昇抑制効果、および期待される風味および摂取量に応じて適宜設定することができる。
例えば、発酵茶葉を水で抽出した抽出物をそのまま茶飲料とする場合、水と発酵茶葉との割合は、水100質量部に対して、発酵茶葉(含水率5質量%)0.5〜20質量部程度が好ましい。また抽出方法は、温度40〜100℃の温水または熱水に3分間〜60分間浸す方法が好ましい。
また発酵茶葉を食品素材に添加する場合、例えば、食品素材100質量部に対して、発酵茶(含水率5質量%)0.1〜200質量部の範囲で適宜に決めることができる。
このような、本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品は、これを摂取することにより血糖値上昇抑制効果が得られる。
【実施例】
【0035】
以下の実験例および分析試験例において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
以下の実験例および分析試験例で用いた原料の「茶の葉」はいずれも長崎県総合農林試験場東彼杵茶葉支場で栽培したヤブキタ種の三番茶の葉である。また、特に断りのない限り揉捻は揉捻機を用いて行った。
なお実施例1、分析試験例1〜5におけるAGH阻害性の評価は、松井らによる遊離AGHを用いた方法(J.Agric.food Chem., 47,550−553,(1999))に拠って行い、測定結果をα−グルコシダーゼ(AGH)酵素活性の阻害率(単位:%)で表している。
【0036】
[実験例1]
(混合発酵茶葉の製造)
茶の葉にビワ葉を投入し、揉捻機で揉み込んだ。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。揉み込みの時間は20分と40分の2通りとした。
この後、0時間、1時間、2時間、4時間、6時間、24時間の6通りの発酵工程を経て24種類の混合発酵茶葉を得た。なお、発酵工程0時間のものは揉み込み終了直後に得られる混合発酵茶葉である。
【0037】
(官能審査)
緑茶の官能審査経験がある3名のパネラーにて、上記で得た24種類の混合発酵茶葉について、緑茶の審査法に従って香気および味の審査を行った。審査に当たっては、審査茶碗に混合発酵茶葉3gを入れ熱水180mlを注ぎ、香りについては熱水を注いだ直後に、味については5分後に審査を行った。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果に示されるように、味、香りに関しては、揉捻時間が20分、発酵時間が0〜4時間で香気が高く、後味がさっぱりして優れる。揉捻時間が40分になると味が低下し、発酵時間が6時間以上になると香りの劣化が顕著になる。
【0040】
(AGH活性の測定)
上記で得た24種類の混合発酵茶葉のうち、発酵時間が6時間と24時間のものを除く16種類について、100℃の熱水で10分間抽出した抽出液(混合発酵茶葉の使用量;2.0mg/ml)のAGH阻害性を測定した。結果を表2に示す。
また、市販の緑茶、ビワ茶、グアバ茶、紅茶をそれぞれ同様に熱水で抽出した抽出液について、同様にしてAGH阻害性を測定した。結果を表3に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表2に示されるように、AGH阻害性は、茶の葉に対してビワ葉の配合割合を多くすると阻害率が低くなり、揉捻時間が長くても低くなる。また、発酵時間が長くなるにつれて阻害率が低くなる傾向がある。
また表2,3の結果より、特にビワ葉の配合割合10質量%、揉捻時間20分、発酵時間0〜1時間、およびビワ葉の配合割合25質量%、揉捻時間20分、発酵時間0時間の条件で、緑茶よりも優れたAGH阻害性が得られた。
【0044】
[分析試験例1]
表2において、優れたAGH阻害性を示した混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)を70%アセトン(濃度70体積%のアセトン水溶液、以下同様。)で室温抽出し、抽出液を濃縮して水溶液とした後、エーテルを加え溶媒分配してクロロフィルなどの脂溶性成分を除いた。得られた水層を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果を図1に示す。
図1に示されるように、緑茶成分であるカフェイン、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECg)に加えて、これらのカテキンの酸化により生成する二量体であるところのテアシネンシンC、テアシネンシンE、テアシネンシンA、テアシネンシンD(EGCgと重なっている)、テアフラビン類(テアフラビン(TF)、テアフラビン−3−O−ガレート(3−TFG)、テアフラビン−3’−O−ガレート(3’−TFG)、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート(3,3’−TFGG)を含む。)のピークが検出された。また、ベースラインの盛り上がりとして検出されるカテキン酸化生成物の存在も認められた。
【0045】
[分析試験例2]
表2において、優れたAGH阻害性を示した混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)を乾燥させた乾燥発酵茶葉を図2に示す手順で分画した。
<操作(1)> 乾燥発酵茶葉(含水率5質量%)125gを、70%アセトン2Lと共に破砕機(製品名;ワーリングブレンダー 7011S型、エフ・エム・アイ社製)中で破砕し、ろ過した。残渣を70%アセトン3Lで抽出してアセトン抽出液を得た後、該残渣をメタノール3Lで抽出してメタノール抽出液を得た。前記ろ過で得られたろ液と、前記アセトン抽出液と、前記メタノール抽出液を合わせてロータリーエバポレーターで濃縮後乾燥してエキス(乾燥物)59.9gを得た。
<操作(2)> 得られたエキスを水に懸濁し、エーテルを加え溶媒分配してクロロフィルなどの脂溶性成分を除いた。
<操作(3)> 操作(2)で得られた水層を水で調製したSephadex LH−20カラム(ファルマシア ファイン ケミカル社製、4cm×28cm)に流し込み、水(500mL)、40%メタノール(200mL)、60%メタノール(300mL)、80%メタノール(300mL)、メタノール(300mL)、60%アセトン(500mL)で順次溶出した。
溶出液を濃縮してフラクションFr.1(18.66g)、Fr.2(5.79g)、Fr.3(3.12g)、Fr.4(4.87g)、Fr.5(6.01g)、Fr.6(3.55g)、Fr.7(2.07g)に分画した。
各フラクションについてAGH阻害活性を測定したところ、下記表4に示すように、Fr.6及び7が非常に高い阻害率を示した。
【0046】
【表4】
【0047】
そこで、Fr.6及び7について、さらに図2に示す操作で分離精製を行った。
<操作(4)> Fr.6およびFr.7それぞれについて、MCIgelCHP20P(三菱化学社製、3cm×28cm)に付して、20%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、70%メタノール(100mL)、80%メタノール(100mL)、90%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.6からFr.6−1(899mg)、Fr.6−2(2.16g)、Fr.6−3(282mg)の画分を得た。また、Fr.7からFr.7−1(67mg)、Fr.7−2(1.17g)、Fr.7−3(600mg)の画分を得た。
このうちFr.6−1とFr.7−1は水素核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、それぞれテアシネンシンAおよびテアシネンシンDと同定した。Fr.6−3とFr.7−3はいずれもHPLCと薄層クロマトグラフィーの結果からテアフラビン類であると同定した。
【0048】
<操作(5)> Fr.6−2とFr.7−2を合わせたものをChromatorex ODS(富士シリシア社製、3cm×30cm)に付して、10%メタノール(100mL)、20%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.721(179mg)、Fr.722(1.10g)、Fr.723(530mg)、Fr.724(1.27g)に分画した。
このうちFr.721は1H−NMRスペクトルを測定し、EGCgとテアシネンシンAの混合物であると同定した。
【0049】
<操作(6)> Fr.722と723を合わせたものをSephadex LH−20カラム(3cm×20cm)に流し込み、エタノール(500mL)、90%エタノール(200mL)、20%メタノール(300mL)、60%アセトン(400mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.7221(3.7mg)、Fr.7222(41.3mg)、Fr.7223(47.0mg)、Fr.7224(166.2mg)、Fr.7225(458mg)、Fr.7226(657.5mg)に分画した。
このうちFr.7221、Fr.7222、Fr.7223とFr.7224は1H−NMRスペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、それぞれ没食子酸、ECg、EGCg、エピガロカテキン−3,3’(4’)−O−ガレートと同定した。
【0050】
<操作(7)> Fr.7225をDiaionHP20SS(三菱化学社製、2cm×20cm)に付して、20%メタノール(100mL)、25%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、35%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、45%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.72251(39.6mg)、Fr.72252(320mg)、Fr.72253(47.7mg)に分画した。
このうちFr.72251は1H−NMRスペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、ウーロンテアニンと同定した。
【0051】
<操作(8)>Fr.72252をChromatorex ODS(富士シリシア社製、2cm×20cm)に比して、10%メタノール(100mL)、20%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.722521(10.5mg)、Fr.722522(38.3g)、Fr.722523(60mg)に分画した。
このうちFr.722521は1H−NMRスペクトルを測定し、エピガロカテキン−3,3’(4’)−O−ガレートと同定した。
【0052】
<操作(9)> Fr.722523をSephadex LH−20カラム(1.5cm×20cm)に流し込み、80%メタノール(200mL)、90%メタノール(200mL)、メタノール(200mL)、60%アセトン(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.7225231(14.4mg)、Fr.7225232(16.1mg)、Fr.7225233(15.5mg)に分画した。
このうちFr.7225232は1H−NMRスペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、ガロイル ウーロンテアニンと同定した。
【0053】
これらの結果より、AGH阻害活性が高いFr.6及び7の下記の画分にはそれぞれ下記化合物が含まれていることが判明した。下記化合物の構造を図3に示す。
Fr.6−1:テアシネンシンA(TS−A)、
Fr.6−3、7−3:テアフラビン(TF)混合物(テアフラビン、テアフラビン−3−O−ガレート、テアフラビン−3’−O−ガレート、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートを含む)、
Fr.7−1:テアシネンシンD (TS−D)、
Fr.7221:没食子酸
Fr.7222:エピカテキン−3−O−ガレート(ECg)、
Fr.7223:エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、
Fr.7224およびFr.722521:エピガロカテキン(EGC)−3,3’(4’)−ジ−O−ガレート、
Fr.72251:ウーロンテアニン、
Fr.7225232:ガロイルウーロンテアニン。
【0054】
また上記各化合物の含有量を定量した結果を図2中に示している。この結果より、AGH阻害活性が高いFr.6の主成分はテアシネンシンAであることが判明した。またAGH阻害活性が高いFr.7の主成分はテアフラビン(TF)混合物であることが判明した。該テアフラビン混合物に含まれる上記テアフラビン類について、それぞれAGH阻害活性を測定したところ、特にテアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートが強い酵素阻害活性を示した。このことは後述の分析試験例5、6の結果からもわかる。
【0055】
[分析試験例3]
上記分析試験例2において非常に高いAGH阻害活性を示したFr.7について、HPLC分析を行った結果を図4Aに示す。分析条件は、
カラム:Cosmosil 5C18 ARII(ナカライテスク社製、4.6×250mm)、
カラム温度:35℃、
移動相:A;50mMリン酸、B;CH3CN、B 4%から30%(39分間)、30%から75%(15分間)、
流速:0.8ml/min、
検出:フォトダイオードアレイ検出(Max absorbance)とした。
(なお、以下の分析試験例におけるHPLC分析条件は、特に断りがない限り、本試験例と同様である。)
この図の結果より、Fr.7には上記分析試験例2で存在が判明したテアフラビン混合物および上記化合物のほかに、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析では原点として検出され、HPLC分析ではベースラインの盛り上がりとして検出される物質がかなり多く含まれていることが明らかになった。かかる物質は主に図2中のFr.724に分画されていた。
かかる物質は、各種カラムクロマトでの挙動および紫外可視吸収スペクトルがEGCgのものと類似していること、塩化第二鉄試薬及びバニリン塩酸試薬に対して陽性であることから、上記分析試験例2で存在が判明したカテキン類よりも分子量の大きいカテキン酸化生成物と推測される。
通常、茶に含まれる高分子ポリフェノールの典型的なものにプロアントシアニジンがあり、ビワ葉にはエピカテキンを構成ユニットとするプロアントシアニジン(ビワプロアントシアニジン)が含まれることが知られていることから、前記Fr.7における「分子量の大きいカテキン酸化生成物」にはプロアントシアニジンが含まれていると推測される。
【0056】
プロアントシアニジンは、カテキンまたはカテキン誘導体を構成ユニットとする二量体または重合体であり、これを構成するカテキンまたはカテキン誘導体は、4位の炭素(C−4)と8位の炭素(C−8)、あるいは4位の炭素(C−4)と6位の炭素(C−6)とが炭素−炭素結合されている。
そこで、前記Fr.7に含まれているプロアントシアニジンの構成ユニットを明らかにする目的で、Fr.7に対して、下記の方法でメルカプトエタノールによるチオール分解を行った。
すなわち、Fr.7の60%エタノール溶液(Fr.7の濃度;10mg/mL)0.2mLに、メルカプトエタノール試液(メルカプトエタノール2.5mL、0.1%塩酸4mL,エタノール27.5mL、水16mLを混合したもの)1.8mLを加えて60℃で6時間加熱し、反応液20μLをHPLCで分析した。分析条件は図4Aを得たときと同じとした。こうして得られたチオール分解後のクロマトグラムを図4Bに示す。
【0057】
この図4Bに示されるように、Fr.7をチオール分解すると分解前(図4A)には認められないピークが多数出現している。分解前には認められなかったピークおよび分解前よりも増大したピークについて、標品(Tanaka,T.et.al.,J.CHem.Soc.Perkin Trans 1,1994,3013)の保持時間及び紫外吸収スペクトルとの比較を行った結果、EGC、EC、EGCg、ECg、EGC−ME、EC−ME、EGCg−ME、ECg−MEが同定された。
【0058】
また、図4Bにおいて、39分に検出されるピークは、Fr.7(500mg)をメルカプトエタノール試液10mLに溶解し、6時間加熱後、Chromatorex ODS(富士シリシア社製)(水−メタノール溶離液)カラムクロマト、次いでSephadex LH−20(EtOH溶離液)カラムクロマトで分離して精製したところ、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEであることが1H−NMRスペクトルの解析結果より明らかになった。エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEの構造式を図5に示す。
すなわち、1H−NMRスペクトルにおいて、A環、C環、ガロイル基及びヒドロキシエチルチオ基のシグナルはEGCg−MEのものとほとんど同じであるが、B環のシグナルがd7.40及び6.81にいずれも2H分の二重線(J=8Hz)として観察され、これはB環がp−ヒドロキシフェノールであることを示していた。また、TOF(飛行時間型)質量分析ではm/z 503に[M+H]+ピークを示したこともこのことを支持していた。
【0059】
これら同定された構成ユニットのうち、EGC、EGCg、ECgは高分子化合物の末端ユニットに由来し、チオエーテル化合物は延長ユニットに由来する。したがって、チオール分解される前の高分子化合物の構造、すなわち前記Fr.7に含まれるプロアントシアニジンの構造は、例えば図5に示すような構造を有すると推測される。
【0060】
これまで、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジンは烏龍茶から得られる二量体が1種知られているのみである(Hashimoto,F.et.al.,Chem.Pharm.Bull.,1989,37,3255−3263)。通常、二量体はHPLCで明確なピークとして検出されるが、Fr.7のHPLCでは、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEの生成量を説明できるほどの二量体に相当するピークは認められないことから、Fr.7のチオール分解により生成したエピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEは、三量体以上のプロアントシアニジンオリゴマーまたはポリマー由来であるといえる。かかる「エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン(三量体以上のオリゴマーまたはポリマー)」は、これまで知られていない新規な化合物である。
【0061】
なお、ビワ葉を加えず、茶の葉のみを用いたほかは同様にして製造した発酵茶葉について、同様の分析試験を行い、チオール分解後に得られたチオエーテル化合物を比較したところ、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEのピークは、ビワ葉を混合した場合も、混合しない場合もほぼ同じ大きさで検出された。また、ビワ葉から抽出したプロアントシアニジンをチオール分解しても、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEは検出されなかった。このことから、Fr.7に含まれる「エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン」は茶の葉由来であることがわかる。
また、EC−MEのピークは、ビワ葉を混合しない場合よりも、混合した場合の方が明らかに大きかった。このことから、ビワ葉に含まれる「エピカテキンを構成ユニットとするプロアントシアニジン(ビワプロアントシアニジン)」は、AGH阻害性が高いFr.7に含まれていることがわかる。
【0062】
[分析試験例4]
図4Bに示されるように、AGH阻害性が高いFr.7をチオール分解した後も、ベースラインの盛り上がりは残っている。
このことは、Fr.7には、上記分析試験例3で述べた「エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン」および「ビワプロアントシアニジン」のほかに、HPLC分析においてベースラインの盛り上がりとして検出される物質が存在することを示している。
そこで、HPLC分析においてベースラインの盛り上がりとして検出される物質が、茶の葉とビワ葉を混合した場合の混合発酵茶葉と、ビワ葉を混合しないほかは同様にした場合の発酵茶葉(以下、単独発酵茶葉ということがある)とで生成量が異なるかどうか比較した。なお混合発酵茶葉の製造条件は分析試験例1,2と同様であり、茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間である。
【0063】
混合発酵茶葉及び単独発酵茶葉それぞれについて、茶葉(含水率5質量%)3gを70%アセトン100mLで室温抽出(抽出時間18時間)した後ろ過した。ろ液を濃縮して水溶液(20mL)とした後、エーテル、酢酸エチルで2回ずつ溶媒分配した。
残った水層を一旦濃縮した後、70%エタノールで30mLとし、その10μLをHPLCで分析した。該水層のHPLC分析結果を図6に示す。
この図に示されるように、混合発酵茶葉の方が、単独発酵茶葉よりも、明らかにベースラインの盛り上がりとして検出される物質の量が多い。ピークの面積を比較すると、混合発酵茶葉においてベースラインの盛り上がりとして検出される物質の量は、単独発酵茶葉の159%と見積もられる。この増加分にはビワ葉由来のプロアントシアニジンも含まれるが、混合発酵茶葉におけるビワ葉の添加量は茶の葉の10分の1量にすぎないため、元々ビワ葉に含まれていた成分だけで59%の増加は説明できない。したがって、この増加分は、ビワ葉を添加したことにより生成が促進され、ビワ葉を添加しないと生成されないカテキン酸化生成物の存在を示している。
【0064】
一方、上記で得られた酢酸エチル層を濃縮後、80%メタノールで30mLとした後、その1mLをODSショートカラム(TOYOPAK ODS M、TOSO、東ソー社製)に80%メタノールで通導し、溶出液を5.0mLとして、その5μLをHPLCで分析した。該酢酸エチル層のHPLC分析結果を図7に示す。
この図に示されるように、混合発酵茶葉では単独発酵茶葉に比べてテアフラビン類のピーク面積が合わせて2.7倍に増加している。一方、カテキン類のピーク面積は減少しており、具体的にはEGCは0.24倍、ECは0.44倍、EGCgは0.57倍、ECgは0.64倍にそれぞれ減少している。
このことは、混合発酵茶葉においては、茶葉にビワ葉を添加し揉み込むことで高分子のカテキン酸化生成物が多量に生成されることを示している。
【0065】
[分析試験例5]
分析試験例4の結果より、混合発酵茶葉においては、茶葉にビワ葉を添加し揉み込むことで高分子のカテキン酸化生成物が多量に生成され、それはHPLC分析ではベースラインの盛り上がりとして検出されること、すなわち薄層クロマトグラフィー(TLC)分析では原点として検出されることがわかった。
そこで、かかる混合発酵茶葉において特異的に増加する成分を特定することを目的として、以下の方法により、混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)に含まれる成分のうち、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析において原点として検出される酸化型高分子ポリフェノールを分離した。
すなわち、混合発酵茶葉(含水率5質量%)228gを60%エタノール3Lで3回室温抽出し、3回の抽出液を合わせて減圧濃縮した。得られた水溶液(1.5L)をエチルエーテル、酢酸エチル、n−ブタノールで順次溶媒分配して、エチルエーテル可溶部(4.03g)、酢酸エチル可溶部(9.8g)、n−ブタノール可溶部(22.1g)を得た。
n−ブタノール可溶部15gを60%メタノールに溶かし、60%メタノールでコンディショニングしたSephadex LH−20カラムにかけ、60%メタノール、80%メタノール、100%メタノール、次いでメタノール−水―アセトン(8:1:1)混合溶液、メタノール−水―アセトン(6:2:2)混合溶液、水―アセトン(1:1)混合溶液で順次溶出した。溶出液をTLC(トルエン−ギ酸エチル−ギ酸、1:7:1)分析して、原点から移動しない物質を含むフラクションだけを集め濃縮して、ポリマー様物質(酸化型高分子ポリフェノール画分)1.4gを得た。そのHPLC分析結果を図8Aに示す。
【0066】
図8Aにおいて、45分付近の小さいピークはそのUV吸収からテアフラビン類の混在を示しているが、そのピーク面積はベースライン盛り上がり全体の2%以下であった。
こうして得られたポリマー様物質(酸化型高分子ポリフェノール画分)についてAGH阻害性を測定した。その結果を表5に示す。
またテアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートについてのAGH阻害性の測定結果も合わせて表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示されるように、混合発酵茶葉から上記の方法で分離した酸化型高分子ポリフェノール画分、すなわち混合発酵茶葉において特異的に増加する高分子ポリフェノールは、テアフラビン−3,3’−O−ジガレートと同等の強いマルターゼ及びスクラーゼ阻害活性を示した。この活性は、含有量から考えて、混入しているテアフラビン類(45分付近のピーク)によるものではなく、高分子ポリフェノールに由来するものである。
【0069】
さらに、上記で得られた酸化型高分子ポリフェノール画分に対して、下記の方法でメルカプトエタノールによるチオール分解を行った。
すなわち、上記で得た酸化型高分子ポリフェノールを60%エタノールに溶解させた溶液(酸化型高分子ポリフェノールの濃度:10mg/mL)0.2mLと、メルカプトエタノール試液0.8mLとを混合し、60℃で5時間反応させ、その5μLをHPLCで分析した。その結果を図8Bに示す。
前記分析試験例3においてFr.7をチオール分解したものをHPLC分析したときと同様に、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEを初めとするチオエーテル化合物及びカテキン類のピークが検出された。また図8Bにはチオール分解後にもベースラインの盛り上がりが観察された。
このことから、上記で得られた酸化型高分子ポリフェノール画分には、前述したエピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンが含まれるが、その含有割合は少なく、チオール分解されない物質がかなり含まれていることが示唆される。
【0070】
そこで、この酸化型高分子ポリフェノール画分の13C−NMRスペクトルを測定し、それをビワ葉に含まれる「エピカテキンを構成ユニットとするプロアントシアニジン(ビワプロアントシアニジン)」の13C−NMRスペクトルと比較した。その結果を図9に示す。図9Aはビワプロアントシアニジンのスペクトルであり、図9Bは前記酸化型高分子ポリフェノール画分のスペクトルである。
図9の結果より、ビワプロアントシアニジンにはカテコール環型B環(Bc)由来のシグナルが観察されるのに対して、混合発酵茶葉から分離された酸化型高分子ポリフェノールにはB環由来のシグナルがほとんど観察されず、カテキンのA環に対応するフロログルシノール(1,3,5−トリヒドロキシベンゼン)に由来するシグナル、及びガロイル基のピロガロール(1,2,3−トリヒドロキシベンゼン)に由来するシグナルが観察され、小さいながらC環由来のシグナルも一部認められた。
このことから、混合発酵茶葉から上記の方法で分離された酸化型高分子ポリフェノールの主成分はビワプロアントシアニジンではなく、B環部に様々な構造を持つカテキン誘導体が酸化的に縮合して高分子化した物質であることがわかる。
かかる高分子ポリフェノールの構造は、明確ではないが、図3に示した化合物からの類推により、主にカテキンガレート類のB環同士が酸化的に縮合して高分子化したものと考えられる。B環の結合様式としては図3に示すテアシネンシン、テアフラビン、ウーロンテアニンなど様々なタイプが推測されるが、現在のところ詳細は不明である。
【0071】
また、この酸化型高分子ポリフェノール画分を元素分析した結果、炭素57.06%、水素4.51%、窒素0.35%であった。
EGCgの計算値(C22H18O11:炭素57.65%、水素3.96%、C22H18O11・2H2O:炭素53.44%、水素4.49%)に比べて水素含有率が高く、通常の酸化では水素含有率は減少するはずであるので、カテキン酸化の過程で別の代謝産物が取り込まれている可能性が示唆される。
【0072】
さらに、得られた酸化型高分子ポリフェノールをアセチル化した後、ゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を測定したところ、ピークトップ分子量は2000(数平均分子量1400、質量平均分子量3200)であり、分子量分布は広く1000〜15000程度であった。
ゲル浸透クロマトグラフィーの測定条件は以下の通りとした。
カラム:TSK−gel G 4000H6、直径4.6mm×長さ250mm、東ソー社製、
ポンプ:TOSO DP8020、東ソー社製、
検出器:JASCO UV970日本分光社製、254nm、
移動層:テトラヒドロフラン、
温度:室温、
流速:1.0mL/min、
標準ポリスチレンとの比較による分子量計算:JASCO 807ITインテグレータ、日本分光社製。
なお、カテキン類からの類推でアセチル化による分子量増加分を1.5倍とすると、分子量は1330を極大とする670〜10,000となる。カテキンガレート類だけから生成したものと仮定すると、二量体に相当するもの(テアフラビン)から20量体に相当するものまで含まれることになる。
【0073】
[分析試験例6]
EC、ECG、EGC、EGCg、テアフラビン(TF)、3−TFG、3’−TFG、3,3’−TFGG、およびテアシネンシンA(TS−A)の純品(市販品)をDMSO(ジメチルスルホキシド):水=1:9からなる混合溶媒に溶解させてサンプル溶液を調製し、各サンプル溶液に関してAGH阻害活性測定を行った。
本試験例および分析試験例7におけるAGH阻害性の評価は、ラット小腸AGHを固定化した担体を用いたpseudo−in vivo法(T.Oki.et.al.,Biol.Pharm.Bull.,23,1084−1087(2000))によって行い、酵素活性を50%阻害する終濃度(IC50値、単位:mM)で表している。その結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
表6の結果より、マルターゼ阻害性が強いのは、ECG、EGCG、3−TFG、3,3,−TFGGであり、スクラーゼ阻害性が強いのは、ECG、EGCG、3,3,−TFGGであることが判明した。すなわち、カテキンではエステル型、テアフラビンではガロイル基の多置換OH基を有する分子構造をもつものがAGH阻害性がより強いことが明らかとなった。
【0076】
[分析試験例7]
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)20gを100℃の熱水1000mLで10分間抽出し、遠心分離して得られる上澄み液を凍結乾燥したものを試料としてAGH阻害性を調べた。
試料をDMSO:水=1:9の混合溶媒に溶解させてサンプル溶液を調製し、このサンプル溶液に関して上記pseudo−in vivo法によりAGH阻害性を測定した。またこのサンプル溶液に含まれるカテキン類(EC、ECG、EGC、EGCg)およびテアフラビン類(TF、3−TFG、3’−TFG、3,3’−TFGG)の含有量を測定した。そして前記分析試験例6で測定したIC50値に基づいて、混合発酵茶葉によって奏されるAGH阻害性を100%としたときの、各成分によって奏されるAGH阻害性の割合(活性寄与率、単位:%)を求めた。マルターゼ阻害性の結果を表7に示し、スクラーゼ阻害性の結果を表8に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
[実験例2]
混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)の耐糖能に及ぼす影響を調べるために動物実験を行った。
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)、番茶、ビワ葉を乾燥させ粉砕したビワ葉、およびビワ葉を混合せず茶の葉だけを20分間揉捻して得た単独発酵茶葉を試料茶葉として用意した。なお上記番茶は、混合発酵茶葉の原料として使用したのと同じ茶の葉を用い、通常の緑茶の製造法に従って製造した番茶(茶の葉を発酵させずに製造した荒茶)である。
それぞれの試料茶葉(含水率5質量%)20gを100℃の熱水1,000mlで10分間抽出した後、ろ過した。ろ液を凍結乾燥した粉末状の抽出物を得た。
コレステロールを含まないAIN−76組成を基本とした食餌に、上記で調製した各熱水抽出物を含有率1質量%となるように添加した飼料(4種)を、それぞれ4週齢雄のSprague−Dawley(SD)ラットに自由摂食させた。
また、コントロールとして、食餌に熱水抽出物を添加しないコントロール食を、同様のラットに自由摂取させた。
ラットは、室温22±1℃、湿度55±5%、8:00〜20:00点灯のライトサイクルの動物飼育室で飼育した。4週間後、6時間絶食した後、1g/kg体重のマルトースを経口投与した。投与後、0、10、20、30および60分後にそれぞれ尾静脈より採血して、血糖試験測定メディセーフチップ(テルモ社製)を用いて血糖値を測定した。
その結果を図10に示す。
【0080】
図10において、横軸はマルトース投与後の経過時間を示し、縦軸は血糖値の値を示している。なお血糖値の値は、マルトース投与時の血糖値を0mg/dlとして表している。
この図に示されるように、混合発酵茶葉の熱水抽出物を摂取したラットの血糖値は、いずれの試料茶葉よりも低いレベルで推移している。
このことから、混合発酵茶葉の熱水抽出物の摂取により優れた血糖値上昇抑制効果が得られることわかる。またその効果は、ビワ葉のみを乾燥させたビワ葉や、茶の葉のみを発酵させた茶葉で得られる効果よりも優れており、茶の葉とビワ葉を混合、揉捻、発酵させることにより相乗効果が得られることがわかる。
【0081】
[実験例3]
混合発酵茶葉の摂取による血糖値に及ぼす影響を調べるために動物実験を行った。
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)、をフードプロセッサを用いて、60〜100メッシュの大きさの粉末状態になるまで、粉砕加工して粉末状混合発酵茶葉を得た。
ラットは、1ヶ月齢の2型糖尿病を自然発症する雄性のOtsuka Long−Evans Tokushima Fatty ラット(以下OLETFラットという)と、その対象モデル動物で糖尿病を発症しない雄性のLong−Evans Tokushima Otsuka ラット(以下LETOラットという)とを用いた。ラットは、室温22±1℃、湿度55±5%、8:00〜20:00点灯のライトサイクルの動物飼育室で飼育した。
最初の3ヶ月間はLETOおよびOLETFラットにMF固形飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)を与えて予備飼育を行った。OLETFラットは通常5ヶ月齢から8ヶ月齢までに2型糖尿病を発症することから、発症の可能性のある1ヶ月前の4ヶ月齢からLETOラットと共に試験食の摂食を開始した。
すなわち、4ヶ月齢の時に6時間絶食(9:00〜15:00)後、尾静脈より採血して血糖値を測定し、体重と血糖値が等しくなるように1群6匹ずつ群分けし、以下の試験食を5ヶ月間自由摂食させた。
試験食は、AIN−76に基づいた純化食をコントロール食とし、LETOラット−コントロール群とOLETFラット−コントロール群に摂食させた。コントロール食の組成(g/kg)は、カゼイン200、サラダ油100、ミネラル混合(AIN−76−MX)35、ビタミン混合(AIN−76−VX)10、セルロース50、重酒石酸コリン2、DL−メチオニン3、コーンスターチ150およびショ糖450とした。
OLETFラット−混合発酵茶葉添加群には、上記コントロール食に粉末状混合発酵茶葉を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
いずれの群も、飼育期間中、摂食量は毎日、体重および摂水量は1日おきに測定した。
【0082】
試験食投与開始から1、2、3、4および5ヶ月後に、血糖試験測定メディセーフチップ(テルモ社製)を用い、6時間絶食後尾静脈より採血して血糖値を測定した。試験食を摂取した5ヶ月間のラット血糖値の変化を図11に示す。
図11において、横軸は試験食摂食後の経過時間(単位:月)を示し、縦軸は血糖値の値を示している。
この図に示されるように、コントロール食を摂取した糖尿病を発症しないLETOラットの血糖値は、飼育期間を通じて低値であった。一方、コントロール食を摂取した糖尿病を発症するOLETFラットの血糖値は、経時的に上昇し、糖尿病を発症したとみなされた。
これに対して、糖尿病を発症するOLETFラットに混合発酵茶葉の粉末を添加した飼料を摂取させた群では、時間が長期間経過しても血糖値は上昇せず糖尿病を発症しないLETOラットと同程度の低レベルであった。このことから混合発酵茶葉の粉末は優れた血糖上昇抑制効果を有することが明らかとなった。
【0083】
[実験例4]
混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)摂取による血糖値に及ぼす影響を調べるために動物実験を行った。
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)20gを100℃の熱水1000mLで10分間抽出し、ろ過して得られるろ液を凍結乾燥して粉末状の混合発酵茶葉抽出物を得た。
比較例として、通常の緑茶の製造法に従って製造した番茶(茶の葉を発酵させずに製造した荒茶)を同様の条件で抽出、ろ過、乾燥して粉末状の番茶抽出物を得た。また同じ含水率となるように乾燥させたビワ葉を同様の条件で抽出、ろ過、乾燥して粉末状のビワ葉抽出物を得た。
ラットは上記実験例3と同条件のものを用い、4ヶ月齢までの飼育条件も同じとした。
4ヶ月齢の時に6時間絶食(9:00〜15:00)後、尾静脈より採血して血糖値を測定し、体重と血糖値が等しくなるように1群6匹ずつに群分けし、以下の試験食を5ヶ月間自由摂食させた。
LETOラットとOLETFラットのコントロール食群には、実験例3と同じコントロール食を摂食させた。
OLETFラット−混合発酵茶葉添加群には、上記コントロール食に粉末状の混合発酵茶葉抽出物を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
OLETFラット−番茶添加群には、上記コントロール食に粉末状の番茶抽出物を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
OLETFラット−ビワ葉添加群には、上記コントロール食に粉末状のビワ葉抽出物を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
飼育期間中、摂食量は毎日、体重および摂水量は1日おきに測定した。
【0084】
試験食投与開始から1、2、3、4および5ヶ月後に、実験例3と同様にして血糖値を測定した。試験食を摂取した5ヶ月間のラット血糖値の変化を図12に示す。
図12における縦軸と横軸は図11と同様である。この図に示されるように、コントロール食を摂取した糖尿病を発症しないLETOラットの血糖値は、飼育期間を通じて低値であった。一方、コントロール食を摂取した糖尿病を発症するOLETFラットの血糖値は、経時的に上昇し、糖尿病を発症したとみなされた。
これに対して、2型糖尿病を発症するOLETFラットに混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)を添加した飼料を摂取させた群では、時間が長期間経過しても血糖値は上昇せず糖尿病を発症しないLETOラットと同程度の低レベルであった。このことから混合発酵茶葉の熱水抽出物は優れた血糖上昇抑制効果を有することが明らかとなった。
【0085】
[実験例5]
発酵茶葉の安全性を確認するために動物実験を行った。
すなわち、混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)、を、フードプロセッサを用いて60〜100メッシュの大きさの粉末状態になるまで粉砕加工して得られた粉末状混合発酵茶葉を、4週齢のSprague−Dawley系雄ラットに1日当たり5000mg/kg体重の用量で経口投与した。温度22±1℃、湿度55±5%、飼料および水自由摂食の条件下で4週間飼育したところ、死亡は認められず、異常な体重変化はみられず、飼育終了後の剖検においても臓器の異常は観察されなかった。
従って、ラットに対する発酵茶の致死量(LD50)は5000mg/kg体重より多いと推定され、安全性はかなり高いものと判断された。
【0086】
[実験例6]
(混合発酵茶葉の製造−手で揉む方法)
茶の葉にビワ葉を投入し、手で揉む方法で揉捻した。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。揉み込みの時間(手揉み時間)は25分と50分の2通りとした。
この後、0時間、1時間、2時間、4時間の4通りの発酵工程を経て16種類の混合発酵茶葉を得た。なお、発酵工程0時間のものは揉み込み終了直後に得られる混合発酵茶葉である。
得られた混合発酵茶葉について実験例1と同様にして100℃の熱水で10分間抽出した抽出液(混合発酵茶葉の使用量;2.0mg/ml)を得、該抽出液について実施例1と同様にしてAGH阻害性(マルターゼ阻害性およびスクラーゼ阻害性)を測定し、また下記の方法でDPPH(1,1−ジピクリル−2−フェニルヒドラジル)消去活性を測定した。それぞれの結果を表9、10に示す。なお、DPPH消去活性の測定値が大きいほど抗酸化作用が高いことを示す。また実験例1と同様にして官能審査を行った。結果を表11に示す。
【0087】
(DPPH消去活性の測定方法)
DPPH消去活性(単位:μmol−Trolox/mg)の測定は以下の方法で行った(以下、同様。)
混合発酵茶葉を粉砕したものを80%エタノール溶液に溶かし、同じく80%エタノール溶液を用いて0.5mg/mlに希釈した。400μM DPPH12mlと、200mM MES buffer(pH6.0)12mlと、20%エタノール12mlとの混液を作り、エッペンドルフマルチピペットを用いて試験管(a)〜(f)に該混液をそれぞれ0.9mlずつ分注した後、試験管(a)〜(f)のそれぞれに80%エタノールを(300−x)μl加えた(xは分析試料の添加量であり、具体的に試験管(a)〜(f)におけるxは、順に0、30、60、120、180、240である)。さらに試験管(a)〜(f)にそれぞれ分析試料(x)μlを加えて撹拌し、分析試料を添加してから20分後に波長520nmでの吸光度を測定した。
具体的には、時間の測定を開始してから30秒後に試験管(b)に分析試料を30μl加え、60秒後に試験管(c)に分析試料を60μl加え、120秒後に試験管(d)に120μl加え、180秒後に試験管(e)に180μlを加え、240秒後に試験管(f)に240μl加えた。そして時間の測定を開始してから20分後に試験管(a)の吸光度を測定し、20分30秒後に試験管(b)の吸光度を測定し、21分後に試験管(c)の吸光度を測定し、というように30秒おきに吸光度の測定を行った。
一方、標準試料としてTroloxを用いて検量線を作成した。検量線の横軸は試料添加量(単位:μmol)、縦軸は520nmでの吸光度である。
分析試料についての測定値を、横軸を試料添加量(単位:μl)、縦軸を520nmでの吸光度としてプロットし、直線的な吸光度減少が続く範囲内にて添加量(x’μl)に対する吸光度(△A520)の値を求める。次に検量線において同じ(△A520)が得られるときのTrolox添加量(単位:μmol)を求める。こうして得られるTrolox相当量(単位:μmol)から、混合発酵茶葉1mg当たりの消去活性の値(単位:μmol−Trolox/mg)を求める。
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
[実験例7]
(混合発酵茶葉の製造−すりつぶす方法)
乳鉢に茶の葉とビワ葉を入れてすりつぶした。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。すりつぶし時間は20分と40分の2通りとした。
この後、0時間、1時間、2時間、4時間の4通りの発酵工程を経て16種類の混合発酵茶葉を得た。なお、発酵工程0時間のものはすりつぶし直後に得られる混合発酵茶葉である。
得られた混合発酵茶葉について実験例1と同様にしてAGH阻害性を測定し、またDPPH消去活性を測定した。それぞれの結果を表12、13に示す。また実験例1と同様にして官能審査を行った。その結果を表14に示す。
【0092】
【表12】
【0093】
【表13】
【0094】
【表14】
【0095】
[実験例8]
(混合発酵茶葉の製造−粉砕撹拌する方法)
ミキサー(製品名:ミルアンドミキサー、テスコム社製)に茶の葉とビワ葉と水を入れて粉砕撹拌した。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。水の添加量は、茶の葉とビワ葉の合計100質量部に対して、100質量部とした。粉砕撹拌時間は10分と20分の2通りとした。
この後、1時間、4時間、8時間、12時間、16時間の5通りの発酵工程を経て20種類の混合発酵茶葉を得た。
得られた混合発酵茶葉について実験例1と同様にしてAGH阻害性を測定し、またDPPH消去活性を測定した。それぞれの結果を表15、16に示す。また実験例1と同様にして官能審査を行った。その結果を表17に示す。
【0096】
【表15】
【0097】
【表16】
【0098】
【表17】
【0099】
[分析試験例8]
(香気成分の分析)
ビワ葉のみを乾燥させたもの、ビワ葉のみを発酵させたもの、市販されている紅茶(ダージリン紅茶およびアッサム紅茶)、長崎県総合農林試験場東彼杵茶業支場で栽培された茶の葉を用いて発酵させた紅茶、同じ茶の葉を用い発酵させずに製造した緑茶(荒茶)、および混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)のそれぞれをサンプルとして、香気成分の定量分析を行った。
一般に茶系の香気成分の前処理は、カラム濃縮法等で行われている。ここでは、簡易・迅速な試料の抽出、濃縮、クロマトグラフ導入法として固相マイクロ抽出法で行った。定量は、測定対象である試料に内標準としてシクロヘキサノールを添加しておき、各香気成分のピーク面積を内標準に対する相対ピーク面積比として求めた。
【0100】
具体的には、以下の方法で行った。試料の調整は200mLの三角フラスコに、サンプルを20g、30%塩化ナトリウム水溶液を1mL、内標準として1%シクロヘキサノールを50μL加えて密栓した後、80℃で5分間加熱して三角フラスコ内を安定させた後、捕集管を20分間挿入して、発生した香気成分をトラップした。香気成分をトラップした捕集管を250℃に加熱したガスクロマトグラフの注入口に挿入し、香気成分をガスクロマトグラフのカラムに3分間導入して分析を行った。捕集管はSUPELCO社製のポリジメチルシクロヘキサン/carboxen/ジビニルベンゼンを用いた。ガスクロマトグラフの分析条件については、カラムはReapect社製のstabil−WAX(ポリエチレングリコール系)60m×0.25mm、膜厚0.25μを使用し、カラム温度は70℃に3分間保持後、250℃まで10℃/分で昇温した。注入口温度は250℃、ヘリウム圧力は120kPaとした。成分同定のためのガスクロマトグラフ質量分析は、I/F温度250℃、イオン化電圧70eV、イオン化電流60μAで行った。1−ヘキサノール、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、ネロリドールの9成分について、内標準に対する相対ピーク面積比を測定した。その結果を表18に示す。
【0101】
【表18】
【0102】
表の結果より、混合発酵茶葉には表に挙げた9成分が全て含まれている。これらのうち、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、およびネロリドールは、試験場の茶の葉を発酵させた紅茶にも比較的多く含まれており、市販の紅茶2種にも含まれているが、緑茶および発酵したビワ葉における含有量は比較的少ない。また、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、および3−ヘキセン−1−オールは、発酵したビワ葉に特徴的に多く含まれている。1−ヘキサノール以外の8成分のピーク面積(内標準に対する相対面積の値)を1−ヘキサノールのピーク面積(内標準に対する相対面積の値)と比較すると、8成分全部の各ピーク面積が、1−ヘキサノールのピーク面積よりも大きいのは混合発酵茶葉のみである。
なお1−ヘキサノールは、混合発酵茶葉において、茶の葉とビワ葉の配合割合、揉捻時間、発酵時間などの製造条件を変えても必ず検出され、かつ表に記載の他の8成分よりも常に少なく検出される香気成分である。
【0103】
[実験例9]
2型糖尿病を自然発症するKK−Ayマウスに混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)、テアシネンシンを多く含むフラクション(以下、TSフラクションという。)、およびテアフラビンを多く含むフラクション(以下、TFフラクションという。)をそれぞれ摂取させて、血糖値に及ぼす影響を調べた。
混合発酵茶葉の熱水抽出物は、混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)20gを100℃の熱水1,000mlで10分間抽出した後、ろ過し、ろ液を凍結乾燥して粉末状にしたものを用いた。
TSフラクションとしては、前記分析試験例2で得られるFr.6を凍結乾燥して粉末状にしたものを用いた。
TFフラクションとしては、前記分析試験例2で得られるFr.7を凍結乾燥して粉末状にしたものを用いた。
マウスは、室温22±1℃、湿度55±5%、8:00〜20:00点灯のライトサイクルの動物飼育室で飼育した。
5週齢のKK−Ayマウスを用い、最初の2週間はMF固形飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)を与えて予備飼育を行った。KK−Ayマウスは7〜8週齢頃に糖尿病を自然発症することから、発症する可能性のある7週齢から試験食の摂食を開始した。すなわち、7週齢のときに6時間絶食(9:00〜15:00)後、尾静脈より採血して血糖値を測定し、体重と血糖値が等しくなるように1群7匹ずつに群分けし、以下の試験食を6週間自由摂食させた
【0104】
試験食は以下の7通りである。
・コントロール食:AIN−76組成に基づいた純化食をコントロール食とした。コントロール食の質量組成(g/kg)は、カゼイン200g/kg、コーン油100g/kg、ミネラル混合物(AIN−76−MX)35g/kg、ビタミン混合物(AIN−76−VX)10g/kg、セルロース50g/kg、重酒石酸コリン2g/kg、DL−メチオニン3g/kg、コーンスターチ150g/kgおよびショ糖450g/kgとした。
・抽出物添加食:前記コントロール食100質量部に、上記粉末状の熱水抽出物(凍結乾燥品)を1質量部を添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TS添加食:上記熱水抽出物(凍結乾燥品)にはテアシネンシンが5.4質量%含まれることから、前記抽出物添加試験食中とテアシネンシン含有量が等しくなるように、コントロール食に前記TSフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TS2倍添加食:テアシネンシン含有量が前記抽出物添加試験食の2倍となるように、コントロール食に前記TSフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TF添加食:上記熱水抽出物(凍結乾燥品)にはテアフラビンが4.8質量%含まれることから、前記抽出物添加試験食中とテアフラビン含有量が等しくなるように、コントロール食に前記TFフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TF2倍添加食:テアフラビン含有量が前記抽出物添加試験食の2倍となるように、コントロール食に前記TFフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TS+TF添加食:テアシネンシン含有量およびテアフラビン含有量が前記抽出物添加試験食とそれぞれ等しくなるように、コントロール食に前記TSフラクションおよびTFフラクションを添加し、それらの添加量の合計分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
【0105】
飼育期間中、摂食量は毎日測定し、体重および摂水量は1日おきに測定した。
試験食摂食開始2、4および6週間後に、血糖試験測定メディセーフチップ(テルモ社製)を用い、6時間絶食後、尾静脈より採血して血糖値を測定した。試験食を摂取した6週間のマウスの血糖値の変化を図13から図16に示す。
図13に示すように、コントロール食を摂取したマウスの血糖値は、経時的に上昇して6週間後には300mg/dlを超えた。また摂水量も同様に増加したことから、コントロール食を摂取したマウスは糖尿病を発症したとみなされる。一方、抽出物添加食を摂取したマウスの血糖値は、経時的に減少する傾向にあり、6週間後の値はコントロール食を摂取したマウスの約半分に低下した。
図14に示すように、TS添加食を摂取したマウスの血糖値は6週間後に低下し、TS2倍添加食を摂取した場合はさらに効果的に低下した。
図15に示すように、TF添加食を摂取したマウスの血糖値は6週間後に低下し、TF2倍添加食を摂取した場合は4週間後から低下した。
図16に示すように、TS+TF添加食を摂取したマウスの血糖値は、4週間以降に抽出物添加食を摂取したマウスとほぼ同じレベルになった。
以上の結果から、混合発酵茶葉の熱水抽出物の血糖上昇抑制作用は、主にテアシネンシンとテアフラビンにより発揮されていることが明らかとなった。
【0106】
[臨床試験例1]
混合発酵茶葉の抽出物を含む飲料の摂取が、成人の血糖値に及ぼす影響を検討した。なお、本試験は県立長崎シーボルト大学研究倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言の精神を遵守して実施した。
被験者は、長崎県庁内での募集に応募した長崎県庁職員で、健康な者と同様の日常生活を営んでおり、医師からの服薬指導を受けておらず、非妊娠者であり医師が適当と判断した者で、本試験の内容について十分な説明を受け、本人の自由意志により本人が同意書を提出した28名である。
試験飲料は、90℃の熱水100質量部に対して、混合発酵茶葉を焙煎したもの(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率1質量%)を0.83質量部添加して4分間抽出した後、ろ過したろ液を200mlずつ紙パックに充填し密封したものを用いた。
試験飲料を被験者に、朝食または昼食時と夕食時に各1本の1日合計2本を3ヶ月間飲用させた。試験飲料摂取前、摂取開始1ヶ月後、2ヶ月後および3ヶ月後の、早朝空腹時に採血、体重測定、体脂肪率測定および血圧(収縮期血圧および拡張期血圧)測定を行った。なお、採血前日の夜9時以降の飲食を禁止した。試験期間3ヶ月中の食事については特別な制限を設けず、日常と変わらない生活をするよう指導した。
血液成分についての測定項目として、総タンパク質、A/G比、総コレステロール、HDL−コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸、尿酸、尿素窒素、クレアチニン、Na、Cl、K、GOT、GPT、γ−GTP、リン脂質、Ca、無機リン、コリンエステラーゼ、LDH、ALP、アルブミン、直接ビリルビン、間接ビリルビン、インスリン、血糖、ヘモグロビンA1c、白血球数、赤血球数、血色素量、ヘマトクリット、MCV、MCH、MCHC、血小板数を測定した。
【0107】
試験飲料を摂取した3ヶ月間、28名の平均値は、すべての測定項目において正常範囲内であった。
図17、18は、血糖値の測定結果を示すグラフであり、図17は28名全員の平均値、図18は、試験飲料摂取開始前の血糖値(初期値)が110mg/dL以上のヒト(10名)の平均値を初期値に対する変動率で表している。該変動率は、(測定値の平均値−初期値)/初期値×100(単位:%)で算出される値であり、図中の「*」は初期値に対して有意差があることを示す(以下、同様)。
図に示されるように、全員の平均値は試験期間中変動しなかったが、初期値が高いヒトでは摂取開始2ヶ月後および3ヶ月後に摂取前に比べて有意に低下した。
この結果から、混合発酵茶葉の抽出液を含有する飲料を摂取することにより、血糖値の値が高い傾向を有するヒトにおいて、その値を改善させる効果が得られることが明らかとなった。さらに、正常なヒトでは血糖値の測定値を低下させないことから、安全性が高い飲料であると評価される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明に係る混合発酵茶葉エキスの高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図2】本発明に係る混合発酵茶葉の成分分離操作の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る混合発酵茶葉に含有されるポリフェノールの例を示す図である。
【図4】発明に係る混合発酵茶葉の成分分離操作で得られたフラクションの高速液ロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図5】発明に係る混合発酵茶葉の成分分離操作で得られたフラクションに含まれるプロアントシアジニンの推定構造およびそのチオール分解物の例を示す図である。
【図6】本発明に係る混合発酵茶葉エキスおよび比較例としての単独発酵茶葉エキスの水溶性画分の高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図7】本発明に係る混合発酵茶葉エキスおよび比較例としての単独発酵茶葉エキスの酢酸エチル可溶画分の高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図8】本発明に係る混合発酵茶葉から分離した酸化型高分子ポリフェノール画分およびそのチオール分解物の高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図9】本発明に係る混合発酵茶葉から分離した酸化型高分子ポリフェノール画分およびビワプロアントシアニジンの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】実験例2の結果を示すグラフである。
【図11】実験例3の結果を示すグラフである。
【図12】実験例4の結果を示すグラフである。
【図13】実験例9の結果を示すグラフである。
【図14】実験例9の結果を示すグラフである。
【図15】実験例9の結果を示すグラフである。
【図16】実験例9の結果を示すグラフである。
【図17】臨床試験例1の結果を示すグラフである。
【図18】臨床試験例1の結果を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は血糖値上昇抑制用組成物およびこれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代、不規則な食生活や運動不足等が原因で発症する生活習慣病への関心は高く、中でも糖尿病は大幅な増加傾向にある。糖尿病を発症していなくても高めの血糖値は様々な生活習慣病のシグナルとされており、また肥満は生活習慣病を引き起こし易いと言われていることから、血糖値の上昇を抑える飲食品が注目されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、グアバ葉の抽出液に含まれるα−アミラーゼ阻害物質を用いたダイエット食品が提案されている。
グアバ葉抽出液のほかにも、糖の吸収をおだやかにする作用を有する特定保健用食品として、難消化性デキストリン、小麦アルブミン、L−アラビノース、豆鼓エキスを有効成分とする飲食品が知られている。
【特許文献1】特開平7−59539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、血糖値の上昇を抑える飲食品への関心は増しており、より有効な血糖値上昇抑制用組成物および飲食品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、茶の葉とビワ葉を原料として製造された混合発酵茶葉が、血糖値上昇抑制作用の指標となるAGH阻害性(マルターゼ阻害性およびスクラーゼ阻害性)が高く、かつマウスを用いた実験で優れた血糖値上昇抑制効果を奏することを知見し、かかる優れた血糖値上昇抑制効果をもたらす有効成分の特定について鋭意研究を行った結果、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPの各成分が、それぞれ高いAGH阻害性を示すことを見出して、本発明に至った。
【0006】
すなわち本発明は、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物を提供する。
好ましくは、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物である。
【0007】
また本発明は、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物を提供する。
好ましくは、前記発酵茶葉が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物である。
【0008】
また本発明は、テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉抽出物からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物を提供する。
好ましくは、前記発酵茶葉抽出物が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物である。
また本発明は、本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な血糖値上昇抑制作用を有する組成物およびこれを含有する飲食品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物は、
(1)テアシネンシンA(以下、TS−Aと略記することもある。)、
(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、
(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、
(4)13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノール(以下、ポリフェノールPと略記することもある。)
からなる群から選ばれる1種または2種以上の成分を含有する。2種以上含有する場合の組み合わせは任意であり、4種全部を含有することがより好ましい。
これら(1)〜(4)の成分はいずれも、後述の実験例および分析試験例に示されるように、高いAGH阻害性(マルターゼ阻害性およびスクラーゼ阻害性)を示す成分である。
このような成分を含む本発明の血糖値上昇抑制用組成物は、これを経口摂取することにより血糖値上昇抑制効果が得られる。
【0011】
(1)テアシネンシンAは、図3に示される構造を有する化合物である。
(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体は、具体的には、テアフラビン−3−O−ガレート(3−TFG)、テアフラビン−3’−O−ガレート(3’−TFG)、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート(3,3’−TFGG)から選ばれる1種以上である。これらの構造は図3に示される。これらの中でも、特に、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートはAGH阻害性がより強いので、これを含むことが好ましい。
(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンは、後述の分析試験例3におけるFr.7に含まれており、メルカプトエタノールによるチオール分解により、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、およびエピカテキン−3−O−ガレート(ECg(以下、ECGと記載することもある))からなる群から選ばれる1種以上と、EGC−ME(以下、「−ME」は「4−(2’−ハイドロキシエチルチオ)エーテル」を示す。例えばEGC−MEは、EGCの4−(2’−ハイドロキシエチルチオ)エーテルであることを示す。以下同様)、EC−ME、EGCg−ME、およびECg−MEからなる群から選ばれる1種以上と、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEとを生じるものである。かかるプロアントシアニジンのチオール分解前の構造は例えば図4に示されるものと推定される。なお、(3)成分におけるエピアフゼレチンガレートは、エピアフゼレチン−3−O−ガレートを指す。
【0012】
上記(4)ポリフェノールPは、例えば後述の分析試験例5に示されるように、これを含有する発酵茶葉を、60%エタノール(濃度60体積%のエタノール水溶液、以下、同様)で室温抽出した抽出液をエチルエーテル、酢酸エチル、n−ブタノールで順次溶媒分配し、n−ブタノール可溶部を60%メタノールに溶かしたものを、Sephadex LH−20カラムにて、60%メタノール、80%メタノール、100%メタノール、次いでメタノール−水―アセトン(8:1:1)混合溶液、メタノール−水―アセトン(6:2:2)混合溶液、水―アセトン(1:1)混合溶液で順次溶出した溶出液を、薄層クロマトグラフィー(トルエン−ギ酸エチル−ギ酸、1:7:1)分析して、原点から移動しない物質を含むフラクションだけを集めて濃縮して得られるものである。
【0013】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物の好ましい実施形態は上記(1)〜(4)の成分の1種以上を含有する発酵茶葉または発酵茶葉抽出物である。
発酵茶葉とは、原料となる葉を、加熱による酸化酵素失活を行わずに揉捻する工程を経て得られるもので、製造過程で酸化酵素による成分の酸化が生じている。本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉の形態は特に限定されず、発酵が生じた茶葉を加熱して発酵を止め、乾燥したもの(いわゆる荒茶)でもよく、さらに必要に応じて仕上げ加工を施した仕上げ茶であってもよい。また荒茶または仕上げ茶を適宜の大きさの粉末状にしたものでもよい。
【0014】
発酵茶葉抽出物とは、発酵茶葉の可溶性成分を抽出溶媒で抽出して得られる抽出物である。抽出溶媒は水(温水または熱水を含む)でもよく、有機溶媒でもよい。有機溶媒の具定例としてはメタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉抽出物の形態は特に限定されず、溶液状でもよく、その濃縮物でもよく、さらに凍結乾燥等により乾燥させた固体でもよい。固体の場合は、塊状であってもよく、さらにそれを適宜の大きさに粉砕した粉末状であってもよい。発酵茶葉抽出物を有機溶媒を含む形態で飲食品に用いる場合は、有機溶媒としてエタノールが用いられる。
【0015】
抽出条件は特に制限されないが、水で抽出する場合は、温度40〜100℃の温水または熱水に発酵茶葉を3分間〜60分間程度浸して抽出することが好ましい。水と発酵茶葉との割合は、水100質量部に対して、発酵茶葉(含水率5質量%)0.5〜20質量部程度が好ましく、0.5〜5質量部程度がより好ましい。
有機溶媒で抽出する場合は、有機溶媒100質量部に対して発酵茶葉(含水率5質量%)0.1〜20質量部程度を用い、常圧または加圧下で、温度−20〜60℃、時間1〜60分の条件で行うことが好ましいが、この範囲に限定されず、適宜変更することができる。
抽出処理後、ろ過、遠心分離などで、固形分を除去して抽出液が得られる。
【0016】
本発明における発酵茶葉は、茶の葉とビワ葉が混合、揉捻され、発酵してなる混合発酵茶葉が好ましい。該混合発酵茶葉には、上記(1)テアシネンシンA、(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、および(4)上記ポリフェノールPが含まれる。
さらに、原料の茶の葉として、上記(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンを含有する茶の葉を用いて製造した混合発酵茶葉には、上記(1)〜(4)の成分が全部含まれるため、より好ましい。
【0017】
上記混合発酵茶葉には、ビワプロアントシアニジンが含まれることが特徴的である。後述の分析試験例3に示されるように、ビワプロアントシアニジンは、AGH阻害性が高い混合発酵茶葉の抽出物から得られる複数のフラクションの中で、最もAGH阻害性が高いフラクション(Fr.7)に含まれていることからAGH阻害性に寄与していると考えられる。
【0018】
また、上記混合発酵茶葉にあっては、テアフラビン類(テアフラビン(TF)、テアフラビン−3−O−ガレート(3−TFG)、テアフラビン−3’−O−ガレート(3’−TFG)、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート(3,3’−TFGG))の合計の含有量が、茶の葉とビワ葉とをそれぞれ単独で同様に揉捻し、発酵してなる単独発酵茶葉に比べて、多く含まれることも特徴的である。
さらに、上記混合発酵茶葉にあっては、(4)上記ポリフェノールPの含有量が、茶の葉とビワ葉とをそれぞれ単独で同様に揉捻し、発酵してなる発酵茶葉に比べて、多く含まれることも特徴的である。
【0019】
<香気成分>
また上記混合発酵茶葉は、1−ヘキサノール、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、およびネロリドールの香気成分を含み、固相マイクロ抽出法においてトランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、ネロリドールの香気成分の各ピーク面積が、いずれも1−ヘキサノールのピーク面積より大きいという、特徴的な香気成分組成を有する。
上記に挙げた香気成分のうち、後述の分析試験例8にも示されるように、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、およびネロリドールは、紅茶等の発酵茶にも比較的多く含まれ、緑茶等の不発酵茶および発酵したビワ葉には少ない香気成分である。また、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、および3−ヘキセン−1−オールは、発酵したビワ葉にも比較的多く含まれる香気成分である。本発明の混合発酵茶葉は、これらの香気成分を比較的多い含有量で有しており、これにより発酵茶として特有な香りを味わうことができる。
【0020】
上記混合発酵茶葉は、以下の方法で製造することができる。
原料として用いられる茶の葉は、いわゆるツバキ科の常緑低木Thea sinensis L.の葉である。この葉としては、一番茶以外に二番茶、三番茶、秋冬番茶、刈番茶なども使用でき、比較的多くのポリフェノール類を含む二番茶以降の安価な茶の葉のほうが好ましい。なお、これらの遅手の番茶は、現在価格が低迷し、かなりのものが廃棄されているが、このものを有効に利用できる。
特に、後述の実験例および分析試験例で用いた長崎東彼杵産の中国種の茶葉、好ましくはヤブキタ種の茶葉には、天然での存在が少ししか確認されていないエピアフゼレチン−3−O−ガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンが含まれるので好ましい。また該エピアフゼレチン−3−O−ガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンを含む可能性がある茶葉としては、インド産ダージリン紅茶や中国産キーモン紅茶の製造に用いられる茶葉が挙げられる。
【0021】
原料として用いられるビワ葉は、バラ科、植物名「ビワ」の葉であり、特に制限なく用いることができる。
【0022】
混合発酵茶葉を製造するには、まず、前処理として、ビワ葉および茶の葉を、必要に応じて乾燥し、含水率を50〜60質量%程度としておくことが好ましい。また適宜の寸法、例えば1〜10mm角程度の大きさに切断しておくことが好ましい。
そして、茶の葉を乾燥し、水分量を減少させ、萎凋させる。この工程では、例えば粗揉機や、直火または電気で加熱した鍋または板状の器具を用い、茶の葉を撹拌しつつ、温度40〜150℃の加熱空気を茶の葉に当てる方法、密閉撹拌容器内に茶の葉を投入し、容器内の空気を吸引して内部を減圧状態として撹拌して乾燥する方法、萎凋槽を用いてネット上に散布した茶の葉の下方から通気する方法などが用いられる。
この萎凋により原料の茶の葉の含水率を45〜65質量%、好ましくは50〜60質量%程度に減少させておくと、次の揉捻工程で茶の葉から水分が揉み出れ難くなるため、有効成分の流亡を防止できるとともに品質の低下を抑えることができる。また後の乾燥工程が短縮できる点でも好ましい。
【0023】
次いで、萎凋工程を経た原料の茶の葉を加圧しながら揉む(揉捻)とともに、この揉捻時にビワ葉を添加して、両者を一緒に揉捻する。ビワ葉は茶の葉の揉捻開始と同時に添加してもよく、あるいは一定時間茶の葉のみの揉捻を行った後、びわ葉を添加してさらに揉捻してもよい。全揉捻時間のうち、揉捻開始から0〜40%の時間が経過したのち、ビワ葉を添加することが好ましい。ビワ葉を揉捻工程の最初から添加しておくことがより好ましい。
ビワ葉の添加量は、ビワ葉/茶の葉の絶乾質量比が、5/95〜35/65の範囲が好ましく、8/92〜30/70の範囲がより好ましい。ビワ葉の添加量が上記範囲内であれば、茶の葉とビワ葉を混合したことによる血糖値上昇抑制作用の向上効果が良好に得られる。
【0024】
揉捻は、茶の葉の揉捻に用いられている通常の揉捻機を用いる方法など、公知の方法を適宜採用できる。
揉捻時間は、15〜25分とされる。この範囲とすることにより血糖値上昇抑制作用が良好となる。
また、揉捻時の原料の温度は、20〜40℃とされる。20℃未満では発酵不足となり、40℃を越えると品質低下が著しくなる。
【0025】
この揉捻により、茶の葉およびビワ葉の組織が破壊され、茶の葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が茶の葉およびビワ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物が生成する。
【0026】
次いで、この状態の混合原料を発酵工程に移す。すなわち、揉捻後の混合原料を数cmの厚さに堆積させた状態で、温度20〜27℃、湿度30〜60%RHの発酵室内などの環境下に静置する。なお、茶類の製造工程における「発酵」とは葉中の酸化酵素による酸化反応を意味する。
発酵時間は0〜4時間とされる。ここで、発酵時間が0時間と言うことは、先の揉捻工程において、揉捻の開始と同時に発酵が開始するためであり、揉捻工程の時間を発酵工程に含めない場合には、発酵時間が0時間と言うこともあり得るのであり、実体は0時間でも発酵が行われているものである。発酵時間が4時間を超えると、得られる混合発酵茶葉またはその抽出物の味、香りが低下する傾向がある。特に優れたAGH阻害性を得るには、発酵時間は1時間以下が好ましく、0時間が最も好ましい。
【0027】
次いで、所定の発酵時間が経過したならば、原料を加熱して発酵を止め、乾燥する。例えば、連続式乾燥機に原料を投入し、これに温度80〜120℃の熱風を吹き込み、排気温度が50〜60℃となるように操作する。加熱時間は10〜30分程度で十分であり、これにより原料中の含水率を5質量%程度とする。
上記製造工程において、揉捻時間、発酵時間が長くなるほどAGH阻害性が低くなる。また、抗酸化作用(1,1−ジピクリル−2−フェニルヒドラジル(DPPH)消去活性)も低くなる。機能性に注目して製造を行うなら揉捻時間を15〜25分とし、発酵時間をなるべく短くすることが理想である。
また、発酵時間が長くなるほど味に関しては苦渋みが強くなり、香りも悪くなり発酵時間が短いほど味、香りとも優れる。
【0028】
こうして混合発酵茶葉が得られる。加熱工程後のものは、いわゆる荒茶であり、これに必要に応じて仕上げ加工を施して仕上げ茶としてもよい。仕上げ加工は、再乾燥、火入れ、篩い分け、整形、選別など、従来の茶葉製造における仕上げ加工と同様の工程を適宜採用することができる。上記火入れは、再加熱して香味の発揚を図る工程である。仕上げ加工を行うことにより、貯蔵性、香りなどの品質を高めて商品性を向上させることができる。
【0029】
また上記揉捻工程は、上述したように茶の葉およびビワ葉の組織が破壊されればよく、揉捻機を用いる方法のほかに、例えば手で揉む方法、すりつぶす方法、水を加えて粉砕する方法等を用いて行うことができる。
手で揉む方法を用いる場合は、通常、茶の葉の揉み込みに用いられている手法を適宜用いることができる。例えば、「ねこぶき」と呼ばれる荒縄で編んだ凹凸のある敷物上で、手で揉み込む方法などが採用でき、これ以外の方法を用いてもよい。具体的には、萎凋工程を経た原料の茶の葉を手で揉む方法で揉捻するとともに、この揉捻時にビワ葉を添加して、両者を一緒に揉捻する。この場合の揉捻時間は20〜30分が好ましく、20分未満または30分を超えると、得られる発酵茶の血糖値上昇抑制作用が低くなる。その他の条件等は上記と同じである。発酵工程は上記と同様に行うことができる。
本方法において、揉捻時間、発酵時間が長くなるほどAGH阻害性が低くなる。また、抗酸化作用(DPPH消去活性)も低くなる。機能性に注目して製造を行うなら揉捻時間を20〜30分とし、発酵時間をなるべく短くすることが理想である。
【0030】
すりつぶす方法を用いる場合は、茶の葉のすりつぶしに用いられている通常の乳鉢を用いる方法などが採用でき、これ以外のすりつぶし方法を用いてもよい。具体的には、萎凋工程を経た原料の茶の葉をすりつぶすとともに、このすり込み時にビワ葉を添加し、両方の原料をすり込む。この場合のすりつぶし時間は、15〜25分が好ましく、15分未満または25分を超えると、得られる発酵茶の血糖値上昇抑制が低くなる。すりつぶし時間の原料の温度は、20〜40℃とされる。20℃未満では発酵不足となり、40℃を超えると品質低下となる。さらに、ビワ葉の添加のタイミングは、茶の葉のすりつぶし開始と同時に添加してもよく、あるいは一定時間茶の葉のみのすりつぶしを行った後、ビワ葉を添加してさらにすりつぶしてもよい。全すりつぶし時間のうち、すりつぶし開始から0〜40%の時間が経過したのち、ビワ葉を添加することができる。その他の条件等は上記と同じである。
こうしてすりつぶすことによって、茶の葉およびビワ葉の原料の組織が破壊され、茶の葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が茶の葉およびビワ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物が生成する。発酵工程は上記と同様に行うことができる。
本方法において、すりつぶし時間、発酵時間が長くなるほどAGH阻害性が低くなる。また、抗酸化作用(DPPH消去活性)も低くなる。機能性に注目して製造を行うならすりつぶし時間を15〜25分とし、発酵時間をなるべく短くすることが理想である。
また、発酵時間が長くなるほど味に関しては苦渋みが強くなり、香りも悪くなり発酵時間が短いほど味、香りとも優れる。
【0031】
水を加えて粉砕する方法を用いる場合は、茶の葉とビワ葉に水を加え粉砕撹拌することによって、これらを混合するとともに茶の葉およびビワ葉の原料の組織を破壊することができる。粉砕撹拌は、茶の葉の粉砕撹拌に用いられている通常のミキサー等を用いる方法などが採用でき、これ以外の粉砕撹拌方法を用いてもよい。具体的には、萎凋工程を経た原料の茶の葉およびビワ葉に水を加えて粉砕撹拌する。茶の葉とビワ葉の混合割合は上記と同様である。加える水の量は茶の葉とビワ葉の合計100質量部に対して、20〜200質量部が好ましく、50〜150質量部がより好ましい。
粉砕撹拌時間は、5〜15分とされ、5分未満または15分を超えると、得られる発酵茶の血糖値上昇抑制が低くなる。粉砕撹拌時の原料の温度は上記と同様であり、20〜40℃とされる。
ビワ葉の添加のタイミングは、粉砕撹拌開始と同時に添加してもよく、あるいは一定時間茶の葉のみの粉砕撹拌を行った後、ビワ葉を添加してさらに粉砕撹拌してもよい。全粉砕撹拌時間のうち、粉砕撹拌開始から0〜50%の時間が経過したのち、ビワ葉を添加することが好ましい。
こうして粉砕撹拌することによって、茶の葉およびビワ葉が混合されるとともに、これら原料の組織が破壊され、茶の葉に含まれるポリフェノールオキシダーゼなどの酸化酵素が茶の葉およびビワ葉に含まれるポリフェノールを酸化、重合し、酸化重合物が生成する。
ついで、粉砕撹拌により得られた混合原料を発酵する工程においては、粉砕撹拌後の混合原料を数cmの厚さに堆積し、温度20〜27℃、湿度30〜60%RHの発酵室内などの環境下において静置する。発酵時間は4〜12時間が好ましい。発酵時間が4時間未満では、発酵が進んでいないので血糖値上昇抑制作用が低く、香りも青臭い。発酵時間が12時間を超えると、得られる発酵茶の味、香りが低下する傾向がある。薬効を重視した場合では、4〜12時間が好ましい。すなわち発酵時間4〜12時間が、特にAGH阻害性が高くなる。また抗酸化作用(DPPH消去活性)も高くなる。機能性に注目して製造を行うなら粉砕撹拌時間10〜15分、発酵時間を4〜12時間に保つことが理想である。また、この時間外では味に関しては苦渋みが強くなり、香りも悪くなる。
ついで、所定の発酵時間が経過したならば、原料を加熱して発酵を止め、乾燥する。例えば、容器に原料を流し込んだものを、乾燥機に入れ温度80〜120℃の熱風を吹き込み、排気温度が50〜60℃となるように操作する。加熱時間は60〜120分程度が好ましく、これにより原料中の水分量を5%程度とする。こうして、本発明の発酵茶が得られるが、加熱工程後のものは、粉状に粉砕してもよく、粉砕せずに固形物として用いることもできる。
【0032】
本発明の血糖値上昇抑制用組成物における上記(1)テアシネンシンA、(2)ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、(3)エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、(4)ポリフェノールPの各成分の含有量は特に限定されない。各成分が有するAGH阻害性(例えばIC50)を目安として、得ようとする血糖値上昇抑制効果、および該血糖値上昇抑制用組成物の摂取量に応じて適宜設定することができる。
【0033】
本発明の飲食品は、本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有しており、かつ経口摂取できる形態のものであれば特に限定されない。
例えば、本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉抽出物を含有する各種飲料である。また該発酵茶葉抽出物が発酵茶葉を水で抽出したものであって、そのまま飲用可能な風味を有するものであれば、該抽出物を茶飲料とすることもできる。
または、本発明の血糖値上昇抑制用組成物としての発酵茶葉または発酵茶葉抽出物を含有を種々の食品素材に添加した食品である。食品素材としては特に限定されることはなく、納豆、豆乳、味噌、醤油などの大豆食品、はんぺん、かまぼこ、ちくわなどの練り製品、ハム、ソーセージなどの食肉加工品、飴、キャラメル、最中、羊羹などの菓子類など多岐にわたる。
【0034】
本発明の飲食品における、血糖値上昇抑制用組成物の含有量は任意であり、血糖値上昇抑制用組成物自身が有するAGH阻害性(例えばIC50)を目安として、得ようとする血糖値上昇抑制効果、および期待される風味および摂取量に応じて適宜設定することができる。
例えば、発酵茶葉を水で抽出した抽出物をそのまま茶飲料とする場合、水と発酵茶葉との割合は、水100質量部に対して、発酵茶葉(含水率5質量%)0.5〜20質量部程度が好ましい。また抽出方法は、温度40〜100℃の温水または熱水に3分間〜60分間浸す方法が好ましい。
また発酵茶葉を食品素材に添加する場合、例えば、食品素材100質量部に対して、発酵茶(含水率5質量%)0.1〜200質量部の範囲で適宜に決めることができる。
このような、本発明の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品は、これを摂取することにより血糖値上昇抑制効果が得られる。
【実施例】
【0035】
以下の実験例および分析試験例において「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
以下の実験例および分析試験例で用いた原料の「茶の葉」はいずれも長崎県総合農林試験場東彼杵茶葉支場で栽培したヤブキタ種の三番茶の葉である。また、特に断りのない限り揉捻は揉捻機を用いて行った。
なお実施例1、分析試験例1〜5におけるAGH阻害性の評価は、松井らによる遊離AGHを用いた方法(J.Agric.food Chem., 47,550−553,(1999))に拠って行い、測定結果をα−グルコシダーゼ(AGH)酵素活性の阻害率(単位:%)で表している。
【0036】
[実験例1]
(混合発酵茶葉の製造)
茶の葉にビワ葉を投入し、揉捻機で揉み込んだ。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。揉み込みの時間は20分と40分の2通りとした。
この後、0時間、1時間、2時間、4時間、6時間、24時間の6通りの発酵工程を経て24種類の混合発酵茶葉を得た。なお、発酵工程0時間のものは揉み込み終了直後に得られる混合発酵茶葉である。
【0037】
(官能審査)
緑茶の官能審査経験がある3名のパネラーにて、上記で得た24種類の混合発酵茶葉について、緑茶の審査法に従って香気および味の審査を行った。審査に当たっては、審査茶碗に混合発酵茶葉3gを入れ熱水180mlを注ぎ、香りについては熱水を注いだ直後に、味については5分後に審査を行った。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果に示されるように、味、香りに関しては、揉捻時間が20分、発酵時間が0〜4時間で香気が高く、後味がさっぱりして優れる。揉捻時間が40分になると味が低下し、発酵時間が6時間以上になると香りの劣化が顕著になる。
【0040】
(AGH活性の測定)
上記で得た24種類の混合発酵茶葉のうち、発酵時間が6時間と24時間のものを除く16種類について、100℃の熱水で10分間抽出した抽出液(混合発酵茶葉の使用量;2.0mg/ml)のAGH阻害性を測定した。結果を表2に示す。
また、市販の緑茶、ビワ茶、グアバ茶、紅茶をそれぞれ同様に熱水で抽出した抽出液について、同様にしてAGH阻害性を測定した。結果を表3に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
表2に示されるように、AGH阻害性は、茶の葉に対してビワ葉の配合割合を多くすると阻害率が低くなり、揉捻時間が長くても低くなる。また、発酵時間が長くなるにつれて阻害率が低くなる傾向がある。
また表2,3の結果より、特にビワ葉の配合割合10質量%、揉捻時間20分、発酵時間0〜1時間、およびビワ葉の配合割合25質量%、揉捻時間20分、発酵時間0時間の条件で、緑茶よりも優れたAGH阻害性が得られた。
【0044】
[分析試験例1]
表2において、優れたAGH阻害性を示した混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)を70%アセトン(濃度70体積%のアセトン水溶液、以下同様。)で室温抽出し、抽出液を濃縮して水溶液とした後、エーテルを加え溶媒分配してクロロフィルなどの脂溶性成分を除いた。得られた水層を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した結果を図1に示す。
図1に示されるように、緑茶成分であるカフェイン、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECg)に加えて、これらのカテキンの酸化により生成する二量体であるところのテアシネンシンC、テアシネンシンE、テアシネンシンA、テアシネンシンD(EGCgと重なっている)、テアフラビン類(テアフラビン(TF)、テアフラビン−3−O−ガレート(3−TFG)、テアフラビン−3’−O−ガレート(3’−TFG)、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレート(3,3’−TFGG)を含む。)のピークが検出された。また、ベースラインの盛り上がりとして検出されるカテキン酸化生成物の存在も認められた。
【0045】
[分析試験例2]
表2において、優れたAGH阻害性を示した混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)を乾燥させた乾燥発酵茶葉を図2に示す手順で分画した。
<操作(1)> 乾燥発酵茶葉(含水率5質量%)125gを、70%アセトン2Lと共に破砕機(製品名;ワーリングブレンダー 7011S型、エフ・エム・アイ社製)中で破砕し、ろ過した。残渣を70%アセトン3Lで抽出してアセトン抽出液を得た後、該残渣をメタノール3Lで抽出してメタノール抽出液を得た。前記ろ過で得られたろ液と、前記アセトン抽出液と、前記メタノール抽出液を合わせてロータリーエバポレーターで濃縮後乾燥してエキス(乾燥物)59.9gを得た。
<操作(2)> 得られたエキスを水に懸濁し、エーテルを加え溶媒分配してクロロフィルなどの脂溶性成分を除いた。
<操作(3)> 操作(2)で得られた水層を水で調製したSephadex LH−20カラム(ファルマシア ファイン ケミカル社製、4cm×28cm)に流し込み、水(500mL)、40%メタノール(200mL)、60%メタノール(300mL)、80%メタノール(300mL)、メタノール(300mL)、60%アセトン(500mL)で順次溶出した。
溶出液を濃縮してフラクションFr.1(18.66g)、Fr.2(5.79g)、Fr.3(3.12g)、Fr.4(4.87g)、Fr.5(6.01g)、Fr.6(3.55g)、Fr.7(2.07g)に分画した。
各フラクションについてAGH阻害活性を測定したところ、下記表4に示すように、Fr.6及び7が非常に高い阻害率を示した。
【0046】
【表4】
【0047】
そこで、Fr.6及び7について、さらに図2に示す操作で分離精製を行った。
<操作(4)> Fr.6およびFr.7それぞれについて、MCIgelCHP20P(三菱化学社製、3cm×28cm)に付して、20%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、70%メタノール(100mL)、80%メタノール(100mL)、90%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.6からFr.6−1(899mg)、Fr.6−2(2.16g)、Fr.6−3(282mg)の画分を得た。また、Fr.7からFr.7−1(67mg)、Fr.7−2(1.17g)、Fr.7−3(600mg)の画分を得た。
このうちFr.6−1とFr.7−1は水素核磁気共鳴(1H−NMR)スペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、それぞれテアシネンシンAおよびテアシネンシンDと同定した。Fr.6−3とFr.7−3はいずれもHPLCと薄層クロマトグラフィーの結果からテアフラビン類であると同定した。
【0048】
<操作(5)> Fr.6−2とFr.7−2を合わせたものをChromatorex ODS(富士シリシア社製、3cm×30cm)に付して、10%メタノール(100mL)、20%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.721(179mg)、Fr.722(1.10g)、Fr.723(530mg)、Fr.724(1.27g)に分画した。
このうちFr.721は1H−NMRスペクトルを測定し、EGCgとテアシネンシンAの混合物であると同定した。
【0049】
<操作(6)> Fr.722と723を合わせたものをSephadex LH−20カラム(3cm×20cm)に流し込み、エタノール(500mL)、90%エタノール(200mL)、20%メタノール(300mL)、60%アセトン(400mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.7221(3.7mg)、Fr.7222(41.3mg)、Fr.7223(47.0mg)、Fr.7224(166.2mg)、Fr.7225(458mg)、Fr.7226(657.5mg)に分画した。
このうちFr.7221、Fr.7222、Fr.7223とFr.7224は1H−NMRスペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、それぞれ没食子酸、ECg、EGCg、エピガロカテキン−3,3’(4’)−O−ガレートと同定した。
【0050】
<操作(7)> Fr.7225をDiaionHP20SS(三菱化学社製、2cm×20cm)に付して、20%メタノール(100mL)、25%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、35%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、45%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.72251(39.6mg)、Fr.72252(320mg)、Fr.72253(47.7mg)に分画した。
このうちFr.72251は1H−NMRスペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、ウーロンテアニンと同定した。
【0051】
<操作(8)>Fr.72252をChromatorex ODS(富士シリシア社製、2cm×20cm)に比して、10%メタノール(100mL)、20%メタノール(100mL)、30%メタノール(100mL)、40%メタノール(100mL)、50%メタノール(100mL)、60%メタノール(100mL)、メタノール(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.722521(10.5mg)、Fr.722522(38.3g)、Fr.722523(60mg)に分画した。
このうちFr.722521は1H−NMRスペクトルを測定し、エピガロカテキン−3,3’(4’)−O−ガレートと同定した。
【0052】
<操作(9)> Fr.722523をSephadex LH−20カラム(1.5cm×20cm)に流し込み、80%メタノール(200mL)、90%メタノール(200mL)、メタノール(200mL)、60%アセトン(200mL)で順次溶出した。
得られた溶出液を濃縮してFr.7225231(14.4mg)、Fr.7225232(16.1mg)、Fr.7225233(15.5mg)に分画した。
このうちFr.7225232は1H−NMRスペクトルを測定し、標品のスペクトルと比較することにより、ガロイル ウーロンテアニンと同定した。
【0053】
これらの結果より、AGH阻害活性が高いFr.6及び7の下記の画分にはそれぞれ下記化合物が含まれていることが判明した。下記化合物の構造を図3に示す。
Fr.6−1:テアシネンシンA(TS−A)、
Fr.6−3、7−3:テアフラビン(TF)混合物(テアフラビン、テアフラビン−3−O−ガレート、テアフラビン−3’−O−ガレート、テアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートを含む)、
Fr.7−1:テアシネンシンD (TS−D)、
Fr.7221:没食子酸
Fr.7222:エピカテキン−3−O−ガレート(ECg)、
Fr.7223:エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCg)、
Fr.7224およびFr.722521:エピガロカテキン(EGC)−3,3’(4’)−ジ−O−ガレート、
Fr.72251:ウーロンテアニン、
Fr.7225232:ガロイルウーロンテアニン。
【0054】
また上記各化合物の含有量を定量した結果を図2中に示している。この結果より、AGH阻害活性が高いFr.6の主成分はテアシネンシンAであることが判明した。またAGH阻害活性が高いFr.7の主成分はテアフラビン(TF)混合物であることが判明した。該テアフラビン混合物に含まれる上記テアフラビン類について、それぞれAGH阻害活性を測定したところ、特にテアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートが強い酵素阻害活性を示した。このことは後述の分析試験例5、6の結果からもわかる。
【0055】
[分析試験例3]
上記分析試験例2において非常に高いAGH阻害活性を示したFr.7について、HPLC分析を行った結果を図4Aに示す。分析条件は、
カラム:Cosmosil 5C18 ARII(ナカライテスク社製、4.6×250mm)、
カラム温度:35℃、
移動相:A;50mMリン酸、B;CH3CN、B 4%から30%(39分間)、30%から75%(15分間)、
流速:0.8ml/min、
検出:フォトダイオードアレイ検出(Max absorbance)とした。
(なお、以下の分析試験例におけるHPLC分析条件は、特に断りがない限り、本試験例と同様である。)
この図の結果より、Fr.7には上記分析試験例2で存在が判明したテアフラビン混合物および上記化合物のほかに、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析では原点として検出され、HPLC分析ではベースラインの盛り上がりとして検出される物質がかなり多く含まれていることが明らかになった。かかる物質は主に図2中のFr.724に分画されていた。
かかる物質は、各種カラムクロマトでの挙動および紫外可視吸収スペクトルがEGCgのものと類似していること、塩化第二鉄試薬及びバニリン塩酸試薬に対して陽性であることから、上記分析試験例2で存在が判明したカテキン類よりも分子量の大きいカテキン酸化生成物と推測される。
通常、茶に含まれる高分子ポリフェノールの典型的なものにプロアントシアニジンがあり、ビワ葉にはエピカテキンを構成ユニットとするプロアントシアニジン(ビワプロアントシアニジン)が含まれることが知られていることから、前記Fr.7における「分子量の大きいカテキン酸化生成物」にはプロアントシアニジンが含まれていると推測される。
【0056】
プロアントシアニジンは、カテキンまたはカテキン誘導体を構成ユニットとする二量体または重合体であり、これを構成するカテキンまたはカテキン誘導体は、4位の炭素(C−4)と8位の炭素(C−8)、あるいは4位の炭素(C−4)と6位の炭素(C−6)とが炭素−炭素結合されている。
そこで、前記Fr.7に含まれているプロアントシアニジンの構成ユニットを明らかにする目的で、Fr.7に対して、下記の方法でメルカプトエタノールによるチオール分解を行った。
すなわち、Fr.7の60%エタノール溶液(Fr.7の濃度;10mg/mL)0.2mLに、メルカプトエタノール試液(メルカプトエタノール2.5mL、0.1%塩酸4mL,エタノール27.5mL、水16mLを混合したもの)1.8mLを加えて60℃で6時間加熱し、反応液20μLをHPLCで分析した。分析条件は図4Aを得たときと同じとした。こうして得られたチオール分解後のクロマトグラムを図4Bに示す。
【0057】
この図4Bに示されるように、Fr.7をチオール分解すると分解前(図4A)には認められないピークが多数出現している。分解前には認められなかったピークおよび分解前よりも増大したピークについて、標品(Tanaka,T.et.al.,J.CHem.Soc.Perkin Trans 1,1994,3013)の保持時間及び紫外吸収スペクトルとの比較を行った結果、EGC、EC、EGCg、ECg、EGC−ME、EC−ME、EGCg−ME、ECg−MEが同定された。
【0058】
また、図4Bにおいて、39分に検出されるピークは、Fr.7(500mg)をメルカプトエタノール試液10mLに溶解し、6時間加熱後、Chromatorex ODS(富士シリシア社製)(水−メタノール溶離液)カラムクロマト、次いでSephadex LH−20(EtOH溶離液)カラムクロマトで分離して精製したところ、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEであることが1H−NMRスペクトルの解析結果より明らかになった。エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEの構造式を図5に示す。
すなわち、1H−NMRスペクトルにおいて、A環、C環、ガロイル基及びヒドロキシエチルチオ基のシグナルはEGCg−MEのものとほとんど同じであるが、B環のシグナルがd7.40及び6.81にいずれも2H分の二重線(J=8Hz)として観察され、これはB環がp−ヒドロキシフェノールであることを示していた。また、TOF(飛行時間型)質量分析ではm/z 503に[M+H]+ピークを示したこともこのことを支持していた。
【0059】
これら同定された構成ユニットのうち、EGC、EGCg、ECgは高分子化合物の末端ユニットに由来し、チオエーテル化合物は延長ユニットに由来する。したがって、チオール分解される前の高分子化合物の構造、すなわち前記Fr.7に含まれるプロアントシアニジンの構造は、例えば図5に示すような構造を有すると推測される。
【0060】
これまで、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジンは烏龍茶から得られる二量体が1種知られているのみである(Hashimoto,F.et.al.,Chem.Pharm.Bull.,1989,37,3255−3263)。通常、二量体はHPLCで明確なピークとして検出されるが、Fr.7のHPLCでは、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEの生成量を説明できるほどの二量体に相当するピークは認められないことから、Fr.7のチオール分解により生成したエピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEは、三量体以上のプロアントシアニジンオリゴマーまたはポリマー由来であるといえる。かかる「エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン(三量体以上のオリゴマーまたはポリマー)」は、これまで知られていない新規な化合物である。
【0061】
なお、ビワ葉を加えず、茶の葉のみを用いたほかは同様にして製造した発酵茶葉について、同様の分析試験を行い、チオール分解後に得られたチオエーテル化合物を比較したところ、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEのピークは、ビワ葉を混合した場合も、混合しない場合もほぼ同じ大きさで検出された。また、ビワ葉から抽出したプロアントシアニジンをチオール分解しても、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEは検出されなかった。このことから、Fr.7に含まれる「エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン」は茶の葉由来であることがわかる。
また、EC−MEのピークは、ビワ葉を混合しない場合よりも、混合した場合の方が明らかに大きかった。このことから、ビワ葉に含まれる「エピカテキンを構成ユニットとするプロアントシアニジン(ビワプロアントシアニジン)」は、AGH阻害性が高いFr.7に含まれていることがわかる。
【0062】
[分析試験例4]
図4Bに示されるように、AGH阻害性が高いFr.7をチオール分解した後も、ベースラインの盛り上がりは残っている。
このことは、Fr.7には、上記分析試験例3で述べた「エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとするプロアントシアニジン」および「ビワプロアントシアニジン」のほかに、HPLC分析においてベースラインの盛り上がりとして検出される物質が存在することを示している。
そこで、HPLC分析においてベースラインの盛り上がりとして検出される物質が、茶の葉とビワ葉を混合した場合の混合発酵茶葉と、ビワ葉を混合しないほかは同様にした場合の発酵茶葉(以下、単独発酵茶葉ということがある)とで生成量が異なるかどうか比較した。なお混合発酵茶葉の製造条件は分析試験例1,2と同様であり、茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間である。
【0063】
混合発酵茶葉及び単独発酵茶葉それぞれについて、茶葉(含水率5質量%)3gを70%アセトン100mLで室温抽出(抽出時間18時間)した後ろ過した。ろ液を濃縮して水溶液(20mL)とした後、エーテル、酢酸エチルで2回ずつ溶媒分配した。
残った水層を一旦濃縮した後、70%エタノールで30mLとし、その10μLをHPLCで分析した。該水層のHPLC分析結果を図6に示す。
この図に示されるように、混合発酵茶葉の方が、単独発酵茶葉よりも、明らかにベースラインの盛り上がりとして検出される物質の量が多い。ピークの面積を比較すると、混合発酵茶葉においてベースラインの盛り上がりとして検出される物質の量は、単独発酵茶葉の159%と見積もられる。この増加分にはビワ葉由来のプロアントシアニジンも含まれるが、混合発酵茶葉におけるビワ葉の添加量は茶の葉の10分の1量にすぎないため、元々ビワ葉に含まれていた成分だけで59%の増加は説明できない。したがって、この増加分は、ビワ葉を添加したことにより生成が促進され、ビワ葉を添加しないと生成されないカテキン酸化生成物の存在を示している。
【0064】
一方、上記で得られた酢酸エチル層を濃縮後、80%メタノールで30mLとした後、その1mLをODSショートカラム(TOYOPAK ODS M、TOSO、東ソー社製)に80%メタノールで通導し、溶出液を5.0mLとして、その5μLをHPLCで分析した。該酢酸エチル層のHPLC分析結果を図7に示す。
この図に示されるように、混合発酵茶葉では単独発酵茶葉に比べてテアフラビン類のピーク面積が合わせて2.7倍に増加している。一方、カテキン類のピーク面積は減少しており、具体的にはEGCは0.24倍、ECは0.44倍、EGCgは0.57倍、ECgは0.64倍にそれぞれ減少している。
このことは、混合発酵茶葉においては、茶葉にビワ葉を添加し揉み込むことで高分子のカテキン酸化生成物が多量に生成されることを示している。
【0065】
[分析試験例5]
分析試験例4の結果より、混合発酵茶葉においては、茶葉にビワ葉を添加し揉み込むことで高分子のカテキン酸化生成物が多量に生成され、それはHPLC分析ではベースラインの盛り上がりとして検出されること、すなわち薄層クロマトグラフィー(TLC)分析では原点として検出されることがわかった。
そこで、かかる混合発酵茶葉において特異的に増加する成分を特定することを目的として、以下の方法により、混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)に含まれる成分のうち、薄層クロマトグラフィー(TLC)分析において原点として検出される酸化型高分子ポリフェノールを分離した。
すなわち、混合発酵茶葉(含水率5質量%)228gを60%エタノール3Lで3回室温抽出し、3回の抽出液を合わせて減圧濃縮した。得られた水溶液(1.5L)をエチルエーテル、酢酸エチル、n−ブタノールで順次溶媒分配して、エチルエーテル可溶部(4.03g)、酢酸エチル可溶部(9.8g)、n−ブタノール可溶部(22.1g)を得た。
n−ブタノール可溶部15gを60%メタノールに溶かし、60%メタノールでコンディショニングしたSephadex LH−20カラムにかけ、60%メタノール、80%メタノール、100%メタノール、次いでメタノール−水―アセトン(8:1:1)混合溶液、メタノール−水―アセトン(6:2:2)混合溶液、水―アセトン(1:1)混合溶液で順次溶出した。溶出液をTLC(トルエン−ギ酸エチル−ギ酸、1:7:1)分析して、原点から移動しない物質を含むフラクションだけを集め濃縮して、ポリマー様物質(酸化型高分子ポリフェノール画分)1.4gを得た。そのHPLC分析結果を図8Aに示す。
【0066】
図8Aにおいて、45分付近の小さいピークはそのUV吸収からテアフラビン類の混在を示しているが、そのピーク面積はベースライン盛り上がり全体の2%以下であった。
こうして得られたポリマー様物質(酸化型高分子ポリフェノール画分)についてAGH阻害性を測定した。その結果を表5に示す。
またテアフラビン−3,3’−ジ−O−ガレートについてのAGH阻害性の測定結果も合わせて表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示されるように、混合発酵茶葉から上記の方法で分離した酸化型高分子ポリフェノール画分、すなわち混合発酵茶葉において特異的に増加する高分子ポリフェノールは、テアフラビン−3,3’−O−ジガレートと同等の強いマルターゼ及びスクラーゼ阻害活性を示した。この活性は、含有量から考えて、混入しているテアフラビン類(45分付近のピーク)によるものではなく、高分子ポリフェノールに由来するものである。
【0069】
さらに、上記で得られた酸化型高分子ポリフェノール画分に対して、下記の方法でメルカプトエタノールによるチオール分解を行った。
すなわち、上記で得た酸化型高分子ポリフェノールを60%エタノールに溶解させた溶液(酸化型高分子ポリフェノールの濃度:10mg/mL)0.2mLと、メルカプトエタノール試液0.8mLとを混合し、60℃で5時間反応させ、その5μLをHPLCで分析した。その結果を図8Bに示す。
前記分析試験例3においてFr.7をチオール分解したものをHPLC分析したときと同様に、エピアフゼレチン−3−O−ガレート−MEを初めとするチオエーテル化合物及びカテキン類のピークが検出された。また図8Bにはチオール分解後にもベースラインの盛り上がりが観察された。
このことから、上記で得られた酸化型高分子ポリフェノール画分には、前述したエピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジンが含まれるが、その含有割合は少なく、チオール分解されない物質がかなり含まれていることが示唆される。
【0070】
そこで、この酸化型高分子ポリフェノール画分の13C−NMRスペクトルを測定し、それをビワ葉に含まれる「エピカテキンを構成ユニットとするプロアントシアニジン(ビワプロアントシアニジン)」の13C−NMRスペクトルと比較した。その結果を図9に示す。図9Aはビワプロアントシアニジンのスペクトルであり、図9Bは前記酸化型高分子ポリフェノール画分のスペクトルである。
図9の結果より、ビワプロアントシアニジンにはカテコール環型B環(Bc)由来のシグナルが観察されるのに対して、混合発酵茶葉から分離された酸化型高分子ポリフェノールにはB環由来のシグナルがほとんど観察されず、カテキンのA環に対応するフロログルシノール(1,3,5−トリヒドロキシベンゼン)に由来するシグナル、及びガロイル基のピロガロール(1,2,3−トリヒドロキシベンゼン)に由来するシグナルが観察され、小さいながらC環由来のシグナルも一部認められた。
このことから、混合発酵茶葉から上記の方法で分離された酸化型高分子ポリフェノールの主成分はビワプロアントシアニジンではなく、B環部に様々な構造を持つカテキン誘導体が酸化的に縮合して高分子化した物質であることがわかる。
かかる高分子ポリフェノールの構造は、明確ではないが、図3に示した化合物からの類推により、主にカテキンガレート類のB環同士が酸化的に縮合して高分子化したものと考えられる。B環の結合様式としては図3に示すテアシネンシン、テアフラビン、ウーロンテアニンなど様々なタイプが推測されるが、現在のところ詳細は不明である。
【0071】
また、この酸化型高分子ポリフェノール画分を元素分析した結果、炭素57.06%、水素4.51%、窒素0.35%であった。
EGCgの計算値(C22H18O11:炭素57.65%、水素3.96%、C22H18O11・2H2O:炭素53.44%、水素4.49%)に比べて水素含有率が高く、通常の酸化では水素含有率は減少するはずであるので、カテキン酸化の過程で別の代謝産物が取り込まれている可能性が示唆される。
【0072】
さらに、得られた酸化型高分子ポリフェノールをアセチル化した後、ゲル浸透クロマトグラフィーにより分子量を測定したところ、ピークトップ分子量は2000(数平均分子量1400、質量平均分子量3200)であり、分子量分布は広く1000〜15000程度であった。
ゲル浸透クロマトグラフィーの測定条件は以下の通りとした。
カラム:TSK−gel G 4000H6、直径4.6mm×長さ250mm、東ソー社製、
ポンプ:TOSO DP8020、東ソー社製、
検出器:JASCO UV970日本分光社製、254nm、
移動層:テトラヒドロフラン、
温度:室温、
流速:1.0mL/min、
標準ポリスチレンとの比較による分子量計算:JASCO 807ITインテグレータ、日本分光社製。
なお、カテキン類からの類推でアセチル化による分子量増加分を1.5倍とすると、分子量は1330を極大とする670〜10,000となる。カテキンガレート類だけから生成したものと仮定すると、二量体に相当するもの(テアフラビン)から20量体に相当するものまで含まれることになる。
【0073】
[分析試験例6]
EC、ECG、EGC、EGCg、テアフラビン(TF)、3−TFG、3’−TFG、3,3’−TFGG、およびテアシネンシンA(TS−A)の純品(市販品)をDMSO(ジメチルスルホキシド):水=1:9からなる混合溶媒に溶解させてサンプル溶液を調製し、各サンプル溶液に関してAGH阻害活性測定を行った。
本試験例および分析試験例7におけるAGH阻害性の評価は、ラット小腸AGHを固定化した担体を用いたpseudo−in vivo法(T.Oki.et.al.,Biol.Pharm.Bull.,23,1084−1087(2000))によって行い、酵素活性を50%阻害する終濃度(IC50値、単位:mM)で表している。その結果を表6に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
表6の結果より、マルターゼ阻害性が強いのは、ECG、EGCG、3−TFG、3,3,−TFGGであり、スクラーゼ阻害性が強いのは、ECG、EGCG、3,3,−TFGGであることが判明した。すなわち、カテキンではエステル型、テアフラビンではガロイル基の多置換OH基を有する分子構造をもつものがAGH阻害性がより強いことが明らかとなった。
【0076】
[分析試験例7]
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)20gを100℃の熱水1000mLで10分間抽出し、遠心分離して得られる上澄み液を凍結乾燥したものを試料としてAGH阻害性を調べた。
試料をDMSO:水=1:9の混合溶媒に溶解させてサンプル溶液を調製し、このサンプル溶液に関して上記pseudo−in vivo法によりAGH阻害性を測定した。またこのサンプル溶液に含まれるカテキン類(EC、ECG、EGC、EGCg)およびテアフラビン類(TF、3−TFG、3’−TFG、3,3’−TFGG)の含有量を測定した。そして前記分析試験例6で測定したIC50値に基づいて、混合発酵茶葉によって奏されるAGH阻害性を100%としたときの、各成分によって奏されるAGH阻害性の割合(活性寄与率、単位:%)を求めた。マルターゼ阻害性の結果を表7に示し、スクラーゼ阻害性の結果を表8に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【0079】
[実験例2]
混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)の耐糖能に及ぼす影響を調べるために動物実験を行った。
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)、番茶、ビワ葉を乾燥させ粉砕したビワ葉、およびビワ葉を混合せず茶の葉だけを20分間揉捻して得た単独発酵茶葉を試料茶葉として用意した。なお上記番茶は、混合発酵茶葉の原料として使用したのと同じ茶の葉を用い、通常の緑茶の製造法に従って製造した番茶(茶の葉を発酵させずに製造した荒茶)である。
それぞれの試料茶葉(含水率5質量%)20gを100℃の熱水1,000mlで10分間抽出した後、ろ過した。ろ液を凍結乾燥した粉末状の抽出物を得た。
コレステロールを含まないAIN−76組成を基本とした食餌に、上記で調製した各熱水抽出物を含有率1質量%となるように添加した飼料(4種)を、それぞれ4週齢雄のSprague−Dawley(SD)ラットに自由摂食させた。
また、コントロールとして、食餌に熱水抽出物を添加しないコントロール食を、同様のラットに自由摂取させた。
ラットは、室温22±1℃、湿度55±5%、8:00〜20:00点灯のライトサイクルの動物飼育室で飼育した。4週間後、6時間絶食した後、1g/kg体重のマルトースを経口投与した。投与後、0、10、20、30および60分後にそれぞれ尾静脈より採血して、血糖試験測定メディセーフチップ(テルモ社製)を用いて血糖値を測定した。
その結果を図10に示す。
【0080】
図10において、横軸はマルトース投与後の経過時間を示し、縦軸は血糖値の値を示している。なお血糖値の値は、マルトース投与時の血糖値を0mg/dlとして表している。
この図に示されるように、混合発酵茶葉の熱水抽出物を摂取したラットの血糖値は、いずれの試料茶葉よりも低いレベルで推移している。
このことから、混合発酵茶葉の熱水抽出物の摂取により優れた血糖値上昇抑制効果が得られることわかる。またその効果は、ビワ葉のみを乾燥させたビワ葉や、茶の葉のみを発酵させた茶葉で得られる効果よりも優れており、茶の葉とビワ葉を混合、揉捻、発酵させることにより相乗効果が得られることがわかる。
【0081】
[実験例3]
混合発酵茶葉の摂取による血糖値に及ぼす影響を調べるために動物実験を行った。
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)、をフードプロセッサを用いて、60〜100メッシュの大きさの粉末状態になるまで、粉砕加工して粉末状混合発酵茶葉を得た。
ラットは、1ヶ月齢の2型糖尿病を自然発症する雄性のOtsuka Long−Evans Tokushima Fatty ラット(以下OLETFラットという)と、その対象モデル動物で糖尿病を発症しない雄性のLong−Evans Tokushima Otsuka ラット(以下LETOラットという)とを用いた。ラットは、室温22±1℃、湿度55±5%、8:00〜20:00点灯のライトサイクルの動物飼育室で飼育した。
最初の3ヶ月間はLETOおよびOLETFラットにMF固形飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)を与えて予備飼育を行った。OLETFラットは通常5ヶ月齢から8ヶ月齢までに2型糖尿病を発症することから、発症の可能性のある1ヶ月前の4ヶ月齢からLETOラットと共に試験食の摂食を開始した。
すなわち、4ヶ月齢の時に6時間絶食(9:00〜15:00)後、尾静脈より採血して血糖値を測定し、体重と血糖値が等しくなるように1群6匹ずつ群分けし、以下の試験食を5ヶ月間自由摂食させた。
試験食は、AIN−76に基づいた純化食をコントロール食とし、LETOラット−コントロール群とOLETFラット−コントロール群に摂食させた。コントロール食の組成(g/kg)は、カゼイン200、サラダ油100、ミネラル混合(AIN−76−MX)35、ビタミン混合(AIN−76−VX)10、セルロース50、重酒石酸コリン2、DL−メチオニン3、コーンスターチ150およびショ糖450とした。
OLETFラット−混合発酵茶葉添加群には、上記コントロール食に粉末状混合発酵茶葉を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
いずれの群も、飼育期間中、摂食量は毎日、体重および摂水量は1日おきに測定した。
【0082】
試験食投与開始から1、2、3、4および5ヶ月後に、血糖試験測定メディセーフチップ(テルモ社製)を用い、6時間絶食後尾静脈より採血して血糖値を測定した。試験食を摂取した5ヶ月間のラット血糖値の変化を図11に示す。
図11において、横軸は試験食摂食後の経過時間(単位:月)を示し、縦軸は血糖値の値を示している。
この図に示されるように、コントロール食を摂取した糖尿病を発症しないLETOラットの血糖値は、飼育期間を通じて低値であった。一方、コントロール食を摂取した糖尿病を発症するOLETFラットの血糖値は、経時的に上昇し、糖尿病を発症したとみなされた。
これに対して、糖尿病を発症するOLETFラットに混合発酵茶葉の粉末を添加した飼料を摂取させた群では、時間が長期間経過しても血糖値は上昇せず糖尿病を発症しないLETOラットと同程度の低レベルであった。このことから混合発酵茶葉の粉末は優れた血糖上昇抑制効果を有することが明らかとなった。
【0083】
[実験例4]
混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)摂取による血糖値に及ぼす影響を調べるために動物実験を行った。
混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)20gを100℃の熱水1000mLで10分間抽出し、ろ過して得られるろ液を凍結乾燥して粉末状の混合発酵茶葉抽出物を得た。
比較例として、通常の緑茶の製造法に従って製造した番茶(茶の葉を発酵させずに製造した荒茶)を同様の条件で抽出、ろ過、乾燥して粉末状の番茶抽出物を得た。また同じ含水率となるように乾燥させたビワ葉を同様の条件で抽出、ろ過、乾燥して粉末状のビワ葉抽出物を得た。
ラットは上記実験例3と同条件のものを用い、4ヶ月齢までの飼育条件も同じとした。
4ヶ月齢の時に6時間絶食(9:00〜15:00)後、尾静脈より採血して血糖値を測定し、体重と血糖値が等しくなるように1群6匹ずつに群分けし、以下の試験食を5ヶ月間自由摂食させた。
LETOラットとOLETFラットのコントロール食群には、実験例3と同じコントロール食を摂食させた。
OLETFラット−混合発酵茶葉添加群には、上記コントロール食に粉末状の混合発酵茶葉抽出物を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
OLETFラット−番茶添加群には、上記コントロール食に粉末状の番茶抽出物を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
OLETFラット−ビワ葉添加群には、上記コントロール食に粉末状のビワ葉抽出物を飼料総質量の5%添加し、その添加量分のショ糖量を減じた。
飼育期間中、摂食量は毎日、体重および摂水量は1日おきに測定した。
【0084】
試験食投与開始から1、2、3、4および5ヶ月後に、実験例3と同様にして血糖値を測定した。試験食を摂取した5ヶ月間のラット血糖値の変化を図12に示す。
図12における縦軸と横軸は図11と同様である。この図に示されるように、コントロール食を摂取した糖尿病を発症しないLETOラットの血糖値は、飼育期間を通じて低値であった。一方、コントロール食を摂取した糖尿病を発症するOLETFラットの血糖値は、経時的に上昇し、糖尿病を発症したとみなされた。
これに対して、2型糖尿病を発症するOLETFラットに混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)を添加した飼料を摂取させた群では、時間が長期間経過しても血糖値は上昇せず糖尿病を発症しないLETOラットと同程度の低レベルであった。このことから混合発酵茶葉の熱水抽出物は優れた血糖上昇抑制効果を有することが明らかとなった。
【0085】
[実験例5]
発酵茶葉の安全性を確認するために動物実験を行った。
すなわち、混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)、を、フードプロセッサを用いて60〜100メッシュの大きさの粉末状態になるまで粉砕加工して得られた粉末状混合発酵茶葉を、4週齢のSprague−Dawley系雄ラットに1日当たり5000mg/kg体重の用量で経口投与した。温度22±1℃、湿度55±5%、飼料および水自由摂食の条件下で4週間飼育したところ、死亡は認められず、異常な体重変化はみられず、飼育終了後の剖検においても臓器の異常は観察されなかった。
従って、ラットに対する発酵茶の致死量(LD50)は5000mg/kg体重より多いと推定され、安全性はかなり高いものと判断された。
【0086】
[実験例6]
(混合発酵茶葉の製造−手で揉む方法)
茶の葉にビワ葉を投入し、手で揉む方法で揉捻した。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。揉み込みの時間(手揉み時間)は25分と50分の2通りとした。
この後、0時間、1時間、2時間、4時間の4通りの発酵工程を経て16種類の混合発酵茶葉を得た。なお、発酵工程0時間のものは揉み込み終了直後に得られる混合発酵茶葉である。
得られた混合発酵茶葉について実験例1と同様にして100℃の熱水で10分間抽出した抽出液(混合発酵茶葉の使用量;2.0mg/ml)を得、該抽出液について実施例1と同様にしてAGH阻害性(マルターゼ阻害性およびスクラーゼ阻害性)を測定し、また下記の方法でDPPH(1,1−ジピクリル−2−フェニルヒドラジル)消去活性を測定した。それぞれの結果を表9、10に示す。なお、DPPH消去活性の測定値が大きいほど抗酸化作用が高いことを示す。また実験例1と同様にして官能審査を行った。結果を表11に示す。
【0087】
(DPPH消去活性の測定方法)
DPPH消去活性(単位:μmol−Trolox/mg)の測定は以下の方法で行った(以下、同様。)
混合発酵茶葉を粉砕したものを80%エタノール溶液に溶かし、同じく80%エタノール溶液を用いて0.5mg/mlに希釈した。400μM DPPH12mlと、200mM MES buffer(pH6.0)12mlと、20%エタノール12mlとの混液を作り、エッペンドルフマルチピペットを用いて試験管(a)〜(f)に該混液をそれぞれ0.9mlずつ分注した後、試験管(a)〜(f)のそれぞれに80%エタノールを(300−x)μl加えた(xは分析試料の添加量であり、具体的に試験管(a)〜(f)におけるxは、順に0、30、60、120、180、240である)。さらに試験管(a)〜(f)にそれぞれ分析試料(x)μlを加えて撹拌し、分析試料を添加してから20分後に波長520nmでの吸光度を測定した。
具体的には、時間の測定を開始してから30秒後に試験管(b)に分析試料を30μl加え、60秒後に試験管(c)に分析試料を60μl加え、120秒後に試験管(d)に120μl加え、180秒後に試験管(e)に180μlを加え、240秒後に試験管(f)に240μl加えた。そして時間の測定を開始してから20分後に試験管(a)の吸光度を測定し、20分30秒後に試験管(b)の吸光度を測定し、21分後に試験管(c)の吸光度を測定し、というように30秒おきに吸光度の測定を行った。
一方、標準試料としてTroloxを用いて検量線を作成した。検量線の横軸は試料添加量(単位:μmol)、縦軸は520nmでの吸光度である。
分析試料についての測定値を、横軸を試料添加量(単位:μl)、縦軸を520nmでの吸光度としてプロットし、直線的な吸光度減少が続く範囲内にて添加量(x’μl)に対する吸光度(△A520)の値を求める。次に検量線において同じ(△A520)が得られるときのTrolox添加量(単位:μmol)を求める。こうして得られるTrolox相当量(単位:μmol)から、混合発酵茶葉1mg当たりの消去活性の値(単位:μmol−Trolox/mg)を求める。
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
[実験例7]
(混合発酵茶葉の製造−すりつぶす方法)
乳鉢に茶の葉とビワ葉を入れてすりつぶした。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。すりつぶし時間は20分と40分の2通りとした。
この後、0時間、1時間、2時間、4時間の4通りの発酵工程を経て16種類の混合発酵茶葉を得た。なお、発酵工程0時間のものはすりつぶし直後に得られる混合発酵茶葉である。
得られた混合発酵茶葉について実験例1と同様にしてAGH阻害性を測定し、またDPPH消去活性を測定した。それぞれの結果を表12、13に示す。また実験例1と同様にして官能審査を行った。その結果を表14に示す。
【0092】
【表12】
【0093】
【表13】
【0094】
【表14】
【0095】
[実験例8]
(混合発酵茶葉の製造−粉砕撹拌する方法)
ミキサー(製品名:ミルアンドミキサー、テスコム社製)に茶の葉とビワ葉と水を入れて粉砕撹拌した。茶の葉とビワ葉の配合割合は茶の葉:ビワ茶の質量比が90:10(ビワ投入割合10%)と75:25(ビワ投入割合25%)の2通りとした。水の添加量は、茶の葉とビワ葉の合計100質量部に対して、100質量部とした。粉砕撹拌時間は10分と20分の2通りとした。
この後、1時間、4時間、8時間、12時間、16時間の5通りの発酵工程を経て20種類の混合発酵茶葉を得た。
得られた混合発酵茶葉について実験例1と同様にしてAGH阻害性を測定し、またDPPH消去活性を測定した。それぞれの結果を表15、16に示す。また実験例1と同様にして官能審査を行った。その結果を表17に示す。
【0096】
【表15】
【0097】
【表16】
【0098】
【表17】
【0099】
[分析試験例8]
(香気成分の分析)
ビワ葉のみを乾燥させたもの、ビワ葉のみを発酵させたもの、市販されている紅茶(ダージリン紅茶およびアッサム紅茶)、長崎県総合農林試験場東彼杵茶業支場で栽培された茶の葉を用いて発酵させた紅茶、同じ茶の葉を用い発酵させずに製造した緑茶(荒茶)、および混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間)のそれぞれをサンプルとして、香気成分の定量分析を行った。
一般に茶系の香気成分の前処理は、カラム濃縮法等で行われている。ここでは、簡易・迅速な試料の抽出、濃縮、クロマトグラフ導入法として固相マイクロ抽出法で行った。定量は、測定対象である試料に内標準としてシクロヘキサノールを添加しておき、各香気成分のピーク面積を内標準に対する相対ピーク面積比として求めた。
【0100】
具体的には、以下の方法で行った。試料の調整は200mLの三角フラスコに、サンプルを20g、30%塩化ナトリウム水溶液を1mL、内標準として1%シクロヘキサノールを50μL加えて密栓した後、80℃で5分間加熱して三角フラスコ内を安定させた後、捕集管を20分間挿入して、発生した香気成分をトラップした。香気成分をトラップした捕集管を250℃に加熱したガスクロマトグラフの注入口に挿入し、香気成分をガスクロマトグラフのカラムに3分間導入して分析を行った。捕集管はSUPELCO社製のポリジメチルシクロヘキサン/carboxen/ジビニルベンゼンを用いた。ガスクロマトグラフの分析条件については、カラムはReapect社製のstabil−WAX(ポリエチレングリコール系)60m×0.25mm、膜厚0.25μを使用し、カラム温度は70℃に3分間保持後、250℃まで10℃/分で昇温した。注入口温度は250℃、ヘリウム圧力は120kPaとした。成分同定のためのガスクロマトグラフ質量分析は、I/F温度250℃、イオン化電圧70eV、イオン化電流60μAで行った。1−ヘキサノール、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、ネロリドールの9成分について、内標準に対する相対ピーク面積比を測定した。その結果を表18に示す。
【0101】
【表18】
【0102】
表の結果より、混合発酵茶葉には表に挙げた9成分が全て含まれている。これらのうち、リナロール、ベンツアルデヒド、サリチル酸メチル、ゲラニオール、およびネロリドールは、試験場の茶の葉を発酵させた紅茶にも比較的多く含まれており、市販の紅茶2種にも含まれているが、緑茶および発酵したビワ葉における含有量は比較的少ない。また、トランス−2−ヘキセナール、酢酸3−ヘキセン−1−オール、および3−ヘキセン−1−オールは、発酵したビワ葉に特徴的に多く含まれている。1−ヘキサノール以外の8成分のピーク面積(内標準に対する相対面積の値)を1−ヘキサノールのピーク面積(内標準に対する相対面積の値)と比較すると、8成分全部の各ピーク面積が、1−ヘキサノールのピーク面積よりも大きいのは混合発酵茶葉のみである。
なお1−ヘキサノールは、混合発酵茶葉において、茶の葉とビワ葉の配合割合、揉捻時間、発酵時間などの製造条件を変えても必ず検出され、かつ表に記載の他の8成分よりも常に少なく検出される香気成分である。
【0103】
[実験例9]
2型糖尿病を自然発症するKK−Ayマウスに混合発酵茶葉の熱水抽出物(凍結乾燥品)、テアシネンシンを多く含むフラクション(以下、TSフラクションという。)、およびテアフラビンを多く含むフラクション(以下、TFフラクションという。)をそれぞれ摂取させて、血糖値に及ぼす影響を調べた。
混合発酵茶葉の熱水抽出物は、混合発酵茶葉(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率5質量%)20gを100℃の熱水1,000mlで10分間抽出した後、ろ過し、ろ液を凍結乾燥して粉末状にしたものを用いた。
TSフラクションとしては、前記分析試験例2で得られるFr.6を凍結乾燥して粉末状にしたものを用いた。
TFフラクションとしては、前記分析試験例2で得られるFr.7を凍結乾燥して粉末状にしたものを用いた。
マウスは、室温22±1℃、湿度55±5%、8:00〜20:00点灯のライトサイクルの動物飼育室で飼育した。
5週齢のKK−Ayマウスを用い、最初の2週間はMF固形飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)を与えて予備飼育を行った。KK−Ayマウスは7〜8週齢頃に糖尿病を自然発症することから、発症する可能性のある7週齢から試験食の摂食を開始した。すなわち、7週齢のときに6時間絶食(9:00〜15:00)後、尾静脈より採血して血糖値を測定し、体重と血糖値が等しくなるように1群7匹ずつに群分けし、以下の試験食を6週間自由摂食させた
【0104】
試験食は以下の7通りである。
・コントロール食:AIN−76組成に基づいた純化食をコントロール食とした。コントロール食の質量組成(g/kg)は、カゼイン200g/kg、コーン油100g/kg、ミネラル混合物(AIN−76−MX)35g/kg、ビタミン混合物(AIN−76−VX)10g/kg、セルロース50g/kg、重酒石酸コリン2g/kg、DL−メチオニン3g/kg、コーンスターチ150g/kgおよびショ糖450g/kgとした。
・抽出物添加食:前記コントロール食100質量部に、上記粉末状の熱水抽出物(凍結乾燥品)を1質量部を添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TS添加食:上記熱水抽出物(凍結乾燥品)にはテアシネンシンが5.4質量%含まれることから、前記抽出物添加試験食中とテアシネンシン含有量が等しくなるように、コントロール食に前記TSフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TS2倍添加食:テアシネンシン含有量が前記抽出物添加試験食の2倍となるように、コントロール食に前記TSフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TF添加食:上記熱水抽出物(凍結乾燥品)にはテアフラビンが4.8質量%含まれることから、前記抽出物添加試験食中とテアフラビン含有量が等しくなるように、コントロール食に前記TFフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TF2倍添加食:テアフラビン含有量が前記抽出物添加試験食の2倍となるように、コントロール食に前記TFフラクションを添加し、その添加量分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
・TS+TF添加食:テアシネンシン含有量およびテアフラビン含有量が前記抽出物添加試験食とそれぞれ等しくなるように、コントロール食に前記TSフラクションおよびTFフラクションを添加し、それらの添加量の合計分のショ糖を前記コントロール食から減じた。
【0105】
飼育期間中、摂食量は毎日測定し、体重および摂水量は1日おきに測定した。
試験食摂食開始2、4および6週間後に、血糖試験測定メディセーフチップ(テルモ社製)を用い、6時間絶食後、尾静脈より採血して血糖値を測定した。試験食を摂取した6週間のマウスの血糖値の変化を図13から図16に示す。
図13に示すように、コントロール食を摂取したマウスの血糖値は、経時的に上昇して6週間後には300mg/dlを超えた。また摂水量も同様に増加したことから、コントロール食を摂取したマウスは糖尿病を発症したとみなされる。一方、抽出物添加食を摂取したマウスの血糖値は、経時的に減少する傾向にあり、6週間後の値はコントロール食を摂取したマウスの約半分に低下した。
図14に示すように、TS添加食を摂取したマウスの血糖値は6週間後に低下し、TS2倍添加食を摂取した場合はさらに効果的に低下した。
図15に示すように、TF添加食を摂取したマウスの血糖値は6週間後に低下し、TF2倍添加食を摂取した場合は4週間後から低下した。
図16に示すように、TS+TF添加食を摂取したマウスの血糖値は、4週間以降に抽出物添加食を摂取したマウスとほぼ同じレベルになった。
以上の結果から、混合発酵茶葉の熱水抽出物の血糖上昇抑制作用は、主にテアシネンシンとテアフラビンにより発揮されていることが明らかとなった。
【0106】
[臨床試験例1]
混合発酵茶葉の抽出物を含む飲料の摂取が、成人の血糖値に及ぼす影響を検討した。なお、本試験は県立長崎シーボルト大学研究倫理委員会の承認を受け、ヘルシンキ宣言の精神を遵守して実施した。
被験者は、長崎県庁内での募集に応募した長崎県庁職員で、健康な者と同様の日常生活を営んでおり、医師からの服薬指導を受けておらず、非妊娠者であり医師が適当と判断した者で、本試験の内容について十分な説明を受け、本人の自由意志により本人が同意書を提出した28名である。
試験飲料は、90℃の熱水100質量部に対して、混合発酵茶葉を焙煎したもの(茶の葉とビワ葉の配合割合9:1、揉捻時間20分、発酵時間0時間、含水率1質量%)を0.83質量部添加して4分間抽出した後、ろ過したろ液を200mlずつ紙パックに充填し密封したものを用いた。
試験飲料を被験者に、朝食または昼食時と夕食時に各1本の1日合計2本を3ヶ月間飲用させた。試験飲料摂取前、摂取開始1ヶ月後、2ヶ月後および3ヶ月後の、早朝空腹時に採血、体重測定、体脂肪率測定および血圧(収縮期血圧および拡張期血圧)測定を行った。なお、採血前日の夜9時以降の飲食を禁止した。試験期間3ヶ月中の食事については特別な制限を設けず、日常と変わらない生活をするよう指導した。
血液成分についての測定項目として、総タンパク質、A/G比、総コレステロール、HDL−コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸、尿酸、尿素窒素、クレアチニン、Na、Cl、K、GOT、GPT、γ−GTP、リン脂質、Ca、無機リン、コリンエステラーゼ、LDH、ALP、アルブミン、直接ビリルビン、間接ビリルビン、インスリン、血糖、ヘモグロビンA1c、白血球数、赤血球数、血色素量、ヘマトクリット、MCV、MCH、MCHC、血小板数を測定した。
【0107】
試験飲料を摂取した3ヶ月間、28名の平均値は、すべての測定項目において正常範囲内であった。
図17、18は、血糖値の測定結果を示すグラフであり、図17は28名全員の平均値、図18は、試験飲料摂取開始前の血糖値(初期値)が110mg/dL以上のヒト(10名)の平均値を初期値に対する変動率で表している。該変動率は、(測定値の平均値−初期値)/初期値×100(単位:%)で算出される値であり、図中の「*」は初期値に対して有意差があることを示す(以下、同様)。
図に示されるように、全員の平均値は試験期間中変動しなかったが、初期値が高いヒトでは摂取開始2ヶ月後および3ヶ月後に摂取前に比べて有意に低下した。
この結果から、混合発酵茶葉の抽出液を含有する飲料を摂取することにより、血糖値の値が高い傾向を有するヒトにおいて、その値を改善させる効果が得られることが明らかとなった。さらに、正常なヒトでは血糖値の測定値を低下させないことから、安全性が高い飲料であると評価される。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明に係る混合発酵茶葉エキスの高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図2】本発明に係る混合発酵茶葉の成分分離操作の例を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る混合発酵茶葉に含有されるポリフェノールの例を示す図である。
【図4】発明に係る混合発酵茶葉の成分分離操作で得られたフラクションの高速液ロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図5】発明に係る混合発酵茶葉の成分分離操作で得られたフラクションに含まれるプロアントシアジニンの推定構造およびそのチオール分解物の例を示す図である。
【図6】本発明に係る混合発酵茶葉エキスおよび比較例としての単独発酵茶葉エキスの水溶性画分の高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図7】本発明に係る混合発酵茶葉エキスおよび比較例としての単独発酵茶葉エキスの酢酸エチル可溶画分の高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図8】本発明に係る混合発酵茶葉から分離した酸化型高分子ポリフェノール画分およびそのチオール分解物の高速液体クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図9】本発明に係る混合発酵茶葉から分離した酸化型高分子ポリフェノール画分およびビワプロアントシアニジンの13C−NMRスペクトルを示す図である。
【図10】実験例2の結果を示すグラフである。
【図11】実験例3の結果を示すグラフである。
【図12】実験例4の結果を示すグラフである。
【図13】実験例9の結果を示すグラフである。
【図14】実験例9の結果を示すグラフである。
【図15】実験例9の結果を示すグラフである。
【図16】実験例9の結果を示すグラフである。
【図17】臨床試験例1の結果を示すグラフである。
【図18】臨床試験例1の結果を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項2】
さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする請求項1に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項3】
テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項4】
前記発酵茶葉が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする請求項3に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項5】
テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉抽出物からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項6】
前記発酵茶葉抽出物が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする請求項5に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品。
【請求項1】
テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項2】
さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする請求項1に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項3】
テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項4】
前記発酵茶葉が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする請求項3に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項5】
テアシネンシンA、ガロイル基を有するテアフラビン誘導体、エピアフゼレチンガレートを構成ユニットとして有するプロアントシアニジン、および13C−NMRスペクトルでカテキンA環のフロログルシノール由来のシグナルとガロイル基由来のシグナルを示し、アセチル化体の分子量が2000を極大とする1000〜15000であるカテキンガレート類の酸化縮合したポリフェノールPからなる群から選ばれる1種以上を含有する発酵茶葉抽出物からなることを特徴とする血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項6】
前記発酵茶葉抽出物が、さらにビワプロアントシアニジンを含有することを特徴とする請求項5に記載の血糖値上昇抑制用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の血糖値上昇抑制用組成物を含有する飲食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2007−231009(P2007−231009A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23481(P2007−23481)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(505225197)長崎県公立大学法人 (31)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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