説明

衝撃吸収材

【課題】飛散防止効果を備え、かつ圧縮されても荷重が過大に増加しにくい衝撃吸収材を提供することを課題とする。
【解決手段】パルプモールド付き衝撃吸収材30は、硬質ポリウレタン製の衝撃吸収材32の表面をパルプモールド34で被覆した構造とされている。単純な形状の衝撃吸収材32のみならず、複雑な表面形状をした衝撃吸収材32の場合でも、予めモールド成型されたパルプモールド34で図1(C)のように表面を被覆し、拘束することで飛散防止効果を備え、かつ圧縮されても荷重が過大に増加しにくい衝撃吸収材とする。パルプモールド34で衝撃吸収材32を被覆し、飛散防止処理を行う構成とすることで、変位量増加に伴う加重の落ち込みを防止する一方で、変位量の後半ではパルプモールド34自体が砕けることで、それ以上の加重を発生しないので、樹脂フィルムを用いた際に生じる、変位の後半で荷重が過度に上昇しやすい問題を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衝撃吸収材に係り、特に自動車の内装に組み込まれ、車輌衝突時において乗員が受ける衝撃を吸収する衝撃吸収材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの内装に用いられる衝撃吸収材においては、衝突エネルギーを吸収した際に衝撃で飛散することを防ぎ、かつ所期のエネルギー吸収性能を発揮させるため、表面に樹脂フィルムなどの補強材を一体成型することが提案されている。
【0003】
上記のような衝撃吸収材の製造方法の例として、発泡ポリウレタン製エネルギー吸収材の表面に粗毛フェルトからなる補強材を接着剤で貼り付けて製造する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、硬質ポリウレタンフォームなどの衝撃吸収材に布状体、メッシュ状体などのサポータ層を一体に発泡成形する製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
あるいは発泡ポリウレタン製エネルギー吸収材の表面に熱収縮フィルムからなる補強材を貼り付け、加熱して成型する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−142287号公報
【特許文献2】特開2007−22146号公報
【特許文献3】特開2005−140223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載の方法では補強材/サポータ層を硬質ポリウレタン製の衝撃吸収材に貼り付けるか、あるいは一面に一体成型する都合上、複雑な表面形状をした衝撃吸収材には対応することができず、加工方法に限界がある。
【0008】
また上記特許文献2に記載の衝撃吸収材は布状体、メッシュ体などのサポータ層を衝撃吸収材の表面に一体的に成形するため、衝突エネルギーを吸収した際に圧縮されたサポータ層が押し潰され、ストロークの後半で荷重が過度に上昇しやすい欠点がある。これを防ぐにはサポータ層に穴を開け、圧力を逃がす方向のチューニングを施す必要があるが、これは高度の技術を要するため、所望の性能を得るには難易度の高い工程を経ることになり、工数やコストの増加に繋がる虞がある。
【0009】
本発明は上記事実を考慮して、飛散防止効果を備え、かつ圧縮されても荷重が過大に増加しにくい衝撃吸収材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、金型で成型される合成樹脂発泡体の衝撃吸収材本体と、前記衝撃吸収材本体の表面を被覆する繊維層と、を備え予め成型された前記繊維層と、前記衝撃吸収体本体とを前記金型で一体成型したことを特徴とする。
【0011】
上記の発明では、衝撃吸収材本体を、金型の内面形状に沿って予め成型された繊維層で表面を被覆することで、飛散防止効果を備えながら圧縮されても荷重が過大に増加しにくい衝撃吸収材とすることができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記衝撃吸収材本体は硬質ポリウレタンフォームであることを特徴とする。
【0013】
上記の発明では、衝撃吸収材本体を硬質ポリウレタンフォームで形成したことで衝撃吸収性が高く、かつ耐候性に優れ径時変化の少ない衝撃吸収材とすることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記繊維層は古紙由来の繊維を水素結合により成型したパルプモールドからなることを特徴とする。
【0015】
上記の発明では、繊維層をパルプモールドとしたことで、衝撃吸収の際にストロークの中盤で荷重の落ち込みを防ぎ、かつストロークの後半で荷重が過度に上昇しにくい衝撃吸収材とすることができ、またリサイクル素材を使用することで環境への影響を抑えることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記繊維層は不織布からなることを特徴とする。
【0017】
上記の発明では、繊維層をパルプとしたことで、衝撃吸収の際にストロークの中盤で荷重の落ち込みを防ぎ、かつストロークの後半で荷重が過度に上昇しにくい衝撃吸収材とすることができ、また種々の素材を適用することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記繊維層は前記衝撃吸収材本体の表面全体を被覆することを特徴とする。
【0019】
上記の発明では、繊維層は衝撃吸収材本体の表面全体を被覆することにより、飛散防止効果を高め、複数方向の衝撃吸収性能を持たせることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、飛散防止効果を備え、かつ圧縮されても荷重が過大に増加しにくい衝撃吸収材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るパルプモールド付き衝撃吸収材を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパルプモールド付き衝撃吸収材の成形方法を示す正面断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るパルプモールド付き衝撃吸収材の成形方法を示す正面断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る成形されたパルプモールド付き衝撃吸収材を金型から離型させる工程を示す正面断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るパルプモールド付き衝撃吸収材の入力荷重/変位量の関係を従来例との比較で示すグラフである。
【図6】従来の衝撃吸収材と飛散防止処理(フィルム加工品)の入力荷重/変位量の関係を比較で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。ここで、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。なお、以下の実施形態で得られたパルプモールド付き衝撃吸収材は、自動車用内装材その他の産業資材に利用され、特に自動車のドアトリムの内側に取り付け、衝突時のエネルギーを吸収して乗員を保護するなどの衝撃吸収材として好適なものである。
【0023】
<第1実施形態>
まず第1実施形態について説明する。図1(A)、(C)に斜視図で示すように、本実施形態に係るパルプモールド付き衝撃吸収材30は、硬質ポリウレタン製の衝撃吸収材32の表面をパルプモールド34で被覆した構造とされている。
【0024】
図1(A)に示すように単純な形状の衝撃吸収材32のみならず、図1(B)に示すような複雑な表面形状をした衝撃吸収材32の場合でも、予めモールド成型されたパルプモールド34で図1(C)のように表面を被覆し、拘束することで飛散防止効果を備え、かつ圧縮されても荷重が過大に増加しにくい衝撃吸収材とすることができる。
【0025】
また、図1(C)に示すような形状であって、且つ衝撃吸収材30の全面をパルプモールド34で被覆する構造であってもよい。すなわち図中下方向にもパルプモールド34を成型後に貼付するなどの方法で設け、衝撃吸収材30の全面をパルプモールド34で被覆することにより、更に飛散防止効果を高めることができる。
【0026】
次に本実施形態に係るパルプモールド付き衝撃吸収材の製造方法について説明する。図2〜図4に示すように、本実施形態では、下金型12と上金型14とで構成される衝撃吸収材成形用の金型(モールド)10を用いる。この金型10では、下金型12と上金型14とが開閉自在にヒンジ結合されている。下金型12は上部中央部に凹状の下型キャビティ16が形成され、上金型14はこの下型キャビティ16の上端開放部を閉塞する蓋体として形成されており、上金型14と下金型12とを閉じた状態では下型キャビティ16内の空間が上金型14で閉じられた状態になる。
【0027】
また、本実施形態では、下金型12には真空成形法により予め下型キャビティ16と同一形状に成形されたポリプロピレン製の離型フィルム18が設置されている。この離型フィルム18は下金型12の上端面に固定ピン(図示せず)により止められ、下金型12の上端面に配設されたフィルムエアーシール用パッキンと更にフィルム押え(何れも図示せず)とで挟持されて下金型12に強固に固定されている。本発明者らの検討によると、かかる固定状態で数十回の繰り返しの脱型にてもフィルムのズレは生じない。また、脱型作業も容易に行うことができる。
【0028】
離型フィルム18を成形するには、フィルムの熱収縮などを考慮し、衝撃吸収材成形用の金型10とは別であるフィルム部材成形用金型を用いて成形する。
【0029】
また、下金型12の底部には、箱状の空気室Sが形成されており、この空気室Sには、圧力調整バルブ20を介装するエアー管22の一端が接続され、該エアー管22の他端は真空ポンプ等のエアー導入・吸引装置と連結されている。この空気室Sと下型キャビティ16とは複数のエアー連通孔(空気穴)24によって連通されている。
【0030】
ここで、離型フィルム18は上述したように、硬質ポリウレタンフォームとの分離性を良好にし、繰り返し使用が可能であるものが望ましい。即ち、硬質ポリウレタンフォームの成形品と分離するものには、プラスチック製フィルムとしてはポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムがあるが、ポリエチレンフィルムは伸び、変形が起こり易く、数回の使用しかできない。これに対し、硬質ポリウレタンフォームとの分離時に伸び、変形が少なく、かつ分離性の良いポリプロピレンのフィルムを使用することが上記の観点より好ましい。
【0031】
また、硬質ポリウレタンフォームは、軟質ウレタンフォームと異なり、許容範囲を超えた力を加えると座屈変形、つまり破壊してしまうものである。一方、離型時には硬質ポリウレタンフォームは内部の反応熱で膨張しており、パルプモールド34を通じて金型10の側面を0.5〜1kg/cm2 程度の力で押している。このような力で硬質ポリウレタンフォームで形成された衝撃吸収材32がパルプモールド34を金型10の側面に押しつけていても、本実施形態では、上記のように離型フィルム18を金型10に設置し、離型フィルム18と下型キャビティ16との間に空気圧を加えることで、比較的スムーズに成形品が下金型12から上がってくる、つまり離型させることができる。
【0032】
このポリプロピレンフィルムの厚さは0.3〜1.0mm、特に0.3〜0.6mmであることが好適である。0.3mmよりも薄いと十分な強度が維持できず、成形時にフィルムが破損する場合がある。一方、1.0mmよりも厚くなると、製品寸法誤差が大きくなり、金型を大きめに作らざるを得ない問題が生じ、脱型時のフィルムの変形が起こりにくくなり、また、成形品の形状によって複雑なものは離型フィルム18とパルプモールド34が分離しにくくなる場合が起きる。
【0033】
また、ポリプロピレンフィルムからなる離型フィルム18は、予め真空成形法によって成形しておくことが望ましい。なお、予め成形しておかないと、衝撃吸収材として硬質ポリウレタン発泡材料を発泡、成形し、脱型した後、離型フィルム18を元の状態に十分に追随、復元させることが難しくなる虞がある。
【0034】
また、真空成形法ではなく、プレス成形法により所定の形状に形成した場合、このプレス成形法では、雄型形状のコーナー部が局部的に押されて製造されることになるため、形状が完全に下型キャビティ16に沿うことがやや困難で、下金型12からの浮きが生じ易い。また、離型フィルムのコーナー部が破れ易く、耐久性が劣る。特に下型キャビティ16が深い形状の場合には狭い隙間を薄いフィルムがすべり、伸ばされることになるので、離型フィルムが薄くなり易い。また、離型フィルムに均等に力が加わることが必要であるが、フィルム厚が薄いため、上金型14が離型フィルムを均等に押すことが困難となり、片当たりして、成形品に薄さがでたりキャビティ形状にピッタリと合うものを製造することができない場合が考えられる。なお、真空成形法は公知の方法を採用し得るが、本実施形態では、ポリプロピレンフィルムを180〜200℃、15〜20秒間程度加熱したものを真空成形することがよい。
【0035】
以下、金型10を用い、硬質ポリウレタンフォームからなる衝撃吸収材32とパルプモールド34とが一体的に成形されてなるパルプモールド付き衝撃吸収材30を製造することについて説明する。
【0036】
本実施形態では、予め、下金型12のキャビティ形状に沿った外形のパルプモールド34を成形しておく。パルプモールド34の材質は本実施形態では木材由来のパルプである。ここでいうパルプモールドとは古紙を水で溶かし、金網で抄き上げたあと乾燥した紙成形品であり、製造工程で糊・接着剤などは使用しない。
【0037】
パルプモールド34は素材となる繊維同士が水による水素結合により自己接着することでその形状を維持しており、水に浸すと水素結合が壊れて繊維が解れるので元の繊維に戻るため、再度紙の材料として使用される。またパルプモールド34は種々の古紙由来の繊維を材料として製造することができ、 製造時の二酸化炭素排出量が非常に少ないことに加えて、接着剤を使用しないため環境負荷が少ない特徴を備えている。
【0038】
パルプモールド34は例えば図2に示すような所謂バスタブ形の容器形状でよく、下金型12の内面に沿ってこれよりも一回り小さい形状を備え、溶融した硬質ポリウレタン発泡材料を注入する方向(上)が開いた容器形状として形成される。
【0039】
この成形されたパルプモールド34を下金型12内に配置する。その際、エアー導入・吸収装置で空気吸引して離型フィルム18を下型キャビティ16に沿った成形開始前の形状(図1、図3参照)にしておき、この離型フィルム18の上側にパルプモールド34を配置する。
【0040】
更に、溶融した硬質ポリウレタン発泡材料を下金型12内のパルプモールド34を充填するように注入し、上金型14を閉じる(図3参照)。
【0041】
そして、注入した硬質ポリウレタン発泡材料32を発泡させて膨張させる。膨脹が終了した段階で上型を型開きし、エアー導入・吸引装置を作動させ、エアー管22、空気室S、及びエアー連通孔24を介して、離型フィルム18と下型キャビティ16との間隙Nにエアーを吹き込み、図4に示すように、成形品を構成するパルプモールド付き衝撃吸収材30をパルプモールド34と共に押し上げる。
【0042】
その際、離型フィルム18は端部のみ下金型12に固定されているので、空気圧で離型フィルム18とパルプモールド付き衝撃吸収材30とが押し上げられ、このときに離型フィルム18がパルプモールド34から分離することになる。所定量の空気を入れると所定位置で離型フィルム18の浮き上がりが止まり、図4に示すように、パルプモールド付き衝撃吸収材30が金型10から離型(脱型)される。
【0043】
離型(脱型)の際の空気圧は0.5kg/cm2以上、特に1〜5kg/cm2 であることが好ましい。なお、成形品の形状や大きさにより異なるが、工場エアー圧5kg/cm2 付近にまで高めれば、ほとんどの形状の成形品を離型させることができる。また通常は、間隙Nに注入される流体は空気を用いるが、空気に替えて水などの液体を用いてもよい。
【0044】
硬質ポリウレタン発泡原料としては、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを主成分とし、更に触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤、その他の助剤を所望により配合したものを使用し得る。これらの成分としては硬質ポリウレタンフォームの製造に通常使用する公知のものを使用でき、またその使用量も常用量とすることができる。
【0045】
なお、成形品であるパルプモールド付き衝撃吸収材30には抜きテーパーを設けることが脱型を容易にし、押し上げる際にヘコミや傷等が生じることなく、抵抗力も少なくなるため好ましい。このため、パルプモールド付き衝撃吸収材30の厚さや大きさにより異なるが3°以上、特に3°〜5°の範囲にテーパー角度θ(図3参照)を形成することが好適である。
【0046】
その後、エアー導入・吸引装置を作動させて離型フィルム18と下型キャビティ16との間のエアーを吸引すると、離型フィルム18は予め真空成形されているので容易に元の形状に戻ることができ、下型キャビティ面上に再設置されて、離型フィルム18の再使用が可能となる。従って、効率よく確実にキュア時間を縮めることが可能となり、一回の成形にかかるモールド使用時間を短縮して単位時間当りの成形回数を増やし生産性を上げることができる。また、エアーにより、成形品であるパルプモールド付き衝撃吸収材30を全体的に均等に押し上げることができるため、パルプモールド付き衝撃吸収材30に無理な力がかからず、特に80℃±10℃でのキュア時間を効果的に縮めることができ、これによりモールド使用時間を短縮して単位時間当たりの成形回数を約30%も増やして生産性を上げることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、下型キャビティ16に沿った外形を有するパルプモールド34を予め成形する。この成形では、成型時の乾燥・熱収縮などを考慮し、衝撃吸収材成形用の金型10とは別のパルプモールド成形用金型を用いて加圧成形している。
【0048】
従って、この場合パルプモールド34を予め成形せずに離型フィルム18の上側に繊維層を単に配置(貼り付け)して硬質ポリウレタン発泡材料を注入してパルプモールド付き衝撃吸収材を成形した場合に比べ、たとえ衝撃吸収材32の表面形状が複雑であっても、パルプモールド34が衝撃吸収材32の意図した位置、形状に容易に高精度で配置されて表面のパルプモールド34が剥がれ難い衝撃吸収材とすることができる。
【0049】
すなわち、例えば図1(A)に示すようにパルプモールド付き衝撃吸収材30が比較的単純な形状であれば成型後にパルプモールド34を貼付する方法も考えられるが、図1(B)のように複雑な表面形状であった場合、この表面にパルプモールド34を正しく貼付することは工数、工作精度等の点から難しいのに対して、上記のように本発明に係る製造方法を用いることによって、例えば図1(C)に示すように複雑な表面形状の衝撃吸収材であっても所望の位置にパルプモールド34を設けることができる。
【0050】
そして、パルプモールド34を成形する際に加圧成形で成形しているので、パルプモールド34の外形が複雑な形状であってもパルプモールド34を容易に製造することができる。また、パルプモールド34は硬質ポリウレタンフォームとの接着性が良いので、衝撃吸収材32の表面にパルプモールド34を確実に配置して好適に固定することができる。
【0051】
さらにパルプモールド34の厚さは1.0mm程度が望ましい。すなわち、厚さ0.5mm未満では強度が不足して破れる虞があり、厚さ2.0mm超では吸収エネルギーが大きくなり、衝撃吸収性能が損なわれる虞があるためである。
【0052】
また、下金型12に離型フィルム18を取り付け、パルプモールド付き衝撃吸収材30を下金型12から離型させる際に、離型フィルム18と下型キャビティ16との間を空気で加圧することでパルプモールド34を離型フィルム18から分離させている。これにより、パルプモールド34の外形形状が複雑であっても、金型からの離型が容易である。
【0053】
更に、本実施形態においては離型フィルム18の材質をポリプロピレンとしている。ポリプロピレン製の離型フィルム18はパルプモールド34との離型性に優れている。従って、離型させる際に離型フィルム18とパルプモールド34との分離が容易である。また、ポリプロピレンは硬質ポリウレタンフォームとの離型性に優れている。従って、硬質ポリウレタンフォームがパルプモールド34の外に付着し、衝撃吸収材32と離型フィルム18との接着部位が生じていても、衝撃吸収材32を離型フィルム18から容易に離脱させることができる。更に、ポリプロピレンは金型10との離型性がよいので、離型させる際に離型フィルム18を金型10から容易に分離させることができる。
【0054】
また、パルプモールド付き衝撃吸収材30を成形する際にパルプモールド34の内側に硬質ポリウレタン発泡材料を注入しており、衝撃吸収材32はパルプモールド34の内側に、パルプモールド34の内面形状に沿って成形される。従って、表面において衝撃吸収材32から硬質ポリウレタンフォームの粉落ち現象を低減することができる。
【0055】
このようにして形成されたパルプモールド付き衝撃吸収材30では、衝撃吸収材32の表面にパルプモールド34が一体的に配置された構造とされている。従って、パルプモールド付き衝撃吸収材30に衝撃が加えられた際には衝撃吸収材32がパルプモールド34で表面を被覆されたことにより、衝撃で割れても飛散することなく所期の衝撃吸収性能を発揮し、またパルプモールド34自体の物性により変位(ストローク)の途中で荷重が落ち込むことを防ぎ、さらに潰れても樹脂フィルム等に比較して変位終了時の加重が過大に増加することを防ぐ衝撃吸収材とすることができる。
【0056】
さらに、パルプモールド34が下金型12の内面に沿った容器の形状をしている部分では下金型12とパルプモールド34との間にパルプモールド付き衝撃吸収材30を形成する硬質ポリウレタンが流れ込みにくいためパルプモールド34の浮きを防止し、パルプモールド34の位置精度を高めることができる。
【0057】
あるいはパルプモールド34を一部、衝撃吸収材32の内部にインサートすることにより、パルプモールド34で衝撃吸収性材32を塊として拘束することができ、パルプモールド34で被覆された部分の衝撃吸収性能をさらに硬いものとすることもできる。
【0058】
また、パルプモールド34に代えて不織布で衝撃吸収材32の表面を被覆する構成とされていてもよい。不織布とは繊維状構造物で、機械的、化学的、または溶剤、またはそれらを組み合わせて、繊維間を接合したり、または絡合させたり、あるいは両方でつくられたものを指し、素材となる繊維は特に限定されるものではなく繊維に加工できるほとんどの物質を使用することができる。また、複数の原料を組み合わせたり、繊維長や太さなどの形状を調整することで目的・用途に応じた機能を持たせることもできる。
【0059】
例としてアラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維などが挙げられる。
【0060】
不織布の製造方法は基本的に(1)フリース(起毛仕上げの繊維素材)を形成し、(2)形成したフリースを結合する二段階がある。各段階において様々な製法があり、不織布の原料・目的・用途に応じて選択される。本発明に使用される不織布の物性は、当然ながら前述のパルプモールドと同等のものが望ましい。
【0061】
あるいは粗毛フェルト、寒冷紗、タフネル、ワリフなどの素材を用いて衝撃吸収性材32の表面を覆う構成としてもよい。
【0062】
<効果>
次に本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0063】
前述のように従来の衝撃吸収材においては、衝突エネルギーを吸収した際に衝撃で飛散することを防ぎ、かつ所期のエネルギー吸収性能を発揮させるため、表面に樹脂フィルムなどの補強材を一体成型する構造が開示されている。しかし、この構造では補強材を衝撃吸収材の表面に一体的に成形するため、衝突エネルギーを吸収した際に圧縮された補強材が押し潰され、ストローク(変位量)の後半で荷重が過度に上昇しやすい欠点がある。
【0064】
すなわち図6に示すように、実線で示す無加工品の加重/変位量の関係が、変位量が一定以上増加した段階から加重が変化しない、つまり衝撃吸収材が破砕されてしまうため加重がリニアに増加せず、衝撃を吸収し切れない状況となる。
【0065】
そこで衝撃吸収材の表面を樹脂フィルムなどで拘束し、飛散防止処理を行うことで図中に破線で示すように変位量が増加するに従って加重も増加する特性を持たせることができた。しかし補強材を衝撃吸収材の表面に一体的に成形するため、衝突エネルギーを吸収した際に圧縮された補強材自体が押し潰されて塊となり、変位量の後半で荷重が過度に上昇しやすい(図中白矢印)。
【0066】
これを防ぐには補強材に穴を開け、加重入力の際の圧力を逃がす方向のチューニングを施す必要があるが、この作業には高度の技術を要するため、所望の性能を得るには難易度の高い工程を経ることになり、工数やコストの増加に繋がる虞がある。
【0067】
そこで本実施形態では樹脂フィルムに替えてパルプモールド34で衝撃吸収材32を被覆し、飛散防止処理を行う構成とすることで、変位量増加に伴う加重の落ち込みを防止する一方で、変位量の後半ではパルプモールド34自体が砕けることで、それ以上の加重を発生することがないので、樹脂フィルムを用いた際に生じる、変位の後半で荷重が過度に上昇しやすい問題を防ぐことができる。
【0068】
図5に示すように、無加工品(△−△)ではストローク(変位)の途中で衝撃吸収材が割れて飛散するため加重が落ち込んでいるのに対して、フィルム加工品(×−×)では加重の落ち込みがない代わりにストローク終盤では加重が急激に上昇し、それ以上の変位を受け付けなくなっている。
【0069】
本実施形態(○−○)では衝撃吸収材の飛散をパルプモールド34による被覆で防止することで、ストロークの途中で加重の落ち込みを防ぐ一方、ストローク終盤では押し潰されずに砕けるため、変位の後半で荷重が過度に上昇しやすい問題を防ぐことができる。
【0070】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態では、第1実施形態に比べ、金型10に離型フィルムを取り付けずにパルプモールド付き衝撃吸収材を成形する。
【0071】
本実施形態でも、第1実施形態と同様、予め下金型12のキャビティ形状に沿った外形のパルプモールド34(完全に隙間無く密着するサイズではなく、型抜き性を考慮して一回り小型のものが望ましいのは第1実施形態と同様)を成形し、成形されたパルプモールド34を下金型12内に配置する。
【0072】
液状の硬質ポリウレタン発泡材料を下金型12内に注入し、上金型14を閉じ、注入した硬質ポリウレタン発泡材料を発泡させて膨張させる。膨脹が終了した段階で上金型14を型開きし、エアー導入・吸引装置を作動させて、エアー管22、空気室S、及びエアー連通孔24を介して、樹脂フィルム74と下型キャビティ16との間隙Nにエアーを吹き込み、成形品であるパルプモールド付き衝撃吸収材30をパルプモールド34と共に押し上げる。
【0073】
本実施形態では、離型フィルムを用いない簡易な手法でパルプモールド付き衝撃吸収材30を成形することができる。そして、たとえ衝撃吸収材32の表面形状が複雑であっても、第1実施形態ほど容易ではないが、パルプモールド34が衝撃吸収材32の意図した位置、形状に容易に高精度で配置されたパルプモールド付き衝撃吸収材30を製造することができる。なお、必要により下型キャビティ16の表面に離型剤を塗布しておいてもよく、また、下型キャビティ16の表面にフッ素樹脂などのコーティングを施しておくことも可能である。すなわち、金型(下型キャビティ16)の表面に接触するパルプモールド34が離型しやすくなる処理を行うことが望ましい。
【0074】
また、金型10で成型される硬質ポリウレタンフォームからなる衝撃吸収材32は、表面をパルプモールド34で被覆される一方で内部にもパルプモールド34がインサートされ、あるいはインサートされたパルプモールド34の一部によって衝撃吸収材32の内部が複数の区画に区分される構成とされる等の変形例であってもよい。さらに第1実施形態と同様、パルプモールド34に代えて衝撃吸収材32の表面に不織布を設けてもよい。
【0075】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。例えば、第1実施形態では真空成形された離型フィルム18を下金型12にしか配設していないが、上金型14にも同様にポリプロピレンフィルムを配設することができる。特に上金型14にキャビティを有し、そのキャビティ形状が複雑な場合では、上金型14のキャビティと同形状に真空成形した離型フィルムを配設することが好ましい。
【符号の説明】
【0076】
10 金型
12 下金型
14 上金型
18 離型フィルム
30 パルプモールド付き衝撃吸収材
32 衝撃吸収材(衝撃吸収材本体)
34 パルプモールド(繊維層)
S 空気室
θ テーパー角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型で成型される合成樹脂発泡体の衝撃吸収材本体と、
前記衝撃吸収材本体の表面を被覆する繊維層と、を備え
予め成型された前記繊維層と、前記衝撃吸収体本体とを前記金型で一体成型したことを特徴とする衝撃吸収材。
【請求項2】
前記衝撃吸収材本体は硬質ポリウレタンフォームであることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収材。
【請求項3】
前記繊維層は古紙由来の繊維を水素結合により成型したパルプモールドからなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の衝撃吸収材。

【請求項4】
前記繊維層は不織布からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の衝撃吸収材。
【請求項5】
前記繊維層は前記衝撃吸収材本体の表面全体を被覆することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の衝撃吸収材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86512(P2012−86512A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237169(P2010−237169)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】