説明

表示装置

【課題】小さな装置規模で良好なマックスウェル視状態を与える映像表示装置を得る。
【解決手段】LCDパネル3による映像情報を持った光束10は、像集光レンズ4により像焦点を結ばされるが、この焦点位置に、焦点拡散装置8を配設するとともに、焦点拡散装置8で拡散化された光が投影される第1の像投影レンズ5と、第1の像投影レンズ5からの光束101を受け、観察者の眼球7内の網膜面71に投影する第2の像投影レンズ6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜上に映像情報を描画する表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの眼球の調節状態に依存せず、網膜上に映像情報を直接描画する手法として、マックスウェル(Maxwell)視状態を用いる方法があった。これによれば、提示映像の観察の際、眼球の調節が不要となり、ヒトの奥行き知覚と整合性の高い映像表示が可能である。
【0003】
映像観察をヒトの眼球の調節状態に依存せずに行う手法として、マックスウェル視状態を用いる方法がある。これによれば、網膜上に投影される映像の焦点をヒトの眼球上に位置させることで、水晶体の調節機能を用いることなく映像情報が網膜上に描画される。マックスウェル視状態を得るためには、厳密に映像焦点の共役点を眼球開口部である瞳に置かなければならない。このため、単一の映像に対する共役部は1点であり、この位置に瞳を置くことが必須であり、観視状態を強く制限する。これを避けるために、瞳に対する開口を広く取ることが試みられてきた。多くの場合は、像面と対応する部分に像を分散させるための光学素子を用いて、これらを集光することにより、像の焦点が多数の点に分離するようにした表示装置が提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照。)。これは、焦点分散面の共役点を瞳に位置させることにより、多数の共役点で作られた合成開口を広くとることができるようにしたものである。
【0004】
また、像の焦点に、ピンホールを置き、焦点を分散させる手法も提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0005】
これらの手法は、ヘッドマウントディスプレイのような、映像投影装置本体と観察者の観視位置が非常に近い状態を前提とした装置構成である。
【特許文献1】特開2006−251126号公報
【特許文献2】特開2006−251125号公報
【特許文献3】WO2003/065105公報
【非特許文献1】高橋、江泉、平沢、志水、「広視域網膜投影型表示システムの一方式」、 IEEJ Trans. EIS, Vol.124, No.2, 2004, pp461-466
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
映像投影装置本体からの映像射出部と観察者の眼球位置は、ヘッドマウントにより一意的に固定された状態で用いられる。そのため、瞳に対する合成開口は高々2cm程度に過ぎない。映像観視状態の自由度を確保するために、映像投影装置と観察者の距離を確保しようとした場合、観察者の自由度の増加とともに、当然のことながら合成開口をさらに広く取る必要がある。
【0007】
特許文献1乃至特許文献3に開示されている、従来のマックスウェル視状態を確保する手法では、映像投影装置本体が非常に大きくなる。すなわち、像面に像を分散化させる素子を用いた場合、観察者の観視対象となる映像の大きさに対応した像の分散化素子が必要となり、広視野の映像に適応した場合には非常に大きな分散化素子が必要となる。
【0008】
像の共役点を分散化させるためにピンホールなどを用いた手法では、ピンホールは光利用の効率が低いばかりだけでなく、多数の分散点を用いる場合には、その集積化が非常に難しいといった問題点があった。
【0009】
そこで、本発明では、光利用効率の高い素子、および構成を用いて像の焦点において分散化を行うことで、装置構成が小型であっても、広い合成開口が得られるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、光源と、この光源から出た光を透過させるとともに映像を形成する映像形成部と、この映像を集光させる集光レンズ系と、入射されたこの集光レンズ系からの出射光を拡散させる拡散手段と、この拡散手段で拡散された光を受光し、観察者の網膜上に投影するための投影レンズ系と、を備えたことを特徴とする表示装置が提供される。
【0011】
また、本発明の別の一態様によれば、レーザディスプレイと、このレーザディスプレイ映像を集光させる集光レンズ系と、入射されたこの集光レンズ系からの出射光を拡散させる拡散手段と、この拡散手段で拡散された光を受光し、観察者の網膜上に投影する投影レンズ系と、を備えたことを特徴とする表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広い合成開口が得られるので、頭部と映像投影装置が一体として固定されていない状態であっても、小さな装置規模で良好なマックスウェル視状態を与える表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。尚、各図において同一箇所については同一の符号を付すとともに、重複した説明は省略する。
【0014】
まず、図4に一般的なマックスウェル視状態を与える表示装置の模式図を示す。図4に示すように、表示装置100は、光源1と、光源1から出た光を集光する光源集光レンズ2と、光源集光レンズ2からの集光が投影され、映像信号が供給される透過型の液晶(LCD)パネル3と、LCDパネル3に表示された像が光束10として形成され、形成された像を集光する像集光レンズ4と、像集光レンズ4で結ばされる像の焦点と点対称に配置される第1の像投影レンズ5と、第1の像投影レンズ5からの光束10を受け、操作者の眼球7内の網膜面71に投影する第2の像投影レンズ6を備えている。
【0015】
一般的には、焦点に置かれた絞りにより、操作者の眼球7に入射される光束の大きさが決定される。この像の焦点の共役点を眼球瞳孔上に投影することでマックスウェル視状態を得ることができる。具体的には、像の焦点を、第1の像投影レンズ5および第2の像投影レンズ6を介して、眼球7上に共役点を形成する。光束10は眼球7内の網膜面71上に像を形成する。
【0016】
図4で示した光学的構成の場合、共役点は像の焦点と同じ大きさであり、映像の観察位置は非常に限定されたものとなっている。
【0017】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1について説明する。図1に、本発明の第1の実施形態にかかる表示装置の光学的構成を説明するための光行路図を図示する。図1に示すように、表示装置100は、光源1と、光源1から出た光を集光する光源集光レンズ2と、光源集光レンズ2からの集光が投影され、外部から映像信号が供給される透過型の液晶(LCD)パネル3と、LCDパネル3に表示された像が光束10として形成され、形成された像を集光する像集光レンズ4と、像の焦点を拡散化させる焦点拡散装置8と、焦点拡散装置8で拡散化された光が投影される第1の像投影レンズ5と、第1の像投影レンズ5からの光束101を受け、観察者の眼球7内の網膜面71に投影する第2の像投影レンズ6を備えている。
【0018】
すなわち、本発明の実施形態1によれば、LCDパネル3による映像情報を持った光束10は、像集光レンズ4により像焦点を結ばされるが、この焦点位置に、焦点拡散装置8を配設したものである。焦点拡散装置8としては、例えば、焦点拡散化ミラー81が好適である。図1に示す例では、多面体のミラーを焦点拡散化ミラー81として配置している。
【0019】
多面体のミラーは、所望の拡散角度が得られるように光学設計され、焦点近傍の数mm、広くて1cm程度のエリアに像の共役点を沢山、例えば30×30個、形成するものである。焦点拡散装置8における焦点拡散素子としては、多面体のミラーに限られない。図5に示すように、多面体ミラーだけでなく、それぞれ異なる反射角を与えるミラーアレイあるいは可動型のミラーアレイなどを用いることも可能である。可動型のミラーアレイは、例えば、DMD(Digital Micromirror Device)と呼ばれる1つのチップ内に可動式ミラーを48万個〜131万個敷き詰められており、ミラーの角度をそれぞれ調整するものである。
【0020】
これらによれば、反射角の微調整を高速に行うことができる。
【0021】
上述したように、焦点拡散化ミラー81は、像焦点の光束内に配置されているので、集光された焦点はそれぞれの反射された面に対応して拡散化される。なお、図1では、拡散された光束の主軸を簡略化して図示してある。拡散化された光束は、第1の像投影レンズ5、および第2の像投影レンズ6により、それぞれの光束が眼球7上に共役点を結ぶ。すなわち、拡散化された光束は、それぞれの拡散化された角度に対応して、眼球7上に共役点を結ぶことになる。そのために、結果として、観察者の眼球7に至る光束は眼球の回転に対して、角度的な許容度が増す。このため、眼球の微細な振動(固視微動)などによる回転に対しても、常に光束を受け入れることが可能となり、自然な映像観察が可能となる。
【0022】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態にかかる表示装置の光学的構成を説明するための模式図である。
【0023】
本実施形態にかかる表示装置100は、光源1と、光源1から出た光を集光する光源集光レンズ2と、光源集光レンズ2からの集光が投影され、映像信号が供給される透過型の液晶(LCD)パネル3と、LCDパネル3に表示された像が光束10として形成され、形成された像を集光する像集光レンズ4と、像の焦点を拡散化させる焦点拡散装置8と、焦点拡散装置8で拡散化された光が投影される第1の像投影レンズ5と、第1の像投影レンズ5からの光束101を受け、操作者の眼球7内の網膜面71に投影する第2の像投影レンズ6を備えている。
【0024】
本実施形態の構成では、焦点拡散装置8は、焦点拡散化ミラー81と、光軸偏向素子82を有している。光軸偏向素子82としては、例えばプリズムアレイ、フレネルレンズが好適である。かかる構成により、焦点拡散化ミラー81により拡散化された光束を、光軸偏向素子82により光軸を偏向させている。このため、それぞれの光束は、拡散化された仮想の像の焦点105の位置に、焦点を持つことになる。すなわち、この焦点の位置は、第2の像投影レンズ6により投影された共役点に対して、空間的に拡散化された焦点を持つことになる。結果として、眼球7が表面に対応する面内に、多数の拡散化された焦点の共役点103を与えることが可能となる。
【0025】
本実施の形態2によれば、眼球が面内の水平移動を伴う場合であっても、拡散化された焦点の共役点の1つを捕らえるために、常に映像を観察することが可能となる。
【0026】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。図3は、本発明の第3の実施形態にかかる表示装置の光学的構成を説明するための模式図である。本実施形態にかかる表示装置100は、光源がレーザディスプレイ装置110となっており、レーザディスプレイ装置110からの投影像を集光する像集光レンズ4と、像の焦点を拡散化させる焦点拡散化ミラー81と光軸偏向素子82を有する焦点拡散装置8と、焦点拡散装置8で拡散化された光が投影される第1の像投影レンズ5と、第1の像投影レンズ5からの光束101を受け、操作者の眼球7内の網膜面71に投影する第2の像投影レンズ6を備えている。
【0027】
図4に示すように、本実施の形態において、レーザディスプレイ装置110からの投影像は、透過型パネル20を介して像集光レンズ4に投影させることもできる。
【0028】
レーザディスプレイ装置110におけるレーザ光はLCDパネルを用いた場合のように平行光束に制御する必要もなく、光束の制御が容易である、光の利用効率が高い、小型化しやすいという利点がある。本実施の形態3によれば、眼球の調節機能に依存せず、光の利用効率のよい映像の観察ができる。
【0029】
上述したように、本発明によれば、頭部と映像投影装置が一体として固定されていない状態であっても、小さな装置規模で良好なマックスウェル視状態を与える表示装置が得られる。
【0030】
なお、本発明は上記の実施形態のそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる表示装置の光学的構成を説明するための模式図である。
【図2】本発明の第2の実施形態にかかる表示装置の光学的構成を説明するための模式図である。
【図3】本発明の第3の実施形態にかかる表示装置の光学的構成を説明するための模式図である。
【図4】本発明の第3の実施形態の変形例の光学的構成を説明するための模式図である。
【図5】焦点分散化素子の例を説明するための図である。
【図6】マックスウェル視状態を与える表示装置の光学的構成を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0032】
1…光源、2…光源集光レンズ、3…LCDパネル、4…像集光レンズ、5…第1の像投影レンズ、6…第2の像投影レンズ、7…眼球、71…網膜面、8…焦点拡散装置、81…焦点拡散化ミラー、82…光軸偏向素子、100…表示装置、10、101…光束、110・・・レーザディスプレイ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
この光源から出た光を透過させるとともに映像を形成する映像形成部と、
この映像を集光させる集光レンズ系と、
入射されたこの集光レンズ系からの出射光を拡散させる拡散手段と、
この拡散手段で拡散された光を受光し、観察者の網膜上に投影するための投影レンズ系と、
を備えたことを特徴とする表示装置。
【請求項2】
レーザディスプレイと、
このレーザディスプレイ映像を集光させる集光レンズ系と、
入射されたこの集光レンズ系からの出射光を拡散させる拡散手段と、
この拡散手段で拡散された光を受光し、観察者の網膜上に投影する投影レンズ系と、
を備えたことを特徴とする表示装置。
【請求項3】
前記拡散手段は、入射されたこの集光レンズ系からの出射光を拡散させる拡散部材と、この拡散部材で拡散された光束の光軸を偏光させる偏光部材と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項4】
前記拡散手段は、多面体のミラーを有することを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。
【請求項5】
前記拡散手段は、ミラーアレイを有することを特徴とする請求項1または2に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−25383(P2009−25383A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185857(P2007−185857)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】