説明

表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法

【課題】より安定した接着性及び親水性を有する炭素樹脂複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と炭素材料とからなる予備成形体の少なくとも一表面に、親水性基を有する(メタ)アクリル系単量体液を塗布し、その上に高分子フィルムを積層した後、得られた積層体に電子線照射し、次いで前記積層体を加熱した後、前記高分子フィルムを剥離することを特徴とする表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の親水性が向上した炭素樹脂複合材料の製造方法に関する。特に燃料電
池セパレータに応用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、炭素粉末等の炭素系充填材と熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂とからなる複合材料及び成形品は、工業用部材としては極めて有用である。例えば航空機、車両部材、電池部材として利用できる。これら成形品の表面を改質し、接着性を高めたり、親水性を高めたりすることが必要な場合がある。従来、該樹脂成形品の表面改質を行うため、プラズマ処理、UV処理、オゾン処理等が検討されているが、処理後、長期に亘り良接着性、親水性を保持することは困難であった。これは、成形品表面に生成した極性官能基が分解したり、樹脂の熱運動等にて内部に潜り込んで表面に存在する数が減少するからと考えられている。
一方、成形品の表面にプライマーや塗料等を塗布することも可能であるが、その成分の溶出が成形品や他の部材に悪影響を与えたりする。また塗膜が剥離するなどの技術的問題を抱えている。
【0003】
また炭素樹脂複合材料成形品を燃料電池部材、特に燃料電池セパレータとして使用する場合、発電時に生じる生成水を速やかに排出し、ガス流路の閉塞の無いセパレータが望まれる。その際、セパレータ表面、特にガス流路部は親水性であることが望ましい結果を生む。セパレータの流路部の疎水性が高い場合には、加湿水分及び生成水分によりガス流路が閉塞され易く、発電性能の低下につながってしまう。
【0004】
そこで、従来、燃料電池セパレータ等部材の所定の場所に対して親水処理を施し、これによって生成水の排出性の向上が図られて来た。特に流路部を親水処理することによって、生成水は水滴として留まることなく、生成水がガスの拡散を阻害するのを防ぐことができる。
【0005】
このセパレ−タを親水処理する方法としては、古くは燃料流路の入り口または出口に気孔率が30〜80%の吸水性を有するポ−ラスなカ−ボン部材を備え付けたり、燃料ガス流路表面と好ましくは酸化ガス流路表面にもポリアクリルアミド等の親水性被膜を形成したり(例えば特許文献1参照)、又、各種素材からなる導電性セパレ−タ表面を、親水化ガス中で低温プラズマ処理等の親水化処理を行うことにより親水性を賦与する方法がある(例えば特許文献2参照)。
しかし、これらの方法は、長期耐久性に乏しかったり、真空下での処理であるため生産性が低い等の実用上の問題があった。
【特許文献1】特開平8−138692号公報
【特許文献2】国際公開第99/40642号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述するように、炭素樹脂複合材料成形品の表面改質を行い、接着性又は親水性を長期に安定的発現する方法を提供することが要請されていた。
そのような要請に鑑み、本発明は、より安定した接着性及び親水性を有する炭素樹脂複合材料の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題について鋭意検討した結果、樹脂と黒鉛との予備成形体表面に(メタ)アクリル系単量体を塗布し、この上に所定の厚さの高分子フィルムを積層した後、電子線照射しラジカル重合させ、次いで前記高分子フィルムを積層した状態でこの成形体を加熱する工程を行うことにより、成形体表面に親水性基を有する重合体を安定して付与することができることを見出すに及んで、本発明を完成させるに至った。
本発明は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と炭素材料とからなる予備成形体の少なくとも一表面に、親水性基を有する(メタ)アクリル系単量体液を塗布し、その上に高分子フィルムを積層した後、得られた積層体に電子線照射し、次いで前記積層体を加熱した後、前記高分子フィルムを剥離することを特徴とする表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法から得られる炭素樹脂複合材料成形品は、機械強度等の材料物性を損なうことなく表面改質されるため、接着性及び親水性に優れる。さらに燃料電池セパレータ等のリブ状形状物の場合、電子線の到達量が低下する溝底部でも優れた親水性を発現する。即ち、溝内部は、発生した水との高い濡れ性を示すものであり、水が該溝内部に滞留することなく、流動して排出することができるので、過剰な水により燃料ガスの供給が妨げられることが無く、起電力が安定する。このセパレータを用いた燃料電池スタックは、長期間に亘って安定的な発電が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明の製造方法について、詳細に説明する。
本発明の製造方法で使用される予備成形体は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と炭素材料とを含む混合物を成形したものである。炭素材料としては、人造黒鉛、リン片状天然黒鉛、塊状天然黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック又は非晶質炭素等が挙げられる。これらの1種類、或いは2種類以上の混合物を用いることができる。特に燃料電池セパレータとして使用する場合には、好ましくは平均粒径100〜400μmの黒鉛であり、より好ましくはアスペクト比が1〜5で、且つ平均粒径200〜300μmの黒鉛である。又炭素材料として、上記炭素原料からなる繊維、例えば1〜15mmの繊維長の炭素繊維、マット、シート、ペーパーなども使用できる。
【0010】
又、熱硬化性樹脂としては、例えばポリカルボジイミド樹脂、フェノール樹脂、フルフリルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂などを挙げることがでる。中でもビニルエステル樹脂が好ましい。この熱硬化性樹脂は、粉末状や粘ちょう液状のまま用いたり、スチレンなどの液状の反応性希釈剤と混合して液状で用いられる。
又、熱可塑性樹脂としては、例えばポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリマー、ポリエステルなどを挙げることができる。これらのうち、耐熱性や耐酸性に優れることから、特にポリフェニレンスルフィドが好ましい。これらの樹脂は、使用用途、要求性能に応じて適宜選択して、使用される。
【0011】
さらに、前述の使用する樹脂に合った各種配合剤を添加するのが望ましい。例えば、ビニルエステル樹脂の場合、有機過酸化物等の重合開始剤、圧縮成形時に好ましい粘性を付与する増粘剤、硬化反応時の収縮応力を緩和する低収縮化剤、その他必要により離型剤、重合調節剤等を使用する。また、ポリフェニレンスルフィドを用いる場合には、必要により離型剤、酸化防止剤等を使用する。このような樹脂、炭素材料及び各種配合剤を含む組成物を成形材料として用いる。
【0012】
得られた成形材料は、所望の形状をした金型等を用いて圧縮成形、射出成形等の各種成形方法を経て、基体となる予備成形体とする。この予備成形体を電子線加工に使用する。
【0013】
次に予備成形体の製造方法について述べる。
樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、該樹脂と炭素材料とからなる未硬化状態の成形材料を、所定の形状の成形金型に入れ、加熱圧縮して成形することにより予備成形体を製造することができる。この際の加熱温度は、使用する熱硬化性樹脂により相違するが、通常100〜200℃であり、又加圧は、通常15〜60MPaの条件が適切である。
【0014】
又、樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、該樹脂と炭素材料とからなるシートを製造した後、該シートを該樹脂のガラス転移点以上で融点以下の温度に加熱し、次いで所定の形状の成型金型にこの加熱シートを入れ、融点以上に加熱した後、圧縮成形を行いその後冷却することにより予備成形体を製造することができる。この際加圧は、通常10〜50MPaの条件が適切である。
【0015】
炭素樹脂複合材料成形品が燃料電池セパレータである場合も、前記と同様にして、セパレータ形状の金型を用いて、圧縮成形又は射出圧縮成形を行うことにより、予備成形体を製造することができる。
【0016】
本発明は、まず前記予備成形体の少なくとも一表面に、親水性基を有する(メタ)アクリル系単量体液を塗布するものである。
ここで使用される親水性基を有する(メタ)アクリル系単量体とは、電子線照射により生成したラジカルと反応する(メタ)アクリロイル基を有しポリマーを形成し、親水性の官能基を有する化合物である。中でも、一分子中に親水性基としてカルボキシル基、水酸基、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物が好ましい。具体的には、例えば(メタ)アクリル酸及びその塩、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル、ポリオキシアルキレン基含有(メタ)アクリル酸エステル、スルホン酸基含有(メタ)アクリル酸エステル、スルホン酸基含有(メタ)アクリル酸アミド、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
また、水との接触後、加水分解により、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基などの親水性の官能基を生成する(メタ)アクリル酸系単量体でもよい。
【0017】
これらの中でも、親水性効果の発現及び耐加水分解性の観点から、特に(メタ)アクリル酸及びその塩、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。これらを単独で、又は二種類以上混合して使用することができる。その他の単量体を混合して使用することもできる。また、親水性能を損なわない範囲で、疎水性の(メタ)アクリル系単量体等も併用しても良い。なお使用する単量体の種類は、これらに限定されるものではなく表面の親水性、耐水性のバランスを考慮して適宜選択し使用される。その他のラジカル重合性単量体の併用も可能ではあるが、重合性に悪影響を与え、親水性が劣る場合があるので注意を要する。
【0018】
本発明で使用される親水性基を有する(メタ)アクリル系単量体液(以下「親水化処理液」という)は、(メタ)アクリル系単量体を水や低級アルコール等の溶媒で希釈したものが好ましい。例えば、水とメタノールの混合溶媒にて希釈して使用すると、炭素樹脂複合材料成形品の濡れ性が向上し、さらに電子線照射後には、良好な親水性表面が得られる。
また、希釈剤を使用することにより、共存するホモポリマー成分のゲル化を低減したり、洗浄を容易にしたりする効果がある。
【0019】
希釈濃度については、使用する単量体の種類、希釈溶媒組成及び予備成形体の表面状態により異なるが、好ましくは10〜80質量%である。より好ましくは、20〜60質量%である。
溶媒組成については、前記と同様使用する単量体の種類、予備成形体の表面状態により異なるが、好ましくは水/水溶性有機溶媒=0/100〜60/40(質量%)である。
該単量体には、希釈溶媒の他に、必要により塩化銅、ハイドロキノン等の重合調節剤を添加することができる。また性能上問題なければ、界面活性剤などの添加剤を使用しても良い。
親水化処理液の塗布は、予備成形体に一回、又は必要により複数回行ってもよい。
【0020】
親水化処理液を塗布する前に、予備成形体と親水化処理液との親和性を向上させるために、予備成形体の表面を加工することが好ましい。加工方法としては、具体的には、ブラスト処理、UV処理、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理、酸処理、アルカリ処理などが挙げられる。これらの方法は、目的により適宜選択して用いられる。
塗布の方法は、成形品の形状に合った方法が適宜選択される。また塗布は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このことにより、溶存酸素を低減でき、親水化効果をより高めることができる
親水化処理液は、使用する直前に、窒素等の不活性ガスを通気して溶存酸素を低減しておくことが望ましい。
【0021】
本発明は、次に親水化処理液を塗布した予備成形体の上に、高分子フィルムを積層し、電子線を照射するものである。
【0022】
かかる高分子フィルムとしては、可塑剤等の溶出が無く前述の親水化処理液に対し膨潤、変形、溶解等の変質が無く、加熱工程にも耐熱性を有することが好ましい。さらに、電子線照射によるラジカル生成が低いものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム、ポリエチレンナフタレート製フィルム、ポリプロピレンテレフタレート製フィルム、ポリカーボネート製フイルム、ポリスチレン製フィルム、ポリフェニレンサルファイド製フィルムなどが、電子線耐性に優れ好適である。中でもポリエチレンテレフタレート製フィルムなどのポリエステル系フィルムが、作業性、コスト等の観点から好ましい。フィルムの厚みとしては、好ましくは、0.001〜0.1mmであり、さらに好ましくは、0.01〜0.05mmである。0.001mmに満たないと、取り扱いが困難になる。また0.1mmを越えると、予備成形体への電子線到達量が減り、グラフト化が妨げられる。また廃棄物の量を増やすことにつながる。このフィルムの役目としては、グラフト処理中の酸素遮断に加え、親水化処理液の揮散防止効果もある。よって高分子フィルムの積層は、グラフト化を安定させることに寄与するということができる。
【0023】
本発明は、次いで予備成形体に親水化処理液を塗布し、高分子フィルムを積層した後に、得られる積層体に、電子線を照射するものである。
電子線照射は、通常電子線照射装置を用いて行う。
電子線照射装置において、加速電圧は、電子線の透過力に比例することから、通常予備成形体の形状と被積層する高分子フィルムと親水化処理液との合計の厚さによって適宜決定する。しかし実際は、加速電圧により親水効果が得られないこともあることから、期待する親水化効果が得られるように、接触角測定、XPS表面分析等の実験結果から決定される。加速電圧としては、100〜1000キロボルト(以下「kV」という)が好ましい。さらに好ましくは、200〜800kVである。
【0024】
また、電子線の照射線量は、目的とする親水性能および照射によって生ずる予備成形体の物性低下を考慮して、適宜決定される。通常10〜1000キログレイ(以下「kGy」という)程度が適当である。好ましくは50〜800kGyである。照射線量が50kGy未満では充分なグラフト重合が起こらない。1000kGyを越えると、基体の物性低下が起こるので好ましくない。電子線照射は、所定の線量を一度に照射しても、2回以上の複数に分けて照射しても良い。いずれの場合も、一回の線量は、50〜400kGyが望ましい。一回の線量が高すぎると、予備成形体、親水化処理液が高温になり熱劣化する恐れがある。電子線照射時の雰囲気は,高分子フィルムで酸素遮断されていることから、空気中または窒素など不活性ガス雰囲気のいずれでもよい。電子線によるオゾン発生が望ましくない場合には、窒素雰囲気下で処理するのがより望ましい。
【0025】
本発明は、積層体に電子線を照射した後、加熱するものである。この加熱は、予備成形体に親水化処理液を塗布した後、高分子フィルムが積層された状態で行う。この時の加熱条件としては、40〜120℃にて、1〜120分であることが好ましい。温度が40℃に満たないと十分な親水化が行われない。120℃を越えると親水化処理液の揮散等の問題が発生する。加熱処理時間は、短いほど工程的には望ましいが、親水化処理の均質化のため1分以上の処理が望ましく、生産性から60分以内の終了することが望ましい。加熱方法としては特に限定されず、工程、設備に合った方法が適宜選択して、行われる。
予備成形体中の樹脂にグラフトが難しい場合、親水化処理液中のモノマーの重合反応が遅い場合には、温度を高めにして時間を長く設定する。
【0026】
本発明は、加熱処理された積層体から高分子フィルムを剥離するものである。
高分子フィルムの剥離は、積層体を徐冷した後に行うことが好ましい。また、剥離した後得られた炭素樹脂複合材料成形品は、水又は、溶剤にて洗浄を行うことが好ましい。さらに吸着したポリマー等を完全に除くために、煮沸洗浄を行っても良い。洗浄工程は、予備成形体、ホモポリマーに合った方法が適宜選択して、行われる。その後、乾燥を行うことにより、表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品を得ることができる。
また、この親水化処理した炭素樹脂複合材料成形品に、さらに化学的処理を付加して親水性、接着性をさらに高めても良い。この化学処理としては、使用する親水性(メタ)アクリル酸系単量体に合った方法が選択される。例えば、硫酸等の酸処理、炭酸水素ナトリウム水等のアルカリ処理が挙げられる。
【0027】
本発明で得られる炭素樹脂複合材料成形品は、表面に電子線照射による親水性ポリマー層が形成されている。このポリマー層は、該予備成形体に化学的に結合されているものであり、常温静置保管下では親水性はほとんど変化しない。
また、本発明者による煮沸試験等の評価でも、長期間性能が維持されており、単なる吸着等による塗膜では無いことも明らかである。
【0028】
得られた表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品は、接着剤を用いて接着して構造体を製造したり、電池部材として利用できる。電池部材としては、例えば、燃料電池セパレータが挙げられる。この燃料電池セパレータは、ガス拡散膜(GDL)を介して接合した単一セルを複数個組み合わせることによって燃料電池スタックに使用される。かかる燃料電池としては固体高分子型燃料電池などが挙げられる。
【実施例】
【0029】
[本発明で使用する予備成形体の原料となる<炭素樹脂成形材料>の調製]
(調製例1) (熱硬化性成形材料の調製)
攪拌容量2Lのニーダーに、炭素粉末(平均粒径250ミクロン)1235g、ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂315g、有機過酸化物(t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート)3.2g、低収縮化剤(ポリエチレン粉末)4.8g、増粘剤(ジフェニルメタンジイソシアネート)43.2gを仕込み、室温にて攪拌混合させた。
その後、ガスバリアー性の多層フィルム製の袋に取り出し、封をした。この袋を45℃の貯蔵庫にて24時間静置した後、取り出し室温にて放冷した。これを熱硬化樹脂成形材料A−1とする。
【0030】
[本発明で使用する予備成形体の<炭素樹脂複合材料成形品>の製造]
(調製例2)
調製例1で得られた熱硬化樹脂成形材料A−1を133g計量し、金型にチャージした。圧縮成形機で、面圧30MPa、上型140℃、下型150℃、成形時間5分の条件で成形し、130mm×190mm、厚み3mmの成形品を製造した。これを予備成形体B−1とする。
【0031】
[本発明で使用する<親水化処理液の製造>]
(調製例3)
アクリル酸40g、メタノール30g、イオン交換水30g、塩化第一銅0.02gを室温にて攪拌混合し、淡緑色溶液を得た。モノマー濃度は、40%であった。これを親水化処理液C−1とする。
【0032】
(調製例4)
グリシジルメタクリレート30g、メタノール70gを室温にて攪拌混合し、透明溶液を得た。モノマー濃度は、30%であった。これを親水化処理液C−2とする
【0033】
《実施例1》
調製例1で得た成形品B−1をブラスト装置にて、表面をブラスト処理することにより前処理を行った。この成形品に、窒素ガスブロー処理をした親水化処理液C−1を均一に塗布し、この上に25μmのPETフィルムを積層した。次いで、室温下、窒素雰囲気中にて、加速電圧250kV、照射線量200kGyで電子線を照射した。照射後直ぐに、85℃で15分間加熱処理を行った。室温まで冷却した後、PETフィルムを剥離し、未反応成分を除去するために、室温のイオン交換水で二度洗浄した後、さらに95℃のイオン交換水で煮沸洗浄を2時間行った。最後に室温のイオン交換水で洗浄した後、室温で24時間乾燥させた。
この様にして表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品D−1を得た。この成形品の水濡れ性及び耐熱水性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0034】
《実施例2》
実施例1と同様にして成形品B−1をブラスト装置にて、表面をブラスト処理することにより前処理を行った。この成形品に、窒素ガスブロー処理をした親水化処理液C−2を、均一に塗布し、この上に25μmのPETフィルムを積層した。次いで、室温下、窒素雰囲気中にて、加速電圧250kV、照射線量200kGyで電子線を照射した。照射後直ぐに、85℃で15分間加熱処理を行った。室温まで冷却した後、PETフィルムを剥離し、未反応成分を除去するために、室温のアセトンで二度洗浄した後、さら2規定硫酸水溶液中、60℃で2時間処理を行った。さらに95℃のイオン交換水で煮沸洗浄を2時間行い、最後に室温のイオン交換水で洗浄した後、室温で24時間乾燥させた。
この様にして表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品D−2を得た。この成形品も実施例1と同様にして、水濡れ性及び耐熱水性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0035】
《比較例1》
調製例2で得た成形品B−1をブラスト装置にて、表面をブラスト処理した。その後、グラフト処理は行わず、実施例1と同様にして洗浄、乾燥を行った。この様にして比較の炭素樹脂複合材料成形品E−1を得た。この成形品も実施例1と同様にして、水濡れ性及び耐熱水性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0036】
《比較例2》
実施例1と同様にして、成形品B−1をブラスト装置にて、表面をブラスト処理することにより前処理を行った。親水化処理液を塗布せずに、室温下、窒素雰囲気中にて、加速電圧250kV、照射線量200kGyで電子線を照射した。照射後直ちに、窒素ガスブロー処理をした親水化処理液C−1を大気下、均一に塗布し、この上に25μのPETフィルムを積層した。その後、85℃で15分間加熱処理を行った。室温まで冷却した後、PETフィルムを剥離し、未反応成分を除去するために、室温のイオン交換水で二度洗浄した後、さらに95℃のイオン交換水で煮沸洗浄を2時間行った。最後に室温のイオン交換水で洗浄した後、室温で24時間乾燥させた。
この様にして電子線照射された比較炭素樹脂複合材料成形品E−2を得た。この成形品も実施例1と同様にして、水濡れ性及び耐熱水性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0037】
本発明で用いた測定方法及び評価基準を以下に述べる。
【0038】
[成形品の親水性の評価]
成形品の表面の接触角を、協和界面科学製CA−Z型を用い、イオン交換水を用いた液滴法にて測定した。測定8回の平均値を結果とした。測定雰囲気は、22℃、湿度60%である。
【0039】
[耐熱水試験後の成形品の親水性の評価]
成形品を25mm×50mmのサイズに切断し試片を作製した。この試片をイオン交換水の入ったフッ素樹脂容器に入れ封をし、この容器を95℃の乾燥器に入れ、500時間煮沸を行った。その後、室温まで徐冷し試片を取り出した。その時の表面接触角を同様にして測定した。なおサンプルは、取り出し後室温にて24時間、静置乾燥させた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に記載の結果から明らかなように、実施例1及び実施例2は、親水性が良好で、耐熱水性も良好であり、親水性も維持されている。よって、この製造方法を適用して製造される炭素樹脂複合材料成形品は、排水性の優れた高性能の燃料電池用セパレータとして利用できる。
一方、比較例1及び比較例2は、親水性が低い。よって、この製造方法を適用して製造される炭素樹脂複合材料成形品は、燃料電池用セパレータとして使用した場合、排水性に
劣り、安定した発電特性が得られ難い。
【0042】
溝幅1mm、深さ0.8mmの実際の燃料電池用セパレータ形状をした成形品において実施例1と同様な親水化処理を行った結果、溝内の親水性が大幅に改善されていることが確認された。水滴が球形にならず、溝内に沿って展開した。
比較例1と同様な処理をした燃料電池用セパレータ形状をした成形品では、水滴が球形になり、水は溝内を展開しなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と炭素材料とからなる予備成形体の少なくとも一表面に、親水性基を有する(メタ)アクリル系単量体液を塗布し、その上に高分子フィルムを積層した後、得られた積層体に電子線照射し、次いで前記積層体を加熱した後、前記高分子フィルムを剥離することを特徴とする表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。
【請求項2】
前記高分子フィルムが、0.001〜0.1mmの厚さを有するポリエステル系フィルムである請求項1に記載の表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。
【請求項3】
前記加熱条件が、40〜120℃で1〜120分である請求項1又は2に記載の表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系単量体が、重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、一分子中に親水性基としてカルボキシル基、水酸基、エポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を有する化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。
【請求項5】
前記電子線照射が、加速電圧100〜1000キロボルトの条件で行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系単量体が、(メタ)アクリル酸及びその塩、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル及びグリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系単量体液が、(メタ)アクリル系単量体を溶媒に希釈してなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面が親水化された炭素樹脂複合材料成形品の製造方法。

【公開番号】特開2007−131699(P2007−131699A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324621(P2005−324621)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【Fターム(参考)】