説明

表面処理層の形成装置、表面処理層の形成方法及びその表面処理層が形成された原子炉用制御棒

【課題】 膜厚の異なる2段構造の表面処理層を所定形状の遷移部を挟んで形成する。
【解決手段】 被覆管21の周囲に互いに略等間隔に複数配置され、溶液31の深さ方向に向かって、被覆管21との距離が短くなる湾曲形状の第1陽極棒32に、一方の電源38から電流を供給し、第1陽極棒32の内側の絶縁性の遮蔽部材36の内側に配置され、中心部分を貫通する被覆管21の周囲に互いに略等間隔に複数配置された第2陽極棒37に、他方の電源39から電流を供給し、遮蔽部材36の端部の絶縁性の仕切板35の中心部に設けられた貫通孔38の開口面積を、第1陽極棒32側から第2陽極棒37側に向かって減少するようなテーパ形状として、第1陽極棒32から遮蔽部材36の内部に回り込む電流を徐々に減少させて、表面処理層の遷移部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッキ等の表面処理層の形成装置及び形成方法に関し、例えば、原子炉用制御棒の表面の表面処理層の形成に用いるものである。
【背景技術】
【0002】
図1に、燃料集合体と原子炉用制御棒を示し、その構成を簡単に説明する。なお、図1は、加圧水型原子炉に用いられる燃料集合体及び燃料集合体に挿入される制御棒の一例を示したものである。
【0003】
燃料集合体1は、各々2種類のノズルを有し、上端部、下端部に配設された上部ノズル部5、下部ノズル部6と、上部ノズル部5と下部ノズル部6とを連結すると共に、互いに平行な中空の複数の制御棒案内管3と、制御棒案内管3の長さ方向に複数設けられた正方形の格子構造の支持格子4と、支持格子4の格子開口に1本ずつ挿入された複数の燃料棒2とを有するものである。
【0004】
一方、制御棒10は、中空のステンレス鋼管の上端と下端を密封して、細長い棒状体としたものであり、下端側は砲弾形状となっている。制御棒10の内部には、銀−インジウム−カドミウム合金棒からなる中性子吸収体と押さえばねが収納されている。複数の制御棒10は、その上端部をスパイダー組立体12により保持されて、制御棒クラスタ7として使用される。スパイダー組立体12は、図示しない駆動軸に分離自在に連結されるハブ部8と、ハブ部8から放射状に延設された複数のベーン部9と、制御棒10を受け入れて固定するフィンガー部11とを有するものであり、駆動軸の作動に伴い、ハブ部8が上下に移動するように構成されている。そして、ハブ部8で連結された制御棒クラスタ7の上下動作と共に複数の制御棒10が制御棒案内管3の内部を上下に移動することとなる。
【0005】
原子炉用の制御棒10は、原子炉炉心を構成する燃料集合体1に対して、制御棒10の挿入長さを調節することで、原子炉の出力の制御を行うものである。通常、原子炉を運転しているときには、定格出力運転を行うため、制御棒10は、先端部分を残して、燃料集合体1の上方に引き上げた状態としている割合が多い。又、原子炉の出力を抑制するときには、制御棒10の一部をわずかに燃料集合体に挿入した状態とし、原子炉を停止するときには、制御棒10全体を燃料集合体1に挿入した状態とする。更に、原子炉の緊急停止時には、制御棒10の自由落下を利用して、所定時間内に迅速に制御棒10全体を燃料集合体1に挿入するようにしている。このように、制御棒10は、原子炉の制御上、更には安全上、極めて重要なものであり、緊急時においても、正しく動作することが求められる。
【0006】
燃料集合体1及び制御棒10の関連部材に対して、各状態(稼働時、停止時)における制御棒10の位置関係を図2に示す。
図2に示すように、燃料集合体1の上部ノズル部5の上方には上部炉心板15が配設されており、その上方に、連続ガイドチューブ17、案内支持板18を有する制御棒クラスタ案内管16が配設されている。なお、これらの更に上方に、駆動軸に連結されたスパイダー組立体12等が配置される。通常運転時、制御棒クラスタ7、即ち、制御棒10が燃料集合体1から引き上げられている時には、制御棒10の下端部のみが制御棒案内管3の中に挿入された状態であり、大部分はその上方の制御棒クラスタ案内管16に位置することとなる(図2の制御棒10a参照)。
【0007】
又、緊急停止時における制御棒10は、所定の挿入長さまでは迅速に、最終的には、衝撃を受けないような速度に減速して、挿入する必要があり、そのため、制御棒案内管3の下端部には、制御棒案内管3の一部の内径を細くすることで、冷却材による制御棒10の抵抗力を増やし、制御棒10の挿入速度を減速させるダッシュポット3aが設けられており、制御棒10の先端部がダッシュポット3aの部分に挿入され、最終的には、この位置に停止することとなる(図2の制御棒10b参照)。
【0008】
制御棒クラスタ案内管16の領域は、燃料集合体1内を上向きに流れてきた冷却材が、図示しない複数の原子炉出口ノズル方向に向かって、様々な横方向に流れの向きを変え、冷却材の流れの強さ、或いは方向が不規則となる部分であり、冷却材の流れの不規則性のため、制御棒10がランダムに振動し、周囲の部材、例えば、連続ガイドチューブ17等に接触して、被覆管が摩耗するおそれがある。制御棒10表面の摩耗は、最悪の場合、制御棒10の破断を招くこともおそれもあり、制御棒10の破断により、緊急停止時における制御棒10の挿入動作が阻害されること等、安全上、有ってはならない。
【0009】
そこで、制御棒10表面の摩耗を防止するため、制御棒10を構成する鋼管の外表面には、クロムメッキ等の表面処理層が形成されており、制御棒10の先端部まで表面処理層で被覆している。制御棒10の表面処理層は、制御棒10表面の摩耗を抑制し、所定の寿命を得ると共に、制御棒10の挿入性に影響を与えない膜厚が望ましい。又、ダッシュポット3aの構造を考慮すると、ダッシュポット3aの内径の減少部分に接触して、停止することなく挿入可能とするため、ダッシュポット3aに挿入される制御棒10の先端部の表面処理層の膜厚は、先端部以外の表面処理層の膜厚と比較して、あまり厚くすることはできない。そのため、制御棒10の表面には、制御棒10の先端部と先端部以外の膜厚が異なる2段構造の表面処理層が形成されている(特許文献1参照)。このように、制御棒10の構造は、制御棒10の外表面に形成される表面処理層を含めて、燃料集合体1等の構造と密接に関係している。
【0010】
【特許文献1】特開平11−153685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、制御棒の表面処理層の膜厚は、耐摩耗性、挿入性を考慮して、制御棒の部位に応じた所定の膜厚に形成されているが、膜厚が変化する部分(以降、遷移部と呼ぶ。)に対する検討、特に、挿入性に対する影響の検討は不十分であった。例えば、遷移部が階段形状であれば、局在的な抵抗が発生し、制御棒の全挿入過程を通じて、挿入時間が延長するおそれがあり、又、遷移部が不用意に長すぎると、挿入性だけではなく、耐摩耗性にも悪影響を与えるおそれがあり、所定の形状、例えば、テーパ形状等とすることが望ましいものと考えられる。
【0012】
そして、膜厚の異なる2段構造の表面処理層を、所望の形状の遷移部を挟んで形成し、所望の膜質、或いは形状の表面処理層を得るには、従来の方法は、その工程が複雑であり、時間及びコストがかかると共に、以下に示すような問題があり、所望の表面処理層を得ることが難しかった。
【0013】
例えば、通常、膜厚の異なる2段構造の表面処理層の形成は、2回に分けて、メッキ施工により行うのが一般的である。この場合、2回の表面処理層の形成を別々に行うことで、膜厚の異なる2段構造の表面処理層としているため、下層の表面処理層上に上層の表面処理層を重ねる構造となり、表面処理層の膜厚が安定して得られない上、上層の表面処理層の密着性等の問題があった。又、この方法では、遷移部を所望の形状とすることも極めて難しいものであった。
【0014】
又、制御棒等の被メッキ物から距離を変化させて配置した陽極側電極を用いることで、表面処理層を重ねることなく、膜厚の異なる2段構造の表面処理層を同時に施工する方法もあるが、対象が長尺(4m程)であるため、この場合、形成される遷移部の範囲を安定させるための制御が難しく、又、表面処理層全体の膜厚の精度が悪化するおそれもあった。
【0015】
更に、薄い膜厚の表面処理層が所望の膜厚となった後、その部分を遮蔽冶具で覆い、電流の遮蔽を行うことで、その部分に、新たな表面処理層が形成されないようにして、膜厚の異なる2段構造の表面処理層を連続的に施工する方法もあるが、この場合、既に形成された薄い膜厚の表面処理層の表面が荒れる等、制御棒の表面処理層としての耐摩耗性、挿入性を満足できないおそれがあった。
【0016】
なお、良好な表面処理層を得るためには、表面処理層の膜厚が遷移部だけでなく、表面処理層の終端部の形状も重要である。例えば、一般的には、制御棒の端部近傍に犠牲電極を配置し、犠牲電極に表面処理層を析出させることで、制御棒の端部への表面処理層の析出を防止して、表面処理層の形成部分と非形成部分との境界を適正に設ける方法も用いられているが、表面処理層の形成の度に、犠牲電極に表面処理層が析出し、犠牲電極の寸法が変動してしまうことから、施工の都度に、析出した表面処理層を除去しないと、制御棒の端部における表面処理層の形成状態、具体的には、膜厚、境界の位置を、安定して得ることができなかった。この現象は、1回の施工中においても発生し、1回の施工中に犠牲電極の状態が変化することで、制御棒の端部での表面処理層の形成状態が変化してしまい、安定した施工結果を得ることができなかった。
【0017】
このように、表面処理層の終端部の位置が安定しないと、例えば、制御棒等の管状の被メッキ物では、表面処理層の終端部の位置が周方向で変化し、波打って見える現象が発生し、製造歩留まりの悪化を招いていた。又、終端部の層厚が大きくなると、挿入性にも影響がある。このような波打ち現象が発生した場合、表面処理層の終端部を研磨して対処することも考えられるが、耐摩耗性が高い表面処理層と表面処理層と比較して硬度が低い鋼管との境界部分を研磨することは容易ではなく、又、肉薄の管は変形し易いため、製造歩留まりの悪化を低減することは難しいものであった。
【0018】
又、一般的に、被メッキ物に表面処理層を形成する際には、被メッキ物の外面を電極で保持し、その電極を介して、被メッキ物に電流を流すことが行われているが、被メッキ物が制御棒のように長尺の場合や通電抵抗の大きな材料、形状である場合には、この方法では、メッキ処理に必要な電流を被メッキ物の表面全体に渡って、安定して供給することができず、表面処理層を均等な膜厚にすることができなかった。又、被メッキ物への通電位置がメッキ液面の外にある場合、被メッキ物の固有抵抗と通電による発熱のため、被メッキ物自体を高温にしてしまい、材質低下や変形等の問題を引き起こしていた。
【0019】
上述したように、膜厚の異なる2段構造の表面処理層の形成は、従来の方法では、種々の問題点があり、又、制御棒のような長尺な物に対する表面処理層の形成は、上記問題点の解決を更に難しいものとしていた。そして、上記問題点を克服する以下のような表面処理層の形成装置、形成方法が望まれていた。
(1)膜厚の異なる2段構造の表面処理層を所望の形状の遷移部を挟んで連続的に形成して、耐摩耗性を損なうことなく、制御棒の挿入性を向上させるようにする。
(2)各表面処理層の膜厚を安定させると共に、被メッキ物への密着性が高く、滑らかな表面状態となるようにする。
(3)表面処理層の終端部での膜厚が、小さい幅で連続的に又は段階的に薄くなると共に、その終端部が周方向に安定した位置となるようにする。
(4)通電抵抗が大きい材料、長尺の材料の被メッキ物に対しても、被メッキ物の表面の電流分布が一定となるようにして、形成される表面処理層の膜厚が均等になるようにする。
(5)研磨等の後処理を要することがなく、単一工程で、所望の表面処理層を形成できるようにする。
【0020】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、膜厚の異なる2段構造の表面処理層を所定形状の遷移部を挟んで形成する表面処理層の形成装置、形成方法及びその表面処理層が形成された原子炉用制御棒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決する第1の発明に係る表面処理層の形成装置は、
表面処理層を構成する材料を含有し、表面処理層を形成する対象部材がその上端部を除いて浸漬された溶液と、
前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置されると共に、前記溶液の深さ方向に向かって、前記対象部材との距離が短くなる湾曲形状の第1陽極棒と、
前記複数の第1陽極棒の内側に配置され、中心部分を前記対象部材が貫通する絶縁性の遮蔽部材と、
前記遮蔽部材の内側に配置され、前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置された第2陽極棒と、
前記遮蔽部材の下端部に設けられた絶縁性の仕切板と、
前記仕切板の中心部に設けられ、前記対象部材が貫通すると共に、前記第1陽極棒側から前記第2陽極棒側に向かって、開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状に形成された貫通孔と、
前記第1陽極棒、前記第2陽極棒に接続され、各々独立して電流を供給する複数の電源とを有することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決する第2の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第1の発明に係る表面処理層の形成装置において、
前記対象部材の上端部、下端部を保持する絶縁性の上保持部材、下保持部材を設けると共に、前記上保持部材、前記下保持部材の前記対象部材を保持する側の端部を、前記対象部材の端部側に向かって、その開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状としたことを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決する第3の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第1、第2の発明に係る表面処理層の形成装置において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさの導電性の良い導電部材と、前記導電部材の表面に複数設けられ、導電性の良い材料から構成された弾性部材とを有する陰極部材を備え、
前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させるようにしたことを特徴とする。
【0024】
上記課題を解決する第4の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第3の発明に係る表面処理層の形成装置において、
前記弾性部材として、短冊状の板バネ、円筒状の板バネ、又は、リング状のワイヤを用いたことを特徴とする。
【0025】
上記課題を解決する第5の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第3、第4の発明に係る表面処理層の形成装置において、
前記陰極部材の外側に導電性のある筒状の網状部材を被せると共に、前記網状部材と共に前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入して、前記網状部材を介して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させるようにしたことを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決する第6の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第1、第2の発明に係る表面処理層の形成装置において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさであり、長手方向にスリットが設けられた導電性の良い円柱状の導電部材と、前記導電部材の長手方向に沿って、前記導電部材の内部に配設された膨張可能な膨張部材とを有する陰極部材を備え、
前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入し、前記膨張部材を膨らませて、前記導電部材を前記対象部材の内壁面に接触させるようにしたことを特徴とする。
【0027】
上記課題を解決する第7の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第1〜第6の発明に係る表面処理層の形成装置において、
一方の前記電源は、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給するように制御されると共に、
他方の前記電源は、前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給し、第2所定膜厚の表面処理層が形成された後には、前記第1陽極棒への電流の供給が停止されるまで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給するように制御されたことを特徴とする。
【0028】
上記課題を解決する第8の発明に係る表面処理層の形成装置は、
上記第1〜第6の発明に係る表面処理層の形成装置において、
一方の前記電源は、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給するように制御されると共に、
他方の前記電源は、第1所定膜厚の表面処理層が形成される時間から前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成される時間を引いた所定時間まで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給し、前記第1所定膜厚及び前記第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給するように制御されたことを特徴とする。
【0029】
上記課題を解決する第9の発明に係る表面処理層が形成された原子炉用制御棒は、
表面処理層が形成される対象部材を、原子炉用制御棒の被覆管とし、
上記第1〜第8の発明に係る表面処理層の形成装置を用いて、前記被覆管に異なる膜厚の2段構造の表面処理層を形成すると共に、異なる膜厚の表面処理層の間を、所定範囲内で連続的に膜厚が変化するように形成したことを特徴とする。
【0030】
上記課題を解決する第10の発明に係る表面処理層の形成方法は、
表面処理層を構成する材料を含有する溶液に、表面処理層を形成する対象部材を、その上端部を除いて浸漬し、
前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置されると共に、前記溶液の深さ方向に向かって、前記対象部材との距離が短くなる湾曲形状の第1陽極棒に、一方の電源から電流を供給し、
前記複数の第1陽極棒の内側の絶縁性の遮蔽部材の内側に配置され、中心部分を貫通する前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置された第2陽極棒に、他方の電源から電流を供給し、
前記遮蔽部材の下端部に設けられた絶縁性の仕切板の中心部に、前記対象部材が貫通すると共に、前記第1陽極棒側から前記第2陽極棒側に向かって、開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状の貫通孔を形成して、前記第1陽極棒から前記遮蔽部材の内部に回り込む電流を、徐々に減少させることを特徴とする。
【0031】
上記課題を解決する第11の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第10の発明に係る表面処理層の形成方法において、
前記対象部材の上端部、下端部を保持する絶縁性の上保持部材、下保持部材における前記対象部材を保持する側の端部を、前記対象部材の端部側に向かって、その開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状に形成して、前記第1陽極棒又は第2陽極棒からの電流を、徐々に減少させることを特徴とする。
【0032】
上記課題を解決する第12の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第10、第11の発明に係る表面処理層の形成方法において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさの導電性の良い導電部材と、前記導電部材の表面に複数設けられ、導電性の良い材料から構成された弾性部材とを有する陰極部材を、前記対象部材の中空部分に挿入して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させることを特徴とする。
【0033】
上記課題を解決する第13の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第12の発明に係る表面処理層の形成方法において、
前記弾性部材は、短冊状の板バネ、円筒状の板バネ、又は、リング状のワイヤであることを特徴とする。
【0034】
上記課題を解決する第14の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第12、第13の発明に係る表面処理層の形成方法において、
前記陰極部材の外側に導電性のある筒状の網状部材を被せ、前記網状部材と共に前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入して、前記網状部材を介して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させることを特徴とする。
【0035】
上記課題を解決する第15の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第10、第11の発明に係る表面処理層の形成方法において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさであり、長手方向にスリットが設けられた導電性の良い円柱状の導電部材と、前記導電部材の長手方向に沿って、前記導電部材の内部に配設された膨張可能な膨張部材とを有する陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入し、
前記膨張部材を膨らませて、前記導電部材を前記対象部材の内壁面に接触させることを特徴とする。
【0036】
上記課題を解決する第16の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第10〜第15の発明に係る表面処理層の形成方法において、
一方の前記電源が、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給すると共に、
他方の前記電源が、前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給し、第2所定膜厚の表面処理層が形成された後には、前記第1陽極棒への電流の供給が停止されるまで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給することを特徴とする。
【0037】
上記課題を解決する第17の発明に係る表面処理層の形成方法は、
上記第10〜第15の発明に係る表面処理層の形成方法において、
一方の前記電源が、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給すると共に、
他方の前記電源が、第1所定膜厚の表面処理層が形成される時間から前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成される時間を引いた所定時間まで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給し、前記第1所定膜厚及び前記第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給することを特徴とする。
【0038】
上記課題を解決する第第18の発明に係る表面処理層が形成された原子炉用制御棒は、
表面処理層が形成される対象部材を、原子炉用制御棒の被覆管とし、
上記第10〜第17の発明に係る表面処理層の形成方法を用いて、
前記被覆管に異なる膜厚の2段構造の表面処理層を形成すると共に、異なる膜厚の表面処理層の間を、所定範囲内で連続的に膜厚が変化するように形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
第1、第10の発明によれば、異なる膜厚を有する2段構造の表面処理層を、対象部材に同時に形成することができると共に、異なる膜厚の表面処理層間の遷移部を、連続的に膜厚が変化する所望の形状とすることができる。この2段構造の表面処理層は、重ね合わせ部分がないため密着性が優れ、耐摩耗性を向上させることができる。又、各部位の表面処理層の膜厚を安定して均等に形成できると共に、表面処理層の遷移部の位置、形状を、所望の位置、形状に安定して制御することができる。例え、原子炉用制御棒のような長尺な対象部材であっても、表面処理層の膜厚を安定して均等に形成できると共に、表面処理層の遷移部の位置、形状を、所望の位置、形状に安定して制御することができる。更に、2段構造の表面処理層を同時に形成するため、施工工程を簡略化して、施工コストを低減することも可能である。
【0040】
第2、第11の発明によれば、テーパ形状等を有する絶縁性の下保持部材、上保持部材で対象部材を保持するので、非形成部分への表面処理層の析出を確実に防止すると共に、表面処理層の終端部を所望の位置、所望の形状に安定して形成することができる。又、絶縁材料から構成される下保持部材、上保持部材には、施工時に表面処理層が析出することがなく、表面処理層を除去する等の作業が不要となり、施工時のコストダウンが可能となる。
【0041】
第3〜第6、第12〜第15の発明によれば、陰極部材を対象部材の内部に挿入して用いるので、対象部材の全長に渡って、その内壁面に均等な接触圧で複数の良好な接触状態を得ることができ、対象部材の表面での通電を一定として、対象部材の全長に渡って、表面処理層の均等な膜厚を形成することができる。又、上記陰極部材を用いる場合、陰極部材による傷や通電痕等が残らないため、傷の除去等の後処理が不要となり、コストダウンを図ることもできる。
【0042】
第7、第8、第16、第17の発明によれば、膜厚の薄い表面処理層の表面状態を良好に保って、異なる膜厚の2段構造の表面処理層を、連続的に形成することができる。
【0043】
第9、第18の発明によれば、遷移部の範囲、形状を適切なものとするので、制御棒自体の挿入性を向上させることができると共に、挿入性に対する品質管理を向上させることができる。又、耐摩耗性のある範囲をできるだけ長くして、耐摩耗性も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
図3〜第9を参照して、本発明に係る表面処理層の形成を詳細に説明する。
【実施例1】
【0045】
図3に、本発明に係る表面処理層が形成された制御棒の詳細な構造を示す。図3(a)は、制御棒全体の構造を示すものであり、図3(b)は、図3(a)のC領域の拡大図である。
【0046】
制御棒10は、中空のステンレス鋼管の被覆管21が、その上端部、下端部を上部端栓22、下部端栓25に溶接されて、その内部が密封されたものである。上部端栓22には、図1に示したスパイダー組立体12のフィンガー部11に挿入される細径部23と固定用のねじ部24が形成されており、制御棒クラスタ7を構成するときは、締結用袋ナット等がねじ部24に螺着される。下部端栓25は下端側が砲弾形状であり、その上端側が被覆管21の下端部に円周溶接26により気密に連結固定される。下部端栓25の上方の被覆管21の内部には、中性子吸収体27が収納されており、更に、その上方には、中性子吸収体27を押さえる圧縮コイルばね28が介装されている。中性子吸収体27は、銀−インジウム−カドミウム(例えば、Ag:80%,In:15%,Cd:5%)合金棒から形成されている。
【0047】
被覆管21の外面には、範囲Aにおいて、耐摩耗表面処理層として、約30μmの膜厚のクロムメッキ層29が施されている。更に、被覆管21の下端から約300mmの範囲内、且つ、円周溶接26の熱影響部分(約5mm)を除いた範囲Bにおいて、約10μmの膜厚のクロムメッキ29が施されている。範囲Bにおけるクロムメッキ層29の膜厚は、ダッシュポット3aとの間隙を確実に得ること、即ち、挿入性と、耐摩耗性が考慮されて決定されている。上述したように、被覆管21には、2つの異なる膜厚のクロムメッキ層29が形成されているが、これらは、後述するように、連続的に、同時に形成されたものであり、更に、範囲A、範囲Bの境界部分には、図3(b)に示すように、約15mmの範囲に渡って、クロムメッキ層29の膜厚が連続的に変化するテーパ形状の遷移部Dが形成されている。
【0048】
上記構成の制御棒10は、図1に示した制御棒クラスタ7のように組み立てられ、原子炉炉心を形成する燃料集合体1の制御棒案内管3に挿入され、又は、引き抜かれて、原子炉の出力制御に使用されることになる。原子炉の定格出力運転時には、制御棒10は、炉心の上方に引き上げられている状態であるが、冷却材の流れにより、制御棒案内管3の上部や制御棒クラスタ案内管16の近接部材に制御棒10が接触しても、範囲Aから範囲Bに続くクロムメッキにより被覆管21の摩耗損傷が抑制されている。又、炉心を緊急停止時に、自由落下等により制御棒10が急速に制御棒案内管3の下方に挿入されても、範囲Bにおける被覆管21と制御棒案内管3のダッシュポット部3aとの間に所定の隙間が確保されている等のため、挿入性を損なうことなく、制御棒10の落下衝撃を吸収することができる。
【0049】
更に、範囲A、範囲Bの境界部分の遷移部Dは、適切な長さの範囲で連続的に膜厚が変化するテーパ形状となっているので、単に2つの異なる膜厚のクロムメッキ層を形成したものと比較して、制御棒10自体の挿入性を向上させることができる。仮に、遷移部Dが適切な長さに設定されていない(又は、製造上管理されていない)場合を考えてみると、遷移部Dが短すぎる場合(例えば、遷移部Dの幅が略0である場合)には、挿入過程を通じて、流体抗力が局所的に増加し、挿入時間が長くなったり、或いは、その部分がダッシュポット3aに物理的に引っ掛かり、挿入性に悪影響を与えるおそれがあり、又、遷移部Dが長すぎる場合には、範囲A方向に長すぎれば、耐摩耗性のために施したクロムメッキの薄くなる範囲が広くなり、耐摩耗性が低下し、又、範囲B方向に長すぎれば、挿入性へ悪影響を与えるおそれがあった。
【0050】
次に、被覆管21への上記構成の表面処理層29の形成方法を、図4〜図8を用いて説明する。なお、図4は、本発明に係る表面処理層の形成装置の概略であり、図4(a)は上面図、図4(b)は斜視図である。又、図5は、図4(a)に示した表面処理層の形成装置の断面及び電源の接続状態を説明する図であり、図6、図7は、被覆管21に挿入される陰極部材を示す図である。更に、図8は、表面処理層の形成装置に供給される電流の制御方法を説明するグラフである。
【0051】
本発明に係る表面処理層の形成装置は、図4、図5に示すように、クロムメッキ用の溶液31中に浸漬された被覆管21(対象部材)の周囲に複数配置された長尺の第1陽極棒32を有するものである。第1陽極棒32は、上面から見て(図4(a)参照)、被メッキ物となる被覆管21の周囲の同心円上に、第1陽極棒32同士が、等間隔、若しくは、所定範囲内で略等間隔になるように配置されている。ここでは、一例として、6本の第1陽極棒32を配置した構成を示している。更に、第1陽極棒32自体は、湾曲形状に形成されており、溶液31の深さ方向に行くに従って、換言すれば、電源38と接続された第1電極32の接続部分から遠ざかるに従って、第1陽極棒32と被覆管21の距離が短くなるように配置され、図示しない固定部材により、その位置が固定されている。
【0052】
これは、被覆管21、第1陽極棒32が長いため、SUS(ステンレススチール)等で構成される被覆管21や鉄等で構成される第1陽極棒32の固有抵抗を考慮し、被覆管21の全長に渡って均一な電流を供給するため、通電ロスによる表面の電流減衰に合わせて、被覆管21と第1陽極棒32との距離が適宜に近づくように変化させたものである。特に、長尺な被覆管21の表面にクロムメッキを析出させる場合には、析出のための電流値が大きい(例えば、200A程度)ため、上記構成の有無による効果は顕著であり、これにより、被覆管21の全長に渡って均一な膜厚のクロムメッキを析出させることが可能となる。そして、この部分が前述の範囲Aの表面処理層となる。なお、クロムメッキ用の溶液31としては、クロムメッキを構成する材料を含有するクロム酸と硫酸の混合液を約50℃に加熱して用いる。
【0053】
表面処理層の形成装置の下方側には、円筒状の下保持部材33が配置されており、又、表面処理層の形成装置の上方側には、円筒状の上保持部材34が配置されており、各々被覆管21の下端部、上端部を内部に保持している。下保持部材33においては、上部端栓22、細径部23、ねじ部24(図3(a)参照)の重さを利用して、下保持部材33の内部に上方から被覆管21が挿入された後、下保持部材33と被覆管21との間隙が安定しており、これにより、第1陽極棒32から被覆管21の端部への電流を、被覆管21の円周方向に均一に遮蔽できるようにしている。更に、下保持部材33自体を塩化ビニル等の絶縁材料から構成することにより、下保持部材33の内部側への電流を完全に遮蔽できるようにして、被覆管21の非メッキ部分の寸法を精度良く管理している。
【0054】
更に、下保持部材33の上端部には、被覆管21の端部に近づくに従って、その開口面積が減少するテーパ部33aが形成されており、このテーパ部33aにより被覆管21に形成されるクロムメッキの終端部の形状が、正確に制御される。具体的には、被覆管21の端部に近づくに従って、テーパ部33aの傾斜により、第1陽極棒32からの電流が徐々に減少し、それに伴って、析出するクロムメッキの膜厚も連続的に減少するように形成される。クロムメッキの膜厚の減少量は、テーパ部33aの傾斜角度を変更することで変更することができ、所望の幅(被覆管21の長さ方向の幅)で、所定のクロムメッキの膜厚から膜厚0(非形成状態)とすることができる。
【0055】
加えて、上保持部材34も、単に、被覆管21を保持しているだけのものではなく、上記下保持部材33と同様に、上方側のクロムメッキの終端部の形状の形成に寄与するものである。具体的には、上保持部材34も、電導性のない塩化ビニル等の絶縁材料から形成されており、更に、上保持部材34の下端部にも、被覆管21の端部に近づくに従って、その開口面積が減少するテーパ部34aが形成されている。このテーパ部34aの傾斜により、被覆管21の端部に近づくに従って、後述する第2陽極棒37からの電流が徐々に減少し、それに伴って、形成されるクロムメッキの膜厚も連続的に減少するように形成されて、所望の幅(被覆管21の長さ方向の幅)で、所定のクロムメッキの膜厚から膜厚0(非形成状態)とすることができる。
【0056】
又、上保持部材34のテーパ部34aには、複数の穴又は隙間が設けられており、クロムメッキ析出時に発生するガスを利用し、発生ガスをテーパ部34aから適度に排出するようにして、クロムメッキの終端部が、安定して所望の位置、所望の形状になるようにしている。なお、上記テーパ部33a、34aに換えて、複数の段差を有する階段形状部としてもよい。
【0057】
このように、上記下保持部材33、上保持部材34を用いることにより、非形成部分へのクロムメッキの析出を確実に防止すると共に、クロムメッキの終端部を所望の位置、所望の形状に安定して形成することができる。例えば、管状の被覆管21にクロムメッキを形成する場合でも、クロムメッキの終端部の位置が周方向に波打つことがなくなる。本発明の場合、従来の犠牲電極とは異なり、絶縁性の下保持部材33、上保持部材34にはクロムメッキが析出することがないため、クロムメッキを除去する等の作業が不要となり、施工時のコストダウンが可能となる。
【0058】
又、表面処理層の形成装置の上方側であり、第1陽極棒32の内側には、その下端側にリング状の仕切板35を有する円筒状の遮蔽部材36が配置されており、その遮蔽部材36の中央部分を被覆管21が貫通する配置である。そして、遮蔽部材36の内側に複数の第2陽極棒37が配置される。第2陽極棒37は、第1陽極棒32と同様に、上面から見て(図4(a)参照)、被覆管21の周囲の同心円上に、第2陽極棒37同士が、等間隔、若しくは、所定範囲内で略等間隔になるように配置されて、固定されている。なお、上記仕切板35、遮蔽部材36は、下保持部材33等と同様に、塩化ビニル等の絶縁材料から構成されている。又、ここでは、一例として、3本の第2陽極棒37を配置した構成を示している。このように、第1陽極棒32の内側に遮蔽部材36が配置され、その遮蔽部材36の更に内側に第2陽極棒37が配置された構成であり、遮蔽部材36が、第1陽極棒32から遮蔽部材36内の被覆管21への電流を遮蔽すると共に、遮蔽部材36内に配置された複数の第2陽極棒37からの電流が遮蔽部材36内の被覆管21に供給されるようにしている。
【0059】
第2陽極棒37の場合、クロムメッキ処理を行う被覆管21の対象範囲が広くないため、第1陽極棒32のように湾曲形状とする必要はなく、直線形状のものを用いている。上記構成により、被覆管21の所望の部分に、つまり、遮蔽部材36内の被覆管21に、薄い膜厚のクロムメッキを均一に析出させることが可能となり、この部分が前述の範囲Bの表面処理層となる。又、遮蔽部材36により、第1陽極棒32からの電流、第2陽極棒37からの電流が互いに干渉しないようにして、各々異なる膜厚のクロムメッキ層を形成することができる。
【0060】
そして、遮蔽部材36の下端側には、リング状の仕切板35が設けられており、この仕切板35の構成が、前述した遷移部Dの形成に寄与する。具体的には、仕切板35には、その中央部に被覆管21が貫通する円形状の貫通孔38が設けられており、この貫通孔38の内壁面38aが、遮蔽部材36の内部へ向かって、つまり、第1陽極棒32側から第2陽極棒37側へ向かって、貫通孔38の開口面積が減少するように傾斜したテーパ形状に形成されている。
【0061】
これは、前述した下保持部材33のテーパ部33a等と同様な作用を狙ったものであり、テーパ形状の内壁面38aにより、被覆管21に形成されるクロムメッキの形状、つまり、遷移部Dの形状が制御される。詳細には、内壁面38aの近傍では、第1陽極棒32からの電流を遮蔽するのではなく、遮蔽部材36の内部側へ行くに従って、内壁面38aの傾斜により、第1陽極棒32から回り込む電流を徐々に減少させており、回り込む電流の減少に伴って、形成されるクロムメッキの膜厚も連続的に減少するように形成される。このクロムメッキの膜厚の減少量は、内壁面38aの傾斜角度の変更により変更することができ、所望の幅(被覆管21の長さ)で、範囲Aのクロムメッキの膜厚から範囲Bのクロムメッキの膜厚へ連続的に変化させることができる。
【0062】
更に、貫通孔38の大きさ(被覆管21表面から貫通孔38の内壁面38aまでの距離)、仕切板35から第2陽極棒37の先端までの距離も、遷移部Dの形状を制御するためには重要であり、被覆管21表面から貫通孔38の内壁面38aまでの距離は、第1陽極棒32から回り込む電流を考慮して決定されており、第2陽極棒37の先端は、範囲Bと遷移部Dとの境界近傍になるように配置されている。又、テーパ形状の内壁面38aに換えて、複数の段差(階段形状部)を内壁面38aに設けるようにしてもよい。
【0063】
加えて、本発明に係る表面処理層の形成装置では、上述した陽極棒32、37や遮蔽部材33、36の構成だけでなく、陰極側の構成、更には、電源の接続状態、電流の供給方法等にも、特有の工夫がなされている。
【0064】
具体的には、陰極側は、被覆管21の端部が電源側に接続される従来のような構成ではなく、図5に示すように、端部が電源側に接続された陰極部材41を中空の被覆管21の内部に挿入し、陰極部材41が有する複数の板バネ42aで、被覆管21の全長に渡って、その内壁面に均等な接触圧で接するように構成されている。この陰極部材41は、図6(a)に示すように、被覆管21と同等の長さを有する銅製の角棒42(導電部材)と、角棒42の表面に複数設けられ、外方側への弾性力を有する短冊状の板バネ42a(弾性部材)とを有するものである。
【0065】
これは、被覆管21が薄肉であり、又、SUS等で構成される被覆管21自体の固有抵抗が大きいことを考慮して、電気伝導度の良い材質である銅等を用い、更に、弾性力を有する板バネ42aを用いることにより、被覆管21の内壁面に均等な接触圧で多数接触するように構成することで、被覆管21表面に流れ込む電流が、安定して均等に通電するようにしたものである。又、板バネ42aは、被覆管21の大きさ、長さ、そして、通電のしやすさ等を考慮して、被覆管21の表面に均等な電流が流れるような数にする必要がある。上記構成により、制御棒の被覆管21のように長尺な被メッキ物に対しても、その表面に均等にクロムメッキを析出させることが可能となる。
【0066】
なお、本発明に係る表面処理層の形成装置では、膜厚の異なる2段構造の表面処理層を形成しており、このためには、範囲Aにおける陰極部材41の接触密度を高くして、クロムメッキを析出し易くし、範囲Bにおける陰極部材41の接触密度を低くして、クロムメッキを形成し難くすることが望ましい。そのため、陰極部材41の角棒42に設ける板バネ42aの密度を、範囲Aに対応する部分を高く、範囲Bに対応する部分を低くするようにしてもよい。
【0067】
又、陰極部材41の通電開始位置、つまり、一番電源側に近い板ばね42aの位置は、溶液31の水面より下側になるように配置することが望ましい。このことにより、被覆管21への通電による発熱を防止して、被覆管21の材質低下や変形等を抑制することが可能となる。
【0068】
又、陰極部材の他の構成としては、図6(b)に示すようなものでもよい。図6(b)に示す陰極部材40は、導電性の良いワイヤ、例えば、銅製の細線に銀メッキを施したワイヤを筒状のメッシュに編んだメッシュ部材43(網状部材)の内部に、図6(a)に示した陰極部材41を挿入したものであり、これらを被覆管21の内部に挿入して用いるものである。上記陰極部材40を用いることで、陰極部材41と被覆管21との間にメッシュ部材43が挿入されることになり、陰極部材40が被覆管21の内壁面に、より多くの箇所で、より均等に、より安定して接触通電することができる。又、接触箇所の増加と共に接触面圧の低下を図ることができ、被覆管21の内壁面の接触傷や通電痕を防止することができる。
【0069】
又、陰極部材の更なる他の構成例としては、被覆管21の内壁面に均等な接触圧を与える突起状の弾性部材であれば、図7(a)、(b)に示すようなものでもよい。具体的には、図7(a)の陰極部材44は、角棒42の表面に円筒状の板バネ44aを複数設けたものであり、板バネ44aの弾性変形により、被覆管21の内壁面と均等に接するようにしたものである。又、図7(b)の陰極部材45は、角棒42の表面に細線からなるリングワイヤ44aを複数設けたものであり、リングワイヤ45aの弾性変形により、被覆管21の内壁面と均等に接するようにしたものである。図7(a)、(b)に示した陰極部材44、45は、各々単独で用いて、被覆管21の内部に挿入してもよいし、図6(b)に示したように、メッシュ部材43の内部に挿入し、メッシュ部材43と共に被覆管21の内部に挿入するようにしてもよい。
【0070】
加えて、陰極部材の更なる他の構成例としては、被覆管21の内壁面に均等な接触圧を得るものであれば、図8に示すようなものでもよい。具体的には、図8の陰極部材46は、長手方向にスリット47aが設けられた導電性の良い銅等の円柱状のパイプ47(導電部材)と、パイプ47の長手方向に沿って、その内部に配設された膨張可能なバルーン48(膨張部材)とを有する。ここで、パイプ47は、被覆管21と同等の長さを有し、被覆管21の中空部分に挿入可能であり、更に、バルーン48を膨張させたとき、パイプ47が被覆管21の内壁面に接触可能な大きさである。又、バルーン48は、内部を空気等により加圧すると膨張するものであり、耐熱性のある材料から構成される。使用時には、陰極部材46を被覆管21の中空部分に挿入し、チューブ48aから空気等を注入してバルーン48を膨らませて、パイプ47を被覆管21の内壁面に密着させるようにしている。
【0071】
このように、上記構成の陰極部材を被覆管21の内部に挿入して用いることで、被覆管21の全長に渡って、その内壁面に均等な接触圧で良好な複数の接触状態を得ることができるので、被覆管21と陰極部材の接触箇所に通電等に因る温度変化があったとしても、被覆管21の表面での通電が一定となり、被覆管21の全長に渡って、均等なクロムメッキの膜厚を析出することができる。又、上記構成の陰極部材を用いる場合、陰極部材による傷や通電痕等が残らなくなり、傷の除去等の後処理が不要となり、コストダウンを図ることもできる。
【0072】
更に、本発明に係る表面処理層の形成装置では、図5に示すように、第1陽極棒32と、第2陽極棒37とに、電源38、電源39を各々独立して接続し、第1陽極棒32、第2陽極棒37に供給する電流を各々独立して制御するようにしている。具体的には、図9(a)に示すように、第1陽極棒32に電流を供給する電源38では、範囲Aに析出されるクロムメッキが所望の膜厚(第1所定膜厚)になるまでの所定時間t1間、電流I1(第1所定電流)が供給されるように制御されており、第2陽極棒37に電流を供給する電源39では、範囲Bに析出されるクロムメッキが、範囲Aより薄い所望の膜厚(第2所定膜厚)になるまでの所定時間t2間、電流I2(第2所定電流)が供給されるように制御されている。そして、電源39では、所定時間t2経過後には、電流が電流I3(第3所定電流)に低減されて、所定時間t1まで供給されるように制御されている。これは、範囲Bに所望の膜厚のクロムメッキ層を形成した後、電流を下げてしまうと、電位差が逆転し、腐食環境下となり、析出したクロムメッキの表面がエッチングされ、クロムメッキ自体の耐摩耗性、滑り性悪化により挿入性に影響を与えるおそれがあるので、クロムメッキが析出する電流値より低い電流I3を流し続けることで、クロムメッキの膜厚を厚くすることなく、クロムメッキの表面を良好に維持するためである。
【0073】
又、図9(b)に示すように、電源39における電流制御を、図9(a)とは逆にするようにしてもよい。具体的には、第2陽極棒37に電流を供給する電源39において、所定時間t1から所定時間t2を引いた所定時間t3まで、クロムメッキが析出する電流値より低い電流I3を第2陽極棒37に供給し、そして、所定時間t3経過後、所定時間t1まで、つまり、範囲Aに析出されるクロムメッキ及び範囲Bに析出されるクロムメッキが所望の膜厚になるまで、電流I3より大きく電流I1より小さい一定の電流I2を第2陽極棒37に供給するようにしている。ここで、第1陽極棒32に電流を供給する電源38では、図9(a)と同じ電流制御を行っている。
【0074】
なお、被覆管21にクロムメッキを良好に析出させるためには、メッキ前に、電流を逆流させて、つまり、陰極側の被覆管21から陽極棒32、37方向へ電流が流れるようにして、被覆管21の表面を活性化させた後、又は、塩酸、硝酸等の酸性薬品による酸洗浄によって、被覆管21の表面を活性化させた後、上記方法にてクロムメッキを析出させることが望ましい。
【0075】
上述したように、本発明に係る表面処理層の形成装置を用いることにより、図3に示したような、異なる膜厚を有する2段構造の表面処理層を、同時に形成することができると共に、異なる膜厚の表面処理層間の遷移部を、連続的に膜厚が変化する所望の形状とすることができる。そして、このように形成された2段構造の表面処理層は、重ね合わせ部分がないため密着性が優れ、耐摩耗性が向上すると共に、遷移部を含めて、表面処理層の表面を滑らかにすることができる。又、表面処理層の膜厚を安定して均等に形成できると共に、表面処理層の遷移部、終端部の位置、形状を、所望の位置、形状に安定して制御することができる。更に、2段構造の表面処理層を同時に形成するため、施工工程を簡略化して、施工コストを低減することも可能である。上記表面処理層を原子炉用制御棒に施せば、耐摩耗性、挿入性の優れた製品を安価に提供可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明では、主に、原子炉用制御棒への表面処理層の形成を一例として説明したが、本発明に係る表面処理層の形成方法及び形成装置は、原子炉用制御棒に限ることなく、膜厚の異なる多段構造の表面処理層が必要なものであれば、どのようなものでも適用可能であり、特に、長尺な被メッキ物への適用が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】加圧水型原子炉に用いられる燃料集合体及び燃料集合体に挿入される制御棒(制御棒クラスタ)の一例を示す図である。
【図2】燃料集合体及び制御棒の関連部材に対して、稼働時、停止時における制御棒の位置関係を示す図である。
【図3】図3(a)は、制御棒全体の構造を示すものであり、図3(b)は、図3(a)のC領域の拡大図である。
【図4】図4(a)は、本発明に係る表面処理層の形成装置の概略の上面図であり、図4(b)は、その斜視図である。
【図5】図4(a)に示した表面処理層の形成装置の断面及び電源の接続状態を説明する図である。
【図6】被覆管に挿入される陰部側電極の一例を示す図である。
【図7】被覆管に挿入される陰部側電極の他の例を示す図である。
【図8】被覆管に挿入される陰部側電極の更なる他の例を示す図である。
【図9】本発明に係る表面処理層の形成装置に供給される電流の制御方法を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1 燃料集合体
3 制御棒案内管
7 制御棒クラスタ
10 制御棒
21 被覆管
29 表面処理層
32 第1陽極棒
33 下保持部材
35 仕切板
36 遮蔽部材
37 第2陽極棒
38 電源(第1陽極棒側)
39 電源(第2陽極棒側)
41 陰極部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理層を構成する材料を含有し、表面処理層を形成する対象部材が浸漬された溶液と、
前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置されると共に、前記溶液の深さ方向に向かって、前記対象部材との距離が短くなる湾曲形状の第1陽極棒と、
前記複数の第1陽極棒の内側に配置され、中心部分を前記対象部材が貫通する絶縁性の遮蔽部材と、
前記遮蔽部材の内側に配置され、前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置された第2陽極棒と、
前記遮蔽部材の下端部に設けられた絶縁性の仕切板と、
前記仕切板の中心部に設けられ、前記対象部材が貫通すると共に、前記第1陽極棒側から前記第2陽極棒側に向かって、開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状に形成された貫通孔と、
前記第1陽極棒、前記第2陽極棒に接続され、各々独立して電流を供給する複数の電源とを有することを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理層の形成装置において、
前記対象部材の上端部、下端部を保持する絶縁性の上保持部材、下保持部材を設けると共に、前記上保持部材、前記下保持部材の前記対象部材を保持する側の端部を、前記対象部材の端部側に向かって、その開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状としたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表面処理層の形成装置において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさの導電性の良い導電部材と、前記導電部材の表面に複数設けられ、導電性の良い材料から構成された弾性部材とを有する陰極部材を設け、
前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させるようにしたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の表面処理層の形成装置において、
前記弾性部材として、短冊状の板バネ、円筒状の板バネ、又は、リング状のワイヤを用いたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の表面処理層の形成装置において、
前記陰極部材の外側に導電性のある筒状の網状部材を被せると共に、前記網状部材と共に前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入して、前記網状部材を介して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させるようにしたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の表面処理層の形成装置において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさであり、長手方向にスリットが設けられた導電性の良い円柱状の導電部材と、前記導電部材の長手方向に沿って、前記導電部材の内部に配設された膨張可能な膨張部材とを有する陰極部材を備え、
前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入し、前記膨張部材を膨らませて、前記導電部材を前記対象部材の内壁面に接触させるようにしたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の表面処理層の形成装置において、
一方の前記電源は、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給するように制御されると共に、
他方の前記電源は、前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給し、第2所定膜厚の表面処理層が形成された後には、前記第1陽極棒への電流の供給が停止されるまで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給するように制御されたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の表面処理層の形成装置において、
一方の前記電源は、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給するように制御されると共に、
他方の前記電源は、第1所定膜厚の表面処理層が形成される時間から前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成される時間を引いた所定時間まで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給し、前記第1所定膜厚及び前記第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給するように制御されたことを特徴とする表面処理層の形成装置。
【請求項9】
表面処理層が形成される対象部材を、原子炉用制御棒の被覆管とし、
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の表面処理層の形成装置を用いて、
前記被覆管に異なる膜厚の2段構造の表面処理層を形成すると共に、異なる膜厚の表面処理層の間を、所定範囲内で連続的に膜厚が変化するように形成したことを特徴とする表面処理層が形成された原子炉用制御棒。
【請求項10】
表面処理層を構成する材料を含有する溶液に、表面処理層を形成する対象部材を浸漬し、
前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置されると共に、前記溶液の深さ方向に向かって、前記対象部材との距離が短くなる湾曲形状の第1陽極棒に、一方の電源から電流を供給し、
前記複数の第1陽極棒の内側の絶縁性の遮蔽部材の内側に配置され、中心部分を貫通する前記対象部材の周囲に互いに略等間隔に複数配置された第2陽極棒に、他方の電源から電流を供給し、
前記遮蔽部材の下端部に設けられた絶縁性の仕切板の中心部に、前記対象部材が貫通すると共に、前記第1陽極棒側から前記第2陽極棒側に向かって、開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状の貫通孔を形成して、前記第1陽極棒から前記遮蔽部材の内部に回り込む電流を、徐々に減少させることを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項11】
請求項10に記載の表面処理層の形成方法において、
前記対象部材の上端部、下端部を保持する絶縁性の上保持部材、下保持部材における前記対象部材を保持する側の端部を、前記対象部材の端部側に向かって、その開口面積が減少するようなテーパ形状又は階段形状に形成して、前記第1陽極棒、前記第2陽極棒からの電流を、徐々に減少させることを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項12】
請求項10又請求項11に記載の表面処理層の形成方法において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさの導電性の良い導電部材と、前記導電部材の表面に複数設けられ、導電性の良い材料から構成された弾性部材とを有する陰極部材を、前記対象部材の中空部分に挿入して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させることを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項13】
請求項12に記載の表面処理層の形成方法において、
前記弾性部材は、短冊状の板バネ、円筒状の板バネ、又は、リング状のワイヤであることを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の表面処理層の形成方法において、
前記陰極部材の外側に導電性のある筒状の網状部材を被せ、前記網状部材と共に前記陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入して、前記網状部材を介して、前記弾性部材を前記対象部材の内壁面に接触させることを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項15】
請求項10又請求項11に記載の表面処理層の形成方法において、
前記対象部材が中空形状で有る場合、
前記対象部材と同等の長さを有し、前記対象部材の中空部分に挿入可能な大きさであり、長手方向にスリットが設けられた導電性の良い円柱状の導電部材と、前記導電部材の長手方向に沿って、前記導電部材の内部に配設された膨張可能な膨張部材とを有する陰極部材を前記対象部材の中空部分に挿入し、
前記膨張部材を膨らませて、前記導電部材を前記対象部材の内壁面に接触させることを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項16】
請求項10乃至請求項15のいずれかに記載の表面処理層の形成方法において、
一方の前記電源が、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給すると共に、
他方の前記電源が、前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給し、第2所定膜厚の表面処理層が形成された後には、前記第1陽極棒への電流の供給が停止されるまで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給することを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項17】
請求項10乃至請求項15のいずれかに記載の表面処理層の形成方法において、
一方の前記電源が、第1所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、一定の第1所定電流を前記第1陽極棒に供給すると共に、
他方の前記電源が、第1所定膜厚の表面処理層が形成される時間から前記第1所定膜厚より薄い第2所定膜厚の表面処理層が形成される時間を引いた所定時間まで、表面処理層が形成される電流より低い第3所定電流を前記第2陽極棒に供給し、前記第1所定膜厚及び前記第2所定膜厚の表面処理層が形成されるまで、前記第1所定電流より小さい一定の第2所定電流を前記第2陽極棒に供給することを特徴とする表面処理層の形成方法。
【請求項18】
表面処理層が形成される対象部材を、原子炉用制御棒の被覆管とし、
請求項10乃至請求項17のいずれかに記載の表面処理層の形成方法を用いて、
前記被覆管に異なる膜厚の2段構造の表面処理層を形成すると共に、異なる膜厚の表面処理層の間を、所定範囲内で連続的に膜厚が変化するように形成することを特徴とする表面処理層が形成された原子炉用制御棒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−219710(P2006−219710A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33096(P2005−33096)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【特許番号】特許第3692367号(P3692367)
【特許公報発行日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000176796)三菱原子燃料株式会社 (11)
【出願人】(596129721)神鋼特殊鋼管株式会社 (2)
【出願人】(594059293)下関鍍金株式会社 (5)
【Fターム(参考)】