説明

表面処理金属板

【課題】本発明は、電磁波を遮蔽するために必要な低圧下での導電性に優れ、更には放熱性にも優れた表面処理金属板を提供する。
【解決手段】金属板の片面又は両面に導電性皮膜を有する表面処理金属板において、前記導電性皮膜は、粒状のニッケルとバインダとを含有し、前記導電性皮膜の膜厚が、6μm以上20μm以下であり、前記導電性皮膜中に含まれるニッケル量が、前記バインダ固形分100質量部に対して、70〜350質量部であることを特徴とする表面処理金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電、自動車用途等に好適な導電性に優れる表面処理金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭又はオフィス向けのパーソナルコンピュータの普及や家電製品の電子化が著しく、これらの製品内部で電磁波の発生源となる部品が増えてきており、さらに電子回路の集積化も著しく、電磁波の発生量が増大している。電磁波が漏れると、テレビ画面のゆがみ、ラジオのノイズ、ペースメーカー等の医療機器の誤作動の原因となる。こうした状況に対し、電子機器筐体の材料には、電磁波を外部に漏らさないために優れた導電性が要求されている。従来、AV機器に求められてきた導電性は、ばね押し付け等によるアース性の確保であり、比較的高圧下、即ち皮膜が押し潰された状態で導通することが求められていた。したがって、導電性の評価も比較的高圧下の条件で行われていた。例えば、接触子表面積2mmφ、接触子荷重1.5Nの条件で導電性を評価できるロレスター(4深針式、ダイヤインストルメント社製)等にて評価されていた。
【0003】
一方、電磁波を外部に漏らさないために必要な導電性は、アース性確保に必要な導電性とは異なる。電子機器筐体の材料の表面処理金属板を張り合わせた部分に電気的な隙間があると、そこから電磁波が漏れてしまう。そのため、表面処理金属板と表面処理金属板とが接触しただけで導通するような表面処理金属板が求められるようになってきた。この場合、表面処理金属板との接触は低圧下(荷重が殆ど加わっていない状態)となるため、皮膜が変形しない状態で導通する必要がある。このように、高圧下での導電性と低圧下での導電性はその性質が異なるものである。
【0004】
電子機器筐体の材料が、未塗装の鋼板や亜鉛めっき鋼板等、導電性が優れるものであれば、外部に電磁波は殆ど漏洩せず、問題ない。しかし、耐食性、耐指紋性、摺動性、放熱性等を付与する目的で、金属板に有機皮膜を被覆して使用することが一般的である。こうした場合、接合部の導電性が悪くなり易く、改善する技術が必要となる。
【0005】
以下に、有機被覆金属板の導電性を改善する従来技術を例示する。
【0006】
特許文献1や特許文献2には、中心線平均粗さRaの大きい、即ち凹凸がある下地鋼板の上に有機皮膜を形成する方法が開示されている。これは、皮膜厚さの分布を不均一にし、非被覆部分(凸部)で導電性を確保できるというものである。しかし、この方法では、良好な導電性を付与するためには、皮膜厚さを極薄膜とする必要があるために、有機被覆を形成することによって付与したい性能(耐食性、耐指紋性、摺動性、放熱性等)を得ることが困難であった。
【0007】
有機皮膜中に導電性物質を含有させる方法としては、特許文献3、4記載の方法等が開示されている。
【0008】
特許文献3では、フレーク状ニッケル及び鎖状ニッケルを皮膜中に含有させる方法が開示されている。これは、皮膜中において、フレーク状ニッケルの面と皮膜面とが平行となるように、フレーク状ニッケルが配向し、フレーク状ニッケルを結ぶように鎖状ニッケルが皮膜面と垂直方向に配向することによって、効率良く導通することができると言うものである。しかし、金属板に実際に塗布する際には、フレーク状ニッケルの面が皮膜面と垂直に存在したり、鎖状ニッケルが皮膜面に水平方向に存在したりすると言ったことが起こり得る。そのため、フレーク状のニッケルと鎖状のニッケルを皮膜中に理想的に存在させることは極めて困難であり、この方法では導電性のばらつきが大きくなってしまうという問題があった。
【0009】
特許文献4では、中心核の表面に微細突起を有するニッケルを皮膜中に含有させる方法が開示されている。これは、突起部が皮膜から突出することによって、皮膜表面と金属板とが直接導通できるために、優れた導電性が得られるというものである。直接導通するために、膜厚が0.5μm以上5.5μm以下と薄膜に限定されてしまっている。そのため、この方法では、有機被覆を形成することによって付与したい性能(耐食性、耐指紋性、摺動性、放熱性等)を十分得ることはできなかった。
【0010】
一方、家電製品等の内部の電磁波発生源は熱の発生源ともなり、電子機器筐体の材料には、熱を効率良く放出する特性も要求されている。電子部品を内蔵する電子機器内部の温度上昇対策として、特許文献5に、放熱性の高い皮膜を表面に形成した金属板を電子機器筐体の材料として用いる技術が開示されている。特許文献5には、更に皮膜中に平均粒径が0.5〜20μmのニッケルを、10〜50質量%添加することにより、導電性にも優れることを開示している。しかし、ニッケルの添加量、形状、粒径、塗膜厚についての検討が不十分であり、電磁波シールドに必要な低圧下での優れた導電性が得られていない。
【0011】
【特許文献1】特公平2−34672号公報
【特許文献2】特公平6−57871号公報
【特許文献3】特許第3068999号公報
【特許文献4】特開2005−313609号公報
【特許文献5】特開2004−160979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、電磁波を遮蔽するために必要な低圧下での導電性に優れ、更には放熱性にも優れた表面処理金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、金属板の片面又は両面に導電性皮膜を有する表面処理金属板において、前記導電性皮膜は、粒状のニッケルと、バインダとを含有し、前記導電性皮膜の膜厚が特定範囲であり、前記導電性皮膜中に含まれるニッケル量が、前記バインダ固形分に対して特定範囲であれば、優れた導電性及び放熱性を得られることを見出した。本発明者らは、この知見を基に本発明を完成させたものであり、本発明がその要旨とするところは、以下のとおりである。
(1) 金属板の片面又は両面に導電性皮膜を有する表面処理金属板において、前記導電性皮膜は、粒状のニッケルとバインダとを含有し、前記導電性皮膜の膜厚が、6μm以上20μm以下であり、前記導電性皮膜中に含まれるニッケル量が、前記バインダ固形分100質量部に対して、70〜350質量部であることを特徴とする、表面処理金属板。
(2) 前記導電性皮膜中に含まれる粒状のニッケルの平均粒径が、2.1μm以下であることを特徴とする、(1)に記載の表面処理金属板。
(3) 80℃以上200℃以下の所定の温度で測定した波数600〜3000cm−1の領域における前記導電性皮膜を有する面の赤外線全放射率が、0.70以上であることを特徴とする、(1)又は(2)のいずれかに記載の表面処理金属板。
(4) 前記導電性皮膜が、カーボンブラックをさらに含有することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の表面処理金属板。
(5) 前記導電性皮膜が、ワックスをさらに含有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の表面処理金属板。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電磁波を遮蔽するために必要な低圧下での導電性に優れ、更には放熱性と摺動性にも優れており、特に電子機器における構成素材として有用な表面処理金属板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る表面処理金属板は、金属板の片面又は両面に粒状のニッケル及びバインダを含有する導電性皮膜を有する表面処理金属板であって、前記導電性皮膜の膜厚が、6μm以上20μm以下であり、前記導電性皮膜中に含まれるニッケル量が、前記バインダ固形分100質量部に対して、70〜350質量部である条件を満たすものである。
【0017】
本発明に用いる導電性微粒子は、ニッケルである。ニッケルは、酸化し難いため、高温での塗膜の乾燥・硬化の際の導電性の低下が少ない。また、コストの面からも優れる。
【0018】
さらに、本発明に用いるニッケルの形態は粒状である。ここで、粒状とは、粒子の最大径/最小径が2以下である形態のことを言う。また、1次粒子が粒状であれば、粒状粒子が複数連なった鎖状等の形態も粒状とみなす。
【0019】
ニッケルの形状を粒状に限定した理由は、粒状が皮膜中に最も密に充填できる形状であるためである。例えば、フレーク状は、皮膜中で様々な方向に配向するために、密に充填することが困難である。
【0020】
上記導電性皮膜の膜厚は、6〜20μmである。6μm以上であれば、塗装安定性やポットライフを低下させる可能性があるカーボンブラックなどの放熱性を付与するための添加剤を使用しなくても優れた放熱性を得ることができる。しかし、膜厚が20μmを超えると、製造コスト、塗装作業性、加工性の面から好ましくない。
【0021】
上記導電性皮膜中のニッケル含有量は、バインダ固形分100質量部に対して、70〜350質量部である。70質量部未満でも、皮膜から突出したニッケルによって皮膜表面と金属板とが直接導通できる場合は、優れた導電性を示す。しかし、そのためには膜厚を薄くする必要があり、放熱性が劣る。皮膜表面と金属板とが直接導通できない場合、70質量部未満では、皮膜中でニッケル同士が殆ど接触できないので、皮膜表面と金属板とが殆ど導通することができず、導電性が劣る。70質量部を超えると、ニッケルが皮膜中で密に充填され、複数のニッケルを介して皮膜表面と金属板とが導通することにより、膜厚が厚い条件(6〜20μm)でも優れた導電性を得ることができる。しかし、ニッケル含有量が350質量部を超えると、製造コスト、加工性、耐食性の面から好ましくない。より好ましいNi添加量の範囲は、バインダ固形分100質量部に対して、150〜350質量部である。ニッケル含有量が150質量部以上になると、皮膜中のニッケル同士が直接導通し易くなるために、皮膜面と垂直方向に加えて、皮膜面と水平方向にも、導通経路が形成されることから、より導通性に優れる。
【0022】
ニッケルの平均粒径は15μm以下が好ましい。ニッケルの平均粒径が15μmを超えると、ロールコーターで塗装する際に、塗料中でニッケルが沈降してしまうことや、ロール間にニッケルが詰まってしまうこと等のために、皮膜中に転写されない等の操業安定性の低下が発生することがある。より好ましいニッケルの平均粒径は2.1μm以下である。ニッケルの平均粒径が2.1μm以下では、皮膜中にニッケルをより密に充填することができるため、より好ましい。また、ニッケルの平均粒径が2.1μm以下であれば、長時間静置もしくは塗装しても、ニッケルは殆ど沈降せず、安定した導電性を有する皮膜を得ることができるため、より好ましい。
【0023】
上記表面処理金属板において、80℃以上200℃以下の所定の温度で測定した波数600〜3000cm−1の領域における導電性皮膜を有する面の赤外線全放射率を0.70以上とすると、放熱性がより優れており、好適である。放熱性を向上する方法は特に問わないが、カーボンブラックを導電性皮膜中に含有させる方法が好ましい。
【0024】
また、電子回路の高集積化によって、製品の筐体内に電子部品が多く組み込まれるために、筐体の収容量を上げる必要がある。そのため、製品の筐体の金属板には深絞り成形性求められており、摺動性に優れた皮膜が望ましい。そこで、本発明の導電性皮膜には、摺動性を改善することを目的として、ワックスを含有しても構わない。ワックスの種類は、特に問わないが、例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等を使用することができる。
【0025】
本発明の導電性皮膜は、片面のみに被覆しても良いし、両面に被覆しても良い。必要に応じて適宜選ぶことができる。また、本発明の皮膜を片面に被覆し、他方の面には、着色塗膜、意匠性塗膜、他の機能を有する塗膜等を被覆すると、本発明の表面処理金属板の意匠性や機能性が高まるため、より好適である。
【0026】
本発明の導電性皮膜に用いるバインダとしては、一般に公知のもの、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、塩化ビニル樹脂等を用いることができ、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれの樹脂であってもよい。
【0027】
これらのバインダ樹脂は、必要に応じて数種のものを併用してもよい。これらの樹脂は、種類、樹脂の分子量、樹脂のガラス転移温度(Tg)によっても、皮膜の性能、例えば、加工性、加工密着性、皮膜硬度等が異なるため、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定すれば良い。
【0028】
また、架橋剤を用いて硬化させるタイプの樹脂は、架橋剤の種類や添加量、架橋反応時の触媒の種類や触媒添加量によっても、皮膜の性能、例えば、加工性、加工密着性、皮膜硬度等が異なるため、特に規定するものではなく、必要に応じて適宜選定すれば良い。
【0029】
これらの樹脂は、固体のものを熱溶融したり、有機溶剤に溶解して用いたり、粉砕して粉体にしたりして用いることができる。また、水溶性のものや、水分散したエマルジョン形態のものでもよい。更には、紫外線(UV)硬化性樹脂や電子線(EB)硬化性樹脂等でもよい。これらは、いずれも市販のものを使用することができる。
【0030】
本発明者らがこれまでに得た知見によれば、本発明の表面処理金属板をプレコート金属板として製造した後に、切断、加工、組立を行う場合は、溶剤系のメラミン硬化型ポリエスエル系樹脂、溶剤系のイソシアネート硬化型ポリエステル系樹脂等が好適である。これらのポリエステル系樹脂のTgは−10〜70℃が好適である。ポリエステル系樹脂のTgが−10℃未満では、皮膜が成膜しない恐れがあり、70℃超では、皮膜が硬化し過ぎるため、加工性が低下する恐れがある。
【0031】
本発明の導電性皮膜中には、必要に応じて、着色顔料、防錆顔料及び防錆剤を併用して添加することができる。着色顔料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、炭酸カルシウム(CaCO)、硫酸バリウム(BaSO)、酸化アルミニウム(Al)、カオリンクレー、等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、多環キノン顔料、ペリレン系顔料等の有機顔料、等の一般に公知の着色顔料を使用できる。また、防錆顔料及び防錆剤については、ストロンチウムクロメート、カルシウムクロメート等の一般に公知のクロム系防錆顔料や、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、モリブデン酸塩、リン酸モリブデン酸塩、バナジン酸/リン酸混合顔料、シリカ、カルシウムシリケートと呼ばれるCaを吸着させたタイプのシリカ等の一般に公知の非クロム系の防錆顔料及び防錆剤を使用できる。
【0032】
また、本発明の導電性皮膜には、必要に応じて、一般に公知のレベリング剤、顔料分散剤等を添加することができる。これら添加剤の種類や添加量は、特に規定されるものではなく、必要に応じて適宜選定することができる。
【0033】
本発明の導電性皮膜を金属板表面に形成するためには、バインダを含む皮膜成分を、一般に公知の塗料形態にして塗布することができる。例えば、塗料形態としては、樹脂を溶剤に溶解した溶剤系塗料、エマルジョン化した樹脂を水等に分散した水系塗料、樹脂を粉砕してパウダー化した粉体塗料、粉砕しパウダー化した樹脂を水等に分散させたスラリー粉体塗料、紫外線(UV)硬化型塗料、電子線(EB)硬化型塗料等の形態がある。また、塗料形態にして塗布する以外にも、樹脂をフィルム状にして貼り付けるフィルムラミネート、樹脂を溶融させてから塗布する形態等によっても、本発明の導電性皮膜を金属板表面に形成することができる。塗布方法は、いずれも特に限定されず、一般に公知の塗装方法、例えば、ロール塗装、ローラーカーテン塗装、カーテンフロー塗装、エアースプレー塗装、エアーレススプレー塗装、刷毛塗り塗装、ダイコータ−塗装等が採用できるが、プレコート金属板として、予め導電性皮膜を金属板に被覆する場合は、ロール塗装、ローラーカーテン塗装、カーテンフロー塗装が好適である。
【0034】
なお、金属板に導電性皮膜を被覆する前に、金属板の皮膜密着性を上げるため、金属板に化成処理を施すのが好ましい。この化成処理を施すと、導電性皮膜の密着性や金属板の耐食性が向上し、より好適である。化成処理を施さなくても塗膜の密着性が十分であれば、塗装化成処理工程が省略できるのでより好適である。化成処理としては、一般に公知のもの、例えば、塗布クロメート処理、電解クロメート処理、リン酸亜鉛処理、ジルコニア系処理、チタニア系処理を使用することができる。また、近年、樹脂等の有機化合物をベースとしたノンクロメート化成処理も開発されているが、樹脂をベースとしたノンクロメート化成処理を用いると、環境への負荷が低減されるためより好適である。これらの化成処理の種類や付着量の違いによって、導電性皮膜層の密着性や金属板の耐食性が大きく異なるので、必要に応じて適宜選定する必要がある。
【0035】
本発明の表面処理金属板の母材となる金属板としては、一般に公知の金属材料を用いることができる。金属材料が合金材料であってもよい。例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板、チタン板、銅板等が挙げられる。これらの材料の表面には、めっきが施されていてもよい。
【0036】
このようなめっきの種類としては、亜鉛めっき、アルミニウムめっき、銅めっき、ニッケルめっき等が挙げられる。これらの合金めっきであってもよい。鋼板の場合は、冷延鋼板、熱延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、アルミニウム−亜鉛合金化めっき鋼板、ステンレス鋼板等、一般に公知の鋼板及びめっき鋼板を適用できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。まず、実験に用いたサンプル塗料の作製方法について詳細を説明する。
【0038】
[塗料]
市販の有機溶剤可溶型/非晶性ポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂と称す)である東洋紡績社製「バイロンGK890」(数平均分子量:11000、Tg:17℃)を有機溶剤(ソルベッソ150とシクロヘキサノンとを質量比で1:1に混合したもの)に溶解した。
【0039】
次に、有機溶剤に溶解したポリエステル樹脂に、ポリエステル樹脂の固形分100質量部に対して市販のヘキサ−メトキシ−メチル化メラミンである三井サイテック社製の「サイメル303」を15質量部添加し、更に、市販の酸性触媒である三井サイテック社製の「キャタリスト6003B」を0.5質量部添加し、攪拌することで、メラミン硬化型ポリエステル系のバインダ樹脂を含むクリアー塗料を得た。
【0040】
次に、作製したクリアー塗料に、以下の粒子を表1〜5に示すように添加して、サンプル塗料を作製した。なお、表1〜5中の添加量は、塗料中のバインダ樹脂固形分100質量部に対する添加粒子の質量部を示す。
【0041】
[ニッケル粉]
INCO社製の「「Inco Type287」「Inco Type210」、日鉱金属社製の「NOVAMENT HCA−1」を用いた。粒度分布計(ベックマンコールター社製、LS−13320)を用いて測定したメディアン径(相対粒子量が50%となる粒径)を平均粒径とした。また、必要に応じて分級することによって、平均粒径を調整し使用した。
【0042】
[カーボンブラック]
東海カーボン社製カーボンブラック「トーカブラック#7350F」を使用した。
【0043】
[ポリテトラフルオロエチレン]
ダイキン社製のポリテトラフルオロエチレン粒子「ルブロン(登録商標)L−5」を使用した。
【0044】
次に、実験に用いたサンプル板の作製方法について、詳細を説明する。
【0045】
厚み0.5mmの市販の電気亜鉛めっき鋼板(亜鉛付着量:片面20g/m)を、市販のアルカリ脱脂剤である日本パーカライジング社製の「FC4336」を2質量%濃度に希釈した60℃温度の水溶液中にてアルカリ脱脂し、水洗後、乾燥した。次いで、脱脂した電気亜鉛めっき鋼板上にロールコーターにて市販のノンクロメート化成処理液である日本パーカライジング社製の「CT−E300」を塗布し、到達板温が60℃となるような条件で熱風乾燥させた。付着量は、全皮膜量として150mg/mとした。
【0046】
更に、化成処理を施した金属板上の表裏面それぞれに、作製した塗料を表1〜5に記載の膜厚に制御しつつ、ロールコーターにて塗装し、熱風を併用した誘導加熱炉にて乾燥硬化させた。乾燥硬化条件は、到達板温(PMT)で230℃とした。
【0047】
以下、作製した表面処理金属板の評価試験について詳細を説明する。
【0048】
1) 導電性の評価
図1に、導電性評価試験に使用した皮膜の電気抵抗測定装置の概略図を示す。表面処理金属板1の皮膜面上に、テスター2の測定針部3を針部間距離50mmで横に寝かすようにして接触させ、荷重は加えずに、テスター測定針の自重のみとした時の電気抵抗を測定した。
【0049】
評価基準は、電気抵抗が10Ω未満の場合を◎、10Ω以上20Ω未満の場合を◎〜〇、20Ω以上100Ω未満の場合を〇、100Ω以上500Ω未満の場合を△、500Ω以上の場合を×とした。
【0050】
2) 放熱性
日本分光社製のフーリエ変換赤外分光光度計「VALOR−III」を用いて、作製した表面処理金属板の板温度を80℃にしたときの波数600〜3000cm−1の領域における赤外発光スペクトルを測定し、これを標準黒体の発光スペクトルと比較することで、表面処理金属板の全放射率を測定した。なお、標準黒体は、鉄板にタコスジャパン社販売(オキツモ社製造)の「THI−1B黒体スプレー」を30±2μmの膜厚でスプレー塗装したものを用いた。
【0051】
評価基準は、全反射率が0.90以上の場合を◎、0.80以上0.90未満の場合を◎〜〇、0.70以上0.80未満の場合を〇、0.50以上0.70未満の場合を△、0.50未満の場合を×とした。
である。
【0052】
3) 摺動性
図2に示すドロービード試験機にて行った。図2において、11は両面に評価皮膜を施した試験片、12は凹面金型、3は凸面金型、4はロードセル、5は油圧シリンダである。図3は、図2のドロービード試験機の凹面金型及び凸面金型の拡大概略断面図である。図3に示すように、凸面のRは4mm、凹面のRは2mm、深さは6mm、幅は12mmである。
【0053】
巾30mm、長さ300mmの試験片11を凹面金型12と凸面金型13の間に装着し、油圧シリンダ15で押し付け荷重P:1tで、凸面金型13を試験片11を介して凹面金型12に押し付け、試験片11を引き抜き速度:200mm/分で上方に引き抜く、ビード引き抜き試験を行い、その際の引き抜き荷重によって摺動性を測定した。
【0054】
評価基準は、引き抜き荷重が300kg未満の場合を◎、300kg以上450kg未満の場合を〇、450kg以上600kg未満の場合を△、600kg以上の場合を×とした。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】


【0057】
【表3】


【0058】
【表4】


【0059】
【表5】

【0060】
以下、評価結果の詳細について述べる。
【0061】
(1) 皮膜の膜厚、Ni量、Niの形状の影響について
表1、2より、Niの形状、膜厚、Ni量が本発明の範囲(Niの形状:粒状、膜厚:6μm〜20μm、Ni量:バインダ固形分100質量部に対して70〜350質量部)に制御されているNo.1〜30は、いずれも優れた導電性、摺動性、放熱性を示した。膜厚を厚くすることによって、カーボンブラック等の放熱性を付与するための添加剤無しでも、高い放熱性が得られることが分かる。更には、Ni量が増加することによって、より優れた放熱性が得られることが分かった。一般的に金属は、80℃での600〜3000cm−1の領域における赤外線全放射率は低いが、本実施例ではニッケル粒子の表面が酸化され、酸化ニッケルとなったために、Niが増加することによって、全放射率が向上したと推定する。
【0062】
一方、膜厚が薄いNo.31〜36、Ni量が少ないNo.37〜40、Niの形状がフレーク状であるNo.41〜46は、放熱性の低下もしくは導電性の低下が認められた。
【0063】
(2) Niの平均粒径について
Niの平均粒径については、本発明の導電性に優れた皮膜を作製する際の塗装作業性、塗装安定性を向上させるためである。通常、塗装する時は、塗料撹拌終了後ある一定時間放置してから塗装を開始し、それからある時間まで連続して塗装を行う。しかしながら、Niは比重が大きいために、放置中あるいは塗装中に、塗料中で沈降が起こり易い。Niの沈降が起こった場合、塗膜中にNiを安定して転写することが非常に困難となり、得られる皮膜の導電性が低下してしまう可能性がある。
【0064】
No.47〜No.64により、Niの平均粒径が2.1μmを超える場合、撹拌終了後60分経過すると、Niの沈降による皮膜の導電性低下が発生する虞があることが示唆される。このことから、Niの平均粒径は、2.1μm以下であることが、より好ましいことが分かる。
【0065】
(3) カーボンブラックの添加について
カーボンブラックの添加は、放熱性の更なる向上のためである。No.65〜76より、例えば、カーボンブラック(表中ではCBと略す)を適量加えることによって、導電性、摺動性を低下させることなく、放熱性を更に向上できることが分かる。
【0066】
(4) ワックス含有について
本発明の導電性に優れた皮膜のワックスの含有については、摺動性を更に向上させるためである。No.77〜94より、例えば、ワックスとしてポリテトラフルオロエチレン粒子(表中ではPTFEと略す)を適量加えることによって、導電性、耐食性、放熱性を低下させることなく、更に摺動性を付与できることが分かる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、家電、自動車用途等に好適な導電性に優れる表面処理金属板に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の一実施例における導電性評価試験に使用した皮膜の電気抵抗測定装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施例における摺動性試験に使用したドロービード試験機の概略図である。
【図3】本発明の一実施例における摺動性試験に使用したドロービード試験機の凹面金型及び凸面金型の拡大概略断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 表面処理金属板
2 テスター
3 測定針部
11 試験片
12 凹面金型
13 凸面金型
14 ロードセル
15 油圧シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の片面又は両面に導電性皮膜を有する表面処理金属板において、
前記導電性皮膜は、粒状のニッケルとバインダとを含有し、
前記導電性皮膜の膜厚が、6μm以上20μm以下であり、
前記導電性皮膜中に含まれるニッケル量が、前記バインダ固形分100質量部に対して、70〜350質量部であることを特徴とする、表面処理金属板。
【請求項2】
前記導電性皮膜中に含まれる粒状のニッケルの平均粒径が、2.1μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理金属板。
【請求項3】
80℃以上200℃以下の所定の温度で測定した波数600〜3000cm−1の領域における前記導電性皮膜を有する面の赤外線全放射率が、0.70以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の表面処理金属板。
【請求項4】
前記導電性皮膜が、カーボンブラックをさらに含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理金属板。
【請求項5】
前記導電性皮膜が、ワックスをさらに含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理金属板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−201053(P2008−201053A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41375(P2007−41375)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】