表面弾性波センサを介した伝播速度の推定
表面弾性波センサを通過する伝播速度を推定する技術について記述する。特に、表面弾性波センサの位相周波数応答の適当なセグメントを測定して利用する技術について、センサによる細菌検出の基礎として利用すべく記述する。上述のように、位相周波数応答の適当なセグメントに基づく速度評価を利用することは、検出の根拠として位相シフトを用いる従来の技術より優れている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2003年12月30日に出願された米国仮出願第60/533,177号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、表面弾性波(SAW)センサに関し、より具体的にはSAWセンサの出力を解析および解釈する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
化学または生物剤の有無を検査すべく、化学的および生物学的試験が一般に利用されている。血液、食品その他の物質における化学または生物剤の存在検査は、安全性の保証または病状の診断を容易にすべく頻繁に行なわれている。例えば、試験を行なうことにより医療患者から採取された血液サンプル、実験目的で培養された研究所サンプル、食品サンプル等における化学物質、細菌、または他の薬剤の存在を確認している。また、化学的および生物学的試験を利用して、妊娠、糖尿病、細菌感染等の病状、および患者の化学的または生物学的状態に影響を及ぼし得るその他広範な条件に対する検査が行なわれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学的または生物学的検出機能として開発されたセンサの一種に、表面弾性波(SAW)センサがある。SAWセンサの一例として、Loveモードshear−horizontal表面弾性波(SH−SAW)センサがある。SH−SAWセンサは、以下の4個の主要構成要素、1)圧電基板、2)圧電効果に基づいて弾性波を励起するために用いる基板上の入力櫛形トランスデューサ(IDT)、3)伝達された弾性波を受信し、圧電効果を利用して電気出力を生成する基板上の出力IDT、4)入力IDTから出力IDTへ伝達すべくSH型の波を導波Loveモードに変換するIDT上の導波層を含んでいる。SH−SAWセンサの表面に一種類以上の物質が存在すれば、センサの表面の細菌または他の薬剤の存在に応答して導波層を通過する波の伝播に影響を及ぼし、それにより細菌または他の薬剤の検出が容易になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に、表面弾性波センサを通過する伝播速度を推定する、あるいは同等であるが、時間遅延を推定する技術について記述する。特に、表面弾性波センサの位相周波数応答の適当なセグメントを測定および利用する技術について、センサによる細菌検出の基礎として利用すべく記述する。
【0006】
本発明は、一実施形態において、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別し、識別された周波数応答に基づいて当該表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するステップを備える方法を提供する。
【0007】
本発明は、別の実施形態において、プロセッサ内で実行されたならば、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別し、当該識別された周波数応答に基づいて表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定させる命令を備えるコンピュータ可読媒体を提供する。
【0008】
本発明は、別の実施形態において、表面弾性波センサと、当該表面弾性波センサの出力を受信するセンサ・アナライザと、当該センサ・アナライザから入力を受信し、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別して、位相周波数応答の当該識別されたセグメントに基づいて表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するプロセッサとを備えるシステムを提供する。
【0009】
本発明により、1個以上の利点が得られる。特に、以下に記述するように、表面弾性波センサの伝播速度の変化を利用することにより、検出の根拠として位相シフトを用いる従来技術に比べてセンサを介した細菌の検出精度を向上させることができる。更に、検出の根拠として表面弾性波センサの推定伝播速度を利用することにより、細菌濃度の検出が可能になる。
【0010】
本発明の1個以上の実施形態の詳細を、添付図面および以下の記述により開示する。本発明の他の特徴、目的および利点は、記述と図面、および特許請求の範囲から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に従い利用できる例証的なSAWセンサ10を示す斜視図である。SAWセンサ10には、各種のSAWセンサの任意のものが含まれていてよい。SH−SAWセンサは通常、結晶切削された圧電性物質を、波動伝播がSH(shear-horizontal)モード、すなわち導波路により規定される平面と平行に回転可能な方向に向けて構成されているため、検出面と接触する液体による音響減衰損失が低減される結果となる。シアー水平弾性波には、例えば、厚みシアーモード(TSM:thickness shear mode)、音響プレートモード(APM:acoustic plate mode)、表面スキミング・バルク波(SSBW:surface skimming bulk wave)、Love波、漏洩弾性波(LSAW:leaky acoustic wave)、Bleustein−Gulyaev(BG)波が含まれていてよい。
【0012】
特に、Love波センサは、STクォーツのSSBWまたは36°YXLiTaO3の漏洩波等のSH波モード対応型基板を含んでいてよい。これらのモードは好適には、薄い音響導波層または導波路の適用によりLove波モードに変換することができる。これらの波は周波数依存であって、導波層のシアー波速度が圧電基板の速度より遅い場合に発生し得る。
【0013】
一例として、センサ10は、Loveモード・シアー水平表面弾性波(SH−SAW)センサを含んでいる。
【0014】
SAWセンサ10は、通常、圧電性物質からなる基板12を含んでいる。SAWセンサ10はまた、基板12上に入力櫛形トランスデューサ(IDT)14を含んでおり、これを用いて圧電効果に基づいて弾性波を励起する。また、SAWセンサ10は基板12上に、伝達された弾性波を受信して圧電効果を利用することにより電気出力を生成する出力IDT16を含んでいる。導波層18が、IDT14、16の上部に形成されている。導波層18は、入力IDT14から出力IDT16へ伝達すべくSH−タイプ波を導波Loveモードに変換する。
【0015】
抗体層等の物質層が導波層18の上に塗布される。動作時には、細菌の存在を検出すべく検査対象の液体が導波層18に接触させられる。液体中に細菌が存在する場合、導波層18上の抗体に細菌が付着することにより、導波層18を通過する波動伝播に影響を及ぼす。従って、SAWセンサ10の導波層18を通過する波動伝播の解析により、細菌の検出または導波層18に塗布されている物質と相互作用し得る他の薬剤の検出が可能になる。
【0016】
ある場合において、SAWセンサ10は、複数の入出力IDTの組を含んでいる。例えば、SAWセンサ10は、各々が第一の出力IDT16および第二の出力IDT17に対応する第一の入力IDT14および第二の入力IDT15を含んでいてよい。その場合、第一の入出力IDT14、16はSAWセンサ10の動作中の部分を備え、第二の入出力IDT15、17はSAWセンサ10の基準部分を含んでいてよい。第一の入出力IDT14、16と、第二の入出力IDT15、17との間の導波層18の表面に異なる種類の抗体を塗布して、関心対象の細菌だけが第一の入出力IDT14、16に対応する動作中の部分の間の抗体に結合するようにできる。その場合、第二の入出力IDT15、17対応する基準部分が、温度変化の影響等を説明する基準測定を可能にし、これが無ければSAWセンサ10を通過する波動伝播に影響を及ぼす可能性がある。
【0017】
SAWセンサは、細菌検出用に一般的に利用されるが、他の広範な化学的または生物剤の任意のものを検出すべく設計されていてよい。従って、各種の化学的または生物剤の検出を容易にすべく、SAWセンサ10の導波層に異なる物質が塗布されていてもよい。導波路物質は好適には、以下の特性のうち一つ以上を示す物質であってよい、すなわち低音響損失、低導電性、水および水溶液中での堅牢性および安定性、および比較的遅い音響速度、疎水性、より高い分子量、高度の架橋構造等である。一例として、SiO2を石英基板上の音響導波層として用いた。他の熱可塑性および架橋ポリマー導波路物質の例として、エポキシ、ポリメチルメタクリレート、フェノール樹脂(例:NOVALAC)、ポリイミド、ポリスチレン等が含まれる。
【0018】
一般に、SAWセンサの表面上に特定の物質が存在すれば、導波層の上を移動する他の物質の有無に応答して波動伝播が導波層を通過する際に影響を及ぼすことにより、導波層の上を移動する物質の検出が容易になる。従って、導波層に塗布されている物質は、導波層18を横断して流れる液体中の懸濁された物質を誘引、捕捉、接着、その他の方法で付着させるべく選ばれてよい。このように、SAWセンサ10は、細菌あるいは他の生物または化学薬剤の検出を容易にする。
【0019】
Loveモード表面波を生成すべく、導波層18のシアー波速度は通常、基板12の速度よも遅い。その場合、音響エネルギーは、SAWセンサ10の検出面の近くで捕捉される。特にLoveモードSH−SAWセンサは、一般に表面撹乱に対して感度が高い。質量負荷により、LoveモードSH−SAWセンサの表面状態を変化させることができる。従って、伝播速度または共鳴周波数の変化の測定を利用して、質量負荷を検出することができ、それにより化学または生物剤の存在が検出される。
【0020】
検出器として利用されるSH−SAWセンサにとり最も重要な性能指標の一つに質量感度、すなわちセンサが自身の表面に添加された質量にどの程度敏感であるかを示す。質量感度を解析するために以下の2個の指数が定められた。
【数1】
【0021】
質量がΔms=ρmεである薄くて硬い極小添加層から生じる表面撹乱を伴なう/伴なわない、センサの伝播速度および共鳴周波数であり、ここで、ρmとεは添加層の密度と厚さである。
【0022】
【数2】
【0023】
ここで、表記v0(ω)並びにvg(ω)を用いて、分散的な場合は速度が周波数依存であること強調する。これは、LoveモードSH−SAWセンサの場合、センサ表面の境界条件の異常を検出するために、Δv/voを用いる方が、Δf/foを用いるよりも好ましいことを意味する。従って、本発明によれば、Δv/voをSAW−センサ10等の検出指標の基礎として用いてもよい。
【0024】
従来、3重トランジット・エコー(TTE)を有するLoveモードSH−SAWセンサの場合、位相周波数応答は、次式で与えられた。
【数3】
【0025】
ここで、fとωは、周波数と角周波数を表わし、Lは、入力の中心と出力IDTの中心との距離であり、β=α2であって、αは入出力IDTの反射係数である。βが小さく、周波数応答により決定できるため、一般性を失うことなくβをゼロであると仮定できる。このように、位相周波数応答の場合、TTEを含まない場合だけを考えれば十分である。位相周波数応答は、従って、次式で与えられる。
【数4】
【0026】
従って、−π<ψ(f)≦π(ラジアン単位)、または、−180<ψ(f)≦180(度単位)である。
【0027】
【数5】
【0028】
例えば、f=103MH、v0=4000 m/s且つL=8.8mmであるならば、|Δv|≧17.5747m/sに対して、
【数6】
【0029】
この理由により、本発明は位相周波数応答の識別されたセグメントに基づいて、SAWセンサを通過する伝播速度を推定する技術を提供する。伝播速度は、後述するように、SAWセンサを通過する時間遅延だけに関係する。本発明による方法は、表面弾性波センサの位相周波数応答の適当なセグメントを識別するステップと、識別された周波数応答に基づいて、表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するステップとを含んでいてよい。
【0030】
図2は、SAWセンサ10と、SAWセンサ10からの測定値を取得するセンサ・アナライザ21とを備えるシステム20を示すブロック図である。システム20はまた、SAWセンサ10の出力を解釈するプロセッサ22を含んでいる。換言すれば、センサ・アナライザ21はSAWセンサ10から出力を受信して、プロセッサ22に入力を提供することによりSAWセンサ10の出力を解釈可能にする。
【0031】
プロセッサ22はセンサ・アナライザ21から、SAWセンサ10を通過する波動伝播に関連付けられた測定値を備える入力を受信する。プロセッサ22は次いで、SAWセンサ10が検出すべく設計されている特定の細菌または他の物質の存在をSAWセンサ10が検出したか否かを判定する。プロセッサ22は、本明細書に記述するプロセッサ向けの各種の技術および機能を実現すべく命令を実行する。SAWセンサ10はカートリッジ等に収納されていてよく、スロットへカートリッジを挿入することによりセンサ・アナライザ21に電気的に接続されていてよいが、本発明はこの点に限定されない。プロセッサ22は、センサ・アナライザ21と同じ装置に収納されていても、あるいは別個の装置または別個のコンピュータの一部であってもよい。
【0032】
プロセッサ22はまた、本開示に示すものと整合する伝播速度ルーチン25を格納するメモリ24に接続されていてよい。あるいは、伝播速度ルーチン25は、プロセッサ22内のハードウェアに実装されていてもよい。いずれの場合でも、プロセッサ22は、本明細書に記述するように、識別された周波数応答に基づいて表面弾性波センサを通って伝播する波に付随する時間遅延を推定すべく伝播速度ルーチン25を実行する。
【0033】
例えば、プロセッサ22は、メモリ24に格納されたソフトウェアを実行する汎用マイクロプロセッサを含んでいてよい。その場合、プロセッサ22は専用に設計されたコンピュータ、汎用パソコン、ワークステーション、ハンドヘルド・コンピュータ、ラップトップ・コンピュータ等の内部に収納されてよい。あるいは、プロセッサ22は特定用途向け集積回路(ASIC)または他の専用に設計されたプロセッサを含んでいてよい。いずれの場合も、プロセッサ22は本明細書に記述するように、識別された周波数応答に基づいて表面弾性波センサ10を通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定すべく伝播速度ルーチン25を実行する。
【0034】
メモリ24は、プロセッサ22により適用されるプロセッサ実行可能なソフトウェア命令を格納するコンピュータ可読媒体の一例である。例えば、メモリ24はランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ等を含んでいてよい。以下に数学的に記述されたような伝播速度ルーチン25はメモリ24に格納されていて、SAWセンサ10の出力の解析に用いられる、より大規模なソフトウェア・プログラムの一部を形成していてもよい。例えば、伝播速度ルーチン25はLabViewソフトウェア・プラットフォーム内のプログラムされたサブルーチンであってよく、以下により詳しく詳述する。
【0035】
図3は、本発明の一実施形態による技術を示すフロー図である。図3に示すように、液体がSAWセンサ10の表面と接触させられる(31)。液体は、細菌テストが必要な物質のサンプルを含んでいてよい。例えば、液体は、関心対象である細菌に応答する抗体を備えるSAWセンサ10(図1)の導波層18の表面を流れるようになっている。SAWセンサ10は、例えば、液体がカートリッジ内へ誘導されて、液体経路を経て導波層18へ流れ込むことができるように、導波層18の表面上の液体経路を規定するカートリッジに収納されていてよい。
【0036】
プロセッサ22は、センサ・アナライザ21によりSAWセンサ10から取得された測定値を受信して、メモリ24に格納されている伝播速度ルーチン25を適用する。その際、プロセッサ22はSAWセンサ10の位相周波数応答のセグメントを識別し(32)、識別された周波数応答に基づいて、SAWセンサ10を通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定する(33)。いくつかの実施形態において、推定された時間遅延から導かれた推定伝播速度を用いて、液体中の細菌その他の物質の濃度を識別することができる(34)。
【0037】
表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定する多くの数学的技術について以下に述べる。τ=L/vは、距離Lを隔てられた入力IDTの中心と出力IDTの中心との間の時間遅延を指す。分散的なケースにおいて、時間遅延はまた周波数の関数でもある。すなわち、τ(f)=L/v(f)である。φ(f)(度単位)の定義から、以下が得られる。
【数7】
【0038】
任意の与えられたランニング周波数f0(動作周波数とも呼ばれる)に対して、ランニング周波数f0に近接する2種の位相屈折周波数f1、f2が存在して、以下が成り立つ。
【0039】
(1)f1≦f0<f2
(2)φ(f1)=180、φ(f2−0)=−180且つφ(f2)=φ(f2+0)=180
(3)f1τ(f1)=[f1τ(f1)]、f2τ(f2)=[f2τ(f2)]且つ[f2τ(f2)]=[f1τ(f1)]+1
(4)任意のf1≦f<f2に対して、[fτ(f)]=[f1τ(f1)]
【0040】
図4は、SAWセンサの例証的な周波数応答を示すグラフである。図4においてラベル付けされているのは例証的なランニング周波数f0、典型的な第一位相屈折周波数f1、典型的な第二位相屈折周波数f2である。再び、任意のf1≦f<f2に対して、[fτ(f)]=[f1τ(f1)]である。従って、f1≦f<f2に対して、
【数8】
【0041】
基本的微分方程式を用いて、τ(f)の以下の特性を証明することができる。
命題1:f∈[f11,f22)⊆[f1,f2)に対してφ(f)がfに関して線形であるならば、τ(f)は定数であり、且つf∈[f11,f22)⊆[f1,f2)に対して次式が成立する。
【数9】
【0042】
命題2:φ(f)が(f1,f2)において微分可能、且つf1について右微分可能であると仮定すると、
【数10】
【0043】
ここで、時間遅延τ(f)を推定するアルゴリズムまたはルーチンについて議論する。命題2から、伝播速度ルーチン25の一部として以下のアルゴリズムを用いて、τ(f)の推定を得ることができる。
【0044】
[0001] アルゴリズム1:f00=f1且つ
【数11】
【0045】
ここで、f0はランニング周波数であり、この説明ではfrunとも表記される。
【0046】
アルゴリズム2:f00=f*、例えばφ(f*)=±90である。f*の周辺で10個の周波数f(1),f(2),...,f(10)を取って、(f(1),φ(f(1))),(f(2),φ(f(2))),...,(f(10),φ(f(10)))の線形回帰を求める。
【数12】
【0047】
アルゴリズム3:f00=f0=frunである。f0の周辺で10個の周波数f(1),f(2),...,f(10)を取って、(f(1),φ(f(1))),(f(2),φ(f(2))),...,(f(10),φ(f(10)))の線形回帰を求める。
【数13】
【0048】
φ(f1)=180、φ(f2−0)=−180であるため、
【数14】
【0049】
実際に測定された位相応答の場合、φ(f)は周波数fのサンプリング点でしか与えられない。すなわち、φ(f)はセグメント[f1,f2)において連続関数ではなく、離散的なシーケンスである。更に、φ(f1)およびφ(f2)は各々180および−180に等しくないが、φ(f1−Δf)<0、φ(f1)>0、φ(f2)<0且つφ(f2+Δf)>0であり、ここで、Δfは周波数領域におけるサンプリング間隔である。推定精度を向上させるには、Δfはなるべく小さくなければならず、線形回帰を用いて[f1,f2)から[fnew1,fnew2)にφ(f)を外挿してφ(fnew1)=180且つφ(fnew2−0)=−180であるようにできる。外挿されたφ(f)に対して、
【数15】
【0050】
特に、伝播速度を推定する上述のアルゴリズムは、SH−SAWセンサの測定された周波数応答の適当なセグメントに基づくだけである。少なくともこの方法で本アルゴリズムは従来の方法とは異なる。従来の方法は、何らかの時間領域機器によりセンサの時間遅延またはIDTのいくつかの突起間での時間遅延を測定することができる。あるいは、従来の方法は、位相周波数応答全体、振幅周波数応答、および逆のフーリエ変換に基づいていてもよい。対照的に、本明細書に記述する技術は、SH−SAWセンサの測定された周波数応答のセグメント、すなわち本明細書の記述のように識別可能な適当なセグメントだけに基づいている。
【0051】
アルゴリズム1は、オンライン速度測定用にソフトウェア・プラットフォームLabViewに実装されている。LabViewは、米国ナショナル・インスツルメンツ社(National Instruments,Inc.)から販売されているソフトウェア・プログラムである。検出器としてSAWセンサを用いることは一般に、特定の表面撹乱の有る/無いセンサの伝播特性の比較に基づく。そのような比較は動的または静的に行なうことができる。
【0052】
動的比較を行なう場合、センサの伝播特性を時系列として測定される。静的比較を行なう場合、センサは2個のチャネル、すなわち基準チャネルおよび検出チャネル(動作中チャネルとも呼ばれる)で構成されている必要がある。例えば、基準チャネルはIDT15と17(図1)の間の基準セグメントに対応しているが、検出チャネルはIDT14と16の間の動作中の部分に対応していてよい。表面撹乱は検出チャネルにおいて生起する。その場合、センサの2個のチャネルの伝播特徴が測定される。SH−SAWセンサの伝播特性の測定値がセンサを検出器として使用する際の基準である。
【0053】
共鳴周波数fresonanceおよび伝播速度vは最も直接的な伝播特徴の二つであり、Δv/vは表面撹乱に対するΔf/fより感度が高い。従って、伝播速度の測定により、SH−SAWセンサを検出器として効率的に使用するための改良方法を提供することができる。対照的に、従来の技術は通常、センサ・アナライザにより、SH−SAWセンサの対数振幅応答A(f)および位相応答φ(f)を測定し、測定された位相周波数応答からランニング周波数における位相を読み出す。SH−SAWセンサの伝播速度を直接測定するためのルーチンの開発が、SH−SAWセンサの現実の適用に際して極めて重要になる。上に示すアルゴリズムは、測定された位相周波数応答の適当なセグメントから伝播速度を推定するためのソフトウェア・ベースの方法を提供し、例えば米国アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies,Inc.)から市販されている8753ETネットワーク・アナライザにより測定することができる。他の同様のネットワーク・アナライザを用いてもよい。
【0054】
LabViewは、センサ・アナライザとの通信、および当該モデルに基づく計算の両方を簡単に行なえる方法として選択された。本明細書に記述する技術の実行に関連付けられた例証的なLabView画面を図5に示す。入力は、センサ・アナライザの特別な解像度により一部規定され、最小および最大周波数(センサ・アナライザ上の合計1600個のデータ点に等しい)およびランニング周波数を含んでいる。
【0055】
LabViewからの出力により、結果の様々に解釈することができる。図のLabView画面に示す大多数のプロットについて、2種の出力があり、一つは測定センサを表し、他の一つは基準センサを表わす。LabViewにおいて、位相と速度のプロットを用いて、センサが確実に動作しているか否かを判定することができる。位相に雑音が増えるか、または振幅が約20dBを超えて減少したならば、センサは不調であるとみなされて廃棄される。
【0056】
位相ヒストグラムのプロットは、センサ品質の別の尺度として用いることができ、位相プロット線の非線形性に関する。速度のプロットは、本明細書に記述する技術による推定の結果を提供する。
【0057】
ランニング周波数における強度と位相のプロットが採取されて、時間に対してプロットされる。最後に、温度およびアナ対数値が出力されて、時間に対してプロットされる。位相周波数応答の適当なセグメントから速度を計算すべく、LabView内で内部サブVIを用いる。第一のステップで、全ての+180および−180度位相点を計算する。換言すれば、位相屈折周波数を決定するために、本技術はランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答のサンプリングを行ない、当該複数の位相応答の関数として位相屈折周波数を推定することができる。
【0058】
連続的な周波数と、その離散的実現値との間の速度表現の差異を上で議論した。しかし、上の第一ステップはまた、LabViewのアルゴリズム1を実行する間に適用することができる。センサ・アナライザの周波数の解像度が限られている場合、−180〜180度の位相遷移に関するデータは下記のものと同様であってよい。
【0059】
−175.97,−176.866,−177.761,−178.657,−179.552,179.5522,178.6567,177.7612,176.8657,175.9701,
【0060】
外挿された線形フィットを用いて、ちょうど−180および180度である位相点を発見することができる。例証的な+180および−180度位相点の描画を図6に示す。図7に、正確な−180および180度位相を発見すべく両側へ外挿された線形フィットの利用を例示する。図7からわかるように、f1、f2の値およびランニング周波数φ(f0)における位相を計算することができる。しかし、LabViewではフォーマットが異なるため、上で導いたモデルとは異なる表記法を用いる必要があろう。例えばLabViewでは、
【0061】
Tau_Fr =(((F1/(F2−F1))*360)−Pha_Fr+180)/F_run*1000000*360) (F_runがヘルツに変換済み)
【0062】
次いで、
V_Fr=(L*0.001)/Tau_Fr (Lはミリメートルからメートルに変換済み)
【数16】
【0063】
LabViewの別のアプリケーションを用いて、格納されている位相ファイルを取り出して速度データを再構築することが可能である。位相データは次いで、上述と全く同じモデルを用いて変換することができる。このように、得られた速度と関連してランニング周波数を変える影響が見ることができる。LabViewにより、2個のランニング周波数(0.1MHzの差で)を同時に評価することができる。利点として、位相屈折周波数は、位相対周波数のグラフの単調に変化する部分集合の表面弾性波センサの端を規定する。このように、本明細書に記述する技術は、センサによる物質の識別だけでなく、物質の濃度の表示をも可能にする。
【実施例1】
【0064】
実験に用いたLoveモードSH−SAWセンサは、米国サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories, USA)から提供された103MHzで動作するLiTaO3機器であった。低壁フローセルをセンサの上部に配置して、pH7.5のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液で満たした。当該液体容器は、緩衝液の流れを遅くすることができるようにシリンジポンプ系に接続されていた。実験を行なう間、0.05mg/mlのウシ血清アルブミン%(BSA)タンパク質の250マイクロリットルの複数のアリコートを指定時刻に細胞内へ注入した。米国アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies Inc., USA)から販売されている8753ETネットワーク・アナライザにより、ほぼ20秒毎にセンサの対数振幅および位相応答を測定した。その結果生じた位相応答に基づいて、動作周波数における位相の時間に対する曲線が直ちに得られた。次いでアルゴリズム1を用いて、動作周波数における時間毎の伝播速度を計算した。図8、9は実験の時間経過に沿って各々プロットした位相応答および伝播速度を示す。速度の時間に対する曲線の谷は、非常にゆっくり流れる緩衝液流にBSAが注入された時点と正確に対応している。位相の時間に対する曲線と比較して、伝播速度の計算からはLoveモードSH−SAWセンサの表面への質量負荷に関するより多くの詳細な情報が得られ、その結果質量負荷および粘性に対する感度が向上する。
【実施例2】
【0065】
この例では、検出中の細菌の3種の別々の濃度を用いた。第一の細菌濃度は103cfu/ml(1ミリリットル当たりの単位を形成するコロニー)であり、結果を図10、11に示す。第二の細菌濃度は105cfu/mlであり、結果を図12、13に示す。第三の細菌濃度は107cfu/mlであり、結果を図14、15に示す。
【0066】
特に、図10、12、14のグラフは、指定濃度におけるΔv/v0は対時間を示し、図11、13、15のおよびグラフは指定濃度におけるΔφ/φ0は対時間を示す。
【0067】
質量負荷測定用にSH−SAWセンサを使用する通常の方法は、センサが基準チャネルおよび検出チャネルの2個のチャネルを備えるということである(本明細書では検出チャネルをセンサの「動作中のチャネル」または「動作中のセグメント」とも呼ぶ)。基準チャネルにおいて、センサの表面は極めて安定している一方、検出チャネルでは撹乱されている。2個のチャネルの伝播特性を測定して比較することにより、検出チャネルにおける質量負荷から生じる撹乱を検出することができる。2個のチャネルの伝播特徴の違いを記述するために利用できインジケータ機能が添加された物質の質量に関して単調である場合、質量負荷の存在を検出して定量化することができる。検出用のインジケータ機能としてΔv/v0を用いる方が、Δφ/φ0を用いるよりも良いことが上で示されている。
【0068】
本例は、実際の実験から当該結論の正当性を示すものである。本実験において、検出チャネルの表面には、特定の濃度で細菌が含有されていた。実験において使用した細菌の濃度は各々、103、105および107cfu/mLである。検出チャネルへの細菌注入から逆洗までの遅延は約20分であった。各々の細菌濃度におけるΔv/v0およびΔφ/φ0の時間に対する曲線を図10〜15に示し、2個のチャネルの伝播速度の計算は上述のアルゴリズムに基づいている。本例での実験は抗体を含まない点を指摘しておく。細菌は、サッカリン固定化層である表面化学物質に直接結合されていた。
【0069】
定常状態におけるΔv/v0およびΔφ/φ0が各々の細菌濃度について上述の曲線から抽出された。Δv/v0の対数濃度に対する関係およびΔφ/φ0の対数濃度に対する関係を各々図16、17に示す。
【0070】
実験結果は3種の異なる細菌濃度のものでしかないが、明らかに、Δφ/φ0は細菌濃度に関して単調ではない。これはまた、Δφ/φ0が、ダイナミックレンジが大きい質量負荷を定量的に検出するための適当なインジケータではないという結論の正当性を示す。
【実施例3】
【0071】
本実験で用いたLoveモードSH−SAWセンサは、米国サンディア国立研究所から提供された103MHzで動作するLiTaO3機器であった。実験を行なう間、センサの表面は以下の通りであった。
【0072】
1.空気中に約20分間静置
2.緩衝液中に約30分間静置
3.緩衝液中の細菌に約18分間接触
4.短時間洗浄して、約20分間の緩衝液に静置
5.純水に約30分間接触
【0073】
細菌は表面に取り付けられる抗体に結合されていた。図18は動作周波数における伝播速度の時間に対するグラフであり、図19は動作周波数における位相の時間に対するグラフである。伝播速度は、上述のアルゴリズム1を用いて計算した。図18、19において、破線の垂直線は、上で詳述したセンサの各種の表面条件の持続時間を規定する。
【0074】
図18の速度の時間に対するグラフを見れば、本実験のプロセスと結果がより簡単に理解できよう。センサの表面弾性波の伝播速度は、181で示すように表面が空気中にあるときよりも速い。緩衝液を注入すると、速度は減少し、182で示すように定常状態に落ち着いた。一定量の細菌を加えると、速度は183で示すように再び低下した。短時間の洗浄では細菌を除去されず、センサ表面に取り付けられた抗体に吸着された。従って、前の状態におけるのと同様に洗浄中の速度を184に示す。最後に、185に示すように表面状態が、吸着された細菌から水へ変化したため、表面弾性波センサの速度は増加した。極めて対照的に、図19に示す位相の時間に対する曲線に基づく実験プロセスおよび結果を理解して説明することは困難である。
【実施例4】
【0075】
本実験で用いたLoveモードSH−SAWセンサは、米国サンディア国立研究所から提供された103MHzで動作するLiTaO3機器であった。低壁フローセルをセンサの上部に配置して、pH約7.5のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液で満たした。当該液体容器は、緩衝液の流れを遅くすることができるようにシリンジポンプ系に接続されていた。実験を行なう間、各種濃度のウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質の250マイクロリットルの複数のアリコートを指定時刻に細胞内へ注入した。タンパク質の注入は、以下の表1に準拠する。表1において、BSAはウシ血清アルブミンを指し、IgGは免疫グロブリンを指す。
【0076】
【表1】
【0077】
例1で述べたように、米国アジレント・テクノロジーズ社から販売されている8753ETネットワーク・アナライザにより、ほぼ20秒毎にセンサの対数振幅および位相応答を測定した。有効チャネルに対するこれらの位相周波数応答の適当なセグメントおよび上で提案したアルゴリズム1に基づいて、ランニング周波数における位相対時間および伝播速度対時間の両方の曲線が得られた。図20は結果的に得られた位相対時間のグラフであり、一方、図21は結果的に得られた伝播速度対時間のグラフである。
【0078】
BSA注入の場合における伝播速度(m/s)対時間(時間領域内てのサンプリング点)の曲線の詳細を図22〜24に示す。曲線の谷の位置は、表1に掲載した注入時点に極めて近い。図23において、ラベルは以下のものに対応している。
【0079】
(1)(737の)BSA .05mg/ml
(2)(783の)BSA .025mg/ml
(3)(816の)BSA .0125mg/ml
(4)(854の)BSA .0333mg/ml
(5)(888の)BSA .04mg/ml
(6)(916の)BSA .05mg/ml
(7)(948の)BSA 0.00625mg/ml
(8)(994の)BSA 0.003125mg/ml
(9)(1023の)BSA .05mg/ml
【0080】
Δv/vをより正確に推定すべく、BSAの注入時点周辺で速度の曲線のいくつかのセグメントを用いる。一例を図26に示す。この場合、推定された注入時点は、時間領域における第952番目のサンプリングである。図26に示すこのセグメントから、谷の稜線が決定されて、速度v0およびv1が推定される。次いで、この注入におけるΔv/v=(v1−v0)/v0が計算され、この場合Δv/v=−0.0056である。図25に、φの曲線の対応するセグメントを示す。図25のグラフからの当該注入のΔφ/φを決定するのは困難である。
【0081】
図27〜30に更に多くの例を示す。特に、図28、30は推定された注入時点周辺でのvの曲線のセグメントを示し、図27、29にφの曲線の対応するセグメントを示す。図28、30における計算された(Δv/v)は各々、は−0.0201および−0.0197である。図27、29からΔφ/φを決定するのは依然として困難である。
【0082】
BSAされた注入時点周辺でのΔv/vのより正確な推定値を表1に掲載している。結果的に得られたΔv/vと、表1に掲載した同一注入時点で注入されたBSAの既知濃度との対比を図31に丸印で示す。0.05mg/mlの濃度に対応して、7個の重複する(Δv/v)が存在する。
【0083】
最も大きいΔv/vに対応する丸印を調べることができる。図31の曲線は、丸印を接続することで得られる。図31の曲線は単調である。更に、図31の曲線の単調性から、速度と較正の曲線で測定できるΔv/vを用いることにより、注入されたBSAの濃度が[0.003125,0.05]mg/mlの範囲にあれば、注入されたBSAの濃度をセンサが更に検出できることを示す。
【0084】
SH−SAWセンサの伝播特性の測定は、検出器としてセンサを使用する際の基本である。共鳴周波数fresonanceおよび伝播速度vは、2個の直接的な伝播特性であり、Δv/vは表面撹乱に対してΔf/fよりも感度が高い。従って、伝播速度の測定は、検出器としてSH−SAWセンサを効率的に使用するための好適な指標である。
【0085】
対照的に、従来の方法はセンサ・アナライザにより、SH−SAWセンサの対数振幅周波数応答A(f)および位相周波数応答φ(f)を測定し、次いでランニング周波数における位相を読み出すものである。検出におけるΔφまたはΔφ/φの重大な制約は上で述べた。SH−SAWセンサの伝播速度を直接測定するためのハードウェアおよび/またはソフトウェアを開発することにより、SH−SAWセンサの実用的に応用することができる。従来の3重トランジット・エコー(TTE)技術を用いたSH−SAWセンサのシステムモデルに基づいて、センサ・アナライザにより測定された位相周波数応答の適当なセグメントから伝播速度を推定するいくつかのアルゴリズムが提示されてきた。第一のアルゴリズム(アルゴリズム1)はまた、オンライン速度測定用にソフトウェア・プラットフォームLabViewに実装された。
【0086】
従来の位相に基づく、または位相シフトに基づく方法と比較して、本明細書に記述する技術は位相に含まれる情報が一切失われない。また、位相アンビギュイティを解決するため、本明細書に記述する技術は、従来技術に比べてSH−SAWセンサの表面状態に関してはるかに多くの詳細情報を抽出することができる。更に、上の例で広いダイナミックレンジにわたる濃度について、液体質量負荷の濃度に対するΔv/vの曲線の単調性を示した。これは、従って、SH−SAWセンサを用いて実際に質量負荷を定量的に検出するための基礎となる。対照的に、液体質量負荷の濃度に対するΔφ/φの曲線の場合、曲線の単調性は濃度が薄い場合にしか見られない。
【0087】
本発明の各種の実施形態について述べてきた。特に、表面弾性波センサを通過する伝播速度を推定する技術について述べてきた。これらの技術は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア等で実装することができる。例証的なハードウェア実装には、汎用マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)、専用設計ハードウェア部品、またこれらの任意の組み合せによる実装が含まれる。また、本明細書に記述した一つ以上の技術は、部分的にまたは完全にソフトウェアで実行することができる。その場合、コンピュータ可読媒体がコンピュータ可読な命令、すなわち、プロセッサにより実行可能である、または上述の技術の一つ以上を実行するプログラムコードを格納または別途包含していてよい。これらの技術は、一定時間遅延(非分散的な場合)および周波数依存時間遅延(分散的な場合)の両方で利用することができる。
【0088】
例えば、コンピュータ可読媒体はランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ等を含んでいてよい。これらおよび他の実施形態は添付の請求項の範囲内にある。
【0089】
本発明の機器を被覆するのに適した方法は、本出願人の米国同時係属出願第10/607,698号明細書(2003年6月27日出願)を含んでいる。
【0090】
本発明は、以下に掲載する各種の米国特許出願(その各々の全文を引用している)に記述されているように、各種の物質、方法、システム、装置等と組み合わせて利用することができる。これらは、米国特許出願第60/533,162号明細書(2003年12月30日出願)、同第60/533,178号明細書(2003年12月30日出願)、同第10/896,392号明細書(2004年7月22日出願)、同第10/713,174号明細書(2003年11月14日出願)、同第10/987,522号明細書(2004年11月12日出願)、同第10/714,053号明細書(2003年11月14日出願)、同第10/987,075号明細書(2004年11月12日出願)、同第60/533,171号明細書(2003年12月30日出願)、同第10/960,491号明細書(2004年10月7日出願)、同第60/533,176号明細書(2003年12月30日出願)、同第60/533,169号明細書(2003年12月30日出願)、本願と同日出願の_____________「細胞の細胞壁成分の信号検出を向上させる方法」(代理人整理番号:59467US002)、本願と同日出願の__________「アミン捕捉剤としての可溶なポリマーおよび方法」(代理人整理番号:59995US002)、本願と同日出願の___________「多機能アミン捕捉剤」(代理人整理番号:59996US002)、本願と同日出願のPCT出願__________「表面弾性波センサ・アセンブリ」(代理人整理番号:58928WO003)、本願と同日出願のPCT出願____________「音響機械的検出システムおよび方法」(代理人整理番号:59468WO003)、本願と同日出願のPCT出願__________「検出カートリッジ、モジュール、システムおよび方法」(代理人整理番号:60342WO003)、本願と同日出願のPCT出願__________「音響センサおよび方法」(代理人整理番号:60209WO003)である。
【0091】
本明細書において引用した特許、特許出願、特許文献および刊行物の完全な開示は、あたかも各々が個別に引用された如く、その全文を引用している。本発明に対する各種の変形および変更等は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者にとって明らかになる。本発明が、本明細書に記述した例証的な実施形態により過度に限定されることを意図しておらず、そのような実施形態が例示目的でのみ示されていて、本発明の範囲は特許請求の範囲だけにより限定されることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の1個以上の実施形態で利用できる例証的な表面弾性波(SAW)センサを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態によるシステムを示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による技術を示すフロー図である。
【図4】SAWセンサの例証的な位相周波数応答のグラフを示す図である。
【図5】本明細書に記述する技術の実装に関連付けられた例証的なLabView画面を描いた図である。
【図6】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図7】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図8】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図9】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図10】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図11】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図12】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図13】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図14】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図15】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図16】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図17】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図18】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図19】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図20】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図21】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図22】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図23】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図24】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図25】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図26】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図27】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図28】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図29】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図30】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図31】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2003年12月30日に出願された米国仮出願第60/533,177号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、表面弾性波(SAW)センサに関し、より具体的にはSAWセンサの出力を解析および解釈する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
化学または生物剤の有無を検査すべく、化学的および生物学的試験が一般に利用されている。血液、食品その他の物質における化学または生物剤の存在検査は、安全性の保証または病状の診断を容易にすべく頻繁に行なわれている。例えば、試験を行なうことにより医療患者から採取された血液サンプル、実験目的で培養された研究所サンプル、食品サンプル等における化学物質、細菌、または他の薬剤の存在を確認している。また、化学的および生物学的試験を利用して、妊娠、糖尿病、細菌感染等の病状、および患者の化学的または生物学的状態に影響を及ぼし得るその他広範な条件に対する検査が行なわれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化学的または生物学的検出機能として開発されたセンサの一種に、表面弾性波(SAW)センサがある。SAWセンサの一例として、Loveモードshear−horizontal表面弾性波(SH−SAW)センサがある。SH−SAWセンサは、以下の4個の主要構成要素、1)圧電基板、2)圧電効果に基づいて弾性波を励起するために用いる基板上の入力櫛形トランスデューサ(IDT)、3)伝達された弾性波を受信し、圧電効果を利用して電気出力を生成する基板上の出力IDT、4)入力IDTから出力IDTへ伝達すべくSH型の波を導波Loveモードに変換するIDT上の導波層を含んでいる。SH−SAWセンサの表面に一種類以上の物質が存在すれば、センサの表面の細菌または他の薬剤の存在に応答して導波層を通過する波の伝播に影響を及ぼし、それにより細菌または他の薬剤の検出が容易になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に、表面弾性波センサを通過する伝播速度を推定する、あるいは同等であるが、時間遅延を推定する技術について記述する。特に、表面弾性波センサの位相周波数応答の適当なセグメントを測定および利用する技術について、センサによる細菌検出の基礎として利用すべく記述する。
【0006】
本発明は、一実施形態において、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別し、識別された周波数応答に基づいて当該表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するステップを備える方法を提供する。
【0007】
本発明は、別の実施形態において、プロセッサ内で実行されたならば、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別し、当該識別された周波数応答に基づいて表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定させる命令を備えるコンピュータ可読媒体を提供する。
【0008】
本発明は、別の実施形態において、表面弾性波センサと、当該表面弾性波センサの出力を受信するセンサ・アナライザと、当該センサ・アナライザから入力を受信し、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別して、位相周波数応答の当該識別されたセグメントに基づいて表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するプロセッサとを備えるシステムを提供する。
【0009】
本発明により、1個以上の利点が得られる。特に、以下に記述するように、表面弾性波センサの伝播速度の変化を利用することにより、検出の根拠として位相シフトを用いる従来技術に比べてセンサを介した細菌の検出精度を向上させることができる。更に、検出の根拠として表面弾性波センサの推定伝播速度を利用することにより、細菌濃度の検出が可能になる。
【0010】
本発明の1個以上の実施形態の詳細を、添付図面および以下の記述により開示する。本発明の他の特徴、目的および利点は、記述と図面、および特許請求の範囲から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態に従い利用できる例証的なSAWセンサ10を示す斜視図である。SAWセンサ10には、各種のSAWセンサの任意のものが含まれていてよい。SH−SAWセンサは通常、結晶切削された圧電性物質を、波動伝播がSH(shear-horizontal)モード、すなわち導波路により規定される平面と平行に回転可能な方向に向けて構成されているため、検出面と接触する液体による音響減衰損失が低減される結果となる。シアー水平弾性波には、例えば、厚みシアーモード(TSM:thickness shear mode)、音響プレートモード(APM:acoustic plate mode)、表面スキミング・バルク波(SSBW:surface skimming bulk wave)、Love波、漏洩弾性波(LSAW:leaky acoustic wave)、Bleustein−Gulyaev(BG)波が含まれていてよい。
【0012】
特に、Love波センサは、STクォーツのSSBWまたは36°YXLiTaO3の漏洩波等のSH波モード対応型基板を含んでいてよい。これらのモードは好適には、薄い音響導波層または導波路の適用によりLove波モードに変換することができる。これらの波は周波数依存であって、導波層のシアー波速度が圧電基板の速度より遅い場合に発生し得る。
【0013】
一例として、センサ10は、Loveモード・シアー水平表面弾性波(SH−SAW)センサを含んでいる。
【0014】
SAWセンサ10は、通常、圧電性物質からなる基板12を含んでいる。SAWセンサ10はまた、基板12上に入力櫛形トランスデューサ(IDT)14を含んでおり、これを用いて圧電効果に基づいて弾性波を励起する。また、SAWセンサ10は基板12上に、伝達された弾性波を受信して圧電効果を利用することにより電気出力を生成する出力IDT16を含んでいる。導波層18が、IDT14、16の上部に形成されている。導波層18は、入力IDT14から出力IDT16へ伝達すべくSH−タイプ波を導波Loveモードに変換する。
【0015】
抗体層等の物質層が導波層18の上に塗布される。動作時には、細菌の存在を検出すべく検査対象の液体が導波層18に接触させられる。液体中に細菌が存在する場合、導波層18上の抗体に細菌が付着することにより、導波層18を通過する波動伝播に影響を及ぼす。従って、SAWセンサ10の導波層18を通過する波動伝播の解析により、細菌の検出または導波層18に塗布されている物質と相互作用し得る他の薬剤の検出が可能になる。
【0016】
ある場合において、SAWセンサ10は、複数の入出力IDTの組を含んでいる。例えば、SAWセンサ10は、各々が第一の出力IDT16および第二の出力IDT17に対応する第一の入力IDT14および第二の入力IDT15を含んでいてよい。その場合、第一の入出力IDT14、16はSAWセンサ10の動作中の部分を備え、第二の入出力IDT15、17はSAWセンサ10の基準部分を含んでいてよい。第一の入出力IDT14、16と、第二の入出力IDT15、17との間の導波層18の表面に異なる種類の抗体を塗布して、関心対象の細菌だけが第一の入出力IDT14、16に対応する動作中の部分の間の抗体に結合するようにできる。その場合、第二の入出力IDT15、17対応する基準部分が、温度変化の影響等を説明する基準測定を可能にし、これが無ければSAWセンサ10を通過する波動伝播に影響を及ぼす可能性がある。
【0017】
SAWセンサは、細菌検出用に一般的に利用されるが、他の広範な化学的または生物剤の任意のものを検出すべく設計されていてよい。従って、各種の化学的または生物剤の検出を容易にすべく、SAWセンサ10の導波層に異なる物質が塗布されていてもよい。導波路物質は好適には、以下の特性のうち一つ以上を示す物質であってよい、すなわち低音響損失、低導電性、水および水溶液中での堅牢性および安定性、および比較的遅い音響速度、疎水性、より高い分子量、高度の架橋構造等である。一例として、SiO2を石英基板上の音響導波層として用いた。他の熱可塑性および架橋ポリマー導波路物質の例として、エポキシ、ポリメチルメタクリレート、フェノール樹脂(例:NOVALAC)、ポリイミド、ポリスチレン等が含まれる。
【0018】
一般に、SAWセンサの表面上に特定の物質が存在すれば、導波層の上を移動する他の物質の有無に応答して波動伝播が導波層を通過する際に影響を及ぼすことにより、導波層の上を移動する物質の検出が容易になる。従って、導波層に塗布されている物質は、導波層18を横断して流れる液体中の懸濁された物質を誘引、捕捉、接着、その他の方法で付着させるべく選ばれてよい。このように、SAWセンサ10は、細菌あるいは他の生物または化学薬剤の検出を容易にする。
【0019】
Loveモード表面波を生成すべく、導波層18のシアー波速度は通常、基板12の速度よも遅い。その場合、音響エネルギーは、SAWセンサ10の検出面の近くで捕捉される。特にLoveモードSH−SAWセンサは、一般に表面撹乱に対して感度が高い。質量負荷により、LoveモードSH−SAWセンサの表面状態を変化させることができる。従って、伝播速度または共鳴周波数の変化の測定を利用して、質量負荷を検出することができ、それにより化学または生物剤の存在が検出される。
【0020】
検出器として利用されるSH−SAWセンサにとり最も重要な性能指標の一つに質量感度、すなわちセンサが自身の表面に添加された質量にどの程度敏感であるかを示す。質量感度を解析するために以下の2個の指数が定められた。
【数1】
【0021】
質量がΔms=ρmεである薄くて硬い極小添加層から生じる表面撹乱を伴なう/伴なわない、センサの伝播速度および共鳴周波数であり、ここで、ρmとεは添加層の密度と厚さである。
【0022】
【数2】
【0023】
ここで、表記v0(ω)並びにvg(ω)を用いて、分散的な場合は速度が周波数依存であること強調する。これは、LoveモードSH−SAWセンサの場合、センサ表面の境界条件の異常を検出するために、Δv/voを用いる方が、Δf/foを用いるよりも好ましいことを意味する。従って、本発明によれば、Δv/voをSAW−センサ10等の検出指標の基礎として用いてもよい。
【0024】
従来、3重トランジット・エコー(TTE)を有するLoveモードSH−SAWセンサの場合、位相周波数応答は、次式で与えられた。
【数3】
【0025】
ここで、fとωは、周波数と角周波数を表わし、Lは、入力の中心と出力IDTの中心との距離であり、β=α2であって、αは入出力IDTの反射係数である。βが小さく、周波数応答により決定できるため、一般性を失うことなくβをゼロであると仮定できる。このように、位相周波数応答の場合、TTEを含まない場合だけを考えれば十分である。位相周波数応答は、従って、次式で与えられる。
【数4】
【0026】
従って、−π<ψ(f)≦π(ラジアン単位)、または、−180<ψ(f)≦180(度単位)である。
【0027】
【数5】
【0028】
例えば、f=103MH、v0=4000 m/s且つL=8.8mmであるならば、|Δv|≧17.5747m/sに対して、
【数6】
【0029】
この理由により、本発明は位相周波数応答の識別されたセグメントに基づいて、SAWセンサを通過する伝播速度を推定する技術を提供する。伝播速度は、後述するように、SAWセンサを通過する時間遅延だけに関係する。本発明による方法は、表面弾性波センサの位相周波数応答の適当なセグメントを識別するステップと、識別された周波数応答に基づいて、表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するステップとを含んでいてよい。
【0030】
図2は、SAWセンサ10と、SAWセンサ10からの測定値を取得するセンサ・アナライザ21とを備えるシステム20を示すブロック図である。システム20はまた、SAWセンサ10の出力を解釈するプロセッサ22を含んでいる。換言すれば、センサ・アナライザ21はSAWセンサ10から出力を受信して、プロセッサ22に入力を提供することによりSAWセンサ10の出力を解釈可能にする。
【0031】
プロセッサ22はセンサ・アナライザ21から、SAWセンサ10を通過する波動伝播に関連付けられた測定値を備える入力を受信する。プロセッサ22は次いで、SAWセンサ10が検出すべく設計されている特定の細菌または他の物質の存在をSAWセンサ10が検出したか否かを判定する。プロセッサ22は、本明細書に記述するプロセッサ向けの各種の技術および機能を実現すべく命令を実行する。SAWセンサ10はカートリッジ等に収納されていてよく、スロットへカートリッジを挿入することによりセンサ・アナライザ21に電気的に接続されていてよいが、本発明はこの点に限定されない。プロセッサ22は、センサ・アナライザ21と同じ装置に収納されていても、あるいは別個の装置または別個のコンピュータの一部であってもよい。
【0032】
プロセッサ22はまた、本開示に示すものと整合する伝播速度ルーチン25を格納するメモリ24に接続されていてよい。あるいは、伝播速度ルーチン25は、プロセッサ22内のハードウェアに実装されていてもよい。いずれの場合でも、プロセッサ22は、本明細書に記述するように、識別された周波数応答に基づいて表面弾性波センサを通って伝播する波に付随する時間遅延を推定すべく伝播速度ルーチン25を実行する。
【0033】
例えば、プロセッサ22は、メモリ24に格納されたソフトウェアを実行する汎用マイクロプロセッサを含んでいてよい。その場合、プロセッサ22は専用に設計されたコンピュータ、汎用パソコン、ワークステーション、ハンドヘルド・コンピュータ、ラップトップ・コンピュータ等の内部に収納されてよい。あるいは、プロセッサ22は特定用途向け集積回路(ASIC)または他の専用に設計されたプロセッサを含んでいてよい。いずれの場合も、プロセッサ22は本明細書に記述するように、識別された周波数応答に基づいて表面弾性波センサ10を通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定すべく伝播速度ルーチン25を実行する。
【0034】
メモリ24は、プロセッサ22により適用されるプロセッサ実行可能なソフトウェア命令を格納するコンピュータ可読媒体の一例である。例えば、メモリ24はランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ等を含んでいてよい。以下に数学的に記述されたような伝播速度ルーチン25はメモリ24に格納されていて、SAWセンサ10の出力の解析に用いられる、より大規模なソフトウェア・プログラムの一部を形成していてもよい。例えば、伝播速度ルーチン25はLabViewソフトウェア・プラットフォーム内のプログラムされたサブルーチンであってよく、以下により詳しく詳述する。
【0035】
図3は、本発明の一実施形態による技術を示すフロー図である。図3に示すように、液体がSAWセンサ10の表面と接触させられる(31)。液体は、細菌テストが必要な物質のサンプルを含んでいてよい。例えば、液体は、関心対象である細菌に応答する抗体を備えるSAWセンサ10(図1)の導波層18の表面を流れるようになっている。SAWセンサ10は、例えば、液体がカートリッジ内へ誘導されて、液体経路を経て導波層18へ流れ込むことができるように、導波層18の表面上の液体経路を規定するカートリッジに収納されていてよい。
【0036】
プロセッサ22は、センサ・アナライザ21によりSAWセンサ10から取得された測定値を受信して、メモリ24に格納されている伝播速度ルーチン25を適用する。その際、プロセッサ22はSAWセンサ10の位相周波数応答のセグメントを識別し(32)、識別された周波数応答に基づいて、SAWセンサ10を通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定する(33)。いくつかの実施形態において、推定された時間遅延から導かれた推定伝播速度を用いて、液体中の細菌その他の物質の濃度を識別することができる(34)。
【0037】
表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定する多くの数学的技術について以下に述べる。τ=L/vは、距離Lを隔てられた入力IDTの中心と出力IDTの中心との間の時間遅延を指す。分散的なケースにおいて、時間遅延はまた周波数の関数でもある。すなわち、τ(f)=L/v(f)である。φ(f)(度単位)の定義から、以下が得られる。
【数7】
【0038】
任意の与えられたランニング周波数f0(動作周波数とも呼ばれる)に対して、ランニング周波数f0に近接する2種の位相屈折周波数f1、f2が存在して、以下が成り立つ。
【0039】
(1)f1≦f0<f2
(2)φ(f1)=180、φ(f2−0)=−180且つφ(f2)=φ(f2+0)=180
(3)f1τ(f1)=[f1τ(f1)]、f2τ(f2)=[f2τ(f2)]且つ[f2τ(f2)]=[f1τ(f1)]+1
(4)任意のf1≦f<f2に対して、[fτ(f)]=[f1τ(f1)]
【0040】
図4は、SAWセンサの例証的な周波数応答を示すグラフである。図4においてラベル付けされているのは例証的なランニング周波数f0、典型的な第一位相屈折周波数f1、典型的な第二位相屈折周波数f2である。再び、任意のf1≦f<f2に対して、[fτ(f)]=[f1τ(f1)]である。従って、f1≦f<f2に対して、
【数8】
【0041】
基本的微分方程式を用いて、τ(f)の以下の特性を証明することができる。
命題1:f∈[f11,f22)⊆[f1,f2)に対してφ(f)がfに関して線形であるならば、τ(f)は定数であり、且つf∈[f11,f22)⊆[f1,f2)に対して次式が成立する。
【数9】
【0042】
命題2:φ(f)が(f1,f2)において微分可能、且つf1について右微分可能であると仮定すると、
【数10】
【0043】
ここで、時間遅延τ(f)を推定するアルゴリズムまたはルーチンについて議論する。命題2から、伝播速度ルーチン25の一部として以下のアルゴリズムを用いて、τ(f)の推定を得ることができる。
【0044】
[0001] アルゴリズム1:f00=f1且つ
【数11】
【0045】
ここで、f0はランニング周波数であり、この説明ではfrunとも表記される。
【0046】
アルゴリズム2:f00=f*、例えばφ(f*)=±90である。f*の周辺で10個の周波数f(1),f(2),...,f(10)を取って、(f(1),φ(f(1))),(f(2),φ(f(2))),...,(f(10),φ(f(10)))の線形回帰を求める。
【数12】
【0047】
アルゴリズム3:f00=f0=frunである。f0の周辺で10個の周波数f(1),f(2),...,f(10)を取って、(f(1),φ(f(1))),(f(2),φ(f(2))),...,(f(10),φ(f(10)))の線形回帰を求める。
【数13】
【0048】
φ(f1)=180、φ(f2−0)=−180であるため、
【数14】
【0049】
実際に測定された位相応答の場合、φ(f)は周波数fのサンプリング点でしか与えられない。すなわち、φ(f)はセグメント[f1,f2)において連続関数ではなく、離散的なシーケンスである。更に、φ(f1)およびφ(f2)は各々180および−180に等しくないが、φ(f1−Δf)<0、φ(f1)>0、φ(f2)<0且つφ(f2+Δf)>0であり、ここで、Δfは周波数領域におけるサンプリング間隔である。推定精度を向上させるには、Δfはなるべく小さくなければならず、線形回帰を用いて[f1,f2)から[fnew1,fnew2)にφ(f)を外挿してφ(fnew1)=180且つφ(fnew2−0)=−180であるようにできる。外挿されたφ(f)に対して、
【数15】
【0050】
特に、伝播速度を推定する上述のアルゴリズムは、SH−SAWセンサの測定された周波数応答の適当なセグメントに基づくだけである。少なくともこの方法で本アルゴリズムは従来の方法とは異なる。従来の方法は、何らかの時間領域機器によりセンサの時間遅延またはIDTのいくつかの突起間での時間遅延を測定することができる。あるいは、従来の方法は、位相周波数応答全体、振幅周波数応答、および逆のフーリエ変換に基づいていてもよい。対照的に、本明細書に記述する技術は、SH−SAWセンサの測定された周波数応答のセグメント、すなわち本明細書の記述のように識別可能な適当なセグメントだけに基づいている。
【0051】
アルゴリズム1は、オンライン速度測定用にソフトウェア・プラットフォームLabViewに実装されている。LabViewは、米国ナショナル・インスツルメンツ社(National Instruments,Inc.)から販売されているソフトウェア・プログラムである。検出器としてSAWセンサを用いることは一般に、特定の表面撹乱の有る/無いセンサの伝播特性の比較に基づく。そのような比較は動的または静的に行なうことができる。
【0052】
動的比較を行なう場合、センサの伝播特性を時系列として測定される。静的比較を行なう場合、センサは2個のチャネル、すなわち基準チャネルおよび検出チャネル(動作中チャネルとも呼ばれる)で構成されている必要がある。例えば、基準チャネルはIDT15と17(図1)の間の基準セグメントに対応しているが、検出チャネルはIDT14と16の間の動作中の部分に対応していてよい。表面撹乱は検出チャネルにおいて生起する。その場合、センサの2個のチャネルの伝播特徴が測定される。SH−SAWセンサの伝播特性の測定値がセンサを検出器として使用する際の基準である。
【0053】
共鳴周波数fresonanceおよび伝播速度vは最も直接的な伝播特徴の二つであり、Δv/vは表面撹乱に対するΔf/fより感度が高い。従って、伝播速度の測定により、SH−SAWセンサを検出器として効率的に使用するための改良方法を提供することができる。対照的に、従来の技術は通常、センサ・アナライザにより、SH−SAWセンサの対数振幅応答A(f)および位相応答φ(f)を測定し、測定された位相周波数応答からランニング周波数における位相を読み出す。SH−SAWセンサの伝播速度を直接測定するためのルーチンの開発が、SH−SAWセンサの現実の適用に際して極めて重要になる。上に示すアルゴリズムは、測定された位相周波数応答の適当なセグメントから伝播速度を推定するためのソフトウェア・ベースの方法を提供し、例えば米国アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies,Inc.)から市販されている8753ETネットワーク・アナライザにより測定することができる。他の同様のネットワーク・アナライザを用いてもよい。
【0054】
LabViewは、センサ・アナライザとの通信、および当該モデルに基づく計算の両方を簡単に行なえる方法として選択された。本明細書に記述する技術の実行に関連付けられた例証的なLabView画面を図5に示す。入力は、センサ・アナライザの特別な解像度により一部規定され、最小および最大周波数(センサ・アナライザ上の合計1600個のデータ点に等しい)およびランニング周波数を含んでいる。
【0055】
LabViewからの出力により、結果の様々に解釈することができる。図のLabView画面に示す大多数のプロットについて、2種の出力があり、一つは測定センサを表し、他の一つは基準センサを表わす。LabViewにおいて、位相と速度のプロットを用いて、センサが確実に動作しているか否かを判定することができる。位相に雑音が増えるか、または振幅が約20dBを超えて減少したならば、センサは不調であるとみなされて廃棄される。
【0056】
位相ヒストグラムのプロットは、センサ品質の別の尺度として用いることができ、位相プロット線の非線形性に関する。速度のプロットは、本明細書に記述する技術による推定の結果を提供する。
【0057】
ランニング周波数における強度と位相のプロットが採取されて、時間に対してプロットされる。最後に、温度およびアナ対数値が出力されて、時間に対してプロットされる。位相周波数応答の適当なセグメントから速度を計算すべく、LabView内で内部サブVIを用いる。第一のステップで、全ての+180および−180度位相点を計算する。換言すれば、位相屈折周波数を決定するために、本技術はランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答のサンプリングを行ない、当該複数の位相応答の関数として位相屈折周波数を推定することができる。
【0058】
連続的な周波数と、その離散的実現値との間の速度表現の差異を上で議論した。しかし、上の第一ステップはまた、LabViewのアルゴリズム1を実行する間に適用することができる。センサ・アナライザの周波数の解像度が限られている場合、−180〜180度の位相遷移に関するデータは下記のものと同様であってよい。
【0059】
−175.97,−176.866,−177.761,−178.657,−179.552,179.5522,178.6567,177.7612,176.8657,175.9701,
【0060】
外挿された線形フィットを用いて、ちょうど−180および180度である位相点を発見することができる。例証的な+180および−180度位相点の描画を図6に示す。図7に、正確な−180および180度位相を発見すべく両側へ外挿された線形フィットの利用を例示する。図7からわかるように、f1、f2の値およびランニング周波数φ(f0)における位相を計算することができる。しかし、LabViewではフォーマットが異なるため、上で導いたモデルとは異なる表記法を用いる必要があろう。例えばLabViewでは、
【0061】
Tau_Fr =(((F1/(F2−F1))*360)−Pha_Fr+180)/F_run*1000000*360) (F_runがヘルツに変換済み)
【0062】
次いで、
V_Fr=(L*0.001)/Tau_Fr (Lはミリメートルからメートルに変換済み)
【数16】
【0063】
LabViewの別のアプリケーションを用いて、格納されている位相ファイルを取り出して速度データを再構築することが可能である。位相データは次いで、上述と全く同じモデルを用いて変換することができる。このように、得られた速度と関連してランニング周波数を変える影響が見ることができる。LabViewにより、2個のランニング周波数(0.1MHzの差で)を同時に評価することができる。利点として、位相屈折周波数は、位相対周波数のグラフの単調に変化する部分集合の表面弾性波センサの端を規定する。このように、本明細書に記述する技術は、センサによる物質の識別だけでなく、物質の濃度の表示をも可能にする。
【実施例1】
【0064】
実験に用いたLoveモードSH−SAWセンサは、米国サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories, USA)から提供された103MHzで動作するLiTaO3機器であった。低壁フローセルをセンサの上部に配置して、pH7.5のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液で満たした。当該液体容器は、緩衝液の流れを遅くすることができるようにシリンジポンプ系に接続されていた。実験を行なう間、0.05mg/mlのウシ血清アルブミン%(BSA)タンパク質の250マイクロリットルの複数のアリコートを指定時刻に細胞内へ注入した。米国アジレント・テクノロジーズ社(Agilent Technologies Inc., USA)から販売されている8753ETネットワーク・アナライザにより、ほぼ20秒毎にセンサの対数振幅および位相応答を測定した。その結果生じた位相応答に基づいて、動作周波数における位相の時間に対する曲線が直ちに得られた。次いでアルゴリズム1を用いて、動作周波数における時間毎の伝播速度を計算した。図8、9は実験の時間経過に沿って各々プロットした位相応答および伝播速度を示す。速度の時間に対する曲線の谷は、非常にゆっくり流れる緩衝液流にBSAが注入された時点と正確に対応している。位相の時間に対する曲線と比較して、伝播速度の計算からはLoveモードSH−SAWセンサの表面への質量負荷に関するより多くの詳細な情報が得られ、その結果質量負荷および粘性に対する感度が向上する。
【実施例2】
【0065】
この例では、検出中の細菌の3種の別々の濃度を用いた。第一の細菌濃度は103cfu/ml(1ミリリットル当たりの単位を形成するコロニー)であり、結果を図10、11に示す。第二の細菌濃度は105cfu/mlであり、結果を図12、13に示す。第三の細菌濃度は107cfu/mlであり、結果を図14、15に示す。
【0066】
特に、図10、12、14のグラフは、指定濃度におけるΔv/v0は対時間を示し、図11、13、15のおよびグラフは指定濃度におけるΔφ/φ0は対時間を示す。
【0067】
質量負荷測定用にSH−SAWセンサを使用する通常の方法は、センサが基準チャネルおよび検出チャネルの2個のチャネルを備えるということである(本明細書では検出チャネルをセンサの「動作中のチャネル」または「動作中のセグメント」とも呼ぶ)。基準チャネルにおいて、センサの表面は極めて安定している一方、検出チャネルでは撹乱されている。2個のチャネルの伝播特性を測定して比較することにより、検出チャネルにおける質量負荷から生じる撹乱を検出することができる。2個のチャネルの伝播特徴の違いを記述するために利用できインジケータ機能が添加された物質の質量に関して単調である場合、質量負荷の存在を検出して定量化することができる。検出用のインジケータ機能としてΔv/v0を用いる方が、Δφ/φ0を用いるよりも良いことが上で示されている。
【0068】
本例は、実際の実験から当該結論の正当性を示すものである。本実験において、検出チャネルの表面には、特定の濃度で細菌が含有されていた。実験において使用した細菌の濃度は各々、103、105および107cfu/mLである。検出チャネルへの細菌注入から逆洗までの遅延は約20分であった。各々の細菌濃度におけるΔv/v0およびΔφ/φ0の時間に対する曲線を図10〜15に示し、2個のチャネルの伝播速度の計算は上述のアルゴリズムに基づいている。本例での実験は抗体を含まない点を指摘しておく。細菌は、サッカリン固定化層である表面化学物質に直接結合されていた。
【0069】
定常状態におけるΔv/v0およびΔφ/φ0が各々の細菌濃度について上述の曲線から抽出された。Δv/v0の対数濃度に対する関係およびΔφ/φ0の対数濃度に対する関係を各々図16、17に示す。
【0070】
実験結果は3種の異なる細菌濃度のものでしかないが、明らかに、Δφ/φ0は細菌濃度に関して単調ではない。これはまた、Δφ/φ0が、ダイナミックレンジが大きい質量負荷を定量的に検出するための適当なインジケータではないという結論の正当性を示す。
【実施例3】
【0071】
本実験で用いたLoveモードSH−SAWセンサは、米国サンディア国立研究所から提供された103MHzで動作するLiTaO3機器であった。実験を行なう間、センサの表面は以下の通りであった。
【0072】
1.空気中に約20分間静置
2.緩衝液中に約30分間静置
3.緩衝液中の細菌に約18分間接触
4.短時間洗浄して、約20分間の緩衝液に静置
5.純水に約30分間接触
【0073】
細菌は表面に取り付けられる抗体に結合されていた。図18は動作周波数における伝播速度の時間に対するグラフであり、図19は動作周波数における位相の時間に対するグラフである。伝播速度は、上述のアルゴリズム1を用いて計算した。図18、19において、破線の垂直線は、上で詳述したセンサの各種の表面条件の持続時間を規定する。
【0074】
図18の速度の時間に対するグラフを見れば、本実験のプロセスと結果がより簡単に理解できよう。センサの表面弾性波の伝播速度は、181で示すように表面が空気中にあるときよりも速い。緩衝液を注入すると、速度は減少し、182で示すように定常状態に落ち着いた。一定量の細菌を加えると、速度は183で示すように再び低下した。短時間の洗浄では細菌を除去されず、センサ表面に取り付けられた抗体に吸着された。従って、前の状態におけるのと同様に洗浄中の速度を184に示す。最後に、185に示すように表面状態が、吸着された細菌から水へ変化したため、表面弾性波センサの速度は増加した。極めて対照的に、図19に示す位相の時間に対する曲線に基づく実験プロセスおよび結果を理解して説明することは困難である。
【実施例4】
【0075】
本実験で用いたLoveモードSH−SAWセンサは、米国サンディア国立研究所から提供された103MHzで動作するLiTaO3機器であった。低壁フローセルをセンサの上部に配置して、pH約7.5のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液で満たした。当該液体容器は、緩衝液の流れを遅くすることができるようにシリンジポンプ系に接続されていた。実験を行なう間、各種濃度のウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質の250マイクロリットルの複数のアリコートを指定時刻に細胞内へ注入した。タンパク質の注入は、以下の表1に準拠する。表1において、BSAはウシ血清アルブミンを指し、IgGは免疫グロブリンを指す。
【0076】
【表1】
【0077】
例1で述べたように、米国アジレント・テクノロジーズ社から販売されている8753ETネットワーク・アナライザにより、ほぼ20秒毎にセンサの対数振幅および位相応答を測定した。有効チャネルに対するこれらの位相周波数応答の適当なセグメントおよび上で提案したアルゴリズム1に基づいて、ランニング周波数における位相対時間および伝播速度対時間の両方の曲線が得られた。図20は結果的に得られた位相対時間のグラフであり、一方、図21は結果的に得られた伝播速度対時間のグラフである。
【0078】
BSA注入の場合における伝播速度(m/s)対時間(時間領域内てのサンプリング点)の曲線の詳細を図22〜24に示す。曲線の谷の位置は、表1に掲載した注入時点に極めて近い。図23において、ラベルは以下のものに対応している。
【0079】
(1)(737の)BSA .05mg/ml
(2)(783の)BSA .025mg/ml
(3)(816の)BSA .0125mg/ml
(4)(854の)BSA .0333mg/ml
(5)(888の)BSA .04mg/ml
(6)(916の)BSA .05mg/ml
(7)(948の)BSA 0.00625mg/ml
(8)(994の)BSA 0.003125mg/ml
(9)(1023の)BSA .05mg/ml
【0080】
Δv/vをより正確に推定すべく、BSAの注入時点周辺で速度の曲線のいくつかのセグメントを用いる。一例を図26に示す。この場合、推定された注入時点は、時間領域における第952番目のサンプリングである。図26に示すこのセグメントから、谷の稜線が決定されて、速度v0およびv1が推定される。次いで、この注入におけるΔv/v=(v1−v0)/v0が計算され、この場合Δv/v=−0.0056である。図25に、φの曲線の対応するセグメントを示す。図25のグラフからの当該注入のΔφ/φを決定するのは困難である。
【0081】
図27〜30に更に多くの例を示す。特に、図28、30は推定された注入時点周辺でのvの曲線のセグメントを示し、図27、29にφの曲線の対応するセグメントを示す。図28、30における計算された(Δv/v)は各々、は−0.0201および−0.0197である。図27、29からΔφ/φを決定するのは依然として困難である。
【0082】
BSAされた注入時点周辺でのΔv/vのより正確な推定値を表1に掲載している。結果的に得られたΔv/vと、表1に掲載した同一注入時点で注入されたBSAの既知濃度との対比を図31に丸印で示す。0.05mg/mlの濃度に対応して、7個の重複する(Δv/v)が存在する。
【0083】
最も大きいΔv/vに対応する丸印を調べることができる。図31の曲線は、丸印を接続することで得られる。図31の曲線は単調である。更に、図31の曲線の単調性から、速度と較正の曲線で測定できるΔv/vを用いることにより、注入されたBSAの濃度が[0.003125,0.05]mg/mlの範囲にあれば、注入されたBSAの濃度をセンサが更に検出できることを示す。
【0084】
SH−SAWセンサの伝播特性の測定は、検出器としてセンサを使用する際の基本である。共鳴周波数fresonanceおよび伝播速度vは、2個の直接的な伝播特性であり、Δv/vは表面撹乱に対してΔf/fよりも感度が高い。従って、伝播速度の測定は、検出器としてSH−SAWセンサを効率的に使用するための好適な指標である。
【0085】
対照的に、従来の方法はセンサ・アナライザにより、SH−SAWセンサの対数振幅周波数応答A(f)および位相周波数応答φ(f)を測定し、次いでランニング周波数における位相を読み出すものである。検出におけるΔφまたはΔφ/φの重大な制約は上で述べた。SH−SAWセンサの伝播速度を直接測定するためのハードウェアおよび/またはソフトウェアを開発することにより、SH−SAWセンサの実用的に応用することができる。従来の3重トランジット・エコー(TTE)技術を用いたSH−SAWセンサのシステムモデルに基づいて、センサ・アナライザにより測定された位相周波数応答の適当なセグメントから伝播速度を推定するいくつかのアルゴリズムが提示されてきた。第一のアルゴリズム(アルゴリズム1)はまた、オンライン速度測定用にソフトウェア・プラットフォームLabViewに実装された。
【0086】
従来の位相に基づく、または位相シフトに基づく方法と比較して、本明細書に記述する技術は位相に含まれる情報が一切失われない。また、位相アンビギュイティを解決するため、本明細書に記述する技術は、従来技術に比べてSH−SAWセンサの表面状態に関してはるかに多くの詳細情報を抽出することができる。更に、上の例で広いダイナミックレンジにわたる濃度について、液体質量負荷の濃度に対するΔv/vの曲線の単調性を示した。これは、従って、SH−SAWセンサを用いて実際に質量負荷を定量的に検出するための基礎となる。対照的に、液体質量負荷の濃度に対するΔφ/φの曲線の場合、曲線の単調性は濃度が薄い場合にしか見られない。
【0087】
本発明の各種の実施形態について述べてきた。特に、表面弾性波センサを通過する伝播速度を推定する技術について述べてきた。これらの技術は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア等で実装することができる。例証的なハードウェア実装には、汎用マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)、専用設計ハードウェア部品、またこれらの任意の組み合せによる実装が含まれる。また、本明細書に記述した一つ以上の技術は、部分的にまたは完全にソフトウェアで実行することができる。その場合、コンピュータ可読媒体がコンピュータ可読な命令、すなわち、プロセッサにより実行可能である、または上述の技術の一つ以上を実行するプログラムコードを格納または別途包含していてよい。これらの技術は、一定時間遅延(非分散的な場合)および周波数依存時間遅延(分散的な場合)の両方で利用することができる。
【0088】
例えば、コンピュータ可読媒体はランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、不揮発性RAM(NVRAM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ等を含んでいてよい。これらおよび他の実施形態は添付の請求項の範囲内にある。
【0089】
本発明の機器を被覆するのに適した方法は、本出願人の米国同時係属出願第10/607,698号明細書(2003年6月27日出願)を含んでいる。
【0090】
本発明は、以下に掲載する各種の米国特許出願(その各々の全文を引用している)に記述されているように、各種の物質、方法、システム、装置等と組み合わせて利用することができる。これらは、米国特許出願第60/533,162号明細書(2003年12月30日出願)、同第60/533,178号明細書(2003年12月30日出願)、同第10/896,392号明細書(2004年7月22日出願)、同第10/713,174号明細書(2003年11月14日出願)、同第10/987,522号明細書(2004年11月12日出願)、同第10/714,053号明細書(2003年11月14日出願)、同第10/987,075号明細書(2004年11月12日出願)、同第60/533,171号明細書(2003年12月30日出願)、同第10/960,491号明細書(2004年10月7日出願)、同第60/533,176号明細書(2003年12月30日出願)、同第60/533,169号明細書(2003年12月30日出願)、本願と同日出願の_____________「細胞の細胞壁成分の信号検出を向上させる方法」(代理人整理番号:59467US002)、本願と同日出願の__________「アミン捕捉剤としての可溶なポリマーおよび方法」(代理人整理番号:59995US002)、本願と同日出願の___________「多機能アミン捕捉剤」(代理人整理番号:59996US002)、本願と同日出願のPCT出願__________「表面弾性波センサ・アセンブリ」(代理人整理番号:58928WO003)、本願と同日出願のPCT出願____________「音響機械的検出システムおよび方法」(代理人整理番号:59468WO003)、本願と同日出願のPCT出願__________「検出カートリッジ、モジュール、システムおよび方法」(代理人整理番号:60342WO003)、本願と同日出願のPCT出願__________「音響センサおよび方法」(代理人整理番号:60209WO003)である。
【0091】
本明細書において引用した特許、特許出願、特許文献および刊行物の完全な開示は、あたかも各々が個別に引用された如く、その全文を引用している。本発明に対する各種の変形および変更等は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者にとって明らかになる。本発明が、本明細書に記述した例証的な実施形態により過度に限定されることを意図しておらず、そのような実施形態が例示目的でのみ示されていて、本発明の範囲は特許請求の範囲だけにより限定されることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の1個以上の実施形態で利用できる例証的な表面弾性波(SAW)センサを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態によるシステムを示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による技術を示すフロー図である。
【図4】SAWセンサの例証的な位相周波数応答のグラフを示す図である。
【図5】本明細書に記述する技術の実装に関連付けられた例証的なLabView画面を描いた図である。
【図6】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図7】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図8】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図9】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図10】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図11】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図12】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図13】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図14】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図15】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図16】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図17】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図18】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図19】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図20】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図21】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図22】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図23】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図24】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図25】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図26】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図27】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図28】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図29】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図30】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【図31】本発明に従い利用可能な技術および従来技術で認識されている特徴に関して認識可能な各種の望ましい特徴のグラフを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別するステップと、
前記位相周波数応答の識別されたセグメントに基づいて、前記表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するステップと、を備える方法。
【請求項2】
前記位相周波数応答のセグメントを識別するステップが、前記表面弾性波センサに付随するランニング周波数に近接する第一および第二の位相屈折周波数を決定するステップを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
位相屈折周波数を決定するステップが、
前記ランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、前記ランニング周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、位相屈折周波数を最初に推定するステップと、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングするステップと、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数をより正確に推定するステップと、を備える、請求項2の方法。
【請求項4】
前記第一および第二の位相屈折周波数が、前記表面弾性波センサの位相対周波数のグラフの単調変化する部分集合の稜線を規定する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記時間遅延を概ね次式、
【数1】
f0はランニング周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの周波数f0において測定された位相応答である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記時間遅延を概ね次式、
【数2】
f0はランニング周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、f*は第一の位相屈折周波数と第二の位相屈折周波数との間の任意の周波数、φ(f*)は周波数f*において測定された位相周波数応答、
【数3】
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記時間遅延を概ね次式、
【数4】
は周波数f0において測定された位相応答の一次導関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記時間遅延を概ね次式、
【数5】
に等しく、
ここで、φ(f)は周波数fにおいて測定された位相応答であってfはf1からf2まで変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記推定された時間遅延から、前記表面弾性波センサを通過する表面弾性波の伝播速度を次式、
【数6】
Lは入力櫛形トランスデューサ(IDT)および出力IDTの中心同士の距離である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記表面弾性波センサの表面に液体を接触させるステップと、
前記液体中の物質の濃度を、推定伝播速度の関数として識別するステップを更に備え、但し推定伝播速度は前記推定時間遅延に基づいて推定されている、請求項1の方法。
【請求項11】
前記表面弾性波センサがLoveモードSH表面弾性波センサを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
プロセッサ内で実行された際に、
表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別し、
前記識別された周波数応答に基づいて、前記表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定する命令を備えるコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
実行された際に、前記表面弾性波センサに付随するランニング周波数に近接する第一および第二の位相屈折周波数を決定することにより、位相周波数応答のセグメントを識別する命令を更に備える、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
実行された際に、
前記ランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、前記ランニング周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、位相屈折周波数を最初に推定し、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数をより正確に推定することにより、離散的位相周波数応答に対する位相屈折周波数を決定する命令を更に備える、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
前記第一および第二の位相屈折周波数が、前記表面弾性波センサの位相対周波数のグラフの単調変化する部分集合の稜線を規定する、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項16】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数7】
f0はランニング周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの前記ランニング周波数f0において測定された位相応答である、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項17】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数8】
f0はランニング周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、f*は第一の位相屈折周波数と第二の位相屈折周波数との間の任意の周波数、φ(f*)は周波数f*において測定された位相周波数応答、
【数9】
は周波数f*において測定された位相周波数応答の一次導関数である、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項18】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数10】
は周波数f0において測定された位相応答の一次導関数である、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数11】
f0は動作周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、積分
【数12】
に等しく、ここで、φ(f)は周波数fにおいて測定された位相応答であってfはf1からf2まで変化する、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
実行された際に、前記推定された時間遅延から、前記表面弾性波の伝播速度を次式、
【数13】
Lは入力櫛形トランスデューサ(IDT)および出力IDTの中心同士の距離である、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項21】
実行された際に、液体中の物質の濃度を、推定伝播速度の関数として識別する命令を更に備え、但し推定伝播速度は前記推定時間遅延に基づいて推定されている、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項22】
前記表面弾性波センサがLoveモードSH表面弾性波センサを備える、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項23】
表面弾性波センサと、
前記表面弾性波センサの出力を受信するセンサ・アナライザと、
前記センサ・アナライザからの入力を受信し、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別して、前記位相周波数応答の識別されたセグメントに基づいて、前記表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するプロセッサと、を備えるシステム。
【請求項24】
前記プロセッサが、前記表面弾性波センサに付随するランニング周波数に近接する第一および第二の位相屈折周波数を決定することにより、位相周波数応答のセグメントを識別する、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記プロセッサが、
前記ランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、前記ランニング周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数を最初に推定し、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数をより正確に推定することにより、位相屈折周波数を決定する、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記第一および第二の位相屈折周波数が、前記表面弾性波センサの位相対周波数のグラフの単調変化する部分集合の稜線を規定する、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数14】
f0はランニング周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの前記ランニング周波数f0において測定された位相応答である、請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数15】
f0はランニング周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、f*は第一の位相屈折周波数と第二の位相屈折周波数との間の任意の周波数、φ(f*)は前記ランニング周波数f*において測定された位相周波数応答、
【数16】
は前記ランニング周波数f*において測定された位相周波数応答の一次導関数である、請求項23に記載のシステム。
【請求項29】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数17】
は周波数f0において測定された位相応答の一次導関数である、請求項23に記載のシステム。
【請求項30】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数18】
f0は動作周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、積分
【数19】
に等しく、ここで、φ(f)は周波数fにおいて測定された位相応答であってfはf1からf2まで変化する、請求項23に記載のシステム。
【請求項31】
前記プロセッサが、前記推定された時間遅延に基づいて、前記表面弾性波の伝播速度を次式、
【数20】
Lは入力櫛形トランスデューサ(IDT)および出力IDTの中心同士の距離である、請求項23に記載のシステム。
【請求項32】
前記プロセッサが、前記推定された時間遅延に基づいて伝播速度を推定する、請求項23に記載のシステム。
【請求項33】
前記プロセッサが、液体中の物質の濃度を、前記推定された伝播速度の関数として識別する、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記表面弾性波センサがLoveモードSH表面弾性波センサを備える、請求項23に記載のシステム。
【請求項1】
表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別するステップと、
前記位相周波数応答の識別されたセグメントに基づいて、前記表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するステップと、を備える方法。
【請求項2】
前記位相周波数応答のセグメントを識別するステップが、前記表面弾性波センサに付随するランニング周波数に近接する第一および第二の位相屈折周波数を決定するステップを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
位相屈折周波数を決定するステップが、
前記ランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、前記ランニング周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、位相屈折周波数を最初に推定するステップと、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングするステップと、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数をより正確に推定するステップと、を備える、請求項2の方法。
【請求項4】
前記第一および第二の位相屈折周波数が、前記表面弾性波センサの位相対周波数のグラフの単調変化する部分集合の稜線を規定する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記時間遅延を概ね次式、
【数1】
f0はランニング周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの周波数f0において測定された位相応答である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記時間遅延を概ね次式、
【数2】
f0はランニング周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、f*は第一の位相屈折周波数と第二の位相屈折周波数との間の任意の周波数、φ(f*)は周波数f*において測定された位相周波数応答、
【数3】
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記時間遅延を概ね次式、
【数4】
は周波数f0において測定された位相応答の一次導関数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記時間遅延を概ね次式、
【数5】
に等しく、
ここで、φ(f)は周波数fにおいて測定された位相応答であってfはf1からf2まで変化する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記推定された時間遅延から、前記表面弾性波センサを通過する表面弾性波の伝播速度を次式、
【数6】
Lは入力櫛形トランスデューサ(IDT)および出力IDTの中心同士の距離である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記表面弾性波センサの表面に液体を接触させるステップと、
前記液体中の物質の濃度を、推定伝播速度の関数として識別するステップを更に備え、但し推定伝播速度は前記推定時間遅延に基づいて推定されている、請求項1の方法。
【請求項11】
前記表面弾性波センサがLoveモードSH表面弾性波センサを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
プロセッサ内で実行された際に、
表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別し、
前記識別された周波数応答に基づいて、前記表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定する命令を備えるコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
実行された際に、前記表面弾性波センサに付随するランニング周波数に近接する第一および第二の位相屈折周波数を決定することにより、位相周波数応答のセグメントを識別する命令を更に備える、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
実行された際に、
前記ランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、前記ランニング周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、位相屈折周波数を最初に推定し、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数をより正確に推定することにより、離散的位相周波数応答に対する位相屈折周波数を決定する命令を更に備える、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項15】
前記第一および第二の位相屈折周波数が、前記表面弾性波センサの位相対周波数のグラフの単調変化する部分集合の稜線を規定する、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項16】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数7】
f0はランニング周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの前記ランニング周波数f0において測定された位相応答である、請求項13に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項17】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数8】
f0はランニング周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、f*は第一の位相屈折周波数と第二の位相屈折周波数との間の任意の周波数、φ(f*)は周波数f*において測定された位相周波数応答、
【数9】
は周波数f*において測定された位相周波数応答の一次導関数である、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項18】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数10】
は周波数f0において測定された位相応答の一次導関数である、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項19】
実行された際に、前記時間遅延を概ね次式、
【数11】
f0は動作周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、積分
【数12】
に等しく、ここで、φ(f)は周波数fにおいて測定された位相応答であってfはf1からf2まで変化する、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
実行された際に、前記推定された時間遅延から、前記表面弾性波の伝播速度を次式、
【数13】
Lは入力櫛形トランスデューサ(IDT)および出力IDTの中心同士の距離である、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項21】
実行された際に、液体中の物質の濃度を、推定伝播速度の関数として識別する命令を更に備え、但し推定伝播速度は前記推定時間遅延に基づいて推定されている、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項22】
前記表面弾性波センサがLoveモードSH表面弾性波センサを備える、請求項12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項23】
表面弾性波センサと、
前記表面弾性波センサの出力を受信するセンサ・アナライザと、
前記センサ・アナライザからの入力を受信し、表面弾性波センサの位相周波数応答のセグメントを識別して、前記位相周波数応答の識別されたセグメントに基づいて、前記表面弾性波センサを通過する波動伝播に付随する時間遅延を推定するプロセッサと、を備えるシステム。
【請求項24】
前記プロセッサが、前記表面弾性波センサに付随するランニング周波数に近接する第一および第二の位相屈折周波数を決定することにより、位相周波数応答のセグメントを識別する、請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記プロセッサが、
前記ランニング周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、前記ランニング周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数を最初に推定し、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数において複数の位相応答をサンプリングして、
前記最初に推定した位相屈折周波数に近接する周波数における前記複数の位相応答の関数として、前記位相屈折周波数をより正確に推定することにより、位相屈折周波数を決定する、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記第一および第二の位相屈折周波数が、前記表面弾性波センサの位相対周波数のグラフの単調変化する部分集合の稜線を規定する、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数14】
f0はランニング周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの前記ランニング周波数f0において測定された位相応答である、請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数15】
f0はランニング周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、f*は第一の位相屈折周波数と第二の位相屈折周波数との間の任意の周波数、φ(f*)は前記ランニング周波数f*において測定された位相周波数応答、
【数16】
は前記ランニング周波数f*において測定された位相周波数応答の一次導関数である、請求項23に記載のシステム。
【請求項29】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数17】
は周波数f0において測定された位相応答の一次導関数である、請求項23に記載のシステム。
【請求項30】
前記プロセッサが、前記時間遅延を概ね次式、
【数18】
f0は動作周波数、f1は第一の位相屈折周波数、f2は第二の位相屈折周波数、φ(f0)は前記表面弾性波センサの測定された位相応答、積分
【数19】
に等しく、ここで、φ(f)は周波数fにおいて測定された位相応答であってfはf1からf2まで変化する、請求項23に記載のシステム。
【請求項31】
前記プロセッサが、前記推定された時間遅延に基づいて、前記表面弾性波の伝播速度を次式、
【数20】
Lは入力櫛形トランスデューサ(IDT)および出力IDTの中心同士の距離である、請求項23に記載のシステム。
【請求項32】
前記プロセッサが、前記推定された時間遅延に基づいて伝播速度を推定する、請求項23に記載のシステム。
【請求項33】
前記プロセッサが、液体中の物質の濃度を、前記推定された伝播速度の関数として識別する、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
前記表面弾性波センサがLoveモードSH表面弾性波センサを備える、請求項23に記載のシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2007−517228(P2007−517228A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547221(P2006−547221)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042793
【国際公開番号】WO2005/066622
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/042793
【国際公開番号】WO2005/066622
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】
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