説明

表面放出ガスサンプリング装置

【課題】 表面放出ガスの放出を阻害させず、かつ表面放出ガスのサンプリング結果について従来よりも精度を高められるようにする。
【解決手段】 少なくとも物体の表面の一部を覆うかまたは内部に入れた状態で容器内外のガスが流出入しないように出入口部で密着する保持部材(バッグ固定部48)を備えた貯留用容器(サンプリングバッグ34)と、保持部材による密着の圧力を検出する圧力センサ46と、当該密着の圧力を制御する圧力制御手段(プログラマブルコントローラ12)と、クリーンガスを貯留用容器に通気して残留ガスを追い出して洗浄するガス洗浄手段(12)と、残留ガスを追い出してから所定期間内に表面から放出された表面放出ガスを貯留用容器で貯留するガス貯留手段(12)と、所定期間を経過した後に貯留用容器から保存用容器(保存バッグ52)に表面放出ガスを導出するガス導出手段(12)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体(例えば人間,動物,植物,加工物等)の表面から放出された表面放出ガスを保存用容器に保存するための表面放出ガスサンプリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表面放出ガスは例えば人間,動物,植物,加工物等のような物体の表面から放出されるガスであり、人間(人体)の場合は皮膚から放出される皮膚放出ガスに相当する。この皮膚放出ガスは、抹消血管の血中成分に依存しているため、在宅医療や健康管理を行うにあたって臨床的な情報源となる。この皮膚放出ガスをサンプリング(採集,捕集)する際は、人体に負担を掛けないのが望ましい。こうした観点から従来では、開口部を有する容器に皮膚放出ガスを貯留させ、当該貯留された皮膚放出ガスを保存用容器に導出する技術が開示されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2002−195919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術では、貯留された皮膚放出ガスが容器から漏れないようにするために同容器を皮膚に密着させ続ける必要があり、例えばリストバンド等のような伸縮性部材を用いていた。ところが、伸縮性部材を用いた場合には過度に容器を皮膚に押し付けることが多いため、少なからず血行を阻害することがあった。このように血行が阻害されると、皮膚放出ガスが皮膚から放出されにくくなるため、サンプリング結果に誤差が生じてしまう。
また、容器の開口部を皮膚に最初に密着させた時点で同容器内に大気含有ガス(例えば窒素や酸素等)が存在するため、サンプリング結果に誤差が生じていた。
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、表面放出ガスの放出を阻害させず、かつ表面放出ガスのサンプリング結果について従来よりも精度を高められる表面放出ガスサンプリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)課題を解決するための手段(以下では単に「解決手段」と呼ぶ。)1は、物体の表面から放出された表面放出ガスを保存用容器に保存するための表面放出ガスサンプリング装置であって、少なくとも物体の表面の一部を覆うかまたは内部に入れることができ、当該覆った状態または入れた状態で容器内外のガスが流出入しないように出入口部で密着する保持部材を備えた貯留用容器と、前記保持部材による密着の圧力を検出する圧力センサと、前記圧力センサで検出した圧力が所定範囲内になるように、密着の圧力を制御する圧力制御手段と、前記表面放出ガスと反応しないクリーンガスを前記貯留用容器に通気し、残留ガスを追い出して洗浄するガス洗浄手段と、前記残留ガスを追い出してから所定期間内に物体の表面から放出された表面放出ガスを前記貯留用容器で貯留するガス貯留手段と、前記所定期間を経過した後、前記貯留用容器から前記保存用容器に表面放出ガスを導出するガス導出手段とを有することを要旨とする。
物体は表面からガスを放出し得るものであって、例えば人間,動物,植物,加工物等が該当する。保持部材による密着には保持の状態を含む。クリーンガスは洗浄とサンプリングに用いるガスであって、密閉容器(例えばボンベ)に封入されて提供される窒素ガスや酸素ガス等のように純度が高いガスや、空気等を浄化した清浄なガス等が該当する。
【0005】
解決手段1によれば、例えば人体の一部(例えば手,腕,脚,足等)などのように、少なくとも物体の表面の一部を覆うかまたは内部に入れた状態では保持部材が出入口部で密着する。この場合でも、圧力制御手段が圧力センサで検出した圧力が所定範囲内(例えば30〜40[mmHg]の空気圧の範囲内)になるように保持部材で密着する。また、保持部材が容器内外のガスが流出入しないように密着させ、かつ当該保持の状態でガス洗浄手段がクリーンガスを通気して残留ガスを追い出し洗浄するので、表面放出ガスのサンプリング結果について従来よりも精度を高められる。具体的には、1気圧または微加圧(例えば5[KPa]の空気圧)の状態でサンプリングを行い、表面放出ガスを導出する際には微減圧(例えば−5[KPa]の空気圧)に達すると導出を終える。このような所定範囲内での密着は血行を阻害させないので、結果として皮膚から放出される表面放出ガスへの影響も最小限に抑えられる。
さらに、圧力制御手段,ガス洗浄手段,ガス貯留手段,ガス導出手段によって表面放出ガスのサンプリングを自動的を行えるので、従来よりも操作が簡単になる。手動の場合に比べると、サンプリングを行う時間が正確になり、過不足なく適切な圧力で密着するので、表面放出ガスのサンプリング結果について精度を高められる。
【0006】
(2)解決手段2は、解決手段1に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、貯留用容器内の気圧を検出する気圧センサを有し、ガス導出手段は、前記気圧センサで検出した気圧が一定値以下になるように、前記貯留用容器から保存用容器に表面放出ガスを導出することを要旨とする。
【0007】
解決手段2によれば、貯留用容器から保存用容器にガスを導出する場合において、貯留用容器内の気圧は一定値に保たれる。例えば0[mmHg]や−10[mmHg]等のような低圧で保てば十分であるので、被験者(患者を含む。以下同様)の皮膚や負担をやわらげられる。
なお、貯留用容器から残留ガスを排出する場合等においても、貯留用容器内の気圧を一定値以下に保つように制御するのが望ましい。
【0008】
(3)解決手段3は、解決手段1または2に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、ガス洗浄手段による洗浄を始める前に保持部材による密着を行い、ガス貯留手段による貯留を経て、ガス導出手段による導出を終えた後に前記保持部材による密着を解除する制御を行う保持制御手段を有することを要旨とする。
【0009】
解決手段3によれば、ガス洗浄手段による洗浄を始めてからガス導出手段による導出を終えるまでの間は、保持制御手段が保持部材による密着を行う。洗浄を始める前や導出を行った後は、保持部材による密着を解除する。よって密着と解除のタイミングを図る必要がなくなるので、表面放出ガスのサンプリングを確実に自動化することができる。
【0010】
(4)解決手段4は、解決手段1から3のいずれか一項に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、貯留用容器内に存在する大気含有ガスの濃度を検出する濃度センサを有し、ガス洗浄手段は、前記濃度センサで検出した大気含有ガスの濃度が一定値以下になるまでクリーンガスを用いて洗浄を繰り返すことを要旨とする。
大気含有ガスは大気中に含有されるガスであって、汚染ガスを含み、クリーンガスとして用いるガスを除く。例えばクリーンガスに窒素を用いる場合は酸素等が該当し、クリーンガスに乾燥清浄空気を用いる場合は水蒸気(または水)等が該当し、大気中に大気汚染炭化水素ガスが存在する場合にはその大気中に含有する有機化合物のガス等が該当する。このように、大気含有ガスはクリーンガスの種類や大気中の含有物質に応じて異なる。
【0011】
解決手段4によれば、クリーンガスを用いた洗浄によって、濃度センサで検出した大気含有ガスの濃度が一定値(例えば10[mg/m])以下になれば、洗浄前に貯留用容器内に存在していたガスをほぼ追い出したことになる。したがって、クリーンガスが表面放出ガスと反応しない点を考慮すると、表面放出ガスのサンプリング結果について精度をさらに高めることができる。
【0012】
(5)解決手段5は、解決手段1から3のいずれか一項に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、貯留用容器内の湿度を検出する湿度センサを有し、ガス洗浄手段は、乾燥しているクリーンガスを用い、前記湿度センサで検出した湿度が一定値以下になるまで前記クリーンガスを用いて洗浄を繰り返すことを要旨とする。
【0013】
解決手段5によれば、乾燥しているクリーンガスを用いた洗浄によって、湿度センサで検出した湿度が一定値(例えば0.1[%])以下になれば、洗浄前に貯留用容器内に存在していたガスをほぼ追い出したことになる。したがって、クリーンガスが表面放出ガスと反応しない点を考慮すると、表面放出ガスのサンプリング結果について精度をさらに高めることができる。
【0014】
(6)解決手段6は、解決手段1から5のいずれか一項に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、貯留用容器は、各指を入れる指部と、指部の指先どうしを連結する第1連結部と、指部のつけ根どうしを連結する第2連結部とを備え、前記第1連結部と前記第2連結部とを交互に接続して通路を形成し、親指側および小指側のうちで一方側から他方側に向かって一方向にガスを流通させる構造としたことを要旨とする。
【0015】
解決手段6によれば、手袋状に形成した貯留用容器に手(または足)を入れて保持する。また、クリーンガス等のガスが一方向にガスが流通するので、洗浄時における残留ガスを少なく抑えることができ、サンプリング後における表面放出ガスを残すことなく保存バッグに導出することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、圧力センサで検出した圧力が所定範囲内になるように保持部材で密着するのでガスの放出を阻害させず、保持部材による密着の状態でガス洗浄手段がクリーンガスを用いて洗浄を行うので表面放出ガスのサンプリング結果が従来よりも精度を高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図10を参照しながら説明する。この形態は、表面放出ガスの一例として皮膚放出ガスに適用した例である。
【0018】
〔本発明の構成例〕
図1には、本発明を実現するための構成例を表す。本発明の表面放出ガスサンプリング装置は、サンプリング装置10、サンプリングバッグ34、保存バッグ52、クリーンガスバッグ54などを有する。サンプリング装置10は、サンプリングバッグ34で貯留した皮膚放出ガスを保存バッグ52に保存するための工程を自動的に行う(図4を参照)。サンプリング装置10の具体的な構成や作動等については後述する。サンプリングバッグ34は貯留用容器に相当し、人体の皮膚から放出された皮膚放出ガスを一時的に貯留する。サンプリングバッグ34の具体的な構成についても後述する。保存バッグ52は保存用容器に相当し、分析や検査等のために皮膚放出ガスを保存する。クリーンガスバッグ54には、クリーンガスが予め入れられている。
【0019】
サンプリング装置10の構成例について説明する。サンプリング装置10は、プログラマブルコントローラ12、ポンプ14,16、電磁弁18,20,22,24、配管L2,L4,L6,L8などを有する。プログラマブルコントローラ12は、オペレータや被験者等が操作する操作部12aとともに、後述するガス洗浄手段,ガス貯留手段,ガス導出手段,保持制御手段,圧力制御手段などを実現するためのモジュール(すなわち制御手順を記憶した記憶装置)を備える。このプログラマブルコントローラ12は、ポンプ14,16、電磁弁18,20,22,24などについて個別に作動を制御する。
【0020】
操作部12aは、図2に表すように、停止ボタン60、電源スイッチ62、スタートボタン64、内部洗浄ボタン66、時間調節ノブ68などを有する。停止ボタン60は吸引動作や排気動作を停止させる。電源スイッチ62はサンプリング装置10の電源をオン/オフする。スタートボタン64は皮膚放出ガスのサンプリングを開始する。内部洗浄ボタン66はサンプリング装置10の配管中に存在するガスを洗浄する。時間調節ノブ68はサンプリングを行う時間(所定期間に相当する)を調整する。図1に戻って、ポンプ14,16はガスの排気・供給・移動などを行う。
【0021】
配管L2はポンプ14とコネクタ32との間を接続し、途中に電磁弁24を配置する。配管L4はポンプ14とコネクタ30との間を接続し、途中に電磁弁20を配置する。配管L6はポンプ16とコネクタ32との間を接続し、途中に電磁弁22を配置する。配管L8はポンプ16とコネクタ30との間を接続し、途中に電磁弁18を配置する。なお配管L2と配管L6は、電磁弁22,24とコネクタ32との間で合流させている。同じく配管L4と配管L8は、電磁弁18,20とコネクタ30との間で合流させている。
【0022】
電磁弁18は配管L8の開閉を行う。電磁弁20,22,24には、三方の通路を切り換えられる弁を用いる。電磁弁20は配管L4の開閉またはガスの排出を行う。電磁弁22は配管L6の開閉またはガスの排出を行う。電磁弁24は配管L2の開閉またはガスの供給を行う。
【0023】
コネクタ30とサンプリングバッグ34(具体的にはコネクタ36)との間に配管L10を接続する。よって、サンプリングバッグ34はコネクタ30,36のいずれかで交換できる。サンプリングバッグ34の構成例については後述する。
また、コネクタ32と保存バッグ52(具体的にはコネクタ38)との間に配管L12を接続する。よって、保存バッグ52はコネクタ32,38のいずれかで交換できる。
さらに、コネクタ26とクリーンガスバッグ54(具体的にはコネクタ40)との間には配管L14を接続する。よって、クリーンガスバッグ54はコネクタ26,40のいずれかで交換できる。
なお、上述した各配管の材質・形状・寸法などは適宜に設定する。また各コネクタは、図示しないがバッグ内のガスを漏らさない手段(例えば二方コックや止め栓等)を有する。したがって、バッグとコネクタとの接続/解除は、バッグ内外のガスが流出入しない状態(すなわち二方コックや止め栓等で通路を閉鎖した状態)で行う。
【0024】
サンプリングバッグ34の構成例について説明する。サンプリングバッグ34は、大別してバッグ固定部48とバッグ貯留部50とからなる。バッグ固定部48はサンプリングバッグ34の出入口部に相当し、当該出入口部の大きさを変えられる可撓性部材48aを有する。可撓性部材48aはプログラマブルコントローラ12によって制御され、ガスの注入によって膨張し、当該ガスの排出によって収縮するように構成されている。具体的には、空気を用いて膨張/縮小するエアバッグが該当する。この構成によれば、通常時には可撓性部材48aを収縮させ、図3(A)に表すように人体の一部(本例では左手)を出し入れできる。可撓性部材48aを膨張させた密着時には、図3(B)に表すように左手を内部に入れた状態でサンプリングバッグ34内外のガスが流出入しないように密着する。なお、当該図3ではセンサ類(気圧センサ42,濃度センサ44,圧力センサ46)の図示を省略している。再び図1に戻って、バッグ貯留部50は人体の一部を内部に入れることができ、当該入れた部位の皮膚から放出される皮膚放出ガスを貯留する。
【0025】
またサンプリングバッグ34は、気圧センサ42や圧力センサ46などを備える。気圧センサ42は、サンプリングバッグ34内のガスの圧力を検出する。圧力センサ46は、バッグ固定部48を人体の一部に密着させる際の圧力を検出する。各センサは検出結果を電気信号によってプログラマブルコントローラ12に伝達する。また、各センサは機能を果たす限りにおいて設置部位を問わない。
【0026】
〔本発明の作動例〕
本発明の作動例について、図4〜図10を参照しながら説明する。なお、サンプリングバッグ34、保存バッグ52およびクリーンガスバッグ54は、図1に示すように各配管によって既にサンプリング装置10に接続されているものと仮定する。また、図3(A)に示すように被験者が手をサンプリングバッグ34に入れていると仮定する。さらに、図5〜図10の各図において太線で示す矢印はガスの流れを表す。
【0027】
まず、図4には皮膚放出ガスのサンプリングの手続き例をブロック図で表す。図4(A)には前処理を示し、図4(B)にはサンプリング処理を示し、図4(C)には後処理を示す。皮膚放出ガスのサンプリングは、オペレータが図2に示すスタートボタン64を操作すると開始される。
【0028】
図4(A)の前処理では、バッグ固定部48(具体的には可撓性部材48a)にガスを注入して図3(B)に示すように密着する〔ステップS2〕。このステップS2では、サンプリング装置10が圧力センサ46から出力される圧力を監視し、当該圧力が所定範囲内(例えば30〜40[mmHg]の空気圧の範囲内)に達するとガス注入を終える。ただし、何らかの事態が発生して注入中に停止ボタン60が操作されると、その時点で強制的にガス注入を終えるように制御される。よって、ステップS2は保持制御手段に相当するとともに、圧力制御手段にも相当する。
【0029】
図4(B)のサンプリング処理では、まず残留ガスを除去するためにガス排気を行い〔ステップS4〕、ガス洗浄を行うためのガス供給とガス排気を交互に2回ずつ繰り返し〔ステップS6〜S12〕、サンプリングを行うための準備としてサンプリング用のクリーンガスを供給し〔ステップS14〕、皮膚から放出された皮膚放出ガスを貯留するためのサンプリングを行い〔ステップS16〕、貯留した皮膚放出ガスを保存するためのガス移動を行う〔ステップS18〕。このサンプリング処理を行った後は、後述するように図4(C)に示すガス排出と、図4(D)に示すクリーニングを行う。
なお、ステップS4のガス除去時間t1は、例えば20秒間から1分間程度である。ステップS6〜S12はガス洗浄手段に相当し、洗浄時間t2は全体として例えば40秒間程度(すなわち各回のガス排気とガス供給とでそれぞれ10秒間程度)である。ステップS14のガス供給時間t3は、例えば5秒間から10秒間程度である。ステップS16はガス貯留手段に相当し、サンプリング時間t4は30秒間から10分間程度であり、多段階(例えば4段階)からなる時間調節ノブ68によって調整することができる。ステップS18はガス導出手段に相当する。
【0030】
ステップS4のガス排気は、図5に示す経路で行う。サンプリング装置10は、ポンプ14,16を駆動させ、電磁弁18,24でバッグからポンプに向けて流通させ、電磁弁20,22で各ポンプから送られたガスを排気させるように制御する。この制御によって、サンプリングバッグ34の残留ガスは電磁弁18→ポンプ16→電磁弁22を経て排気される。同様にして、保存バッグ52の残留ガスは電磁弁24→ポンプ14→電磁弁20を経て排気される。このステップS4では、サンプリング装置10が気圧センサ42から出力される気圧を監視し、当該気圧が一定値(例えば0[mmHg]や−10[mmHg]等)以下に達するとガス排気を終える。ただし、排気中に停止ボタン60が操作されると、その時点で強制的にガス排気を終える。
【0031】
ステップS6,S10のガス供給およびステップS14のサンプリング用ガス供給は、図6に示す経路で行う。サンプリング装置10は、ポンプ14を駆動させ、ポンプ16を停止させ、電磁弁18により通路を閉鎖させ、電磁弁22を切り換えて保存バッグ52側を閉鎖させ、電磁弁24をクリーンガスバッグ54からポンプ14に向けて流通させ、電磁弁20をポンプ14からサンプリングバッグ34に向けて流通させるように制御する。したがって、保存バッグ52からのガスは電磁弁22,24で止まることになる。この制御によって、クリーンガスバッグ54のクリーンガス(容量は例えば100[ml])は電磁弁24→ポンプ14→電磁弁20を経てサンプリングバッグ34に供給される。
【0032】
ステップS8,S12のガス排気は、図7に示す経路で行う。図5との違いは、保存バッグ52からの排気を行わない点である。サンプリング装置10は、ポンプ14を停止させ、ポンプ16を駆動させ、電磁弁18でバッグからポンプに向けて流通させ、電磁弁20,24を閉鎖させ、電磁弁22でポンプから送られたガスを排気させるように制御する。この制御によって、サンプリングバッグ34の残留ガスは電磁弁18→ポンプ16→電磁弁22を経て排気される。ステップS4と同様にサンプリングバッグ34内の気圧を監視し、当該気圧が一定値(例えば0[mmHg]や−10[mmHg]等)以下に達するとガス排気を終える。ただし、排気中に停止ボタン60が操作されると、その時点で強制的にガス排気を終える。
【0033】
ステップS16のサンプリングは、図8のような状態で行う。すなわち、ポンプ14,16を停止し、電磁弁を切り換えてバッグ貯留部50および保存バッグ52よりのガスラインを閉鎖させる。したがって、サンプリングを行う際にガスは移動しない。時間調節ノブ68によって調整されたサンプリング時間t4(図4(B)を参照;所定期間)は、タイマー等によって計時される。
【0034】
ステップS18のガス移動は、図9に示す経路で行う。サンプリング装置10は、ポンプ14を停止させ、ポンプ16を駆動させ、電磁弁18でバッグからポンプに向けて流通させ、電磁弁20,24を閉鎖させ、電磁弁22でポンプから送られたガスをバッグに向けて流通させるように制御する。この制御により、サンプリングバッグ34に貯留された皮膚放出ガスおよび当該サンプリングバッグ34を満たしたクリーンガスは、電磁弁18→ポンプ16→電磁弁22を経て保存バッグ52に導出される。ステップS18は、サンプリングバッグ34内の気圧を監視し、所定範囲内に達するとガス移動を終える。移動後は、後述するステップS22で行うクリーニングに備えて保存バッグ52を取り外す。
【0035】
図4(C)に示す後処理では、ステップS2でバッグ固定部48(具体的には可撓性部材48a)内に注入したガスを排出して図3(A)に示すような状態に戻す〔ステップS20〕。これにより、被験者はサンプリングバッグ34から手を出すことができる。なお、ステップS20は上述したステップS2とともに保持制御手段に相当する。
【0036】
図4(D)に示すクリーニングは、上述した図4(C)の後処理の後に行われ、図5に示す経路と図10に示す経路とを交互に数回行うことで実現する〔図4(D)に示すステップS22〕。時間や回数は任意に設定でき、例えば各動作を5秒間ずつ3回交互に行う。図5に示す経路はガス排気(ステップS4)で説明したので、ここでは図10に示す経路について説明する。クリーニングに先立って、コネクタ36を閉鎖し、コネクタ38を開放しておく。サンプリング装置10は、ポンプ14,16の双方を駆動させ、電磁弁24でバッグからポンプに向けて流通させ、電磁弁20で電磁弁18に向けて流通させるように制御する。この制御により、クリーンガスバッグ54のクリーンガスは電磁弁24→ポンプ14→電磁弁20→電磁弁18→ポンプ16→電磁弁22を流通し、最終的に配管L12(具体的にはコネクタ38)から排気される。こうして全ての通路で正逆方向にクリーンガスを流すので、サンプリング中などで残留したガスを排除し、サンプリング装置10に由来する誤差(ノイズ)を少なく抑えて精度を高めることができる。
【0037】
〔本発明の実施例〕
大気中の一酸化窒素の濃度がサンプリング中に65.7[ppb]→27.0[ppb]→43.2[ppb]と変化するような環境の下で、三名の被験者(Pa,Pb,Pc)について同時に皮膚放出ガスのサンプリングを行った。その実験結果を次表に示す。
【0038】
┏━━━━━┳━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━┓
┃ ┃本発明のサンプリング│従来のサンプリング┃
┣━━━━━╋━━━━━━━━━━┿━━━━━━━━━┫
┃被験者Pa┃ 26.8[ppb] │ 30.9[ppb] ┃
┃被験者Pb┃ 25.8[ppb] │ 38.0[ppb] ┃
┃被験者Pc┃ 28.8[ppb] │ (測定不能) ┃
┗━━━━━┻━━━━━━━━━━┷━━━━━━━━━┛
【0039】
この結果から明らかなように、サンプリング装置10を用いた皮膚放出ガスのサンプリングは、大気中の一酸化窒素の濃度が変化するような環境下でも採集できた皮膚放出ガスの濃度が安定している。したがって、環境の変化にかかわらず、皮膚放出ガスのサンプリング結果について従来よりも精度を高められる。
また、肝疾患を患った被験者についても、実際に病院に勤務する看護師によりサンプリング装置10を用いた皮膚放出ガスのサンプリングと従来法によるサンプリングとを行った。この実験結果についても、上述した実験と同様にサンプリング装置10を用いた皮膚放出ガスのサンプリングのほうが安定した濃度を得ることができた。したがって、従来よりも簡便に皮膚放出ガスのサンプリングを行えることが明らかになった。
【0040】
〔本発明の効果〕
(1)皮膚放出ガスと反応しないクリーンガスをサンプリングバッグ34に通気し、残留ガスを追い出して洗浄した(図4のステップS6〜S12および図5〜図7を参照;ガス洗浄手段に相当)。また、残留ガスを追い出してから所定期間内に皮膚から放出された皮膚放出ガスをサンプリングバッグ34で貯留した(図4のステップS16および図8を参照;ガス貯留手段に相当)。さらに、上記所定期間を経過した後、サンプリングバッグ34から保存バッグ52に皮膚放出ガスを導出した(図4のステップS18および図9を参照;ガス導出手段に相当)。よって、サンプリングバッグ34に人体の一部(本例では左手)を内部に入れた状態では、圧力センサ46で検出した圧力が所定範囲内になるようにバッグ固定部48が出入口部で密着した(図4のステップS2を参照;圧力制御手段に相当)。このような所定範囲内での密着は血行を阻害させないので、結果として皮膚から放出される皮膚放出ガスへの影響も最小限に抑えられる。また、バッグ固定部48が容器内外のガスが流出入しないように密着させ、かつ当該密着の状態でガス洗浄手段がクリーンガスを通気して残留ガスを追い出し洗浄するので、皮膚放出ガスのサンプリング結果について従来よりも精度を高められる。
また、従来では被験者とともに第三者(例えばオペレータ)が立ち会う必要があったが、サンプリング装置10を用いることにより第三者が立ち会うことなく皮膚放出ガスのサンプリングを自動的に行うことができる。
さらに、小型のポンプ14,16や、小型のプログラマブルコントローラ12等を用いてサンプリング装置10を構成したので、どこでも運ぶことができる。ガス貯留手段はタイマー等によって所定期間を測ったうえで皮膚放出ガスを貯留するので、放出される皮膚放出ガスを正確に時間を定めてサンプリングすることができる。
【0041】
そして、サンプリングに先立ってクリーンガス(例えば窒素ガスや浄化した空気など)を用いてガス洗浄を行ったので、データの変動は手動の場合に比べて1/2以下となり、安定して採集できた。例えば、サンプリング時間t4を5分間として被験者から皮膚放出ガスをサンプリングする試験結果の一例を図13に表す。当該図13において、「シリンジ」は手動でサンプリングを5回繰り返した結果を表し、「装置」はサンプリング装置10を用いて自動でサンプリングを5回繰り返した結果を表す。縦軸はサンプリングされた皮膚放出ガスの濃度[bbp]を表し、横軸はサンプリングを行った回数を表す。この結果によれば、サンプリング装置10の信頼性が標準偏差において従来よりも向上し、サンプリングの回数が増えても{誤差棒(Error bar)が示すように}標準偏差が小さく安定していることが分かる。
【0042】
(2)サンプリングバッグ34には気圧を検出する気圧センサ42を備えた(図1等を参照)。そして、気圧センサ42で検出した気圧が一定値(例えば0[mmHg]や−10[mmHg]等)以下になるように、サンプリングバッグ34から保存バッグ52に皮膚放出ガスを導出した(図4のステップS18および図9を参照;ガス導出手段に相当)。こうして低圧で保つので、被験者の皮膚や負担をやわらげることができる。
なお、サンプリングバッグ34から残留ガスを排出する場合等でも、内部の気圧を一定値以下に保つように制御するので(図4のステップS4,S8,S12および図5,図7を参照;ガス排気手段に相当)、被験者の皮膚や負担をやわらげられる。
【0043】
(3)クリーンガスによる洗浄を始める前にバッグ固定部48による密着を行い(図4のステップS2を参照)、皮膚放出ガスの導出(移動)を終えた後にバッグ固定部48による密着を解除する制御を行った(図4のステップS2,S20を参照;保持制御手段に相当)。したがって、密着と解除のタイミングを図る必要がなくなるので、皮膚放出ガスのサンプリングを確実に自動化することができる。
【0044】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することができる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0045】
(1)上述した実施の形態では、バッグ固定部48による密着および密着の解除を自動的に制御した(図4のステップS2,S20を参照)。この形態に代えて、二箇所以上で密着しようとする人体の部位が異なる場合などでは、各部位ごとにサンプリング装置10を用いてサンプリングを行ってもよい。この場合には、さらに複数のサンプリング装置10で行うバッグ固定部48による密着および密着の解除を同期させる構成としてもよい。すなわち、いずれかの操作部12aに備えられたスタートボタン64(図2を参照)を操作すれば、複数のサンプリング装置10の全てについて並行して図4の作動を制御する。こうすれば異なる部位があっても適切な密着や解除を行うことができ、しかも並行してサンプリングが行われるのでサンプリングを短時間で終わらせることできる。
【0046】
(2)上述した実施の形態では、皮膚放出ガスを貯留するのに必要なサンプリング時間t4は時間調節ノブ68を操作することで設定する構成とした(図4のステップS16を参照)。この形態に代えて、サンプリングしようとするガスの種類に応じて、当該ガスの種類に対応するサンプリング時間t4を自動的に設定する構成としてもよい。例えばアセトンの場合は3〜5分間であり、アンモニアの場合は3〜5分間であり、一酸化窒素の場合は1〜3分間であり、他のガスについても同様に設定する。この場合において、ガスの種類はノブやボタン等によって手動で選択してもよく、サンプリングバッグ34に備えたセンサによってガスの種類を検出した結果に従って自動的に選択してもよい。この構成によれば、ガスの種類に従って適切なサンプリング時間t4が設定されるので、サンプリング結果について精度をさらに高めることができる。
【0047】
(3)上述した実施の形態では、サンプリングバッグ34、保存バッグ52およびクリーンガスバッグ54は、それぞれ一つずつサンプリング装置10に接続する構成とした(図1を参照)。この形態に代えて、これらのバッグのうちで少なくとも一つのバッグについては複数個をサンプリング装置10に接続する構成としてもよい。この構成では、洗浄時間t2,サンプリング時間t4,ステップS18の導出時間のうちで対応する時間が長くなる点を除けば、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、保存バッグ52に代えて皮膚放出ガスを分析するガス分析装置を接続する構成としてもよい。このガス分析装置を接続すれば、オンラインで短時間に皮膚放出ガスを分析することができる。また、クリーンガスバッグ54に代えてクリーンガスを供給するクリーンガス供給装置を接続する構成としてもよい。クリーンガス供給装置は、例えばシリカゲルや活性炭粒子などを詰めて構成する。クリーンガス供給装置に大気ガスを通すことで、乾燥清浄したクリーンガスとして用いる。このクリーンガス供給装置を接続すれば、クリーンガスを過不足なく供給することができる。
さらに上述した実施の形態では、人体の一部として手を適用した(図3を参照)。この形態に代えて、人体について他の部位(例えば腕,脚,足など)について適用してもよい。サンプリングに必要なガスによっては、他の部位で採集するのが適切な場合もある。この場合でも上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0048】
(4)サンプリング前において、サンプリングバッグ34(具体的にはバッグ貯留部50)内に空気等のガスが入っている場合は、大気含有ガスを含有することがある。当該大気含有ガスは、例えばクリーンガスに窒素を用いる場合は酸素が該当し、クリーンガスに乾燥清浄空気を用いる場合は水蒸気(水)が該当し、大気中に大気汚染炭化水素ガスが存在する場合にはその大気中に含有する有機化合物のガスなどが該当する。そこで、クリーンガスを用いた洗浄と並行して、大気含有ガスの濃度を検出する濃度センサ44をサンプリングバッグ34に備える構成としてもよい(図1を参照)。この場合には、濃度センサ44で検出した大気含有ガスの濃度が一定値(例えば10[mg/m])以下になるまでクリーンガスを用いて洗浄を繰り返すように制御する(図4のステップS6〜S12および図5〜図7を参照;ガス洗浄手段に相当)。こうすれば、洗浄前にサンプリングバッグ34内に存在していた大気含有ガスをほぼ追い出したことになる。したがって、クリーンガスが皮膚放出ガスと反応しない点を考慮すると、皮膚放出ガスのサンプリング結果について精度をさらに高めることができる。
【0049】
(5)上述した(4)の形態では、サンプリングバッグ34に備えた濃度センサ44を用いて大気含有ガスの濃度を検出することにより洗浄の終了を制御する構成とした。
この形態に代えて(あるいは加えて)、上記濃度センサ44と同様にしてサンプリングバッグ34に湿度センサを備え、当該湿度センサで検出することにより洗浄の終了を制御する構成としてもよい。具体的には、クリーンガスを用いて洗浄を繰り返すとき、湿度センサで検出した湿度が一定値(例えば0.1[%])以下になると洗浄を終了する。この構成であっても、洗浄前にサンプリングバッグ34内に存在していたガスをほぼ追い出したことになる。したがって、クリーンガスが皮膚放出ガスと反応しない点を考慮すると、皮膚放出ガスのサンプリング結果について精度をさらに高めることができる。
【0050】
(6)上述した実施の形態では、グローブ状に構成したサンプリングバッグ34を用いてサンプリングを行った(図3を参照)。サンプリングバッグ34に代えて図11に表すように、枡を模して一面が開口する構造としたサンプリング容器70を用いてサンプリングを行ってもよい。サンプリング容器70は、図11(A)に表すように開口部を人体の一部に密着させて皮膚放出ガスを採集する。具体的には図11(A)のB−B線断面を表した図11(B)に示すように、サンプリング容器70は一面を開口させて箱状に形成した容器本体72と、密着性を高めるための緩衝部74とを有する。緩衝部74は、可撓性部材48aと同様の部材を用いてもよく、ゴムチューブ等のように単に空気を入れて緩衝させる弾性部材を用いてもよい。この緩衝部74が変形することによって、凹凸のある部位や部材等でも適用することができる。
【0051】
上述したサンプリング容器70を用いてサンプリングを行う場合、採集した皮膚放出ガスが漏れないようにするため、図11(A)に表すようにサンプリング容器70を人体の一部(本例では左腕)に密着させる必要がある。プログラマブルコントローラ12は、サンプリング中において、容器内部76(図11(B)を参照;バッグ貯留部50に相当する)が負圧となるようにポンプ14,16の作動制御を行う。しかも当該負圧は血行を阻害しない程度の小さな圧力(例えば−10[mmHg])に制御するので、皮膚から放出される皮膚放出ガスの量に影響を与えない。したがって、サンプリング容器70を用いてサンプリングを行っても、上述した実施の形態と同様に皮膚放出ガスのサンプリングを行うことができる。また、図3に表すサンプリングバッグ34に比べると、サンプリング容器70は広い面積の部位(例えば人体の背中や腹部等)にも用いることができる。
【0052】
なお、サンプリングバッグ(貯留用容器)を手袋状に構成する場合は、各指を入れる指部と、指部の指先どうしを連結する第1連結部と、指部のつけ根どうしを連結する第2連結部とを備える。さらに、第1連結部と第2連結部とを交互に接続して通路を形成し、親指側(例えば親指や人差し指等)および小指側(例えば小指や薬指等)のうちで一方側から他方側に向かって一方向にガスを流通させる構造とするのが望ましい。こうすれば、手袋状のサンプリングバッグに手(または足)を入れて保持する。また、クリーンガスが一方向に流通するので、洗浄時における残留ガスを少なく抑えることができ、サンプリング後における表面放出ガスを残すことなく保存バッグ52に導出することができる。
【0053】
(7)上述した実施の形態では、サンプリングバッグ34(またはサンプリング容器70;以下同様とする)に貯留された皮膚放出ガスを保存バッグ52に導出する構成とした(図1を参照)。この形態に代えて、当該皮膚放出ガスを病気診断装置に導出する構成としてもよい。すなわち、図1で接続した保存バッグ52に代えて、図12に示すように病気診断装置80を接続すればよい。当該図12では、サンプリング装置10の構成にかかる図示を省略する。この病気診断装置80は皮膚放出ガスに基づいて被験者の病気(病名)や病気の兆候の可能性を示唆する装置であって、大別してガス分析部82と診断部84とからなる。
【0054】
ガス分析部82は、サンプリングバッグ34→配管L10→サンプリング装置10→配管L12を通じて送られる皮膚放出ガスについて成分や組成の分析あるいは計測などを行う機能を果たす。例えば、ガスクロマトグラフ,光によるガス分析器(例えば異なるガスを入れた各光路に光を導き、光を干渉させて生じた干渉パターンに基づいてガスを分析する機器),検知管式ガス測定器(JIS K 0804)などが該当する。分析された結果(皮膚放出ガスの成分や組成あるいは測定値等であり、以下では単に「ガス成分等」と呼ぶ。)はデータとして診断部84に伝達する。
【0055】
診断部84はコンピュータシステム等で実現され、ガス分析部82による分析結果に基づいて被験者の病気(病名)や病気の兆候の可能性を示唆する機能を果たす。この診断部84は、例えばデータ記憶部86,病気関係データベース88,診断手段90,報知部92などで構成する。データ記憶部86は、ガス分析部82から伝達されたガス成分等のデータを一時的に記憶する。病気関係データベース88は、ガス成分等に関連する病気やその兆候について、ガス成分等と病気とを関係づけて記憶する。なお、ガス成分等と病気とを一対一に関係づける場合に限らず、複数のガス成分等に対して一の病気を関係づけたり、複数の病気に対して一のガス成分等を関係づけることもあり得る。病気関係データベース88は、さらに病気ごとに対応する治療法を付加して記憶したり、病気ごとに治療に最適な薬剤等を付加して記憶してもよい。診断手段90は、データ記憶部86に記憶されたデータに関係がある病気を病気関係データベース88で検索し、ガス成分等に最も近似する一以上の病気を特定したり、ガス成分等に類似する一以上の病気の兆候を特定する。報知部92は表示器や音声出力装置等を用い、診断手段90によって特定された病気(さらには治療法や薬剤等)や病気の兆候について、その可能性を診断結果として報知する。
【0056】
皮膚放出ガスの一つとして「アセトン」を例に説明する。臨床試験によれば、被験者が健康な場合は1[pmol/cm/min]程度にすぎないが、被験者が糖尿病の場合は食事療法や薬物療法を行っていても2[pmol/cm/min]を超えることが多い。この場合、アセトン(成分)の濃度が2[pmol/cm/min]以上(測定値)と糖尿病(病気)とを関係づけて病気関係データベース88に記憶しておけばよい。よってサンプリング装置10に病気診断装置80を接続すれば、被験者はサンプリングバッグ34を用いて非侵襲・非観血により、病気(本例では糖尿病)の可能性を示唆することができる。
【0057】
上述した例ではアセトンガスに関連する糖尿病の場合を説明したが、肥満や自家中毒(アセトン血性嘔吐症)等との関係もあるので、濃度等に従ってこれらの可能性を示唆することもできる。また、他の皮膚放出ガスおよび他の病気についても同様に適用することが可能である。例えば皮膚放出ガスが「水素」の場合は乳糖を分解する腸内細菌の数量と関係があり、「アンモニア」の場合は尿毒症,肝不全,腹部膿瘍,ピロリ菌などと関係がある。したがって、非侵襲・非観血により、被験者が罹っている様々な病気や病気の兆候の可能性を示唆することができる。
【0058】
(8)上述した実施の形態および上記(1)〜(7)の応用例は、いずれも表面放出ガスの一例として、人体の皮膚から放出される皮膚放出ガスに適用した。この形態に代えて(あるいは加えて)、動物(人間を除く)の一部または全部に適用し、当該動物の皮膚(表面)から放出される皮膚放出ガスに適用することもできる。この場合には、動物の皮膚放出ガスをサンプリングすることができる。また、上記病気診断装置80を接続し、病気関係データベース88にガス成分等に関連する動物の病気やその兆候を記憶しておけば、動物の病気の可能性を示唆することができる。
【0059】
人間や動物以外では、植物(例えば木や花等)や加工物(例えば木材,パルプ材,繊維材等)についてその一部または全部に適用し、これらの表面から放出される表面放出ガスに適用することもできる。この場合、圧力センサ46で検出した圧力がガスの放出を阻害しない程度(所定範囲内)の小さな圧力で物体の表面にサンプリングバッグ34を密着させるのが望ましい。例えば住宅用建材や家具用資材として使用される合板は、室内中や木材中に含まれる水分の影響を受けて徐々に樹脂が加水分解してゆき、ホルムアルデヒドが遊離して表面から放散されることが知られている。そこで、合板の一部または全部をサンプリングバッグ34の内部に入れたり覆うことで、ホルムアルデヒドの放出量をサンプリングすることができる。ホルムアルデヒドは揮発性有機化合物(VOC)の一つであるが、自動車の排気ガスや工場の煤煙に含まれる窒素酸化物(NOx)・硫黄酸化物(SOx)・浮遊粒子状物質(SPM)などを含めた大気汚染物質が物体の表面から放出される場合にも同様にサンプリングすることができる。
【0060】
(9)上述した実施の形態では、プログラマブルコントローラ12、ポンプ14,16、電磁弁18,20,22,24等を用いて構成した(図1を参照)。この形態に代えて、それぞれについて同等の機能を奏する他の代替要素を適用してもよい。例えばプログラマブルコントローラ12に代えて、CPU等(プロセッサ;ワンチップマイコンを含む)を適用してもよい。ポンプ14,16に代えて、ブロワ等を適用してもよい。電磁弁18,20,22,24に代えて、プログラマブルコントローラ12から作動を制御可能な機械弁を適用してもよい。これらの代替要素を適用した場合でも、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の構成例を模式的に表す図である。
【図2】操作部の構成例を模式的に表す図である。
【図3】サンプリングバッグの構成例を表す斜視図である。
【図4】ガスサンプリングの手続きを説明する図である。
【図5】ガスの排気を説明する図である。
【図6】クリーンガスの供給を説明する図である。
【図7】ガスの再排気を説明する図である。
【図8】サンプリング(皮膚放出ガスの貯留)を説明する図である。
【図9】ガスの移動を説明する図である。
【図10】通路のクリーニングを説明する図である。
【図11】サンプリングバッグの他の構成例を表す図である。
【図12】サンプリング装置に病気診断装置を接続した例を示す図である。
【図13】サンプリングの試験結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 サンプリング装置
12 プログラマブルコントローラ(制御部;ガス洗浄手段,ガス貯留手段,ガス導出手段,保持制御手段,圧力制御手段)
14,16 ポンプ(輸送手段)
18,20,22,24 電磁弁(制御弁)
26,30,32,36,38,40 コネクタ
34 サンプリングバッグ(貯留用容器)
42 気圧センサ
44 濃度センサ
46 圧力センサ
48 バッグ固定部(保持部材)
50 バッグ貯留部
52 保存バッグ(保存用容器)
54 クリーンガスバッグ(供給用容器)
70 サンプリング容器(貯留用容器)
72 容器本体
74 緩衝部(保持部材)
76 容器内部
80 病気診断装置
82 ガス分析部
84 診断部
86 データ記憶部
88 病気関係データベース
90 診断手段
92 報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表面から放出された表面放出ガスを保存用容器に保存するための表面放出ガスサンプリング装置であって、
少なくとも物体の表面の一部を覆うかまたは内部に入れることができ、当該覆った状態または入れた状態で容器内外のガスが流出入しないように出入口部で密着する保持部材を備えた貯留用容器と、
前記保持部材による密着の圧力を検出する圧力センサと、
前記圧力センサで検出した圧力が所定範囲内になるように、密着の圧力を制御する圧力制御手段と、
前記表面放出ガスと反応しないクリーンガスを前記貯留用容器に通気し、残留ガスを追い出して洗浄するガス洗浄手段と、
前記残留ガスを追い出してから所定期間内に物体の表面から放出された表面放出ガスを前記貯留用容器で貯留するガス貯留手段と、
前記所定期間を経過した後、前記貯留用容器から前記保存用容器に表面放出ガスを導出するガス導出手段とを有する表面放出ガスサンプリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、
貯留用容器内の気圧を検出する気圧センサを有し、
ガス導出手段は、前記気圧センサで検出した気圧が一定値以下になるように、前記貯留用容器から保存用容器に表面放出ガスを導出する表面放出ガスサンプリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、
ガス洗浄手段による洗浄を始める前に保持部材による密着を行い、ガス貯留手段による貯留を経て、ガス導出手段による導出を終えた後に前記保持部材による密着を解除する制御を行う保持制御手段を有する表面放出ガスサンプリング装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、
貯留用容器内に存在する大気含有ガスの濃度を検出する濃度センサを有し、
ガス洗浄手段は、前記濃度センサで検出した大気含有ガスの濃度が一定値以下になるまでクリーンガスを用いて洗浄を繰り返すことを要旨とする。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、
貯留用容器内の湿度を検出する湿度センサを有し、
ガス洗浄手段は、乾燥しているクリーンガスを用い、前記湿度センサで検出した湿度が一定値以下になるまで前記クリーンガスを用いて洗浄を繰り返す表面放出ガスサンプリング装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載した表面放出ガスサンプリング装置であって、
貯留用容器は、各指を入れる指部と、指部の指先どうしを連結する第1連結部と、指部のつけ根どうしを連結する第2連結部とを備え、
前記第1連結部と前記第2連結部とを交互に接続して通路を形成し、親指側および小指側のうちで一方側から他方側に向かって一方向にガスを流通させる構造とした表面放出ガスサンプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−155385(P2007−155385A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347740(P2005−347740)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(504253980)有限会社ピコデバイス (11)
【出願人】(390006415)高砂電気工業株式会社 (11)
【出願人】(000132194)株式会社スズケン (12)
【Fターム(参考)】