説明

表面材用シート及び発泡樹脂製断熱ボード

【課題】 発泡樹脂製断熱ボードの製造工程における樹脂漏れがなく、熱アスファルト工
法に使用しても不具合を生じることのない発泡樹脂製断熱ボードを得るために好適な表面
材用シートを提供する。
【解決手段】 無機繊維と樹脂バインダーを主成分とする無機繊維不織布の片面の表層部
分が、該片面に塗工された塗料中の無機顔料と樹脂バインダーが該片面の表層部分に浸透
した状態で不織布内に固定されている不織布−塗料複合層よりなり、該不織布−塗料複合
層からなる表層部分から厚さ方向に連続する不織布層部分が平均厚さ30μm以上500
μm以下の不織布単独層よりなる無機繊維不織布であって、コレスタ通気度(コレスタ推
奨法 No40 ISO2965に準拠した測定法による)が5〜1500cc/min
/cmで、濡れ指数が26〜34であることを特徴とする、発泡樹脂製断熱ボードの表
面材用シート、及び該表面材用シートを表面材として有する発泡樹脂製断熱ボード。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発泡樹脂製断熱ボードの表面材に好適な無機繊維シートに関するものであり、
さらに詳しくは、熱アスファルト工法のような過酷な施工方法によっても不具合の生じる
ことのない発泡樹脂製断熱ボードを得るのに好適な無機繊維不織布製の表面材用シートと
該表面材用シートを表面材として有する発泡樹脂製断熱ボードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物の屋上等には断熱、防水の目的から、コンクリート面に断熱ボード、防水シート
等を積層した断熱構造体が採用されている。この断熱構造体を構成するための工法として
は、例えば熱アスファルト工法を挙げることができる。熱アスファルト工法とは、まずコ
ンクリート表面に250〜300℃程度の溶融状態の熱アスファルトを塗布し、温度が低
下しないうちに断熱ボードを敷設する。一度に熱アスファルトを塗布する面積は通常断熱
ボード1枚分であり、これを繰り返すことで断熱ボードをコンクリートの全面に敷設する
。次に、この敷設された断熱ボードの上に熱アスファルトを塗布しながら巻取り状の防水
シートを転がして貼着する。
【0003】
熱アスファルト工法に使用される断熱ボードとしては、両面に表面材を配した硬質発泡
ウレタンボードが一般的である。この硬質発泡ウレタンボードの製造工程の一例を図2に
示す。まず、表面材21(下面材)にポリオール/ポリイソシアネート混合液23を塗布
し、発泡開始後に別の表面材22(上面材)を貼着し、ダブルコンベアー24で厚さを保
持しながら硬化させ、切断して硬質発泡ウレタンボード26が得られる。該混合液23は
通常ポリオール、ポリイソシアネートの他に、発泡剤(例えばシクロペンタン)、整泡剤
(例えばシリコーン系整泡剤)を含む。ポリオールとポリイソシアネートは常温で反応し
てウレタン結合を生成し、ウレタン樹脂となる。この反応は発熱反応のため、発泡剤が気
化膨張することで発泡する。整泡剤は発泡系の表面張力を上げることで泡を安定化させる
とともに、混合時に各材料の相溶性を高める。
【0004】
表面材は樹脂を保持するとともに、断熱材の機械的強度や寸法安定性付与の役割を果た
す。表面材としては、例えば炭酸カルシウム混抄紙、水酸化アルミニウム混抄紙等の、木
材パルプと無機顔料の混抄紙が挙げられるが、木材パルプは吸脱湿による寸法変化が大き
く、熱アスファルト工法では急激に加熱されることで木材パルプが乾燥収縮し、ボードの
反りや歪みが発生して施工時に不具合が生じやすいため不向きである。また、木材パルプ
は腐食するため、耐久性も懸念される。
【0005】
そのため、ガラス繊維等の無機繊維を主体とする不織布が使用されるようになったが、
無機繊維を主体とする不織布は一般に空隙径が大きく、ポリオール/ポリイソシアネート
混合液(以後、「樹脂液」と記す)塗布時に樹脂液が裏抜けして工程を汚してしまう問題
(以後、「樹脂漏れ」と記す)がある。このため、木材パルプを混抄したり、アスファル
トを含浸したりして目止めしているのが現状であるが、前述したように木材パルプの使用
は問題が多く、またアスファルトを含浸したものはアスファルト中の成分が溶出してセル
荒れを引き起こし、断熱性能を低下させるといった問題がある。
【0006】
このような状況から、無機充填材を混抄した無機質シートの片面または両面に、無機質
充填材と有機結合剤からなる塗工層を設けた無機質シートが提案されている(特許文献1
)。しかしながら、該文献の無機質シートは通気度が低く、熱アスファルト塗布時の加熱
による2次発泡ガスの圧力で無機質シートが剥離する恐れがある。このような剥離がある
と、例えば台風等の強風時に屋上床面を上に持ち上げる力が生じた場合、床面が剥がれて
しまう恐れがある。
したがって、表面材には2次発泡ガスを逃がすための通気性を有することも求められる

【0007】
これを解決する方法として、フッ素系撥水撥油剤を含有するシート(特許文献2)、ポ
リフルオロアルキル基含有化合物を含有するシート基材(特許文献3)等が提案されてい
る。これらは十分な通気性を有しながら、フッ素系化合物の撥水撥油性により樹脂の浸透
を防止したものであるが、その強力な撥水撥油性のためにアスファルトや発泡樹脂との接
着性に劣り、界面で剥離が生じやすい。さらに、フッ素系化合物は熱アスファルト塗布時
の加熱で健康や環境に有害な分解物を生成する恐れが高く、安易に採用することはできな
い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1-198336号公報
【特許文献2】特開平9−310284号公報
【特許文献3】特開昭57−106772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、発泡樹脂ボードの製造工程における樹脂漏れがなく、熱アスファルト
工法に使用しても不具合を生じることのない発泡樹脂ボードを得るために好適な表面材用
シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために各種検討を行った結果、無機繊維不織布に顔
料塗工した表面材用シートにおいて、通気度と濡れ指数を特定の範囲とし、さらに特定厚
さの不織布単独層を設けることで樹脂漏れ、熱アスファルト塗布時の膨れが防止できるこ
とを見出し、本発明を完成させるに至った。
前記の問題を解決するための本発明は、以下の発明を包含する。
【0011】
(1)無機繊維と樹脂バインダーを主成分とする無機繊維不織布の片面の表層部分が、該
片面に塗工された塗料中の無機顔料と樹脂バインダーが該片面の表層部分に浸透した状態
で不織布内に固定されている不織布−塗料複合層よりなり、該不織布−塗料複合層からな
る表層部分から厚さ方向に連続する不織布層部分が平均厚さ30μm以上500μm以下
の不織布単独層よりなる無機繊維不織布であって、コレスタ通気度(コレスタ推奨法 No.40 ISO2965に準拠した測定法による)が5〜1500cc/min/cmで、塗工面の濡れ指数が26〜34であることを特徴とする、発泡樹脂製断熱ボードの
表面材用シート。
【0012】
(2)前記「不織布−塗料複合層」よりなる表層部分の平均厚さが20μm以上であるこ
とを特徴とする、上記(1)項に記載の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
(3)前記無機繊維不織布がガラス繊維不織布であることを特徴とする(1)項又は(2
)項に記載の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
(4)前記塗料中の樹脂バインダーが樹脂エマルジョンの状態で使用されているポリオレ
フィン系樹脂であることを特徴とする、上記(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の
発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
(5)前記塗料中の無機顔料がエンジニアードカオリンであることを特徴とする、(1)
項〜(4)項のいずれかに記載の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
【0013】
(6)上記(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載の表面材用シートを発泡樹脂層の少
なくとも片面側の表面材として有する発泡樹脂製断熱ボード。
(7)前記発泡樹脂層が硬質発泡ウレタン樹脂層である、(6)項に記載の発泡樹脂製断
熱ボード。
【発明の効果】
【0014】
本発明の表面材用シートを使用することで工程を汚すことなく発泡樹脂ボードを製造す
ることができ、得られた発泡樹脂ボードは熱アスファルト工法においても不具合を生じる
ことなく使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】表面材用シート断面模式図
【図2】硬質発泡ウレタンボードの製造工程図
【図3】硬質発泡ウレタンボードの断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シートは、図1に例示されている断面模式図
に示されるような不織布層内部構造を有している。
本発明の表面材用シートは、無機繊維13を樹脂バインダーで結合して形成されている無
機繊維不織布を基材とし、発泡樹脂ボード形成時に溶融状態の発泡性樹脂層に圧接される
裏面側が塗料非塗工面で、反対の表面側が塗料塗工面となっている。
【0017】
塗料塗工面側の不織布の表層部分は、塗工された塗料中の無機顔料と樹脂バインダーが
表層部分に浸透した状態で不織布層内に固定されて「不織布−塗料複合層」12を形成し
ている。図示されているように、「不織布−塗料複合層」12においては、不織布層内の
無機繊維13間に形成されている空隙部が無機顔料と樹脂バインダーからなる塗料14に
よって埋められて空隙部分が小さくなった状態とされているが、発泡樹脂ボードの施工時
の熱で発生する2次発泡ガスを「不織布−塗料複合層」12を通して外部に逃すことがで
きる通気性は、前記した小さくなった空隙部が形成している貫通孔によって確保されてい
る。
【0018】
塗料塗工面側の不織布の表層部分は、実質的に塗料が不織布に浸透して不織布/塗料複
合層を形成している状態である。実質的に塗料が不織布に浸透している状態とは、表面材
用シートの塗工面を観察したときに、不織布を構成する無機繊維が露出、又はその形態が
観察できる状態を指す。塗料が不織布に十分浸透せず、不織布を構成する無機繊維の形態
が観察できないほど不織布表面に塗工層を形成していると、不織布/塗工層の界面破壊や
塗工層内部の凝集破壊による剥離が生じやすい。
【0019】
不織布の塗料非塗工面側の層は不織布単独層11であり、不織布特有の空隙部に富む層
であるので、優れた断熱性を備えた層であることに加えて、ボード形成時に溶融状態の発
泡性樹脂層に圧接された際に該溶融樹脂の一部が不織布の表層部に侵入した状態で硬化す
ることとなり、発泡樹脂層と表面基材との接合状態が極めて良好である発泡樹脂ボードが
形成されるという、アンカー機能を備えた表面を有する層となっている。
【0020】
次に、本発明の表面材シートを両面の表面材として使用した場合の硬質発泡ウレタンボ
ードの製造工程を図2に例示する。図2において、下面側の表面材21及び上面側の表面
材22は非塗工面が発泡性樹脂層23と接するように繰り出される。下面側の表面材21
の非塗工面に発泡性樹脂液23を塗布し、溶融状態で発泡した樹脂層に上面側の表面材2
2の非塗工面を圧接貼着し、溶融ウレタン樹脂層を硬化させて発泡ウレタン樹脂層25の
両面に表面材21及び22が貼着されている硬質発泡ウレタンボード26が製造される。
なお、上面側の表面材22は本発明の表面材用シート以外のものを用いてもよいが、異種の表面材を使用するとボードの反りが発生しやすいため、上面側と下面側の表面材のいずれにも本発明の表面材用シートを用いることが好ましい。
【0021】
得られた硬質発泡ウレタンボード(図2における符号26)の断面図を図3に例示する
。発泡ウレタン樹脂層は発泡ウレタン樹脂単独層部分31の両面側において、表面材の不
織布単独層内に発泡ウレタン樹脂部分が侵入した状態で硬化されている「不織布/発泡樹
脂複合層」32を形成して表面材と硬質発泡ウレタン層31が強固に接合一体化された硬
質発泡ウレタンボードを構成している。
【0022】
本発明の表面材用シートにおける不織布/塗料複合層の平均厚さは、その厚さが厚い
ほど樹脂漏れが少なくなるため、該複合層の平均厚さは20μm以上であることが好まし
い。厚さの上限は特に設けないが、あまり厚くなりすぎると不織布のしなやかさが損なわ
れるし、通気性も不足することとなり、また重量が増加しコスト的にも不利になることか
ら、一般的には600μmを超えない厚さであることが好ましい。
【0023】
本発明の表面材用シートは、不織布単独層の平均厚さが30μm以上である必要がある
。不織布単独層が30μm未満では表面材と硬質発泡樹脂層との接合強度が不十分で、表
面材の剥離が生じやすい。不織布単独層の厚さは500μm以下であることが好ましい。500μmより厚くなると不織布単独層中の空気の樹脂への混入が多くなり、硬質樹脂内にサイズや形状が不均一なセルが形成されることが多くなるためである。また、上面側の表面材として使用する場合、樹脂は発泡状態で不織布単独層に浸透することとなるが、発泡状態の樹脂は樹脂液よりも不織布単独層への浸透性が劣るため、不織布単独層部分の厚さが大きなり、不織布単独層部分で層間剥離が生起する原因となる場合があるので、不織布単独層のより好ましい厚さは300μm以下である。
【0024】
本発明の表面材用シートは、コレスタ通気度が5〜1500cc/min/cm
ある必要がある。コレスタ通気度が低すぎると発泡性樹脂液塗布時に不織布単独層に含ま
れた空気が抜けにくく、樹脂液に混入することでセル荒れの原因になる。また、熱アスフ
ァルト塗布時の2次発泡ガスが抜けにくいために膨れを生じてしまう。一方、コレスタ通
気度が高すぎるとたとえ塗工面の濡れ指数が小さくても樹脂漏れが生じて工程を汚してし
まう。このためコレスタ通気度は5〜1500cc/min/cm、好ましくは
10〜1500cc/min/cm、更に好ましくは15〜1500cc/min/cmである。
【0025】
コレスタ通気度の測定は、以下のように行った。
ISO2965に準拠した通気度計Filtrona Instrument& Aut
omation Limited社製PPM−100を用いて、塗工面を空気の流入側に向け、2cmの面積に100mmHOの圧をかけたときの空気流量を測定し、1cm当たり1分間の流量に換算された数値を求めた。
【0026】
本発明の表面材用シートに使用する無機繊維不織布としては、湿式不織布、乾式不織布
のいずれも使用可能であるが、湿式不織布の方が地合や空隙分布が緻密、かつ均一である
ため好ましい。
不織布中の無機繊維としては特に限定せず、ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊
維、セピオライト等が使用できるが、安価で入手が容易なガラス繊維を使用することが好
ましい。
【0027】
ガラス繊維の種類は特に限定するものではなく、Eガラス、Cガラス、Dガラス等が使
用可能であるが、通常は国内で入手が容易なEガラスが使用される。ガラス繊維の繊維長
も特に限定されるものではないが、3〜18mmが好ましい。繊維長が短すぎると引き裂
き強度が低下し、繊維長が長すぎるとガラス繊維を均一に分散させることが難しくなる。
ガラス繊維の繊維径は特に限定するものではないが、通常9〜13μm程度のものが使用
される。一般的に、繊維径が太いと、塗料が染み込みやすくなるため、必要な通気度を得
るための塗工層厚さが厚くなるため、コスト的には不利であるし、また不織布のしなやかさが損ねられるため好ましくない。一方、繊維径が細いガラス繊維はコストが高く、また、3μm未満のガラス繊維は、発ガン性の危険性が指摘されているため、適切ではない。以上を鑑みると、ガラス繊維の繊維径は、6μm〜10μm程度が好ましい。
【0028】
不織布中のバインダーも特に限定せず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂
、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレン−ブタ
ジエンゴム(SBR)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の樹脂系バインダー、シ
リカゾル、チタニアゾル、アルミナゾル等の無機系バインダーが使用できる。樹脂系バイ
ンダーの形態も特に限定せず、エマルジョン、水溶液、粉末状、繊維状等のいずれを用い
てもよい。バインダー性能、耐候性、コスト等を考慮すると、アクリル樹脂エマルジョン
が好ましい。
バインダー含有率も特に限定するものではないが、バインダーが少なすぎると強度が不
足し、逆に多すぎると不織布のしなやかさがなくなるため、通常、5〜30質量%程度で
あることが好ましい。
【0029】
不織布に塗工する塗料中の無機顔料も特に限定せず、炭酸カルシウム、タルク、クレー
、カオリン、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリカ等、公知の顔料
が広く使用できる。特に、形状が扁平でアスペクト比が高いデラミカオリンや、超微粒子
分を除去して粒度分布を調整し、且つアスペクト比も36以上に調整したエンジニアード
カオリンと称される顔料を含有する塗料を使用すると適正な通気度を有する不織布/塗料
複合層が形成される傾向があるので好ましい。
【0030】
塗料中の有機バインダーも特に限定せず、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹
脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール(P
VA)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、
澱粉、カゼイン等が使用できるが、後述の理由により、ポリオレフィン系の樹脂を用いる
ことが好ましい。
【0031】
無機顔料に対する有機バインダー比率も特に限定するものではなく、無機顔料100質
量部に対して5〜200質量部の広い範囲で調整可能である。塗料中には分散剤、増粘剤
、防腐剤、消泡剤、着色剤等の助剤を添加することも可能である。
しかし、ポリアルキルシロキサンと2酸化ケイ素の乳化物といった、いわゆるシリコン
系の消泡剤などをあまりに多量に添加すると、ポリオール、ポリイソシアネート等の発泡
層の均一な発泡を阻害し、局所的に大きな泡が発生する等の不具合を発生するため、注意
が必要である。
【0032】
不織布に塗料を塗工する方法も特に限定するわけではなく、カーテン塗工、エアーナイ
フ塗工、バー塗工、ブレード塗工、スプレー塗工、グラビア塗工、キス塗工等の公知の方
法が広く採用できるが、塗料付与時や計量時に塗料が不必要に不織布へ浸透するのを防止
することを考慮すれば、極力面圧の掛からない塗工方式が好ましい。塗料付与方法として
は、例えば、バッキングロールに密着させた状態で塗料液中をくぐらせる、又はバッキングロールに密着させた状態で鉛直方向下方からファウンテン方式で付与することで不織布表面に塗料を付着させる方法等を好ましい塗工法として挙げることができる。また、付着した塗料を計量する方法としては、メイヤーバー、コンマバー等を軽く押し当てて掻き落す方法等を好ましい方法として挙げることができる。
【0033】
本発明の表面材用シートは、非塗工面の濡れ指数が36以上であることが好ましい。濡
れ指数が36未満の場合、不織布単独層への発泡性樹脂液の浸透が遅くなる。濡れ指数の
上限は特に設けないが、50以下が好ましい。後述のとおり、本発明の表面材用シートは
不織布単独部分を有する必要があるが、濡れ指数が大きすぎると不織布への塗料塗工時に
塗料が裏面まで浸透してしまうためである。
【0034】
本発明における濡れ指数とは、以下の方式で表した数値をいう。
JIS K6768に規定された濡れ張力試験用混合液を表面材用シートに滴下し、5
秒後の液滴の状態を観察する。5秒以上濡れ張力試験用混合液のシートへの浸み込みがな
く、液滴の状態を保っている場合は、表面張力が次に低い濡れ張力試験用混合液に進み、
また、逆に、5秒未満で液滴が浸み込んでしまう場合は、表面張力が次に高い濡れ張力試
験用混合液に進む。
この操作を繰り返し、5秒以上液滴の状態を保っている、最も低い濡れ張力試験用混合
液の表面張力をそのシートの濡れ指数の数値とする。
【0035】
なお、JIS K6768は、濡れ張力試験用混合液が浸透しないフィルムを測定する
ために定められた測定方法であるため、ポーラスな不織布に塗工を施したものである本発
明の表面材用シートに適用すると濡れ張力試験用混合液がシートに浸み込みやすい。その
ため、JIS K6768に定められているように、濡れ張力試験用混合液を基材面に塗
り伸ばし、濡れ張力試験用混合液の皮膜の破れで濡れ性を評価することができない。以上
の理由から、本発明では、表面材用シートの濡れ指数を上記の測定方法に従って測定した

【0036】
本発明の表面材用シートは塗工面の濡れ指数が26〜34である必要がある。濡れ指数
が34を超えると樹脂漏れが顕著となり、工程を汚してしまう。濡れ指数が小さいほど樹
脂漏れは少なくなるが、濡れ指数が26未満では塗工面とアスファルトとの接着性が低下
する。このため塗工面の濡れ指数は26〜34、より好ましくは30〜34である。
【0037】
このような濡れ指数の範囲である塗工層は、塗料中の有機バインダーに、ポリオレフィ
ン系の樹脂を使用することで実現される。樹脂の形態は特に限定しないが、これらの樹脂
をエマルジョン化したものが好適に使用される。ポリオレフィン系の樹脂は特に限定され
るものではなく、エチレン・酢ビ(EVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれ
らの変性物等が好適に使用されるが、特にエチレン酢ビ及びその変性物、ポリエチレン、
ポリプロピレン等が、濡れ性が低く好適である。エチレン・酢酸ビ等に、ポリエチレンワ
ックス等を添加し撥水性を高めた樹脂等は更に好ましい。これらの樹脂を塗料中の有機バ
インダーとして使用することで、従来のようにフッ素系撥水撥油剤を使用しなくても、十
分な通気性を維持しながら樹脂の浸透を防止することができる。
【0038】
本発明の発泡樹脂製断熱ボードの発泡樹脂層としては、本発明の表面材用シートの不織
布単独層に適度に浸透した状態で発泡・硬化することができる発泡性原料液から形成され
ている耐熱性発泡樹脂層であれば採用可能であり、ポリプロピレン樹脂等も採用可能と考
えられるが、現時点では、上記条件を満たす発泡樹脂層としては硬質ウレタン樹脂層が好
適である。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらによっ
て限定されるものではない。なお、実施例において%とあるのは、特に断わらない限り質
量%を表す。
【0040】
実施例1〜7及び実施例9〜11
<不織布の作製>
繊維長13mm、繊維径10μmのEガラス繊維を水に分散し、湿式法でシート化し、
このシートにアクリル樹脂エマルジョンを乾燥後の不織布中での含有率が10%となるよ
うにスプレー法で添加し、加熱乾燥して表1に示す米坪の不織布を得た。
【0041】
<塗料の調製>
無機顔料として、粒径2μm以下が97%、アスペクト比 約36のエンジニアードカ
オリン〔(株)イメリスミネラルズ・ジャパン社、「コンツアーエクストリーム」〕を、
水中に固形分濃度60質量%となるように投入し、分散剤(ポリアクリル酸ソーダ)をカオ
リン100質量部に対し0.2質量部、消泡剤としてポリアルキルシロキサン及び2酸化
ケイ素の乳化物(東芝シリコーン社製、「TSA−730」)をカオリン100質量部に
対して0.8質量部となるよう添加し、分散機で強攪拌し、顔料スラリーを得た。
得られた顔料スラリーに、バインダーとして変性エチレン系樹脂エマルジョン(住化ケムテックス社製、「N-3000」)を、顔料に対する固形分比率が表1に示すとおりとなるよう添加し、攪拌混合した。
得られたスラリーに増粘剤(ポリカルボン酸ナトリウム)を適宜添加し、さらに水を加え
て表1に示すとおりの濃度とした。得られた塗料の粘度をB型粘度計を用いて測定した。
塗料の粘度は表1に示すとおりであった。
【0042】
<表面材用シートの作成>
前記のように作成した不織布を、バッキングロールに密着させた状態で前記のように調
製した塗料にくぐらせ、メイヤーバーで余剰な塗料を掻き落とした後、熱風乾燥して表面
材用シートを得た。得られた表面材用シートの塗工前の米坪、塗工量、塗工面の濡れ指数
、通気度、不織布/塗料混合層の厚さを表1に示す。なお、塗工量の調整は、メイヤーバ
ーの番手を適宜変更することで行った。
【0043】
<発泡ウレタンボードの作成>
得られた表面材用シートを、塗工面を下にしてダブルコンベア上の下側コンベア上に載
せて移動させながら、50℃に加温し、ポリオール/ポリイソシアネート混合液に発泡剤
としてシクロペンタンを加え、更にシリコーン系整泡剤を添加した混合液を表面材用シー
ト上に塗布し、発泡させた。発泡完了前に表面材用シートを、塗工面を上にして発泡ウレ
タンに貼着し、上側コンベアで押えながら発泡を完了させ、厚さ30mmの発泡ウレタン
ボードを得た。
【0044】
実施例8
塗料に使用するバインダーを、アクリル樹脂(昭和高分子社製、「AG-100」)に
変更し、シリコン系撥水剤(信越シリコーン社製、「POLON−MWS」)の添加量を
カオリン100質量部に対し1.0質量部添加した以外は実施例1〜7と同様にして塗料
を調製し、実施例1〜7及び実施例9〜11と同様にして表面材用シート及び発泡ウレタンボードを作成した。
【0045】
比較例1、4、5、6
<不織布の作成>
実施例1〜5と同様の方法で湿式不織布を作成した。不織布の米坪を表2に示した。
<塗料の調製>
表2に示したとおりの濃度、バインダーの塗料に対する質量比率とした以外は実施例1
〜7と同様にして塗料を調製した。得られた塗料の粘度を表2に示した。
【0046】
<表面材用シートの作成>
表2に示した塗工量とした以外は、実施例1〜7と同様にして表面材用シートを得た。
<発泡ウレタンボードの作成>
実施例1〜6と同様にして発泡ウレタンボードを作成した。
【0047】
比較例2
塗料中のバインダーをアクリルエマルジョン(昭和高分子社製、「AG−100」)と
した以外は、比較例1、4、5、6と同様にして表面材用シート、及び発泡ウレタンボー
ドを作成した。
【0048】
比較例3
塗料中のバインダーをアクリルエマルジョン(昭和高分子社製、「AG-100」)と
し、アクリルエマルジョンの固形分100質量部に対し1.0質量部となるようフッ素系
撥水剤(丸菱油化社製、「オーペルFS」)を添加した以外は、比較例1、4、5、6
と同様にして表面材用シート、及び発泡ウレタンボードを作成した。
【0049】
<通気度の測定>
通気度の測定は、以下のように行った。
ISO2965に準拠した通気度計Filtrona Instrument& AutomationLimited社製PPM−100を用いて、塗工面を空気の流入側に向け、2cmの面積に100mmHOの圧をかけたときの空気流量を測定し、1cm当たり1分間の流量に換算された数値を求めた。測定は10箇所行い、その平均値を採用した。
【0050】
<複合層厚さ及び不織布単独層厚さの測定>
得られた表面材用シートの断面を片歯カミソリで切り出し、切断面をマイクロスコープ
(キーエンス社製)を使用して500倍に拡大し、複合層及び不織布単独層の厚さを測定
した。測定は、表面材用シートを幅方向から10箇所均等にサンプリングし、それぞれを
1cm角に切り出し、ひとつのピース当たり10箇所を測定し、その全平均を採用した。
【0051】
<濡れ指数の測定>
濡れ試薬(和光純薬工業株式会社製「濡れ張力試験用混合液」)を表面材用シートに滴
下し、5秒以内に浸透が開始された濡れ試薬の表面張力を濡れ指数とした。測定は10箇
所行い、その平均値を採用した。
【0052】
(評価方法)
<発泡層均一性>
得られた発泡ウレタンボードの断面を目視で観察し、セルの均一性の良好なものを○、
若干大きさが不均一なセルが見受けられるが実用上問題のないものを△、セルの均一性が
劣り、実用上不具合の発生するものを×として評価した。
【0053】
<アスファルト施工後の表面材の剥離>
コンクリート上に、250℃〜300℃に熱したアスファルトを塗布し、温度が下がらないうちに発泡ウレタンボードを敷設した。そして、敷設したウレタンボードの上に、250℃〜300℃に熱した熱アスファルトを塗布し、発泡ウレタンボードをコンクリート上に施工した。
尚、通常は敷設した発泡ウレタンボードの上には熱アスファルトを塗布しながら、防水
シートを貼り付けるが、今回は表面状態を観察しやすくするため、防水シートは貼り付け
なかった。
そして、アスファルト施工後に、表面に膨れが発生した部分の有無を観察し、膨れが発
生した部分があればそこを切り取って断面を観察し、膨れた部分が表面材の層内、若しく
は表面材とウレタンの断面であった場合に、アスファルト施工後の表面材の剥離が発生し
たと評価した。
表面材の剥離が発生しなかったものを○、僅かに発生したが実用上不具合の発生しない
ものを△、大きな剥離が発生し、実用上不具合を発生するものを×として評価した。
【0054】
<アスファルト施工後のアスファルト浮き>
コンクリート上に、250℃〜300℃に熱したアスファルトを塗布し、温度が下がら
ないうちに発泡ウレタンボードを敷設した。そして、敷設したウレタンボードの上に、2
50℃〜300℃に熱した熱アスファルトを塗布し、発泡ウレタンボードをコンクリート
上に施工した。
そして、アスファルト施工後に、表面に膨れが発生した部分の有無を観察し、膨れが発
生した部分があればそこを切り取って断面を観察し、膨れた部分がアスファルトと表面材
の界面であった場合にアスファルト浮きが発生したと評価した。
アスファルト浮きが発生しなかったものを○、僅かに発生したが実用上不具合の発生し
ないものを△、大きな剥離が発生し、実用上不具合を発生するものを×として評価した。
実施例及び比較例の各物性測定結果、及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1に示すとおり、各実施例においては、いずれも問題なくウレタンボードを作成する
ことが可能であった。
また、得られたウレタンボードは、ウレタンと表面材の塗工層との密着性及びアスファ
ルトの表面材に対する密着性が良好であるため、熱アスファルト施工後においても、表面
層の剥離や、アスファルトの浮きが発生せず、また発泡層のセルの均一性も良好であった

【0058】
表2に示した比較例1では表面材の通気度が高すぎるため、ウレタン液が表面材を通過
して裏抜けし、コンベアを汚したため製造が不可能であった。
比較例2では、表面材の濡れ性が高すぎたため、同様にウレタン液の漏れが発生し、製
造が不可能であった。
比較例3では、塗工面の濡れ性が低すぎたため、アスファルトと表面材との接着性が悪
く、熱アスファルト施工時の発生ガスによって、アスファルトの浮きが発生した。
【0059】
また、比較例4では、通気度が低すぎたため、発泡層内の空気が抜けず、セルの均一性
が劣り、さらに熱アスファルト施工時の発生ガスが抜けないため、アスファルト施工後に
表面材の剥がれが発生した。
比較例5では、不織布単独層の厚さが不足したため、ウレタンと表面材との接着力が不十分で、アスファルト施工後に表面材の剥離が発生した。
比較例6では、不織布単独層の厚さが厚すぎたため、発泡層均一性が劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の表面材用シートは、発泡樹脂ボードの製造工程における樹脂漏れがなく、熱ア
スファルト工法に使用しても不具合を生じることのない発泡樹脂製断熱ボードを得るため
に好適な表面材用シートであり、該表面材用シートを用いて作成される発泡樹脂製断熱ボ
ードは、建造物の屋上等の断熱、防水のためにコンクリート面へ断熱ボードや、防水シー
ト等を積層した断熱構造体を提供するものであるので、これらの断熱ボードを使用した熱
アスファルト工法等の新たな適用分野の拡大を可能ならしめるものである。
【符号の説明】
【0061】
11:不織布単独層
12:不織布/塗料複合層
13:無機繊維
14:塗料
21:表面材(下面側)
22:表面材(上面側)
23:樹脂液
24:ダブルコンベア
25:硬質発泡ウレタン樹脂
26:硬質発泡ウレタンボード
31:硬質ウレタン樹脂
32:不織布/発泡樹脂複合層
33:不織布/塗料複合層















【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維と樹脂バインダーを主成分とする無機繊維不織布の片面の表層部分が、該片面
に塗工された塗料中の無機顔料と樹脂バインダーが該片面の表層部分に浸透した状態で不
織布内に固定されている不織布−塗料複合層よりなり、該不織布−塗料複合層からなる表
層部分から厚さ方向に連続する不織布層部分が平均厚さ30μm以上500μm以下の不
織布単独層よりなる無機繊維不織布であって、コレスタ通気度(ISO2965に準拠し
た測定法による)が5〜1500cc/min/cmで、塗工面の濡れ指数が26〜
34であることを特徴とする、発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
【請求項2】
前記「不織布−塗料複合層」よりなる表層部分の平均厚さが20μm以上であることを
特徴とする、請求項1に記載の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
【請求項3】
前記無機繊維不織布がガラス繊維不織布であることを特徴とする、請求項1又は2に記
載の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
【請求項4】
前記塗料中の樹脂バインダーが樹脂エマルジョンの状態で使用されているポリオレフィ
ン系樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡樹脂製断熱
ボードの表面材用シート。
【請求項5】
前記塗料中の無機顔料がエンジニアードカオリンであることを特徴とする、請求項1〜
4のいずれかに記載の発泡樹脂製断熱ボードの表面材用シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面材用シートを発泡樹脂層の少なくとも片面側
の表面材として有する発泡樹脂製断熱ボード。
【請求項7】
前記発泡樹脂層が硬質発泡ウレタン樹脂層である、請求項6に記載の発泡樹脂製断熱ボ
ード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68117(P2011−68117A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38825(P2010−38825)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】