説明

表面被覆WC基超硬合金製インサート

【課題】すぐれた耐チッピング性と耐熱塑性変形性を発揮する表面被覆超硬合金製インサートを提供する。
【解決手段】原料として少なくともWC粉末、Co粉末を含むとともに、さらに、Zrの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、および、Taの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、またはZrとTaの炭化物、炭窒化物、窒化物のうちの1種または2種以上の固溶体粉末を含む配合原料を成形、焼結して得られるWC基超硬合金を基体とし、この基体上に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆超硬合金製インサートにおいて、基体表面にはCo富化表面領域が形成され、かつ、Co富化表面領域におけるCo含有量は、超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10(質量比)を満足し、かつ、Co富化表面領域におけるTa含有量は、Co富化表面領域におけるCo含有量の0.026〜0.086(質量比)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切刃に衝撃的かつ断続的高負荷が作用する鋼や鋳鉄等の断続重切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐熱塑性変形性を示し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆WC基超硬合金製インサート(以下、被覆超硬インサートという)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼や鋳鉄の切削加工用工具としては、例えば、特許文献1に示されるように、超硬合金の成分として、Zr,Hfの炭化物の硬質相を含有させることにより、刃先温度が高温となる重切削加工時の刃先の塑性変形を防止し、耐摩耗性の向上を図った超硬合金製工具が知られており、また、その超硬合金製工具基体に硬質被覆層を形成した表面被覆超硬インサート(従来被覆超硬インサート1という)も広く知られている。
また、例えば、特許文献2に示されるように、超硬合金の成分として、いずれも重量比で、4〜12%のCo、0.3%以上のTi、0.5%以上のNb、0.3%未満のTaを含有し、さらに、超硬合金表面には、Co富化率が1.20〜3.00で厚さが10〜50μmのCo富化領域が形成され、該Co富化領域には立方晶炭化物は含まれないが、Co富化領域直下には多量の立方晶炭化物を含む超硬合金を基体とする被覆超硬インサート(従来被覆超硬インサート2という)が知られ、そして、従来被覆超硬インサート2は、高い切刃強度とすぐれた耐熱衝撃性を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−113437号公報
【特許文献2】特開2003−205406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の切削加工装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工はますます高速化、高効率化の傾向にあるが、上記の従来被覆超硬インサート1,2においては、これを、通常条件の切削加工に用いた場合には特段の問題は生じないが、例えば、切刃に衝撃的かつ断続的高負荷が作用する断続重切削加工に用いた場合には、チッピング、偏摩耗等の発生により、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
例えば、従来被覆超硬インサート1においては、切刃の靭性が十分でないためにチッピングや欠損を発生しやすく、また、従来被覆超硬インサート2においては、切刃の耐熱塑性変形性が十分でないために偏摩耗を生じやすく、これらが原因となって、工具寿命に至るという問題点がある。
したがって、切刃に衝撃的かつ断続的高負荷が作用する鋼や鋳鉄の断続重切削加工においても、すぐれた耐チッピング性、耐熱塑性変形性を備え、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆WC基超硬合金製インサート(被覆超硬インサート)の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記の課題に応えるため、WC基超硬合金からなる基体の成分および焼結条件について鋭意研究したところ、以下の知見を得た。
【0006】
すなわち、従来のWC超硬合金製インサート(例えば、従来被覆超硬インサート1,2)は、通常、原料粉末として、所定粒径のWC粉末、Co粉末、TiC粉末、TiN粉末、TaC粉末、NbC粉末等を所定割合に配合し、さらにバインダーと溶剤を加えて混合し、これを乾燥後、所定圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を、所定の焼結条件で焼結してWC超硬合金製インサートの素材を製造し、これを研削して、所定インサート形状およびホーニング量に加工することによって得ている。
【0007】
本発明者等は、上記従来のWC超硬合金製インサートの製法において、WC超硬合金の原料粉末として、所定粒径のWC粉末、Co粉末に、少なくともZrの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、および、Taの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、またはZrとTaの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上の固溶体粉末を必須の粉末成分として添加し、次いで、プレス成形により圧粉体を作製し、これを例えば、昇温スピード2〜10℃/min,N圧力0.06〜2.0KPaにて1300℃まで加熱昇温し、ついで、圧力を保持しながら35〜80%のNをArで置換して、N/Ar混合雰囲気として、昇温スピード10〜20℃/minにて1400〜1500℃の間の所定温度まで加熱昇温し、その後、45分間保持焼成後冷却するという条件下で焼結を行い、次いで、これを研削して、所定インサート形状およびホーニング量に加工し、この上に硬質被覆層を蒸着形成することにより、WC超硬合金製インサート基体の表面に、実質的にZrを含有しない5〜35μmの平均厚さのCo富化表面領域が形成されるとともに、該Co富化表面領域のCo含有量が超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10(但し、質量比)であり、また、同Co富化表面領域のTa含有量が、同Co富化表面領域のCo含有量の0.026〜0.086(但し、質量比)である本発明のWC超硬合金製インサートを得ることができる。
なお、WC基超硬合金製インサート基体のCo富化表面領域の組織写真の一例を図1に示す。
【0008】
そして、上記所定のCo質量比、Ta質量比を有するCo富化表面領域を備えた本発明の被覆超硬インサートは、切刃に衝撃的かつ断続的高負荷が作用する鋼や鋳鉄の断続重切削加工に用いた場合にも、切刃はこれに満足できる靭性と耐熱塑性変形性を相兼ね備えるため、長時間の使用に亘って、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「 原料として少なくともWC粉末、Co粉末を含むとともに、さらに、Zrの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、および、Taの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、またはZrとTaの炭化物、炭窒化物、窒化物のうちの1種または2種以上の固溶体粉末を含む配合原料を成形、焼結して得られるWC基超硬合金を基体とし、この基体上に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆超硬合金製インサートにおいて、
上記WC基超硬合金の基体表面には、5〜35μmの平均厚さのCo富化表面領域が形成され、かつ、該Co富化表面領域におけるCo含有量は、超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10(但し、質量比)を満足し、かつ、該Co富化表面領域におけるTa含有量は、前記Co富化表面領域におけるCo含有量の0.026〜0.086(但し、質量比)であることを特徴とする表面被覆超硬合金製インサート。」
を特徴とするものである。
【0010】
本発明の構成について、以下に説明する。
【0011】
本発明被覆超硬インサートの超硬合金基体は、例えば、所定粒径のWC粉末、Co粉末に、少なくともZrの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、および、Taの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、またはZrとTaの炭化物、炭窒化物、窒化物のうちの1種または2種以上の固溶体粉末を必須の粉末成分として添加して、所定配合比の原料粉末を形成した後、バインダーと溶剤を加えて混合し、これを乾燥後、所定圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形した後、この圧粉体を、例えば、昇温スピード2〜10℃/min,N圧力0.06〜2.0KPaにて1200℃まで加熱昇温(一次昇温という)し、ついで、圧力を保持しながら35〜80%のNをArで置換して、N/Ar混合雰囲気として、昇温スピード10〜20℃/minで1400〜1500℃の間の所定温度まで加熱昇温(二次昇温という)し、その後、45分間保持焼成後冷却するという条件下で焼結を行い、次いで、これを研削して、所定インサート形状およびホーニング量に加工することにより得る。
原料粉末の配合比は、質量比で、
WC粉末:Co粉末:Zr化合物粉末:Ta化合物粉末
=( 70.0〜93.0%):(4.0〜11.0%):(1.0〜6.5%):(2.0〜12.5%)
であることが望ましい。
【0012】
上記の製造法で得られたZr化合物及びTa化合物が含有されている本発明の超硬合金基体に、当業者に広く知られている硬質被覆層(TiN層、TiCN層、Al層等)を、化学蒸着によって被覆形成することにより、本発明被覆超硬インサートを作製する。
得られた本発明被覆超硬インサートの超硬基体表面と硬質被覆層との界面近傍を、光学顕微鏡を用いて観察すると、図1に示されるように、基体表面には、5〜35μmの平均厚さのCo富化表面領域が形成されていることが観察される。
形成されるCo富化表面領域の厚さは、焼結時の温度、時間、圧力等によって影響されるが、Co富化表面領域が5μmよりも薄くなると、断続重切削加工において、耐チッピング性、耐欠損性の向上が期待できず、一方、Co富化表面領域が35μmよりも厚くなると、耐熱塑性変形性が低下し偏摩耗を生じやすくなることから、Co富化表面領域の平均厚さは、5〜35μmとする。
【0013】
次に、本発明被覆超硬インサートWC基超硬合金基体のCo富化表面領域とWC超硬合金基体内部のCo含有量及びTa含有量は、以下のようにして測定する。
Co含有量およびTa含有量の測定は、電子線マイクロアナライザ(以下、EPMAで示す)を用いて、前記WC基超硬合金基体の縦断面にて行った。
上記の測定によると、Co富化表面領域のCo含有量は、超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10であり、また、Ta含有量は、前記Co富化表面領域のCo含有量の0.026〜0.086(但し、いずれも質量比)であることがわかる。
【0014】
Co富化表面領域のCo含有量は、焼結条件、特に、一次昇温時のN圧力、二次昇温および焼成時のN/Ar混合ガス中のNとArの混合比によって、以下のように大きく影響される。
一次昇温時のN圧力と、二次昇温および焼成時のN/Ar混合ガス中のN分圧の差が大きいと、Co富化表面領域のCo含有量が相対的に高くなる。逆に、一次昇温時のN圧力と、二次昇温および焼成時のN/Ar混合ガス中のN分圧の差が小さいと、Co富化表面領域のCo含有量が相対的に低くなる。
また、Co富化表面領域におけるTa含有量は、焼結条件、特に、一次昇温時のN圧力と、二次昇温および焼成時のN/Ar混合ガス中のNとArの混合比に加えて、二次昇温時の昇温スピードによって、以下のように大きく影響される。
一次昇温時のN圧力と、二次昇温および焼成時のN/Ar混合ガス中のN分圧の差が大きく、二次昇温時の昇温スピードが高いと、Co富化表面領域のTa含有量が相対的に高くなる。逆に、一次昇温時のN圧力と、二次昇温および焼成時のN/Ar混合ガス中のN分圧の差が小さく、二次昇温時の昇温スピードが低いと、Co富化表面領域のTa含有量が相対的に低くなる。
【0015】
Co富化表面領域におけるCo含有量が1.30未満であると、Co富化表面領域の靭性が不十分であって、耐チッピング性、耐欠損性の向上を期待することはできず、一方、Co富化表面領域におけるCo含有量が2.10を超えると、Co富化表面領域の耐熱塑性変形性が低下傾向を示すようになるため、偏摩耗が発生しやすくなり、耐摩耗性が劣化することから、Co富化表面領域のCo含有量は、超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10(但し、質量比)と定めた。
さらに、Co富化表面領域の耐熱塑性変形性の良否は、Co富化表面領域に存在するTa成分及びTa含有量が大きな影響を与える。即ち、焼結後の超硬基体のCo富化表面領域に、前記Co富化表面領域におけるCo含有量に対して0.026〜0.086(但し、質量比)のTaが存在すると、Co富化表面領域の耐熱塑性変形性が向上する。しかし、前記Co富化表面領域のCo含有量に対するTa含有量が0.026未満の場合には、TaによるCo強度向上の作用が不十分となり、所望のCo富化表面領域の耐熱塑性変形性を確保できなくなることから偏摩耗が発生しやすくなり、一方、Co富化表面領域のTa含有量が0.086を超えるような場合には、相対的にCo富化表面領域の靭性が低下するためにチッピングや欠損が発生しやすくなることから、Co富化表面領域のTa含有量は、Co富化表面領域のCo含有量に対して0.026〜0.086(但し、質量比)と定めた。
なお、この発明の超硬合金の必須成分として含有しているZr化合物については、WCを含む炭化物の強固なスケルトン構造を形成し、その結果として、耐熱塑性変形性を向上させるが、Co富化表面領域中に多量のZrが存在すると、焼結性が低下するばかりか靭性も低下し、チッピング発生の起点となりやすい。
ただ、前記した本発明の超硬合金の焼結条件によれば、Co富化表面領域中のZr含有量は、実質的にゼロとなるため、耐チッピング性および耐熱塑性変形性に悪影響を及ぼすことはない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の表面被覆超硬合金製インサートによれば、特に、Co富化表面領域のCo含有量は、超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10(但し、質量比)であり、かつ、Co富化表面領域のTa含有量は、前記Co富化表面領域のCo含有量の0.026〜0.086(但し、質量比)とされ、Co富化表面領域が靭性と耐熱塑性変形性を相兼ね備えることにより、切刃に衝撃的かつ断続的高負荷が作用する鋼や鋳鉄等の断続重切削加工において、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性と耐熱塑性変形性を示し、その結果、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の表面被覆超硬合金製インサート6の超硬基体表面の断面光学顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の表面被覆超硬合金製インサートについて、実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
原料粉末として、いずれも0.5〜3μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、Co粉末、ZrC粉末、ZrCN粉末、TaC粉末、TaCN粉末、Cr粉末を、表1に示される割合に配合し、さらにバインダーと溶剤を加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形した。
このプレス成形により得た圧粉体を、表2に示す焼結条件で焼結し、本発明の被覆超硬インサート素材1〜10を製造した。
これらの被覆超硬インサート素材から研削にて、CNMG120412(ホーニング量0.07mm)に規定されるインサート形状およびホーニング量に加工し、本発明の被覆超硬インサート基体1〜10を製造した。
【0020】
さらに、上記本発明の被覆超硬インサート基体1〜10の表面に、各種の硬質被覆層を形成し、表3に示す本発明の表面被覆超硬合金製インサート1〜10以下、実施例1〜10というを製造した。
実施例1〜10の表面被覆超硬合金製インサートについて、それぞれの超硬インサート基体の表面のCo富化表面領域の厚さを、前記超硬インサートを縦断面方向に鏡面ラップした後に光学顕微鏡観察によって求めた。
なお、図1に、本発明の表面被覆超硬合金製インサート8の超硬基体表面の断面光学顕微鏡写真を示す。
さらに、実施例1〜10の表面被覆超硬合金製インサートの内部のCo含有量、Ta含有量、Zr含有量、また、Co富化表面領域のCo含有量、Ta含有量、Zr含有量を、前記本発明超硬合金製インサートの縦断面における当該箇所をEPMAにより測定し、Co富化表面領域のCo含有量、Ta含有量と、インサートの内部のCo含有量、Ta含有量の比の値を求めた。
これらの測定結果を、表3に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
比較のため、原料粉末として、いずれも0.5〜3μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、Co粉末、ZrC粉末、ZrCN粉末、TaC粉末、TaCN粉末、Cr粉末を、表4に示される割合に配合し、さらにバインダーと溶剤を加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、 このプレス成形により得た圧粉体を、表5に示す焼結条件で焼結し、比較例の被覆超硬インサート素材1〜10を製造した。
これらの被覆超硬インサート素材から研削にて、CNMG120412(ホーニング量0.07mm)に規定されるインサート形状およびホーニング量に加工し、比較例の被覆超硬インサート基体1〜10を製造した。
【0025】
さらに、上記比較例の被覆超硬インサート基体1〜10の表面に、各種の硬質被覆層を形成し、表6に示す比較例の表面被覆超硬合金製インサート1〜10以下、比較例1〜10というを製造した。
比較例1〜10の表面被覆超硬合金製インサートについて、それぞれの超硬インサート基体の表面のCo富化表面領域の厚さを、前記比較超硬インサートを鏡面ラップした後に光学顕微鏡観察によって求めた。
さらに、比較例1〜10の表面被覆超硬合金製インサートの内部のCo含有量、Ta含有量、Zr含有量、また、Co富化表面領域のCo含有量、Ta含有量、Zr含有量を、前記比較例超硬合金製インサートの縦断面における当該箇所をEPMAにより測定し、Co富化表面領域のCo含有量、Ta含有量と、インサートの内部のCo含有量、Ta含有量の比の値を求めた。
これらの測定結果を、表6に示す。
【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
つぎに、上記の実施例1〜10および比較例1〜10について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・S50Cの1溝スリット入り丸棒、
切削速度:350 m/min.、
切り込み:2.5 mm、
送り:0.45 mm/rev.、
の条件(以下、切削条件1という)での炭素鋼の乾式断続高送り切削加工試験(通常の送りは、0.3mm/rev)、
被削材:JIS・SCM440の1溝スリット入り丸棒、
切削速度:350 m/min.、
切り込み:3.0 mm、
送り:0.3 mm/rev.、
の条件(以下、切削条件2という)での合金鋼の乾式断続高切込み切削加工試験(通常の切り込みは、1.5mm)、
を行い、
逃げ面摩耗幅が0.3mmに達するまでの時間を測定した。
これらの切削加工試験結果を表7に示した。
【0030】
【表7】

【0031】
表3,6,7の結果からみて、本発明の表面被覆超硬合金製インサートにおいては、特に、Co含有量の質量比が1.30〜2.10となっているCo富化表面領域が形成され、さらに、該Co富化表面領域におけるCo含有量に対してTa含有量の質量比が0.026〜0.086となっているCo富化表面領域が形成されていることによって、切刃に断続的かつ衝撃的高負荷が作用する鋼や鋳鉄等の断続重切削加工において、すぐれた耐チッピング性および耐熱塑性変形性を示し、その結果、長期の使用にわたって欠損、偏摩耗等を発生することなくすぐれた耐摩耗性を発揮することができるのに対して、比較例の表面被覆超硬合金製インサートでは、チッピングの発生あるいは耐摩耗性の劣化によって、短時間で寿命に至ることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の表面被覆超硬合金製インサートは、断続重切削加工に用いられた場合、長期間の使用にわたってすぐれた切削性能を維持することができるばかりでなく、工具寿命の延命化も図られ、さらに、本発明の表面被覆超硬合金製インサートは、耐チッピング性、耐欠損性、耐熱塑性変形性、耐摩耗性等が求められる各種被削材のインサートとして用いることが可能であり、切削加工の省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として少なくともWC粉末、Co粉末を含むとともに、さらに、Zrの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、および、Taの炭化物、炭窒化物、窒化物粉末のうちの1種または2種以上、またはZrとTaの炭化物、炭窒化物、窒化物のうちの1種または2種以上の固溶体粉末を含む配合原料を成形、焼結して得られるWC基超硬合金を基体とし、この基体上に硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆超硬合金製インサートにおいて、
上記WC基超硬合金の基体表面には、5〜35μmの平均厚さのCo富化表面領域が形成され、かつ、該Co富化表面領域におけるCo含有量は、超硬合金内部のCo含有量の1.30〜2.10(但し、質量比)を満足し、かつ、該Co富化表面領域におけるTa含有量は、前記Co富化表面領域におけるCo含有量の0.026〜0.086(但し、質量比)であることを特徴とする表面被覆超硬合金製インサート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−235370(P2011−235370A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106878(P2010−106878)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】