説明

被膜付き切削工具および被膜付き切削工具を製造する方法

【課題】鋭い形状および研磨した刃先の上でなくても、スポーリング、フリッタリング、いわゆる刃先スポーリングおよびフレーキングを起こしにくいPVD被膜を有する被膜付き切削工具およびその製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2つの非金属機能層または層システムの間に配置された金属中間層を含む被膜を備えた基材を含む被膜付き切削工具に関し、前記金属中間層は、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrまたはこれらの混合物の1種または複数種から選択される金属元素を少なくとも60at%含み、前記の少なくとも2つの非金属機能層または層システムは、窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはそれらの組み合わせの1種または複数種であり、前記の少なくとも2つの非金属機能層または層システムの厚さは前記金属中間層の厚さの3から200倍である。金属中間層と交互積層した非金属機能層または層システムの数は少なくとも3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの非金属機能層または層システムの間に1つまたは複数の金属中間層を含む被膜付き切削工具に関する。本発明の切削工具は、靭性増大により優れた寿命を示し、そのため負荷の変化に耐えるより高い能力を示すであろう。さらに、本発明は、刃先に沿ったスポーリングのおそれなしにより厚いPVD被膜の堆積を容易にし、このためより高い耐逃げ面摩耗性を持つより厚い被膜を堆積できる。被膜のより靭性のある挙動は、鋭いまたは研磨した刃の上でさえ適度に厚い被膜を容易にする。
【背景技術】
【0002】
一般的に、切削工具の寿命は、その表面に被膜が堆積している場合著しく延びる。現在のほとんどの切削工具は、Ti(C,N)、TiN、(Ti,Al)N、(Ti,Si)N、(Al、Cr)NまたはAlなどのPVDまたはCVD被膜により被覆されている。PVD被膜はCVD被膜に比べ魅力的な性質をいくつか有するが、例えば微細な粒子の被膜および堆積したままの状態での圧縮応力などであり、負荷の変化に耐えるより良い能力を与える。しかし、PVD被膜は通常きわめて薄くなければならず、その理由は、より厚いPVD被膜が、通常刃先の周りで自然に、または機械加工の間に、スポーリング、フリッタリング、いわゆる刃先スポーリングおよびフレーキングを起こすことがあるからである。
【0003】
スポーリングが起こる前に工具に堆積できる最大被膜厚さは、刃先半径ER(edge radius)に依存する。小さいERを持つ鋭い刃先および研磨した刃先は、刃先に沿ってスポーリングおよびフレーキングを特に起こしやすく、そのため薄い被膜が通常堆積される。しかし、刃先をそのままにしておけるなら、わずかにより厚い被膜が好ましく、その理由は、より厚い被膜が、より良い耐摩耗性のためほとんどの場合工具寿命の延びにつながるからである。
【0004】
PVD技術による金属層の堆積は、PVDプロセスにおける確立された技術でもある。基材の表面に金属層を直接堆積してから被膜の残りを堆積すると被膜の粘着を向上させる場合もあることが知られている。
【0005】
非金属層の間に金属層を堆積させる試みはほとんどなされていない。
【0006】
特許文献1は、交互積層した金属層およびセラミック層を含む耐摩耗性被膜を記載している。前記被膜は、マイクロラフネスが低い微粒表面を有するであろう。被膜は好ましくは鋼、チタンまたは炭化物、例えばTiC、好ましくは鋼の基材上に堆積する。基材は好ましくは、歯科用工具、手術用工具または切削工具の形態である。実施例において、鋼の歯石除去器に被膜が備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】アメリカ合衆国公開特許公報US2002/0102400A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、鋭い形状および研磨した刃先の上でなくても、スポーリング、フリッタリング、いわゆる刃先スポーリングおよびフレーキングを起こしにくいPVD被膜を有する被膜付き切削工具を提供し、このため工具寿命の延びた工具を得る方法の提供である。
【0009】
本発明の目的は、鋭い未被覆刃先半径、ERを持ち、刃先スポーリング、フリッタリング、フレーキングなどの恐れなくより厚いPVD被膜を有する被膜付き切削工具を提供し、このため工具寿命の延びた工具を得ることである。
【0010】
本発明の他の目的は、より高い耐逃げ面摩耗性を有する被膜付き切削工具の提供である。
【0011】
本発明の他の目的は、上記に開示した利点を有する被膜付き切削工具を製造する方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
2つの非金属機能層または層システムの間に配置された金属中間層を含む被膜付き切削工具を提供することにより、上記の目的が満たされることが驚くべきことに見いだされた。
【0013】
本発明は、少なくとも2つの非金属機能層または層システムの間に配置された金属中間層を含む被膜を備えた、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素または高速鋼の基材を含む被膜付き切削工具に関し、
前記金属中間層は、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrの1種または複数種から選択される金属元素を少なくとも60at%含み、
前記の少なくとも2つの非金属機能層または層システムは、窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはそれらの組み合わせの1種または複数種である。
【0014】
少なくとも2つの非金属機能層または層システムの厚さは、金属中間層の厚さの3から200倍である。金属中間層と交互積層した非金属機能層または層システムの数は少なくとも3であり、好ましくは3から20、より好ましくは3から15、最も好ましくは3から8の非金属機能層または層システムである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、インサートの刃の研磨した断面である。それぞれ基材面に平行および垂直な2つの線が描かれる。これらの2本の線から、2つの参照点が見いだされ、そこからさらに中心が見いだされる。ERは、5つの異なる角度での中心から刃先への平均距離として定義される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
金属中間層とは、本願において、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrの1種または複数種から選択される金属元素を、少なくとも60at%、好ましくは少なくとも70at%、より好ましくは少なくとも80at%、最も好ましくは少なくとも90at%含む層を意味する。
【0017】
金属中間層はより少量の他の元素を含んでもよく、そうではあるが技術的不純物に相当する濃度であり、したがって層の展性に著しい影響を与えない。
【0018】
本発明の1実施形態において、金属中間層は、金属(複数可)が、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZr、好ましくは、Ti、Mo、Cr、Al、V、TaおよびZr、最も好ましくはTi、Al、ZrおよびCrまたはこれらの混合物から選択される純粋な金属層であり、これらの元素の1種が純粋な金属層の少なくとも50at%を構成している。
【0019】
本発明の他の実施形態において、金属中間層は、不足当量セラミック、好ましくは窒化物、酸化物、炭化物または硼化物、より好ましくは窒化物MeNであり、Meは上述の純粋な金属中間層の場合に含まれる金属の1種または複数種でよい金属である。金属元素の量は、不足当量セラミックの少なくとも60at%、好ましくは70at%、より好ましくは少なくとも80at%、最も好ましくは少なくとも90at%である。
【0020】
金属中間層の平均厚さは5nmから500nmでよく、好ましくは10nmから200nm、最も好ましくは20nmから70nmである。
【0021】
本願における厚さは全て、ターゲットからのまっすぐな視線内にある適度に平坦な表面上で実施される測定値を意味する。堆積の間スティックに載せられているインサートでは、逃げ面の中心で厚さが測定されたことを意味する。例えば、ドリルおよびエンドミル上の表面などの不規則な表面では、本願における厚さは、適度に平坦な表面、または比較的大きな曲率を持ち縁または角から幾分離れた表面で測定された厚さを意味する。例えば、ドリルでは外周上で測定が実施され、エンドミルでは逃げ面で測定が実施された。
【0022】
非金属機能層または層システムは、窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはこれらの組み合わせなど、切削工具に好適などのような組成を持ってもよい。好ましくは、被膜は、(Al,Ti)N、TiN、(Al,Cr)N、CrN、ZrN、Ti(B,N)、TiB、(Zr,Al)N、XがSi、Ta、V、Y、Cr、NbおよびZrのうちの1種または複数種である(Ti,X)N、Al、ZrおよびCrの1種または複数種の酸化物、より好ましくは(Al、Ti)N、Ti(B,N)、(Ti,X)N、最も好ましくは(Al,Ti)Nのうちの1種または複数種の1または複数の層を含む。
【0023】
本発明の非金属機能層または層システムは、切削工具を被覆する分野に常識的な、どのような被膜構造を有してもよい。
【0024】
前記の少なくとも2層または層システムは、その間に金属中間層が配置されるが、構造および組成に関して互いに同じでも異なっていてもよい。層システムとは、本願では、金属中間層を間に全くはさまずに互いの上に堆積された少なくとも2層を意味する。そのような層システムの1例は、少なくとも5の個別な層を含む多層構造である。しかし、そのような多層構造は、最大で数千の個別な層を含むことがある。
【0025】
非金属機能層または層システムの平均厚さは0.3〜5μmでよく、好ましくは0.3〜2μm、最も好ましくは0.4〜1.5μmである。
【0026】
非金属層または層システムは金属中間層よりも著しく厚く、非金属層または層システムの厚さは、好ましくは金属中間層の厚さの3から200倍、より好ましくは5から150倍、最も好ましくは10から100倍厚い。
【0027】
金属層および非金属層または層システムの両方を含む被膜全体の厚さは0.6から15μmでよく、好ましくは1から10μm、最も好ましくは2から9μmでよい。
【0028】
本発明に好適な基材は好ましくは切削工具インサート、またはドリル、エンドミルなどの丸い工具である。基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素または高速鋼、より好ましくは超硬合金のいずれかからできている。超硬合金とは、本願において、主に炭化タングステンおよびバインダー相としてのコバルトを含む基材を意味する。基材は、基材の上に直接堆積している内部層により予備被覆されて、基材への良好な粘着を確実にすることができ、内部層は純粋な金属および/または窒化物、好ましくはTiおよび/またはTiNを含み、前記層は0.02〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.1μmである。
【0029】
インサートの刃は、通常、刃先半径ERと呼ばれる円弧を呈する。ERは、刃先に垂直に切られたインサートの研磨された断面から測定できる。ERは、インサート支持面に平行な線および第1の線に垂直な別の線を書くことにより定義される。これらの直線からインサートの形状が接する、または離れる2カ所の点は、参照点(RP1およびRP2)と呼ばれる。これらの2つの参照点から、最初の2本の線に平行に、他の2本の線が書かれる(L1およびL2)。参照点を通る2本の線の交点は中心(C)と呼ばれる。角度0、22.5、45、67.5および90度(R1、R2…R5)での中心から刃への距離を測り、平均を計算するとERが得られる。この手順を図1に示す。例えばソリッドドリルまたはエンドミル上のように、刃がすくい面でランドを有する場合、または刃が研磨されている場合、2つの研磨した表面の間または研磨した表面と逃げ面の間の二等分線上にある中心を持ち、最小二乗法を利用して円弧に合わせられる円の半径としてERが定義される。
【0030】
本発明の1実施形態において、被膜の厚さは、刃先半径ERの少なくとも10%、好ましくは15%を超え、最も好ましくは20%を超えるが、刃先半径ERの45%未満、好ましくは40%未満、最も好ましくは35%未満である。
【0031】
本発明の1実施形態において、基材は35μm未満の未被覆ERを有する切削工具インサートであり、被膜厚さは6から11μmである。
【0032】
本発明の他の実施形態において、基材は20μm未満の未被覆ERを有する切削工具インサートであり、被膜厚さは4から7μmである。
【0033】
本発明の他の実施形態において、基材は15μm未満の未被覆ERを持つドリルまたはエンドミルであり、被膜厚さは2から5μmである。
【0034】
本発明の1実施形態において、少なくとも2つの非金属層または層システムは、(Al,Ti)Nであり、0.5から2μmの厚さを有し、薄い金属中間層は好ましくは厚さが20から50nmのTiである。
【0035】
本発明の1実施形態において、金属中間層はTiとAlの合金である。
【0036】
本発明のさらに他の実施形態において、金属中間層はAlとCrの合金である。
【0037】
本発明は、上記による被膜付き切削工具を製造する方法にも関する。前記方法は、基材を準備する工程、以下の工程を含む被覆プロセスで前記基材を被覆する工程を含む:
a)少なくとも1つの非金属機能層または層システムを堆積する工程、
b)少なくとも1つの金属中間層を堆積する工程、
c)前記金属中間層の上への、少なくとも1つの非金属機能層または層システムを堆積する工程。
【0038】
上述の工程b)およびc)は、所望の被膜全厚さが得られるまで、少なくとも1回、好ましくは1から14回、より好ましくは1から9回、最も好ましくは1から7回繰り返される。
【0039】
金属中間層とは、本願で、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrの1種または複数種の金属元素を少なくとも60at%、好ましくは少なくとも70at%、より好ましくは少なくとも80at%、最も好ましくは少なくとも90at%含む層を意味する。
【0040】
金属中間層は、雰囲気を反応性ガスから不活性ガス、例えばHe、Ar、Kr、Xeまたはこれらのガスの混合物に変えることにより、機能層と同じ被覆プロセス内で堆積させることが好ましい。
【0041】
本発明の1実施形態において、金属中間層は、金属(複数可)がTi、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZr、好ましくは、Ti、Mo、Cr、Al、V、TaおよびZr、最も好ましくはTi、Al、ZrおよびCrまたはこれらの混合物から選択される純粋な金属層であり、これら元素の1種が純粋な金属中間層の少なくとも50at%を構成する。
【0042】
本発明の他の実施形態において、中間層は、不足当量セラミック、好ましくは窒化物、酸化物、炭化物または硼化物、より好ましくは窒化物MeNであり、Meは上述の純粋な金属中間層の場合に含まれる1種または複数種の金属またはその混合物でよい金属である。前記金属元素の量は、不足当量セラミックの少なくとも60at%、好ましくは少なくとも70at%、より好ましくは少なくとも80at%、最も好ましくは少なくとも90at%である。
【0043】
金属中間層の平均厚さは好ましくは5nmから500nmであり、より好ましくは10nmから200nm、最も好ましくは20nmから70nmである。
【0044】
本発明により堆積した非金属機能層または層システムは、窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはこれらの組み合わせなど、切削工具に好適などのような組成を持ってもよい。好ましくは、被膜は、(Al,Ti)N、TiN、(Al,Cr)N、CrN、ZrN、Ti(B,N)、TiB、(Zr,Al)N、XがSi、Ta、V、Y、Cr、NbおよびZrの1種または複数種でよい(Ti,X)N、Al、ZrおよびCrの1種または複数種の酸化物、より好ましくは(Al,Ti)N、Ti(B,N)、(Ti,X)N、最も好ましくは(Al,Ti)Nの1種または複数種の1層または複数の層を含む。
【0045】
本発明により堆積する非金属機能層または層システムは、切削工具を被覆する分野に常識的などのような被膜構造を持っていてもよい。前記の少なくとも2つの層または層システムは、その間に金属中間層が配置されているが、構造および組成に関して互いに同じでも異なっていてもよい。
【0046】
非金属機能層または層システムの平均厚さは、0.3〜5μm、好ましくは0.3〜2μm、最も好ましくは0.4〜1.5μmでよい。
【0047】
非金属層または層システムは金属中間層よりも著しく厚く、非金属層または層システムの厚さは、好ましくは金属中間層の厚さの3〜200倍、より好ましくは5〜150倍、最も好ましくは10〜100倍厚い。
【0048】
金属層および非金属層または層システムの両方を含む被膜全体の厚さは、0.5〜15μmでよく、好ましくは1〜10μm、最も好ましくは2〜9μmでよい。
【0049】
本発明に好適な基材は好ましくは切削工具インサート、またはドリル、エンドミルなどの丸い工具である。基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素または高速鋼、好ましくは超硬合金のいずれかからできている。基材は、基材の上に直接堆積している内部層により予備被覆されて、基材への良好な粘着を確実にすることができ、内部層は純粋な金属および/または窒化物、好ましくはTiおよび/またはTiNを含み、前記層は0.02〜0.5μm、好ましくは0.05〜0.1μmであり、残りの層と同じ被覆プロセス内で堆積する。
【0050】
本発明の1実施形態において、被膜の厚さは、刃先半径ERの少なくとも10%、好ましくは15%を超え、より好ましくは20%を超えるが、刃先半径ERの45%未満、好ましくは40%未満、最も好ましくは35%未満である。
【0051】
本発明の1実施形態において、基材は35μm未満の未被覆ERを有する切削工具インサートであり、被膜厚さは6から11μmである。
【0052】
本発明の1実施形態において、基材は20μm未満の未被覆ERを有する切削工具インサートであり、被膜厚さは4から7μmである。
【0053】
本発明の他の実施形態において、基材は15μm未満の未被覆ERを持つドリルまたはエンドミルであり、被膜厚さは2から5μmである。
【0054】
切削工具を被覆する場合に通常利用されるどのようなPVD技術も本発明の方法に利用できる。好ましくはカソードアーク蒸発またはマグネトロンスパッタリングが利用されるが、HIPIMS(高出力衝撃マグネトロンスパッタリング)などの新しい技術も利用できる。本発明による被膜が「PVD被膜」と称されていたとしても、例えば、従来のCVD被膜よりもPVD被膜に近い性質を持つ被膜を生成するPECVD技術(プラズマエンハンスド化学蒸着)により被膜を堆積させてもよい。
【0055】
本発明の1実施形態において、堆積した非金属機能層または層システムは0.5〜2μmの厚さを有する(Ti,Al)Nであり、堆積した薄い金属中間層は好ましくは厚さが20〜70nmであるTiである。
【0056】
本発明の1実施形態において、金属中間層はTiとAlの合金である。
【0057】
本発明のさらに他の実施形態において、金属中間層はAlとCrの合金である。
【実施例】
【0058】
〔実施例1〕
2種の異なる形状、R290-12T308M-KMおよびR390-11T0308M-PMの超硬合金フライス加工インサートを使用し、インサートAには、従来技術により、逃げ面の中心で測定して6μmの厚さの均質なTi0.33Al0.67N被膜で被覆した。被膜はN雰囲気中でカソードアーク蒸発により堆積させ、インサートを3重回転基材テーブル上に載せた。(Ti,Al)N被膜は、2組のTi0.33Al0.67ターゲットから堆積させた。
【0059】
インサートBは、本発明により被覆した。ある厚さのTi0.33Al0.67N層を堆積させた後堆積を停止し、リアクターチャンバーをArで満たし、1組のTiターゲットに点火し、薄いおよそ30nmの金属Ti層を堆積させた以外、インサートAと同じ堆積条件を利用した。次いで、リアクターをNガスで満たし、新たなTi0.33Al0.67N層を堆積させた。Ti層およびTi0.33Al0.67N層を堆積させるこの手順を7回繰り返し、被膜の全厚さ6μmを得た。Ti0.33Al0.67N層の平均厚さは1μmであった。
【0060】
<実施例2〜5の説明>
以下の表現/用語は金属切削に通常使用され、以下の表で説明される。
【0061】
(m/分) 分当たりのメートルで表す切削速度
(mm/歯) 歯当たりのミリメートルで表す送り速度
z(数) カッター中の歯の数
(mm) ミリメートルで表す半径方向切込み深さ
(mm) ミリメートルで表す軸方向切込み深さ
D(mm) ミリメートルで表すカッター直径
〔実施例2〕
形状がR390-11T0308M-PMでERが20μmの実施例1のインサートを比較した。インサートを、硬鋼の肩部フライス加工で試験した。
【0062】
被削材 焼入れ鋼Sverker 21(HRc=59)
= 60m/分
= 0.12mm/歯
= 1mm
= 4mm
z= 1
D= 32mm
冷却 乾燥条件
工具寿命の基準は、0.2mmを超える逃げ面摩耗、0.3mmを超えるフリッティングあるいは薄片状破損(slice fracture)またはいずれかの刃の刃破損であった。
【0063】
インサートA(従来技術)は刃先スポーリングがあり、刃の被膜厚さはわずか2〜2.5μmで、刃から幾分離れた逃げ面の厚さの約半分であった。インサートB(本発明)には刃先スポーリングがなく、刃の被膜厚さは逃げ面の厚さよりわずかに大きく、6.5μmであった。
【0064】
インサートA(従来技術)はこの用途に19分耐えたが、インサートB(本発明)は25分耐えた。工具寿命を延ばすための摩耗タイプの決定的な違いは、より少ないフリッティングであった。
【0065】
〔実施例3〕
形状がR290-12T308M-KMで未被覆の刃先半径が30μmの実施例1のインサートA(従来技術)およびB(本発明)をフライス操作で試験し比較した。
【0066】
被削材 CGI(コンパクト黒鉛鋳鉄)Sintercast
= 300m/分
= 0.15mm/歯
= 50mm
= 3mm
z= 3
D= 63mm
備考 乾燥条件
工具寿命の基準は、3つの刃の平均として0.3mmを超える逃げ面摩耗、0.4mmを超えるフリッティング、薄片状破損またはいずれかの刃の刃破損であった。
【0067】
インサートA(従来技術)はこの用途に9分耐えたが、インサートB(本発明)は19分耐えた。工具寿命を延ばすための摩耗タイプの決定的な違いは、より少ないフリッティングであった。
【0068】
〔実施例4〕
形状がR390-11T0308M-PMでER=35μmの実施例1のインサートA(従来技術)およびB(本発明)を、以下の切削条件の間にフライス操作で試験した。
【0069】
被削材 低合金鋼、SS2244
= 150、200m/分
= 0.15mm/歯
= 25mm
= 3mm
z= 2
D= 25mm
冷却剤 エマルション
工具寿命の基準は、0.2mmを超える逃げ面摩耗または0.3mmを超えるフリッティングであった。
【0070】
インサートA(従来技術)はこの用途に30分耐えたが、インサートB(本発明)は39分耐えた。
【0071】
増加したVc=200m/分で、インサートA(従来技術)は20分耐えたが、インサートB(本発明)は37分耐えた。
【0072】
工具寿命を延ばすための摩耗タイプの決定的な違いは、より少ない逃げ面摩耗と組み合わされたより少ない刃先のチッピングであった。面白いことに、インサートB(本発明)はゆっくりとした一様な摩耗の増加を示したが、インサートA(従来技術)はより壊滅的な破損を起こした。
【0073】
〔実施例5〕
形状がR390-11T0308M-PMでER=35μmの実施例1のインサートA(従来技術)およびB(本発明)を、以下の切削条件の間にフライス操作で試験した。
【0074】
被削材 焼入れ鋼Sverker 21(HRc=59)
= 40m/分
= 0.12mm/歯
= 2mm
= 4mm
z= 1
D= 32mm
冷却剤 エマルション
工具寿命の基準は、0.2mmを超える逃げ面摩耗または0.3mmを超えるフリッティングであった。
【0075】
インサートA(従来技術)はこの用途に10.5分耐えたが、インサートB(本発明)は14分耐えた。
【0076】
工具寿命を延ばすための摩耗タイプの決定的な違いは、より少ない逃げ面摩耗と組み合わされたより少ない刃先のチッピングであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの非金属機能層または層システムの間に配置された金属中間層を含む被膜を備えた超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素または高速鋼の基材を含み、
前記金属中間層が、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrの1種または複数種から選択される金属元素を少なくとも60at%含み、
前記の少なくとも2つの非金属機能層または層システムが、窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはそれらの組み合わせの1種または複数種である被膜付き切削工具であって、
前記の少なくとも2つの非金属機能層または層システムの厚さが前記金属中間層の厚さの3から200倍であり、金属中間層と交互積層した非金属機能層または層システムの数が少なくとも3であることを特徴とする被膜付き切削工具。
【請求項2】
前記非金属機能層または層システムの組成が、(Al,Ti)N、TiN、(Al,Cr)N、CrN、ZrN、Ti(B,N)、TiB、(Zr,Al)N、XがSi、Ta、V、Y、Cr、NbおよびZrのうちの1種または複数種である(Ti,X)N、Al、ZrおよびCrの1種または複数種の酸化物の1種または複数種であることを特徴とする、請求項1に記載の被膜付き切削工具。
【請求項3】
前記金属中間層が、金属(複数可)が、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrまたはこれらの混合物から選択される純粋な金属層であることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の被膜付き切削工具。
【請求項4】
前記被膜の厚さが、基材の未被覆刃先半径ERの少なくとも10%であるが45%未満であることを特徴とする、上記請求項のいずれかに記載の被膜付き切削工具。
【請求項5】
前記金属中間層の厚さが5nmから500nmであることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の被膜付き切削工具。
【請求項6】
全被膜厚さが0.5から15μmであることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の被膜付き切削工具。
【請求項7】
被膜付き切削工具を製造する方法であって、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素または高速鋼の基材を準備する工程および前記基材を以下の工程:
a)窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはこれらの組み合わせを含む、少なくとも1つの非金属機能層または層システムを堆積する工程、
b)Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrの1種または複数種から選択される金属元素を少なくとも60at%含む、少なくとも1つの金属中間層を堆積する工程、
c)前記金属中間層の上への、窒化物、酸化物、硼化物、炭化物またはこれらの組み合わせを含む、少なくとも1つの非金属機能層または層システムを堆積する工程
を含む被覆プロセスで被覆する方法を含み、
工程b)およびc)が少なくとも1回繰り返され、
前記の非金属機能層または層システムの厚さが前記金属中間層の厚さの3から200倍であり、金属中間層と交互積層した非金属機能層または層システムの数が少なくとも3であることを特徴とする、被膜付き切削工具を製造する方法。
【請求項8】
前記被膜がPVD技術により堆積する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記の堆積した被膜の厚さが、基材の未被覆刃先半径ERの少なくとも10%であるが45%未満であることを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記の堆積した非金属層または層システムが、(Al,Ti)N、TiN、(Al,Cr)N、CrN、ZrN、Ti(B,N)、TiB、(Zr,Al)N、XがSi、Ta、V、Y、Cr、NbおよびZrのうちの1種または複数種である(Ti,X)N、Al、ZrおよびCrの1種または複数種の酸化物の1種または複数種であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記の堆積した金属中間層が、金属(複数可)が、Ti、Mo、Al、Cr、V、Y、Nb、W、TaおよびZrまたはこれらの混合物から選択される純粋な金属層であることを特徴とする、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記金属中間層の厚さが5nmから500nmであることを特徴とする、請求項7〜11のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−154287(P2009−154287A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−322561(P2008−322561)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】