説明

複列アンギュラ玉軸受

【課題】所定のアキシャル荷重を負荷しつつ、保持器の設計スペースを確保でき、玉の挿入性が良好な複列アンギュラ玉軸受を提供する。
【解決手段】2列の外輪軌道溝19,21の軸方向外側に設けられた外輪外方肩部31の溝肩高さh1が、2列の外輪軌道溝19,21間に設けられる外輪内方肩部35の溝肩高さh2より低く形成され、2列の内輪軌道溝23,25の軸方向外側に設けられた内輪外方肩部27の溝肩高さh3が、2列の内輪軌道溝23,25間に設けられる内輪内方肩部41の溝肩高さh4より高く形成され、外輪内方肩部35の溝肩高さh2と内輪外方肩部27の溝肩高さh3が等しくなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプやコンプレッサ等に使用される複列アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アキシャル負荷能力や耐モーメント性が要求されるポンプやコンプレッサ等の転がり軸受として、複列アンギュラ玉軸受が利用されている(例えば、特許文献1参照。)。図8(a)に示すように、特許文献1に記載の複列アンギュラ玉軸受101は、外輪103、内輪105、2列で接触角を持って配列される複数の玉107、109と、玉107、109を保持する2つの保持器115、117と、を備える。外輪103の内周面には、2列の外輪軌道溝119、121が設けられ、内輪105の外周面には、2列の内輪軌道溝123、125が設けられている。
【0003】
外輪103には、2列の外輪軌道溝119,121間に外輪内方肩部135が形成され、外輪軌道溝119,121の軸方向外側に外輪外方肩部131が形成される。また、内輪105には、2列の内輪軌道溝123,125間に内輪内方肩部141が形成され、内輪軌道溝119,121の軸方向外側に内輪外方肩部137が形成される。
【0004】
図8に示す複列アンギュラ玉軸受101では、軸受空間容積を増大してグリース寿命を向上するため、内輪105の内輪外方肩部137の溝肩高さhcが、内輪内方肩部141の溝肩高さhdよりも高くなっている。また、特許文献1では、同様の効果を奏するため、外輪103の外輪外方肩部131の溝肩高さを外輪内方肩部135の溝肩高さよりも低くした他の複列アンギュラ玉軸受が記載されている。
【特許文献1】特開平8−270644号公報(第1,2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、複列アンギュラ玉軸受では、過大なアキシャル荷重が負荷された場合、溝肩高さが低いと玉が乗り上げ、乗り上げ傷から玉の剥離等の軸受損傷が発生する。そのため、溝肩高さが高い方が乗り上げに対して有利であるが、溝肩高さが高すぎると保持器の設計スペースが無くなり、また、軸受組立て時に玉が挿入できなくなる可能性がある。特許文献1に記載の複列アンギュラ玉軸受101では、内輪105の各肩部の溝肩高さと外輪103の各肩部の溝肩高さを軸受空間容積増大のために設定しているが、上記課題を認識しておらず、また、内輪と外輪の各肩部の関係についても考慮されていない。
【0006】
本発明は、このような上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、所定のアキシャル荷重を負荷しつつ、保持器の設計スペースを確保でき、玉の挿入性が良好な複列アンギュラ玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成によって達成される。
(1) 内周面に2列の外輪軌道溝を有する外輪と、
該外輪の径方向内方で同心に配置され、外周面に2列の内輪軌道溝を有する内輪と、
互いに対向する前記2列の外輪軌道溝と前記2列の内輪軌道溝との間に複列に配置される複数の玉と、を備える複列アンギュラ玉軸受であって、
前記外輪には、2列の外輪軌道溝間に設けられる外輪内方肩部と、2列の外輪軌道溝の軸方向外側に設けられ、前記外輪内方肩部より溝肩高さの低い外輪外方肩部とが形成され、
前記内輪には、2列の内輪軌道溝間に設けられる内輪内方肩部と、2列の外輪軌道溝の軸方向外側に設けられ、前記内輪内方肩部より溝肩高さの高い内輪外方肩部とが形成され、
前記外輪内方肩部の溝肩高さと前記内輪外方肩部の溝肩高さが等しいことを特徴とする複列アンギュラ玉軸受。
(2) ポンプに使用され、インペラを有する軸を支持することを特徴とする(1)に記載の複列アンギュラ玉軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明の複列アンギュラ玉軸受によれば、2列の外輪軌道溝の軸方向外側に設けられた外輪外方肩部の溝肩高さが、2列の外輪軌道溝間に設けられる外輪内方肩部のものより低く形成され、2列の内輪軌道溝の軸方向外側に設けられた内輪外方肩部の溝肩高さが、2列の内輪軌道溝間に設けられる内輪内方肩部のものより高く形成され、外輪内方肩部の溝肩高さと内輪外方肩部の溝肩高さが等しくなるように設定される。これにより、所定のアキシャル荷重を負荷しつつ、保持器の設計スペースを確保でき、玉の挿入性が良好なものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る複列アンギュラ玉軸受について図面を参照して詳細に説明する。
【0010】
図1に示されるように、複列アンギュラ玉軸受1は、環状で単一の外輪3と、外輪3の径方向内方であって、外輪3と同心で相対回転可能に配置される環状で単一の内輪5と、外輪3と内輪5との間で複列に複数配置される玉7、9と、玉7、9を回転可能に保持する金属製の一対の保持器15、17と、を備える。
【0011】
外輪3の内周面には、周方向に延在する2つの凹状の外輪軌道溝19、21が設けられている。同様に、内輪5の外周面には、周方向に延在する2つの凹状の内輪軌道溝23、25が設けられている。互いに対向する外輪軌道溝19と内輪軌道溝23との間、及び、外輪軌道溝21と内輪軌道溝25との間には、それぞれ複数の玉7、9が転動可能に配置される。また、各軌道溝19、21、23、25の曲率半径は、玉7、9の曲率半径より若干大きく寸法付けされている。
【0012】
外輪3には、2列の外輪軌道溝19,21間に設けられる外輪内方肩部35と、この外輪内方肩部35の反対側となる2列の外輪軌道溝19,21の軸方向外側に設けられる外輪外方肩部31とが形成される。外輪外方肩部31の溝肩高さh1は、外輪内方肩部35の溝肩高さh2より低く設計されている(h1<h2)。
【0013】
他方、内輪5には、2列の内輪軌道溝23,25間に設けられる内輪内方肩部41と、この内輪内方肩部41の反対側となる2列の外輪軌道溝23,25の軸方向外側に設けられる内輪外方肩部27とが形成される。内輪外方肩部27の溝肩高さh3は、内輪内方肩部41の溝肩高さh4より高く設定されている(h3>h4)。ここで、溝肩高さとは、軌道溝の最底部から溝肩の最上面までの軸受の径方向距離である。
【0014】
また、外輪内方肩部35の溝肩高さh2と内輪外方肩部27の溝肩高さh3は、等しくなるように設定されている(h2=h3)。
【0015】
外輪軌道溝21、内輪軌道溝25、及び保持器17は、外輪軌道溝19、内輪軌道溝23及び保持器15と、図1の径方向中心線X’に関して左右対称の位置関係となっている。したがって、各作用線Y1,Y2は、径方向線X1,X2に対して等しい接触角αで交差し、径方向内方に向かうに従い複列アンギュラ玉軸受1から離れるように延びている。したがって、外輪内方肩部35、内輪外方肩部27は負荷を受ける側である。
【0016】
また、図2に示すように、内輪5の面取り部42は、内輪5に内嵌される軸(図示せず)への挿入性を向上させるため、内輪5の断面形状における内周面43との交差角βが標準品の交差角β´よりも小さく、内輪5の軸方向端面45からの距離Lを標準品の距離L´よりもJISの公差範囲内で大きくなるように設定されている。
【0017】
例えば、本実施形態の複列アンギュラ玉軸受1では、内輪軌道溝23,25と玉7,9との接触面圧が最小となるように、各列の玉7,9の接触角αを30°としている。また、玉径をDaとすると、外輪外方肩部31の溝肩高さh1が0.11〜0.15Daに、外輪3の外輪内方肩部35の溝肩高さh2が0.24〜0.25Daに設定される。さらに、内輪5の内輪外方肩部27の溝肩高さh3が0.24〜0.25Daに、内輪内方肩部41の溝肩高さh4が0.13〜0.18Daに設定される。また、内輪5の面取り部42の交差角βは、9〜15°に、軸方向端面45からの距離Lは2〜3.3mmに設定されている。なお、JISの公差は、1.1〜3.5mmである。
【0018】
次に、図3及び図4を参照して、複列アンギュラ玉軸受1の組立方法について説明する。まず、図3に示すように、外輪3と内輪5の軸方向一端面をテーブル上に載せた状態で、内輪5を外輪3の内側で径方向一箇所に寄せて偏心配置する。このとき、外輪3の内周面と内輪5の外周面との間に形成される三日月状の空間Sには、玉径Daより若干大きな径方向寸法を与える組み込み位置Pが設けられる。また、この組み込み位置Pでは、外輪3の外輪内方肩部35への乗り上げを抑制しつつ、下側の外輪軌道溝21と内輪軌道溝25との間に形成される三日月状の空間Sまで玉9を落とし込むことができる。このようにして、組み込み位置Pから、下側の外輪軌道溝21と内輪軌道溝25との間に所定数の玉9を組み込んだ後に、上側の外輪軌道溝19と内輪軌道溝23との間に所定数の玉7を組み込む。
【0019】
その後、外輪3を押し付けて、内輪5と外輪3とを同心配置となるように径方向に相対移動させながら、各列の玉7,9を所定の間隔に均等配置する(図4(b)参照。)。さらに、玉7,9を図示しない治具を用いて保持しながら、各列の保持器15,17を軸方向外側から玉7,9がポケット内に収容されるようにして軸受内に組み込む(図4(c)参照。)。これにより、複列アンギュラ玉軸受1が完成する。この場合、内輪外方肩部27の溝肩高さh3が高く形成されている一方、外輪外方肩部31の溝肩高さh1が低く形成されているため、保持器15,17の組み込み性が良好なものとなる。
【0020】
図5は、本実施形態の複列アンギュラ玉軸受1が組み込まれたポンプ50を示す。ポンプ50は、回転軸51の一端側にインペラ52が取り付けられて回転し、側方の入口53から水を取り込み、加圧することにより出口54から水を流出させる。このインペラ52が取り付けられる回転軸51は、他端側に配置された複列アンギュラ玉軸受1と、中間部に配置された単列玉軸受55によってハウジング56に支持されている。複列アンギュラ玉軸受1は、固定側軸受として使用され、単列玉軸受55は、この軸受55の外輪55aとハウジング56との間を遊嵌させた自由側軸受として使用される。
【0021】
このように構成されたポンプ50では、インペラ52が回転することで回転軸51が入口53側に引っ張られるため、複列アンギュラ玉軸受1にはアキシャル荷重が作用する。ここで、本実施形態の複列アンギュラ玉軸受1は、外輪内方肩部35と内輪外方肩部27は十分な高さを備えているので、回転軸51に作用するアキシャル荷重を負荷することができる。
【0022】
従って、本実施形態の複列アンギュラ玉軸受1によれば、外輪外方肩部31の溝肩高さh1が外輪内方肩部35の溝肩高さh2より低く形成され、内輪外方肩部27の溝肩高さh3が内輪内方肩部41の溝肩高さh4より高く形成され、外輪内方肩部35の溝肩高さh2と内輪外方肩部27の溝肩高さh3が等しくなるように設定される。これにより、互いに等しい十分な溝肩高さを持った外輪内方肩部35と内輪外方肩部27によって、所定のアキシャル荷重を負荷することができると共に、外輪外方肩部31の溝肩高さを低くすることによって、保持器15,17の設計スペースを確保できる。また、外輪内方肩部35の溝肩高さh2と内輪外方肩部27の溝肩高さh3を等しくすることで、玉7,9の挿入性も良好なものとなる。
【0023】
また、外輪内方肩部35の溝肩高さh2と内輪外方肩部27の溝肩高さh3の合計が0.48〜0.5Daに設定されているので、外輪3と内輪5とを一方向に寄せた際に形成される三日月形状の最大径方向寸法が玉径Da以上となり、玉7,9の挿入性がより良好なものとなる。
【0024】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜な変形、改良等が可能である。
【実施例】
【0025】
本実施例では、図6のような試験装置を用いて、複列アンギュラ玉軸受1の軸への挿入性について試験を行った。具体的には、図2に示した面取り部42を有する発明品の複列アンギュラ玉軸受1と、面取り部42´を有する標準品の複列アンギュラ玉軸受を使用する。そして、内輪の一端側内周面を軸60に嵌合させると共に、面取り部42,42´を有する他端側内周面を軸61に接触させ、各複列アンギュラ玉軸受を軸61に押し込んでいき、このときの経過時間毎の圧入力を検出する。なお、本試験では、サンプル数を10としている。
【0026】
図7(b)に示すように、標準品の複列アンギュラ玉軸受を軸61に挿入する場合には、面取り部42´が挿入されるまでの間、圧入力はサンプルごとにばらつきが見られるが、図7(a)に示すように、発明品の複列アンギュラ玉軸受1を軸61に挿入する場合には、各サンプルにおける面取り部42が挿入されるまでの間の圧入力がほぼ一様である。従って、本発明のような面取り部を構成することで、軸への挿入性が向上したことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態である複列アンギュラ玉軸受の断面図である。
【図2】図1のII部拡大図である。
【図3】図1の複列アンギュラ玉軸受の組立過程を説明するための断面図である。
【図4】複列アンギュラ玉軸受の組立過程を説明するための図であり、(a)は偏心配置された外輪と内輪との間に玉が挿入される状態を示し、(b)は外輪と内輪を同心に配置して玉が均等に配置される状態を示し、(c)は保持器が組み込まれた状態を示している。
【図5】図1の複列アンギュラ玉軸受が組み込まれたポンプの断面図である。
【図6】軸受の軸への挿入性を確認するための試験装置を示す概略図である。
【図7】(a)は発明品の軸受を軸に挿入する場合の圧入力の変化を示すグラフであり、(b)は標準品の軸受を軸に挿入する場合の圧入力の変化を示すグラフである。
【図8】従来の複列アンギュラ玉軸受の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 複列アンギュラ玉軸受
3 外輪
5 内輪
7,9 玉
15,17 保持器
19,21 外輪軌道溝
23,25 内輪軌道溝
27 内輪外方肩部
31 外輪外方肩部
35 外輪内方肩部
41 内輪内方肩部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に2列の外輪軌道溝を有する外輪と、
該外輪の径方向内方で同心に配置され、外周面に2列の内輪軌道溝を有する内輪と、
互いに対向する前記2列の外輪軌道溝と前記2列の内輪軌道溝との間に複列に配置される複数の玉と、を備える複列アンギュラ玉軸受であって、
前記外輪には、前記2列の外輪軌道溝間に設けられる外輪内方肩部と、前記2列の外輪軌道溝の軸方向外側に設けられ、前記外輪内方肩部より溝肩高さの低い外輪外方肩部とが形成され、
前記内輪には、前記2列の内輪軌道溝間に設けられる内輪内方肩部と、前記2列の外輪軌道溝の軸方向外側に設けられ、前記内輪内方肩部より溝肩高さの高い内輪外方肩部とが形成され、
前記外輪内方肩部の溝肩高さと前記内輪外方肩部の溝肩高さが等しいことを特徴とする複列アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
ポンプに使用され、インペラを有する回転軸を支持することを特徴とする請求項1に記載の複列アンギュラ玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−138805(P2009−138805A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313736(P2007−313736)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】