説明

複合体の製造方法および複合体

【課題】金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を提供する。
【解決手段】界面活性剤を鋳型として用いて前記金属粒子の表面にメソポーラス材料を生成させる工程と、前記界面活性剤を溶媒抽出により除去する工程とを有する方法により、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を製造する。この方法によれば、メソポーラス材料の孔が金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通している複合体を好適に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子とメソポーラス材料との複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカに代表されるメソポーラス材料は、直径1−50nmの細孔を有する材料である。代表的なメソポーラス材料は、大きさの揃った直径数ナノメートルで円筒状の均質な細孔が、ハチの巣のように規則的に並んだ構造を有している。このような細孔(ナノ空間)を有する材料と触媒活性をもつ材料を組み合わせることにより高性能な触媒となることが期待される。
【0003】
特許文献1には、金属酸化物等の固体微粒子をメソポーラス材料に直接埋め込んだ新しい複合体触媒の合成が検討されている。具体的には、酸化チタンを固体微粒子として用いた複合体触媒は、ノニルフェノールを高速かつ分子選択的に分解することができることが記載されている。通常の酸化チタンは、分子選択性を示さないことから、メソポーラス材料との複合化によって分子選択的な吸着機能を示した結果と考えられる。この複合体触媒は、メソポーラス材料を界面活性剤の鋳型により形成した後、焼成することで鋳型を取り除いている。また、ここで具体的に開示されている固体微粒子を含む複合体触媒の製造方法では、焼成により固体微粒子の触媒性能が大きく低下するというような問題はなかった。
【0004】
一方、金属粒子は、触媒として、例えば、自動車の排ガス浄化用をはじめとする環境保全用途、石油精製、石油化学、医薬、香料、食品などの化学用途等様々な目的に使用されている。化学用途では、水素化、脱水素、酸化、カルボニル化、ヒドロホルミル化等の各種化学反応により、様々な化合物が合成されている。化合物の合成方法は、工業的に確立できたものも多いが、開発途上のものも多く、工業化に向けての開発が進められている。基質選択性が必要な場合、逐次反応や副反応が起きてしまう場合、触媒を改良しても合成が困難である場合もあり、メソポーラス材料で金属粒子の反応場を制御する方法が考えられる。
【特許文献1】特開2005−314208号公報
【非特許文献1】S.Hitz and R.Prins, J.Catal.,168,194−206(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法に準じて、金属粒子をメソポーラス材料に直接埋め込んだ複合体を合成すると、熱履歴により、熱収縮が起き、メソポーラス材料と金属粒子の界面に亀裂や空隙ができることがあることを発明者らは見出した。また、メソポーラス材料や金属粒子が熱に不安定である物質の場合、焼成により構造変化や分解、消失が起きることがあるので、複合体を触媒として使用した場合に金属粒子の本来有する触媒性能が発揮されないことがあることも見出した。
【0006】
非特許文献1には、MCM−41と呼ばれている多孔体を成形する際、界面活性剤の鋳型を溶媒抽出により除去する方法が開示されている。しかし、非特許文献1には、金属酸化物や金属粒子の固体微粒子を多孔体に直接埋め込んだ複合体に関する記載はない。
【0007】
本発明は、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆され、かつ、上記熱履歴による不具合を解消した複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体の製造方法であって、界面活性剤を鋳型として用いて前記金属粒子の表面にメソポーラス材料を生成させる工程と、前記界面活性剤を溶媒抽出により除去する工程とを有する複合体の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、例えば、上記の方法によって製造される、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体である。あるいは、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体であって、前記メソポーラス材料の孔が、前記金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通している複合体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を提供することができる。特に複合体が触媒である場合、この複合体は十分な触媒性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<複合体>
本発明の複合体は、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体である。本発明の複合体は、金属粒子の表面の一部がメソポーラス材料で被覆されていなくても構わないが、金属粒子の表面が、実質的に完全にメソポーラス材料で被覆されていることが好ましく、完全にメソポーラス材料で被覆されていることが好ましい。
【0012】
金属粒子を構成する金属としては、特に限定されないが、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金などが挙げられる。また、これらの金属の複合物や混合物でも構わない。なかでも、触媒機能を示すルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金などの貴金属が好ましい。金属粒子を構成する金属は、1種でもよく、2種以上でもよい。また、担体に担持された金属粒子でも構わない。
【0013】
金属粒子の質量あたりの表面積が大きいほうが触媒活性が高いことから、金属粒子の平均粒径は小さいほうが好ましく、具体的には5000nm以下が好ましく、3000nm以下がより好ましく、1000nm以下がさらに好ましく、500nm以下が特に好ましい。また、金属粒子の安定性を高める観点から、金属粒子の平均粒径はメソポーラス材料の細孔直径より大きいことが好ましく、具体的には3nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、50nm以上がさらに好ましく、100nm以上が特に好ましい。なお、平均粒径とは、メディアン径を意味する。この平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)などにより測定することができる。金属粒子の平均粒径がメソポーラス材料の細孔直径より小さい場合には、担持物を用いても良い。
【0014】
また、特に金属粒子の場合、平均粒径が大きくても微結晶の集合体であれば触媒活性が高まる。したがって、金属粒子の結晶子径は小さいことが好ましく、具体的には20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましく、5nm以下がさらに好ましく、3nm以下が特に好ましい。金属粒子の結晶子径は、X線回折装置を用い、シェラーの式から測定することができる。
【0015】
メソポーラス材料の例としては、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ、メソポーラスチタニア、メソポーラスジルコニアが挙げられる。なかでも、合成が容易なメソポーラスシリカが好ましい。メソポーラス材料は、1種でもよく、2種以上でもよく、2種以上の複合材料でもよい。
【0016】
複合体中の金属粒子の含有率は、触媒機能を十分に発揮させるためには多いほうが好ましいことから、その下限値としては具体的には、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましく、60質量%以上が最も好ましい。一方、複合体中の金属粒子の含有率は、材料費の観点および複合体中の金属粒子の安定性を高める観点から、その上限値としては少ないほうが好ましい。具体的には、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましく、80質量%以下が特に好ましく、70質量%以下が最も好ましい。
【0017】
複合体の細孔特性に関しては、形成するメソポーラス材料の細孔特性を制御することで適宜調整することができる。複合体の比表面積は、10m2/g〜500m2/gが好ましく、50m2/g〜100m2/gがより好ましい。複合体の細孔容積は、0.1ml/g〜2.0ml/gが好ましく、0.2ml/g〜1.5ml/gがより好ましい。この比表面積は、窒素ガス吸着を用いたBET法で求められる。複合体の細孔直径(メソポーラス材料の細孔直径)は、1〜50nmが好ましく、2〜10nmがより好ましい。この細孔直径は、窒素ガス吸着法により得られたデータをBJHプロットすることで算出できる。ただし、複合体の細孔直径は、金属粒子の平均粒径より大きいことが好ましい。
【0018】
本発明の複合体は、メソポーラス材料の孔が、金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通していることが好ましい。ただし、貫通していない孔があってもよく、金属粒子の表面から略垂直ではない方向に貫通している孔があってもよい。メソポーラス材料の孔が金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通していることは、TEM観察により確認することができる。
【0019】
本発明の複合体においては、金属粒子の結晶相の変化(相転移)・粒子成長・金属粒子間の融合・表面積の低下などが抑制され、金属粒子の安定化を図ることができる。この技術は、金属粒子を使用するあらゆる分野で利用することができる。特に、活性成分である金属粒子の安定化が重要な触媒分野で好適に利用することができる。
【0020】
<複合体の製造方法>
以上のような複合体は、界面活性剤を鋳型として用いて金属粒子の表面にメソポーラス材料を生成させる工程と、界面活性剤を溶媒抽出により除去する工程とを有することにより好適に製造できる。金属粒子は、例えば、分散液の状態であってもよい。
【0021】
また、金属粒子の表面に、有機酸を接触させる工程を有することが好ましい。金属粒子の表面に有機酸を接触させた後にメソポーラス材料を生成させることで、金属粒子の表面にメソポーラス材料が被覆されやすくなり、金属粒子の表面全体がメソポーラス材料で完全に被覆されている複合体が得られやすくなる。
【0022】
有機酸としては、カルボン酸、スルホン酸、フェノール類、チオール類等を用いることができる。カルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、フマル酸、マレイン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸;乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ基含有カルボン酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。スルホン酸の例としては、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸が挙げられる。フェノール類の例としては、フェノール、クレゾール、ピクリン酸、ナフトール、カテコール、レゾルシノール、ピロガロールが挙げられる。チオール類の例としては、ベンゼンチオールが挙げられる。なかでも、カルボン酸、スルホン酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素数が8〜16のカルボン酸がさらに好ましく、カプリン酸、ラウリン酸が特に好ましく、ラウリン酸が最も好ましい。有機酸は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0023】
金属粒子に有機酸を接触させる方法としては、金属粒子が溶媒に溶解または分散した溶液または分散液に、有機酸を添加して混合すればよい。金属粒子に有機酸を接触させることで、有機酸が金属粒子と相互作用をして、金属粒子がメソポーラス材料で被覆されやすくなる。金属粒子と有機酸との接触は、例えば、40〜70℃で、1〜48時間程度行うことができる。この接触が長い程、より多くの有機酸が金属粒子と相互作用をして、金属粒子がメソポーラス材料でより被覆されやすくなる。
【0024】
溶媒としては、水または有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の例としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類:ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシドが挙げられる。有機溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。2種以上の有機溶媒を用いる場合、その溶媒は均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0025】
また、水と有機溶媒の混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒に含まれる有機溶媒は、アルコール類、ケトン類が好ましい。混合溶媒中の水の含有率は、2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。混合溶媒は、均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0026】
界面活性剤を鋳型として用いて金属粒子の表面にメソポーラス材料を生成させためには、例えば、金属粒子の溶液または分散液中でメソポーラス材料が生成する反応を行えばよい。メソポーラス材料が生成する反応は、例えば、界面活性剤を鋳型として用いたゾルゲル法を行うことができる。ゾルゲル法では、界面活性剤の種類を変更することで、細孔の大きさ、形状、充填構造を制御することができる。
【0027】
界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができるが、カチオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0028】
カチオン系界面活性剤の例としては、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩が挙げられる。好ましくは、下記一般式(1)で表されるアルキル第4級アンモニウム塩である。
【0029】
(R1NR232+- (1)
式(1)において、R1はCn2n+1または(CH2mp2p+1、R2はメチル、エチルまたはベンジル、R3はメチルまたはエチル、Xはハロゲンまたは水酸基、nは8〜20の整数、mは2〜6の整数、pは2〜18の整数である。Xのハロゲンとしては、塩素または臭素原子が好ましい。
【0030】
アルキル第4級アンモニウム塩の例としては、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、3−パーフルオロオクチルプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3−パーフルオロオクチルプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、3−パーフルオロヘキシルプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、6−パーフルオロオクチルヘキシルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0031】
溶媒中の界面活性剤の濃度は、使用した溶媒における臨界ミセル濃度以上の濃度であればよく、0.0001mol/l以上が好ましく、0.001mol/l以上がより好ましい。界面活性剤を臨界ミセル濃度以上の濃度で溶媒に溶解させると、界面活性剤がミセルを形成し、さらにそのミセルが充填構造となり、メソポーラス構造の鋳型が生成する。メソポーラス材料の原料が共存する場合は、臨界ミセル濃度以下でもメソポーラス材料が生成する場合があるので、適宜適当な濃度が選択される。
【0032】
また、界面活性剤のミセルを膨張させる物質(以下、膨張剤)を添加することで、より大きな細孔のメソポーラス材料を得ることができる。膨張剤を添加する時期は、メソポーラス材料が生成する前であればよく、界面活性剤の添加の前後がより好ましい。膨張剤は、あらかじめ溶媒に溶解もしくは分散した状態で加えてもよく、または直接合成溶液に加えてもよい。
【0033】
膨張剤としては、界面活性剤のミセルの疎水部に侵入するため、疎水性をもつ物質が好ましく、なかでも、芳香族化合物、炭化水素化合物、疎水基の大きいアルコール等がより好ましく、メシチレン、炭素数2〜20のアルカン、炭素数4以上のアルコールが特に好ましい。炭素数2〜20のアルカンとしては、例えばn−トリデカンが挙げられる。添加する膨張剤の量は、メソポーラス構造の鋳型を破壊する量より少なければよく、界面活性剤に対し1000質量%以下が好ましく、5〜200質量%がより好ましい。
【0034】
次いで、界面活性剤のミセルが存在する状態で、溶媒中にメソポーラス材料の原料を加え、必要に応じて触媒を加えることで、ミセルの隙間でゾルゲル反応が進行し、メソポーラス材料のゲル骨格が生成する。メソポーラス材料の原料を加える前の溶媒のpHは、メソポーラス材料を合成するのに適したpHであれば特に限定されない。メソポーラス材料は、酸性下、塩基性下のどちらでも合成可能であるが、酸性であればpH4以下が好ましく、pH3以下がより好ましい。塩基性での合成では、pH9以上が好ましく、pH10以上がより好ましい。pHは、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの酸性化合物、または、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基性化合物を加えることによって調節することができる。pHを調節する時期は、メソポーラス材料が生成する前であればよい。多孔体の形成は、例えば、20〜80℃で、2〜10時間程度行うことができる。あるいは、オートクレーブを用いて100〜200℃で行うこともできる。
【0035】
メソポーラス材料の原料としては、メソポーラス材料を構成する元素(酸素以外の元素)のアルコキシド等を用いることができる。例えばメソポーラスシリカを生成させる場合には、その原料として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等を用いることができる。メソポーラス材料の原料は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0036】
メソポーラス材料の生成反応を行った後、膨張剤や鋳型として用いた界面活性剤を除去する必要がある。本発明では、この除去を溶媒抽出で行う。溶媒抽出は、例えば、20〜90℃、10分〜96時間(好ましくは1時間〜30時間)、1〜10回(好ましくは2〜8回)の抽出で行うことができる。
【0037】
抽出溶媒としては、例えば、イオン交換水、アルコール、エーテル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒のほか、超臨界二酸化炭素など抽出力の強い溶媒を使用することができる。極性溶媒を用いる場合、さらに酸や硝酸塩を加えると、より溶媒抽出能力が高くなる。酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、ギ酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸などが挙げられるが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸が好ましい。硝酸塩としては、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどが挙げられる。これら酸や硝酸塩は、極性溶媒に少量添加することがよく、0.001mol%以上が好ましく、0.01mol%以上がより好ましく、また1mol%以下が好ましく、0.5mol%以下がより好ましい。これにより、外部から金属粒子の表面に到達するメソ孔を有するメソポーラス材料を有する複合体を得ることができる。
【0038】
メソポーラス材料の細孔内に存在する抽出溶媒は適宜除去することができる。その方法としては乾燥などが挙げられる。乾燥する場合、乾燥温度が高すぎると金属粒子の構造変化や分解、消失が起きることがあるので、その点を考慮して温度を決めることが好ましい。具体的には、溶媒抽出を行う温度以下が好ましい。溶媒抽出に沸点の高いものを用いる場合など、乾燥温度を高くせざるを得ないときは、減圧下で乾燥を行うことが好ましい。
【0039】
こうして得られた複合体は、金属粒子の表面がメソポーラス材料で緊密に被覆されている。また、メソポーラス材料の孔が、金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通している。このことはTEM観察により金属粒子を被覆するメソポーラス材料の層に現れる金属粒子の表面から略垂直な方向に向いた多数の筋状模様により確認できる。
【実施例】
【0040】
以下、金属粒子としてパラジウム粒子を使用し、メソポーラス材料としてメソポーラスシリカを使用した実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<パラジウム粒子の水分散液の調製>
88質量%吉草酸水溶液50gに酢酸パラジウム1.0549g(Pdで0.5g相当)を完全に溶解し、この溶解液をオートクレーブに入れ、窒素でパージした後、プロピレンを0.6MPa導入し、室温で24時間攪拌した。圧を抜き中のスラリーを遠心分離し、50%アセトン水溶液で吉草酸のにおいがなくなるまで置換して、パラジウム粒子の水分散液を得た。
【0042】
<実施例1>
パラジウム粒子の水分散液(Pdで0.17g相当)に、ラウリン酸2.81mgを溶解させ、55℃で約2時間攪拌した。一方で、界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド0.0812gを、イオン交換水4.35gに加温しながら溶解させた。この溶液に、上記のラウリン酸を溶解させたパラジウム粒子の水分散液を添加し、さらにアンモニア水を加えてpHを11.8に調整した。
【0043】
得られた分散液を激しく攪拌しながら、テトラエトキシシラン0.306gを一気に加えて、1時間攪拌した。生成物をろ過し、イオン交換水で洗浄した後、一晩70℃で乾燥した。得られた乾燥物を0.1Mの酢酸−エタノール溶液に加え、80℃で2時間撹拌した後にろ過をして、エタノールで洗浄した。最後に一晩80℃で乾燥した。
【0044】
以上の方法により実施例1の複合体(Pd含有率65質量%)を得た。実施例1の複合体のTEM測定結果を図1に示し、X線回折から求めた結晶子径を測定した結果を表1に示す。
【0045】
<比較例1>
乾燥物を得るまでは実施例1と同様の操作を行った。得られた乾燥物を540℃で6時間焼成して界面活性剤を除去した。その後、N2/H2ガスを用いて水素還元を行った。ガス流量は、N2ガス180ml/min、H2ガス20ml/minとした。また、温度は、室温から300℃まで1.5時間かけて昇温し、300℃で3時間保持した後、室温まで放冷した。
【0046】
以上の方法により比較例1の複合体(Pd含有率:65質量%)を得た。比較例1の複合体のTEM測定結果を図3に示し、X線回折から求めた結晶子径を測定した結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
図1に示すように、溶媒抽出を行った実施例1で得られた複合体では、パラジウム粒子にメソポーラス材料が被覆されており、メソポーラスシリカの孔は筋状に見えるようにパラジウム粒子の表面から略垂直な方向に貫通していた。また、界面活性剤の除去によってパラジウム粒子の結晶は成長していなかった。それに対し、図2で示すように焼成を行った比較例1では、パラジウム粒子とメソポーラス材料の間に隙間が散見され、図1とは異なり筋が見られずメソポーラスシリカの孔は向きがばらばらであった。また、界面活性剤の除去によってパラジウム粒子の結晶が成長していた。
【0049】
<触媒性能評価>
上記パラジウム粒子の水分散液をろ過・乾燥したPd粒子、ならびに実施例1および比較例1で得られた複合体を触媒として用いて、トランス−シンナムアルデヒド(CAD)の水素化を行った。以下、トランス−シンナムアルデヒドの水素化反応を示すスキームを示す。
【0050】
【化1】

【0051】
具体的には、25mlの丸底フラスコ中で、CAD5mmolをトルエン5mlに溶解した後に触媒0.1gを添加して、水素雰囲気下で撹拌しながら室温にて反応させた。反応物の分析はガスクロマトグラフィーで行った。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
Pd粒子を触媒として用いると、POLが選択的に生成した。それに対し、実施例1の複合体を触媒として用いると、PADが選択的に生成し、また反応速度が向上した。一方、比較例1の複合体の複合体を触媒として用いると、CADの水素化反応が進行しなくなった。これは、比較例1の複合体の製造過程における焼成によって、パラジウム粒子の結晶が成長したためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1の複合体のTEM測定結果である。
【図2】比較例1の複合体のTEM測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体の製造方法であって、界面活性剤を鋳型として用いて前記金属粒子の表面にメソポーラス材料を生成させる工程と、前記界面活性剤を溶媒抽出により除去する工程とを有する複合体の製造方法。
【請求項2】
前記金属粒子の表面に、有機酸を接触させる工程をさらに有する請求項1に記載の複合体の製造方法。
【請求項3】
界面活性剤を鋳型として用いて前記金属粒子の表面にメソポーラス材料を生成させる方法が、ゾルゲル法である請求項1または2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法によって製造される複合体。
【請求項5】
前記メソポーラス材料の孔が、前記金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通している請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体であって、前記メソポーラス材料の孔が、前記金属粒子の表面から略垂直な方向に貫通している複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−65250(P2010−65250A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230804(P2008−230804)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】