説明

複合体の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂成形体およびガラス基材からなる複合体において、その接合強度を高める。
【解決手段】この複合体の製造方法には、熱可塑性樹脂成形体2とガラス基材3とを接触させる接触工程と、熱可塑性樹脂成形体2におけるガラス基材3との接触部2aの温度が所定の温度になるようにガラス基材3を通じてレーザー光Bを照射して加熱する加熱工程とが含まれる。熱可塑性樹脂成形体2におけるガラス基材3との接触部2aの温度をT1、熱可塑性樹脂成形体2を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度および分解開始温度をそれぞれT2、T3としたとき、加熱工程において、関係式(1)を満たすように制御する。これにより、熱可塑性樹脂の分解を防ぎつつ、熱可塑性樹脂成形体2とガラス基材3との接合強度を高めることができる。
(1)T2≦T1≦T3+400℃

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体およびガラス基材からなる複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の複合体の具体例としては、容器(熱可塑性樹脂成形体)に蓋(ガラス基材)がはめ込まれて一体化された半導体素子収納用ケースを挙げることができる。
【0003】
従来、このような複合体を製造する一手法として、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とを接着剤で接着して一体化する方法が採用されている。また、別の手法として、インサート成形により、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とを一体化する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7135768号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、接着剤を用いる方法では、接着剤を塗布する工程などの管理が複雑で、工程が煩雑になりやすかった。加えて、接着剤に含有されている低沸点成分の一部が揮発したり、接着剤から形成された接着層が吸湿性を有していたりするなどの理由から、接合部の気密性(封止性)をあまり高くすることができなかった。
【0006】
他方、インサート成形による方法では、ガラス基材が破損しないように、その位置決めなどの取扱いに慎重さが求められるため、接着剤を用いる方法と同様、工程が煩雑になりやすかった。
【0007】
そこで、本発明は、こうした不都合を伴うことなく、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材との接合強度を高めることが可能な複合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明者は、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材との接合強度を高めるべく、両者のレーザー溶着に際して、両者の接触部の温度範囲を規定することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とを接触させる接触工程と、前記熱可塑性樹脂成形体における前記ガラス基材との接触部の温度が所定の温度になるように前記ガラス基材を通じてレーザー光を照射して加熱する加熱工程とが含まれる複合体の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂成形体における前記ガラス基材との接触部の温度をT1、前記熱可塑性樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度および分解開始温度をそれぞれT2、T3としたとき、前記加熱工程において、以下の関係式(1)を満たすように制御する複合体の製造方法としたことを特徴とする。
(1)T2≦T1≦T3+400℃
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記ガラス基材のガラス転移温度をT4としたとき、前記加熱工程において、以下の関係式(2)を満たすように制御することを特徴とする。
(2)T4≦T1≦T3+400℃
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記接触工程において、前記熱可塑性樹脂成形体と前記ガラス基材とが密着するように押圧し、前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂成形体と前記ガラス基材とが密着した状態のまま前記レーザー光の照射を行うことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記ガラス基材における前記熱可塑性樹脂成形体との接触部が、フッ化マグネシウム、ジルコニア、酸化アルミニウムからなる群より選択される1種以上の処理剤によって表面処理されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の構成に加え、前記熱可塑性樹脂成形体が、レーザー光吸収性着色剤を含有していることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の構成に加え、前記レーザー光吸収性着色剤が、カーボンブラック、チタン黒、黒色酸化鉄からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の構成に加え、前記熱可塑性樹脂成形体が、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の構成に加え、前記レーザー光の照射条件が、エネルギー100W以下で、走査速度2mm/s以上であることを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれかに記載の構成に加え、前記ガラス基材の前記レーザー光照射される面に、前記レーザー光の透過率が50%以上であるとともに、熱伝導率が1W/mK以上であるヒートシンク材を設けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とのレーザー溶着に際して、両者の接触部の温度範囲が規定されることから、熱可塑性樹脂の分解を防ぎつつ、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材との接合強度を高めることができる。
【0019】
しかも、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とを一体化するのに、接着剤を用いる必要もなく、インサート成形を行なう必要もないので、工程を簡素化することが可能となる。また、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とが直接、すなわち接着層などを介さずに接合されているため、両者の接合部の気密性を十分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る半導体素子収納用ケースを示す図であって、(a)はその分解斜視図、(b)はその縦断面図である。
【図2】同実施の形態1に係るレーザー溶着装置を示す正面図である。
【図3】図1に示す半導体素子収納用ケースの製造方法を示す工程図であって、(a)は被溶着材準備工程を示す断面図、(b)は接触工程を示す断面図、(c)は加熱工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0022】
図1乃至図3には、本発明の実施の形態1を示す。
【0023】
この実施の形態1では、複合体の一例として半導体素子収納用ケース1を用い、熱可塑性樹脂成形体の一例として容器2を用い、ガラス基材の一例として蓋3を用いている。以下、半導体素子収納用ケースの構成、レーザー溶着装置の構成および半導体素子収納用ケースの製造方法について順に説明する。
<半導体素子収納用ケースの構成>
【0024】
この実施の形態1に係る半導体素子収納用ケース1は、図1に示すように、容器2に蓋3がレーザー溶着で一体に接合されて構成されている。
【0025】
この容器2は、正方形板状の底板21を有しており、底板21の周縁部には、蓋3を支持するためのL字断面形の蓋支持段差部22が一体に立設されている。蓋支持段差部22の内側には半導体素子収納空間Sが形成されており、半導体素子収納空間Sには、CCD(電荷結合素子)などの半導体素子Dを収納することができる。蓋支持段差部22は、上面22a、内壁面22bおよび底面22cを有している。
【0026】
このような容器2の材料としては、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、液晶ポリエステル、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などを例示することができるが、これらの中でも、流動性、耐熱性、剛性の観点から液晶ポリエステルが好ましい。
【0027】
この液晶ポリエステルとは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。かかる液晶ポリエステルとしては、例えば、下記(イ)〜(ニ)に示されるものが挙げられる。
(イ)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを組み合わせて重合させて得られるもの。
(ロ)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて得られるもの。
(ハ)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを組み合わせて重合させて得られるもの。
(ニ)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの。
【0028】
なお、液晶ポリエステルの製造に関し、前記の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールの代わりに、それらのエステル形成性誘導体を使用することも可能である。このエステル形成性誘導体を用いれば液晶ポリエステルの製造がより容易になるという利点がある。
【0029】
分子内にカルボキシル基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、このカルボキシル基がハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基などの高反応性の基に転化したもの、このカルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、アルコール類やエチレングリコールとエステルを形成しているものが挙げられる。また、分子内にフェノール性ヒドロキシル基(フェノール性水酸基)を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオールのエステル形成性誘導体としては、例えば、このフェノール性ヒドロキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、低級カルボン酸類とエステルを形成しているものが挙げられる。
【0030】
さらに、エステル形成性を阻害しない程度であれば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールは、その芳香環に、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基を置換基として有していてもよい。
【0031】
液晶ポリエステルを構成する芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、化1に示すものが挙げられる。
【化1】

【0032】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0033】
液晶ポリエステルを構成する芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、化2に示すものが挙げられる。
【化2】

【0034】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0035】
液晶ポリエステルを構成する芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、化3に示すものが挙げられる。
【化3】

【0036】
上記の構造単位は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0037】
好適な液晶ポリエステルとしては、下記(a)〜(h)に示される構造単位の組み合わせを有するものが挙げられる。
(a):(A1 )、(B1 )および(C1 )の組み合わせ、または、(A1 )、(B1 )、(B2 )および(C1 )の組み合わせ。
(b):(A2 )、(B3 )および(C2 )の組み合わせ、または、(A2 )、(B1 )、(B3 )および(C2 )の組み合わせ。
(c):(A1 )および(A2 )の組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(A1 )の一部または全部を(A2 )で置きかえたもの。
(e):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(B1 )の一部または全部を(B3 )で置きかえたもの。
(f):(a)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(C1 )の一部または全部を(C3 )で置きかえたもの。
(g):(b)の構造単位の組み合わせのそれぞれにおいて、(A2 )の一部または全部を(A1 )で置きかえたもの。
(h):(c)の構造単位の組み合わせに、(B1 )と(C2 )を加えたもの。
【0038】
前記(a)〜(h)のように、本発明で用いられる液晶ポリエステルとしては、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位として、(A1 )および/または(A2 )を有し、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位として、(B1 )、(B2 )および(B3 )からなる群から選ばれる少なくとも1種を有し、芳香族ジオールに由来する構造単位として、(C1 )、(C2 )および(C3 )からなる群から選ばれる少なくとも1種を有するものが好ましい。なお、上述のように、これらの構造単位は、その芳香環に置換基を有していてもよいが、得られる容器2が一層優れた耐熱性を必要とする場合には、置換基を有していないことが望ましい。
【0039】
液晶ポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を採用することができるが、本出願人が、特開2004−256673号公報で提案したような液晶ポリエステルの製造方法が好ましい。
【0040】
そして、容器2は、これらの熱可塑性樹脂から公知の方法(例えば、射出成形法など)によって製造することができる。
【0041】
また、容器2には、レーザー光吸収性着色剤が含有されている。このレーザー光吸収性着色剤としては、カーボンブラック、モノアゾ染料、アントラキノン染料、ペリレン染料、フタロシアニン染料、ニグロシン染料、チタン黒、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、カドミウム黄、ニッケルチタン黄、ストロンチウム黄、含水酸化クロム、酸化クロム、アルミン酸コバルト、ウルトラマリン青などが挙げられ、1種または2種以上を使用してもよい。これらの中でも、耐熱性の観点から、カーボンブラック、チタン黒、黒色酸化鉄が好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂成形体100質量部に対して、レーザー光吸収性着色剤が0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜5質量部であることがさらに好ましい。
【0043】
さらに、容器2には、必要に応じて、無機フィラーや種々の添加剤などが含有されていてもよい。
【0044】
一方、蓋3は、正方形板状の本体31を有しており、蓋3の厚さt1は、容器2の蓋支持段差部22の深さd1(上面22aと底面22cとの高さの差)にほぼ等しくなっている。
【0045】
蓋3の外周縁部32は、フッ化マグネシウム、ジルコニア、酸化アルミニウムからなる群より選択される1種以上の処理剤によって表面処理されている。この表面処理は、例えば、上記処理剤を適切な溶媒により溶液または分散液を調製して、これをスピンコート等により塗布したり、上記処理剤からなるターゲットが得られる場合は、このターゲットを用いてスパッタ処理したり、蒸着処理したりすることにより、実施することができる。
【0046】
フッ化マグネシウムによる表面処理としては、例えば、スパッタガスとしてアルゴンガス、反応ガスとしてアルゴンで希釈したフッ素ガスを用いて、マグネシウムターゲットをスパッタし、スパッタにより発生したガスを外周縁部32の表面に堆積させる方法、蒸着材料としてフッ化マグネシウムを用い、これに電子線を照射して加熱蒸着させ、蒸発ガスを外周縁部32の表面に蒸着する方法、フッ酸および酢酸マグネシウムで調整したゾル液をスピンコートなどによって外周縁部32の表面に塗工する方法などが挙げられる。
【0047】
ジルコニアによる表面処理としては、例えば、蒸着材料としてジルコニアを用い、これに電子線を照射して加熱蒸着させ、蒸発ガスを外周縁部32の表面に蒸着する方法、酸化ジルコニウムゾルをスピンコートなどによって塗工する方法などが挙げられる。
【0048】
酸化アルミニウムによる表面処理としては、例えば、スパッタガスとしてアルゴンガス、反応ガスとして酸素を用い、アルミニウムターゲットをスパッタし、スパッタにより発生したガスを外周縁部32の表面に堆積させる方法、蒸着材料として金属アルミニウムを用い、これに電子線を照射して加熱し、発生する蒸発ガスを酸素ガスとともに外周縁部32の表面に蒸着する方法、酸化アルミニウムゾルを用い、スピンコート等により塗工する方法などが挙げられる。
【0049】
また、蓋3の外周縁部32は、表面処理に代えて、または、表面処理に加えて、粗化処理されていてもよい。この粗化処理は、例えば、クロム酸および硫酸の混合水溶液、フッ酸などのエッチング液によりエッチング処理する方法や、サンドブラスト法により、実施することができる。
【0050】
このような蓋3の材料としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、リン珪酸ガラス、フッ化物ガラス、鉛ガラス、ランタンガラス、バリウムガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラスなどを例示することができる。
<レーザー溶着装置の構成>
【0051】
レーザー溶着装置5は、図2に示すように、平板状のフレーム6を有している。フレーム6上には、レーザー溶着すべき容器2および蓋3を載置するための支持台9が、螺旋状のばね7を介して弾性的に昇降自在に設けられている。また、フレーム6の周縁部には複数本の支柱10が支持台9を包囲するように立設されており、これら支柱10の上側には平板状のヒートシンク材11が着脱自在に設けられている。
【0052】
このヒートシンク材11は、後述するレーザー発振器12から照射されるレーザー光Bの透過率が50%以上(好ましくは、90%以上)であるとともに、熱伝導率が1W/mK以上(好ましくは、5W/mK以上)であり、かつ赤外線を透過する特性を有している。こうしたヒートシンク材11の材料としては、例えば、透明アルミナ、透明ベリリア、透明マグネシウム、石英ガラス、サファイア、シリコン等を挙げることができる。
【0053】
さらに、支持台9の上方にはレーザー発振器12が、図2に示すように、レーザー光Bを下向き、つまり支持台9側に照射しうるように設置されている。レーザー発振器12の近傍には赤外線サーモグラフィ13が、支持台9上に載置された容器2における蓋3との接触部2aの温度を測定しうるように設置されている。
<半導体素子収納用ケースの製造方法>
【0054】
次に、レーザー溶着装置5を用いて半導体素子収納用ケース1を製造する方法について説明する。
【0055】
まず、被溶着材準備工程で、図3(a)に示すように、容器2および蓋3を用意する。このとき、容器2の蓋支持段差部22の深さd1を蓋3の厚さt1より少し浅くする。
【0056】
次いで、接触工程に移行し、図3(b)に示すように、これらの容器2と蓋3とを接触させる。それには、支持台9上に容器2を載置し、容器2の半導体素子収納空間Sに半導体素子Dを収納した後、容器2上に蓋3を嵌着する。すると、蓋3は、その外周縁部32が容器2の蓋支持段差部22の底面22cおよび内壁面22bに接する。このとき、上述したとおり、容器2の蓋支持段差部22の深さd1が蓋3の厚さt1より少し浅いので、蓋3の表面が容器2の蓋支持段差部22の上面22aから上方にΔt(=t1−d1)だけ突出した状態となる。
【0057】
さらに、この蓋3の上側にヒートシンク材11を載置し、ヒートシンク材11を支柱10に固定する。すると、蓋3および容器2は、ヒートシンク材11および支持台9によって上下から挟み込まれる形で加圧される。
【0058】
このとき、蓋3の表面が容器2の蓋支持段差部22の上面22aから上方に突出しているので、ヒートシンク材11からの荷重がすべて蓋3に作用する。その結果、蓋3が容器2側に所定の圧力で押圧されて両者が互いに密着する。この圧力は、容器2や蓋3の形状を損ないにくくする観点から、10MPa以下が好ましい。
【0059】
この状態で、加熱工程に移行し、図3(c)に示すように、レーザー発振器12を用いて、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1が所定の温度になるように、この接触部2aに蓋3を通じてレーザー光Bを照射して加熱する。すると、蓋3の外周縁部32が容器2の蓋支持段差部22の底面22cおよび内壁面22bにレーザー溶着される。
【0060】
このレーザー光Bの照射条件は、容器2の分解・劣化や変形を抑制するため、エネルギー100W以下で、走査速度2mm/s以上とする。
【0061】
レーザー光Bの種類としては、色素レーザー、エキシマレーザー、アルゴンレーザー、クリプトンレーザー、ヘリウムーネオンレーザーなどの気体レーザー、ルビーレーザー、YAGレーザーなどの固体レーザー、半導体レーザー等が挙げられる。これらの中でも、800〜1200nmの範囲の波長を有するレーザー光Bが、熱可塑性樹脂成形体を劣化させず、熱可塑性樹脂成形体とガラス基材を安定的に溶着させることができるため、好ましい。
【0062】
レーザー光Bの伝達・照射方法としては、光学ミラー、ファイバー、レンズなどを用いることにより、レーザー光Bを微小領域に選択的に照射したり、レーザー光Bの焦点距離をずらして照射したりするなど、用途に応じてレーザー光Bの伝達経路を変えることができる。
【0063】
このとき、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1を赤外線サーモグラフィ13によって測定し、その測定結果をレーザー発振器12にフィードバックすることにより、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1と、容器2を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度T2および分解開始温度T3との間に、以下の関係式(1)が成り立つように制御する。
(1)T2≦T1≦T3+400℃
【0064】
なお、熱可塑性樹脂の流動開始温度T2は、例えば次のようにして求めることができる。すなわち、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて、昇温速度4℃/分で被測定サンプル(熱可塑性樹脂)を加熱する。そして、加熱により溶融体を形成した熱可塑性樹脂を荷重9.8MPaで内径1mm、長さ10mmのノズルから押し出すときに、その溶融粘度が4800Pa・sを示す温度を測定する。この温度が熱可塑性樹脂の流動開始温度T2となる。
【0065】
また、熱可塑性樹脂の分解開始温度T3は、例えば次のようにして求めることができる。すなわち、(株)島津製作所製の熱重量分析計「TGA−50」を用いて、窒素雰囲気中にて昇温速度10℃/分で加熱したときに、重量が1%減少した温度を測定する。この温度が熱可塑性樹脂の分解開始温度T3となる。
【0066】
容器2における蓋3との接触部2aの温度T1の範囲(上限温度および下限温度)をこのように規定することにより、容器2と蓋3とのレーザー溶着に際して、容器2を構成する熱可塑性樹脂の分解を防ぎつつ、容器2と蓋3との接合強度を高めることができる。すなわち、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1が、容器2を構成する熱可塑性樹脂の分解開始温度T3に400℃を加えた温度を超えないため(T1≦T3+400℃)、熱可塑性樹脂が分解する事態を防止することができる。また、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1が、容器2を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度T2を下回らないため(T2≦T1)、容器2における蓋3との接触部2aを十分に流動させ、容器2と蓋3との接合強度を高めて両者を強固に溶着することができる。
【0067】
なお、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1の上限温度を定めるに当たって、熱可塑性樹脂の分解開始温度T3ではなく、この分解開始温度T3に400℃を加えた温度を採用したのは、通常、レーザー溶着におけるレーザー走査速度が概ね10mm/s以上と速いため、一時的に熱可塑性樹脂の分解開始温度T3を超えたからといって直ちに熱可塑性樹脂が分解し始めるわけではないとの知見に基づくものである。
【0068】
しかも、容器2と蓋3とを一体化するのに、接着剤を用いる必要もなく、インサート成形を行なう必要もないので、工程を簡素化することが可能となる。また、容器2と蓋3とが直接、すなわち接着層などを介さずに互いに密着して接合されているため、両者の接合部の気密性を十分に高めることができる。
【0069】
また、蓋3の上側には、レーザー光Bの透過率が50%以上で、熱伝導率が1W/mK以上のヒートシンク材11が載置されているため、レーザー溶着時の発熱を吸収・発散させることにより、蓋3の過熱を抑制することができる。その結果、容器2とレーザー溶着しうる蓋3の範囲を広げることが可能となる。
【0070】
また、上述したとおり、容器2にはレーザー光吸収性着色剤が含有されているため、容器2における蓋3との接触部2aにレーザー光Bが照射されたときに、この接触部2aが十分に流動する。したがって、容器2と蓋3との接合部の気密性を一層高めることができる。
【0071】
さらに、蓋3は、上述したとおり、その外周縁部32、つまり容器2との接触部が表面処理および/または粗化処理を施されているため、容器2と蓋3との接合部の気密性をますます高めることができる。
【0072】
ここで、半導体素子収納用ケース1の製造方法が終了し、半導体素子Dが収納された半導体素子収納用ケース1が完成する。
[発明のその他の実施の形態]
【0073】
なお、上述した実施の形態1では、加熱工程において、上記の関係式(1)が成り立つように制御する場合について説明した。しかし、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1と、蓋3のガラス転移温度T4および容器2を構成する熱可塑性樹脂の分解開始温度T3との間に、以下の関係式(2)が成り立つように制御することもできる。なお、蓋3のガラス転移温度T4は、JIS R3103−3に準拠して測定することができる。
(2)T4≦T1≦T3+400℃
【0074】
この場合、容器2における蓋3との接触部2aの温度T1が蓋3のガラス転移温度T4以上となるため、容器2と蓋3との接触部がより流動することから、容器2と蓋3との接合部の気密性をますます高めることができるという利点がある。
【0075】
なお、一般に蓋3のガラス転移温度T4は容器2を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度T2より大きいので(T2<T4)、この関係式(2)を満たせば、上記の関係式(1)をも必ず満たすことになる。そのため、この場合も、上述した実施の形態1と同じ作用効果を奏する。
【0076】
また、上述した実施の形態1では、蓋3の外周縁部32を容器2の蓋支持段差部22の底面22cおよび内壁面22bにレーザー溶着する場合について説明した。しかし、容器2の蓋支持段差部22の別の部位(例えば、上面22aなど)に蓋3の外周縁部32をレーザー溶着する場合に本発明を同様に適用することも勿論できる。
【0077】
さらに、上述した実施の形態1では、複合体として半導体素子収納用ケース1を製造する場合を例にとって説明したが、半導体素子収納用ケース1以外の複合体(例えば、コンタクトイメージセンサー、イメージスキャナー、金融機械、CCDカメラカバーなど)を製造する場合に本発明を同様に適用することも可能である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0079】
(株)ファインディバイス製のレーザー発振器「FD−200−50」を用意した。住友化学(株)製の液晶ポリエステル「スミカスーパーLCP E6808THF BZ」(流動開始温度306℃、分解開始温度499℃、放射率0.86)から板状に成形された容器をこのレーザー溶着装置の成形体保持具に取り付けた。一方、フッ化マグネシウムで表面処理された松浪硝子工業(株)製のガラス板「D263」(ガラス転移温度557℃、厚さ0.40mm)をこのレーザー溶着装置のガラス基材保持具に取り付けた。
【0080】
そして、ガラス板を容器にばねで押圧して密着させた状態で、容器におけるガラス板との接触部に半導体レーザー(波長940nm、焦点におけるレーザー径2.16mm、レーザー出力6W、レーザー走査速度10mm/s)を照射した。このとき、容器におけるガラス板との接触部の温度T1を(株)アピステ製の赤外線サーモグラフィ「FSV−7000E」にて測定したところ、712℃であった。その後、容器およびガラス板を冷却し、複合体としての蓋を得た。
【0081】
このような容器とガラス板とのレーザー溶着を5回実施した。
<実施例2>
【0082】
半導体レーザーのレーザー出力を5Wとしたことを除き、上述した実施例1と同様にして、容器とガラス板とのレーザー溶着を5回実施した。容器におけるガラス板との接触部の温度T1は、592℃であった。
<実施例3>
【0083】
半導体レーザーのレーザー出力を4Wとしたことを除き、上述した実施例1と同様にして、容器とガラス板とのレーザー溶着を5回実施した。容器におけるガラス板との接触部の温度T1は、473℃であった。
<比較例1>
【0084】
上述した実施例1と同様の容器およびガラス板を用いて、レーザー溶着に代えて超音波溶着を5回実施した。すなわち、日本エマソン(株)製の超音波溶着機「2000ea20」(出力1100W、最大振幅92μm)を用いて、下記条件において超音波溶着を行なった。
加振周波数:20kHz
振幅:70%
加圧力:0.3MPa
発振時間:0.3秒
冷却保持時間:0.1秒
<容器とガラス板との溶着性の評価>
【0085】
これらの実施例1〜3および比較例1についてそれぞれ、容器とガラス板との溶着性の良否を判定するため、5回のレーザー溶着のうち溶着に成功した回数を計数した。その結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0086】
表1から明らかなように、比較例1では、5回とも溶着に失敗し、密着性に劣る結果となった。これに対して、実施例1〜3では、5回のうち3〜5回(つまり、60〜100%)が溶着する結果が得られた。とりわけ実施例1、2では、5回とも溶着し、極めて優れた密着性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、レンズ、プリズム、ミラーなどのガラス基材と熱可塑性樹脂成形体との一体成形品、コンタクトイメージセンサー、イメージスキャナー、金融機械(紙幣読取装置など)、CCDカメラカバーなどの光学機械部品、半導体製造装置用治具部品、照明器具、自動車やビルなどの窓パネルその他の複合体の製造に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1……半導体素子収納用ケース(複合体)
2……容器(熱可塑性樹脂成形体)
2a……接触部
3……蓋(ガラス基材)
5……レーザ溶着装置
6……フレーム
7……ばね
9……支持台
10……支柱
11……ヒートシンク材
12……レーザー発振器
13……赤外線サーモグラフィ
21……底板
22……蓋支持段差部
22a……上面
22b……内壁面
22c……底面
31……本体
32……外周縁部
B……レーザー光
d1……蓋支持段差部の深さ
D……半導体素子
S……半導体素子収納空間
t1……蓋の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂成形体とガラス基材とを接触させる接触工程と、前記熱可塑性樹脂成形体における前記ガラス基材との接触部の温度が所定の温度になるように前記ガラス基材を通じてレーザー光を照射して加熱する加熱工程とが含まれる複合体の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂成形体における前記ガラス基材との接触部の温度をT1、前記熱可塑性樹脂成形体を構成する熱可塑性樹脂の流動開始温度および分解開始温度をそれぞれT2、T3としたとき、前記加熱工程において、以下の関係式(1)を満たすように制御することを特徴とする複合体の製造方法。
(1)T2≦T1≦T3+400℃
【請求項2】
前記ガラス基材のガラス転移温度をT4としたとき、前記加熱工程において、以下の関係式(2)を満たすように制御することを特徴とする請求項1に記載の複合体の製造方法。
(2)T4≦T1≦T3+400℃
【請求項3】
前記接触工程において、前記熱可塑性樹脂成形体と前記ガラス基材とが密着するように押圧し、前記加熱工程において、前記熱可塑性樹脂成形体と前記ガラス基材とが密着した状態のまま前記レーザー光の照射を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基材における前記熱可塑性樹脂成形体との接触部が、フッ化マグネシウム、ジルコニア、酸化アルミニウムからなる群より選択される1種以上の処理剤によって表面処理されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂成形体が、レーザー光吸収性着色剤を含有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項6】
前記レーザー光吸収性着色剤が、カーボンブラック、チタン黒、黒色酸化鉄からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の複合体の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂成形体が、液晶ポリエステルから構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項8】
前記レーザー光の照射条件が、エネルギー100W以下で、走査速度2mm/s以上であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の複合体の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス基材の前記レーザー光照射される面に、前記レーザー光の透過率が50%以上であるとともに、熱伝導率が1W/mK以上であるヒートシンク材を設けることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−207056(P2011−207056A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77291(P2010−77291)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】