説明

複合体及びその製造方法、並びにそれを含有する食品

【課題】植物ステロールを高比率で含有し、かつ乳化剤に依存することなく、水分散性に優れた複合体を提供し、また、そのような複合体を含有させた食品を提供する。
【解決手段】植物ステロールと蛋白質分解物との複合体であって、該蛋白質分解物として、該蛋白質分解物4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合した際の蛋白質可溶化率が5〜85%である蛋白質分解物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清コレステロールを適正化するのに有用な食品素材である植物ステロールと蛋白質分解物との複合体及びその製造方法、並びにこれを含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、水に不溶な植物ステロールを、卵黄リポ蛋白質との複合体とすると、容易に水に分散させることができ、この複合体により、植物ステロールを食品素材として使用できる範囲を大きく拡大できることを見出し、特許を得た(特許文献1)。しかし、卵アレルギー対応食品等のように食品の種類によっては、卵黄リポ蛋白質という卵由来の素材の混入を好ましいとしないものもあり、この複合体を食品素材として使用できる食品に限りがあった。
【0003】
一方、特許文献2には、動物又は植物タンパク質源から単離されたタンパク質と植物ステロールとから形成した水分散性の組成物が開示されている。ここで、タンパク質は、タンパク質がアミノ酸まで分解されたものから、全く分解されていないものまで含むとされ、分解度や諸性質については限定されていない。これは、この組成物が、レシチンや脂肪酸モノグリセライド、ジグリセライド等の乳化剤を用いることを前提としているためである。事実実施例に記載されたものは全て脱油化レシチン等の乳化剤を含んでいる。
【0004】
また、この組成物では植物ステロールの含有量が比較的低い。具体的には、植物ステロール(a)と蛋白質分離物(b)との重量比(a/b)が0.1〜5であり、実施例中で最も植物ステロールの割合が大きいものでも、重量比(a/b)が1.3にすぎない。このように、特許文献2には、乳化剤を含有させることなく、蛋白質分離物に対する植物ステロールの配合量を10:1以上とすることは記載されていない。
【0005】
特許文献3には、治療用組成物として、蛋白質加水分解物と植物ステロールから形成した複合体が開示されている。この複合体は、蛋白質加水分解物による血清コレステロールの低下作用と、植物ステロールによる血清コレステロールの低下作用とが相乗的に作用することに注目して形成されたものである。そのため、蛋白質加水分解物と植物ステロールの複合体の水への分散性を向上させるために、蛋白質加水分解物として特定のものを使用することは検討されておらず、この複合体に水への分散性が必要とされる場合には、蛋白質加水分解物と植物ステロールの他に乳化剤を用いて複合体が形成される。実際実施例においても、乳化剤を使用することなく、蛋白質加水分解物と植物ステロールから形成された複合体は食用バーの素材として使用されているのに対し、蛋白質加水分解物と植物ステロールと乳化剤から形成した複合体は、代用乳等のドリンクの素材として使用されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3844010号公報
【特許文献2】特表2003−514560号公報
【特許文献3】特表2005−513143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、植物ステロールを高比率で含有し、かつ乳化剤に依存することなく水分散性に優れた複合体を提供すること、及びそのような複合体を含有せしめた食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の分解度の蛋白質分解物と植物ステロールとの複合体を形成することにより、植物ステロールの含有率が高く、かつ水分散性に極めて優れた複合体を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、植物ステロールと蛋白質分解物との複合体であって、該蛋白質分解物が、該蛋白質分解物4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合した際の蛋白質可溶化率が5〜85%であることを特徴とする複合体を提供する。
また、本発明はこの複合体の製造方法として、蛋白質分解物と植物ステロールとを水系媒体中で撹拌混合することにより蛋白質分解物と植物ステロールとの複合体を製造する方法であって、蛋白質分解物として、蛋白質分解物4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合した際の蛋白質可溶化率が5〜85%の蛋白質分解物を使用することを特徴とする複合体の製造方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、上述の複合体を添加した食品を提供する。
【発明の効果】
【0011】
植物ステロールを特定の蛋白質分解物と複合化した本発明の複合体は、植物ステロールに対する蛋白質分解物の使用量が微量であっても、水系媒体に対して極めて大きな分散性を示す。特に、この効果は、蛋白質分解物として、乳、小麦又は大豆を特定の分解度に分解したものを使用した場合に、顕著に向上する。
【0012】
したがって、本発明の複合体を用いることにより、水系食品あるいは乳化食品に、植物ステロールを所望量で添加することが可能となり、その場合に蛋白質分解物で食品の風味が損なわれることもない。また、複合体を添加した食品は、植物ステロール由来のざらつき感が生じることもなく、滑らかな食感を有するものとなる。
【0013】
さらに、本発明の複合体は、蛋白質分解物の原料となる蛋白質に特に制限はないことから、卵アレルギー対応食品、小麦アレルギー対応食品等といった食品の種類に応じて蛋白質分解物の蛋白質源の種類を選択することができる。したがって、この複合体を種々の食品に配合することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は、特に断りのない限り質量%を表し、「部」は質量部を表す。
【0015】
本発明の複合体は、植物ステロールと特定の分解度のタンパク質分解物とを複合化させたものである。この複合体は、水をはじめとする水系媒体中に極めて安定に分散し、また、相互に凝集しないため食品に添加してもざらつき感を生じさせない。
【0016】
この蛋白質分解物の蛋白質源としては、種々の植物蛋白質又は動物蛋白質の一種又は複数種を使用することができる。例えば、植物蛋白質としては、大豆蛋白質、小麦蛋白質、とうもろこし蛋白質、米蛋白質、ゴマ蛋白質、えんどうまめ蛋白質等をあげることができ、動物蛋白質としては、乳蛋白質、コラーゲン等の硬蛋白質等をあげることができる。
【0017】
なかでも大豆蛋白質、小麦蛋白質及び乳蛋白質が、複合体を水系媒体へ分散させる効果が高い点から好ましい。また、これらの蛋白質源から脂質を除去することが可能である。そこで、これらから得られた蛋白質分解物を用いて植物ステロールとの複合体を形成し、得られた複合体の固形分中において、トリグリセライド(中性脂肪)の含有量を1質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
蛋白質分解物における蛋白質の分解度に関しては、蛋白質分解物の4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合した際の蛋白質可溶化率が5〜85%である蛋白質分解物を使用する。これにより、例えば、複合体を0.9%食塩水に15質量%となるように分散させ、超音波を1分間照射し、室温で1時間静置した場合に、その分散液に浮上層を生じさせないという水系媒体に対する優れた分散性を得ることが可能となる。この蛋白質可溶化率の下限値は、好ましくは10%、より好ましくは20%、特に好ましくは30%であり、上限値は、好ましくは50%、より好ましくは40%である。蛋白質可溶化率が小さすぎると、植物ステロールと蛋白質分解物との複合体に水系媒体への分散性を十分に付与することができず、反対に蛋白質可溶化率が大きすぎても複合体の形成が不十分となる場合があるので、植物ステロールと蛋白質分解物との複合体に水系媒体への分散性を十分に付与することができない。
【0019】
ここで、蛋白質可溶化率とは、まず、蛋白質分解物の所定量を精秤し、それを所定量の水に溶解させることにより蛋白質分解物の4%溶液を調製し、次に、この蛋白質分解物4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合し、室温で攪拌後、その混合液を遠心分離し、上清に含まれる窒素量をケルダール法により分析し、この上清に含まれる窒素量の、同法にて得た蛋白質分解物の全窒素量に対する割合を算出した数値である。
【0020】
なお、本発明における蛋白質可溶化率の限定は、種々の蛋白質分解物について、植物ステロールと蛋白質分解物との複合体の水系媒体への分散安定性と蛋白質可溶化率との関係を調べることにより本発明者らが見出したものである。
【0021】
本発明においては、複合体に水系媒体への十分な分散性を付与する点から、蛋白質分解物としては、上述の蛋白質可溶化率を有することに加え、その乳化容量が100mL/g以上のものを使用することが好ましく、120mL/g以上のものを使用することがより好ましい。
【0022】
ここで、蛋白質分解物の乳化容量とは、蛋白質加水分解物の10%水溶液40gを縦型ミキサー(キッチンエイド社、スタンドミキサー、型式KSM5、ワイヤーホイップ装着)に入れ、スピード目盛8でプラネタリー攪拌しながら、菜種油を流速80mL/分で注入し、乳化が転相するまでの菜種油の投入量を測定し、その投入量から算出した、蛋白質加水分解物1g当りの菜種油の投入量(mL)をいう。
【0023】
上述の蛋白質可溶化率を有する蛋白質分解物を得るにあたり、その手法に特に制限はなく、公知の酵素分解、酸加水分解、アルカリ加水分解等で蛋白質を分解したものを使用することができる。また、市販の蛋白質分解物を使用してもよい。
【0024】
一方、植物ステロールは、コレステロールに類似した構造をもち、植物の脂溶性画分に数%存在し、融点が約140℃前後であり、常温で固体である。本発明で用いる植物ステロールの種類については特に制限はなく、例えば、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等を挙げることができる。また、植物ステロールの飽和型である植物スタノールも、天然物の他、植物ステロールを水素添加により飽和させたものを使用することができる。
【0025】
なお、本発明において、植物ステロールは所謂遊離体を主成分とするが、若干量のエステル体を含有していてもよい。
【0026】
本発明に用いる植物ステロールの形態としては、フレーク状或いは粉体の状態で市販されているものを用いることができるが、平均粒子径が50μm以下、特に10μm以下の粉体を使用することが好ましい。平均粒子径が50μmを超えるフレーク状あるいは粉体の植物ステロールを用いる場合には、蛋白質分解物と撹拌混合して複合体を製造する際に、均質機(T.K.マイコロイダー、プライミクス社製等)を用いて平均粒子径を小さくしつつ撹拌混合が行われるようにすることが好ましい。これにより、植物ステロールと蛋白質分解物との複合体が形成され易くなり、分散性が向上し、また、口当たりが滑らかとなる。
【0027】
なお、植物ステロールの平均粒子径の測定方法としては、20℃の清水と植物ステロールとを混合し、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−200VER)にて測定し、体積換算する方法を用いることができる。
【0028】
本発明の複合体の製造方法としては、植物ステロールと、特定の蛋白質可溶化率の蛋白質分解物とを、好ましくは水系媒体中で、撹拌混合することにより得られる。
【0029】
ここで、植物ステロールと蛋白質分解物との混合割合は、蛋白質分解物に対する植物ステロールの使用割合が大きいほど、本発明の複合体を食品に添加した場合の植物ステロールの摂取量を効率的に高めることができ、また、蛋白質分解物で食品の風味が損なわれることを防止できるので好ましいが、植物ステロールの使用割合が過度に大きいと、複合体に水系媒体への分散性を十分に付与することができない。そこで、蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール5〜50質量部とすることが好ましく、蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール10〜25質量部とすることがより好ましい。なお、この複合体製造時の植物ステロールと蛋白質分解物との使用割合は、そのまま複合体における植物ステロールと蛋白質分解物との構成比となる。
【0030】
植物ステロールと蛋白質分解物との混合に使用する水系媒体としては、清水、エタノールあるいはこれらの混合物等を使用することができる。
【0031】
この他、植物ステロールと蛋白質分解物との混合態様としては、水系媒体を使用することなく、植物ステロールと蛋白質分解物とを粉体混合してもよい。
【0032】
本発明の複合体のより具体的な製造方法の一例は次の通りである。まず、水系媒体と蛋白質分解物とを均一になるまで攪拌混合する。次に、この蛋白質分解物の混合液に植物ステロールを添加し、ヒスコトロン(マイクロテック・ニチオン社)、ホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、T.K.マイコロイダー(プライミクス社製)等の均質機を用いて、植物ステロールが水系媒体になじむまで混合し、好ましくはさらに脱気して攪拌混合を続け、全体が均一になるまで混合撹拌し、植物ステロールと蛋白質分解物の複合体の分散液(スラリー)を調製する。
【0033】
なお、この攪拌混合時に、必要に応じて、効果を損なわない範囲で、各種食品素材、食品添加物等の添加剤を加えても良い。
【0034】
こうして得られた分散液は、そのまま食品に用いることができるが、長期保存するために、凍結乾燥、噴霧乾燥等により乾燥粉体とすることもできる。
【0035】
本発明の複合体は、種々の食品に添加することができ、例えば、豆腐、納豆、豆乳、インスタント味噌汁等の大豆加工品、パン、クッキー、ビスケット、シリアル、うどん、中華麺等の小麦加工品、ヨーグルト、プロセスチーズ、コーヒーホワイトナー、スキムミルク等の乳加工品、ジュース、乳飲料、清涼飲料、アルコール飲料、流動食等の飲料をあげることができる。この場合、食品の種類に応じて、複合体を構成する蛋白質分解物の蛋白質源を適宜選択することができる。
【0036】
複合体の食品への好ましい添加量は、当該食品によるが、植物ステロールの1日の摂取量が800mg以上であれば血中のコレステロール濃度が低下することを考慮して、例えば、乳飲料の場合、その0.1〜5%程度とする。
【0037】
複合体の添加方法は、当該食品の製造方法に応じて適宜定めることができ、例えば、使用する清水の一部に分散させ、この分散液を食品全体に混合するのが一般的である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0039】
実施例1〜7及び比較例1〜7
表1に示す市販の12種の大豆蛋白質分解物(実施例1〜7,比較例1〜5)及び大豆蛋白質から調製した2種の蛋白質分解物(比較例6、7)の合計14種類の大豆蛋白分解物について、次のようにして(1)植物ステロールと蛋白質分解物の複合体分散液を製造し、(2)その複合体分散液を用いて植物ステロールと蛋白質分解物の複合体粉末を製造し、(3)得られた分散液及び複合体粉末の分散性を評価した。さらに、少なくとも分散性が良好であった複合体粉末については、その製造に用いた蛋白質分解物の(4)蛋白質可溶化率と(5)乳化容量をそれぞれ次のように測定した。これらの結果を表1に示す。
【0040】
(1)植物ステロールと大豆蛋白質分解物との複合体分散液の製造
200mLビーカーに、水90gと蛋白質分解物0.9gとを入れ、均一に攪拌し、これに植物ステロール(遊離体97.8%、エステル体2.2%、平均粒子径約3μm)9.1gを加え、植物ステロールのだまが解消するまで超高速ホモジナイザー(ヒスコトロン、マイクロテック・ニチオン社)で攪拌し、脱気後、再度、同様の超高速ホモジナイザーにて攪拌し、脱気をすることにより複合体分散液を得た。
【0041】
(2)複合体粉末の製造
(1)で製造した複合体分散液50gを真空凍結乾燥機で一晩乾燥後、粉砕し複合体粉末(フリーズドライ品)を得た。
【0042】
(3)分散性の評価
(1)で製造した複合体分散液において、外観上複合体が略均一に分散しているものを良好(G)、複合体が分離しているものを不良(NG)とした。
【0043】
また、複合体分散液の分散性の評価が良好(G)であったものについて、(2)で製造した複合体粉末の、(a)水への分散の速さ、(b)水に分散した粒子の細かさを次のように評価し、さらに(c)総合評価を次のように行った。
【0044】
(a)水への分散の速さ
複合体の粉末0.5gを水100mLに投入し、そのまま静置した状態で粉末が水になじむまでにかかった時間を測定し、その時間により次の4段階に評価した。なお、水になじむとは、複合体に水が浸潤し、全体が濡れた状態に観察されることをいう。
◎:0〜15秒で水になじんだ
○:16〜30秒で水になじんだ
△:31〜60秒で水になじんだ
×:60秒以上水になじむのにかかった
【0045】
(b)水に分散した粒子の細かさ
(a)で水に投入した粉体を2分間手攪拌した後の状態により、水に分散した粒子の細かさを次のように4段階に評価した。
◎:水に分散し、分散した粒子が非常にきめ細かい
○:水に分散し、分散した粒子は細かいが、所々に直径1mm程度のダマが存在する
△:一応水に分散はするが、粒子が粗く、直径2〜3mm程度のダマが存在する
×:分散せず、水面に植物ステロールが浮いている
【0046】
(c)総合評価
(a)と(b)の4段階の評価を、それぞれ次のように点数化し、(a)と(b)双方の点数の合計を算出した。
◎:5点
○:3点
△:1点
×:0点
【0047】
(4)蛋白質分解物の蛋白質可溶化率の測定
まず、各蛋白質分解物200mgを精秤し、それを5mLの水に溶解させることにより蛋白質分解物の4%溶液を調製した。次に、この蛋白質分解物4%溶液5mLに3.5%トリクロロ酢酸溶液5mLを混合し、室温で30分攪拌し、その後、この混合液を遠心分離(3500rpm×10分)し、上清に含まれる窒素量をケルダール法により分析し、この上清に含まれる窒素量の、同法にて得た各蛋白質分解物の全窒素量に対する割合より蛋白質可溶化率を算出した。
【0048】
(5)蛋白質分解物の乳化容量の測定
まず、蛋白質分解物4.0gと清水36.0gから蛋白質分解物の10%水溶液40gを調製し、それを縦型ミキサー(キッチンエイド社、スタンドミキサー、型式KSM5、ワイヤーホイップ装着)に入れ、スピード目盛8でプラネタリー攪拌し、流速80mL/分で菜種油を30秒間投入し、投入終了後30秒間攪拌し、再度菜種油を流速80mL/分で投入しつつ、乳化物が転相するまでの菜種油の投入時間(x秒)を測定し、次式により、蛋白質分解物1g当たりの菜種油の合計の投入量を算出し、これを乳化容量とした。この時の10%蛋白質分解物水溶液および菜種油の品温は15〜25℃の範囲であった。
【0049】
【数1】













【0050】
【表1】

(*1)評価点数:◎5点、○3点、△1点、×0点
(*2)大豆蛋白質分解物:不二製油社製もしくはソレイ社製
(*3)特開2005-513143号公報(特許文献2)の実施例1の蛋白質分解物の製法に従い、大豆蛋白質をペプシンで酵素分解し、得られた反応混合物を遠心分離し、その上澄を凍結乾燥することにより得た蛋白質分解物
(*4)(*3)と同様に反応混合物を得、遠心分離後、その沈殿物を凍結乾燥することにより得た蛋白質分解物
【0051】
表1から、蛋白質可溶化率が蛋白質可溶化率が5〜85%の範囲にある蛋白質分解物を用いた実施例1〜7の複合体は、水への分散性が良好であること、特に、蛋白質可溶化率が20%以上の蛋白質分解物を使用すると複合体粉末の水系媒体への分散の速さが向上し、蛋白質可溶化率が30%以上の蛋白質分解率を使用すると、この分散の速さがさらに向上することがわかる。
【0052】
これに対して蛋白質可溶化率がこの範囲よりも大きくても(比較例4〜5)、小さくても(比較例1〜3)、複合体は水に分散しないことがわかる。また、特開2005-513143号公報の実施例1の製法に従い調製した蛋白質分解物(比較例6,7)においては、上清、沈殿物いずれを用いても、分散液の分散性は不良であった。
【0053】
実施例8(植物ステロールと蛋白質分解物の構成比と水への分散性)
実施例1と同様の植物ステロールと大豆蛋白質分解物A(ソレイ社製、蛋白質可溶化率34%)を用い、それらの配合比(質量部比)を表2のように変える以外は実施例1と同様に複合体粉末を製造し、得られた複合体粉末0.5gを水100mLに投入し、そのまま手撹拌(2分間)した後の複合体粉末の水への分散性を次のように4段階に評価した。結果を表2に示す。
◎:分散し、分散後の粒子が非常に細かい
○:分散し、分散後の粒子が細かい
△:分散し、分散後の粒子が粗い
×:分散しない
【0054】
【表2】

【0055】
表2から、蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール5〜50質量部の複合体が、水への分散性が優れており、さらには植物ステロール5〜25質量部の複合体が特に優れていることがわかる。
【0056】
実施例9〜12及び及び比較例8〜11(複合体粉末の製造のスケールアップ)
蛋白質分解物として大豆蛋白質分解物A(ソレイ社製、蛋白質可溶化率34%)90gを均質化機能を有する攪拌機付きタンク「ファインミキサー」(ヤスダファインテ株式会社製)にて水9kgに分散、溶解させ、これに実施例1で用いた植物ステロール910gを加え、攪拌し、均質に分散させた。得られた分散液を縦型スプレードライヤーで噴霧乾燥し、植物ステールと大豆蛋白質分解物の複合体粉末約500gを得た(実施例9)。
【0057】
また、表3に示す蛋白質分解物若しくは蛋白質と植物ステロールとを用いて、同様に複合体分散液及び複合体粉末を得た(実施例10〜12,比較例8〜11)。
【0058】
実施例1の分散性の評価と同様に、各実施例及び比較例で得られた複合体粉末0.5gを水100mLに投入し、そのまま静置した状態で、複合体粉末が水になじむまでの時間を計測すると共に、水に分散した複合体粉末の状態を観察した。
【0059】
また、複合体を食品へ添加した状況を想定し、複合体粉末を0.9%食塩水に15質量%となるように分散させた。そして、この分散液に超音波洗浄機(国際電気エルテック社製、モデルSine・Sonic100)を用いて超音波を1分間照射し、室温で1時間静置し、その分散液に浮上層が生じるか否かを調べた。
これらの結果を表3に示す。

【0060】
表3から、スケールアップした場合にも、蛋白質可溶化率が5〜85%の範囲にある蛋白質分解物を用いた実施例9〜12の複合体は、蛋白質分解物の蛋白質源によらず、水への分散性も食塩水への分散性も良好であること、これに対して蛋白質可溶化率がこの範囲よりも大きい場合(比較例9,10)や、未分解の蛋白質を使用した場合(比較例8,11)には、複合体粉末は水や食塩水には分散しないか、あるいは極めて分散しにくいことがわかる。
【0061】
【表3】

(*1)評価点数:◎5点、○3点、△1点、×0点
(*2) 不二製油社製もしくはソレイ社製
(*3)Tate & Lyte社製
(*4)森永乳業社製
(*5)Kerry Bio−Science社製
(*6)明治乳業社製
【0062】
実施例13(食品への配合例)
実施例で得られた複合体分散液もしくはこれを乾燥して得られた複合体粉末を、食品に添加した配合例を以下に記す。
【0063】
(配合例1)錠剤状(サプリメント)
表4の配合成分を混合し、打錠することにより、錠剤状のサプリメントを得、瓶詰めとした。


【0064】
【表4】

【0065】
(配合例2)顆粒状食品組成物(サプリメント)
表5の配合成分を混合し、流動造粒により顆粒状食品組成物を得、これをアルミスティック袋に充填した。
【0066】
【表5】

【0067】
(配合例3)マヨネーズ様水中油型乳化状調味料
表6の配合成分を混合し、乳化することによりマヨネーズ様水中油型乳化状調味料を得、これをプラスティックチューブに充填した。
【0068】
【表6】

【0069】
(配合例4)分離液状ドレッシング
表7の水相部の配合成分を混合し、加熱後、油相部成分と共にガラス瓶に充填することにより分離液状ドレッシングを得た。


【0070】
【表7】

【0071】
(配合例5)バターロール
表8の配合成分を混合し、発酵後、焼成することによりバターロールを得た。
【0072】
【表8】

【0073】
(配合例6)クッキー
表9の配合成分を混合し、焼成することによりクッキーを得た。











【0074】
【表9】

【0075】
(配合例7)シリアル
表10の配合成分を混合し、エクストルーダーで膨化することによりシリアルを得た。
【0076】
【表10】

【0077】
(配合例8)ドーナツ
表11の配合成分を混合し、サラダ油で揚げることによりドーナツを得た。
【0078】
【表11】

【0079】
(配合例9)うどん
表12の配合成分を混合し、打ち粉にコーンスターチ適量を用いて打つことによりうどんを得た。



【0080】
【表12】

【0081】
(配合例10)中華麺
表13の配合成分を混合し、製麺することにより中華麺を得た。
【0082】
【表13】

【0083】
(配合例11)乳飲料
表14の配合成分を混合することにより乳飲料を得、これをブリックパック容器に充填した。
【0084】
【表14】

【0085】
(配合例12)ヨーグルト
表15の配合成分を混合し、発酵させることによりヨーグルトを得、これをプラスティック容器に充填した。









【0086】
【表15】

【0087】
(配合例13)プロセスチーズ
表16の配合成分を混合することによりプロセスチーズを得た。
【0088】
【表16】

【0089】
(配合例14)コーヒーホワイトナー
表17の油相部と水相部のぞれぞれについて配合成分を混合後、それらを合わせて乳化することによりコーヒーホワイトナーを得、これをポーション容器に充填した。
【0090】
【表17】

【0091】
(配合例15)レトルト粥
表18の配合成分を混合し、アルミパウチに充填し、レトルト処理することによりレトルト粥を製造した。


【0092】
【表18】

【0093】
(配合例16)高コレステロール血症患者向けレトルト食品(肉じゃが)
表19の配合成分を混合し、アルミパウチに充填し、レトルト処理することにより高コレステロール血症患者向けレトルト食品を製造した。
【0094】
【表19】

【0095】
(配合例17)イオンサプライ飲料
表20の配合成分を混合し、加熱し、350mL容PETボトルに充填することによりイオンサプライ飲料を製造した。
【0096】
【表20】

【0097】
(配合例18)インスタントコーヒー
表21の配合成分を混合し、フリーズドライすることによりインスタントコーヒーを得、これをアルミ包装容器に窒素ガスと共に封入した。
【0098】
【表21】

【0099】
(配合例19)冷凍えびフライ
表22の配合成分を用いてエビフライを常法により調理した。この場合、複合体粉末は小麦粉に混合して用いた。調理したエビフライをトレイに入れ、急速凍結することにより冷凍エビフライを製造した。
【0100】
【表22】

【0101】
(配合例20)冷凍ハンバーグステーキ
表23のハンバーグの配合成分を用いてハンバーグステーキを常法により調理した。この場合、複合体粉末は生パン粉に混合して用いた。一方、表23のソースの配合成分を加熱混合することによりソースを製造し、これをハンバーグステーキにからめた。これをトレイに入れ、急速凍結することにより冷凍ハンバーグステーキを製造した。
【0102】
【表23】


【0103】
(配合例21)粉末スープ
表24の配合成分を混合し、流動造粒して粉末スープを得、これをアルミスティック袋に充填した。
【0104】
【表24】

【0105】
(配合例22)インスタントココア
表25の配合成分を混合し、流動造粒してインスタントココアを得、これをアルミスティック袋に充填した。
【0106】
【表25】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の複合体は、植物ステロールを含有し、かつ水系媒体に容易に分散するため、種々の食品の食品素材として有用であり、また、サプリメントとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ステロールと蛋白質分解物との複合体であって、該蛋白質分解物が、該蛋白質分解物4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合した際の蛋白質可溶化率が5〜85%であることを特徴とする複合体。
【請求項2】
蛋白質可溶化率が20%以上である請求項1記載の複合体。
【請求項3】
蛋白質可溶化率が30%以上である請求項2記載の複合体。
【請求項4】
蛋白質分解物の蛋白質源が、大豆、小麦及び乳から選ばれる1種又は2種以上の蛋白質である請求項1〜3のいずれか記載の複合体。
【請求項5】
蛋白質加水分解物10%溶液40gを、縦型ミキサー(キッチンエイド社、スタンドミキサー、型式KSM5、ワイヤーホイップ装着)に入れ、スピード目盛8でプラネタリー攪拌しながら、菜種油を流速80mL/分で注入し、乳化が転相するまでの菜種油の投入量を測定し、その投入量から算出した蛋白質加水分解物1g当りの菜種油の投入量(mL)を蛋白質加水分解物の乳化容量とする場合に、蛋白質加水分解物の乳化容量が、100mL/g以上である請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
植物ステロールと蛋白質分解物との構成比が、蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール5〜50質量部である請求項1〜5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
植物ステロールと蛋白質分解物との構成比が、蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール10〜25質量部である請求項6記載の複合体。
【請求項8】
乾燥粉体である請求項1〜7のいずれかに記載の複合体。
【請求項9】
複合体の固形分中のトリグリセライドの含有量が1質量%以下である請求項1〜8のいずれかに記載の複合体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の複合体を添加した食品。
【請求項11】
大豆加工製品である請求項10記載の食品。
【請求項12】
小麦加工製品である請求項10記載の食品。
【請求項13】
乳加工製品である請求項10記載の食品。
【請求項14】
飲料である請求項10記載の食品。
【請求項15】
蛋白質分解物と植物ステロールとを水系媒体中で撹拌混合することにより蛋白質分解物と植物ステロールとの複合体を製造する方法であって、蛋白質分解物として、蛋白質分解物4%溶液と3.5%トリクロロ酢酸溶液とを等容積で混合した際の蛋白質可溶化率が5〜85%の蛋白質分解物を使用することを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項16】
蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール5〜50質量部を使用する請求項15記載の複合体の製造方法。
【請求項17】
蛋白質分解物1質量部に対して植物ステロール10〜25質量部を使用する請求項16記載の複合体の製造方法。
【請求項18】
植物ステロールの平均粒径が50μm以下である請求項15〜17のいずれかに記載の複合体の製造方法。

【公開番号】特開2008−271794(P2008−271794A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115997(P2007−115997)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】