説明

複合加工紙

【課題】自然界で分解することが可能な生分解性を有する複合加工紙を得る。この複合加工紙において、紙本来の風合いを損ねることなく紙の欠点である耐久性を向上し、また意匠性を損なうことなく紙の付加価値を高めるようにする。
【解決手段】生分解性を有する複合繊維で構成された不織布と天然セルロース繊維で形成された紙とが積層されている。複合繊維は、150℃以上の融点を有するポリ乳酸系重合体を繊維構成成分とするとともに、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分としてポリ乳酸系重合体よりも低融点である脂肪族ポリエステル共重合体を繊維構成成分とし、かつ脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部分を形成している。脂肪族ポリエステル共重合体が熱により溶融もしくは軟化されることで、不織布と紙とが貼り合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合加工紙に関し、特に、生分解性を有する複合繊維で構成された不織布と、天然セルロース繊維で形成された紙とを、接着剤などを使用せずに、熱により複合繊維の構成成分を溶融もしくは軟化させることで一体化した複合加工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
植物繊維などのセルロース繊維からなる通常の紙は、吸水性、通気性、吸湿性を有しており、また和紙調などの独特の風合いを有するとともに印刷性が良好であるなどの点で意匠性に優れている。このため、従来より、障子紙、襖紙などの建材分野、各種製品の包装材料、紙おむつなどの衛生材料、ティッシュやおしぼりなどの拭き取り材料、各種フィルターなどの、多くの分野で幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら紙製品は引き裂けやすく、特に水に濡れると強度が著しく低下するなど、強度上の問題がある。そのため、耐水性を向上させることを目的として、ポリオレフィンなどの合成パルプをベースに抄紙した合成紙や、塩化ビニルあるいはポリスチレンなどの熱可塑性合成樹脂フィルムを紙に貼り合わせたものなどが知られている。しかし、これらは、生分解性を持たない石油製品が含まれているため、廃棄時に分解しないという問題や、燃焼時の発熱量が高いために、焼却炉の寿命を損なうなどの問題がある。
【0004】
一方、紙を補強する目的で、この紙と不織布とを貼り合わせたものが提案されている。すなわち、特許文献1には、合成紙と、ポリエチレンを構成繊維の鞘成分とした不織布とを一対の熱ロールの間に通して一体化させるものが記載されている。これは、合成紙と不織布との双方に含まれるポリエチレンを溶融または軟化させることで一体化させるもので、風合いは保たれるものの、積層後の合成紙に多く含まれるポリエチレンは生分解することはない。
【0005】
特許文献2には、紙と不織布とをホットメルト系の接着剤で一体化させたものが提案されている。しかしながら、接着剤が使われることにより紙本来の風合いが損なわれ、このため特定の用途にしか適応できない。またホットメルト系の接着剤の染み出しを防ぐために、紙、不織布ともに一定以上の目付が必要であり、低目付けの薄い製品には対応できないという問題が残されている。
【特許文献1】特開2003−342890号公報
【特許文献2】特開2001−030395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題を解決するものであって、自然界で分解することが可能な生分解性を有する複合加工紙を得ることを目的とする。
また本発明は、接着剤を使うことなく紙と不織布とを一体化することにより、紙本来の風合いを損ねることなく紙の欠点である耐久性を向上し、また意匠性を損なうことなく紙の付加価値を高めるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、紙の補強材として使用する不織布を構成する繊維の少なくとも一部分を、生分解性を有する特定の重合体を用いて接着成分とすることで、上記問題点を解決できるという知見を得て、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、下記を要旨とするものである。
(1)生分解性を有する複合繊維で構成された不織布と天然セルロース繊維で形成された紙とが積層されており、前記複合繊維は、150℃以上の融点を有するポリ乳酸系重合体を繊維構成成分とするとともに、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分として前記ポリ乳酸系重合体よりも低融点である脂肪族ポリエステル共重合体を繊維構成成分とし、かつ前記脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部分を形成しており、前記脂肪族ポリエステル共重合体が熱により溶融もしくは軟化されることで、前記不織布と紙とが貼り合わされていることを特徴とする複合加工紙。
【0009】
(2)脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸であって、その融点がポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いことを特徴とする(1)の複合加工紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、150℃以上の融点を有するポリ乳酸系重合体を繊維構成成分とするとともに、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分とする脂肪族ポリエステル共重合体を繊維構成成分とし、かつ前記脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部分を形成している複合繊維により不織布を構成し、そして前記脂肪族ポリエステル共重合体が熱により溶融もしくは軟化されるようにしたことで、上記以外を繊維構成成分とする複合繊維を用いた不織布では天然セルロース繊維で形成された紙に対して相溶性が乏しいことから繊維構成成分の熱による溶融もしくは軟化によっては貼り合せが不可能であるのに比べて、その理由は定かではないが生分解性を有する複合繊維で構成された不織布と天然セルロース繊維で形成された紙とを確実に貼り合わせることができ、不織布によって紙を補強した複合加工紙を得ることができる。このような複合加工紙は、包装紙、包装袋、梱包用紙などに好適に利用することができる。
【0011】
また本発明によると、不織布の構成繊維の成分である脂肪族ポリエステル共重合体の融点が、ポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いことが好適であり、その場合には、脂肪族ポリエステル共重合体を紙との間での主たる接着成分として十分に機能させることができる。しかも、ポリ乳酸系重合体との融点差が大きいため、紙との貼り合せ加工の際の加工温度範囲を大きく取ることができ、したがって安定した加工を容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複合加工紙は、紙と不織布とを積層して熱により一体化したものである。紙は、天然セルロース繊維で形成されたものである。不織布は、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル系共重合体とからなる複合繊維を構成繊維とするものである。
【0013】
まず、ポリ乳酸系重合体について説明する。
不織布を構成する複合繊維の成分として用いるポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸と、ポリ−L−乳酸と、D−乳酸とL−乳酸との共重合体と、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体と、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体との群から選ばれる重合体、あるいはこれらのブレンド体が挙げられる。共重合のためのヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシカプロン酸やグリコール酸が、分解性能や低コスト化の点から好ましい。
【0014】
本発明においては、ポリ乳酸系重合体は、融点が150℃以上であることが必要である。ポリ乳酸系重合体の融点が150℃以上であることで、高い結晶性を有しているため、紙との貼り合せのための熱処理加工時に収縮が発生しにくく、熱処理加工を安定して行うことができる。
【0015】
ポリ乳酸のホモポリマーであるポリ−L−乳酸やポリ−D−乳酸の融点は、約180℃である。ポリ乳酸系重合体として、L−乳酸とD−乳酸との共重合体を用いる場合には、共重合体の融点が150℃以上となるようにモノマー成分の共重合比率を決定する。すなわち、L−乳酸とD−乳酸との共重合比が、モル比で(L−乳酸)/(D−乳酸)=50/50〜0/100、あるいは(L−乳酸)/(D−乳酸)=95/5〜100/0のものを用いる。共重合比率がこの範囲を外れると、共重合体の融点が150℃未満となり、非晶性が高くなって本発明の目的を達成できなくなる。すなわち、本発明においては、ポリ乳酸系重合体の融点が150℃以上であることから、不織布の構成繊維の結晶性が高く熱安定性を有するようにすることができる。
【0016】
次に、ポリ乳酸系重合体よりも融点の低い脂肪族ポリエステル共重合体について説明する。この共重合体は、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ヒドロキシカルボン酸を構成成分とする。
【0017】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。なかでも、得られる共重合体の物性を考慮して、1,4−ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0018】
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸などが挙げられる。これらの誘導体である酸無水物を用いてもよい。なかでも、得られる共重合物の物性を考慮して、コハク酸、無水コハク酸、あるいはこれらとアジピン酸との混合物であることが好ましい。
【0019】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、2−ヒドロキシ−n−酪酸、2−ヒドロキシカプロン酸、2−ヒドロキシイソカプロン酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、ロイシン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、メチル乳酸、カプロラクトン、パレロラクトンなどが挙げられる。なかでも乳酸を用いることが好ましい。これらの脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、2種類以上併用してもよい。
【0020】
さらに、脂肪族ヒドロキシカルボン酸に光学異性体が存在する場合は、D体、L体またはラセミ体のいずれを使用してもよく、また、脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、固体、液体またはオリゴマーであってもよい。
【0021】
脂肪族ポリエステル重合体として、具体的には、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸である脂肪族ポリエステル共重合体、すなわちポリブチレンサクシネートに乳酸が共重合した共重合体を好ましく使用することができる。このような脂肪族ポリエステル共重合物としては、例えば特許第3402006号明細書に記載されているものが好ましく、具体的には、三菱化学社製、商品名「GSPla」(結晶融点110℃)を好ましく使用することができる。この三菱化学社製、商品名「GSPla」を用いた場合は、脂肪族ポリエステル共重合体がその成分中に乳酸を共重合しているため、ポリ乳酸系重合体との相溶性が良好である。したがって、溶融紡糸工程において良好に複合紡糸を行うことができる。なお、不織布化の際の熱接着性を良好にし、また得られた不織布のヒートシール性を良好にするためには、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体との融点差が50℃以上であることが好ましい。
【0022】
脂肪族ポリエステル共重合体は、原料の段階において有機過酸化物などの架橋剤を溶融混合するものであることが好ましい。なぜなら、それにより架橋が行われて、脂肪族ポリエステル共重合体の結晶化速度が速くなり、すなわち結晶性が高くなり、その結果、短繊維などの製造工程に比べて紡出糸条を冷却する距離が制限されやすいスパンボンド法による紡糸工程においても脂肪族ポリエステルを良好に冷却させて結晶化させることができ、これにより、開繊工程におけるブロッキング現象の発生を効果的に防ぐことが可能となるためである。また架橋により結晶性が高くなることで、脂肪族ポリエステル共重合体を熱的安定性に優れたものとすることができ、したがって熱により紙との貼り合せ加工を行う時に熱収縮を発生しにくくすることができる。
【0023】
溶融混合する際の有機過酸化物の配合量は、脂肪族ポリエステル共重合体100質量部に対して、0.01〜1質量部であることが好ましい。0.01重量部に満たない場合は、所要の結晶化速度向上の効果が得られない。また1重量部を超えると、共重合体の粘度が高くなりすぎて、溶融紡糸の際の紡糸性が非常に劣る傾向となる。
【0024】
本発明においては、脂肪族ポリエステル共重合体が複合繊維の表面の少なくとも一部分を形成する。このような繊維を構成するための繊維断面形態として、たとえば、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体とが貼り合わされたサイドバイサイド型複合断面や、ポリ乳酸系重合体が芯部を形成し脂肪族ポリエステル共重合体が鞘部を構成する芯鞘型複合断面や、ポリ乳酸系重合体と脂肪族ポリエステル共重合体が交互に存在する分割型複合断面あるいは多葉型複合断面などが挙げられる。脂肪族ポリエステル共重合体は後述のように熱接着成分としての役割を果たすものであるため、その点を考慮すると芯鞘型複合断面であることが好ましい。
【0025】
ポリ乳酸系重合体が繊維形成成分として芯部を形成し、脂肪族ポリエステル共重合体が、繊維形成成分としての、かつスパンボンド不織布を構成する際の熱接着成分としての、鞘部を形成する芯鞘型複合繊維断面において、芯部と鞘部の複合比(質量比)は、芯部/鞘部=3/1〜1/3であることが好ましい。芯部の比率が3を超えると、鞘部の比率が少なくなりすぎるので、熱接着性能が劣る傾向となり、得られる不織布ひいては複合加工紙の機械的特性や形態保持性が劣る傾向となる。一方芯部の比率が1/3に満たない場合、得られる不織布ひいては複合加工紙の機械的強度が不十分となる。
【0026】
この不織布は、前述した複合繊維が堆積されたスパンボンド不織布であることが好適である。不織布の形態としては、脂肪族ポリエステル共重合体成分が溶融または軟化することにより繊維同士が熱接着して形態保持しているものがよい。熱接着の形態としては、繊維同士の接点において熱接着したものであってもよいし、部分的に熱接着された部分と非熱接着部を有するものであってもよい。あるいは、繊維同士が交絡により形態保持しているものでもよい。
【0027】
不織布を構成する複合繊維の単糸繊度は、2〜11デシテックスであることが好ましい。特に、脂肪族ポリエステル共重合体に有機過酸化物を溶融混合して架橋させる場合は粘性が高くなるため、2デシテックス未満になると、紡糸工程において紡出糸条が紡糸張力に耐えきれずに糸切れが頻繁に発生し、操業性の悪化につながる。一方、単糸繊度が11デシテックスを超えるようになると、紡出糸条の冷却が十分に行えなくなるため、開繊装置から出てくる糸条が熱により密着した状態となり、得られる不織布の品位が非常に劣る。これらの理由により、単糸繊度は3〜8デシテックスであることがより好ましい。
【0028】
不織布の目付は、特に限定されるものではないが、10〜70g/mであることが好ましい。10g/m未満であると紙を補強する役割を果たさなくなり、70g/mを超えると紙の通気性や風合いを損なうようになる。
【0029】
不織布を構成する複合繊維中には、本発明の目的を損なわない範囲において、結晶核剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐侯剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填剤などを添加することが可能である。例えばスパンボンド法にて不織布を得ようとする場合には、ポリ乳酸系重合体に結晶核剤としてタルクを配合したり、不織布の開繊性を良化し品位を向上させるために脂肪族ポリエステル共重合体に滑剤を配合したりすることが好適である。また意匠性を向上するために顔料を添加することも好ましい。
【0030】
本発明の複合加工紙に用いられる紙としては、ウッドパルプ、麻パルプなどの天然セルロース繊維を用いて公知の抄紙方法で生産される、通常の和紙、洋紙などが挙げられる。また、天然セルロース繊維で形成されるものであれば、たとえば古紙を用いた再生紙などであってもよい。
【0031】
本発明の複合加工紙は、不織布と紙とを積層したうえで、不織布の構成繊維の表面の一部分を形成している脂肪族ポリエステル共重合体を熱により溶融もしくは軟化させて、これら不織布と紙とを一体化させたものである。そのための加工法としては、積層した紙と不織布とを一対の熱ロール間に通して、加熱、加圧する方法を好ましく利用できる。
【0032】
不織布により紙を補強する効果を特に期待する場合は、対になるロールがともにフラットなカレンダーロールにて全面を一体化させてもよいし、フラットロールと凹凸ロールとを用いて積層体の面の一部分に熱を加えて一体化させてもよい。
【0033】
本発明の複合加工紙は、加工方向に部分的に帯状に熱を加えて筒状にしたり、その後に裁断して不織布同士が対向するように位置させて一端もしくは両端をヒートシール加工することで袋状にしたりしてもよい。
【0034】
積層した状態の紙と不織布との配置は、得られる複合加工紙の用途により選択される。すなわち紙を不織布の片面、両面のいずれに配置してもよく、その逆に不織布を紙の両面に配置してもよい。また、紙−不織布−不織布のような配置であってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において使用する各物性値等の測定方法は、次に示すとおりである。
【0036】
1)重合体のメルトフローレイト(g/10分)
ASTM−D−1238に記載の方法に準じ、190℃、荷重20.2N(2160gf)の条件で測定した。
【0037】
2)重合体の融点(℃)
示差走査型熱量計(パーキンエルマ社製、DSC−2型)を用い、試料質量を5mg、昇温速度を10℃/分として測定し、得られた吸熱曲線の最大値を与える温度を融点(℃)とした。
【0038】
3)不織布の目付(g/m
標準状態の試料から、縦10cm×横10cmの試料片10点作成し、各試料片の質量(g)を秤量し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算して、不織布の目付(g/m)とした。
【0039】
4)貼り合わせ状況の評価
貼り合わせ状況につき、3段階にて評価した。評価の基準は下記の通りである。
×:加工しても不織布と紙とが貼り合わされることがなかったもの、若しくは外観上悪いもの、若しくは紙が熱により脆くなったもの、若しくは紙と一体化しているが手の力によって容易に剥離可能なもの
△:紙と一体化しているが、手の力によって抵抗を感じながら剥離可能なもの
○:剥離不可能なもの
(実施例1)
融点が168℃、メルトフローレイトが20g/10分、L−乳酸/D−乳酸=98.4/1.6モル%の、L−乳酸/D−乳酸共重合体(カーギル・ダウ社製、商品名:ネイチャーワークス)を芯成分として準備した。
【0040】
また、融点が110℃、メルトフローレイトが30g/10分の、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸および乳酸を構成成分とする共重合脂肪族ポリエステル樹脂(三菱化学社製、商品名:GSPla)と、有機過酸化物としてジメチル(ブチルパーオキシン)ヘキシン(日本油脂社製、商品名:パーヘキシン25B−40、純度40%)とを190℃で溶融混合した鞘成分の重合体を、コンパウンド法により準備した。このとき、共重合脂肪族ポリエステル樹脂100質量部に対して、有機過酸化物が0.03質量部になるよう添加し、二軸混練機にて溶融混練した。
【0041】
前記2種類の樹脂を、芯成分と鞘成分との複合比率が50/50(質量比)となるよう個別に計量し、それぞれエクストルーダー型押し出し機にて紡糸温度225℃で溶融押し出しし、芯鞘型の繊維断面形状となるように単孔吐出量1.0g/分の条件下で溶融紡糸した。
【0042】
紡出糸条を、公知の冷却装置にて冷却した後、引き続いて紡糸口金の下方に設置したエアーサッカーにて索引速度2000m/分で引き取り、公知の開繊装置にて開繊し、移動する捕集面上にウエブとして捕集、堆積させた。捕集面上に堆積させたウエブの単糸繊度は6.2デシテックスであった。
【0043】
次いで、このウエブをロール温度を100℃としたエンボスロールを備えた部分熱圧接装置に通して部分的に熱圧接することで、目付が20g/mのスパンボンド長繊維不織布を得た。
【0044】
一方、天然セルロース繊維で形成された紙として、NBSリコー社製、商品名:マイペーパー、A4サイズを用意した。
紙と同サイズに切断した長繊維不織布をこの紙の上に載せ、一対のフラットロール間に通し、貼り合わせた。貼り合わせの条件は、加工速度:5m/分、線圧:50kg/cmとした。また、紙側のロールは常温とし、不織布側のロールは100℃〜150℃の範囲を10℃ピッチで変化させて、それぞれの温度条件における貼り合わせ状況を観察した。その結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

表1に示すように、紙と不織布は100℃では手の力によって容易に剥離し、110〜120℃ではやや抵抗を感じつつ剥離した。これに対し、130〜140℃では、剥離しようとすると紙が破れて実質的に剥離することが不可能であり、良好に紙と不織布とが接合された複合加工紙が得られた。
【0046】
(実施例2)
実施例1で得られたスパンボンド長繊維不織布と天然セルロース繊維で形成された紙とを用意した。上記の不織布の両面に紙を配置し、ヒートシールバーを用いて、下記の条件にてヒートシール加工を実施し、複合加工紙を得た。そして、実施例1と同様にして貼り合わせ状況を観察した。その結果を表1に示す。
【0047】
[ヒートシール加工条件]
ヒートシールバーのサイズ:長さ32cm×幅1cm
圧力:294kPa(3kg/cm
シール時間:1秒
加工温度:100℃〜150℃(10℃ピッチで変更)
表1に示すように、100℃では紙と不織布とが容易に剥離したが、110℃では抵抗を感じつつ剥離した。これに対し140℃以上の温度では、紙と不織布とが実質的に一体化しており、紙/不織布/紙の三層を良好に貼り合わすことができた。このため紙と不織布との界面での剥離は不可能であり、その代わりに紙繊維同士の間での剥離が起こった。
(実施例3)
実施例1に比べて天然セルロース繊維で形成された紙を変化させた。すなわち、コクヨ社製、商品名:クラフト紙 ホニー46 目付70g/mを用意した。そして、それ以外は実施例1と同様にして、複合加工紙を得た。そして、実施例1と同様にして貼り合わせ状況を観察した。その結果を表1に示す。
【0048】
表1に示すように、紙と不織布は100℃では手の力によって容易に剥離し、110〜120℃ではやや抵抗を感じつつ剥離した。これに対し、130〜140℃では、剥離しようとすると紙が破れて実質的に剥離することが不可能であり、良好に紙と不織布とが接合された複合加工紙が得られた。
【0049】
(比較例1)
不織布として、ユニチカスパンボンドプロダクツ社製、商品名:サンタス[芯:ポリプロピレン(融点190℃)/鞘ポリエチレン(融点130℃)である芯鞘型複合繊維]を用意した。
【0050】
実施例1と同じ方法で貼り合せ加工を行おうとしたが、表1に示すように、ロール温度130℃まで全く貼り合わせができなかった。140℃までロール温度を上げると、不織布の一部分は紙と貼り合わさっていたが、不織布の収縮により紙が凸凹状になってしまった。
【0051】
(比較例2)
不織布として、ユニチカスパンボンドプロダクツ社製、商品名:エルベス[芯:ポリエチレンテレフタレート(融点256℃)/鞘ポリエチレン(融点130℃)である芯鞘型複合繊維]を用意した。
【0052】
芯を高融点のポリエチレンテレフタレートとしたことで、比較例1のような収縮は起きないと考えたが、表1に示すように、150℃までロール温度を上げても、不織布と紙とが貼り合わされる様子がなく、さらに180℃までロール温度を上げても不織布と紙とは貼り合わされなかった。紙側のロールも温度を上げて、表1に示すように両ロールの温度を130℃にして両面から加熱するようにしたところ、紙と不織との貼り合わせはできたが、紙が熱により脆くなっており、実用的ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性を有する複合繊維で構成された不織布と天然セルロース繊維で形成された紙とが積層されており、
前記複合繊維は、150℃以上の融点を有するポリ乳酸系重合体を繊維構成成分とするとともに、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ヒドロキシカルボン酸とを構成成分として前記ポリ乳酸系重合体よりも低融点である脂肪族ポリエステル共重合体を繊維構成成分とし、かつ前記脂肪族ポリエステル共重合体が繊維表面の少なくとも一部分を形成しており、
前記脂肪族ポリエステル共重合体が熱により溶融もしくは軟化されることで、前記不織布と紙とが貼り合わされていることを特徴とする複合加工紙。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル共重合体は、脂肪族ジオールが1,4−ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であり、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が乳酸であって、その融点がポリ乳酸系重合体の融点よりも50℃以上低いことを特徴とする請求項1記載の複合加工紙。

【公開番号】特開2007−296792(P2007−296792A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128032(P2006−128032)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】